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解糖系(2) 平成25年5月7日 生化学2 (病態生化学分野)教授 山縣 和也

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Page 1: 解糖系(2)Louis Pasteur (1822-1895) パスツール効果 「酸素がないと酵母はあまり増殖しな いが、大量の糖を発酵する。酸素があ ると増殖はさかんであるが糖の発酵は

解糖系(2)

平成25年5月7日 生化学2 (病態生化学分野)教授 山縣 和也

Page 2: 解糖系(2)Louis Pasteur (1822-1895) パスツール効果 「酸素がないと酵母はあまり増殖しな いが、大量の糖を発酵する。酸素があ ると増殖はさかんであるが糖の発酵は

本日の学習の目標

解糖系の制御機構を理解する

2,3-BPGについて理解する

癌と解糖系について理解する

Page 3: 解糖系(2)Louis Pasteur (1822-1895) パスツール効果 「酸素がないと酵母はあまり増殖しな いが、大量の糖を発酵する。酸素があ ると増殖はさかんであるが糖の発酵は

グルコース

乳酸

グルコース 6リン酸

ピルビン酸

グリコーゲン タンパク質

アミノ酸 脂肪酸

アセチルCoA

トリアシルグリセロール

ケト酸

ATP

ピルビン酸 脱水素酵素

エネルギー代謝経路

グリコーゲン代謝

解糖系

クエン酸回路 電子伝達系

脂質代謝

アミノ酸代謝

β酸化 糖新生

Page 4: 解糖系(2)Louis Pasteur (1822-1895) パスツール効果 「酸素がないと酵母はあまり増殖しな いが、大量の糖を発酵する。酸素があ ると増殖はさかんであるが糖の発酵は

解糖 Glycolysis エムデン・マイヤーホフ経路 Embden-Meyerhof pathway

グルコース グルコース 6-リン酸

フルクトース 6-リン酸

フルクトース 1,6-ビスリン酸

ジヒドロキシ アセトンリン酸

グリセルアルデヒド 3-リン酸

1,3-ビスホスホ グリセリン酸

3-ホスホ グリセリン酸

2-ホスホ グリセリン酸

ホスホエノール ピルビン酸 ピルビン酸 乳酸

NAD NADH

ATP ADP ATP ADP

NAD NADH ATP ADP

ATP ADP

細胞質

ミトコンドリア(クエン酸回路,酸化的リン酸化)

Page 5: 解糖系(2)Louis Pasteur (1822-1895) パスツール効果 「酸素がないと酵母はあまり増殖しな いが、大量の糖を発酵する。酸素があ ると増殖はさかんであるが糖の発酵は

Louis Pasteur (1822-1895)

Page 6: 解糖系(2)Louis Pasteur (1822-1895) パスツール効果 「酸素がないと酵母はあまり増殖しな いが、大量の糖を発酵する。酸素があ ると増殖はさかんであるが糖の発酵は

パスツール効果

「酸素がないと酵母はあまり増殖しないが、大量の糖を発酵する。酸素があると増殖はさかんであるが糖の発酵は低下する。」 1861年の観察だが、その仕組みは100年間不明であった。

Page 7: 解糖系(2)Louis Pasteur (1822-1895) パスツール効果 「酸素がないと酵母はあまり増殖しな いが、大量の糖を発酵する。酸素があ ると増殖はさかんであるが糖の発酵は

6-ホスホフルクト-1-キナーゼ Phosphofructokinase (PFK, PFK-1)

解糖系の調節酵素(解糖系調節の主役):律速酵素

O

OH

CH2OH1

2

34

5

6-2O3POCH2

H

OH

H

H

HO

O

OH

CH2OPO32-1

2

34

5

6-2O3POCH2

HOH

H

H

HO

フルクトース6-リン酸 Fructose-6-phosphate (F6P)

フルクトース1,6-ビスリン酸 Fructose-1,6-bisphosphate (FBP)

+ ATP Mg2+

+ ADP + H+

PFK

PFK F6P

ATP

基質結合部

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ホスホフルクト-1-キナーゼ(PFK)のATPによるアロステリック制御

