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平成28年度IoT推進のための新産業モデル創出基盤 整備事業(IoT技術を活用した社会インフラの効率的 点検・管理手法等調査) 報告書 平成29年3月 みずほ情報総研株式会社

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平成28年度IoT推進のための新産業モデル創出基盤

整備事業(IoT技術を活用した社会インフラの効率的

点検・管理手法等調査)

報告書

平成29年3月

みずほ情報総研株式会社

-i-

目 次

1. 調査目的と概要 ........................................................................................................... 1

1.1 調査目的 ................................................................................................................... 1

1.2 調査概要 ................................................................................................................... 2

1.2.1 調査項目............................................................................................................ 2

1.2.2 本報告書におけるインフラ維持管理について ................................................. 3

1.3 検討委員会構成、および実施状況 ........................................................................... 5

1.3.1 検討委員一覧 .................................................................................................... 5

1.3.2 検討委員会の実施状況 ...................................................................................... 6

1.4 ヒアリング一覧 ........................................................................................................ 6

2. 社会インフラの維持管理の現状・課題について ........................................................ 9

2.1 社会インフラ建設年度からみる老朽化の状況 ........................................................ 9

2.2 自治体における社会インフラ維持管理の種類について ......................................... 11

2.2.1 自治体の公共施設等総合管理計画等の内容 .................................................... 11

2.2.2 インフラ維持管理における点検種類、点検の内容 ........................................ 14

2.3 維持管理の業務内容と人的・時間的コスト、課題・ボトルネックについて ....... 16

2.3.1 自治体の維持管理における業務内容 .............................................................. 16

2.3.2 各自治体の人的・時間的コスト、課題・ボトルネック ................................. 16

2.4 インフラ維持管理の課題の克服について .............................................................. 17

3. IoT 技術を活用した社会インフラの維持管理手法について ..................................... 19

3.1 IoT 技術を活用した対応策の導入可能性 .............................................................. 19

3.1.1 現状の維持管理における IoT 技術活用について ........................................... 19

3.1.2 社会インフラ維持管理における IoT 技術適用について ................................ 20

3.2 IoT 技術により計測されたデータ活用・管理について......................................... 29

3.2.1 計測データ、複数の測定技術を組み合わせたデータ活用方法について ....... 29

3.2.2 維持管理のデータ管理について ..................................................................... 30

3.2.3 自治体間のデータ共有について ..................................................................... 33

3.3 インフラ維持管理の課題の克服に向けた IoT 技術活用の整理 ............................. 35

4. 社会実装の可能性と必要となる課題の整理 .............................................................. 37

4.1 データ様式の標準化について ................................................................................ 37

4.2 プラットフォーム構築の可能性について .............................................................. 38

4.3 IoT 技術導入に障害となる制度的課題について ................................................... 40

4.4 インフラ維持管理の課題の克服に向けた IoT 社会実装の整理 ............................. 42

5. IoT 技術活用における導入可能性検証の提案 ........................................................... 44

5.1 自治体における IoT 技術活用の実証協力について ............................................... 44

5.2 自治体情報による IoT 技術活用の実証試験案 ...................................................... 44

5.2.1 N 市道路橋梁における実証試験案 ................................................................. 44

-ii-

5.2.2 T 市橋梁における実証試験事例および試験案 ............................................... 45

5.3 実証試験(案)まとめ ........................................................................................... 47

5.3.1 センサを活用した実証試験(案)の検討 ...................................................... 47

5.3.2 その他 IoT 技術を活用したインフラ点検実証の検討 .................................... 49

-1-

1. 調査目的と概要

1.1 調査目的

我が国では、橋梁、トンネル、建築物、発電施設等の社会インフラについては、自治体

が管理するものが大宗を占め、その多くは今後建設から40年、50年を迎えることになり、

より一層適切な維持・管理が重要となってきている。こうした社会インフラの点検方法の

多くは、目視点検や打音調査が基本となっており、結果判定が点検員の経験や勘に頼る部

分が多いことに加え、ベテラン点検員の減少等により人員の不足、新たな人材の早急な育

成の必要性、また予防保全対策や大規模更新計画が立てにくいという課題が生じている。

そのため、本事業では、こうした社会インフラの維持管理の実情や課題を整理し、それら

を改善すべく、既存のIoT技術を有効に活用した維持管理手法の検討を行うことを目的とす

る。

具体的には、

(1) 地方自治体における社会インフラの維持・管理における課題の整理とIoT技術の導

入可能性の調査

(2) 複数のセンサ等で取得した複数のデータを効果的に活用した分析手法の検討と、導

入実証を行う場合における実施方法や評価方法の検討

(3) 自治体間等での管理・点検データ等の共有による効率的な社会インフラの維持管理

手法の導入可能性と課題の整理等

を行い、地方自治体や点検員の業務を補完・効率化する仕組みの検証や導入のための課題

の整理等を行う。

本調査の参考に海外の動向に簡単に触れると、米国では、シルバー橋崩落死傷事故・マ

イアナス橋崩落事故・ミネアポリス橋梁崩落など、ニューディール政策により大量に建設

されたインフラで多くの事故が発生して社会問題化した。これを受けて、インフラの維持

管理を推進するため、インフラ管理主体へのアセットマネジメント展開、モニタリング技

術の導入、さらなる効率化・高度化を求めた新技術の開発が積極的に行われている。また

欧州においても、複数の重要インフラにおいて高度なセンサを用いたモニタリングが実施

され、その多くが予防保全の導入によって維持管理コストを低減することを目指している1。

更に、海外におけるインフラ維持管理の制度面においては、米国では、1967 年のオハイ

オ州 silver 橋の落橋事故を契機に橋梁の点検・検査制度が制度化され、1971 年に全国橋梁

点検基準(NBIS)が制定されている。これにより、橋梁の点検は各州の交通局が行い、連

邦政府運輸局(FHWA)が総括管理する体制が整えられた。欧州においても、州あるいは

県単位で橋梁点検の実務を行い、国の管理機関が統括管理することを基本とした体制をと

っている2。

1 戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)インフラ維持管理・更新・マネジメント技術 研究開発

計画 (1)背景・国内外の状況,内閣府,2016 年 10 月 20 日 2 谷倉泉,森猛,貝戸清之:海外の維持管理に関する技術基準類の現状,第 5 回鋼構造と橋に関するシン

ポジウム論文報告集 -鋼構造の技術基準類改定の動向-,土木学会,pp.55-68,2002 年 8 月

-2-

1.2 調査概要

1.2.1 調査項目

調査項目は以下に述べる 3 項目の調査を実施する。調査項目1~3共通の内容として、

社会インフラの対象は、橋梁、トンネル、建築物、発電施設等およびヒアリング先は経済

産業省殿と協議により、3~5 地域程度とする。

また、調査遂行においては 3 項目共、複数の有識者、実務者、IoT 技術を有する企業等の

10 名程度で構成する検討委員会を開催し、検討委員会委員の助言を参考に調査を実施する。

(調査項目1)社会インフラの維持管理の現状・課題に係わる調査

社会インフラの維持管理の業務内容、人的・時間的コスト、課題・ボトルネック

を調査し整理する。調査にあたっては、文献調査の他、社会インフラの管理主体

である自治体や関係企業団体等へヒアリング等を行う。

(調査項目2)IoT 技術を活用した社会インフラの維持管理手法の調査・検討

調査項目1で整理した課題・ボトルネックについて、IoT 技術の活用における実

施手順、評価手法等の検討を行い、導入可能性を整理する。調査にあたっては、

文献調査の他、社会インフラの管理主体である自治体や関係企業団体等へヒアリ

ング等を行う。

IoT 技術の導入可能性の調査における整理の視点として、複合技術の計測された

データを複合的に解析する方法、複数の地方自治体や関係団体等の点検データ等

の共有、効率的な社会インフラの維持管理を図る手法がある。

検討された手法の実証内容の検討を、どのように実証するか、その評価をどのよ

うに行うべきか等について検討・整理する。

(調査項目3)社会実装の可能性と必要となる課題の整理

調査項目1、2の結果より、どの程度現在の課題を改善可能か、その導入可能性

の検討を行う。調査にあたっては、文献調査の他、社会インフラの管理主体であ

る自治体や関係企業団体等へヒアリング等を行う。

IoT 技術の導入可能性の調査における整理の視点として、データ様式の標準化、

プラットフォーム構築の可能性、関係する規制等の社会実装の課題の抽出を検

討・整理する。

以下、図 1.1 に調査全体像を示す。

-3-

図 1.1 調査全体像

1.2.2 本報告書におけるインフラ維持管理について

本調査報告において、以下図 1.2 にインフラ維持管理フローを示すと共に維持管理に関

わる主な用語について説明する。

評価基準:診断による評価する基準

点検:対象インフラの点検

モニタリング:対象インフラの監視

診断:点検、モニタリング情報からの評価基準による判定

よって、”インフラ維持管理“はフローに示す全工程およびデータ管理を意味する。

(調査項目1)社会インフラの維持管理の現状・課題に係わる調査

維持管理に係わる・業務内容・人的・時間的コスト・課題・ボトルネックを調査し整理する

(調査項目2) IoT技術を活用した社会インフラの維持管理手法の調査・検討

(調査項目3)社会実装の可能性と必要となる課題の整理

IoT技術を活用した対応策の導入可能性を調査、整理<IoT技術を活用した対応手段>センシング技術/映像技術/ドローン/ロボット技術等<その他、導入可能性の調査における整理の視点>・複合技術の計測されたデータを複合的に解析する方法・複数の地方自治体や関係団体等の点検データ等の共有、効率的な社会インフラの維持管理を図る手法

