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磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授) 第9回スピントロニクス入門セミナー 2010.12.07

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Page 1: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

磁性の基礎

JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括

佐藤勝昭

(東京農工大学名誉教授)

第9回スピントロニクス入門セミナー20101207

1はじめに

半導体の人は「磁性はわかりにくい」というまず基礎となる原子の磁気モーメント原子間交換相互作用などの概念が難しいそれも金属磁性体と絶縁性磁性体とで異なった電子状態を考える必要があり概念がつかみにくい

スピンに依存するバンド構造それにもとづくハーフメタルの概念やスピンに依存するトンネル電気伝導スピン注入磁化反転のように難解な先端的な話題が多い

その一方では強磁性体の特徴ともいえる磁気ヒステリシスや磁区が物質固有のものではなく形状サイズ構造に対する敏感性をもちミクロな磁性では説明できず巨視的な磁気モーメントの運動を考えなければならないこと等々大学特に工学部の学士課程では教えきれないくらい多岐にわたる物理現象が関連していることが「わかりにくさ」の原因である

この解説では細かい枝葉の厳密性には目をつぶって磁性についてのおよその概念をつかんでいただくことをめざす

2磁性の起源

バンドモデル(遍歴電子磁性)

遷移金属合金

局在モデル(局在電子磁性)

遷移金属酸化物

共存モデル

希土類金属

希薄磁性半導体

強磁性(Ferromagnetism)

Ferroというのは「鉄の」という意味で鉄に代表されるよう

な磁気的性質という意味である

鉄に代表される性質とは外部磁界を加えなくても磁化をもつ即ち自発磁化をもつことである

強磁性体の例遷移金属 Fe Co Ni

遷移金属合金Fe1-xNix Fe1-xCox Co1-xCrx Co1-xPtx Sm1-xCox

金属間化合物PtMnSb MnBi NdFe2B14

酸化物カルコゲナイドニクタイドハライドLa1-xSrxMnO3 CrO2 CdCr2S4 Cr3Te4 MnP CrBr3

21 バンドモデル

通常の磁性の教科書は原子磁石から出発して常磁性を説明し原子間交換相互作用をつかって強磁性反強磁性などを説明し分子場理論で磁化の温度変化キュリー温度などを説明する局在電子モデルに基づいており金属のバンドモデルにもとづく遍歴電子磁性に触れるのはその後になっている

一方半導体を学んできた研究者にとってはバンドモデルを出発点にすることに慣れているまたスピンエレクトロニクスにおいてはスピン偏極バンドをベースに考えることが多い

ここではバンドモデルにもとづく金属磁性を出発点にとって電子相関の強い極限として局在モデルを扱う

スレーターポーリング曲線

種々の遷移金属合金について1原子あたりの原子磁気モーメントと平均電子数の関係を示した曲線

Crから始まって45の傾斜で上昇する半直線かFe30Co70付近からNi60Cu40に向かって-45で下降す

る半直線のいずれかに載っている Fe Co Niの磁気モーメントはそれぞれ22 17 06μB

この値はフント則から期待される値より小さい

鉄のバンド構造

磁性体といえばだれもが鉄Feを思い浮かべるFeは金属である

一般に金属であればエネルギーバンドモデルでは伝導帯の電子状態の一部が占有され残りが空いているような電子構造を持つはずである

通常金属と遷移金属の状態密度

(a)はアルカリ金属(NaKなど)のs電子に由来するバンド状態密度である

(b)は磁性をもたない遷移金属のバンド状態密度であるS電子帯に加えて狭く状態密度の高いd電子帯が重畳している

(b)

Energy

bullDOS

EFEC

(a)

Energy

bullDOS

EFEC

常磁性金属と強磁性遷移金属

磁性がある場合のエネルギーバンドを考えるに当たっては電子のスピンごとにバンドを考えなければならない右側が上向きスピン左側が下向きスピンを持つ電子の状態密度である

普通の非磁性金属では図(a)のように左右対称となるこれに対し強磁性体では図(b)に示すように上向きスピンバンドと下向きスピンバンドとに分裂する分裂は狭い3dバンドで大きく広いspバンドでは小さい この分裂を交換分裂という

DOS(down spin)

EC

EF

(b)

uarrdarr

DOS(up spin)

E

DOS(up spin)

EC

EF

(a)

uarrdarr

DOS(down spin)

強磁性金属のスピン偏極バンド構造

Callaway Wang Phys Rev B16(lsquo97)2095

uarrスピンバンド

darrスピンバンド

uarrスピンバンドとdarrスピンバンドの占有状態密度の差によって磁気モーメントが決まる

FeとNiのバンド状態密度

Ni

スピン状態密度

Ef

E

Fe

スピン状態密度

E

Ef

Niはuarrスピンバンドは満ちdarrバンドにはわずかな正孔しかないnuarr-ndarr=06

Feはuarrスピンバンドに比しdarrバンドの状態密度がかなり小さいnuarr-ndarr=22

darrバンドに06個の

空孔があるとCuからs電子が流れこみCuが40合金したとき

モーメントを失う

ハーフメタルとは

(a)通常の強磁性体金属はup spin down spinとも金属的

(b)Half metalではup spinは金属down spinは半導体

DOS(downspin)

EC

EF

(a)

uarrdarr

DOS(up spin)

E

DOS(down spin)

EC

EF

(b)uarr

darr

E

DOS(up spin)

darr

ハーフメタルとスピンエレクトロニクス

たとえば磁気トンネル接合(MTJ)素子のところで出てくるホイスラー合金Co2CrAlなどがその例

上向きスピンのバンドを見る限り金属のように伝導帯の一部が占有された構造をとるのに対し下向きスピンのバンドにおいては半導体のように電子に占有された価電子帯と電子に占有されない伝導帯がバンドギャップを隔てて分かれておりフェルミ準位はバンドギャップの中に存在する

このような構造をとるとフェルミ準位における電子状態は100スピン偏極するMTJにおいて磁気抵抗比はスピン偏極率の関数で与えられるのでハーフメタルが注目される

ハーフメタルCo2MnGe

uarrスピンは金属 darrスピンは半導体 Geの一部をGaに置き換えるとスピン

偏極率が上がる

L21 X2YZ

バンドと電子相関

通常のバンド計算では電子間の位置の相関を平均的なものに置き換える近似を行うので真の電子間相互作用は求まらない

バンドモデルが適用できるのは金属磁性体に限られるMnOやNiOのような絶縁性の磁性体を単純にバンド計算すると金属になってしまうこれは電子相関が考慮されていないからである

電子相関とはフントの規則のように電子同士のクーロン相互作用がスピンに依存することから生じるつまり同じ向きのスピンをもつ2つの電子は同じ軌道に入ることがないので重なりが小さくクーロン相互作用も小さいが逆向きスピンの2つの電子は同じ軌道を運動できるのでクーロン相互作用が強くなってエネルギー的に不安定になるため電子の移動を妨げる効果であるこの2つの状態の間のエネルギー差は電子相関エネルギーと呼ばれUで表され数eVのオーダーである

22 ハバードモデル

バンドモデルに電子相関を導入する手法がハバードモデルであるFig 3は横軸をUにとったとき電子のエネルギー準位がUに対しどのように変わるかを示した図であるここにはバンド幅で電子の移動のしやすさの尺度であるT0は満ちたバンドの平均エネルギーである

バンド幅が電子相関エネルギーに比べ十分小さなときすなわちUltlt2312のときは禁制帯が現れ系は絶縁体となるU0は局在性の強い極限で電子移動が起きるにはUだけ余分のエネルギーが必要であるこのため電子は原子付近に束縛され局在電子系として振る舞う

lower Hubbard band

upper Hubbard band

電荷移動型絶縁体

MnOは電荷移動型絶縁体と考えられているMn2+においては3d電子5個がスピンを揃えてlower Hubbard bandの5個の軌道を占有しているここに1個電子を付け加えようとすると逆向きのスピンを付け加えなければならないのでupper Hubbardbandに入り電子相関Uだけエネルギーを損する

実際には酸化物イオンのp軌道からなる価電子帯が満ちたバンドの頂にくるのでギャップはこの状態と3d電子系のupperHubbard bandの間に開いているこれを電荷移動型ギャップという

CT(電荷移動)ギャップ

Lower Hubbard band

Upper Hubbard band

電子相関U

23 局在電子モデル

原子の位置に局在した多電子系では通常フントの規則に従うように軌道角運動量とスピン角運動量が決められる

3d遷移金属イオンでは3d電子が配位子のp軌道と

混成し軌道角運動量はほぼ消失している

4f希土類では4f軌道は孤立原子内の状態とあまり変わらないので全角運動量がよい量子数である

局在電子系の磁性

常磁性体に誘起される平均の磁気モーメントは室温でB=100mTの磁界のもとでも10-2emucc程度の小さな量である

これに対して強磁性体では磁界を印加しなくても103emuccという大きな自発磁気モーメントを持っている

ワイスは原子の磁気モーメントが周りの磁気モーメントからの場(分子場)を受けて整列しているというモデルを立てて強磁性体の自発磁化を説明した

24 ワイスの分子場理論

1つの磁気モーメントを取り出しその周りにあるすべての磁気モーメントから生じた有効磁界によって考えている磁気モーメントが常磁性的に分極するならば自己完結的に強磁性が説明できる

これを分子場理論有効磁界を分子磁界または分子場(molecular field)と呼ぶ

Heff

周りからの磁場Heff=H+AMが働く磁化M

分子場理論

分子場係数

磁化Mをもつ磁性体に外部磁界Hが加わったときの有効磁界はHeff=H+AMと表されるAを分子場係数と呼ぶ

分子場係数AはJexを交換相互作用係数zを配位数としてA=2zJexN(gB)2で与えられる

この磁界によって生じる常磁性磁化MはM=M0BJ(gBHeffJkT)という式で表される

M0=NgBJはすべての磁気モーメントが整列したときに期待される磁化

分子場理論

自発磁化が生じる条件を求める

Heff=H+AMであるからH=0のときHeff=AM自発磁化が生じるにはHeff=AMを

M=M0BJ(gBHeffJkT)に代入して

MM0=BJ(gBJHeffkT)=BJ(gBJAMkT)が成立しなければならない

Aに分子場係数の式A=2zJexN(gB)2 を代入してMM0= BJ(2zJexgBMJ N(gB)2kT)

ここでM0=NgBJを使って書き直すとMM0= BJ((2zJexJ

2kT) MM0)を得る

MM0= BJ((2zJexJ2kT) MM0)を解く

y=MM0x=(2zJexJ2kT) MM0とすると上の方程式を解

くことは曲線y=BJ(x)と直線 y=x (2zJexJ2kT)を連立して

解くことと同じである

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

J=52のブリルアン関数

y=x (2zJexJ2kT) Tが小さいとき

解が存在する自発磁化あり

y=x (2zJexJ2kT) Tが大きいとき

解が存在しない自発磁化なし

キュリー温度においては直線はブリルアン関数の接線

温度が上がると

分子場理論

キュリー温度

温度が低いとき直線の傾斜はゆるくブリルアン曲線と直線ははy=MM0 =1付近で交わる

温度が上昇するとyの小さいところ交わる

高温になると0以外に交点を持たなくなる

(2zJexJ2kT) y=xの勾配とy=BJ(x)の接線の勾配

が等しいときがキュリー温度を与える

x=0付近ではyx3であるから3y=xと書ける従ってTcは2zJexJ

2kTc=3によってきまる即ちTc=2zJexJ

23kとなる

分子場理論

自発磁化の温度変化

さまざまなJについて分子場理論で交点のMM0をTに対してプロットすると磁化の温度変化を求めることができるニッケルの磁化温度曲線はJ=12でよく説明される timesは鉄はニッケルはコバルトの実測

値実線はJとしてスピンS=121infinをとった

ときの計算値

分子場理論

キュリーワイスの法則

キュリー温度Tc以上では磁気モーメントはバラバラ

の方向を向き常磁性になる分子場理論によればこのときの磁化率は次式で与えられる

この式をキュリーワイスの法則という

Cはワイス定数pは常磁性キュリー温度という

1をTに対してプロットすると1=(T- p)Cとなり横軸を横切る温度がpである

pT

C

分子場理論

キュリーワイスの法則を導く

Heff=H+AM

MHeff=CT (MとHeffの間にキュリーの法則が成立すると仮定する)

M(H+AM)=CTrarrMT=C(H+AM)従ってM(T-CA)=CHより

=MH=C(T-CA)となるCA=pと置けばキュリーワイスの法則が導かれるすなわち=C(T- p)

自発磁化の温度変化

強磁性体の自発磁化の大きさは温度上昇とともに減少しキュリー温度Tcにおいて消滅する

Tc以上では常磁性であ

る常磁性磁化率の逆数は温度に比例しゼロに外挿するとキュリー温度が求まる

25 交換相互作用(exchange interaction)

交換相互作用という言葉はもともとは多電子原子の中で働くクーロン相互作用の算出において電子同士を区別できないことから来るエネルギーの補正項のことで原子内交換相互作用といいます(intra-atomic exchange interaction)

この概念を原子間に拡張したのが原子間交換相互作用(inter-atomic exchangeinteraction)です

ウンチクコーナーイントラ(intra)とインター(inter) イントラは内部のといういみの接頭辞インターは複数のものの

間のという意味の接頭辞ですイントラネットインターネットということばもここから来ています

原子内交換相互作用

原子内交換相互作用は本質的にクーロン相互作用です2つの電子(波動関数を12とする)の間に働くクーロン相互作用のエネルギーHはH= K12-(12) J12(1+4s1s2) で表されます

K12は次式で与えられるクーロン積分です

J12は次式で与えられる交換積分で電子が区別できないことからくる項です

K dr dr r re

rr r12 1 2 1 1 2 2

2

12

1 1 2 2

J dr dr r re

rr r12 1 2 1 1 2 2

2

12

1 2 2 1

原子内交換相互作用

H= K12-(12) J12(1+4s1s2)

の固有値は=K12ndashJ12 (s1とs2が同符号のとき)= K12 ( s1とs2が異符号のとき)

Hと平均のエネルギー(H0=K12-J122)との差ndash2J12s1s2のことを原子内交換エネルギーという

K12

K12-J12

原子間交換相互作用

本来磁気秩序を考えるには物質系全体のスピンを考えねばならないのであるが電子の軌道が原子に局在しているみなして電子のスピンを各原子Iの位置に局在した全スピンSiで代表させて原子1の全スピンS1と原子2の全スピンS2との間に原子間交換相互作用が働くと考えるのがハイゼンベルグ模型であるこのとき交換エネルギーHex は原子内交換相互作用を一般化して見かけの交換積分J12を用いて

Hex =-2J12S1S2

で表されるJが正であれば相互作用は強磁性的負であれば反強磁性的である

交換相互作用

ハイゼンベルグ模型 Hex =-2J12S1S2

Jが正であれば相互作用は強磁性的負であれば反強磁性的

交換積分の起源隣接原子のスピン間の直接交換(direct exchange)

酸素などのアニオンのp電子軌道との混成を通してスピン同士がそろえあう超交換(superexchange)

伝導電子との相互作用を通じてそろえあう間接交換(indirect exchange)

電子の移動と磁性とが強く結びついている二重交換相互作用(double exchange)

さまざまな交換相互作用

直接交換

超交換

間接交換(RKKY)

二重交換

超交換相互作用

酸化物磁性体では局在電子系の磁気モーメントの間に働く相互作用は遷移金属の3d電子どうしの重なりで生じるのではなく配位子のp電子が遷移金属イオンの3d軌道に仮想的に遷

移した中間状態を介して相互作用するこれを超交換相互作用と称する主として反強磁性的に働く

酸素イオン

遷移金属イオン

超交換相互作用模式図

90度強磁性

180度反強磁性

(Goodenough)

アニオン

遷移金属イオン

アニオン

遷移金属イオン

(a)

(b)

Fig 9 超交換相互作用の模式図

間接交換(RKKY)相互作用

希土類金属の磁性は4f電子が担うが伝導電子である5d電子が4f電子と原子内交換相互作用することによってスピン偏極を受けこれが隣接の希土類原子のf電子と相互作用するという形の間接的な交換相互作用を行っていると考えられている

これをRKKY (Rudermann Kittel Kasuya Yoshida)相互作用という

伝導電子を介した局在スピン間の磁気的相互作用は距離に対して余弦関数的に振動しその周期は伝導電子のフェルミ波数で決められる

RKKY振動

フリーデル振動

21F

2

F

2

RKKY 29 SS

Rkf

N

NJH e

4

sincos

x

xxxxf

CoCu superlattice

Cu thickness (Aring)

磁気抵

抗比

図15

二重交換相互作用

LaMnO3ではすべてのMn原子は3価なので egバンドには1個の電子が存在しこの電子が隣接Mn原子のeg軌道に移動しようとすると電子相関エネルギーUだけのエネルギーが必要であるため電子移動は起きずモット絶縁体となっている

LaをSrで置き換え4価のMnが生じるとMn4+のeg軌道は空であるから他のMn3+から電子が移ることができ金属的な導電性を生じる

このとき隣接するMn原子の磁気モーメントのなす角とするとeg電子の飛び移りの確率はcos( 2)に比例する=0(スピンが平行)のとき飛び移りが最も起きやすく運動エネルギーの分だけエネルギーが下がるので強磁性となる

二重交換の模式図

Mn3+ Mn4+

3磁気ヒステリシス曲線と磁区

磁気ヒステリシスについて

反磁界と静磁エネルギー

磁気異方性

磁区と磁壁磁壁移動と磁化回転

保磁力

31 磁気ヒステリシス

強磁性体においてはその磁化は印加磁界に比例せずヒステリシスを示す

(高梨初等磁気工学講座テキスト)

OrarrBrarrC初磁化曲線

CrarrD 残留磁化

DrarrE 保磁力

CrarrDrarrErarrFrarrGrarrC

ヒステリシスループ

縦軸磁化

横軸磁界

[参考]

磁化曲線の測定法

磁性体を磁界中に置き磁界を増加していくと磁性体の磁化は増加していき次第に飽和する

磁化曲線は磁力計を使って測定する

VSM試料振動型磁力計試料を01~02mm程度のわずかな振幅で80Hz程度の低周波で振動させ試料の

磁化による磁束の時間変化を電磁石の磁極付近に置かれたサーチコイルに誘起された誘導起電力として検出する誘導起電力は試料の磁化に比例するので磁化を測定することができる

電磁石

磁極付近に置いたサーチコイル

スピーカーと同じ振動機構

[参考]

VSMブロック図

丸善実験物理学講座「磁気測定I」p68より

磁気ヒステリシスと応用

保磁力のちがいで用途が違う

Hc小軟質磁性体

磁気ヘッド変圧器鉄心磁気シールド

Hc中半硬質磁性体

磁気記録媒体

Hc大硬質磁性体

永久磁石このループの面積が磁石に蓄積される磁気エネルギー高周波の場合はヒステリシス損失となる

永久磁石の最大エネルギー積(BH)maxの変遷(httpwwwaacgbhamacukmagnetic_materialshistoryhtm)

BHmax

32 なぜ初磁化状態では磁化がないのか磁区(magnetic domain)

磁化が特定の方向を向くとするとN極からS極に向

かって磁力線が生じますこの磁力線は考えている試料の外を通っているだけでなく磁性体の内部も貫いていますこの磁力線を反磁界といいます反磁界の向きは磁化の向きとは反対向きなので磁化は回転する静磁力を受けて不安定となります

磁化の方向が逆方向の縞状の磁区と呼ばれる領域に分かれるならば反磁界がうち消し合って静磁エネルギーが低下して安定するのです

反磁界(demagnetization field)

磁性体表面の法線方向の磁化成分をMn とすると表面には単位面積あたり = Mnという大きさの磁極(Wbm2)が生じる

磁極からはガウスの定理によって全部で μ0の磁力線がわき出すこのうち反磁界係数Nを使って定義される磁力線NMは内部に向かっており残りは外側に向かっているすなわち磁石の内部ではMの向きとは逆方向の反磁界が存在する

外部では磁束線は磁力線に一致する

(b) 磁力線

M- +

(a)磁化と磁極 反磁界

S N

S N

(c) 磁束線

反磁界係数N (近角強磁性体の物理より)

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0

(i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+ Ny+ Nz=1

が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx= Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx= Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

x

y

z

z

x

y

z

x

y

Nz=1

Nx= 0Ny= 0

Nx= 12

Ny= 12

Nx=13

Ny=13

Nz=13

Nz=0

反磁界補正

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0 (i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+Ny+ Nz=1が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx=Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx=Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

(近角強磁性体の物理より)

反磁界と静磁エネルギー

磁化Mが反磁界HdのもとにおかれるとU=MHdだけポテンシャルエネルギーが高くなる

一様な磁界H中の磁気モーメントMに働くトルクTはT=-MH sin

磁気モーメントのもつポテンシャルEはU=Td= - 0

MH sin d=MH (1-cos) エネルギーの原点はどこにとってもよいのでポテンシャルエネルギーはU=-MHと表される H=-Hdを代入すると反磁界によるポテンシャルの増加はU=MHd

表面磁極の分割による静磁エネルギーの減少

結晶表面をxy面にとる

表面でz=0とする

磁区の磁化方向はplusmnz

磁区のx方向の幅d

磁極の表面密度=Is 2mdltxlt(2m+1)d

=-Is (2m+1)dltxlt2(m+1)d

磁気ポテンシャルをLaplaceの方程式で求め

+ +- -

z

x

y

d

境界条件( z)z=-0=20

境界条件のもとにラプラス方程式を解くと=n An sin n(d)xexp n(d)z

係数Anは次式を満たすように決められる(d) n nAn sin n(d)x =I20 2mdltxlt(2m+1)d

= - I20 (2m+1)dltxlt2(m+1)d

rarrAn=2Isd20n2

(x=0)=(2Isd20) n (1n2)sin n(d)x

単位表面積あたりの静磁エネルギー=(2Is

220) n (1n2)int0d sin n(d)x

=(2Is2d20) n=odd (1n3)=540104Is

2d

磁気異方性

磁性体は半導体と違って形状寸法結晶方位とか磁化の方位などによって物性が大きく変化する

1つの原因は上に述べた反磁界係数で形状磁気異方性と呼ばれます反磁界によるエネルギーの損を最小化することが原因です

このほかの原因として重要なのが結晶磁気異方性です結晶磁気異方性というのは磁界を結晶のどの方位に加えるかで磁化曲線が変化する性質です

電子軌道は結晶軸に結びついているので磁気的性質と電子軌道との結びつき(スピン軌道相互作用)を通じて磁性が結晶軸と結び

つくのです半導体にも詳しい測定をすると異方性を見ることができますこれに比べ一般に半導体の電子軌道は結晶全体に広がっているので平均化されて結晶軸に依存する物性が見えにくいです

結晶磁気異方性

磁化しやすさは結晶の方位に依存する

鉄は立方晶であるが[100]が容易軸[111]は困難軸

x

y

z

[111

]

[100

]

容易軸

困難軸

[110]

円板磁性体の磁区構造

全体が磁区に分かれることにより全体の磁化がなくなっているこれが初磁化状態である

磁区の内部では磁化は任意の方向をランダムに向いている訳ではない

磁化は結晶の方位と無関係な方向を向くことはできない磁性体には磁気異方性という性質があり磁化が特定の結晶軸方位(たとえばFeでは[001]方向および等価な方向)を向く性質がある

[001]容易軸では図のように(001)面内では[100][010][-100][0-10]の4つの方向を向くので90磁壁になる

[111]容易軸では

(a) (b)

(近角強磁性体の物理)

33 ヒステリシスを磁区で説明する

残留磁化状態 逆磁区の発生と成長

磁気飽和

核発生

34 さまざまな磁区とマイクロマグネティクス

Figは結晶の対称性により磁区が変わる様子の例として縞状磁区(stripe domain)と環流磁区(closure domain)を示している磁性体を微細化して直径1μm付近になるとスピンは面内に分布してvortex状態となり中心部に垂直方向のスピン成分をもつようになるさらに微細化すると単磁区になる

微小磁区のMFM観察

磁区の観察にはビッター法といって磁性微粒子を含むコロイドを磁性体上に滴下して光学顕微鏡で観察する方法が古くから使われているこのほか磁気光学顕微鏡ローレンツ電子顕微鏡磁気力顕微鏡走査型ホール顕微鏡走査型SQUID顕微鏡スピン偏極電子顕微鏡X線MCD顕微鏡などで観察することが可能であるFig 22にはいくつかの例について筆者のMFM観察結果を示す

10 nmtimes10 nmtimes10 nmMesh size

1Number of dot

200 nmtimes200 nmtimes100nm

Dot Size

Y directionEasy axis

02Damping constant(α)

-176times107 rad(sOe)Gyro magnetic constant(γ)

1000 ergcm3Anisotropic constant (Ku)

1times10-6 ergcm3Exchange field (A)

800 emucm3Saturation magnetization (Ms)

Hy = 10 kOe rarr 0 Oe

divM divMy

LLG 方程式を用いた

マイクロ磁気解析

Dot model

200 x 200thickness50 nm

Magnetic moment - dv M Force gradient

200 x 200thickness100 nm

90 degree walls propeller-like distortion

Calculation of a single dot

Spin structure

-divM

Isolated square dot

Force gradient image Spin distribution image

Four-dot system

Shift of the center occurs Reversal of chirality

MFM imagewith low-moment tip

(CoPtCr240Å in HV)

Spin distribution imagewith the force-gradientimage overlapped

Inversion of chirality

Comparison between MFM andsimulation of spin distribution

Simulation was carried outin the model structureconsisting of four squaredots with a dimension of200 nmtimes200 nmtimes20 nmwith 50nm separationbetween dots

The calculated spinstructure shows a closuredomain structure with the90-wall appears

The chirality of the spindirection in adjacent dots isopposite to each other asshown by white arrows

The Z-component force-gradient image taking intoaccount the tip-sampleinteraction is overlapped

Calculated magnetization configurationof Y-shaped permalloy dot

Calculation parametersWidth 300 nmThickness 100 nmEasy axis 0 ergcm3

x

y

z

Force gradient-divM

Force gradient(Magnified)

Experimental MFM images

bull Single domains appear in two armsbull Multi-domain of 4 chained closer-domains on the restbull Spin-flow at crossing region turns left in two steps

50

0n

m2

m

L

C

R

C

L

R

x

y

z

Calculated magnetization configurationsof Y-shaped permalloy mirror-dots

Calculation parametersWidth 200 nmThickness 40 nmEasy axis X 1000 ergcm3

Force gradient-divM

Single dot

Experimental MFM images

15 m

bull Calculated spin-flows similar to experimental resultbull Vortices with same chirality appear at the ends of all armsbull Chirality of adjacent dot shows a mirror-reflection

Easy axisEasy axis

Easy axis

Easy axis

-divM

4 おわりに

磁性特有のテクニカルタームがあるが慣れればそれほど難しいものではない

大部分の話は量子力学なしでも理解できる電磁気学の知識があればよい

応用につながるのは磁区磁壁の物理である

メゾスコピック系では量子的な現象が現れるこれが得意なスピン依存伝導現象をもたらす

[参考0]半導体磁性体誘電体

半導体と磁性体の対比

半導体 電子物性パラメータは基本的

にバンド構造で決まるキャリア密度は人為的に制御される

量子構造を考えない限り電子を古典粒子として有効質量近似で扱える

応用されるのは電子構造で決まる移動度などのミクロな電子物性である

電子物性が寸法方位形状にほとんど依存しない

単位系はCGSをもとにした実用単位系が使われる

磁性体 金属磁性体の磁性はスピン偏

極バンド構造で決まるが非金属磁性体の磁性は局在多電子系のフント則で決まる

交換相互作用スピン軌道相互作用など量子力学が基本

応用されるのは磁区により生じるヒステリシスに関連したマクロ磁気物性である

磁性は磁気異方性の影響を受け寸法方位形状により大幅に変化する

単位系が複雑でCGSとSIが混在して使われている

磁性体と誘電体の対比

磁性体

磁気モーメントμ(軸性ベクトル)

磁化M

自発磁化Ms

反磁界

磁気ヒステリシス

飽和磁化残留磁化保磁力

磁区(ドメイン)

キュリー温度

誘電体

電気双極子qr(極性ベクトル)

電気分極P

自発分極Ps

反電界

誘電ヒステリシス

飽和分極残留分極抗電界

分域(ドメイン)

キュリー温度

[参考1]

磁界磁束磁化

磁界(磁場)H磁束密度B磁化M

磁界H中に置かれた磁化Mの磁性体が磁束密

度は真空中の磁束密度に磁化による磁束密度を加えたものであるすなわちB=0H+M

B=0H B=0H+M

M

磁性体があると磁束密度が高くなる

真空中での磁束密度

磁化とは

物質に磁界を加えたとき物質の表面に磁極が生じ一時的に磁石のようになるがそのとき物質が磁化されたという

(b)(a)

(高梨初等磁気工学講座)より

磁化の定義

K番目の原子の1原子あ

たりの磁気モーメントをkとするときその単位体積についての総和k

を磁化Mと定義するM= k

磁気モーメントの単位はWbmであるから磁化の単位はWbm2となる

(高梨初等磁気工学講座)より

常磁性

磁極と磁気モーメント

磁石にはN極とS極がある

磁界中に置かれた磁性体にも磁極が誘起される磁極は必ずNSの対で現れる(単極は見つかっていない)

磁極の大きさをq [Wb]とすると磁界によってNSの対に働くトルクは-qdHsin [Nm]=qdsin [Wbm] H[Am]

必ずNとSが対で現れるならm=qrを磁性を扱う基本単

位と考えることが出来るこれを磁気モーメントという単位は[Wbm]

[参考2]

磁気モーメントの電子的起源

磁気モーメント

一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは

T=qH r sin=mH sin 磁気モーメントのもつポテンシャルEは

E=Td= mH sin d=mH(1-cos)

ポテンシャルの原点はどこにとってもよいから E=-mH mHのときエネルギーは極小になる

mはHに平行になろうとする(高梨初等磁気工学講座)より

r 磁気モーメント

m=qr [Wbm]

-q [Wb]

+q [Wb]

qH

-qH

rsin

単位E[J]=-m[Wbm] H[Am]

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 2: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

1はじめに

半導体の人は「磁性はわかりにくい」というまず基礎となる原子の磁気モーメント原子間交換相互作用などの概念が難しいそれも金属磁性体と絶縁性磁性体とで異なった電子状態を考える必要があり概念がつかみにくい

スピンに依存するバンド構造それにもとづくハーフメタルの概念やスピンに依存するトンネル電気伝導スピン注入磁化反転のように難解な先端的な話題が多い

その一方では強磁性体の特徴ともいえる磁気ヒステリシスや磁区が物質固有のものではなく形状サイズ構造に対する敏感性をもちミクロな磁性では説明できず巨視的な磁気モーメントの運動を考えなければならないこと等々大学特に工学部の学士課程では教えきれないくらい多岐にわたる物理現象が関連していることが「わかりにくさ」の原因である

この解説では細かい枝葉の厳密性には目をつぶって磁性についてのおよその概念をつかんでいただくことをめざす

2磁性の起源

バンドモデル(遍歴電子磁性)

遷移金属合金

局在モデル(局在電子磁性)

遷移金属酸化物

共存モデル

希土類金属

希薄磁性半導体

強磁性(Ferromagnetism)

Ferroというのは「鉄の」という意味で鉄に代表されるよう

な磁気的性質という意味である

鉄に代表される性質とは外部磁界を加えなくても磁化をもつ即ち自発磁化をもつことである

強磁性体の例遷移金属 Fe Co Ni

遷移金属合金Fe1-xNix Fe1-xCox Co1-xCrx Co1-xPtx Sm1-xCox

金属間化合物PtMnSb MnBi NdFe2B14

酸化物カルコゲナイドニクタイドハライドLa1-xSrxMnO3 CrO2 CdCr2S4 Cr3Te4 MnP CrBr3

21 バンドモデル

通常の磁性の教科書は原子磁石から出発して常磁性を説明し原子間交換相互作用をつかって強磁性反強磁性などを説明し分子場理論で磁化の温度変化キュリー温度などを説明する局在電子モデルに基づいており金属のバンドモデルにもとづく遍歴電子磁性に触れるのはその後になっている

一方半導体を学んできた研究者にとってはバンドモデルを出発点にすることに慣れているまたスピンエレクトロニクスにおいてはスピン偏極バンドをベースに考えることが多い

ここではバンドモデルにもとづく金属磁性を出発点にとって電子相関の強い極限として局在モデルを扱う

スレーターポーリング曲線

種々の遷移金属合金について1原子あたりの原子磁気モーメントと平均電子数の関係を示した曲線

Crから始まって45の傾斜で上昇する半直線かFe30Co70付近からNi60Cu40に向かって-45で下降す

る半直線のいずれかに載っている Fe Co Niの磁気モーメントはそれぞれ22 17 06μB

この値はフント則から期待される値より小さい

鉄のバンド構造

磁性体といえばだれもが鉄Feを思い浮かべるFeは金属である

一般に金属であればエネルギーバンドモデルでは伝導帯の電子状態の一部が占有され残りが空いているような電子構造を持つはずである

通常金属と遷移金属の状態密度

(a)はアルカリ金属(NaKなど)のs電子に由来するバンド状態密度である

(b)は磁性をもたない遷移金属のバンド状態密度であるS電子帯に加えて狭く状態密度の高いd電子帯が重畳している

(b)

Energy

bullDOS

EFEC

(a)

Energy

bullDOS

EFEC

常磁性金属と強磁性遷移金属

磁性がある場合のエネルギーバンドを考えるに当たっては電子のスピンごとにバンドを考えなければならない右側が上向きスピン左側が下向きスピンを持つ電子の状態密度である

普通の非磁性金属では図(a)のように左右対称となるこれに対し強磁性体では図(b)に示すように上向きスピンバンドと下向きスピンバンドとに分裂する分裂は狭い3dバンドで大きく広いspバンドでは小さい この分裂を交換分裂という

DOS(down spin)

EC

EF

(b)

uarrdarr

DOS(up spin)

E

DOS(up spin)

EC

EF

(a)

uarrdarr

DOS(down spin)

強磁性金属のスピン偏極バンド構造

Callaway Wang Phys Rev B16(lsquo97)2095

uarrスピンバンド

darrスピンバンド

uarrスピンバンドとdarrスピンバンドの占有状態密度の差によって磁気モーメントが決まる

FeとNiのバンド状態密度

Ni

スピン状態密度

Ef

E

Fe

スピン状態密度

E

Ef

Niはuarrスピンバンドは満ちdarrバンドにはわずかな正孔しかないnuarr-ndarr=06

Feはuarrスピンバンドに比しdarrバンドの状態密度がかなり小さいnuarr-ndarr=22

darrバンドに06個の

空孔があるとCuからs電子が流れこみCuが40合金したとき

モーメントを失う

ハーフメタルとは

(a)通常の強磁性体金属はup spin down spinとも金属的

(b)Half metalではup spinは金属down spinは半導体

DOS(downspin)

EC

EF

(a)

uarrdarr

DOS(up spin)

E

DOS(down spin)

EC

EF

(b)uarr

darr

E

DOS(up spin)

darr

ハーフメタルとスピンエレクトロニクス

たとえば磁気トンネル接合(MTJ)素子のところで出てくるホイスラー合金Co2CrAlなどがその例

上向きスピンのバンドを見る限り金属のように伝導帯の一部が占有された構造をとるのに対し下向きスピンのバンドにおいては半導体のように電子に占有された価電子帯と電子に占有されない伝導帯がバンドギャップを隔てて分かれておりフェルミ準位はバンドギャップの中に存在する

このような構造をとるとフェルミ準位における電子状態は100スピン偏極するMTJにおいて磁気抵抗比はスピン偏極率の関数で与えられるのでハーフメタルが注目される

ハーフメタルCo2MnGe

uarrスピンは金属 darrスピンは半導体 Geの一部をGaに置き換えるとスピン

偏極率が上がる

L21 X2YZ

バンドと電子相関

通常のバンド計算では電子間の位置の相関を平均的なものに置き換える近似を行うので真の電子間相互作用は求まらない

バンドモデルが適用できるのは金属磁性体に限られるMnOやNiOのような絶縁性の磁性体を単純にバンド計算すると金属になってしまうこれは電子相関が考慮されていないからである

電子相関とはフントの規則のように電子同士のクーロン相互作用がスピンに依存することから生じるつまり同じ向きのスピンをもつ2つの電子は同じ軌道に入ることがないので重なりが小さくクーロン相互作用も小さいが逆向きスピンの2つの電子は同じ軌道を運動できるのでクーロン相互作用が強くなってエネルギー的に不安定になるため電子の移動を妨げる効果であるこの2つの状態の間のエネルギー差は電子相関エネルギーと呼ばれUで表され数eVのオーダーである

22 ハバードモデル

バンドモデルに電子相関を導入する手法がハバードモデルであるFig 3は横軸をUにとったとき電子のエネルギー準位がUに対しどのように変わるかを示した図であるここにはバンド幅で電子の移動のしやすさの尺度であるT0は満ちたバンドの平均エネルギーである

バンド幅が電子相関エネルギーに比べ十分小さなときすなわちUltlt2312のときは禁制帯が現れ系は絶縁体となるU0は局在性の強い極限で電子移動が起きるにはUだけ余分のエネルギーが必要であるこのため電子は原子付近に束縛され局在電子系として振る舞う

lower Hubbard band

upper Hubbard band

電荷移動型絶縁体

MnOは電荷移動型絶縁体と考えられているMn2+においては3d電子5個がスピンを揃えてlower Hubbard bandの5個の軌道を占有しているここに1個電子を付け加えようとすると逆向きのスピンを付け加えなければならないのでupper Hubbardbandに入り電子相関Uだけエネルギーを損する

実際には酸化物イオンのp軌道からなる価電子帯が満ちたバンドの頂にくるのでギャップはこの状態と3d電子系のupperHubbard bandの間に開いているこれを電荷移動型ギャップという

CT(電荷移動)ギャップ

Lower Hubbard band

Upper Hubbard band

電子相関U

23 局在電子モデル

原子の位置に局在した多電子系では通常フントの規則に従うように軌道角運動量とスピン角運動量が決められる

3d遷移金属イオンでは3d電子が配位子のp軌道と

混成し軌道角運動量はほぼ消失している

4f希土類では4f軌道は孤立原子内の状態とあまり変わらないので全角運動量がよい量子数である

局在電子系の磁性

常磁性体に誘起される平均の磁気モーメントは室温でB=100mTの磁界のもとでも10-2emucc程度の小さな量である

これに対して強磁性体では磁界を印加しなくても103emuccという大きな自発磁気モーメントを持っている

ワイスは原子の磁気モーメントが周りの磁気モーメントからの場(分子場)を受けて整列しているというモデルを立てて強磁性体の自発磁化を説明した

24 ワイスの分子場理論

1つの磁気モーメントを取り出しその周りにあるすべての磁気モーメントから生じた有効磁界によって考えている磁気モーメントが常磁性的に分極するならば自己完結的に強磁性が説明できる

これを分子場理論有効磁界を分子磁界または分子場(molecular field)と呼ぶ

Heff

周りからの磁場Heff=H+AMが働く磁化M

分子場理論

分子場係数

磁化Mをもつ磁性体に外部磁界Hが加わったときの有効磁界はHeff=H+AMと表されるAを分子場係数と呼ぶ

分子場係数AはJexを交換相互作用係数zを配位数としてA=2zJexN(gB)2で与えられる

この磁界によって生じる常磁性磁化MはM=M0BJ(gBHeffJkT)という式で表される

M0=NgBJはすべての磁気モーメントが整列したときに期待される磁化

分子場理論

自発磁化が生じる条件を求める

Heff=H+AMであるからH=0のときHeff=AM自発磁化が生じるにはHeff=AMを

M=M0BJ(gBHeffJkT)に代入して

MM0=BJ(gBJHeffkT)=BJ(gBJAMkT)が成立しなければならない

Aに分子場係数の式A=2zJexN(gB)2 を代入してMM0= BJ(2zJexgBMJ N(gB)2kT)

ここでM0=NgBJを使って書き直すとMM0= BJ((2zJexJ

2kT) MM0)を得る

MM0= BJ((2zJexJ2kT) MM0)を解く

y=MM0x=(2zJexJ2kT) MM0とすると上の方程式を解

くことは曲線y=BJ(x)と直線 y=x (2zJexJ2kT)を連立して

解くことと同じである

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

J=52のブリルアン関数

y=x (2zJexJ2kT) Tが小さいとき

解が存在する自発磁化あり

y=x (2zJexJ2kT) Tが大きいとき

解が存在しない自発磁化なし

キュリー温度においては直線はブリルアン関数の接線

温度が上がると

分子場理論

キュリー温度

温度が低いとき直線の傾斜はゆるくブリルアン曲線と直線ははy=MM0 =1付近で交わる

温度が上昇するとyの小さいところ交わる

高温になると0以外に交点を持たなくなる

(2zJexJ2kT) y=xの勾配とy=BJ(x)の接線の勾配

が等しいときがキュリー温度を与える

x=0付近ではyx3であるから3y=xと書ける従ってTcは2zJexJ

2kTc=3によってきまる即ちTc=2zJexJ

23kとなる

分子場理論

自発磁化の温度変化

さまざまなJについて分子場理論で交点のMM0をTに対してプロットすると磁化の温度変化を求めることができるニッケルの磁化温度曲線はJ=12でよく説明される timesは鉄はニッケルはコバルトの実測

値実線はJとしてスピンS=121infinをとった

ときの計算値

分子場理論

キュリーワイスの法則

キュリー温度Tc以上では磁気モーメントはバラバラ

の方向を向き常磁性になる分子場理論によればこのときの磁化率は次式で与えられる

この式をキュリーワイスの法則という

Cはワイス定数pは常磁性キュリー温度という

1をTに対してプロットすると1=(T- p)Cとなり横軸を横切る温度がpである

pT

C

分子場理論

キュリーワイスの法則を導く

Heff=H+AM

MHeff=CT (MとHeffの間にキュリーの法則が成立すると仮定する)

M(H+AM)=CTrarrMT=C(H+AM)従ってM(T-CA)=CHより

=MH=C(T-CA)となるCA=pと置けばキュリーワイスの法則が導かれるすなわち=C(T- p)

自発磁化の温度変化

強磁性体の自発磁化の大きさは温度上昇とともに減少しキュリー温度Tcにおいて消滅する

Tc以上では常磁性であ

る常磁性磁化率の逆数は温度に比例しゼロに外挿するとキュリー温度が求まる

25 交換相互作用(exchange interaction)

交換相互作用という言葉はもともとは多電子原子の中で働くクーロン相互作用の算出において電子同士を区別できないことから来るエネルギーの補正項のことで原子内交換相互作用といいます(intra-atomic exchange interaction)

この概念を原子間に拡張したのが原子間交換相互作用(inter-atomic exchangeinteraction)です

ウンチクコーナーイントラ(intra)とインター(inter) イントラは内部のといういみの接頭辞インターは複数のものの

間のという意味の接頭辞ですイントラネットインターネットということばもここから来ています

原子内交換相互作用

原子内交換相互作用は本質的にクーロン相互作用です2つの電子(波動関数を12とする)の間に働くクーロン相互作用のエネルギーHはH= K12-(12) J12(1+4s1s2) で表されます

K12は次式で与えられるクーロン積分です

J12は次式で与えられる交換積分で電子が区別できないことからくる項です

K dr dr r re

rr r12 1 2 1 1 2 2

2

12

1 1 2 2

J dr dr r re

rr r12 1 2 1 1 2 2

2

12

1 2 2 1

原子内交換相互作用

H= K12-(12) J12(1+4s1s2)

の固有値は=K12ndashJ12 (s1とs2が同符号のとき)= K12 ( s1とs2が異符号のとき)

Hと平均のエネルギー(H0=K12-J122)との差ndash2J12s1s2のことを原子内交換エネルギーという

K12

K12-J12

原子間交換相互作用

本来磁気秩序を考えるには物質系全体のスピンを考えねばならないのであるが電子の軌道が原子に局在しているみなして電子のスピンを各原子Iの位置に局在した全スピンSiで代表させて原子1の全スピンS1と原子2の全スピンS2との間に原子間交換相互作用が働くと考えるのがハイゼンベルグ模型であるこのとき交換エネルギーHex は原子内交換相互作用を一般化して見かけの交換積分J12を用いて

Hex =-2J12S1S2

で表されるJが正であれば相互作用は強磁性的負であれば反強磁性的である

交換相互作用

ハイゼンベルグ模型 Hex =-2J12S1S2

Jが正であれば相互作用は強磁性的負であれば反強磁性的

交換積分の起源隣接原子のスピン間の直接交換(direct exchange)

酸素などのアニオンのp電子軌道との混成を通してスピン同士がそろえあう超交換(superexchange)

伝導電子との相互作用を通じてそろえあう間接交換(indirect exchange)

電子の移動と磁性とが強く結びついている二重交換相互作用(double exchange)

さまざまな交換相互作用

直接交換

超交換

間接交換(RKKY)

二重交換

超交換相互作用

酸化物磁性体では局在電子系の磁気モーメントの間に働く相互作用は遷移金属の3d電子どうしの重なりで生じるのではなく配位子のp電子が遷移金属イオンの3d軌道に仮想的に遷

移した中間状態を介して相互作用するこれを超交換相互作用と称する主として反強磁性的に働く

酸素イオン

遷移金属イオン

超交換相互作用模式図

90度強磁性

180度反強磁性

(Goodenough)

アニオン

遷移金属イオン

アニオン

遷移金属イオン

(a)

(b)

Fig 9 超交換相互作用の模式図

間接交換(RKKY)相互作用

希土類金属の磁性は4f電子が担うが伝導電子である5d電子が4f電子と原子内交換相互作用することによってスピン偏極を受けこれが隣接の希土類原子のf電子と相互作用するという形の間接的な交換相互作用を行っていると考えられている

これをRKKY (Rudermann Kittel Kasuya Yoshida)相互作用という

伝導電子を介した局在スピン間の磁気的相互作用は距離に対して余弦関数的に振動しその周期は伝導電子のフェルミ波数で決められる

RKKY振動

フリーデル振動

21F

2

F

2

RKKY 29 SS

Rkf

N

NJH e

4

sincos

x

xxxxf

CoCu superlattice

Cu thickness (Aring)

磁気抵

抗比

図15

二重交換相互作用

LaMnO3ではすべてのMn原子は3価なので egバンドには1個の電子が存在しこの電子が隣接Mn原子のeg軌道に移動しようとすると電子相関エネルギーUだけのエネルギーが必要であるため電子移動は起きずモット絶縁体となっている

LaをSrで置き換え4価のMnが生じるとMn4+のeg軌道は空であるから他のMn3+から電子が移ることができ金属的な導電性を生じる

このとき隣接するMn原子の磁気モーメントのなす角とするとeg電子の飛び移りの確率はcos( 2)に比例する=0(スピンが平行)のとき飛び移りが最も起きやすく運動エネルギーの分だけエネルギーが下がるので強磁性となる

二重交換の模式図

Mn3+ Mn4+

3磁気ヒステリシス曲線と磁区

磁気ヒステリシスについて

反磁界と静磁エネルギー

磁気異方性

磁区と磁壁磁壁移動と磁化回転

保磁力

31 磁気ヒステリシス

強磁性体においてはその磁化は印加磁界に比例せずヒステリシスを示す

(高梨初等磁気工学講座テキスト)

OrarrBrarrC初磁化曲線

CrarrD 残留磁化

DrarrE 保磁力

CrarrDrarrErarrFrarrGrarrC

ヒステリシスループ

縦軸磁化

横軸磁界

[参考]

磁化曲線の測定法

磁性体を磁界中に置き磁界を増加していくと磁性体の磁化は増加していき次第に飽和する

磁化曲線は磁力計を使って測定する

VSM試料振動型磁力計試料を01~02mm程度のわずかな振幅で80Hz程度の低周波で振動させ試料の

磁化による磁束の時間変化を電磁石の磁極付近に置かれたサーチコイルに誘起された誘導起電力として検出する誘導起電力は試料の磁化に比例するので磁化を測定することができる

電磁石

磁極付近に置いたサーチコイル

スピーカーと同じ振動機構

[参考]

VSMブロック図

丸善実験物理学講座「磁気測定I」p68より

磁気ヒステリシスと応用

保磁力のちがいで用途が違う

Hc小軟質磁性体

磁気ヘッド変圧器鉄心磁気シールド

Hc中半硬質磁性体

磁気記録媒体

Hc大硬質磁性体

永久磁石このループの面積が磁石に蓄積される磁気エネルギー高周波の場合はヒステリシス損失となる

永久磁石の最大エネルギー積(BH)maxの変遷(httpwwwaacgbhamacukmagnetic_materialshistoryhtm)

BHmax

32 なぜ初磁化状態では磁化がないのか磁区(magnetic domain)

磁化が特定の方向を向くとするとN極からS極に向

かって磁力線が生じますこの磁力線は考えている試料の外を通っているだけでなく磁性体の内部も貫いていますこの磁力線を反磁界といいます反磁界の向きは磁化の向きとは反対向きなので磁化は回転する静磁力を受けて不安定となります

磁化の方向が逆方向の縞状の磁区と呼ばれる領域に分かれるならば反磁界がうち消し合って静磁エネルギーが低下して安定するのです

反磁界(demagnetization field)

磁性体表面の法線方向の磁化成分をMn とすると表面には単位面積あたり = Mnという大きさの磁極(Wbm2)が生じる

磁極からはガウスの定理によって全部で μ0の磁力線がわき出すこのうち反磁界係数Nを使って定義される磁力線NMは内部に向かっており残りは外側に向かっているすなわち磁石の内部ではMの向きとは逆方向の反磁界が存在する

外部では磁束線は磁力線に一致する

(b) 磁力線

M- +

(a)磁化と磁極 反磁界

S N

S N

(c) 磁束線

反磁界係数N (近角強磁性体の物理より)

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0

(i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+ Ny+ Nz=1

が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx= Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx= Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

x

y

z

z

x

y

z

x

y

Nz=1

Nx= 0Ny= 0

Nx= 12

Ny= 12

Nx=13

Ny=13

Nz=13

Nz=0

反磁界補正

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0 (i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+Ny+ Nz=1が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx=Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx=Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

(近角強磁性体の物理より)

反磁界と静磁エネルギー

磁化Mが反磁界HdのもとにおかれるとU=MHdだけポテンシャルエネルギーが高くなる

一様な磁界H中の磁気モーメントMに働くトルクTはT=-MH sin

磁気モーメントのもつポテンシャルEはU=Td= - 0

MH sin d=MH (1-cos) エネルギーの原点はどこにとってもよいのでポテンシャルエネルギーはU=-MHと表される H=-Hdを代入すると反磁界によるポテンシャルの増加はU=MHd

表面磁極の分割による静磁エネルギーの減少

結晶表面をxy面にとる

表面でz=0とする

磁区の磁化方向はplusmnz

磁区のx方向の幅d

磁極の表面密度=Is 2mdltxlt(2m+1)d

=-Is (2m+1)dltxlt2(m+1)d

磁気ポテンシャルをLaplaceの方程式で求め

+ +- -

z

x

y

d

境界条件( z)z=-0=20

境界条件のもとにラプラス方程式を解くと=n An sin n(d)xexp n(d)z

係数Anは次式を満たすように決められる(d) n nAn sin n(d)x =I20 2mdltxlt(2m+1)d

= - I20 (2m+1)dltxlt2(m+1)d

rarrAn=2Isd20n2

(x=0)=(2Isd20) n (1n2)sin n(d)x

単位表面積あたりの静磁エネルギー=(2Is

220) n (1n2)int0d sin n(d)x

=(2Is2d20) n=odd (1n3)=540104Is

2d

磁気異方性

磁性体は半導体と違って形状寸法結晶方位とか磁化の方位などによって物性が大きく変化する

1つの原因は上に述べた反磁界係数で形状磁気異方性と呼ばれます反磁界によるエネルギーの損を最小化することが原因です

このほかの原因として重要なのが結晶磁気異方性です結晶磁気異方性というのは磁界を結晶のどの方位に加えるかで磁化曲線が変化する性質です

電子軌道は結晶軸に結びついているので磁気的性質と電子軌道との結びつき(スピン軌道相互作用)を通じて磁性が結晶軸と結び

つくのです半導体にも詳しい測定をすると異方性を見ることができますこれに比べ一般に半導体の電子軌道は結晶全体に広がっているので平均化されて結晶軸に依存する物性が見えにくいです

結晶磁気異方性

磁化しやすさは結晶の方位に依存する

鉄は立方晶であるが[100]が容易軸[111]は困難軸

x

y

z

[111

]

[100

]

容易軸

困難軸

[110]

円板磁性体の磁区構造

全体が磁区に分かれることにより全体の磁化がなくなっているこれが初磁化状態である

磁区の内部では磁化は任意の方向をランダムに向いている訳ではない

磁化は結晶の方位と無関係な方向を向くことはできない磁性体には磁気異方性という性質があり磁化が特定の結晶軸方位(たとえばFeでは[001]方向および等価な方向)を向く性質がある

[001]容易軸では図のように(001)面内では[100][010][-100][0-10]の4つの方向を向くので90磁壁になる

[111]容易軸では

(a) (b)

(近角強磁性体の物理)

33 ヒステリシスを磁区で説明する

残留磁化状態 逆磁区の発生と成長

磁気飽和

核発生

34 さまざまな磁区とマイクロマグネティクス

Figは結晶の対称性により磁区が変わる様子の例として縞状磁区(stripe domain)と環流磁区(closure domain)を示している磁性体を微細化して直径1μm付近になるとスピンは面内に分布してvortex状態となり中心部に垂直方向のスピン成分をもつようになるさらに微細化すると単磁区になる

微小磁区のMFM観察

磁区の観察にはビッター法といって磁性微粒子を含むコロイドを磁性体上に滴下して光学顕微鏡で観察する方法が古くから使われているこのほか磁気光学顕微鏡ローレンツ電子顕微鏡磁気力顕微鏡走査型ホール顕微鏡走査型SQUID顕微鏡スピン偏極電子顕微鏡X線MCD顕微鏡などで観察することが可能であるFig 22にはいくつかの例について筆者のMFM観察結果を示す

10 nmtimes10 nmtimes10 nmMesh size

1Number of dot

200 nmtimes200 nmtimes100nm

Dot Size

Y directionEasy axis

02Damping constant(α)

-176times107 rad(sOe)Gyro magnetic constant(γ)

1000 ergcm3Anisotropic constant (Ku)

1times10-6 ergcm3Exchange field (A)

800 emucm3Saturation magnetization (Ms)

Hy = 10 kOe rarr 0 Oe

divM divMy

LLG 方程式を用いた

マイクロ磁気解析

Dot model

200 x 200thickness50 nm

Magnetic moment - dv M Force gradient

200 x 200thickness100 nm

90 degree walls propeller-like distortion

Calculation of a single dot

Spin structure

-divM

Isolated square dot

Force gradient image Spin distribution image

Four-dot system

Shift of the center occurs Reversal of chirality

MFM imagewith low-moment tip

(CoPtCr240Å in HV)

Spin distribution imagewith the force-gradientimage overlapped

Inversion of chirality

Comparison between MFM andsimulation of spin distribution

Simulation was carried outin the model structureconsisting of four squaredots with a dimension of200 nmtimes200 nmtimes20 nmwith 50nm separationbetween dots

The calculated spinstructure shows a closuredomain structure with the90-wall appears

The chirality of the spindirection in adjacent dots isopposite to each other asshown by white arrows

The Z-component force-gradient image taking intoaccount the tip-sampleinteraction is overlapped

Calculated magnetization configurationof Y-shaped permalloy dot

Calculation parametersWidth 300 nmThickness 100 nmEasy axis 0 ergcm3

x

y

z

Force gradient-divM

Force gradient(Magnified)

Experimental MFM images

bull Single domains appear in two armsbull Multi-domain of 4 chained closer-domains on the restbull Spin-flow at crossing region turns left in two steps

50

0n

m2

m

L

C

R

C

L

R

x

y

z

Calculated magnetization configurationsof Y-shaped permalloy mirror-dots

Calculation parametersWidth 200 nmThickness 40 nmEasy axis X 1000 ergcm3

Force gradient-divM

Single dot

Experimental MFM images

15 m

bull Calculated spin-flows similar to experimental resultbull Vortices with same chirality appear at the ends of all armsbull Chirality of adjacent dot shows a mirror-reflection

Easy axisEasy axis

Easy axis

Easy axis

-divM

4 おわりに

磁性特有のテクニカルタームがあるが慣れればそれほど難しいものではない

大部分の話は量子力学なしでも理解できる電磁気学の知識があればよい

応用につながるのは磁区磁壁の物理である

メゾスコピック系では量子的な現象が現れるこれが得意なスピン依存伝導現象をもたらす

[参考0]半導体磁性体誘電体

半導体と磁性体の対比

半導体 電子物性パラメータは基本的

にバンド構造で決まるキャリア密度は人為的に制御される

量子構造を考えない限り電子を古典粒子として有効質量近似で扱える

応用されるのは電子構造で決まる移動度などのミクロな電子物性である

電子物性が寸法方位形状にほとんど依存しない

単位系はCGSをもとにした実用単位系が使われる

磁性体 金属磁性体の磁性はスピン偏

極バンド構造で決まるが非金属磁性体の磁性は局在多電子系のフント則で決まる

交換相互作用スピン軌道相互作用など量子力学が基本

応用されるのは磁区により生じるヒステリシスに関連したマクロ磁気物性である

磁性は磁気異方性の影響を受け寸法方位形状により大幅に変化する

単位系が複雑でCGSとSIが混在して使われている

磁性体と誘電体の対比

磁性体

磁気モーメントμ(軸性ベクトル)

磁化M

自発磁化Ms

反磁界

磁気ヒステリシス

飽和磁化残留磁化保磁力

磁区(ドメイン)

キュリー温度

誘電体

電気双極子qr(極性ベクトル)

電気分極P

自発分極Ps

反電界

誘電ヒステリシス

飽和分極残留分極抗電界

分域(ドメイン)

キュリー温度

[参考1]

磁界磁束磁化

磁界(磁場)H磁束密度B磁化M

磁界H中に置かれた磁化Mの磁性体が磁束密

度は真空中の磁束密度に磁化による磁束密度を加えたものであるすなわちB=0H+M

B=0H B=0H+M

M

磁性体があると磁束密度が高くなる

真空中での磁束密度

磁化とは

物質に磁界を加えたとき物質の表面に磁極が生じ一時的に磁石のようになるがそのとき物質が磁化されたという

(b)(a)

(高梨初等磁気工学講座)より

磁化の定義

K番目の原子の1原子あ

たりの磁気モーメントをkとするときその単位体積についての総和k

を磁化Mと定義するM= k

磁気モーメントの単位はWbmであるから磁化の単位はWbm2となる

(高梨初等磁気工学講座)より

常磁性

磁極と磁気モーメント

磁石にはN極とS極がある

磁界中に置かれた磁性体にも磁極が誘起される磁極は必ずNSの対で現れる(単極は見つかっていない)

磁極の大きさをq [Wb]とすると磁界によってNSの対に働くトルクは-qdHsin [Nm]=qdsin [Wbm] H[Am]

必ずNとSが対で現れるならm=qrを磁性を扱う基本単

位と考えることが出来るこれを磁気モーメントという単位は[Wbm]

[参考2]

磁気モーメントの電子的起源

磁気モーメント

一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは

T=qH r sin=mH sin 磁気モーメントのもつポテンシャルEは

E=Td= mH sin d=mH(1-cos)

ポテンシャルの原点はどこにとってもよいから E=-mH mHのときエネルギーは極小になる

mはHに平行になろうとする(高梨初等磁気工学講座)より

r 磁気モーメント

m=qr [Wbm]

-q [Wb]

+q [Wb]

qH

-qH

rsin

単位E[J]=-m[Wbm] H[Am]

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 3: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

2磁性の起源

バンドモデル(遍歴電子磁性)

遷移金属合金

局在モデル(局在電子磁性)

遷移金属酸化物

共存モデル

希土類金属

希薄磁性半導体

強磁性(Ferromagnetism)

Ferroというのは「鉄の」という意味で鉄に代表されるよう

な磁気的性質という意味である

鉄に代表される性質とは外部磁界を加えなくても磁化をもつ即ち自発磁化をもつことである

強磁性体の例遷移金属 Fe Co Ni

遷移金属合金Fe1-xNix Fe1-xCox Co1-xCrx Co1-xPtx Sm1-xCox

金属間化合物PtMnSb MnBi NdFe2B14

酸化物カルコゲナイドニクタイドハライドLa1-xSrxMnO3 CrO2 CdCr2S4 Cr3Te4 MnP CrBr3

21 バンドモデル

通常の磁性の教科書は原子磁石から出発して常磁性を説明し原子間交換相互作用をつかって強磁性反強磁性などを説明し分子場理論で磁化の温度変化キュリー温度などを説明する局在電子モデルに基づいており金属のバンドモデルにもとづく遍歴電子磁性に触れるのはその後になっている

一方半導体を学んできた研究者にとってはバンドモデルを出発点にすることに慣れているまたスピンエレクトロニクスにおいてはスピン偏極バンドをベースに考えることが多い

ここではバンドモデルにもとづく金属磁性を出発点にとって電子相関の強い極限として局在モデルを扱う

スレーターポーリング曲線

種々の遷移金属合金について1原子あたりの原子磁気モーメントと平均電子数の関係を示した曲線

Crから始まって45の傾斜で上昇する半直線かFe30Co70付近からNi60Cu40に向かって-45で下降す

る半直線のいずれかに載っている Fe Co Niの磁気モーメントはそれぞれ22 17 06μB

この値はフント則から期待される値より小さい

鉄のバンド構造

磁性体といえばだれもが鉄Feを思い浮かべるFeは金属である

一般に金属であればエネルギーバンドモデルでは伝導帯の電子状態の一部が占有され残りが空いているような電子構造を持つはずである

通常金属と遷移金属の状態密度

(a)はアルカリ金属(NaKなど)のs電子に由来するバンド状態密度である

(b)は磁性をもたない遷移金属のバンド状態密度であるS電子帯に加えて狭く状態密度の高いd電子帯が重畳している

(b)

Energy

bullDOS

EFEC

(a)

Energy

bullDOS

EFEC

常磁性金属と強磁性遷移金属

磁性がある場合のエネルギーバンドを考えるに当たっては電子のスピンごとにバンドを考えなければならない右側が上向きスピン左側が下向きスピンを持つ電子の状態密度である

普通の非磁性金属では図(a)のように左右対称となるこれに対し強磁性体では図(b)に示すように上向きスピンバンドと下向きスピンバンドとに分裂する分裂は狭い3dバンドで大きく広いspバンドでは小さい この分裂を交換分裂という

DOS(down spin)

EC

EF

(b)

uarrdarr

DOS(up spin)

E

DOS(up spin)

EC

EF

(a)

uarrdarr

DOS(down spin)

強磁性金属のスピン偏極バンド構造

Callaway Wang Phys Rev B16(lsquo97)2095

uarrスピンバンド

darrスピンバンド

uarrスピンバンドとdarrスピンバンドの占有状態密度の差によって磁気モーメントが決まる

FeとNiのバンド状態密度

Ni

スピン状態密度

Ef

E

Fe

スピン状態密度

E

Ef

Niはuarrスピンバンドは満ちdarrバンドにはわずかな正孔しかないnuarr-ndarr=06

Feはuarrスピンバンドに比しdarrバンドの状態密度がかなり小さいnuarr-ndarr=22

darrバンドに06個の

空孔があるとCuからs電子が流れこみCuが40合金したとき

モーメントを失う

ハーフメタルとは

(a)通常の強磁性体金属はup spin down spinとも金属的

(b)Half metalではup spinは金属down spinは半導体

DOS(downspin)

EC

EF

(a)

uarrdarr

DOS(up spin)

E

DOS(down spin)

EC

EF

(b)uarr

darr

E

DOS(up spin)

darr

ハーフメタルとスピンエレクトロニクス

たとえば磁気トンネル接合(MTJ)素子のところで出てくるホイスラー合金Co2CrAlなどがその例

上向きスピンのバンドを見る限り金属のように伝導帯の一部が占有された構造をとるのに対し下向きスピンのバンドにおいては半導体のように電子に占有された価電子帯と電子に占有されない伝導帯がバンドギャップを隔てて分かれておりフェルミ準位はバンドギャップの中に存在する

このような構造をとるとフェルミ準位における電子状態は100スピン偏極するMTJにおいて磁気抵抗比はスピン偏極率の関数で与えられるのでハーフメタルが注目される

ハーフメタルCo2MnGe

uarrスピンは金属 darrスピンは半導体 Geの一部をGaに置き換えるとスピン

偏極率が上がる

L21 X2YZ

バンドと電子相関

通常のバンド計算では電子間の位置の相関を平均的なものに置き換える近似を行うので真の電子間相互作用は求まらない

バンドモデルが適用できるのは金属磁性体に限られるMnOやNiOのような絶縁性の磁性体を単純にバンド計算すると金属になってしまうこれは電子相関が考慮されていないからである

電子相関とはフントの規則のように電子同士のクーロン相互作用がスピンに依存することから生じるつまり同じ向きのスピンをもつ2つの電子は同じ軌道に入ることがないので重なりが小さくクーロン相互作用も小さいが逆向きスピンの2つの電子は同じ軌道を運動できるのでクーロン相互作用が強くなってエネルギー的に不安定になるため電子の移動を妨げる効果であるこの2つの状態の間のエネルギー差は電子相関エネルギーと呼ばれUで表され数eVのオーダーである

22 ハバードモデル

バンドモデルに電子相関を導入する手法がハバードモデルであるFig 3は横軸をUにとったとき電子のエネルギー準位がUに対しどのように変わるかを示した図であるここにはバンド幅で電子の移動のしやすさの尺度であるT0は満ちたバンドの平均エネルギーである

バンド幅が電子相関エネルギーに比べ十分小さなときすなわちUltlt2312のときは禁制帯が現れ系は絶縁体となるU0は局在性の強い極限で電子移動が起きるにはUだけ余分のエネルギーが必要であるこのため電子は原子付近に束縛され局在電子系として振る舞う

lower Hubbard band

upper Hubbard band

電荷移動型絶縁体

MnOは電荷移動型絶縁体と考えられているMn2+においては3d電子5個がスピンを揃えてlower Hubbard bandの5個の軌道を占有しているここに1個電子を付け加えようとすると逆向きのスピンを付け加えなければならないのでupper Hubbardbandに入り電子相関Uだけエネルギーを損する

実際には酸化物イオンのp軌道からなる価電子帯が満ちたバンドの頂にくるのでギャップはこの状態と3d電子系のupperHubbard bandの間に開いているこれを電荷移動型ギャップという

CT(電荷移動)ギャップ

Lower Hubbard band

Upper Hubbard band

電子相関U

23 局在電子モデル

原子の位置に局在した多電子系では通常フントの規則に従うように軌道角運動量とスピン角運動量が決められる

3d遷移金属イオンでは3d電子が配位子のp軌道と

混成し軌道角運動量はほぼ消失している

4f希土類では4f軌道は孤立原子内の状態とあまり変わらないので全角運動量がよい量子数である

局在電子系の磁性

常磁性体に誘起される平均の磁気モーメントは室温でB=100mTの磁界のもとでも10-2emucc程度の小さな量である

これに対して強磁性体では磁界を印加しなくても103emuccという大きな自発磁気モーメントを持っている

ワイスは原子の磁気モーメントが周りの磁気モーメントからの場(分子場)を受けて整列しているというモデルを立てて強磁性体の自発磁化を説明した

24 ワイスの分子場理論

1つの磁気モーメントを取り出しその周りにあるすべての磁気モーメントから生じた有効磁界によって考えている磁気モーメントが常磁性的に分極するならば自己完結的に強磁性が説明できる

これを分子場理論有効磁界を分子磁界または分子場(molecular field)と呼ぶ

Heff

周りからの磁場Heff=H+AMが働く磁化M

分子場理論

分子場係数

磁化Mをもつ磁性体に外部磁界Hが加わったときの有効磁界はHeff=H+AMと表されるAを分子場係数と呼ぶ

分子場係数AはJexを交換相互作用係数zを配位数としてA=2zJexN(gB)2で与えられる

この磁界によって生じる常磁性磁化MはM=M0BJ(gBHeffJkT)という式で表される

M0=NgBJはすべての磁気モーメントが整列したときに期待される磁化

分子場理論

自発磁化が生じる条件を求める

Heff=H+AMであるからH=0のときHeff=AM自発磁化が生じるにはHeff=AMを

M=M0BJ(gBHeffJkT)に代入して

MM0=BJ(gBJHeffkT)=BJ(gBJAMkT)が成立しなければならない

Aに分子場係数の式A=2zJexN(gB)2 を代入してMM0= BJ(2zJexgBMJ N(gB)2kT)

ここでM0=NgBJを使って書き直すとMM0= BJ((2zJexJ

2kT) MM0)を得る

MM0= BJ((2zJexJ2kT) MM0)を解く

y=MM0x=(2zJexJ2kT) MM0とすると上の方程式を解

くことは曲線y=BJ(x)と直線 y=x (2zJexJ2kT)を連立して

解くことと同じである

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

J=52のブリルアン関数

y=x (2zJexJ2kT) Tが小さいとき

解が存在する自発磁化あり

y=x (2zJexJ2kT) Tが大きいとき

解が存在しない自発磁化なし

キュリー温度においては直線はブリルアン関数の接線

温度が上がると

分子場理論

キュリー温度

温度が低いとき直線の傾斜はゆるくブリルアン曲線と直線ははy=MM0 =1付近で交わる

温度が上昇するとyの小さいところ交わる

高温になると0以外に交点を持たなくなる

(2zJexJ2kT) y=xの勾配とy=BJ(x)の接線の勾配

が等しいときがキュリー温度を与える

x=0付近ではyx3であるから3y=xと書ける従ってTcは2zJexJ

2kTc=3によってきまる即ちTc=2zJexJ

23kとなる

分子場理論

自発磁化の温度変化

さまざまなJについて分子場理論で交点のMM0をTに対してプロットすると磁化の温度変化を求めることができるニッケルの磁化温度曲線はJ=12でよく説明される timesは鉄はニッケルはコバルトの実測

値実線はJとしてスピンS=121infinをとった

ときの計算値

分子場理論

キュリーワイスの法則

キュリー温度Tc以上では磁気モーメントはバラバラ

の方向を向き常磁性になる分子場理論によればこのときの磁化率は次式で与えられる

この式をキュリーワイスの法則という

Cはワイス定数pは常磁性キュリー温度という

1をTに対してプロットすると1=(T- p)Cとなり横軸を横切る温度がpである

pT

C

分子場理論

キュリーワイスの法則を導く

Heff=H+AM

MHeff=CT (MとHeffの間にキュリーの法則が成立すると仮定する)

M(H+AM)=CTrarrMT=C(H+AM)従ってM(T-CA)=CHより

=MH=C(T-CA)となるCA=pと置けばキュリーワイスの法則が導かれるすなわち=C(T- p)

自発磁化の温度変化

強磁性体の自発磁化の大きさは温度上昇とともに減少しキュリー温度Tcにおいて消滅する

Tc以上では常磁性であ

る常磁性磁化率の逆数は温度に比例しゼロに外挿するとキュリー温度が求まる

25 交換相互作用(exchange interaction)

交換相互作用という言葉はもともとは多電子原子の中で働くクーロン相互作用の算出において電子同士を区別できないことから来るエネルギーの補正項のことで原子内交換相互作用といいます(intra-atomic exchange interaction)

この概念を原子間に拡張したのが原子間交換相互作用(inter-atomic exchangeinteraction)です

ウンチクコーナーイントラ(intra)とインター(inter) イントラは内部のといういみの接頭辞インターは複数のものの

間のという意味の接頭辞ですイントラネットインターネットということばもここから来ています

原子内交換相互作用

原子内交換相互作用は本質的にクーロン相互作用です2つの電子(波動関数を12とする)の間に働くクーロン相互作用のエネルギーHはH= K12-(12) J12(1+4s1s2) で表されます

K12は次式で与えられるクーロン積分です

J12は次式で与えられる交換積分で電子が区別できないことからくる項です

K dr dr r re

rr r12 1 2 1 1 2 2

2

12

1 1 2 2

J dr dr r re

rr r12 1 2 1 1 2 2

2

12

1 2 2 1

原子内交換相互作用

H= K12-(12) J12(1+4s1s2)

の固有値は=K12ndashJ12 (s1とs2が同符号のとき)= K12 ( s1とs2が異符号のとき)

Hと平均のエネルギー(H0=K12-J122)との差ndash2J12s1s2のことを原子内交換エネルギーという

K12

K12-J12

原子間交換相互作用

本来磁気秩序を考えるには物質系全体のスピンを考えねばならないのであるが電子の軌道が原子に局在しているみなして電子のスピンを各原子Iの位置に局在した全スピンSiで代表させて原子1の全スピンS1と原子2の全スピンS2との間に原子間交換相互作用が働くと考えるのがハイゼンベルグ模型であるこのとき交換エネルギーHex は原子内交換相互作用を一般化して見かけの交換積分J12を用いて

Hex =-2J12S1S2

で表されるJが正であれば相互作用は強磁性的負であれば反強磁性的である

交換相互作用

ハイゼンベルグ模型 Hex =-2J12S1S2

Jが正であれば相互作用は強磁性的負であれば反強磁性的

交換積分の起源隣接原子のスピン間の直接交換(direct exchange)

酸素などのアニオンのp電子軌道との混成を通してスピン同士がそろえあう超交換(superexchange)

伝導電子との相互作用を通じてそろえあう間接交換(indirect exchange)

電子の移動と磁性とが強く結びついている二重交換相互作用(double exchange)

さまざまな交換相互作用

直接交換

超交換

間接交換(RKKY)

二重交換

超交換相互作用

酸化物磁性体では局在電子系の磁気モーメントの間に働く相互作用は遷移金属の3d電子どうしの重なりで生じるのではなく配位子のp電子が遷移金属イオンの3d軌道に仮想的に遷

移した中間状態を介して相互作用するこれを超交換相互作用と称する主として反強磁性的に働く

酸素イオン

遷移金属イオン

超交換相互作用模式図

90度強磁性

180度反強磁性

(Goodenough)

アニオン

遷移金属イオン

アニオン

遷移金属イオン

(a)

(b)

Fig 9 超交換相互作用の模式図

間接交換(RKKY)相互作用

希土類金属の磁性は4f電子が担うが伝導電子である5d電子が4f電子と原子内交換相互作用することによってスピン偏極を受けこれが隣接の希土類原子のf電子と相互作用するという形の間接的な交換相互作用を行っていると考えられている

これをRKKY (Rudermann Kittel Kasuya Yoshida)相互作用という

伝導電子を介した局在スピン間の磁気的相互作用は距離に対して余弦関数的に振動しその周期は伝導電子のフェルミ波数で決められる

RKKY振動

フリーデル振動

21F

2

F

2

RKKY 29 SS

Rkf

N

NJH e

4

sincos

x

xxxxf

CoCu superlattice

Cu thickness (Aring)

磁気抵

抗比

図15

二重交換相互作用

LaMnO3ではすべてのMn原子は3価なので egバンドには1個の電子が存在しこの電子が隣接Mn原子のeg軌道に移動しようとすると電子相関エネルギーUだけのエネルギーが必要であるため電子移動は起きずモット絶縁体となっている

LaをSrで置き換え4価のMnが生じるとMn4+のeg軌道は空であるから他のMn3+から電子が移ることができ金属的な導電性を生じる

このとき隣接するMn原子の磁気モーメントのなす角とするとeg電子の飛び移りの確率はcos( 2)に比例する=0(スピンが平行)のとき飛び移りが最も起きやすく運動エネルギーの分だけエネルギーが下がるので強磁性となる

二重交換の模式図

Mn3+ Mn4+

3磁気ヒステリシス曲線と磁区

磁気ヒステリシスについて

反磁界と静磁エネルギー

磁気異方性

磁区と磁壁磁壁移動と磁化回転

保磁力

31 磁気ヒステリシス

強磁性体においてはその磁化は印加磁界に比例せずヒステリシスを示す

(高梨初等磁気工学講座テキスト)

OrarrBrarrC初磁化曲線

CrarrD 残留磁化

DrarrE 保磁力

CrarrDrarrErarrFrarrGrarrC

ヒステリシスループ

縦軸磁化

横軸磁界

[参考]

磁化曲線の測定法

磁性体を磁界中に置き磁界を増加していくと磁性体の磁化は増加していき次第に飽和する

磁化曲線は磁力計を使って測定する

VSM試料振動型磁力計試料を01~02mm程度のわずかな振幅で80Hz程度の低周波で振動させ試料の

磁化による磁束の時間変化を電磁石の磁極付近に置かれたサーチコイルに誘起された誘導起電力として検出する誘導起電力は試料の磁化に比例するので磁化を測定することができる

電磁石

磁極付近に置いたサーチコイル

スピーカーと同じ振動機構

[参考]

VSMブロック図

丸善実験物理学講座「磁気測定I」p68より

磁気ヒステリシスと応用

保磁力のちがいで用途が違う

Hc小軟質磁性体

磁気ヘッド変圧器鉄心磁気シールド

Hc中半硬質磁性体

磁気記録媒体

Hc大硬質磁性体

永久磁石このループの面積が磁石に蓄積される磁気エネルギー高周波の場合はヒステリシス損失となる

永久磁石の最大エネルギー積(BH)maxの変遷(httpwwwaacgbhamacukmagnetic_materialshistoryhtm)

BHmax

32 なぜ初磁化状態では磁化がないのか磁区(magnetic domain)

磁化が特定の方向を向くとするとN極からS極に向

かって磁力線が生じますこの磁力線は考えている試料の外を通っているだけでなく磁性体の内部も貫いていますこの磁力線を反磁界といいます反磁界の向きは磁化の向きとは反対向きなので磁化は回転する静磁力を受けて不安定となります

磁化の方向が逆方向の縞状の磁区と呼ばれる領域に分かれるならば反磁界がうち消し合って静磁エネルギーが低下して安定するのです

反磁界(demagnetization field)

磁性体表面の法線方向の磁化成分をMn とすると表面には単位面積あたり = Mnという大きさの磁極(Wbm2)が生じる

磁極からはガウスの定理によって全部で μ0の磁力線がわき出すこのうち反磁界係数Nを使って定義される磁力線NMは内部に向かっており残りは外側に向かっているすなわち磁石の内部ではMの向きとは逆方向の反磁界が存在する

外部では磁束線は磁力線に一致する

(b) 磁力線

M- +

(a)磁化と磁極 反磁界

S N

S N

(c) 磁束線

反磁界係数N (近角強磁性体の物理より)

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0

(i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+ Ny+ Nz=1

が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx= Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx= Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

x

y

z

z

x

y

z

x

y

Nz=1

Nx= 0Ny= 0

Nx= 12

Ny= 12

Nx=13

Ny=13

Nz=13

Nz=0

反磁界補正

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0 (i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+Ny+ Nz=1が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx=Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx=Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

(近角強磁性体の物理より)

反磁界と静磁エネルギー

磁化Mが反磁界HdのもとにおかれるとU=MHdだけポテンシャルエネルギーが高くなる

一様な磁界H中の磁気モーメントMに働くトルクTはT=-MH sin

磁気モーメントのもつポテンシャルEはU=Td= - 0

MH sin d=MH (1-cos) エネルギーの原点はどこにとってもよいのでポテンシャルエネルギーはU=-MHと表される H=-Hdを代入すると反磁界によるポテンシャルの増加はU=MHd

表面磁極の分割による静磁エネルギーの減少

結晶表面をxy面にとる

表面でz=0とする

磁区の磁化方向はplusmnz

磁区のx方向の幅d

磁極の表面密度=Is 2mdltxlt(2m+1)d

=-Is (2m+1)dltxlt2(m+1)d

磁気ポテンシャルをLaplaceの方程式で求め

+ +- -

z

x

y

d

境界条件( z)z=-0=20

境界条件のもとにラプラス方程式を解くと=n An sin n(d)xexp n(d)z

係数Anは次式を満たすように決められる(d) n nAn sin n(d)x =I20 2mdltxlt(2m+1)d

= - I20 (2m+1)dltxlt2(m+1)d

rarrAn=2Isd20n2

(x=0)=(2Isd20) n (1n2)sin n(d)x

単位表面積あたりの静磁エネルギー=(2Is

220) n (1n2)int0d sin n(d)x

=(2Is2d20) n=odd (1n3)=540104Is

2d

磁気異方性

磁性体は半導体と違って形状寸法結晶方位とか磁化の方位などによって物性が大きく変化する

1つの原因は上に述べた反磁界係数で形状磁気異方性と呼ばれます反磁界によるエネルギーの損を最小化することが原因です

このほかの原因として重要なのが結晶磁気異方性です結晶磁気異方性というのは磁界を結晶のどの方位に加えるかで磁化曲線が変化する性質です

電子軌道は結晶軸に結びついているので磁気的性質と電子軌道との結びつき(スピン軌道相互作用)を通じて磁性が結晶軸と結び

つくのです半導体にも詳しい測定をすると異方性を見ることができますこれに比べ一般に半導体の電子軌道は結晶全体に広がっているので平均化されて結晶軸に依存する物性が見えにくいです

結晶磁気異方性

磁化しやすさは結晶の方位に依存する

鉄は立方晶であるが[100]が容易軸[111]は困難軸

x

y

z

[111

]

[100

]

容易軸

困難軸

[110]

円板磁性体の磁区構造

全体が磁区に分かれることにより全体の磁化がなくなっているこれが初磁化状態である

磁区の内部では磁化は任意の方向をランダムに向いている訳ではない

磁化は結晶の方位と無関係な方向を向くことはできない磁性体には磁気異方性という性質があり磁化が特定の結晶軸方位(たとえばFeでは[001]方向および等価な方向)を向く性質がある

[001]容易軸では図のように(001)面内では[100][010][-100][0-10]の4つの方向を向くので90磁壁になる

[111]容易軸では

(a) (b)

(近角強磁性体の物理)

33 ヒステリシスを磁区で説明する

残留磁化状態 逆磁区の発生と成長

磁気飽和

核発生

34 さまざまな磁区とマイクロマグネティクス

Figは結晶の対称性により磁区が変わる様子の例として縞状磁区(stripe domain)と環流磁区(closure domain)を示している磁性体を微細化して直径1μm付近になるとスピンは面内に分布してvortex状態となり中心部に垂直方向のスピン成分をもつようになるさらに微細化すると単磁区になる

微小磁区のMFM観察

磁区の観察にはビッター法といって磁性微粒子を含むコロイドを磁性体上に滴下して光学顕微鏡で観察する方法が古くから使われているこのほか磁気光学顕微鏡ローレンツ電子顕微鏡磁気力顕微鏡走査型ホール顕微鏡走査型SQUID顕微鏡スピン偏極電子顕微鏡X線MCD顕微鏡などで観察することが可能であるFig 22にはいくつかの例について筆者のMFM観察結果を示す

10 nmtimes10 nmtimes10 nmMesh size

1Number of dot

200 nmtimes200 nmtimes100nm

Dot Size

Y directionEasy axis

02Damping constant(α)

-176times107 rad(sOe)Gyro magnetic constant(γ)

1000 ergcm3Anisotropic constant (Ku)

1times10-6 ergcm3Exchange field (A)

800 emucm3Saturation magnetization (Ms)

Hy = 10 kOe rarr 0 Oe

divM divMy

LLG 方程式を用いた

マイクロ磁気解析

Dot model

200 x 200thickness50 nm

Magnetic moment - dv M Force gradient

200 x 200thickness100 nm

90 degree walls propeller-like distortion

Calculation of a single dot

Spin structure

-divM

Isolated square dot

Force gradient image Spin distribution image

Four-dot system

Shift of the center occurs Reversal of chirality

MFM imagewith low-moment tip

(CoPtCr240Å in HV)

Spin distribution imagewith the force-gradientimage overlapped

Inversion of chirality

Comparison between MFM andsimulation of spin distribution

Simulation was carried outin the model structureconsisting of four squaredots with a dimension of200 nmtimes200 nmtimes20 nmwith 50nm separationbetween dots

The calculated spinstructure shows a closuredomain structure with the90-wall appears

The chirality of the spindirection in adjacent dots isopposite to each other asshown by white arrows

The Z-component force-gradient image taking intoaccount the tip-sampleinteraction is overlapped

Calculated magnetization configurationof Y-shaped permalloy dot

Calculation parametersWidth 300 nmThickness 100 nmEasy axis 0 ergcm3

x

y

z

Force gradient-divM

Force gradient(Magnified)

Experimental MFM images

bull Single domains appear in two armsbull Multi-domain of 4 chained closer-domains on the restbull Spin-flow at crossing region turns left in two steps

50

0n

m2

m

L

C

R

C

L

R

x

y

z

Calculated magnetization configurationsof Y-shaped permalloy mirror-dots

Calculation parametersWidth 200 nmThickness 40 nmEasy axis X 1000 ergcm3

Force gradient-divM

Single dot

Experimental MFM images

15 m

bull Calculated spin-flows similar to experimental resultbull Vortices with same chirality appear at the ends of all armsbull Chirality of adjacent dot shows a mirror-reflection

Easy axisEasy axis

Easy axis

Easy axis

-divM

4 おわりに

磁性特有のテクニカルタームがあるが慣れればそれほど難しいものではない

大部分の話は量子力学なしでも理解できる電磁気学の知識があればよい

応用につながるのは磁区磁壁の物理である

メゾスコピック系では量子的な現象が現れるこれが得意なスピン依存伝導現象をもたらす

[参考0]半導体磁性体誘電体

半導体と磁性体の対比

半導体 電子物性パラメータは基本的

にバンド構造で決まるキャリア密度は人為的に制御される

量子構造を考えない限り電子を古典粒子として有効質量近似で扱える

応用されるのは電子構造で決まる移動度などのミクロな電子物性である

電子物性が寸法方位形状にほとんど依存しない

単位系はCGSをもとにした実用単位系が使われる

磁性体 金属磁性体の磁性はスピン偏

極バンド構造で決まるが非金属磁性体の磁性は局在多電子系のフント則で決まる

交換相互作用スピン軌道相互作用など量子力学が基本

応用されるのは磁区により生じるヒステリシスに関連したマクロ磁気物性である

磁性は磁気異方性の影響を受け寸法方位形状により大幅に変化する

単位系が複雑でCGSとSIが混在して使われている

磁性体と誘電体の対比

磁性体

磁気モーメントμ(軸性ベクトル)

磁化M

自発磁化Ms

反磁界

磁気ヒステリシス

飽和磁化残留磁化保磁力

磁区(ドメイン)

キュリー温度

誘電体

電気双極子qr(極性ベクトル)

電気分極P

自発分極Ps

反電界

誘電ヒステリシス

飽和分極残留分極抗電界

分域(ドメイン)

キュリー温度

[参考1]

磁界磁束磁化

磁界(磁場)H磁束密度B磁化M

磁界H中に置かれた磁化Mの磁性体が磁束密

度は真空中の磁束密度に磁化による磁束密度を加えたものであるすなわちB=0H+M

B=0H B=0H+M

M

磁性体があると磁束密度が高くなる

真空中での磁束密度

磁化とは

物質に磁界を加えたとき物質の表面に磁極が生じ一時的に磁石のようになるがそのとき物質が磁化されたという

(b)(a)

(高梨初等磁気工学講座)より

磁化の定義

K番目の原子の1原子あ

たりの磁気モーメントをkとするときその単位体積についての総和k

を磁化Mと定義するM= k

磁気モーメントの単位はWbmであるから磁化の単位はWbm2となる

(高梨初等磁気工学講座)より

常磁性

磁極と磁気モーメント

磁石にはN極とS極がある

磁界中に置かれた磁性体にも磁極が誘起される磁極は必ずNSの対で現れる(単極は見つかっていない)

磁極の大きさをq [Wb]とすると磁界によってNSの対に働くトルクは-qdHsin [Nm]=qdsin [Wbm] H[Am]

必ずNとSが対で現れるならm=qrを磁性を扱う基本単

位と考えることが出来るこれを磁気モーメントという単位は[Wbm]

[参考2]

磁気モーメントの電子的起源

磁気モーメント

一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは

T=qH r sin=mH sin 磁気モーメントのもつポテンシャルEは

E=Td= mH sin d=mH(1-cos)

ポテンシャルの原点はどこにとってもよいから E=-mH mHのときエネルギーは極小になる

mはHに平行になろうとする(高梨初等磁気工学講座)より

r 磁気モーメント

m=qr [Wbm]

-q [Wb]

+q [Wb]

qH

-qH

rsin

単位E[J]=-m[Wbm] H[Am]

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 4: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

強磁性(Ferromagnetism)

Ferroというのは「鉄の」という意味で鉄に代表されるよう

な磁気的性質という意味である

鉄に代表される性質とは外部磁界を加えなくても磁化をもつ即ち自発磁化をもつことである

強磁性体の例遷移金属 Fe Co Ni

遷移金属合金Fe1-xNix Fe1-xCox Co1-xCrx Co1-xPtx Sm1-xCox

金属間化合物PtMnSb MnBi NdFe2B14

酸化物カルコゲナイドニクタイドハライドLa1-xSrxMnO3 CrO2 CdCr2S4 Cr3Te4 MnP CrBr3

21 バンドモデル

通常の磁性の教科書は原子磁石から出発して常磁性を説明し原子間交換相互作用をつかって強磁性反強磁性などを説明し分子場理論で磁化の温度変化キュリー温度などを説明する局在電子モデルに基づいており金属のバンドモデルにもとづく遍歴電子磁性に触れるのはその後になっている

一方半導体を学んできた研究者にとってはバンドモデルを出発点にすることに慣れているまたスピンエレクトロニクスにおいてはスピン偏極バンドをベースに考えることが多い

ここではバンドモデルにもとづく金属磁性を出発点にとって電子相関の強い極限として局在モデルを扱う

スレーターポーリング曲線

種々の遷移金属合金について1原子あたりの原子磁気モーメントと平均電子数の関係を示した曲線

Crから始まって45の傾斜で上昇する半直線かFe30Co70付近からNi60Cu40に向かって-45で下降す

る半直線のいずれかに載っている Fe Co Niの磁気モーメントはそれぞれ22 17 06μB

この値はフント則から期待される値より小さい

鉄のバンド構造

磁性体といえばだれもが鉄Feを思い浮かべるFeは金属である

一般に金属であればエネルギーバンドモデルでは伝導帯の電子状態の一部が占有され残りが空いているような電子構造を持つはずである

通常金属と遷移金属の状態密度

(a)はアルカリ金属(NaKなど)のs電子に由来するバンド状態密度である

(b)は磁性をもたない遷移金属のバンド状態密度であるS電子帯に加えて狭く状態密度の高いd電子帯が重畳している

(b)

Energy

bullDOS

EFEC

(a)

Energy

bullDOS

EFEC

常磁性金属と強磁性遷移金属

磁性がある場合のエネルギーバンドを考えるに当たっては電子のスピンごとにバンドを考えなければならない右側が上向きスピン左側が下向きスピンを持つ電子の状態密度である

普通の非磁性金属では図(a)のように左右対称となるこれに対し強磁性体では図(b)に示すように上向きスピンバンドと下向きスピンバンドとに分裂する分裂は狭い3dバンドで大きく広いspバンドでは小さい この分裂を交換分裂という

DOS(down spin)

EC

EF

(b)

uarrdarr

DOS(up spin)

E

DOS(up spin)

EC

EF

(a)

uarrdarr

DOS(down spin)

強磁性金属のスピン偏極バンド構造

Callaway Wang Phys Rev B16(lsquo97)2095

uarrスピンバンド

darrスピンバンド

uarrスピンバンドとdarrスピンバンドの占有状態密度の差によって磁気モーメントが決まる

FeとNiのバンド状態密度

Ni

スピン状態密度

Ef

E

Fe

スピン状態密度

E

Ef

Niはuarrスピンバンドは満ちdarrバンドにはわずかな正孔しかないnuarr-ndarr=06

Feはuarrスピンバンドに比しdarrバンドの状態密度がかなり小さいnuarr-ndarr=22

darrバンドに06個の

空孔があるとCuからs電子が流れこみCuが40合金したとき

モーメントを失う

ハーフメタルとは

(a)通常の強磁性体金属はup spin down spinとも金属的

(b)Half metalではup spinは金属down spinは半導体

DOS(downspin)

EC

EF

(a)

uarrdarr

DOS(up spin)

E

DOS(down spin)

EC

EF

(b)uarr

darr

E

DOS(up spin)

darr

ハーフメタルとスピンエレクトロニクス

たとえば磁気トンネル接合(MTJ)素子のところで出てくるホイスラー合金Co2CrAlなどがその例

上向きスピンのバンドを見る限り金属のように伝導帯の一部が占有された構造をとるのに対し下向きスピンのバンドにおいては半導体のように電子に占有された価電子帯と電子に占有されない伝導帯がバンドギャップを隔てて分かれておりフェルミ準位はバンドギャップの中に存在する