PFKの

反応

速度

(%

Vm

ax)

100

50

[フルクトース6-リン酸]

Km

低[ATP]

Km’

高[ATP]

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アロステリック部位

基質結合部位

アロステリック酵素:アロステリック部位へ結合するエフェクターによって触媒部位が調節される酵素

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PFK F6P

ATP

PFK F6P

ATP

ATP

ATP濃度が低いときにはF6Pが結合できる

ATP濃度が高いときにはF6Pの親和性を低下させる

アロステリック制御:基質結合部位とは異なる別の部位に結合して活性を調節する

基質結合部

アロステリック 結合部位

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PFK F6P

ATP

PFK F6P

ATP

アロステリック制御:基質結合部位とは異なる別の部位に結合して活性を調節する

アロステリック 結合部位

クエン酸

アロステリック 結合部位

AMP 活性化

抑制

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クエン酸回路

クエン酸が多い=エネルギーが豊富

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パスツール効果

「酸素がないと酵母はあまり増殖しないが、大量の糖を発酵する。酸素があると増殖はさかんであるが糖の発酵は低下する。」 酸素の充分にある条件下では、クエン酸とATPが多量に産生される。そのためにPFKが抑制されてしまう。

ミトコンドリアで産生

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O

OH

CH2OH1

2

34

5

6-2O3POCH2

H

OH

H

H

HO

O

OH

CH2OPO32-1

2

34

5

6-2O3POCH2

HOH

H

H

HO

フルクトース6-リン酸 Fructose-6-phosphate (F6P)

フルクトース1,6-ビスリン酸 Fructose-1,6-bisphosphate (FBP)

PFK

フルクトース2,6-ビスリン酸 Fructose 2,6-bisphosphate (F2,6P)

O OPO32-

CH2OH1

2

34

5

6-2O3POCH2

H

OH

H

H

HO

PFK2 (phosphofructokinase-2)

解糖系(PFK)の促進因子

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F26Pは強力なアロステリック活性促進作用をもち、ATPによる抑制を解除する

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グルコース

F-6-P

F-1,6-BP

F-2,6-BP PFKの活性化

肝臓における調節機構

PFK

PFK2

肝臓ではグルコースが豊富にある(インスリンが高値)と解糖系が加速される(Feedfoward反応)

インスリンにより活性化

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二機能酵素(bi-functional enzyme)

PFK2 FBPase2

PFK2はF6PをF26Pにする作用以外にもF26PをF6Pにもどす働きも行うことができる (fructose-2, 6-bisphosphatase活性をもつ)(bi-functional enzyme)。

フルクトースビスホスファターゼ2

F6PからF26Pへ F26PからF6Pへ

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二機能酵素(bi-functional enzyme)

PFK2 FBPase2

血糖が高いときにはフォスファターゼ活性は抑制されており、PFK2の部分が活性化されている

F6PからF26Pへ

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二機能酵素(bi-functional enzyme)

PFK2 FBPase2

血糖が低いときには、膵臓のα細胞から分泌されるグルカゴンにより、リン酸化されることでPFK2の部分が抑制され、F26BPの濃度が減少する。血糖が低いときには解糖系は阻害される。

P F26PからF6Pへ

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PFKによる解糖系制御のまとめ

•PFKはアロステリック効果によりATPによって阻害される。逆にAMPによって活性

化される。つまりエネルギー状態が高いときは解糖を抑制し、エネルギーが低い

ときは促進する。

•PFKはTCAサイクルの中間体であるクエン酸によっても抑制される。TCAサイクル

の素材が十分あるときには貴重なグルコースをそれ以上分解しないようにする。

•肝PFKはF26Pによって活性化される。

•空腹時にはグルカゴンによってF26Pが減少するように流れる。そのため肝の解糖

系は抑制され、逆に糖新生(グルコースをつくる)が増加する。

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解糖系の制御段階

グルコース + ATP グルコース6-リン酸 + ADP + H+

ヘキソキナーゼ

フルクトース6-リン酸 + ATP フルクトース1,6-ビスリン酸 + ADP + H+

ホスホフルクトキナーゼ

ホスホエノールピルビン酸 + ADP +H+ ピルビン酸 + ATP ピルビン酸キナーゼ

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グルコース + ATP グルコース6-リン酸 + ADP + H+

