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  • 14 映像情報メディカル 2016年5月

    はじめに~ PAD 診療におけるエコーの役割~

     動脈硬化性疾患が増加している近年、Global vascular managementの重要性が高まっており、特に循環器領域では冠動脈疾患にPeripheral Artery Disease(PAD)を合併している症例が増加している。PADの診断においては、ABI検査のみならず下肢動脈エコー検査は必須のモダリティでもある。本邦では透析患者が多い特徴もあり、今後PAD診療において非侵襲的なエコー検査は診断、治療効果判定、経過観察において重要と考える。またわれわれはPADの治療であるEndovascular therapy(EVT)においてエコーを積極的に活用している。エコーの非侵襲的かつ被曝がない、造影剤の必要がないという特徴を有効に活用し、治療モダリティと考えている。 このようなエコー検査において、近年の進歩したハイエンドエコー機の超音波像は有効である。しかし課題も存在する。そこで、東芝メディカルシステムズ社からカラードプラの欠点を克服すべくSuperb Micro-vascular Imaging(SMI)が開発され、エコーは新たなモダリティに発展したと筆者は考えている。今回このSMIの活用すべき有用性について述べる。

    下肢動脈エコーにおける問題点 エコー機器が進歩し、鮮明な画像が得られるようになった今日においても、下肢動脈エコー検査における困難な状況や課題が存在する。第一に短

    時間でのエコー検査の必要性である。下肢動脈エコー検査において困難さを感じる点は、観察範囲が他の部位の検査と比較し広いため、時間がかかることと、それによる煩雑化である。限られた外来診療の中でできるだけ短時間での精査を必要とする。自施設ではドプラ波形からの狭窄・閉塞の推定を頻用しているが、狭窄・閉塞部位を直接エコーで走査することも必要である。狭窄・閉塞の評価にカラードプラを併用するが、カラードプラは低流速の描出に劣ること、組織の動きと重なってしまうモーションアーチファクトがあること、frame rateが低い等の欠点を有する。よって早いプローブの動きでの走査は短時間化できるが、これらにより見落とす可能性もある。 次に高度石灰化症例における評価の困難さである。PAD患者は透析症例も多く、高度石灰化を伴っていることが頻回である。特にCLI症例の膝下動脈の評価時には、高度石灰化のため血流情報の評価が困難な状況を経験する。石灰化が強いとカラードプラでの血流評価には限界がある。 最後にEVTに直結する病変の情報が客観的に得られないという点である。閉塞病変に対するEVT前には、ガイドワイヤが通過しにくい固い病変かどうか、末梢塞栓を起こす可能性のある血栓性閉塞であるかなどは術者に有効な情報である。それにより手技時間の予測やデバイスの選択に役立つ可能性がある。

    SMI が有効な症例とは SMIはより微細で低流速血流を捕らえる新しい

    超音波診断装置の新境地―治療に直結する血流イメージング

    滝村英幸済生会横浜市東部病院 循環器内科

    特集

    PAD治療に直結するSuperb Micro-vascular Imaging(SMI)の活用

    Vol.48 No.5 15

    血流イメージングである。モーションアーチファクトも低減しており、素早い走査においてもアーチファクトの少ない画像の描出が可能となった。低流速血流をとらえることができることにより、狭窄部のより鮮明な動脈内腔の狭窄部血流の可視化、描出困難な状況での血流評価に役立つと考えられる。現状での問題点をいくつか列挙したが、SMIが威力を発揮した症例を提示する。

    1)下肢動脈狭窄部の明瞭化 下肢動脈は体表より比較的深部に位置している部位もあるため、狭窄・閉塞部の診断にはBモードのみでは見落とす可能性がある。図1に浅大腿

    動脈狭窄の症例を提示する。Bモードでは狭窄部の壁在プラークは認めるものの、内腔の無エコー部との境界が明瞭でないため狭窄率がわかるほどの描出は困難である(図1a)。そこでカラードプラによる診断が必要となる。通常、狭窄部は血流速度が上昇するため、カラードプラではモザイクを呈する(図1b)。モザイクが出るかを見ながら動脈を走査していく。狭窄・閉塞の診断は可能だが、狭窄部の狭窄程度が可視化されるほど明瞭ではなく、またPerivascular color artifactも出現しやすい。そこでこれらの問題を解決すべく技術はAdvanced Dynamic Flow(ADF)であった。ADFは高分解能、高フレームレート、低ブルーミング