このような構造をとるとフェルミ準位における電子状態は100スピン偏極するMTJにおいて磁気抵抗比はスピン偏極率の関数で与えられるのでハーフメタルが注目される

ハーフメタルCo2MnGe

uarrスピンは金属 darrスピンは半導体 Geの一部をGaに置き換えるとスピン

偏極率が上がる

L21 X2YZ

バンドと電子相関

通常のバンド計算では電子間の位置の相関を平均的なものに置き換える近似を行うので真の電子間相互作用は求まらない

バンドモデルが適用できるのは金属磁性体に限られるMnOやNiOのような絶縁性の磁性体を単純にバンド計算すると金属になってしまうこれは電子相関が考慮されていないからである

電子相関とはフントの規則のように電子同士のクーロン相互作用がスピンに依存することから生じるつまり同じ向きのスピンをもつ2つの電子は同じ軌道に入ることがないので重なりが小さくクーロン相互作用も小さいが逆向きスピンの2つの電子は同じ軌道を運動できるのでクーロン相互作用が強くなってエネルギー的に不安定になるため電子の移動を妨げる効果であるこの2つの状態の間のエネルギー差は電子相関エネルギーと呼ばれUで表され数eVのオーダーである

22 ハバードモデル

バンドモデルに電子相関を導入する手法がハバードモデルであるFig 3は横軸をUにとったとき電子のエネルギー準位がUに対しどのように変わるかを示した図であるここにはバンド幅で電子の移動のしやすさの尺度であるT0は満ちたバンドの平均エネルギーである

バンド幅が電子相関エネルギーに比べ十分小さなときすなわちUltlt2312のときは禁制帯が現れ系は絶縁体となるU0は局在性の強い極限で電子移動が起きるにはUだけ余分のエネルギーが必要であるこのため電子は原子付近に束縛され局在電子系として振る舞う

lower Hubbard band

upper Hubbard band

電荷移動型絶縁体

MnOは電荷移動型絶縁体と考えられているMn2+においては3d電子5個がスピンを揃えてlower Hubbard bandの5個の軌道を占有しているここに1個電子を付け加えようとすると逆向きのスピンを付け加えなければならないのでupper Hubbardbandに入り電子相関Uだけエネルギーを損する

実際には酸化物イオンのp軌道からなる価電子帯が満ちたバンドの頂にくるのでギャップはこの状態と3d電子系のupperHubbard bandの間に開いているこれを電荷移動型ギャップという

CT(電荷移動)ギャップ

Lower Hubbard band

Upper Hubbard band

電子相関U

23 局在電子モデル

原子の位置に局在した多電子系では通常フントの規則に従うように軌道角運動量とスピン角運動量が決められる

3d遷移金属イオンでは3d電子が配位子のp軌道と

混成し軌道角運動量はほぼ消失している

4f希土類では4f軌道は孤立原子内の状態とあまり変わらないので全角運動量がよい量子数である

局在電子系の磁性

常磁性体に誘起される平均の磁気モーメントは室温でB=100mTの磁界のもとでも10-2emucc程度の小さな量である

これに対して強磁性体では磁界を印加しなくても103emuccという大きな自発磁気モーメントを持っている

ワイスは原子の磁気モーメントが周りの磁気モーメントからの場(分子場)を受けて整列しているというモデルを立てて強磁性体の自発磁化を説明した

24 ワイスの分子場理論

1つの磁気モーメントを取り出しその周りにあるすべての磁気モーメントから生じた有効磁界によって考えている磁気モーメントが常磁性的に分極するならば自己完結的に強磁性が説明できる

これを分子場理論有効磁界を分子磁界または分子場(molecular field)と呼ぶ

Heff

周りからの磁場Heff=H+AMが働く磁化M

分子場理論

分子場係数

磁化Mをもつ磁性体に外部磁界Hが加わったときの有効磁界はHeff=H+AMと表されるAを分子場係数と呼ぶ

分子場係数AはJexを交換相互作用係数zを配位数としてA=2zJexN(gB)2で与えられる

この磁界によって生じる常磁性磁化MはM=M0BJ(gBHeffJkT)という式で表される

M0=NgBJはすべての磁気モーメントが整列したときに期待される磁化

分子場理論

自発磁化が生じる条件を求める

Heff=H+AMであるからH=0のときHeff=AM自発磁化が生じるにはHeff=AMを

M=M0BJ(gBHeffJkT)に代入して

MM0=BJ(gBJHeffkT)=BJ(gBJAMkT)が成立しなければならない

Aに分子場係数の式A=2zJexN(gB)2 を代入してMM0= BJ(2zJexgBMJ N(gB)2kT)

ここでM0=NgBJを使って書き直すとMM0= BJ((2zJexJ

2kT) MM0)を得る

MM0= BJ((2zJexJ2kT) MM0)を解く

y=MM0x=(2zJexJ2kT) MM0とすると上の方程式を解

くことは曲線y=BJ(x)と直線 y=x (2zJexJ2kT)を連立して

解くことと同じである

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

J=52のブリルアン関数

y=x (2zJexJ2kT) Tが小さいとき

解が存在する自発磁化あり

y=x (2zJexJ2kT) Tが大きいとき

解が存在しない自発磁化なし

キュリー温度においては直線はブリルアン関数の接線

温度が上がると

分子場理論

キュリー温度

温度が低いとき直線の傾斜はゆるくブリルアン曲線と直線ははy=MM0 =1付近で交わる

温度が上昇するとyの小さいところ交わる

高温になると0以外に交点を持たなくなる

(2zJexJ2kT) y=xの勾配とy=BJ(x)の接線の勾配

が等しいときがキュリー温度を与える

x=0付近ではyx3であるから3y=xと書ける従ってTcは2zJexJ

2kTc=3によってきまる即ちTc=2zJexJ

23kとなる

分子場理論

自発磁化の温度変化

さまざまなJについて分子場理論で交点のMM0をTに対してプロットすると磁化の温度変化を求めることができるニッケルの磁化温度曲線はJ=12でよく説明される timesは鉄はニッケルはコバルトの実測

値実線はJとしてスピンS=121infinをとった

ときの計算値

分子場理論

キュリーワイスの法則

キュリー温度Tc以上では磁気モーメントはバラバラ

の方向を向き常磁性になる分子場理論によればこのときの磁化率は次式で与えられる

この式をキュリーワイスの法則という

Cはワイス定数pは常磁性キュリー温度という

1をTに対してプロットすると1=(T- p)Cとなり横軸を横切る温度がpである

pT

C

分子場理論

キュリーワイスの法則を導く

Heff=H+AM

MHeff=CT (MとHeffの間にキュリーの法則が成立すると仮定する)

M(H+AM)=CTrarrMT=C(H+AM)従ってM(T-CA)=CHより

=MH=C(T-CA)となるCA=pと置けばキュリーワイスの法則が導かれるすなわち=C(T- p)

自発磁化の温度変化

強磁性体の自発磁化の大きさは温度上昇とともに減少しキュリー温度Tcにおいて消滅する

Tc以上では常磁性であ

る常磁性磁化率の逆数は温度に比例しゼロに外挿するとキュリー温度が求まる

25 交換相互作用(exchange interaction)

交換相互作用という言葉はもともとは多電子原子の中で働くクーロン相互作用の算出において電子同士を区別できないことから来るエネルギーの補正項のことで原子内交換相互作用といいます(intra-atomic exchange interaction)

この概念を原子間に拡張したのが原子間交換相互作用(inter-atomic exchangeinteraction)です

ウンチクコーナーイントラ(intra)とインター(inter) イントラは内部のといういみの接頭辞インターは複数のものの

間のという意味の接頭辞ですイントラネットインターネットということばもここから来ています

原子内交換相互作用

原子内交換相互作用は本質的にクーロン相互作用です2つの電子(波動関数を12とする)の間に働くクーロン相互作用のエネルギーHはH= K12-(12) J12(1+4s1s2) で表されます

K12は次式で与えられるクーロン積分です

J12は次式で与えられる交換積分で電子が区別できないことからくる項です

K dr dr r re

rr r12 1 2 1 1 2 2

2

12

1 1 2 2

J dr dr r re

rr r12 1 2 1 1 2 2

2

12

1 2 2 1

原子内交換相互作用

H= K12-(12) J12(1+4s1s2)

の固有値は=K12ndashJ12 (s1とs2が同符号のとき)= K12 ( s1とs2が異符号のとき)

Hと平均のエネルギー(H0=K12-J122)との差ndash2J12s1s2のことを原子内交換エネルギーという

K12

K12-J12

原子間交換相互作用

本来磁気秩序を考えるには物質系全体のスピンを考えねばならないのであるが電子の軌道が原子に局在しているみなして電子のスピンを各原子Iの位置に局在した全スピンSiで代表させて原子1の全スピンS1と原子2の全スピンS2との間に原子間交換相互作用が働くと考えるのがハイゼンベルグ模型であるこのとき交換エネルギーHex は原子内交換相互作用を一般化して見かけの交換積分J12を用いて

Hex =-2J12S1S2

で表されるJが正であれば相互作用は強磁性的負であれば反強磁性的である

交換相互作用

ハイゼンベルグ模型 Hex =-2J12S1S2

Jが正であれば相互作用は強磁性的負であれば反強磁性的

交換積分の起源隣接原子のスピン間の直接交換(direct exchange)

酸素などのアニオンのp電子軌道との混成を通してスピン同士がそろえあう超交換(superexchange)

伝導電子との相互作用を通じてそろえあう間接交換(indirect exchange)

電子の移動と磁性とが強く結びついている二重交換相互作用(double exchange)

さまざまな交換相互作用

直接交換

超交換

間接交換(RKKY)

二重交換

超交換相互作用

酸化物磁性体では局在電子系の磁気モーメントの間に働く相互作用は遷移金属の3d電子どうしの重なりで生じるのではなく配位子のp電子が遷移金属イオンの3d軌道に仮想的に遷

移した中間状態を介して相互作用するこれを超交換相互作用と称する主として反強磁性的に働く

酸素イオン

遷移金属イオン

超交換相互作用模式図

90度強磁性

180度反強磁性

(Goodenough)

アニオン

遷移金属イオン

アニオン

遷移金属イオン

(a)

(b)

Fig 9 超交換相互作用の模式図

間接交換(RKKY)相互作用

希土類金属の磁性は4f電子が担うが伝導電子である5d電子が4f電子と原子内交換相互作用することによってスピン偏極を受けこれが隣接の希土類原子のf電子と相互作用するという形の間接的な交換相互作用を行っていると考えられている

これをRKKY (Rudermann Kittel Kasuya Yoshida)相互作用という

伝導電子を介した局在スピン間の磁気的相互作用は距離に対して余弦関数的に振動しその周期は伝導電子のフェルミ波数で決められる

RKKY振動

フリーデル振動

21F

2

F

2

RKKY 29 SS

Rkf

N

NJH e

4

sincos

x

xxxxf

CoCu superlattice

Cu thickness (Aring)

磁気抵

抗比

図15

二重交換相互作用

LaMnO3ではすべてのMn原子は3価なので egバンドには1個の電子が存在しこの電子が隣接Mn原子のeg軌道に移動しようとすると電子相関エネルギーUだけのエネルギーが必要であるため電子移動は起きずモット絶縁体となっている

LaをSrで置き換え4価のMnが生じるとMn4+のeg軌道は空であるから他のMn3+から電子が移ることができ金属的な導電性を生じる

このとき隣接するMn原子の磁気モーメントのなす角とするとeg電子の飛び移りの確率はcos( 2)に比例する=0(スピンが平行)のとき飛び移りが最も起きやすく運動エネルギーの分だけエネルギーが下がるので強磁性となる

二重交換の模式図

Mn3+ Mn4+

3磁気ヒステリシス曲線と磁区

磁気ヒステリシスについて

反磁界と静磁エネルギー

磁気異方性

磁区と磁壁磁壁移動と磁化回転

保磁力

31 磁気ヒステリシス

強磁性体においてはその磁化は印加磁界に比例せずヒステリシスを示す

(高梨初等磁気工学講座テキスト)

OrarrBrarrC初磁化曲線

CrarrD 残留磁化

DrarrE 保磁力

CrarrDrarrErarrFrarrGrarrC

ヒステリシスループ

縦軸磁化

横軸磁界

[参考]

磁化曲線の測定法

磁性体を磁界中に置き磁界を増加していくと磁性体の磁化は増加していき次第に飽和する

磁化曲線は磁力計を使って測定する

VSM試料振動型磁力計試料を01~02mm程度のわずかな振幅で80Hz程度の低周波で振動させ試料の

磁化による磁束の時間変化を電磁石の磁極付近に置かれたサーチコイルに誘起された誘導起電力として検出する誘導起電力は試料の磁化に比例するので磁化を測定することができる

電磁石

磁極付近に置いたサーチコイル

スピーカーと同じ振動機構

[参考]

VSMブロック図

丸善実験物理学講座「磁気測定I」p68より

磁気ヒステリシスと応用

保磁力のちがいで用途が違う

Hc小軟質磁性体

磁気ヘッド変圧器鉄心磁気シールド

Hc中半硬質磁性体

磁気記録媒体

Hc大硬質磁性体

永久磁石このループの面積が磁石に蓄積される磁気エネルギー高周波の場合はヒステリシス損失となる

永久磁石の最大エネルギー積(BH)maxの変遷(httpwwwaacgbhamacukmagnetic_materialshistoryhtm)

BHmax

32 なぜ初磁化状態では磁化がないのか磁区(magnetic domain)

磁化が特定の方向を向くとするとN極からS極に向

かって磁力線が生じますこの磁力線は考えている試料の外を通っているだけでなく磁性体の内部も貫いていますこの磁力線を反磁界といいます反磁界の向きは磁化の向きとは反対向きなので磁化は回転する静磁力を受けて不安定となります

磁化の方向が逆方向の縞状の磁区と呼ばれる領域に分かれるならば反磁界がうち消し合って静磁エネルギーが低下して安定するのです

反磁界(demagnetization field)

磁性体表面の法線方向の磁化成分をMn とすると表面には単位面積あたり = Mnという大きさの磁極(Wbm2)が生じる

磁極からはガウスの定理によって全部で μ0の磁力線がわき出すこのうち反磁界係数Nを使って定義される磁力線NMは内部に向かっており残りは外側に向かっているすなわち磁石の内部ではMの向きとは逆方向の反磁界が存在する

外部では磁束線は磁力線に一致する

(b) 磁力線

M- +

(a)磁化と磁極 反磁界

S N

S N

(c) 磁束線

反磁界係数N (近角強磁性体の物理より)

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0

(i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+ Ny+ Nz=1

が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx= Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx= Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

x

y

z

z

x

y

z

x

y

Nz=1

Nx= 0Ny= 0

Nx= 12

Ny= 12

Nx=13

Ny=13

Nz=13

Nz=0

反磁界補正

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0 (i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+Ny+ Nz=1が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx=Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx=Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

(近角強磁性体の物理より)

反磁界と静磁エネルギー

磁化Mが反磁界HdのもとにおかれるとU=MHdだけポテンシャルエネルギーが高くなる

一様な磁界H中の磁気モーメントMに働くトルクTはT=-MH sin

磁気モーメントのもつポテンシャルEはU=Td= - 0

MH sin d=MH (1-cos) エネルギーの原点はどこにとってもよいのでポテンシャルエネルギーはU=-MHと表される H=-Hdを代入すると反磁界によるポテンシャルの増加はU=MHd

表面磁極の分割による静磁エネルギーの減少

結晶表面をxy面にとる

表面でz=0とする

磁区の磁化方向はplusmnz

磁区のx方向の幅d

磁極の表面密度=Is 2mdltxlt(2m+1)d

=-Is (2m+1)dltxlt2(m+1)d

磁気ポテンシャルをLaplaceの方程式で求め

+ +- -

z

x

y

d

境界条件( z)z=-0=20

境界条件のもとにラプラス方程式を解くと=n An sin n(d)xexp n(d)z

係数Anは次式を満たすように決められる(d) n nAn sin n(d)x =I20 2mdltxlt(2m+1)d

= - I20 (2m+1)dltxlt2(m+1)d

rarrAn=2Isd20n2

(x=0)=(2Isd20) n (1n2)sin n(d)x

単位表面積あたりの静磁エネルギー=(2Is

220) n (1n2)int0d sin n(d)x

=(2Is2d20) n=odd (1n3)=540104Is

2d

磁気異方性

磁性体は半導体と違って形状寸法結晶方位とか磁化の方位などによって物性が大きく変化する

1つの原因は上に述べた反磁界係数で形状磁気異方性と呼ばれます反磁界によるエネルギーの損を最小化することが原因です

このほかの原因として重要なのが結晶磁気異方性です結晶磁気異方性というのは磁界を結晶のどの方位に加えるかで磁化曲線が変化する性質です

電子軌道は結晶軸に結びついているので磁気的性質と電子軌道との結びつき(スピン軌道相互作用)を通じて磁性が結晶軸と結び

つくのです半導体にも詳しい測定をすると異方性を見ることができますこれに比べ一般に半導体の電子軌道は結晶全体に広がっているので平均化されて結晶軸に依存する物性が見えにくいです

結晶磁気異方性

磁化しやすさは結晶の方位に依存する

鉄は立方晶であるが[100]が容易軸[111]は困難軸

x

y

z

[111

]

[100

]

容易軸

困難軸

[110]

円板磁性体の磁区構造

全体が磁区に分かれることにより全体の磁化がなくなっているこれが初磁化状態である

磁区の内部では磁化は任意の方向をランダムに向いている訳ではない

磁化は結晶の方位と無関係な方向を向くことはできない磁性体には磁気異方性という性質があり磁化が特定の結晶軸方位(たとえばFeでは[001]方向および等価な方向)を向く性質がある

[001]容易軸では図のように(001)面内では[100][010][-100][0-10]の4つの方向を向くので90磁壁になる

[111]容易軸では

(a) (b)

(近角強磁性体の物理)

33 ヒステリシスを磁区で説明する

残留磁化状態 逆磁区の発生と成長

磁気飽和

核発生

34 さまざまな磁区とマイクロマグネティクス

Figは結晶の対称性により磁区が変わる様子の例として縞状磁区(stripe domain)と環流磁区(closure domain)を示している磁性体を微細化して直径1μm付近になるとスピンは面内に分布してvortex状態となり中心部に垂直方向のスピン成分をもつようになるさらに微細化すると単磁区になる

微小磁区のMFM観察

磁区の観察にはビッター法といって磁性微粒子を含むコロイドを磁性体上に滴下して光学顕微鏡で観察する方法が古くから使われているこのほか磁気光学顕微鏡ローレンツ電子顕微鏡磁気力顕微鏡走査型ホール顕微鏡走査型SQUID顕微鏡スピン偏極電子顕微鏡X線MCD顕微鏡などで観察することが可能であるFig 22にはいくつかの例について筆者のMFM観察結果を示す

10 nmtimes10 nmtimes10 nmMesh size

1Number of dot

200 nmtimes200 nmtimes100nm

Dot Size

Y directionEasy axis

02Damping constant(α)

-176times107 rad(sOe)Gyro magnetic constant(γ)

1000 ergcm3Anisotropic constant (Ku)

1times10-6 ergcm3Exchange field (A)

800 emucm3Saturation magnetization (Ms)

Hy = 10 kOe rarr 0 Oe

divM divMy

LLG 方程式を用いた

マイクロ磁気解析

Dot model

200 x 200thickness50 nm

Magnetic moment - dv M Force gradient

200 x 200thickness100 nm

90 degree walls propeller-like distortion

Calculation of a single dot

Spin structure

-divM

Isolated square dot

Force gradient image Spin distribution image

Four-dot system

Shift of the center occurs Reversal of chirality

MFM imagewith low-moment tip

(CoPtCr240Å in HV)

Spin distribution imagewith the force-gradientimage overlapped

Inversion of chirality

Comparison between MFM andsimulation of spin distribution

Simulation was carried outin the model structureconsisting of four squaredots with a dimension of200 nmtimes200 nmtimes20 nmwith 50nm separationbetween dots

The calculated spinstructure shows a closuredomain structure with the90-wall appears

The chirality of the spindirection in adjacent dots isopposite to each other asshown by white arrows

The Z-component force-gradient image taking intoaccount the tip-sampleinteraction is overlapped

Calculated magnetization configurationof Y-shaped permalloy dot

Calculation parametersWidth 300 nmThickness 100 nmEasy axis 0 ergcm3

x

y

z

Force gradient-divM

Force gradient(Magnified)

Experimental MFM images

bull Single domains appear in two armsbull Multi-domain of 4 chained closer-domains on the restbull Spin-flow at crossing region turns left in two steps

50

0n

m2

m

L

C

R

C

L

R

x

y

z

Calculated magnetization configurationsof Y-shaped permalloy mirror-dots

Calculation parametersWidth 200 nmThickness 40 nmEasy axis X 1000 ergcm3

Force gradient-divM

Single dot

Experimental MFM images

15 m

bull Calculated spin-flows similar to experimental resultbull Vortices with same chirality appear at the ends of all armsbull Chirality of adjacent dot shows a mirror-reflection

Easy axisEasy axis

Easy axis

Easy axis

-divM

4 おわりに

磁性特有のテクニカルタームがあるが慣れればそれほど難しいものではない

大部分の話は量子力学なしでも理解できる電磁気学の知識があればよい

応用につながるのは磁区磁壁の物理である

メゾスコピック系では量子的な現象が現れるこれが得意なスピン依存伝導現象をもたらす

[参考0]半導体磁性体誘電体

半導体と磁性体の対比

半導体 電子物性パラメータは基本的

にバンド構造で決まるキャリア密度は人為的に制御される

量子構造を考えない限り電子を古典粒子として有効質量近似で扱える

応用されるのは電子構造で決まる移動度などのミクロな電子物性である

電子物性が寸法方位形状にほとんど依存しない

単位系はCGSをもとにした実用単位系が使われる

磁性体 金属磁性体の磁性はスピン偏

極バンド構造で決まるが非金属磁性体の磁性は局在多電子系のフント則で決まる

交換相互作用スピン軌道相互作用など量子力学が基本

応用されるのは磁区により生じるヒステリシスに関連したマクロ磁気物性である

磁性は磁気異方性の影響を受け寸法方位形状により大幅に変化する

単位系が複雑でCGSとSIが混在して使われている

磁性体と誘電体の対比

磁性体

磁気モーメントμ(軸性ベクトル)

磁化M

自発磁化Ms

反磁界

磁気ヒステリシス

飽和磁化残留磁化保磁力

磁区(ドメイン)

キュリー温度

誘電体

電気双極子qr(極性ベクトル)

電気分極P

自発分極Ps

反電界

誘電ヒステリシス

飽和分極残留分極抗電界

分域(ドメイン)

キュリー温度

[参考1]

磁界磁束磁化

磁界(磁場)H磁束密度B磁化M

磁界H中に置かれた磁化Mの磁性体が磁束密

度は真空中の磁束密度に磁化による磁束密度を加えたものであるすなわちB=0H+M

B=0H B=0H+M

M

磁性体があると磁束密度が高くなる

真空中での磁束密度

磁化とは

物質に磁界を加えたとき物質の表面に磁極が生じ一時的に磁石のようになるがそのとき物質が磁化されたという

(b)(a)

(高梨初等磁気工学講座)より

磁化の定義

K番目の原子の1原子あ

たりの磁気モーメントをkとするときその単位体積についての総和k

を磁化Mと定義するM= k

磁気モーメントの単位はWbmであるから磁化の単位はWbm2となる

(高梨初等磁気工学講座)より

常磁性

磁極と磁気モーメント

磁石にはN極とS極がある

磁界中に置かれた磁性体にも磁極が誘起される磁極は必ずNSの対で現れる(単極は見つかっていない)

磁極の大きさをq [Wb]とすると磁界によってNSの対に働くトルクは-qdHsin [Nm]=qdsin [Wbm] H[Am]

必ずNとSが対で現れるならm=qrを磁性を扱う基本単

位と考えることが出来るこれを磁気モーメントという単位は[Wbm]

[参考2]

磁気モーメントの電子的起源

磁気モーメント

一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは

T=qH r sin=mH sin 磁気モーメントのもつポテンシャルEは

E=Td= mH sin d=mH(1-cos)

ポテンシャルの原点はどこにとってもよいから E=-mH mHのときエネルギーは極小になる

mはHに平行になろうとする(高梨初等磁気工学講座)より

r 磁気モーメント

m=qr [Wbm]

-q [Wb]

+q [Wb]

qH

-qH

rsin

単位E[J]=-m[Wbm] H[Am]

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 5: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

21 バンドモデル

通常の磁性の教科書は原子磁石から出発して常磁性を説明し原子間交換相互作用をつかって強磁性反強磁性などを説明し分子場理論で磁化の温度変化キュリー温度などを説明する局在電子モデルに基づいており金属のバンドモデルにもとづく遍歴電子磁性に触れるのはその後になっている

一方半導体を学んできた研究者にとってはバンドモデルを出発点にすることに慣れているまたスピンエレクトロニクスにおいてはスピン偏極バンドをベースに考えることが多い

ここではバンドモデルにもとづく金属磁性を出発点にとって電子相関の強い極限として局在モデルを扱う

スレーターポーリング曲線

種々の遷移金属合金について1原子あたりの原子磁気モーメントと平均電子数の関係を示した曲線

Crから始まって45の傾斜で上昇する半直線かFe30Co70付近からNi60Cu40に向かって-45で下降す

る半直線のいずれかに載っている Fe Co Niの磁気モーメントはそれぞれ22 17 06μB

この値はフント則から期待される値より小さい

鉄のバンド構造

磁性体といえばだれもが鉄Feを思い浮かべるFeは金属である

一般に金属であればエネルギーバンドモデルでは伝導帯の電子状態の一部が占有され残りが空いているような電子構造を持つはずである

通常金属と遷移金属の状態密度

(a)はアルカリ金属(NaKなど)のs電子に由来するバンド状態密度である

(b)は磁性をもたない遷移金属のバンド状態密度であるS電子帯に加えて狭く状態密度の高いd電子帯が重畳している

(b)

Energy

bullDOS

EFEC

(a)

Energy

bullDOS

EFEC

常磁性金属と強磁性遷移金属

磁性がある場合のエネルギーバンドを考えるに当たっては電子のスピンごとにバンドを考えなければならない右側が上向きスピン左側が下向きスピンを持つ電子の状態密度である

普通の非磁性金属では図(a)のように左右対称となるこれに対し強磁性体では図(b)に示すように上向きスピンバンドと下向きスピンバンドとに分裂する分裂は狭い3dバンドで大きく広いspバンドでは小さい この分裂を交換分裂という

DOS(down spin)

EC

EF

(b)

uarrdarr

DOS(up spin)

E

DOS(up spin)

EC

EF

(a)

uarrdarr

DOS(down spin)

強磁性金属のスピン偏極バンド構造

Callaway Wang Phys Rev B16(lsquo97)2095

uarrスピンバンド

darrスピンバンド

uarrスピンバンドとdarrスピンバンドの占有状態密度の差によって磁気モーメントが決まる

FeとNiのバンド状態密度

Ni

スピン状態密度

Ef

E

Fe

スピン状態密度

E

Ef

Niはuarrスピンバンドは満ちdarrバンドにはわずかな正孔しかないnuarr-ndarr=06

Feはuarrスピンバンドに比しdarrバンドの状態密度がかなり小さいnuarr-ndarr=22

darrバンドに06個の

空孔があるとCuからs電子が流れこみCuが40合金したとき

モーメントを失う

ハーフメタルとは

(a)通常の強磁性体金属はup spin down spinとも金属的

(b)Half metalではup spinは金属down spinは半導体

DOS(downspin)

EC

EF

(a)

uarrdarr

DOS(up spin)

E

DOS(down spin)

EC

EF

(b)uarr

darr

E

DOS(up spin)

darr

ハーフメタルとスピンエレクトロニクス

たとえば磁気トンネル接合(MTJ)素子のところで出てくるホイスラー合金Co2CrAlなどがその例

上向きスピンのバンドを見る限り金属のように伝導帯の一部が占有された構造をとるのに対し下向きスピンのバンドにおいては半導体のように電子に占有された価電子帯と電子に占有されない伝導帯がバンドギャップを隔てて分かれておりフェルミ準位はバンドギャップの中に存在する

このような構造をとるとフェルミ準位における電子状態は100スピン偏極するMTJにおいて磁気抵抗比はスピン偏極率の関数で与えられるのでハーフメタルが注目される

ハーフメタルCo2MnGe

uarrスピンは金属 darrスピンは半導体 Geの一部をGaに置き換えるとスピン

偏極率が上がる

L21 X2YZ

バンドと電子相関

通常のバンド計算では電子間の位置の相関を平均的なものに置き換える近似を行うので真の電子間相互作用は求まらない

バンドモデルが適用できるのは金属磁性体に限られるMnOやNiOのような絶縁性の磁性体を単純にバンド計算すると金属になってしまうこれは電子相関が考慮されていないからである

電子相関とはフントの規則のように電子同士のクーロン相互作用がスピンに依存することから生じるつまり同じ向きのスピンをもつ2つの電子は同じ軌道に入ることがないので重なりが小さくクーロン相互作用も小さいが逆向きスピンの2つの電子は同じ軌道を運動できるのでクーロン相互作用が強くなってエネルギー的に不安定になるため電子の移動を妨げる効果であるこの2つの状態の間のエネルギー差は電子相関エネルギーと呼ばれUで表され数eVのオーダーである

22 ハバードモデル

バンドモデルに電子相関を導入する手法がハバードモデルであるFig 3は横軸をUにとったとき電子のエネルギー準位がUに対しどのように変わるかを示した図であるここにはバンド幅で電子の移動のしやすさの尺度であるT0は満ちたバンドの平均エネルギーである

バンド幅が電子相関エネルギーに比べ十分小さなときすなわちUltlt2312のときは禁制帯が現れ系は絶縁体となるU0は局在性の強い極限で電子移動が起きるにはUだけ余分のエネルギーが必要であるこのため電子は原子付近に束縛され局在電子系として振る舞う

lower Hubbard band

upper Hubbard band

電荷移動型絶縁体

MnOは電荷移動型絶縁体と考えられているMn2+においては3d電子5個がスピンを揃えてlower Hubbard bandの5個の軌道を占有しているここに1個電子を付け加えようとすると逆向きのスピンを付け加えなければならないのでupper Hubbardbandに入り電子相関Uだけエネルギーを損する

実際には酸化物イオンのp軌道からなる価電子帯が満ちたバンドの頂にくるのでギャップはこの状態と3d電子系のupperHubbard bandの間に開いているこれを電荷移動型ギャップという

CT(電荷移動)ギャップ

Lower Hubbard band

Upper Hubbard band

電子相関U

23 局在電子モデル

原子の位置に局在した多電子系では通常フントの規則に従うように軌道角運動量とスピン角運動量が決められる

3d遷移金属イオンでは3d電子が配位子のp軌道と

混成し軌道角運動量はほぼ消失している

4f希土類では4f軌道は孤立原子内の状態とあまり変わらないので全角運動量がよい量子数である

局在電子系の磁性

常磁性体に誘起される平均の磁気モーメントは室温でB=100mTの磁界のもとでも10-2emucc程度の小さな量である

これに対して強磁性体では磁界を印加しなくても103emuccという大きな自発磁気モーメントを持っている

ワイスは原子の磁気モーメントが周りの磁気モーメントからの場(分子場)を受けて整列しているというモデルを立てて強磁性体の自発磁化を説明した

24 ワイスの分子場理論

1つの磁気モーメントを取り出しその周りにあるすべての磁気モーメントから生じた有効磁界によって考えている磁気モーメントが常磁性的に分極するならば自己完結的に強磁性が説明できる

これを分子場理論有効磁界を分子磁界または分子場(molecular field)と呼ぶ

Heff

周りからの磁場Heff=H+AMが働く磁化M

分子場理論

分子場係数

磁化Mをもつ磁性体に外部磁界Hが加わったときの有効磁界はHeff=H+AMと表されるAを分子場係数と呼ぶ

分子場係数AはJexを交換相互作用係数zを配位数としてA=2zJexN(gB)2で与えられる

この磁界によって生じる常磁性磁化MはM=M0BJ(gBHeffJkT)という式で表される

M0=NgBJはすべての磁気モーメントが整列したときに期待される磁化

分子場理論

自発磁化が生じる条件を求める

Heff=H+AMであるからH=0のときHeff=AM自発磁化が生じるにはHeff=AMを

M=M0BJ(gBHeffJkT)に代入して

MM0=BJ(gBJHeffkT)=BJ(gBJAMkT)が成立しなければならない

Aに分子場係数の式A=2zJexN(gB)2 を代入してMM0= BJ(2zJexgBMJ N(gB)2kT)

ここでM0=NgBJを使って書き直すとMM0= BJ((2zJexJ

2kT) MM0)を得る

MM0= BJ((2zJexJ2kT) MM0)を解く

y=MM0x=(2zJexJ2kT) MM0とすると上の方程式を解

くことは曲線y=BJ(x)と直線 y=x (2zJexJ2kT)を連立して

解くことと同じである

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

J=52のブリルアン関数

y=x (2zJexJ2kT) Tが小さいとき

解が存在する自発磁化あり

y=x (2zJexJ2kT) Tが大きいとき

解が存在しない自発磁化なし

キュリー温度においては直線はブリルアン関数の接線

温度が上がると

分子場理論

キュリー温度

温度が低いとき直線の傾斜はゆるくブリルアン曲線と直線ははy=MM0 =1付近で交わる

温度が上昇するとyの小さいところ交わる

高温になると0以外に交点を持たなくなる

(2zJexJ2kT) y=xの勾配とy=BJ(x)の接線の勾配

が等しいときがキュリー温度を与える

x=0付近ではyx3であるから3y=xと書ける従ってTcは2zJexJ

2kTc=3によってきまる即ちTc=2zJexJ

23kとなる

分子場理論

自発磁化の温度変化

さまざまなJについて分子場理論で交点のMM0をTに対してプロットすると磁化の温度変化を求めることができるニッケルの磁化温度曲線はJ=12でよく説明される timesは鉄はニッケルはコバルトの実測

値実線はJとしてスピンS=121infinをとった

ときの計算値

分子場理論

キュリーワイスの法則

キュリー温度Tc以上では磁気モーメントはバラバラ

の方向を向き常磁性になる分子場理論によればこのときの磁化率は次式で与えられる

この式をキュリーワイスの法則という

Cはワイス定数pは常磁性キュリー温度という

1をTに対してプロットすると1=(T- p)Cとなり横軸を横切る温度がpである

pT

C

分子場理論

キュリーワイスの法則を導く

Heff=H+AM

MHeff=CT (MとHeffの間にキュリーの法則が成立すると仮定する)

M(H+AM)=CTrarrMT=C(H+AM)従ってM(T-CA)=CHより

=MH=C(T-CA)となるCA=pと置けばキュリーワイスの法則が導かれるすなわち=C(T- p)

自発磁化の温度変化

強磁性体の自発磁化の大きさは温度上昇とともに減少しキュリー温度Tcにおいて消滅する

Tc以上では常磁性であ

る常磁性磁化率の逆数は温度に比例しゼロに外挿するとキュリー温度が求まる

25 交換相互作用(exchange interaction)

交換相互作用という言葉はもともとは多電子原子の中で働くクーロン相互作用の算出において電子同士を区別できないことから来るエネルギーの補正項のことで原子内交換相互作用といいます(intra-atomic exchange interaction)

この概念を原子間に拡張したのが原子間交換相互作用(inter-atomic exchangeinteraction)です

ウンチクコーナーイントラ(intra)とインター(inter) イントラは内部のといういみの接頭辞インターは複数のものの

間のという意味の接頭辞ですイントラネットインターネットということばもここから来ています

原子内交換相互作用

原子内交換相互作用は本質的にクーロン相互作用です2つの電子(波動関数を12とする)の間に働くクーロン相互作用のエネルギーHはH= K12-(12) J12(1+4s1s2) で表されます

K12は次式で与えられるクーロン積分です

J12は次式で与えられる交換積分で電子が区別できないことからくる項です

K dr dr r re

rr r12 1 2 1 1 2 2

2

12

1 1 2 2

J dr dr r re

rr r12 1 2 1 1 2 2

2

12

1 2 2 1

原子内交換相互作用

H= K12-(12) J12(1+4s1s2)

の固有値は=K12ndashJ12 (s1とs2が同符号のとき)= K12 ( s1とs2が異符号のとき)

Hと平均のエネルギー(H0=K12-J122)との差ndash2J12s1s2のことを原子内交換エネルギーという

K12

K12-J12

原子間交換相互作用

本来磁気秩序を考えるには物質系全体のスピンを考えねばならないのであるが電子の軌道が原子に局在しているみなして電子のスピンを各原子Iの位置に局在した全スピンSiで代表させて原子1の全スピンS1と原子2の全スピンS2との間に原子間交換相互作用が働くと考えるのがハイゼンベルグ模型であるこのとき交換エネルギーHex は原子内交換相互作用を一般化して見かけの交換積分J12を用いて

Hex =-2J12S1S2

で表されるJが正であれば相互作用は強磁性的負であれば反強磁性的である

交換相互作用

ハイゼンベルグ模型 Hex =-2J12S1S2

Jが正であれば相互作用は強磁性的負であれば反強磁性的

交換積分の起源隣接原子のスピン間の直接交換(direct exchange)

酸素などのアニオンのp電子軌道との混成を通してスピン同士がそろえあう超交換(superexchange)

伝導電子との相互作用を通じてそろえあう間接交換(indirect exchange)

電子の移動と磁性とが強く結びついている二重交換相互作用(double exchange)

さまざまな交換相互作用

直接交換

超交換

間接交換(RKKY)

二重交換

超交換相互作用

酸化物磁性体では局在電子系の磁気モーメントの間に働く相互作用は遷移金属の3d電子どうしの重なりで生じるのではなく配位子のp電子が遷移金属イオンの3d軌道に仮想的に遷

移した中間状態を介して相互作用するこれを超交換相互作用と称する主として反強磁性的に働く

酸素イオン

遷移金属イオン

超交換相互作用模式図

90度強磁性

180度反強磁性

(Goodenough)

アニオン

遷移金属イオン

アニオン

遷移金属イオン

(a)

(b)

Fig 9 超交換相互作用の模式図

間接交換(RKKY)相互作用

希土類金属の磁性は4f電子が担うが伝導電子である5d電子が4f電子と原子内交換相互作用することによってスピン偏極を受けこれが隣接の希土類原子のf電子と相互作用するという形の間接的な交換相互作用を行っていると考えられている

これをRKKY (Rudermann Kittel Kasuya Yoshida)相互作用という

伝導電子を介した局在スピン間の磁気的相互作用は距離に対して余弦関数的に振動しその周期は伝導電子のフェルミ波数で決められる

RKKY振動

フリーデル振動

21F

2

F

2

RKKY 29 SS

Rkf

N

NJH e

4

sincos

x

xxxxf

CoCu superlattice

Cu thickness (Aring)

磁気抵

抗比

図15

二重交換相互作用

LaMnO3ではすべてのMn原子は3価なので egバンドには1個の電子が存在しこの電子が隣接Mn原子のeg軌道に移動しようとすると電子相関エネルギーUだけのエネルギーが必要であるため電子移動は起きずモット絶縁体となっている

LaをSrで置き換え4価のMnが生じるとMn4+のeg軌道は空であるから他のMn3+から電子が移ることができ金属的な導電性を生じる

このとき隣接するMn原子の磁気モーメントのなす角とするとeg電子の飛び移りの確率はcos( 2)に比例する=0(スピンが平行)のとき飛び移りが最も起きやすく運動エネルギーの分だけエネルギーが下がるので強磁性となる

二重交換の模式図

Mn3+ Mn4+

3磁気ヒステリシス曲線と磁区

磁気ヒステリシスについて

反磁界と静磁エネルギー

磁気異方性

磁区と磁壁磁壁移動と磁化回転

保磁力

31 磁気ヒステリシス

強磁性体においてはその磁化は印加磁界に比例せずヒステリシスを示す

(高梨初等磁気工学講座テキスト)

OrarrBrarrC初磁化曲線

CrarrD 残留磁化

DrarrE 保磁力

CrarrDrarrErarrFrarrGrarrC

ヒステリシスループ

縦軸磁化

横軸磁界

[参考]

磁化曲線の測定法

磁性体を磁界中に置き磁界を増加していくと磁性体の磁化は増加していき次第に飽和する

磁化曲線は磁力計を使って測定する

VSM試料振動型磁力計試料を01~02mm程度のわずかな振幅で80Hz程度の低周波で振動させ試料の

磁化による磁束の時間変化を電磁石の磁極付近に置かれたサーチコイルに誘起された誘導起電力として検出する誘導起電力は試料の磁化に比例するので磁化を測定することができる

電磁石

磁極付近に置いたサーチコイル

スピーカーと同じ振動機構

[参考]

VSMブロック図

丸善実験物理学講座「磁気測定I」p68より

磁気ヒステリシスと応用

保磁力のちがいで用途が違う

Hc小軟質磁性体

磁気ヘッド変圧器鉄心磁気シールド

Hc中半硬質磁性体

磁気記録媒体

Hc大硬質磁性体

永久磁石このループの面積が磁石に蓄積される磁気エネルギー高周波の場合はヒステリシス損失となる

永久磁石の最大エネルギー積(BH)maxの変遷(httpwwwaacgbhamacukmagnetic_materialshistoryhtm)

BHmax

32 なぜ初磁化状態では磁化がないのか磁区(magnetic domain)

磁化が特定の方向を向くとするとN極からS極に向

かって磁力線が生じますこの磁力線は考えている試料の外を通っているだけでなく磁性体の内部も貫いていますこの磁力線を反磁界といいます反磁界の向きは磁化の向きとは反対向きなので磁化は回転する静磁力を受けて不安定となります

磁化の方向が逆方向の縞状の磁区と呼ばれる領域に分かれるならば反磁界がうち消し合って静磁エネルギーが低下して安定するのです

反磁界(demagnetization field)

磁性体表面の法線方向の磁化成分をMn とすると表面には単位面積あたり = Mnという大きさの磁極(Wbm2)が生じる

磁極からはガウスの定理によって全部で μ0の磁力線がわき出すこのうち反磁界係数Nを使って定義される磁力線NMは内部に向かっており残りは外側に向かっているすなわち磁石の内部ではMの向きとは逆方向の反磁界が存在する

外部では磁束線は磁力線に一致する

(b) 磁力線

M- +

(a)磁化と磁極 反磁界

S N

S N

(c) 磁束線

反磁界係数N (近角強磁性体の物理より)

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0

(i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+ Ny+ Nz=1

が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx= Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx= Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

x

y

z

z

x

y

z

x

y

Nz=1

Nx= 0Ny= 0

Nx= 12

Ny= 12

Nx=13

Ny=13

Nz=13

Nz=0

反磁界補正

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0 (i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+Ny+ Nz=1が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx=Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx=Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

(近角強磁性体の物理より)

反磁界と静磁エネルギー

磁化Mが反磁界HdのもとにおかれるとU=MHdだけポテンシャルエネルギーが高くなる

一様な磁界H中の磁気モーメントMに働くトルクTはT=-MH sin

磁気モーメントのもつポテンシャルEはU=Td= - 0

MH sin d=MH (1-cos) エネルギーの原点はどこにとってもよいのでポテンシャルエネルギーはU=-MHと表される H=-Hdを代入すると反磁界によるポテンシャルの増加はU=MHd

表面磁極の分割による静磁エネルギーの減少

結晶表面をxy面にとる

表面でz=0とする

磁区の磁化方向はplusmnz

磁区のx方向の幅d

磁極の表面密度=Is 2mdltxlt(2m+1)d

=-Is (2m+1)dltxlt2(m+1)d

磁気ポテンシャルをLaplaceの方程式で求め

+ +- -

z

x

y

d

境界条件( z)z=-0=20

境界条件のもとにラプラス方程式を解くと=n An sin n(d)xexp n(d)z

係数Anは次式を満たすように決められる(d) n nAn sin n(d)x =I20 2mdltxlt(2m+1)d

= - I20 (2m+1)dltxlt2(m+1)d

rarrAn=2Isd20n2

(x=0)=(2Isd20) n (1n2)sin n(d)x

単位表面積あたりの静磁エネルギー=(2Is

220) n (1n2)int0d sin n(d)x

=(2Is2d20) n=odd (1n3)=540104Is

2d

磁気異方性

磁性体は半導体と違って形状寸法結晶方位とか磁化の方位などによって物性が大きく変化する

1つの原因は上に述べた反磁界係数で形状磁気異方性と呼ばれます反磁界によるエネルギーの損を最小化することが原因です

このほかの原因として重要なのが結晶磁気異方性です結晶磁気異方性というのは磁界を結晶のどの方位に加えるかで磁化曲線が変化する性質です

電子軌道は結晶軸に結びついているので磁気的性質と電子軌道との結びつき(スピン軌道相互作用)を通じて磁性が結晶軸と結び

つくのです半導体にも詳しい測定をすると異方性を見ることができますこれに比べ一般に半導体の電子軌道は結晶全体に広がっているので平均化されて結晶軸に依存する物性が見えにくいです

結晶磁気異方性

磁化しやすさは結晶の方位に依存する

鉄は立方晶であるが[100]が容易軸[111]は困難軸

x

y

z

[111

]

[100

]

容易軸

困難軸

[110]

円板磁性体の磁区構造

全体が磁区に分かれることにより全体の磁化がなくなっているこれが初磁化状態である

磁区の内部では磁化は任意の方向をランダムに向いている訳ではない

磁化は結晶の方位と無関係な方向を向くことはできない磁性体には磁気異方性という性質があり磁化が特定の結晶軸方位(たとえばFeでは[001]方向および等価な方向)を向く性質がある

[001]容易軸では図のように(001)面内では[100][010][-100][0-10]の4つの方向を向くので90磁壁になる

[111]容易軸では

(a) (b)

(近角強磁性体の物理)

33 ヒステリシスを磁区で説明する

残留磁化状態 逆磁区の発生と成長

磁気飽和

核発生

34 さまざまな磁区とマイクロマグネティクス

Figは結晶の対称性により磁区が変わる様子の例として縞状磁区(stripe domain)と環流磁区(closure domain)を示している磁性体を微細化して直径1μm付近になるとスピンは面内に分布してvortex状態となり中心部に垂直方向のスピン成分をもつようになるさらに微細化すると単磁区になる

微小磁区のMFM観察

磁区の観察にはビッター法といって磁性微粒子を含むコロイドを磁性体上に滴下して光学顕微鏡で観察する方法が古くから使われているこのほか磁気光学顕微鏡ローレンツ電子顕微鏡磁気力顕微鏡走査型ホール顕微鏡走査型SQUID顕微鏡スピン偏極電子顕微鏡X線MCD顕微鏡などで観察することが可能であるFig 22にはいくつかの例について筆者のMFM観察結果を示す

10 nmtimes10 nmtimes10 nmMesh size

1Number of dot

200 nmtimes200 nmtimes100nm

Dot Size

Y directionEasy axis

02Damping constant(α)

-176times107 rad(sOe)Gyro magnetic constant(γ)

1000 ergcm3Anisotropic constant (Ku)

1times10-6 ergcm3Exchange field (A)

800 emucm3Saturation magnetization (Ms)

Hy = 10 kOe rarr 0 Oe

divM divMy

LLG 方程式を用いた

マイクロ磁気解析

Dot model

200 x 200thickness50 nm

Magnetic moment - dv M Force gradient

200 x 200thickness100 nm

90 degree walls propeller-like distortion

Calculation of a single dot

Spin structure

-divM

Isolated square dot

Force gradient image Spin distribution image

Four-dot system

Shift of the center occurs Reversal of chirality

MFM imagewith low-moment tip

(CoPtCr240Å in HV)

Spin distribution imagewith the force-gradientimage overlapped

Inversion of chirality

Comparison between MFM andsimulation of spin distribution

Simulation was carried outin the model structureconsisting of four squaredots with a dimension of200 nmtimes200 nmtimes20 nmwith 50nm separationbetween dots

The calculated spinstructure shows a closuredomain structure with the90-wall appears

The chirality of the spindirection in adjacent dots isopposite to each other asshown by white arrows

The Z-component force-gradient image taking intoaccount the tip-sampleinteraction is overlapped

Calculated magnetization configurationof Y-shaped permalloy dot

Calculation parametersWidth 300 nmThickness 100 nmEasy axis 0 ergcm3

x

y

z

Force gradient-divM

Force gradient(Magnified)

Experimental MFM images

bull Single domains appear in two armsbull Multi-domain of 4 chained closer-domains on the restbull Spin-flow at crossing region turns left in two steps

50

0n

m2

m

L

C

R

C

L

R

x

y

z

Calculated magnetization configurationsof Y-shaped permalloy mirror-dots

Calculation parametersWidth 200 nmThickness 40 nmEasy axis X 1000 ergcm3

Force gradient-divM

Single dot

Experimental MFM images

15 m

bull Calculated spin-flows similar to experimental resultbull Vortices with same chirality appear at the ends of all armsbull Chirality of adjacent dot shows a mirror-reflection

Easy axisEasy axis

Easy axis

Easy axis

-divM

4 おわりに

磁性特有のテクニカルタームがあるが慣れればそれほど難しいものではない

大部分の話は量子力学なしでも理解できる電磁気学の知識があればよい

応用につながるのは磁区磁壁の物理である

メゾスコピック系では量子的な現象が現れるこれが得意なスピン依存伝導現象をもたらす

[参考0]半導体磁性体誘電体

半導体と磁性体の対比

半導体 電子物性パラメータは基本的

にバンド構造で決まるキャリア密度は人為的に制御される

量子構造を考えない限り電子を古典粒子として有効質量近似で扱える

応用されるのは電子構造で決まる移動度などのミクロな電子物性である

電子物性が寸法方位形状にほとんど依存しない

単位系はCGSをもとにした実用単位系が使われる

磁性体 金属磁性体の磁性はスピン偏

極バンド構造で決まるが非金属磁性体の磁性は局在多電子系のフント則で決まる

交換相互作用スピン軌道相互作用など量子力学が基本

応用されるのは磁区により生じるヒステリシスに関連したマクロ磁気物性である

磁性は磁気異方性の影響を受け寸法方位形状により大幅に変化する

単位系が複雑でCGSとSIが混在して使われている

磁性体と誘電体の対比

磁性体

磁気モーメントμ(軸性ベクトル)

磁化M

自発磁化Ms

反磁界

磁気ヒステリシス

飽和磁化残留磁化保磁力

磁区(ドメイン)

キュリー温度

誘電体

電気双極子qr(極性ベクトル)

電気分極P

自発分極Ps

反電界

誘電ヒステリシス

飽和分極残留分極抗電界

分域(ドメイン)

キュリー温度

[参考1]

磁界磁束磁化

磁界(磁場)H磁束密度B磁化M

磁界H中に置かれた磁化Mの磁性体が磁束密

度は真空中の磁束密度に磁化による磁束密度を加えたものであるすなわちB=0H+M

B=0H B=0H+M

M

磁性体があると磁束密度が高くなる

真空中での磁束密度

磁化とは

物質に磁界を加えたとき物質の表面に磁極が生じ一時的に磁石のようになるがそのとき物質が磁化されたという

(b)(a)

(高梨初等磁気工学講座)より

磁化の定義

K番目の原子の1原子あ

たりの磁気モーメントをkとするときその単位体積についての総和k

を磁化Mと定義するM= k

磁気モーメントの単位はWbmであるから磁化の単位はWbm2となる

(高梨初等磁気工学講座)より

常磁性

磁極と磁気モーメント

磁石にはN極とS極がある

磁界中に置かれた磁性体にも磁極が誘起される磁極は必ずNSの対で現れる(単極は見つかっていない)

磁極の大きさをq [Wb]とすると磁界によってNSの対に働くトルクは-qdHsin [Nm]=qdsin [Wbm] H[Am]

必ずNとSが対で現れるならm=qrを磁性を扱う基本単

位と考えることが出来るこれを磁気モーメントという単位は[Wbm]

[参考2]

磁気モーメントの電子的起源

磁気モーメント

一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは

T=qH r sin=mH sin 磁気モーメントのもつポテンシャルEは

E=Td= mH sin d=mH(1-cos)

ポテンシャルの原点はどこにとってもよいから E=-mH mHのときエネルギーは極小になる

mはHに平行になろうとする(高梨初等磁気工学講座)より

r 磁気モーメント

m=qr [Wbm]

-q [Wb]

+q [Wb]

qH

-qH

rsin

単位E[J]=-m[Wbm] H[Am]

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 6: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

スレーターポーリング曲線

種々の遷移金属合金について1原子あたりの原子磁気モーメントと平均電子数の関係を示した曲線

Crから始まって45の傾斜で上昇する半直線かFe30Co70付近からNi60Cu40に向かって-45で下降す

る半直線のいずれかに載っている Fe Co Niの磁気モーメントはそれぞれ22 17 06μB

この値はフント則から期待される値より小さい

鉄のバンド構造

磁性体といえばだれもが鉄Feを思い浮かべるFeは金属である

一般に金属であればエネルギーバンドモデルでは伝導帯の電子状態の一部が占有され残りが空いているような電子構造を持つはずである

通常金属と遷移金属の状態密度

(a)はアルカリ金属(NaKなど)のs電子に由来するバンド状態密度である

(b)は磁性をもたない遷移金属のバンド状態密度であるS電子帯に加えて狭く状態密度の高いd電子帯が重畳している

(b)

Energy

bullDOS

EFEC

(a)

Energy

bullDOS

EFEC

常磁性金属と強磁性遷移金属

磁性がある場合のエネルギーバンドを考えるに当たっては電子のスピンごとにバンドを考えなければならない右側が上向きスピン左側が下向きスピンを持つ電子の状態密度である

普通の非磁性金属では図(a)のように左右対称となるこれに対し強磁性体では図(b)に示すように上向きスピンバンドと下向きスピンバンドとに分裂する分裂は狭い3dバンドで大きく広いspバンドでは小さい この分裂を交換分裂という

DOS(down spin)

EC

EF

(b)

uarrdarr

DOS(up spin)

E

DOS(up spin)

EC

EF

(a)

uarrdarr

DOS(down spin)

強磁性金属のスピン偏極バンド構造

Callaway Wang Phys Rev B16(lsquo97)2095

uarrスピンバンド

darrスピンバンド

uarrスピンバンドとdarrスピンバンドの占有状態密度の差によって磁気モーメントが決まる

FeとNiのバンド状態密度

Ni

スピン状態密度

Ef

E

Fe

スピン状態密度

E

Ef

Niはuarrスピンバンドは満ちdarrバンドにはわずかな正孔しかないnuarr-ndarr=06

Feはuarrスピンバンドに比しdarrバンドの状態密度がかなり小さいnuarr-ndarr=22

darrバンドに06個の

空孔があるとCuからs電子が流れこみCuが40合金したとき

モーメントを失う

ハーフメタルとは

(a)通常の強磁性体金属はup spin down spinとも金属的

(b)Half metalではup spinは金属down spinは半導体

DOS(downspin)

EC

EF

(a)

uarrdarr

DOS(up spin)

E

DOS(down spin)

EC

EF

(b)uarr

darr

E

DOS(up spin)

darr

ハーフメタルとスピンエレクトロニクス

たとえば磁気トンネル接合(MTJ)素子のところで出てくるホイスラー合金Co2CrAlなどがその例

上向きスピンのバンドを見る限り金属のように伝導帯の一部が占有された構造をとるのに対し下向きスピンのバンドにおいては半導体のように電子に占有された価電子帯と電子に占有されない伝導帯がバンドギャップを隔てて分かれておりフェルミ準位はバンドギャップの中に存在する

このような構造をとるとフェルミ準位における電子状態は100スピン偏極するMTJにおいて磁気抵抗比はスピン偏極率の関数で与えられるのでハーフメタルが注目される

ハーフメタルCo2MnGe

uarrスピンは金属 darrスピンは半導体 Geの一部をGaに置き換えるとスピン

偏極率が上がる

L21 X2YZ

バンドと電子相関

通常のバンド計算では電子間の位置の相関を平均的なものに置き換える近似を行うので真の電子間相互作用は求まらない

バンドモデルが適用できるのは金属磁性体に限られるMnOやNiOのような絶縁性の磁性体を単純にバンド計算すると金属になってしまうこれは電子相関が考慮されていないからである

電子相関とはフントの規則のように電子同士のクーロン相互作用がスピンに依存することから生じるつまり同じ向きのスピンをもつ2つの電子は同じ軌道に入ることがないので重なりが小さくクーロン相互作用も小さいが逆向きスピンの2つの電子は同じ軌道を運動できるのでクーロン相互作用が強くなってエネルギー的に不安定になるため電子の移動を妨げる効果であるこの2つの状態の間のエネルギー差は電子相関エネルギーと呼ばれUで表され数eVのオーダーである

22 ハバードモデル

バンドモデルに電子相関を導入する手法がハバードモデルであるFig 3は横軸をUにとったとき電子のエネルギー準位がUに対しどのように変わるかを示した図であるここにはバンド幅で電子の移動のしやすさの尺度であるT0は満ちたバンドの平均エネルギーである

バンド幅が電子相関エネルギーに比べ十分小さなときすなわちUltlt2312のときは禁制帯が現れ系は絶縁体となるU0は局在性の強い極限で電子移動が起きるにはUだけ余分のエネルギーが必要であるこのため電子は原子付近に束縛され局在電子系として振る舞う

lower Hubbard band

upper Hubbard band

電荷移動型絶縁体

MnOは電荷移動型絶縁体と考えられているMn2+においては3d電子5個がスピンを揃えてlower Hubbard bandの5個の軌道を占有しているここに1個電子を付け加えようとすると逆向きのスピンを付け加えなければならないのでupper Hubbardbandに入り電子相関Uだけエネルギーを損する

実際には酸化物イオンのp軌道からなる価電子帯が満ちたバンドの頂にくるのでギャップはこの状態と3d電子系のupperHubbard bandの間に開いているこれを電荷移動型ギャップという

CT(電荷移動)ギャップ

Lower Hubbard band

Upper Hubbard band

電子相関U

23 局在電子モデル

原子の位置に局在した多電子系では通常フントの規則に従うように軌道角運動量とスピン角運動量が決められる

3d遷移金属イオンでは3d電子が配位子のp軌道と

混成し軌道角運動量はほぼ消失している

4f希土類では4f軌道は孤立原子内の状態とあまり変わらないので全角運動量がよい量子数である

局在電子系の磁性

常磁性体に誘起される平均の磁気モーメントは室温でB=100mTの磁界のもとでも10-2emucc程度の小さな量である

これに対して強磁性体では磁界を印加しなくても103emuccという大きな自発磁気モーメントを持っている

ワイスは原子の磁気モーメントが周りの磁気モーメントからの場(分子場)を受けて整列しているというモデルを立てて強磁性体の自発磁化を説明した

24 ワイスの分子場理論

1つの磁気モーメントを取り出しその周りにあるすべての磁気モーメントから生じた有効磁界によって考えている磁気モーメントが常磁性的に分極するならば自己完結的に強磁性が説明できる

これを分子場理論有効磁界を分子磁界または分子場(molecular field)と呼ぶ

Heff

周りからの磁場Heff=H+AMが働く磁化M

分子場理論

分子場係数

磁化Mをもつ磁性体に外部磁界Hが加わったときの有効磁界はHeff=H+AMと表されるAを分子場係数と呼ぶ

分子場係数AはJexを交換相互作用係数zを配位数としてA=2zJexN(gB)2で与えられる

この磁界によって生じる常磁性磁化MはM=M0BJ(gBHeffJkT)という式で表される

M0=NgBJはすべての磁気モーメントが整列したときに期待される磁化

分子場理論

自発磁化が生じる条件を求める

Heff=H+AMであるからH=0のときHeff=AM自発磁化が生じるにはHeff=AMを

M=M0BJ(gBHeffJkT)に代入して

MM0=BJ(gBJHeffkT)=BJ(gBJAMkT)が成立しなければならない

Aに分子場係数の式A=2zJexN(gB)2 を代入してMM0= BJ(2zJexgBMJ N(gB)2kT)

ここでM0=NgBJを使って書き直すとMM0= BJ((2zJexJ

2kT) MM0)を得る

MM0= BJ((2zJexJ2kT) MM0)を解く

y=MM0x=(2zJexJ2kT) MM0とすると上の方程式を解

くことは曲線y=BJ(x)と直線 y=x (2zJexJ2kT)を連立して

解くことと同じである

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

J=52のブリルアン関数

y=x (2zJexJ2kT) Tが小さいとき

解が存在する自発磁化あり

y=x (2zJexJ2kT) Tが大きいとき

解が存在しない自発磁化なし

キュリー温度においては直線はブリルアン関数の接線

温度が上がると

分子場理論

キュリー温度

温度が低いとき直線の傾斜はゆるくブリルアン曲線と直線ははy=MM0 =1付近で交わる

温度が上昇するとyの小さいところ交わる

高温になると0以外に交点を持たなくなる

(2zJexJ2kT) y=xの勾配とy=BJ(x)の接線の勾配

が等しいときがキュリー温度を与える

x=0付近ではyx3であるから3y=xと書ける従ってTcは2zJexJ

2kTc=3によってきまる即ちTc=2zJexJ

23kとなる

分子場理論

自発磁化の温度変化

さまざまなJについて分子場理論で交点のMM0をTに対してプロットすると磁化の温度変化を求めることができるニッケルの磁化温度曲線はJ=12でよく説明される timesは鉄はニッケルはコバルトの実測

値実線はJとしてスピンS=121infinをとった

ときの計算値

分子場理論

キュリーワイスの法則

キュリー温度Tc以上では磁気モーメントはバラバラ

の方向を向き常磁性になる分子場理論によればこのときの磁化率は次式で与えられる

この式をキュリーワイスの法則という

Cはワイス定数pは常磁性キュリー温度という

1をTに対してプロットすると1=(T- p)Cとなり横軸を横切る温度がpである

pT

C

分子場理論

キュリーワイスの法則を導く

Heff=H+AM

MHeff=CT (MとHeffの間にキュリーの法則が成立すると仮定する)

M(H+AM)=CTrarrMT=C(H+AM)従ってM(T-CA)=CHより

=MH=C(T-CA)となるCA=pと置けばキュリーワイスの法則が導かれるすなわち=C(T- p)

自発磁化の温度変化

強磁性体の自発磁化の大きさは温度上昇とともに減少しキュリー温度Tcにおいて消滅する

Tc以上では常磁性であ

る常磁性磁化率の逆数は温度に比例しゼロに外挿するとキュリー温度が求まる

25 交換相互作用(exchange interaction)

交換相互作用という言葉はもともとは多電子原子の中で働くクーロン相互作用の算出において電子同士を区別できないことから来るエネルギーの補正項のことで原子内交換相互作用といいます(intra-atomic exchange interaction)

この概念を原子間に拡張したのが原子間交換相互作用(inter-atomic exchangeinteraction)です

ウンチクコーナーイントラ(intra)とインター(inter) イントラは内部のといういみの接頭辞インターは複数のものの

間のという意味の接頭辞ですイントラネットインターネットということばもここから来ています

原子内交換相互作用

原子内交換相互作用は本質的にクーロン相互作用です2つの電子(波動関数を12とする)の間に働くクーロン相互作用のエネルギーHはH= K12-(12) J12(1+4s1s2) で表されます

K12は次式で与えられるクーロン積分です

J12は次式で与えられる交換積分で電子が区別できないことからくる項です

K dr dr r re

rr r12 1 2 1 1 2 2

2

12

1 1 2 2

J dr dr r re

rr r12 1 2 1 1 2 2

2

12

1 2 2 1

原子内交換相互作用

H= K12-(12) J12(1+4s1s2)

の固有値は=K12ndashJ12 (s1とs2が同符号のとき)= K12 ( s1とs2が異符号のとき)

Hと平均のエネルギー(H0=K12-J122)との差ndash2J12s1s2のことを原子内交換エネルギーという

K12

K12-J12

原子間交換相互作用

本来磁気秩序を考えるには物質系全体のスピンを考えねばならないのであるが電子の軌道が原子に局在しているみなして電子のスピンを各原子Iの位置に局在した全スピンSiで代表させて原子1の全スピンS1と原子2の全スピンS2との間に原子間交換相互作用が働くと考えるのがハイゼンベルグ模型であるこのとき交換エネルギーHex は原子内交換相互作用を一般化して見かけの交換積分J12を用いて

Hex =-2J12S1S2

で表されるJが正であれば相互作用は強磁性的負であれば反強磁性的である

交換相互作用

ハイゼンベルグ模型 Hex =-2J12S1S2

Jが正であれば相互作用は強磁性的負であれば反強磁性的

交換積分の起源隣接原子のスピン間の直接交換(direct exchange)

酸素などのアニオンのp電子軌道との混成を通してスピン同士がそろえあう超交換(superexchange)

伝導電子との相互作用を通じてそろえあう間接交換(indirect exchange)

電子の移動と磁性とが強く結びついている二重交換相互作用(double exchange)

さまざまな交換相互作用

直接交換

超交換

間接交換(RKKY)

二重交換

超交換相互作用

酸化物磁性体では局在電子系の磁気モーメントの間に働く相互作用は遷移金属の3d電子どうしの重なりで生じるのではなく配位子のp電子が遷移金属イオンの3d軌道に仮想的に遷

移した中間状態を介して相互作用するこれを超交換相互作用と称する主として反強磁性的に働く

酸素イオン

遷移金属イオン

超交換相互作用模式図

90度強磁性

180度反強磁性

(Goodenough)

アニオン

遷移金属イオン

アニオン

遷移金属イオン

(a)

(b)

Fig 9 超交換相互作用の模式図

間接交換(RKKY)相互作用

希土類金属の磁性は4f電子が担うが伝導電子である5d電子が4f電子と原子内交換相互作用することによってスピン偏極を受けこれが隣接の希土類原子のf電子と相互作用するという形の間接的な交換相互作用を行っていると考えられている

これをRKKY (Rudermann Kittel Kasuya Yoshida)相互作用という

伝導電子を介した局在スピン間の磁気的相互作用は距離に対して余弦関数的に振動しその周期は伝導電子のフェルミ波数で決められる

RKKY振動

フリーデル振動

21F

2

F

2

RKKY 29 SS

Rkf

N

NJH e

4

sincos

x

xxxxf

CoCu superlattice

Cu thickness (Aring)

磁気抵

抗比

図15

二重交換相互作用

LaMnO3ではすべてのMn原子は3価なので egバンドには1個の電子が存在しこの電子が隣接Mn原子のeg軌道に移動しようとすると電子相関エネルギーUだけのエネルギーが必要であるため電子移動は起きずモット絶縁体となっている

LaをSrで置き換え4価のMnが生じるとMn4+のeg軌道は空であるから他のMn3+から電子が移ることができ金属的な導電性を生じる

このとき隣接するMn原子の磁気モーメントのなす角とするとeg電子の飛び移りの確率はcos( 2)に比例する=0(スピンが平行)のとき飛び移りが最も起きやすく運動エネルギーの分だけエネルギーが下がるので強磁性となる

二重交換の模式図

Mn3+ Mn4+

3磁気ヒステリシス曲線と磁区

磁気ヒステリシスについて

反磁界と静磁エネルギー

磁気異方性

磁区と磁壁磁壁移動と磁化回転

保磁力

31 磁気ヒステリシス

強磁性体においてはその磁化は印加磁界に比例せずヒステリシスを示す

(高梨初等磁気工学講座テキスト)

OrarrBrarrC初磁化曲線

CrarrD 残留磁化

DrarrE 保磁力

CrarrDrarrErarrFrarrGrarrC

ヒステリシスループ

縦軸磁化

横軸磁界

[参考]

磁化曲線の測定法

磁性体を磁界中に置き磁界を増加していくと磁性体の磁化は増加していき次第に飽和する

磁化曲線は磁力計を使って測定する

VSM試料振動型磁力計試料を01~02mm程度のわずかな振幅で80Hz程度の低周波で振動させ試料の

磁化による磁束の時間変化を電磁石の磁極付近に置かれたサーチコイルに誘起された誘導起電力として検出する誘導起電力は試料の磁化に比例するので磁化を測定することができる

電磁石

磁極付近に置いたサーチコイル

スピーカーと同じ振動機構

[参考]

VSMブロック図

丸善実験物理学講座「磁気測定I」p68より

磁気ヒステリシスと応用

保磁力のちがいで用途が違う

Hc小軟質磁性体

磁気ヘッド変圧器鉄心磁気シールド

Hc中半硬質磁性体

磁気記録媒体

Hc大硬質磁性体

永久磁石このループの面積が磁石に蓄積される磁気エネルギー高周波の場合はヒステリシス損失となる

永久磁石の最大エネルギー積(BH)maxの変遷(httpwwwaacgbhamacukmagnetic_materialshistoryhtm)

BHmax

32 なぜ初磁化状態では磁化がないのか磁区(magnetic domain)

磁化が特定の方向を向くとするとN極からS極に向

かって磁力線が生じますこの磁力線は考えている試料の外を通っているだけでなく磁性体の内部も貫いていますこの磁力線を反磁界といいます反磁界の向きは磁化の向きとは反対向きなので磁化は回転する静磁力を受けて不安定となります

磁化の方向が逆方向の縞状の磁区と呼ばれる領域に分かれるならば反磁界がうち消し合って静磁エネルギーが低下して安定するのです

反磁界(demagnetization field)

磁性体表面の法線方向の磁化成分をMn とすると表面には単位面積あたり = Mnという大きさの磁極(Wbm2)が生じる

磁極からはガウスの定理によって全部で μ0の磁力線がわき出すこのうち反磁界係数Nを使って定義される磁力線NMは内部に向かっており残りは外側に向かっているすなわち磁石の内部ではMの向きとは逆方向の反磁界が存在する

外部では磁束線は磁力線に一致する

(b) 磁力線

M- +

(a)磁化と磁極 反磁界

S N

S N

(c) 磁束線

反磁界係数N (近角強磁性体の物理より)

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0

(i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+ Ny+ Nz=1

が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx= Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx= Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

x

y

z

z

x

y

z

x

y

Nz=1

Nx= 0Ny= 0

Nx= 12

Ny= 12

Nx=13

Ny=13

Nz=13

Nz=0

反磁界補正

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0 (i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+Ny+ Nz=1が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx=Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx=Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

(近角強磁性体の物理より)

反磁界と静磁エネルギー

磁化Mが反磁界HdのもとにおかれるとU=MHdだけポテンシャルエネルギーが高くなる

一様な磁界H中の磁気モーメントMに働くトルクTはT=-MH sin

磁気モーメントのもつポテンシャルEはU=Td= - 0

MH sin d=MH (1-cos) エネルギーの原点はどこにとってもよいのでポテンシャルエネルギーはU=-MHと表される H=-Hdを代入すると反磁界によるポテンシャルの増加はU=MHd

表面磁極の分割による静磁エネルギーの減少

結晶表面をxy面にとる

表面でz=0とする

磁区の磁化方向はplusmnz

磁区のx方向の幅d

磁極の表面密度=Is 2mdltxlt(2m+1)d

=-Is (2m+1)dltxlt2(m+1)d

磁気ポテンシャルをLaplaceの方程式で求め

+ +- -

z

x

y

d

境界条件( z)z=-0=20

境界条件のもとにラプラス方程式を解くと=n An sin n(d)xexp n(d)z

係数Anは次式を満たすように決められる(d) n nAn sin n(d)x =I20 2mdltxlt(2m+1)d

= - I20 (2m+1)dltxlt2(m+1)d

rarrAn=2Isd20n2

(x=0)=(2Isd20) n (1n2)sin n(d)x

単位表面積あたりの静磁エネルギー=(2Is

220) n (1n2)int0d sin n(d)x

=(2Is2d20) n=odd (1n3)=540104Is

2d

磁気異方性

磁性体は半導体と違って形状寸法結晶方位とか磁化の方位などによって物性が大きく変化する

1つの原因は上に述べた反磁界係数で形状磁気異方性と呼ばれます反磁界によるエネルギーの損を最小化することが原因です

このほかの原因として重要なのが結晶磁気異方性です結晶磁気異方性というのは磁界を結晶のどの方位に加えるかで磁化曲線が変化する性質です

電子軌道は結晶軸に結びついているので磁気的性質と電子軌道との結びつき(スピン軌道相互作用)を通じて磁性が結晶軸と結び

つくのです半導体にも詳しい測定をすると異方性を見ることができますこれに比べ一般に半導体の電子軌道は結晶全体に広がっているので平均化されて結晶軸に依存する物性が見えにくいです

結晶磁気異方性

磁化しやすさは結晶の方位に依存する

鉄は立方晶であるが[100]が容易軸[111]は困難軸

x

y

z

[111

]

[100

]

容易軸

困難軸

[110]

円板磁性体の磁区構造

全体が磁区に分かれることにより全体の磁化がなくなっているこれが初磁化状態である

磁区の内部では磁化は任意の方向をランダムに向いている訳ではない

磁化は結晶の方位と無関係な方向を向くことはできない磁性体には磁気異方性という性質があり磁化が特定の結晶軸方位(たとえばFeでは[001]方向および等価な方向)を向く性質がある

[001]容易軸では図のように(001)面内では[100][010][-100][0-10]の4つの方向を向くので90磁壁になる

[111]容易軸では

(a) (b)

(近角強磁性体の物理)

33 ヒステリシスを磁区で説明する

残留磁化状態 逆磁区の発生と成長

磁気飽和

核発生

34 さまざまな磁区とマイクロマグネティクス

Figは結晶の対称性により磁区が変わる様子の例として縞状磁区(stripe domain)と環流磁区(closure domain)を示している磁性体を微細化して直径1μm付近になるとスピンは面内に分布してvortex状態となり中心部に垂直方向のスピン成分をもつようになるさらに微細化すると単磁区になる

微小磁区のMFM観察

磁区の観察にはビッター法といって磁性微粒子を含むコロイドを磁性体上に滴下して光学顕微鏡で観察する方法が古くから使われているこのほか磁気光学顕微鏡ローレンツ電子顕微鏡磁気力顕微鏡走査型ホール顕微鏡走査型SQUID顕微鏡スピン偏極電子顕微鏡X線MCD顕微鏡などで観察することが可能であるFig 22にはいくつかの例について筆者のMFM観察結果を示す

10 nmtimes10 nmtimes10 nmMesh size

1Number of dot

200 nmtimes200 nmtimes100nm

Dot Size

Y directionEasy axis

02Damping constant(α)

-176times107 rad(sOe)Gyro magnetic constant(γ)

1000 ergcm3Anisotropic constant (Ku)

1times10-6 ergcm3Exchange field (A)

800 emucm3Saturation magnetization (Ms)

Hy = 10 kOe rarr 0 Oe

divM divMy

LLG 方程式を用いた

マイクロ磁気解析

Dot model

200 x 200thickness50 nm

Magnetic moment - dv M Force gradient

200 x 200thickness100 nm

90 degree walls propeller-like distortion

Calculation of a single dot

Spin structure

-divM

Isolated square dot

Force gradient image Spin distribution image

Four-dot system

Shift of the center occurs Reversal of chirality

MFM imagewith low-moment tip

(CoPtCr240Å in HV)

Spin distribution imagewith the force-gradientimage overlapped

Inversion of chirality

Comparison between MFM andsimulation of spin distribution

Simulation was carried outin the model structureconsisting of four squaredots with a dimension of200 nmtimes200 nmtimes20 nmwith 50nm separationbetween dots

The calculated spinstructure shows a closuredomain structure with the90-wall appears

The chirality of the spindirection in adjacent dots isopposite to each other asshown by white arrows

The Z-component force-gradient image taking intoaccount the tip-sampleinteraction is overlapped

Calculated magnetization configurationof Y-shaped permalloy dot

Calculation parametersWidth 300 nmThickness 100 nmEasy axis 0 ergcm3

x

y

z

Force gradient-divM

Force gradient(Magnified)

Experimental MFM images

bull Single domains appear in two armsbull Multi-domain of 4 chained closer-domains on the restbull Spin-flow at crossing region turns left in two steps

50

0n

m2

m

L

C

R

C

L

R

x

y

z

Calculated magnetization configurationsof Y-shaped permalloy mirror-dots

Calculation parametersWidth 200 nmThickness 40 nmEasy axis X 1000 ergcm3

Force gradient-divM

Single dot

Experimental MFM images

15 m

bull Calculated spin-flows similar to experimental resultbull Vortices with same chirality appear at the ends of all armsbull Chirality of adjacent dot shows a mirror-reflection

Easy axisEasy axis

Easy axis

Easy axis

-divM

4 おわりに

磁性特有のテクニカルタームがあるが慣れればそれほど難しいものではない

大部分の話は量子力学なしでも理解できる電磁気学の知識があればよい

応用につながるのは磁区磁壁の物理である

メゾスコピック系では量子的な現象が現れるこれが得意なスピン依存伝導現象をもたらす

[参考0]半導体磁性体誘電体

半導体と磁性体の対比

半導体 電子物性パラメータは基本的

にバンド構造で決まるキャリア密度は人為的に制御される

量子構造を考えない限り電子を古典粒子として有効質量近似で扱える

応用されるのは電子構造で決まる移動度などのミクロな電子物性である

電子物性が寸法方位形状にほとんど依存しない

単位系はCGSをもとにした実用単位系が使われる

磁性体 金属磁性体の磁性はスピン偏

極バンド構造で決まるが非金属磁性体の磁性は局在多電子系のフント則で決まる

交換相互作用スピン軌道相互作用など量子力学が基本

応用されるのは磁区により生じるヒステリシスに関連したマクロ磁気物性である

磁性は磁気異方性の影響を受け寸法方位形状により大幅に変化する

単位系が複雑でCGSとSIが混在して使われている

磁性体と誘電体の対比

磁性体

磁気モーメントμ(軸性ベクトル)

磁化M

自発磁化Ms

反磁界

磁気ヒステリシス

飽和磁化残留磁化保磁力

磁区(ドメイン)

キュリー温度

誘電体

電気双極子qr(極性ベクトル)

電気分極P

自発分極Ps

反電界

誘電ヒステリシス

飽和分極残留分極抗電界

分域(ドメイン)

キュリー温度

[参考1]

磁界磁束磁化

磁界(磁場)H磁束密度B磁化M

磁界H中に置かれた磁化Mの磁性体が磁束密

度は真空中の磁束密度に磁化による磁束密度を加えたものであるすなわちB=0H+M

B=0H B=0H+M

M

磁性体があると磁束密度が高くなる

真空中での磁束密度

磁化とは

物質に磁界を加えたとき物質の表面に磁極が生じ一時的に磁石のようになるがそのとき物質が磁化されたという

(b)(a)

(高梨初等磁気工学講座)より

磁化の定義

K番目の原子の1原子あ

たりの磁気モーメントをkとするときその単位体積についての総和k

を磁化Mと定義するM= k

磁気モーメントの単位はWbmであるから磁化の単位はWbm2となる

(高梨初等磁気工学講座)より

常磁性

磁極と磁気モーメント

磁石にはN極とS極がある

磁界中に置かれた磁性体にも磁極が誘起される磁極は必ずNSの対で現れる(単極は見つかっていない)

磁極の大きさをq [Wb]とすると磁界によってNSの対に働くトルクは-qdHsin [Nm]=qdsin [Wbm] H[Am]

必ずNとSが対で現れるならm=qrを磁性を扱う基本単

位と考えることが出来るこれを磁気モーメントという単位は[Wbm]

[参考2]

磁気モーメントの電子的起源

磁気モーメント

一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは

T=qH r sin=mH sin 磁気モーメントのもつポテンシャルEは

E=Td= mH sin d=mH(1-cos)

ポテンシャルの原点はどこにとってもよいから E=-mH mHのときエネルギーは極小になる

mはHに平行になろうとする(高梨初等磁気工学講座)より

r 磁気モーメント

m=qr [Wbm]

-q [Wb]

+q [Wb]

qH

-qH

rsin

単位E[J]=-m[Wbm] H[Am]

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 7: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

鉄のバンド構造

磁性体といえばだれもが鉄Feを思い浮かべるFeは金属である

一般に金属であればエネルギーバンドモデルでは伝導帯の電子状態の一部が占有され残りが空いているような電子構造を持つはずである

通常金属と遷移金属の状態密度

(a)はアルカリ金属(NaKなど)のs電子に由来するバンド状態密度である

(b)は磁性をもたない遷移金属のバンド状態密度であるS電子帯に加えて狭く状態密度の高いd電子帯が重畳している

(b)

Energy

bullDOS

EFEC

(a)

Energy

bullDOS

EFEC

常磁性金属と強磁性遷移金属

磁性がある場合のエネルギーバンドを考えるに当たっては電子のスピンごとにバンドを考えなければならない右側が上向きスピン左側が下向きスピンを持つ電子の状態密度である

普通の非磁性金属では図(a)のように左右対称となるこれに対し強磁性体では図(b)に示すように上向きスピンバンドと下向きスピンバンドとに分裂する分裂は狭い3dバンドで大きく広いspバンドでは小さい この分裂を交換分裂という

DOS(down spin)

EC

EF

(b)

uarrdarr

DOS(up spin)

E

DOS(up spin)

EC

EF

(a)

uarrdarr

DOS(down spin)

強磁性金属のスピン偏極バンド構造

Callaway Wang Phys Rev B16(lsquo97)2095

uarrスピンバンド

darrスピンバンド

uarrスピンバンドとdarrスピンバンドの占有状態密度の差によって磁気モーメントが決まる

FeとNiのバンド状態密度

Ni

スピン状態密度

Ef

E

Fe

スピン状態密度

E

Ef

Niはuarrスピンバンドは満ちdarrバンドにはわずかな正孔しかないnuarr-ndarr=06

Feはuarrスピンバンドに比しdarrバンドの状態密度がかなり小さいnuarr-ndarr=22

darrバンドに06個の

空孔があるとCuからs電子が流れこみCuが40合金したとき

モーメントを失う

ハーフメタルとは

(a)通常の強磁性体金属はup spin down spinとも金属的

(b)Half metalではup spinは金属down spinは半導体

DOS(downspin)

EC

EF

(a)

uarrdarr

DOS(up spin)

E

DOS(down spin)

EC

EF

(b)uarr

darr

E

DOS(up spin)

darr

ハーフメタルとスピンエレクトロニクス

たとえば磁気トンネル接合(MTJ)素子のところで出てくるホイスラー合金Co2CrAlなどがその例

上向きスピンのバンドを見る限り金属のように伝導帯の一部が占有された構造をとるのに対し下向きスピンのバンドにおいては半導体のように電子に占有された価電子帯と電子に占有されない伝導帯がバンドギャップを隔てて分かれておりフェルミ準位はバンドギャップの中に存在する

このような構造をとるとフェルミ準位における電子状態は100スピン偏極するMTJにおいて磁気抵抗比はスピン偏極率の関数で与えられるのでハーフメタルが注目される

ハーフメタルCo2MnGe

uarrスピンは金属 darrスピンは半導体 Geの一部をGaに置き換えるとスピン

偏極率が上がる

L21 X2YZ

バンドと電子相関

通常のバンド計算では電子間の位置の相関を平均的なものに置き換える近似を行うので真の電子間相互作用は求まらない

バンドモデルが適用できるのは金属磁性体に限られるMnOやNiOのような絶縁性の磁性体を単純にバンド計算すると金属になってしまうこれは電子相関が考慮されていないからである

電子相関とはフントの規則のように電子同士のクーロン相互作用がスピンに依存することから生じるつまり同じ向きのスピンをもつ2つの電子は同じ軌道に入ることがないので重なりが小さくクーロン相互作用も小さいが逆向きスピンの2つの電子は同じ軌道を運動できるのでクーロン相互作用が強くなってエネルギー的に不安定になるため電子の移動を妨げる効果であるこの2つの状態の間のエネルギー差は電子相関エネルギーと呼ばれUで表され数eVのオーダーである

22 ハバードモデル

バンドモデルに電子相関を導入する手法がハバードモデルであるFig 3は横軸をUにとったとき電子のエネルギー準位がUに対しどのように変わるかを示した図であるここにはバンド幅で電子の移動のしやすさの尺度であるT0は満ちたバンドの平均エネルギーである

バンド幅が電子相関エネルギーに比べ十分小さなときすなわちUltlt2312のときは禁制帯が現れ系は絶縁体となるU0は局在性の強い極限で電子移動が起きるにはUだけ余分のエネルギーが必要であるこのため電子は原子付近に束縛され局在電子系として振る舞う

lower Hubbard band

upper Hubbard band

電荷移動型絶縁体

MnOは電荷移動型絶縁体と考えられているMn2+においては3d電子5個がスピンを揃えてlower Hubbard bandの5個の軌道を占有しているここに1個電子を付け加えようとすると逆向きのスピンを付け加えなければならないのでupper Hubbardbandに入り電子相関Uだけエネルギーを損する

実際には酸化物イオンのp軌道からなる価電子帯が満ちたバンドの頂にくるのでギャップはこの状態と3d電子系のupperHubbard bandの間に開いているこれを電荷移動型ギャップという

CT(電荷移動)ギャップ

Lower Hubbard band

Upper Hubbard band

電子相関U

23 局在電子モデル

原子の位置に局在した多電子系では通常フントの規則に従うように軌道角運動量とスピン角運動量が決められる

3d遷移金属イオンでは3d電子が配位子のp軌道と

混成し軌道角運動量はほぼ消失している

4f希土類では4f軌道は孤立原子内の状態とあまり変わらないので全角運動量がよい量子数である

局在電子系の磁性

常磁性体に誘起される平均の磁気モーメントは室温でB=100mTの磁界のもとでも10-2emucc程度の小さな量である

これに対して強磁性体では磁界を印加しなくても103emuccという大きな自発磁気モーメントを持っている

ワイスは原子の磁気モーメントが周りの磁気モーメントからの場(分子場)を受けて整列しているというモデルを立てて強磁性体の自発磁化を説明した

24 ワイスの分子場理論

1つの磁気モーメントを取り出しその周りにあるすべての磁気モーメントから生じた有効磁界によって考えている磁気モーメントが常磁性的に分極するならば自己完結的に強磁性が説明できる

これを分子場理論有効磁界を分子磁界または分子場(molecular field)と呼ぶ

Heff

周りからの磁場Heff=H+AMが働く磁化M

分子場理論

分子場係数

磁化Mをもつ磁性体に外部磁界Hが加わったときの有効磁界はHeff=H+AMと表されるAを分子場係数と呼ぶ

分子場係数AはJexを交換相互作用係数zを配位数としてA=2zJexN(gB)2で与えられる

この磁界によって生じる常磁性磁化MはM=M0BJ(gBHeffJkT)という式で表される

M0=NgBJはすべての磁気モーメントが整列したときに期待される磁化

分子場理論

自発磁化が生じる条件を求める

Heff=H+AMであるからH=0のときHeff=AM自発磁化が生じるにはHeff=AMを

M=M0BJ(gBHeffJkT)に代入して

MM0=BJ(gBJHeffkT)=BJ(gBJAMkT)が成立しなければならない

Aに分子場係数の式A=2zJexN(gB)2 を代入してMM0= BJ(2zJexgBMJ N(gB)2kT)

ここでM0=NgBJを使って書き直すとMM0= BJ((2zJexJ

2kT) MM0)を得る

MM0= BJ((2zJexJ2kT) MM0)を解く

y=MM0x=(2zJexJ2kT) MM0とすると上の方程式を解

くことは曲線y=BJ(x)と直線 y=x (2zJexJ2kT)を連立して

解くことと同じである

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

J=52のブリルアン関数

y=x (2zJexJ2kT) Tが小さいとき

解が存在する自発磁化あり

y=x (2zJexJ2kT) Tが大きいとき

解が存在しない自発磁化なし

キュリー温度においては直線はブリルアン関数の接線

温度が上がると

分子場理論

キュリー温度

温度が低いとき直線の傾斜はゆるくブリルアン曲線と直線ははy=MM0 =1付近で交わる

温度が上昇するとyの小さいところ交わる

高温になると0以外に交点を持たなくなる

(2zJexJ2kT) y=xの勾配とy=BJ(x)の接線の勾配

が等しいときがキュリー温度を与える

x=0付近ではyx3であるから3y=xと書ける従ってTcは2zJexJ

2kTc=3によってきまる即ちTc=2zJexJ

23kとなる

分子場理論

自発磁化の温度変化

さまざまなJについて分子場理論で交点のMM0をTに対してプロットすると磁化の温度変化を求めることができるニッケルの磁化温度曲線はJ=12でよく説明される timesは鉄はニッケルはコバルトの実測

値実線はJとしてスピンS=121infinをとった

ときの計算値

分子場理論

キュリーワイスの法則

キュリー温度Tc以上では磁気モーメントはバラバラ

の方向を向き常磁性になる分子場理論によればこのときの磁化率は次式で与えられる

この式をキュリーワイスの法則という

Cはワイス定数pは常磁性キュリー温度という

1をTに対してプロットすると1=(T- p)Cとなり横軸を横切る温度がpである

pT

C

分子場理論

キュリーワイスの法則を導く

Heff=H+AM

MHeff=CT (MとHeffの間にキュリーの法則が成立すると仮定する)

M(H+AM)=CTrarrMT=C(H+AM)従ってM(T-CA)=CHより

=MH=C(T-CA)となるCA=pと置けばキュリーワイスの法則が導かれるすなわち=C(T- p)

自発磁化の温度変化

強磁性体の自発磁化の大きさは温度上昇とともに減少しキュリー温度Tcにおいて消滅する

Tc以上では常磁性であ

る常磁性磁化率の逆数は温度に比例しゼロに外挿するとキュリー温度が求まる

25 交換相互作用(exchange interaction)

交換相互作用という言葉はもともとは多電子原子の中で働くクーロン相互作用の算出において電子同士を区別できないことから来るエネルギーの補正項のことで原子内交換相互作用といいます(intra-atomic exchange interaction)

この概念を原子間に拡張したのが原子間交換相互作用(inter-atomic exchangeinteraction)です

ウンチクコーナーイントラ(intra)とインター(inter) イントラは内部のといういみの接頭辞インターは複数のものの

間のという意味の接頭辞ですイントラネットインターネットということばもここから来ています

原子内交換相互作用

原子内交換相互作用は本質的にクーロン相互作用です2つの電子(波動関数を12とする)の間に働くクーロン相互作用のエネルギーHはH= K12-(12) J12(1+4s1s2) で表されます

K12は次式で与えられるクーロン積分です

J12は次式で与えられる交換積分で電子が区別できないことからくる項です

K dr dr r re

rr r12 1 2 1 1 2 2

2

12

1 1 2 2

J dr dr r re

rr r12 1 2 1 1 2 2

2

12

1 2 2 1

原子内交換相互作用

H= K12-(12) J12(1+4s1s2)

の固有値は=K12ndashJ12 (s1とs2が同符号のとき)= K12 ( s1とs2が異符号のとき)

Hと平均のエネルギー(H0=K12-J122)との差ndash2J12s1s2のことを原子内交換エネルギーという

K12

K12-J12

原子間交換相互作用

本来磁気秩序を考えるには物質系全体のスピンを考えねばならないのであるが電子の軌道が原子に局在しているみなして電子のスピンを各原子Iの位置に局在した全スピンSiで代表させて原子1の全スピンS1と原子2の全スピンS2との間に原子間交換相互作用が働くと考えるのがハイゼンベルグ模型であるこのとき交換エネルギーHex は原子内交換相互作用を一般化して見かけの交換積分J12を用いて

Hex =-2J12S1S2

で表されるJが正であれば相互作用は強磁性的負であれば反強磁性的である

交換相互作用

ハイゼンベルグ模型 Hex =-2J12S1S2

Jが正であれば相互作用は強磁性的負であれば反強磁性的

交換積分の起源隣接原子のスピン間の直接交換(direct exchange)

酸素などのアニオンのp電子軌道との混成を通してスピン同士がそろえあう超交換(superexchange)

伝導電子との相互作用を通じてそろえあう間接交換(indirect exchange)

電子の移動と磁性とが強く結びついている二重交換相互作用(double exchange)

さまざまな交換相互作用

直接交換

超交換

間接交換(RKKY)

二重交換

超交換相互作用

酸化物磁性体では局在電子系の磁気モーメントの間に働く相互作用は遷移金属の3d電子どうしの重なりで生じるのではなく配位子のp電子が遷移金属イオンの3d軌道に仮想的に遷

移した中間状態を介して相互作用するこれを超交換相互作用と称する主として反強磁性的に働く

酸素イオン

遷移金属イオン

超交換相互作用模式図

90度強磁性

180度反強磁性

(Goodenough)