検討された手法の実証内容の検討・検討の視点:どのように実証するか、その評価をどのように行うべきか等

社会インフラの管理主体(自治体・関係企業・団体等)へのヒアリング調査

文献調査

調査項目1,2の結果よりどの程度現在の課題を改善可能か、その導入可能性の検討

<導入可能性の整理の視点>・データ様式の標準化・プラットフォーム構築の可能性・関係する規制等の社会実装の課題の抽出

・有識者・実務者・IoT技術を有する企業から10名程度で構成する検討委員会を開催

<検討委員会の目的>調査項目1~3における助言、委員の意見を踏まえた取りまとめを行う。

導入可能性・実証内容

導入可能性

IoT技術を活用した社会インフラの効率的点検・管理手法等検討委員会

-4-

出典:SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)研究開発計画中間発表「インフラ維持

管理・更新・マネジメント技術」藤野 PD 講演資料

図 1.2 インフラ維持管理フローと要素技術開発

-5-

1.3 検討委員会構成、および実施状況

調査実施にあたり、「IoT 技術を活用した社会インフラの効率的点検・管理手法等検討委

員会」を設置し、調査を行った。

1.3.1 検討委員一覧

以下表 1.1 に、「IoT 技術を活用した社会インフラの効率的点検・管理手法等検討委員会」

委員一覧を示す。

表 1.1 「IoT技術を活用した社会インフラの効率的点検・管理手法等検討委員会」

委員一覧

委員種別 対象インフラ 機関・役職 氏名 【委員長】 有識者

社会インフラ全般 (特に橋梁)

(国)横浜国立大学 先端科学高等研究院

上席特別教授 藤野 陽三

有識者 社会インフラ全般 (国)岐阜大学 工学部 社会基盤工学科

特任教授 六郷 恵哲

有識者・実務者 社会インフラ全般 清水建設(株) 技術研究所 上席研究員 若原 敏裕

有識者・実務者 産業インフラ全般

(特に発電施設)

高砂熱学工業(株)

エンジニアリング事業本部 本部長補佐 陶 昇

有識者・実務者 社会インフラ 富山市 建設技術管理監 植野 芳彦

有識者・実務者 社会インフラ (株)オリエンタルコンサルタンツ 関東支店 道路保全部 次長

田中 樹由

有識者・実務者 社会インフラ (一財)橋梁調査会(J-BEC)

常務理事 兼 企画部長 大石 龍太郎

IoT技術関連企業 ・有識者・実務者

社会インフラ (インフラソリューション)

JIPテクノサイエンス(株) 取締役

建設ソリューション事業部長

兼 インフラソリューション事業部長

家入 正隆

IoT技術関連企業 ・有識者

社会インフラ (橋梁・道路)

技術研究組合 NMEMS技術研究機構

(出向元:NTTデータ) 主幹研究員 中嶋 正臣

IoT技術関連

・有識者 社会インフラ

(光センシング、映像)

(国)産業技術総合研究所

電子光技術研究部門

光センシンググループ 研究グループ長 藤巻 真

-6-

1.3.2 検討委員会の実施状況

検討委員会は以下に示す 2 回開催し、本調査に資するご講演と当社からの調査報告への

議論および調査実施への委員からの助言を頂いた。

第1回 IoT 技術を活用した社会インフラの効率的点検・管理手法等検討委員会

<日時>平成 29 年 1 月 27 日(金) 13:15―15:15

<場所>経済産業省 別館 2 階 235 会議室 (東京都千代田区霞が関 1-3-1)

<会議次第>

1.ご挨拶(経済産業省)

2.委員会主旨説明

3.自己紹介

4.【講演 1】富山市、【講演 2】岐阜大学

5.調査報告Ⅰ (社会インフラ維持管理の現状、課題について)

6.調査報告Ⅱ (社会インフラ維持管理の課題解決の IoT 技術活用について)

第2回 IoT 技術を活用した社会インフラの効率的点検・管理手法等検討委員会

<日時>平成 29 年 2 月 20 日(月) 13:15―15:15

<場所>経済産業省 本館 9 階 西 8 共用会議室(東京都千代田区霞が関 1-3-1)

<会議次第>

1. 本委員会より参加者紹介(若原委員)

2.第1回委員会議事録(案)確認、内容説明

3.【講演 1】韮崎市、【講演 2】JIP テクノサイエンス(株)

4.調査報告 (主にインタビュー結果報告、論点整理)

1.4 ヒアリング一覧

ヒアリング調査は以下 2 つのフェーズに分けて行い、そのヒアリング先をフェーズごと、

表 1.2 および表 1.3 に示す。

第 1 フェーズ(時期:平成 28 年 12 月~平成 29 年 1 月)、対象:インフラ点検・

維持管理に関わる各専門分野の機関

第 2 フェーズ(時期:平成 29 年 2 月)、対象:地方自治体におけるインフラ点

検・維持管理担当者

第 2 フェーズの地方自治体へのヒアリングにおいては、検討委員会委員よりインフラ維

持管理に新技術の活用に前向きな自治体を紹介頂いた。また、極力多くの地域を対象にヒ

アリング対象を選定したが、中国地方は同一県内の市、町を選定することにより、県、市、

町のインフラ維持管理における繋がりを把握できることも考慮し、ヒアリングを行った。

-7-

表 1.2 ヒアリング先一覧(第 1フェーズ:各専門分野 8機関)

表 1.3 ヒアリング先一覧(第 2フェーズ:地方自治体 9機関)

No. ヒアリング先種別 ヒアリング先機関 ヒアリング対象者

1 大手ゼネコン A社  -

2 ベンチャー企業 B社  -

3 大手ゼネコン清水建設株式会社技術研究所

上席研究員 若原 敏裕

4 大学 岐阜大学 工学部 特任教授 六郷 恵哲

5 団体 (一財)橋梁調査会常務理事 兼 企画部長 大石 龍太郎

6 大手計測機器企業 高砂熱学工業株式会社 本部長補佐 陶 昇

7 国研(国)産業技術総合研究所電子光技術研究部門

光センシンググループ研究グループ長藤巻 真

8 大手コンサル株式会社オリエンタルコンサルタンツ関東支店 道路保全部

次長 田中 樹由 

No. ヒアリング地域 ヒアリング先機関 自治体人口

1 東北地方 A市 人口:約3万人

2 東北地方 B大学 ー

3 関東地方 C市 人口:約20万人

4 北陸地方 D市 人口:約40万人

5 甲信越地方 E市 人口:約3万人

6 東海地方 F市 人口:約80万人

7 中国地方 G県 人口:約70万人

8 中国地方 H市 人口:約2万人

9 中国地方 I町 人口:約1万人

-8-

以下に、自治体ヒアリング時のヒアリング項目を示す。

<社会インフラ維持管理の現状について>

・インフラ維持管理はどの様なルールに基づき行っていますか?

・その内容は、人的・時間的コストは具体的にどれ位ですか?

・インフラ点検における課題は、ボトルネックの部分は何処ですか?

<社会インフラ維持管理の手法について>

・インフラ維持管理において IoT 技術の活用は行っていますか?

・どの様な IoT 技術を使用していますか?

・複数技術での点検データの活用方法はありますか?

・他の管理主体とのデータ共有の可能性はありますか?

・点検データ共有を行う場合、どの様な枠組みが望ましいと思いますか?

-その場合、想定される課題はありますか?

<IoT 技術活用の実証ついて>

・IoT 技術活用の実証は可能ですか、その場合の要望・課題はありますか?

-その実証評価をどのように行うべきだと思いますか?

-IoT 技術活用の実証にどれ位の費用が必要だと思いますか?

<IoT 技術の導入可能性ついて>

・IoT 技術活用によりどの程度改善が可能だと思いますか?

・どの様な IoT 技術を使用していますか?IoT 技術の導入時の要望・課題は?

・点検データ公開は具体的にどの様な状況ですか?データ様式の標準化へ要望は?

・点検、維持管理において独自のシステムを持たれていますか?

・システム(データベース)において重要な情報は何ですか?

・インフラ点検データ管理・診断を行うプラットフォーム構築はどの様な形態が良いと思い

ますか?

-そのプラットフォーム構築の課題は?

<その他>

・社会インフラ維持管理の IoT 技術の活用にあたり、障害となる規制または新たな規制へ

の要望はありますか?

-9-

2. 社会インフラの維持管理の現状・課題について

2.1 社会インフラ建設年度からみる老朽化の状況

国内の公共インフラは、橋梁、トンネル等多岐に渡るがそのほとんどは、高度経済成長

期に建設され老朽化が急速に進んでおり、管理主体は約 8 割が地方自治体(都道府県、市

区町村)である。橋梁、トンネルの建設年度別施設数及び管理主体を以下、図 2.1 および

図 2.2 に示す。

建設年度別の橋梁数の分布を見ると、昭和 30 年から 50 年にかけて建設されたものが約

26%と多いことがわかる。トンネルについては、2013 年時点で、建設後 50 年を超えたト

ンネルの割合は 18%となっている。

図 2.1 橋梁(橋長2m以上)の建設年度別施設数

図 2.2 トンネルの建設年度別施設数

(出典:国土交通省調べ)

-10-

市町村が管理する橋梁の平成 27 年度の点検実施結果を以下図 2.3 に示す。なお、判定区

分の説明は、以下表 2.1 に示す通りである。

市町村では、管理する橋梁 480,219 橋のうち、平成 27 年度に 92,522 橋について点検

を実施している。判定区分Ⅲ(早期措置段階)については、建設経過年数が長くなるほど

高くなる傾向にあり、建設後 30 年を過ぎると、10%超の割合を占め、老朽化が進むことを

示している。

図 2.3 トンネルの建設年度別施設数

(出典:道路メンテナンス年報 国土交通省 道路局 平成 28 年 9 月)