    図1 浅大腿動脈狭窄症例a:Bモード画像 中央に内腔にプラークを認めるが、境界は不明瞭である。b:カラードプラ 狭窄部にモザイクを認める。しかし狭窄内腔の境界は不明瞭でありアーチファクトが生じている。c:ADF カラードプラよりは狭窄部にアーチファクトは生じていない。d:mSMI 狭窄部の内腔とプラークとの境界が明瞭であり、狭窄の程度が明瞭に観察できる。

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  • 14 映像情報メディカル 2016年5月

    はじめに~ PAD 診療におけるエコーの役割~

     動脈硬化性疾患が増加している近年、Global vascular managementの重要性が高まっており、特に循環器領域では冠動脈疾患にPeripheral Artery Disease(PAD)を合併している症例が増加している。PADの診断においては、ABI検査のみならず下肢動脈エコー検査は必須のモダリティでもある。本邦では透析患者が多い特徴もあり、今後PAD診療において非侵襲的なエコー検査は診断、治療効果判定、経過観察において重要と考える。またわれわれはPADの治療であるEndovascular therapy(EVT)においてエコーを積極的に活用している。エコーの非侵襲的かつ被曝がない、造影剤の必要がないという特徴を有効に活用し、治療モダリティと考えている。 このようなエコー検査において、近年の進歩したハイエンドエコー機の超音波像は有効である。しかし課題も存在する。そこで、東芝メディカルシステムズ社からカラードプラの欠点を克服すべくSuperb Micro-vascular Imaging(SMI)が開発され、エコーは新たなモダリティに発展したと筆者は考えている。今回このSMIの活用すべき有用性について述べる。

    下肢動脈エコーにおける問題点 エコー機器が進歩し、鮮明な画像が得られるようになった今日においても、下肢動脈エコー検査における困難な状況や課題が存在する。第一に短

    時間でのエコー検査の必要性である。下肢動脈エコー検査において困難さを感じる点は、観察範囲が他の部位の検査と比較し広いため、時間がかかることと、それによる煩雑化である。限られた外来診療の中でできるだけ短時間での精査を必要とする。自施設ではドプラ波形からの狭窄・閉塞の推定を頻用しているが、狭窄・閉塞部位を直接エコーで走査することも必要である。狭窄・閉塞の評価にカラードプラを併用するが、カラードプラは低流速の描出に劣ること、組織の動きと重なってしまうモーションアーチファクトがあること、frame rateが低い等の欠点を有する。よって早いプローブの動きでの走査は短時間化できるが、これらにより見落とす可能性もある。 次に高度石灰化症例における評価の困難さである。PAD患者は透析症例も多く、高度石灰化を伴っていることが頻回である。特にCLI症例の膝下動脈の評価時には、高度石灰化のため血流情報の評価が困難な状況を経験する。石灰化が強いとカラードプラでの血流評価には限界がある。 最後にEVTに直結する病変の情報が客観的に得られないという点である。閉塞病変に対するEVT前には、ガイドワイヤが通過しにくい固い病変かどうか、末梢塞栓を起こす可能性のある血栓性閉塞であるかなどは術者に有効な情報である。それにより手技時間の予測やデバイスの選択に役立つ可能性がある。

    SMI が有効な症例とは SMIはより微細で低流速血流を捕らえる新しい

    超音波診断装置の新境地―治療に直結する血流イメージング

    滝村英幸済生会横浜市東部病院 循環器内科

    特集

    PAD治療に直結するSuperb Micro-vascular Imaging(SMI)の活用

    Vol.48 No.5 15

    血流イメージングである。モーションアーチファクトも低減しており、素早い走査においてもアーチファクトの少ない画像の描出が可能となった。低流速血流をとらえることができることにより、狭窄部のより鮮明な動脈内腔の狭窄部血流の可視化、描出困難な状況での血流評価に役立つと考えられる。現状での問題点をいくつか列挙したが、SMIが威力を発揮した症例を提示する。