アニオン

遷移金属イオン

アニオン

遷移金属イオン

(a)

(b)

Fig 9 超交換相互作用の模式図

間接交換(RKKY)相互作用

希土類金属の磁性は4f電子が担うが伝導電子である5d電子が4f電子と原子内交換相互作用することによってスピン偏極を受けこれが隣接の希土類原子のf電子と相互作用するという形の間接的な交換相互作用を行っていると考えられている

これをRKKY (Rudermann Kittel Kasuya Yoshida)相互作用という

伝導電子を介した局在スピン間の磁気的相互作用は距離に対して余弦関数的に振動しその周期は伝導電子のフェルミ波数で決められる

RKKY振動

フリーデル振動

21F

2

F

2

RKKY 29 SS

Rkf

N

NJH e

4

sincos

x

xxxxf

CoCu superlattice

Cu thickness (Aring)

磁気抵

抗比

図15

二重交換相互作用

LaMnO3ではすべてのMn原子は3価なので egバンドには1個の電子が存在しこの電子が隣接Mn原子のeg軌道に移動しようとすると電子相関エネルギーUだけのエネルギーが必要であるため電子移動は起きずモット絶縁体となっている

LaをSrで置き換え4価のMnが生じるとMn4+のeg軌道は空であるから他のMn3+から電子が移ることができ金属的な導電性を生じる

このとき隣接するMn原子の磁気モーメントのなす角とするとeg電子の飛び移りの確率はcos( 2)に比例する=0(スピンが平行)のとき飛び移りが最も起きやすく運動エネルギーの分だけエネルギーが下がるので強磁性となる

二重交換の模式図

Mn3+ Mn4+

3磁気ヒステリシス曲線と磁区

磁気ヒステリシスについて

反磁界と静磁エネルギー

磁気異方性

磁区と磁壁磁壁移動と磁化回転

保磁力

31 磁気ヒステリシス

強磁性体においてはその磁化は印加磁界に比例せずヒステリシスを示す

(高梨初等磁気工学講座テキスト)

OrarrBrarrC初磁化曲線

CrarrD 残留磁化

DrarrE 保磁力

CrarrDrarrErarrFrarrGrarrC

ヒステリシスループ

縦軸磁化

横軸磁界

[参考]

磁化曲線の測定法

磁性体を磁界中に置き磁界を増加していくと磁性体の磁化は増加していき次第に飽和する

磁化曲線は磁力計を使って測定する

VSM試料振動型磁力計試料を01~02mm程度のわずかな振幅で80Hz程度の低周波で振動させ試料の

磁化による磁束の時間変化を電磁石の磁極付近に置かれたサーチコイルに誘起された誘導起電力として検出する誘導起電力は試料の磁化に比例するので磁化を測定することができる

電磁石

磁極付近に置いたサーチコイル

スピーカーと同じ振動機構

[参考]

VSMブロック図

丸善実験物理学講座「磁気測定I」p68より

磁気ヒステリシスと応用

保磁力のちがいで用途が違う

Hc小軟質磁性体

磁気ヘッド変圧器鉄心磁気シールド

Hc中半硬質磁性体

磁気記録媒体

Hc大硬質磁性体

永久磁石このループの面積が磁石に蓄積される磁気エネルギー高周波の場合はヒステリシス損失となる

永久磁石の最大エネルギー積(BH)maxの変遷(httpwwwaacgbhamacukmagnetic_materialshistoryhtm)

BHmax

32 なぜ初磁化状態では磁化がないのか磁区(magnetic domain)

磁化が特定の方向を向くとするとN極からS極に向

かって磁力線が生じますこの磁力線は考えている試料の外を通っているだけでなく磁性体の内部も貫いていますこの磁力線を反磁界といいます反磁界の向きは磁化の向きとは反対向きなので磁化は回転する静磁力を受けて不安定となります

磁化の方向が逆方向の縞状の磁区と呼ばれる領域に分かれるならば反磁界がうち消し合って静磁エネルギーが低下して安定するのです

反磁界(demagnetization field)

磁性体表面の法線方向の磁化成分をMn とすると表面には単位面積あたり = Mnという大きさの磁極(Wbm2)が生じる

磁極からはガウスの定理によって全部で μ0の磁力線がわき出すこのうち反磁界係数Nを使って定義される磁力線NMは内部に向かっており残りは外側に向かっているすなわち磁石の内部ではMの向きとは逆方向の反磁界が存在する

外部では磁束線は磁力線に一致する

(b) 磁力線

M- +

(a)磁化と磁極 反磁界

S N

S N

(c) 磁束線

反磁界係数N (近角強磁性体の物理より)

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0

(i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+ Ny+ Nz=1

が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx= Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx= Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

x

y

z

z

x

y

z

x

y

Nz=1

Nx= 0Ny= 0

Nx= 12

Ny= 12

Nx=13

Ny=13

Nz=13

Nz=0

反磁界補正

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0 (i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+Ny+ Nz=1が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx=Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx=Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

(近角強磁性体の物理より)

反磁界と静磁エネルギー

磁化Mが反磁界HdのもとにおかれるとU=MHdだけポテンシャルエネルギーが高くなる

一様な磁界H中の磁気モーメントMに働くトルクTはT=-MH sin

磁気モーメントのもつポテンシャルEはU=Td= - 0

MH sin d=MH (1-cos) エネルギーの原点はどこにとってもよいのでポテンシャルエネルギーはU=-MHと表される H=-Hdを代入すると反磁界によるポテンシャルの増加はU=MHd

表面磁極の分割による静磁エネルギーの減少

結晶表面をxy面にとる

表面でz=0とする

磁区の磁化方向はplusmnz

磁区のx方向の幅d

磁極の表面密度=Is 2mdltxlt(2m+1)d

=-Is (2m+1)dltxlt2(m+1)d

磁気ポテンシャルをLaplaceの方程式で求め

+ +- -

z

x

y

d

境界条件( z)z=-0=20

境界条件のもとにラプラス方程式を解くと=n An sin n(d)xexp n(d)z

係数Anは次式を満たすように決められる(d) n nAn sin n(d)x =I20 2mdltxlt(2m+1)d

= - I20 (2m+1)dltxlt2(m+1)d

rarrAn=2Isd20n2

(x=0)=(2Isd20) n (1n2)sin n(d)x

単位表面積あたりの静磁エネルギー=(2Is

220) n (1n2)int0d sin n(d)x

=(2Is2d20) n=odd (1n3)=540104Is

2d

磁気異方性

磁性体は半導体と違って形状寸法結晶方位とか磁化の方位などによって物性が大きく変化する

1つの原因は上に述べた反磁界係数で形状磁気異方性と呼ばれます反磁界によるエネルギーの損を最小化することが原因です

このほかの原因として重要なのが結晶磁気異方性です結晶磁気異方性というのは磁界を結晶のどの方位に加えるかで磁化曲線が変化する性質です

電子軌道は結晶軸に結びついているので磁気的性質と電子軌道との結びつき(スピン軌道相互作用)を通じて磁性が結晶軸と結び

つくのです半導体にも詳しい測定をすると異方性を見ることができますこれに比べ一般に半導体の電子軌道は結晶全体に広がっているので平均化されて結晶軸に依存する物性が見えにくいです

結晶磁気異方性

磁化しやすさは結晶の方位に依存する

鉄は立方晶であるが[100]が容易軸[111]は困難軸

x

y

z

[111

]

[100

]

容易軸

困難軸

[110]

円板磁性体の磁区構造

全体が磁区に分かれることにより全体の磁化がなくなっているこれが初磁化状態である

磁区の内部では磁化は任意の方向をランダムに向いている訳ではない

磁化は結晶の方位と無関係な方向を向くことはできない磁性体には磁気異方性という性質があり磁化が特定の結晶軸方位(たとえばFeでは[001]方向および等価な方向)を向く性質がある

[001]容易軸では図のように(001)面内では[100][010][-100][0-10]の4つの方向を向くので90磁壁になる

[111]容易軸では

(a) (b)

(近角強磁性体の物理)

33 ヒステリシスを磁区で説明する

残留磁化状態 逆磁区の発生と成長

磁気飽和

核発生

34 さまざまな磁区とマイクロマグネティクス

Figは結晶の対称性により磁区が変わる様子の例として縞状磁区(stripe domain)と環流磁区(closure domain)を示している磁性体を微細化して直径1μm付近になるとスピンは面内に分布してvortex状態となり中心部に垂直方向のスピン成分をもつようになるさらに微細化すると単磁区になる

微小磁区のMFM観察

磁区の観察にはビッター法といって磁性微粒子を含むコロイドを磁性体上に滴下して光学顕微鏡で観察する方法が古くから使われているこのほか磁気光学顕微鏡ローレンツ電子顕微鏡磁気力顕微鏡走査型ホール顕微鏡走査型SQUID顕微鏡スピン偏極電子顕微鏡X線MCD顕微鏡などで観察することが可能であるFig 22にはいくつかの例について筆者のMFM観察結果を示す

10 nmtimes10 nmtimes10 nmMesh size

1Number of dot

200 nmtimes200 nmtimes100nm

Dot Size

Y directionEasy axis

02Damping constant(α)

-176times107 rad(sOe)Gyro magnetic constant(γ)

1000 ergcm3Anisotropic constant (Ku)

1times10-6 ergcm3Exchange field (A)

800 emucm3Saturation magnetization (Ms)

Hy = 10 kOe rarr 0 Oe

divM divMy

LLG 方程式を用いた

マイクロ磁気解析

Dot model

200 x 200thickness50 nm

Magnetic moment - dv M Force gradient

200 x 200thickness100 nm

90 degree walls propeller-like distortion

Calculation of a single dot

Spin structure

-divM

Isolated square dot

Force gradient image Spin distribution image

Four-dot system

Shift of the center occurs Reversal of chirality

MFM imagewith low-moment tip

(CoPtCr240Å in HV)

Spin distribution imagewith the force-gradientimage overlapped

Inversion of chirality

Comparison between MFM andsimulation of spin distribution

Simulation was carried outin the model structureconsisting of four squaredots with a dimension of200 nmtimes200 nmtimes20 nmwith 50nm separationbetween dots

The calculated spinstructure shows a closuredomain structure with the90-wall appears

The chirality of the spindirection in adjacent dots isopposite to each other asshown by white arrows

The Z-component force-gradient image taking intoaccount the tip-sampleinteraction is overlapped

Calculated magnetization configurationof Y-shaped permalloy dot

Calculation parametersWidth 300 nmThickness 100 nmEasy axis 0 ergcm3

x

y

z

Force gradient-divM

Force gradient(Magnified)

Experimental MFM images

bull Single domains appear in two armsbull Multi-domain of 4 chained closer-domains on the restbull Spin-flow at crossing region turns left in two steps

50

0n

m2

m

L

C

R

C

L

R

x

y

z

Calculated magnetization configurationsof Y-shaped permalloy mirror-dots

Calculation parametersWidth 200 nmThickness 40 nmEasy axis X 1000 ergcm3

Force gradient-divM

Single dot

Experimental MFM images

15 m

bull Calculated spin-flows similar to experimental resultbull Vortices with same chirality appear at the ends of all armsbull Chirality of adjacent dot shows a mirror-reflection

Easy axisEasy axis

Easy axis

Easy axis

-divM

4 おわりに

磁性特有のテクニカルタームがあるが慣れればそれほど難しいものではない

大部分の話は量子力学なしでも理解できる電磁気学の知識があればよい

応用につながるのは磁区磁壁の物理である

メゾスコピック系では量子的な現象が現れるこれが得意なスピン依存伝導現象をもたらす

[参考0]半導体磁性体誘電体

半導体と磁性体の対比

半導体 電子物性パラメータは基本的

にバンド構造で決まるキャリア密度は人為的に制御される

量子構造を考えない限り電子を古典粒子として有効質量近似で扱える

応用されるのは電子構造で決まる移動度などのミクロな電子物性である

電子物性が寸法方位形状にほとんど依存しない

単位系はCGSをもとにした実用単位系が使われる

磁性体 金属磁性体の磁性はスピン偏

極バンド構造で決まるが非金属磁性体の磁性は局在多電子系のフント則で決まる

交換相互作用スピン軌道相互作用など量子力学が基本

応用されるのは磁区により生じるヒステリシスに関連したマクロ磁気物性である

磁性は磁気異方性の影響を受け寸法方位形状により大幅に変化する

単位系が複雑でCGSとSIが混在して使われている

磁性体と誘電体の対比

磁性体

磁気モーメントμ(軸性ベクトル)

磁化M

自発磁化Ms

反磁界

磁気ヒステリシス

飽和磁化残留磁化保磁力

磁区(ドメイン)

キュリー温度

誘電体

電気双極子qr(極性ベクトル)

電気分極P

自発分極Ps

反電界

誘電ヒステリシス

飽和分極残留分極抗電界

分域(ドメイン)

キュリー温度

[参考1]

磁界磁束磁化

磁界(磁場)H磁束密度B磁化M

磁界H中に置かれた磁化Mの磁性体が磁束密

度は真空中の磁束密度に磁化による磁束密度を加えたものであるすなわちB=0H+M

B=0H B=0H+M

M

磁性体があると磁束密度が高くなる

真空中での磁束密度

磁化とは

物質に磁界を加えたとき物質の表面に磁極が生じ一時的に磁石のようになるがそのとき物質が磁化されたという

(b)(a)

(高梨初等磁気工学講座)より

磁化の定義

K番目の原子の1原子あ

たりの磁気モーメントをkとするときその単位体積についての総和k

を磁化Mと定義するM= k

磁気モーメントの単位はWbmであるから磁化の単位はWbm2となる

(高梨初等磁気工学講座)より

常磁性

磁極と磁気モーメント

磁石にはN極とS極がある

磁界中に置かれた磁性体にも磁極が誘起される磁極は必ずNSの対で現れる(単極は見つかっていない)

磁極の大きさをq [Wb]とすると磁界によってNSの対に働くトルクは-qdHsin [Nm]=qdsin [Wbm] H[Am]

必ずNとSが対で現れるならm=qrを磁性を扱う基本単

位と考えることが出来るこれを磁気モーメントという単位は[Wbm]

[参考2]

磁気モーメントの電子的起源

磁気モーメント

一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは

T=qH r sin=mH sin 磁気モーメントのもつポテンシャルEは

E=Td= mH sin d=mH(1-cos)

ポテンシャルの原点はどこにとってもよいから E=-mH mHのときエネルギーは極小になる

mはHに平行になろうとする(高梨初等磁気工学講座)より

r 磁気モーメント

m=qr [Wbm]

-q [Wb]

+q [Wb]

qH

-qH

rsin

単位E[J]=-m[Wbm] H[Am]

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 8: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

通常金属と遷移金属の状態密度

(a)はアルカリ金属(NaKなど)のs電子に由来するバンド状態密度である

(b)は磁性をもたない遷移金属のバンド状態密度であるS電子帯に加えて狭く状態密度の高いd電子帯が重畳している

(b)

Energy

bullDOS

EFEC

(a)

Energy

bullDOS

EFEC

常磁性金属と強磁性遷移金属

磁性がある場合のエネルギーバンドを考えるに当たっては電子のスピンごとにバンドを考えなければならない右側が上向きスピン左側が下向きスピンを持つ電子の状態密度である

普通の非磁性金属では図(a)のように左右対称となるこれに対し強磁性体では図(b)に示すように上向きスピンバンドと下向きスピンバンドとに分裂する分裂は狭い3dバンドで大きく広いspバンドでは小さい この分裂を交換分裂という

DOS(down spin)

EC

EF

(b)

uarrdarr

DOS(up spin)

E

DOS(up spin)

EC

EF

(a)

uarrdarr

DOS(down spin)

強磁性金属のスピン偏極バンド構造

Callaway Wang Phys Rev B16(lsquo97)2095

uarrスピンバンド

darrスピンバンド

uarrスピンバンドとdarrスピンバンドの占有状態密度の差によって磁気モーメントが決まる

FeとNiのバンド状態密度

Ni

スピン状態密度

Ef

E

Fe

スピン状態密度

E

Ef

Niはuarrスピンバンドは満ちdarrバンドにはわずかな正孔しかないnuarr-ndarr=06

Feはuarrスピンバンドに比しdarrバンドの状態密度がかなり小さいnuarr-ndarr=22

darrバンドに06個の

空孔があるとCuからs電子が流れこみCuが40合金したとき

モーメントを失う

ハーフメタルとは

(a)通常の強磁性体金属はup spin down spinとも金属的

(b)Half metalではup spinは金属down spinは半導体

DOS(downspin)

EC

EF

(a)

uarrdarr

DOS(up spin)

E

DOS(down spin)

EC

EF

(b)uarr

darr

E

DOS(up spin)

darr

ハーフメタルとスピンエレクトロニクス

たとえば磁気トンネル接合(MTJ)素子のところで出てくるホイスラー合金Co2CrAlなどがその例

上向きスピンのバンドを見る限り金属のように伝導帯の一部が占有された構造をとるのに対し下向きスピンのバンドにおいては半導体のように電子に占有された価電子帯と電子に占有されない伝導帯がバンドギャップを隔てて分かれておりフェルミ準位はバンドギャップの中に存在する

このような構造をとるとフェルミ準位における電子状態は100スピン偏極するMTJにおいて磁気抵抗比はスピン偏極率の関数で与えられるのでハーフメタルが注目される

ハーフメタルCo2MnGe

uarrスピンは金属 darrスピンは半導体 Geの一部をGaに置き換えるとスピン

偏極率が上がる

L21 X2YZ

バンドと電子相関

通常のバンド計算では電子間の位置の相関を平均的なものに置き換える近似を行うので真の電子間相互作用は求まらない

バンドモデルが適用できるのは金属磁性体に限られるMnOやNiOのような絶縁性の磁性体を単純にバンド計算すると金属になってしまうこれは電子相関が考慮されていないからである

電子相関とはフントの規則のように電子同士のクーロン相互作用がスピンに依存することから生じるつまり同じ向きのスピンをもつ2つの電子は同じ軌道に入ることがないので重なりが小さくクーロン相互作用も小さいが逆向きスピンの2つの電子は同じ軌道を運動できるのでクーロン相互作用が強くなってエネルギー的に不安定になるため電子の移動を妨げる効果であるこの2つの状態の間のエネルギー差は電子相関エネルギーと呼ばれUで表され数eVのオーダーである

22 ハバードモデル

バンドモデルに電子相関を導入する手法がハバードモデルであるFig 3は横軸をUにとったとき電子のエネルギー準位がUに対しどのように変わるかを示した図であるここにはバンド幅で電子の移動のしやすさの尺度であるT0は満ちたバンドの平均エネルギーである

バンド幅が電子相関エネルギーに比べ十分小さなときすなわちUltlt2312のときは禁制帯が現れ系は絶縁体となるU0は局在性の強い極限で電子移動が起きるにはUだけ余分のエネルギーが必要であるこのため電子は原子付近に束縛され局在電子系として振る舞う

lower Hubbard band

upper Hubbard band

電荷移動型絶縁体

MnOは電荷移動型絶縁体と考えられているMn2+においては3d電子5個がスピンを揃えてlower Hubbard bandの5個の軌道を占有しているここに1個電子を付け加えようとすると逆向きのスピンを付け加えなければならないのでupper Hubbardbandに入り電子相関Uだけエネルギーを損する

実際には酸化物イオンのp軌道からなる価電子帯が満ちたバンドの頂にくるのでギャップはこの状態と3d電子系のupperHubbard bandの間に開いているこれを電荷移動型ギャップという

CT(電荷移動)ギャップ

Lower Hubbard band

Upper Hubbard band

電子相関U

23 局在電子モデル

原子の位置に局在した多電子系では通常フントの規則に従うように軌道角運動量とスピン角運動量が決められる

3d遷移金属イオンでは3d電子が配位子のp軌道と

混成し軌道角運動量はほぼ消失している

4f希土類では4f軌道は孤立原子内の状態とあまり変わらないので全角運動量がよい量子数である

局在電子系の磁性

常磁性体に誘起される平均の磁気モーメントは室温でB=100mTの磁界のもとでも10-2emucc程度の小さな量である

これに対して強磁性体では磁界を印加しなくても103emuccという大きな自発磁気モーメントを持っている

ワイスは原子の磁気モーメントが周りの磁気モーメントからの場(分子場)を受けて整列しているというモデルを立てて強磁性体の自発磁化を説明した

24 ワイスの分子場理論

1つの磁気モーメントを取り出しその周りにあるすべての磁気モーメントから生じた有効磁界によって考えている磁気モーメントが常磁性的に分極するならば自己完結的に強磁性が説明できる

これを分子場理論有効磁界を分子磁界または分子場(molecular field)と呼ぶ

Heff

周りからの磁場Heff=H+AMが働く磁化M

分子場理論

分子場係数

磁化Mをもつ磁性体に外部磁界Hが加わったときの有効磁界はHeff=H+AMと表されるAを分子場係数と呼ぶ

分子場係数AはJexを交換相互作用係数zを配位数としてA=2zJexN(gB)2で与えられる

この磁界によって生じる常磁性磁化MはM=M0BJ(gBHeffJkT)という式で表される

M0=NgBJはすべての磁気モーメントが整列したときに期待される磁化

分子場理論

自発磁化が生じる条件を求める

Heff=H+AMであるからH=0のときHeff=AM自発磁化が生じるにはHeff=AMを

M=M0BJ(gBHeffJkT)に代入して

MM0=BJ(gBJHeffkT)=BJ(gBJAMkT)が成立しなければならない

Aに分子場係数の式A=2zJexN(gB)2 を代入してMM0= BJ(2zJexgBMJ N(gB)2kT)

ここでM0=NgBJを使って書き直すとMM0= BJ((2zJexJ

2kT) MM0)を得る

MM0= BJ((2zJexJ2kT) MM0)を解く

y=MM0x=(2zJexJ2kT) MM0とすると上の方程式を解

くことは曲線y=BJ(x)と直線 y=x (2zJexJ2kT)を連立して

解くことと同じである

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

J=52のブリルアン関数

y=x (2zJexJ2kT) Tが小さいとき

解が存在する自発磁化あり

y=x (2zJexJ2kT) Tが大きいとき

解が存在しない自発磁化なし

キュリー温度においては直線はブリルアン関数の接線

温度が上がると

分子場理論

キュリー温度

温度が低いとき直線の傾斜はゆるくブリルアン曲線と直線ははy=MM0 =1付近で交わる

温度が上昇するとyの小さいところ交わる

高温になると0以外に交点を持たなくなる

(2zJexJ2kT) y=xの勾配とy=BJ(x)の接線の勾配

が等しいときがキュリー温度を与える

x=0付近ではyx3であるから3y=xと書ける従ってTcは2zJexJ

2kTc=3によってきまる即ちTc=2zJexJ

23kとなる

分子場理論

自発磁化の温度変化

さまざまなJについて分子場理論で交点のMM0をTに対してプロットすると磁化の温度変化を求めることができるニッケルの磁化温度曲線はJ=12でよく説明される timesは鉄はニッケルはコバルトの実測

値実線はJとしてスピンS=121infinをとった

ときの計算値

分子場理論

キュリーワイスの法則

キュリー温度Tc以上では磁気モーメントはバラバラ

の方向を向き常磁性になる分子場理論によればこのときの磁化率は次式で与えられる

この式をキュリーワイスの法則という

Cはワイス定数pは常磁性キュリー温度という

1をTに対してプロットすると1=(T- p)Cとなり横軸を横切る温度がpである

pT

C

分子場理論

キュリーワイスの法則を導く

Heff=H+AM

MHeff=CT (MとHeffの間にキュリーの法則が成立すると仮定する)

M(H+AM)=CTrarrMT=C(H+AM)従ってM(T-CA)=CHより

=MH=C(T-CA)となるCA=pと置けばキュリーワイスの法則が導かれるすなわち=C(T- p)

自発磁化の温度変化

強磁性体の自発磁化の大きさは温度上昇とともに減少しキュリー温度Tcにおいて消滅する

Tc以上では常磁性であ

る常磁性磁化率の逆数は温度に比例しゼロに外挿するとキュリー温度が求まる

25 交換相互作用(exchange interaction)

交換相互作用という言葉はもともとは多電子原子の中で働くクーロン相互作用の算出において電子同士を区別できないことから来るエネルギーの補正項のことで原子内交換相互作用といいます(intra-atomic exchange interaction)

この概念を原子間に拡張したのが原子間交換相互作用(inter-atomic exchangeinteraction)です

ウンチクコーナーイントラ(intra)とインター(inter) イントラは内部のといういみの接頭辞インターは複数のものの

間のという意味の接頭辞ですイントラネットインターネットということばもここから来ています

原子内交換相互作用

原子内交換相互作用は本質的にクーロン相互作用です2つの電子(波動関数を12とする)の間に働くクーロン相互作用のエネルギーHはH= K12-(12) J12(1+4s1s2) で表されます

K12は次式で与えられるクーロン積分です

J12は次式で与えられる交換積分で電子が区別できないことからくる項です

K dr dr r re

rr r12 1 2 1 1 2 2

2

12

1 1 2 2

J dr dr r re

rr r12 1 2 1 1 2 2

2

12

1 2 2 1

原子内交換相互作用

H= K12-(12) J12(1+4s1s2)

の固有値は=K12ndashJ12 (s1とs2が同符号のとき)= K12 ( s1とs2が異符号のとき)

Hと平均のエネルギー(H0=K12-J122)との差ndash2J12s1s2のことを原子内交換エネルギーという

K12

K12-J12

原子間交換相互作用

本来磁気秩序を考えるには物質系全体のスピンを考えねばならないのであるが電子の軌道が原子に局在しているみなして電子のスピンを各原子Iの位置に局在した全スピンSiで代表させて原子1の全スピンS1と原子2の全スピンS2との間に原子間交換相互作用が働くと考えるのがハイゼンベルグ模型であるこのとき交換エネルギーHex は原子内交換相互作用を一般化して見かけの交換積分J12を用いて

Hex =-2J12S1S2

で表されるJが正であれば相互作用は強磁性的負であれば反強磁性的である

交換相互作用

ハイゼンベルグ模型 Hex =-2J12S1S2

Jが正であれば相互作用は強磁性的負であれば反強磁性的

交換積分の起源隣接原子のスピン間の直接交換(direct exchange)

酸素などのアニオンのp電子軌道との混成を通してスピン同士がそろえあう超交換(superexchange)

伝導電子との相互作用を通じてそろえあう間接交換(indirect exchange)

電子の移動と磁性とが強く結びついている二重交換相互作用(double exchange)

さまざまな交換相互作用

直接交換

超交換

間接交換(RKKY)

二重交換

超交換相互作用

酸化物磁性体では局在電子系の磁気モーメントの間に働く相互作用は遷移金属の3d電子どうしの重なりで生じるのではなく配位子のp電子が遷移金属イオンの3d軌道に仮想的に遷

移した中間状態を介して相互作用するこれを超交換相互作用と称する主として反強磁性的に働く

酸素イオン

遷移金属イオン

超交換相互作用模式図

90度強磁性

180度反強磁性

(Goodenough)

アニオン

遷移金属イオン

アニオン

遷移金属イオン

(a)

(b)

Fig 9 超交換相互作用の模式図

間接交換(RKKY)相互作用

希土類金属の磁性は4f電子が担うが伝導電子である5d電子が4f電子と原子内交換相互作用することによってスピン偏極を受けこれが隣接の希土類原子のf電子と相互作用するという形の間接的な交換相互作用を行っていると考えられている

これをRKKY (Rudermann Kittel Kasuya Yoshida)相互作用という

伝導電子を介した局在スピン間の磁気的相互作用は距離に対して余弦関数的に振動しその周期は伝導電子のフェルミ波数で決められる

RKKY振動

フリーデル振動

21F

2

F

2

RKKY 29 SS

Rkf

N

NJH e

4

sincos

x

xxxxf

CoCu superlattice

Cu thickness (Aring)

磁気抵

抗比

図15

二重交換相互作用

LaMnO3ではすべてのMn原子は3価なので egバンドには1個の電子が存在しこの電子が隣接Mn原子のeg軌道に移動しようとすると電子相関エネルギーUだけのエネルギーが必要であるため電子移動は起きずモット絶縁体となっている

LaをSrで置き換え4価のMnが生じるとMn4+のeg軌道は空であるから他のMn3+から電子が移ることができ金属的な導電性を生じる

このとき隣接するMn原子の磁気モーメントのなす角とするとeg電子の飛び移りの確率はcos( 2)に比例する=0(スピンが平行)のとき飛び移りが最も起きやすく運動エネルギーの分だけエネルギーが下がるので強磁性となる

二重交換の模式図

Mn3+ Mn4+

3磁気ヒステリシス曲線と磁区

磁気ヒステリシスについて

反磁界と静磁エネルギー

磁気異方性

磁区と磁壁磁壁移動と磁化回転

保磁力

31 磁気ヒステリシス

強磁性体においてはその磁化は印加磁界に比例せずヒステリシスを示す

(高梨初等磁気工学講座テキスト)

OrarrBrarrC初磁化曲線

CrarrD 残留磁化

DrarrE 保磁力

CrarrDrarrErarrFrarrGrarrC

ヒステリシスループ

縦軸磁化

横軸磁界

[参考]

磁化曲線の測定法

磁性体を磁界中に置き磁界を増加していくと磁性体の磁化は増加していき次第に飽和する

磁化曲線は磁力計を使って測定する

VSM試料振動型磁力計試料を01~02mm程度のわずかな振幅で80Hz程度の低周波で振動させ試料の

磁化による磁束の時間変化を電磁石の磁極付近に置かれたサーチコイルに誘起された誘導起電力として検出する誘導起電力は試料の磁化に比例するので磁化を測定することができる

電磁石

磁極付近に置いたサーチコイル

スピーカーと同じ振動機構

[参考]

VSMブロック図

丸善実験物理学講座「磁気測定I」p68より

磁気ヒステリシスと応用

保磁力のちがいで用途が違う

Hc小軟質磁性体

磁気ヘッド変圧器鉄心磁気シールド

Hc中半硬質磁性体

磁気記録媒体

Hc大硬質磁性体

永久磁石このループの面積が磁石に蓄積される磁気エネルギー高周波の場合はヒステリシス損失となる

永久磁石の最大エネルギー積(BH)maxの変遷(httpwwwaacgbhamacukmagnetic_materialshistoryhtm)

BHmax

32 なぜ初磁化状態では磁化がないのか磁区(magnetic domain)

磁化が特定の方向を向くとするとN極からS極に向

かって磁力線が生じますこの磁力線は考えている試料の外を通っているだけでなく磁性体の内部も貫いていますこの磁力線を反磁界といいます反磁界の向きは磁化の向きとは反対向きなので磁化は回転する静磁力を受けて不安定となります

磁化の方向が逆方向の縞状の磁区と呼ばれる領域に分かれるならば反磁界がうち消し合って静磁エネルギーが低下して安定するのです

反磁界(demagnetization field)

磁性体表面の法線方向の磁化成分をMn とすると表面には単位面積あたり = Mnという大きさの磁極(Wbm2)が生じる

磁極からはガウスの定理によって全部で μ0の磁力線がわき出すこのうち反磁界係数Nを使って定義される磁力線NMは内部に向かっており残りは外側に向かっているすなわち磁石の内部ではMの向きとは逆方向の反磁界が存在する

外部では磁束線は磁力線に一致する

(b) 磁力線

M- +

(a)磁化と磁極 反磁界

S N

S N

(c) 磁束線

反磁界係数N (近角強磁性体の物理より)

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0

(i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+ Ny+ Nz=1

が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx= Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx= Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

x

y

z

z

x

y

z

x

y

Nz=1

Nx= 0Ny= 0

Nx= 12

Ny= 12

Nx=13

Ny=13

Nz=13

Nz=0

反磁界補正

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0 (i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+Ny+ Nz=1が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx=Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx=Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

(近角強磁性体の物理より)

反磁界と静磁エネルギー

磁化Mが反磁界HdのもとにおかれるとU=MHdだけポテンシャルエネルギーが高くなる

一様な磁界H中の磁気モーメントMに働くトルクTはT=-MH sin

磁気モーメントのもつポテンシャルEはU=Td= - 0

MH sin d=MH (1-cos) エネルギーの原点はどこにとってもよいのでポテンシャルエネルギーはU=-MHと表される H=-Hdを代入すると反磁界によるポテンシャルの増加はU=MHd

表面磁極の分割による静磁エネルギーの減少

結晶表面をxy面にとる

表面でz=0とする

磁区の磁化方向はplusmnz

磁区のx方向の幅d

磁極の表面密度=Is 2mdltxlt(2m+1)d

=-Is (2m+1)dltxlt2(m+1)d

磁気ポテンシャルをLaplaceの方程式で求め

+ +- -

z

x

y

d

境界条件( z)z=-0=20

境界条件のもとにラプラス方程式を解くと=n An sin n(d)xexp n(d)z

係数Anは次式を満たすように決められる(d) n nAn sin n(d)x =I20 2mdltxlt(2m+1)d

= - I20 (2m+1)dltxlt2(m+1)d

rarrAn=2Isd20n2

(x=0)=(2Isd20) n (1n2)sin n(d)x

単位表面積あたりの静磁エネルギー=(2Is

220) n (1n2)int0d sin n(d)x

=(2Is2d20) n=odd (1n3)=540104Is

2d

磁気異方性

磁性体は半導体と違って形状寸法結晶方位とか磁化の方位などによって物性が大きく変化する

1つの原因は上に述べた反磁界係数で形状磁気異方性と呼ばれます反磁界によるエネルギーの損を最小化することが原因です

このほかの原因として重要なのが結晶磁気異方性です結晶磁気異方性というのは磁界を結晶のどの方位に加えるかで磁化曲線が変化する性質です

電子軌道は結晶軸に結びついているので磁気的性質と電子軌道との結びつき(スピン軌道相互作用)を通じて磁性が結晶軸と結び

つくのです半導体にも詳しい測定をすると異方性を見ることができますこれに比べ一般に半導体の電子軌道は結晶全体に広がっているので平均化されて結晶軸に依存する物性が見えにくいです

結晶磁気異方性

磁化しやすさは結晶の方位に依存する

鉄は立方晶であるが[100]が容易軸[111]は困難軸

x

y

z

[111

]

[100

]

容易軸

困難軸

[110]

円板磁性体の磁区構造

全体が磁区に分かれることにより全体の磁化がなくなっているこれが初磁化状態である

磁区の内部では磁化は任意の方向をランダムに向いている訳ではない

磁化は結晶の方位と無関係な方向を向くことはできない磁性体には磁気異方性という性質があり磁化が特定の結晶軸方位(たとえばFeでは[001]方向および等価な方向)を向く性質がある

[001]容易軸では図のように(001)面内では[100][010][-100][0-10]の4つの方向を向くので90磁壁になる

[111]容易軸では

(a) (b)

(近角強磁性体の物理)

33 ヒステリシスを磁区で説明する

残留磁化状態 逆磁区の発生と成長

磁気飽和

核発生

34 さまざまな磁区とマイクロマグネティクス

Figは結晶の対称性により磁区が変わる様子の例として縞状磁区(stripe domain)と環流磁区(closure domain)を示している磁性体を微細化して直径1μm付近になるとスピンは面内に分布してvortex状態となり中心部に垂直方向のスピン成分をもつようになるさらに微細化すると単磁区になる

微小磁区のMFM観察

磁区の観察にはビッター法といって磁性微粒子を含むコロイドを磁性体上に滴下して光学顕微鏡で観察する方法が古くから使われているこのほか磁気光学顕微鏡ローレンツ電子顕微鏡磁気力顕微鏡走査型ホール顕微鏡走査型SQUID顕微鏡スピン偏極電子顕微鏡X線MCD顕微鏡などで観察することが可能であるFig 22にはいくつかの例について筆者のMFM観察結果を示す

10 nmtimes10 nmtimes10 nmMesh size

1Number of dot

200 nmtimes200 nmtimes100nm

Dot Size

Y directionEasy axis

02Damping constant(α)

-176times107 rad(sOe)Gyro magnetic constant(γ)

1000 ergcm3Anisotropic constant (Ku)

1times10-6 ergcm3Exchange field (A)

800 emucm3Saturation magnetization (Ms)

Hy = 10 kOe rarr 0 Oe

divM divMy

LLG 方程式を用いた

マイクロ磁気解析

Dot model

200 x 200thickness50 nm

Magnetic moment - dv M Force gradient

200 x 200thickness100 nm

90 degree walls propeller-like distortion

Calculation of a single dot

Spin structure

-divM

Isolated square dot

Force gradient image Spin distribution image

Four-dot system

Shift of the center occurs Reversal of chirality

MFM imagewith low-moment tip

(CoPtCr240Å in HV)

Spin distribution imagewith the force-gradientimage overlapped

Inversion of chirality

Comparison between MFM andsimulation of spin distribution

Simulation was carried outin the model structureconsisting of four squaredots with a dimension of200 nmtimes200 nmtimes20 nmwith 50nm separationbetween dots

The calculated spinstructure shows a closuredomain structure with the90-wall appears

The chirality of the spindirection in adjacent dots isopposite to each other asshown by white arrows

The Z-component force-gradient image taking intoaccount the tip-sampleinteraction is overlapped

Calculated magnetization configurationof Y-shaped permalloy dot

Calculation parametersWidth 300 nmThickness 100 nmEasy axis 0 ergcm3

x

y

z

Force gradient-divM

Force gradient(Magnified)

Experimental MFM images

bull Single domains appear in two armsbull Multi-domain of 4 chained closer-domains on the restbull Spin-flow at crossing region turns left in two steps

50

0n

m2

m

L

C

R

C

L

R

x

y

z

Calculated magnetization configurationsof Y-shaped permalloy mirror-dots

Calculation parametersWidth 200 nmThickness 40 nmEasy axis X 1000 ergcm3

Force gradient-divM

Single dot

Experimental MFM images

15 m

bull Calculated spin-flows similar to experimental resultbull Vortices with same chirality appear at the ends of all armsbull Chirality of adjacent dot shows a mirror-reflection

Easy axisEasy axis

Easy axis

Easy axis

-divM

4 おわりに

磁性特有のテクニカルタームがあるが慣れればそれほど難しいものではない

大部分の話は量子力学なしでも理解できる電磁気学の知識があればよい

応用につながるのは磁区磁壁の物理である

メゾスコピック系では量子的な現象が現れるこれが得意なスピン依存伝導現象をもたらす

[参考0]半導体磁性体誘電体

半導体と磁性体の対比

半導体 電子物性パラメータは基本的

にバンド構造で決まるキャリア密度は人為的に制御される

量子構造を考えない限り電子を古典粒子として有効質量近似で扱える

応用されるのは電子構造で決まる移動度などのミクロな電子物性である

電子物性が寸法方位形状にほとんど依存しない

単位系はCGSをもとにした実用単位系が使われる

磁性体 金属磁性体の磁性はスピン偏

極バンド構造で決まるが非金属磁性体の磁性は局在多電子系のフント則で決まる

交換相互作用スピン軌道相互作用など量子力学が基本

応用されるのは磁区により生じるヒステリシスに関連したマクロ磁気物性である

磁性は磁気異方性の影響を受け寸法方位形状により大幅に変化する

単位系が複雑でCGSとSIが混在して使われている

磁性体と誘電体の対比

磁性体

磁気モーメントμ(軸性ベクトル)

磁化M

自発磁化Ms

反磁界

磁気ヒステリシス

飽和磁化残留磁化保磁力

磁区(ドメイン)

キュリー温度

誘電体

電気双極子qr(極性ベクトル)

電気分極P

自発分極Ps

反電界

誘電ヒステリシス

飽和分極残留分極抗電界

分域(ドメイン)

キュリー温度

[参考1]

磁界磁束磁化

磁界(磁場)H磁束密度B磁化M

磁界H中に置かれた磁化Mの磁性体が磁束密

度は真空中の磁束密度に磁化による磁束密度を加えたものであるすなわちB=0H+M

B=0H B=0H+M

M

磁性体があると磁束密度が高くなる

真空中での磁束密度

磁化とは

物質に磁界を加えたとき物質の表面に磁極が生じ一時的に磁石のようになるがそのとき物質が磁化されたという

(b)(a)

(高梨初等磁気工学講座)より

磁化の定義

K番目の原子の1原子あ

たりの磁気モーメントをkとするときその単位体積についての総和k

を磁化Mと定義するM= k

磁気モーメントの単位はWbmであるから磁化の単位はWbm2となる

(高梨初等磁気工学講座)より

常磁性

磁極と磁気モーメント

磁石にはN極とS極がある

磁界中に置かれた磁性体にも磁極が誘起される磁極は必ずNSの対で現れる(単極は見つかっていない)

磁極の大きさをq [Wb]とすると磁界によってNSの対に働くトルクは-qdHsin [Nm]=qdsin [Wbm] H[Am]

必ずNとSが対で現れるならm=qrを磁性を扱う基本単

位と考えることが出来るこれを磁気モーメントという単位は[Wbm]

[参考2]

磁気モーメントの電子的起源

磁気モーメント

一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは

T=qH r sin=mH sin 磁気モーメントのもつポテンシャルEは

E=Td= mH sin d=mH(1-cos)

ポテンシャルの原点はどこにとってもよいから E=-mH mHのときエネルギーは極小になる

mはHに平行になろうとする(高梨初等磁気工学講座)より

r 磁気モーメント

m=qr [Wbm]

-q [Wb]

+q [Wb]

qH

-qH

rsin

単位E[J]=-m[Wbm] H[Am]

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 9: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

常磁性金属と強磁性遷移金属

磁性がある場合のエネルギーバンドを考えるに当たっては電子のスピンごとにバンドを考えなければならない右側が上向きスピン左側が下向きスピンを持つ電子の状態密度である

普通の非磁性金属では図(a)のように左右対称となるこれに対し強磁性体では図(b)に示すように上向きスピンバンドと下向きスピンバンドとに分裂する分裂は狭い3dバンドで大きく広いspバンドでは小さい この分裂を交換分裂という

DOS(down spin)

EC

EF

(b)

uarrdarr

DOS(up spin)

E

DOS(up spin)

EC

EF

(a)

uarrdarr

DOS(down spin)

強磁性金属のスピン偏極バンド構造

Callaway Wang Phys Rev B16(lsquo97)2095

uarrスピンバンド

darrスピンバンド

uarrスピンバンドとdarrスピンバンドの占有状態密度の差によって磁気モーメントが決まる

FeとNiのバンド状態密度

Ni

スピン状態密度

Ef

E

Fe

スピン状態密度

E

Ef

Niはuarrスピンバンドは満ちdarrバンドにはわずかな正孔しかないnuarr-ndarr=06

Feはuarrスピンバンドに比しdarrバンドの状態密度がかなり小さいnuarr-ndarr=22

darrバンドに06個の

空孔があるとCuからs電子が流れこみCuが40合金したとき

モーメントを失う

ハーフメタルとは

(a)通常の強磁性体金属はup spin down spinとも金属的

(b)Half metalではup spinは金属down spinは半導体

DOS(downspin)

EC

EF

(a)

uarrdarr

DOS(up spin)

E

DOS(down spin)

EC

EF

(b)uarr

darr

E

DOS(up spin)

darr

ハーフメタルとスピンエレクトロニクス

たとえば磁気トンネル接合(MTJ)素子のところで出てくるホイスラー合金Co2CrAlなどがその例

上向きスピンのバンドを見る限り金属のように伝導帯の一部が占有された構造をとるのに対し下向きスピンのバンドにおいては半導体のように電子に占有された価電子帯と電子に占有されない伝導帯がバンドギャップを隔てて分かれておりフェルミ準位はバンドギャップの中に存在する

このような構造をとるとフェルミ準位における電子状態は100スピン偏極するMTJにおいて磁気抵抗比はスピン偏極率の関数で与えられるのでハーフメタルが注目される

ハーフメタルCo2MnGe

uarrスピンは金属 darrスピンは半導体 Geの一部をGaに置き換えるとスピン

偏極率が上がる

L21 X2YZ

バンドと電子相関

通常のバンド計算では電子間の位置の相関を平均的なものに置き換える近似を行うので真の電子間相互作用は求まらない

バンドモデルが適用できるのは金属磁性体に限られるMnOやNiOのような絶縁性の磁性体を単純にバンド計算すると金属になってしまうこれは電子相関が考慮されていないからである

電子相関とはフントの規則のように電子同士のクーロン相互作用がスピンに依存することから生じるつまり同じ向きのスピンをもつ2つの電子は同じ軌道に入ることがないので重なりが小さくクーロン相互作用も小さいが逆向きスピンの2つの電子は同じ軌道を運動できるのでクーロン相互作用が強くなってエネルギー的に不安定になるため電子の移動を妨げる効果であるこの2つの状態の間のエネルギー差は電子相関エネルギーと呼ばれUで表され数eVのオーダーである

22 ハバードモデル

バンドモデルに電子相関を導入する手法がハバードモデルであるFig 3は横軸をUにとったとき電子のエネルギー準位がUに対しどのように変わるかを示した図であるここにはバンド幅で電子の移動のしやすさの尺度であるT0は満ちたバンドの平均エネルギーである

バンド幅が電子相関エネルギーに比べ十分小さなときすなわちUltlt2312のときは禁制帯が現れ系は絶縁体となるU0は局在性の強い極限で電子移動が起きるにはUだけ余分のエネルギーが必要であるこのため電子は原子付近に束縛され局在電子系として振る舞う

lower Hubbard band

upper Hubbard band

電荷移動型絶縁体

MnOは電荷移動型絶縁体と考えられているMn2+においては3d電子5個がスピンを揃えてlower Hubbard bandの5個の軌道を占有しているここに1個電子を付け加えようとすると逆向きのスピンを付け加えなければならないのでupper Hubbardbandに入り電子相関Uだけエネルギーを損する

実際には酸化物イオンのp軌道からなる価電子帯が満ちたバンドの頂にくるのでギャップはこの状態と3d電子系のupperHubbard bandの間に開いているこれを電荷移動型ギャップという

CT(電荷移動)ギャップ

Lower Hubbard band

Upper Hubbard band

電子相関U

23 局在電子モデル

原子の位置に局在した多電子系では通常フントの規則に従うように軌道角運動量とスピン角運動量が決められる

3d遷移金属イオンでは3d電子が配位子のp軌道と

混成し軌道角運動量はほぼ消失している

4f希土類では4f軌道は孤立原子内の状態とあまり変わらないので全角運動量がよい量子数である

局在電子系の磁性

常磁性体に誘起される平均の磁気モーメントは室温でB=100mTの磁界のもとでも10-2emucc程度の小さな量である

これに対して強磁性体では磁界を印加しなくても103emuccという大きな自発磁気モーメントを持っている

ワイスは原子の磁気モーメントが周りの磁気モーメントからの場(分子場)を受けて整列しているというモデルを立てて強磁性体の自発磁化を説明した

24 ワイスの分子場理論

1つの磁気モーメントを取り出しその周りにあるすべての磁気モーメントから生じた有効磁界によって考えている磁気モーメントが常磁性的に分極するならば自己完結的に強磁性が説明できる

これを分子場理論有効磁界を分子磁界または分子場(molecular field)と呼ぶ

Heff

周りからの磁場Heff=H+AMが働く磁化M

分子場理論

分子場係数

磁化Mをもつ磁性体に外部磁界Hが加わったときの有効磁界はHeff=H+AMと表されるAを分子場係数と呼ぶ

分子場係数AはJexを交換相互作用係数zを配位数としてA=2zJexN(gB)2で与えられる

この磁界によって生じる常磁性磁化MはM=M0BJ(gBHeffJkT)という式で表される

M0=NgBJはすべての磁気モーメントが整列したときに期待される磁化

分子場理論

自発磁化が生じる条件を求める

Heff=H+AMであるからH=0のときHeff=AM自発磁化が生じるにはHeff=AMを

M=M0BJ(gBHeffJkT)に代入して

MM0=BJ(gBJHeffkT)=BJ(gBJAMkT)が成立しなければならない

Aに分子場係数の式A=2zJexN(gB)2 を代入してMM0= BJ(2zJexgBMJ N(gB)2kT)

ここでM0=NgBJを使って書き直すとMM0= BJ((2zJexJ

2kT) MM0)を得る

MM0= BJ((2zJexJ2kT) MM0)を解く

y=MM0x=(2zJexJ2kT) MM0とすると上の方程式を解

くことは曲線y=BJ(x)と直線 y=x (2zJexJ2kT)を連立して

解くことと同じである

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

J=52のブリルアン関数

y=x (2zJexJ2kT) Tが小さいとき

解が存在する自発磁化あり

y=x (2zJexJ2kT) Tが大きいとき

解が存在しない自発磁化なし

キュリー温度においては直線はブリルアン関数の接線

温度が上がると

分子場理論

キュリー温度

温度が低いとき直線の傾斜はゆるくブリルアン曲線と直線ははy=MM0 =1付近で交わる

温度が上昇するとyの小さいところ交わる

高温になると0以外に交点を持たなくなる

(2zJexJ2kT) y=xの勾配とy=BJ(x)の接線の勾配

が等しいときがキュリー温度を与える

x=0付近ではyx3であるから3y=xと書ける従ってTcは2zJexJ

2kTc=3によってきまる即ちTc=2zJexJ

23kとなる

分子場理論

自発磁化の温度変化

さまざまなJについて分子場理論で交点のMM0をTに対してプロットすると磁化の温度変化を求めることができるニッケルの磁化温度曲線はJ=12でよく説明される timesは鉄はニッケルはコバルトの実測

値実線はJとしてスピンS=121infinをとった

ときの計算値

分子場理論

キュリーワイスの法則

キュリー温度Tc以上では磁気モーメントはバラバラ

の方向を向き常磁性になる分子場理論によればこのときの磁化率は次式で与えられる

この式をキュリーワイスの法則という

Cはワイス定数pは常磁性キュリー温度という

1をTに対してプロットすると1=(T- p)Cとなり横軸を横切る温度がpである

pT

C

分子場理論

キュリーワイスの法則を導く

Heff=H+AM

MHeff=CT (MとHeffの間にキュリーの法則が成立すると仮定する)

M(H+AM)=CTrarrMT=C(H+AM)従ってM(T-CA)=CHより

=MH=C(T-CA)となるCA=pと置けばキュリーワイスの法則が導かれるすなわち=C(T- p)

自発磁化の温度変化

強磁性体の自発磁化の大きさは温度上昇とともに減少しキュリー温度Tcにおいて消滅する

Tc以上では常磁性であ

る常磁性磁化率の逆数は温度に比例しゼロに外挿するとキュリー温度が求まる

25 交換相互作用(exchange interaction)

交換相互作用という言葉はもともとは多電子原子の中で働くクーロン相互作用の算出において電子同士を区別できないことから来るエネルギーの補正項のことで原子内交換相互作用といいます(intra-atomic exchange interaction)

この概念を原子間に拡張したのが原子間交換相互作用(inter-atomic exchangeinteraction)です

ウンチクコーナーイントラ(intra)とインター(inter) イントラは内部のといういみの接頭辞インターは複数のものの

間のという意味の接頭辞ですイントラネットインターネットということばもここから来ています

原子内交換相互作用

原子内交換相互作用は本質的にクーロン相互作用です2つの電子(波動関数を12とする)の間に働くクーロン相互作用のエネルギーHはH= K12-(12) J12(1+4s1s2) で表されます

K12は次式で与えられるクーロン積分です

J12は次式で与えられる交換積分で電子が区別できないことからくる項です

K dr dr r re

rr r12 1 2 1 1 2 2

2

12

1 1 2 2

J dr dr r re

rr r12 1 2 1 1 2 2

2

12

1 2 2 1

原子内交換相互作用

H= K12-(12) J12(1+4s1s2)

の固有値は=K12ndashJ12 (s1とs2が同符号のとき)= K12 ( s1とs2が異符号のとき)

Hと平均のエネルギー(H0=K12-J122)との差ndash2J12s1s2のことを原子内交換エネルギーという

K12

K12-J12

原子間交換相互作用

本来磁気秩序を考えるには物質系全体のスピンを考えねばならないのであるが電子の軌道が原子に局在しているみなして電子のスピンを各原子Iの位置に局在した全スピンSiで代表させて原子1の全スピンS1と原子2の全スピンS2との間に原子間交換相互作用が働くと考えるのがハイゼンベルグ模型であるこのとき交換エネルギーHex は原子内交換相互作用を一般化して見かけの交換積分J12を用いて

Hex =-2J12S1S2

で表されるJが正であれば相互作用は強磁性的負であれば反強磁性的である

交換相互作用

ハイゼンベルグ模型 Hex =-2J12S1S2

Jが正であれば相互作用は強磁性的負であれば反強磁性的

交換積分の起源隣接原子のスピン間の直接交換(direct exchange)

酸素などのアニオンのp電子軌道との混成を通してスピン同士がそろえあう超交換(superexchange)

伝導電子との相互作用を通じてそろえあう間接交換(indirect exchange)

電子の移動と磁性とが強く結びついている二重交換相互作用(double exchange)

さまざまな交換相互作用

直接交換

超交換

間接交換(RKKY)

二重交換

超交換相互作用

酸化物磁性体では局在電子系の磁気モーメントの間に働く相互作用は遷移金属の3d電子どうしの重なりで生じるのではなく配位子のp電子が遷移金属イオンの3d軌道に仮想的に遷

移した中間状態を介して相互作用するこれを超交換相互作用と称する主として反強磁性的に働く

酸素イオン

遷移金属イオン

超交換相互作用模式図

90度強磁性

180度反強磁性

(Goodenough)

アニオン

遷移金属イオン

アニオン

遷移金属イオン

(a)

(b)

Fig 9 超交換相互作用の模式図

間接交換(RKKY)相互作用

希土類金属の磁性は4f電子が担うが伝導電子である5d電子が4f電子と原子内交換相互作用することによってスピン偏極を受けこれが隣接の希土類原子のf電子と相互作用するという形の間接的な交換相互作用を行っていると考えられている

これをRKKY (Rudermann Kittel Kasuya Yoshida)相互作用という

伝導電子を介した局在スピン間の磁気的相互作用は距離に対して余弦関数的に振動しその周期は伝導電子のフェルミ波数で決められる

RKKY振動

フリーデル振動

21F

2

F

2

RKKY 29 SS

Rkf

N

NJH e

4

sincos

x

xxxxf

CoCu superlattice

Cu thickness (Aring)

磁気抵

抗比

図15

二重交換相互作用

LaMnO3ではすべてのMn原子は3価なので egバンドには1個の電子が存在しこの電子が隣接Mn原子のeg軌道に移動しようとすると電子相関エネルギーUだけのエネルギーが必要であるため電子移動は起きずモット絶縁体となっている

LaをSrで置き換え4価のMnが生じるとMn4+のeg軌道は空であるから他のMn3+から電子が移ることができ金属的な導電性を生じる

このとき隣接するMn原子の磁気モーメントのなす角とするとeg電子の飛び移りの確率はcos( 2)に比例する=0(スピンが平行)のとき飛び移りが最も起きやすく運動エネルギーの分だけエネルギーが下がるので強磁性となる

二重交換の模式図

Mn3+ Mn4+

3磁気ヒステリシス曲線と磁区

磁気ヒステリシスについて

反磁界と静磁エネルギー

磁気異方性

磁区と磁壁磁壁移動と磁化回転

保磁力

31 磁気ヒステリシス

強磁性体においてはその磁化は印加磁界に比例せずヒステリシスを示す

(高梨初等磁気工学講座テキスト)

OrarrBrarrC初磁化曲線

CrarrD 残留磁化

DrarrE 保磁力

CrarrDrarrErarrFrarrGrarrC

ヒステリシスループ

縦軸磁化

横軸磁界

[参考]

磁化曲線の測定法

磁性体を磁界中に置き磁界を増加していくと磁性体の磁化は増加していき次第に飽和する

磁化曲線は磁力計を使って測定する

VSM試料振動型磁力計試料を01~02mm程度のわずかな振幅で80Hz程度の低周波で振動させ試料の

磁化による磁束の時間変化を電磁石の磁極付近に置かれたサーチコイルに誘起された誘導起電力として検出する誘導起電力は試料の磁化に比例するので磁化を測定することができる

電磁石

磁極付近に置いたサーチコイル

スピーカーと同じ振動機構

[参考]

VSMブロック図

丸善実験物理学講座「磁気測定I」p68より

磁気ヒステリシスと応用

保磁力のちがいで用途が違う

Hc小軟質磁性体

磁気ヘッド変圧器鉄心磁気シールド

Hc中半硬質磁性体

磁気記録媒体

Hc大硬質磁性体

永久磁石このループの面積が磁石に蓄積される磁気エネルギー高周波の場合はヒステリシス損失となる

永久磁石の最大エネルギー積(BH)maxの変遷(httpwwwaacgbhamacukmagnetic_materialshistoryhtm)

BHmax

32 なぜ初磁化状態では磁化がないのか磁区(magnetic domain)

磁化が特定の方向を向くとするとN極からS極に向

かって磁力線が生じますこの磁力線は考えている試料の外を通っているだけでなく磁性体の内部も貫いていますこの磁力線を反磁界といいます反磁界の向きは磁化の向きとは反対向きなので磁化は回転する静磁力を受けて不安定となります

磁化の方向が逆方向の縞状の磁区と呼ばれる領域に分かれるならば反磁界がうち消し合って静磁エネルギーが低下して安定するのです

反磁界(demagnetization field)

磁性体表面の法線方向の磁化成分をMn とすると表面には単位面積あたり = Mnという大きさの磁極(Wbm2)が生じる

磁極からはガウスの定理によって全部で μ0の磁力線がわき出すこのうち反磁界係数Nを使って定義される磁力線NMは内部に向かっており残りは外側に向かっているすなわち磁石の内部ではMの向きとは逆方向の反磁界が存在する

外部では磁束線は磁力線に一致する

(b) 磁力線

M- +

(a)磁化と磁極 反磁界

S N

S N

(c) 磁束線

反磁界係数N (近角強磁性体の物理より)

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0

(i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+ Ny+ Nz=1

が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx= Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx= Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

x

y

z

z

x

y

z

x

y

Nz=1

Nx= 0Ny= 0

Nx= 12

Ny= 12

Nx=13

Ny=13

Nz=13

Nz=0

反磁界補正

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0 (i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+Ny+ Nz=1が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx=Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx=Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

(近角強磁性体の物理より)

反磁界と静磁エネルギー

磁化Mが反磁界HdのもとにおかれるとU=MHdだけポテンシャルエネルギーが高くなる

一様な磁界H中の磁気モーメントMに働くトルクTはT=-MH sin

磁気モーメントのもつポテンシャルEはU=Td= - 0

MH sin d=MH (1-cos) エネルギーの原点はどこにとってもよいのでポテンシャルエネルギーはU=-MHと表される H=-Hdを代入すると反磁界によるポテンシャルの増加はU=MHd

表面磁極の分割による静磁エネルギーの減少

結晶表面をxy面にとる

表面でz=0とする

磁区の磁化方向はplusmnz

磁区のx方向の幅d

磁極の表面密度=Is 2mdltxlt(2m+1)d

=-Is (2m+1)dltxlt2(m+1)d

磁気ポテンシャルをLaplaceの方程式で求め

+ +- -

z

x

y

d

境界条件( z)z=-0=20

境界条件のもとにラプラス方程式を解くと=n An sin n(d)xexp n(d)z

係数Anは次式を満たすように決められる(d) n nAn sin n(d)x =I20 2mdltxlt(2m+1)d

= - I20 (2m+1)dltxlt2(m+1)d

rarrAn=2Isd20n2

(x=0)=(2Isd20) n (1n2)sin n(d)x

単位表面積あたりの静磁エネルギー=(2Is

220) n (1n2)int0d sin n(d)x

=(2Is2d20) n=odd (1n3)=540104Is

2d

磁気異方性

磁性体は半導体と違って形状寸法結晶方位とか磁化の方位などによって物性が大きく変化する

1つの原因は上に述べた反磁界係数で形状磁気異方性と呼ばれます反磁界によるエネルギーの損を最小化することが原因です

このほかの原因として重要なのが結晶磁気異方性です結晶磁気異方性というのは磁界を結晶のどの方位に加えるかで磁化曲線が変化する性質です

電子軌道は結晶軸に結びついているので磁気的性質と電子軌道との結びつき(スピン軌道相互作用)を通じて磁性が結晶軸と結び

つくのです半導体にも詳しい測定をすると異方性を見ることができますこれに比べ一般に半導体の電子軌道は結晶全体に広がっているので平均化されて結晶軸に依存する物性が見えにくいです

結晶磁気異方性

磁化しやすさは結晶の方位に依存する

鉄は立方晶であるが[100]が容易軸[111]は困難軸

x

y

z

[111

]

[100

]

容易軸

困難軸

[110]

円板磁性体の磁区構造

全体が磁区に分かれることにより全体の磁化がなくなっているこれが初磁化状態である

磁区の内部では磁化は任意の方向をランダムに向いている訳ではない

磁化は結晶の方位と無関係な方向を向くことはできない磁性体には磁気異方性という性質があり磁化が特定の結晶軸方位(たとえばFeでは[001]方向および等価な方向)を向く性質がある

[001]容易軸では図のように(001)面内では[100][010][-100][0-10]の4つの方向を向くので90磁壁になる

[111]容易軸では

(a) (b)

(近角強磁性体の物理)

33 ヒステリシスを磁区で説明する

残留磁化状態 逆磁区の発生と成長

磁気飽和

核発生

34 さまざまな磁区とマイクロマグネティクス

Figは結晶の対称性により磁区が変わる様子の例として縞状磁区(stripe domain)と環流磁区(closure domain)を示している磁性体を微細化して直径1μm付近になるとスピンは面内に分布してvortex状態となり中心部に垂直方向のスピン成分をもつようになるさらに微細化すると単磁区になる

微小磁区のMFM観察

磁区の観察にはビッター法といって磁性微粒子を含むコロイドを磁性体上に滴下して光学顕微鏡で観察する方法が古くから使われているこのほか磁気光学顕微鏡ローレンツ電子顕微鏡磁気力顕微鏡走査型ホール顕微鏡走査型SQUID顕微鏡スピン偏極電子顕微鏡X線MCD顕微鏡などで観察することが可能であるFig 22にはいくつかの例について筆者のMFM観察結果を示す

10 nmtimes10 nmtimes10 nmMesh size

1Number of dot

200 nmtimes200 nmtimes100nm

Dot Size

Y directionEasy axis

02Damping constant(α)

-176times107 rad(sOe)Gyro magnetic constant(γ)

1000 ergcm3Anisotropic constant (Ku)

1times10-6 ergcm3Exchange field (A)

800 emucm3Saturation magnetization (Ms)

Hy = 10 kOe rarr 0 Oe

divM divMy

LLG 方程式を用いた

マイクロ磁気解析

Dot model

200 x 200thickness50 nm

Magnetic moment - dv M Force gradient

200 x 200thickness100 nm

90 degree walls propeller-like distortion

Calculation of a single dot

Spin structure

-divM

Isolated square dot

Force gradient image Spin distribution image

Four-dot system

Shift of the center occurs Reversal of chirality

MFM imagewith low-moment tip

(CoPtCr240Å in HV)

Spin distribution imagewith the force-gradientimage overlapped

Inversion of chirality

Comparison between MFM andsimulation of spin distribution

Simulation was carried outin the model structureconsisting of four squaredots with a dimension of200 nmtimes200 nmtimes20 nmwith 50nm separationbetween dots

The calculated spinstructure shows a closuredomain structure with the90-wall appears

The chirality of the spindirection in adjacent dots isopposite to each other asshown by white arrows

The Z-component force-gradient image taking intoaccount the tip-sampleinteraction is overlapped

Calculated magnetization configurationof Y-shaped permalloy dot

Calculation parametersWidth 300 nmThickness 100 nmEasy axis 0 ergcm3

x

y

z

Force gradient-divM

Force gradient(Magnified)

Experimental MFM images

bull Single domains appear in two armsbull Multi-domain of 4 chained closer-domains on the restbull Spin-flow at crossing region turns left in two steps

50

0n

m2

m

L

C

R

C

L

R

x

y

z

Calculated magnetization configurationsof Y-shaped permalloy mirror-dots

Calculation parametersWidth 200 nmThickness 40 nmEasy axis X 1000 ergcm3

Force gradient-divM

Single dot

Experimental MFM images

15 m

bull Calculated spin-flows similar to experimental resultbull Vortices with same chirality appear at the ends of all armsbull Chirality of adjacent dot shows a mirror-reflection

Easy axisEasy axis

Easy axis

Easy axis

-divM

4 おわりに

磁性特有のテクニカルタームがあるが慣れればそれほど難しいものではない

大部分の話は量子力学なしでも理解できる電磁気学の知識があればよい

応用につながるのは磁区磁壁の物理である

メゾスコピック系では量子的な現象が現れるこれが得意なスピン依存伝導現象をもたらす

[参考0]半導体磁性体誘電体

半導体と磁性体の対比

半導体 電子物性パラメータは基本的

にバンド構造で決まるキャリア密度は人為的に制御される

量子構造を考えない限り電子を古典粒子として有効質量近似で扱える

応用されるのは電子構造で決まる移動度などのミクロな電子物性である

電子物性が寸法方位形状にほとんど依存しない

単位系はCGSをもとにした実用単位系が使われる

磁性体 金属磁性体の磁性はスピン偏

極バンド構造で決まるが非金属磁性体の磁性は局在多電子系のフント則で決まる

交換相互作用スピン軌道相互作用など量子力学が基本

応用されるのは磁区により生じるヒステリシスに関連したマクロ磁気物性である

磁性は磁気異方性の影響を受け寸法方位形状により大幅に変化する

単位系が複雑でCGSとSIが混在して使われている

磁性体と誘電体の対比

磁性体

磁気モーメントμ(軸性ベクトル)

磁化M

自発磁化Ms

反磁界

磁気ヒステリシス

飽和磁化残留磁化保磁力

磁区(ドメイン)

キュリー温度

誘電体

電気双極子qr(極性ベクトル)

電気分極P

自発分極Ps

反電界

誘電ヒステリシス

飽和分極残留分極抗電界

分域(ドメイン)

キュリー温度

[参考1]

磁界磁束磁化

磁界(磁場)H磁束密度B磁化M

磁界H中に置かれた磁化Mの磁性体が磁束密

度は真空中の磁束密度に磁化による磁束密度を加えたものであるすなわちB=0H+M

B=0H B=0H+M

M

磁性体があると磁束密度が高くなる

真空中での磁束密度

磁化とは

物質に磁界を加えたとき物質の表面に磁極が生じ一時的に磁石のようになるがそのとき物質が磁化されたという

(b)(a)

(高梨初等磁気工学講座)より

磁化の定義

K番目の原子の1原子あ

たりの磁気モーメントをkとするときその単位体積についての総和k

を磁化Mと定義するM= k

磁気モーメントの単位はWbmであるから磁化の単位はWbm2となる

(高梨初等磁気工学講座)より

常磁性

磁極と磁気モーメント

磁石にはN極とS極がある

磁界中に置かれた磁性体にも磁極が誘起される磁極は必ずNSの対で現れる(単極は見つかっていない)

磁極の大きさをq [Wb]とすると磁界によってNSの対に働くトルクは-qdHsin [Nm]=qdsin [Wbm] H[Am]

必ずNとSが対で現れるならm=qrを磁性を扱う基本単

位と考えることが出来るこれを磁気モーメントという単位は[Wbm]

[参考2]

磁気モーメントの電子的起源

磁気モーメント

一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは

T=qH r sin=mH sin 磁気モーメントのもつポテンシャルEは

E=Td= mH sin d=mH(1-cos)

ポテンシャルの原点はどこにとってもよいから E=-mH mHのときエネルギーは極小になる

mはHに平行になろうとする(高梨初等磁気工学講座)より

r 磁気モーメント

m=qr [Wbm]

-q [Wb]

+q [Wb]

qH

-qH

rsin

単位E[J]=-m[Wbm] H[Am]

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 10: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

強磁性金属のスピン偏極バンド構造

Callaway Wang Phys Rev B16(lsquo97)2095

uarrスピンバンド

darrスピンバンド

uarrスピンバンドとdarrスピンバンドの占有状態密度の差によって磁気モーメントが決まる

FeとNiのバンド状態密度

Ni

スピン状態密度

Ef

E

Fe

スピン状態密度

E

Ef

Niはuarrスピンバンドは満ちdarrバンドにはわずかな正孔しかないnuarr-ndarr=06

Feはuarrスピンバンドに比しdarrバンドの状態密度がかなり小さいnuarr-ndarr=22

darrバンドに06個の

空孔があるとCuからs電子が流れこみCuが40合金したとき

モーメントを失う

ハーフメタルとは

(a)通常の強磁性体金属はup spin down spinとも金属的

(b)Half metalではup spinは金属down spinは半導体

DOS(downspin)

EC

EF

(a)

uarrdarr

DOS(up spin)

E

DOS(down spin)

EC

EF

(b)uarr

darr

E

DOS(up spin)

darr

ハーフメタルとスピンエレクトロニクス

たとえば磁気トンネル接合(MTJ)素子のところで出てくるホイスラー合金Co2CrAlなどがその例

上向きスピンのバンドを見る限り金属のように伝導帯の一部が占有された構造をとるのに対し下向きスピンのバンドにおいては半導体のように電子に占有された価電子帯と電子に占有されない伝導帯がバンドギャップを隔てて分かれておりフェルミ準位はバンドギャップの中に存在する

このような構造をとるとフェルミ準位における電子状態は100スピン偏極するMTJにおいて磁気抵抗比はスピン偏極率の関数で与えられるのでハーフメタルが注目される

ハーフメタルCo2MnGe

uarrスピンは金属 darrスピンは半導体 Geの一部をGaに置き換えるとスピン

偏極率が上がる

L21 X2YZ

バンドと電子相関

通常のバンド計算では電子間の位置の相関を平均的なものに置き換える近似を行うので真の電子間相互作用は求まらない

バンドモデルが適用できるのは金属磁性体に限られるMnOやNiOのような絶縁性の磁性体を単純にバンド計算すると金属になってしまうこれは電子相関が考慮されていないからである

電子相関とはフントの規則のように電子同士のクーロン相互作用がスピンに依存することから生じるつまり同じ向きのスピンをもつ2つの電子は同じ軌道に入ることがないので重なりが小さくクーロン相互作用も小さいが逆向きスピンの2つの電子は同じ軌道を運動できるのでクーロン相互作用が強くなってエネルギー的に不安定になるため電子の移動を妨げる効果であるこの2つの状態の間のエネルギー差は電子相関エネルギーと呼ばれUで表され数eVのオーダーである

22 ハバードモデル

バンドモデルに電子相関を導入する手法がハバードモデルであるFig 3は横軸をUにとったとき電子のエネルギー準位がUに対しどのように変わるかを示した図であるここにはバンド幅で電子の移動のしやすさの尺度であるT0は満ちたバンドの平均エネルギーである

バンド幅が電子相関エネルギーに比べ十分小さなときすなわちUltlt2312のときは禁制帯が現れ系は絶縁体となるU0は局在性の強い極限で電子移動が起きるにはUだけ余分のエネルギーが必要であるこのため電子は原子付近に束縛され局在電子系として振る舞う

lower Hubbard band

upper Hubbard band

電荷移動型絶縁体

MnOは電荷移動型絶縁体と考えられているMn2+においては3d電子5個がスピンを揃えてlower Hubbard bandの5個の軌道を占有しているここに1個電子を付け加えようとすると逆向きのスピンを付け加えなければならないのでupper Hubbardbandに入り電子相関Uだけエネルギーを損する

実際には酸化物イオンのp軌道からなる価電子帯が満ちたバンドの頂にくるのでギャップはこの状態と3d電子系のupperHubbard bandの間に開いているこれを電荷移動型ギャップという

CT(電荷移動)ギャップ

Lower Hubbard band

Upper Hubbard band

電子相関U

23 局在電子モデル

原子の位置に局在した多電子系では通常フントの規則に従うように軌道角運動量とスピン角運動量が決められる

3d遷移金属イオンでは3d電子が配位子のp軌道と

混成し軌道角運動量はほぼ消失している

4f希土類では4f軌道は孤立原子内の状態とあまり変わらないので全角運動量がよい量子数である

局在電子系の磁性

常磁性体に誘起される平均の磁気モーメントは室温でB=100mTの磁界のもとでも10-2emucc程度の小さな量である

これに対して強磁性体では磁界を印加しなくても103emuccという大きな自発磁気モーメントを持っている

ワイスは原子の磁気モーメントが周りの磁気モーメントからの場(分子場)を受けて整列しているというモデルを立てて強磁性体の自発磁化を説明した

24 ワイスの分子場理論

1つの磁気モーメントを取り出しその周りにあるすべての磁気モーメントから生じた有効磁界によって考えている磁気モーメントが常磁性的に分極するならば自己完結的に強磁性が説明できる

これを分子場理論有効磁界を分子磁界または分子場(molecular field)と呼ぶ

Heff

周りからの磁場Heff=H+AMが働く磁化M

分子場理論

分子場係数

磁化Mをもつ磁性体に外部磁界Hが加わったときの有効磁界はHeff=H+AMと表されるAを分子場係数と呼ぶ

分子場係数AはJexを交換相互作用係数zを配位数としてA=2zJexN(gB)2で与えられる

この磁界によって生じる常磁性磁化MはM=M0BJ(gBHeffJkT)という式で表される

M0=NgBJはすべての磁気モーメントが整列したときに期待される磁化

分子場理論

自発磁化が生じる条件を求める

Heff=H+AMであるからH=0のときHeff=AM自発磁化が生じるにはHeff=AMを

M=M0BJ(gBHeffJkT)に代入して

MM0=BJ(gBJHeffkT)=BJ(gBJAMkT)が成立しなければならない

Aに分子場係数の式A=2zJexN(gB)2 を代入してMM0= BJ(2zJexgBMJ N(gB)2kT)

ここでM0=NgBJを使って書き直すとMM0= BJ((2zJexJ

2kT) MM0)を得る

MM0= BJ((2zJexJ2kT) MM0)を解く

y=MM0x=(2zJexJ2kT) MM0とすると上の方程式を解

くことは曲線y=BJ(x)と直線 y=x (2zJexJ2kT)を連立して

解くことと同じである

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

J=52のブリルアン関数

y=x (2zJexJ2kT) Tが小さいとき

解が存在する自発磁化あり

y=x (2zJexJ2kT) Tが大きいとき

解が存在しない自発磁化なし

キュリー温度においては直線はブリルアン関数の接線

温度が上がると

分子場理論

キュリー温度

温度が低いとき直線の傾斜はゆるくブリルアン曲線と直線ははy=MM0 =1付近で交わる

温度が上昇するとyの小さいところ交わる

高温になると0以外に交点を持たなくなる

(2zJexJ2kT) y=xの勾配とy=BJ(x)の接線の勾配

が等しいときがキュリー温度を与える

x=0付近ではyx3であるから3y=xと書ける従ってTcは2zJexJ

2kTc=3によってきまる即ちTc=2zJexJ

23kとなる

分子場理論

自発磁化の温度変化

さまざまなJについて分子場理論で交点のMM0をTに対してプロットすると磁化の温度変化を求めることができるニッケルの磁化温度曲線はJ=12でよく説明される timesは鉄はニッケルはコバルトの実測

値実線はJとしてスピンS=121infinをとった

ときの計算値

分子場理論

キュリーワイスの法則

キュリー温度Tc以上では磁気モーメントはバラバラ

の方向を向き常磁性になる分子場理論によればこのときの磁化率は次式で与えられる

この式をキュリーワイスの法則という

Cはワイス定数pは常磁性キュリー温度という

1をTに対してプロットすると1=(T- p)Cとなり横軸を横切る温度がpである

pT

C

分子場理論

キュリーワイスの法則を導く

Heff=H+AM

MHeff=CT (MとHeffの間にキュリーの法則が成立すると仮定する)

M(H+AM)=CTrarrMT=C(H+AM)従ってM(T-CA)=CHより

=MH=C(T-CA)となるCA=pと置けばキュリーワイスの法則が導かれるすなわち=C(T- p)

自発磁化の温度変化

強磁性体の自発磁化の大きさは温度上昇とともに減少しキュリー温度Tcにおいて消滅する

Tc以上では常磁性であ

る常磁性磁化率の逆数は温度に比例しゼロに外挿するとキュリー温度が求まる

25 交換相互作用(exchange interaction)

交換相互作用という言葉はもともとは多電子原子の中で働くクーロン相互作用の算出において電子同士を区別できないことから来るエネルギーの補正項のことで原子内交換相互作用といいます(intra-atomic exchange interaction)

この概念を原子間に拡張したのが原子間交換相互作用(inter-atomic exchangeinteraction)です

ウンチクコーナーイントラ(intra)とインター(inter) イントラは内部のといういみの接頭辞インターは複数のものの

間のという意味の接頭辞ですイントラネットインターネットということばもここから来ています

原子内交換相互作用

原子内交換相互作用は本質的にクーロン相互作用です2つの電子(波動関数を12とする)の間に働くクーロン相互作用のエネルギーHはH= K12-(12) J12(1+4s1s2) で表されます

K12は次式で与えられるクーロン積分です

J12は次式で与えられる交換積分で電子が区別できないことからくる項です

K dr dr r re

rr r12 1 2 1 1 2 2

2

12

1 1 2 2

J dr dr r re

rr r12 1 2 1 1 2 2

2

12

1 2 2 1

原子内交換相互作用

H= K12-(12) J12(1+4s1s2)

の固有値は=K12ndashJ12 (s1とs2が同符号のとき)= K12 ( s1とs2が異符号のとき)

Hと平均のエネルギー(H0=K12-J122)との差ndash2J12s1s2のことを原子内交換エネルギーという

K12

K12-J12

原子間交換相互作用

本来磁気秩序を考えるには物質系全体のスピンを考えねばならないのであるが電子の軌道が原子に局在しているみなして電子のスピンを各原子Iの位置に局在した全スピンSiで代表させて原子1の全スピンS1と原子2の全スピンS2との間に原子間交換相互作用が働くと考えるのがハイゼンベルグ模型であるこのとき交換エネルギーHex は原子内交換相互作用を一般化して見かけの交換積分J12を用いて

Hex =-2J12S1S2

で表されるJが正であれば相互作用は強磁性的負であれば反強磁性的である

交換相互作用

ハイゼンベルグ模型 Hex =-2J12S1S2

Jが正であれば相互作用は強磁性的負であれば反強磁性的

交換積分の起源隣接原子のスピン間の直接交換(direct exchange)

酸素などのアニオンのp電子軌道との混成を通してスピン同士がそろえあう超交換(superexchange)

伝導電子との相互作用を通じてそろえあう間接交換(indirect exchange)

電子の移動と磁性とが強く結びついている二重交換相互作用(double exchange)

さまざまな交換相互作用

直接交換

超交換

間接交換(RKKY)

二重交換

超交換相互作用

酸化物磁性体では局在電子系の磁気モーメントの間に働く相互作用は遷移金属の3d電子どうしの重なりで生じるのではなく配位子のp電子が遷移金属イオンの3d軌道に仮想的に遷

移した中間状態を介して相互作用するこれを超交換相互作用と称する主として反強磁性的に働く

酸素イオン

遷移金属イオン

超交換相互作用模式図

90度強磁性

180度反強磁性

(Goodenough)

アニオン

遷移金属イオン

アニオン

遷移金属イオン

(a)

(b)

Fig 9 超交換相互作用の模式図

間接交換(RKKY)相互作用

希土類金属の磁性は4f電子が担うが伝導電子である5d電子が4f電子と原子内交換相互作用することによってスピン偏極を受けこれが隣接の希土類原子のf電子と相互作用するという形の間接的な交換相互作用を行っていると考えられている

これをRKKY (Rudermann Kittel Kasuya Yoshida)相互作用という

伝導電子を介した局在スピン間の磁気的相互作用は距離に対して余弦関数的に振動しその周期は伝導電子のフェルミ波数で決められる

RKKY振動

フリーデル振動

21F

2

F

2

RKKY 29 SS

Rkf

N

NJH e

4

sincos

x

xxxxf

CoCu superlattice

Cu thickness (Aring)

磁気抵

抗比

図15

二重交換相互作用

LaMnO3ではすべてのMn原子は3価なので egバンドには1個の電子が存在しこの電子が隣接Mn原子のeg軌道に移動しようとすると電子相関エネルギーUだけのエネルギーが必要であるため電子移動は起きずモット絶縁体となっている

LaをSrで置き換え4価のMnが生じるとMn4+のeg軌道は空であるから他のMn3+から電子が移ることができ金属的な導電性を生じる

このとき隣接するMn原子の磁気モーメントのなす角とするとeg電子の飛び移りの確率はcos( 2)に比例する=0(スピンが平行)のとき飛び移りが最も起きやすく運動エネルギーの分だけエネルギーが下がるので強磁性となる

二重交換の模式図

Mn3+ Mn4+

3磁気ヒステリシス曲線と磁区

磁気ヒステリシスについて

反磁界と静磁エネルギー

磁気異方性

磁区と磁壁磁壁移動と磁化回転

保磁力

31 磁気ヒステリシス

強磁性体においてはその磁化は印加磁界に比例せずヒステリシスを示す

(高梨初等磁気工学講座テキスト)

OrarrBrarrC初磁化曲線

CrarrD 残留磁化

DrarrE 保磁力

CrarrDrarrErarrFrarrGrarrC

ヒステリシスループ

縦軸磁化

横軸磁界

[参考]

磁化曲線の測定法

磁性体を磁界中に置き磁界を増加していくと磁性体の磁化は増加していき次第に飽和する

磁化曲線は磁力計を使って測定する

VSM試料振動型磁力計試料を01~02mm程度のわずかな振幅で80Hz程度の低周波で振動させ試料の

磁化による磁束の時間変化を電磁石の磁極付近に置かれたサーチコイルに誘起された誘導起電力として検出する誘導起電力は試料の磁化に比例するので磁化を測定することができる

電磁石

磁極付近に置いたサーチコイル

スピーカーと同じ振動機構

[参考]

VSMブロック図

丸善実験物理学講座「磁気測定I」p68より

磁気ヒステリシスと応用

保磁力のちがいで用途が違う

Hc小軟質磁性体

磁気ヘッド変圧器鉄心磁気シールド

Hc中半硬質磁性体

磁気記録媒体

Hc大硬質磁性体

永久磁石このループの面積が磁石に蓄積される磁気エネルギー高周波の場合はヒステリシス損失となる

永久磁石の最大エネルギー積(BH)maxの変遷(httpwwwaacgbhamacukmagnetic_materialshistoryhtm)

BHmax

32 なぜ初磁化状態では磁化がないのか磁区(magnetic domain)

磁化が特定の方向を向くとするとN極からS極に向

かって磁力線が生じますこの磁力線は考えている試料の外を通っているだけでなく磁性体の内部も貫いていますこの磁力線を反磁界といいます反磁界の向きは磁化の向きとは反対向きなので磁化は回転する静磁力を受けて不安定となります

磁化の方向が逆方向の縞状の磁区と呼ばれる領域に分かれるならば反磁界がうち消し合って静磁エネルギーが低下して安定するのです

反磁界(demagnetization field)

磁性体表面の法線方向の磁化成分をMn とすると表面には単位面積あたり = Mnという大きさの磁極(Wbm2)が生じる

磁極からはガウスの定理によって全部で μ0の磁力線がわき出すこのうち反磁界係数Nを使って定義される磁力線NMは内部に向かっており残りは外側に向かっているすなわち磁石の内部ではMの向きとは逆方向の反磁界が存在する

外部では磁束線は磁力線に一致する

(b) 磁力線

M- +

(a)磁化と磁極 反磁界

S N

S N

(c) 磁束線

反磁界係数N (近角強磁性体の物理より)

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0

(i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+ Ny+ Nz=1

が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx= Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx= Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

x

y

z

z

x

y

z

x

y

Nz=1

Nx= 0Ny= 0

Nx= 12

Ny= 12

Nx=13

Ny=13

Nz=13

Nz=0

反磁界補正

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0 (i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+Ny+ Nz=1が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx=Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx=Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

(近角強磁性体の物理より)

反磁界と静磁エネルギー

磁化Mが反磁界HdのもとにおかれるとU=MHdだけポテンシャルエネルギーが高くなる

一様な磁界H中の磁気モーメントMに働くトルクTはT=-MH sin

磁気モーメントのもつポテンシャルEはU=Td= - 0

MH sin d=MH (1-cos) エネルギーの原点はどこにとってもよいのでポテンシャルエネルギーはU=-MHと表される H=-Hdを代入すると反磁界によるポテンシャルの増加はU=MHd

表面磁極の分割による静磁エネルギーの減少

結晶表面をxy面にとる

表面でz=0とする

磁区の磁化方向はplusmnz

磁区のx方向の幅d

磁極の表面密度=Is 2mdltxlt(2m+1)d

=-Is (2m+1)dltxlt2(m+1)d

磁気ポテンシャルをLaplaceの方程式で求め

+ +- -

z

x

y

d

境界条件( z)z=-0=20

境界条件のもとにラプラス方程式を解くと=n An sin n(d)xexp n(d)z

係数Anは次式を満たすように決められる(d) n nAn sin n(d)x =I20 2mdltxlt(2m+1)d

= - I20 (2m+1)dltxlt2(m+1)d

rarrAn=2Isd20n2

(x=0)=(2Isd20) n (1n2)sin n(d)x

単位表面積あたりの静磁エネルギー=(2Is

220) n (1n2)int0d sin n(d)x

=(2Is2d20) n=odd (1n3)=540104Is

2d

磁気異方性

磁性体は半導体と違って形状寸法結晶方位とか磁化の方位などによって物性が大きく変化する

1つの原因は上に述べた反磁界係数で形状磁気異方性と呼ばれます反磁界によるエネルギーの損を最小化することが原因です

このほかの原因として重要なのが結晶磁気異方性です結晶磁気異方性というのは磁界を結晶のどの方位に加えるかで磁化曲線が変化する性質です

電子軌道は結晶軸に結びついているので磁気的性質と電子軌道との結びつき(スピン軌道相互作用)を通じて磁性が結晶軸と結び

つくのです半導体にも詳しい測定をすると異方性を見ることができますこれに比べ一般に半導体の電子軌道は結晶全体に広がっているので平均化されて結晶軸に依存する物性が見えにくいです

結晶磁気異方性

磁化しやすさは結晶の方位に依存する

鉄は立方晶であるが[100]が容易軸[111]は困難軸

x

y

z

[111

]

[100

]

容易軸

困難軸

[110]

円板磁性体の磁区構造

全体が磁区に分かれることにより全体の磁化がなくなっているこれが初磁化状態である

磁区の内部では磁化は任意の方向をランダムに向いている訳ではない

磁化は結晶の方位と無関係な方向を向くことはできない磁性体には磁気異方性という性質があり磁化が特定の結晶軸方位(たとえばFeでは[001]方向および等価な方向)を向く性質がある

[001]容易軸では図のように(001)面内では[100][010][-100][0-10]の4つの方向を向くので90磁壁になる

[111]容易軸では

(a) (b)

(近角強磁性体の物理)

33 ヒステリシスを磁区で説明する

残留磁化状態 逆磁区の発生と成長

磁気飽和

核発生

34 さまざまな磁区とマイクロマグネティクス

Figは結晶の対称性により磁区が変わる様子の例として縞状磁区(stripe domain)と環流磁区(closure domain)を示している磁性体を微細化して直径1μm付近になるとスピンは面内に分布してvortex状態となり中心部に垂直方向のスピン成分をもつようになるさらに微細化すると単磁区になる

微小磁区のMFM観察

磁区の観察にはビッター法といって磁性微粒子を含むコロイドを磁性体上に滴下して光学顕微鏡で観察する方法が古くから使われているこのほか磁気光学顕微鏡ローレンツ電子顕微鏡磁気力顕微鏡走査型ホール顕微鏡走査型SQUID顕微鏡スピン偏極電子顕微鏡X線MCD顕微鏡などで観察することが可能であるFig 22にはいくつかの例について筆者のMFM観察結果を示す

10 nmtimes10 nmtimes10 nmMesh size

1Number of dot

200 nmtimes200 nmtimes100nm

Dot Size

Y directionEasy axis

02Damping constant(α)

-176times107 rad(sOe)Gyro magnetic constant(γ)

1000 ergcm3Anisotropic constant (Ku)

1times10-6 ergcm3Exchange field (A)

800 emucm3Saturation magnetization (Ms)

Hy = 10 kOe rarr 0 Oe

divM divMy

LLG 方程式を用いた

マイクロ磁気解析

Dot model

200 x 200thickness50 nm

Magnetic moment - dv M Force gradient

200 x 200thickness100 nm

90 degree walls propeller-like distortion

Calculation of a single dot

Spin structure

-divM

Isolated square dot

Force gradient image Spin distribution image

Four-dot system

Shift of the center occurs Reversal of chirality

MFM imagewith low-moment tip

(CoPtCr240Å in HV)

Spin distribution imagewith the force-gradientimage overlapped

Inversion of chirality

Comparison between MFM andsimulation of spin distribution

Simulation was carried outin the model structureconsisting of four squaredots with a dimension of200 nmtimes200 nmtimes20 nmwith 50nm separationbetween dots

The calculated spinstructure shows a closuredomain structure with the90-wall appears

The chirality of the spindirection in adjacent dots isopposite to each other asshown by white arrows

The Z-component force-gradient image taking intoaccount the tip-sampleinteraction is overlapped

Calculated magnetization configurationof Y-shaped permalloy dot

Calculation parametersWidth 300 nmThickness 100 nmEasy axis 0 ergcm3

x

y

z

Force gradient-divM

Force gradient(Magnified)

Experimental MFM images

bull Single domains appear in two armsbull Multi-domain of 4 chained closer-domains on the restbull Spin-flow at crossing region turns left in two steps

50

0n

m2

m

L

C

R

C

L

R

x

y

z

Calculated magnetization configurationsof Y-shaped permalloy mirror-dots

Calculation parametersWidth 200 nmThickness 40 nmEasy axis X 1000 ergcm3

Force gradient-divM

Single dot

Experimental MFM images

15 m

bull Calculated spin-flows similar to experimental resultbull Vortices with same chirality appear at the ends of all armsbull Chirality of adjacent dot shows a mirror-reflection

Easy axisEasy axis

Easy axis

Easy axis

-divM

4 おわりに

磁性特有のテクニカルタームがあるが慣れればそれほど難しいものではない

大部分の話は量子力学なしでも理解できる電磁気学の知識があればよい

応用につながるのは磁区磁壁の物理である

メゾスコピック系では量子的な現象が現れるこれが得意なスピン依存伝導現象をもたらす

[参考0]半導体磁性体誘電体

半導体と磁性体の対比

半導体 電子物性パラメータは基本的

にバンド構造で決まるキャリア密度は人為的に制御される

量子構造を考えない限り電子を古典粒子として有効質量近似で扱える

応用されるのは電子構造で決まる移動度などのミクロな電子物性である

電子物性が寸法方位形状にほとんど依存しない

単位系はCGSをもとにした実用単位系が使われる

磁性体 金属磁性体の磁性はスピン偏

極バンド構造で決まるが非金属磁性体の磁性は局在多電子系のフント則で決まる

交換相互作用スピン軌道相互作用など量子力学が基本

応用されるのは磁区により生じるヒステリシスに関連したマクロ磁気物性である

磁性は磁気異方性の影響を受け寸法方位形状により大幅に変化する

単位系が複雑でCGSとSIが混在して使われている

磁性体と誘電体の対比

磁性体

磁気モーメントμ(軸性ベクトル)

磁化M

自発磁化Ms

反磁界

磁気ヒステリシス

飽和磁化残留磁化保磁力

磁区(ドメイン)

キュリー温度

誘電体

電気双極子qr(極性ベクトル)

電気分極P

自発分極Ps

反電界

誘電ヒステリシス

飽和分極残留分極抗電界

分域(ドメイン)

キュリー温度

[参考1]

磁界磁束磁化

磁界(磁場)H磁束密度B磁化M

磁界H中に置かれた磁化Mの磁性体が磁束密

度は真空中の磁束密度に磁化による磁束密度を加えたものであるすなわちB=0H+M

B=0H B=0H+M

M

磁性体があると磁束密度が高くなる

真空中での磁束密度

磁化とは

物質に磁界を加えたとき物質の表面に磁極が生じ一時的に磁石のようになるがそのとき物質が磁化されたという

(b)(a)

(高梨初等磁気工学講座)より

磁化の定義

K番目の原子の1原子あ

たりの磁気モーメントをkとするときその単位体積についての総和k

を磁化Mと定義するM= k

磁気モーメントの単位はWbmであるから磁化の単位はWbm2となる

(高梨初等磁気工学講座)より

常磁性

磁極と磁気モーメント

磁石にはN極とS極がある

磁界中に置かれた磁性体にも磁極が誘起される磁極は必ずNSの対で現れる(単極は見つかっていない)

