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1 May 2015 Technical Article K-Line 旧来のプロトコルに対する柔軟なソリューション 以前、 K-Lineが担っていた診断タスクは、かなり前からCANEthernetなどのシステムに引き継がれているため、 K-Lineという 診断プロトコルが新規開発で主要な役割を果たすことはなくなり ました。しかし、いまだに多くの車両やECUK-Line技術を使用し ており、その状況が当面は変わらないという事実を、世界のどの 自動車メーカー、サプライヤー、サービス工場も無視するわけに はいきません。 K-Lineのインターフェイスを持つECUは今でも乗 用車、トラック、オートバイなどに使用されているのです。 生き延びた絶滅危惧種 中国、インド、南アジアなどの市場では特に、 K-Line技術を使用 している乗用車やオートバイが今なお数百万の規模で路上を走行 しています。これらは一般に、約10年から15年前の技術水準で作 られた車両であり、この時期に開発されたヨーロッパ車の多くが、 ライセンス下でアジアで組み立てられました。そして、ヨーロッパ でのそれらの量産は何年も前に終了しているに関わらず、現地で の組立ては今日でも続いています。少量生産の場合は特にそうで すが、実績のあるECU開発を後継や関連の製品ラインに引き続い て使用することはまだ慣例的に行われており、これもK-Lineの寿 命を延ばす一因となっています。 バス特性を持つシリアルUART診断プロトコル K-Line ISO 14230 標準に準拠した診断プロトコルで、 標準のRS 232シリアルインターフェイスと同じく、通常のUART (Universal Asynchronous Receiver Transmitter) 回路の技術 を基盤としています。非同期伝送では、送信側と受信側がスタート ビットとストップビットを使用することにより同期が行われます。 すなわち、このシステムでは信号線が1本あれば十分で、補助的な ~精密なモニタリングから汎用的なバイトプロトコルのデータ操作まで~ かつて、 K-Lineは多様な車両の診断に用いられた標準的な診断プロトコルでした。そしてそれは現在でも幅広く使用 されており、誕生から長い時を経たにもかかわらず、そのインターフェイスは今日の最新のハードウェアやソフトウェア の診断、開発プロジェクト、サービス作業においても現役で用いられています。そこには、これを使用することで、 ECU との単純な通信から独自技術によるバイトレベルのK-Lineバリアントのサポート、さらにはK-Line診断テスターと K-Line ECU全体のシミュレーションに至る、幅広い要求に対応できるという理由があります。

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Page 1: Technical Article - Vector...K-Line ECU 全体のシミュレーションに至る、幅広い要求に対応できるという理由があります。May 2015 2 Technical Article

1May 2015

Technical Article

K-Line: 旧来のプロトコルに対する柔軟なソリューション

以前、K-Lineが担っていた診断タスクは、かなり前からCANやEthernetなどのシステムに引き継がれているため、K-Lineという診断プロトコルが新規開発で主要な役割を果たすことはなくなりました。しかし、いまだに多くの車両やECUがK-Line技術を使用しており、その状況が当面は変わらないという事実を、世界のどの自動車メーカー、サプライヤー、サービス工場も無視するわけにはいきません。K-Lineのインターフェイスを持つECUは今でも乗用車、トラック、オートバイなどに使用されているのです。

生き延びた絶滅危惧種

中国、インド、南アジアなどの市場では特に、K-Line技術を使用している乗用車やオートバイが今なお数百万の規模で路上を走行しています。これらは一般に、約10年から15年前の技術水準で作られた車両であり、この時期に開発されたヨーロッパ車の多くが、

ライセンス下でアジアで組み立てられました。そして、ヨーロッパでのそれらの量産は何年も前に終了しているに関わらず、現地での組立ては今日でも続いています。少量生産の場合は特にそうですが、実績のあるECU開発を後継や関連の製品ラインに引き続いて使用することはまだ慣例的に行われており、これもK-Lineの寿命を延ばす一因となっています。

バス特性を持つシリアルUART診断プロトコル

K- L i n eはI S O 14230標準に準拠した診断プロトコルで、標準のRS 232シリアルインターフェイスと同じく、通常のUART (Universal Asynchronous Receiver Transmitter) 回路の技術を基盤としています。非同期伝送では、送信側と受信側がスタートビットとストップビットを使用することにより同期が行われます。すなわち、このシステムでは信号線が1本あれば十分で、補助的な

~精密なモニタリングから汎用的なバイトプロトコルのデータ操作まで~

かつて、K-Lineは多様な車両の診断に用いられた標準的な診断プロトコルでした。そしてそれは現在でも幅広く使用されており、誕生から長い時を経たにもかかわらず、そのインターフェイスは今日の最新のハードウェアやソフトウェアの診断、開発プロジェクト、サービス作業においても現役で用いられています。そこには、これを使用することで、ECUとの単純な通信から独自技術によるバイトレベルのK-Lineバリアントのサポート、さらにはK-Line診断テスターとK-Line ECU全体のシミュレーションに至る、幅広い要求に対応できるという理由があります。

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2May 2015

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クロック線は不要です。RS232とは対照的に、K-Lineはバスシステム同様、アドレスを指定することで他のECUとの通信を実現します。標準の転送レートは10.4kBaudですが、メモリの書換えなどの用途には最大で115.2kBaudまでの速度が使用されます。

K-Lineはオンボード/オフボードいずれの診断にも適しており、初期化には2つの専用のパターンが用意されています。高速初期化は10.4kBaudの標準に基づくもので、ウェイクアップパターンが送出されます。もう1つは5Baud初期化パターンと呼ばれるもので、ここではシステムがアドレスバイトを5Baudで送信すると、受信側がこの低速の伝送レートを検知します。K-Lineにはこのほかに、専用のキーバイトを使用してヘッダー形式とタイミング用パラメーターを特定するという特徴もあります。自動車メーカーにとり、適切なK-Lineテスターを備えたサー