表 2.1 判定区分

区分 状態

Ⅰ 健全 構造物の機能に支障が生じていない状態。

Ⅱ 予防保全段階 構造物の機能に支障が生じていないが、予防保全の 観点から措

置を講ずることが望ましい状態。

Ⅲ 早期措置段階 構造物の機能に支障が生じる可能性があり、早期に 措置を講ず

べき状態。

Ⅳ 緊急措置段階 構造物の機能に支障が生じている、又は生じる可能 性が著しく

高く、緊急に措置を講ずべき状態。

(出典:道路橋定期点検要領 国土交通省 道路局 平成 26 年 6 月)

-11-

2.2 自治体における社会インフラ維持管理の種類について

2.2.1 自治体の公共施設等総合管理計画等の内容

社会インフラ維持管理は、地方公共団体ごと策定された個別管理計画に基づき管理され、

インフラ施設(橋梁、トンネル、道路、建築物、発電施設等)は様々な種類があり、それ

ぞれ維持管理の様相は異なる。以下図 2.4 に T 県を例に示す。

なお、総務省が実施した、公共施設等総合管理計画策定取組状況等に関する調査では、

平成 28 年 10 月 1 日時点で、市区町村の 70.7%が未策定であるものの、平成 28 年度までに

は、市区町村の 99.6%が公共施設等総合管理計画の策定が完了する予定となっている。

(出典:http://www.soumu.go.jp/main_content/000455698.pdf)

また、公共施設の建物、インフラ施設、大型工作物、交通安全施設、公営企業の資産等

様々であり、個別施設ごとの管理計画が策定されている。以下図 2.5 に公共施設の種類に

ついて T 県を例に示す。

図 2.4 T県公共施設等総合管理方針における方針の位置づけ

-12-

-13-

図 2.5 公共施設の種類(T県)

-14-

2.2.2 インフラ維持管理における点検種類、点検の内容

インフラの点検種類は大きく分けて以下に示す点検となる。

通常点検(日常点検)

定期点検

中間点検

特定点検

異常時点検

以下、これらの点検について、簡単に説明する。

通常点検(日常点検)

橋梁、トンネル等の場合は、自治体ごと、1週間~1ヶ月に1回程度道路パトロール

と合わせて車上からの目視、異常の可能性があれば降車して状況を確認する点検で

ある。

定期点検

道路法により定期点検が義務(法定点検)づけられている。道路法の対象ではな

いインフラにおいては、各インフラの定期点検要領等に基づき点検を実施するため

点検頻度も異なる。例えば、海岸(堤防・護岸)においては「海岸保全施設維持管理マ

ニュアル」に基づき 1 回/5 年、生活インフラである上下水道管路は自治体等で個別

に点検頻度も含めた基準・マニュアル等を策定している。

以下に、道路法施行規則(道路の維持又は修繕に関する技術的基準等)を示す。

(道路の維持又は修繕に関する技術的基準等)

第四条の五の二 令第三十五条の二第二項の国土交通省令で定める道路の維持

又は修繕に関する技術的基準その他必要な事項は、次のとおりとする。

一 トンネル、橋その他道路を構成する施設若しくは工作物又は道路の附属

物のうち、損傷、腐食その他の劣化その他の異状が生じた場合に道路の構造

又は交通に大きな支障を及ぼすおそれがあるもの(以下この条において「ト

ンネル等」という。)の点検は、トンネル等の点検を適正に行うために必要

な知識及び技能を有する者が行うこととし、近接目視により、五年に一回の

頻度で行うことを基本とすること。

定期点検においての点検内容は、橋梁の場合は、構造物の劣化・変状把握(振動

等)、損傷(亀裂、ひび割れ)等を近接目視、打音検査、触診等で点検し、トンネ

ルの場合は本体工、付属物を取りつける金具、舗装などに関して近接目視や打音検

-15-

査、触診検査によってひび割れ、うき、剥離、空洞、金具の緩みなどの検査となる。

中間点検

中間点検は、定期点検を補うために、定期点検の中間年に実施するもので、定期

点検時に、次回の定期点検まで待たずに途中で状態確認を行うことが必要と判断さ

れた場合に計画される。

特定点検

特定点検は、塩害やアルカリ骨材反応、鋼部材の疲労等の定期点検のみでは適切

かつ十分な評価が困難な特定の事象に対して、定期点検とは別に、それぞれの事象

に特化した内容によって行われる点検である。

異常時点検

異常時点検は、地震、台風、集中豪雨、豪雪等の災害や大きな事故が発生した場

合などに、インフラの状態を確認するために臨時で行われる点検である。

(中間点検、特定点検、異常時点検の説明に関する出典:国土技術政策総合研究所資料 第

829号:「道路構造物管理実務者研修(橋梁初級I)道路橋の定期点検に関するテキスト」

(平成27年3月))

市町村の自治体レベルで管理を行っている、点検頻度が定められている、主なインフラ

の定期点検について、適用基準と点検頻度の一覧を以下に示す。

表 2.2 適用基準と点検頻度の一覧

インフラ 適用基準、マニュアル類 点検頻度

道路(特に、舗装) 自治体で基準・マニュアル等を整

自治体ごとに異なる

橋梁 道路法、

橋梁定期点検要領等

5年に1回

トンネル 道路法、

道路トンネル定期点検要領等

5年に1回

海岸(堤防・護岸) 海岸保全施設維持管理マニュアル 5年に1回

上水道管路 自治体で基準・マニュアル等を整

自治体ごとに異なる

下水道管路 自治体で基準・マニュアル等を整

自治体ごとに異なる

-16-

2.3 維持管理の業務内容と人的・時間的コスト、課題・ボトルネックについて

2.3.1 自治体の維持管理における業務内容

自治体におけるインフラの維持管理、特に点検、診断は自治体が管理するインフラ状況

および維持管理に掛ける費用、職員数等により様々であるが、点検業者への発注内容によ

り完全業者発注型と一部業者発注型に分けられ、以下の傾向がある。

完全業者発注型の場合は、概ね地場企業への発注が多く、その費用を国の交付金によ

り出費している場合が多い。

一部業者発注型の場合は、維持管理における費用面から自治体職員自らが点検、診断

を行う場合が多く、業者への発注判断は、特殊な橋梁、規模が大きい橋梁、職員が点

検箇所に行きづらい場所がある場合等となる。点検業者は概ね地場企業が主となるが、

自治体によっては地場に点検、診断技術の高い企業がいない場合は、技術力の高い地

場以外の企業へ点検、診断を依頼する場合もある。

上述の業者発注の両方とも、職員や業者の点検、診断の技術力が課題となっている。そ

の対応策としての例を以下に述べる。

職員点検・診断の場合、複数のチーム制により複数人でインフラ点検に出向き、その

点検結果の診断を各チーム班長も含めた会合により診断

業者点検・診断の場合、自治体職員がセカンドオピニオンを行う

県や団体等により診断結果の精査を行う

2.3.2 各自治体の人的・時間的コスト、課題・ボトルネック

各自治体の人的コスト・時間的コストおよび課題においても、前節と同様、点検、診断

は自治体が管理するインフラ状況および維持管理に掛ける費用、職員数等により様々であ

る。

点検費用においては、橋梁点検の場合 40 万円~80 万円/橋の費用であるが、橋梁の状

態や長さ等により費用は大きく異なる。

人的・時間的コストにおいては、2~3 名体制により目視点検が実施され、全く問題が

無ければ約 10 分/橋、補修等の対応の必要性がある場合は 30 分~1 時間、その後の

書類作成は約 20 分となる。

また、インフラ維持管理の点検、診断においての課題として、

費用(財源)

人手不足

人材育成

関係者の意識

-17-

の 4 点が挙げられる。以下にその課題について述べる。

課題①:費用(財源)

