沖縄大学紀要 = okinawa daigaku kiyo(3): 99-114 issue...

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Title 沖縄における飲酒の実態とアルコール関連問題-復帰後 の統計の分析を中心に- Author(s) 国吉, 和子 Citation 沖縄大学紀要 = OKINAWA DAIGAKU KIYO(3): 99-114 Issue Date 1983-03-31 URL http://hdl.handle.net/20.500.12001/5683 Rights 沖縄大学教養部

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Title 沖縄における飲酒の実態とアルコール関連問題-復帰後の統計の分析を中心に-

Author(s) 国吉, 和子

Citation 沖縄大学紀要 = OKINAWA DAIGAKU KIYO(3): 99-114

Issue Date 1983-03-31

URL http://hdl.handle.net/20.500.12001/5683

Rights 沖縄大学教養部

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沖縄大学紀要第3号(1983年)

一資料一

沖縄における飲酒の実態とアルコール関連問題一復帰後の統計の分析を中心に-

国吉和子

lまじめに

酒は文化の違いを越えてほとんどすべての地域の人びとに愛されている飲み

ものである。酒は主に日常の飲み物として、気分の転換や高揚を促進するもの

として、また、人間関係の円滑剤として等の効用をもつ。しかし、それが過飲

にわたると個人の健康を害するばかりでなく、家庭を破壊したり、さらには犯

罪や交通事故など、社会にまで広く悪影響を及ぼすことにもなる。

このように酒は人間の生活のなかで個人的にも社会的にも様々な効用をもつ

と同時にまたその弊害も極めて大きいことはよく指摘されるところである。

ところで、日本社会では集団的指向性が色濃くあるため、社会生活を円滑に

進めていくうえでの酒のもつ意味は極めて大きい。なかでも共同体的色あいを

強く留めている沖縄では酒を抜きにしては社会が十全に機能しな(?と考えられる程に酒は人びとの社会的相互作用のうえで重要な機能を果していろ。人びと

は酒を介して相互に集団的成員性の確認を行い、お互いのコミュニケーション

を深めていく。また、そのことによって相互の一体感や友好的関係を形成して

いき、さらに飲酒によって人間関係における緊張の解消及び拡散を行っている。

このように集団全体の統合が維持される状況下では身体的レベルでの酒害の危

険I性はあるにしても心理的・社会的にはむしろ積極的な効果をもつのである。

しかしながら近年、経済成長によって人びとの所得水準は上昇し、生活水準

-99-

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沖縄大学紀要第3号(1983年)

6向上してきた。さらに余暇時間の増大などによって人びとの生活様式も変化

してきた。そのなかで飲酒量は年々着実に増加を続けていろ。

一方、産業化が進むなかで人口移動は激化し、これまで維持されてきた集団

的統合力は次第に低下していき、人びとの社会生活からのストレスは増大して

きた。そして複雑な社会問題が増えていくなかで、酒の機能もむしろ酒害とな

って否定的方向へ大きく変化しつ》ある。単に健康障害などの個人的問題に留

らず、アルコールを原因とする犯罪や交通事故、家庭崩壊などの社会問題にま

で拡大し、次第に深刻化しっ&ある。

沖縄社会でも例外なく、産業構造の変化や社会生活の変化、人口流入の激化

などに伴い、人びとの酒消費量は年々増加の傾向を示している。最近沖縄でも

アルコール問題の深刻化に関心がもたれるようになってきた。

そこで本稿では、沖縄における①酒類消費の動向、②各種の酒消費パターン、

③酒場の実態、④アルコール症患者の実態などの4側面に焦点を当てて、他都

府県との比較を行いながら、飲酒に関わる問題を通して沖縄の地域特'性とその

動向をみていくことにする。

ここでは主に日本復帰(以下復帰とする)後の統計資料を基に考察を進めて

いく。筆者の関心とするところは復帰前と復帰後の実態の変化であるが、統計

資料によっては復帰前と復帰後の統計の取り方に一貫性がなく、比較が困難で

あることなどから、復帰後の資料に主眼を置かざるをえない。

a)沖繩における酒類消費の動向

図]は沖縄における復帰後の酒類消費の動向を全国のそれと比較したもので

ある。大まかに言って酒類の消費量は全国・沖縄ともに年々上昇傾向を見せて

いるが、上昇の仕方は全国の場合よりも沖縄の方がや>急激である。復帰の年

を基準にして10年間に全国が127倍に増加したのに対し、沖縄は1.41倍の

増になっていろ。しかもこの’0年間の消費量の浮き沈みは全国の場合よりも

-100-

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沖縄大学紀要第3号(1983年)

