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吸着物質の光分解 平成 17 年度Ⅰ部化学研究部月曜班 はじめに 酸化チタンの光触媒作用が初めて発表されたのは、1934年のことである。 当時は作用を抑制することに主眼が向けられていたため、それからながらく、 光触媒作用そのものの研究はマイナーなものであった。しかし、72年に藤嶋 昭氏によって、酸化チタン電極に光を浴びせると、水が分解され水素が生成す ることが発見された。 水素は燃料として使用できる。当時はエネルギー危機が叫ばれていたこともあ り、石油に代わるエネルギーとして、水素を太陽光と水から無限に生成できる 酸化チタンは一躍注目を浴びることとなった。 それから30年が経った今、代替エネルギー生成のための光触媒の研究は続け られているが、その主役はより高性能な金属に変わっおり、酸化チタンを用い ての実用化の目処は立っていない。一方で、研究により明らかになった酸化チ タンの諸特性は非常に有益なものであり、酸化チタンを用いた多くの製品が、 私たちの生活に入ってきている。 酸化チタンの持つ重要な特性は、主に2つである。 1) 光作用による超親水性 酸化チタンに光りを当てると、親水性となる。親水性の物体に水が付着すると、 それは水滴とはならず、一様に広がり膜となる。水に濡れた鏡やガラスが見に くいのは、表面に付着した水滴が光りを乱反射するためなので、その水滴が形 成されない場合、ガラスはきれい透けてに見え、鏡も歪んでいない正しい姿を 映す。この効果は、風呂場の鏡や、車のサイドミラーなどに利用されている。 また、汚れの類が付着していた場合、そこに水を掛けると、水が汚れと酸化チ タンとの間に入り込み、汚れを浮かせ、落としてしまう。

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Page 1: 吸着物質の光分解 - 東京理科大学kaken/studies/05/05_mon.pdf吸着物質の光分解 平成17 年度Ⅰ部化学研究部月曜班 はじめに 酸化チタンの光触媒作用が初めて発表されたのは、1934年のことである。

吸着物質の光分解

平成 17年度Ⅰ部化学研究部月曜班

はじめに

酸化チタンの光触媒作用が初めて発表されたのは、1934年のことである。

当時は作用を抑制することに主眼が向けられていたため、それからながらく、

光触媒作用そのものの研究はマイナーなものであった。しかし、72年に藤嶋

昭氏によって、酸化チタン電極に光を浴びせると、水が分解され水素が生成す

ることが発見された。

水素は燃料として使用できる。当時はエネルギー危機が叫ばれていたこともあ

り、石油に代わるエネルギーとして、水素を太陽光と水から無限に生成できる

酸化チタンは一躍注目を浴びることとなった。

それから30年が経った今、代替エネルギー生成のための光触媒の研究は続け

られているが、その主役はより高性能な金属に変わっおり、酸化チタンを用い

ての実用化の目処は立っていない。一方で、研究により明らかになった酸化チ

タンの諸特性は非常に有益なものであり、酸化チタンを用いた多くの製品が、

私たちの生活に入ってきている。

酸化チタンの持つ重要な特性は、主に2つである。

1) 光作用による超親水性

酸化チタンに光りを当てると、親水性となる。親水性の物体に水が付着すると、

それは水滴とはならず、一様に広がり膜となる。水に濡れた鏡やガラスが見に

くいのは、表面に付着した水滴が光りを乱反射するためなので、その水滴が形

成されない場合、ガラスはきれい透けてに見え、鏡も歪んでいない正しい姿を

映す。この効果は、風呂場の鏡や、車のサイドミラーなどに利用されている。

また、汚れの類が付着していた場合、そこに水を掛けると、水が汚れと酸化チ

タンとの間に入り込み、汚れを浮かせ、落としてしまう。

Page 2: 吸着物質の光分解 - 東京理科大学kaken/studies/05/05_mon.pdf吸着物質の光分解 平成17 年度Ⅰ部化学研究部月曜班 はじめに 酸化チタンの光触媒作用が初めて発表されたのは、1934年のことである。