磁極の大きさをq [Wb]とすると磁界によってNSの対に働くトルクは-qdHsin [Nm]=qdsin [Wbm] H[Am]

必ずNとSが対で現れるならm=qrを磁性を扱う基本単

位と考えることが出来るこれを磁気モーメントという単位は[Wbm]

[参考2]

磁気モーメントの電子的起源

磁気モーメント

一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは

T=qH r sin=mH sin 磁気モーメントのもつポテンシャルEは

E=Td= mH sin d=mH(1-cos)

ポテンシャルの原点はどこにとってもよいから E=-mH mHのときエネルギーは極小になる

mはHに平行になろうとする(高梨初等磁気工学講座)より

r 磁気モーメント

m=qr [Wbm]

-q [Wb]

+q [Wb]

qH

-qH

rsin

単位E[J]=-m[Wbm] H[Am]

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 11: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

FeとNiのバンド状態密度

Ni

スピン状態密度

Ef

E

Fe

スピン状態密度

E

Ef

Niはuarrスピンバンドは満ちdarrバンドにはわずかな正孔しかないnuarr-ndarr=06

Feはuarrスピンバンドに比しdarrバンドの状態密度がかなり小さいnuarr-ndarr=22

darrバンドに06個の

空孔があるとCuからs電子が流れこみCuが40合金したとき

モーメントを失う

ハーフメタルとは

(a)通常の強磁性体金属はup spin down spinとも金属的

(b)Half metalではup spinは金属down spinは半導体

DOS(downspin)

EC

EF

(a)

uarrdarr

DOS(up spin)

E

DOS(down spin)

EC

EF

(b)uarr

darr

E

DOS(up spin)

darr

ハーフメタルとスピンエレクトロニクス

たとえば磁気トンネル接合(MTJ)素子のところで出てくるホイスラー合金Co2CrAlなどがその例

上向きスピンのバンドを見る限り金属のように伝導帯の一部が占有された構造をとるのに対し下向きスピンのバンドにおいては半導体のように電子に占有された価電子帯と電子に占有されない伝導帯がバンドギャップを隔てて分かれておりフェルミ準位はバンドギャップの中に存在する

このような構造をとるとフェルミ準位における電子状態は100スピン偏極するMTJにおいて磁気抵抗比はスピン偏極率の関数で与えられるのでハーフメタルが注目される

ハーフメタルCo2MnGe

uarrスピンは金属 darrスピンは半導体 Geの一部をGaに置き換えるとスピン

偏極率が上がる

L21 X2YZ

バンドと電子相関

通常のバンド計算では電子間の位置の相関を平均的なものに置き換える近似を行うので真の電子間相互作用は求まらない

バンドモデルが適用できるのは金属磁性体に限られるMnOやNiOのような絶縁性の磁性体を単純にバンド計算すると金属になってしまうこれは電子相関が考慮されていないからである

電子相関とはフントの規則のように電子同士のクーロン相互作用がスピンに依存することから生じるつまり同じ向きのスピンをもつ2つの電子は同じ軌道に入ることがないので重なりが小さくクーロン相互作用も小さいが逆向きスピンの2つの電子は同じ軌道を運動できるのでクーロン相互作用が強くなってエネルギー的に不安定になるため電子の移動を妨げる効果であるこの2つの状態の間のエネルギー差は電子相関エネルギーと呼ばれUで表され数eVのオーダーである

22 ハバードモデル

バンドモデルに電子相関を導入する手法がハバードモデルであるFig 3は横軸をUにとったとき電子のエネルギー準位がUに対しどのように変わるかを示した図であるここにはバンド幅で電子の移動のしやすさの尺度であるT0は満ちたバンドの平均エネルギーである

バンド幅が電子相関エネルギーに比べ十分小さなときすなわちUltlt2312のときは禁制帯が現れ系は絶縁体となるU0は局在性の強い極限で電子移動が起きるにはUだけ余分のエネルギーが必要であるこのため電子は原子付近に束縛され局在電子系として振る舞う

lower Hubbard band

upper Hubbard band

電荷移動型絶縁体

MnOは電荷移動型絶縁体と考えられているMn2+においては3d電子5個がスピンを揃えてlower Hubbard bandの5個の軌道を占有しているここに1個電子を付け加えようとすると逆向きのスピンを付け加えなければならないのでupper Hubbardbandに入り電子相関Uだけエネルギーを損する

実際には酸化物イオンのp軌道からなる価電子帯が満ちたバンドの頂にくるのでギャップはこの状態と3d電子系のupperHubbard bandの間に開いているこれを電荷移動型ギャップという

CT(電荷移動)ギャップ

Lower Hubbard band

Upper Hubbard band

電子相関U

23 局在電子モデル

原子の位置に局在した多電子系では通常フントの規則に従うように軌道角運動量とスピン角運動量が決められる

3d遷移金属イオンでは3d電子が配位子のp軌道と

混成し軌道角運動量はほぼ消失している

4f希土類では4f軌道は孤立原子内の状態とあまり変わらないので全角運動量がよい量子数である

局在電子系の磁性

常磁性体に誘起される平均の磁気モーメントは室温でB=100mTの磁界のもとでも10-2emucc程度の小さな量である

これに対して強磁性体では磁界を印加しなくても103emuccという大きな自発磁気モーメントを持っている

ワイスは原子の磁気モーメントが周りの磁気モーメントからの場(分子場)を受けて整列しているというモデルを立てて強磁性体の自発磁化を説明した

24 ワイスの分子場理論

1つの磁気モーメントを取り出しその周りにあるすべての磁気モーメントから生じた有効磁界によって考えている磁気モーメントが常磁性的に分極するならば自己完結的に強磁性が説明できる

これを分子場理論有効磁界を分子磁界または分子場(molecular field)と呼ぶ

Heff

周りからの磁場Heff=H+AMが働く磁化M

分子場理論

分子場係数

磁化Mをもつ磁性体に外部磁界Hが加わったときの有効磁界はHeff=H+AMと表されるAを分子場係数と呼ぶ

分子場係数AはJexを交換相互作用係数zを配位数としてA=2zJexN(gB)2で与えられる

この磁界によって生じる常磁性磁化MはM=M0BJ(gBHeffJkT)という式で表される

M0=NgBJはすべての磁気モーメントが整列したときに期待される磁化

分子場理論

自発磁化が生じる条件を求める

Heff=H+AMであるからH=0のときHeff=AM自発磁化が生じるにはHeff=AMを

M=M0BJ(gBHeffJkT)に代入して

MM0=BJ(gBJHeffkT)=BJ(gBJAMkT)が成立しなければならない

Aに分子場係数の式A=2zJexN(gB)2 を代入してMM0= BJ(2zJexgBMJ N(gB)2kT)

ここでM0=NgBJを使って書き直すとMM0= BJ((2zJexJ

2kT) MM0)を得る

MM0= BJ((2zJexJ2kT) MM0)を解く

y=MM0x=(2zJexJ2kT) MM0とすると上の方程式を解

くことは曲線y=BJ(x)と直線 y=x (2zJexJ2kT)を連立して

解くことと同じである

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

J=52のブリルアン関数

y=x (2zJexJ2kT) Tが小さいとき

解が存在する自発磁化あり

y=x (2zJexJ2kT) Tが大きいとき

解が存在しない自発磁化なし

キュリー温度においては直線はブリルアン関数の接線

温度が上がると

分子場理論

キュリー温度

温度が低いとき直線の傾斜はゆるくブリルアン曲線と直線ははy=MM0 =1付近で交わる

温度が上昇するとyの小さいところ交わる

高温になると0以外に交点を持たなくなる

(2zJexJ2kT) y=xの勾配とy=BJ(x)の接線の勾配

が等しいときがキュリー温度を与える

x=0付近ではyx3であるから3y=xと書ける従ってTcは2zJexJ

2kTc=3によってきまる即ちTc=2zJexJ

23kとなる

分子場理論

自発磁化の温度変化

さまざまなJについて分子場理論で交点のMM0をTに対してプロットすると磁化の温度変化を求めることができるニッケルの磁化温度曲線はJ=12でよく説明される timesは鉄はニッケルはコバルトの実測

値実線はJとしてスピンS=121infinをとった

ときの計算値

分子場理論

キュリーワイスの法則

キュリー温度Tc以上では磁気モーメントはバラバラ

の方向を向き常磁性になる分子場理論によればこのときの磁化率は次式で与えられる

この式をキュリーワイスの法則という

Cはワイス定数pは常磁性キュリー温度という

1をTに対してプロットすると1=(T- p)Cとなり横軸を横切る温度がpである

pT

C

分子場理論

キュリーワイスの法則を導く

Heff=H+AM

MHeff=CT (MとHeffの間にキュリーの法則が成立すると仮定する)

M(H+AM)=CTrarrMT=C(H+AM)従ってM(T-CA)=CHより

=MH=C(T-CA)となるCA=pと置けばキュリーワイスの法則が導かれるすなわち=C(T- p)

自発磁化の温度変化

強磁性体の自発磁化の大きさは温度上昇とともに減少しキュリー温度Tcにおいて消滅する

Tc以上では常磁性であ

る常磁性磁化率の逆数は温度に比例しゼロに外挿するとキュリー温度が求まる

25 交換相互作用(exchange interaction)

交換相互作用という言葉はもともとは多電子原子の中で働くクーロン相互作用の算出において電子同士を区別できないことから来るエネルギーの補正項のことで原子内交換相互作用といいます(intra-atomic exchange interaction)

この概念を原子間に拡張したのが原子間交換相互作用(inter-atomic exchangeinteraction)です

ウンチクコーナーイントラ(intra)とインター(inter) イントラは内部のといういみの接頭辞インターは複数のものの

間のという意味の接頭辞ですイントラネットインターネットということばもここから来ています

原子内交換相互作用

原子内交換相互作用は本質的にクーロン相互作用です2つの電子(波動関数を12とする)の間に働くクーロン相互作用のエネルギーHはH= K12-(12) J12(1+4s1s2) で表されます

K12は次式で与えられるクーロン積分です

J12は次式で与えられる交換積分で電子が区別できないことからくる項です

K dr dr r re

rr r12 1 2 1 1 2 2

2

12

1 1 2 2

J dr dr r re

rr r12 1 2 1 1 2 2

2

12

1 2 2 1

原子内交換相互作用

H= K12-(12) J12(1+4s1s2)

の固有値は=K12ndashJ12 (s1とs2が同符号のとき)= K12 ( s1とs2が異符号のとき)

Hと平均のエネルギー(H0=K12-J122)との差ndash2J12s1s2のことを原子内交換エネルギーという

K12

K12-J12

原子間交換相互作用

本来磁気秩序を考えるには物質系全体のスピンを考えねばならないのであるが電子の軌道が原子に局在しているみなして電子のスピンを各原子Iの位置に局在した全スピンSiで代表させて原子1の全スピンS1と原子2の全スピンS2との間に原子間交換相互作用が働くと考えるのがハイゼンベルグ模型であるこのとき交換エネルギーHex は原子内交換相互作用を一般化して見かけの交換積分J12を用いて

Hex =-2J12S1S2

で表されるJが正であれば相互作用は強磁性的負であれば反強磁性的である

交換相互作用

ハイゼンベルグ模型 Hex =-2J12S1S2

Jが正であれば相互作用は強磁性的負であれば反強磁性的

交換積分の起源隣接原子のスピン間の直接交換(direct exchange)

酸素などのアニオンのp電子軌道との混成を通してスピン同士がそろえあう超交換(superexchange)

伝導電子との相互作用を通じてそろえあう間接交換(indirect exchange)

電子の移動と磁性とが強く結びついている二重交換相互作用(double exchange)

さまざまな交換相互作用

直接交換

超交換

間接交換(RKKY)

二重交換

超交換相互作用

酸化物磁性体では局在電子系の磁気モーメントの間に働く相互作用は遷移金属の3d電子どうしの重なりで生じるのではなく配位子のp電子が遷移金属イオンの3d軌道に仮想的に遷

移した中間状態を介して相互作用するこれを超交換相互作用と称する主として反強磁性的に働く

酸素イオン

遷移金属イオン

超交換相互作用模式図

90度強磁性

180度反強磁性

(Goodenough)

アニオン

遷移金属イオン

アニオン

遷移金属イオン

(a)

(b)

Fig 9 超交換相互作用の模式図

間接交換(RKKY)相互作用

希土類金属の磁性は4f電子が担うが伝導電子である5d電子が4f電子と原子内交換相互作用することによってスピン偏極を受けこれが隣接の希土類原子のf電子と相互作用するという形の間接的な交換相互作用を行っていると考えられている

これをRKKY (Rudermann Kittel Kasuya Yoshida)相互作用という

伝導電子を介した局在スピン間の磁気的相互作用は距離に対して余弦関数的に振動しその周期は伝導電子のフェルミ波数で決められる

RKKY振動

フリーデル振動

21F

2

F

2

RKKY 29 SS

Rkf

N

NJH e

4

sincos

x

xxxxf

CoCu superlattice

Cu thickness (Aring)

磁気抵

抗比

図15

二重交換相互作用

LaMnO3ではすべてのMn原子は3価なので egバンドには1個の電子が存在しこの電子が隣接Mn原子のeg軌道に移動しようとすると電子相関エネルギーUだけのエネルギーが必要であるため電子移動は起きずモット絶縁体となっている

LaをSrで置き換え4価のMnが生じるとMn4+のeg軌道は空であるから他のMn3+から電子が移ることができ金属的な導電性を生じる

このとき隣接するMn原子の磁気モーメントのなす角とするとeg電子の飛び移りの確率はcos( 2)に比例する=0(スピンが平行)のとき飛び移りが最も起きやすく運動エネルギーの分だけエネルギーが下がるので強磁性となる

二重交換の模式図

Mn3+ Mn4+

3磁気ヒステリシス曲線と磁区

磁気ヒステリシスについて

反磁界と静磁エネルギー

磁気異方性

磁区と磁壁磁壁移動と磁化回転

保磁力

31 磁気ヒステリシス

強磁性体においてはその磁化は印加磁界に比例せずヒステリシスを示す

(高梨初等磁気工学講座テキスト)

OrarrBrarrC初磁化曲線

CrarrD 残留磁化

DrarrE 保磁力

CrarrDrarrErarrFrarrGrarrC

ヒステリシスループ

縦軸磁化

横軸磁界

[参考]

磁化曲線の測定法

磁性体を磁界中に置き磁界を増加していくと磁性体の磁化は増加していき次第に飽和する

磁化曲線は磁力計を使って測定する

VSM試料振動型磁力計試料を01~02mm程度のわずかな振幅で80Hz程度の低周波で振動させ試料の

磁化による磁束の時間変化を電磁石の磁極付近に置かれたサーチコイルに誘起された誘導起電力として検出する誘導起電力は試料の磁化に比例するので磁化を測定することができる

電磁石

磁極付近に置いたサーチコイル

スピーカーと同じ振動機構

[参考]

VSMブロック図

丸善実験物理学講座「磁気測定I」p68より

磁気ヒステリシスと応用

保磁力のちがいで用途が違う

Hc小軟質磁性体

磁気ヘッド変圧器鉄心磁気シールド

Hc中半硬質磁性体

磁気記録媒体

Hc大硬質磁性体

永久磁石このループの面積が磁石に蓄積される磁気エネルギー高周波の場合はヒステリシス損失となる

永久磁石の最大エネルギー積(BH)maxの変遷(httpwwwaacgbhamacukmagnetic_materialshistoryhtm)

BHmax

32 なぜ初磁化状態では磁化がないのか磁区(magnetic domain)

磁化が特定の方向を向くとするとN極からS極に向

かって磁力線が生じますこの磁力線は考えている試料の外を通っているだけでなく磁性体の内部も貫いていますこの磁力線を反磁界といいます反磁界の向きは磁化の向きとは反対向きなので磁化は回転する静磁力を受けて不安定となります

磁化の方向が逆方向の縞状の磁区と呼ばれる領域に分かれるならば反磁界がうち消し合って静磁エネルギーが低下して安定するのです

反磁界(demagnetization field)

磁性体表面の法線方向の磁化成分をMn とすると表面には単位面積あたり = Mnという大きさの磁極(Wbm2)が生じる

磁極からはガウスの定理によって全部で μ0の磁力線がわき出すこのうち反磁界係数Nを使って定義される磁力線NMは内部に向かっており残りは外側に向かっているすなわち磁石の内部ではMの向きとは逆方向の反磁界が存在する

外部では磁束線は磁力線に一致する

(b) 磁力線

M- +

(a)磁化と磁極 反磁界

S N

S N

(c) 磁束線

反磁界係数N (近角強磁性体の物理より)

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0

(i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+ Ny+ Nz=1

が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx= Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx= Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

x

y

z

z

x

y

z

x

y

Nz=1

Nx= 0Ny= 0

Nx= 12

Ny= 12

Nx=13

Ny=13

Nz=13

Nz=0

反磁界補正

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0 (i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+Ny+ Nz=1が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx=Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx=Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

(近角強磁性体の物理より)

反磁界と静磁エネルギー

磁化Mが反磁界HdのもとにおかれるとU=MHdだけポテンシャルエネルギーが高くなる

一様な磁界H中の磁気モーメントMに働くトルクTはT=-MH sin

磁気モーメントのもつポテンシャルEはU=Td= - 0

MH sin d=MH (1-cos) エネルギーの原点はどこにとってもよいのでポテンシャルエネルギーはU=-MHと表される H=-Hdを代入すると反磁界によるポテンシャルの増加はU=MHd

表面磁極の分割による静磁エネルギーの減少

結晶表面をxy面にとる

表面でz=0とする

磁区の磁化方向はplusmnz

磁区のx方向の幅d

磁極の表面密度=Is 2mdltxlt(2m+1)d

=-Is (2m+1)dltxlt2(m+1)d

磁気ポテンシャルをLaplaceの方程式で求め

+ +- -

z

x

y

d

境界条件( z)z=-0=20

境界条件のもとにラプラス方程式を解くと=n An sin n(d)xexp n(d)z

係数Anは次式を満たすように決められる(d) n nAn sin n(d)x =I20 2mdltxlt(2m+1)d

= - I20 (2m+1)dltxlt2(m+1)d

rarrAn=2Isd20n2

(x=0)=(2Isd20) n (1n2)sin n(d)x

単位表面積あたりの静磁エネルギー=(2Is

220) n (1n2)int0d sin n(d)x

=(2Is2d20) n=odd (1n3)=540104Is

2d

磁気異方性

磁性体は半導体と違って形状寸法結晶方位とか磁化の方位などによって物性が大きく変化する

1つの原因は上に述べた反磁界係数で形状磁気異方性と呼ばれます反磁界によるエネルギーの損を最小化することが原因です

このほかの原因として重要なのが結晶磁気異方性です結晶磁気異方性というのは磁界を結晶のどの方位に加えるかで磁化曲線が変化する性質です

電子軌道は結晶軸に結びついているので磁気的性質と電子軌道との結びつき(スピン軌道相互作用)を通じて磁性が結晶軸と結び

つくのです半導体にも詳しい測定をすると異方性を見ることができますこれに比べ一般に半導体の電子軌道は結晶全体に広がっているので平均化されて結晶軸に依存する物性が見えにくいです

結晶磁気異方性

磁化しやすさは結晶の方位に依存する

鉄は立方晶であるが[100]が容易軸[111]は困難軸

x

y

z

[111

]

[100

]

容易軸

困難軸

[110]

円板磁性体の磁区構造

全体が磁区に分かれることにより全体の磁化がなくなっているこれが初磁化状態である

磁区の内部では磁化は任意の方向をランダムに向いている訳ではない

磁化は結晶の方位と無関係な方向を向くことはできない磁性体には磁気異方性という性質があり磁化が特定の結晶軸方位(たとえばFeでは[001]方向および等価な方向)を向く性質がある

[001]容易軸では図のように(001)面内では[100][010][-100][0-10]の4つの方向を向くので90磁壁になる

[111]容易軸では

(a) (b)

(近角強磁性体の物理)

33 ヒステリシスを磁区で説明する

残留磁化状態 逆磁区の発生と成長

磁気飽和

核発生

34 さまざまな磁区とマイクロマグネティクス

Figは結晶の対称性により磁区が変わる様子の例として縞状磁区(stripe domain)と環流磁区(closure domain)を示している磁性体を微細化して直径1μm付近になるとスピンは面内に分布してvortex状態となり中心部に垂直方向のスピン成分をもつようになるさらに微細化すると単磁区になる

微小磁区のMFM観察

磁区の観察にはビッター法といって磁性微粒子を含むコロイドを磁性体上に滴下して光学顕微鏡で観察する方法が古くから使われているこのほか磁気光学顕微鏡ローレンツ電子顕微鏡磁気力顕微鏡走査型ホール顕微鏡走査型SQUID顕微鏡スピン偏極電子顕微鏡X線MCD顕微鏡などで観察することが可能であるFig 22にはいくつかの例について筆者のMFM観察結果を示す

10 nmtimes10 nmtimes10 nmMesh size

1Number of dot

200 nmtimes200 nmtimes100nm

Dot Size

Y directionEasy axis

02Damping constant(α)

-176times107 rad(sOe)Gyro magnetic constant(γ)

1000 ergcm3Anisotropic constant (Ku)

1times10-6 ergcm3Exchange field (A)

800 emucm3Saturation magnetization (Ms)

Hy = 10 kOe rarr 0 Oe

divM divMy

LLG 方程式を用いた

マイクロ磁気解析

Dot model

200 x 200thickness50 nm

Magnetic moment - dv M Force gradient

200 x 200thickness100 nm

90 degree walls propeller-like distortion

Calculation of a single dot

Spin structure

-divM

Isolated square dot

Force gradient image Spin distribution image

Four-dot system

Shift of the center occurs Reversal of chirality

MFM imagewith low-moment tip

(CoPtCr240Å in HV)

Spin distribution imagewith the force-gradientimage overlapped

Inversion of chirality

Comparison between MFM andsimulation of spin distribution

Simulation was carried outin the model structureconsisting of four squaredots with a dimension of200 nmtimes200 nmtimes20 nmwith 50nm separationbetween dots

The calculated spinstructure shows a closuredomain structure with the90-wall appears

The chirality of the spindirection in adjacent dots isopposite to each other asshown by white arrows

The Z-component force-gradient image taking intoaccount the tip-sampleinteraction is overlapped

Calculated magnetization configurationof Y-shaped permalloy dot

Calculation parametersWidth 300 nmThickness 100 nmEasy axis 0 ergcm3

x

y

z

Force gradient-divM

Force gradient(Magnified)

Experimental MFM images

bull Single domains appear in two armsbull Multi-domain of 4 chained closer-domains on the restbull Spin-flow at crossing region turns left in two steps

50

0n

m2

m

L

C

R

C

L

R

x

y

z

Calculated magnetization configurationsof Y-shaped permalloy mirror-dots

Calculation parametersWidth 200 nmThickness 40 nmEasy axis X 1000 ergcm3

Force gradient-divM

Single dot

Experimental MFM images

15 m

bull Calculated spin-flows similar to experimental resultbull Vortices with same chirality appear at the ends of all armsbull Chirality of adjacent dot shows a mirror-reflection

Easy axisEasy axis

Easy axis

Easy axis

-divM

4 おわりに

磁性特有のテクニカルタームがあるが慣れればそれほど難しいものではない

大部分の話は量子力学なしでも理解できる電磁気学の知識があればよい

応用につながるのは磁区磁壁の物理である

メゾスコピック系では量子的な現象が現れるこれが得意なスピン依存伝導現象をもたらす

[参考0]半導体磁性体誘電体

半導体と磁性体の対比

半導体 電子物性パラメータは基本的

にバンド構造で決まるキャリア密度は人為的に制御される

量子構造を考えない限り電子を古典粒子として有効質量近似で扱える

応用されるのは電子構造で決まる移動度などのミクロな電子物性である

電子物性が寸法方位形状にほとんど依存しない

単位系はCGSをもとにした実用単位系が使われる

磁性体 金属磁性体の磁性はスピン偏

極バンド構造で決まるが非金属磁性体の磁性は局在多電子系のフント則で決まる

交換相互作用スピン軌道相互作用など量子力学が基本

応用されるのは磁区により生じるヒステリシスに関連したマクロ磁気物性である

磁性は磁気異方性の影響を受け寸法方位形状により大幅に変化する

単位系が複雑でCGSとSIが混在して使われている

磁性体と誘電体の対比

磁性体

磁気モーメントμ(軸性ベクトル)

磁化M

自発磁化Ms

反磁界

磁気ヒステリシス

飽和磁化残留磁化保磁力

磁区(ドメイン)

キュリー温度

誘電体

電気双極子qr(極性ベクトル)

電気分極P

自発分極Ps

反電界

誘電ヒステリシス

飽和分極残留分極抗電界

分域(ドメイン)

キュリー温度

[参考1]

磁界磁束磁化

磁界(磁場)H磁束密度B磁化M

磁界H中に置かれた磁化Mの磁性体が磁束密

度は真空中の磁束密度に磁化による磁束密度を加えたものであるすなわちB=0H+M

B=0H B=0H+M

M

磁性体があると磁束密度が高くなる

真空中での磁束密度

磁化とは

物質に磁界を加えたとき物質の表面に磁極が生じ一時的に磁石のようになるがそのとき物質が磁化されたという

(b)(a)

(高梨初等磁気工学講座)より

磁化の定義

K番目の原子の1原子あ

たりの磁気モーメントをkとするときその単位体積についての総和k

を磁化Mと定義するM= k

磁気モーメントの単位はWbmであるから磁化の単位はWbm2となる

(高梨初等磁気工学講座)より

常磁性

磁極と磁気モーメント

磁石にはN極とS極がある

磁界中に置かれた磁性体にも磁極が誘起される磁極は必ずNSの対で現れる(単極は見つかっていない)

磁極の大きさをq [Wb]とすると磁界によってNSの対に働くトルクは-qdHsin [Nm]=qdsin [Wbm] H[Am]

必ずNとSが対で現れるならm=qrを磁性を扱う基本単

位と考えることが出来るこれを磁気モーメントという単位は[Wbm]

[参考2]

磁気モーメントの電子的起源

磁気モーメント

一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは

T=qH r sin=mH sin 磁気モーメントのもつポテンシャルEは

E=Td= mH sin d=mH(1-cos)

ポテンシャルの原点はどこにとってもよいから E=-mH mHのときエネルギーは極小になる

mはHに平行になろうとする(高梨初等磁気工学講座)より

r 磁気モーメント

m=qr [Wbm]

-q [Wb]

+q [Wb]

qH

-qH

rsin

単位E[J]=-m[Wbm] H[Am]

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 12: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

ハーフメタルとは

(a)通常の強磁性体金属はup spin down spinとも金属的

(b)Half metalではup spinは金属down spinは半導体

DOS(downspin)

EC

EF

(a)

uarrdarr

DOS(up spin)

E

DOS(down spin)

EC

EF

(b)uarr

darr

E

DOS(up spin)

darr

ハーフメタルとスピンエレクトロニクス

たとえば磁気トンネル接合(MTJ)素子のところで出てくるホイスラー合金Co2CrAlなどがその例

上向きスピンのバンドを見る限り金属のように伝導帯の一部が占有された構造をとるのに対し下向きスピンのバンドにおいては半導体のように電子に占有された価電子帯と電子に占有されない伝導帯がバンドギャップを隔てて分かれておりフェルミ準位はバンドギャップの中に存在する

このような構造をとるとフェルミ準位における電子状態は100スピン偏極するMTJにおいて磁気抵抗比はスピン偏極率の関数で与えられるのでハーフメタルが注目される

ハーフメタルCo2MnGe

uarrスピンは金属 darrスピンは半導体 Geの一部をGaに置き換えるとスピン

偏極率が上がる

L21 X2YZ

バンドと電子相関

通常のバンド計算では電子間の位置の相関を平均的なものに置き換える近似を行うので真の電子間相互作用は求まらない

バンドモデルが適用できるのは金属磁性体に限られるMnOやNiOのような絶縁性の磁性体を単純にバンド計算すると金属になってしまうこれは電子相関が考慮されていないからである

電子相関とはフントの規則のように電子同士のクーロン相互作用がスピンに依存することから生じるつまり同じ向きのスピンをもつ2つの電子は同じ軌道に入ることがないので重なりが小さくクーロン相互作用も小さいが逆向きスピンの2つの電子は同じ軌道を運動できるのでクーロン相互作用が強くなってエネルギー的に不安定になるため電子の移動を妨げる効果であるこの2つの状態の間のエネルギー差は電子相関エネルギーと呼ばれUで表され数eVのオーダーである

22 ハバードモデル

バンドモデルに電子相関を導入する手法がハバードモデルであるFig 3は横軸をUにとったとき電子のエネルギー準位がUに対しどのように変わるかを示した図であるここにはバンド幅で電子の移動のしやすさの尺度であるT0は満ちたバンドの平均エネルギーである

バンド幅が電子相関エネルギーに比べ十分小さなときすなわちUltlt2312のときは禁制帯が現れ系は絶縁体となるU0は局在性の強い極限で電子移動が起きるにはUだけ余分のエネルギーが必要であるこのため電子は原子付近に束縛され局在電子系として振る舞う

lower Hubbard band

upper Hubbard band

電荷移動型絶縁体

MnOは電荷移動型絶縁体と考えられているMn2+においては3d電子5個がスピンを揃えてlower Hubbard bandの5個の軌道を占有しているここに1個電子を付け加えようとすると逆向きのスピンを付け加えなければならないのでupper Hubbardbandに入り電子相関Uだけエネルギーを損する

実際には酸化物イオンのp軌道からなる価電子帯が満ちたバンドの頂にくるのでギャップはこの状態と3d電子系のupperHubbard bandの間に開いているこれを電荷移動型ギャップという

CT(電荷移動)ギャップ

Lower Hubbard band

Upper Hubbard band

電子相関U

23 局在電子モデル

原子の位置に局在した多電子系では通常フントの規則に従うように軌道角運動量とスピン角運動量が決められる

3d遷移金属イオンでは3d電子が配位子のp軌道と

混成し軌道角運動量はほぼ消失している

4f希土類では4f軌道は孤立原子内の状態とあまり変わらないので全角運動量がよい量子数である

局在電子系の磁性

常磁性体に誘起される平均の磁気モーメントは室温でB=100mTの磁界のもとでも10-2emucc程度の小さな量である

これに対して強磁性体では磁界を印加しなくても103emuccという大きな自発磁気モーメントを持っている

ワイスは原子の磁気モーメントが周りの磁気モーメントからの場(分子場)を受けて整列しているというモデルを立てて強磁性体の自発磁化を説明した

24 ワイスの分子場理論

1つの磁気モーメントを取り出しその周りにあるすべての磁気モーメントから生じた有効磁界によって考えている磁気モーメントが常磁性的に分極するならば自己完結的に強磁性が説明できる

これを分子場理論有効磁界を分子磁界または分子場(molecular field)と呼ぶ

Heff

周りからの磁場Heff=H+AMが働く磁化M

分子場理論

分子場係数

磁化Mをもつ磁性体に外部磁界Hが加わったときの有効磁界はHeff=H+AMと表されるAを分子場係数と呼ぶ

分子場係数AはJexを交換相互作用係数zを配位数としてA=2zJexN(gB)2で与えられる

この磁界によって生じる常磁性磁化MはM=M0BJ(gBHeffJkT)という式で表される

M0=NgBJはすべての磁気モーメントが整列したときに期待される磁化

分子場理論

自発磁化が生じる条件を求める

Heff=H+AMであるからH=0のときHeff=AM自発磁化が生じるにはHeff=AMを

M=M0BJ(gBHeffJkT)に代入して

MM0=BJ(gBJHeffkT)=BJ(gBJAMkT)が成立しなければならない

Aに分子場係数の式A=2zJexN(gB)2 を代入してMM0= BJ(2zJexgBMJ N(gB)2kT)

ここでM0=NgBJを使って書き直すとMM0= BJ((2zJexJ

2kT) MM0)を得る

MM0= BJ((2zJexJ2kT) MM0)を解く

y=MM0x=(2zJexJ2kT) MM0とすると上の方程式を解

くことは曲線y=BJ(x)と直線 y=x (2zJexJ2kT)を連立して

解くことと同じである

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

J=52のブリルアン関数

y=x (2zJexJ2kT) Tが小さいとき

解が存在する自発磁化あり

y=x (2zJexJ2kT) Tが大きいとき

解が存在しない自発磁化なし

キュリー温度においては直線はブリルアン関数の接線

温度が上がると

分子場理論

キュリー温度

温度が低いとき直線の傾斜はゆるくブリルアン曲線と直線ははy=MM0 =1付近で交わる

温度が上昇するとyの小さいところ交わる

高温になると0以外に交点を持たなくなる

(2zJexJ2kT) y=xの勾配とy=BJ(x)の接線の勾配

が等しいときがキュリー温度を与える

x=0付近ではyx3であるから3y=xと書ける従ってTcは2zJexJ

2kTc=3によってきまる即ちTc=2zJexJ

23kとなる

分子場理論

自発磁化の温度変化

さまざまなJについて分子場理論で交点のMM0をTに対してプロットすると磁化の温度変化を求めることができるニッケルの磁化温度曲線はJ=12でよく説明される timesは鉄はニッケルはコバルトの実測

値実線はJとしてスピンS=121infinをとった

ときの計算値

分子場理論

キュリーワイスの法則

キュリー温度Tc以上では磁気モーメントはバラバラ

の方向を向き常磁性になる分子場理論によればこのときの磁化率は次式で与えられる

この式をキュリーワイスの法則という

Cはワイス定数pは常磁性キュリー温度という

1をTに対してプロットすると1=(T- p)Cとなり横軸を横切る温度がpである

pT

C

分子場理論

キュリーワイスの法則を導く

Heff=H+AM

MHeff=CT (MとHeffの間にキュリーの法則が成立すると仮定する)

M(H+AM)=CTrarrMT=C(H+AM)従ってM(T-CA)=CHより

=MH=C(T-CA)となるCA=pと置けばキュリーワイスの法則が導かれるすなわち=C(T- p)

自発磁化の温度変化

強磁性体の自発磁化の大きさは温度上昇とともに減少しキュリー温度Tcにおいて消滅する

Tc以上では常磁性であ

る常磁性磁化率の逆数は温度に比例しゼロに外挿するとキュリー温度が求まる

25 交換相互作用(exchange interaction)

交換相互作用という言葉はもともとは多電子原子の中で働くクーロン相互作用の算出において電子同士を区別できないことから来るエネルギーの補正項のことで原子内交換相互作用といいます(intra-atomic exchange interaction)

この概念を原子間に拡張したのが原子間交換相互作用(inter-atomic exchangeinteraction)です

ウンチクコーナーイントラ(intra)とインター(inter) イントラは内部のといういみの接頭辞インターは複数のものの

間のという意味の接頭辞ですイントラネットインターネットということばもここから来ています

原子内交換相互作用

原子内交換相互作用は本質的にクーロン相互作用です2つの電子(波動関数を12とする)の間に働くクーロン相互作用のエネルギーHはH= K12-(12) J12(1+4s1s2) で表されます

K12は次式で与えられるクーロン積分です

J12は次式で与えられる交換積分で電子が区別できないことからくる項です

K dr dr r re

rr r12 1 2 1 1 2 2

2

12

1 1 2 2

J dr dr r re

rr r12 1 2 1 1 2 2

2

12

1 2 2 1

原子内交換相互作用

H= K12-(12) J12(1+4s1s2)

の固有値は=K12ndashJ12 (s1とs2が同符号のとき)= K12 ( s1とs2が異符号のとき)

Hと平均のエネルギー(H0=K12-J122)との差ndash2J12s1s2のことを原子内交換エネルギーという

K12

K12-J12

原子間交換相互作用

本来磁気秩序を考えるには物質系全体のスピンを考えねばならないのであるが電子の軌道が原子に局在しているみなして電子のスピンを各原子Iの位置に局在した全スピンSiで代表させて原子1の全スピンS1と原子2の全スピンS2との間に原子間交換相互作用が働くと考えるのがハイゼンベルグ模型であるこのとき交換エネルギーHex は原子内交換相互作用を一般化して見かけの交換積分J12を用いて

Hex =-2J12S1S2

で表されるJが正であれば相互作用は強磁性的負であれば反強磁性的である

交換相互作用

ハイゼンベルグ模型 Hex =-2J12S1S2

Jが正であれば相互作用は強磁性的負であれば反強磁性的

交換積分の起源隣接原子のスピン間の直接交換(direct exchange)

酸素などのアニオンのp電子軌道との混成を通してスピン同士がそろえあう超交換(superexchange)

伝導電子との相互作用を通じてそろえあう間接交換(indirect exchange)

電子の移動と磁性とが強く結びついている二重交換相互作用(double exchange)

さまざまな交換相互作用

直接交換

超交換

間接交換(RKKY)

二重交換

超交換相互作用

酸化物磁性体では局在電子系の磁気モーメントの間に働く相互作用は遷移金属の3d電子どうしの重なりで生じるのではなく配位子のp電子が遷移金属イオンの3d軌道に仮想的に遷

移した中間状態を介して相互作用するこれを超交換相互作用と称する主として反強磁性的に働く

酸素イオン

遷移金属イオン

超交換相互作用模式図

90度強磁性

180度反強磁性

(Goodenough)

アニオン

遷移金属イオン

アニオン

遷移金属イオン

(a)

(b)

Fig 9 超交換相互作用の模式図

間接交換(RKKY)相互作用

希土類金属の磁性は4f電子が担うが伝導電子である5d電子が4f電子と原子内交換相互作用することによってスピン偏極を受けこれが隣接の希土類原子のf電子と相互作用するという形の間接的な交換相互作用を行っていると考えられている

これをRKKY (Rudermann Kittel Kasuya Yoshida)相互作用という

伝導電子を介した局在スピン間の磁気的相互作用は距離に対して余弦関数的に振動しその周期は伝導電子のフェルミ波数で決められる

RKKY振動

フリーデル振動

21F

2

F

2

RKKY 29 SS

Rkf

N

NJH e

4

sincos

x

xxxxf

CoCu superlattice

Cu thickness (Aring)

磁気抵

抗比

図15

二重交換相互作用

LaMnO3ではすべてのMn原子は3価なので egバンドには1個の電子が存在しこの電子が隣接Mn原子のeg軌道に移動しようとすると電子相関エネルギーUだけのエネルギーが必要であるため電子移動は起きずモット絶縁体となっている

LaをSrで置き換え4価のMnが生じるとMn4+のeg軌道は空であるから他のMn3+から電子が移ることができ金属的な導電性を生じる

このとき隣接するMn原子の磁気モーメントのなす角とするとeg電子の飛び移りの確率はcos( 2)に比例する=0(スピンが平行)のとき飛び移りが最も起きやすく運動エネルギーの分だけエネルギーが下がるので強磁性となる

二重交換の模式図

Mn3+ Mn4+

3磁気ヒステリシス曲線と磁区

磁気ヒステリシスについて

反磁界と静磁エネルギー

磁気異方性

磁区と磁壁磁壁移動と磁化回転

保磁力

31 磁気ヒステリシス

強磁性体においてはその磁化は印加磁界に比例せずヒステリシスを示す

(高梨初等磁気工学講座テキスト)

OrarrBrarrC初磁化曲線

CrarrD 残留磁化

DrarrE 保磁力

CrarrDrarrErarrFrarrGrarrC

ヒステリシスループ

縦軸磁化

横軸磁界

[参考]

磁化曲線の測定法

磁性体を磁界中に置き磁界を増加していくと磁性体の磁化は増加していき次第に飽和する

磁化曲線は磁力計を使って測定する

VSM試料振動型磁力計試料を01~02mm程度のわずかな振幅で80Hz程度の低周波で振動させ試料の

磁化による磁束の時間変化を電磁石の磁極付近に置かれたサーチコイルに誘起された誘導起電力として検出する誘導起電力は試料の磁化に比例するので磁化を測定することができる

電磁石

磁極付近に置いたサーチコイル

スピーカーと同じ振動機構

[参考]

VSMブロック図

丸善実験物理学講座「磁気測定I」p68より

磁気ヒステリシスと応用

保磁力のちがいで用途が違う

Hc小軟質磁性体

磁気ヘッド変圧器鉄心磁気シールド

Hc中半硬質磁性体

磁気記録媒体

Hc大硬質磁性体

永久磁石このループの面積が磁石に蓄積される磁気エネルギー高周波の場合はヒステリシス損失となる

永久磁石の最大エネルギー積(BH)maxの変遷(httpwwwaacgbhamacukmagnetic_materialshistoryhtm)

BHmax

32 なぜ初磁化状態では磁化がないのか磁区(magnetic domain)

磁化が特定の方向を向くとするとN極からS極に向

かって磁力線が生じますこの磁力線は考えている試料の外を通っているだけでなく磁性体の内部も貫いていますこの磁力線を反磁界といいます反磁界の向きは磁化の向きとは反対向きなので磁化は回転する静磁力を受けて不安定となります

磁化の方向が逆方向の縞状の磁区と呼ばれる領域に分かれるならば反磁界がうち消し合って静磁エネルギーが低下して安定するのです

反磁界(demagnetization field)

磁性体表面の法線方向の磁化成分をMn とすると表面には単位面積あたり = Mnという大きさの磁極(Wbm2)が生じる

磁極からはガウスの定理によって全部で μ0の磁力線がわき出すこのうち反磁界係数Nを使って定義される磁力線NMは内部に向かっており残りは外側に向かっているすなわち磁石の内部ではMの向きとは逆方向の反磁界が存在する

外部では磁束線は磁力線に一致する

(b) 磁力線

M- +

(a)磁化と磁極 反磁界

S N

S N

(c) 磁束線

反磁界係数N (近角強磁性体の物理より)

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0

(i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+ Ny+ Nz=1

が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx= Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx= Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

x

y

z

z

x

y

z

x

y

Nz=1

Nx= 0Ny= 0

Nx= 12

Ny= 12

Nx=13

Ny=13

Nz=13

Nz=0

反磁界補正

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0 (i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+Ny+ Nz=1が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx=Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx=Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

(近角強磁性体の物理より)

反磁界と静磁エネルギー

磁化Mが反磁界HdのもとにおかれるとU=MHdだけポテンシャルエネルギーが高くなる

一様な磁界H中の磁気モーメントMに働くトルクTはT=-MH sin

磁気モーメントのもつポテンシャルEはU=Td= - 0

MH sin d=MH (1-cos) エネルギーの原点はどこにとってもよいのでポテンシャルエネルギーはU=-MHと表される H=-Hdを代入すると反磁界によるポテンシャルの増加はU=MHd

表面磁極の分割による静磁エネルギーの減少

結晶表面をxy面にとる

表面でz=0とする

磁区の磁化方向はplusmnz

磁区のx方向の幅d

磁極の表面密度=Is 2mdltxlt(2m+1)d

=-Is (2m+1)dltxlt2(m+1)d

磁気ポテンシャルをLaplaceの方程式で求め

+ +- -

z

x

y

d

境界条件( z)z=-0=20

境界条件のもとにラプラス方程式を解くと=n An sin n(d)xexp n(d)z

係数Anは次式を満たすように決められる(d) n nAn sin n(d)x =I20 2mdltxlt(2m+1)d

= - I20 (2m+1)dltxlt2(m+1)d

rarrAn=2Isd20n2

(x=0)=(2Isd20) n (1n2)sin n(d)x

単位表面積あたりの静磁エネルギー=(2Is

220) n (1n2)int0d sin n(d)x

=(2Is2d20) n=odd (1n3)=540104Is

2d

磁気異方性

磁性体は半導体と違って形状寸法結晶方位とか磁化の方位などによって物性が大きく変化する

1つの原因は上に述べた反磁界係数で形状磁気異方性と呼ばれます反磁界によるエネルギーの損を最小化することが原因です

このほかの原因として重要なのが結晶磁気異方性です結晶磁気異方性というのは磁界を結晶のどの方位に加えるかで磁化曲線が変化する性質です

電子軌道は結晶軸に結びついているので磁気的性質と電子軌道との結びつき(スピン軌道相互作用)を通じて磁性が結晶軸と結び

つくのです半導体にも詳しい測定をすると異方性を見ることができますこれに比べ一般に半導体の電子軌道は結晶全体に広がっているので平均化されて結晶軸に依存する物性が見えにくいです

結晶磁気異方性

磁化しやすさは結晶の方位に依存する

鉄は立方晶であるが[100]が容易軸[111]は困難軸

x

y

z

[111

]

[100

]

容易軸

困難軸

[110]

円板磁性体の磁区構造

全体が磁区に分かれることにより全体の磁化がなくなっているこれが初磁化状態である

磁区の内部では磁化は任意の方向をランダムに向いている訳ではない

磁化は結晶の方位と無関係な方向を向くことはできない磁性体には磁気異方性という性質があり磁化が特定の結晶軸方位(たとえばFeでは[001]方向および等価な方向)を向く性質がある

[001]容易軸では図のように(001)面内では[100][010][-100][0-10]の4つの方向を向くので90磁壁になる

[111]容易軸では

(a) (b)

(近角強磁性体の物理)

33 ヒステリシスを磁区で説明する

残留磁化状態 逆磁区の発生と成長

磁気飽和

核発生

34 さまざまな磁区とマイクロマグネティクス

Figは結晶の対称性により磁区が変わる様子の例として縞状磁区(stripe domain)と環流磁区(closure domain)を示している磁性体を微細化して直径1μm付近になるとスピンは面内に分布してvortex状態となり中心部に垂直方向のスピン成分をもつようになるさらに微細化すると単磁区になる

微小磁区のMFM観察

磁区の観察にはビッター法といって磁性微粒子を含むコロイドを磁性体上に滴下して光学顕微鏡で観察する方法が古くから使われているこのほか磁気光学顕微鏡ローレンツ電子顕微鏡磁気力顕微鏡走査型ホール顕微鏡走査型SQUID顕微鏡スピン偏極電子顕微鏡X線MCD顕微鏡などで観察することが可能であるFig 22にはいくつかの例について筆者のMFM観察結果を示す

10 nmtimes10 nmtimes10 nmMesh size

1Number of dot

200 nmtimes200 nmtimes100nm

Dot Size

Y directionEasy axis

02Damping constant(α)

-176times107 rad(sOe)Gyro magnetic constant(γ)

1000 ergcm3Anisotropic constant (Ku)

1times10-6 ergcm3Exchange field (A)

800 emucm3Saturation magnetization (Ms)

Hy = 10 kOe rarr 0 Oe

divM divMy

LLG 方程式を用いた

マイクロ磁気解析

Dot model

200 x 200thickness50 nm

Magnetic moment - dv M Force gradient

200 x 200thickness100 nm

90 degree walls propeller-like distortion

Calculation of a single dot

Spin structure

-divM

Isolated square dot

Force gradient image Spin distribution image

Four-dot system

Shift of the center occurs Reversal of chirality

MFM imagewith low-moment tip

(CoPtCr240Å in HV)

Spin distribution imagewith the force-gradientimage overlapped

Inversion of chirality

Comparison between MFM andsimulation of spin distribution

Simulation was carried outin the model structureconsisting of four squaredots with a dimension of200 nmtimes200 nmtimes20 nmwith 50nm separationbetween dots

The calculated spinstructure shows a closuredomain structure with the90-wall appears

The chirality of the spindirection in adjacent dots isopposite to each other asshown by white arrows

The Z-component force-gradient image taking intoaccount the tip-sampleinteraction is overlapped

Calculated magnetization configurationof Y-shaped permalloy dot

Calculation parametersWidth 300 nmThickness 100 nmEasy axis 0 ergcm3

x

y

z

Force gradient-divM

Force gradient(Magnified)

Experimental MFM images

bull Single domains appear in two armsbull Multi-domain of 4 chained closer-domains on the restbull Spin-flow at crossing region turns left in two steps

50

0n

m2

m

L

C

R

C

L

R

x

y

z

Calculated magnetization configurationsof Y-shaped permalloy mirror-dots

Calculation parametersWidth 200 nmThickness 40 nmEasy axis X 1000 ergcm3

Force gradient-divM

Single dot

Experimental MFM images

15 m

bull Calculated spin-flows similar to experimental resultbull Vortices with same chirality appear at the ends of all armsbull Chirality of adjacent dot shows a mirror-reflection

Easy axisEasy axis

Easy axis

Easy axis

-divM

4 おわりに

磁性特有のテクニカルタームがあるが慣れればそれほど難しいものではない

大部分の話は量子力学なしでも理解できる電磁気学の知識があればよい

応用につながるのは磁区磁壁の物理である

メゾスコピック系では量子的な現象が現れるこれが得意なスピン依存伝導現象をもたらす

[参考0]半導体磁性体誘電体

半導体と磁性体の対比

半導体 電子物性パラメータは基本的

にバンド構造で決まるキャリア密度は人為的に制御される

量子構造を考えない限り電子を古典粒子として有効質量近似で扱える

応用されるのは電子構造で決まる移動度などのミクロな電子物性である

電子物性が寸法方位形状にほとんど依存しない

単位系はCGSをもとにした実用単位系が使われる

磁性体 金属磁性体の磁性はスピン偏

極バンド構造で決まるが非金属磁性体の磁性は局在多電子系のフント則で決まる

交換相互作用スピン軌道相互作用など量子力学が基本

応用されるのは磁区により生じるヒステリシスに関連したマクロ磁気物性である

磁性は磁気異方性の影響を受け寸法方位形状により大幅に変化する

単位系が複雑でCGSとSIが混在して使われている

磁性体と誘電体の対比

磁性体

磁気モーメントμ(軸性ベクトル)

磁化M

自発磁化Ms

反磁界

磁気ヒステリシス

飽和磁化残留磁化保磁力

磁区(ドメイン)

キュリー温度

誘電体

電気双極子qr(極性ベクトル)

電気分極P

自発分極Ps

反電界

誘電ヒステリシス

飽和分極残留分極抗電界

分域(ドメイン)

キュリー温度

[参考1]

磁界磁束磁化

磁界(磁場)H磁束密度B磁化M

磁界H中に置かれた磁化Mの磁性体が磁束密

度は真空中の磁束密度に磁化による磁束密度を加えたものであるすなわちB=0H+M

B=0H B=0H+M

M

磁性体があると磁束密度が高くなる

真空中での磁束密度

磁化とは

物質に磁界を加えたとき物質の表面に磁極が生じ一時的に磁石のようになるがそのとき物質が磁化されたという

(b)(a)

(高梨初等磁気工学講座)より

磁化の定義

K番目の原子の1原子あ

たりの磁気モーメントをkとするときその単位体積についての総和k

を磁化Mと定義するM= k

磁気モーメントの単位はWbmであるから磁化の単位はWbm2となる

(高梨初等磁気工学講座)より

常磁性

磁極と磁気モーメント

磁石にはN極とS極がある

磁界中に置かれた磁性体にも磁極が誘起される磁極は必ずNSの対で現れる(単極は見つかっていない)

磁極の大きさをq [Wb]とすると磁界によってNSの対に働くトルクは-qdHsin [Nm]=qdsin [Wbm] H[Am]

必ずNとSが対で現れるならm=qrを磁性を扱う基本単

位と考えることが出来るこれを磁気モーメントという単位は[Wbm]

[参考2]

磁気モーメントの電子的起源

磁気モーメント

一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは

T=qH r sin=mH sin 磁気モーメントのもつポテンシャルEは

E=Td= mH sin d=mH(1-cos)

ポテンシャルの原点はどこにとってもよいから E=-mH mHのときエネルギーは極小になる

mはHに平行になろうとする(高梨初等磁気工学講座)より

r 磁気モーメント

m=qr [Wbm]

-q [Wb]

+q [Wb]

qH

-qH

rsin

単位E[J]=-m[Wbm] H[Am]

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 13: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

ハーフメタルとスピンエレクトロニクス

たとえば磁気トンネル接合(MTJ)素子のところで出てくるホイスラー合金Co2CrAlなどがその例

上向きスピンのバンドを見る限り金属のように伝導帯の一部が占有された構造をとるのに対し下向きスピンのバンドにおいては半導体のように電子に占有された価電子帯と電子に占有されない伝導帯がバンドギャップを隔てて分かれておりフェルミ準位はバンドギャップの中に存在する

このような構造をとるとフェルミ準位における電子状態は100スピン偏極するMTJにおいて磁気抵抗比はスピン偏極率の関数で与えられるのでハーフメタルが注目される

ハーフメタルCo2MnGe

uarrスピンは金属 darrスピンは半導体 Geの一部をGaに置き換えるとスピン

偏極率が上がる

L21 X2YZ

バンドと電子相関

通常のバンド計算では電子間の位置の相関を平均的なものに置き換える近似を行うので真の電子間相互作用は求まらない

バンドモデルが適用できるのは金属磁性体に限られるMnOやNiOのような絶縁性の磁性体を単純にバンド計算すると金属になってしまうこれは電子相関が考慮されていないからである

電子相関とはフントの規則のように電子同士のクーロン相互作用がスピンに依存することから生じるつまり同じ向きのスピンをもつ2つの電子は同じ軌道に入ることがないので重なりが小さくクーロン相互作用も小さいが逆向きスピンの2つの電子は同じ軌道を運動できるのでクーロン相互作用が強くなってエネルギー的に不安定になるため電子の移動を妨げる効果であるこの2つの状態の間のエネルギー差は電子相関エネルギーと呼ばれUで表され数eVのオーダーである

22 ハバードモデル

バンドモデルに電子相関を導入する手法がハバードモデルであるFig 3は横軸をUにとったとき電子のエネルギー準位がUに対しどのように変わるかを示した図であるここにはバンド幅で電子の移動のしやすさの尺度であるT0は満ちたバンドの平均エネルギーである

バンド幅が電子相関エネルギーに比べ十分小さなときすなわちUltlt2312のときは禁制帯が現れ系は絶縁体となるU0は局在性の強い極限で電子移動が起きるにはUだけ余分のエネルギーが必要であるこのため電子は原子付近に束縛され局在電子系として振る舞う

lower Hubbard band

upper Hubbard band

電荷移動型絶縁体

MnOは電荷移動型絶縁体と考えられているMn2+においては3d電子5個がスピンを揃えてlower Hubbard bandの5個の軌道を占有しているここに1個電子を付け加えようとすると逆向きのスピンを付け加えなければならないのでupper Hubbardbandに入り電子相関Uだけエネルギーを損する

実際には酸化物イオンのp軌道からなる価電子帯が満ちたバンドの頂にくるのでギャップはこの状態と3d電子系のupperHubbard bandの間に開いているこれを電荷移動型ギャップという

CT(電荷移動)ギャップ

Lower Hubbard band

Upper Hubbard band

電子相関U

23 局在電子モデル

原子の位置に局在した多電子系では通常フントの規則に従うように軌道角運動量とスピン角運動量が決められる

3d遷移金属イオンでは3d電子が配位子のp軌道と

混成し軌道角運動量はほぼ消失している

4f希土類では4f軌道は孤立原子内の状態とあまり変わらないので全角運動量がよい量子数である

局在電子系の磁性

常磁性体に誘起される平均の磁気モーメントは室温でB=100mTの磁界のもとでも10-2emucc程度の小さな量である

これに対して強磁性体では磁界を印加しなくても103emuccという大きな自発磁気モーメントを持っている

ワイスは原子の磁気モーメントが周りの磁気モーメントからの場(分子場)を受けて整列しているというモデルを立てて強磁性体の自発磁化を説明した

24 ワイスの分子場理論

1つの磁気モーメントを取り出しその周りにあるすべての磁気モーメントから生じた有効磁界によって考えている磁気モーメントが常磁性的に分極するならば自己完結的に強磁性が説明できる

これを分子場理論有効磁界を分子磁界または分子場(molecular field)と呼ぶ

Heff

周りからの磁場Heff=H+AMが働く磁化M

分子場理論

分子場係数

磁化Mをもつ磁性体に外部磁界Hが加わったときの有効磁界はHeff=H+AMと表されるAを分子場係数と呼ぶ

分子場係数AはJexを交換相互作用係数zを配位数としてA=2zJexN(gB)2で与えられる

この磁界によって生じる常磁性磁化MはM=M0BJ(gBHeffJkT)という式で表される

M0=NgBJはすべての磁気モーメントが整列したときに期待される磁化

分子場理論

自発磁化が生じる条件を求める

Heff=H+AMであるからH=0のときHeff=AM自発磁化が生じるにはHeff=AMを

M=M0BJ(gBHeffJkT)に代入して

MM0=BJ(gBJHeffkT)=BJ(gBJAMkT)が成立しなければならない

Aに分子場係数の式A=2zJexN(gB)2 を代入してMM0= BJ(2zJexgBMJ N(gB)2kT)

ここでM0=NgBJを使って書き直すとMM0= BJ((2zJexJ

2kT) MM0)を得る

MM0= BJ((2zJexJ2kT) MM0)を解く

y=MM0x=(2zJexJ2kT) MM0とすると上の方程式を解

くことは曲線y=BJ(x)と直線 y=x (2zJexJ2kT)を連立して

解くことと同じである

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

J=52のブリルアン関数

y=x (2zJexJ2kT) Tが小さいとき

解が存在する自発磁化あり

y=x (2zJexJ2kT) Tが大きいとき

解が存在しない自発磁化なし

キュリー温度においては直線はブリルアン関数の接線

温度が上がると

分子場理論

キュリー温度

温度が低いとき直線の傾斜はゆるくブリルアン曲線と直線ははy=MM0 =1付近で交わる

温度が上昇するとyの小さいところ交わる

高温になると0以外に交点を持たなくなる

(2zJexJ2kT) y=xの勾配とy=BJ(x)の接線の勾配

が等しいときがキュリー温度を与える

x=0付近ではyx3であるから3y=xと書ける従ってTcは2zJexJ

2kTc=3によってきまる即ちTc=2zJexJ

23kとなる

分子場理論

自発磁化の温度変化

さまざまなJについて分子場理論で交点のMM0をTに対してプロットすると磁化の温度変化を求めることができるニッケルの磁化温度曲線はJ=12でよく説明される timesは鉄はニッケルはコバルトの実測

値実線はJとしてスピンS=121infinをとった

ときの計算値

分子場理論

キュリーワイスの法則

キュリー温度Tc以上では磁気モーメントはバラバラ

の方向を向き常磁性になる分子場理論によればこのときの磁化率は次式で与えられる

この式をキュリーワイスの法則という

Cはワイス定数pは常磁性キュリー温度という

1をTに対してプロットすると1=(T- p)Cとなり横軸を横切る温度がpである

pT

C

分子場理論

キュリーワイスの法則を導く

Heff=H+AM

MHeff=CT (MとHeffの間にキュリーの法則が成立すると仮定する)

M(H+AM)=CTrarrMT=C(H+AM)従ってM(T-CA)=CHより

=MH=C(T-CA)となるCA=pと置けばキュリーワイスの法則が導かれるすなわち=C(T- p)

自発磁化の温度変化

強磁性体の自発磁化の大きさは温度上昇とともに減少しキュリー温度Tcにおいて消滅する

Tc以上では常磁性であ

る常磁性磁化率の逆数は温度に比例しゼロに外挿するとキュリー温度が求まる

25 交換相互作用(exchange interaction)

交換相互作用という言葉はもともとは多電子原子の中で働くクーロン相互作用の算出において電子同士を区別できないことから来るエネルギーの補正項のことで原子内交換相互作用といいます(intra-atomic exchange interaction)

この概念を原子間に拡張したのが原子間交換相互作用(inter-atomic exchangeinteraction)です

ウンチクコーナーイントラ(intra)とインター(inter) イントラは内部のといういみの接頭辞インターは複数のものの

間のという意味の接頭辞ですイントラネットインターネットということばもここから来ています

原子内交換相互作用

原子内交換相互作用は本質的にクーロン相互作用です2つの電子(波動関数を12とする)の間に働くクーロン相互作用のエネルギーHはH= K12-(12) J12(1+4s1s2) で表されます

K12は次式で与えられるクーロン積分です

J12は次式で与えられる交換積分で電子が区別できないことからくる項です

K dr dr r re

rr r12 1 2 1 1 2 2

2

12

1 1 2 2

J dr dr r re

rr r12 1 2 1 1 2 2

2

12

1 2 2 1

原子内交換相互作用

H= K12-(12) J12(1+4s1s2)

の固有値は=K12ndashJ12 (s1とs2が同符号のとき)= K12 ( s1とs2が異符号のとき)

Hと平均のエネルギー(H0=K12-J122)との差ndash2J12s1s2のことを原子内交換エネルギーという

K12

K12-J12

原子間交換相互作用

本来磁気秩序を考えるには物質系全体のスピンを考えねばならないのであるが電子の軌道が原子に局在しているみなして電子のスピンを各原子Iの位置に局在した全スピンSiで代表させて原子1の全スピンS1と原子2の全スピンS2との間に原子間交換相互作用が働くと考えるのがハイゼンベルグ模型であるこのとき交換エネルギーHex は原子内交換相互作用を一般化して見かけの交換積分J12を用いて

Hex =-2J12S1S2

で表されるJが正であれば相互作用は強磁性的負であれば反強磁性的である

交換相互作用

ハイゼンベルグ模型 Hex =-2J12S1S2

Jが正であれば相互作用は強磁性的負であれば反強磁性的

交換積分の起源隣接原子のスピン間の直接交換(direct exchange)

酸素などのアニオンのp電子軌道との混成を通してスピン同士がそろえあう超交換(superexchange)

伝導電子との相互作用を通じてそろえあう間接交換(indirect exchange)

電子の移動と磁性とが強く結びついている二重交換相互作用(double exchange)

さまざまな交換相互作用

直接交換

超交換

間接交換(RKKY)

二重交換

超交換相互作用

酸化物磁性体では局在電子系の磁気モーメントの間に働く相互作用は遷移金属の3d電子どうしの重なりで生じるのではなく配位子のp電子が遷移金属イオンの3d軌道に仮想的に遷

移した中間状態を介して相互作用するこれを超交換相互作用と称する主として反強磁性的に働く

酸素イオン

遷移金属イオン

超交換相互作用模式図

90度強磁性

180度反強磁性

(Goodenough)

アニオン

遷移金属イオン

アニオン

遷移金属イオン

(a)

(b)

Fig 9 超交換相互作用の模式図

間接交換(RKKY)相互作用

希土類金属の磁性は4f電子が担うが伝導電子である5d電子が4f電子と原子内交換相互作用することによってスピン偏極を受けこれが隣接の希土類原子のf電子と相互作用するという形の間接的な交換相互作用を行っていると考えられている

これをRKKY (Rudermann Kittel Kasuya Yoshida)相互作用という

伝導電子を介した局在スピン間の磁気的相互作用は距離に対して余弦関数的に振動しその周期は伝導電子のフェルミ波数で決められる

RKKY振動

フリーデル振動

21F

2

F

2

RKKY 29 SS

Rkf

N

NJH e

4

sincos

x

xxxxf

CoCu superlattice

Cu thickness (Aring)

磁気抵

抗比

図15

二重交換相互作用

LaMnO3ではすべてのMn原子は3価なので egバンドには1個の電子が存在しこの電子が隣接Mn原子のeg軌道に移動しようとすると電子相関エネルギーUだけのエネルギーが必要であるため電子移動は起きずモット絶縁体となっている

LaをSrで置き換え4価のMnが生じるとMn4+のeg軌道は空であるから他のMn3+から電子が移ることができ金属的な導電性を生じる

このとき隣接するMn原子の磁気モーメントのなす角とするとeg電子の飛び移りの確率はcos( 2)に比例する=0(スピンが平行)のとき飛び移りが最も起きやすく運動エネルギーの分だけエネルギーが下がるので強磁性となる

二重交換の模式図

Mn3+ Mn4+

3磁気ヒステリシス曲線と磁区

磁気ヒステリシスについて

反磁界と静磁エネルギー

磁気異方性

磁区と磁壁磁壁移動と磁化回転

保磁力

31 磁気ヒステリシス

強磁性体においてはその磁化は印加磁界に比例せずヒステリシスを示す

(高梨初等磁気工学講座テキスト)

OrarrBrarrC初磁化曲線

CrarrD 残留磁化

DrarrE 保磁力

CrarrDrarrErarrFrarrGrarrC

ヒステリシスループ

縦軸磁化

横軸磁界

[参考]

磁化曲線の測定法

磁性体を磁界中に置き磁界を増加していくと磁性体の磁化は増加していき次第に飽和する

磁化曲線は磁力計を使って測定する

VSM試料振動型磁力計試料を01~02mm程度のわずかな振幅で80Hz程度の低周波で振動させ試料の

磁化による磁束の時間変化を電磁石の磁極付近に置かれたサーチコイルに誘起された誘導起電力として検出する誘導起電力は試料の磁化に比例するので磁化を測定することができる

電磁石

磁極付近に置いたサーチコイル

スピーカーと同じ振動機構

[参考]

VSMブロック図

丸善実験物理学講座「磁気測定I」p68より

磁気ヒステリシスと応用

保磁力のちがいで用途が違う

Hc小軟質磁性体

磁気ヘッド変圧器鉄心磁気シールド

Hc中半硬質磁性体

磁気記録媒体

Hc大硬質磁性体

永久磁石このループの面積が磁石に蓄積される磁気エネルギー高周波の場合はヒステリシス損失となる

永久磁石の最大エネルギー積(BH)maxの変遷(httpwwwaacgbhamacukmagnetic_materialshistoryhtm)

BHmax

32 なぜ初磁化状態では磁化がないのか磁区(magnetic domain)

磁化が特定の方向を向くとするとN極からS極に向

かって磁力線が生じますこの磁力線は考えている試料の外を通っているだけでなく磁性体の内部も貫いていますこの磁力線を反磁界といいます反磁界の向きは磁化の向きとは反対向きなので磁化は回転する静磁力を受けて不安定となります

磁化の方向が逆方向の縞状の磁区と呼ばれる領域に分かれるならば反磁界がうち消し合って静磁エネルギーが低下して安定するのです

反磁界(demagnetization field)

磁性体表面の法線方向の磁化成分をMn とすると表面には単位面積あたり = Mnという大きさの磁極(Wbm2)が生じる

磁極からはガウスの定理によって全部で μ0の磁力線がわき出すこのうち反磁界係数Nを使って定義される磁力線NMは内部に向かっており残りは外側に向かっているすなわち磁石の内部ではMの向きとは逆方向の反磁界が存在する

外部では磁束線は磁力線に一致する

(b) 磁力線

M- +

(a)磁化と磁極 反磁界

S N

S N

(c) 磁束線

反磁界係数N (近角強磁性体の物理より)

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0

(i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+ Ny+ Nz=1

が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx= Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx= Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

x

y

z

z

x

y

z

x

y

Nz=1

Nx= 0Ny= 0

Nx= 12

Ny= 12

Nx=13

Ny=13

Nz=13

Nz=0

反磁界補正

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0 (i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+Ny+ Nz=1が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx=Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx=Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

(近角強磁性体の物理より)

反磁界と静磁エネルギー

磁化Mが反磁界HdのもとにおかれるとU=MHdだけポテンシャルエネルギーが高くなる

一様な磁界H中の磁気モーメントMに働くトルクTはT=-MH sin

磁気モーメントのもつポテンシャルEはU=Td= - 0

MH sin d=MH (1-cos) エネルギーの原点はどこにとってもよいのでポテンシャルエネルギーはU=-MHと表される H=-Hdを代入すると反磁界によるポテンシャルの増加はU=MHd

表面磁極の分割による静磁エネルギーの減少

結晶表面をxy面にとる

表面でz=0とする

磁区の磁化方向はplusmnz

磁区のx方向の幅d

磁極の表面密度=Is 2mdltxlt(2m+1)d

=-Is (2m+1)dltxlt2(m+1)d

磁気ポテンシャルをLaplaceの方程式で求め

+ +- -

z

x

y

d

境界条件( z)z=-0=20

境界条件のもとにラプラス方程式を解くと=n An sin n(d)xexp n(d)z

係数Anは次式を満たすように決められる(d) n nAn sin n(d)x =I20 2mdltxlt(2m+1)d

= - I20 (2m+1)dltxlt2(m+1)d

rarrAn=2Isd20n2

(x=0)=(2Isd20) n (1n2)sin n(d)x

単位表面積あたりの静磁エネルギー=(2Is

220) n (1n2)int0d sin n(d)x

=(2Is2d20) n=odd (1n3)=540104Is

2d

磁気異方性

磁性体は半導体と違って形状寸法結晶方位とか磁化の方位などによって物性が大きく変化する

1つの原因は上に述べた反磁界係数で形状磁気異方性と呼ばれます反磁界によるエネルギーの損を最小化することが原因です

このほかの原因として重要なのが結晶磁気異方性です結晶磁気異方性というのは磁界を結晶のどの方位に加えるかで磁化曲線が変化する性質です

電子軌道は結晶軸に結びついているので磁気的性質と電子軌道との結びつき(スピン軌道相互作用)を通じて磁性が結晶軸と結び

つくのです半導体にも詳しい測定をすると異方性を見ることができますこれに比べ一般に半導体の電子軌道は結晶全体に広がっているので平均化されて結晶軸に依存する物性が見えにくいです

結晶磁気異方性

磁化しやすさは結晶の方位に依存する

鉄は立方晶であるが[100]が容易軸[111]は困難軸

x

y

z

[111

]

[100

]

容易軸

困難軸

[110]

円板磁性体の磁区構造

全体が磁区に分かれることにより全体の磁化がなくなっているこれが初磁化状態である

磁区の内部では磁化は任意の方向をランダムに向いている訳ではない

磁化は結晶の方位と無関係な方向を向くことはできない磁性体には磁気異方性という性質があり磁化が特定の結晶軸方位(たとえばFeでは[001]方向および等価な方向)を向く性質がある

[001]容易軸では図のように(001)面内では[100][010][-100][0-10]の4つの方向を向くので90磁壁になる

[111]容易軸では

(a) (b)

(近角強磁性体の物理)

33 ヒステリシスを磁区で説明する

残留磁化状態 逆磁区の発生と成長

磁気飽和

核発生

34 さまざまな磁区とマイクロマグネティクス

Figは結晶の対称性により磁区が変わる様子の例として縞状磁区(stripe domain)と環流磁区(closure domain)を示している磁性体を微細化して直径1μm付近になるとスピンは面内に分布してvortex状態となり中心部に垂直方向のスピン成分をもつようになるさらに微細化すると単磁区になる

微小磁区のMFM観察

磁区の観察にはビッター法といって磁性微粒子を含むコロイドを磁性体上に滴下して光学顕微鏡で観察する方法が古くから使われているこのほか磁気光学顕微鏡ローレンツ電子顕微鏡磁気力顕微鏡走査型ホール顕微鏡走査型SQUID顕微鏡スピン偏極電子顕微鏡X線MCD顕微鏡などで観察することが可能であるFig 22にはいくつかの例について筆者のMFM観察結果を示す

10 nmtimes10 nmtimes10 nmMesh size

1Number of dot

200 nmtimes200 nmtimes100nm

Dot Size

Y directionEasy axis

02Damping constant(α)

-176times107 rad(sOe)Gyro magnetic constant(γ)

1000 ergcm3Anisotropic constant (Ku)

1times10-6 ergcm3Exchange field (A)

800 emucm3Saturation magnetization (Ms)

Hy = 10 kOe rarr 0 Oe

divM divMy

LLG 方程式を用いた

マイクロ磁気解析

Dot model

200 x 200thickness50 nm

Magnetic moment - dv M Force gradient

200 x 200thickness100 nm

90 degree walls propeller-like distortion

Calculation of a single dot

Spin structure

-divM

Isolated square dot

Force gradient image Spin distribution image

Four-dot system

Shift of the center occurs Reversal of chirality

MFM imagewith low-moment tip

(CoPtCr240Å in HV)

Spin distribution imagewith the force-gradientimage overlapped

Inversion of chirality

Comparison between MFM andsimulation of spin distribution

Simulation was carried outin the model structureconsisting of four squaredots with a dimension of200 nmtimes200 nmtimes20 nmwith 50nm separationbetween dots

The calculated spinstructure shows a closuredomain structure with the90-wall appears

The chirality of the spindirection in adjacent dots isopposite to each other asshown by white arrows

The Z-component force-gradient image taking intoaccount the tip-sampleinteraction is overlapped

Calculated magnetization configurationof Y-shaped permalloy dot

Calculation parametersWidth 300 nmThickness 100 nmEasy axis 0 ergcm3

x

y

z

Force gradient-divM

Force gradient(Magnified)

Experimental MFM images

bull Single domains appear in two armsbull Multi-domain of 4 chained closer-domains on the restbull Spin-flow at crossing region turns left in two steps

50

0n

m2

m

L

C

R

C

L

R

x

y

z

Calculated magnetization configurationsof Y-shaped permalloy mirror-dots

Calculation parametersWidth 200 nmThickness 40 nmEasy axis X 1000 ergcm3

Force gradient-divM

Single dot

Experimental MFM images

15 m

bull Calculated spin-flows similar to experimental resultbull Vortices with same chirality appear at the ends of all armsbull Chirality of adjacent dot shows a mirror-reflection

Easy axisEasy axis

Easy axis

Easy axis

-divM

4 おわりに

磁性特有のテクニカルタームがあるが慣れればそれほど難しいものではない

大部分の話は量子力学なしでも理解できる電磁気学の知識があればよい

応用につながるのは磁区磁壁の物理である

メゾスコピック系では量子的な現象が現れるこれが得意なスピン依存伝導現象をもたらす

[参考0]半導体磁性体誘電体

半導体と磁性体の対比

半導体 電子物性パラメータは基本的

にバンド構造で決まるキャリア密度は人為的に制御される

量子構造を考えない限り電子を古典粒子として有効質量近似で扱える

応用されるのは電子構造で決まる移動度などのミクロな電子物性である

電子物性が寸法方位形状にほとんど依存しない

単位系はCGSをもとにした実用単位系が使われる

磁性体 金属磁性体の磁性はスピン偏

極バンド構造で決まるが非金属磁性体の磁性は局在多電子系のフント則で決まる

交換相互作用スピン軌道相互作用など量子力学が基本

応用されるのは磁区により生じるヒステリシスに関連したマクロ磁気物性である

磁性は磁気異方性の影響を受け寸法方位形状により大幅に変化する

単位系が複雑でCGSとSIが混在して使われている

磁性体と誘電体の対比

磁性体

磁気モーメントμ(軸性ベクトル)

磁化M

自発磁化Ms

反磁界

磁気ヒステリシス

飽和磁化残留磁化保磁力

磁区(ドメイン)

キュリー温度

誘電体

電気双極子qr(極性ベクトル)

電気分極P

自発分極Ps

反電界

誘電ヒステリシス

飽和分極残留分極抗電界

分域(ドメイン)

キュリー温度

[参考1]

磁界磁束磁化

磁界(磁場)H磁束密度B磁化M

磁界H中に置かれた磁化Mの磁性体が磁束密

度は真空中の磁束密度に磁化による磁束密度を加えたものであるすなわちB=0H+M

B=0H B=0H+M

M

磁性体があると磁束密度が高くなる

真空中での磁束密度

磁化とは

物質に磁界を加えたとき物質の表面に磁極が生じ一時的に磁石のようになるがそのとき物質が磁化されたという

(b)(a)

(高梨初等磁気工学講座)より

磁化の定義

K番目の原子の1原子あ

たりの磁気モーメントをkとするときその単位体積についての総和k

を磁化Mと定義するM= k

磁気モーメントの単位はWbmであるから磁化の単位はWbm2となる

(高梨初等磁気工学講座)より

常磁性

磁極と磁気モーメント

磁石にはN極とS極がある

磁界中に置かれた磁性体にも磁極が誘起される磁極は必ずNSの対で現れる(単極は見つかっていない)

磁極の大きさをq [Wb]とすると磁界によってNSの対に働くトルクは-qdHsin [Nm]=qdsin [Wbm] H[Am]

必ずNとSが対で現れるならm=qrを磁性を扱う基本単

位と考えることが出来るこれを磁気モーメントという単位は[Wbm]

[参考2]

磁気モーメントの電子的起源

磁気モーメント

一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは

T=qH r sin=mH sin 磁気モーメントのもつポテンシャルEは

E=Td= mH sin d=mH(1-cos)

ポテンシャルの原点はどこにとってもよいから E=-mH mHのときエネルギーは極小になる

mはHに平行になろうとする(高梨初等磁気工学講座)より

r 磁気モーメント

m=qr [Wbm]

-q [Wb]

+q [Wb]

qH

-qH

rsin

単位E[J]=-m[Wbm] H[Am]

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 14: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

ハーフメタルCo2MnGe

uarrスピンは金属 darrスピンは半導体 Geの一部をGaに置き換えるとスピン

偏極率が上がる

L21 X2YZ

バンドと電子相関

通常のバンド計算では電子間の位置の相関を平均的なものに置き換える近似を行うので真の電子間相互作用は求まらない

バンドモデルが適用できるのは金属磁性体に限られるMnOやNiOのような絶縁性の磁性体を単純にバンド計算すると金属になってしまうこれは電子相関が考慮されていないからである

電子相関とはフントの規則のように電子同士のクーロン相互作用がスピンに依存することから生じるつまり同じ向きのスピンをもつ2つの電子は同じ軌道に入ることがないので重なりが小さくクーロン相互作用も小さいが逆向きスピンの2つの電子は同じ軌道を運動できるのでクーロン相互作用が強くなってエネルギー的に不安定になるため電子の移動を妨げる効果であるこの2つの状態の間のエネルギー差は電子相関エネルギーと呼ばれUで表され数eVのオーダーである

22 ハバードモデル

バンドモデルに電子相関を導入する手法がハバードモデルであるFig 3は横軸をUにとったとき電子のエネルギー準位がUに対しどのように変わるかを示した図であるここにはバンド幅で電子の移動のしやすさの尺度であるT0は満ちたバンドの平均エネルギーである

バンド幅が電子相関エネルギーに比べ十分小さなときすなわちUltlt2312のときは禁制帯が現れ系は絶縁体となるU0は局在性の強い極限で電子移動が起きるにはUだけ余分のエネルギーが必要であるこのため電子は原子付近に束縛され局在電子系として振る舞う

lower Hubbard band

upper Hubbard band

電荷移動型絶縁体

MnOは電荷移動型絶縁体と考えられているMn2+においては3d電子5個がスピンを揃えてlower Hubbard bandの5個の軌道を占有しているここに1個電子を付け加えようとすると逆向きのスピンを付け加えなければならないのでupper Hubbardbandに入り電子相関Uだけエネルギーを損する

実際には酸化物イオンのp軌道からなる価電子帯が満ちたバンドの頂にくるのでギャップはこの状態と3d電子系のupperHubbard bandの間に開いているこれを電荷移動型ギャップという

CT(電荷移動)ギャップ

Lower Hubbard band

Upper Hubbard band

電子相関U

23 局在電子モデル

原子の位置に局在した多電子系では通常フントの規則に従うように軌道角運動量とスピン角運動量が決められる

3d遷移金属イオンでは3d電子が配位子のp軌道と

混成し軌道角運動量はほぼ消失している

4f希土類では4f軌道は孤立原子内の状態とあまり変わらないので全角運動量がよい量子数である

局在電子系の磁性

常磁性体に誘起される平均の磁気モーメントは室温でB=100mTの磁界のもとでも10-2emucc程度の小さな量である

これに対して強磁性体では磁界を印加しなくても103emuccという大きな自発磁気モーメントを持っている

ワイスは原子の磁気モーメントが周りの磁気モーメントからの場(分子場)を受けて整列しているというモデルを立てて強磁性体の自発磁化を説明した

24 ワイスの分子場理論

1つの磁気モーメントを取り出しその周りにあるすべての磁気モーメントから生じた有効磁界によって考えている磁気モーメントが常磁性的に分極するならば自己完結的に強磁性が説明できる

これを分子場理論有効磁界を分子磁界または分子場(molecular field)と呼ぶ

Heff

周りからの磁場Heff=H+AMが働く磁化M

分子場理論

分子場係数

磁化Mをもつ磁性体に外部磁界Hが加わったときの有効磁界はHeff=H+AMと表されるAを分子場係数と呼ぶ

分子場係数AはJexを交換相互作用係数zを配位数としてA=2zJexN(gB)2で与えられる

この磁界によって生じる常磁性磁化MはM=M0BJ(gBHeffJkT)という式で表される

M0=NgBJはすべての磁気モーメントが整列したときに期待される磁化

分子場理論

自発磁化が生じる条件を求める

Heff=H+AMであるからH=0のときHeff=AM自発磁化が生じるにはHeff=AMを

M=M0BJ(gBHeffJkT)に代入して

MM0=BJ(gBJHeffkT)=BJ(gBJAMkT)が成立しなければならない

Aに分子場係数の式A=2zJexN(gB)2 を代入してMM0= BJ(2zJexgBMJ N(gB)2kT)

ここでM0=NgBJを使って書き直すとMM0= BJ((2zJexJ

2kT) MM0)を得る

MM0= BJ((2zJexJ2kT) MM0)を解く

y=MM0x=(2zJexJ2kT) MM0とすると上の方程式を解

くことは曲線y=BJ(x)と直線 y=x (2zJexJ2kT)を連立して

解くことと同じである

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

J=52のブリルアン関数

y=x (2zJexJ2kT) Tが小さいとき

解が存在する自発磁化あり

y=x (2zJexJ2kT) Tが大きいとき

解が存在しない自発磁化なし

キュリー温度においては直線はブリルアン関数の接線

温度が上がると

分子場理論

キュリー温度

温度が低いとき直線の傾斜はゆるくブリルアン曲線と直線ははy=MM0 =1付近で交わる

温度が上昇するとyの小さいところ交わる

高温になると0以外に交点を持たなくなる

(2zJexJ2kT) y=xの勾配とy=BJ(x)の接線の勾配

が等しいときがキュリー温度を与える

x=0付近ではyx3であるから3y=xと書ける従ってTcは2zJexJ

2kTc=3によってきまる即ちTc=2zJexJ

23kとなる

分子場理論

自発磁化の温度変化

さまざまなJについて分子場理論で交点のMM0をTに対してプロットすると磁化の温度変化を求めることができるニッケルの磁化温度曲線はJ=12でよく説明される timesは鉄はニッケルはコバルトの実測

値実線はJとしてスピンS=121infinをとった

ときの計算値

分子場理論

キュリーワイスの法則

キュリー温度Tc以上では磁気モーメントはバラバラ

の方向を向き常磁性になる分子場理論によればこのときの磁化率は次式で与えられる

この式をキュリーワイスの法則という

Cはワイス定数pは常磁性キュリー温度という

1をTに対してプロットすると1=(T- p)Cとなり横軸を横切る温度がpである

pT

C

分子場理論

キュリーワイスの法則を導く

Heff=H+AM

MHeff=CT (MとHeffの間にキュリーの法則が成立すると仮定する)

M(H+AM)=CTrarrMT=C(H+AM)従ってM(T-CA)=CHより

=MH=C(T-CA)となるCA=pと置けばキュリーワイスの法則が導かれるすなわち=C(T- p)

自発磁化の温度変化

強磁性体の自発磁化の大きさは温度上昇とともに減少しキュリー温度Tcにおいて消滅する

Tc以上では常磁性であ

る常磁性磁化率の逆数は温度に比例しゼロに外挿するとキュリー温度が求まる

25 交換相互作用(exchange interaction)

交換相互作用という言葉はもともとは多電子原子の中で働くクーロン相互作用の算出において電子同士を区別できないことから来るエネルギーの補正項のことで原子内交換相互作用といいます(intra-atomic exchange interaction)

この概念を原子間に拡張したのが原子間交換相互作用(inter-atomic exchangeinteraction)です

ウンチクコーナーイントラ(intra)とインター(inter) イントラは内部のといういみの接頭辞インターは複数のものの

間のという意味の接頭辞ですイントラネットインターネットということばもここから来ています

原子内交換相互作用

原子内交換相互作用は本質的にクーロン相互作用です2つの電子(波動関数を12とする)の間に働くクーロン相互作用のエネルギーHはH= K12-(12) J12(1+4s1s2) で表されます

K12は次式で与えられるクーロン積分です

J12は次式で与えられる交換積分で電子が区別できないことからくる項です

K dr dr r re

rr r12 1 2 1 1 2 2

2

12

1 1 2 2

J dr dr r re

rr r12 1 2 1 1 2 2

2

12

1 2 2 1

原子内交換相互作用

H= K12-(12) J12(1+4s1s2)

の固有値は=K12ndashJ12 (s1とs2が同符号のとき)= K12 ( s1とs2が異符号のとき)

Hと平均のエネルギー(H0=K12-J122)との差ndash2J12s1s2のことを原子内交換エネルギーという

K12

K12-J12

原子間交換相互作用

本来磁気秩序を考えるには物質系全体のスピンを考えねばならないのであるが電子の軌道が原子に局在しているみなして電子のスピンを各原子Iの位置に局在した全スピンSiで代表させて原子1の全スピンS1と原子2の全スピンS2との間に原子間交換相互作用が働くと考えるのがハイゼンベルグ模型であるこのとき交換エネルギーHex は原子内交換相互作用を一般化して見かけの交換積分J12を用いて

Hex =-2J12S1S2

で表されるJが正であれば相互作用は強磁性的負であれば反強磁性的である

交換相互作用

ハイゼンベルグ模型 Hex =-2J12S1S2

Jが正であれば相互作用は強磁性的負であれば反強磁性的

交換積分の起源隣接原子のスピン間の直接交換(direct exchange)

酸素などのアニオンのp電子軌道との混成を通してスピン同士がそろえあう超交換(superexchange)

伝導電子との相互作用を通じてそろえあう間接交換(indirect exchange)

電子の移動と磁性とが強く結びついている二重交換相互作用(double exchange)

さまざまな交換相互作用

直接交換

超交換

間接交換(RKKY)

二重交換

超交換相互作用

酸化物磁性体では局在電子系の磁気モーメントの間に働く相互作用は遷移金属の3d電子どうしの重なりで生じるのではなく配位子のp電子が遷移金属イオンの3d軌道に仮想的に遷

移した中間状態を介して相互作用するこれを超交換相互作用と称する主として反強磁性的に働く

酸素イオン

遷移金属イオン

超交換相互作用模式図

90度強磁性

180度反強磁性

(Goodenough)

アニオン

遷移金属イオン

アニオン

遷移金属イオン

(a)

(b)

Fig 9 超交換相互作用の模式図

間接交換(RKKY)相互作用

希土類金属の磁性は4f電子が担うが伝導電子である5d電子が4f電子と原子内交換相互作用することによってスピン偏極を受けこれが隣接の希土類原子のf電子と相互作用するという形の間接的な交換相互作用を行っていると考えられている

これをRKKY (Rudermann Kittel Kasuya Yoshida)相互作用という

伝導電子を介した局在スピン間の磁気的相互作用は距離に対して余弦関数的に振動しその周期は伝導電子のフェルミ波数で決められる

RKKY振動

フリーデル振動

21F

2

F

2

RKKY 29 SS

Rkf

N

NJH e

4

sincos

x

xxxxf

CoCu superlattice

Cu thickness (Aring)

磁気抵

抗比

図15

二重交換相互作用

LaMnO3ではすべてのMn原子は3価なので egバンドには1個の電子が存在しこの電子が隣接Mn原子のeg軌道に移動しようとすると電子相関エネルギーUだけのエネルギーが必要であるため電子移動は起きずモット絶縁体となっている

LaをSrで置き換え4価のMnが生じるとMn4+のeg軌道は空であるから他のMn3+から電子が移ることができ金属的な導電性を生じる

このとき隣接するMn原子の磁気モーメントのなす角とするとeg電子の飛び移りの確率はcos( 2)に比例する=0(スピンが平行)のとき飛び移りが最も起きやすく運動エネルギーの分だけエネルギーが下がるので強磁性となる

二重交換の模式図

Mn3+ Mn4+

3磁気ヒステリシス曲線と磁区

磁気ヒステリシスについて

反磁界と静磁エネルギー

磁気異方性

磁区と磁壁磁壁移動と磁化回転

保磁力

31 磁気ヒステリシス

強磁性体においてはその磁化は印加磁界に比例せずヒステリシスを示す

(高梨初等磁気工学講座テキスト)

OrarrBrarrC初磁化曲線

CrarrD 残留磁化

DrarrE 保磁力

CrarrDrarrErarrFrarrGrarrC

ヒステリシスループ

縦軸磁化

横軸磁界

[参考]

磁化曲線の測定法

磁性体を磁界中に置き磁界を増加していくと磁性体の磁化は増加していき次第に飽和する

磁化曲線は磁力計を使って測定する

VSM試料振動型磁力計試料を01~02mm程度のわずかな振幅で80Hz程度の低周波で振動させ試料の

磁化による磁束の時間変化を電磁石の磁極付近に置かれたサーチコイルに誘起された誘導起電力として検出する誘導起電力は試料の磁化に比例するので磁化を測定することができる

電磁石

磁極付近に置いたサーチコイル

スピーカーと同じ振動機構

[参考]

VSMブロック図

丸善実験物理学講座「磁気測定I」p68より

磁気ヒステリシスと応用

保磁力のちがいで用途が違う

Hc小軟質磁性体

磁気ヘッド変圧器鉄心磁気シールド

Hc中半硬質磁性体

磁気記録媒体

Hc大硬質磁性体

永久磁石このループの面積が磁石に蓄積される磁気エネルギー高周波の場合はヒステリシス損失となる

永久磁石の最大エネルギー積(BH)maxの変遷(httpwwwaacgbhamacukmagnetic_materialshistoryhtm)

BHmax

32 なぜ初磁化状態では磁化がないのか磁区(magnetic domain)

磁化が特定の方向を向くとするとN極からS極に向

かって磁力線が生じますこの磁力線は考えている試料の外を通っているだけでなく磁性体の内部も貫いていますこの磁力線を反磁界といいます反磁界の向きは磁化の向きとは反対向きなので磁化は回転する静磁力を受けて不安定となります

磁化の方向が逆方向の縞状の磁区と呼ばれる領域に分かれるならば反磁界がうち消し合って静磁エネルギーが低下して安定するのです

反磁界(demagnetization field)

磁性体表面の法線方向の磁化成分をMn とすると表面には単位面積あたり = Mnという大きさの磁極(Wbm2)が生じる

磁極からはガウスの定理によって全部で μ0の磁力線がわき出すこのうち反磁界係数Nを使って定義される磁力線NMは内部に向かっており残りは外側に向かっているすなわち磁石の内部ではMの向きとは逆方向の反磁界が存在する

外部では磁束線は磁力線に一致する

(b) 磁力線

M- +

(a)磁化と磁極 反磁界

S N

S N

(c) 磁束線

反磁界係数N (近角強磁性体の物理より)

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0

(i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+ Ny+ Nz=1

が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx= Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx= Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

x

y

z

z

x

y

z

x

y

Nz=1

Nx= 0Ny= 0

Nx= 12

Ny= 12

Nx=13

Ny=13

Nz=13

Nz=0

反磁界補正

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0 (i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+Ny+ Nz=1が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx=Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx=Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

(近角強磁性体の物理より)

反磁界と静磁エネルギー

磁化Mが反磁界HdのもとにおかれるとU=MHdだけポテンシャルエネルギーが高くなる

一様な磁界H中の磁気モーメントMに働くトルクTはT=-MH sin

磁気モーメントのもつポテンシャルEはU=Td= - 0

MH sin d=MH (1-cos) エネルギーの原点はどこにとってもよいのでポテンシャルエネルギーはU=-MHと表される H=-Hdを代入すると反磁界によるポテンシャルの増加はU=MHd

表面磁極の分割による静磁エネルギーの減少

結晶表面をxy面にとる

表面でz=0とする

磁区の磁化方向はplusmnz

磁区のx方向の幅d

磁極の表面密度=Is 2mdltxlt(2m+1)d

=-Is (2m+1)dltxlt2(m+1)d

磁気ポテンシャルをLaplaceの方程式で求め

+ +- -

z

x

y

d

境界条件( z)z=-0=20

境界条件のもとにラプラス方程式を解くと=n An sin n(d)xexp n(d)z

係数Anは次式を満たすように決められる(d) n nAn sin n(d)x =I20 2mdltxlt(2m+1)d

= - I20 (2m+1)dltxlt2(m+1)d

rarrAn=2Isd20n2

(x=0)=(2Isd20) n (1n2)sin n(d)x

単位表面積あたりの静磁エネルギー=(2Is

220) n (1n2)int0d sin n(d)x

=(2Is2d20) n=odd (1n3)=540104Is

2d

磁気異方性

磁性体は半導体と違って形状寸法結晶方位とか磁化の方位などによって物性が大きく変化する

1つの原因は上に述べた反磁界係数で形状磁気異方性と呼ばれます反磁界によるエネルギーの損を最小化することが原因です

このほかの原因として重要なのが結晶磁気異方性です結晶磁気異方性というのは磁界を結晶のどの方位に加えるかで磁化曲線が変化する性質です

電子軌道は結晶軸に結びついているので磁気的性質と電子軌道との結びつき(スピン軌道相互作用)を通じて磁性が結晶軸と結び

つくのです半導体にも詳しい測定をすると異方性を見ることができますこれに比べ一般に半導体の電子軌道は結晶全体に広がっているので平均化されて結晶軸に依存する物性が見えにくいです