沖縄が大きく、復帰後の昭和50年を境にして人びとの暮らしにも大きな動揺

があったことを反映している。

縄15

14

十R

13

ゲ■、

11{11247

11

10011、-〆

10

WE1m47

図1

4849505152535455.5657

沖縄県Iこおける酒類消費動向一全国との比較_

(資料:沖縄国税事務所統計より作成)

昭和50年までは国際海洋博覧会の開催に向けて沖縄経済は活況状態であっ

たが、昭和51年~52年度はその反動によって落ち込みと鈍化の傾向を示し、

その後は次第に回復してきている。表’にみるように沖縄県の’人当たりの所

表1.1人当たりの県(国)民所得の推移(単位万)

495051昭47

資料:沖縄県統計課「県民所得統計」

経済企画庁「新国民経済計算」

-101-

昭47 48 49 50 51

全国

(指数)

74.0

(100)

95.0

(128β8)

104.7

(141.49)

111.5

(150.68)

124.5

(16824)

沖縄

(指数)

42.1

(100)

(138872)

72.0

(17LO2)

80.9

(192.16)

84.6

(200.95)

昭52 53 54 55 56

全国

(指数)

133.4

(18027)

144.7

(195.54)

162.3

(219β2)

168.4

(227.51)

173.2

(234p5)

沖縄

(指数)

90.7

(21M4)

100.0

(23753)

107.9

(256.29)

116.2

(276.01)

122.5

(290.97)

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沖縄大学紀要第3号(1983年)

得は全国の場合の70%程度の低さであるが、復帰後の沖縄の所得の増加ぶり

は全国のそれより急激である。酒類消費量もこのような経済成長の推移とほぼ

対応して変化し、全国の伸び率を上回る傾向を見せている。

しかしながら、このように全般的には酒類消費量が上昇傾向にあるとは言え、

成人1人当たりの酒消費量及び純アルコール換算量でみると、沖縄の場合決し

て上向きの傾向にはならない(図2)・成人1人当たりの消費量は全国の場合

100'

90

'

11

純IDア

コ9

酒類消智牡

000

876

ル8111

750

406

昭4748495051525354555657

図2沖縄県における成人1人当りのアノレコール消費量の推移(資料:沖縄国税事務所統計より作成)

は年追う毎にゆるやかな伸びを示しているのに対し、沖縄は幾分上下に動きな

がらほぼ横ばいの様相を呈している(図3)。復帰後の観光客の入城者数の急

増(図4)ぶりを考慮に入れると、成人1人あたりの酒消寶量はむしろやh下

降傾向になると考えられる。

このような酒類全消費量の急増に対して成人’人当たりの消費量に余り変化

がみられないのは、その背景に沖縄における成人人口の増加及び県外からの人

口移動の激化が考えられる。

成人人口の変化(表2)はその比率が復帰の年まで全国のそれと余り違いは

ないが、その後沖縄は急増している。昭和55年には全国の成人人口が10年

前の1.16倍に対し、沖縄のそれは1.34倍の増になっている。

-102-.

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沖縄大学紀要第3号(1983年)

211

10

---- ̄、、

-へ

一一沖純一

マー

98

純アルコ

、---~--.㎡

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/----/ノレ

Iit7

昭4748495051525354555657

成人1人当りの純アルコール消聲量の推移一全国との比較一

(資料:国税庁統計年報書及び沖縄国税事務所統計より作成)

図3

500

JJJ-/400

iH

〆-,

11({3()0FⅡ

47

11

100

200

100

昭47

図4

4849505152535455

復帰後’0年間の観ラモ入城客数の推移

(資料:沖縄県観光企画課)

-103-

56

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沖縄大学紀要第3号(1983年)

表2 成人人口の推移

資料:総理府統計局「国勢調査」(昭45,50,55)" 「推計人口」(昭47)