2) 光触媒作用による有機物分解反応

光を吸収した酸化チタンに有機物が付着すると、光のエネルギーを用いて、有

機物を水と二酸化炭素に分解することができる。この効果は油などに限らず、

生き物にも効果があるため、殺菌能力でもある。空気清浄・水質浄化として使

用されるだけでなく、病院や介護施設の壁面へのコーティングが行われている。

この2つの効果を合わせるとセルフ・クリーニング効果と呼ばれるものになる。

窓ガラスや壁面に酸化チタンをコーティングしておくと、時々水を掛けるだけ

で、汚れを分解し、落とすことができる。これにより、清掃の手間と費用と危

険を省くことができる。

光触媒を活用した製品は数多く開発されており、その市場規模も拡大傾向にあ

る。有益な効果を多く持つ一方で、未だに解決されていない問題の多く残って

おり、今なお研究が続けられている。

そこで月曜班としては光触媒の主流であり、安価な酸化チタンを用いて、その

光触媒作用による有機物分解を調べてみることにした。

酸化チタン

正確には二酸化チタン(TiO2)。原料となるチタンは、地球上では9番目に多

い元素であり、製法も工業的に確立している。酸化チタンは顔料や塗料、衣料

や紙などにも用いられ、日本では年間30万トンが消費されている。光触媒用

の酸化チタンは、kg当たり 1000~5000円ほど、顔料用では数百円と比較的安価

である。酸化チタンにはルチル型、アナターゼ型、ブルッカイト型の3つの結

晶型があり、性質に幾ばくかの違いを与えている。光触媒としてはアナターゼ

型が適しているといわれているが、現在はルチル・アナターゼの混合型が注目

されている。

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原理

光触媒反応

光触媒反応とは、反応過程において光を必要とする触媒反応である。光触媒

物質は光を吸収し励起状態(次項記載)となる。励起状態となった光触媒が反

応物を吸着すると反応が起こる。生成した反応中間体が光触媒から分離し、生

成物ができあがる。この反応で、光触媒自体は最後に初期状態に戻るため、触

媒として扱われている。

なお、暗所では光触媒は反応物を吸着するものの、励起による活性をもたない

ため、反応は進行しない。

図1光触媒反応(2)

(※著作権の都合上、図は削除させていただきます)

エネルギー帯・バンド構造

固体中の電子は、ほぼ同程度のエネルギーを持つ電子軌道が集まった、エネ

ルギー帯と呼ぶ電子軌道中に存在している。原子単体では電子軌道の数と取り

うるエネルギー準位は一定数だが、複数の原子が集まるとそれらの間で混成軌

道を形成するため、電子軌道の数とエネルギー準位は増えていく。これが固体

という莫大な原子の集まりともなると、電子軌道の取りうるエネルギー準位も

また非常に多彩となり、その一つ一つの間隔も小さなものとなる。このため、

原子単体では量子論的な電子軌道のエネルギー準位が、固体ではほぼどのよう

な値でも取れるようになる。つまり、量子的ではなく連続の値を取っているか

のようになるのである。

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図2バンド構造(1)

(※著作権の都合上、図は削除させていただきます)

しかしながら、全ての電子軌道が連続的なわけではない。電子の取りうる混

成軌道はそれぞれの軌道のエネルギー準位が似ている必要があり、大きく準位

の異なる軌道同士で混成軌道を為すことはない。そのため、作られる混成軌道

も原子単体での電子軌道の準位を頂点とした山形となり、単体での電子軌道の

準位からかけ離れた準位を持つ混成軌道は存在しない。単体での電子軌道のエ

ネルギー準位の間に大きな間隔が空いていれば、固体中で形成される軌道の準

位にも隙間ができる。この電子軌道の存在しないエネルギー準位を禁制帯と呼

ぶ。さらに、基底状態において、禁制帯と禁制帯の間の軌道が全て電子で埋ま

っている部位を価電子帯、電子の無い空き軌道の存在する部位を伝導帯と呼ぶ。

禁制帯はバンドギャップと呼ばれ、その幅の大きさは固体の性質に関与して

いる。

酸化チタンにおける光励起

酸化チタンは絶縁体であるが、波長 400nm以下の光を照射すると、伝導体と

なる。これは光により励起が生じているためである。

バンド構造において、基底状態における HOMOをフェルミ準位と呼ぶ。フェ

ルミ準位が伝導体に存在している場合、電子はわずかなエネルギーで軌道を代

えることが出来るため、ほぼ自由に動くことができ、電気が流れる。伝導体で

ある。一方で、フェルミ準位が禁制帯に存在している場合、つまり伝導体に電

子が存在しない場合、電子が軌道を変えることができない。価電子帯の電子が

軌道を変えようとしても、価電子帯には空き軌道がなく、伝導帯との間には大

きなバンドギャップがあり、越えるには多量のエネルギーを吸収する必要があ

る。このため、電気は流れず、絶縁体となる。

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酸化チタンの場合、このバンドギャップの幅はアナターゼ型で 3.2eVとされてお