結晶磁気異方性

磁化しやすさは結晶の方位に依存する

鉄は立方晶であるが[100]が容易軸[111]は困難軸

x

y

z

[111

]

[100

]

容易軸

困難軸

[110]

円板磁性体の磁区構造

全体が磁区に分かれることにより全体の磁化がなくなっているこれが初磁化状態である

磁区の内部では磁化は任意の方向をランダムに向いている訳ではない

磁化は結晶の方位と無関係な方向を向くことはできない磁性体には磁気異方性という性質があり磁化が特定の結晶軸方位(たとえばFeでは[001]方向および等価な方向)を向く性質がある

[001]容易軸では図のように(001)面内では[100][010][-100][0-10]の4つの方向を向くので90磁壁になる

[111]容易軸では

(a) (b)

(近角強磁性体の物理)

33 ヒステリシスを磁区で説明する

残留磁化状態 逆磁区の発生と成長

磁気飽和

核発生

34 さまざまな磁区とマイクロマグネティクス

Figは結晶の対称性により磁区が変わる様子の例として縞状磁区(stripe domain)と環流磁区(closure domain)を示している磁性体を微細化して直径1μm付近になるとスピンは面内に分布してvortex状態となり中心部に垂直方向のスピン成分をもつようになるさらに微細化すると単磁区になる

微小磁区のMFM観察

磁区の観察にはビッター法といって磁性微粒子を含むコロイドを磁性体上に滴下して光学顕微鏡で観察する方法が古くから使われているこのほか磁気光学顕微鏡ローレンツ電子顕微鏡磁気力顕微鏡走査型ホール顕微鏡走査型SQUID顕微鏡スピン偏極電子顕微鏡X線MCD顕微鏡などで観察することが可能であるFig 22にはいくつかの例について筆者のMFM観察結果を示す

10 nmtimes10 nmtimes10 nmMesh size

1Number of dot

200 nmtimes200 nmtimes100nm

Dot Size

Y directionEasy axis

02Damping constant(α)

-176times107 rad(sOe)Gyro magnetic constant(γ)

1000 ergcm3Anisotropic constant (Ku)

1times10-6 ergcm3Exchange field (A)

800 emucm3Saturation magnetization (Ms)

Hy = 10 kOe rarr 0 Oe

divM divMy

LLG 方程式を用いた

マイクロ磁気解析

Dot model

200 x 200thickness50 nm

Magnetic moment - dv M Force gradient

200 x 200thickness100 nm

90 degree walls propeller-like distortion

Calculation of a single dot

Spin structure

-divM

Isolated square dot

Force gradient image Spin distribution image

Four-dot system

Shift of the center occurs Reversal of chirality

MFM imagewith low-moment tip

(CoPtCr240Å in HV)

Spin distribution imagewith the force-gradientimage overlapped

Inversion of chirality

Comparison between MFM andsimulation of spin distribution

Simulation was carried outin the model structureconsisting of four squaredots with a dimension of200 nmtimes200 nmtimes20 nmwith 50nm separationbetween dots

The calculated spinstructure shows a closuredomain structure with the90-wall appears

The chirality of the spindirection in adjacent dots isopposite to each other asshown by white arrows

The Z-component force-gradient image taking intoaccount the tip-sampleinteraction is overlapped

Calculated magnetization configurationof Y-shaped permalloy dot

Calculation parametersWidth 300 nmThickness 100 nmEasy axis 0 ergcm3

x

y

z

Force gradient-divM

Force gradient(Magnified)

Experimental MFM images

bull Single domains appear in two armsbull Multi-domain of 4 chained closer-domains on the restbull Spin-flow at crossing region turns left in two steps

50

0n

m2

m

L

C

R

C

L

R

x

y

z

Calculated magnetization configurationsof Y-shaped permalloy mirror-dots

Calculation parametersWidth 200 nmThickness 40 nmEasy axis X 1000 ergcm3

Force gradient-divM

Single dot

Experimental MFM images

15 m

bull Calculated spin-flows similar to experimental resultbull Vortices with same chirality appear at the ends of all armsbull Chirality of adjacent dot shows a mirror-reflection

Easy axisEasy axis

Easy axis

Easy axis

-divM

4 おわりに

磁性特有のテクニカルタームがあるが慣れればそれほど難しいものではない

大部分の話は量子力学なしでも理解できる電磁気学の知識があればよい

応用につながるのは磁区磁壁の物理である

メゾスコピック系では量子的な現象が現れるこれが得意なスピン依存伝導現象をもたらす

[参考0]半導体磁性体誘電体

半導体と磁性体の対比

半導体 電子物性パラメータは基本的

にバンド構造で決まるキャリア密度は人為的に制御される

量子構造を考えない限り電子を古典粒子として有効質量近似で扱える

応用されるのは電子構造で決まる移動度などのミクロな電子物性である

電子物性が寸法方位形状にほとんど依存しない

単位系はCGSをもとにした実用単位系が使われる

磁性体 金属磁性体の磁性はスピン偏

極バンド構造で決まるが非金属磁性体の磁性は局在多電子系のフント則で決まる

交換相互作用スピン軌道相互作用など量子力学が基本

応用されるのは磁区により生じるヒステリシスに関連したマクロ磁気物性である

磁性は磁気異方性の影響を受け寸法方位形状により大幅に変化する

単位系が複雑でCGSとSIが混在して使われている

磁性体と誘電体の対比

磁性体

磁気モーメントμ(軸性ベクトル)

磁化M

自発磁化Ms

反磁界

磁気ヒステリシス

飽和磁化残留磁化保磁力

磁区(ドメイン)

キュリー温度

誘電体

電気双極子qr(極性ベクトル)

電気分極P

自発分極Ps

反電界

誘電ヒステリシス

飽和分極残留分極抗電界

分域(ドメイン)

キュリー温度

[参考1]

磁界磁束磁化

磁界(磁場)H磁束密度B磁化M

磁界H中に置かれた磁化Mの磁性体が磁束密

度は真空中の磁束密度に磁化による磁束密度を加えたものであるすなわちB=0H+M

B=0H B=0H+M

M

磁性体があると磁束密度が高くなる

真空中での磁束密度

磁化とは

物質に磁界を加えたとき物質の表面に磁極が生じ一時的に磁石のようになるがそのとき物質が磁化されたという

(b)(a)

(高梨初等磁気工学講座)より

磁化の定義

K番目の原子の1原子あ

たりの磁気モーメントをkとするときその単位体積についての総和k

を磁化Mと定義するM= k

磁気モーメントの単位はWbmであるから磁化の単位はWbm2となる

(高梨初等磁気工学講座)より

常磁性

磁極と磁気モーメント

磁石にはN極とS極がある

磁界中に置かれた磁性体にも磁極が誘起される磁極は必ずNSの対で現れる(単極は見つかっていない)

磁極の大きさをq [Wb]とすると磁界によってNSの対に働くトルクは-qdHsin [Nm]=qdsin [Wbm] H[Am]

必ずNとSが対で現れるならm=qrを磁性を扱う基本単

位と考えることが出来るこれを磁気モーメントという単位は[Wbm]

[参考2]

磁気モーメントの電子的起源

磁気モーメント

一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは

T=qH r sin=mH sin 磁気モーメントのもつポテンシャルEは

E=Td= mH sin d=mH(1-cos)

ポテンシャルの原点はどこにとってもよいから E=-mH mHのときエネルギーは極小になる

mはHに平行になろうとする(高梨初等磁気工学講座)より

r 磁気モーメント

m=qr [Wbm]

-q [Wb]

+q [Wb]

qH

-qH

rsin

単位E[J]=-m[Wbm] H[Am]

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 15: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

バンドと電子相関

通常のバンド計算では電子間の位置の相関を平均的なものに置き換える近似を行うので真の電子間相互作用は求まらない

バンドモデルが適用できるのは金属磁性体に限られるMnOやNiOのような絶縁性の磁性体を単純にバンド計算すると金属になってしまうこれは電子相関が考慮されていないからである

電子相関とはフントの規則のように電子同士のクーロン相互作用がスピンに依存することから生じるつまり同じ向きのスピンをもつ2つの電子は同じ軌道に入ることがないので重なりが小さくクーロン相互作用も小さいが逆向きスピンの2つの電子は同じ軌道を運動できるのでクーロン相互作用が強くなってエネルギー的に不安定になるため電子の移動を妨げる効果であるこの2つの状態の間のエネルギー差は電子相関エネルギーと呼ばれUで表され数eVのオーダーである

22 ハバードモデル

バンドモデルに電子相関を導入する手法がハバードモデルであるFig 3は横軸をUにとったとき電子のエネルギー準位がUに対しどのように変わるかを示した図であるここにはバンド幅で電子の移動のしやすさの尺度であるT0は満ちたバンドの平均エネルギーである

バンド幅が電子相関エネルギーに比べ十分小さなときすなわちUltlt2312のときは禁制帯が現れ系は絶縁体となるU0は局在性の強い極限で電子移動が起きるにはUだけ余分のエネルギーが必要であるこのため電子は原子付近に束縛され局在電子系として振る舞う

lower Hubbard band

upper Hubbard band

電荷移動型絶縁体

MnOは電荷移動型絶縁体と考えられているMn2+においては3d電子5個がスピンを揃えてlower Hubbard bandの5個の軌道を占有しているここに1個電子を付け加えようとすると逆向きのスピンを付け加えなければならないのでupper Hubbardbandに入り電子相関Uだけエネルギーを損する

実際には酸化物イオンのp軌道からなる価電子帯が満ちたバンドの頂にくるのでギャップはこの状態と3d電子系のupperHubbard bandの間に開いているこれを電荷移動型ギャップという

CT(電荷移動)ギャップ

Lower Hubbard band

Upper Hubbard band

電子相関U

23 局在電子モデル

原子の位置に局在した多電子系では通常フントの規則に従うように軌道角運動量とスピン角運動量が決められる

3d遷移金属イオンでは3d電子が配位子のp軌道と

混成し軌道角運動量はほぼ消失している

4f希土類では4f軌道は孤立原子内の状態とあまり変わらないので全角運動量がよい量子数である

局在電子系の磁性

常磁性体に誘起される平均の磁気モーメントは室温でB=100mTの磁界のもとでも10-2emucc程度の小さな量である

これに対して強磁性体では磁界を印加しなくても103emuccという大きな自発磁気モーメントを持っている

ワイスは原子の磁気モーメントが周りの磁気モーメントからの場(分子場)を受けて整列しているというモデルを立てて強磁性体の自発磁化を説明した

24 ワイスの分子場理論

1つの磁気モーメントを取り出しその周りにあるすべての磁気モーメントから生じた有効磁界によって考えている磁気モーメントが常磁性的に分極するならば自己完結的に強磁性が説明できる

これを分子場理論有効磁界を分子磁界または分子場(molecular field)と呼ぶ

Heff

周りからの磁場Heff=H+AMが働く磁化M

分子場理論

分子場係数

磁化Mをもつ磁性体に外部磁界Hが加わったときの有効磁界はHeff=H+AMと表されるAを分子場係数と呼ぶ

分子場係数AはJexを交換相互作用係数zを配位数としてA=2zJexN(gB)2で与えられる

この磁界によって生じる常磁性磁化MはM=M0BJ(gBHeffJkT)という式で表される

M0=NgBJはすべての磁気モーメントが整列したときに期待される磁化

分子場理論

自発磁化が生じる条件を求める

Heff=H+AMであるからH=0のときHeff=AM自発磁化が生じるにはHeff=AMを

M=M0BJ(gBHeffJkT)に代入して

MM0=BJ(gBJHeffkT)=BJ(gBJAMkT)が成立しなければならない

Aに分子場係数の式A=2zJexN(gB)2 を代入してMM0= BJ(2zJexgBMJ N(gB)2kT)

ここでM0=NgBJを使って書き直すとMM0= BJ((2zJexJ

2kT) MM0)を得る

MM0= BJ((2zJexJ2kT) MM0)を解く

y=MM0x=(2zJexJ2kT) MM0とすると上の方程式を解

くことは曲線y=BJ(x)と直線 y=x (2zJexJ2kT)を連立して

解くことと同じである

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

J=52のブリルアン関数

y=x (2zJexJ2kT) Tが小さいとき

解が存在する自発磁化あり

y=x (2zJexJ2kT) Tが大きいとき

解が存在しない自発磁化なし

キュリー温度においては直線はブリルアン関数の接線

温度が上がると

分子場理論

キュリー温度

温度が低いとき直線の傾斜はゆるくブリルアン曲線と直線ははy=MM0 =1付近で交わる

温度が上昇するとyの小さいところ交わる

高温になると0以外に交点を持たなくなる

(2zJexJ2kT) y=xの勾配とy=BJ(x)の接線の勾配

が等しいときがキュリー温度を与える

x=0付近ではyx3であるから3y=xと書ける従ってTcは2zJexJ

2kTc=3によってきまる即ちTc=2zJexJ

23kとなる

分子場理論

自発磁化の温度変化

さまざまなJについて分子場理論で交点のMM0をTに対してプロットすると磁化の温度変化を求めることができるニッケルの磁化温度曲線はJ=12でよく説明される timesは鉄はニッケルはコバルトの実測

値実線はJとしてスピンS=121infinをとった

ときの計算値

分子場理論

キュリーワイスの法則

キュリー温度Tc以上では磁気モーメントはバラバラ

の方向を向き常磁性になる分子場理論によればこのときの磁化率は次式で与えられる

この式をキュリーワイスの法則という

Cはワイス定数pは常磁性キュリー温度という

1をTに対してプロットすると1=(T- p)Cとなり横軸を横切る温度がpである

pT

C

分子場理論

キュリーワイスの法則を導く

Heff=H+AM

MHeff=CT (MとHeffの間にキュリーの法則が成立すると仮定する)

M(H+AM)=CTrarrMT=C(H+AM)従ってM(T-CA)=CHより

=MH=C(T-CA)となるCA=pと置けばキュリーワイスの法則が導かれるすなわち=C(T- p)

自発磁化の温度変化

強磁性体の自発磁化の大きさは温度上昇とともに減少しキュリー温度Tcにおいて消滅する

Tc以上では常磁性であ

る常磁性磁化率の逆数は温度に比例しゼロに外挿するとキュリー温度が求まる

25 交換相互作用(exchange interaction)

交換相互作用という言葉はもともとは多電子原子の中で働くクーロン相互作用の算出において電子同士を区別できないことから来るエネルギーの補正項のことで原子内交換相互作用といいます(intra-atomic exchange interaction)

この概念を原子間に拡張したのが原子間交換相互作用(inter-atomic exchangeinteraction)です

ウンチクコーナーイントラ(intra)とインター(inter) イントラは内部のといういみの接頭辞インターは複数のものの

間のという意味の接頭辞ですイントラネットインターネットということばもここから来ています

原子内交換相互作用

原子内交換相互作用は本質的にクーロン相互作用です2つの電子(波動関数を12とする)の間に働くクーロン相互作用のエネルギーHはH= K12-(12) J12(1+4s1s2) で表されます

K12は次式で与えられるクーロン積分です

J12は次式で与えられる交換積分で電子が区別できないことからくる項です

K dr dr r re

rr r12 1 2 1 1 2 2

2

12

1 1 2 2

J dr dr r re

rr r12 1 2 1 1 2 2

2

12

1 2 2 1

原子内交換相互作用

H= K12-(12) J12(1+4s1s2)

の固有値は=K12ndashJ12 (s1とs2が同符号のとき)= K12 ( s1とs2が異符号のとき)

Hと平均のエネルギー(H0=K12-J122)との差ndash2J12s1s2のことを原子内交換エネルギーという

K12

K12-J12

原子間交換相互作用

本来磁気秩序を考えるには物質系全体のスピンを考えねばならないのであるが電子の軌道が原子に局在しているみなして電子のスピンを各原子Iの位置に局在した全スピンSiで代表させて原子1の全スピンS1と原子2の全スピンS2との間に原子間交換相互作用が働くと考えるのがハイゼンベルグ模型であるこのとき交換エネルギーHex は原子内交換相互作用を一般化して見かけの交換積分J12を用いて

Hex =-2J12S1S2

で表されるJが正であれば相互作用は強磁性的負であれば反強磁性的である

交換相互作用

ハイゼンベルグ模型 Hex =-2J12S1S2

Jが正であれば相互作用は強磁性的負であれば反強磁性的

交換積分の起源隣接原子のスピン間の直接交換(direct exchange)

酸素などのアニオンのp電子軌道との混成を通してスピン同士がそろえあう超交換(superexchange)

伝導電子との相互作用を通じてそろえあう間接交換(indirect exchange)

電子の移動と磁性とが強く結びついている二重交換相互作用(double exchange)

さまざまな交換相互作用

直接交換

超交換

間接交換(RKKY)

二重交換

超交換相互作用

酸化物磁性体では局在電子系の磁気モーメントの間に働く相互作用は遷移金属の3d電子どうしの重なりで生じるのではなく配位子のp電子が遷移金属イオンの3d軌道に仮想的に遷

移した中間状態を介して相互作用するこれを超交換相互作用と称する主として反強磁性的に働く

酸素イオン

遷移金属イオン

超交換相互作用模式図

90度強磁性

180度反強磁性

(Goodenough)

アニオン

遷移金属イオン

アニオン

遷移金属イオン

(a)

(b)

Fig 9 超交換相互作用の模式図

間接交換(RKKY)相互作用

希土類金属の磁性は4f電子が担うが伝導電子である5d電子が4f電子と原子内交換相互作用することによってスピン偏極を受けこれが隣接の希土類原子のf電子と相互作用するという形の間接的な交換相互作用を行っていると考えられている

これをRKKY (Rudermann Kittel Kasuya Yoshida)相互作用という

伝導電子を介した局在スピン間の磁気的相互作用は距離に対して余弦関数的に振動しその周期は伝導電子のフェルミ波数で決められる

RKKY振動

フリーデル振動

21F

2

F

2

RKKY 29 SS

Rkf

N

NJH e

4

sincos

x

xxxxf

CoCu superlattice

Cu thickness (Aring)

磁気抵

抗比

図15

二重交換相互作用

LaMnO3ではすべてのMn原子は3価なので egバンドには1個の電子が存在しこの電子が隣接Mn原子のeg軌道に移動しようとすると電子相関エネルギーUだけのエネルギーが必要であるため電子移動は起きずモット絶縁体となっている

LaをSrで置き換え4価のMnが生じるとMn4+のeg軌道は空であるから他のMn3+から電子が移ることができ金属的な導電性を生じる

このとき隣接するMn原子の磁気モーメントのなす角とするとeg電子の飛び移りの確率はcos( 2)に比例する=0(スピンが平行)のとき飛び移りが最も起きやすく運動エネルギーの分だけエネルギーが下がるので強磁性となる

二重交換の模式図

Mn3+ Mn4+

3磁気ヒステリシス曲線と磁区

磁気ヒステリシスについて

反磁界と静磁エネルギー

磁気異方性

磁区と磁壁磁壁移動と磁化回転

保磁力

31 磁気ヒステリシス

強磁性体においてはその磁化は印加磁界に比例せずヒステリシスを示す

(高梨初等磁気工学講座テキスト)

OrarrBrarrC初磁化曲線

CrarrD 残留磁化

DrarrE 保磁力

CrarrDrarrErarrFrarrGrarrC

ヒステリシスループ

縦軸磁化

横軸磁界

[参考]

磁化曲線の測定法

磁性体を磁界中に置き磁界を増加していくと磁性体の磁化は増加していき次第に飽和する

磁化曲線は磁力計を使って測定する

VSM試料振動型磁力計試料を01~02mm程度のわずかな振幅で80Hz程度の低周波で振動させ試料の

磁化による磁束の時間変化を電磁石の磁極付近に置かれたサーチコイルに誘起された誘導起電力として検出する誘導起電力は試料の磁化に比例するので磁化を測定することができる

電磁石

磁極付近に置いたサーチコイル

スピーカーと同じ振動機構

[参考]

VSMブロック図

丸善実験物理学講座「磁気測定I」p68より

磁気ヒステリシスと応用

保磁力のちがいで用途が違う

Hc小軟質磁性体

磁気ヘッド変圧器鉄心磁気シールド

Hc中半硬質磁性体

磁気記録媒体

Hc大硬質磁性体

永久磁石このループの面積が磁石に蓄積される磁気エネルギー高周波の場合はヒステリシス損失となる

永久磁石の最大エネルギー積(BH)maxの変遷(httpwwwaacgbhamacukmagnetic_materialshistoryhtm)

BHmax

32 なぜ初磁化状態では磁化がないのか磁区(magnetic domain)

磁化が特定の方向を向くとするとN極からS極に向

かって磁力線が生じますこの磁力線は考えている試料の外を通っているだけでなく磁性体の内部も貫いていますこの磁力線を反磁界といいます反磁界の向きは磁化の向きとは反対向きなので磁化は回転する静磁力を受けて不安定となります

磁化の方向が逆方向の縞状の磁区と呼ばれる領域に分かれるならば反磁界がうち消し合って静磁エネルギーが低下して安定するのです

反磁界(demagnetization field)

磁性体表面の法線方向の磁化成分をMn とすると表面には単位面積あたり = Mnという大きさの磁極(Wbm2)が生じる

磁極からはガウスの定理によって全部で μ0の磁力線がわき出すこのうち反磁界係数Nを使って定義される磁力線NMは内部に向かっており残りは外側に向かっているすなわち磁石の内部ではMの向きとは逆方向の反磁界が存在する

外部では磁束線は磁力線に一致する

(b) 磁力線

M- +

(a)磁化と磁極 反磁界

S N

S N

(c) 磁束線

反磁界係数N (近角強磁性体の物理より)

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0

(i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+ Ny+ Nz=1

が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx= Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx= Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

x

y

z

z

x

y

z

x

y

Nz=1

Nx= 0Ny= 0

Nx= 12

Ny= 12

Nx=13

Ny=13

Nz=13

Nz=0

反磁界補正

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0 (i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+Ny+ Nz=1が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx=Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx=Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

(近角強磁性体の物理より)

反磁界と静磁エネルギー

磁化Mが反磁界HdのもとにおかれるとU=MHdだけポテンシャルエネルギーが高くなる

一様な磁界H中の磁気モーメントMに働くトルクTはT=-MH sin

磁気モーメントのもつポテンシャルEはU=Td= - 0

MH sin d=MH (1-cos) エネルギーの原点はどこにとってもよいのでポテンシャルエネルギーはU=-MHと表される H=-Hdを代入すると反磁界によるポテンシャルの増加はU=MHd

表面磁極の分割による静磁エネルギーの減少

結晶表面をxy面にとる

表面でz=0とする

磁区の磁化方向はplusmnz

磁区のx方向の幅d

磁極の表面密度=Is 2mdltxlt(2m+1)d

=-Is (2m+1)dltxlt2(m+1)d

磁気ポテンシャルをLaplaceの方程式で求め

+ +- -

z

x

y

d

境界条件( z)z=-0=20

境界条件のもとにラプラス方程式を解くと=n An sin n(d)xexp n(d)z

係数Anは次式を満たすように決められる(d) n nAn sin n(d)x =I20 2mdltxlt(2m+1)d

= - I20 (2m+1)dltxlt2(m+1)d

rarrAn=2Isd20n2

(x=0)=(2Isd20) n (1n2)sin n(d)x

単位表面積あたりの静磁エネルギー=(2Is

220) n (1n2)int0d sin n(d)x

=(2Is2d20) n=odd (1n3)=540104Is

2d

磁気異方性

磁性体は半導体と違って形状寸法結晶方位とか磁化の方位などによって物性が大きく変化する

1つの原因は上に述べた反磁界係数で形状磁気異方性と呼ばれます反磁界によるエネルギーの損を最小化することが原因です

このほかの原因として重要なのが結晶磁気異方性です結晶磁気異方性というのは磁界を結晶のどの方位に加えるかで磁化曲線が変化する性質です

電子軌道は結晶軸に結びついているので磁気的性質と電子軌道との結びつき(スピン軌道相互作用)を通じて磁性が結晶軸と結び

つくのです半導体にも詳しい測定をすると異方性を見ることができますこれに比べ一般に半導体の電子軌道は結晶全体に広がっているので平均化されて結晶軸に依存する物性が見えにくいです

結晶磁気異方性

磁化しやすさは結晶の方位に依存する

鉄は立方晶であるが[100]が容易軸[111]は困難軸

x

y

z

[111

]

[100

]

容易軸

困難軸

[110]

円板磁性体の磁区構造

全体が磁区に分かれることにより全体の磁化がなくなっているこれが初磁化状態である

磁区の内部では磁化は任意の方向をランダムに向いている訳ではない

磁化は結晶の方位と無関係な方向を向くことはできない磁性体には磁気異方性という性質があり磁化が特定の結晶軸方位(たとえばFeでは[001]方向および等価な方向)を向く性質がある

[001]容易軸では図のように(001)面内では[100][010][-100][0-10]の4つの方向を向くので90磁壁になる

[111]容易軸では

(a) (b)

(近角強磁性体の物理)

33 ヒステリシスを磁区で説明する

残留磁化状態 逆磁区の発生と成長

磁気飽和

核発生

34 さまざまな磁区とマイクロマグネティクス

Figは結晶の対称性により磁区が変わる様子の例として縞状磁区(stripe domain)と環流磁区(closure domain)を示している磁性体を微細化して直径1μm付近になるとスピンは面内に分布してvortex状態となり中心部に垂直方向のスピン成分をもつようになるさらに微細化すると単磁区になる

微小磁区のMFM観察

磁区の観察にはビッター法といって磁性微粒子を含むコロイドを磁性体上に滴下して光学顕微鏡で観察する方法が古くから使われているこのほか磁気光学顕微鏡ローレンツ電子顕微鏡磁気力顕微鏡走査型ホール顕微鏡走査型SQUID顕微鏡スピン偏極電子顕微鏡X線MCD顕微鏡などで観察することが可能であるFig 22にはいくつかの例について筆者のMFM観察結果を示す

10 nmtimes10 nmtimes10 nmMesh size

1Number of dot

200 nmtimes200 nmtimes100nm

Dot Size

Y directionEasy axis

02Damping constant(α)

-176times107 rad(sOe)Gyro magnetic constant(γ)

1000 ergcm3Anisotropic constant (Ku)

1times10-6 ergcm3Exchange field (A)

800 emucm3Saturation magnetization (Ms)

Hy = 10 kOe rarr 0 Oe

divM divMy

LLG 方程式を用いた

マイクロ磁気解析

Dot model

200 x 200thickness50 nm

Magnetic moment - dv M Force gradient

200 x 200thickness100 nm

90 degree walls propeller-like distortion

Calculation of a single dot

Spin structure

-divM

Isolated square dot

Force gradient image Spin distribution image

Four-dot system

Shift of the center occurs Reversal of chirality

MFM imagewith low-moment tip

(CoPtCr240Å in HV)

Spin distribution imagewith the force-gradientimage overlapped

Inversion of chirality

Comparison between MFM andsimulation of spin distribution

Simulation was carried outin the model structureconsisting of four squaredots with a dimension of200 nmtimes200 nmtimes20 nmwith 50nm separationbetween dots

The calculated spinstructure shows a closuredomain structure with the90-wall appears

The chirality of the spindirection in adjacent dots isopposite to each other asshown by white arrows

The Z-component force-gradient image taking intoaccount the tip-sampleinteraction is overlapped

Calculated magnetization configurationof Y-shaped permalloy dot

Calculation parametersWidth 300 nmThickness 100 nmEasy axis 0 ergcm3

x

y

z

Force gradient-divM

Force gradient(Magnified)

Experimental MFM images

bull Single domains appear in two armsbull Multi-domain of 4 chained closer-domains on the restbull Spin-flow at crossing region turns left in two steps

50

0n

m2

m

L

C

R

C

L

R

x

y

z

Calculated magnetization configurationsof Y-shaped permalloy mirror-dots

Calculation parametersWidth 200 nmThickness 40 nmEasy axis X 1000 ergcm3

Force gradient-divM

Single dot

Experimental MFM images

15 m

bull Calculated spin-flows similar to experimental resultbull Vortices with same chirality appear at the ends of all armsbull Chirality of adjacent dot shows a mirror-reflection

Easy axisEasy axis

Easy axis

Easy axis

-divM

4 おわりに

磁性特有のテクニカルタームがあるが慣れればそれほど難しいものではない

大部分の話は量子力学なしでも理解できる電磁気学の知識があればよい

応用につながるのは磁区磁壁の物理である

メゾスコピック系では量子的な現象が現れるこれが得意なスピン依存伝導現象をもたらす

[参考0]半導体磁性体誘電体

半導体と磁性体の対比

半導体 電子物性パラメータは基本的

にバンド構造で決まるキャリア密度は人為的に制御される

量子構造を考えない限り電子を古典粒子として有効質量近似で扱える

応用されるのは電子構造で決まる移動度などのミクロな電子物性である

電子物性が寸法方位形状にほとんど依存しない

単位系はCGSをもとにした実用単位系が使われる

磁性体 金属磁性体の磁性はスピン偏

極バンド構造で決まるが非金属磁性体の磁性は局在多電子系のフント則で決まる

交換相互作用スピン軌道相互作用など量子力学が基本

応用されるのは磁区により生じるヒステリシスに関連したマクロ磁気物性である

磁性は磁気異方性の影響を受け寸法方位形状により大幅に変化する

単位系が複雑でCGSとSIが混在して使われている

磁性体と誘電体の対比

磁性体

磁気モーメントμ(軸性ベクトル)

磁化M

自発磁化Ms

反磁界

磁気ヒステリシス

飽和磁化残留磁化保磁力

磁区(ドメイン)

キュリー温度

誘電体

電気双極子qr(極性ベクトル)

電気分極P

自発分極Ps

反電界

誘電ヒステリシス

飽和分極残留分極抗電界

分域(ドメイン)

キュリー温度

[参考1]

磁界磁束磁化

磁界(磁場)H磁束密度B磁化M

磁界H中に置かれた磁化Mの磁性体が磁束密

度は真空中の磁束密度に磁化による磁束密度を加えたものであるすなわちB=0H+M

B=0H B=0H+M

M

磁性体があると磁束密度が高くなる

真空中での磁束密度

磁化とは

物質に磁界を加えたとき物質の表面に磁極が生じ一時的に磁石のようになるがそのとき物質が磁化されたという

(b)(a)

(高梨初等磁気工学講座)より

磁化の定義

K番目の原子の1原子あ

たりの磁気モーメントをkとするときその単位体積についての総和k

を磁化Mと定義するM= k

磁気モーメントの単位はWbmであるから磁化の単位はWbm2となる

(高梨初等磁気工学講座)より

常磁性

磁極と磁気モーメント

磁石にはN極とS極がある

磁界中に置かれた磁性体にも磁極が誘起される磁極は必ずNSの対で現れる(単極は見つかっていない)

磁極の大きさをq [Wb]とすると磁界によってNSの対に働くトルクは-qdHsin [Nm]=qdsin [Wbm] H[Am]

必ずNとSが対で現れるならm=qrを磁性を扱う基本単

位と考えることが出来るこれを磁気モーメントという単位は[Wbm]

[参考2]

磁気モーメントの電子的起源

磁気モーメント

一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは

T=qH r sin=mH sin 磁気モーメントのもつポテンシャルEは

E=Td= mH sin d=mH(1-cos)

ポテンシャルの原点はどこにとってもよいから E=-mH mHのときエネルギーは極小になる

mはHに平行になろうとする(高梨初等磁気工学講座)より

r 磁気モーメント

m=qr [Wbm]

-q [Wb]

+q [Wb]

qH

-qH

rsin

単位E[J]=-m[Wbm] H[Am]

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 16: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

22 ハバードモデル

バンドモデルに電子相関を導入する手法がハバードモデルであるFig 3は横軸をUにとったとき電子のエネルギー準位がUに対しどのように変わるかを示した図であるここにはバンド幅で電子の移動のしやすさの尺度であるT0は満ちたバンドの平均エネルギーである

バンド幅が電子相関エネルギーに比べ十分小さなときすなわちUltlt2312のときは禁制帯が現れ系は絶縁体となるU0は局在性の強い極限で電子移動が起きるにはUだけ余分のエネルギーが必要であるこのため電子は原子付近に束縛され局在電子系として振る舞う

lower Hubbard band

upper Hubbard band

電荷移動型絶縁体

MnOは電荷移動型絶縁体と考えられているMn2+においては3d電子5個がスピンを揃えてlower Hubbard bandの5個の軌道を占有しているここに1個電子を付け加えようとすると逆向きのスピンを付け加えなければならないのでupper Hubbardbandに入り電子相関Uだけエネルギーを損する

実際には酸化物イオンのp軌道からなる価電子帯が満ちたバンドの頂にくるのでギャップはこの状態と3d電子系のupperHubbard bandの間に開いているこれを電荷移動型ギャップという

CT(電荷移動)ギャップ

Lower Hubbard band

Upper Hubbard band

電子相関U

23 局在電子モデル

原子の位置に局在した多電子系では通常フントの規則に従うように軌道角運動量とスピン角運動量が決められる

3d遷移金属イオンでは3d電子が配位子のp軌道と

混成し軌道角運動量はほぼ消失している

4f希土類では4f軌道は孤立原子内の状態とあまり変わらないので全角運動量がよい量子数である

局在電子系の磁性

常磁性体に誘起される平均の磁気モーメントは室温でB=100mTの磁界のもとでも10-2emucc程度の小さな量である

これに対して強磁性体では磁界を印加しなくても103emuccという大きな自発磁気モーメントを持っている

ワイスは原子の磁気モーメントが周りの磁気モーメントからの場(分子場)を受けて整列しているというモデルを立てて強磁性体の自発磁化を説明した

24 ワイスの分子場理論

1つの磁気モーメントを取り出しその周りにあるすべての磁気モーメントから生じた有効磁界によって考えている磁気モーメントが常磁性的に分極するならば自己完結的に強磁性が説明できる

これを分子場理論有効磁界を分子磁界または分子場(molecular field)と呼ぶ

Heff

周りからの磁場Heff=H+AMが働く磁化M

分子場理論

分子場係数

磁化Mをもつ磁性体に外部磁界Hが加わったときの有効磁界はHeff=H+AMと表されるAを分子場係数と呼ぶ

分子場係数AはJexを交換相互作用係数zを配位数としてA=2zJexN(gB)2で与えられる

この磁界によって生じる常磁性磁化MはM=M0BJ(gBHeffJkT)という式で表される

M0=NgBJはすべての磁気モーメントが整列したときに期待される磁化

分子場理論

自発磁化が生じる条件を求める

Heff=H+AMであるからH=0のときHeff=AM自発磁化が生じるにはHeff=AMを

M=M0BJ(gBHeffJkT)に代入して

MM0=BJ(gBJHeffkT)=BJ(gBJAMkT)が成立しなければならない

Aに分子場係数の式A=2zJexN(gB)2 を代入してMM0= BJ(2zJexgBMJ N(gB)2kT)

ここでM0=NgBJを使って書き直すとMM0= BJ((2zJexJ

2kT) MM0)を得る

MM0= BJ((2zJexJ2kT) MM0)を解く

y=MM0x=(2zJexJ2kT) MM0とすると上の方程式を解

くことは曲線y=BJ(x)と直線 y=x (2zJexJ2kT)を連立して

解くことと同じである

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

J=52のブリルアン関数

y=x (2zJexJ2kT) Tが小さいとき

解が存在する自発磁化あり

y=x (2zJexJ2kT) Tが大きいとき

解が存在しない自発磁化なし

キュリー温度においては直線はブリルアン関数の接線

温度が上がると

分子場理論

キュリー温度

温度が低いとき直線の傾斜はゆるくブリルアン曲線と直線ははy=MM0 =1付近で交わる

温度が上昇するとyの小さいところ交わる

高温になると0以外に交点を持たなくなる

(2zJexJ2kT) y=xの勾配とy=BJ(x)の接線の勾配

が等しいときがキュリー温度を与える

x=0付近ではyx3であるから3y=xと書ける従ってTcは2zJexJ

2kTc=3によってきまる即ちTc=2zJexJ

23kとなる

分子場理論

自発磁化の温度変化

さまざまなJについて分子場理論で交点のMM0をTに対してプロットすると磁化の温度変化を求めることができるニッケルの磁化温度曲線はJ=12でよく説明される timesは鉄はニッケルはコバルトの実測

値実線はJとしてスピンS=121infinをとった

ときの計算値

分子場理論

キュリーワイスの法則

キュリー温度Tc以上では磁気モーメントはバラバラ

の方向を向き常磁性になる分子場理論によればこのときの磁化率は次式で与えられる

この式をキュリーワイスの法則という

Cはワイス定数pは常磁性キュリー温度という

1をTに対してプロットすると1=(T- p)Cとなり横軸を横切る温度がpである

pT

C

分子場理論

キュリーワイスの法則を導く

Heff=H+AM

MHeff=CT (MとHeffの間にキュリーの法則が成立すると仮定する)

M(H+AM)=CTrarrMT=C(H+AM)従ってM(T-CA)=CHより

=MH=C(T-CA)となるCA=pと置けばキュリーワイスの法則が導かれるすなわち=C(T- p)

自発磁化の温度変化

強磁性体の自発磁化の大きさは温度上昇とともに減少しキュリー温度Tcにおいて消滅する

Tc以上では常磁性であ

る常磁性磁化率の逆数は温度に比例しゼロに外挿するとキュリー温度が求まる

25 交換相互作用(exchange interaction)

交換相互作用という言葉はもともとは多電子原子の中で働くクーロン相互作用の算出において電子同士を区別できないことから来るエネルギーの補正項のことで原子内交換相互作用といいます(intra-atomic exchange interaction)

この概念を原子間に拡張したのが原子間交換相互作用(inter-atomic exchangeinteraction)です

ウンチクコーナーイントラ(intra)とインター(inter) イントラは内部のといういみの接頭辞インターは複数のものの

間のという意味の接頭辞ですイントラネットインターネットということばもここから来ています

原子内交換相互作用

原子内交換相互作用は本質的にクーロン相互作用です2つの電子(波動関数を12とする)の間に働くクーロン相互作用のエネルギーHはH= K12-(12) J12(1+4s1s2) で表されます

K12は次式で与えられるクーロン積分です

J12は次式で与えられる交換積分で電子が区別できないことからくる項です

K dr dr r re

rr r12 1 2 1 1 2 2

2

12

1 1 2 2

J dr dr r re

rr r12 1 2 1 1 2 2

2

12

1 2 2 1

原子内交換相互作用

H= K12-(12) J12(1+4s1s2)

の固有値は=K12ndashJ12 (s1とs2が同符号のとき)= K12 ( s1とs2が異符号のとき)

Hと平均のエネルギー(H0=K12-J122)との差ndash2J12s1s2のことを原子内交換エネルギーという

K12

K12-J12

原子間交換相互作用

本来磁気秩序を考えるには物質系全体のスピンを考えねばならないのであるが電子の軌道が原子に局在しているみなして電子のスピンを各原子Iの位置に局在した全スピンSiで代表させて原子1の全スピンS1と原子2の全スピンS2との間に原子間交換相互作用が働くと考えるのがハイゼンベルグ模型であるこのとき交換エネルギーHex は原子内交換相互作用を一般化して見かけの交換積分J12を用いて

Hex =-2J12S1S2

で表されるJが正であれば相互作用は強磁性的負であれば反強磁性的である

交換相互作用

ハイゼンベルグ模型 Hex =-2J12S1S2

Jが正であれば相互作用は強磁性的負であれば反強磁性的

交換積分の起源隣接原子のスピン間の直接交換(direct exchange)

酸素などのアニオンのp電子軌道との混成を通してスピン同士がそろえあう超交換(superexchange)

伝導電子との相互作用を通じてそろえあう間接交換(indirect exchange)

電子の移動と磁性とが強く結びついている二重交換相互作用(double exchange)

さまざまな交換相互作用

直接交換

超交換

間接交換(RKKY)

二重交換

超交換相互作用

酸化物磁性体では局在電子系の磁気モーメントの間に働く相互作用は遷移金属の3d電子どうしの重なりで生じるのではなく配位子のp電子が遷移金属イオンの3d軌道に仮想的に遷

移した中間状態を介して相互作用するこれを超交換相互作用と称する主として反強磁性的に働く

酸素イオン

遷移金属イオン

超交換相互作用模式図

90度強磁性

180度反強磁性

(Goodenough)

アニオン

遷移金属イオン

アニオン

遷移金属イオン

(a)

(b)

Fig 9 超交換相互作用の模式図

間接交換(RKKY)相互作用

希土類金属の磁性は4f電子が担うが伝導電子である5d電子が4f電子と原子内交換相互作用することによってスピン偏極を受けこれが隣接の希土類原子のf電子と相互作用するという形の間接的な交換相互作用を行っていると考えられている

これをRKKY (Rudermann Kittel Kasuya Yoshida)相互作用という

伝導電子を介した局在スピン間の磁気的相互作用は距離に対して余弦関数的に振動しその周期は伝導電子のフェルミ波数で決められる

RKKY振動

フリーデル振動

21F

2

F

2

RKKY 29 SS

Rkf

N

NJH e

4

sincos

x

xxxxf

CoCu superlattice

Cu thickness (Aring)

磁気抵

抗比

図15

二重交換相互作用

LaMnO3ではすべてのMn原子は3価なので egバンドには1個の電子が存在しこの電子が隣接Mn原子のeg軌道に移動しようとすると電子相関エネルギーUだけのエネルギーが必要であるため電子移動は起きずモット絶縁体となっている

LaをSrで置き換え4価のMnが生じるとMn4+のeg軌道は空であるから他のMn3+から電子が移ることができ金属的な導電性を生じる

このとき隣接するMn原子の磁気モーメントのなす角とするとeg電子の飛び移りの確率はcos( 2)に比例する=0(スピンが平行)のとき飛び移りが最も起きやすく運動エネルギーの分だけエネルギーが下がるので強磁性となる

二重交換の模式図

Mn3+ Mn4+

3磁気ヒステリシス曲線と磁区

磁気ヒステリシスについて

反磁界と静磁エネルギー

磁気異方性

磁区と磁壁磁壁移動と磁化回転

保磁力

31 磁気ヒステリシス

強磁性体においてはその磁化は印加磁界に比例せずヒステリシスを示す

(高梨初等磁気工学講座テキスト)

OrarrBrarrC初磁化曲線

CrarrD 残留磁化

DrarrE 保磁力

CrarrDrarrErarrFrarrGrarrC

ヒステリシスループ

縦軸磁化

横軸磁界

[参考]

磁化曲線の測定法

磁性体を磁界中に置き磁界を増加していくと磁性体の磁化は増加していき次第に飽和する

磁化曲線は磁力計を使って測定する

VSM試料振動型磁力計試料を01~02mm程度のわずかな振幅で80Hz程度の低周波で振動させ試料の

磁化による磁束の時間変化を電磁石の磁極付近に置かれたサーチコイルに誘起された誘導起電力として検出する誘導起電力は試料の磁化に比例するので磁化を測定することができる

電磁石

磁極付近に置いたサーチコイル

スピーカーと同じ振動機構

[参考]

VSMブロック図

丸善実験物理学講座「磁気測定I」p68より

磁気ヒステリシスと応用

保磁力のちがいで用途が違う

Hc小軟質磁性体

磁気ヘッド変圧器鉄心磁気シールド

Hc中半硬質磁性体

磁気記録媒体

Hc大硬質磁性体

永久磁石このループの面積が磁石に蓄積される磁気エネルギー高周波の場合はヒステリシス損失となる

永久磁石の最大エネルギー積(BH)maxの変遷(httpwwwaacgbhamacukmagnetic_materialshistoryhtm)

BHmax

32 なぜ初磁化状態では磁化がないのか磁区(magnetic domain)

磁化が特定の方向を向くとするとN極からS極に向

かって磁力線が生じますこの磁力線は考えている試料の外を通っているだけでなく磁性体の内部も貫いていますこの磁力線を反磁界といいます反磁界の向きは磁化の向きとは反対向きなので磁化は回転する静磁力を受けて不安定となります

磁化の方向が逆方向の縞状の磁区と呼ばれる領域に分かれるならば反磁界がうち消し合って静磁エネルギーが低下して安定するのです

反磁界(demagnetization field)

磁性体表面の法線方向の磁化成分をMn とすると表面には単位面積あたり = Mnという大きさの磁極(Wbm2)が生じる

磁極からはガウスの定理によって全部で μ0の磁力線がわき出すこのうち反磁界係数Nを使って定義される磁力線NMは内部に向かっており残りは外側に向かっているすなわち磁石の内部ではMの向きとは逆方向の反磁界が存在する

外部では磁束線は磁力線に一致する

(b) 磁力線

M- +

(a)磁化と磁極 反磁界

S N

S N

(c) 磁束線

反磁界係数N (近角強磁性体の物理より)

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0

(i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+ Ny+ Nz=1

が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx= Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx= Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

x

y

z

z

x

y

z

x

y

Nz=1

Nx= 0Ny= 0

Nx= 12

Ny= 12

Nx=13

Ny=13

Nz=13

Nz=0

反磁界補正

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0 (i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+Ny+ Nz=1が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx=Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx=Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

(近角強磁性体の物理より)

反磁界と静磁エネルギー

磁化Mが反磁界HdのもとにおかれるとU=MHdだけポテンシャルエネルギーが高くなる

一様な磁界H中の磁気モーメントMに働くトルクTはT=-MH sin

磁気モーメントのもつポテンシャルEはU=Td= - 0

MH sin d=MH (1-cos) エネルギーの原点はどこにとってもよいのでポテンシャルエネルギーはU=-MHと表される H=-Hdを代入すると反磁界によるポテンシャルの増加はU=MHd

表面磁極の分割による静磁エネルギーの減少

結晶表面をxy面にとる

表面でz=0とする

磁区の磁化方向はplusmnz

磁区のx方向の幅d

磁極の表面密度=Is 2mdltxlt(2m+1)d

=-Is (2m+1)dltxlt2(m+1)d

磁気ポテンシャルをLaplaceの方程式で求め

+ +- -

z

x

y

d

境界条件( z)z=-0=20

境界条件のもとにラプラス方程式を解くと=n An sin n(d)xexp n(d)z

係数Anは次式を満たすように決められる(d) n nAn sin n(d)x =I20 2mdltxlt(2m+1)d

= - I20 (2m+1)dltxlt2(m+1)d

rarrAn=2Isd20n2

(x=0)=(2Isd20) n (1n2)sin n(d)x

単位表面積あたりの静磁エネルギー=(2Is

220) n (1n2)int0d sin n(d)x

=(2Is2d20) n=odd (1n3)=540104Is

2d

磁気異方性

磁性体は半導体と違って形状寸法結晶方位とか磁化の方位などによって物性が大きく変化する

1つの原因は上に述べた反磁界係数で形状磁気異方性と呼ばれます反磁界によるエネルギーの損を最小化することが原因です

このほかの原因として重要なのが結晶磁気異方性です結晶磁気異方性というのは磁界を結晶のどの方位に加えるかで磁化曲線が変化する性質です

電子軌道は結晶軸に結びついているので磁気的性質と電子軌道との結びつき(スピン軌道相互作用)を通じて磁性が結晶軸と結び

つくのです半導体にも詳しい測定をすると異方性を見ることができますこれに比べ一般に半導体の電子軌道は結晶全体に広がっているので平均化されて結晶軸に依存する物性が見えにくいです

結晶磁気異方性

磁化しやすさは結晶の方位に依存する

鉄は立方晶であるが[100]が容易軸[111]は困難軸

x

y

z

[111

]

[100

]

容易軸

困難軸

[110]

円板磁性体の磁区構造

全体が磁区に分かれることにより全体の磁化がなくなっているこれが初磁化状態である

磁区の内部では磁化は任意の方向をランダムに向いている訳ではない

磁化は結晶の方位と無関係な方向を向くことはできない磁性体には磁気異方性という性質があり磁化が特定の結晶軸方位(たとえばFeでは[001]方向および等価な方向)を向く性質がある

[001]容易軸では図のように(001)面内では[100][010][-100][0-10]の4つの方向を向くので90磁壁になる

[111]容易軸では

(a) (b)

(近角強磁性体の物理)

33 ヒステリシスを磁区で説明する

残留磁化状態 逆磁区の発生と成長

磁気飽和

核発生

34 さまざまな磁区とマイクロマグネティクス

Figは結晶の対称性により磁区が変わる様子の例として縞状磁区(stripe domain)と環流磁区(closure domain)を示している磁性体を微細化して直径1μm付近になるとスピンは面内に分布してvortex状態となり中心部に垂直方向のスピン成分をもつようになるさらに微細化すると単磁区になる

微小磁区のMFM観察

磁区の観察にはビッター法といって磁性微粒子を含むコロイドを磁性体上に滴下して光学顕微鏡で観察する方法が古くから使われているこのほか磁気光学顕微鏡ローレンツ電子顕微鏡磁気力顕微鏡走査型ホール顕微鏡走査型SQUID顕微鏡スピン偏極電子顕微鏡X線MCD顕微鏡などで観察することが可能であるFig 22にはいくつかの例について筆者のMFM観察結果を示す

10 nmtimes10 nmtimes10 nmMesh size

1Number of dot

200 nmtimes200 nmtimes100nm

Dot Size

Y directionEasy axis

02Damping constant(α)

-176times107 rad(sOe)Gyro magnetic constant(γ)

1000 ergcm3Anisotropic constant (Ku)

1times10-6 ergcm3Exchange field (A)

800 emucm3Saturation magnetization (Ms)

Hy = 10 kOe rarr 0 Oe

divM divMy

LLG 方程式を用いた

マイクロ磁気解析

Dot model

200 x 200thickness50 nm

Magnetic moment - dv M Force gradient

200 x 200thickness100 nm

90 degree walls propeller-like distortion

Calculation of a single dot

Spin structure

-divM

Isolated square dot

Force gradient image Spin distribution image

Four-dot system

Shift of the center occurs Reversal of chirality

MFM imagewith low-moment tip

(CoPtCr240Å in HV)

Spin distribution imagewith the force-gradientimage overlapped

Inversion of chirality

Comparison between MFM andsimulation of spin distribution

Simulation was carried outin the model structureconsisting of four squaredots with a dimension of200 nmtimes200 nmtimes20 nmwith 50nm separationbetween dots

The calculated spinstructure shows a closuredomain structure with the90-wall appears

The chirality of the spindirection in adjacent dots isopposite to each other asshown by white arrows

The Z-component force-gradient image taking intoaccount the tip-sampleinteraction is overlapped

Calculated magnetization configurationof Y-shaped permalloy dot

Calculation parametersWidth 300 nmThickness 100 nmEasy axis 0 ergcm3

x

y

z

Force gradient-divM

Force gradient(Magnified)

Experimental MFM images

bull Single domains appear in two armsbull Multi-domain of 4 chained closer-domains on the restbull Spin-flow at crossing region turns left in two steps

50

0n

m2

m

L

C

R

C

L

R

x

y

z

Calculated magnetization configurationsof Y-shaped permalloy mirror-dots

Calculation parametersWidth 200 nmThickness 40 nmEasy axis X 1000 ergcm3

Force gradient-divM

Single dot

Experimental MFM images

15 m

bull Calculated spin-flows similar to experimental resultbull Vortices with same chirality appear at the ends of all armsbull Chirality of adjacent dot shows a mirror-reflection

Easy axisEasy axis

Easy axis

Easy axis

-divM

4 おわりに

磁性特有のテクニカルタームがあるが慣れればそれほど難しいものではない

大部分の話は量子力学なしでも理解できる電磁気学の知識があればよい

応用につながるのは磁区磁壁の物理である

メゾスコピック系では量子的な現象が現れるこれが得意なスピン依存伝導現象をもたらす

[参考0]半導体磁性体誘電体

半導体と磁性体の対比

半導体 電子物性パラメータは基本的

にバンド構造で決まるキャリア密度は人為的に制御される

量子構造を考えない限り電子を古典粒子として有効質量近似で扱える

応用されるのは電子構造で決まる移動度などのミクロな電子物性である

電子物性が寸法方位形状にほとんど依存しない

単位系はCGSをもとにした実用単位系が使われる

磁性体 金属磁性体の磁性はスピン偏

極バンド構造で決まるが非金属磁性体の磁性は局在多電子系のフント則で決まる

交換相互作用スピン軌道相互作用など量子力学が基本

応用されるのは磁区により生じるヒステリシスに関連したマクロ磁気物性である

磁性は磁気異方性の影響を受け寸法方位形状により大幅に変化する

単位系が複雑でCGSとSIが混在して使われている

磁性体と誘電体の対比

磁性体

磁気モーメントμ(軸性ベクトル)

磁化M

自発磁化Ms

反磁界

磁気ヒステリシス

飽和磁化残留磁化保磁力

磁区(ドメイン)

キュリー温度

誘電体

電気双極子qr(極性ベクトル)

電気分極P

自発分極Ps

反電界

誘電ヒステリシス

飽和分極残留分極抗電界

分域(ドメイン)

キュリー温度

[参考1]

磁界磁束磁化

磁界(磁場)H磁束密度B磁化M

磁界H中に置かれた磁化Mの磁性体が磁束密

度は真空中の磁束密度に磁化による磁束密度を加えたものであるすなわちB=0H+M

B=0H B=0H+M

M

磁性体があると磁束密度が高くなる

真空中での磁束密度

磁化とは

物質に磁界を加えたとき物質の表面に磁極が生じ一時的に磁石のようになるがそのとき物質が磁化されたという

(b)(a)

(高梨初等磁気工学講座)より

磁化の定義

K番目の原子の1原子あ

たりの磁気モーメントをkとするときその単位体積についての総和k

を磁化Mと定義するM= k

磁気モーメントの単位はWbmであるから磁化の単位はWbm2となる

(高梨初等磁気工学講座)より

常磁性

磁極と磁気モーメント

磁石にはN極とS極がある

磁界中に置かれた磁性体にも磁極が誘起される磁極は必ずNSの対で現れる(単極は見つかっていない)

磁極の大きさをq [Wb]とすると磁界によってNSの対に働くトルクは-qdHsin [Nm]=qdsin [Wbm] H[Am]

必ずNとSが対で現れるならm=qrを磁性を扱う基本単

位と考えることが出来るこれを磁気モーメントという単位は[Wbm]

[参考2]

磁気モーメントの電子的起源

磁気モーメント

一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは

T=qH r sin=mH sin 磁気モーメントのもつポテンシャルEは

E=Td= mH sin d=mH(1-cos)

ポテンシャルの原点はどこにとってもよいから E=-mH mHのときエネルギーは極小になる

mはHに平行になろうとする(高梨初等磁気工学講座)より

r 磁気モーメント

m=qr [Wbm]

-q [Wb]

+q [Wb]

qH

-qH

rsin

単位E[J]=-m[Wbm] H[Am]

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 17: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

電荷移動型絶縁体

MnOは電荷移動型絶縁体と考えられているMn2+においては3d電子5個がスピンを揃えてlower Hubbard bandの5個の軌道を占有しているここに1個電子を付け加えようとすると逆向きのスピンを付け加えなければならないのでupper Hubbardbandに入り電子相関Uだけエネルギーを損する

実際には酸化物イオンのp軌道からなる価電子帯が満ちたバンドの頂にくるのでギャップはこの状態と3d電子系のupperHubbard bandの間に開いているこれを電荷移動型ギャップという

CT(電荷移動)ギャップ

Lower Hubbard band

Upper Hubbard band

電子相関U

23 局在電子モデル

原子の位置に局在した多電子系では通常フントの規則に従うように軌道角運動量とスピン角運動量が決められる

3d遷移金属イオンでは3d電子が配位子のp軌道と

混成し軌道角運動量はほぼ消失している

4f希土類では4f軌道は孤立原子内の状態とあまり変わらないので全角運動量がよい量子数である

局在電子系の磁性

常磁性体に誘起される平均の磁気モーメントは室温でB=100mTの磁界のもとでも10-2emucc程度の小さな量である

これに対して強磁性体では磁界を印加しなくても103emuccという大きな自発磁気モーメントを持っている

ワイスは原子の磁気モーメントが周りの磁気モーメントからの場(分子場)を受けて整列しているというモデルを立てて強磁性体の自発磁化を説明した

24 ワイスの分子場理論

1つの磁気モーメントを取り出しその周りにあるすべての磁気モーメントから生じた有効磁界によって考えている磁気モーメントが常磁性的に分極するならば自己完結的に強磁性が説明できる

これを分子場理論有効磁界を分子磁界または分子場(molecular field)と呼ぶ

Heff

周りからの磁場Heff=H+AMが働く磁化M

分子場理論

分子場係数

磁化Mをもつ磁性体に外部磁界Hが加わったときの有効磁界はHeff=H+AMと表されるAを分子場係数と呼ぶ

分子場係数AはJexを交換相互作用係数zを配位数としてA=2zJexN(gB)2で与えられる

この磁界によって生じる常磁性磁化MはM=M0BJ(gBHeffJkT)という式で表される

M0=NgBJはすべての磁気モーメントが整列したときに期待される磁化

分子場理論

自発磁化が生じる条件を求める

Heff=H+AMであるからH=0のときHeff=AM自発磁化が生じるにはHeff=AMを

M=M0BJ(gBHeffJkT)に代入して

MM0=BJ(gBJHeffkT)=BJ(gBJAMkT)が成立しなければならない

Aに分子場係数の式A=2zJexN(gB)2 を代入してMM0= BJ(2zJexgBMJ N(gB)2kT)

ここでM0=NgBJを使って書き直すとMM0= BJ((2zJexJ

2kT) MM0)を得る

MM0= BJ((2zJexJ2kT) MM0)を解く

y=MM0x=(2zJexJ2kT) MM0とすると上の方程式を解

くことは曲線y=BJ(x)と直線 y=x (2zJexJ2kT)を連立して

解くことと同じである

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

J=52のブリルアン関数

y=x (2zJexJ2kT) Tが小さいとき

解が存在する自発磁化あり

y=x (2zJexJ2kT) Tが大きいとき

解が存在しない自発磁化なし

キュリー温度においては直線はブリルアン関数の接線

温度が上がると

分子場理論

キュリー温度

温度が低いとき直線の傾斜はゆるくブリルアン曲線と直線ははy=MM0 =1付近で交わる

温度が上昇するとyの小さいところ交わる

高温になると0以外に交点を持たなくなる

(2zJexJ2kT) y=xの勾配とy=BJ(x)の接線の勾配

が等しいときがキュリー温度を与える

x=0付近ではyx3であるから3y=xと書ける従ってTcは2zJexJ

2kTc=3によってきまる即ちTc=2zJexJ

23kとなる

分子場理論

自発磁化の温度変化

さまざまなJについて分子場理論で交点のMM0をTに対してプロットすると磁化の温度変化を求めることができるニッケルの磁化温度曲線はJ=12でよく説明される timesは鉄はニッケルはコバルトの実測

値実線はJとしてスピンS=121infinをとった

ときの計算値

分子場理論

キュリーワイスの法則

キュリー温度Tc以上では磁気モーメントはバラバラ

の方向を向き常磁性になる分子場理論によればこのときの磁化率は次式で与えられる

この式をキュリーワイスの法則という

Cはワイス定数pは常磁性キュリー温度という

1をTに対してプロットすると1=(T- p)Cとなり横軸を横切る温度がpである

pT

C

分子場理論

キュリーワイスの法則を導く

Heff=H+AM

MHeff=CT (MとHeffの間にキュリーの法則が成立すると仮定する)

M(H+AM)=CTrarrMT=C(H+AM)従ってM(T-CA)=CHより

=MH=C(T-CA)となるCA=pと置けばキュリーワイスの法則が導かれるすなわち=C(T- p)

自発磁化の温度変化

強磁性体の自発磁化の大きさは温度上昇とともに減少しキュリー温度Tcにおいて消滅する

Tc以上では常磁性であ

る常磁性磁化率の逆数は温度に比例しゼロに外挿するとキュリー温度が求まる

25 交換相互作用(exchange interaction)

交換相互作用という言葉はもともとは多電子原子の中で働くクーロン相互作用の算出において電子同士を区別できないことから来るエネルギーの補正項のことで原子内交換相互作用といいます(intra-atomic exchange interaction)

この概念を原子間に拡張したのが原子間交換相互作用(inter-atomic exchangeinteraction)です

ウンチクコーナーイントラ(intra)とインター(inter) イントラは内部のといういみの接頭辞インターは複数のものの

間のという意味の接頭辞ですイントラネットインターネットということばもここから来ています

原子内交換相互作用

原子内交換相互作用は本質的にクーロン相互作用です2つの電子(波動関数を12とする)の間に働くクーロン相互作用のエネルギーHはH= K12-(12) J12(1+4s1s2) で表されます

K12は次式で与えられるクーロン積分です

J12は次式で与えられる交換積分で電子が区別できないことからくる項です

K dr dr r re

rr r12 1 2 1 1 2 2

2

12

1 1 2 2

J dr dr r re

rr r12 1 2 1 1 2 2

2

12

1 2 2 1

原子内交換相互作用

H= K12-(12) J12(1+4s1s2)

の固有値は=K12ndashJ12 (s1とs2が同符号のとき)= K12 ( s1とs2が異符号のとき)

Hと平均のエネルギー(H0=K12-J122)との差ndash2J12s1s2のことを原子内交換エネルギーという

K12

K12-J12

原子間交換相互作用

本来磁気秩序を考えるには物質系全体のスピンを考えねばならないのであるが電子の軌道が原子に局在しているみなして電子のスピンを各原子Iの位置に局在した全スピンSiで代表させて原子1の全スピンS1と原子2の全スピンS2との間に原子間交換相互作用が働くと考えるのがハイゼンベルグ模型であるこのとき交換エネルギーHex は原子内交換相互作用を一般化して見かけの交換積分J12を用いて

Hex =-2J12S1S2

で表されるJが正であれば相互作用は強磁性的負であれば反強磁性的である

交換相互作用

ハイゼンベルグ模型 Hex =-2J12S1S2

Jが正であれば相互作用は強磁性的負であれば反強磁性的

交換積分の起源隣接原子のスピン間の直接交換(direct exchange)

酸素などのアニオンのp電子軌道との混成を通してスピン同士がそろえあう超交換(superexchange)

伝導電子との相互作用を通じてそろえあう間接交換(indirect exchange)

電子の移動と磁性とが強く結びついている二重交換相互作用(double exchange)

さまざまな交換相互作用

直接交換

超交換

間接交換(RKKY)

二重交換

超交換相互作用

酸化物磁性体では局在電子系の磁気モーメントの間に働く相互作用は遷移金属の3d電子どうしの重なりで生じるのではなく配位子のp電子が遷移金属イオンの3d軌道に仮想的に遷

移した中間状態を介して相互作用するこれを超交換相互作用と称する主として反強磁性的に働く

酸素イオン

遷移金属イオン

超交換相互作用模式図

90度強磁性

180度反強磁性

(Goodenough)

アニオン

遷移金属イオン

アニオン

遷移金属イオン

(a)

(b)

Fig 9 超交換相互作用の模式図

間接交換(RKKY)相互作用

希土類金属の磁性は4f電子が担うが伝導電子である5d電子が4f電子と原子内交換相互作用することによってスピン偏極を受けこれが隣接の希土類原子のf電子と相互作用するという形の間接的な交換相互作用を行っていると考えられている

これをRKKY (Rudermann Kittel Kasuya Yoshida)相互作用という

伝導電子を介した局在スピン間の磁気的相互作用は距離に対して余弦関数的に振動しその周期は伝導電子のフェルミ波数で決められる

RKKY振動

フリーデル振動

21F

2

F

2

RKKY 29 SS

Rkf

N

NJH e

4

sincos

x

xxxxf

CoCu superlattice

Cu thickness (Aring)

磁気抵

抗比

図15

二重交換相互作用

LaMnO3ではすべてのMn原子は3価なので egバンドには1個の電子が存在しこの電子が隣接Mn原子のeg軌道に移動しようとすると電子相関エネルギーUだけのエネルギーが必要であるため電子移動は起きずモット絶縁体となっている

LaをSrで置き換え4価のMnが生じるとMn4+のeg軌道は空であるから他のMn3+から電子が移ることができ金属的な導電性を生じる

このとき隣接するMn原子の磁気モーメントのなす角とするとeg電子の飛び移りの確率はcos( 2)に比例する=0(スピンが平行)のとき飛び移りが最も起きやすく運動エネルギーの分だけエネルギーが下がるので強磁性となる

二重交換の模式図

Mn3+ Mn4+

3磁気ヒステリシス曲線と磁区

磁気ヒステリシスについて

反磁界と静磁エネルギー

磁気異方性

磁区と磁壁磁壁移動と磁化回転

保磁力

31 磁気ヒステリシス

強磁性体においてはその磁化は印加磁界に比例せずヒステリシスを示す

(高梨初等磁気工学講座テキスト)

OrarrBrarrC初磁化曲線

CrarrD 残留磁化

DrarrE 保磁力

CrarrDrarrErarrFrarrGrarrC

ヒステリシスループ

縦軸磁化

横軸磁界

[参考]

磁化曲線の測定法

磁性体を磁界中に置き磁界を増加していくと磁性体の磁化は増加していき次第に飽和する

磁化曲線は磁力計を使って測定する

VSM試料振動型磁力計試料を01~02mm程度のわずかな振幅で80Hz程度の低周波で振動させ試料の

磁化による磁束の時間変化を電磁石の磁極付近に置かれたサーチコイルに誘起された誘導起電力として検出する誘導起電力は試料の磁化に比例するので磁化を測定することができる

電磁石

磁極付近に置いたサーチコイル

スピーカーと同じ振動機構

[参考]

VSMブロック図

丸善実験物理学講座「磁気測定I」p68より

磁気ヒステリシスと応用

保磁力のちがいで用途が違う

Hc小軟質磁性体

磁気ヘッド変圧器鉄心磁気シールド

Hc中半硬質磁性体

磁気記録媒体

Hc大硬質磁性体

永久磁石このループの面積が磁石に蓄積される磁気エネルギー高周波の場合はヒステリシス損失となる

永久磁石の最大エネルギー積(BH)maxの変遷(httpwwwaacgbhamacukmagnetic_materialshistoryhtm)

BHmax

32 なぜ初磁化状態では磁化がないのか磁区(magnetic domain)

磁化が特定の方向を向くとするとN極からS極に向

かって磁力線が生じますこの磁力線は考えている試料の外を通っているだけでなく磁性体の内部も貫いていますこの磁力線を反磁界といいます反磁界の向きは磁化の向きとは反対向きなので磁化は回転する静磁力を受けて不安定となります

磁化の方向が逆方向の縞状の磁区と呼ばれる領域に分かれるならば反磁界がうち消し合って静磁エネルギーが低下して安定するのです

反磁界(demagnetization field)

磁性体表面の法線方向の磁化成分をMn とすると表面には単位面積あたり = Mnという大きさの磁極(Wbm2)が生じる

磁極からはガウスの定理によって全部で μ0の磁力線がわき出すこのうち反磁界係数Nを使って定義される磁力線NMは内部に向かっており残りは外側に向かっているすなわち磁石の内部ではMの向きとは逆方向の反磁界が存在する

外部では磁束線は磁力線に一致する

(b) 磁力線

M- +

(a)磁化と磁極 反磁界

S N

S N

(c) 磁束線

反磁界係数N (近角強磁性体の物理より)

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0

(i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+ Ny+ Nz=1

が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx= Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx= Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

x

y

z

z

x

y

z

x

y

Nz=1

Nx= 0Ny= 0

Nx= 12

Ny= 12

Nx=13

Ny=13

Nz=13

Nz=0

反磁界補正

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0 (i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+Ny+ Nz=1が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx=Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx=Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

(近角強磁性体の物理より)

反磁界と静磁エネルギー

磁化Mが反磁界HdのもとにおかれるとU=MHdだけポテンシャルエネルギーが高くなる

一様な磁界H中の磁気モーメントMに働くトルクTはT=-MH sin

磁気モーメントのもつポテンシャルEはU=Td= - 0

MH sin d=MH (1-cos) エネルギーの原点はどこにとってもよいのでポテンシャルエネルギーはU=-MHと表される H=-Hdを代入すると反磁界によるポテンシャルの増加はU=MHd

表面磁極の分割による静磁エネルギーの減少

結晶表面をxy面にとる

表面でz=0とする

磁区の磁化方向はplusmnz

磁区のx方向の幅d

磁極の表面密度=Is 2mdltxlt(2m+1)d

=-Is (2m+1)dltxlt2(m+1)d

磁気ポテンシャルをLaplaceの方程式で求め

+ +- -

z

x

y

d

境界条件( z)z=-0=20

境界条件のもとにラプラス方程式を解くと=n An sin n(d)xexp n(d)z

係数Anは次式を満たすように決められる(d) n nAn sin n(d)x =I20 2mdltxlt(2m+1)d

= - I20 (2m+1)dltxlt2(m+1)d

rarrAn=2Isd20n2

(x=0)=(2Isd20) n (1n2)sin n(d)x

単位表面積あたりの静磁エネルギー=(2Is

220) n (1n2)int0d sin n(d)x

=(2Is2d20) n=odd (1n3)=540104Is

2d

磁気異方性

磁性体は半導体と違って形状寸法結晶方位とか磁化の方位などによって物性が大きく変化する

1つの原因は上に述べた反磁界係数で形状磁気異方性と呼ばれます反磁界によるエネルギーの損を最小化することが原因です

このほかの原因として重要なのが結晶磁気異方性です結晶磁気異方性というのは磁界を結晶のどの方位に加えるかで磁化曲線が変化する性質です

電子軌道は結晶軸に結びついているので磁気的性質と電子軌道との結びつき(スピン軌道相互作用)を通じて磁性が結晶軸と結び

つくのです半導体にも詳しい測定をすると異方性を見ることができますこれに比べ一般に半導体の電子軌道は結晶全体に広がっているので平均化されて結晶軸に依存する物性が見えにくいです

結晶磁気異方性

磁化しやすさは結晶の方位に依存する

鉄は立方晶であるが[100]が容易軸[111]は困難軸

x

y

z

[111

]

[100

]

容易軸

困難軸

[110]

円板磁性体の磁区構造

全体が磁区に分かれることにより全体の磁化がなくなっているこれが初磁化状態である

磁区の内部では磁化は任意の方向をランダムに向いている訳ではない

磁化は結晶の方位と無関係な方向を向くことはできない磁性体には磁気異方性という性質があり磁化が特定の結晶軸方位(たとえばFeでは[001]方向および等価な方向)を向く性質がある

[001]容易軸では図のように(001)面内では[100][010][-100][0-10]の4つの方向を向くので90磁壁になる

[111]容易軸では

(a) (b)

(近角強磁性体の物理)

33 ヒステリシスを磁区で説明する

残留磁化状態 逆磁区の発生と成長

磁気飽和

核発生

34 さまざまな磁区とマイクロマグネティクス

Figは結晶の対称性により磁区が変わる様子の例として縞状磁区(stripe domain)と環流磁区(closure domain)を示している磁性体を微細化して直径1μm付近になるとスピンは面内に分布してvortex状態となり中心部に垂直方向のスピン成分をもつようになるさらに微細化すると単磁区になる

微小磁区のMFM観察

磁区の観察にはビッター法といって磁性微粒子を含むコロイドを磁性体上に滴下して光学顕微鏡で観察する方法が古くから使われているこのほか磁気光学顕微鏡ローレンツ電子顕微鏡磁気力顕微鏡走査型ホール顕微鏡走査型SQUID顕微鏡スピン偏極電子顕微鏡X線MCD顕微鏡などで観察することが可能であるFig 22にはいくつかの例について筆者のMFM観察結果を示す

10 nmtimes10 nmtimes10 nmMesh size

1Number of dot

200 nmtimes200 nmtimes100nm

Dot Size

Y directionEasy axis

02Damping constant(α)

-176times107 rad(sOe)Gyro magnetic constant(γ)

1000 ergcm3Anisotropic constant (Ku)

1times10-6 ergcm3Exchange field (A)

800 emucm3Saturation magnetization (Ms)

Hy = 10 kOe rarr 0 Oe

divM divMy

LLG 方程式を用いた

マイクロ磁気解析

Dot model

200 x 200thickness50 nm

Magnetic moment - dv M Force gradient

200 x 200thickness100 nm

90 degree walls propeller-like distortion

Calculation of a single dot

Spin structure

-divM

Isolated square dot

Force gradient image Spin distribution image

Four-dot system

Shift of the center occurs Reversal of chirality

MFM imagewith low-moment tip

(CoPtCr240Å in HV)

Spin distribution imagewith the force-gradientimage overlapped

Inversion of chirality

Comparison between MFM andsimulation of spin distribution

Simulation was carried outin the model structureconsisting of four squaredots with a dimension of200 nmtimes200 nmtimes20 nmwith 50nm separationbetween dots

The calculated spinstructure shows a closuredomain structure with the90-wall appears

The chirality of the spindirection in adjacent dots isopposite to each other asshown by white arrows

The Z-component force-gradient image taking intoaccount the tip-sampleinteraction is overlapped

Calculated magnetization configurationof Y-shaped permalloy dot

Calculation parametersWidth 300 nmThickness 100 nmEasy axis 0 ergcm3

x

y

z

Force gradient-divM

Force gradient(Magnified)

Experimental MFM images

bull Single domains appear in two armsbull Multi-domain of 4 chained closer-domains on the restbull Spin-flow at crossing region turns left in two steps

50

0n

m2

m

L

C

R

C

L

R

x

y

z

Calculated magnetization configurationsof Y-shaped permalloy mirror-dots

Calculation parametersWidth 200 nmThickness 40 nmEasy axis X 1000 ergcm3

Force gradient-divM

Single dot

Experimental MFM images

15 m

bull Calculated spin-flows similar to experimental resultbull Vortices with same chirality appear at the ends of all armsbull Chirality of adjacent dot shows a mirror-reflection

Easy axisEasy axis

Easy axis

Easy axis

-divM

4 おわりに

磁性特有のテクニカルタームがあるが慣れればそれほど難しいものではない

大部分の話は量子力学なしでも理解できる電磁気学の知識があればよい

応用につながるのは磁区磁壁の物理である

メゾスコピック系では量子的な現象が現れるこれが得意なスピン依存伝導現象をもたらす

[参考0]半導体磁性体誘電体

半導体と磁性体の対比

半導体 電子物性パラメータは基本的

にバンド構造で決まるキャリア密度は人為的に制御される

量子構造を考えない限り電子を古典粒子として有効質量近似で扱える

応用されるのは電子構造で決まる移動度などのミクロな電子物性である

電子物性が寸法方位形状にほとんど依存しない

単位系はCGSをもとにした実用単位系が使われる

磁性体 金属磁性体の磁性はスピン偏

極バンド構造で決まるが非金属磁性体の磁性は局在多電子系のフント則で決まる

交換相互作用スピン軌道相互作用など量子力学が基本

応用されるのは磁区により生じるヒステリシスに関連したマクロ磁気物性である

磁性は磁気異方性の影響を受け寸法方位形状により大幅に変化する

単位系が複雑でCGSとSIが混在して使われている

磁性体と誘電体の対比

磁性体

磁気モーメントμ(軸性ベクトル)

磁化M

自発磁化Ms

反磁界

磁気ヒステリシス

飽和磁化残留磁化保磁力

磁区(ドメイン)

キュリー温度

誘電体

電気双極子qr(極性ベクトル)

電気分極P

自発分極Ps

反電界

誘電ヒステリシス

飽和分極残留分極抗電界

分域(ドメイン)

キュリー温度

[参考1]

磁界磁束磁化

磁界(磁場)H磁束密度B磁化M

磁界H中に置かれた磁化Mの磁性体が磁束密

度は真空中の磁束密度に磁化による磁束密度を加えたものであるすなわちB=0H+M

B=0H B=0H+M

M

磁性体があると磁束密度が高くなる

真空中での磁束密度

磁化とは

物質に磁界を加えたとき物質の表面に磁極が生じ一時的に磁石のようになるがそのとき物質が磁化されたという

(b)(a)

(高梨初等磁気工学講座)より

磁化の定義

K番目の原子の1原子あ

たりの磁気モーメントをkとするときその単位体積についての総和k

を磁化Mと定義するM= k

磁気モーメントの単位はWbmであるから磁化の単位はWbm2となる

(高梨初等磁気工学講座)より

常磁性

磁極と磁気モーメント

磁石にはN極とS極がある

磁界中に置かれた磁性体にも磁極が誘起される磁極は必ずNSの対で現れる(単極は見つかっていない)

磁極の大きさをq [Wb]とすると磁界によってNSの対に働くトルクは-qdHsin [Nm]=qdsin [Wbm] H[Am]

必ずNとSが対で現れるならm=qrを磁性を扱う基本単

位と考えることが出来るこれを磁気モーメントという単位は[Wbm]

[参考2]

磁気モーメントの電子的起源

磁気モーメント

一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは

T=qH r sin=mH sin 磁気モーメントのもつポテンシャルEは

E=Td= mH sin d=mH(1-cos)

ポテンシャルの原点はどこにとってもよいから E=-mH mHのときエネルギーは極小になる

mはHに平行になろうとする(高梨初等磁気工学講座)より

r 磁気モーメント

m=qr [Wbm]

-q [Wb]

+q [Wb]

qH

-qH

rsin

単位E[J]=-m[Wbm] H[Am]

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 18: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

23 局在電子モデル

原子の位置に局在した多電子系では通常フントの規則に従うように軌道角運動量とスピン角運動量が決められる

3d遷移金属イオンでは3d電子が配位子のp軌道と

混成し軌道角運動量はほぼ消失している

4f希土類では4f軌道は孤立原子内の状態とあまり変わらないので全角運動量がよい量子数である

局在電子系の磁性

常磁性体に誘起される平均の磁気モーメントは室温でB=100mTの磁界のもとでも10-2emucc程度の小さな量である

これに対して強磁性体では磁界を印加しなくても103emuccという大きな自発磁気モーメントを持っている

ワイスは原子の磁気モーメントが周りの磁気モーメントからの場(分子場)を受けて整列しているというモデルを立てて強磁性体の自発磁化を説明した

24 ワイスの分子場理論

1つの磁気モーメントを取り出しその周りにあるすべての磁気モーメントから生じた有効磁界によって考えている磁気モーメントが常磁性的に分極するならば自己完結的に強磁性が説明できる

これを分子場理論有効磁界を分子磁界または分子場(molecular field)と呼ぶ

Heff

周りからの磁場Heff=H+AMが働く磁化M

分子場理論

分子場係数

磁化Mをもつ磁性体に外部磁界Hが加わったときの有効磁界はHeff=H+AMと表されるAを分子場係数と呼ぶ

分子場係数AはJexを交換相互作用係数zを配位数としてA=2zJexN(gB)2で与えられる

この磁界によって生じる常磁性磁化MはM=M0BJ(gBHeffJkT)という式で表される

M0=NgBJはすべての磁気モーメントが整列したときに期待される磁化

分子場理論

自発磁化が生じる条件を求める

Heff=H+AMであるからH=0のときHeff=AM自発磁化が生じるにはHeff=AMを

M=M0BJ(gBHeffJkT)に代入して

MM0=BJ(gBJHeffkT)=BJ(gBJAMkT)が成立しなければならない

Aに分子場係数の式A=2zJexN(gB)2 を代入してMM0= BJ(2zJexgBMJ N(gB)2kT)

ここでM0=NgBJを使って書き直すとMM0= BJ((2zJexJ

2kT) MM0)を得る

MM0= BJ((2zJexJ2kT) MM0)を解く

y=MM0x=(2zJexJ2kT) MM0とすると上の方程式を解

くことは曲線y=BJ(x)と直線 y=x (2zJexJ2kT)を連立して

解くことと同じである

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

J=52のブリルアン関数

y=x (2zJexJ2kT) Tが小さいとき

解が存在する自発磁化あり

y=x (2zJexJ2kT) Tが大きいとき

解が存在しない自発磁化なし

キュリー温度においては直線はブリルアン関数の接線

温度が上がると

分子場理論

キュリー温度

温度が低いとき直線の傾斜はゆるくブリルアン曲線と直線ははy=MM0 =1付近で交わる

温度が上昇するとyの小さいところ交わる

高温になると0以外に交点を持たなくなる

(2zJexJ2kT) y=xの勾配とy=BJ(x)の接線の勾配

が等しいときがキュリー温度を与える

x=0付近ではyx3であるから3y=xと書ける従ってTcは2zJexJ

2kTc=3によってきまる即ちTc=2zJexJ

23kとなる

分子場理論

自発磁化の温度変化

さまざまなJについて分子場理論で交点のMM0をTに対してプロットすると磁化の温度変化を求めることができるニッケルの磁化温度曲線はJ=12でよく説明される timesは鉄はニッケルはコバルトの実測

値実線はJとしてスピンS=121infinをとった

ときの計算値

分子場理論

キュリーワイスの法則

キュリー温度Tc以上では磁気モーメントはバラバラ

の方向を向き常磁性になる分子場理論によればこのときの磁化率は次式で与えられる

この式をキュリーワイスの法則という

Cはワイス定数pは常磁性キュリー温度という

1をTに対してプロットすると1=(T- p)Cとなり横軸を横切る温度がpである

pT

C

分子場理論

キュリーワイスの法則を導く

Heff=H+AM

MHeff=CT (MとHeffの間にキュリーの法則が成立すると仮定する)

M(H+AM)=CTrarrMT=C(H+AM)従ってM(T-CA)=CHより

=MH=C(T-CA)となるCA=pと置けばキュリーワイスの法則が導かれるすなわち=C(T- p)

自発磁化の温度変化

強磁性体の自発磁化の大きさは温度上昇とともに減少しキュリー温度Tcにおいて消滅する

Tc以上では常磁性であ

る常磁性磁化率の逆数は温度に比例しゼロに外挿するとキュリー温度が求まる

25 交換相互作用(exchange interaction)

交換相互作用という言葉はもともとは多電子原子の中で働くクーロン相互作用の算出において電子同士を区別できないことから来るエネルギーの補正項のことで原子内交換相互作用といいます(intra-atomic exchange interaction)

この概念を原子間に拡張したのが原子間交換相互作用(inter-atomic exchangeinteraction)です

ウンチクコーナーイントラ(intra)とインター(inter) イントラは内部のといういみの接頭辞インターは複数のものの

間のという意味の接頭辞ですイントラネットインターネットということばもここから来ています

原子内交換相互作用

原子内交換相互作用は本質的にクーロン相互作用です2つの電子(波動関数を12とする)の間に働くクーロン相互作用のエネルギーHはH= K12-(12) J12(1+4s1s2) で表されます

K12は次式で与えられるクーロン積分です

J12は次式で与えられる交換積分で電子が区別できないことからくる項です

K dr dr r re

rr r12 1 2 1 1 2 2

2

12

1 1 2 2

J dr dr r re

rr r12 1 2 1 1 2 2

2

12

1 2 2 1

原子内交換相互作用

H= K12-(12) J12(1+4s1s2)

の固有値は=K12ndashJ12 (s1とs2が同符号のとき)= K12 ( s1とs2が異符号のとき)

Hと平均のエネルギー(H0=K12-J122)との差ndash2J12s1s2のことを原子内交換エネルギーという

K12

K12-J12

原子間交換相互作用

本来磁気秩序を考えるには物質系全体のスピンを考えねばならないのであるが電子の軌道が原子に局在しているみなして電子のスピンを各原子Iの位置に局在した全スピンSiで代表させて原子1の全スピンS1と原子2の全スピンS2との間に原子間交換相互作用が働くと考えるのがハイゼンベルグ模型であるこのとき交換エネルギーHex は原子内交換相互作用を一般化して見かけの交換積分J12を用いて

Hex =-2J12S1S2

で表されるJが正であれば相互作用は強磁性的負であれば反強磁性的である

交換相互作用

ハイゼンベルグ模型 Hex =-2J12S1S2

Jが正であれば相互作用は強磁性的負であれば反強磁性的

交換積分の起源隣接原子のスピン間の直接交換(direct exchange)

酸素などのアニオンのp電子軌道との混成を通してスピン同士がそろえあう超交換(superexchange)

伝導電子との相互作用を通じてそろえあう間接交換(indirect exchange)

電子の移動と磁性とが強く結びついている二重交換相互作用(double exchange)

さまざまな交換相互作用

直接交換

超交換

間接交換(RKKY)

二重交換

超交換相互作用

酸化物磁性体では局在電子系の磁気モーメントの間に働く相互作用は遷移金属の3d電子どうしの重なりで生じるのではなく配位子のp電子が遷移金属イオンの3d軌道に仮想的に遷

移した中間状態を介して相互作用するこれを超交換相互作用と称する主として反強磁性的に働く

酸素イオン

遷移金属イオン

超交換相互作用模式図

90度強磁性

180度反強磁性

(Goodenough)

アニオン

遷移金属イオン

アニオン

遷移金属イオン

(a)

(b)

Fig 9 超交換相互作用の模式図

間接交換(RKKY)相互作用

希土類金属の磁性は4f電子が担うが伝導電子である5d電子が4f電子と原子内交換相互作用することによってスピン偏極を受けこれが隣接の希土類原子のf電子と相互作用するという形の間接的な交換相互作用を行っていると考えられている

これをRKKY (Rudermann Kittel Kasuya Yoshida)相互作用という

伝導電子を介した局在スピン間の磁気的相互作用は距離に対して余弦関数的に振動しその周期は伝導電子のフェルミ波数で決められる

RKKY振動

フリーデル振動

21F

2

F

2

RKKY 29 SS

Rkf

N

NJH e

4

sincos

x

xxxxf

CoCu superlattice

Cu thickness (Aring)

磁気抵

抗比

図15

二重交換相互作用

LaMnO3ではすべてのMn原子は3価なので egバンドには1個の電子が存在しこの電子が隣接Mn原子のeg軌道に移動しようとすると電子相関エネルギーUだけのエネルギーが必要であるため電子移動は起きずモット絶縁体となっている

LaをSrで置き換え4価のMnが生じるとMn4+のeg軌道は空であるから他のMn3+から電子が移ることができ金属的な導電性を生じる

このとき隣接するMn原子の磁気モーメントのなす角とするとeg電子の飛び移りの確率はcos( 2)に比例する=0(スピンが平行)のとき飛び移りが最も起きやすく運動エネルギーの分だけエネルギーが下がるので強磁性となる

二重交換の模式図

Mn3+ Mn4+

3磁気ヒステリシス曲線と磁区

磁気ヒステリシスについて

反磁界と静磁エネルギー

磁気異方性

磁区と磁壁磁壁移動と磁化回転

保磁力

31 磁気ヒステリシス

強磁性体においてはその磁化は印加磁界に比例せずヒステリシスを示す

(高梨初等磁気工学講座テキスト)

OrarrBrarrC初磁化曲線

CrarrD 残留磁化

DrarrE 保磁力

CrarrDrarrErarrFrarrGrarrC

ヒステリシスループ

縦軸磁化

横軸磁界

[参考]

磁化曲線の測定法

磁性体を磁界中に置き磁界を増加していくと磁性体の磁化は増加していき次第に飽和する

磁化曲線は磁力計を使って測定する

VSM試料振動型磁力計試料を01~02mm程度のわずかな振幅で80Hz程度の低周波で振動させ試料の

磁化による磁束の時間変化を電磁石の磁極付近に置かれたサーチコイルに誘起された誘導起電力として検出する誘導起電力は試料の磁化に比例するので磁化を測定することができる

電磁石

磁極付近に置いたサーチコイル

スピーカーと同じ振動機構

[参考]

VSMブロック図

丸善実験物理学講座「磁気測定I」p68より

磁気ヒステリシスと応用

保磁力のちがいで用途が違う

Hc小軟質磁性体

磁気ヘッド変圧器鉄心磁気シールド

Hc中半硬質磁性体

磁気記録媒体

Hc大硬質磁性体

永久磁石このループの面積が磁石に蓄積される磁気エネルギー高周波の場合はヒステリシス損失となる

永久磁石の最大エネルギー積(BH)maxの変遷(httpwwwaacgbhamacukmagnetic_materialshistoryhtm)

BHmax

32 なぜ初磁化状態では磁化がないのか磁区(magnetic domain)

磁化が特定の方向を向くとするとN極からS極に向

かって磁力線が生じますこの磁力線は考えている試料の外を通っているだけでなく磁性体の内部も貫いていますこの磁力線を反磁界といいます反磁界の向きは磁化の向きとは反対向きなので磁化は回転する静磁力を受けて不安定となります

磁化の方向が逆方向の縞状の磁区と呼ばれる領域に分かれるならば反磁界がうち消し合って静磁エネルギーが低下して安定するのです

反磁界(demagnetization field)

磁性体表面の法線方向の磁化成分をMn とすると表面には単位面積あたり = Mnという大きさの磁極(Wbm2)が生じる

磁極からはガウスの定理によって全部で μ0の磁力線がわき出すこのうち反磁界係数Nを使って定義される磁力線NMは内部に向かっており残りは外側に向かっているすなわち磁石の内部ではMの向きとは逆方向の反磁界が存在する

外部では磁束線は磁力線に一致する

(b) 磁力線

M- +

(a)磁化と磁極 反磁界

S N

S N

(c) 磁束線

反磁界係数N (近角強磁性体の物理より)

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0

(i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+ Ny+ Nz=1

が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx= Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx= Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

x

y

z

z

x

y

z

x

y

Nz=1

Nx= 0Ny= 0

Nx= 12

Ny= 12

Nx=13

Ny=13

Nz=13

Nz=0

反磁界補正

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0 (i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+Ny+ Nz=1が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx=Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx=Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

(近角強磁性体の物理より)

反磁界と静磁エネルギー

磁化Mが反磁界HdのもとにおかれるとU=MHdだけポテンシャルエネルギーが高くなる

一様な磁界H中の磁気モーメントMに働くトルクTはT=-MH sin

磁気モーメントのもつポテンシャルEはU=Td= - 0

MH sin d=MH (1-cos) エネルギーの原点はどこにとってもよいのでポテンシャルエネルギーはU=-MHと表される H=-Hdを代入すると反磁界によるポテンシャルの増加はU=MHd

表面磁極の分割による静磁エネルギーの減少

結晶表面をxy面にとる

表面でz=0とする

磁区の磁化方向はplusmnz

磁区のx方向の幅d

磁極の表面密度=Is 2mdltxlt(2m+1)d

=-Is (2m+1)dltxlt2(m+1)d

磁気ポテンシャルをLaplaceの方程式で求め

+ +- -

z

x

y

d

境界条件( z)z=-0=20

境界条件のもとにラプラス方程式を解くと=n An sin n(d)xexp n(d)z

係数Anは次式を満たすように決められる(d) n nAn sin n(d)x =I20 2mdltxlt(2m+1)d

= - I20 (2m+1)dltxlt2(m+1)d

rarrAn=2Isd20n2

(x=0)=(2Isd20) n (1n2)sin n(d)x

単位表面積あたりの静磁エネルギー=(2Is

220) n (1n2)int0d sin n(d)x

=(2Is2d20) n=odd (1n3)=540104Is

2d

磁気異方性

磁性体は半導体と違って形状寸法結晶方位とか磁化の方位などによって物性が大きく変化する

1つの原因は上に述べた反磁界係数で形状磁気異方性と呼ばれます反磁界によるエネルギーの損を最小化することが原因です

このほかの原因として重要なのが結晶磁気異方性です結晶磁気異方性というのは磁界を結晶のどの方位に加えるかで磁化曲線が変化する性質です

電子軌道は結晶軸に結びついているので磁気的性質と電子軌道との結びつき(スピン軌道相互作用)を通じて磁性が結晶軸と結び

つくのです半導体にも詳しい測定をすると異方性を見ることができますこれに比べ一般に半導体の電子軌道は結晶全体に広がっているので平均化されて結晶軸に依存する物性が見えにくいです

結晶磁気異方性

磁化しやすさは結晶の方位に依存する

鉄は立方晶であるが[100]が容易軸[111]は困難軸

x

y

z

[111

]

[100

]

容易軸

困難軸

[110]

円板磁性体の磁区構造

全体が磁区に分かれることにより全体の磁化がなくなっているこれが初磁化状態である

磁区の内部では磁化は任意の方向をランダムに向いている訳ではない

磁化は結晶の方位と無関係な方向を向くことはできない磁性体には磁気異方性という性質があり磁化が特定の結晶軸方位(たとえばFeでは[001]方向および等価な方向)を向く性質がある

[001]容易軸では図のように(001)面内では[100][010][-100][0-10]の4つの方向を向くので90磁壁になる

[111]容易軸では

(a) (b)