ヘキソキナーゼ

へキソキナーゼはG6Pによってフィードバック阻害をうける。 G6Pがたくさんできると、ヘキソキナーゼが抑制され、解糖系は抑制される。 しかし、β細胞に発現するグルコキナーゼはG6Pで阻害されない。 (HKとGKの違いの2点目!) PFKが抑制されるとF6Pが増加する。そうするとG6Pも増加し、へキソキナーゼも抑制されてしまう。

抑制

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ホスホエノールピルビン酸 + ADP +H+ ピルビン酸 + ATP ピルビン酸キナーゼ

グルコース G6P F6P F16P HK PFK

(解糖系) 促進 (フィードフォワード刺激)

グルカゴン (肝臓のPKはグルカゴンでリン酸化され、抑制される)

抑制

アラニン (ピルビン酸に変換される)

抑制

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19µM

1µM

4000µM

118µM

赤血球における2,3-BPGの産生

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赤血球:酸素を豊富に含み、全身の細胞に酸素を運搬する

酸素は水にとけにくい。ヘモグロビンは赤血球に含まれるタンパク質であり、血液中での酸素担体として働く。ヘモグロビンはα鎖2本とβ鎖2本からなり4量体を形成している。ヘモグロビンによって酸素の運搬が容易になる。

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酸素が結合するにつれてサブユニット間をつないでいる静電気的結合(塩橋)は弱くなるか壊れる。酸素が次々に結合することでヘモグロビンは低親和性(T型)から高親和性(R型)に変換する。

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ヘモグロビンの酸素結合部位のうち酸素と結合しているものの割合を飽和度Yで示す。酸素分圧pO2とYをプロットしたものを酸素解離曲線という。酸素結合部位の半分が酸素と結合している時、つまりY=0.5のときの酸素分圧をP50と呼ぶ。

1mmHg=1 torr

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BPGはヘモグロビンの酸素親和性を低下させる

BPGは2つのβサブユニットを架橋することで酸素と結合していないヘモグロビン

の4次構造を安定化させる。したがって近くの酸素をうばってヘモグロビンに結合させることがない(酸素飽和度を減少)。 組織がより容易に酸素を利用できるようにしている

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19µM

1µM

118µM

赤血球における2,3-BPGの産生

低地から高地へ移動すると、酸素がうすいために容易に息切れする。 しかし、数日すると適応現象で23BPGの濃度が上昇し、空気がうすいにもかかわらず、十分な酸素を組織にわたすことができるようになる。

23-BPGによる高地順応

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癌細胞

低酸素

HIF1 (hypoxia inducible factor)

解糖系酵素の遺伝子発現を増加

解糖系が亢進

転写因子:特定の遺伝子のプロモーターに結合して、その遺伝子の発現をふやす。

癌と解糖系

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がん細胞で解糖の亢進とそれに伴うグルコースの取り込み増加が起きていることを利用して、新しい診断法が開発されている。 グルコースをF-18という放射性同位元素でラベル

したFDG(フルオロデオキシグルコース)を注射するとがんの場所にとりこまれる。

ポジトロン断層撮影法(PET)

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1. 酸素が多量にあると増殖も解糖も促進する 「 」 2. 多量のATPはPFKの活性を抑制する 「 」 3. アロステリック結合部位は基質結合部位と一致する 「 」 4. クエン酸はPFKの活性を促進する 「 」 5. F26PはPFKの強力な抑制因子である 「 」 6. グルカゴンは肝においてF26Pを増加させる 「 」 7. へキソキナーゼはG6Pにより抑制される 「 」 8. ピルビン酸キナーゼはATPで抑制される 9. ヘモグロビンは酸素と結合し、肺から組織に酸素を運ぶ 「 」 10. 23BPGの存在下ではヘモグロビンの酸素親和性は低下する 「 」 11. がん細胞では解糖系が亢進していることが多い 「 」

理解の確認のために