り、これは387nmの波長の光の持つエネルギーに等しい。これ以下の波長の

光を酸化チタンに当てると、電子が光のエネルギーを吸収し、伝導帯の電子軌

道に移動する。光によって電子が励起状態となるので、この現象を光励起と呼

ぶ。光励起によって価電子帯に生じた電子の穴は、正孔と呼ばれる。この電子

の移動は、空間的ではないので、すぐに元の状態に戻ってしまう。

図3光励起(1)

(※著作権の都合上、図は削除させていただきます)

有機物の分解

励起電子と正孔の酸化力と還元力は、励起電子は伝導体下端の、正孔は価電

子帯上端のエネルギーによって決まる。励起した酸化チタンの酸化力と還元力

は強く、励起電子により酸素分子を還元し、活性酸素(O2-)を生成する。

O2+e-→O2

-・

一方で、正孔はO2-に作用し、より強い酸化剤であるO-を生成できる。これ

は強力な酸化剤であり、有機物ならほぼすべて酸化することができる。

O2-・+h+→2O

O+e-→O-

活性酸素を生成するだけでなく、正孔は有機物を直接酸化し、分解すること

ができる。

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金属担持の効果

電子や正孔が作用するためには、酸化チタンが励起している状態で、反応物

を吸着しなければならない。そうでなければ、反応する前に励起状態から基底

状態に戻ってしまい、励起に消費されたエネルギーは無駄になってしまう。こ

れを失活と呼ぶ。失活を防ぐためには、酸化チタンの吸着力を増進するか、励

起状態の持続時間を延長する必要がある。

酸化チタンの懸濁液に金属イオンを加え、紫外光を当てると、励起電子によ

って金属イオンは還元され、酸化チタンの表面に析出する。

CoCl2・6H2O+2e-→Co+2Cl-+6H2O

2H2O+4h+→O2+4H

すると、酸化チタンと析出した金属とでは仕事関数(物質特有の値)が異な

るため、フェルミ準位が等しくなるように電子の移動が起こる。TiO2の仕事関

数は 4.0eVなので、これよりも仕事関数の大きな金属を析出させると、電子が

酸化チタンから金属に移動することになる。励起電子が金属に移動すると、励

起で生じた電子と正孔が空間的に離れたことになるため、これらが失活までの

時間はおおいに延びる。これにより、酸化チタンの量子効率は上昇することと

なる。

図4ポテンシャル勾配と電子移動(1)

(※著作権の都合上、図は削除させていただきます)

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実験

全実験共通器具

・ ホールピペット(0.5ml、1ml、5ml、10ml)

・ メスピペット(5ml、10ml)

・ ビーカー各種

・ 試験管

・ ブラックライト(詳細不明)

実験1

酸化チタン粉末の量と分解反応との関連性を調べる。

原理

酢酸溶液に酸化チタンを懸濁させ、紫外光を当てると二酸化炭素が生成する。

CH3COOH+2O2→2CO2+2H2O

二酸化炭素は水に溶解するが、炭酸より酢酸のほうが強い酸なので追い出され

るため、pHへの影響は少ないと考えられる。そこでpHを測定することで、

酸化チタン自体によるpH変化、吸着、分解の効果を確認する。

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試薬・器具

・ 酸化チタン(昭和1級酸化チタン(Ⅳ)アナターゼ型97%昭和化学)

・ 酢酸(昭和特級酢酸昭和化学)

・ pHメータ(詳細不明)

実験操作

1)pHメータの校正を行った。

2)試験管(A~J)に、酢酸、酸化チタン粉末、イオン交換水を表のようにな

るように調整した。

3)ブラックライトを一週間照射した。

4)試験管の中身をビーカーに開けて、pHメータでpHを測定した。

表1実験1試験管調整

試験管 酸化チタン(g) 酢酸(ml) 水(ml)

A 0.01 1.0 9.0

B 0.02 1.0 9.0

C 0.03 1.0 9.0

D 0.04 1.0 9.0

E 0.05 1.0 9.0

F 0.06 1.0 9.0

G 0.07 1.0 9.0

H 0.08 1.0 9.0

I 0.09 1.0 9.0

J 0.10 1.0 9.0

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実験2-1

吸光光度計による測定からメチレンブルーの濃度を算出するために、検量線を

作成した。

試薬・器具

・ 酸化チタン(昭和1級酸化チタン(Ⅳ)アナターゼ型97%昭和化学)