(近角強磁性体の物理)

33 ヒステリシスを磁区で説明する

残留磁化状態 逆磁区の発生と成長

磁気飽和

核発生

34 さまざまな磁区とマイクロマグネティクス

Figは結晶の対称性により磁区が変わる様子の例として縞状磁区(stripe domain)と環流磁区(closure domain)を示している磁性体を微細化して直径1μm付近になるとスピンは面内に分布してvortex状態となり中心部に垂直方向のスピン成分をもつようになるさらに微細化すると単磁区になる

微小磁区のMFM観察

磁区の観察にはビッター法といって磁性微粒子を含むコロイドを磁性体上に滴下して光学顕微鏡で観察する方法が古くから使われているこのほか磁気光学顕微鏡ローレンツ電子顕微鏡磁気力顕微鏡走査型ホール顕微鏡走査型SQUID顕微鏡スピン偏極電子顕微鏡X線MCD顕微鏡などで観察することが可能であるFig 22にはいくつかの例について筆者のMFM観察結果を示す

10 nmtimes10 nmtimes10 nmMesh size

1Number of dot

200 nmtimes200 nmtimes100nm

Dot Size

Y directionEasy axis

02Damping constant(α)

-176times107 rad(sOe)Gyro magnetic constant(γ)

1000 ergcm3Anisotropic constant (Ku)

1times10-6 ergcm3Exchange field (A)

800 emucm3Saturation magnetization (Ms)

Hy = 10 kOe rarr 0 Oe

divM divMy

LLG 方程式を用いた

マイクロ磁気解析

Dot model

200 x 200thickness50 nm

Magnetic moment - dv M Force gradient

200 x 200thickness100 nm

90 degree walls propeller-like distortion

Calculation of a single dot

Spin structure

-divM

Isolated square dot

Force gradient image Spin distribution image

Four-dot system

Shift of the center occurs Reversal of chirality

MFM imagewith low-moment tip

(CoPtCr240Å in HV)

Spin distribution imagewith the force-gradientimage overlapped

Inversion of chirality

Comparison between MFM andsimulation of spin distribution

Simulation was carried outin the model structureconsisting of four squaredots with a dimension of200 nmtimes200 nmtimes20 nmwith 50nm separationbetween dots

The calculated spinstructure shows a closuredomain structure with the90-wall appears

The chirality of the spindirection in adjacent dots isopposite to each other asshown by white arrows

The Z-component force-gradient image taking intoaccount the tip-sampleinteraction is overlapped

Calculated magnetization configurationof Y-shaped permalloy dot

Calculation parametersWidth 300 nmThickness 100 nmEasy axis 0 ergcm3

x

y

z

Force gradient-divM

Force gradient(Magnified)

Experimental MFM images

bull Single domains appear in two armsbull Multi-domain of 4 chained closer-domains on the restbull Spin-flow at crossing region turns left in two steps

50

0n

m2

m

L

C

R

C

L

R

x

y

z

Calculated magnetization configurationsof Y-shaped permalloy mirror-dots

Calculation parametersWidth 200 nmThickness 40 nmEasy axis X 1000 ergcm3

Force gradient-divM

Single dot

Experimental MFM images

15 m

bull Calculated spin-flows similar to experimental resultbull Vortices with same chirality appear at the ends of all armsbull Chirality of adjacent dot shows a mirror-reflection

Easy axisEasy axis

Easy axis

Easy axis

-divM

4 おわりに

磁性特有のテクニカルタームがあるが慣れればそれほど難しいものではない

大部分の話は量子力学なしでも理解できる電磁気学の知識があればよい

応用につながるのは磁区磁壁の物理である

メゾスコピック系では量子的な現象が現れるこれが得意なスピン依存伝導現象をもたらす

[参考0]半導体磁性体誘電体

半導体と磁性体の対比

半導体 電子物性パラメータは基本的

にバンド構造で決まるキャリア密度は人為的に制御される

量子構造を考えない限り電子を古典粒子として有効質量近似で扱える

応用されるのは電子構造で決まる移動度などのミクロな電子物性である

電子物性が寸法方位形状にほとんど依存しない

単位系はCGSをもとにした実用単位系が使われる

磁性体 金属磁性体の磁性はスピン偏

極バンド構造で決まるが非金属磁性体の磁性は局在多電子系のフント則で決まる

交換相互作用スピン軌道相互作用など量子力学が基本

応用されるのは磁区により生じるヒステリシスに関連したマクロ磁気物性である

磁性は磁気異方性の影響を受け寸法方位形状により大幅に変化する

単位系が複雑でCGSとSIが混在して使われている

磁性体と誘電体の対比

磁性体

磁気モーメントμ(軸性ベクトル)

磁化M

自発磁化Ms

反磁界

磁気ヒステリシス

飽和磁化残留磁化保磁力

磁区(ドメイン)

キュリー温度

誘電体

電気双極子qr(極性ベクトル)

電気分極P

自発分極Ps

反電界

誘電ヒステリシス

飽和分極残留分極抗電界

分域(ドメイン)

キュリー温度

[参考1]

磁界磁束磁化

磁界(磁場)H磁束密度B磁化M

磁界H中に置かれた磁化Mの磁性体が磁束密

度は真空中の磁束密度に磁化による磁束密度を加えたものであるすなわちB=0H+M

B=0H B=0H+M

M

磁性体があると磁束密度が高くなる

真空中での磁束密度

磁化とは

物質に磁界を加えたとき物質の表面に磁極が生じ一時的に磁石のようになるがそのとき物質が磁化されたという

(b)(a)

(高梨初等磁気工学講座)より

磁化の定義

K番目の原子の1原子あ

たりの磁気モーメントをkとするときその単位体積についての総和k

を磁化Mと定義するM= k

磁気モーメントの単位はWbmであるから磁化の単位はWbm2となる

(高梨初等磁気工学講座)より

常磁性

磁極と磁気モーメント

磁石にはN極とS極がある

磁界中に置かれた磁性体にも磁極が誘起される磁極は必ずNSの対で現れる(単極は見つかっていない)

磁極の大きさをq [Wb]とすると磁界によってNSの対に働くトルクは-qdHsin [Nm]=qdsin [Wbm] H[Am]

必ずNとSが対で現れるならm=qrを磁性を扱う基本単

位と考えることが出来るこれを磁気モーメントという単位は[Wbm]

[参考2]

磁気モーメントの電子的起源

磁気モーメント

一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは

T=qH r sin=mH sin 磁気モーメントのもつポテンシャルEは

E=Td= mH sin d=mH(1-cos)

ポテンシャルの原点はどこにとってもよいから E=-mH mHのときエネルギーは極小になる

mはHに平行になろうとする(高梨初等磁気工学講座)より

r 磁気モーメント

m=qr [Wbm]

-q [Wb]

+q [Wb]

qH

-qH

rsin

単位E[J]=-m[Wbm] H[Am]

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 19: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

局在電子系の磁性

常磁性体に誘起される平均の磁気モーメントは室温でB=100mTの磁界のもとでも10-2emucc程度の小さな量である

これに対して強磁性体では磁界を印加しなくても103emuccという大きな自発磁気モーメントを持っている

ワイスは原子の磁気モーメントが周りの磁気モーメントからの場(分子場)を受けて整列しているというモデルを立てて強磁性体の自発磁化を説明した

24 ワイスの分子場理論

1つの磁気モーメントを取り出しその周りにあるすべての磁気モーメントから生じた有効磁界によって考えている磁気モーメントが常磁性的に分極するならば自己完結的に強磁性が説明できる

これを分子場理論有効磁界を分子磁界または分子場(molecular field)と呼ぶ

Heff

周りからの磁場Heff=H+AMが働く磁化M

分子場理論

分子場係数

磁化Mをもつ磁性体に外部磁界Hが加わったときの有効磁界はHeff=H+AMと表されるAを分子場係数と呼ぶ

分子場係数AはJexを交換相互作用係数zを配位数としてA=2zJexN(gB)2で与えられる

この磁界によって生じる常磁性磁化MはM=M0BJ(gBHeffJkT)という式で表される

M0=NgBJはすべての磁気モーメントが整列したときに期待される磁化

分子場理論

自発磁化が生じる条件を求める

Heff=H+AMであるからH=0のときHeff=AM自発磁化が生じるにはHeff=AMを

M=M0BJ(gBHeffJkT)に代入して

MM0=BJ(gBJHeffkT)=BJ(gBJAMkT)が成立しなければならない

Aに分子場係数の式A=2zJexN(gB)2 を代入してMM0= BJ(2zJexgBMJ N(gB)2kT)

ここでM0=NgBJを使って書き直すとMM0= BJ((2zJexJ

2kT) MM0)を得る

MM0= BJ((2zJexJ2kT) MM0)を解く

y=MM0x=(2zJexJ2kT) MM0とすると上の方程式を解

くことは曲線y=BJ(x)と直線 y=x (2zJexJ2kT)を連立して

解くことと同じである

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

J=52のブリルアン関数

y=x (2zJexJ2kT) Tが小さいとき

解が存在する自発磁化あり

y=x (2zJexJ2kT) Tが大きいとき

解が存在しない自発磁化なし

キュリー温度においては直線はブリルアン関数の接線

温度が上がると

分子場理論

キュリー温度

温度が低いとき直線の傾斜はゆるくブリルアン曲線と直線ははy=MM0 =1付近で交わる

温度が上昇するとyの小さいところ交わる

高温になると0以外に交点を持たなくなる

(2zJexJ2kT) y=xの勾配とy=BJ(x)の接線の勾配

が等しいときがキュリー温度を与える

x=0付近ではyx3であるから3y=xと書ける従ってTcは2zJexJ

2kTc=3によってきまる即ちTc=2zJexJ

23kとなる

分子場理論

自発磁化の温度変化

さまざまなJについて分子場理論で交点のMM0をTに対してプロットすると磁化の温度変化を求めることができるニッケルの磁化温度曲線はJ=12でよく説明される timesは鉄はニッケルはコバルトの実測

値実線はJとしてスピンS=121infinをとった

ときの計算値

分子場理論

キュリーワイスの法則

キュリー温度Tc以上では磁気モーメントはバラバラ

の方向を向き常磁性になる分子場理論によればこのときの磁化率は次式で与えられる

この式をキュリーワイスの法則という

Cはワイス定数pは常磁性キュリー温度という

1をTに対してプロットすると1=(T- p)Cとなり横軸を横切る温度がpである

pT

C

分子場理論

キュリーワイスの法則を導く

Heff=H+AM

MHeff=CT (MとHeffの間にキュリーの法則が成立すると仮定する)

M(H+AM)=CTrarrMT=C(H+AM)従ってM(T-CA)=CHより

=MH=C(T-CA)となるCA=pと置けばキュリーワイスの法則が導かれるすなわち=C(T- p)

自発磁化の温度変化

強磁性体の自発磁化の大きさは温度上昇とともに減少しキュリー温度Tcにおいて消滅する

Tc以上では常磁性であ

る常磁性磁化率の逆数は温度に比例しゼロに外挿するとキュリー温度が求まる

25 交換相互作用(exchange interaction)

交換相互作用という言葉はもともとは多電子原子の中で働くクーロン相互作用の算出において電子同士を区別できないことから来るエネルギーの補正項のことで原子内交換相互作用といいます(intra-atomic exchange interaction)

この概念を原子間に拡張したのが原子間交換相互作用(inter-atomic exchangeinteraction)です

ウンチクコーナーイントラ(intra)とインター(inter) イントラは内部のといういみの接頭辞インターは複数のものの

間のという意味の接頭辞ですイントラネットインターネットということばもここから来ています

原子内交換相互作用

原子内交換相互作用は本質的にクーロン相互作用です2つの電子(波動関数を12とする)の間に働くクーロン相互作用のエネルギーHはH= K12-(12) J12(1+4s1s2) で表されます

K12は次式で与えられるクーロン積分です

J12は次式で与えられる交換積分で電子が区別できないことからくる項です

K dr dr r re

rr r12 1 2 1 1 2 2

2

12

1 1 2 2

J dr dr r re

rr r12 1 2 1 1 2 2

2

12

1 2 2 1

原子内交換相互作用

H= K12-(12) J12(1+4s1s2)

の固有値は=K12ndashJ12 (s1とs2が同符号のとき)= K12 ( s1とs2が異符号のとき)

Hと平均のエネルギー(H0=K12-J122)との差ndash2J12s1s2のことを原子内交換エネルギーという

K12

K12-J12

原子間交換相互作用

本来磁気秩序を考えるには物質系全体のスピンを考えねばならないのであるが電子の軌道が原子に局在しているみなして電子のスピンを各原子Iの位置に局在した全スピンSiで代表させて原子1の全スピンS1と原子2の全スピンS2との間に原子間交換相互作用が働くと考えるのがハイゼンベルグ模型であるこのとき交換エネルギーHex は原子内交換相互作用を一般化して見かけの交換積分J12を用いて

Hex =-2J12S1S2

で表されるJが正であれば相互作用は強磁性的負であれば反強磁性的である

交換相互作用

ハイゼンベルグ模型 Hex =-2J12S1S2

Jが正であれば相互作用は強磁性的負であれば反強磁性的

交換積分の起源隣接原子のスピン間の直接交換(direct exchange)

酸素などのアニオンのp電子軌道との混成を通してスピン同士がそろえあう超交換(superexchange)

伝導電子との相互作用を通じてそろえあう間接交換(indirect exchange)

電子の移動と磁性とが強く結びついている二重交換相互作用(double exchange)

さまざまな交換相互作用

直接交換

超交換

間接交換(RKKY)

二重交換

超交換相互作用

酸化物磁性体では局在電子系の磁気モーメントの間に働く相互作用は遷移金属の3d電子どうしの重なりで生じるのではなく配位子のp電子が遷移金属イオンの3d軌道に仮想的に遷

移した中間状態を介して相互作用するこれを超交換相互作用と称する主として反強磁性的に働く

酸素イオン

遷移金属イオン

超交換相互作用模式図

90度強磁性

180度反強磁性

(Goodenough)

アニオン

遷移金属イオン

アニオン

遷移金属イオン

(a)

(b)

Fig 9 超交換相互作用の模式図

間接交換(RKKY)相互作用

希土類金属の磁性は4f電子が担うが伝導電子である5d電子が4f電子と原子内交換相互作用することによってスピン偏極を受けこれが隣接の希土類原子のf電子と相互作用するという形の間接的な交換相互作用を行っていると考えられている

これをRKKY (Rudermann Kittel Kasuya Yoshida)相互作用という

伝導電子を介した局在スピン間の磁気的相互作用は距離に対して余弦関数的に振動しその周期は伝導電子のフェルミ波数で決められる

RKKY振動

フリーデル振動

21F

2

F

2

RKKY 29 SS

Rkf

N

NJH e

4

sincos

x

xxxxf

CoCu superlattice

Cu thickness (Aring)

磁気抵

抗比

図15

二重交換相互作用

LaMnO3ではすべてのMn原子は3価なので egバンドには1個の電子が存在しこの電子が隣接Mn原子のeg軌道に移動しようとすると電子相関エネルギーUだけのエネルギーが必要であるため電子移動は起きずモット絶縁体となっている

LaをSrで置き換え4価のMnが生じるとMn4+のeg軌道は空であるから他のMn3+から電子が移ることができ金属的な導電性を生じる

このとき隣接するMn原子の磁気モーメントのなす角とするとeg電子の飛び移りの確率はcos( 2)に比例する=0(スピンが平行)のとき飛び移りが最も起きやすく運動エネルギーの分だけエネルギーが下がるので強磁性となる

二重交換の模式図

Mn3+ Mn4+

3磁気ヒステリシス曲線と磁区

磁気ヒステリシスについて

反磁界と静磁エネルギー

磁気異方性

磁区と磁壁磁壁移動と磁化回転

保磁力

31 磁気ヒステリシス

強磁性体においてはその磁化は印加磁界に比例せずヒステリシスを示す

(高梨初等磁気工学講座テキスト)

OrarrBrarrC初磁化曲線

CrarrD 残留磁化

DrarrE 保磁力

CrarrDrarrErarrFrarrGrarrC

ヒステリシスループ

縦軸磁化

横軸磁界

[参考]

磁化曲線の測定法

磁性体を磁界中に置き磁界を増加していくと磁性体の磁化は増加していき次第に飽和する

磁化曲線は磁力計を使って測定する

VSM試料振動型磁力計試料を01~02mm程度のわずかな振幅で80Hz程度の低周波で振動させ試料の

磁化による磁束の時間変化を電磁石の磁極付近に置かれたサーチコイルに誘起された誘導起電力として検出する誘導起電力は試料の磁化に比例するので磁化を測定することができる

電磁石

磁極付近に置いたサーチコイル

スピーカーと同じ振動機構

[参考]

VSMブロック図

丸善実験物理学講座「磁気測定I」p68より

磁気ヒステリシスと応用

保磁力のちがいで用途が違う

Hc小軟質磁性体

磁気ヘッド変圧器鉄心磁気シールド

Hc中半硬質磁性体

磁気記録媒体

Hc大硬質磁性体

永久磁石このループの面積が磁石に蓄積される磁気エネルギー高周波の場合はヒステリシス損失となる

永久磁石の最大エネルギー積(BH)maxの変遷(httpwwwaacgbhamacukmagnetic_materialshistoryhtm)

BHmax

32 なぜ初磁化状態では磁化がないのか磁区(magnetic domain)

磁化が特定の方向を向くとするとN極からS極に向

かって磁力線が生じますこの磁力線は考えている試料の外を通っているだけでなく磁性体の内部も貫いていますこの磁力線を反磁界といいます反磁界の向きは磁化の向きとは反対向きなので磁化は回転する静磁力を受けて不安定となります

磁化の方向が逆方向の縞状の磁区と呼ばれる領域に分かれるならば反磁界がうち消し合って静磁エネルギーが低下して安定するのです

反磁界(demagnetization field)

磁性体表面の法線方向の磁化成分をMn とすると表面には単位面積あたり = Mnという大きさの磁極(Wbm2)が生じる

磁極からはガウスの定理によって全部で μ0の磁力線がわき出すこのうち反磁界係数Nを使って定義される磁力線NMは内部に向かっており残りは外側に向かっているすなわち磁石の内部ではMの向きとは逆方向の反磁界が存在する

外部では磁束線は磁力線に一致する

(b) 磁力線

M- +

(a)磁化と磁極 反磁界

S N

S N

(c) 磁束線

反磁界係数N (近角強磁性体の物理より)

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0

(i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+ Ny+ Nz=1

が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx= Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx= Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

x

y

z

z

x

y

z

x

y

Nz=1

Nx= 0Ny= 0

Nx= 12

Ny= 12

Nx=13

Ny=13

Nz=13

Nz=0

反磁界補正

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0 (i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+Ny+ Nz=1が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx=Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx=Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

(近角強磁性体の物理より)

反磁界と静磁エネルギー

磁化Mが反磁界HdのもとにおかれるとU=MHdだけポテンシャルエネルギーが高くなる

一様な磁界H中の磁気モーメントMに働くトルクTはT=-MH sin

磁気モーメントのもつポテンシャルEはU=Td= - 0

MH sin d=MH (1-cos) エネルギーの原点はどこにとってもよいのでポテンシャルエネルギーはU=-MHと表される H=-Hdを代入すると反磁界によるポテンシャルの増加はU=MHd

表面磁極の分割による静磁エネルギーの減少

結晶表面をxy面にとる

表面でz=0とする

磁区の磁化方向はplusmnz

磁区のx方向の幅d

磁極の表面密度=Is 2mdltxlt(2m+1)d

=-Is (2m+1)dltxlt2(m+1)d

磁気ポテンシャルをLaplaceの方程式で求め

+ +- -

z

x

y

d

境界条件( z)z=-0=20

境界条件のもとにラプラス方程式を解くと=n An sin n(d)xexp n(d)z

係数Anは次式を満たすように決められる(d) n nAn sin n(d)x =I20 2mdltxlt(2m+1)d

= - I20 (2m+1)dltxlt2(m+1)d

rarrAn=2Isd20n2

(x=0)=(2Isd20) n (1n2)sin n(d)x

単位表面積あたりの静磁エネルギー=(2Is

220) n (1n2)int0d sin n(d)x

=(2Is2d20) n=odd (1n3)=540104Is

2d

磁気異方性

磁性体は半導体と違って形状寸法結晶方位とか磁化の方位などによって物性が大きく変化する

1つの原因は上に述べた反磁界係数で形状磁気異方性と呼ばれます反磁界によるエネルギーの損を最小化することが原因です

このほかの原因として重要なのが結晶磁気異方性です結晶磁気異方性というのは磁界を結晶のどの方位に加えるかで磁化曲線が変化する性質です

電子軌道は結晶軸に結びついているので磁気的性質と電子軌道との結びつき(スピン軌道相互作用)を通じて磁性が結晶軸と結び

つくのです半導体にも詳しい測定をすると異方性を見ることができますこれに比べ一般に半導体の電子軌道は結晶全体に広がっているので平均化されて結晶軸に依存する物性が見えにくいです

結晶磁気異方性

磁化しやすさは結晶の方位に依存する

鉄は立方晶であるが[100]が容易軸[111]は困難軸

x

y

z

[111

]

[100

]

容易軸

困難軸

[110]

円板磁性体の磁区構造

全体が磁区に分かれることにより全体の磁化がなくなっているこれが初磁化状態である

磁区の内部では磁化は任意の方向をランダムに向いている訳ではない

磁化は結晶の方位と無関係な方向を向くことはできない磁性体には磁気異方性という性質があり磁化が特定の結晶軸方位(たとえばFeでは[001]方向および等価な方向)を向く性質がある

[001]容易軸では図のように(001)面内では[100][010][-100][0-10]の4つの方向を向くので90磁壁になる

[111]容易軸では

(a) (b)

(近角強磁性体の物理)

33 ヒステリシスを磁区で説明する

残留磁化状態 逆磁区の発生と成長

磁気飽和

核発生

34 さまざまな磁区とマイクロマグネティクス

Figは結晶の対称性により磁区が変わる様子の例として縞状磁区(stripe domain)と環流磁区(closure domain)を示している磁性体を微細化して直径1μm付近になるとスピンは面内に分布してvortex状態となり中心部に垂直方向のスピン成分をもつようになるさらに微細化すると単磁区になる

微小磁区のMFM観察

磁区の観察にはビッター法といって磁性微粒子を含むコロイドを磁性体上に滴下して光学顕微鏡で観察する方法が古くから使われているこのほか磁気光学顕微鏡ローレンツ電子顕微鏡磁気力顕微鏡走査型ホール顕微鏡走査型SQUID顕微鏡スピン偏極電子顕微鏡X線MCD顕微鏡などで観察することが可能であるFig 22にはいくつかの例について筆者のMFM観察結果を示す

10 nmtimes10 nmtimes10 nmMesh size

1Number of dot

200 nmtimes200 nmtimes100nm

Dot Size

Y directionEasy axis

02Damping constant(α)

-176times107 rad(sOe)Gyro magnetic constant(γ)

1000 ergcm3Anisotropic constant (Ku)

1times10-6 ergcm3Exchange field (A)

800 emucm3Saturation magnetization (Ms)

Hy = 10 kOe rarr 0 Oe

divM divMy

LLG 方程式を用いた

マイクロ磁気解析

Dot model

200 x 200thickness50 nm

Magnetic moment - dv M Force gradient

200 x 200thickness100 nm

90 degree walls propeller-like distortion

Calculation of a single dot

Spin structure

-divM

Isolated square dot

Force gradient image Spin distribution image

Four-dot system

Shift of the center occurs Reversal of chirality

MFM imagewith low-moment tip

(CoPtCr240Å in HV)

Spin distribution imagewith the force-gradientimage overlapped

Inversion of chirality

Comparison between MFM andsimulation of spin distribution

Simulation was carried outin the model structureconsisting of four squaredots with a dimension of200 nmtimes200 nmtimes20 nmwith 50nm separationbetween dots

The calculated spinstructure shows a closuredomain structure with the90-wall appears

The chirality of the spindirection in adjacent dots isopposite to each other asshown by white arrows

The Z-component force-gradient image taking intoaccount the tip-sampleinteraction is overlapped

Calculated magnetization configurationof Y-shaped permalloy dot

Calculation parametersWidth 300 nmThickness 100 nmEasy axis 0 ergcm3

x

y

z

Force gradient-divM

Force gradient(Magnified)

Experimental MFM images

bull Single domains appear in two armsbull Multi-domain of 4 chained closer-domains on the restbull Spin-flow at crossing region turns left in two steps

50

0n

m2

m

L

C

R

C

L

R

x

y

z

Calculated magnetization configurationsof Y-shaped permalloy mirror-dots

Calculation parametersWidth 200 nmThickness 40 nmEasy axis X 1000 ergcm3

Force gradient-divM

Single dot

Experimental MFM images

15 m

bull Calculated spin-flows similar to experimental resultbull Vortices with same chirality appear at the ends of all armsbull Chirality of adjacent dot shows a mirror-reflection

Easy axisEasy axis

Easy axis

Easy axis

-divM

4 おわりに

磁性特有のテクニカルタームがあるが慣れればそれほど難しいものではない

大部分の話は量子力学なしでも理解できる電磁気学の知識があればよい

応用につながるのは磁区磁壁の物理である

メゾスコピック系では量子的な現象が現れるこれが得意なスピン依存伝導現象をもたらす

[参考0]半導体磁性体誘電体

半導体と磁性体の対比

半導体 電子物性パラメータは基本的

にバンド構造で決まるキャリア密度は人為的に制御される

量子構造を考えない限り電子を古典粒子として有効質量近似で扱える

応用されるのは電子構造で決まる移動度などのミクロな電子物性である

電子物性が寸法方位形状にほとんど依存しない

単位系はCGSをもとにした実用単位系が使われる

磁性体 金属磁性体の磁性はスピン偏

極バンド構造で決まるが非金属磁性体の磁性は局在多電子系のフント則で決まる

交換相互作用スピン軌道相互作用など量子力学が基本

応用されるのは磁区により生じるヒステリシスに関連したマクロ磁気物性である

磁性は磁気異方性の影響を受け寸法方位形状により大幅に変化する

単位系が複雑でCGSとSIが混在して使われている

磁性体と誘電体の対比

磁性体

磁気モーメントμ(軸性ベクトル)

磁化M

自発磁化Ms

反磁界

磁気ヒステリシス

飽和磁化残留磁化保磁力

磁区(ドメイン)

キュリー温度

誘電体

電気双極子qr(極性ベクトル)

電気分極P

自発分極Ps

反電界

誘電ヒステリシス

飽和分極残留分極抗電界

分域(ドメイン)

キュリー温度

[参考1]

磁界磁束磁化

磁界(磁場)H磁束密度B磁化M

磁界H中に置かれた磁化Mの磁性体が磁束密

度は真空中の磁束密度に磁化による磁束密度を加えたものであるすなわちB=0H+M

B=0H B=0H+M

M

磁性体があると磁束密度が高くなる

真空中での磁束密度

磁化とは

物質に磁界を加えたとき物質の表面に磁極が生じ一時的に磁石のようになるがそのとき物質が磁化されたという

(b)(a)

(高梨初等磁気工学講座)より

磁化の定義

K番目の原子の1原子あ

たりの磁気モーメントをkとするときその単位体積についての総和k

を磁化Mと定義するM= k

磁気モーメントの単位はWbmであるから磁化の単位はWbm2となる

(高梨初等磁気工学講座)より

常磁性

磁極と磁気モーメント

磁石にはN極とS極がある

磁界中に置かれた磁性体にも磁極が誘起される磁極は必ずNSの対で現れる(単極は見つかっていない)

磁極の大きさをq [Wb]とすると磁界によってNSの対に働くトルクは-qdHsin [Nm]=qdsin [Wbm] H[Am]

必ずNとSが対で現れるならm=qrを磁性を扱う基本単

位と考えることが出来るこれを磁気モーメントという単位は[Wbm]

[参考2]

磁気モーメントの電子的起源

磁気モーメント

一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは

T=qH r sin=mH sin 磁気モーメントのもつポテンシャルEは

E=Td= mH sin d=mH(1-cos)

ポテンシャルの原点はどこにとってもよいから E=-mH mHのときエネルギーは極小になる

mはHに平行になろうとする(高梨初等磁気工学講座)より

r 磁気モーメント

m=qr [Wbm]

-q [Wb]

+q [Wb]

qH

-qH

rsin

単位E[J]=-m[Wbm] H[Am]

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 20: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

24 ワイスの分子場理論

1つの磁気モーメントを取り出しその周りにあるすべての磁気モーメントから生じた有効磁界によって考えている磁気モーメントが常磁性的に分極するならば自己完結的に強磁性が説明できる

これを分子場理論有効磁界を分子磁界または分子場(molecular field)と呼ぶ

Heff

周りからの磁場Heff=H+AMが働く磁化M

分子場理論

分子場係数

磁化Mをもつ磁性体に外部磁界Hが加わったときの有効磁界はHeff=H+AMと表されるAを分子場係数と呼ぶ

分子場係数AはJexを交換相互作用係数zを配位数としてA=2zJexN(gB)2で与えられる

この磁界によって生じる常磁性磁化MはM=M0BJ(gBHeffJkT)という式で表される

M0=NgBJはすべての磁気モーメントが整列したときに期待される磁化

分子場理論

自発磁化が生じる条件を求める

Heff=H+AMであるからH=0のときHeff=AM自発磁化が生じるにはHeff=AMを

M=M0BJ(gBHeffJkT)に代入して

MM0=BJ(gBJHeffkT)=BJ(gBJAMkT)が成立しなければならない

Aに分子場係数の式A=2zJexN(gB)2 を代入してMM0= BJ(2zJexgBMJ N(gB)2kT)

ここでM0=NgBJを使って書き直すとMM0= BJ((2zJexJ

2kT) MM0)を得る

MM0= BJ((2zJexJ2kT) MM0)を解く

y=MM0x=(2zJexJ2kT) MM0とすると上の方程式を解

くことは曲線y=BJ(x)と直線 y=x (2zJexJ2kT)を連立して

解くことと同じである

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

J=52のブリルアン関数

y=x (2zJexJ2kT) Tが小さいとき

解が存在する自発磁化あり

y=x (2zJexJ2kT) Tが大きいとき

解が存在しない自発磁化なし

キュリー温度においては直線はブリルアン関数の接線

温度が上がると

分子場理論

キュリー温度

温度が低いとき直線の傾斜はゆるくブリルアン曲線と直線ははy=MM0 =1付近で交わる

温度が上昇するとyの小さいところ交わる

高温になると0以外に交点を持たなくなる

(2zJexJ2kT) y=xの勾配とy=BJ(x)の接線の勾配

が等しいときがキュリー温度を与える

x=0付近ではyx3であるから3y=xと書ける従ってTcは2zJexJ

2kTc=3によってきまる即ちTc=2zJexJ

23kとなる

分子場理論

自発磁化の温度変化

さまざまなJについて分子場理論で交点のMM0をTに対してプロットすると磁化の温度変化を求めることができるニッケルの磁化温度曲線はJ=12でよく説明される timesは鉄はニッケルはコバルトの実測

値実線はJとしてスピンS=121infinをとった

ときの計算値

分子場理論

キュリーワイスの法則

キュリー温度Tc以上では磁気モーメントはバラバラ

の方向を向き常磁性になる分子場理論によればこのときの磁化率は次式で与えられる

この式をキュリーワイスの法則という

Cはワイス定数pは常磁性キュリー温度という

1をTに対してプロットすると1=(T- p)Cとなり横軸を横切る温度がpである

pT

C

分子場理論

キュリーワイスの法則を導く

Heff=H+AM

MHeff=CT (MとHeffの間にキュリーの法則が成立すると仮定する)

M(H+AM)=CTrarrMT=C(H+AM)従ってM(T-CA)=CHより

=MH=C(T-CA)となるCA=pと置けばキュリーワイスの法則が導かれるすなわち=C(T- p)

自発磁化の温度変化

強磁性体の自発磁化の大きさは温度上昇とともに減少しキュリー温度Tcにおいて消滅する

Tc以上では常磁性であ

る常磁性磁化率の逆数は温度に比例しゼロに外挿するとキュリー温度が求まる

25 交換相互作用(exchange interaction)

交換相互作用という言葉はもともとは多電子原子の中で働くクーロン相互作用の算出において電子同士を区別できないことから来るエネルギーの補正項のことで原子内交換相互作用といいます(intra-atomic exchange interaction)

この概念を原子間に拡張したのが原子間交換相互作用(inter-atomic exchangeinteraction)です

ウンチクコーナーイントラ(intra)とインター(inter) イントラは内部のといういみの接頭辞インターは複数のものの

間のという意味の接頭辞ですイントラネットインターネットということばもここから来ています

原子内交換相互作用

原子内交換相互作用は本質的にクーロン相互作用です2つの電子(波動関数を12とする)の間に働くクーロン相互作用のエネルギーHはH= K12-(12) J12(1+4s1s2) で表されます

K12は次式で与えられるクーロン積分です

J12は次式で与えられる交換積分で電子が区別できないことからくる項です

K dr dr r re

rr r12 1 2 1 1 2 2

2

12

1 1 2 2

J dr dr r re

rr r12 1 2 1 1 2 2

2

12

1 2 2 1

原子内交換相互作用

H= K12-(12) J12(1+4s1s2)

の固有値は=K12ndashJ12 (s1とs2が同符号のとき)= K12 ( s1とs2が異符号のとき)

Hと平均のエネルギー(H0=K12-J122)との差ndash2J12s1s2のことを原子内交換エネルギーという

K12

K12-J12

原子間交換相互作用

本来磁気秩序を考えるには物質系全体のスピンを考えねばならないのであるが電子の軌道が原子に局在しているみなして電子のスピンを各原子Iの位置に局在した全スピンSiで代表させて原子1の全スピンS1と原子2の全スピンS2との間に原子間交換相互作用が働くと考えるのがハイゼンベルグ模型であるこのとき交換エネルギーHex は原子内交換相互作用を一般化して見かけの交換積分J12を用いて

Hex =-2J12S1S2

で表されるJが正であれば相互作用は強磁性的負であれば反強磁性的である

交換相互作用

ハイゼンベルグ模型 Hex =-2J12S1S2

Jが正であれば相互作用は強磁性的負であれば反強磁性的

交換積分の起源隣接原子のスピン間の直接交換(direct exchange)

酸素などのアニオンのp電子軌道との混成を通してスピン同士がそろえあう超交換(superexchange)

伝導電子との相互作用を通じてそろえあう間接交換(indirect exchange)

電子の移動と磁性とが強く結びついている二重交換相互作用(double exchange)

さまざまな交換相互作用

直接交換

超交換

間接交換(RKKY)

二重交換

超交換相互作用

酸化物磁性体では局在電子系の磁気モーメントの間に働く相互作用は遷移金属の3d電子どうしの重なりで生じるのではなく配位子のp電子が遷移金属イオンの3d軌道に仮想的に遷

移した中間状態を介して相互作用するこれを超交換相互作用と称する主として反強磁性的に働く

酸素イオン

遷移金属イオン

超交換相互作用模式図

90度強磁性

180度反強磁性

(Goodenough)

アニオン

遷移金属イオン

アニオン

遷移金属イオン

(a)

(b)

Fig 9 超交換相互作用の模式図

間接交換(RKKY)相互作用

希土類金属の磁性は4f電子が担うが伝導電子である5d電子が4f電子と原子内交換相互作用することによってスピン偏極を受けこれが隣接の希土類原子のf電子と相互作用するという形の間接的な交換相互作用を行っていると考えられている

これをRKKY (Rudermann Kittel Kasuya Yoshida)相互作用という

伝導電子を介した局在スピン間の磁気的相互作用は距離に対して余弦関数的に振動しその周期は伝導電子のフェルミ波数で決められる

RKKY振動

フリーデル振動

21F

2

F

2

RKKY 29 SS

Rkf

N

NJH e

4

sincos

x

xxxxf

CoCu superlattice

Cu thickness (Aring)

磁気抵

抗比

図15

二重交換相互作用

LaMnO3ではすべてのMn原子は3価なので egバンドには1個の電子が存在しこの電子が隣接Mn原子のeg軌道に移動しようとすると電子相関エネルギーUだけのエネルギーが必要であるため電子移動は起きずモット絶縁体となっている

LaをSrで置き換え4価のMnが生じるとMn4+のeg軌道は空であるから他のMn3+から電子が移ることができ金属的な導電性を生じる

このとき隣接するMn原子の磁気モーメントのなす角とするとeg電子の飛び移りの確率はcos( 2)に比例する=0(スピンが平行)のとき飛び移りが最も起きやすく運動エネルギーの分だけエネルギーが下がるので強磁性となる

二重交換の模式図

Mn3+ Mn4+

3磁気ヒステリシス曲線と磁区

磁気ヒステリシスについて

反磁界と静磁エネルギー

磁気異方性

磁区と磁壁磁壁移動と磁化回転

保磁力

31 磁気ヒステリシス

強磁性体においてはその磁化は印加磁界に比例せずヒステリシスを示す

(高梨初等磁気工学講座テキスト)

OrarrBrarrC初磁化曲線

CrarrD 残留磁化

DrarrE 保磁力

CrarrDrarrErarrFrarrGrarrC

ヒステリシスループ

縦軸磁化

横軸磁界

[参考]

磁化曲線の測定法

磁性体を磁界中に置き磁界を増加していくと磁性体の磁化は増加していき次第に飽和する

磁化曲線は磁力計を使って測定する

VSM試料振動型磁力計試料を01~02mm程度のわずかな振幅で80Hz程度の低周波で振動させ試料の

磁化による磁束の時間変化を電磁石の磁極付近に置かれたサーチコイルに誘起された誘導起電力として検出する誘導起電力は試料の磁化に比例するので磁化を測定することができる

電磁石

磁極付近に置いたサーチコイル

スピーカーと同じ振動機構

[参考]

VSMブロック図

丸善実験物理学講座「磁気測定I」p68より

磁気ヒステリシスと応用

保磁力のちがいで用途が違う

Hc小軟質磁性体

磁気ヘッド変圧器鉄心磁気シールド

Hc中半硬質磁性体

磁気記録媒体

Hc大硬質磁性体

永久磁石このループの面積が磁石に蓄積される磁気エネルギー高周波の場合はヒステリシス損失となる

永久磁石の最大エネルギー積(BH)maxの変遷(httpwwwaacgbhamacukmagnetic_materialshistoryhtm)

BHmax

32 なぜ初磁化状態では磁化がないのか磁区(magnetic domain)

磁化が特定の方向を向くとするとN極からS極に向

かって磁力線が生じますこの磁力線は考えている試料の外を通っているだけでなく磁性体の内部も貫いていますこの磁力線を反磁界といいます反磁界の向きは磁化の向きとは反対向きなので磁化は回転する静磁力を受けて不安定となります

磁化の方向が逆方向の縞状の磁区と呼ばれる領域に分かれるならば反磁界がうち消し合って静磁エネルギーが低下して安定するのです

反磁界(demagnetization field)

磁性体表面の法線方向の磁化成分をMn とすると表面には単位面積あたり = Mnという大きさの磁極(Wbm2)が生じる

磁極からはガウスの定理によって全部で μ0の磁力線がわき出すこのうち反磁界係数Nを使って定義される磁力線NMは内部に向かっており残りは外側に向かっているすなわち磁石の内部ではMの向きとは逆方向の反磁界が存在する

外部では磁束線は磁力線に一致する

(b) 磁力線

M- +

(a)磁化と磁極 反磁界

S N

S N

(c) 磁束線

反磁界係数N (近角強磁性体の物理より)

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0

(i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+ Ny+ Nz=1

が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx= Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx= Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

x

y

z

z

x

y

z

x

y

Nz=1

Nx= 0Ny= 0

Nx= 12

Ny= 12

Nx=13

Ny=13

Nz=13

Nz=0

反磁界補正

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0 (i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+Ny+ Nz=1が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx=Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx=Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

(近角強磁性体の物理より)

反磁界と静磁エネルギー

磁化Mが反磁界HdのもとにおかれるとU=MHdだけポテンシャルエネルギーが高くなる

一様な磁界H中の磁気モーメントMに働くトルクTはT=-MH sin

磁気モーメントのもつポテンシャルEはU=Td= - 0

MH sin d=MH (1-cos) エネルギーの原点はどこにとってもよいのでポテンシャルエネルギーはU=-MHと表される H=-Hdを代入すると反磁界によるポテンシャルの増加はU=MHd

表面磁極の分割による静磁エネルギーの減少

結晶表面をxy面にとる

表面でz=0とする

磁区の磁化方向はplusmnz

磁区のx方向の幅d

磁極の表面密度=Is 2mdltxlt(2m+1)d

=-Is (2m+1)dltxlt2(m+1)d

磁気ポテンシャルをLaplaceの方程式で求め

+ +- -

z

x

y

d

境界条件( z)z=-0=20

境界条件のもとにラプラス方程式を解くと=n An sin n(d)xexp n(d)z

係数Anは次式を満たすように決められる(d) n nAn sin n(d)x =I20 2mdltxlt(2m+1)d

= - I20 (2m+1)dltxlt2(m+1)d

rarrAn=2Isd20n2

(x=0)=(2Isd20) n (1n2)sin n(d)x

単位表面積あたりの静磁エネルギー=(2Is

220) n (1n2)int0d sin n(d)x

=(2Is2d20) n=odd (1n3)=540104Is

2d

磁気異方性

磁性体は半導体と違って形状寸法結晶方位とか磁化の方位などによって物性が大きく変化する

1つの原因は上に述べた反磁界係数で形状磁気異方性と呼ばれます反磁界によるエネルギーの損を最小化することが原因です

このほかの原因として重要なのが結晶磁気異方性です結晶磁気異方性というのは磁界を結晶のどの方位に加えるかで磁化曲線が変化する性質です

電子軌道は結晶軸に結びついているので磁気的性質と電子軌道との結びつき(スピン軌道相互作用)を通じて磁性が結晶軸と結び

つくのです半導体にも詳しい測定をすると異方性を見ることができますこれに比べ一般に半導体の電子軌道は結晶全体に広がっているので平均化されて結晶軸に依存する物性が見えにくいです

結晶磁気異方性

磁化しやすさは結晶の方位に依存する

鉄は立方晶であるが[100]が容易軸[111]は困難軸

x

y

z

[111

]

[100

]

容易軸

困難軸

[110]

円板磁性体の磁区構造

全体が磁区に分かれることにより全体の磁化がなくなっているこれが初磁化状態である

磁区の内部では磁化は任意の方向をランダムに向いている訳ではない

磁化は結晶の方位と無関係な方向を向くことはできない磁性体には磁気異方性という性質があり磁化が特定の結晶軸方位(たとえばFeでは[001]方向および等価な方向)を向く性質がある

[001]容易軸では図のように(001)面内では[100][010][-100][0-10]の4つの方向を向くので90磁壁になる

[111]容易軸では

(a) (b)

(近角強磁性体の物理)

33 ヒステリシスを磁区で説明する

残留磁化状態 逆磁区の発生と成長

磁気飽和

核発生

34 さまざまな磁区とマイクロマグネティクス

Figは結晶の対称性により磁区が変わる様子の例として縞状磁区(stripe domain)と環流磁区(closure domain)を示している磁性体を微細化して直径1μm付近になるとスピンは面内に分布してvortex状態となり中心部に垂直方向のスピン成分をもつようになるさらに微細化すると単磁区になる

微小磁区のMFM観察

磁区の観察にはビッター法といって磁性微粒子を含むコロイドを磁性体上に滴下して光学顕微鏡で観察する方法が古くから使われているこのほか磁気光学顕微鏡ローレンツ電子顕微鏡磁気力顕微鏡走査型ホール顕微鏡走査型SQUID顕微鏡スピン偏極電子顕微鏡X線MCD顕微鏡などで観察することが可能であるFig 22にはいくつかの例について筆者のMFM観察結果を示す

10 nmtimes10 nmtimes10 nmMesh size

1Number of dot

200 nmtimes200 nmtimes100nm

Dot Size

Y directionEasy axis

02Damping constant(α)

-176times107 rad(sOe)Gyro magnetic constant(γ)

1000 ergcm3Anisotropic constant (Ku)

1times10-6 ergcm3Exchange field (A)

800 emucm3Saturation magnetization (Ms)

Hy = 10 kOe rarr 0 Oe

divM divMy

LLG 方程式を用いた

マイクロ磁気解析

Dot model

200 x 200thickness50 nm

Magnetic moment - dv M Force gradient

200 x 200thickness100 nm

90 degree walls propeller-like distortion

Calculation of a single dot

Spin structure

-divM

Isolated square dot

Force gradient image Spin distribution image

Four-dot system

Shift of the center occurs Reversal of chirality

MFM imagewith low-moment tip

(CoPtCr240Å in HV)

Spin distribution imagewith the force-gradientimage overlapped

Inversion of chirality

Comparison between MFM andsimulation of spin distribution

Simulation was carried outin the model structureconsisting of four squaredots with a dimension of200 nmtimes200 nmtimes20 nmwith 50nm separationbetween dots

The calculated spinstructure shows a closuredomain structure with the90-wall appears

The chirality of the spindirection in adjacent dots isopposite to each other asshown by white arrows

The Z-component force-gradient image taking intoaccount the tip-sampleinteraction is overlapped

Calculated magnetization configurationof Y-shaped permalloy dot

Calculation parametersWidth 300 nmThickness 100 nmEasy axis 0 ergcm3

x

y

z

Force gradient-divM

Force gradient(Magnified)

Experimental MFM images

bull Single domains appear in two armsbull Multi-domain of 4 chained closer-domains on the restbull Spin-flow at crossing region turns left in two steps

50

0n

m2

m

L

C

R

C

L

R

x

y

z

Calculated magnetization configurationsof Y-shaped permalloy mirror-dots

Calculation parametersWidth 200 nmThickness 40 nmEasy axis X 1000 ergcm3

Force gradient-divM

Single dot

Experimental MFM images

15 m

bull Calculated spin-flows similar to experimental resultbull Vortices with same chirality appear at the ends of all armsbull Chirality of adjacent dot shows a mirror-reflection

Easy axisEasy axis

Easy axis

Easy axis

-divM

4 おわりに

磁性特有のテクニカルタームがあるが慣れればそれほど難しいものではない

大部分の話は量子力学なしでも理解できる電磁気学の知識があればよい

応用につながるのは磁区磁壁の物理である

メゾスコピック系では量子的な現象が現れるこれが得意なスピン依存伝導現象をもたらす

[参考0]半導体磁性体誘電体

半導体と磁性体の対比

半導体 電子物性パラメータは基本的

にバンド構造で決まるキャリア密度は人為的に制御される

量子構造を考えない限り電子を古典粒子として有効質量近似で扱える

応用されるのは電子構造で決まる移動度などのミクロな電子物性である

電子物性が寸法方位形状にほとんど依存しない

単位系はCGSをもとにした実用単位系が使われる

磁性体 金属磁性体の磁性はスピン偏

極バンド構造で決まるが非金属磁性体の磁性は局在多電子系のフント則で決まる

交換相互作用スピン軌道相互作用など量子力学が基本

応用されるのは磁区により生じるヒステリシスに関連したマクロ磁気物性である

磁性は磁気異方性の影響を受け寸法方位形状により大幅に変化する

単位系が複雑でCGSとSIが混在して使われている

磁性体と誘電体の対比

磁性体

磁気モーメントμ(軸性ベクトル)

磁化M

自発磁化Ms

反磁界

磁気ヒステリシス

飽和磁化残留磁化保磁力

磁区(ドメイン)

キュリー温度

誘電体

電気双極子qr(極性ベクトル)

電気分極P

自発分極Ps

反電界

誘電ヒステリシス

飽和分極残留分極抗電界

分域(ドメイン)

キュリー温度

[参考1]

磁界磁束磁化

磁界(磁場)H磁束密度B磁化M

磁界H中に置かれた磁化Mの磁性体が磁束密

度は真空中の磁束密度に磁化による磁束密度を加えたものであるすなわちB=0H+M

B=0H B=0H+M

M

磁性体があると磁束密度が高くなる

真空中での磁束密度

磁化とは

物質に磁界を加えたとき物質の表面に磁極が生じ一時的に磁石のようになるがそのとき物質が磁化されたという

(b)(a)

(高梨初等磁気工学講座)より

磁化の定義

K番目の原子の1原子あ

たりの磁気モーメントをkとするときその単位体積についての総和k

を磁化Mと定義するM= k

磁気モーメントの単位はWbmであるから磁化の単位はWbm2となる

(高梨初等磁気工学講座)より

常磁性

磁極と磁気モーメント

磁石にはN極とS極がある

磁界中に置かれた磁性体にも磁極が誘起される磁極は必ずNSの対で現れる(単極は見つかっていない)

磁極の大きさをq [Wb]とすると磁界によってNSの対に働くトルクは-qdHsin [Nm]=qdsin [Wbm] H[Am]

必ずNとSが対で現れるならm=qrを磁性を扱う基本単

位と考えることが出来るこれを磁気モーメントという単位は[Wbm]

[参考2]

磁気モーメントの電子的起源

磁気モーメント

一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは

T=qH r sin=mH sin 磁気モーメントのもつポテンシャルEは

E=Td= mH sin d=mH(1-cos)

ポテンシャルの原点はどこにとってもよいから E=-mH mHのときエネルギーは極小になる

mはHに平行になろうとする(高梨初等磁気工学講座)より

r 磁気モーメント

m=qr [Wbm]

-q [Wb]

+q [Wb]

qH

-qH

rsin

単位E[J]=-m[Wbm] H[Am]

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 21: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

分子場理論

分子場係数

磁化Mをもつ磁性体に外部磁界Hが加わったときの有効磁界はHeff=H+AMと表されるAを分子場係数と呼ぶ

分子場係数AはJexを交換相互作用係数zを配位数としてA=2zJexN(gB)2で与えられる

この磁界によって生じる常磁性磁化MはM=M0BJ(gBHeffJkT)という式で表される

M0=NgBJはすべての磁気モーメントが整列したときに期待される磁化

分子場理論

自発磁化が生じる条件を求める

Heff=H+AMであるからH=0のときHeff=AM自発磁化が生じるにはHeff=AMを

M=M0BJ(gBHeffJkT)に代入して

MM0=BJ(gBJHeffkT)=BJ(gBJAMkT)が成立しなければならない

Aに分子場係数の式A=2zJexN(gB)2 を代入してMM0= BJ(2zJexgBMJ N(gB)2kT)

ここでM0=NgBJを使って書き直すとMM0= BJ((2zJexJ

2kT) MM0)を得る

MM0= BJ((2zJexJ2kT) MM0)を解く

y=MM0x=(2zJexJ2kT) MM0とすると上の方程式を解

くことは曲線y=BJ(x)と直線 y=x (2zJexJ2kT)を連立して

解くことと同じである

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

J=52のブリルアン関数

y=x (2zJexJ2kT) Tが小さいとき

解が存在する自発磁化あり

y=x (2zJexJ2kT) Tが大きいとき

解が存在しない自発磁化なし

キュリー温度においては直線はブリルアン関数の接線

温度が上がると

分子場理論

キュリー温度

温度が低いとき直線の傾斜はゆるくブリルアン曲線と直線ははy=MM0 =1付近で交わる

温度が上昇するとyの小さいところ交わる

高温になると0以外に交点を持たなくなる

(2zJexJ2kT) y=xの勾配とy=BJ(x)の接線の勾配

が等しいときがキュリー温度を与える

x=0付近ではyx3であるから3y=xと書ける従ってTcは2zJexJ

2kTc=3によってきまる即ちTc=2zJexJ

23kとなる

分子場理論

自発磁化の温度変化

さまざまなJについて分子場理論で交点のMM0をTに対してプロットすると磁化の温度変化を求めることができるニッケルの磁化温度曲線はJ=12でよく説明される timesは鉄はニッケルはコバルトの実測

値実線はJとしてスピンS=121infinをとった

ときの計算値

分子場理論

キュリーワイスの法則

キュリー温度Tc以上では磁気モーメントはバラバラ

の方向を向き常磁性になる分子場理論によればこのときの磁化率は次式で与えられる

この式をキュリーワイスの法則という

Cはワイス定数pは常磁性キュリー温度という

1をTに対してプロットすると1=(T- p)Cとなり横軸を横切る温度がpである

pT

C

分子場理論

キュリーワイスの法則を導く

Heff=H+AM

MHeff=CT (MとHeffの間にキュリーの法則が成立すると仮定する)

M(H+AM)=CTrarrMT=C(H+AM)従ってM(T-CA)=CHより

=MH=C(T-CA)となるCA=pと置けばキュリーワイスの法則が導かれるすなわち=C(T- p)

自発磁化の温度変化

強磁性体の自発磁化の大きさは温度上昇とともに減少しキュリー温度Tcにおいて消滅する

Tc以上では常磁性であ

る常磁性磁化率の逆数は温度に比例しゼロに外挿するとキュリー温度が求まる

25 交換相互作用(exchange interaction)

交換相互作用という言葉はもともとは多電子原子の中で働くクーロン相互作用の算出において電子同士を区別できないことから来るエネルギーの補正項のことで原子内交換相互作用といいます(intra-atomic exchange interaction)

この概念を原子間に拡張したのが原子間交換相互作用(inter-atomic exchangeinteraction)です

ウンチクコーナーイントラ(intra)とインター(inter) イントラは内部のといういみの接頭辞インターは複数のものの

間のという意味の接頭辞ですイントラネットインターネットということばもここから来ています

原子内交換相互作用

原子内交換相互作用は本質的にクーロン相互作用です2つの電子(波動関数を12とする)の間に働くクーロン相互作用のエネルギーHはH= K12-(12) J12(1+4s1s2) で表されます

K12は次式で与えられるクーロン積分です

J12は次式で与えられる交換積分で電子が区別できないことからくる項です

K dr dr r re

rr r12 1 2 1 1 2 2

2

12

1 1 2 2

J dr dr r re

rr r12 1 2 1 1 2 2

2

12

1 2 2 1

原子内交換相互作用

H= K12-(12) J12(1+4s1s2)

の固有値は=K12ndashJ12 (s1とs2が同符号のとき)= K12 ( s1とs2が異符号のとき)

Hと平均のエネルギー(H0=K12-J122)との差ndash2J12s1s2のことを原子内交換エネルギーという

K12

K12-J12

原子間交換相互作用

本来磁気秩序を考えるには物質系全体のスピンを考えねばならないのであるが電子の軌道が原子に局在しているみなして電子のスピンを各原子Iの位置に局在した全スピンSiで代表させて原子1の全スピンS1と原子2の全スピンS2との間に原子間交換相互作用が働くと考えるのがハイゼンベルグ模型であるこのとき交換エネルギーHex は原子内交換相互作用を一般化して見かけの交換積分J12を用いて

Hex =-2J12S1S2

で表されるJが正であれば相互作用は強磁性的負であれば反強磁性的である

交換相互作用

ハイゼンベルグ模型 Hex =-2J12S1S2

Jが正であれば相互作用は強磁性的負であれば反強磁性的

交換積分の起源隣接原子のスピン間の直接交換(direct exchange)

酸素などのアニオンのp電子軌道との混成を通してスピン同士がそろえあう超交換(superexchange)

伝導電子との相互作用を通じてそろえあう間接交換(indirect exchange)

電子の移動と磁性とが強く結びついている二重交換相互作用(double exchange)

さまざまな交換相互作用

直接交換

超交換

間接交換(RKKY)

二重交換

超交換相互作用

酸化物磁性体では局在電子系の磁気モーメントの間に働く相互作用は遷移金属の3d電子どうしの重なりで生じるのではなく配位子のp電子が遷移金属イオンの3d軌道に仮想的に遷

移した中間状態を介して相互作用するこれを超交換相互作用と称する主として反強磁性的に働く

酸素イオン

遷移金属イオン

超交換相互作用模式図

90度強磁性

180度反強磁性

(Goodenough)

アニオン

遷移金属イオン

アニオン

遷移金属イオン

(a)

(b)

Fig 9 超交換相互作用の模式図

間接交換(RKKY)相互作用

希土類金属の磁性は4f電子が担うが伝導電子である5d電子が4f電子と原子内交換相互作用することによってスピン偏極を受けこれが隣接の希土類原子のf電子と相互作用するという形の間接的な交換相互作用を行っていると考えられている

これをRKKY (Rudermann Kittel Kasuya Yoshida)相互作用という

伝導電子を介した局在スピン間の磁気的相互作用は距離に対して余弦関数的に振動しその周期は伝導電子のフェルミ波数で決められる

RKKY振動

フリーデル振動

21F

2

F

2

RKKY 29 SS

Rkf

N

NJH e

4

sincos

x

xxxxf

CoCu superlattice

Cu thickness (Aring)

磁気抵

抗比

図15

二重交換相互作用

LaMnO3ではすべてのMn原子は3価なので egバンドには1個の電子が存在しこの電子が隣接Mn原子のeg軌道に移動しようとすると電子相関エネルギーUだけのエネルギーが必要であるため電子移動は起きずモット絶縁体となっている

LaをSrで置き換え4価のMnが生じるとMn4+のeg軌道は空であるから他のMn3+から電子が移ることができ金属的な導電性を生じる

このとき隣接するMn原子の磁気モーメントのなす角とするとeg電子の飛び移りの確率はcos( 2)に比例する=0(スピンが平行)のとき飛び移りが最も起きやすく運動エネルギーの分だけエネルギーが下がるので強磁性となる

二重交換の模式図

Mn3+ Mn4+

3磁気ヒステリシス曲線と磁区

磁気ヒステリシスについて

反磁界と静磁エネルギー

磁気異方性

磁区と磁壁磁壁移動と磁化回転

保磁力

31 磁気ヒステリシス

強磁性体においてはその磁化は印加磁界に比例せずヒステリシスを示す

(高梨初等磁気工学講座テキスト)

OrarrBrarrC初磁化曲線

CrarrD 残留磁化

DrarrE 保磁力

CrarrDrarrErarrFrarrGrarrC

ヒステリシスループ

縦軸磁化

横軸磁界

[参考]

磁化曲線の測定法

磁性体を磁界中に置き磁界を増加していくと磁性体の磁化は増加していき次第に飽和する

磁化曲線は磁力計を使って測定する

VSM試料振動型磁力計試料を01~02mm程度のわずかな振幅で80Hz程度の低周波で振動させ試料の

磁化による磁束の時間変化を電磁石の磁極付近に置かれたサーチコイルに誘起された誘導起電力として検出する誘導起電力は試料の磁化に比例するので磁化を測定することができる

電磁石

磁極付近に置いたサーチコイル

スピーカーと同じ振動機構

[参考]

VSMブロック図

丸善実験物理学講座「磁気測定I」p68より

磁気ヒステリシスと応用

保磁力のちがいで用途が違う

Hc小軟質磁性体

磁気ヘッド変圧器鉄心磁気シールド

Hc中半硬質磁性体

磁気記録媒体

Hc大硬質磁性体

永久磁石このループの面積が磁石に蓄積される磁気エネルギー高周波の場合はヒステリシス損失となる

永久磁石の最大エネルギー積(BH)maxの変遷(httpwwwaacgbhamacukmagnetic_materialshistoryhtm)

BHmax

32 なぜ初磁化状態では磁化がないのか磁区(magnetic domain)

磁化が特定の方向を向くとするとN極からS極に向

かって磁力線が生じますこの磁力線は考えている試料の外を通っているだけでなく磁性体の内部も貫いていますこの磁力線を反磁界といいます反磁界の向きは磁化の向きとは反対向きなので磁化は回転する静磁力を受けて不安定となります

磁化の方向が逆方向の縞状の磁区と呼ばれる領域に分かれるならば反磁界がうち消し合って静磁エネルギーが低下して安定するのです

反磁界(demagnetization field)

磁性体表面の法線方向の磁化成分をMn とすると表面には単位面積あたり = Mnという大きさの磁極(Wbm2)が生じる

磁極からはガウスの定理によって全部で μ0の磁力線がわき出すこのうち反磁界係数Nを使って定義される磁力線NMは内部に向かっており残りは外側に向かっているすなわち磁石の内部ではMの向きとは逆方向の反磁界が存在する

外部では磁束線は磁力線に一致する

(b) 磁力線

M- +

(a)磁化と磁極 反磁界

S N

S N

(c) 磁束線

反磁界係数N (近角強磁性体の物理より)

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0

(i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+ Ny+ Nz=1

が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx= Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx= Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

x

y

z

z

x

y

z

x

y

Nz=1

Nx= 0Ny= 0

Nx= 12

Ny= 12

Nx=13

Ny=13

Nz=13

Nz=0

反磁界補正

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0 (i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+Ny+ Nz=1が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx=Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx=Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

(近角強磁性体の物理より)

反磁界と静磁エネルギー

磁化Mが反磁界HdのもとにおかれるとU=MHdだけポテンシャルエネルギーが高くなる

一様な磁界H中の磁気モーメントMに働くトルクTはT=-MH sin

磁気モーメントのもつポテンシャルEはU=Td= - 0

MH sin d=MH (1-cos) エネルギーの原点はどこにとってもよいのでポテンシャルエネルギーはU=-MHと表される H=-Hdを代入すると反磁界によるポテンシャルの増加はU=MHd

表面磁極の分割による静磁エネルギーの減少

結晶表面をxy面にとる

表面でz=0とする

磁区の磁化方向はplusmnz

磁区のx方向の幅d

磁極の表面密度=Is 2mdltxlt(2m+1)d

=-Is (2m+1)dltxlt2(m+1)d

磁気ポテンシャルをLaplaceの方程式で求め

+ +- -

z

x

y

d

境界条件( z)z=-0=20

境界条件のもとにラプラス方程式を解くと=n An sin n(d)xexp n(d)z

係数Anは次式を満たすように決められる(d) n nAn sin n(d)x =I20 2mdltxlt(2m+1)d

= - I20 (2m+1)dltxlt2(m+1)d

rarrAn=2Isd20n2

(x=0)=(2Isd20) n (1n2)sin n(d)x

単位表面積あたりの静磁エネルギー=(2Is

220) n (1n2)int0d sin n(d)x

=(2Is2d20) n=odd (1n3)=540104Is

2d

磁気異方性

磁性体は半導体と違って形状寸法結晶方位とか磁化の方位などによって物性が大きく変化する

1つの原因は上に述べた反磁界係数で形状磁気異方性と呼ばれます反磁界によるエネルギーの損を最小化することが原因です

このほかの原因として重要なのが結晶磁気異方性です結晶磁気異方性というのは磁界を結晶のどの方位に加えるかで磁化曲線が変化する性質です

電子軌道は結晶軸に結びついているので磁気的性質と電子軌道との結びつき(スピン軌道相互作用)を通じて磁性が結晶軸と結び

つくのです半導体にも詳しい測定をすると異方性を見ることができますこれに比べ一般に半導体の電子軌道は結晶全体に広がっているので平均化されて結晶軸に依存する物性が見えにくいです

結晶磁気異方性

磁化しやすさは結晶の方位に依存する

鉄は立方晶であるが[100]が容易軸[111]は困難軸

x

y

z

[111

]

[100

]

容易軸

困難軸

[110]

円板磁性体の磁区構造

全体が磁区に分かれることにより全体の磁化がなくなっているこれが初磁化状態である

磁区の内部では磁化は任意の方向をランダムに向いている訳ではない

磁化は結晶の方位と無関係な方向を向くことはできない磁性体には磁気異方性という性質があり磁化が特定の結晶軸方位(たとえばFeでは[001]方向および等価な方向)を向く性質がある

[001]容易軸では図のように(001)面内では[100][010][-100][0-10]の4つの方向を向くので90磁壁になる

[111]容易軸では

(a) (b)

(近角強磁性体の物理)

33 ヒステリシスを磁区で説明する

残留磁化状態 逆磁区の発生と成長

磁気飽和

核発生

34 さまざまな磁区とマイクロマグネティクス

Figは結晶の対称性により磁区が変わる様子の例として縞状磁区(stripe domain)と環流磁区(closure domain)を示している磁性体を微細化して直径1μm付近になるとスピンは面内に分布してvortex状態となり中心部に垂直方向のスピン成分をもつようになるさらに微細化すると単磁区になる

微小磁区のMFM観察

磁区の観察にはビッター法といって磁性微粒子を含むコロイドを磁性体上に滴下して光学顕微鏡で観察する方法が古くから使われているこのほか磁気光学顕微鏡ローレンツ電子顕微鏡磁気力顕微鏡走査型ホール顕微鏡走査型SQUID顕微鏡スピン偏極電子顕微鏡X線MCD顕微鏡などで観察することが可能であるFig 22にはいくつかの例について筆者のMFM観察結果を示す

10 nmtimes10 nmtimes10 nmMesh size

1Number of dot

200 nmtimes200 nmtimes100nm

Dot Size

Y directionEasy axis

02Damping constant(α)

-176times107 rad(sOe)Gyro magnetic constant(γ)

1000 ergcm3Anisotropic constant (Ku)

1times10-6 ergcm3Exchange field (A)

800 emucm3Saturation magnetization (Ms)

Hy = 10 kOe rarr 0 Oe

divM divMy

LLG 方程式を用いた

マイクロ磁気解析

Dot model

200 x 200thickness50 nm

Magnetic moment - dv M Force gradient

200 x 200thickness100 nm

90 degree walls propeller-like distortion

Calculation of a single dot

Spin structure

-divM

Isolated square dot

Force gradient image Spin distribution image

Four-dot system

Shift of the center occurs Reversal of chirality

MFM imagewith low-moment tip

(CoPtCr240Å in HV)

Spin distribution imagewith the force-gradientimage overlapped

Inversion of chirality

Comparison between MFM andsimulation of spin distribution

Simulation was carried outin the model structureconsisting of four squaredots with a dimension of200 nmtimes200 nmtimes20 nmwith 50nm separationbetween dots

The calculated spinstructure shows a closuredomain structure with the90-wall appears

The chirality of the spindirection in adjacent dots isopposite to each other asshown by white arrows

The Z-component force-gradient image taking intoaccount the tip-sampleinteraction is overlapped

Calculated magnetization configurationof Y-shaped permalloy dot

Calculation parametersWidth 300 nmThickness 100 nmEasy axis 0 ergcm3

x

y

z

Force gradient-divM

Force gradient(Magnified)

Experimental MFM images

bull Single domains appear in two armsbull Multi-domain of 4 chained closer-domains on the restbull Spin-flow at crossing region turns left in two steps

50

0n

m2

m

L

C

R

C

L

R

x

y

z

Calculated magnetization configurationsof Y-shaped permalloy mirror-dots

Calculation parametersWidth 200 nmThickness 40 nmEasy axis X 1000 ergcm3

Force gradient-divM

Single dot

Experimental MFM images

15 m

bull Calculated spin-flows similar to experimental resultbull Vortices with same chirality appear at the ends of all armsbull Chirality of adjacent dot shows a mirror-reflection

Easy axisEasy axis

Easy axis

Easy axis

-divM

4 おわりに

磁性特有のテクニカルタームがあるが慣れればそれほど難しいものではない

大部分の話は量子力学なしでも理解できる電磁気学の知識があればよい

応用につながるのは磁区磁壁の物理である

メゾスコピック系では量子的な現象が現れるこれが得意なスピン依存伝導現象をもたらす

[参考0]半導体磁性体誘電体

半導体と磁性体の対比

半導体 電子物性パラメータは基本的

にバンド構造で決まるキャリア密度は人為的に制御される

量子構造を考えない限り電子を古典粒子として有効質量近似で扱える

応用されるのは電子構造で決まる移動度などのミクロな電子物性である

電子物性が寸法方位形状にほとんど依存しない

単位系はCGSをもとにした実用単位系が使われる

磁性体 金属磁性体の磁性はスピン偏

極バンド構造で決まるが非金属磁性体の磁性は局在多電子系のフント則で決まる

交換相互作用スピン軌道相互作用など量子力学が基本

応用されるのは磁区により生じるヒステリシスに関連したマクロ磁気物性である

磁性は磁気異方性の影響を受け寸法方位形状により大幅に変化する

単位系が複雑でCGSとSIが混在して使われている

磁性体と誘電体の対比

磁性体

磁気モーメントμ(軸性ベクトル)

磁化M

自発磁化Ms

反磁界

磁気ヒステリシス

飽和磁化残留磁化保磁力

磁区(ドメイン)

キュリー温度

誘電体

電気双極子qr(極性ベクトル)

電気分極P

自発分極Ps

反電界

誘電ヒステリシス

飽和分極残留分極抗電界

分域(ドメイン)

キュリー温度

[参考1]

磁界磁束磁化

磁界(磁場)H磁束密度B磁化M

磁界H中に置かれた磁化Mの磁性体が磁束密

度は真空中の磁束密度に磁化による磁束密度を加えたものであるすなわちB=0H+M

B=0H B=0H+M

M

磁性体があると磁束密度が高くなる

真空中での磁束密度

磁化とは

物質に磁界を加えたとき物質の表面に磁極が生じ一時的に磁石のようになるがそのとき物質が磁化されたという

(b)(a)

(高梨初等磁気工学講座)より

磁化の定義

K番目の原子の1原子あ

たりの磁気モーメントをkとするときその単位体積についての総和k

を磁化Mと定義するM= k

磁気モーメントの単位はWbmであるから磁化の単位はWbm2となる

(高梨初等磁気工学講座)より

常磁性

磁極と磁気モーメント

磁石にはN極とS極がある

磁界中に置かれた磁性体にも磁極が誘起される磁極は必ずNSの対で現れる(単極は見つかっていない)

磁極の大きさをq [Wb]とすると磁界によってNSの対に働くトルクは-qdHsin [Nm]=qdsin [Wbm] H[Am]

必ずNとSが対で現れるならm=qrを磁性を扱う基本単

位と考えることが出来るこれを磁気モーメントという単位は[Wbm]

[参考2]

磁気モーメントの電子的起源

磁気モーメント

一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは

T=qH r sin=mH sin 磁気モーメントのもつポテンシャルEは

E=Td= mH sin d=mH(1-cos)

ポテンシャルの原点はどこにとってもよいから E=-mH mHのときエネルギーは極小になる

mはHに平行になろうとする(高梨初等磁気工学講座)より

r 磁気モーメント

m=qr [Wbm]

-q [Wb]

+q [Wb]

qH

-qH

rsin

単位E[J]=-m[Wbm] H[Am]

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 22: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

分子場理論

自発磁化が生じる条件を求める

Heff=H+AMであるからH=0のときHeff=AM自発磁化が生じるにはHeff=AMを

M=M0BJ(gBHeffJkT)に代入して

MM0=BJ(gBJHeffkT)=BJ(gBJAMkT)が成立しなければならない

Aに分子場係数の式A=2zJexN(gB)2 を代入してMM0= BJ(2zJexgBMJ N(gB)2kT)

ここでM0=NgBJを使って書き直すとMM0= BJ((2zJexJ

2kT) MM0)を得る

MM0= BJ((2zJexJ2kT) MM0)を解く

y=MM0x=(2zJexJ2kT) MM0とすると上の方程式を解

くことは曲線y=BJ(x)と直線 y=x (2zJexJ2kT)を連立して

解くことと同じである

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

J=52のブリルアン関数

y=x (2zJexJ2kT) Tが小さいとき

解が存在する自発磁化あり

y=x (2zJexJ2kT) Tが大きいとき

解が存在しない自発磁化なし

キュリー温度においては直線はブリルアン関数の接線

温度が上がると

分子場理論

キュリー温度

温度が低いとき直線の傾斜はゆるくブリルアン曲線と直線ははy=MM0 =1付近で交わる

温度が上昇するとyの小さいところ交わる

高温になると0以外に交点を持たなくなる

(2zJexJ2kT) y=xの勾配とy=BJ(x)の接線の勾配

が等しいときがキュリー温度を与える

x=0付近ではyx3であるから3y=xと書ける従ってTcは2zJexJ

2kTc=3によってきまる即ちTc=2zJexJ

23kとなる

分子場理論

自発磁化の温度変化

さまざまなJについて分子場理論で交点のMM0をTに対してプロットすると磁化の温度変化を求めることができるニッケルの磁化温度曲線はJ=12でよく説明される timesは鉄はニッケルはコバルトの実測

値実線はJとしてスピンS=121infinをとった

ときの計算値

分子場理論

キュリーワイスの法則

キュリー温度Tc以上では磁気モーメントはバラバラ

の方向を向き常磁性になる分子場理論によればこのときの磁化率は次式で与えられる

この式をキュリーワイスの法則という

Cはワイス定数pは常磁性キュリー温度という

1をTに対してプロットすると1=(T- p)Cとなり横軸を横切る温度がpである

pT

C

分子場理論

キュリーワイスの法則を導く

Heff=H+AM

MHeff=CT (MとHeffの間にキュリーの法則が成立すると仮定する)

M(H+AM)=CTrarrMT=C(H+AM)従ってM(T-CA)=CHより

=MH=C(T-CA)となるCA=pと置けばキュリーワイスの法則が導かれるすなわち=C(T- p)

自発磁化の温度変化

強磁性体の自発磁化の大きさは温度上昇とともに減少しキュリー温度Tcにおいて消滅する

Tc以上では常磁性であ

る常磁性磁化率の逆数は温度に比例しゼロに外挿するとキュリー温度が求まる

25 交換相互作用(exchange interaction)

交換相互作用という言葉はもともとは多電子原子の中で働くクーロン相互作用の算出において電子同士を区別できないことから来るエネルギーの補正項のことで原子内交換相互作用といいます(intra-atomic exchange interaction)

この概念を原子間に拡張したのが原子間交換相互作用(inter-atomic exchangeinteraction)です

ウンチクコーナーイントラ(intra)とインター(inter) イントラは内部のといういみの接頭辞インターは複数のものの

間のという意味の接頭辞ですイントラネットインターネットということばもここから来ています

原子内交換相互作用

原子内交換相互作用は本質的にクーロン相互作用です2つの電子(波動関数を12とする)の間に働くクーロン相互作用のエネルギーHはH= K12-(12) J12(1+4s1s2) で表されます

K12は次式で与えられるクーロン積分です

J12は次式で与えられる交換積分で電子が区別できないことからくる項です

K dr dr r re

rr r12 1 2 1 1 2 2

2

12

1 1 2 2

J dr dr r re

rr r12 1 2 1 1 2 2

2

12

1 2 2 1

原子内交換相互作用

H= K12-(12) J12(1+4s1s2)

の固有値は=K12ndashJ12 (s1とs2が同符号のとき)= K12 ( s1とs2が異符号のとき)

Hと平均のエネルギー(H0=K12-J122)との差ndash2J12s1s2のことを原子内交換エネルギーという

K12

K12-J12

原子間交換相互作用

本来磁気秩序を考えるには物質系全体のスピンを考えねばならないのであるが電子の軌道が原子に局在しているみなして電子のスピンを各原子Iの位置に局在した全スピンSiで代表させて原子1の全スピンS1と原子2の全スピンS2との間に原子間交換相互作用が働くと考えるのがハイゼンベルグ模型であるこのとき交換エネルギーHex は原子内交換相互作用を一般化して見かけの交換積分J12を用いて

Hex =-2J12S1S2

で表されるJが正であれば相互作用は強磁性的負であれば反強磁性的である

交換相互作用

ハイゼンベルグ模型 Hex =-2J12S1S2

Jが正であれば相互作用は強磁性的負であれば反強磁性的

交換積分の起源隣接原子のスピン間の直接交換(direct exchange)

酸素などのアニオンのp電子軌道との混成を通してスピン同士がそろえあう超交換(superexchange)

伝導電子との相互作用を通じてそろえあう間接交換(indirect exchange)

電子の移動と磁性とが強く結びついている二重交換相互作用(double exchange)

さまざまな交換相互作用

直接交換

超交換

間接交換(RKKY)

二重交換

超交換相互作用

酸化物磁性体では局在電子系の磁気モーメントの間に働く相互作用は遷移金属の3d電子どうしの重なりで生じるのではなく配位子のp電子が遷移金属イオンの3d軌道に仮想的に遷

移した中間状態を介して相互作用するこれを超交換相互作用と称する主として反強磁性的に働く

酸素イオン

遷移金属イオン

超交換相互作用模式図

90度強磁性

180度反強磁性

(Goodenough)

アニオン

遷移金属イオン

アニオン

遷移金属イオン

(a)

(b)

Fig 9 超交換相互作用の模式図

間接交換(RKKY)相互作用

希土類金属の磁性は4f電子が担うが伝導電子である5d電子が4f電子と原子内交換相互作用することによってスピン偏極を受けこれが隣接の希土類原子のf電子と相互作用するという形の間接的な交換相互作用を行っていると考えられている

これをRKKY (Rudermann Kittel Kasuya Yoshida)相互作用という

伝導電子を介した局在スピン間の磁気的相互作用は距離に対して余弦関数的に振動しその周期は伝導電子のフェルミ波数で決められる

RKKY振動

フリーデル振動

21F

2

F

2

RKKY 29 SS

Rkf

N

NJH e

4

sincos

x

xxxxf

CoCu superlattice

Cu thickness (Aring)

磁気抵

抗比

図15

二重交換相互作用

LaMnO3ではすべてのMn原子は3価なので egバンドには1個の電子が存在しこの電子が隣接Mn原子のeg軌道に移動しようとすると電子相関エネルギーUだけのエネルギーが必要であるため電子移動は起きずモット絶縁体となっている

LaをSrで置き換え4価のMnが生じるとMn4+のeg軌道は空であるから他のMn3+から電子が移ることができ金属的な導電性を生じる

このとき隣接するMn原子の磁気モーメントのなす角とするとeg電子の飛び移りの確率はcos( 2)に比例する=0(スピンが平行)のとき飛び移りが最も起きやすく運動エネルギーの分だけエネルギーが下がるので強磁性となる

二重交換の模式図

Mn3+ Mn4+

3磁気ヒステリシス曲線と磁区

磁気ヒステリシスについて

反磁界と静磁エネルギー

磁気異方性

磁区と磁壁磁壁移動と磁化回転

保磁力

31 磁気ヒステリシス

強磁性体においてはその磁化は印加磁界に比例せずヒステリシスを示す

(高梨初等磁気工学講座テキスト)

OrarrBrarrC初磁化曲線

CrarrD 残留磁化

DrarrE 保磁力

CrarrDrarrErarrFrarrGrarrC

ヒステリシスループ

縦軸磁化

横軸磁界

[参考]

磁化曲線の測定法

磁性体を磁界中に置き磁界を増加していくと磁性体の磁化は増加していき次第に飽和する

磁化曲線は磁力計を使って測定する

VSM試料振動型磁力計試料を01~02mm程度のわずかな振幅で80Hz程度の低周波で振動させ試料の

磁化による磁束の時間変化を電磁石の磁極付近に置かれたサーチコイルに誘起された誘導起電力として検出する誘導起電力は試料の磁化に比例するので磁化を測定することができる

電磁石

磁極付近に置いたサーチコイル

スピーカーと同じ振動機構

[参考]

VSMブロック図

丸善実験物理学講座「磁気測定I」p68より

磁気ヒステリシスと応用

保磁力のちがいで用途が違う

Hc小軟質磁性体

磁気ヘッド変圧器鉄心磁気シールド

Hc中半硬質磁性体

磁気記録媒体

Hc大硬質磁性体

永久磁石このループの面積が磁石に蓄積される磁気エネルギー高周波の場合はヒステリシス損失となる

永久磁石の最大エネルギー積(BH)maxの変遷(httpwwwaacgbhamacukmagnetic_materialshistoryhtm)

BHmax

32 なぜ初磁化状態では磁化がないのか磁区(magnetic domain)

磁化が特定の方向を向くとするとN極からS極に向

かって磁力線が生じますこの磁力線は考えている試料の外を通っているだけでなく磁性体の内部も貫いていますこの磁力線を反磁界といいます反磁界の向きは磁化の向きとは反対向きなので磁化は回転する静磁力を受けて不安定となります

磁化の方向が逆方向の縞状の磁区と呼ばれる領域に分かれるならば反磁界がうち消し合って静磁エネルギーが低下して安定するのです

反磁界(demagnetization field)

磁性体表面の法線方向の磁化成分をMn とすると表面には単位面積あたり = Mnという大きさの磁極(Wbm2)が生じる

磁極からはガウスの定理によって全部で μ0の磁力線がわき出すこのうち反磁界係数Nを使って定義される磁力線NMは内部に向かっており残りは外側に向かっているすなわち磁石の内部ではMの向きとは逆方向の反磁界が存在する

外部では磁束線は磁力線に一致する

(b) 磁力線

M- +

(a)磁化と磁極 反磁界

S N

S N

(c) 磁束線

反磁界係数N (近角強磁性体の物理より)

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0

(i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+ Ny+ Nz=1

が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx= Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx= Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

x

y

z

z

x

y

z

x

y

Nz=1

Nx= 0Ny= 0

Nx= 12

Ny= 12

Nx=13

Ny=13

Nz=13

Nz=0

反磁界補正

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0 (i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+Ny+ Nz=1が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx=Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx=Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

(近角強磁性体の物理より)

反磁界と静磁エネルギー

磁化Mが反磁界HdのもとにおかれるとU=MHdだけポテンシャルエネルギーが高くなる

一様な磁界H中の磁気モーメントMに働くトルクTはT=-MH sin

磁気モーメントのもつポテンシャルEはU=Td= - 0

MH sin d=MH (1-cos) エネルギーの原点はどこにとってもよいのでポテンシャルエネルギーはU=-MHと表される H=-Hdを代入すると反磁界によるポテンシャルの増加はU=MHd

表面磁極の分割による静磁エネルギーの減少

結晶表面をxy面にとる

表面でz=0とする

磁区の磁化方向はplusmnz

磁区のx方向の幅d

磁極の表面密度=Is 2mdltxlt(2m+1)d

=-Is (2m+1)dltxlt2(m+1)d

磁気ポテンシャルをLaplaceの方程式で求め

+ +- -

z

x

y

d

境界条件( z)z=-0=20

境界条件のもとにラプラス方程式を解くと=n An sin n(d)xexp n(d)z

係数Anは次式を満たすように決められる(d) n nAn sin n(d)x =I20 2mdltxlt(2m+1)d

= - I20 (2m+1)dltxlt2(m+1)d

rarrAn=2Isd20n2

(x=0)=(2Isd20) n (1n2)sin n(d)x

単位表面積あたりの静磁エネルギー=(2Is

220) n (1n2)int0d sin n(d)x

=(2Is2d20) n=odd (1n3)=540104Is

2d

磁気異方性

磁性体は半導体と違って形状寸法結晶方位とか磁化の方位などによって物性が大きく変化する

1つの原因は上に述べた反磁界係数で形状磁気異方性と呼ばれます反磁界によるエネルギーの損を最小化することが原因です

このほかの原因として重要なのが結晶磁気異方性です結晶磁気異方性というのは磁界を結晶のどの方位に加えるかで磁化曲線が変化する性質です

電子軌道は結晶軸に結びついているので磁気的性質と電子軌道との結びつき(スピン軌道相互作用)を通じて磁性が結晶軸と結び

つくのです半導体にも詳しい測定をすると異方性を見ることができますこれに比べ一般に半導体の電子軌道は結晶全体に広がっているので平均化されて結晶軸に依存する物性が見えにくいです

結晶磁気異方性

磁化しやすさは結晶の方位に依存する

鉄は立方晶であるが[100]が容易軸[111]は困難軸

x

y

z

[111

]

[100

]

容易軸

困難軸

[110]

円板磁性体の磁区構造

全体が磁区に分かれることにより全体の磁化がなくなっているこれが初磁化状態である

磁区の内部では磁化は任意の方向をランダムに向いている訳ではない

磁化は結晶の方位と無関係な方向を向くことはできない磁性体には磁気異方性という性質があり磁化が特定の結晶軸方位(たとえばFeでは[001]方向および等価な方向)を向く性質がある

[001]容易軸では図のように(001)面内では[100][010][-100][0-10]の4つの方向を向くので90磁壁になる

[111]容易軸では

(a) (b)

(近角強磁性体の物理)

33 ヒステリシスを磁区で説明する

残留磁化状態 逆磁区の発生と成長

磁気飽和

核発生

34 さまざまな磁区とマイクロマグネティクス

Figは結晶の対称性により磁区が変わる様子の例として縞状磁区(stripe domain)と環流磁区(closure domain)を示している磁性体を微細化して直径1μm付近になるとスピンは面内に分布してvortex状態となり中心部に垂直方向のスピン成分をもつようになるさらに微細化すると単磁区になる

微小磁区のMFM観察

磁区の観察にはビッター法といって磁性微粒子を含むコロイドを磁性体上に滴下して光学顕微鏡で観察する方法が古くから使われているこのほか磁気光学顕微鏡ローレンツ電子顕微鏡磁気力顕微鏡走査型ホール顕微鏡走査型SQUID顕微鏡スピン偏極電子顕微鏡X線MCD顕微鏡などで観察することが可能であるFig 22にはいくつかの例について筆者のMFM観察結果を示す

10 nmtimes10 nmtimes10 nmMesh size

1Number of dot

200 nmtimes200 nmtimes100nm

Dot Size

Y directionEasy axis

02Damping constant(α)

-176times107 rad(sOe)Gyro magnetic constant(γ)

1000 ergcm3Anisotropic constant (Ku)

1times10-6 ergcm3Exchange field (A)

800 emucm3Saturation magnetization (Ms)

Hy = 10 kOe rarr 0 Oe

divM divMy

LLG 方程式を用いた

マイクロ磁気解析

Dot model

200 x 200thickness50 nm

Magnetic moment - dv M Force gradient

200 x 200thickness100 nm

90 degree walls propeller-like distortion

Calculation of a single dot

Spin structure

-divM

Isolated square dot

Force gradient image Spin distribution image

Four-dot system

Shift of the center occurs Reversal of chirality

MFM imagewith low-moment tip

(CoPtCr240Å in HV)

Spin distribution imagewith the force-gradientimage overlapped

Inversion of chirality

Comparison between MFM andsimulation of spin distribution

Simulation was carried outin the model structureconsisting of four squaredots with a dimension of200 nmtimes200 nmtimes20 nmwith 50nm separationbetween dots

The calculated spinstructure shows a closuredomain structure with the90-wall appears

The chirality of the spindirection in adjacent dots isopposite to each other asshown by white arrows

The Z-component force-gradient image taking intoaccount the tip-sampleinteraction is overlapped

Calculated magnetization configurationof Y-shaped permalloy dot

Calculation parametersWidth 300 nmThickness 100 nmEasy axis 0 ergcm3

x

y

z

Force gradient-divM

Force gradient(Magnified)

Experimental MFM images

bull Single domains appear in two armsbull Multi-domain of 4 chained closer-domains on the restbull Spin-flow at crossing region turns left in two steps

50

0n

m2

m

L

C

R

C

L

R

x

y

z

Calculated magnetization configurationsof Y-shaped permalloy mirror-dots

Calculation parametersWidth 200 nmThickness 40 nmEasy axis X 1000 ergcm3

Force gradient-divM

Single dot

Experimental MFM images

15 m

bull Calculated spin-flows similar to experimental resultbull Vortices with same chirality appear at the ends of all armsbull Chirality of adjacent dot shows a mirror-reflection

Easy axisEasy axis

Easy axis

Easy axis

-divM

4 おわりに

磁性特有のテクニカルタームがあるが慣れればそれほど難しいものではない

大部分の話は量子力学なしでも理解できる電磁気学の知識があればよい

応用につながるのは磁区磁壁の物理である

メゾスコピック系では量子的な現象が現れるこれが得意なスピン依存伝導現象をもたらす

[参考0]半導体磁性体誘電体

半導体と磁性体の対比

半導体 電子物性パラメータは基本的

にバンド構造で決まるキャリア密度は人為的に制御される

量子構造を考えない限り電子を古典粒子として有効質量近似で扱える

応用されるのは電子構造で決まる移動度などのミクロな電子物性である

電子物性が寸法方位形状にほとんど依存しない

単位系はCGSをもとにした実用単位系が使われる

磁性体 金属磁性体の磁性はスピン偏

極バンド構造で決まるが非金属磁性体の磁性は局在多電子系のフント則で決まる

交換相互作用スピン軌道相互作用など量子力学が基本

応用されるのは磁区により生じるヒステリシスに関連したマクロ磁気物性である

磁性は磁気異方性の影響を受け寸法方位形状により大幅に変化する

単位系が複雑でCGSとSIが混在して使われている

磁性体と誘電体の対比

磁性体

磁気モーメントμ(軸性ベクトル)

磁化M

自発磁化Ms

反磁界

磁気ヒステリシス

飽和磁化残留磁化保磁力

磁区(ドメイン)

キュリー温度

誘電体

電気双極子qr(極性ベクトル)

電気分極P

自発分極Ps

反電界

誘電ヒステリシス

飽和分極残留分極抗電界

分域(ドメイン)

キュリー温度

[参考1]

磁界磁束磁化

磁界(磁場)H磁束密度B磁化M

磁界H中に置かれた磁化Mの磁性体が磁束密

度は真空中の磁束密度に磁化による磁束密度を加えたものであるすなわちB=0H+M

B=0H B=0H+M

M

磁性体があると磁束密度が高くなる

真空中での磁束密度

磁化とは

物質に磁界を加えたとき物質の表面に磁極が生じ一時的に磁石のようになるがそのとき物質が磁化されたという

(b)(a)

(高梨初等磁気工学講座)より

磁化の定義

K番目の原子の1原子あ

たりの磁気モーメントをkとするときその単位体積についての総和k

を磁化Mと定義するM= k

磁気モーメントの単位はWbmであるから磁化の単位はWbm2となる

(高梨初等磁気工学講座)より

常磁性

磁極と磁気モーメント

磁石にはN極とS極がある

磁界中に置かれた磁性体にも磁極が誘起される磁極は必ずNSの対で現れる(単極は見つかっていない)

磁極の大きさをq [Wb]とすると磁界によってNSの対に働くトルクは-qdHsin [Nm]=qdsin [Wbm] H[Am]

必ずNとSが対で現れるならm=qrを磁性を扱う基本単

位と考えることが出来るこれを磁気モーメントという単位は[Wbm]

[参考2]

磁気モーメントの電子的起源

磁気モーメント

一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは

T=qH r sin=mH sin 磁気モーメントのもつポテンシャルEは

E=Td= mH sin d=mH(1-cos)

ポテンシャルの原点はどこにとってもよいから E=-mH mHのときエネルギーは極小になる

mはHに平行になろうとする(高梨初等磁気工学講座)より

r 磁気モーメント

m=qr [Wbm]

-q [Wb]

+q [Wb]

qH

-qH

rsin

単位E[J]=-m[Wbm] H[Am]

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 23: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

MM0= BJ((2zJexJ2kT) MM0)を解く

y=MM0x=(2zJexJ2kT) MM0とすると上の方程式を解

くことは曲線y=BJ(x)と直線 y=x (2zJexJ2kT)を連立して

解くことと同じである

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

J=52のブリルアン関数

y=x (2zJexJ2kT) Tが小さいとき

解が存在する自発磁化あり

y=x (2zJexJ2kT) Tが大きいとき

解が存在しない自発磁化なし

キュリー温度においては直線はブリルアン関数の接線

温度が上がると

分子場理論

キュリー温度

温度が低いとき直線の傾斜はゆるくブリルアン曲線と直線ははy=MM0 =1付近で交わる

温度が上昇するとyの小さいところ交わる

高温になると0以外に交点を持たなくなる

(2zJexJ2kT) y=xの勾配とy=BJ(x)の接線の勾配

が等しいときがキュリー温度を与える

x=0付近ではyx3であるから3y=xと書ける従ってTcは2zJexJ

2kTc=3によってきまる即ちTc=2zJexJ

23kとなる

分子場理論

自発磁化の温度変化

さまざまなJについて分子場理論で交点のMM0をTに対してプロットすると磁化の温度変化を求めることができるニッケルの磁化温度曲線はJ=12でよく説明される timesは鉄はニッケルはコバルトの実測

値実線はJとしてスピンS=121infinをとった

ときの計算値

分子場理論

キュリーワイスの法則

キュリー温度Tc以上では磁気モーメントはバラバラ

の方向を向き常磁性になる分子場理論によればこのときの磁化率は次式で与えられる

この式をキュリーワイスの法則という

Cはワイス定数pは常磁性キュリー温度という

1をTに対してプロットすると1=(T- p)Cとなり横軸を横切る温度がpである

pT

C

分子場理論

キュリーワイスの法則を導く

Heff=H+AM

MHeff=CT (MとHeffの間にキュリーの法則が成立すると仮定する)

M(H+AM)=CTrarrMT=C(H+AM)従ってM(T-CA)=CHより

=MH=C(T-CA)となるCA=pと置けばキュリーワイスの法則が導かれるすなわち=C(T- p)

自発磁化の温度変化

強磁性体の自発磁化の大きさは温度上昇とともに減少しキュリー温度Tcにおいて消滅する

Tc以上では常磁性であ

る常磁性磁化率の逆数は温度に比例しゼロに外挿するとキュリー温度が求まる

25 交換相互作用(exchange interaction)