表3 酒類大量消費地(ベスト1o) 昭55

位位位位位位位位位位

1234567890

資料:国税庁酒税課統計より作成

このように沖縄の成人1人当たりのアルコール量はほぼ恒常的推移を示して

いるものの、注目すべきことは、昭和47年の時点からずつと全国を上回る酒

消費量を保持し続けていることである。成人1人当たりの純アルコール量を各

都府県比較でみても(表3)、沖縄はベスト10の中に入る大量消費県である。

沖縄社会での人びとの生活に飲酒が深く関わっていることをうかがわせている。

-104-

昭45 昭47 昭50 昭55

全国

(指数)

70,345,000人

(1CO)

72,963,000

(103.72)

76,755,000

(109.11)

81,281,600

(115.55)

沖縄

(指数)

512,343

(100)

543,000

(105.98)

615,000

(12004)

686.526

(134.00)

順位 成人人口1人当りの消費量 人口1人当りの消費量による順位

1位 東凸一

泉 107.712 ①(77.M)

2位 大阪106.55 ②

3位 高知93.13 ③

4位 秋田9L17 ④5 位 広島88.15 ⑦6 位 新潟 87.78 ⑤

7位-■--

ノテ( 都 86.08 ⑨

8位 鳥取 86.00 ⑥

9位 兵庫 84.76 ⑫

10位 沖縄 84.70 ⑳(52M)

全国平均81942 ( 57.4 2)

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沖縄大学紀要第3号(1983年)

b)酒類の種類別消餐パターン

ここで酒類を種類別に都府県比較でみることによって沖縄の飲酒傾向の特徴

をつかむことにしよう。

酒類全体の人口1人当たりの消費量では沖縄は29位にランクされるが、成

人1人当たりでは、沖縄の成人人口の割合が他都府県と比べて低いため、1o

位に引き上げられる。また、沖縄ではアルコール分の比較的多いウイスキーや

泡盛の消費量が多いため、純アルコール換算量(成人1人当たり)でみると6

位にあがる(表4)。

各酒についての消費量比較を行表4酒類大量消費地(純アルコール量)うと、ビールは大阪、東京等の都

市部に次いで第3位、ウイスキー

では6位、泡盛(焼酎乙類)では

3位となっている(表5)。

各種の酒消費量の酒類全体の消

費量に対する割合でいくつかの都

府県との比較で沖縄の消費パター

ンの特徴をみていくと(図5)、

全体的にはどの都府県もビールの

割合が高いが北国ではその次にと

くに清酒が高率を示している。南

下していくと鹿児島や沖縄では焼

酎の割合が高くなっている。また

資料:国税庁酒税課統計より作成

射の割合が高くなっている。また、東京などの都市部ではビールの割合が目立

って高いが、その他ウイスキーの比率も比較的高い。

一方、沖縄の場合は独得の消費パターンを示している。泡盛の割合が多くな

っているのは南国的色彩を帯びていると言えるが、清酒については南国と言え

-105-

順位 県別成人1人当りの純アルコール量(年間)

123456789

01

崎京田道森縄梨口潟島国

海宮東秋北青沖山山新福全

287097486219

29731077777

●●■●▲●●◆●●●

09999988887

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沖縄大学紀要第3号(1983年)

表5種類別酒の大量消費地(ベスト10)

IlEi(立種類

資料:国税庁酒税課統計より作成

図5 酒類の各種消費率(昭55

(資料:

0.95

)(%)

国税庁酒税課統計より作成)

1.19

秋田

1.4

東京 稲⑪i7B

劉31.39

67

高知

、11

鹿児島

沖縄

全国

[.□〃画]畠蝿清酒焼酎甲類焼酎乙類ビールウイスキーその他

(泡盛)

-106-

(成人人口1人当りの消費量)昭55

ビール ウイスキー 泡盛(焼酎乙類)