・ メチレンブルー水溶液(詳細不明。実験2-2,3-2と同濃度で使用)

・ 分光光度計(Agilent8453A AgilentTechnologies)

実験操作

1)試験管(A~J)に、メチレンブルー水溶液、酸化チタン粉末、イオン交換

水を表のようになるように調整した。IとJの酸化チタンの量は計測していな

いが、0.2~0.5gの範囲内であった。

2)ブラックライトを 2日間照射した。

3)各試験管の上澄み液を8mlずつ別の試験管 a~jに採取し、これを吸光光度

分析にかけた。

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表2実験2-1試験管調整

試験管 水(ml) メチレンブルー溶液(ml) 酸化チタン粉末(g)

A 12.0 0 0

B 11.0 1.0 0

C 10.0 2.0 0

D 9.0 3.0 0

E 8.0 4.0 0

F 7.0 5.0 0

G 6.0 6.0 0

H 5.0 7.0 0

I 12.0 0 少量

J 12.0 0 多量

実験2-2

反応物の濃度と分解反応との関連性を調べた。

試薬・器具

・ 酸化チタン(昭和1級酸化チタン(Ⅳ)アナターゼ型97%昭和化学)

・ メチレンブルー水溶液(詳細不明。実験2-1,3-2と同濃度で使用)

・ 分光光度計(Agilent8453A AgilentTechnologies)

実験操作

1)試験管(A~K)に、メチレンブルー水溶液、酸化チタン粉末、イオン交換

水を表のようになるように調整した。

2)ブラックライトを 2日間照射した。

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3)これらを吸光光度分析にかけた。

表3実験2-2試験管調整

試験管 水(ml) メチレンブルー溶液(ml) 酸化チタン粉末

A 6.0 6.0 0.5

B 9.0 3.0 0.5

C 10.5 1.5 0.5

D 6.0 6.0 0.25

E 9.0 3.0 0.25

F 10.5 1.5 0.25

G 6.0 6.0 0.5

H 9.0 3.0 0.5

I 10.5 1.5 0.5

J 12.0 0.0 0.5

K 12.0 0.0 0.25

実験3-1

金属を酸化チタンに担持することによる反応性の変化を調べた。

試薬・器具

・ 酸化チタン(CR-50石原産業)

・ 塩化コバルト(特級97%昭和化学)

・ メチレンブルー水溶液(詳細不明)

・ 分光光度計(Agilent8453A AgilentTechnologies)

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実験操作

1)試験管(A~E)に、塩化コバルト(s)、酸化チタン粉末、イオン交換水

を表Ⅰのようになるように調整した。

2)ブラックライトを 2日間照射した。

3)各試験管の上澄み液を捨て、メチレンブルー溶液をそれぞれの試験管に 10

mlずつ加えた。

4)試験管F,Gに酸化チタン 3.0x10-2gとエチレンブルー溶液 10mlをそれぞ

れに加えた。

5)試験管 A~Fにブラックライトを 1日照射し、その間試験管 Gは暗所に保管

した。

6)各試験管の上澄み液を8mlずつ別の試験管 a~gに採取し、これを吸光光度

分析にかけた。

表4実験2-2試験管調整

試験管 水(ml) 酸化チタン(g) 塩化コバルト(g)

試験管 A 10 3.0x10-2 3.0x10-5

試験管 B 10 3.0x10-2 3.0x10-4

試験管 C 10 3.0x10-2 3.0x10-3

試験管 D 10 3.0x10-2 3.0x10-2

試験管 E 10 3.0x10-2 3.0x10-1

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実験3-2

実験3-1の再実験。使用する酸化チタンは通常のものであった。

試薬・器具

・ 酸化チタン(昭和1級酸化チタン(Ⅳ)アナターゼ型97%昭和化学)

・ 塩化コバルト(昭和特級塩化(Ⅱ)コバルト97%昭和化学)

・ メチレンブルー水溶液(詳細不明。実験2-1,2と同濃度で使用)

・ 分光光度計(Agilent8453A AgilentTechnologies)

実験操作

1)実験3-1に準ずるが、各試薬の量が異なる。表の通りに調整した。

表5実験3-2試験管調整

試験管 水(ml) 塩化コバルト(g) 酸化チタン(g) メチレンブルー溶液(ml)