交換相互作用という言葉はもともとは多電子原子の中で働くクーロン相互作用の算出において電子同士を区別できないことから来るエネルギーの補正項のことで原子内交換相互作用といいます(intra-atomic exchange interaction)

この概念を原子間に拡張したのが原子間交換相互作用(inter-atomic exchangeinteraction)です

ウンチクコーナーイントラ(intra)とインター(inter) イントラは内部のといういみの接頭辞インターは複数のものの

間のという意味の接頭辞ですイントラネットインターネットということばもここから来ています

原子内交換相互作用

原子内交換相互作用は本質的にクーロン相互作用です2つの電子(波動関数を12とする)の間に働くクーロン相互作用のエネルギーHはH= K12-(12) J12(1+4s1s2) で表されます

K12は次式で与えられるクーロン積分です

J12は次式で与えられる交換積分で電子が区別できないことからくる項です

K dr dr r re

rr r12 1 2 1 1 2 2

2

12

1 1 2 2

J dr dr r re

rr r12 1 2 1 1 2 2

2

12

1 2 2 1

原子内交換相互作用

H= K12-(12) J12(1+4s1s2)

の固有値は=K12ndashJ12 (s1とs2が同符号のとき)= K12 ( s1とs2が異符号のとき)

Hと平均のエネルギー(H0=K12-J122)との差ndash2J12s1s2のことを原子内交換エネルギーという

K12

K12-J12

原子間交換相互作用

本来磁気秩序を考えるには物質系全体のスピンを考えねばならないのであるが電子の軌道が原子に局在しているみなして電子のスピンを各原子Iの位置に局在した全スピンSiで代表させて原子1の全スピンS1と原子2の全スピンS2との間に原子間交換相互作用が働くと考えるのがハイゼンベルグ模型であるこのとき交換エネルギーHex は原子内交換相互作用を一般化して見かけの交換積分J12を用いて

Hex =-2J12S1S2

で表されるJが正であれば相互作用は強磁性的負であれば反強磁性的である

交換相互作用

ハイゼンベルグ模型 Hex =-2J12S1S2

Jが正であれば相互作用は強磁性的負であれば反強磁性的

交換積分の起源隣接原子のスピン間の直接交換(direct exchange)

酸素などのアニオンのp電子軌道との混成を通してスピン同士がそろえあう超交換(superexchange)

伝導電子との相互作用を通じてそろえあう間接交換(indirect exchange)

電子の移動と磁性とが強く結びついている二重交換相互作用(double exchange)

さまざまな交換相互作用

直接交換

超交換

間接交換(RKKY)

二重交換

超交換相互作用

酸化物磁性体では局在電子系の磁気モーメントの間に働く相互作用は遷移金属の3d電子どうしの重なりで生じるのではなく配位子のp電子が遷移金属イオンの3d軌道に仮想的に遷

移した中間状態を介して相互作用するこれを超交換相互作用と称する主として反強磁性的に働く

酸素イオン

遷移金属イオン

超交換相互作用模式図

90度強磁性

180度反強磁性

(Goodenough)

アニオン

遷移金属イオン

アニオン

遷移金属イオン

(a)

(b)

Fig 9 超交換相互作用の模式図

間接交換(RKKY)相互作用

希土類金属の磁性は4f電子が担うが伝導電子である5d電子が4f電子と原子内交換相互作用することによってスピン偏極を受けこれが隣接の希土類原子のf電子と相互作用するという形の間接的な交換相互作用を行っていると考えられている

これをRKKY (Rudermann Kittel Kasuya Yoshida)相互作用という

伝導電子を介した局在スピン間の磁気的相互作用は距離に対して余弦関数的に振動しその周期は伝導電子のフェルミ波数で決められる

RKKY振動

フリーデル振動

21F

2

F

2

RKKY 29 SS

Rkf

N

NJH e

4

sincos

x

xxxxf

CoCu superlattice

Cu thickness (Aring)

磁気抵

抗比

図15

二重交換相互作用

LaMnO3ではすべてのMn原子は3価なので egバンドには1個の電子が存在しこの電子が隣接Mn原子のeg軌道に移動しようとすると電子相関エネルギーUだけのエネルギーが必要であるため電子移動は起きずモット絶縁体となっている

LaをSrで置き換え4価のMnが生じるとMn4+のeg軌道は空であるから他のMn3+から電子が移ることができ金属的な導電性を生じる

このとき隣接するMn原子の磁気モーメントのなす角とするとeg電子の飛び移りの確率はcos( 2)に比例する=0(スピンが平行)のとき飛び移りが最も起きやすく運動エネルギーの分だけエネルギーが下がるので強磁性となる

二重交換の模式図

Mn3+ Mn4+

3磁気ヒステリシス曲線と磁区

磁気ヒステリシスについて

反磁界と静磁エネルギー

磁気異方性

磁区と磁壁磁壁移動と磁化回転

保磁力

31 磁気ヒステリシス

強磁性体においてはその磁化は印加磁界に比例せずヒステリシスを示す

(高梨初等磁気工学講座テキスト)

OrarrBrarrC初磁化曲線

CrarrD 残留磁化

DrarrE 保磁力

CrarrDrarrErarrFrarrGrarrC

ヒステリシスループ

縦軸磁化

横軸磁界

[参考]

磁化曲線の測定法

磁性体を磁界中に置き磁界を増加していくと磁性体の磁化は増加していき次第に飽和する

磁化曲線は磁力計を使って測定する

VSM試料振動型磁力計試料を01~02mm程度のわずかな振幅で80Hz程度の低周波で振動させ試料の

磁化による磁束の時間変化を電磁石の磁極付近に置かれたサーチコイルに誘起された誘導起電力として検出する誘導起電力は試料の磁化に比例するので磁化を測定することができる

電磁石

磁極付近に置いたサーチコイル

スピーカーと同じ振動機構

[参考]

VSMブロック図

丸善実験物理学講座「磁気測定I」p68より

磁気ヒステリシスと応用

保磁力のちがいで用途が違う

Hc小軟質磁性体

磁気ヘッド変圧器鉄心磁気シールド

Hc中半硬質磁性体

磁気記録媒体

Hc大硬質磁性体

永久磁石このループの面積が磁石に蓄積される磁気エネルギー高周波の場合はヒステリシス損失となる

永久磁石の最大エネルギー積(BH)maxの変遷(httpwwwaacgbhamacukmagnetic_materialshistoryhtm)

BHmax

32 なぜ初磁化状態では磁化がないのか磁区(magnetic domain)

磁化が特定の方向を向くとするとN極からS極に向

かって磁力線が生じますこの磁力線は考えている試料の外を通っているだけでなく磁性体の内部も貫いていますこの磁力線を反磁界といいます反磁界の向きは磁化の向きとは反対向きなので磁化は回転する静磁力を受けて不安定となります

磁化の方向が逆方向の縞状の磁区と呼ばれる領域に分かれるならば反磁界がうち消し合って静磁エネルギーが低下して安定するのです

反磁界(demagnetization field)

磁性体表面の法線方向の磁化成分をMn とすると表面には単位面積あたり = Mnという大きさの磁極(Wbm2)が生じる

磁極からはガウスの定理によって全部で μ0の磁力線がわき出すこのうち反磁界係数Nを使って定義される磁力線NMは内部に向かっており残りは外側に向かっているすなわち磁石の内部ではMの向きとは逆方向の反磁界が存在する

外部では磁束線は磁力線に一致する

(b) 磁力線

M- +

(a)磁化と磁極 反磁界

S N

S N

(c) 磁束線

反磁界係数N (近角強磁性体の物理より)

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0

(i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+ Ny+ Nz=1

が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx= Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx= Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

x

y

z

z

x

y

z

x

y

Nz=1

Nx= 0Ny= 0

Nx= 12

Ny= 12

Nx=13

Ny=13

Nz=13

Nz=0

反磁界補正

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0 (i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+Ny+ Nz=1が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx=Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx=Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

(近角強磁性体の物理より)

反磁界と静磁エネルギー

磁化Mが反磁界HdのもとにおかれるとU=MHdだけポテンシャルエネルギーが高くなる

一様な磁界H中の磁気モーメントMに働くトルクTはT=-MH sin

磁気モーメントのもつポテンシャルEはU=Td= - 0

MH sin d=MH (1-cos) エネルギーの原点はどこにとってもよいのでポテンシャルエネルギーはU=-MHと表される H=-Hdを代入すると反磁界によるポテンシャルの増加はU=MHd

表面磁極の分割による静磁エネルギーの減少

結晶表面をxy面にとる

表面でz=0とする

磁区の磁化方向はplusmnz

磁区のx方向の幅d

磁極の表面密度=Is 2mdltxlt(2m+1)d

=-Is (2m+1)dltxlt2(m+1)d

磁気ポテンシャルをLaplaceの方程式で求め

+ +- -

z

x

y

d

境界条件( z)z=-0=20

境界条件のもとにラプラス方程式を解くと=n An sin n(d)xexp n(d)z

係数Anは次式を満たすように決められる(d) n nAn sin n(d)x =I20 2mdltxlt(2m+1)d

= - I20 (2m+1)dltxlt2(m+1)d

rarrAn=2Isd20n2

(x=0)=(2Isd20) n (1n2)sin n(d)x

単位表面積あたりの静磁エネルギー=(2Is

220) n (1n2)int0d sin n(d)x

=(2Is2d20) n=odd (1n3)=540104Is

2d

磁気異方性

磁性体は半導体と違って形状寸法結晶方位とか磁化の方位などによって物性が大きく変化する

1つの原因は上に述べた反磁界係数で形状磁気異方性と呼ばれます反磁界によるエネルギーの損を最小化することが原因です

このほかの原因として重要なのが結晶磁気異方性です結晶磁気異方性というのは磁界を結晶のどの方位に加えるかで磁化曲線が変化する性質です

電子軌道は結晶軸に結びついているので磁気的性質と電子軌道との結びつき(スピン軌道相互作用)を通じて磁性が結晶軸と結び

つくのです半導体にも詳しい測定をすると異方性を見ることができますこれに比べ一般に半導体の電子軌道は結晶全体に広がっているので平均化されて結晶軸に依存する物性が見えにくいです

結晶磁気異方性

磁化しやすさは結晶の方位に依存する

鉄は立方晶であるが[100]が容易軸[111]は困難軸

x

y

z

[111

]

[100

]

容易軸

困難軸

[110]

円板磁性体の磁区構造

全体が磁区に分かれることにより全体の磁化がなくなっているこれが初磁化状態である

磁区の内部では磁化は任意の方向をランダムに向いている訳ではない

磁化は結晶の方位と無関係な方向を向くことはできない磁性体には磁気異方性という性質があり磁化が特定の結晶軸方位(たとえばFeでは[001]方向および等価な方向)を向く性質がある

[001]容易軸では図のように(001)面内では[100][010][-100][0-10]の4つの方向を向くので90磁壁になる

[111]容易軸では

(a) (b)

(近角強磁性体の物理)

33 ヒステリシスを磁区で説明する

残留磁化状態 逆磁区の発生と成長

磁気飽和

核発生

34 さまざまな磁区とマイクロマグネティクス

Figは結晶の対称性により磁区が変わる様子の例として縞状磁区(stripe domain)と環流磁区(closure domain)を示している磁性体を微細化して直径1μm付近になるとスピンは面内に分布してvortex状態となり中心部に垂直方向のスピン成分をもつようになるさらに微細化すると単磁区になる

微小磁区のMFM観察

磁区の観察にはビッター法といって磁性微粒子を含むコロイドを磁性体上に滴下して光学顕微鏡で観察する方法が古くから使われているこのほか磁気光学顕微鏡ローレンツ電子顕微鏡磁気力顕微鏡走査型ホール顕微鏡走査型SQUID顕微鏡スピン偏極電子顕微鏡X線MCD顕微鏡などで観察することが可能であるFig 22にはいくつかの例について筆者のMFM観察結果を示す

10 nmtimes10 nmtimes10 nmMesh size

1Number of dot

200 nmtimes200 nmtimes100nm

Dot Size

Y directionEasy axis

02Damping constant(α)

-176times107 rad(sOe)Gyro magnetic constant(γ)

1000 ergcm3Anisotropic constant (Ku)

1times10-6 ergcm3Exchange field (A)

800 emucm3Saturation magnetization (Ms)

Hy = 10 kOe rarr 0 Oe

divM divMy

LLG 方程式を用いた

マイクロ磁気解析

Dot model

200 x 200thickness50 nm

Magnetic moment - dv M Force gradient

200 x 200thickness100 nm

90 degree walls propeller-like distortion

Calculation of a single dot

Spin structure

-divM

Isolated square dot

Force gradient image Spin distribution image

Four-dot system

Shift of the center occurs Reversal of chirality

MFM imagewith low-moment tip

(CoPtCr240Å in HV)

Spin distribution imagewith the force-gradientimage overlapped

Inversion of chirality

Comparison between MFM andsimulation of spin distribution

Simulation was carried outin the model structureconsisting of four squaredots with a dimension of200 nmtimes200 nmtimes20 nmwith 50nm separationbetween dots

The calculated spinstructure shows a closuredomain structure with the90-wall appears

The chirality of the spindirection in adjacent dots isopposite to each other asshown by white arrows

The Z-component force-gradient image taking intoaccount the tip-sampleinteraction is overlapped

Calculated magnetization configurationof Y-shaped permalloy dot

Calculation parametersWidth 300 nmThickness 100 nmEasy axis 0 ergcm3

x

y

z

Force gradient-divM

Force gradient(Magnified)

Experimental MFM images

bull Single domains appear in two armsbull Multi-domain of 4 chained closer-domains on the restbull Spin-flow at crossing region turns left in two steps

50

0n

m2

m

L

C

R

C

L

R

x

y

z

Calculated magnetization configurationsof Y-shaped permalloy mirror-dots

Calculation parametersWidth 200 nmThickness 40 nmEasy axis X 1000 ergcm3

Force gradient-divM

Single dot

Experimental MFM images

15 m

bull Calculated spin-flows similar to experimental resultbull Vortices with same chirality appear at the ends of all armsbull Chirality of adjacent dot shows a mirror-reflection

Easy axisEasy axis

Easy axis

Easy axis

-divM

4 おわりに

磁性特有のテクニカルタームがあるが慣れればそれほど難しいものではない

大部分の話は量子力学なしでも理解できる電磁気学の知識があればよい

応用につながるのは磁区磁壁の物理である

メゾスコピック系では量子的な現象が現れるこれが得意なスピン依存伝導現象をもたらす

[参考0]半導体磁性体誘電体

半導体と磁性体の対比

半導体 電子物性パラメータは基本的

にバンド構造で決まるキャリア密度は人為的に制御される

量子構造を考えない限り電子を古典粒子として有効質量近似で扱える

応用されるのは電子構造で決まる移動度などのミクロな電子物性である

電子物性が寸法方位形状にほとんど依存しない

単位系はCGSをもとにした実用単位系が使われる

磁性体 金属磁性体の磁性はスピン偏

極バンド構造で決まるが非金属磁性体の磁性は局在多電子系のフント則で決まる

交換相互作用スピン軌道相互作用など量子力学が基本

応用されるのは磁区により生じるヒステリシスに関連したマクロ磁気物性である

磁性は磁気異方性の影響を受け寸法方位形状により大幅に変化する

単位系が複雑でCGSとSIが混在して使われている

磁性体と誘電体の対比

磁性体

磁気モーメントμ(軸性ベクトル)

磁化M

自発磁化Ms

反磁界

磁気ヒステリシス

飽和磁化残留磁化保磁力

磁区(ドメイン)

キュリー温度

誘電体

電気双極子qr(極性ベクトル)

電気分極P

自発分極Ps

反電界

誘電ヒステリシス

飽和分極残留分極抗電界

分域(ドメイン)

キュリー温度

[参考1]

磁界磁束磁化

磁界(磁場)H磁束密度B磁化M

磁界H中に置かれた磁化Mの磁性体が磁束密

度は真空中の磁束密度に磁化による磁束密度を加えたものであるすなわちB=0H+M

B=0H B=0H+M

M

磁性体があると磁束密度が高くなる

真空中での磁束密度

磁化とは

物質に磁界を加えたとき物質の表面に磁極が生じ一時的に磁石のようになるがそのとき物質が磁化されたという

(b)(a)

(高梨初等磁気工学講座)より

磁化の定義

K番目の原子の1原子あ

たりの磁気モーメントをkとするときその単位体積についての総和k

を磁化Mと定義するM= k

磁気モーメントの単位はWbmであるから磁化の単位はWbm2となる

(高梨初等磁気工学講座)より

常磁性

磁極と磁気モーメント

磁石にはN極とS極がある

磁界中に置かれた磁性体にも磁極が誘起される磁極は必ずNSの対で現れる(単極は見つかっていない)

磁極の大きさをq [Wb]とすると磁界によってNSの対に働くトルクは-qdHsin [Nm]=qdsin [Wbm] H[Am]

必ずNとSが対で現れるならm=qrを磁性を扱う基本単

位と考えることが出来るこれを磁気モーメントという単位は[Wbm]

[参考2]

磁気モーメントの電子的起源

磁気モーメント

一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは

T=qH r sin=mH sin 磁気モーメントのもつポテンシャルEは

E=Td= mH sin d=mH(1-cos)

ポテンシャルの原点はどこにとってもよいから E=-mH mHのときエネルギーは極小になる

mはHに平行になろうとする(高梨初等磁気工学講座)より

r 磁気モーメント

m=qr [Wbm]

-q [Wb]

+q [Wb]

qH

-qH

rsin

単位E[J]=-m[Wbm] H[Am]

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 24: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

分子場理論

キュリー温度

温度が低いとき直線の傾斜はゆるくブリルアン曲線と直線ははy=MM0 =1付近で交わる

温度が上昇するとyの小さいところ交わる

高温になると0以外に交点を持たなくなる

(2zJexJ2kT) y=xの勾配とy=BJ(x)の接線の勾配

が等しいときがキュリー温度を与える

x=0付近ではyx3であるから3y=xと書ける従ってTcは2zJexJ

2kTc=3によってきまる即ちTc=2zJexJ

23kとなる

分子場理論

自発磁化の温度変化

さまざまなJについて分子場理論で交点のMM0をTに対してプロットすると磁化の温度変化を求めることができるニッケルの磁化温度曲線はJ=12でよく説明される timesは鉄はニッケルはコバルトの実測

値実線はJとしてスピンS=121infinをとった

ときの計算値

分子場理論

キュリーワイスの法則

キュリー温度Tc以上では磁気モーメントはバラバラ

の方向を向き常磁性になる分子場理論によればこのときの磁化率は次式で与えられる

この式をキュリーワイスの法則という

Cはワイス定数pは常磁性キュリー温度という

1をTに対してプロットすると1=(T- p)Cとなり横軸を横切る温度がpである

pT

C

分子場理論

キュリーワイスの法則を導く

Heff=H+AM

MHeff=CT (MとHeffの間にキュリーの法則が成立すると仮定する)

M(H+AM)=CTrarrMT=C(H+AM)従ってM(T-CA)=CHより

=MH=C(T-CA)となるCA=pと置けばキュリーワイスの法則が導かれるすなわち=C(T- p)

自発磁化の温度変化

強磁性体の自発磁化の大きさは温度上昇とともに減少しキュリー温度Tcにおいて消滅する

Tc以上では常磁性であ

る常磁性磁化率の逆数は温度に比例しゼロに外挿するとキュリー温度が求まる

25 交換相互作用(exchange interaction)

交換相互作用という言葉はもともとは多電子原子の中で働くクーロン相互作用の算出において電子同士を区別できないことから来るエネルギーの補正項のことで原子内交換相互作用といいます(intra-atomic exchange interaction)

この概念を原子間に拡張したのが原子間交換相互作用(inter-atomic exchangeinteraction)です

ウンチクコーナーイントラ(intra)とインター(inter) イントラは内部のといういみの接頭辞インターは複数のものの

間のという意味の接頭辞ですイントラネットインターネットということばもここから来ています

原子内交換相互作用

原子内交換相互作用は本質的にクーロン相互作用です2つの電子(波動関数を12とする)の間に働くクーロン相互作用のエネルギーHはH= K12-(12) J12(1+4s1s2) で表されます

K12は次式で与えられるクーロン積分です

J12は次式で与えられる交換積分で電子が区別できないことからくる項です

K dr dr r re

rr r12 1 2 1 1 2 2

2

12

1 1 2 2

J dr dr r re

rr r12 1 2 1 1 2 2

2

12

1 2 2 1

原子内交換相互作用

H= K12-(12) J12(1+4s1s2)

の固有値は=K12ndashJ12 (s1とs2が同符号のとき)= K12 ( s1とs2が異符号のとき)

Hと平均のエネルギー(H0=K12-J122)との差ndash2J12s1s2のことを原子内交換エネルギーという

K12

K12-J12

原子間交換相互作用

本来磁気秩序を考えるには物質系全体のスピンを考えねばならないのであるが電子の軌道が原子に局在しているみなして電子のスピンを各原子Iの位置に局在した全スピンSiで代表させて原子1の全スピンS1と原子2の全スピンS2との間に原子間交換相互作用が働くと考えるのがハイゼンベルグ模型であるこのとき交換エネルギーHex は原子内交換相互作用を一般化して見かけの交換積分J12を用いて

Hex =-2J12S1S2

で表されるJが正であれば相互作用は強磁性的負であれば反強磁性的である

交換相互作用

ハイゼンベルグ模型 Hex =-2J12S1S2

Jが正であれば相互作用は強磁性的負であれば反強磁性的

交換積分の起源隣接原子のスピン間の直接交換(direct exchange)

酸素などのアニオンのp電子軌道との混成を通してスピン同士がそろえあう超交換(superexchange)

伝導電子との相互作用を通じてそろえあう間接交換(indirect exchange)

電子の移動と磁性とが強く結びついている二重交換相互作用(double exchange)

さまざまな交換相互作用

直接交換

超交換

間接交換(RKKY)

二重交換

超交換相互作用

酸化物磁性体では局在電子系の磁気モーメントの間に働く相互作用は遷移金属の3d電子どうしの重なりで生じるのではなく配位子のp電子が遷移金属イオンの3d軌道に仮想的に遷

移した中間状態を介して相互作用するこれを超交換相互作用と称する主として反強磁性的に働く

酸素イオン

遷移金属イオン

超交換相互作用模式図

90度強磁性

180度反強磁性

(Goodenough)

アニオン

遷移金属イオン

アニオン

遷移金属イオン

(a)

(b)

Fig 9 超交換相互作用の模式図

間接交換(RKKY)相互作用

希土類金属の磁性は4f電子が担うが伝導電子である5d電子が4f電子と原子内交換相互作用することによってスピン偏極を受けこれが隣接の希土類原子のf電子と相互作用するという形の間接的な交換相互作用を行っていると考えられている

これをRKKY (Rudermann Kittel Kasuya Yoshida)相互作用という

伝導電子を介した局在スピン間の磁気的相互作用は距離に対して余弦関数的に振動しその周期は伝導電子のフェルミ波数で決められる

RKKY振動

フリーデル振動

21F

2

F

2

RKKY 29 SS

Rkf

N

NJH e

4

sincos

x

xxxxf

CoCu superlattice

Cu thickness (Aring)

磁気抵

抗比

図15

二重交換相互作用

LaMnO3ではすべてのMn原子は3価なので egバンドには1個の電子が存在しこの電子が隣接Mn原子のeg軌道に移動しようとすると電子相関エネルギーUだけのエネルギーが必要であるため電子移動は起きずモット絶縁体となっている

LaをSrで置き換え4価のMnが生じるとMn4+のeg軌道は空であるから他のMn3+から電子が移ることができ金属的な導電性を生じる

このとき隣接するMn原子の磁気モーメントのなす角とするとeg電子の飛び移りの確率はcos( 2)に比例する=0(スピンが平行)のとき飛び移りが最も起きやすく運動エネルギーの分だけエネルギーが下がるので強磁性となる

二重交換の模式図

Mn3+ Mn4+

3磁気ヒステリシス曲線と磁区

磁気ヒステリシスについて

反磁界と静磁エネルギー

磁気異方性

磁区と磁壁磁壁移動と磁化回転

保磁力

31 磁気ヒステリシス

強磁性体においてはその磁化は印加磁界に比例せずヒステリシスを示す

(高梨初等磁気工学講座テキスト)

OrarrBrarrC初磁化曲線

CrarrD 残留磁化

DrarrE 保磁力

CrarrDrarrErarrFrarrGrarrC

ヒステリシスループ

縦軸磁化

横軸磁界

[参考]

磁化曲線の測定法

磁性体を磁界中に置き磁界を増加していくと磁性体の磁化は増加していき次第に飽和する

磁化曲線は磁力計を使って測定する

VSM試料振動型磁力計試料を01~02mm程度のわずかな振幅で80Hz程度の低周波で振動させ試料の

磁化による磁束の時間変化を電磁石の磁極付近に置かれたサーチコイルに誘起された誘導起電力として検出する誘導起電力は試料の磁化に比例するので磁化を測定することができる

電磁石

磁極付近に置いたサーチコイル

スピーカーと同じ振動機構

[参考]

VSMブロック図

丸善実験物理学講座「磁気測定I」p68より

磁気ヒステリシスと応用

保磁力のちがいで用途が違う

Hc小軟質磁性体

磁気ヘッド変圧器鉄心磁気シールド

Hc中半硬質磁性体

磁気記録媒体

Hc大硬質磁性体

永久磁石このループの面積が磁石に蓄積される磁気エネルギー高周波の場合はヒステリシス損失となる

永久磁石の最大エネルギー積(BH)maxの変遷(httpwwwaacgbhamacukmagnetic_materialshistoryhtm)

BHmax

32 なぜ初磁化状態では磁化がないのか磁区(magnetic domain)

磁化が特定の方向を向くとするとN極からS極に向

かって磁力線が生じますこの磁力線は考えている試料の外を通っているだけでなく磁性体の内部も貫いていますこの磁力線を反磁界といいます反磁界の向きは磁化の向きとは反対向きなので磁化は回転する静磁力を受けて不安定となります

磁化の方向が逆方向の縞状の磁区と呼ばれる領域に分かれるならば反磁界がうち消し合って静磁エネルギーが低下して安定するのです

反磁界(demagnetization field)

磁性体表面の法線方向の磁化成分をMn とすると表面には単位面積あたり = Mnという大きさの磁極(Wbm2)が生じる

磁極からはガウスの定理によって全部で μ0の磁力線がわき出すこのうち反磁界係数Nを使って定義される磁力線NMは内部に向かっており残りは外側に向かっているすなわち磁石の内部ではMの向きとは逆方向の反磁界が存在する

外部では磁束線は磁力線に一致する

(b) 磁力線

M- +

(a)磁化と磁極 反磁界

S N

S N

(c) 磁束線

反磁界係数N (近角強磁性体の物理より)

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0

(i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+ Ny+ Nz=1

が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx= Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx= Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

x

y

z

z

x

y

z

x

y

Nz=1

Nx= 0Ny= 0

Nx= 12

Ny= 12

Nx=13

Ny=13

Nz=13

Nz=0

反磁界補正

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0 (i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+Ny+ Nz=1が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx=Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx=Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

(近角強磁性体の物理より)

反磁界と静磁エネルギー

磁化Mが反磁界HdのもとにおかれるとU=MHdだけポテンシャルエネルギーが高くなる

一様な磁界H中の磁気モーメントMに働くトルクTはT=-MH sin

磁気モーメントのもつポテンシャルEはU=Td= - 0

MH sin d=MH (1-cos) エネルギーの原点はどこにとってもよいのでポテンシャルエネルギーはU=-MHと表される H=-Hdを代入すると反磁界によるポテンシャルの増加はU=MHd

表面磁極の分割による静磁エネルギーの減少

結晶表面をxy面にとる

表面でz=0とする

磁区の磁化方向はplusmnz

磁区のx方向の幅d

磁極の表面密度=Is 2mdltxlt(2m+1)d

=-Is (2m+1)dltxlt2(m+1)d

磁気ポテンシャルをLaplaceの方程式で求め

+ +- -

z

x

y

d

境界条件( z)z=-0=20

境界条件のもとにラプラス方程式を解くと=n An sin n(d)xexp n(d)z

係数Anは次式を満たすように決められる(d) n nAn sin n(d)x =I20 2mdltxlt(2m+1)d

= - I20 (2m+1)dltxlt2(m+1)d

rarrAn=2Isd20n2

(x=0)=(2Isd20) n (1n2)sin n(d)x

単位表面積あたりの静磁エネルギー=(2Is

220) n (1n2)int0d sin n(d)x

=(2Is2d20) n=odd (1n3)=540104Is

2d

磁気異方性

磁性体は半導体と違って形状寸法結晶方位とか磁化の方位などによって物性が大きく変化する

1つの原因は上に述べた反磁界係数で形状磁気異方性と呼ばれます反磁界によるエネルギーの損を最小化することが原因です

このほかの原因として重要なのが結晶磁気異方性です結晶磁気異方性というのは磁界を結晶のどの方位に加えるかで磁化曲線が変化する性質です

電子軌道は結晶軸に結びついているので磁気的性質と電子軌道との結びつき(スピン軌道相互作用)を通じて磁性が結晶軸と結び

つくのです半導体にも詳しい測定をすると異方性を見ることができますこれに比べ一般に半導体の電子軌道は結晶全体に広がっているので平均化されて結晶軸に依存する物性が見えにくいです

結晶磁気異方性

磁化しやすさは結晶の方位に依存する

鉄は立方晶であるが[100]が容易軸[111]は困難軸

x

y

z

[111

]

[100

]

容易軸

困難軸

[110]

円板磁性体の磁区構造

全体が磁区に分かれることにより全体の磁化がなくなっているこれが初磁化状態である

磁区の内部では磁化は任意の方向をランダムに向いている訳ではない

磁化は結晶の方位と無関係な方向を向くことはできない磁性体には磁気異方性という性質があり磁化が特定の結晶軸方位(たとえばFeでは[001]方向および等価な方向)を向く性質がある

[001]容易軸では図のように(001)面内では[100][010][-100][0-10]の4つの方向を向くので90磁壁になる

[111]容易軸では

(a) (b)

(近角強磁性体の物理)

33 ヒステリシスを磁区で説明する

残留磁化状態 逆磁区の発生と成長

磁気飽和

核発生

34 さまざまな磁区とマイクロマグネティクス

Figは結晶の対称性により磁区が変わる様子の例として縞状磁区(stripe domain)と環流磁区(closure domain)を示している磁性体を微細化して直径1μm付近になるとスピンは面内に分布してvortex状態となり中心部に垂直方向のスピン成分をもつようになるさらに微細化すると単磁区になる

微小磁区のMFM観察

磁区の観察にはビッター法といって磁性微粒子を含むコロイドを磁性体上に滴下して光学顕微鏡で観察する方法が古くから使われているこのほか磁気光学顕微鏡ローレンツ電子顕微鏡磁気力顕微鏡走査型ホール顕微鏡走査型SQUID顕微鏡スピン偏極電子顕微鏡X線MCD顕微鏡などで観察することが可能であるFig 22にはいくつかの例について筆者のMFM観察結果を示す

10 nmtimes10 nmtimes10 nmMesh size

1Number of dot

200 nmtimes200 nmtimes100nm

Dot Size

Y directionEasy axis

02Damping constant(α)

-176times107 rad(sOe)Gyro magnetic constant(γ)

1000 ergcm3Anisotropic constant (Ku)

1times10-6 ergcm3Exchange field (A)

800 emucm3Saturation magnetization (Ms)

Hy = 10 kOe rarr 0 Oe

divM divMy

LLG 方程式を用いた

マイクロ磁気解析

Dot model

200 x 200thickness50 nm

Magnetic moment - dv M Force gradient

200 x 200thickness100 nm

90 degree walls propeller-like distortion

Calculation of a single dot

Spin structure

-divM

Isolated square dot

Force gradient image Spin distribution image

Four-dot system

Shift of the center occurs Reversal of chirality

MFM imagewith low-moment tip

(CoPtCr240Å in HV)

Spin distribution imagewith the force-gradientimage overlapped

Inversion of chirality

Comparison between MFM andsimulation of spin distribution

Simulation was carried outin the model structureconsisting of four squaredots with a dimension of200 nmtimes200 nmtimes20 nmwith 50nm separationbetween dots

The calculated spinstructure shows a closuredomain structure with the90-wall appears

The chirality of the spindirection in adjacent dots isopposite to each other asshown by white arrows

The Z-component force-gradient image taking intoaccount the tip-sampleinteraction is overlapped

Calculated magnetization configurationof Y-shaped permalloy dot

Calculation parametersWidth 300 nmThickness 100 nmEasy axis 0 ergcm3

x

y

z

Force gradient-divM

Force gradient(Magnified)

Experimental MFM images

bull Single domains appear in two armsbull Multi-domain of 4 chained closer-domains on the restbull Spin-flow at crossing region turns left in two steps

50

0n

m2

m

L

C

R

C

L

R

x

y

z

Calculated magnetization configurationsof Y-shaped permalloy mirror-dots

Calculation parametersWidth 200 nmThickness 40 nmEasy axis X 1000 ergcm3

Force gradient-divM

Single dot

Experimental MFM images

15 m

bull Calculated spin-flows similar to experimental resultbull Vortices with same chirality appear at the ends of all armsbull Chirality of adjacent dot shows a mirror-reflection

Easy axisEasy axis

Easy axis

Easy axis

-divM

4 おわりに

磁性特有のテクニカルタームがあるが慣れればそれほど難しいものではない

大部分の話は量子力学なしでも理解できる電磁気学の知識があればよい

応用につながるのは磁区磁壁の物理である

メゾスコピック系では量子的な現象が現れるこれが得意なスピン依存伝導現象をもたらす

[参考0]半導体磁性体誘電体

半導体と磁性体の対比

半導体 電子物性パラメータは基本的

にバンド構造で決まるキャリア密度は人為的に制御される

量子構造を考えない限り電子を古典粒子として有効質量近似で扱える

応用されるのは電子構造で決まる移動度などのミクロな電子物性である

電子物性が寸法方位形状にほとんど依存しない

単位系はCGSをもとにした実用単位系が使われる

磁性体 金属磁性体の磁性はスピン偏

極バンド構造で決まるが非金属磁性体の磁性は局在多電子系のフント則で決まる

交換相互作用スピン軌道相互作用など量子力学が基本

応用されるのは磁区により生じるヒステリシスに関連したマクロ磁気物性である

磁性は磁気異方性の影響を受け寸法方位形状により大幅に変化する

単位系が複雑でCGSとSIが混在して使われている

磁性体と誘電体の対比

磁性体

磁気モーメントμ(軸性ベクトル)

磁化M

自発磁化Ms

反磁界

磁気ヒステリシス

飽和磁化残留磁化保磁力

磁区(ドメイン)

キュリー温度

誘電体

電気双極子qr(極性ベクトル)

電気分極P

自発分極Ps

反電界

誘電ヒステリシス

飽和分極残留分極抗電界

分域(ドメイン)

キュリー温度

[参考1]

磁界磁束磁化

磁界(磁場)H磁束密度B磁化M

磁界H中に置かれた磁化Mの磁性体が磁束密

度は真空中の磁束密度に磁化による磁束密度を加えたものであるすなわちB=0H+M

B=0H B=0H+M

M

磁性体があると磁束密度が高くなる

真空中での磁束密度

磁化とは

物質に磁界を加えたとき物質の表面に磁極が生じ一時的に磁石のようになるがそのとき物質が磁化されたという

(b)(a)

(高梨初等磁気工学講座)より

磁化の定義

K番目の原子の1原子あ

たりの磁気モーメントをkとするときその単位体積についての総和k

を磁化Mと定義するM= k

磁気モーメントの単位はWbmであるから磁化の単位はWbm2となる

(高梨初等磁気工学講座)より

常磁性

磁極と磁気モーメント

磁石にはN極とS極がある

磁界中に置かれた磁性体にも磁極が誘起される磁極は必ずNSの対で現れる(単極は見つかっていない)

磁極の大きさをq [Wb]とすると磁界によってNSの対に働くトルクは-qdHsin [Nm]=qdsin [Wbm] H[Am]

必ずNとSが対で現れるならm=qrを磁性を扱う基本単

位と考えることが出来るこれを磁気モーメントという単位は[Wbm]

[参考2]

磁気モーメントの電子的起源

磁気モーメント

一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは

T=qH r sin=mH sin 磁気モーメントのもつポテンシャルEは

E=Td= mH sin d=mH(1-cos)

ポテンシャルの原点はどこにとってもよいから E=-mH mHのときエネルギーは極小になる

mはHに平行になろうとする(高梨初等磁気工学講座)より

r 磁気モーメント

m=qr [Wbm]

-q [Wb]

+q [Wb]

qH

-qH

rsin

単位E[J]=-m[Wbm] H[Am]

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 25: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

分子場理論

自発磁化の温度変化

さまざまなJについて分子場理論で交点のMM0をTに対してプロットすると磁化の温度変化を求めることができるニッケルの磁化温度曲線はJ=12でよく説明される timesは鉄はニッケルはコバルトの実測

値実線はJとしてスピンS=121infinをとった

ときの計算値

分子場理論

キュリーワイスの法則

キュリー温度Tc以上では磁気モーメントはバラバラ

の方向を向き常磁性になる分子場理論によればこのときの磁化率は次式で与えられる

この式をキュリーワイスの法則という

Cはワイス定数pは常磁性キュリー温度という

1をTに対してプロットすると1=(T- p)Cとなり横軸を横切る温度がpである

pT

C

分子場理論

キュリーワイスの法則を導く

Heff=H+AM

MHeff=CT (MとHeffの間にキュリーの法則が成立すると仮定する)

M(H+AM)=CTrarrMT=C(H+AM)従ってM(T-CA)=CHより

=MH=C(T-CA)となるCA=pと置けばキュリーワイスの法則が導かれるすなわち=C(T- p)

自発磁化の温度変化

強磁性体の自発磁化の大きさは温度上昇とともに減少しキュリー温度Tcにおいて消滅する

Tc以上では常磁性であ

る常磁性磁化率の逆数は温度に比例しゼロに外挿するとキュリー温度が求まる

25 交換相互作用(exchange interaction)

交換相互作用という言葉はもともとは多電子原子の中で働くクーロン相互作用の算出において電子同士を区別できないことから来るエネルギーの補正項のことで原子内交換相互作用といいます(intra-atomic exchange interaction)

この概念を原子間に拡張したのが原子間交換相互作用(inter-atomic exchangeinteraction)です

ウンチクコーナーイントラ(intra)とインター(inter) イントラは内部のといういみの接頭辞インターは複数のものの

間のという意味の接頭辞ですイントラネットインターネットということばもここから来ています

原子内交換相互作用

原子内交換相互作用は本質的にクーロン相互作用です2つの電子(波動関数を12とする)の間に働くクーロン相互作用のエネルギーHはH= K12-(12) J12(1+4s1s2) で表されます

K12は次式で与えられるクーロン積分です

J12は次式で与えられる交換積分で電子が区別できないことからくる項です

K dr dr r re

rr r12 1 2 1 1 2 2

2

12

1 1 2 2

J dr dr r re

rr r12 1 2 1 1 2 2

2

12

1 2 2 1

原子内交換相互作用

H= K12-(12) J12(1+4s1s2)

の固有値は=K12ndashJ12 (s1とs2が同符号のとき)= K12 ( s1とs2が異符号のとき)

Hと平均のエネルギー(H0=K12-J122)との差ndash2J12s1s2のことを原子内交換エネルギーという

K12

K12-J12

原子間交換相互作用

本来磁気秩序を考えるには物質系全体のスピンを考えねばならないのであるが電子の軌道が原子に局在しているみなして電子のスピンを各原子Iの位置に局在した全スピンSiで代表させて原子1の全スピンS1と原子2の全スピンS2との間に原子間交換相互作用が働くと考えるのがハイゼンベルグ模型であるこのとき交換エネルギーHex は原子内交換相互作用を一般化して見かけの交換積分J12を用いて

Hex =-2J12S1S2

で表されるJが正であれば相互作用は強磁性的負であれば反強磁性的である

交換相互作用

ハイゼンベルグ模型 Hex =-2J12S1S2

Jが正であれば相互作用は強磁性的負であれば反強磁性的

交換積分の起源隣接原子のスピン間の直接交換(direct exchange)

酸素などのアニオンのp電子軌道との混成を通してスピン同士がそろえあう超交換(superexchange)

伝導電子との相互作用を通じてそろえあう間接交換(indirect exchange)

電子の移動と磁性とが強く結びついている二重交換相互作用(double exchange)

さまざまな交換相互作用

直接交換

超交換

間接交換(RKKY)

二重交換

超交換相互作用

酸化物磁性体では局在電子系の磁気モーメントの間に働く相互作用は遷移金属の3d電子どうしの重なりで生じるのではなく配位子のp電子が遷移金属イオンの3d軌道に仮想的に遷

移した中間状態を介して相互作用するこれを超交換相互作用と称する主として反強磁性的に働く

酸素イオン

遷移金属イオン

超交換相互作用模式図

90度強磁性

180度反強磁性

(Goodenough)

アニオン

遷移金属イオン

アニオン

遷移金属イオン

(a)

(b)

Fig 9 超交換相互作用の模式図

間接交換(RKKY)相互作用

希土類金属の磁性は4f電子が担うが伝導電子である5d電子が4f電子と原子内交換相互作用することによってスピン偏極を受けこれが隣接の希土類原子のf電子と相互作用するという形の間接的な交換相互作用を行っていると考えられている

これをRKKY (Rudermann Kittel Kasuya Yoshida)相互作用という

伝導電子を介した局在スピン間の磁気的相互作用は距離に対して余弦関数的に振動しその周期は伝導電子のフェルミ波数で決められる

RKKY振動

フリーデル振動

21F

2

F

2

RKKY 29 SS

Rkf

N

NJH e

4

sincos

x

xxxxf

CoCu superlattice

Cu thickness (Aring)

磁気抵

抗比

図15

二重交換相互作用

LaMnO3ではすべてのMn原子は3価なので egバンドには1個の電子が存在しこの電子が隣接Mn原子のeg軌道に移動しようとすると電子相関エネルギーUだけのエネルギーが必要であるため電子移動は起きずモット絶縁体となっている

LaをSrで置き換え4価のMnが生じるとMn4+のeg軌道は空であるから他のMn3+から電子が移ることができ金属的な導電性を生じる

このとき隣接するMn原子の磁気モーメントのなす角とするとeg電子の飛び移りの確率はcos( 2)に比例する=0(スピンが平行)のとき飛び移りが最も起きやすく運動エネルギーの分だけエネルギーが下がるので強磁性となる

二重交換の模式図

Mn3+ Mn4+

3磁気ヒステリシス曲線と磁区

磁気ヒステリシスについて

反磁界と静磁エネルギー

磁気異方性

磁区と磁壁磁壁移動と磁化回転

保磁力

31 磁気ヒステリシス

強磁性体においてはその磁化は印加磁界に比例せずヒステリシスを示す

(高梨初等磁気工学講座テキスト)

OrarrBrarrC初磁化曲線

CrarrD 残留磁化

DrarrE 保磁力

CrarrDrarrErarrFrarrGrarrC

ヒステリシスループ

縦軸磁化

横軸磁界

[参考]

磁化曲線の測定法

磁性体を磁界中に置き磁界を増加していくと磁性体の磁化は増加していき次第に飽和する

磁化曲線は磁力計を使って測定する

VSM試料振動型磁力計試料を01~02mm程度のわずかな振幅で80Hz程度の低周波で振動させ試料の

磁化による磁束の時間変化を電磁石の磁極付近に置かれたサーチコイルに誘起された誘導起電力として検出する誘導起電力は試料の磁化に比例するので磁化を測定することができる

電磁石

磁極付近に置いたサーチコイル

スピーカーと同じ振動機構

[参考]

VSMブロック図

丸善実験物理学講座「磁気測定I」p68より

磁気ヒステリシスと応用

保磁力のちがいで用途が違う

Hc小軟質磁性体

磁気ヘッド変圧器鉄心磁気シールド

Hc中半硬質磁性体

磁気記録媒体

Hc大硬質磁性体

永久磁石このループの面積が磁石に蓄積される磁気エネルギー高周波の場合はヒステリシス損失となる

永久磁石の最大エネルギー積(BH)maxの変遷(httpwwwaacgbhamacukmagnetic_materialshistoryhtm)

BHmax

32 なぜ初磁化状態では磁化がないのか磁区(magnetic domain)

磁化が特定の方向を向くとするとN極からS極に向

かって磁力線が生じますこの磁力線は考えている試料の外を通っているだけでなく磁性体の内部も貫いていますこの磁力線を反磁界といいます反磁界の向きは磁化の向きとは反対向きなので磁化は回転する静磁力を受けて不安定となります

磁化の方向が逆方向の縞状の磁区と呼ばれる領域に分かれるならば反磁界がうち消し合って静磁エネルギーが低下して安定するのです

反磁界(demagnetization field)

磁性体表面の法線方向の磁化成分をMn とすると表面には単位面積あたり = Mnという大きさの磁極(Wbm2)が生じる

磁極からはガウスの定理によって全部で μ0の磁力線がわき出すこのうち反磁界係数Nを使って定義される磁力線NMは内部に向かっており残りは外側に向かっているすなわち磁石の内部ではMの向きとは逆方向の反磁界が存在する

外部では磁束線は磁力線に一致する

(b) 磁力線

M- +

(a)磁化と磁極 反磁界

S N

S N

(c) 磁束線

反磁界係数N (近角強磁性体の物理より)

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0

(i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+ Ny+ Nz=1

が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx= Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx= Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

x

y

z

z

x

y

z

x

y

Nz=1

Nx= 0Ny= 0

Nx= 12

Ny= 12

Nx=13

Ny=13

Nz=13

Nz=0

反磁界補正

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0 (i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+Ny+ Nz=1が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx=Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx=Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

(近角強磁性体の物理より)

反磁界と静磁エネルギー

磁化Mが反磁界HdのもとにおかれるとU=MHdだけポテンシャルエネルギーが高くなる

一様な磁界H中の磁気モーメントMに働くトルクTはT=-MH sin

磁気モーメントのもつポテンシャルEはU=Td= - 0

MH sin d=MH (1-cos) エネルギーの原点はどこにとってもよいのでポテンシャルエネルギーはU=-MHと表される H=-Hdを代入すると反磁界によるポテンシャルの増加はU=MHd

表面磁極の分割による静磁エネルギーの減少

結晶表面をxy面にとる

表面でz=0とする

磁区の磁化方向はplusmnz

磁区のx方向の幅d

磁極の表面密度=Is 2mdltxlt(2m+1)d

=-Is (2m+1)dltxlt2(m+1)d

磁気ポテンシャルをLaplaceの方程式で求め

+ +- -

z

x

y

d

境界条件( z)z=-0=20

境界条件のもとにラプラス方程式を解くと=n An sin n(d)xexp n(d)z

係数Anは次式を満たすように決められる(d) n nAn sin n(d)x =I20 2mdltxlt(2m+1)d

= - I20 (2m+1)dltxlt2(m+1)d

rarrAn=2Isd20n2

(x=0)=(2Isd20) n (1n2)sin n(d)x

単位表面積あたりの静磁エネルギー=(2Is

220) n (1n2)int0d sin n(d)x

=(2Is2d20) n=odd (1n3)=540104Is

2d

磁気異方性

磁性体は半導体と違って形状寸法結晶方位とか磁化の方位などによって物性が大きく変化する

1つの原因は上に述べた反磁界係数で形状磁気異方性と呼ばれます反磁界によるエネルギーの損を最小化することが原因です

このほかの原因として重要なのが結晶磁気異方性です結晶磁気異方性というのは磁界を結晶のどの方位に加えるかで磁化曲線が変化する性質です

電子軌道は結晶軸に結びついているので磁気的性質と電子軌道との結びつき(スピン軌道相互作用)を通じて磁性が結晶軸と結び

つくのです半導体にも詳しい測定をすると異方性を見ることができますこれに比べ一般に半導体の電子軌道は結晶全体に広がっているので平均化されて結晶軸に依存する物性が見えにくいです

結晶磁気異方性

磁化しやすさは結晶の方位に依存する

鉄は立方晶であるが[100]が容易軸[111]は困難軸

x

y

z

[111

]

[100

]

容易軸

困難軸

[110]

円板磁性体の磁区構造

全体が磁区に分かれることにより全体の磁化がなくなっているこれが初磁化状態である

磁区の内部では磁化は任意の方向をランダムに向いている訳ではない

磁化は結晶の方位と無関係な方向を向くことはできない磁性体には磁気異方性という性質があり磁化が特定の結晶軸方位(たとえばFeでは[001]方向および等価な方向)を向く性質がある

[001]容易軸では図のように(001)面内では[100][010][-100][0-10]の4つの方向を向くので90磁壁になる

[111]容易軸では

(a) (b)

(近角強磁性体の物理)

33 ヒステリシスを磁区で説明する

残留磁化状態 逆磁区の発生と成長

磁気飽和

核発生

34 さまざまな磁区とマイクロマグネティクス

Figは結晶の対称性により磁区が変わる様子の例として縞状磁区(stripe domain)と環流磁区(closure domain)を示している磁性体を微細化して直径1μm付近になるとスピンは面内に分布してvortex状態となり中心部に垂直方向のスピン成分をもつようになるさらに微細化すると単磁区になる

微小磁区のMFM観察

磁区の観察にはビッター法といって磁性微粒子を含むコロイドを磁性体上に滴下して光学顕微鏡で観察する方法が古くから使われているこのほか磁気光学顕微鏡ローレンツ電子顕微鏡磁気力顕微鏡走査型ホール顕微鏡走査型SQUID顕微鏡スピン偏極電子顕微鏡X線MCD顕微鏡などで観察することが可能であるFig 22にはいくつかの例について筆者のMFM観察結果を示す

10 nmtimes10 nmtimes10 nmMesh size

1Number of dot

200 nmtimes200 nmtimes100nm

Dot Size

Y directionEasy axis

02Damping constant(α)

-176times107 rad(sOe)Gyro magnetic constant(γ)

1000 ergcm3Anisotropic constant (Ku)

1times10-6 ergcm3Exchange field (A)

800 emucm3Saturation magnetization (Ms)

Hy = 10 kOe rarr 0 Oe

divM divMy

LLG 方程式を用いた

マイクロ磁気解析

Dot model

200 x 200thickness50 nm

Magnetic moment - dv M Force gradient

200 x 200thickness100 nm

90 degree walls propeller-like distortion

Calculation of a single dot

Spin structure

-divM

Isolated square dot

Force gradient image Spin distribution image

Four-dot system

Shift of the center occurs Reversal of chirality

MFM imagewith low-moment tip

(CoPtCr240Å in HV)

Spin distribution imagewith the force-gradientimage overlapped

Inversion of chirality

Comparison between MFM andsimulation of spin distribution

Simulation was carried outin the model structureconsisting of four squaredots with a dimension of200 nmtimes200 nmtimes20 nmwith 50nm separationbetween dots

The calculated spinstructure shows a closuredomain structure with the90-wall appears

The chirality of the spindirection in adjacent dots isopposite to each other asshown by white arrows

The Z-component force-gradient image taking intoaccount the tip-sampleinteraction is overlapped

Calculated magnetization configurationof Y-shaped permalloy dot

Calculation parametersWidth 300 nmThickness 100 nmEasy axis 0 ergcm3

x

y

z

Force gradient-divM

Force gradient(Magnified)

Experimental MFM images

bull Single domains appear in two armsbull Multi-domain of 4 chained closer-domains on the restbull Spin-flow at crossing region turns left in two steps

50

0n

m2

m

L

C

R

C

L

R

x

y

z

Calculated magnetization configurationsof Y-shaped permalloy mirror-dots

Calculation parametersWidth 200 nmThickness 40 nmEasy axis X 1000 ergcm3

Force gradient-divM

Single dot

Experimental MFM images

15 m

bull Calculated spin-flows similar to experimental resultbull Vortices with same chirality appear at the ends of all armsbull Chirality of adjacent dot shows a mirror-reflection

Easy axisEasy axis

Easy axis

Easy axis

-divM

4 おわりに

磁性特有のテクニカルタームがあるが慣れればそれほど難しいものではない

大部分の話は量子力学なしでも理解できる電磁気学の知識があればよい

応用につながるのは磁区磁壁の物理である

メゾスコピック系では量子的な現象が現れるこれが得意なスピン依存伝導現象をもたらす

[参考0]半導体磁性体誘電体

半導体と磁性体の対比

半導体 電子物性パラメータは基本的

にバンド構造で決まるキャリア密度は人為的に制御される

量子構造を考えない限り電子を古典粒子として有効質量近似で扱える

応用されるのは電子構造で決まる移動度などのミクロな電子物性である

電子物性が寸法方位形状にほとんど依存しない

単位系はCGSをもとにした実用単位系が使われる

磁性体 金属磁性体の磁性はスピン偏

極バンド構造で決まるが非金属磁性体の磁性は局在多電子系のフント則で決まる

交換相互作用スピン軌道相互作用など量子力学が基本

応用されるのは磁区により生じるヒステリシスに関連したマクロ磁気物性である

磁性は磁気異方性の影響を受け寸法方位形状により大幅に変化する

単位系が複雑でCGSとSIが混在して使われている

磁性体と誘電体の対比

磁性体

磁気モーメントμ(軸性ベクトル)

磁化M

自発磁化Ms

反磁界

磁気ヒステリシス

飽和磁化残留磁化保磁力

磁区(ドメイン)

キュリー温度

誘電体

電気双極子qr(極性ベクトル)

電気分極P

自発分極Ps

反電界

誘電ヒステリシス

飽和分極残留分極抗電界

分域(ドメイン)

キュリー温度

[参考1]

磁界磁束磁化

磁界(磁場)H磁束密度B磁化M

磁界H中に置かれた磁化Mの磁性体が磁束密

度は真空中の磁束密度に磁化による磁束密度を加えたものであるすなわちB=0H+M

B=0H B=0H+M

M

磁性体があると磁束密度が高くなる

真空中での磁束密度

磁化とは

物質に磁界を加えたとき物質の表面に磁極が生じ一時的に磁石のようになるがそのとき物質が磁化されたという

(b)(a)

(高梨初等磁気工学講座)より

磁化の定義

K番目の原子の1原子あ

たりの磁気モーメントをkとするときその単位体積についての総和k

を磁化Mと定義するM= k

磁気モーメントの単位はWbmであるから磁化の単位はWbm2となる

(高梨初等磁気工学講座)より

常磁性

磁極と磁気モーメント

磁石にはN極とS極がある

磁界中に置かれた磁性体にも磁極が誘起される磁極は必ずNSの対で現れる(単極は見つかっていない)

磁極の大きさをq [Wb]とすると磁界によってNSの対に働くトルクは-qdHsin [Nm]=qdsin [Wbm] H[Am]

必ずNとSが対で現れるならm=qrを磁性を扱う基本単

位と考えることが出来るこれを磁気モーメントという単位は[Wbm]

[参考2]

磁気モーメントの電子的起源

磁気モーメント

一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは

T=qH r sin=mH sin 磁気モーメントのもつポテンシャルEは

E=Td= mH sin d=mH(1-cos)

ポテンシャルの原点はどこにとってもよいから E=-mH mHのときエネルギーは極小になる

mはHに平行になろうとする(高梨初等磁気工学講座)より

r 磁気モーメント

m=qr [Wbm]

-q [Wb]

+q [Wb]

qH

-qH

rsin

単位E[J]=-m[Wbm] H[Am]

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 26: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

分子場理論

キュリーワイスの法則

キュリー温度Tc以上では磁気モーメントはバラバラ

の方向を向き常磁性になる分子場理論によればこのときの磁化率は次式で与えられる

この式をキュリーワイスの法則という

Cはワイス定数pは常磁性キュリー温度という

1をTに対してプロットすると1=(T- p)Cとなり横軸を横切る温度がpである

pT

C

分子場理論

キュリーワイスの法則を導く

Heff=H+AM

MHeff=CT (MとHeffの間にキュリーの法則が成立すると仮定する)

M(H+AM)=CTrarrMT=C(H+AM)従ってM(T-CA)=CHより

=MH=C(T-CA)となるCA=pと置けばキュリーワイスの法則が導かれるすなわち=C(T- p)

自発磁化の温度変化

強磁性体の自発磁化の大きさは温度上昇とともに減少しキュリー温度Tcにおいて消滅する

Tc以上では常磁性であ

る常磁性磁化率の逆数は温度に比例しゼロに外挿するとキュリー温度が求まる

25 交換相互作用(exchange interaction)

交換相互作用という言葉はもともとは多電子原子の中で働くクーロン相互作用の算出において電子同士を区別できないことから来るエネルギーの補正項のことで原子内交換相互作用といいます(intra-atomic exchange interaction)

この概念を原子間に拡張したのが原子間交換相互作用(inter-atomic exchangeinteraction)です

ウンチクコーナーイントラ(intra)とインター(inter) イントラは内部のといういみの接頭辞インターは複数のものの

間のという意味の接頭辞ですイントラネットインターネットということばもここから来ています

原子内交換相互作用

原子内交換相互作用は本質的にクーロン相互作用です2つの電子(波動関数を12とする)の間に働くクーロン相互作用のエネルギーHはH= K12-(12) J12(1+4s1s2) で表されます

K12は次式で与えられるクーロン積分です

J12は次式で与えられる交換積分で電子が区別できないことからくる項です

K dr dr r re

rr r12 1 2 1 1 2 2

2

12

1 1 2 2

J dr dr r re

rr r12 1 2 1 1 2 2

2

12

1 2 2 1

原子内交換相互作用

H= K12-(12) J12(1+4s1s2)

の固有値は=K12ndashJ12 (s1とs2が同符号のとき)= K12 ( s1とs2が異符号のとき)

Hと平均のエネルギー(H0=K12-J122)との差ndash2J12s1s2のことを原子内交換エネルギーという

K12

K12-J12

原子間交換相互作用

本来磁気秩序を考えるには物質系全体のスピンを考えねばならないのであるが電子の軌道が原子に局在しているみなして電子のスピンを各原子Iの位置に局在した全スピンSiで代表させて原子1の全スピンS1と原子2の全スピンS2との間に原子間交換相互作用が働くと考えるのがハイゼンベルグ模型であるこのとき交換エネルギーHex は原子内交換相互作用を一般化して見かけの交換積分J12を用いて

Hex =-2J12S1S2

で表されるJが正であれば相互作用は強磁性的負であれば反強磁性的である

交換相互作用

ハイゼンベルグ模型 Hex =-2J12S1S2

Jが正であれば相互作用は強磁性的負であれば反強磁性的

交換積分の起源隣接原子のスピン間の直接交換(direct exchange)

酸素などのアニオンのp電子軌道との混成を通してスピン同士がそろえあう超交換(superexchange)

伝導電子との相互作用を通じてそろえあう間接交換(indirect exchange)

電子の移動と磁性とが強く結びついている二重交換相互作用(double exchange)

さまざまな交換相互作用

直接交換

超交換

間接交換(RKKY)

二重交換

超交換相互作用

酸化物磁性体では局在電子系の磁気モーメントの間に働く相互作用は遷移金属の3d電子どうしの重なりで生じるのではなく配位子のp電子が遷移金属イオンの3d軌道に仮想的に遷

移した中間状態を介して相互作用するこれを超交換相互作用と称する主として反強磁性的に働く

酸素イオン

遷移金属イオン

超交換相互作用模式図

90度強磁性

180度反強磁性

(Goodenough)

アニオン

遷移金属イオン

アニオン

遷移金属イオン

(a)

(b)

Fig 9 超交換相互作用の模式図

間接交換(RKKY)相互作用

希土類金属の磁性は4f電子が担うが伝導電子である5d電子が4f電子と原子内交換相互作用することによってスピン偏極を受けこれが隣接の希土類原子のf電子と相互作用するという形の間接的な交換相互作用を行っていると考えられている

これをRKKY (Rudermann Kittel Kasuya Yoshida)相互作用という

伝導電子を介した局在スピン間の磁気的相互作用は距離に対して余弦関数的に振動しその周期は伝導電子のフェルミ波数で決められる

RKKY振動

フリーデル振動

21F

2

F

2

RKKY 29 SS

Rkf

N

NJH e

4

sincos

x

xxxxf

CoCu superlattice

Cu thickness (Aring)

磁気抵

抗比

図15

二重交換相互作用

LaMnO3ではすべてのMn原子は3価なので egバンドには1個の電子が存在しこの電子が隣接Mn原子のeg軌道に移動しようとすると電子相関エネルギーUだけのエネルギーが必要であるため電子移動は起きずモット絶縁体となっている

LaをSrで置き換え4価のMnが生じるとMn4+のeg軌道は空であるから他のMn3+から電子が移ることができ金属的な導電性を生じる

このとき隣接するMn原子の磁気モーメントのなす角とするとeg電子の飛び移りの確率はcos( 2)に比例する=0(スピンが平行)のとき飛び移りが最も起きやすく運動エネルギーの分だけエネルギーが下がるので強磁性となる

二重交換の模式図

Mn3+ Mn4+

3磁気ヒステリシス曲線と磁区

磁気ヒステリシスについて

反磁界と静磁エネルギー

磁気異方性

磁区と磁壁磁壁移動と磁化回転

保磁力

31 磁気ヒステリシス

強磁性体においてはその磁化は印加磁界に比例せずヒステリシスを示す

(高梨初等磁気工学講座テキスト)

OrarrBrarrC初磁化曲線

CrarrD 残留磁化

DrarrE 保磁力

CrarrDrarrErarrFrarrGrarrC

ヒステリシスループ

縦軸磁化

横軸磁界

[参考]

磁化曲線の測定法

磁性体を磁界中に置き磁界を増加していくと磁性体の磁化は増加していき次第に飽和する

磁化曲線は磁力計を使って測定する

VSM試料振動型磁力計試料を01~02mm程度のわずかな振幅で80Hz程度の低周波で振動させ試料の

磁化による磁束の時間変化を電磁石の磁極付近に置かれたサーチコイルに誘起された誘導起電力として検出する誘導起電力は試料の磁化に比例するので磁化を測定することができる

電磁石

磁極付近に置いたサーチコイル

スピーカーと同じ振動機構

[参考]

VSMブロック図

丸善実験物理学講座「磁気測定I」p68より

磁気ヒステリシスと応用

保磁力のちがいで用途が違う

Hc小軟質磁性体

磁気ヘッド変圧器鉄心磁気シールド

Hc中半硬質磁性体

磁気記録媒体

Hc大硬質磁性体

永久磁石このループの面積が磁石に蓄積される磁気エネルギー高周波の場合はヒステリシス損失となる

永久磁石の最大エネルギー積(BH)maxの変遷(httpwwwaacgbhamacukmagnetic_materialshistoryhtm)

BHmax

32 なぜ初磁化状態では磁化がないのか磁区(magnetic domain)

磁化が特定の方向を向くとするとN極からS極に向

かって磁力線が生じますこの磁力線は考えている試料の外を通っているだけでなく磁性体の内部も貫いていますこの磁力線を反磁界といいます反磁界の向きは磁化の向きとは反対向きなので磁化は回転する静磁力を受けて不安定となります

磁化の方向が逆方向の縞状の磁区と呼ばれる領域に分かれるならば反磁界がうち消し合って静磁エネルギーが低下して安定するのです

反磁界(demagnetization field)

磁性体表面の法線方向の磁化成分をMn とすると表面には単位面積あたり = Mnという大きさの磁極(Wbm2)が生じる

磁極からはガウスの定理によって全部で μ0の磁力線がわき出すこのうち反磁界係数Nを使って定義される磁力線NMは内部に向かっており残りは外側に向かっているすなわち磁石の内部ではMの向きとは逆方向の反磁界が存在する

外部では磁束線は磁力線に一致する

(b) 磁力線

M- +

(a)磁化と磁極 反磁界

S N

S N

(c) 磁束線

反磁界係数N (近角強磁性体の物理より)

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0

(i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+ Ny+ Nz=1

が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx= Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx= Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

x

y

z

z

x

y

z

x

y

Nz=1

Nx= 0Ny= 0

Nx= 12

Ny= 12

Nx=13

Ny=13

Nz=13

Nz=0

反磁界補正

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0 (i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+Ny+ Nz=1が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx=Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx=Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

(近角強磁性体の物理より)

反磁界と静磁エネルギー

磁化Mが反磁界HdのもとにおかれるとU=MHdだけポテンシャルエネルギーが高くなる

一様な磁界H中の磁気モーメントMに働くトルクTはT=-MH sin

磁気モーメントのもつポテンシャルEはU=Td= - 0

MH sin d=MH (1-cos) エネルギーの原点はどこにとってもよいのでポテンシャルエネルギーはU=-MHと表される H=-Hdを代入すると反磁界によるポテンシャルの増加はU=MHd

表面磁極の分割による静磁エネルギーの減少

結晶表面をxy面にとる

表面でz=0とする

磁区の磁化方向はplusmnz

磁区のx方向の幅d

磁極の表面密度=Is 2mdltxlt(2m+1)d

=-Is (2m+1)dltxlt2(m+1)d

磁気ポテンシャルをLaplaceの方程式で求め

+ +- -

z

x

y

d

境界条件( z)z=-0=20

境界条件のもとにラプラス方程式を解くと=n An sin n(d)xexp n(d)z

係数Anは次式を満たすように決められる(d) n nAn sin n(d)x =I20 2mdltxlt(2m+1)d

= - I20 (2m+1)dltxlt2(m+1)d

rarrAn=2Isd20n2

(x=0)=(2Isd20) n (1n2)sin n(d)x

単位表面積あたりの静磁エネルギー=(2Is

220) n (1n2)int0d sin n(d)x

=(2Is2d20) n=odd (1n3)=540104Is

2d

磁気異方性

磁性体は半導体と違って形状寸法結晶方位とか磁化の方位などによって物性が大きく変化する

1つの原因は上に述べた反磁界係数で形状磁気異方性と呼ばれます反磁界によるエネルギーの損を最小化することが原因です

このほかの原因として重要なのが結晶磁気異方性です結晶磁気異方性というのは磁界を結晶のどの方位に加えるかで磁化曲線が変化する性質です

電子軌道は結晶軸に結びついているので磁気的性質と電子軌道との結びつき(スピン軌道相互作用)を通じて磁性が結晶軸と結び

つくのです半導体にも詳しい測定をすると異方性を見ることができますこれに比べ一般に半導体の電子軌道は結晶全体に広がっているので平均化されて結晶軸に依存する物性が見えにくいです

結晶磁気異方性

磁化しやすさは結晶の方位に依存する

鉄は立方晶であるが[100]が容易軸[111]は困難軸

x

y

z

[111

]

[100

]

容易軸

困難軸

[110]

円板磁性体の磁区構造

全体が磁区に分かれることにより全体の磁化がなくなっているこれが初磁化状態である

磁区の内部では磁化は任意の方向をランダムに向いている訳ではない

磁化は結晶の方位と無関係な方向を向くことはできない磁性体には磁気異方性という性質があり磁化が特定の結晶軸方位(たとえばFeでは[001]方向および等価な方向)を向く性質がある

[001]容易軸では図のように(001)面内では[100][010][-100][0-10]の4つの方向を向くので90磁壁になる

[111]容易軸では

(a) (b)

(近角強磁性体の物理)

33 ヒステリシスを磁区で説明する

残留磁化状態 逆磁区の発生と成長

磁気飽和

核発生

34 さまざまな磁区とマイクロマグネティクス

Figは結晶の対称性により磁区が変わる様子の例として縞状磁区(stripe domain)と環流磁区(closure domain)を示している磁性体を微細化して直径1μm付近になるとスピンは面内に分布してvortex状態となり中心部に垂直方向のスピン成分をもつようになるさらに微細化すると単磁区になる

微小磁区のMFM観察

磁区の観察にはビッター法といって磁性微粒子を含むコロイドを磁性体上に滴下して光学顕微鏡で観察する方法が古くから使われているこのほか磁気光学顕微鏡ローレンツ電子顕微鏡磁気力顕微鏡走査型ホール顕微鏡走査型SQUID顕微鏡スピン偏極電子顕微鏡X線MCD顕微鏡などで観察することが可能であるFig 22にはいくつかの例について筆者のMFM観察結果を示す

10 nmtimes10 nmtimes10 nmMesh size

1Number of dot

200 nmtimes200 nmtimes100nm

Dot Size

Y directionEasy axis

02Damping constant(α)

-176times107 rad(sOe)Gyro magnetic constant(γ)

1000 ergcm3Anisotropic constant (Ku)

1times10-6 ergcm3Exchange field (A)

800 emucm3Saturation magnetization (Ms)

Hy = 10 kOe rarr 0 Oe

divM divMy

LLG 方程式を用いた

マイクロ磁気解析

Dot model

200 x 200thickness50 nm

Magnetic moment - dv M Force gradient

200 x 200thickness100 nm

90 degree walls propeller-like distortion

Calculation of a single dot

Spin structure

-divM

Isolated square dot

Force gradient image Spin distribution image

Four-dot system

Shift of the center occurs Reversal of chirality

MFM imagewith low-moment tip

(CoPtCr240Å in HV)

Spin distribution imagewith the force-gradientimage overlapped

Inversion of chirality

Comparison between MFM andsimulation of spin distribution

Simulation was carried outin the model structureconsisting of four squaredots with a dimension of200 nmtimes200 nmtimes20 nmwith 50nm separationbetween dots

The calculated spinstructure shows a closuredomain structure with the90-wall appears

The chirality of the spindirection in adjacent dots isopposite to each other asshown by white arrows

The Z-component force-gradient image taking intoaccount the tip-sampleinteraction is overlapped

Calculated magnetization configurationof Y-shaped permalloy dot

Calculation parametersWidth 300 nmThickness 100 nmEasy axis 0 ergcm3

x

y

z

Force gradient-divM

Force gradient(Magnified)

Experimental MFM images

bull Single domains appear in two armsbull Multi-domain of 4 chained closer-domains on the restbull Spin-flow at crossing region turns left in two steps

50

0n

m2

m

L

C

R

C

L

R

x

y

z

Calculated magnetization configurationsof Y-shaped permalloy mirror-dots

Calculation parametersWidth 200 nmThickness 40 nmEasy axis X 1000 ergcm3

Force gradient-divM

Single dot

Experimental MFM images

15 m

bull Calculated spin-flows similar to experimental resultbull Vortices with same chirality appear at the ends of all armsbull Chirality of adjacent dot shows a mirror-reflection

Easy axisEasy axis

Easy axis

Easy axis

-divM

4 おわりに

磁性特有のテクニカルタームがあるが慣れればそれほど難しいものではない

大部分の話は量子力学なしでも理解できる電磁気学の知識があればよい

応用につながるのは磁区磁壁の物理である

メゾスコピック系では量子的な現象が現れるこれが得意なスピン依存伝導現象をもたらす

[参考0]半導体磁性体誘電体

半導体と磁性体の対比

半導体 電子物性パラメータは基本的

にバンド構造で決まるキャリア密度は人為的に制御される

量子構造を考えない限り電子を古典粒子として有効質量近似で扱える

応用されるのは電子構造で決まる移動度などのミクロな電子物性である

電子物性が寸法方位形状にほとんど依存しない

単位系はCGSをもとにした実用単位系が使われる

磁性体 金属磁性体の磁性はスピン偏

極バンド構造で決まるが非金属磁性体の磁性は局在多電子系のフント則で決まる

交換相互作用スピン軌道相互作用など量子力学が基本

応用されるのは磁区により生じるヒステリシスに関連したマクロ磁気物性である

磁性は磁気異方性の影響を受け寸法方位形状により大幅に変化する

単位系が複雑でCGSとSIが混在して使われている

磁性体と誘電体の対比

磁性体

磁気モーメントμ(軸性ベクトル)

磁化M

自発磁化Ms

反磁界

磁気ヒステリシス

飽和磁化残留磁化保磁力

磁区(ドメイン)

キュリー温度

誘電体

電気双極子qr(極性ベクトル)

電気分極P

自発分極Ps

反電界

誘電ヒステリシス

飽和分極残留分極抗電界

分域(ドメイン)

キュリー温度

[参考1]

磁界磁束磁化

磁界(磁場)H磁束密度B磁化M

磁界H中に置かれた磁化Mの磁性体が磁束密

度は真空中の磁束密度に磁化による磁束密度を加えたものであるすなわちB=0H+M

B=0H B=0H+M

M

磁性体があると磁束密度が高くなる

真空中での磁束密度

磁化とは

物質に磁界を加えたとき物質の表面に磁極が生じ一時的に磁石のようになるがそのとき物質が磁化されたという

(b)(a)

(高梨初等磁気工学講座)より

磁化の定義

K番目の原子の1原子あ

たりの磁気モーメントをkとするときその単位体積についての総和k

を磁化Mと定義するM= k

磁気モーメントの単位はWbmであるから磁化の単位はWbm2となる

(高梨初等磁気工学講座)より

常磁性

磁極と磁気モーメント

磁石にはN極とS極がある

磁界中に置かれた磁性体にも磁極が誘起される磁極は必ずNSの対で現れる(単極は見つかっていない)

磁極の大きさをq [Wb]とすると磁界によってNSの対に働くトルクは-qdHsin [Nm]=qdsin [Wbm] H[Am]

必ずNとSが対で現れるならm=qrを磁性を扱う基本単

位と考えることが出来るこれを磁気モーメントという単位は[Wbm]

[参考2]

磁気モーメントの電子的起源

磁気モーメント

一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは

T=qH r sin=mH sin 磁気モーメントのもつポテンシャルEは

E=Td= mH sin d=mH(1-cos)

ポテンシャルの原点はどこにとってもよいから E=-mH mHのときエネルギーは極小になる

mはHに平行になろうとする(高梨初等磁気工学講座)より

r 磁気モーメント

m=qr [Wbm]

-q [Wb]

+q [Wb]

qH

-qH

rsin

単位E[J]=-m[Wbm] H[Am]

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 27: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

分子場理論

キュリーワイスの法則を導く

Heff=H+AM

MHeff=CT (MとHeffの間にキュリーの法則が成立すると仮定する)

M(H+AM)=CTrarrMT=C(H+AM)従ってM(T-CA)=CHより

=MH=C(T-CA)となるCA=pと置けばキュリーワイスの法則が導かれるすなわち=C(T- p)

自発磁化の温度変化

強磁性体の自発磁化の大きさは温度上昇とともに減少しキュリー温度Tcにおいて消滅する

Tc以上では常磁性であ

る常磁性磁化率の逆数は温度に比例しゼロに外挿するとキュリー温度が求まる

25 交換相互作用(exchange interaction)

交換相互作用という言葉はもともとは多電子原子の中で働くクーロン相互作用の算出において電子同士を区別できないことから来るエネルギーの補正項のことで原子内交換相互作用といいます(intra-atomic exchange interaction)

この概念を原子間に拡張したのが原子間交換相互作用(inter-atomic exchangeinteraction)です

ウンチクコーナーイントラ(intra)とインター(inter) イントラは内部のといういみの接頭辞インターは複数のものの

間のという意味の接頭辞ですイントラネットインターネットということばもここから来ています

原子内交換相互作用

原子内交換相互作用は本質的にクーロン相互作用です2つの電子(波動関数を12とする)の間に働くクーロン相互作用のエネルギーHはH= K12-(12) J12(1+4s1s2) で表されます

K12は次式で与えられるクーロン積分です

J12は次式で与えられる交換積分で電子が区別できないことからくる項です

K dr dr r re

rr r12 1 2 1 1 2 2

2

12

1 1 2 2

J dr dr r re

rr r12 1 2 1 1 2 2

2

12

1 2 2 1

原子内交換相互作用

H= K12-(12) J12(1+4s1s2)

の固有値は=K12ndashJ12 (s1とs2が同符号のとき)= K12 ( s1とs2が異符号のとき)

Hと平均のエネルギー(H0=K12-J122)との差ndash2J12s1s2のことを原子内交換エネルギーという

K12

K12-J12

原子間交換相互作用

本来磁気秩序を考えるには物質系全体のスピンを考えねばならないのであるが電子の軌道が原子に局在しているみなして電子のスピンを各原子Iの位置に局在した全スピンSiで代表させて原子1の全スピンS1と原子2の全スピンS2との間に原子間交換相互作用が働くと考えるのがハイゼンベルグ模型であるこのとき交換エネルギーHex は原子内交換相互作用を一般化して見かけの交換積分J12を用いて

Hex =-2J12S1S2

で表されるJが正であれば相互作用は強磁性的負であれば反強磁性的である

交換相互作用

ハイゼンベルグ模型 Hex =-2J12S1S2

Jが正であれば相互作用は強磁性的負であれば反強磁性的

交換積分の起源隣接原子のスピン間の直接交換(direct exchange)

酸素などのアニオンのp電子軌道との混成を通してスピン同士がそろえあう超交換(superexchange)

伝導電子との相互作用を通じてそろえあう間接交換(indirect exchange)

電子の移動と磁性とが強く結びついている二重交換相互作用(double exchange)

さまざまな交換相互作用

直接交換

超交換

間接交換(RKKY)

二重交換

超交換相互作用

酸化物磁性体では局在電子系の磁気モーメントの間に働く相互作用は遷移金属の3d電子どうしの重なりで生じるのではなく配位子のp電子が遷移金属イオンの3d軌道に仮想的に遷

移した中間状態を介して相互作用するこれを超交換相互作用と称する主として反強磁性的に働く

酸素イオン

遷移金属イオン

超交換相互作用模式図

90度強磁性

180度反強磁性

(Goodenough)

アニオン

遷移金属イオン

アニオン

遷移金属イオン

(a)

(b)

Fig 9 超交換相互作用の模式図

間接交換(RKKY)相互作用

希土類金属の磁性は4f電子が担うが伝導電子である5d電子が4f電子と原子内交換相互作用することによってスピン偏極を受けこれが隣接の希土類原子のf電子と相互作用するという形の間接的な交換相互作用を行っていると考えられている

これをRKKY (Rudermann Kittel Kasuya Yoshida)相互作用という

伝導電子を介した局在スピン間の磁気的相互作用は距離に対して余弦関数的に振動しその周期は伝導電子のフェルミ波数で決められる

RKKY振動

フリーデル振動

21F

2

F

2

RKKY 29 SS

Rkf

N

NJH e

4

sincos

x

xxxxf

CoCu superlattice

Cu thickness (Aring)

磁気抵

抗比

図15

二重交換相互作用

LaMnO3ではすべてのMn原子は3価なので egバンドには1個の電子が存在しこの電子が隣接Mn原子のeg軌道に移動しようとすると電子相関エネルギーUだけのエネルギーが必要であるため電子移動は起きずモット絶縁体となっている

LaをSrで置き換え4価のMnが生じるとMn4+のeg軌道は空であるから他のMn3+から電子が移ることができ金属的な導電性を生じる

このとき隣接するMn原子の磁気モーメントのなす角とするとeg電子の飛び移りの確率はcos( 2)に比例する=0(スピンが平行)のとき飛び移りが最も起きやすく運動エネルギーの分だけエネルギーが下がるので強磁性となる

二重交換の模式図

Mn3+ Mn4+

3磁気ヒステリシス曲線と磁区

磁気ヒステリシスについて

反磁界と静磁エネルギー

磁気異方性

磁区と磁壁磁壁移動と磁化回転

保磁力

31 磁気ヒステリシス

強磁性体においてはその磁化は印加磁界に比例せずヒステリシスを示す

(高梨初等磁気工学講座テキスト)

OrarrBrarrC初磁化曲線

CrarrD 残留磁化

DrarrE 保磁力

CrarrDrarrErarrFrarrGrarrC

ヒステリシスループ

縦軸磁化

横軸磁界

[参考]

磁化曲線の測定法

磁性体を磁界中に置き磁界を増加していくと磁性体の磁化は増加していき次第に飽和する

磁化曲線は磁力計を使って測定する

VSM試料振動型磁力計試料を01~02mm程度のわずかな振幅で80Hz程度の低周波で振動させ試料の

磁化による磁束の時間変化を電磁石の磁極付近に置かれたサーチコイルに誘起された誘導起電力として検出する誘導起電力は試料の磁化に比例するので磁化を測定することができる

電磁石

磁極付近に置いたサーチコイル

スピーカーと同じ振動機構

[参考]

VSMブロック図

丸善実験物理学講座「磁気測定I」p68より

磁気ヒステリシスと応用

保磁力のちがいで用途が違う

Hc小軟質磁性体

磁気ヘッド変圧器鉄心磁気シールド

Hc中半硬質磁性体

磁気記録媒体

Hc大硬質磁性体

永久磁石このループの面積が磁石に蓄積される磁気エネルギー高周波の場合はヒステリシス損失となる

永久磁石の最大エネルギー積(BH)maxの変遷(httpwwwaacgbhamacukmagnetic_materialshistoryhtm)

BHmax

32 なぜ初磁化状態では磁化がないのか磁区(magnetic domain)

磁化が特定の方向を向くとするとN極からS極に向

かって磁力線が生じますこの磁力線は考えている試料の外を通っているだけでなく磁性体の内部も貫いていますこの磁力線を反磁界といいます反磁界の向きは磁化の向きとは反対向きなので磁化は回転する静磁力を受けて不安定となります

磁化の方向が逆方向の縞状の磁区と呼ばれる領域に分かれるならば反磁界がうち消し合って静磁エネルギーが低下して安定するのです

反磁界(demagnetization field)

磁性体表面の法線方向の磁化成分をMn とすると表面には単位面積あたり = Mnという大きさの磁極(Wbm2)が生じる

磁極からはガウスの定理によって全部で μ0の磁力線がわき出すこのうち反磁界係数Nを使って定義される磁力線NMは内部に向かっており残りは外側に向かっているすなわち磁石の内部ではMの向きとは逆方向の反磁界が存在する

外部では磁束線は磁力線に一致する

(b) 磁力線

M- +

(a)磁化と磁極 反磁界

S N

S N

(c) 磁束線

反磁界係数N (近角強磁性体の物理より)

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0

(i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+ Ny+ Nz=1

が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx= Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx= Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

x

y

z

z

x

y

z

x

y

Nz=1

Nx= 0Ny= 0

Nx= 12

Ny= 12

Nx=13

Ny=13

Nz=13

Nz=0

反磁界補正

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0 (i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+Ny+ Nz=1が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx=Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx=Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

(近角強磁性体の物理より)

反磁界と静磁エネルギー

磁化Mが反磁界HdのもとにおかれるとU=MHdだけポテンシャルエネルギーが高くなる

一様な磁界H中の磁気モーメントMに働くトルクTはT=-MH sin

磁気モーメントのもつポテンシャルEはU=Td= - 0

MH sin d=MH (1-cos) エネルギーの原点はどこにとってもよいのでポテンシャルエネルギーはU=-MHと表される H=-Hdを代入すると反磁界によるポテンシャルの増加はU=MHd

表面磁極の分割による静磁エネルギーの減少

結晶表面をxy面にとる

表面でz=0とする

磁区の磁化方向はplusmnz

磁区のx方向の幅d

磁極の表面密度=Is 2mdltxlt(2m+1)d

=-Is (2m+1)dltxlt2(m+1)d

磁気ポテンシャルをLaplaceの方程式で求め

+ +- -

z

x

y

d

境界条件( z)z=-0=20

境界条件のもとにラプラス方程式を解くと=n An sin n(d)xexp n(d)z

係数Anは次式を満たすように決められる(d) n nAn sin n(d)x =I20 2mdltxlt(2m+1)d

= - I20 (2m+1)dltxlt2(m+1)d

rarrAn=2Isd20n2

(x=0)=(2Isd20) n (1n2)sin n(d)x

単位表面積あたりの静磁エネルギー=(2Is

220) n (1n2)int0d sin n(d)x

=(2Is2d20) n=odd (1n3)=540104Is

2d

磁気異方性

磁性体は半導体と違って形状寸法結晶方位とか磁化の方位などによって物性が大きく変化する

1つの原因は上に述べた反磁界係数で形状磁気異方性と呼ばれます反磁界によるエネルギーの損を最小化することが原因です

このほかの原因として重要なのが結晶磁気異方性です結晶磁気異方性というのは磁界を結晶のどの方位に加えるかで磁化曲線が変化する性質です

電子軌道は結晶軸に結びついているので磁気的性質と電子軌道との結びつき(スピン軌道相互作用)を通じて磁性が結晶軸と結び

つくのです半導体にも詳しい測定をすると異方性を見ることができますこれに比べ一般に半導体の電子軌道は結晶全体に広がっているので平均化されて結晶軸に依存する物性が見えにくいです

結晶磁気異方性

磁化しやすさは結晶の方位に依存する

鉄は立方晶であるが[100]が容易軸[111]は困難軸

x

y

z

[111

]

[100

]

容易軸

困難軸

[110]

円板磁性体の磁区構造

全体が磁区に分かれることにより全体の磁化がなくなっているこれが初磁化状態である

磁区の内部では磁化は任意の方向をランダムに向いている訳ではない

磁化は結晶の方位と無関係な方向を向くことはできない磁性体には磁気異方性という性質があり磁化が特定の結晶軸方位(たとえばFeでは[001]方向および等価な方向)を向く性質がある

[001]容易軸では図のように(001)面内では[100][010][-100][0-10]の4つの方向を向くので90磁壁になる

[111]容易軸では

(a) (b)

(近角強磁性体の物理)

33 ヒステリシスを磁区で説明する

残留磁化状態 逆磁区の発生と成長

磁気飽和

核発生

34 さまざまな磁区とマイクロマグネティクス

Figは結晶の対称性により磁区が変わる様子の例として縞状磁区(stripe domain)と環流磁区(closure domain)を示している磁性体を微細化して直径1μm付近になるとスピンは面内に分布してvortex状態となり中心部に垂直方向のスピン成分をもつようになるさらに微細化すると単磁区になる

微小磁区のMFM観察

磁区の観察にはビッター法といって磁性微粒子を含むコロイドを磁性体上に滴下して光学顕微鏡で観察する方法が古くから使われているこのほか磁気光学顕微鏡ローレンツ電子顕微鏡磁気力顕微鏡走査型ホール顕微鏡走査型SQUID顕微鏡スピン偏極電子顕微鏡X線MCD顕微鏡などで観察することが可能であるFig 22にはいくつかの例について筆者のMFM観察結果を示す

10 nmtimes10 nmtimes10 nmMesh size

1Number of dot

200 nmtimes200 nmtimes100nm

Dot Size

Y directionEasy axis

02Damping constant(α)

-176times107 rad(sOe)Gyro magnetic constant(γ)

1000 ergcm3Anisotropic constant (Ku)

1times10-6 ergcm3Exchange field (A)

800 emucm3Saturation magnetization (Ms)

Hy = 10 kOe rarr 0 Oe

divM divMy

LLG 方程式を用いた

マイクロ磁気解析

Dot model

200 x 200thickness50 nm

Magnetic moment - dv M Force gradient

200 x 200thickness100 nm

90 degree walls propeller-like distortion

Calculation of a single dot

Spin structure

-divM

Isolated square dot

Force gradient image Spin distribution image

Four-dot system

Shift of the center occurs Reversal of chirality

MFM imagewith low-moment tip

(CoPtCr240Å in HV)

Spin distribution imagewith the force-gradientimage overlapped

Inversion of chirality

Comparison between MFM andsimulation of spin distribution

Simulation was carried outin the model structureconsisting of four squaredots with a dimension of200 nmtimes200 nmtimes20 nmwith 50nm separationbetween dots

The calculated spinstructure shows a closuredomain structure with the90-wall appears

The chirality of the spindirection in adjacent dots isopposite to each other asshown by white arrows

The Z-component force-gradient image taking intoaccount the tip-sampleinteraction is overlapped

Calculated magnetization configurationof Y-shaped permalloy dot

Calculation parametersWidth 300 nmThickness 100 nmEasy axis 0 ergcm3

x

y

z

Force gradient-divM

Force gradient(Magnified)

Experimental MFM images

bull Single domains appear in two armsbull Multi-domain of 4 chained closer-domains on the restbull Spin-flow at crossing region turns left in two steps

50

0n

m2

m

L

C

R

C

L

R

x

y

z

Calculated magnetization configurationsof Y-shaped permalloy mirror-dots

Calculation parametersWidth 200 nmThickness 40 nmEasy axis X 1000 ergcm3

Force gradient-divM

Single dot

Experimental MFM images

15 m

bull Calculated spin-flows similar to experimental resultbull Vortices with same chirality appear at the ends of all armsbull Chirality of adjacent dot shows a mirror-reflection

Easy axisEasy axis

Easy axis

Easy axis

-divM

4 おわりに

磁性特有のテクニカルタームがあるが慣れればそれほど難しいものではない

大部分の話は量子力学なしでも理解できる電磁気学の知識があればよい

応用につながるのは磁区磁壁の物理である

メゾスコピック系では量子的な現象が現れるこれが得意なスピン依存伝導現象をもたらす

[参考0]半導体磁性体誘電体

半導体と磁性体の対比

半導体 電子物性パラメータは基本的

にバンド構造で決まるキャリア密度は人為的に制御される

量子構造を考えない限り電子を古典粒子として有効質量近似で扱える

応用されるのは電子構造で決まる移動度などのミクロな電子物性である

電子物性が寸法方位形状にほとんど依存しない

単位系はCGSをもとにした実用単位系が使われる

磁性体 金属磁性体の磁性はスピン偏

極バンド構造で決まるが非金属磁性体の磁性は局在多電子系のフント則で決まる

交換相互作用スピン軌道相互作用など量子力学が基本

応用されるのは磁区により生じるヒステリシスに関連したマクロ磁気物性である

磁性は磁気異方性の影響を受け寸法方位形状により大幅に変化する

単位系が複雑でCGSとSIが混在して使われている

磁性体と誘電体の対比

磁性体

磁気モーメントμ(軸性ベクトル)

磁化M

自発磁化Ms

反磁界

磁気ヒステリシス

飽和磁化残留磁化保磁力

磁区(ドメイン)

キュリー温度

誘電体

電気双極子qr(極性ベクトル)

電気分極P

自発分極Ps

反電界

誘電ヒステリシス

飽和分極残留分極抗電界

分域(ドメイン)

キュリー温度

[参考1]

磁界磁束磁化

磁界(磁場)H磁束密度B磁化M

磁界H中に置かれた磁化Mの磁性体が磁束密

度は真空中の磁束密度に磁化による磁束密度を加えたものであるすなわちB=0H+M

B=0H B=0H+M

M

磁性体があると磁束密度が高くなる

真空中での磁束密度

磁化とは

物質に磁界を加えたとき物質の表面に磁極が生じ一時的に磁石のようになるがそのとき物質が磁化されたという

(b)(a)

(高梨初等磁気工学講座)より

磁化の定義

K番目の原子の1原子あ

たりの磁気モーメントをkとするときその単位体積についての総和k

を磁化Mと定義するM= k

磁気モーメントの単位はWbmであるから磁化の単位はWbm2となる

(高梨初等磁気工学講座)より

常磁性

磁極と磁気モーメント

磁石にはN極とS極がある

磁界中に置かれた磁性体にも磁極が誘起される磁極は必ずNSの対で現れる(単極は見つかっていない)

磁極の大きさをq [Wb]とすると磁界によってNSの対に働くトルクは-qdHsin [Nm]=qdsin [Wbm] H[Am]

必ずNとSが対で現れるならm=qrを磁性を扱う基本単

位と考えることが出来るこれを磁気モーメントという単位は[Wbm]

[参考2]

磁気モーメントの電子的起源

磁気モーメント

一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは

T=qH r sin=mH sin 磁気モーメントのもつポテンシャルEは

E=Td= mH sin d=mH(1-cos)

ポテンシャルの原点はどこにとってもよいから E=-mH mHのときエネルギーは極小になる

mはHに平行になろうとする(高梨初等磁気工学講座)より

r 磁気モーメント

m=qr [Wbm]

-q [Wb]

+q [Wb]

qH

-qH

rsin

単位E[J]=-m[Wbm] H[Am]

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 28: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

自発磁化の温度変化

強磁性体の自発磁化の大きさは温度上昇とともに減少しキュリー温度Tcにおいて消滅する

Tc以上では常磁性であ

る常磁性磁化率の逆数は温度に比例しゼロに外挿するとキュリー温度が求まる

25 交換相互作用(exchange interaction)

交換相互作用という言葉はもともとは多電子原子の中で働くクーロン相互作用の算出において電子同士を区別できないことから来るエネルギーの補正項のことで原子内交換相互作用といいます(intra-atomic exchange interaction)

この概念を原子間に拡張したのが原子間交換相互作用(inter-atomic exchangeinteraction)です

ウンチクコーナーイントラ(intra)とインター(inter) イントラは内部のといういみの接頭辞インターは複数のものの

間のという意味の接頭辞ですイントラネットインターネットということばもここから来ています

原子内交換相互作用

原子内交換相互作用は本質的にクーロン相互作用です2つの電子(波動関数を12とする)の間に働くクーロン相互作用のエネルギーHはH= K12-(12) J12(1+4s1s2) で表されます