位位位位位位位位位位

1234567890

大阪8037ぞ

東 京

沖縄

京 都

兵庫

76.25

63.41

61.53

60.56

高知5954

広島 58.16

愛知5807

静岡 55.41

神奈川5472

北海道815ぞ

東■_

青森

8.10

7.32

神奈1116.04

宮城

沖縄

山梨

岩手

6.02

5.46

5.46

5.10

埼玉473

群馬 453

ぞ2095507365

1749332827

●●●●●⑤●●□■

4025543210

221

島崎縄本分岡崎賀ロ根

児鹿宮沖熊大福長佐山島

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沖縄大学紀要第3号(1983年)

ども鹿児島においてもいくらか飲まれているのに対し、沖縄では全くと言って

いい程飲まれていない。ビールの比率は亜熱帯気候のせいか、かなり高率にな

っている。その他ウイスキーは全国平均を上回り、東京に近い傾向を示してい

ろ。このように沖縄の場合南国的色彩をもっていると同時に、都市的色彩をも

混在しているかのように映る。飲酒の洋風化の傾向は都市化の反映と一般に言

われるが、沖縄県の洋風化の濃さは都市化に起因しているというよりも、むし

ろ、かって沖縄が米国統治下にあった頃の米国人との接触による飲洋酒習慣の

名残りと考える方が妥当であろう。ウイスキーの消費量は時系列的には都市部

でみられるような上昇傾向にあるのではなく、や&横ばい状態である。一万、

ビールと泡盛の消費量は年々伸びている(図6)。

少ビール16

54

32

10

11

11

11

数(鮒和仰I叩)

泡朧

その他

ウイスキー

昭47昭48昭49

図6の

昭no昭510115211/153昭54昭55昭56W157

(箇料:力''611111税囑il傍所統`汁)

沖縄県|こおける各種酒の消費動向

c)酒場の実態

酒の集団的消費の場として酒場があげられる。

酒と関わりのある飲食店の数は年々増加の傾向にあり、沖縄では昭和47年

には6,101店であったのに対し、昭和54年には9,300店に増えている。8年

間に1.5倍の増である。そのなかの50%前後がバーやキャバレーなどの酒場

-107-

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沖縄大学紀要第3号(1983年)

で、昭和54年には復帰時の約1.4倍に増加している。

表6は沖縄における風俗営業所及び深夜営業所数の九州各県比較を示したも

のである。沖縄は全国平均の2~3倍の酒場を有し、九州地区ではその実数が

福岡に次いで高くなっている。1店当たりの人口割合で比較すると最上位にラ

ンクされ、他県の2倍以上の酒場大県である。

愛0風俗宮栗等フU11各県人口害11比莇

資料:沖縄県警本部「犯罪統計書」

表7各産業の就業率の推移(%)

47 50

181 162

20.9 20.7

60.7

(244) (223) (235)

資料:沖縄県統計課「労働力調査」

-108-

表6風俗営業等ブUNI各県人口割比較 胴56

昭和40 45 47 50 55

次産業 37.8 26.9 18.1 16.2 13.9

二次産業 15.5 18.2 20.9 20.7 22.3

三次産業 46.7 54.9 60.7 62.5 63.6

(サービス業) (11.8) (15.4) (244) (22.3) (235)

風俗営業所

営業所数1営業所当り

の人ロ

深夜飲食店

営業所数1営の

業所

当り

岡賀崎本分崎島縄州国

児福佐長熊大宮鹿沖九全

9447563644

9028701563

3326330259

0,39P9・9909

4112112484

15

人8524447222

●●●●●●●

814808350且

2706089665

0636988277

0?

11

8153449710

3146501716

9278633231

997999J091

9252456749

42

人4083097164

●●●●●

56776且4丘85

5972698515

4326212133

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沖縄大学紀要第3号(1983年)

労働力を吸収する産業基盤が低いのと、基地収入や観光収入への依存度が比

較的高い沖縄では、サービス業やその他の第三次産業が異常にふくれあがり、

その状況下で酒場も拡大する方向に動いていると考えられる。表7でみられる

ように復帰前から沖縄は第二次産業の伸びは悪く、第三次産業の比率は極端に

高い異常な構造であったが、その傾向は復帰後もずっとそのま>進行し、農業

などの第一次産業は衰退の方向へ動いた。

また、沖縄は復帰後、軍関係労働者の大量解雇や、全国的なオイルショック、

国際海洋博後のショック等、幾重にも衝撃を受けた。そのような状況下で完全

失業率は急増している。復帰前までは全国とそれ程変らず1%程度であったの

に対し、復帰の時点から急速に高まり、全国の2~3倍に達し、その傾向がず

っと続いている(表8)。

表8完全失業率の推移(千人、%)

