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概 要 概 要 SANS-J-II は数度以下の小角に散乱した中性子を測定し、物質内部の 階層構造とそのダイナミクスをメゾスケール(nm からμ m)で調べる 装置です。電子顕微鏡や X 線小角散乱では観測が難しい、水を含んだソ フトマターや生体試料などの基礎研究などに威力を発揮します。物質が あるがままの状態を評価する事が出来る「生きたままを見る分析手法」 としてその利用を促進しています。産業利用においても、タイヤなどの ゴム材料、燃料電池の高分子電解質膜、マイクロエマルジョンやゲル、 合金やシリコン単結晶の不純物、磁気材料、原子炉材料の腐食などに関 する研究も行われており、その利用は多岐に渡っています。 2003 年からの 3 ヶ年で大規模な改造を行い、集光レンズ、偏極素子、 高分解能 2 次元検出器を導入しました(2005 年 SANS-J-II 完成)。そ の結果、従来に比べて 1/10 のサイズに集光された入射中性子を用いて 波数(q)分解能が小角側へ 1 桁向上し、この装置単独で 3 × 10 -4 <q < 2(Å -1 )という「5 桁の空間スケール」をカバーすることが可能と なりました。さらに棒状 3 He 検出器(管径 8mm 有感長 650mm)を面 状に並べる事でマルチ計測型2次元検出器を製作して、高感度な小角散 乱の計測を目指しています。 メゾスケ*nmから$m+ の物質の階層構造 ダイナミクスを生きたままに見る分析装置 SANS-J-II (Small Angle Neutron Scattering) 集光型偏極中性子超小角散乱装置

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  • 概 要概 要

     SANS-J-II は数度以下の小角に散乱した中性子を測定し、物質内部の

    階層構造とそのダイナミクスをメゾスケール(nm からμ m)で調べる

    装置です。電子顕微鏡や X 線小角散乱では観測が難しい、水を含んだソ

    フトマターや生体試料などの基礎研究などに威力を発揮します。物質が

    あるがままの状態を評価する事が出来る「生きたままを見る分析手法」

    としてその利用を促進しています。産業利用においても、タイヤなどの

    ゴム材料、燃料電池の高分子電解質膜、マイクロエマルジョンやゲル、

    合金やシリコン単結晶の不純物、 磁気材料、原子炉材料の腐食などに関

    する研究も行われており、その利用は多岐に渡っています。

     2003 年からの 3 ヶ年で大規模な改造を行い、集光レンズ、偏極素子、

    高分解能 2 次元検出器を導入しました(2005 年 SANS-J-II 完成)。そ

    の結果、従来に比べて 1/10 のサイズに集光された入射中性子を用いて

    波数(q)分解能が小角側へ 1 桁向上し、この装置単独で 3 × 10-4 < q

    < 2(Å-1)という「5 桁の空間スケール」をカバーすることが可能と

    なりました。さらに棒状 3He 検出器(管径 8mm 有感長 650mm)を面

    状に並べる事でマルチ計測型2次元検出器を製作して、高感度な小角散

    乱の計測を目指しています。

    メゾスケ�ル���から���の物質の階層構造�ダイナミクスを生きたままに見る分析装置

    SANS-J-II(Small Angle Neutron Scattering)

    集光型偏極中性子超小角散乱装置

  •  細胞の変形・運動は、細胞内にあるタンパク質(アクチン)が細胞骨格と呼ばれる束状構造をつくり、細胞膜を内側から押す「糸状仮足」によるものと考えられています。図1は、アクチン(ホタテガイ)/強電解性人工高分子(アクチン結合タンパク質モデル)を用いて溶液を作り、刺激物質となる塩化カリウムの濃度を変えながら、蛍光顕微鏡で観察した様子です。塩化カリウム濃度が低いときには、アクチンバンドルは数十μmサイズの球状ですが、濃度を上げると長さが数百μmの棒状に変化していきます(有限サイズ凝縮)。このときバンドル内部で何が起きているのかを中性子小角散乱で調べた結果(図2)、バンドル内部にはさらに細い束(プロトバンドル)が存在していることが明らかになりました(階層凝縮)。プロトバンドルは、塩濃度が低いときには直径 30nm程度ですが、塩濃度を上げると300nmと太くなり、熱揺らぎに勝って曲がりにくくなるため、バンドルの形が球状から棒状になるものと考えられます。

    図1 アクチン(ホタテガイ)/強電解性人工高分子(アクチン結合タンパク質モデル)溶液の蛍光顕微鏡観察像

    図2 細胞骨格モデル溶液の中性子小角散乱の例(有限サイズ&階層凝縮の発見)

    中性子源 冷中性子源(モデレーター20K液体水素)

    全長 21m(試料 -検出器間隔2~ 10m)

    モノクロメーター 速度選別器(透過率75%, 波長分解能8.4 ~ 30%)

    中性子波長 0.3 ~ 2mm

    コリメーターピンホール型ガイド管型集光光学系(物質レンズ (MgF2)、磁気レンズ)

    検出器

    3He-2 次元位置敏感検出器(分解能4× 8mm)2次元フォトマル + ZnS/6LiF(分解能 0.5 × 0.5mm)(浜松ホトニクス社製R3239)

    Qレンジ 0.0003~ 2 ( Å -1)

    最高磁場 10T(縦磁場)、5T(横磁場)

    研究用原子炉 

    JRRー3の中性子利用による施設共用促進