点検・診断に掛けられる費用が、自治体によっては予算面で全く足りない状況であ

る。この様な予算不足の状況にあるため、緊急度が高いインフラへの補修対応が未実

施の自治体もあれば、定期的な点検・調査が実施できていない自治体もある。

課題②:人手不足

インフラ維持管理に関わる企業や人が少ないことを背景に自治体職員が、定期点検

業務や必要となる維持修繕対応に忙殺されている状況が見受けられる。自治体によっ

ては、現在は完全業者発注により点検、診断を実施しているが、本来直営点検を増や

すのに人手不足で対応できない場合もある。

課題③:人材育成

自治体が行う直営点検にあたり、点検、診断ができる有資格者がそもそも自治体に

いないことや職員の技術力のバラつき、現場を知る機会がほとんどない職員が増え、

実地での経験を積ませることに苦労している状況がある。その様な中、県主導の点検

結果等の技術審査検討や専門家のアドバイス等により、診断、補修対応の機会が維持

管理技術者の育成に繋がっている。

課題④:関係者の意識

社会インフラに関わる市民、自治体職員、議員等のインフラ老朽化への理解不足や、

維持管理を行う企業が少ないことを背景に競争原理が働かないことにより、関係者の

意識が低下する場合もある。

上述の課題は、費用が足りないため人手が確保できない点や人手が足りないため育成出

来ない点、また、費用、人手、育成とも関係者の意識が低いためその充当が成されない等、

課題となる原因の連関性があると思われる。特に、費用(財源)と人材不足は各自治体の

事情によりほぼ同一の課題である。また、関係者の意識は、人材育成に直結する課題であ

ることより、課題は以下 2 点に集約される。

課題1:費用(財源)、人材不足

課題2:人材育成

2.4 インフラ維持管理の課題の克服について

上述で挙げた課題の克服について以下が考えられる。

-18-

<費用(財源)、人材不足の解決案>

2.1 節で示したように、今後の老朽化インフラの急増を考えると、自治体の費用(財源)、

及び人材不足を補い、点検・調査の高度化、効率化のために、既存の技術活用と連携した

取り組みや、IoT 技術や非破壊検査等の活用を含めた体系的な技術開発が求められる。その

体系化として、精度の高い点検⇒老朽化メカニズムの推定⇒老朽化(損傷)の進行予測⇒

的確な診断⇒効果的な補修・修繕・更新という道筋が考えられる。

また、インフラ環境等によって劣化の経時的な変化には未知の部分が多いため、IoT 技術

の活用により、劣化(損傷)の状態を詳細に記録、蓄積しておく必要もある。

<人材育成の解決案>

インフラの維持管理を担う技術者の育成は必要であるが、時間と経験の機会が取れない

自治体が多いのも事実である。その現状より、測定者個人の経験や主観に基づく部分が大

きい目視点検では、判定結果にバラつきが大きい自治体や、危険な状態に達しているイン

フラを健全な状態と判定してしまうなど、判定結果の水準が低い自治体もある。さらには、

自治体ごとに予算規模、インフラの規模・数、インフラ維持管理への意識等が異なるため、

自治体それぞれが抱える課題、技術水準が異なるという背景もある。

したがって、IoT 技術の活用により点検・調査を効率化し、精度を向上できる余地は大き

い。また、点検だけで欠陥を発見することが困難な場合もあることから、見逃しがちな劣

化(損傷)状況の点検手法に関する開発の必要性が高い。よって、先端の IoT 技術を用い

て、劣化箇所から状況を発信する監視技術の導入等により対応することも必要である。

-19-

3. IoT 技術を活用した社会インフラの維持管理手法について

3.1 IoT技術を活用した対応策の導入可能性

3.1.1 現状の維持管理における IoT技術活用について

維持管理の点検、診断における IoT 技術活用に関して、土木インフラの点検・維持管理

において、点検時のカメラ活用以外は殆ど IoT 技術が活用されていないことが現状である

が、一部の自治体においては、以下の IoT 技術活用例もある。

モニタリングシステムや CIM の使用、目視点検時に写真を含む点検情報を記録するた

めにタブレットを活用

地中に埋設されているボックスカルバートについては、人が中に入っていくことがで

きないため、近接目視の代替として、マイクロスコープの使用による確認

また、常時監視において以下図 3.1 の様な市民協働型の H 市の取り組み事例を示す。

図 3.1 に示した、土木スマホ通報システムでは、写真に付加されている GPS の位置情報

を利用するため、利用者は詳細に場所を説明する必要はなく、また、写真から現場の状況

を早期に把握できることから、修繕箇所の早期対応が可能となる特徴がある。

同様の取り組みとしては、S 市の道路通報アプリがあり、「車道に穴があいている」、「車

道に段差がある」、「側溝の蓋が破損している」などの通報実績が寄せられている。導入効

果の検証には、より多くのデータの収集が必要であるが、道路の破損箇所等への対応がよ

り円滑になること等が期待されている。

-20-

図 3.1 市民参加型常時監視(例)

(出典:H 市役所 HP より)

3.1.2 社会インフラ維持管理における IoT技術適用について

(1) インフラ維持管理プロセスにおける IoT技術適用

インフラ維持管理においての IoT 技術の活用は、その維持管理のプロセスによって IoT

技術の適用が変わる。その維持管理のプロセスと IoT 技術の主な適用を以下表 3.1 に示す。

-21-

表 3.1 維持管理のプロセスと IoT技術の主な適用

維持管理プロセス IoT 技術の主な適用

定期点検等で行う目視点検

(緊急時監視も含む)

・カメラ機器(静止画像)、画像処理

・ロボット、ドローン

・現場支援機器(タブレット等)

常時監視 ・映像機器(リアルタイム映像)

・センシング機器

点検・診断等のデータ ・データ管理マネジメントシステム

また、IoT 技術の適用において以下の点が留意すべき点である。

常時監視においてのセンサの活用は、その対象は重要インフラや劣化の前兆現象が発

生した一部のインフラ

緊急時の対応は、地図情報との連動が重要

新技術導入は、技術的信頼性が高く、使いやすいか、コスト的に成り立つかが重要

(2) インフラ維持管理で活用される IoT技術開発事例

社会インフラ維持管理の IoT 技術適用の代表的事例である、SIP(戦略的イノベーション

創造プログラム)では、大きく以下の 5 分野の研究開発(概要)を実施している。それぞ

れの研究開発分野の研究開発テーマ一覧を、以下表 3.2 に示す。

点検・モニタリング診断技術の研究開発

インフラの損傷度等をデータで把握する効率的な点検、モニタリングの実現

構造材料・劣化機構・補修・補強技術の研究開発

構造材料の劣化機構をシミュレーションし、構造体の劣化進展予測システムの構築

情報・通信技術の研究開発

インフラの維持管理・更新・補修に関するビッグデータのマネジメント技術を開発

ロボット技術の研究開発

効率的・効果的な点検・診断等を行うロボットや災害現場でも調査・施工可能なロ

ボットを開発

アセットマネジメント技術の研究開発

個々の研究成果をインフラマネジメントに実装させながら、効率的な維持管理が達

成される仕組みや技術を開発

-22-

表 3.2 SIP(戦略的イノベーション創造プログラム) インフラ維持管理・更新・マネジメント技術研究開発テーマ

-23-

-24-

また、国土交通省管理による新技術情報提供システム(NETIS)の紹介と NETIS にお

ける IoT 関連有用新技術を表 3.3 に示す。また、NETIS「有用な新技術一覧(平成 29 年 1

月 17 日現在)」469 件の内、IoT 関連有用新技術は 24 件(約 5%)であった。なお、IoT

関連有用新技術として抽出した技術は、インフラ維持管理のみを対象としているのではな

く、技術内容の記載から IoT を利用していると判断される技術を選択している。

<NETIS 新技術情報提供システム>

(1) 機関:国土交通省

(2) 概要

民間企業等により開発された新技術に関わる情報の共有及び提供を目的とし

たデータベースシステム

国土交通省のイントラネット及びインターネットで運用

新技術に係る情報を全国の地方整備局や工事事務所で共有し、優れた技術に

関しては、各公団や地方自治体が行う公共事業全般に積極的に利用

法人個人を問わず誰でも自由に閲覧することも可能

(3) 新技術申請・登録の流れ

申請後、知的財産権の確認、ヒアリングを経て、申請受理の要件確認が行われる要

件は以下の 4 要件である。

登録申請書類に不備(記載事項の遺漏)がないこと

申請技術が新技術であること

同一技術の再申請でないこと(「NETIS 掲載情報の変更・更新」による NETIS

登録技術の内容等の変更申請の場合を除く。)

ここに「同一技術」とは、以下のすべてに該当するものをいう。

イ 申請技術の原理が、NETIS 登録技術(過去に NETIS 登録技術であったもの

を含む。) と同じ又は酷似している

ロ 申請技術の適用範囲、適用効果が、イの NETIS 登録技術と同じ又は概ね同等

である

ハ 申請技術の技術開発者が、イの NETIS 登録技術の技術開発者と同じ又は同

系列の組織に 属している等、イの NETIS 登録技術の技術開発者の関係者と

みなすことができる

登録申請書類の「技術詳細説明資料」に記載する従来技術が、当該技術の評

価の比較対象として 適切であること

要件を満たしていれば、申請書類が受理され、NETIS に登録される

要件を満たしていない場合には、申請が却下、もしくは申請書類の追加・修正依

頼が通知される

NETIS 掲載情報の変更・更新に関しても同様のプロセスとなっている

NETIS 実施要領に基づき、掲載期限は最大 10 年

-25-

以下図 3.2 に、NETIS 新規登録プロセスを示す。

図 3.2 NETIS 新規登録のプロセス

-26-

表 3.3 NETISにおける IoT関連有用新技術

No.

NETIS工種分類 技術名称 技術概要

レベル1 レベル2 レベル3

1. 土工 土工 締固め工 GPS による盛土の敷均し・締固め管理システム 重機位置情報の有効活用による情報化施工管理システム

2. 土工 施工管理 施工管理 安全建設気象モバイル KIYOMASA リアルタイム局地気象情報・警報閲覧通知システム

3. 砂防工 施工管理 施工管理 斜面崩壊検知センサー「感太郎」 土砂災害の警戒避難支援のための斜面崩壊検知システム

4. 舗装工 アスファル

ト舗装工

アスファル

ト舗装工

NEIシステム 衛星利用測位システム(GPS)とレーザー技術を融合させた高精度舗装技術

5. 橋梁上部

鋼橋製作

鋼橋仮組立代替工法 pbfantom(ピービーファント

ム)

3 次元形状自動計測および鋼橋仮組立シミュレーションシステム

6. 橋梁上部

鋼橋製作

製品モデルシステム「Symphony」 3 次元 CADモデルによる橋梁生産情報システム

7. 調査試験 測量 写真測量 デジタルカメラ三次元計測システム PIXXIS 土木・鋼構造物向け高精度三次元デジタルカメラ計測システム

8. 調査試験 測量 地上測量 地上型 3Dレ-ザスキャナ-空間情報計測システム 非接触型の地形・地物・構造物等の計測システム

9. 調査試験 測量 地上測量 3 次元設計データを用いた計測及び誘導システム 計測及び誘導システム

10. 調査試験 測量 地上測量 3 次元レーザースキャナーによる空間計測工法 3 次元レーザースキャナーによる空間計測工法

-27-

No. NETIS工種分類

技術名称 技術概要 レベル1 レベル2 レベル3

11. 調査試験 測量 地上測量 画像測定車を使った立体画像分析システム ステレオ立体画像分析による新測量システム

12. 調査試験 測量 その他 調査用リモコンボートによる深浅測量(音響測深) GPS と音響測深機を装備したリモコンボートによる深浅測量システム

13. 調査試験 地質調査 地表調査 自動圧力発生装置付平板載荷試験システム 平板載荷試験における載荷圧力の自動制御とデータ取込の自動化を実現し

たシステム

14. 調査試験 地質調査 地下調査 空中電磁法による地質調査 ヘリコプターを用いた、地表下~150mまでの地盤の比抵抗 3 次元調査

15. 電気通信

設備

通信設備 テレメー

タ設備

通信ルートを自動的に組み換える無線通信を

用いた水位センシングシステム

通信ルートを自動的に組み換える無線通信を用いることで点から線、面へ決

め細かな測定が行えるシステム

16. 電気通信

設備

電子応用

設備

管理用カメ

ラ、センサ

ー設備

エコモバイル定点カメラ情報サービス 「ミルモット」 太陽電池と携帯電波を使った配線不要な遠隔監視制御システム

17. 港湾・港

湾海岸・

空港

安全対策

安全対策

作業船運航支援・施工管理支援システム

(WIT-MVS)