A 0 0 0 10

B 10 0.15 0.50 10

C 10 0.20 0.50 10

D 10 0.30 0.50 10

E 10 1.00 0.50 10

F 10 2.00 0.50 10

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結果・考察

実験1

ブラックライト照射後の各溶液のpHと酸化チタンの量の関係は、下図のよ

うになった。

図5酸化チタン量とpH

酸化チタン自体によるpH変化と吸着のみによる効果は、酸化チタンの量に応

じて増加するが、量が 0.3~1.0gと増えているにも関わらず、pHは同じである。

これらがpH与える効果は、酸化チタンによる分解反応と比して小さいと考え

られる。

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分解反応にしても、0.3~1.0gの間で酸化チタン量の増加にも関わらず、反応速度

は同一である。これは、今回の実験では照射する紫外光の量が一定であったた

めと考えられる。分解反応は光のエネルギーを吸収して反応が進むため、酸化

チタンの量が増えることにより試験管の内部まで紫外光が届かなくなり、結果

として光励起できず分解反応を行わない酸化チタンが出てきたと思われる。

実験2-1

各溶液を吸光光度分析に掛けた結果、下図の吸収スペクトルを得た。

図6実験2-1吸収スペクトル

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文献、及び実測値のピークから、212、247、292、610、655、670(nm)の波長の吸

光度を選んで、検量線を作成した。

図7実験2-1検量線

縦軸は吸光度、横軸はメチレンブー溶液1ml、イオン交感水11mlの濃度

を1としたときの各溶液の相対濃度。

表6実験2-1検量線

吸光度(nm) 212 247 292 610 655 670

近似曲線

傾き 0.0791 0.1691 0.3301 0.4087 0.3583 0.3288

切片 0.0224 0.0525 0.0276 0.1976 0.3923 0.4351

R^2 0.8743 0.984 0.9937 0.9979 0.9177 0.9194

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292nmと 610nmの波長の吸光度を用いて濃度を決定するのが、正確性が高くな

りそうである。650nm以上はピークが大きいものの、ブレが大きく信頼性は低

いようである。

実験2-2

各溶液を吸光光度分析に掛けた結果、下図の吸収スペクトルを得た。

図8実験2-2吸収スペクトル

図の都合で試験管Aのスペクトルは描かれていない。試験管Aは、200nm~500nm

の範囲では吸光度は激しく上下しているものの5.0以上を保ち、500nm以上

から降下。1000nmの波長で吸光度は他のスペクトルと一致した。

この実験では時間の都合上十分に静置による酸化チタン粉末の沈降が行われて

いないため、測定した溶液には少量の粉末が懸濁しており、吸光度がメチレン

ブルー単体よりも増加している。よって、試験管J、Kの吸光度を用いて試験

管A~Iの吸光度の修正を行った。修正後の吸収スペクトルは以下の通り。

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得られた修正済み吸光度と、実験2-1で得られた検量線(292nm、610nmを使

用)からメチレンブルーの濃度比、および変化量を求めた。なお、濃度は水 11ml

にメチレンブルー溶液 1mlの濃度を1としている。

表7実験2-2メチレンブルーの変化

B C D E F G I H

酸化チタン(g) 0.50 0.50 0.25 0.25 0.25 0.50 0.50 0.50

紫外線 ○ ○ ○ ○ ○ X X X

初期濃度 3.0 1.5 6.0 3.0 1.5 6.0 3.0 1.5

反応後濃度 1.51 0.44 3.83 1.28 0.72 4.91 2.44 1.31

変化量 -1.49 -1.06 -2.17 -1.72 -0.78 -1.09 -0.56 -0.19

濃度比(%) 50.5 29.4 63.8 42.7 48.3 81.8 81.5 87.1

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実験1より、酸化チタン量が多いB、Cの方がD,E,Fよりも反応量が多い