ビス工場を設置して、K-Line搭載車両のサービスをグローバルに支援することは、アフターセールス市場における重要な作業の1つです。K-Lineを利用したECUの開発では、提供される新機能をテストしなければなりません。そのため、メーカーやサプライヤーには、K-Lineのテスト機器とECUに使用できる、K-Lineプロトコル対応の高機能のハードウェアとソフトウェアが必要です。

テスト用ハードウェアに対する要求はさらにシビアに

どのような診断/テストプロセスでも、診断用PCとテスト対象デバイス (DUT:Device under test) との接続を実現する適切なインターフェイスハードウェアの存在は、基本的な前提条件です。PCに搭載されている従来のUART/RS232インターフェイスでもK-Lineデバイスのテストは可能ですが、この方法ではすぐに限界に直面することになります。これには仕様適合性をチェックし、正しい動作を検証するための高度な機能が備わっていません。また、仕様上の限界値に対するDUTの動作レベル、すなわちパフォーマンスの余裕がどれだけあるかも把握しておく必要があります。効率のよいK-Lineインターフェイスは、RS232のソリューション

とは対照的に、精密な通信タイミングの取得を可能にします。送信/受信のいずれのK-Lineフレームにも正確なタイムスタンプが与えられます。また、高速初期化や5Baud初期化といったボーレートの自動検出が可能であるだけでなく、K-Lineのタイミングとデータを操作し、任意のバイトストリームを送信することもできます。これらのインターフェイスは任意のPCとUSB経由で接続でき、ソフトウェアツールにぴたりと連動します。たとえば専用のK-Line APIを使用することにより、あらゆるハードウェアの機能をテストスクリプトで手軽に実現できます。

スケーラブルなK-Lineソリューション

ベクターは、高品質のインターフェイスハードウェアと高機能のソフトウェアツールから構成された、K-Line開発におけるテストとシミュレーションを支援する、K-Line製品を取り揃えています。

これらのソリューションは、考えられるあらゆる要件をカバーするほか、単一チャンネルのK-Lineをモニタリングするツールから、K-Lineの診断テスターとECU、さらには大規模なHILシステムのシミュレーションが可能なソリューションまでも実現する、柔軟なスケーラビリティーを備えています。最後に挙げたソリューションは、リアルタイム性をはじめとする特性を備えており、CAN、LIN、FlexRayなどの他のバスシステムをK-Lineと合わせて統合することで、マルチチャンネルECUのテスト環境をシミュレーションできます。ベクターは、USBインターフェイスやPCIバスを介してK-Lineに接続する各種のインターフェイスを提供しています。これらにはインターフェイス製品であるVN1600やVN8900に加え、VN7572などのプラグインカードや、VTシステム用のVT6204が含まれています (図1)。物理的なレベルでの伝送は、K-Lineを最適にサポートする7269 LINトランシーバーが処理します。

独自のK-Lineバリアントとバイトプロトコルのサポート

CANoeとCANalyzerはベクターが提供するソフトウェアツールで、お客様のニーズに合ったいずれかを選択してご利用いただけます。CANoeが (自動) テストとシミュレーションを目的とした汎用的なソリューションであるのに対し、CANalyzerでは分析やモニタリング作業に重点が置かれています (図2)。これらのツールでは、すべてのK-Lineパラメーターと設定へのアクセスが可能です。テスト担当者はテスト、測定、エラー注入を、診断レベルや通信レベルだけでなく、独自の機能であるバイトレベルも含むさまざまなレベルで実施できます。そのためこれらのツールは、汎用的なシリアルバイトプロトコルに留まらず、標準から離れた独自のK- L i n eバリアントについても利用が可能です。トレースWindowおよび解析Windowには、タイミング、ボーレート、ヘッダーバイト、データバイト、インターバイトスペース、インターフレームスペースが高い精度で表示されます (図3)。他のWindowではK-Lineフレームのインタラクティブ送信が可能です。

図1:単一チャンネルのUSBインターフェイスからHILモジュールまでをカバーする各種のK-Lineインターフェイス

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図2:K-Lineのテストおよびシミュレーション環境

図3:異なる通信レベルでのK-Lineの解析

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4May 2015

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アプリケーションプログラミング言語のCAPLを使用すれば、任意のフレームの送出やエラー注入を実行できます。CAPLに専用のK-Line APIを併用することにより、シミュレーションも作成可能で、そこからテストモジュールを通じて自動テストシーケンスを生成し、レポートを生成できます。

まとめ

K-Lineプロトコルが年代物のプロトコルであることは事実ですが、今なお診断テスターやECUの保守などの目的で使用されており、K-Line向けの現代的で高機能のツールも提供されています。これらのツールによって、自動車メーカーやサプライヤーでは質の高い適格なテストを実施できるだけでなく、既存のK-Lineコンポーネントのさらなる開発や再利用をスムーズに行うことができます。

本稿は、2015年5月にAutomotive EE Times Europeに掲載されたベクター執筆によるオンライン記事の内容を和訳したものです。

提供元:

見出し画像および全図:Vector Group

リンク:

ベクター・ジャパン www.vector-japan.co.jp

Peter Decker 2002年にVector Informatikに入社、現在はネットワークおよび分散システム製品部門のプロダクトマネージャー。

執筆者:

■ 本件に関するお問い合わせ先ベクター・ジャパン株式会社営業部 (東京) TEL:03-5769-6980 FAX:03-5769-6975 (名古屋) TEL:052-238-5020 FAX:052-238-5077

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