一般船舶と工事用作業船の動向をインターネット上で監視できる工事用運航

管理支援システム

18. 調査試験 水文調査 観測システ

内外水位計(樋門監視装置) 樋門等における内外水位監視システム

19. 調査試験 構造物調

耐久性等

調査

特殊高所技術 足場や橋梁点検車等を使用せずロープ・装備具を使用し近接目視点検を行う

技術である

-28-

No. NETIS工種分類

技術名称 技術概要 レベル1 レベル2 レベル3

20. 調査試験 構造物調

非破壊試

験、調査

ひび割れ計測システム 光波測量器を用いて離れた場所からひび割れ測定を行い、AutoCADで自動

作図するシステム

21. 調査試験 構造物調

非破壊試

験、調査

赤外線調査トータルサポートシステム Jシステム 赤外線法を用いたコンクリート構造物診断システム

22. 調査試験 構造物調

非破壊試

験、調査

3 次元変位計測システム(ダムシス) 自動視準 TSや GNSSを制御するプログラムを利用して既設構造物等の 3次

元変位を短時間に計測し、地盤や構造物の変位を感知する技術

23. 調査試験 分析・予

測システ

簡易斜面変位監視システム 無線センサ端末を内蔵したプラスチック杭による遠隔斜面傾斜モニタリングシ

ステム

24. 調査試験 分析・予

測システ

ロードクリニック 路面性状計測車による各種調査システム(路面性状・乗り心地・縦断形状・切

削ボリューム算出)

-29-

(4) IoT技術提供の留意点

自治体ヒアリングにおいては、

「IoT 技術提供企業においても社会インフラ点検、維持管理をよく理解して提供して

欲しい」

「新技術導入においては、技術の信頼性が不安である」

等のインフラ管理者からの回答があった。本回答は、IoT 技術提供企業がユーザである自治

体の社会インフラ維持管理の実施状況の把握不足、およびインフラ劣化のメカニズム等の

理解不足等、IoT 技術関係者への問題を提起している。よって、IoT 技術を提供する際は、

自治体(ユーザ)のインフラ管理の現状把握とインフラ維持管理の知識の事前習得が必要

である。

以上を踏まえて、自治体でのインフラ維持管理への IoT 技術提供の留意点を以下に述べる。

安価であること

自治体においては費用(財源)面から、高価な技術は敬遠される

インフラ管理者の負担が小さいこと

設置工数がかかる大掛かりな設備や、自治体(ユーザ)が容易に操作できないよ

うな複雑な装置・システムは敬遠される

常時観測を行っているセンサから大量のデータが出力された際に、自治体(ユー

ザのインフラ維持管理にとって必要なデータを抽出できる等、データの利活用が

容易であること

測定結果の信頼性が高いこと

測定機器の適用範囲が明確であることが求められる

3.2 IoT技術により計測されたデータ活用・管理について

3.2.1 計測データ、複数の測定技術を組み合わせたデータ活用方法について

(1) 計測データにおけるデータ活用方法

多くの自治体において最も要求が高い計測データは、“変位データ”であった。変位デー

タへのニーズが高いのは、一般的には、“変位状況に変化が無いのに突然インフラが壊

れることはない”との認識からである。つまり、センサにおいては目視では判断困難な

変位を測定できれば対象インフラの状況が概ね理解可能である。ただし、計測データ

により橋梁や道路の舗装面の損傷度を判定するためのデータが、目視よりも確実に早

く得られることが前提となり、計測データの精度も併せて求められる。

また、多くの物理量の計測を行えば計測機器(センサシステム等)が高価になるこ

とから、機器購入の費用を意識する必要がある。

一方、インフラ老朽化の研究においては、センサなどで多くのデータを集めること

-30-

により、それらデータを用いた研究も進み、インフラの老朽化度、疲労度と個々の計

測データの相関についての理解も深まってくる。これにより効率的なインフラ維持管

理が実現するとの意識が自治体のインフラ管理者にある。さらに、センサ等によるイ

ンフラ状況を目視に相当する物理量のみで判定するだけでなく、構造物の内部を見る

ことができる非破壊検査技術(超音波など)によって得られたデータを解析すること

で、目視では分からない疲労状態の詳細な解明が可能となり、インフラ維持管理の精

度向上に繋がる。

(2) 複数の測定技術を組み合わせたデータ活用方法

複数の測定技術を組み合わせたデータ活用により、様々なデータからの異変の発見

(局所的なデータからの全体の疲労度の推定など)によるインフラ点検・診断の適切

な対応策の判断が可能となる。具体的には、打音のデータ、映像のデータ、AE(アコ

ースティック・エミッション)によるデータ、光センシングによるデータ、中性子ビ

ームによるデータ等でデータ取得の対象が異なるため、例えば、光センシングにより

塩害の影響を受けている領域を特定し、その箇所のみ打音検査、修繕を行う等、点検

の効率化、高性能化のためには複数データの活用は効果的である。

3.2.2 維持管理のデータ管理について

(1) データ管理対象

インフラ維持管理における管理対象となるデータは、

インフラ施設台帳

点検・診断データ

修繕・更新履歴データ

写真や図面

等がある。これは、1 章の“図 1.1 インフラ維持管理フローと要素技術開発”で示したイ

ンフラ維持管理における点検、診断、補修・修繕等ごとデータが存在する。また、そ

れらデータを一元管理することにより蓄積されたデータを活用・分析し易くすること

が可能となる。これにより「定期点検」や「日常維持管理」「老朽化対策の計画策定・

見直し」の支援実現が期待できる。

(2) インフラデータ管理システム

その様な背景の下、自治体によってはインフラ維持管理のデータ管理システムの構

築を検討しており、県によっては、インフラデータ管理システムを県が構築し各自治

体に提供する計画が進んでいる。

以下図 3.3 に S 県のインフラ維持管理システム構想を示す。

-31-

図 3.3 S県のインフラ維持管理システム

本システムにおいては、インフラ点検の効率的な実施や地震等の緊急時対応のため

の地図情報との連動、およびデータ管理を行うソフトウェアの汎用性(例えば、Excel

等)のニーズが高い。

(3) データベース

データベースに蓄積される点検・診断データにおいてはインフラ点検要領で定めら

れているデータが求められるが、必須データ項目と、それぞれの自治体でしか利用し

ないデータ項目(例えば、塩害に関するデータは、塩害の被害の顕著な自治体のみで

利用)とに分けられることが必要である。

必須データ項目の事例として、地方自治体による橋梁点検における、点検データ様

式および状況報告する様式(部材単位の判定区分がⅡ、Ⅲ、Ⅳの場合)(以下、図 4.1

-32-

および図 4.2)を以下に示す。この橋梁点検は、「道路橋定期点検要領 国土交通省 道

路局(平成 26 年 6 月)」に基づき実施されるものである。

上部構造(主桁、横桁、床板)、下部構造、支承部、その他の各部材について、変状

の種類、判定区分(Ⅰ~Ⅳ)、措置後には措置後の判定区分(Ⅰ~Ⅳ)等を記載すると

ともに、変状箇所の写真、部材単位の判定区分を記した状況写真(損傷状況)を記録

する。

図 3.4 点検表記様式

-33-

図 3.5 状況写真(損傷状況)