と予測したが、結果は同程度のようだ。ブラックライトを手入れをせずに1年

間使用していたので、汚れで光量が落ち、2.1g/10mlの濃度でも光の当たらない

酸化チタンがあったのかもしれない。

紫外光を当てていないG,L,Hの濃度が減少している。酢酸と違いメチレン

ブルーは酸化チタンに多量に吸着されるのかもしれない。Langmuirの吸着平衡

の式に当てはめると、値が3つではあるものの式が満たされたので、メチレン

ブルーの重量を精確に計れれば使用している酸化チタンの表面積を求めること

ができそうだ。

B,C,D,E,Fは初期濃度が2倍ずつ異なっているが、反応速度はそれほ

ど変わっていないことがわかる。濃度依存の1次反応だと思いこんでいたが、

若干0次反応に近いようだ。メチレンブルーの濃度は詳細は不明なものの、

0.01mol/lを越えるような調整は行っていない。G、L、Hのことも換算すると、

酸化チタンのメチレンブルーへの吸着定数はかなり高いようである。

なお、表7にはAの結果が記載されていないが、ピークが特定できなかったた

めに外してある。測定時に多量の酸化チタン粉末が吸光セルに混じってしまっ

たために、高濃度の酸化チタン粉末の吸収スペクトルでメチレンブルーのスペ

クトルが埋もれてしまったのだと思われる。

Page 20: 吸着物質の光分解 - 東京理科大学kaken/studies/05/05_mon.pdf吸着物質の光分解 平成17 年度Ⅰ部化学研究部月曜班 はじめに 酸化チタンの光触媒作用が初めて発表されたのは、1934年のことである。

実験3-1

各溶液を吸光光度分析に掛けた結果、下図の吸収スペクトルを得た。

図10実験3-1吸収スペクトル

条件の大きく異なるC~Gがほぼ同一の吸収スペクトルとなっている。また、

Aが 505nmにピークがあり、Bは通常は 247nmにあるピークが短波長側にズレ

ている。Aの 505nmのピークは塩化コバルト溶液が他と比べて多量に残ったた

めと考えられるが、Bのピークがズレた原因は不明である。

A,Bの持つ 400nm代、750nm以上の吸光は実験2-2と同様に酸化チタン粉

末が吸光セルに混入したためと思われるので、実験2-2のJ、Kを用いてA

とBを修正したところ、上記の2カ所のピーク以外はスペクトルが全て一致し

た。

スペクトルが一致した原因は、塩化コバルトの担持に失敗した、もしくは酸化

チタンの分解反応に塩化コバルトが影響しない、と考えられる。しかし、紫外

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光を当てておらず、分解反応が進行しないGとも一致していることから、その

どちらでもなく、この実験では分解反応自体が起きなかったようである。

吸着が幾ばくかあったと思われるが、メチレンブルー溶液単独の吸光度を測定

しなかったため、断定ができない。塩化コバルトが担持されたならば吸着にも

影響が出ると思われるが、スペクトルが全部一致しているので、塩化コバルト

の担持は失敗しているのだろう。

実験3-2

各溶液を吸光光度分析に掛けた結果、下図の吸収スペクトルを得た。

図11実験3-2吸収スペクトル

実験2-1の検量線からメチレンブルーの濃度を算出すると、下表のようにな

った。なお、505nmのピークは、塩化コバルト溶液が残っていためと思われる。

表8実験3-2メチレンブルーの変化

A B C D E F

塩化コバルト(g) 0.00 2.00 1.00 0.30 0.20 0.15

反応後濃度 4.46 2.07 2.58 2.55 2.86 2.36

濃度比 100.0 46.4 58.0 57.2 64.2 52.8

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塩化コバルトと酸化チタンの分解作用との間に関連性を見いだすのは難しいよ

うである。酸化チタンの仕事関数は 4.0eVであるのに対し、コバルトは 5.0eVで

あり、活性の向上は見込めるはずである。しかし、非常に効果があるとして知

られる白金(5.64eV)やパラジウム(5.55eV)とは雲泥の差がある。現在の不正確

な実験環境では、わずかな性能変化の特定は無理があるようだ。

反省

研究の大枠そのものは早期に決まっていたにもかかわらず、試薬・器具等の

調達に手間取り、実験が行えないことが多かった。また、薬品と器具の管理が

ずさんさにより、一時期実験不能の事態に陥ってしまった。実験を実施できて

も、その内容は実験法の確立のための試行錯誤に費やす事になり、研究の本筋

についてはほとんど進めることができなかった。研究の難しさを痛感すること

になってしまった。

参考資料

・「光触媒標準研究法」(大谷文章:東京図書)

・「入門光触媒」(野坂芳雄野坂篤子:東京図書)(1)

・「酸化チタン物性と応用技術」(清野学:技報堂出版)

・http://www.d7.dion.ne.jp/~shinri/(佐藤真理)(2)