    1)下肢動脈狭窄部の明瞭化 下肢動脈は体表より比較的深部に位置している部位もあるため、狭窄・閉塞部の診断にはBモードのみでは見落とす可能性がある。図1に浅大腿

    動脈狭窄の症例を提示する。Bモードでは狭窄部の壁在プラークは認めるものの、内腔の無エコー部との境界が明瞭でないため狭窄率がわかるほどの描出は困難である(図1a)。そこでカラードプラによる診断が必要となる。通常、狭窄部は血流速度が上昇するため、カラードプラではモザイクを呈する(図1b)。モザイクが出るかを見ながら動脈を走査していく。狭窄・閉塞の診断は可能だが、狭窄部の狭窄程度が可視化されるほど明瞭ではなく、またPerivascular color artifactも出現しやすい。そこでこれらの問題を解決すべく技術はAdvanced Dynamic Flow(ADF)であった。ADFは高分解能、高フレームレート、低ブルーミング

    図1 浅大腿動脈狭窄症例a:Bモード画像 中央に内腔にプラークを認めるが、境界は不明瞭である。b:カラードプラ 狭窄部にモザイクを認める。しかし狭窄内腔の境界は不明瞭でありアーチファクトが生じている。c:ADF カラードプラよりは狭窄部にアーチファクトは生じていない。d:mSMI 狭窄部の内腔とプラークとの境界が明瞭であり、狭窄の程度が明瞭に観察できる。

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  • 16 映像情報メディカル 2016年5月

    枝が絡んでいることもあるため3D評価が有効な場合がある。以前は大きな3D用のプローブが必要であったが、最新バージョンのAplioシリーズにはsmart 3Dという機能があり、通常のプローブで2D画像をスキャンしたあと3D画像をその場で構築が可能となった。図2に蛇行した後脛骨動脈の画像を示す。2Dの1つの断面に描出困難であったが、smart 3D機能により容易に3D画像が構築でき、立体的な構造を把握することが容易であった。またその際にカラードプラやADFでは鮮明な血管のflowを描出できないことがあることから3D構築が難しいこともあったが、SMIにより鮮明に動脈位置関係を表すことができた。

    3)高度石灰化血液透析症例 下肢動脈エコー検査において、高度石灰化は評価を困難にする要因でもある。特に本邦は透析患者が多く、高度石灰化のためまったくエコーで観察が困難な症例も経験する。特に高度石灰化例においては音響陰影により血管内腔にカラードプラでflowがでないことも多い。図3にあえて描出が困難な前脛骨動脈の症例を提示する。Bモードでは前脛骨動脈は高度石灰化を呈しており、また前脛骨動脈より深部は音波が届いてない(図3a)。血管内腔もはっきりせず閉塞かどうかもBモードでは評価困難である。カラードプラでは一部にしかflowが見えない(図3b)。パワードプラやADF

    な画像を得ることができる。しかし改善はされたものの、実際には評価しにくい症例も経験された。そこでmSMIを用いると血流の描出にアーチファクトがなく、狭窄部が明瞭に描出することが可能であった(図1c)。SMIの記録時における画像設定は主に“Time Smooth”であるが、この調節により血流をさまざまなニュアンスで可視できるので、ぜひ設定を変えながらの観察をお勧めする。mSMIはシネMRのような画像表現であり、まさに鮮明な画像を得ることが可能となった。