また、築年数、材質、使用状況(橋梁ならば通行量)と計測データを紐付けること

によりデータベースの有効性が高まると考えられる。 データベースは、インフラデー

タ管理システム内において活用されるが、データベース化されることはデータ様式の

標準化、および電子化されることに繋がる。データベース構築における留意点として、

様々なインフラ維持管理データにおいてこれからの取得する点検・診断データ等はシ

ステムでの活用(データベース化)を前提としてデータが作成されるが、インフラ施

設台帳においては、既に、書類のみで保存されている自治体も多いため電子化への負

担が懸案される。

3.2.3 自治体間のデータ共有について

(1) 自治体間のデータ共有の現状

現状は、インフラ維持管理における自治体間のデータ共有は殆ど行われておらず、

一部、県内自治体間および同じ考え方の自治体間で、定期的な情報交換会や技術的な

意見交換会が実施されている程度である。損傷事例や判定事例を多く集めることで、

そこから得られる知見によりインフラ点検・診断の精度が上がる可能性が高くなるメ

リットがある一方で、個別の自治体の情報が他の自治体に知られてしまうというデメ

-34-

リットがある。その様な状況により、積極的にインフラ維持管理データを提供する自

治体は少ない。データ共有にあたっては、マスキング等により、データ検索から抽出

されたインフラが特定されないような工夫が必要と考えられる。

ただし、本来は点検、診断等のデータ共有においては、インフラ維持管理の状況が

似ている、近場の自治体同士で行うことが望ましいと考えている自治体が多いのも現

状である。

(2) データ共有が進展しない背景

自治体間でデータ共有が進まない背景には、自治体ごとにインフラ修繕方法や修繕

実施の判断基準が(予算等により)異なることがある。よって、インフラ修繕のサイ

クル(どのタイミングで修繕をするかの判断)や修繕方法に対する考え方を共通化し

ないとデータの共有は進まないと思われる。さらに、インフラ修繕対応については予

算などの事情も絡み、一律に各自治体の対応の良し悪しを判断できないため、個々の

自治体の事情が分からない形で共有化していく必要があるかもしれない。

また、データ共有の主導面の問題において、その解決には、県主導により各自治体

の事情を考慮したデータ共有の仕組み等の検討が重要である。

-35-

3.3 インフラ維持管理の課題の克服に向けた IoT技術活用の整理

以下に 2.4 節で述べたインフラ維持管理の課題の解決案を再掲し、併せて IoT 技術活用の

分析、整理した結果を以下に示す。

<費用(財源)、人材不足の解決案>

2.1 節で示したように、今後の老朽化インフラの急増を考えると、自治体の費用(財源)、

及び人材不足を補い、点検・調査の高度化、効率化のために、既存の技術活用と連携した

取り組みや、IoT 技術や非破壊検査等の活用 1を含めた体系的な技術開発が求められる。そ

の体系化として、精度の高い点検⇒老朽化メカニズムの推定⇒老朽化(損傷)の進行予測

⇒的確な診断⇒効果的な補修・修繕・更新 2が考えられる。

また、インフラ環境等によって劣化の経時的な変化には未知の部分が多いため、IoT 技術

の活用により、劣化(損傷)の状態を詳細に記録、蓄積しておく必要がある。3

以下に、上述の下線箇所における 3 章の繋がりを示す。

(1) 1 3.1.2節で紹介した、以下のような IoT技術の活用

センシング機器、カメラ機器、画像処理、ロボット、ドローン等の IoT 技術や SIP

における研究開発技術や先端 IoT 技術等の活用が可能である。

(2) 2 3.2.1節で紹介した、複数の測定技術を組み合わせたデータ活用

複数の測定技術を組み合わせたデータ活用により、多種類のデータからの異変の発

見(局所的なデータからの全体の疲労度の推定など)によるインフラ点検・診断の

適切な対応策が可能である。

(3) 3 3.2.2節で紹介した、一元管理・蓄積されたデータの活用

データを一元管理・蓄積することにより活用・分析し易くすることで、「定期点検」、

「日常維持管理」、「老朽化対策の計画策定・見直し」への支援が可能である。

-36-

<人材育成の解決案>

インフラの維持管理を担う技術者の育成は必要であるが、時間と経験の機会が取れない

自治体が多いのも事実である。その現状より、測定者個人の経験や主観に基づく部分が大

きい目視点検では、判定結果にバラつきが大きい自治体や、危険な状態に達しているイン

フラを健全な状態と判定してしまうなど、判定結果の水準が低い自治体もある。さらには、

自治体ごとに予算規模、インフラの規模・数、インフラ維持管理への意識等が異なるため、

自治体それぞれが抱える課題、技術水準が異なるという背景もある。

したがって、IoT 技術の活用により点検・調査を効率化し、精度を向上できる余地は大き

い。1また、点検だけで欠陥を発見することが困難な場合もあることから、見逃しがちな劣

化(損傷)状況の点検手法に関する開発 2の必要性が高い。よって、先端の IoT 技術を用い

て、劣化箇所から状況を発信する監視技術の導入等により対応することも必要である。

以下に、上述の下線箇所における 3 章の繋がりを示す。

(1) 1 3.2.3節で紹介した、データ共有による、点検・診断精度の向上

損傷事例や判定事例を多く集めることで、そこから得られる知見により点検・診断

の精度向上が可能である。

(2) 2 3.1.2節で紹介した、以下のような IoT技術の活用

センシング機器、カメラ機器、画像処理、ロボット、ドローン等の IoT 技術や SIP

における研究開発技術や先端 IoT 技術等の活用である。

-37-

4. 社会実装の可能性と必要となる課題の整理

4.1 データ様式の標準化について

点検・診断データの標準化として、国土交通省が提示している様式を述べる。

地方自治体における橋梁点検は、「道路橋定期点検要領 国土交通省 道路局(平成 26

年 6 月)」に基づき実施されており、その要領に点検データ様式および部材単位の判定区分

がⅡ、Ⅲ、Ⅳの場合に状況報告する様式(以下、図 4.1 および図 4.2)が提示されている。

図 4.1 点検表記様式

-38-

図 4.2 状況写真(損傷状況)

ただし、各自治体が様式を活用するにあたっては、3.2.2 節と関連して、「台帳と点検結果

と補修履歴が電子データで一元管理出来る様な様式」が必要との要望がある。

これは、インフラ維持管理におけるデータ管理対象は、インフラ施設台帳/点検・診断

データ/修繕・更新履歴データ/写真や図面等が全て標準化されることによって、インフ

ラデータ維持管理システムでの活用が可能となる。本システムは、蓄積されたデータを活

用・分析し易くすることで「定期点検」や「日常維持管理」「老朽化対策の計画策定・見直

し」の支援が可能になることより、インフラ維持管理の効率化、高度化に繋がる。その為

には、各インフラ維持管理関連データの標準化は重要である。また、データ標準化には各

自治体が今後、データ共有を可能にするためにも必要であり、自治体間のデータ共有を促

す効果も期待できる。

4.2 プラットフォーム構築の可能性について

(1) プラットフォームに求められる機能

地方自治体のインフラ維持管理におけるプラットフォームには、(2)で示す、「東北大

学 インフラマネジメント研究センター(IMC)」の活動を参考に検討すると、

自治体のインフラ維持管理に関する修繕計画策定等の効率化、合理化支援

インフラ維持管理技術者育成の人材育成

-39-

インフラ維持管理に関する情報基盤

等の様々な機能が求められる。

その中でも、自治体自ら診断を行う場合、他の自治体の点検、診断結果を参考にでき

る事例閲覧データベースが重要な機能として求められている。

また、インフラ維持管理における情報基盤においては、インフラ維持管理システムと

同様、インフラ点検・診断の効率的な実施や地震等の緊急時対応のため3次元地図情報

との連動が重要である。

(2) 事例紹介

大学がインフラ維持管理・更新・マネジメントにおけるプラットフォーム機能を実施

している事例として、SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)での採択課題でも

ある「東北インフラ・マネジメント・プラットフォームの構築と展開」を以下図 4.3 に

紹介する。

図 4.3 東北大学大学院工学研究科インフラマネジメント研究センター(IMC)

(出典:IMC 紹介パンフレットより)