資料:沖縄県統計課「労働力調査」

生活の糧をもたない人びとにとっては酒場はそれ程特殊な技術を身につける

必要もなく、また、短期に比較的高収入が得られるという点では手つとりばや

い労働の場となり易いのかも知れない。そして、県外からの人口流入の激化は

酒場の拡大に拍車をかけている。一方、人口の過密化によってそこに生きる人

びとの社会的相互作用の円滑さが阻まれ、人びとの日常生活にストレスを生じ

易くさせている。酒場はその解消の場として人びとの飲酒行動を促し、それが

酒場の繁栄を押し進める結果になっている。

。)アルコール症患者の実態

沖縄におけるアルコール症予備軍と言われる大量飲酒者の数は酒類消費量の

-109-

昭46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57

沖縄 1.0 3.0 3.5 4.0 5.3 6.3 6.8 6.0 5.4 5.1 5.4 4.9

全国 1.2 1.4 1.3 1.4 1.9 2.0 2.0 2.2 2.1 2.0 2.2

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沖縄大学紀要第3号(1983年)

増加に伴って増え、現在およそ2万人と推計されている。糸数らの調査によれ

ば、そのうち、各保健所にアルコール症として実際に登録されているのは昭和(2)

57年までにわずか2%程度であると報告されていろ。

表9は沖縄県における精神障害者の入院患者在院数の推移であるが、総数の

増加と対応して中毒性精神障害者(その大部分がアルコール中毒患者)の在院

数も年々増加していることがみとめられる。

表9年次別病類別入院患者数(沖縄県)(各年12月末現在)

箇料:沖剛県予防課調べ

表10在院患者の病類別内訳(昭和57年6月30日現在)

000

資料:沖縄県予防課統計

-110-

50

在院

患者散

(%)

51

在院

患者数

(%)

52

在院

患者数

(%)

53

n;院

患音数

(%)

54

梅院

患者数

(%)

55

圧院

患者数

(%)

56

花院

患者数

(%)

精神分裂病

操うつ病

てんかん

脳器質件精神障害

その他の

糖神病

中毒性

精神障害

精神薄弱

精神病質

神経症

その他

3378677592

846.4093

14

21

2 164

89

53275

●●

312

13

31001

8 906

85

78210

345

54

64

35

31

2 440

02

37118

■■●

■■

■●

■巳●

2122

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71

合府I 2.747 100 2.836 100 2,969 100 3,195 100 30448 100 3,510 100 3,590 】00

病類 患者数 %

精神分裂病そ>>

フつ-つ 病

てんかん

脳器質性精神障害

精神薄弱

精神病質

その他の精神病アルコール 中毒

その他の中毒性精神障害

神経症その 他

67120466289

05763

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73

11

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計 3.711 100.0

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沖縄大学紀要第3号(1983年)