    2)3次元的位置関係の把握 エコーは2Dであり、検者が任意の場所を走査することで画像が得られる検査である。立体的構造は2D上に描出可能な平面にあれば、それを描出し画像を得ることができる。しかし1つの平面上に描出できることは少なく、走査しながら検者の頭の中で3D画像を構築しながら検査することが重要である。またそれはエコー検査ではレポートにシェーマと言葉でしか表現ができなかった。現在CT、MRIにおいては3D、4D画像が診断において頻用されており、エコーにおいても3D画像は有用である。血管領域においては、蛇行血管の走行位置関係や、仮性動脈瘤、動静脈瘻の評価に有効と考えている。インターベンション後の穿刺部に生じる医原性の動静脈瘻は、単純に伴走する動静脈間で起こった瘻だけでなく、周囲の分

    図2 蛇行した後脛骨動脈症例a:1つの平面に蛇行した動脈の描出は困難である。b:smart3D機能より構築した3DcSMI画像。SMIにより鮮明に動脈位置関係がわかる。

    a b

    Vol.48 No.5 17

    でも同様である(図3c、d)。一方、cSMIを用いると高度石灰化の動脈内腔にしっかりとflowを確認することができる(図3e)。このようにこれまでは高度石灰化により血流の確認が困難であった症例においても、SMIにより評価が可能となり見落とすことなく評価が可能となった。よって検査時間の短縮にも繋がる。 もう1例、高度石灰化の大腿動脈の症例を提示する。Bモードでは内腔に突出する高度石灰化病変を認めた。動脈壁も高度石灰化を呈している

    (図4a)。ここでカラードプラにて血流を確認すると、強い超音波反射体である石灰化病変にのみモザイクが生じてしまい、その後方はTwinkling artifactが生じている(図4b)。また血管内腔には全くカラードプラがのっていない。血流評価が不可能なためパワードプラを用いると、石灰化プラークと血管内腔ともにすべてにカラーがのってしまい識別が困難である(図4c)。ADFでもPeri-

    vascular color artifactも生じており評価困難である(図4d)。そこでcSMIを用いると一部音響陰影の部分はflowが切れてしまっているが、他のドプラ法と比較し石灰化プラークにはカラーがのらず、しっかりとflowのある部位のみをとらえている(図4e)。よってこれまでは高度石灰化があると内腔の狭窄の評価が不可能であった症例もSMIにより可能である。

    4)完全閉塞病変に対する術前評価 EVT術前のエコー検査では特に穿刺部や病変の性状の情報が求められる。特に前述したように閉塞病変に対するEVT前には、ガイドワイヤが通過しにくい固い病変かどうか、末梢塞栓を起こす可能性のある血栓性閉塞であるかなどの情報を術者は得たい。われわれは以前よりこれらの情報を得るため、Vascular Elastography(VE)により完 全 閉 塞 病 変 に 対 し て 術 前 に 評 価・ 分 類

    図3 描出が困難な前脛骨動脈症例a:Bモード 前脛骨動脈は高度石灰化しており深部は音波が届いてない。b:カラードプラ 一部にしかflowが見えない。c:パワードプラ 音響陰影によりflowが感知できていない。d:ADF 同様である。e:cSMI 高度石灰化の動脈内腔にしっかりとflowを確認することができる。

    a cb

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  • 16 映像情報メディカル 2016年5月

    枝が絡んでいることもあるため3D評価が有効な場合がある。以前は大きな3D用のプローブが必要であったが、最新バージョンのAplioシリーズにはsmart 3Dという機能があり、通常のプローブで2D画像をスキャンしたあと3D画像をその場で構築が可能となった。図2に蛇行した後脛骨動脈の画像を示す。2Dの1つの断面に描出困難であったが、smart 3D機能により容易に3D画像が構築でき、立体的な構造を把握することが容易であった。またその際にカラードプラやADFでは鮮明な血管のflowを描出できないことがあることから3D構築が難しいこともあったが、SMIにより鮮明に動脈位置関係を表すことができた。

    3)高度石灰化血液透析症例 下肢動脈エコー検査において、高度石灰化は評価を困難にする要因でもある。特に本邦は透析患者が多く、高度石灰化のためまったくエコーで観察が困難な症例も経験する。特に高度石灰化例においては音響陰影により血管内腔にカラードプラでflowがでないことも多い。図3にあえて描出が困難な前脛骨動脈の症例を提示する。Bモードでは前脛骨動脈は高度石灰化を呈しており、また前脛骨動脈より深部は音波が届いてない(図3a)。血管内腔もはっきりせず閉塞かどうかもBモードでは評価困難である。カラードプラでは一部にしかflowが見えない(図3b)。パワードプラやADF