-40-

IMC は宮城県および山形県、八戸工業大学(青森県)、岩手大学(岩手県)、秋田大学

(秋田県)、日本大学(福島県)の各大学が共同研究グループとして SIP に参画するこ

とにより、東北6県のインフラ維持管理・更新・マネジメントにおけるプラットフォ

ーム事業を実施している。なお、そのプラットフォーム機能の実施にあたっては、各

地域の自治体等との協定締結が重要となる。

また、インフラ維持管理に関しては、同じ東北地方の自治体であっても”インフラ維

持管理よりも震災からの復興が最優先”等、各自治体の取り組み方は様々である。

4.3 IoT技術導入に障害となる制度的課題について

IoT 技術導入におけるインフラ維持管理における障害となる制度的課題として、以下3点

が挙げられる。

<課題1:合理的な点検方法>

自治体の費用的な負担を軽減するため、影響度の小さい橋の点検を簡素化するなど橋梁の

状況によってインフラ点検方法の見直しが求められている。また、道路法に伴う点検にお

いて、近接目視の代替手法として IoT 技術活用の可否が不明確である課題がある。

<課題2:IoT 技術活用における管理責任>

IoT 技術活用においては、センサ等の手段によるインフラ点検および診断における管理責

任等について自治体等が適応可能なルール検討が必要である。現状、新技術導入に慎重

な自治体も多いため重要な課題と思われる。

<課題3:データ公開範囲等の検討>

プラットフォーム機能において事例データベースの要望、またデータ公開における自治

体等の様々な活用が今後のインフラ維持管理の精度向上において重要である。その為に

は、データ公開における仕組み(公開範囲やデータごとのアクセス権限等)の検討が必

要である。データを提供する自治体等が適応可能な仕組みの検討が必要であり、IoT 技術

活用、普及においても重要な課題である。

また、“制度的課題”以外に、点検、診断等の様々な情報を格納するデータベース構築、運

用においては以下に示すデータベース利活用の留意すべき点がある。

利用者の視点、ベンダーの視点での検討

・データベースのデータ更新時の事前考慮

・円滑なデータ検索のための必須データと NULL データ(データ無)の区別

・自治体にとって使いやすい、例えば、更新や閲覧作業がしやすいデータベースの構築

データベース機能の視点

・階層構造検索、ファジー検索を考慮したデータ形式

・データ形式の標準化

-41-

非破壊検査データの充実

データベースの利活用促進においては、非破壊検査等により劣化診断・予測されたデー

タによる情報の充実も重要である。

インターネットを介さない特別回線等の工夫

自治体のネットワーク環境は、セキュリティ上、外部環境との接続が困難な状況が多く、

IoT 技術活用方法によっては、インフラ維持管理の専用回線が必要となる等の課題がある。

-42-

4.4 インフラ維持管理の課題の克服に向けた IoT社会実装の整理

以下に 2.4 節で述べたインフラ維持管理の課題の解決案を再掲し、併せて IoT 技術活用の

分析、整理した結果を以下に示す。

<費用(財源)、人材不足の解決案>

2.1 節で示したように、今後の老朽化インフラの急増を考えると、自治体の費用(財源)、

及び人材不足を補い、点検・調査の高度化、効率化のために、既存の技術活用と連携した

取り組みや、IoT 技術や非破壊検査等の活用 1を含めた体系的な技術開発が求められる。そ

の体系化として、精度の高い点検⇒老朽化メカニズムの推定⇒老朽化(損傷)の進行予測

⇒的確な診断⇒効果的な補修・修繕・更新 2が考えられる。

また、インフラ環境等によって劣化の経時的な変化には未知の部分が多いため、IoT 技術

の活用により、劣化(損傷)の状態を詳細に記録、蓄積しておく必要がある。3

以下に、上述の下線箇所における 3 章、および 4 章との繋がりを示す。

(1) 1 3.1.2節で紹介した、以下のような IoT技術の活用

センシング機器、カメラ機器、画像処理、ロボット、ドローン等の IoT 技術や SIP

における研究開発技術や先端 IoT 技術等の活用が可能である。

(2) 2 3.2.1節で紹介した、複数の測定技術を組み合わせたデータ活用

複数の測定技術を組み合わせたデータ活用により、多種類のデータからの異変の発

見(局所的なデータからの全体の疲労度の推定など)によるインフラ点検・診断の

適切な対応策が可能である。

(3) 3 3.2.2節で紹介した、一元管理・蓄積されたデータの活用

データを一元管理・蓄積すること 4により活用・分析し易くすることで、「定期点検」、

「日常維持管理」、「老朽化対策の計画策定・見直し」への支援が可能である。

(4) 4 4.1節で紹介した、データ様式の標準化の必要性

データを一元管理・蓄積するためには、データの標準化が必要である。

さらに、(1)、(2)においては課題1の「合理的な点検方法」、および課題2の「IoT 技

術活用における管理責任」が関連する制度的課題である。

-43-

<人材育成の解決案>

インフラの維持管理を担う技術者の育成 1は必要であるが、時間と経験の機会が取れない

自治体が多いのも事実である。その現状より、測定者個人の経験や主観に基づく部分が大

きい目視点検では、判定結果にバラつきが大きい自治体や、危険な状態に達しているイン

フラを健全な状態と判定してしまうなど、判定結果の水準が低い自治体もある。さらには、

自治体ごとに予算規模、インフラの規模・数、インフラ維持管理への意識等が異なるため、

自治体それぞれが抱える課題、技術水準が異なるという背景もある。

したがって、IoT 技術の活用により点検・調査を効率化し、精度を向上できる余地は大き

い。2また、点検だけで欠陥を発見することが困難な場合もあることから、見逃しがちな劣

化(損傷)状況の点検手法に関する開発 3の必要性が高い。よって、先端の IoT 技術を用い

て、劣化箇所から状況を発信する監視技術の導入等により対応することも必要である。

以下に、上述の下線箇所における 3 章、および 4 章との繋がりを示す。

(1) 1 4.2節で紹介した、プラットフォーム機能の活用

プラットフォーム機能を活用することにより、インフラの維持管理を担う技術者の育

成が可能である。

(2) 2 3.2.3節で紹介した、データ共有による、点検・診断精度の向上

損傷事例や判定事例を多く集めること 4で、そこから得られる知見により点検・診断

の精度向上が可能である。

(3) 3 3.1.2節で紹介した、以下のような IoT技術の活用

センシング機器、カメラ機器、画像処理、ロボット、ドローン等の IoT 技術や SIP

における研究開発技術や先端 IoT 技術等の活用である。

(4) 44.1 節で紹介したデータ様式の標準化、4.2 節で紹介したプラットフォーム機能の

活用

データを一元管理・蓄積するためには、データの標準化が必要であり、プラットフ

ォームは情報基盤となる。

さらに、(1)、(2)、(4)においては課題3の「データ公開範囲の検討」が関連する制度的

課題である。

-44-

5. IoT 技術活用における導入可能性検証の提案

これまでの章においては、インフラ維持管理における課題を調査し、その課題解決にお

ける IoT 技術活用、さらに社会実装の可能性等について述べた。以上の調査結果を基に、

本章は、IoT 技術活用における導入可能性検証の提案において、調査結果の効果的な適用を

目的に実証試験案の検討結果を述べることにより提案し、本調査のまとめとする。

5.1 自治体における IoT技術活用の実証協力について

本調査にご協力頂いた自治体に関しては、殆どの自治体が IoT 技術活用の実証には協力

的であった。これは、調査協力対象の自治体においてインフラ維持管理の意識が高いため

であり、様々な新技術の活用可能性を検討することにより、少しでもインフラ維持管理の

効率化、高度化に繋げ、ひいては自治体コスト負担軽減に結び付けたいとの意識からであ

ると思われる。

5.2 自治体情報による IoT技術活用の実証試験案

IoT 技術活用の実証試験案の検討にあたり、この度調査にご協力頂いた自治体より道路橋

梁を対象とした実証試験案(N 市)と、既に実施した実証試験事例および試験案(T 市)の

情報を整理した内容を以下に示す。

5.2.1 N市道路橋梁における実証試験案

(1) N市道路橋の状況

市道橋としての点検対象は 219 橋あり、そのうち、平成 27 年度に 84 橋、平成 28

年度に 40 橋の定期点検が完了している。

診断結果より判定区分Ⅰ(健全)が 81 橋、判定区分Ⅱ(予防保全)が 39 橋、判定

区分Ⅲ(早期処置)が 4 橋、判定区分Ⅳ(緊急措置)が 0 橋の状況である。

市の方針は、判定区分Ⅱは経過観察又は維持修繕、判定区分Ⅲは利用状況を見なが

ら対策検討又は経過観察、判定区分Ⅳは緊急対策工事又は利用制限する。

市の対応においては、判定区分Ⅲの 4 橋については、利用度が低く、直ちに機能障

害は発生しないとして、経過観察措置としている。また、その 4 橋のうち 3 橋は高

速道路の跨線橋(PC 橋)で、1 橋はほとんど利用されていない市道鋼橋(単純 H 鋼)

である。

市の維持管理ニーズは、判定区分Ⅲの 4 橋について、経年劣化の状況をリアルタイ

ムにデータ化するニーズ、そのデータにより状況分析や対策措置につなげたい要望

もある。上記の橋は、簡単に立ち入りができないため人為的観測が困難な場所でも

あり、IoT 技術の活用を期待している。

(2) 測定インフラ対象物の状況

測定目的:常時監視、経年劣化との関連性、危険度判定の推測

診断結果:判定区分Ⅲのうち、跨高速道路橋 3 橋(目視等観察が困難、危険度判定

-45-

に役立つデータ収集)

橋梁(橋長 36~39m)、コンクリート橋、建設年度 1975 年、築後 40 年経過

点検状況:平成 27 年度の点検で異常が見つかっており経過観察中

異常箇所:横桁のひびわれ、下部工の剥離・鉄筋露出

(3) 実証試験方法(例)

想定する劣化状況:ひび割れ、剥離・露出などの劣化の進行状況を確認

測定場所(想定する劣化状況に関係):横桁及び下部基礎工

主な測定機材の種類(測定される物理量):利用状況が分かるもの(デジタルカメラ

による撮影画像等)、変位・ひずみセンサ

測定期間:センサの測定における効果検証については短期でもよいが、測定された

データ活用においては、様々な条件で取得したデータが必要となる為、データ活用

の評価は長期間になる。

5.2.2 T市橋梁における実証試験事例および試験案

以下表 5.1 に実証試験事例、試験案における橋梁の点検箇所、目的、計測技術例等を示

す。

-46-

表 5.1 実証試験における橋梁の点検箇所、目的、計測技術(例)