全精神障害者在院数は全国の中で沖縄は17位(昭和56年6月現在)にラ

ンクされ、比較的高率の県であるが、統計にみる限り、そのなかのアルコール

中毒者の比率は低率である。全国が6.9%であるのに対し、沖縄は3.4%(昭

和57年6月現在)前後に留まっている(表10)。

全国を上回る程の酒大量消費県である沖縄がそれに対応してアルコール症患

者の多い県として浮かびあがってこないのは如何なる理由に依るのだろうか。

様々な要因があるなかで、1つには先述したように、共同体社会での酒の社

会的効用に依るところがあると考えられる。そこでは社会生活を営むうえで酒

はマイナスの方向に機能するよりもむしろプラスに機能することが大きかった

ことが酒害の問題としてこれまで浮上させない結果になったと考えられる。

他方、そのような地域共同体の保持によって、たとえアルコール症であった

にしても単に酒のみとか、酒癖が悪い者として認知され、医療の対象と考える

ことが社会的に希薄であった!)さらにそのことと併わせて、アルコール症の専

門病院が未だに皆無の状態(精神病院で収容)にあることなどが、そのような

人びとを家族や地域内で放置させる結果になり、統計上アルコール症患者の数

を低率に留めさせていると思われる。

復帰後の沖縄の医療機関は、経済やその他の場合と同様に「本士なみに」と

いう名目の下に急速な形で病床数の増加など改善がなされている。なかでも精

神科の病床数の増加ぶりは急激である(図7)。このような医療機関の充実に

よって今後アルコール症入院患者の数も次第に増加し、アルコール問題は一層

表面化することになろう。そしてまた、社会の複雑化、多様化によって新たな

酒害の門題も加わってくるであろう。

沖縄県立精神衛生センターの統計(表11)によれば、相談総件数が年々増

加しつ>あるなかで酒害に関する相談が昭和53年以降目立つようになってき

ている。

そしてまた、酒消費量に関して統計上(図2,3)気になることは、ほぼ横

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沖縄大学紀要第3号(1983年)

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※()は老人痛床

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昭和釦年

昭和弱年

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昭和循年

珊和別年

明和弱年

昭和師年

(資料:沖縄県7防諜)

図7沖縄県における精神病床の年次別推移

(各年6月30日現在)

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沖縄大学紀要第3号(1983年)

表11沖縄県の精神衛生センターにおける年次別相談種別数

雲霧劃里驫星|翼皐蜑閉神病の診疲保至に

ついての問題

アフターケアーに

ついての問題

‘’

届書に関する問題

伝・結婚に関する

問題

性格・行動について

の問題

社会坦帰についての

問題

医療費.その他

経済的問題について

資料:沖縄県立精神衛生センター「精神衛生センター所細

ぱい状態であった沖縄の成人1人当たりの純アルコール消費量が昭和56年か

ら昭和57年にかけて上向きに変化しはじめていることである。

-113-

昭和

49年度

昭和

50年度

昭和

51年度

昭和

52年度

、昭和

53年度

昭和

54年度

昭和

55年度

昭和

56年度

繭神病の診療保護に

ついての問題39 45 80 81 64 70 65 46

アフターケアーに

ついての問題1 5 7 2 5 12 17 16

知的発迫上の問題 9 0 10 4 2 0 4 2

言語に関する問題 1 0 0 1 0 2 1 2

身体的間HH 2 2 3 9 5 6 7 5

非 行 問題 2 2 1 1 2 6 6 3

家庭における問題 0 3 0 3 5 1 2 4

匝場における問題 0 0 0 2 1 0 0 0

酒害に関する問題 0 0 0 0 9 10 11 10

学校における問題 5 6 3 7 3 4 13 6

教育・しつけの問題 19 2 1 2 1 1 4 0

迫伝・桔婚に関する

問題1 0 3 1 1 4 1 0

性格・行動について

の問題17 12 19 21 63 29 48 53

社会復帰についての

問題0 0 0 0 0 6 2 10

医療費.その他

経済的問題について0 0 0 0 0 2 3 0

その他 0 0 2 0 3 0 1 0

8十 96 77 129 134 164 153 185 157

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沖縄大学紀要第3号(1983年)

引用及び参考文献

(1)清水新二「わが国における飲酒と断酒」、遠藤四郎編『臨床精神医学』(2)、

1982,P1-30

(2)糸数るみ子他「断酒会の地域における役割」沖縄県立衛生センター『こころの

健康』9号、1983

(3)島成郎著鯖神医療のひとつの試み』批評社、1982

(4)大橋薫編著卿方中核都市の社会病理」川島書店、1982

(5)沖縄県予防課『沖縄における精神衛生の現状』昭57

(6)沖縄労働経済研究所編『L+E』、NC3,1983

(7)〃〃NC6,1983

(8)社会経済研究所編『沖縄振興開発計画理解のために』1980

(9)名城嗣明、中村完、島袋恒男、国吉和子「飲酒行動に関する心理学的研究(1)」

(国吉和子発表)、『沖縄心理学研刑6号、1983

(10)西川他共編『日本の飲酒を考える』医学院、1975

(11)東京大学公開講座「酒」東京大学出版会、1976

(12)余暇開発センター『現代社会における飲酒行動に関する研究』、1977

(13)宮里勝政編「アルコール症」、「現代のエスプリ』Nol44、至文堂、1979

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