    な画像を得ることができる。しかし改善はされたものの、実際には評価しにくい症例も経験された。そこでmSMIを用いると血流の描出にアーチファクトがなく、狭窄部が明瞭に描出することが可能であった(図1c)。SMIの記録時における画像設定は主に“Time Smooth”であるが、この調節により血流をさまざまなニュアンスで可視できるので、ぜひ設定を変えながらの観察をお勧めする。mSMIはシネMRのような画像表現であり、まさに鮮明な画像を得ることが可能となった。

    2)3次元的位置関係の把握 エコーは2Dであり、検者が任意の場所を走査することで画像が得られる検査である。立体的構造は2D上に描出可能な平面にあれば、それを描出し画像を得ることができる。しかし1つの平面上に描出できることは少なく、走査しながら検者の頭の中で3D画像を構築しながら検査することが重要である。またそれはエコー検査ではレポートにシェーマと言葉でしか表現ができなかった。現在CT、MRIにおいては3D、4D画像が診断において頻用されており、エコーにおいても3D画像は有用である。血管領域においては、蛇行血管の走行位置関係や、仮性動脈瘤、動静脈瘻の評価に有効と考えている。インターベンション後の穿刺部に生じる医原性の動静脈瘻は、単純に伴走する動静脈間で起こった瘻だけでなく、周囲の分

    図2 蛇行した後脛骨動脈症例a:1つの平面に蛇行した動脈の描出は困難である。b:smart3D機能より構築した3DcSMI画像。SMIにより鮮明に動脈位置関係がわかる。

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    Vol.48 No.5 17

    でも同様である(図3c、d)。一方、cSMIを用いると高度石灰化の動脈内腔にしっかりとflowを確認することができる(図3e)。このようにこれまでは高度石灰化により血流の確認が困難であった症例においても、SMIにより評価が可能となり見落とすことなく評価が可能となった。よって検査時間の短縮にも繋がる。 もう1例、高度石灰化の大腿動脈の症例を提示する。Bモードでは内腔に突出する高度石灰化病変を認めた。動脈壁も高度石灰化を呈している

    (図4a)。ここでカラードプラにて血流を確認すると、強い超音波反射体である石灰化病変にのみモザイクが生じてしまい、その後方はTwinkling artifactが生じている(図4b)。また血管内腔には全くカラードプラがのっていない。血流評価が不可能なためパワードプラを用いると、石灰化プラークと血管内腔ともにすべてにカラーがのってしまい識別が困難である(図4c)。ADFでもPeri-

    vascular color artifactも生じており評価困難である(図4d)。そこでcSMIを用いると一部音響陰影の部分はflowが切れてしまっているが、他のドプラ法と比較し石灰化プラークにはカラーがのらず、しっかりとflowのある部位のみをとらえている(図4e)。よってこれまでは高度石灰化があると内腔の狭窄の評価が不可能であった症例もSMIにより可能である。

    4)完全閉塞病変に対する術前評価 EVT術前のエコー検査では特に穿刺部や病変の性状の情報が求められる。特に前述したように閉塞病変に対するEVT前には、ガイドワイヤが通過しにくい固い病変かどうか、末梢塞栓を起こす可能性のある血栓性閉塞であるかなどの情報を術者は得たい。われわれは以前よりこれらの情報を得るため、Vascular Elastography(VE)により完 全 閉 塞 病 変 に 対 し て 術 前 に 評 価・ 分 類

    図3 描出が困難な前脛骨動脈症例a:Bモード 前脛骨動脈は高度石灰化しており深部は音波が届いてない。b:カラードプラ 一部にしかflowが見えない。c:パワードプラ 音響陰影によりflowが感知できていない。d:ADF 同様である。e:cSMI 高度石灰化の動脈内腔にしっかりとflowを確認することができる。