床版 桁・主構造 ASR・塩害 等 全体 備考

部材の劣化把握

クラック等の検出

劣化・損傷個所の計測

クラック等の検出

劣化・損傷個所の計測

原因の特定補助

クラック等の検出

劣化・損傷個所の計測

比較的初期段階

橋梁全体の把握 劣化部位の確認 劣化部位の確認 損傷度合い 判定補助 劣化進行時

点検不能箇所の補完

遠隔監視

狭隘箇所の点検

高所作業

高所作業

遠隔地

高所作業

遠隔地

高所作業

橋全体の診断補助

劣化進行時

危険警告機能

遠隔監視

異常時検出

データ送信

劣化末期の危険察知

データ送信

劣化進行具合の計測

データ送信

劣化末期の危険察知

データ送信

劣化期終盤、

監視困難箇所

計測技術の例 画像計測

光ファイバー

AE

画像計測

光ファイバー

AE

塩害センサー

自然電位測定器

AE

加速度センサー

変位・たわみ計

固有振動計

実際の利用場面 点検の補助

クラック等の成長の観察

狭隘箇所の点検

点検の補助

クラック等の成長の観察

重要箇所の確認

点検の補助

劣化状況の把握

診断への反映

耐荷力の推定

劣化度合いの推測、判断

部位等イメージ

-47-

5.3 実証試験(案)まとめ

5.3.1 センサを活用した実証試験(案)の検討

上述の自治体実証試験、および IoT 技術関連機関の情報提供を参考に、以下に実証試験

(案)を以下の項目により示す。

点検(モニタリング)の目的の明確化

比較対象となる、基準となる健全な橋梁及び健全性が保たれていない橋梁の選定

計測対象橋の選定

その他考慮すべき要素

測定項目の検討

測定箇所の検討

比較検証の内容

複数の計測技術を組み合わせた検証内容

プラットフォーム機能の実証

の項目にて実証試験(案)をまとめた。

(1) 実証の目的

橋梁をはじめとする社会インフラ構造物の継続的な監視を低コストで実現すれば、橋梁

等の社会インフラの劣化に起因する潜在的な危険の回避が可能となる上、低コストで社会

インフラを長命化することが可能となり、社会インフラ維持コストを著しく低減させつつ、

安心で安全な社会インフラの持続が可能となる。

新設の橋梁を計測対象とする場合には、その建設段階において各部にセンサ類を付設す

ることが可能であり、橋梁の供用に伴って、経時的にセンサからのデータを取得すること

が可能となり、データの変遷を監視することで異常検知が可能となる。

しかしながら既設橋を計測対象としてデータ取得を行う場合には、橋梁の過去の経年デ

ータ無しに現在状況の異常性を検出判断する必要がある。

そこで、基準となる健全な橋梁と健全性が保てていないと考えられる橋梁を選定してこ

れらの同時計測を実施し、健全橋と不健全橋との差分を抽出することで異常判断の基準づ

くりを行うことを目的とする。

(2) 健全な橋梁、および様々な劣化原因を想定した劣化状態にある橋梁の選定

健全な橋梁の場合には、設計通りの熱膨張収縮を繰り返すので、これを計測することで

健全な橋梁を抽出することが可能となり、また健全な橋梁がどのように挙動するかを計測

によって明らかにすることが期待される。

一方、橋梁の劣化原因としては、地震、土砂災害、風荷重、活荷重、塩害、湿気、施工

不良等がある。これら多岐にわたる原因の中から、健全性を著しく損なわせる原因を複数

抽出して対象地域を選定する。例えば、地震、塩害、活荷重を抽出した場合の選定のポイ

ントを以下に示す。

-48-

劣化原因が地震の場合、地震の影響がどのように生じるのかを検証するには、地震の

影響を最も受けていて、かつ、他の塩害や活荷重の影響をあまり受けていない地域を

選定するのが好ましい。また、大震度の入力は、構造部材の破断や降伏の影響が著し

く、中~大規模地震の頻繁な入力は、構造部材の疲労影響を来すと考えられる。

劣化原因が塩害の場合、塩害の甚大な影響が想定される地域としては、日本海側が代

表的である。

劣化原因が活荷重の場合、影響度が最も高く劣化が進行しているのは、早くから建設

が成され、且つ、交通量が著しく多い上、過積載を含め、大重量の積載車が多く通行

している地域であって、地震や塩害の影響が小さい地域が好ましく、これに相当する

のは都市部であって沿岸部ではない地域が対象として望ましい。

(3) 計測対象橋の選定

次に、計測対象とする対象橋選定の考え方を述べる。比較計測を実現する上で重要なの

は、特殊な構造や形式の橋梁を選定しないことである。なるべく特殊な橋梁は避け、各地

域で多用される一般的な種類を選定し、母数となる共通度の高い橋梁数を上昇させること

が望ましいと考えられるので、鋼橋(I 桁橋)と PC 橋(T 桁橋)を計測対象とする。

また、劣化原因の入力に応じた物理量の変化が検出可能な規模であることが望ましいこ

とから、小規模な橋梁は対象とはしない。

(4) その他考慮すべき要素

その他考慮すべき要素として、温度の日変化の影響や機材設置における留意がある。具

体的には、機材設置は測定中の管理のために、関係者が立ち入り易い立地が望ましいが、

防犯上は関係者以外の立ち入りは制限する必要がある。なお、機材の設置スペースと電源

等が有り、通信回線が通っている橋梁が望ましい。そのような橋梁であれば、遠隔地での

データ確認作業を日々実施することが可能となる。なお、機材の設置スペースが確保され

ていない場合には、付近に仮設計測小屋を設置する必要がある。

(5) 測定項目について

測定の基本的な考え方としては、橋梁が環境条件の影響を受けることから先ずは環境条

件のデータ(時刻、位置、気象データ(気温、湿度、降雨、風向、風速、日照等)、通行量)

を収集しておく必要がある。その上で、橋梁の構造部材からの構造データを取得し、各部

位がどのような影響を受けるのかを検出する。構造データとしては、構造部材各部の温度、

桁端での変位及び回転角、支間中央での変位及び加速度、橋脚(橋台)の加速度、桁の歪

等が測定項目の候補として挙げられる。

(6) 測定箇所について

橋梁の二大計測対象である、支承部と接合部を計測することが重要である。支承部には、

-49-

橋梁自身と橋梁にかかる全荷重が支承部に集まり、接合部には、橋梁に掛かる応力が集中

する。また、対象とする橋梁における測定箇所は、温度の差異による構造の挙動や、支承

の動作差異の影響を把握することが重要である。

(7) 比較検証の内容

以上検討したように、橋梁の劣化原因は様々であるが、例えば劣化原因として地震、塩

害、活荷重を抽出した場合、

大震度地震による構造部材等の損傷、頻繁な中震度地震による構造部材等の疲労

塩害による構造部材の腐食やこれに伴う強度低下、さらにその加速試験に相当する海

水水没による構造部材の腐食、断裂

活荷重としての重車両の走行や大交通量等の交通荷重による構造部材の劣化や付帯設

備の不具合

を複数の地域性を活用することで比較検証する。その検証と共に地域ごとに、

橋梁構造を大別した鋼橋と PC 橋

代表的な劣化が最も促進すると思われる構造部である支承部の種類

それらの気温影響と日射影響を比較検証するために適切な方向に架設される種類

を選定して、対象の橋梁を同時計測比較することで、モニタリングの有効性と基準づくり

を進める。

5.3.2 その他 IoT技術を活用したインフラ点検実証の検討

表 3.1 に示した通り、インフラ維持管理において定期点検等の目視点検における IoT 技術

の適用として、ロボット・ドローン、画像処理、現場支援機器(タブレット等)も考えら

れ、計測データの効果的な活用には、AI を活用したデータ解析機能も、必要性が今後高ま

ることと思われる。さらには、IoT 技術の社会実装には、データ共有やデータ標準化、デー

タ管理マネジメントシステムも重要である。以下項目ごとに詳細を述べる。

ロボット・ドローン

画像処理

現場支援機器

複数の計測技術を組み合わせた検証、および AI によるデータ解析

自治体間のデータ共有、標準化、データ管理マネジメントシステム

(1) ロボット・ドローン

ロボット・ドローンは、これまで人による近接目視が難しかった場所(橋の橋脚部分、斜

面など)での点検作業を可能とする機器として自治体ヒアリングにおいても注目されてい

る。特にドローンにおいては、安定・安全飛行を行うための操作スキル、用途に応じたカ

スタマイズ等も必要となることから実証試験において、自治体のインフラ点検における有

-50-

効活用の検証を行うことは重要である。

(2) 画像処理

画像診断関連は遠方から自動で橋脚、建物等を撮影し,構造物表面の状態を画像化する

ことにより、ひび割れ、漏水等の劣化・変状を精度良く検出することができ、近接目視が

難しいインフラにおいてニーズが高い。実証試験においては、様々なカメラを用いて得ら

れた画像データを劣化・変状展開図に変換し、設備の状態確認や劣化・変状特性の分析等

をすることが必要であり、その実証試験をきっかけに自治体での活用が可能になれば、イ

ンフラ点検の精度が向上すると考えられる。

(3) 現場支援機器

タブレット端末やスマートフォン等の機器は、インフラ点検現場支援ツールとしては有

効であり、一部の自治体においては実証試験で活用されている。当該機器は主に両手が塞

がる作業中に、作業指示書・マニュアルの閲覧や作業結果のメモ等を行うなどのニーズが

ある。また、スマートグラスなどのデバイスを着用し、様々な機能を利用して、指示内容

を確認しながら作業を行うなどの利用がなされていく可能性もある。画像や映像、音声は

遠隔地にいる確認者とリアルタイムに共有することなどが可能となることから、自治体の

インフラ点検の実証試験においても有効活用の検討が必要と考える。

(4) 複数の計測技術を組み合わせた検証、および AIによるデータ解析

橋梁間の比較検証以外に、複数の計測技術を組み合わせて、橋梁全体の健全度の実証試

験の実施も必要である。T 市提供の以下表 5.2 にあるような計測機器を組み合わせると、

変位、たわみの変化、固有振動数等の変化、ひび割れの状況から、劣化状況を把握し、橋

梁全体に関する健全度の判定を行う実証試験が考えられる。

表 5.2 複数の計測技術を組み合わせた構成例

変位、たわみの

変化

固有振動数等の

変化

ひび割れ

表面 内部

変位、たわみ計 加速度センサ 光ファイバ デジタルカメラ AE センサ

変位量、たわみ

分析

固有振動数分析

ひび割れマップ 静止画像撮影 AE ヒット数分析

AE エネルギー分布

さらに、センサや様々な IoT 技術活用の実証から、大量のデータを取得することが可

能であるので、AI によるデータ解析機能を活用することで、インフラの健全度や劣化状

況の推定に関しての実用性を検証することも、併せて実証試験で検討することが望まし

い。

-51-

(5) 自治体間のデータ共有、標準化、データ管理マネジメントシステム

自治体間のデータ共有が行われていないのが現状であるが、自治体間のデータ共有によ

りインフラ点検、診断の精度が向上することが期待されている。その様な状況の下、上述

のセンサや様々な IoT 技術を活用した実証とインフラ点検、および診断結果の自治体間で

のデータ共有の実証試験が並行で行われることが望ましい。さらに、データ共有のための

データ標準化の検討、データ管理マネジメントシステムの実証も併せて実施されることに

より自治体のインフラ維持管理の効率化が期待できる。

また、データ標準化の実証試験においては、例えば、計測機器ごとに固有な書式と思わ

れる計測データを、国際計量標準である、国際単位系(SI)に基づくデータに変換して、

普遍的な単位系でデータ共有する仕組みの実用性を検証すること等が考えられる。ただし、

計測機器ごとに固有な書式は非公開の可能性が高い点に留意が必要である。

-52-

頁 図表番号

46 表5.1

50 表5.2

二次利用未承諾リスト

委託事業名:平成28年度IoT推進のための新産業モデル創出基盤整備事業

報告書の題名: 平成28年度IoT推進のための新産業モデル創出基盤整備事業(IoT技術を活用した社会インフラの効率的点検・管理手法等調査)報告書

受注事業者名:みずほ情報総研株式会社

タイトル

実証試験における橋梁の点検箇所、目的、計測技術(例)

複数の計測技術を組み合わせた構成例