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  • 18 映像情報メディカル 2016年5月

    管内にわずかなflowを確認することができた(図5e)。VEの所見と一致しており、おそらくマイクロチャネルと思われるチャネルの存在が示唆され、カラードプラでは感知できないくらいのflowがあると考えられる。 自施設ではカテーテル治療時においても超音波を活用しており、特にエコーガイド下ワイヤリングを行っている。それにより浅大腿動脈(superfi-cial femoral artery:SFA)の完全閉塞病変の成功率はエコーガイドによる順行性アプローチのみで98%であった。よってこの病変に対してもエコーガイド下ワイヤリングを行い、先端荷重2gの軟らかいポリマージャケットコーティングのガイドワイヤが容易に数分で通過可能であった(図5f)。よってこれまでの術前評価よりも直接治療に結びつく評価がSMIにより可能であり、手技のストラテジの決定に有効と考える。またEVT術

    (VE score)し、血栓性閉塞やCTO内の硬さに関する性状を予測し、デバイス選択などに活用している1)。特にVE score4の病変は、閉塞血管内にマイクロチャネルと思われる軟らかい部位が存在しており、その症例に対しては先端荷重が1~2g程度の軟らかいポリマージャケットコーティングのガイドワイヤが容易に短時間で通過することを報告した。図5は右浅大腿動脈の慢性完全閉塞病変の症例である。図5aに血管造影を示す。図5bに病変部位のPanoramic viewを示す。浅大腿動脈入口部から完全閉塞を認める。カラードプラでは閉塞部の中枢側にflowを認めが、閉塞内にはflowは認められなかった(図5c)。図5dはPan-oramic viewにVEを重ね合わせたものである。閉塞内に横線状上に緑から赤の部位が認められ、閉塞内にも硬度が異なる部位が存在しており、VE score4と判断される。mSMIで観察すると閉塞血

    図4 高度石灰化大腿動脈症例a:Bモード 内腔に突出する高度石灰化病変を認める。b:カラードプラ 強い超音波反射体である石灰化病変にのみモザイク、Twinklingartifactが生じている。血管内腔には全くカラードプラがのっていない。

    c:パワードプラ 石灰化プラークと血管内腔ともにすべてにのってしまい識別が困難。d:ADF Perivascularcolorartifactも生じており評価困難。e:cSMI 石灰化にはカラーがのらず、血流のある部位のみをとらえている。

    a cb

    d e

    Vol.48 No.5 19

    後の穿刺部の止血確認にエコーは有用であるが、血腫が生じるとエコーが見えにくくなることを経験する。その際にもカラードプラでは血流が見えにくく、止血の評価が困難であった。そのような場合にもSMIはflowを描出することができるため有効であると考える。また微細な血流を感知することから止血の確実性も向上させることができるであろう。

    まとめ 今回PAD診療における現時点でのSMIの有効

    な活用症例を中心に述べた。エコーは診断モダリティでもありながら、もはや治療モダリティへと発展している。このSMIは今まで感知できなかった微細な血流を評価できる特徴から、エコーが直接治療に結びつくモダリティへとさらに発展したと考える。今後もさらなる有効な活用法を検討するとともにさらなるエコー技術の進歩を期待したい。

      参考資料1) Takimura H et al: Vascular Elastography:A Novel

    Method to Characterize Occluded Lower Limb Ar-teries Prior to Endovascular Therapy. J ENDOVASC THER 21(5): 654-661, 2014

    図5 高度石灰化大腿動脈症例a:血管造影 浅大腿動脈中枢側からの閉塞を認める。b:Panoramicview 閉塞内には石灰化や輝度の異なる部位が混在してる。

    c:カラードプラ 閉塞内にはflowは認められない。d:VascularElastography 塞内に横線状上に緑から赤の部位が認められ、閉塞内に硬度の低い部位が連続して存在している(矢印)。

    e:mSMI 閉塞内にわずかなflowを確認することができた(矢印)。

    f:エコーガイド下ワイヤリング ガイドワイヤが容易に数分で通過可能であった。

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  • 18 映像情報メディカル 2016年5月

    管内にわずかなflowを確認することができた(図5e)。VEの所見と一致しており、おそらくマイクロチャネルと思われるチャネルの存在が示唆され、カラードプラでは感知できないくらいのflowがあると考えられる。 自施設ではカテーテル治療時においても超音波を活用しており、特にエコーガイド下ワイヤリングを行っている。それにより浅大腿動脈(superfi-cial femoral artery:SFA)の完全閉塞病変の成功率はエコーガイドによる順行性アプローチのみで98%であった。よってこの病変に対してもエコーガイド下ワイヤリングを行い、先端荷重2gの軟らかいポリマージャケットコーティングのガイドワイヤが容易に数分で通過可能であった(図5f)。よってこれまでの術前評価よりも直接治療に結びつく評価がSMIにより可能であり、手技のストラテジの決定に有効と考える。またEVT術

    (VE score)し、血栓性閉塞やCTO内の硬さに関する性状を予測し、デバイス選択などに活用している1)。特にVE score4の病変は、閉塞血管内にマイクロチャネルと思われる軟らかい部位が存在しており、その症例に対しては先端荷重が1~2g程度の軟らかいポリマージャケットコーティングのガイドワイヤが容易に短時間で通過することを報告した。図5は右浅大腿動脈の慢性完全閉塞病変の症例である。図5aに血管造影を示す。図5bに病変部位のPanoramic viewを示す。浅大腿動脈入口部から完全閉塞を認める。カラードプラでは閉塞部の中枢側にflowを認めが、閉塞内にはflowは認められなかった(図5c)。図5dはPan-oramic viewにVEを重ね合わせたものである。閉塞内に横線状上に緑から赤の部位が認められ、閉塞内にも硬度が異なる部位が存在しており、VE score4と判断される。mSMIで観察すると閉塞血

    図4 高度石灰化大腿動脈症例a:Bモード 内腔に突出する高度石灰化病変を認める。b:カラードプラ 強い超音波反射体である石灰化病変にのみモザイク、Twinklingartifactが生じている。血管内腔には全くカラードプラがのっていない。

    c:パワードプラ 石灰化プラークと血管内腔ともにすべてにのってしまい識別が困難。d:ADF Perivascularcolorartifactも生じており評価困難。e:cSMI 石灰化にはカラーがのらず、血流のある部位のみをとらえている。

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    Vol.48 No.5 19

    後の穿刺部の止血確認にエコーは有用であるが、血腫が生じるとエコーが見えにくくなることを経験する。その際にもカラードプラでは血流が見えにくく、止血の評価が困難であった。そのような場合にもSMIはflowを描出することができるため有効であると考える。また微細な血流を感知することから止血の確実性も向上させることができるであろう。

    まとめ 今回PAD診療における現時点でのSMIの有効

    な活用症例を中心に述べた。エコーは診断モダリティでもありながら、もはや治療モダリティへと発展している。このSMIは今まで感知できなかった微細な血流を評価できる特徴から、エコーが直接治療に結びつくモダリティへとさらに発展したと考える。今後もさらなる有効な活用法を検討するとともにさらなるエコー技術の進歩を期待したい。

      参考資料1) Takimura H et al: Vascular Elastography:A Novel

    Method to Characterize Occluded Lower Limb Ar-teries Prior to Endovascular Therapy. J ENDOVASC THER 21(5): 654-661, 2014

    図5 高度石灰化大腿動脈症例a:血管造影 浅大腿動脈中枢側からの閉塞を認める。b:Panoramicview 閉塞内には石灰化や輝度の異なる部位が混在してる。

    c:カラードプラ 閉塞内にはflowは認められない。d:VascularElastography 塞内に横線状上に緑から赤の部位が認められ、閉塞内に硬度の低い部位が連続して存在している(矢印)。

    e:mSMI 閉塞内にわずかなflowを確認することができた(矢印)。

    f:エコーガイド下ワイヤリング ガイドワイヤが容易に数分で通過可能であった。

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