K12は次式で与えられるクーロン積分です

J12は次式で与えられる交換積分で電子が区別できないことからくる項です

K dr dr r re

rr r12 1 2 1 1 2 2

2

12

1 1 2 2

J dr dr r re

rr r12 1 2 1 1 2 2

2

12

1 2 2 1

原子内交換相互作用

H= K12-(12) J12(1+4s1s2)

の固有値は=K12ndashJ12 (s1とs2が同符号のとき)= K12 ( s1とs2が異符号のとき)

Hと平均のエネルギー(H0=K12-J122)との差ndash2J12s1s2のことを原子内交換エネルギーという

K12

K12-J12

原子間交換相互作用

本来磁気秩序を考えるには物質系全体のスピンを考えねばならないのであるが電子の軌道が原子に局在しているみなして電子のスピンを各原子Iの位置に局在した全スピンSiで代表させて原子1の全スピンS1と原子2の全スピンS2との間に原子間交換相互作用が働くと考えるのがハイゼンベルグ模型であるこのとき交換エネルギーHex は原子内交換相互作用を一般化して見かけの交換積分J12を用いて

Hex =-2J12S1S2

で表されるJが正であれば相互作用は強磁性的負であれば反強磁性的である

交換相互作用

ハイゼンベルグ模型 Hex =-2J12S1S2

Jが正であれば相互作用は強磁性的負であれば反強磁性的

交換積分の起源隣接原子のスピン間の直接交換(direct exchange)

酸素などのアニオンのp電子軌道との混成を通してスピン同士がそろえあう超交換(superexchange)

伝導電子との相互作用を通じてそろえあう間接交換(indirect exchange)

電子の移動と磁性とが強く結びついている二重交換相互作用(double exchange)

さまざまな交換相互作用

直接交換

超交換

間接交換(RKKY)

二重交換

超交換相互作用

酸化物磁性体では局在電子系の磁気モーメントの間に働く相互作用は遷移金属の3d電子どうしの重なりで生じるのではなく配位子のp電子が遷移金属イオンの3d軌道に仮想的に遷

移した中間状態を介して相互作用するこれを超交換相互作用と称する主として反強磁性的に働く

酸素イオン

遷移金属イオン

超交換相互作用模式図

90度強磁性

180度反強磁性

(Goodenough)

アニオン

遷移金属イオン

アニオン

遷移金属イオン

(a)

(b)

Fig 9 超交換相互作用の模式図

間接交換(RKKY)相互作用

希土類金属の磁性は4f電子が担うが伝導電子である5d電子が4f電子と原子内交換相互作用することによってスピン偏極を受けこれが隣接の希土類原子のf電子と相互作用するという形の間接的な交換相互作用を行っていると考えられている

これをRKKY (Rudermann Kittel Kasuya Yoshida)相互作用という

伝導電子を介した局在スピン間の磁気的相互作用は距離に対して余弦関数的に振動しその周期は伝導電子のフェルミ波数で決められる

RKKY振動

フリーデル振動

21F

2

F

2

RKKY 29 SS

Rkf

N

NJH e

4

sincos

x

xxxxf

CoCu superlattice

Cu thickness (Aring)

磁気抵

抗比

図15

二重交換相互作用

LaMnO3ではすべてのMn原子は3価なので egバンドには1個の電子が存在しこの電子が隣接Mn原子のeg軌道に移動しようとすると電子相関エネルギーUだけのエネルギーが必要であるため電子移動は起きずモット絶縁体となっている

LaをSrで置き換え4価のMnが生じるとMn4+のeg軌道は空であるから他のMn3+から電子が移ることができ金属的な導電性を生じる

このとき隣接するMn原子の磁気モーメントのなす角とするとeg電子の飛び移りの確率はcos( 2)に比例する=0(スピンが平行)のとき飛び移りが最も起きやすく運動エネルギーの分だけエネルギーが下がるので強磁性となる

二重交換の模式図

Mn3+ Mn4+

3磁気ヒステリシス曲線と磁区

磁気ヒステリシスについて

反磁界と静磁エネルギー

磁気異方性

磁区と磁壁磁壁移動と磁化回転

保磁力

31 磁気ヒステリシス

強磁性体においてはその磁化は印加磁界に比例せずヒステリシスを示す

(高梨初等磁気工学講座テキスト)

OrarrBrarrC初磁化曲線

CrarrD 残留磁化

DrarrE 保磁力

CrarrDrarrErarrFrarrGrarrC

ヒステリシスループ

縦軸磁化

横軸磁界

[参考]

磁化曲線の測定法

磁性体を磁界中に置き磁界を増加していくと磁性体の磁化は増加していき次第に飽和する

磁化曲線は磁力計を使って測定する

VSM試料振動型磁力計試料を01~02mm程度のわずかな振幅で80Hz程度の低周波で振動させ試料の

磁化による磁束の時間変化を電磁石の磁極付近に置かれたサーチコイルに誘起された誘導起電力として検出する誘導起電力は試料の磁化に比例するので磁化を測定することができる

電磁石

磁極付近に置いたサーチコイル

スピーカーと同じ振動機構

[参考]

VSMブロック図

丸善実験物理学講座「磁気測定I」p68より

磁気ヒステリシスと応用

保磁力のちがいで用途が違う

Hc小軟質磁性体

磁気ヘッド変圧器鉄心磁気シールド

Hc中半硬質磁性体

磁気記録媒体

Hc大硬質磁性体

永久磁石このループの面積が磁石に蓄積される磁気エネルギー高周波の場合はヒステリシス損失となる

永久磁石の最大エネルギー積(BH)maxの変遷(httpwwwaacgbhamacukmagnetic_materialshistoryhtm)

BHmax

32 なぜ初磁化状態では磁化がないのか磁区(magnetic domain)

磁化が特定の方向を向くとするとN極からS極に向

かって磁力線が生じますこの磁力線は考えている試料の外を通っているだけでなく磁性体の内部も貫いていますこの磁力線を反磁界といいます反磁界の向きは磁化の向きとは反対向きなので磁化は回転する静磁力を受けて不安定となります

磁化の方向が逆方向の縞状の磁区と呼ばれる領域に分かれるならば反磁界がうち消し合って静磁エネルギーが低下して安定するのです

反磁界(demagnetization field)

磁性体表面の法線方向の磁化成分をMn とすると表面には単位面積あたり = Mnという大きさの磁極(Wbm2)が生じる

磁極からはガウスの定理によって全部で μ0の磁力線がわき出すこのうち反磁界係数Nを使って定義される磁力線NMは内部に向かっており残りは外側に向かっているすなわち磁石の内部ではMの向きとは逆方向の反磁界が存在する

外部では磁束線は磁力線に一致する

(b) 磁力線

M- +

(a)磁化と磁極 反磁界

S N

S N

(c) 磁束線

反磁界係数N (近角強磁性体の物理より)

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0

(i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+ Ny+ Nz=1

が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx= Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx= Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

x

y

z

z

x

y

z

x

y

Nz=1

Nx= 0Ny= 0

Nx= 12

Ny= 12

Nx=13

Ny=13

Nz=13

Nz=0

反磁界補正

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0 (i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+Ny+ Nz=1が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx=Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx=Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

(近角強磁性体の物理より)

反磁界と静磁エネルギー

磁化Mが反磁界HdのもとにおかれるとU=MHdだけポテンシャルエネルギーが高くなる

一様な磁界H中の磁気モーメントMに働くトルクTはT=-MH sin

磁気モーメントのもつポテンシャルEはU=Td= - 0

MH sin d=MH (1-cos) エネルギーの原点はどこにとってもよいのでポテンシャルエネルギーはU=-MHと表される H=-Hdを代入すると反磁界によるポテンシャルの増加はU=MHd

表面磁極の分割による静磁エネルギーの減少

結晶表面をxy面にとる

表面でz=0とする

磁区の磁化方向はplusmnz

磁区のx方向の幅d

磁極の表面密度=Is 2mdltxlt(2m+1)d

=-Is (2m+1)dltxlt2(m+1)d

磁気ポテンシャルをLaplaceの方程式で求め

+ +- -

z

x

y

d

境界条件( z)z=-0=20

境界条件のもとにラプラス方程式を解くと=n An sin n(d)xexp n(d)z

係数Anは次式を満たすように決められる(d) n nAn sin n(d)x =I20 2mdltxlt(2m+1)d

= - I20 (2m+1)dltxlt2(m+1)d

rarrAn=2Isd20n2

(x=0)=(2Isd20) n (1n2)sin n(d)x

単位表面積あたりの静磁エネルギー=(2Is

220) n (1n2)int0d sin n(d)x

=(2Is2d20) n=odd (1n3)=540104Is

2d

磁気異方性

磁性体は半導体と違って形状寸法結晶方位とか磁化の方位などによって物性が大きく変化する

1つの原因は上に述べた反磁界係数で形状磁気異方性と呼ばれます反磁界によるエネルギーの損を最小化することが原因です

このほかの原因として重要なのが結晶磁気異方性です結晶磁気異方性というのは磁界を結晶のどの方位に加えるかで磁化曲線が変化する性質です

電子軌道は結晶軸に結びついているので磁気的性質と電子軌道との結びつき(スピン軌道相互作用)を通じて磁性が結晶軸と結び

つくのです半導体にも詳しい測定をすると異方性を見ることができますこれに比べ一般に半導体の電子軌道は結晶全体に広がっているので平均化されて結晶軸に依存する物性が見えにくいです

結晶磁気異方性

磁化しやすさは結晶の方位に依存する

鉄は立方晶であるが[100]が容易軸[111]は困難軸

x

y

z

[111

]

[100

]

容易軸

困難軸

[110]

円板磁性体の磁区構造

全体が磁区に分かれることにより全体の磁化がなくなっているこれが初磁化状態である

磁区の内部では磁化は任意の方向をランダムに向いている訳ではない

磁化は結晶の方位と無関係な方向を向くことはできない磁性体には磁気異方性という性質があり磁化が特定の結晶軸方位(たとえばFeでは[001]方向および等価な方向)を向く性質がある

[001]容易軸では図のように(001)面内では[100][010][-100][0-10]の4つの方向を向くので90磁壁になる

[111]容易軸では

(a) (b)

(近角強磁性体の物理)

33 ヒステリシスを磁区で説明する

残留磁化状態 逆磁区の発生と成長

磁気飽和

核発生

34 さまざまな磁区とマイクロマグネティクス

Figは結晶の対称性により磁区が変わる様子の例として縞状磁区(stripe domain)と環流磁区(closure domain)を示している磁性体を微細化して直径1μm付近になるとスピンは面内に分布してvortex状態となり中心部に垂直方向のスピン成分をもつようになるさらに微細化すると単磁区になる

微小磁区のMFM観察

磁区の観察にはビッター法といって磁性微粒子を含むコロイドを磁性体上に滴下して光学顕微鏡で観察する方法が古くから使われているこのほか磁気光学顕微鏡ローレンツ電子顕微鏡磁気力顕微鏡走査型ホール顕微鏡走査型SQUID顕微鏡スピン偏極電子顕微鏡X線MCD顕微鏡などで観察することが可能であるFig 22にはいくつかの例について筆者のMFM観察結果を示す

10 nmtimes10 nmtimes10 nmMesh size

1Number of dot

200 nmtimes200 nmtimes100nm

Dot Size

Y directionEasy axis

02Damping constant(α)

-176times107 rad(sOe)Gyro magnetic constant(γ)

1000 ergcm3Anisotropic constant (Ku)

1times10-6 ergcm3Exchange field (A)

800 emucm3Saturation magnetization (Ms)

Hy = 10 kOe rarr 0 Oe

divM divMy

LLG 方程式を用いた

マイクロ磁気解析

Dot model

200 x 200thickness50 nm

Magnetic moment - dv M Force gradient

200 x 200thickness100 nm

90 degree walls propeller-like distortion

Calculation of a single dot

Spin structure

-divM

Isolated square dot

Force gradient image Spin distribution image

Four-dot system

Shift of the center occurs Reversal of chirality

MFM imagewith low-moment tip

(CoPtCr240Å in HV)

Spin distribution imagewith the force-gradientimage overlapped

Inversion of chirality

Comparison between MFM andsimulation of spin distribution

Simulation was carried outin the model structureconsisting of four squaredots with a dimension of200 nmtimes200 nmtimes20 nmwith 50nm separationbetween dots

The calculated spinstructure shows a closuredomain structure with the90-wall appears

The chirality of the spindirection in adjacent dots isopposite to each other asshown by white arrows

The Z-component force-gradient image taking intoaccount the tip-sampleinteraction is overlapped

Calculated magnetization configurationof Y-shaped permalloy dot

Calculation parametersWidth 300 nmThickness 100 nmEasy axis 0 ergcm3

x

y

z

Force gradient-divM

Force gradient(Magnified)

Experimental MFM images

bull Single domains appear in two armsbull Multi-domain of 4 chained closer-domains on the restbull Spin-flow at crossing region turns left in two steps

50

0n

m2

m

L

C

R

C

L

R

x

y

z

Calculated magnetization configurationsof Y-shaped permalloy mirror-dots

Calculation parametersWidth 200 nmThickness 40 nmEasy axis X 1000 ergcm3

Force gradient-divM

Single dot

Experimental MFM images

15 m

bull Calculated spin-flows similar to experimental resultbull Vortices with same chirality appear at the ends of all armsbull Chirality of adjacent dot shows a mirror-reflection

Easy axisEasy axis

Easy axis

Easy axis

-divM

4 おわりに

磁性特有のテクニカルタームがあるが慣れればそれほど難しいものではない

大部分の話は量子力学なしでも理解できる電磁気学の知識があればよい

応用につながるのは磁区磁壁の物理である

メゾスコピック系では量子的な現象が現れるこれが得意なスピン依存伝導現象をもたらす

[参考0]半導体磁性体誘電体

半導体と磁性体の対比

半導体 電子物性パラメータは基本的

にバンド構造で決まるキャリア密度は人為的に制御される

量子構造を考えない限り電子を古典粒子として有効質量近似で扱える

応用されるのは電子構造で決まる移動度などのミクロな電子物性である

電子物性が寸法方位形状にほとんど依存しない

単位系はCGSをもとにした実用単位系が使われる

磁性体 金属磁性体の磁性はスピン偏

極バンド構造で決まるが非金属磁性体の磁性は局在多電子系のフント則で決まる

交換相互作用スピン軌道相互作用など量子力学が基本

応用されるのは磁区により生じるヒステリシスに関連したマクロ磁気物性である

磁性は磁気異方性の影響を受け寸法方位形状により大幅に変化する

単位系が複雑でCGSとSIが混在して使われている

磁性体と誘電体の対比

磁性体

磁気モーメントμ(軸性ベクトル)

磁化M

自発磁化Ms

反磁界

磁気ヒステリシス

飽和磁化残留磁化保磁力

磁区(ドメイン)

キュリー温度

誘電体

電気双極子qr(極性ベクトル)

電気分極P

自発分極Ps

反電界

誘電ヒステリシス

飽和分極残留分極抗電界

分域(ドメイン)

キュリー温度

[参考1]

磁界磁束磁化

磁界(磁場)H磁束密度B磁化M

磁界H中に置かれた磁化Mの磁性体が磁束密

度は真空中の磁束密度に磁化による磁束密度を加えたものであるすなわちB=0H+M

B=0H B=0H+M

M

磁性体があると磁束密度が高くなる

真空中での磁束密度

磁化とは

物質に磁界を加えたとき物質の表面に磁極が生じ一時的に磁石のようになるがそのとき物質が磁化されたという

(b)(a)

(高梨初等磁気工学講座)より

磁化の定義

K番目の原子の1原子あ

たりの磁気モーメントをkとするときその単位体積についての総和k

を磁化Mと定義するM= k

磁気モーメントの単位はWbmであるから磁化の単位はWbm2となる

(高梨初等磁気工学講座)より

常磁性

磁極と磁気モーメント

磁石にはN極とS極がある

磁界中に置かれた磁性体にも磁極が誘起される磁極は必ずNSの対で現れる(単極は見つかっていない)

磁極の大きさをq [Wb]とすると磁界によってNSの対に働くトルクは-qdHsin [Nm]=qdsin [Wbm] H[Am]

必ずNとSが対で現れるならm=qrを磁性を扱う基本単

位と考えることが出来るこれを磁気モーメントという単位は[Wbm]

[参考2]

磁気モーメントの電子的起源

磁気モーメント

一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは

T=qH r sin=mH sin 磁気モーメントのもつポテンシャルEは

E=Td= mH sin d=mH(1-cos)

ポテンシャルの原点はどこにとってもよいから E=-mH mHのときエネルギーは極小になる

mはHに平行になろうとする(高梨初等磁気工学講座)より

r 磁気モーメント

m=qr [Wbm]

-q [Wb]

+q [Wb]

qH

-qH

rsin

単位E[J]=-m[Wbm] H[Am]

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 29: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

25 交換相互作用(exchange interaction)

交換相互作用という言葉はもともとは多電子原子の中で働くクーロン相互作用の算出において電子同士を区別できないことから来るエネルギーの補正項のことで原子内交換相互作用といいます(intra-atomic exchange interaction)

この概念を原子間に拡張したのが原子間交換相互作用(inter-atomic exchangeinteraction)です

ウンチクコーナーイントラ(intra)とインター(inter) イントラは内部のといういみの接頭辞インターは複数のものの

間のという意味の接頭辞ですイントラネットインターネットということばもここから来ています

原子内交換相互作用

原子内交換相互作用は本質的にクーロン相互作用です2つの電子(波動関数を12とする)の間に働くクーロン相互作用のエネルギーHはH= K12-(12) J12(1+4s1s2) で表されます

K12は次式で与えられるクーロン積分です

J12は次式で与えられる交換積分で電子が区別できないことからくる項です

K dr dr r re

rr r12 1 2 1 1 2 2

2

12

1 1 2 2

J dr dr r re

rr r12 1 2 1 1 2 2

2

12

1 2 2 1

原子内交換相互作用

H= K12-(12) J12(1+4s1s2)

の固有値は=K12ndashJ12 (s1とs2が同符号のとき)= K12 ( s1とs2が異符号のとき)

Hと平均のエネルギー(H0=K12-J122)との差ndash2J12s1s2のことを原子内交換エネルギーという

K12

K12-J12

原子間交換相互作用

本来磁気秩序を考えるには物質系全体のスピンを考えねばならないのであるが電子の軌道が原子に局在しているみなして電子のスピンを各原子Iの位置に局在した全スピンSiで代表させて原子1の全スピンS1と原子2の全スピンS2との間に原子間交換相互作用が働くと考えるのがハイゼンベルグ模型であるこのとき交換エネルギーHex は原子内交換相互作用を一般化して見かけの交換積分J12を用いて

Hex =-2J12S1S2

で表されるJが正であれば相互作用は強磁性的負であれば反強磁性的である

交換相互作用

ハイゼンベルグ模型 Hex =-2J12S1S2

Jが正であれば相互作用は強磁性的負であれば反強磁性的

交換積分の起源隣接原子のスピン間の直接交換(direct exchange)

酸素などのアニオンのp電子軌道との混成を通してスピン同士がそろえあう超交換(superexchange)

伝導電子との相互作用を通じてそろえあう間接交換(indirect exchange)

電子の移動と磁性とが強く結びついている二重交換相互作用(double exchange)

さまざまな交換相互作用

直接交換

超交換

間接交換(RKKY)

二重交換

超交換相互作用

酸化物磁性体では局在電子系の磁気モーメントの間に働く相互作用は遷移金属の3d電子どうしの重なりで生じるのではなく配位子のp電子が遷移金属イオンの3d軌道に仮想的に遷

移した中間状態を介して相互作用するこれを超交換相互作用と称する主として反強磁性的に働く

酸素イオン

遷移金属イオン

超交換相互作用模式図

90度強磁性

180度反強磁性

(Goodenough)

アニオン

遷移金属イオン

アニオン

遷移金属イオン

(a)

(b)

Fig 9 超交換相互作用の模式図

間接交換(RKKY)相互作用

希土類金属の磁性は4f電子が担うが伝導電子である5d電子が4f電子と原子内交換相互作用することによってスピン偏極を受けこれが隣接の希土類原子のf電子と相互作用するという形の間接的な交換相互作用を行っていると考えられている

これをRKKY (Rudermann Kittel Kasuya Yoshida)相互作用という

伝導電子を介した局在スピン間の磁気的相互作用は距離に対して余弦関数的に振動しその周期は伝導電子のフェルミ波数で決められる

RKKY振動

フリーデル振動

21F

2

F

2

RKKY 29 SS

Rkf

N

NJH e

4

sincos

x

xxxxf

CoCu superlattice

Cu thickness (Aring)

磁気抵

抗比

図15

二重交換相互作用

LaMnO3ではすべてのMn原子は3価なので egバンドには1個の電子が存在しこの電子が隣接Mn原子のeg軌道に移動しようとすると電子相関エネルギーUだけのエネルギーが必要であるため電子移動は起きずモット絶縁体となっている

LaをSrで置き換え4価のMnが生じるとMn4+のeg軌道は空であるから他のMn3+から電子が移ることができ金属的な導電性を生じる

このとき隣接するMn原子の磁気モーメントのなす角とするとeg電子の飛び移りの確率はcos( 2)に比例する=0(スピンが平行)のとき飛び移りが最も起きやすく運動エネルギーの分だけエネルギーが下がるので強磁性となる

二重交換の模式図

Mn3+ Mn4+

3磁気ヒステリシス曲線と磁区

磁気ヒステリシスについて

反磁界と静磁エネルギー

磁気異方性

磁区と磁壁磁壁移動と磁化回転

保磁力

31 磁気ヒステリシス

強磁性体においてはその磁化は印加磁界に比例せずヒステリシスを示す

(高梨初等磁気工学講座テキスト)

OrarrBrarrC初磁化曲線

CrarrD 残留磁化

DrarrE 保磁力

CrarrDrarrErarrFrarrGrarrC

ヒステリシスループ

縦軸磁化

横軸磁界

[参考]

磁化曲線の測定法

磁性体を磁界中に置き磁界を増加していくと磁性体の磁化は増加していき次第に飽和する

磁化曲線は磁力計を使って測定する

VSM試料振動型磁力計試料を01~02mm程度のわずかな振幅で80Hz程度の低周波で振動させ試料の

磁化による磁束の時間変化を電磁石の磁極付近に置かれたサーチコイルに誘起された誘導起電力として検出する誘導起電力は試料の磁化に比例するので磁化を測定することができる

電磁石

磁極付近に置いたサーチコイル

スピーカーと同じ振動機構

[参考]

VSMブロック図

丸善実験物理学講座「磁気測定I」p68より

磁気ヒステリシスと応用

保磁力のちがいで用途が違う

Hc小軟質磁性体

磁気ヘッド変圧器鉄心磁気シールド

Hc中半硬質磁性体

磁気記録媒体

Hc大硬質磁性体

永久磁石このループの面積が磁石に蓄積される磁気エネルギー高周波の場合はヒステリシス損失となる

永久磁石の最大エネルギー積(BH)maxの変遷(httpwwwaacgbhamacukmagnetic_materialshistoryhtm)

BHmax

32 なぜ初磁化状態では磁化がないのか磁区(magnetic domain)

磁化が特定の方向を向くとするとN極からS極に向

かって磁力線が生じますこの磁力線は考えている試料の外を通っているだけでなく磁性体の内部も貫いていますこの磁力線を反磁界といいます反磁界の向きは磁化の向きとは反対向きなので磁化は回転する静磁力を受けて不安定となります

磁化の方向が逆方向の縞状の磁区と呼ばれる領域に分かれるならば反磁界がうち消し合って静磁エネルギーが低下して安定するのです

反磁界(demagnetization field)

磁性体表面の法線方向の磁化成分をMn とすると表面には単位面積あたり = Mnという大きさの磁極(Wbm2)が生じる

磁極からはガウスの定理によって全部で μ0の磁力線がわき出すこのうち反磁界係数Nを使って定義される磁力線NMは内部に向かっており残りは外側に向かっているすなわち磁石の内部ではMの向きとは逆方向の反磁界が存在する

外部では磁束線は磁力線に一致する

(b) 磁力線

M- +

(a)磁化と磁極 反磁界

S N

S N

(c) 磁束線

反磁界係数N (近角強磁性体の物理より)

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0

(i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+ Ny+ Nz=1

が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx= Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx= Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

x

y

z

z

x

y

z

x

y

Nz=1

Nx= 0Ny= 0

Nx= 12

Ny= 12

Nx=13

Ny=13

Nz=13

Nz=0

反磁界補正

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0 (i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+Ny+ Nz=1が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx=Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx=Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

(近角強磁性体の物理より)

反磁界と静磁エネルギー

磁化Mが反磁界HdのもとにおかれるとU=MHdだけポテンシャルエネルギーが高くなる

一様な磁界H中の磁気モーメントMに働くトルクTはT=-MH sin

磁気モーメントのもつポテンシャルEはU=Td= - 0

MH sin d=MH (1-cos) エネルギーの原点はどこにとってもよいのでポテンシャルエネルギーはU=-MHと表される H=-Hdを代入すると反磁界によるポテンシャルの増加はU=MHd

表面磁極の分割による静磁エネルギーの減少

結晶表面をxy面にとる

表面でz=0とする

磁区の磁化方向はplusmnz

磁区のx方向の幅d

磁極の表面密度=Is 2mdltxlt(2m+1)d

=-Is (2m+1)dltxlt2(m+1)d

磁気ポテンシャルをLaplaceの方程式で求め

+ +- -

z

x

y

d

境界条件( z)z=-0=20

境界条件のもとにラプラス方程式を解くと=n An sin n(d)xexp n(d)z

係数Anは次式を満たすように決められる(d) n nAn sin n(d)x =I20 2mdltxlt(2m+1)d

= - I20 (2m+1)dltxlt2(m+1)d

rarrAn=2Isd20n2

(x=0)=(2Isd20) n (1n2)sin n(d)x

単位表面積あたりの静磁エネルギー=(2Is

220) n (1n2)int0d sin n(d)x

=(2Is2d20) n=odd (1n3)=540104Is

2d

磁気異方性

磁性体は半導体と違って形状寸法結晶方位とか磁化の方位などによって物性が大きく変化する

1つの原因は上に述べた反磁界係数で形状磁気異方性と呼ばれます反磁界によるエネルギーの損を最小化することが原因です

このほかの原因として重要なのが結晶磁気異方性です結晶磁気異方性というのは磁界を結晶のどの方位に加えるかで磁化曲線が変化する性質です

電子軌道は結晶軸に結びついているので磁気的性質と電子軌道との結びつき(スピン軌道相互作用)を通じて磁性が結晶軸と結び

つくのです半導体にも詳しい測定をすると異方性を見ることができますこれに比べ一般に半導体の電子軌道は結晶全体に広がっているので平均化されて結晶軸に依存する物性が見えにくいです

結晶磁気異方性

磁化しやすさは結晶の方位に依存する

鉄は立方晶であるが[100]が容易軸[111]は困難軸

x

y

z

[111

]

[100

]

容易軸

困難軸

[110]

円板磁性体の磁区構造

全体が磁区に分かれることにより全体の磁化がなくなっているこれが初磁化状態である

磁区の内部では磁化は任意の方向をランダムに向いている訳ではない

磁化は結晶の方位と無関係な方向を向くことはできない磁性体には磁気異方性という性質があり磁化が特定の結晶軸方位(たとえばFeでは[001]方向および等価な方向)を向く性質がある

[001]容易軸では図のように(001)面内では[100][010][-100][0-10]の4つの方向を向くので90磁壁になる

[111]容易軸では

(a) (b)

(近角強磁性体の物理)

33 ヒステリシスを磁区で説明する

残留磁化状態 逆磁区の発生と成長

磁気飽和

核発生

34 さまざまな磁区とマイクロマグネティクス

Figは結晶の対称性により磁区が変わる様子の例として縞状磁区(stripe domain)と環流磁区(closure domain)を示している磁性体を微細化して直径1μm付近になるとスピンは面内に分布してvortex状態となり中心部に垂直方向のスピン成分をもつようになるさらに微細化すると単磁区になる

微小磁区のMFM観察

磁区の観察にはビッター法といって磁性微粒子を含むコロイドを磁性体上に滴下して光学顕微鏡で観察する方法が古くから使われているこのほか磁気光学顕微鏡ローレンツ電子顕微鏡磁気力顕微鏡走査型ホール顕微鏡走査型SQUID顕微鏡スピン偏極電子顕微鏡X線MCD顕微鏡などで観察することが可能であるFig 22にはいくつかの例について筆者のMFM観察結果を示す

10 nmtimes10 nmtimes10 nmMesh size

1Number of dot

200 nmtimes200 nmtimes100nm

Dot Size

Y directionEasy axis

02Damping constant(α)

-176times107 rad(sOe)Gyro magnetic constant(γ)

1000 ergcm3Anisotropic constant (Ku)

1times10-6 ergcm3Exchange field (A)

800 emucm3Saturation magnetization (Ms)

Hy = 10 kOe rarr 0 Oe

divM divMy

LLG 方程式を用いた

マイクロ磁気解析

Dot model

200 x 200thickness50 nm

Magnetic moment - dv M Force gradient

200 x 200thickness100 nm

90 degree walls propeller-like distortion

Calculation of a single dot

Spin structure

-divM

Isolated square dot

Force gradient image Spin distribution image

Four-dot system

Shift of the center occurs Reversal of chirality

MFM imagewith low-moment tip

(CoPtCr240Å in HV)

Spin distribution imagewith the force-gradientimage overlapped

Inversion of chirality

Comparison between MFM andsimulation of spin distribution

Simulation was carried outin the model structureconsisting of four squaredots with a dimension of200 nmtimes200 nmtimes20 nmwith 50nm separationbetween dots

The calculated spinstructure shows a closuredomain structure with the90-wall appears

The chirality of the spindirection in adjacent dots isopposite to each other asshown by white arrows

The Z-component force-gradient image taking intoaccount the tip-sampleinteraction is overlapped

Calculated magnetization configurationof Y-shaped permalloy dot

Calculation parametersWidth 300 nmThickness 100 nmEasy axis 0 ergcm3

x

y

z

Force gradient-divM

Force gradient(Magnified)

Experimental MFM images

bull Single domains appear in two armsbull Multi-domain of 4 chained closer-domains on the restbull Spin-flow at crossing region turns left in two steps

50

0n

m2

m

L

C

R

C

L

R

x

y

z

Calculated magnetization configurationsof Y-shaped permalloy mirror-dots

Calculation parametersWidth 200 nmThickness 40 nmEasy axis X 1000 ergcm3

Force gradient-divM

Single dot

Experimental MFM images

15 m

bull Calculated spin-flows similar to experimental resultbull Vortices with same chirality appear at the ends of all armsbull Chirality of adjacent dot shows a mirror-reflection

Easy axisEasy axis

Easy axis

Easy axis

-divM

4 おわりに

磁性特有のテクニカルタームがあるが慣れればそれほど難しいものではない

大部分の話は量子力学なしでも理解できる電磁気学の知識があればよい

応用につながるのは磁区磁壁の物理である

メゾスコピック系では量子的な現象が現れるこれが得意なスピン依存伝導現象をもたらす

[参考0]半導体磁性体誘電体

半導体と磁性体の対比

半導体 電子物性パラメータは基本的

にバンド構造で決まるキャリア密度は人為的に制御される

量子構造を考えない限り電子を古典粒子として有効質量近似で扱える

応用されるのは電子構造で決まる移動度などのミクロな電子物性である

電子物性が寸法方位形状にほとんど依存しない

単位系はCGSをもとにした実用単位系が使われる

磁性体 金属磁性体の磁性はスピン偏

極バンド構造で決まるが非金属磁性体の磁性は局在多電子系のフント則で決まる

交換相互作用スピン軌道相互作用など量子力学が基本

応用されるのは磁区により生じるヒステリシスに関連したマクロ磁気物性である

磁性は磁気異方性の影響を受け寸法方位形状により大幅に変化する

単位系が複雑でCGSとSIが混在して使われている

磁性体と誘電体の対比

磁性体

磁気モーメントμ(軸性ベクトル)

磁化M

自発磁化Ms

反磁界

磁気ヒステリシス

飽和磁化残留磁化保磁力

磁区(ドメイン)

キュリー温度

誘電体

電気双極子qr(極性ベクトル)

電気分極P

自発分極Ps

反電界

誘電ヒステリシス

飽和分極残留分極抗電界

分域(ドメイン)

キュリー温度

[参考1]

磁界磁束磁化

磁界(磁場)H磁束密度B磁化M

磁界H中に置かれた磁化Mの磁性体が磁束密

度は真空中の磁束密度に磁化による磁束密度を加えたものであるすなわちB=0H+M

B=0H B=0H+M

M

磁性体があると磁束密度が高くなる

真空中での磁束密度

磁化とは

物質に磁界を加えたとき物質の表面に磁極が生じ一時的に磁石のようになるがそのとき物質が磁化されたという

(b)(a)

(高梨初等磁気工学講座)より

磁化の定義

K番目の原子の1原子あ

たりの磁気モーメントをkとするときその単位体積についての総和k

を磁化Mと定義するM= k

磁気モーメントの単位はWbmであるから磁化の単位はWbm2となる

(高梨初等磁気工学講座)より

常磁性

磁極と磁気モーメント

磁石にはN極とS極がある

磁界中に置かれた磁性体にも磁極が誘起される磁極は必ずNSの対で現れる(単極は見つかっていない)

磁極の大きさをq [Wb]とすると磁界によってNSの対に働くトルクは-qdHsin [Nm]=qdsin [Wbm] H[Am]

必ずNとSが対で現れるならm=qrを磁性を扱う基本単

位と考えることが出来るこれを磁気モーメントという単位は[Wbm]

[参考2]

磁気モーメントの電子的起源

磁気モーメント

一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは

T=qH r sin=mH sin 磁気モーメントのもつポテンシャルEは

E=Td= mH sin d=mH(1-cos)

ポテンシャルの原点はどこにとってもよいから E=-mH mHのときエネルギーは極小になる

mはHに平行になろうとする(高梨初等磁気工学講座)より

r 磁気モーメント

m=qr [Wbm]

-q [Wb]

+q [Wb]

qH

-qH

rsin

単位E[J]=-m[Wbm] H[Am]

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 30: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

原子内交換相互作用

原子内交換相互作用は本質的にクーロン相互作用です2つの電子(波動関数を12とする)の間に働くクーロン相互作用のエネルギーHはH= K12-(12) J12(1+4s1s2) で表されます

K12は次式で与えられるクーロン積分です

J12は次式で与えられる交換積分で電子が区別できないことからくる項です

K dr dr r re

rr r12 1 2 1 1 2 2

2

12

1 1 2 2

J dr dr r re

rr r12 1 2 1 1 2 2

2

12

1 2 2 1

原子内交換相互作用

H= K12-(12) J12(1+4s1s2)

の固有値は=K12ndashJ12 (s1とs2が同符号のとき)= K12 ( s1とs2が異符号のとき)

Hと平均のエネルギー(H0=K12-J122)との差ndash2J12s1s2のことを原子内交換エネルギーという

K12

K12-J12

原子間交換相互作用

本来磁気秩序を考えるには物質系全体のスピンを考えねばならないのであるが電子の軌道が原子に局在しているみなして電子のスピンを各原子Iの位置に局在した全スピンSiで代表させて原子1の全スピンS1と原子2の全スピンS2との間に原子間交換相互作用が働くと考えるのがハイゼンベルグ模型であるこのとき交換エネルギーHex は原子内交換相互作用を一般化して見かけの交換積分J12を用いて

Hex =-2J12S1S2

で表されるJが正であれば相互作用は強磁性的負であれば反強磁性的である

交換相互作用

ハイゼンベルグ模型 Hex =-2J12S1S2

Jが正であれば相互作用は強磁性的負であれば反強磁性的

交換積分の起源隣接原子のスピン間の直接交換(direct exchange)

酸素などのアニオンのp電子軌道との混成を通してスピン同士がそろえあう超交換(superexchange)

伝導電子との相互作用を通じてそろえあう間接交換(indirect exchange)

電子の移動と磁性とが強く結びついている二重交換相互作用(double exchange)

さまざまな交換相互作用

直接交換

超交換

間接交換(RKKY)

二重交換

超交換相互作用

酸化物磁性体では局在電子系の磁気モーメントの間に働く相互作用は遷移金属の3d電子どうしの重なりで生じるのではなく配位子のp電子が遷移金属イオンの3d軌道に仮想的に遷

移した中間状態を介して相互作用するこれを超交換相互作用と称する主として反強磁性的に働く

酸素イオン

遷移金属イオン

超交換相互作用模式図

90度強磁性

180度反強磁性

(Goodenough)

アニオン

遷移金属イオン

アニオン

遷移金属イオン

(a)

(b)

Fig 9 超交換相互作用の模式図

間接交換(RKKY)相互作用

希土類金属の磁性は4f電子が担うが伝導電子である5d電子が4f電子と原子内交換相互作用することによってスピン偏極を受けこれが隣接の希土類原子のf電子と相互作用するという形の間接的な交換相互作用を行っていると考えられている

これをRKKY (Rudermann Kittel Kasuya Yoshida)相互作用という

伝導電子を介した局在スピン間の磁気的相互作用は距離に対して余弦関数的に振動しその周期は伝導電子のフェルミ波数で決められる

RKKY振動

フリーデル振動

21F

2

F

2

RKKY 29 SS

Rkf

N

NJH e

4

sincos

x

xxxxf

CoCu superlattice

Cu thickness (Aring)

磁気抵

抗比

図15

二重交換相互作用

LaMnO3ではすべてのMn原子は3価なので egバンドには1個の電子が存在しこの電子が隣接Mn原子のeg軌道に移動しようとすると電子相関エネルギーUだけのエネルギーが必要であるため電子移動は起きずモット絶縁体となっている

LaをSrで置き換え4価のMnが生じるとMn4+のeg軌道は空であるから他のMn3+から電子が移ることができ金属的な導電性を生じる

このとき隣接するMn原子の磁気モーメントのなす角とするとeg電子の飛び移りの確率はcos( 2)に比例する=0(スピンが平行)のとき飛び移りが最も起きやすく運動エネルギーの分だけエネルギーが下がるので強磁性となる

二重交換の模式図

Mn3+ Mn4+

3磁気ヒステリシス曲線と磁区

磁気ヒステリシスについて

反磁界と静磁エネルギー

磁気異方性

磁区と磁壁磁壁移動と磁化回転

保磁力

31 磁気ヒステリシス

強磁性体においてはその磁化は印加磁界に比例せずヒステリシスを示す

(高梨初等磁気工学講座テキスト)

OrarrBrarrC初磁化曲線

CrarrD 残留磁化

DrarrE 保磁力

CrarrDrarrErarrFrarrGrarrC

ヒステリシスループ

縦軸磁化

横軸磁界

[参考]

磁化曲線の測定法

磁性体を磁界中に置き磁界を増加していくと磁性体の磁化は増加していき次第に飽和する

磁化曲線は磁力計を使って測定する

VSM試料振動型磁力計試料を01~02mm程度のわずかな振幅で80Hz程度の低周波で振動させ試料の

磁化による磁束の時間変化を電磁石の磁極付近に置かれたサーチコイルに誘起された誘導起電力として検出する誘導起電力は試料の磁化に比例するので磁化を測定することができる

電磁石

磁極付近に置いたサーチコイル

スピーカーと同じ振動機構

[参考]

VSMブロック図

丸善実験物理学講座「磁気測定I」p68より

磁気ヒステリシスと応用

保磁力のちがいで用途が違う

Hc小軟質磁性体

磁気ヘッド変圧器鉄心磁気シールド

Hc中半硬質磁性体

磁気記録媒体

Hc大硬質磁性体

永久磁石このループの面積が磁石に蓄積される磁気エネルギー高周波の場合はヒステリシス損失となる

永久磁石の最大エネルギー積(BH)maxの変遷(httpwwwaacgbhamacukmagnetic_materialshistoryhtm)

BHmax

32 なぜ初磁化状態では磁化がないのか磁区(magnetic domain)

磁化が特定の方向を向くとするとN極からS極に向

かって磁力線が生じますこの磁力線は考えている試料の外を通っているだけでなく磁性体の内部も貫いていますこの磁力線を反磁界といいます反磁界の向きは磁化の向きとは反対向きなので磁化は回転する静磁力を受けて不安定となります

磁化の方向が逆方向の縞状の磁区と呼ばれる領域に分かれるならば反磁界がうち消し合って静磁エネルギーが低下して安定するのです

反磁界(demagnetization field)

磁性体表面の法線方向の磁化成分をMn とすると表面には単位面積あたり = Mnという大きさの磁極(Wbm2)が生じる

磁極からはガウスの定理によって全部で μ0の磁力線がわき出すこのうち反磁界係数Nを使って定義される磁力線NMは内部に向かっており残りは外側に向かっているすなわち磁石の内部ではMの向きとは逆方向の反磁界が存在する

外部では磁束線は磁力線に一致する

(b) 磁力線

M- +

(a)磁化と磁極 反磁界

S N

S N

(c) 磁束線

反磁界係数N (近角強磁性体の物理より)

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0

(i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+ Ny+ Nz=1

が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx= Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx= Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

x

y

z

z

x

y

z

x

y

Nz=1

Nx= 0Ny= 0

Nx= 12

Ny= 12

Nx=13

Ny=13

Nz=13

Nz=0

反磁界補正

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0 (i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+Ny+ Nz=1が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx=Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx=Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

(近角強磁性体の物理より)

反磁界と静磁エネルギー

磁化Mが反磁界HdのもとにおかれるとU=MHdだけポテンシャルエネルギーが高くなる

一様な磁界H中の磁気モーメントMに働くトルクTはT=-MH sin

磁気モーメントのもつポテンシャルEはU=Td= - 0

MH sin d=MH (1-cos) エネルギーの原点はどこにとってもよいのでポテンシャルエネルギーはU=-MHと表される H=-Hdを代入すると反磁界によるポテンシャルの増加はU=MHd

表面磁極の分割による静磁エネルギーの減少

結晶表面をxy面にとる

表面でz=0とする

磁区の磁化方向はplusmnz

磁区のx方向の幅d

磁極の表面密度=Is 2mdltxlt(2m+1)d

=-Is (2m+1)dltxlt2(m+1)d

磁気ポテンシャルをLaplaceの方程式で求め

+ +- -

z

x

y

d

境界条件( z)z=-0=20

境界条件のもとにラプラス方程式を解くと=n An sin n(d)xexp n(d)z

係数Anは次式を満たすように決められる(d) n nAn sin n(d)x =I20 2mdltxlt(2m+1)d

= - I20 (2m+1)dltxlt2(m+1)d

rarrAn=2Isd20n2

(x=0)=(2Isd20) n (1n2)sin n(d)x

単位表面積あたりの静磁エネルギー=(2Is

220) n (1n2)int0d sin n(d)x

=(2Is2d20) n=odd (1n3)=540104Is

2d

磁気異方性

磁性体は半導体と違って形状寸法結晶方位とか磁化の方位などによって物性が大きく変化する

1つの原因は上に述べた反磁界係数で形状磁気異方性と呼ばれます反磁界によるエネルギーの損を最小化することが原因です

このほかの原因として重要なのが結晶磁気異方性です結晶磁気異方性というのは磁界を結晶のどの方位に加えるかで磁化曲線が変化する性質です

電子軌道は結晶軸に結びついているので磁気的性質と電子軌道との結びつき(スピン軌道相互作用)を通じて磁性が結晶軸と結び

つくのです半導体にも詳しい測定をすると異方性を見ることができますこれに比べ一般に半導体の電子軌道は結晶全体に広がっているので平均化されて結晶軸に依存する物性が見えにくいです

結晶磁気異方性

磁化しやすさは結晶の方位に依存する

鉄は立方晶であるが[100]が容易軸[111]は困難軸

x

y

z

[111

]

[100

]

容易軸

困難軸

[110]

円板磁性体の磁区構造

全体が磁区に分かれることにより全体の磁化がなくなっているこれが初磁化状態である

磁区の内部では磁化は任意の方向をランダムに向いている訳ではない

磁化は結晶の方位と無関係な方向を向くことはできない磁性体には磁気異方性という性質があり磁化が特定の結晶軸方位(たとえばFeでは[001]方向および等価な方向)を向く性質がある

[001]容易軸では図のように(001)面内では[100][010][-100][0-10]の4つの方向を向くので90磁壁になる

[111]容易軸では

(a) (b)

(近角強磁性体の物理)

33 ヒステリシスを磁区で説明する

残留磁化状態 逆磁区の発生と成長

磁気飽和

核発生

34 さまざまな磁区とマイクロマグネティクス

Figは結晶の対称性により磁区が変わる様子の例として縞状磁区(stripe domain)と環流磁区(closure domain)を示している磁性体を微細化して直径1μm付近になるとスピンは面内に分布してvortex状態となり中心部に垂直方向のスピン成分をもつようになるさらに微細化すると単磁区になる

微小磁区のMFM観察

磁区の観察にはビッター法といって磁性微粒子を含むコロイドを磁性体上に滴下して光学顕微鏡で観察する方法が古くから使われているこのほか磁気光学顕微鏡ローレンツ電子顕微鏡磁気力顕微鏡走査型ホール顕微鏡走査型SQUID顕微鏡スピン偏極電子顕微鏡X線MCD顕微鏡などで観察することが可能であるFig 22にはいくつかの例について筆者のMFM観察結果を示す

10 nmtimes10 nmtimes10 nmMesh size

1Number of dot

200 nmtimes200 nmtimes100nm

Dot Size

Y directionEasy axis

02Damping constant(α)

-176times107 rad(sOe)Gyro magnetic constant(γ)

1000 ergcm3Anisotropic constant (Ku)

1times10-6 ergcm3Exchange field (A)

800 emucm3Saturation magnetization (Ms)

Hy = 10 kOe rarr 0 Oe

divM divMy

LLG 方程式を用いた

マイクロ磁気解析

Dot model

200 x 200thickness50 nm

Magnetic moment - dv M Force gradient

200 x 200thickness100 nm

90 degree walls propeller-like distortion

Calculation of a single dot

Spin structure

-divM

Isolated square dot

Force gradient image Spin distribution image

Four-dot system

Shift of the center occurs Reversal of chirality

MFM imagewith low-moment tip

(CoPtCr240Å in HV)

Spin distribution imagewith the force-gradientimage overlapped

Inversion of chirality

Comparison between MFM andsimulation of spin distribution

Simulation was carried outin the model structureconsisting of four squaredots with a dimension of200 nmtimes200 nmtimes20 nmwith 50nm separationbetween dots

The calculated spinstructure shows a closuredomain structure with the90-wall appears

The chirality of the spindirection in adjacent dots isopposite to each other asshown by white arrows

The Z-component force-gradient image taking intoaccount the tip-sampleinteraction is overlapped

Calculated magnetization configurationof Y-shaped permalloy dot

Calculation parametersWidth 300 nmThickness 100 nmEasy axis 0 ergcm3

x

y

z

Force gradient-divM

Force gradient(Magnified)

Experimental MFM images

bull Single domains appear in two armsbull Multi-domain of 4 chained closer-domains on the restbull Spin-flow at crossing region turns left in two steps

50

0n

m2

m

L

C

R

C

L

R

x

y

z

Calculated magnetization configurationsof Y-shaped permalloy mirror-dots

Calculation parametersWidth 200 nmThickness 40 nmEasy axis X 1000 ergcm3

Force gradient-divM

Single dot

Experimental MFM images

15 m

bull Calculated spin-flows similar to experimental resultbull Vortices with same chirality appear at the ends of all armsbull Chirality of adjacent dot shows a mirror-reflection

Easy axisEasy axis

Easy axis

Easy axis

-divM

4 おわりに

磁性特有のテクニカルタームがあるが慣れればそれほど難しいものではない

大部分の話は量子力学なしでも理解できる電磁気学の知識があればよい

応用につながるのは磁区磁壁の物理である

メゾスコピック系では量子的な現象が現れるこれが得意なスピン依存伝導現象をもたらす

[参考0]半導体磁性体誘電体

半導体と磁性体の対比

半導体 電子物性パラメータは基本的

にバンド構造で決まるキャリア密度は人為的に制御される

量子構造を考えない限り電子を古典粒子として有効質量近似で扱える

応用されるのは電子構造で決まる移動度などのミクロな電子物性である

電子物性が寸法方位形状にほとんど依存しない

単位系はCGSをもとにした実用単位系が使われる

磁性体 金属磁性体の磁性はスピン偏

極バンド構造で決まるが非金属磁性体の磁性は局在多電子系のフント則で決まる

交換相互作用スピン軌道相互作用など量子力学が基本

応用されるのは磁区により生じるヒステリシスに関連したマクロ磁気物性である

磁性は磁気異方性の影響を受け寸法方位形状により大幅に変化する

単位系が複雑でCGSとSIが混在して使われている

磁性体と誘電体の対比

磁性体

磁気モーメントμ(軸性ベクトル)

磁化M

自発磁化Ms

反磁界

磁気ヒステリシス

飽和磁化残留磁化保磁力

磁区(ドメイン)

キュリー温度

誘電体

電気双極子qr(極性ベクトル)

電気分極P

自発分極Ps

反電界

誘電ヒステリシス

飽和分極残留分極抗電界

分域(ドメイン)

キュリー温度

[参考1]

磁界磁束磁化

磁界(磁場)H磁束密度B磁化M

磁界H中に置かれた磁化Mの磁性体が磁束密

度は真空中の磁束密度に磁化による磁束密度を加えたものであるすなわちB=0H+M

B=0H B=0H+M

M

磁性体があると磁束密度が高くなる

真空中での磁束密度

磁化とは

物質に磁界を加えたとき物質の表面に磁極が生じ一時的に磁石のようになるがそのとき物質が磁化されたという

(b)(a)

(高梨初等磁気工学講座)より

磁化の定義

K番目の原子の1原子あ

たりの磁気モーメントをkとするときその単位体積についての総和k

を磁化Mと定義するM= k

磁気モーメントの単位はWbmであるから磁化の単位はWbm2となる

(高梨初等磁気工学講座)より

常磁性

磁極と磁気モーメント

磁石にはN極とS極がある

磁界中に置かれた磁性体にも磁極が誘起される磁極は必ずNSの対で現れる(単極は見つかっていない)

磁極の大きさをq [Wb]とすると磁界によってNSの対に働くトルクは-qdHsin [Nm]=qdsin [Wbm] H[Am]

必ずNとSが対で現れるならm=qrを磁性を扱う基本単

位と考えることが出来るこれを磁気モーメントという単位は[Wbm]

[参考2]

磁気モーメントの電子的起源

磁気モーメント

一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは

T=qH r sin=mH sin 磁気モーメントのもつポテンシャルEは

E=Td= mH sin d=mH(1-cos)

ポテンシャルの原点はどこにとってもよいから E=-mH mHのときエネルギーは極小になる

mはHに平行になろうとする(高梨初等磁気工学講座)より

r 磁気モーメント

m=qr [Wbm]

-q [Wb]

+q [Wb]

qH

-qH

rsin

単位E[J]=-m[Wbm] H[Am]

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 31: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

原子内交換相互作用

H= K12-(12) J12(1+4s1s2)

の固有値は=K12ndashJ12 (s1とs2が同符号のとき)= K12 ( s1とs2が異符号のとき)

Hと平均のエネルギー(H0=K12-J122)との差ndash2J12s1s2のことを原子内交換エネルギーという

K12

K12-J12

原子間交換相互作用

本来磁気秩序を考えるには物質系全体のスピンを考えねばならないのであるが電子の軌道が原子に局在しているみなして電子のスピンを各原子Iの位置に局在した全スピンSiで代表させて原子1の全スピンS1と原子2の全スピンS2との間に原子間交換相互作用が働くと考えるのがハイゼンベルグ模型であるこのとき交換エネルギーHex は原子内交換相互作用を一般化して見かけの交換積分J12を用いて

Hex =-2J12S1S2

で表されるJが正であれば相互作用は強磁性的負であれば反強磁性的である

交換相互作用

ハイゼンベルグ模型 Hex =-2J12S1S2

Jが正であれば相互作用は強磁性的負であれば反強磁性的

交換積分の起源隣接原子のスピン間の直接交換(direct exchange)

酸素などのアニオンのp電子軌道との混成を通してスピン同士がそろえあう超交換(superexchange)

伝導電子との相互作用を通じてそろえあう間接交換(indirect exchange)

電子の移動と磁性とが強く結びついている二重交換相互作用(double exchange)

さまざまな交換相互作用

直接交換

超交換

間接交換(RKKY)

二重交換

超交換相互作用

酸化物磁性体では局在電子系の磁気モーメントの間に働く相互作用は遷移金属の3d電子どうしの重なりで生じるのではなく配位子のp電子が遷移金属イオンの3d軌道に仮想的に遷

移した中間状態を介して相互作用するこれを超交換相互作用と称する主として反強磁性的に働く

酸素イオン

遷移金属イオン

超交換相互作用模式図

90度強磁性

180度反強磁性

(Goodenough)

アニオン

遷移金属イオン

アニオン

遷移金属イオン

(a)

(b)

Fig 9 超交換相互作用の模式図

間接交換(RKKY)相互作用

希土類金属の磁性は4f電子が担うが伝導電子である5d電子が4f電子と原子内交換相互作用することによってスピン偏極を受けこれが隣接の希土類原子のf電子と相互作用するという形の間接的な交換相互作用を行っていると考えられている

これをRKKY (Rudermann Kittel Kasuya Yoshida)相互作用という

伝導電子を介した局在スピン間の磁気的相互作用は距離に対して余弦関数的に振動しその周期は伝導電子のフェルミ波数で決められる

RKKY振動

フリーデル振動

21F

2

F

2

RKKY 29 SS

Rkf

N

NJH e

4

sincos

x

xxxxf

CoCu superlattice

Cu thickness (Aring)

磁気抵

抗比

図15

二重交換相互作用

LaMnO3ではすべてのMn原子は3価なので egバンドには1個の電子が存在しこの電子が隣接Mn原子のeg軌道に移動しようとすると電子相関エネルギーUだけのエネルギーが必要であるため電子移動は起きずモット絶縁体となっている

LaをSrで置き換え4価のMnが生じるとMn4+のeg軌道は空であるから他のMn3+から電子が移ることができ金属的な導電性を生じる

このとき隣接するMn原子の磁気モーメントのなす角とするとeg電子の飛び移りの確率はcos( 2)に比例する=0(スピンが平行)のとき飛び移りが最も起きやすく運動エネルギーの分だけエネルギーが下がるので強磁性となる

二重交換の模式図

Mn3+ Mn4+

3磁気ヒステリシス曲線と磁区

磁気ヒステリシスについて

反磁界と静磁エネルギー

磁気異方性

磁区と磁壁磁壁移動と磁化回転

保磁力

31 磁気ヒステリシス

強磁性体においてはその磁化は印加磁界に比例せずヒステリシスを示す

(高梨初等磁気工学講座テキスト)

OrarrBrarrC初磁化曲線

CrarrD 残留磁化

DrarrE 保磁力

CrarrDrarrErarrFrarrGrarrC

ヒステリシスループ

縦軸磁化

横軸磁界

[参考]

磁化曲線の測定法

磁性体を磁界中に置き磁界を増加していくと磁性体の磁化は増加していき次第に飽和する

磁化曲線は磁力計を使って測定する

VSM試料振動型磁力計試料を01~02mm程度のわずかな振幅で80Hz程度の低周波で振動させ試料の

磁化による磁束の時間変化を電磁石の磁極付近に置かれたサーチコイルに誘起された誘導起電力として検出する誘導起電力は試料の磁化に比例するので磁化を測定することができる

電磁石

磁極付近に置いたサーチコイル

スピーカーと同じ振動機構

[参考]

VSMブロック図

丸善実験物理学講座「磁気測定I」p68より

磁気ヒステリシスと応用

保磁力のちがいで用途が違う

Hc小軟質磁性体

磁気ヘッド変圧器鉄心磁気シールド

Hc中半硬質磁性体

磁気記録媒体

Hc大硬質磁性体

永久磁石このループの面積が磁石に蓄積される磁気エネルギー高周波の場合はヒステリシス損失となる

永久磁石の最大エネルギー積(BH)maxの変遷(httpwwwaacgbhamacukmagnetic_materialshistoryhtm)

BHmax

32 なぜ初磁化状態では磁化がないのか磁区(magnetic domain)

磁化が特定の方向を向くとするとN極からS極に向

かって磁力線が生じますこの磁力線は考えている試料の外を通っているだけでなく磁性体の内部も貫いていますこの磁力線を反磁界といいます反磁界の向きは磁化の向きとは反対向きなので磁化は回転する静磁力を受けて不安定となります

磁化の方向が逆方向の縞状の磁区と呼ばれる領域に分かれるならば反磁界がうち消し合って静磁エネルギーが低下して安定するのです

反磁界(demagnetization field)

磁性体表面の法線方向の磁化成分をMn とすると表面には単位面積あたり = Mnという大きさの磁極(Wbm2)が生じる

磁極からはガウスの定理によって全部で μ0の磁力線がわき出すこのうち反磁界係数Nを使って定義される磁力線NMは内部に向かっており残りは外側に向かっているすなわち磁石の内部ではMの向きとは逆方向の反磁界が存在する

外部では磁束線は磁力線に一致する

(b) 磁力線

M- +

(a)磁化と磁極 反磁界

S N

S N

(c) 磁束線

反磁界係数N (近角強磁性体の物理より)

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0

(i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+ Ny+ Nz=1

が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx= Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx= Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

x

y

z

z

x

y

z

x

y

Nz=1

Nx= 0Ny= 0

Nx= 12

Ny= 12

Nx=13

Ny=13

Nz=13

Nz=0

反磁界補正

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0 (i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+Ny+ Nz=1が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx=Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx=Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

(近角強磁性体の物理より)

反磁界と静磁エネルギー

磁化Mが反磁界HdのもとにおかれるとU=MHdだけポテンシャルエネルギーが高くなる

一様な磁界H中の磁気モーメントMに働くトルクTはT=-MH sin

磁気モーメントのもつポテンシャルEはU=Td= - 0

MH sin d=MH (1-cos) エネルギーの原点はどこにとってもよいのでポテンシャルエネルギーはU=-MHと表される H=-Hdを代入すると反磁界によるポテンシャルの増加はU=MHd

表面磁極の分割による静磁エネルギーの減少

結晶表面をxy面にとる

表面でz=0とする

磁区の磁化方向はplusmnz

磁区のx方向の幅d

磁極の表面密度=Is 2mdltxlt(2m+1)d

=-Is (2m+1)dltxlt2(m+1)d

磁気ポテンシャルをLaplaceの方程式で求め

+ +- -

z

x

y

d

境界条件( z)z=-0=20

境界条件のもとにラプラス方程式を解くと=n An sin n(d)xexp n(d)z

係数Anは次式を満たすように決められる(d) n nAn sin n(d)x =I20 2mdltxlt(2m+1)d

= - I20 (2m+1)dltxlt2(m+1)d

rarrAn=2Isd20n2

(x=0)=(2Isd20) n (1n2)sin n(d)x

単位表面積あたりの静磁エネルギー=(2Is

220) n (1n2)int0d sin n(d)x

=(2Is2d20) n=odd (1n3)=540104Is

2d

磁気異方性

磁性体は半導体と違って形状寸法結晶方位とか磁化の方位などによって物性が大きく変化する

1つの原因は上に述べた反磁界係数で形状磁気異方性と呼ばれます反磁界によるエネルギーの損を最小化することが原因です

このほかの原因として重要なのが結晶磁気異方性です結晶磁気異方性というのは磁界を結晶のどの方位に加えるかで磁化曲線が変化する性質です

電子軌道は結晶軸に結びついているので磁気的性質と電子軌道との結びつき(スピン軌道相互作用)を通じて磁性が結晶軸と結び

つくのです半導体にも詳しい測定をすると異方性を見ることができますこれに比べ一般に半導体の電子軌道は結晶全体に広がっているので平均化されて結晶軸に依存する物性が見えにくいです

結晶磁気異方性

磁化しやすさは結晶の方位に依存する

鉄は立方晶であるが[100]が容易軸[111]は困難軸

x

y

z

[111

]

[100

]

容易軸

困難軸

[110]

円板磁性体の磁区構造

全体が磁区に分かれることにより全体の磁化がなくなっているこれが初磁化状態である

磁区の内部では磁化は任意の方向をランダムに向いている訳ではない

磁化は結晶の方位と無関係な方向を向くことはできない磁性体には磁気異方性という性質があり磁化が特定の結晶軸方位(たとえばFeでは[001]方向および等価な方向)を向く性質がある

[001]容易軸では図のように(001)面内では[100][010][-100][0-10]の4つの方向を向くので90磁壁になる

[111]容易軸では

(a) (b)

(近角強磁性体の物理)

33 ヒステリシスを磁区で説明する

残留磁化状態 逆磁区の発生と成長

磁気飽和

核発生

34 さまざまな磁区とマイクロマグネティクス

Figは結晶の対称性により磁区が変わる様子の例として縞状磁区(stripe domain)と環流磁区(closure domain)を示している磁性体を微細化して直径1μm付近になるとスピンは面内に分布してvortex状態となり中心部に垂直方向のスピン成分をもつようになるさらに微細化すると単磁区になる

微小磁区のMFM観察

磁区の観察にはビッター法といって磁性微粒子を含むコロイドを磁性体上に滴下して光学顕微鏡で観察する方法が古くから使われているこのほか磁気光学顕微鏡ローレンツ電子顕微鏡磁気力顕微鏡走査型ホール顕微鏡走査型SQUID顕微鏡スピン偏極電子顕微鏡X線MCD顕微鏡などで観察することが可能であるFig 22にはいくつかの例について筆者のMFM観察結果を示す

10 nmtimes10 nmtimes10 nmMesh size

1Number of dot

200 nmtimes200 nmtimes100nm

Dot Size

Y directionEasy axis

02Damping constant(α)

-176times107 rad(sOe)Gyro magnetic constant(γ)

1000 ergcm3Anisotropic constant (Ku)

1times10-6 ergcm3Exchange field (A)

800 emucm3Saturation magnetization (Ms)

Hy = 10 kOe rarr 0 Oe

divM divMy

LLG 方程式を用いた

マイクロ磁気解析

Dot model

200 x 200thickness50 nm

Magnetic moment - dv M Force gradient

200 x 200thickness100 nm

90 degree walls propeller-like distortion

Calculation of a single dot

Spin structure

-divM

Isolated square dot

Force gradient image Spin distribution image

Four-dot system

Shift of the center occurs Reversal of chirality

MFM imagewith low-moment tip

(CoPtCr240Å in HV)

Spin distribution imagewith the force-gradientimage overlapped

Inversion of chirality

Comparison between MFM andsimulation of spin distribution

Simulation was carried outin the model structureconsisting of four squaredots with a dimension of200 nmtimes200 nmtimes20 nmwith 50nm separationbetween dots

The calculated spinstructure shows a closuredomain structure with the90-wall appears

The chirality of the spindirection in adjacent dots isopposite to each other asshown by white arrows

The Z-component force-gradient image taking intoaccount the tip-sampleinteraction is overlapped

Calculated magnetization configurationof Y-shaped permalloy dot

Calculation parametersWidth 300 nmThickness 100 nmEasy axis 0 ergcm3

x

y

z

Force gradient-divM

Force gradient(Magnified)

Experimental MFM images

bull Single domains appear in two armsbull Multi-domain of 4 chained closer-domains on the restbull Spin-flow at crossing region turns left in two steps

50

0n

m2

m

L

C

R

C

L

R

x

y

z

Calculated magnetization configurationsof Y-shaped permalloy mirror-dots

Calculation parametersWidth 200 nmThickness 40 nmEasy axis X 1000 ergcm3

Force gradient-divM

Single dot

Experimental MFM images

15 m

bull Calculated spin-flows similar to experimental resultbull Vortices with same chirality appear at the ends of all armsbull Chirality of adjacent dot shows a mirror-reflection

Easy axisEasy axis

Easy axis

Easy axis

-divM

4 おわりに

磁性特有のテクニカルタームがあるが慣れればそれほど難しいものではない

大部分の話は量子力学なしでも理解できる電磁気学の知識があればよい

応用につながるのは磁区磁壁の物理である

メゾスコピック系では量子的な現象が現れるこれが得意なスピン依存伝導現象をもたらす

[参考0]半導体磁性体誘電体

半導体と磁性体の対比

半導体 電子物性パラメータは基本的

にバンド構造で決まるキャリア密度は人為的に制御される

量子構造を考えない限り電子を古典粒子として有効質量近似で扱える

応用されるのは電子構造で決まる移動度などのミクロな電子物性である

電子物性が寸法方位形状にほとんど依存しない

単位系はCGSをもとにした実用単位系が使われる

磁性体 金属磁性体の磁性はスピン偏

極バンド構造で決まるが非金属磁性体の磁性は局在多電子系のフント則で決まる

交換相互作用スピン軌道相互作用など量子力学が基本

応用されるのは磁区により生じるヒステリシスに関連したマクロ磁気物性である

磁性は磁気異方性の影響を受け寸法方位形状により大幅に変化する

単位系が複雑でCGSとSIが混在して使われている

磁性体と誘電体の対比

磁性体

磁気モーメントμ(軸性ベクトル)

磁化M

自発磁化Ms

反磁界

磁気ヒステリシス

飽和磁化残留磁化保磁力

磁区(ドメイン)

キュリー温度

誘電体

電気双極子qr(極性ベクトル)

電気分極P

自発分極Ps

反電界

誘電ヒステリシス

飽和分極残留分極抗電界

分域(ドメイン)

キュリー温度

[参考1]

磁界磁束磁化

磁界(磁場)H磁束密度B磁化M

磁界H中に置かれた磁化Mの磁性体が磁束密

度は真空中の磁束密度に磁化による磁束密度を加えたものであるすなわちB=0H+M

B=0H B=0H+M

M

磁性体があると磁束密度が高くなる

真空中での磁束密度

磁化とは

物質に磁界を加えたとき物質の表面に磁極が生じ一時的に磁石のようになるがそのとき物質が磁化されたという

(b)(a)

(高梨初等磁気工学講座)より

磁化の定義

K番目の原子の1原子あ

たりの磁気モーメントをkとするときその単位体積についての総和k

を磁化Mと定義するM= k

磁気モーメントの単位はWbmであるから磁化の単位はWbm2となる

(高梨初等磁気工学講座)より

常磁性

磁極と磁気モーメント

磁石にはN極とS極がある

磁界中に置かれた磁性体にも磁極が誘起される磁極は必ずNSの対で現れる(単極は見つかっていない)

磁極の大きさをq [Wb]とすると磁界によってNSの対に働くトルクは-qdHsin [Nm]=qdsin [Wbm] H[Am]

必ずNとSが対で現れるならm=qrを磁性を扱う基本単

位と考えることが出来るこれを磁気モーメントという単位は[Wbm]

[参考2]

磁気モーメントの電子的起源

磁気モーメント

一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは

T=qH r sin=mH sin 磁気モーメントのもつポテンシャルEは

E=Td= mH sin d=mH(1-cos)

ポテンシャルの原点はどこにとってもよいから E=-mH mHのときエネルギーは極小になる

mはHに平行になろうとする(高梨初等磁気工学講座)より

r 磁気モーメント

m=qr [Wbm]

-q [Wb]

+q [Wb]

qH

-qH

rsin

単位E[J]=-m[Wbm] H[Am]

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 32: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

原子間交換相互作用

本来磁気秩序を考えるには物質系全体のスピンを考えねばならないのであるが電子の軌道が原子に局在しているみなして電子のスピンを各原子Iの位置に局在した全スピンSiで代表させて原子1の全スピンS1と原子2の全スピンS2との間に原子間交換相互作用が働くと考えるのがハイゼンベルグ模型であるこのとき交換エネルギーHex は原子内交換相互作用を一般化して見かけの交換積分J12を用いて

Hex =-2J12S1S2

で表されるJが正であれば相互作用は強磁性的負であれば反強磁性的である

交換相互作用

ハイゼンベルグ模型 Hex =-2J12S1S2

Jが正であれば相互作用は強磁性的負であれば反強磁性的

交換積分の起源隣接原子のスピン間の直接交換(direct exchange)

酸素などのアニオンのp電子軌道との混成を通してスピン同士がそろえあう超交換(superexchange)

伝導電子との相互作用を通じてそろえあう間接交換(indirect exchange)

電子の移動と磁性とが強く結びついている二重交換相互作用(double exchange)

さまざまな交換相互作用

直接交換

超交換

間接交換(RKKY)

二重交換

超交換相互作用

酸化物磁性体では局在電子系の磁気モーメントの間に働く相互作用は遷移金属の3d電子どうしの重なりで生じるのではなく配位子のp電子が遷移金属イオンの3d軌道に仮想的に遷

移した中間状態を介して相互作用するこれを超交換相互作用と称する主として反強磁性的に働く

酸素イオン

遷移金属イオン

超交換相互作用模式図

90度強磁性

180度反強磁性

(Goodenough)

アニオン

遷移金属イオン

アニオン

遷移金属イオン

(a)

(b)

Fig 9 超交換相互作用の模式図

間接交換(RKKY)相互作用

希土類金属の磁性は4f電子が担うが伝導電子である5d電子が4f電子と原子内交換相互作用することによってスピン偏極を受けこれが隣接の希土類原子のf電子と相互作用するという形の間接的な交換相互作用を行っていると考えられている

これをRKKY (Rudermann Kittel Kasuya Yoshida)相互作用という

伝導電子を介した局在スピン間の磁気的相互作用は距離に対して余弦関数的に振動しその周期は伝導電子のフェルミ波数で決められる

RKKY振動

フリーデル振動

21F

2

F

2

RKKY 29 SS

Rkf

N

NJH e

4

sincos

x

xxxxf

CoCu superlattice

Cu thickness (Aring)

磁気抵

抗比

図15

二重交換相互作用

LaMnO3ではすべてのMn原子は3価なので egバンドには1個の電子が存在しこの電子が隣接Mn原子のeg軌道に移動しようとすると電子相関エネルギーUだけのエネルギーが必要であるため電子移動は起きずモット絶縁体となっている

LaをSrで置き換え4価のMnが生じるとMn4+のeg軌道は空であるから他のMn3+から電子が移ることができ金属的な導電性を生じる

このとき隣接するMn原子の磁気モーメントのなす角とするとeg電子の飛び移りの確率はcos( 2)に比例する=0(スピンが平行)のとき飛び移りが最も起きやすく運動エネルギーの分だけエネルギーが下がるので強磁性となる

二重交換の模式図

Mn3+ Mn4+

3磁気ヒステリシス曲線と磁区

磁気ヒステリシスについて

反磁界と静磁エネルギー

磁気異方性

磁区と磁壁磁壁移動と磁化回転

保磁力

31 磁気ヒステリシス

強磁性体においてはその磁化は印加磁界に比例せずヒステリシスを示す

(高梨初等磁気工学講座テキスト)

OrarrBrarrC初磁化曲線

CrarrD 残留磁化

DrarrE 保磁力

CrarrDrarrErarrFrarrGrarrC

ヒステリシスループ

縦軸磁化

横軸磁界

[参考]

磁化曲線の測定法

磁性体を磁界中に置き磁界を増加していくと磁性体の磁化は増加していき次第に飽和する

磁化曲線は磁力計を使って測定する

VSM試料振動型磁力計試料を01~02mm程度のわずかな振幅で80Hz程度の低周波で振動させ試料の

磁化による磁束の時間変化を電磁石の磁極付近に置かれたサーチコイルに誘起された誘導起電力として検出する誘導起電力は試料の磁化に比例するので磁化を測定することができる

電磁石

磁極付近に置いたサーチコイル

スピーカーと同じ振動機構

[参考]

VSMブロック図

丸善実験物理学講座「磁気測定I」p68より

磁気ヒステリシスと応用

保磁力のちがいで用途が違う

Hc小軟質磁性体

磁気ヘッド変圧器鉄心磁気シールド

Hc中半硬質磁性体

磁気記録媒体

Hc大硬質磁性体

永久磁石このループの面積が磁石に蓄積される磁気エネルギー高周波の場合はヒステリシス損失となる

永久磁石の最大エネルギー積(BH)maxの変遷(httpwwwaacgbhamacukmagnetic_materialshistoryhtm)

BHmax

32 なぜ初磁化状態では磁化がないのか磁区(magnetic domain)

磁化が特定の方向を向くとするとN極からS極に向

かって磁力線が生じますこの磁力線は考えている試料の外を通っているだけでなく磁性体の内部も貫いていますこの磁力線を反磁界といいます反磁界の向きは磁化の向きとは反対向きなので磁化は回転する静磁力を受けて不安定となります

磁化の方向が逆方向の縞状の磁区と呼ばれる領域に分かれるならば反磁界がうち消し合って静磁エネルギーが低下して安定するのです

反磁界(demagnetization field)

磁性体表面の法線方向の磁化成分をMn とすると表面には単位面積あたり = Mnという大きさの磁極(Wbm2)が生じる

磁極からはガウスの定理によって全部で μ0の磁力線がわき出すこのうち反磁界係数Nを使って定義される磁力線NMは内部に向かっており残りは外側に向かっているすなわち磁石の内部ではMの向きとは逆方向の反磁界が存在する

外部では磁束線は磁力線に一致する

(b) 磁力線

M- +

(a)磁化と磁極 反磁界

S N

S N

(c) 磁束線

反磁界係数N (近角強磁性体の物理より)

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0

(i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+ Ny+ Nz=1

が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx= Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx= Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

x

y

z

z

x

y

z

x

y

Nz=1

Nx= 0Ny= 0

Nx= 12

Ny= 12

Nx=13

Ny=13

Nz=13

Nz=0

反磁界補正

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0 (i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+Ny+ Nz=1が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx=Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx=Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

(近角強磁性体の物理より)

反磁界と静磁エネルギー

磁化Mが反磁界HdのもとにおかれるとU=MHdだけポテンシャルエネルギーが高くなる

一様な磁界H中の磁気モーメントMに働くトルクTはT=-MH sin

磁気モーメントのもつポテンシャルEはU=Td= - 0

MH sin d=MH (1-cos) エネルギーの原点はどこにとってもよいのでポテンシャルエネルギーはU=-MHと表される H=-Hdを代入すると反磁界によるポテンシャルの増加はU=MHd

表面磁極の分割による静磁エネルギーの減少

結晶表面をxy面にとる

表面でz=0とする

磁区の磁化方向はplusmnz

磁区のx方向の幅d

磁極の表面密度=Is 2mdltxlt(2m+1)d

=-Is (2m+1)dltxlt2(m+1)d

磁気ポテンシャルをLaplaceの方程式で求め

+ +- -

z

x

y

d

境界条件( z)z=-0=20

境界条件のもとにラプラス方程式を解くと=n An sin n(d)xexp n(d)z

係数Anは次式を満たすように決められる(d) n nAn sin n(d)x =I20 2mdltxlt(2m+1)d

= - I20 (2m+1)dltxlt2(m+1)d

rarrAn=2Isd20n2

(x=0)=(2Isd20) n (1n2)sin n(d)x

単位表面積あたりの静磁エネルギー=(2Is

220) n (1n2)int0d sin n(d)x

=(2Is2d20) n=odd (1n3)=540104Is

2d

磁気異方性

磁性体は半導体と違って形状寸法結晶方位とか磁化の方位などによって物性が大きく変化する

1つの原因は上に述べた反磁界係数で形状磁気異方性と呼ばれます反磁界によるエネルギーの損を最小化することが原因です

このほかの原因として重要なのが結晶磁気異方性です結晶磁気異方性というのは磁界を結晶のどの方位に加えるかで磁化曲線が変化する性質です

電子軌道は結晶軸に結びついているので磁気的性質と電子軌道との結びつき(スピン軌道相互作用)を通じて磁性が結晶軸と結び

つくのです半導体にも詳しい測定をすると異方性を見ることができますこれに比べ一般に半導体の電子軌道は結晶全体に広がっているので平均化されて結晶軸に依存する物性が見えにくいです

結晶磁気異方性

磁化しやすさは結晶の方位に依存する

鉄は立方晶であるが[100]が容易軸[111]は困難軸

x

y

z

[111

]

[100

]

容易軸

困難軸

[110]

円板磁性体の磁区構造

全体が磁区に分かれることにより全体の磁化がなくなっているこれが初磁化状態である

磁区の内部では磁化は任意の方向をランダムに向いている訳ではない

磁化は結晶の方位と無関係な方向を向くことはできない磁性体には磁気異方性という性質があり磁化が特定の結晶軸方位(たとえばFeでは[001]方向および等価な方向)を向く性質がある

[001]容易軸では図のように(001)面内では[100][010][-100][0-10]の4つの方向を向くので90磁壁になる

[111]容易軸では

(a) (b)

(近角強磁性体の物理)

33 ヒステリシスを磁区で説明する

残留磁化状態 逆磁区の発生と成長

磁気飽和

核発生

34 さまざまな磁区とマイクロマグネティクス

Figは結晶の対称性により磁区が変わる様子の例として縞状磁区(stripe domain)と環流磁区(closure domain)を示している磁性体を微細化して直径1μm付近になるとスピンは面内に分布してvortex状態となり中心部に垂直方向のスピン成分をもつようになるさらに微細化すると単磁区になる

微小磁区のMFM観察

磁区の観察にはビッター法といって磁性微粒子を含むコロイドを磁性体上に滴下して光学顕微鏡で観察する方法が古くから使われているこのほか磁気光学顕微鏡ローレンツ電子顕微鏡磁気力顕微鏡走査型ホール顕微鏡走査型SQUID顕微鏡スピン偏極電子顕微鏡X線MCD顕微鏡などで観察することが可能であるFig 22にはいくつかの例について筆者のMFM観察結果を示す

10 nmtimes10 nmtimes10 nmMesh size

1Number of dot

200 nmtimes200 nmtimes100nm

Dot Size

Y directionEasy axis

02Damping constant(α)

-176times107 rad(sOe)Gyro magnetic constant(γ)

1000 ergcm3Anisotropic constant (Ku)

1times10-6 ergcm3Exchange field (A)

800 emucm3Saturation magnetization (Ms)

Hy = 10 kOe rarr 0 Oe

divM divMy

LLG 方程式を用いた

マイクロ磁気解析

Dot model

200 x 200thickness50 nm

Magnetic moment - dv M Force gradient

200 x 200thickness100 nm

90 degree walls propeller-like distortion

Calculation of a single dot

Spin structure

-divM

Isolated square dot

Force gradient image Spin distribution image

Four-dot system

Shift of the center occurs Reversal of chirality

MFM imagewith low-moment tip

(CoPtCr240Å in HV)

Spin distribution imagewith the force-gradientimage overlapped

Inversion of chirality

Comparison between MFM andsimulation of spin distribution

Simulation was carried outin the model structureconsisting of four squaredots with a dimension of200 nmtimes200 nmtimes20 nmwith 50nm separationbetween dots

The calculated spinstructure shows a closuredomain structure with the90-wall appears

The chirality of the spindirection in adjacent dots isopposite to each other asshown by white arrows

The Z-component force-gradient image taking intoaccount the tip-sampleinteraction is overlapped

Calculated magnetization configurationof Y-shaped permalloy dot

Calculation parametersWidth 300 nmThickness 100 nmEasy axis 0 ergcm3

x

y

z

Force gradient-divM

Force gradient(Magnified)

Experimental MFM images

bull Single domains appear in two armsbull Multi-domain of 4 chained closer-domains on the restbull Spin-flow at crossing region turns left in two steps

50

0n

m2

m

L

C

R

C

L

R

x

y

z

Calculated magnetization configurationsof Y-shaped permalloy mirror-dots

Calculation parametersWidth 200 nmThickness 40 nmEasy axis X 1000 ergcm3

Force gradient-divM

Single dot

Experimental MFM images

15 m

bull Calculated spin-flows similar to experimental resultbull Vortices with same chirality appear at the ends of all armsbull Chirality of adjacent dot shows a mirror-reflection

Easy axisEasy axis

Easy axis

Easy axis

-divM

4 おわりに

磁性特有のテクニカルタームがあるが慣れればそれほど難しいものではない

大部分の話は量子力学なしでも理解できる電磁気学の知識があればよい

応用につながるのは磁区磁壁の物理である

メゾスコピック系では量子的な現象が現れるこれが得意なスピン依存伝導現象をもたらす

[参考0]半導体磁性体誘電体

半導体と磁性体の対比

半導体 電子物性パラメータは基本的

にバンド構造で決まるキャリア密度は人為的に制御される

量子構造を考えない限り電子を古典粒子として有効質量近似で扱える

応用されるのは電子構造で決まる移動度などのミクロな電子物性である

電子物性が寸法方位形状にほとんど依存しない

単位系はCGSをもとにした実用単位系が使われる

磁性体 金属磁性体の磁性はスピン偏

極バンド構造で決まるが非金属磁性体の磁性は局在多電子系のフント則で決まる

交換相互作用スピン軌道相互作用など量子力学が基本

応用されるのは磁区により生じるヒステリシスに関連したマクロ磁気物性である

磁性は磁気異方性の影響を受け寸法方位形状により大幅に変化する

単位系が複雑でCGSとSIが混在して使われている

磁性体と誘電体の対比

磁性体

磁気モーメントμ(軸性ベクトル)

磁化M

自発磁化Ms

反磁界

磁気ヒステリシス

飽和磁化残留磁化保磁力

磁区(ドメイン)

キュリー温度

誘電体

電気双極子qr(極性ベクトル)

電気分極P

自発分極Ps

反電界

誘電ヒステリシス

飽和分極残留分極抗電界

分域(ドメイン)

キュリー温度

[参考1]

磁界磁束磁化

磁界(磁場)H磁束密度B磁化M

磁界H中に置かれた磁化Mの磁性体が磁束密

度は真空中の磁束密度に磁化による磁束密度を加えたものであるすなわちB=0H+M

B=0H B=0H+M

M

磁性体があると磁束密度が高くなる

真空中での磁束密度

磁化とは

物質に磁界を加えたとき物質の表面に磁極が生じ一時的に磁石のようになるがそのとき物質が磁化されたという

(b)(a)

(高梨初等磁気工学講座)より

磁化の定義

K番目の原子の1原子あ

たりの磁気モーメントをkとするときその単位体積についての総和k

を磁化Mと定義するM= k

磁気モーメントの単位はWbmであるから磁化の単位はWbm2となる

(高梨初等磁気工学講座)より

常磁性

磁極と磁気モーメント

磁石にはN極とS極がある

磁界中に置かれた磁性体にも磁極が誘起される磁極は必ずNSの対で現れる(単極は見つかっていない)

磁極の大きさをq [Wb]とすると磁界によってNSの対に働くトルクは-qdHsin [Nm]=qdsin [Wbm] H[Am]

必ずNとSが対で現れるならm=qrを磁性を扱う基本単

位と考えることが出来るこれを磁気モーメントという単位は[Wbm]

[参考2]

磁気モーメントの電子的起源

磁気モーメント

一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは

T=qH r sin=mH sin 磁気モーメントのもつポテンシャルEは

E=Td= mH sin d=mH(1-cos)

ポテンシャルの原点はどこにとってもよいから E=-mH mHのときエネルギーは極小になる

mはHに平行になろうとする(高梨初等磁気工学講座)より

r 磁気モーメント

m=qr [Wbm]

-q [Wb]

+q [Wb]

qH

-qH

rsin

単位E[J]=-m[Wbm] H[Am]

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 33: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

交換相互作用

ハイゼンベルグ模型 Hex =-2J12S1S2

Jが正であれば相互作用は強磁性的負であれば反強磁性的

交換積分の起源隣接原子のスピン間の直接交換(direct exchange)

酸素などのアニオンのp電子軌道との混成を通してスピン同士がそろえあう超交換(superexchange)

伝導電子との相互作用を通じてそろえあう間接交換(indirect exchange)

電子の移動と磁性とが強く結びついている二重交換相互作用(double exchange)

さまざまな交換相互作用

直接交換

超交換

間接交換(RKKY)

二重交換

超交換相互作用

酸化物磁性体では局在電子系の磁気モーメントの間に働く相互作用は遷移金属の3d電子どうしの重なりで生じるのではなく配位子のp電子が遷移金属イオンの3d軌道に仮想的に遷

移した中間状態を介して相互作用するこれを超交換相互作用と称する主として反強磁性的に働く

酸素イオン

遷移金属イオン

超交換相互作用模式図

90度強磁性

180度反強磁性

(Goodenough)

アニオン

遷移金属イオン

アニオン

遷移金属イオン

(a)

(b)

Fig 9 超交換相互作用の模式図

間接交換(RKKY)相互作用

希土類金属の磁性は4f電子が担うが伝導電子である5d電子が4f電子と原子内交換相互作用することによってスピン偏極を受けこれが隣接の希土類原子のf電子と相互作用するという形の間接的な交換相互作用を行っていると考えられている

これをRKKY (Rudermann Kittel Kasuya Yoshida)相互作用という

伝導電子を介した局在スピン間の磁気的相互作用は距離に対して余弦関数的に振動しその周期は伝導電子のフェルミ波数で決められる

RKKY振動

フリーデル振動

21F

2

F

2

RKKY 29 SS

Rkf

N

NJH e

4

sincos

x

xxxxf

CoCu superlattice

Cu thickness (Aring)

磁気抵

抗比

図15

二重交換相互作用

LaMnO3ではすべてのMn原子は3価なので egバンドには1個の電子が存在しこの電子が隣接Mn原子のeg軌道に移動しようとすると電子相関エネルギーUだけのエネルギーが必要であるため電子移動は起きずモット絶縁体となっている

LaをSrで置き換え4価のMnが生じるとMn4+のeg軌道は空であるから他のMn3+から電子が移ることができ金属的な導電性を生じる

このとき隣接するMn原子の磁気モーメントのなす角とするとeg電子の飛び移りの確率はcos( 2)に比例する=0(スピンが平行)のとき飛び移りが最も起きやすく運動エネルギーの分だけエネルギーが下がるので強磁性となる

二重交換の模式図

Mn3+ Mn4+

3磁気ヒステリシス曲線と磁区

磁気ヒステリシスについて

反磁界と静磁エネルギー

磁気異方性

磁区と磁壁磁壁移動と磁化回転

保磁力

31 磁気ヒステリシス

強磁性体においてはその磁化は印加磁界に比例せずヒステリシスを示す

(高梨初等磁気工学講座テキスト)

OrarrBrarrC初磁化曲線

CrarrD 残留磁化

DrarrE 保磁力

CrarrDrarrErarrFrarrGrarrC

ヒステリシスループ

縦軸磁化

横軸磁界

[参考]

磁化曲線の測定法

磁性体を磁界中に置き磁界を増加していくと磁性体の磁化は増加していき次第に飽和する

磁化曲線は磁力計を使って測定する

VSM試料振動型磁力計試料を01~02mm程度のわずかな振幅で80Hz程度の低周波で振動させ試料の

磁化による磁束の時間変化を電磁石の磁極付近に置かれたサーチコイルに誘起された誘導起電力として検出する誘導起電力は試料の磁化に比例するので磁化を測定することができる

電磁石

磁極付近に置いたサーチコイル

スピーカーと同じ振動機構

[参考]

VSMブロック図

丸善実験物理学講座「磁気測定I」p68より

磁気ヒステリシスと応用

保磁力のちがいで用途が違う

Hc小軟質磁性体

磁気ヘッド変圧器鉄心磁気シールド

Hc中半硬質磁性体

磁気記録媒体

Hc大硬質磁性体

永久磁石このループの面積が磁石に蓄積される磁気エネルギー高周波の場合はヒステリシス損失となる

永久磁石の最大エネルギー積(BH)maxの変遷(httpwwwaacgbhamacukmagnetic_materialshistoryhtm)

BHmax

32 なぜ初磁化状態では磁化がないのか磁区(magnetic domain)

磁化が特定の方向を向くとするとN極からS極に向

かって磁力線が生じますこの磁力線は考えている試料の外を通っているだけでなく磁性体の内部も貫いていますこの磁力線を反磁界といいます反磁界の向きは磁化の向きとは反対向きなので磁化は回転する静磁力を受けて不安定となります

磁化の方向が逆方向の縞状の磁区と呼ばれる領域に分かれるならば反磁界がうち消し合って静磁エネルギーが低下して安定するのです

反磁界(demagnetization field)

磁性体表面の法線方向の磁化成分をMn とすると表面には単位面積あたり = Mnという大きさの磁極(Wbm2)が生じる

磁極からはガウスの定理によって全部で μ0の磁力線がわき出すこのうち反磁界係数Nを使って定義される磁力線NMは内部に向かっており残りは外側に向かっているすなわち磁石の内部ではMの向きとは逆方向の反磁界が存在する

外部では磁束線は磁力線に一致する

(b) 磁力線

M- +

(a)磁化と磁極 反磁界

S N

S N

(c) 磁束線

反磁界係数N (近角強磁性体の物理より)

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0

(i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+ Ny+ Nz=1

が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx= Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx= Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

x

y

z

z

x

y

z

x

y

Nz=1

Nx= 0Ny= 0

Nx= 12

Ny= 12

Nx=13

Ny=13

Nz=13

Nz=0

反磁界補正

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0 (i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+Ny+ Nz=1が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx=Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx=Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

(近角強磁性体の物理より)

反磁界と静磁エネルギー

磁化Mが反磁界HdのもとにおかれるとU=MHdだけポテンシャルエネルギーが高くなる

一様な磁界H中の磁気モーメントMに働くトルクTはT=-MH sin

磁気モーメントのもつポテンシャルEはU=Td= - 0

MH sin d=MH (1-cos) エネルギーの原点はどこにとってもよいのでポテンシャルエネルギーはU=-MHと表される H=-Hdを代入すると反磁界によるポテンシャルの増加はU=MHd

表面磁極の分割による静磁エネルギーの減少

結晶表面をxy面にとる

表面でz=0とする

磁区の磁化方向はplusmnz

磁区のx方向の幅d

磁極の表面密度=Is 2mdltxlt(2m+1)d

=-Is (2m+1)dltxlt2(m+1)d

磁気ポテンシャルをLaplaceの方程式で求め

+ +- -

z

x

y

d

境界条件( z)z=-0=20

境界条件のもとにラプラス方程式を解くと=n An sin n(d)xexp n(d)z

係数Anは次式を満たすように決められる(d) n nAn sin n(d)x =I20 2mdltxlt(2m+1)d

= - I20 (2m+1)dltxlt2(m+1)d

rarrAn=2Isd20n2

(x=0)=(2Isd20) n (1n2)sin n(d)x

単位表面積あたりの静磁エネルギー=(2Is

220) n (1n2)int0d sin n(d)x

=(2Is2d20) n=odd (1n3)=540104Is

2d

磁気異方性

磁性体は半導体と違って形状寸法結晶方位とか磁化の方位などによって物性が大きく変化する

1つの原因は上に述べた反磁界係数で形状磁気異方性と呼ばれます反磁界によるエネルギーの損を最小化することが原因です

このほかの原因として重要なのが結晶磁気異方性です結晶磁気異方性というのは磁界を結晶のどの方位に加えるかで磁化曲線が変化する性質です

電子軌道は結晶軸に結びついているので磁気的性質と電子軌道との結びつき(スピン軌道相互作用)を通じて磁性が結晶軸と結び

つくのです半導体にも詳しい測定をすると異方性を見ることができますこれに比べ一般に半導体の電子軌道は結晶全体に広がっているので平均化されて結晶軸に依存する物性が見えにくいです

結晶磁気異方性

磁化しやすさは結晶の方位に依存する

鉄は立方晶であるが[100]が容易軸[111]は困難軸

x

y

z

[111

]

[100

]

容易軸

困難軸

[110]

円板磁性体の磁区構造

全体が磁区に分かれることにより全体の磁化がなくなっているこれが初磁化状態である

磁区の内部では磁化は任意の方向をランダムに向いている訳ではない

磁化は結晶の方位と無関係な方向を向くことはできない磁性体には磁気異方性という性質があり磁化が特定の結晶軸方位(たとえばFeでは[001]方向および等価な方向)を向く性質がある

[001]容易軸では図のように(001)面内では[100][010][-100][0-10]の4つの方向を向くので90磁壁になる

[111]容易軸では

(a) (b)

(近角強磁性体の物理)

33 ヒステリシスを磁区で説明する

残留磁化状態 逆磁区の発生と成長

磁気飽和

核発生

34 さまざまな磁区とマイクロマグネティクス

Figは結晶の対称性により磁区が変わる様子の例として縞状磁区(stripe domain)と環流磁区(closure domain)を示している磁性体を微細化して直径1μm付近になるとスピンは面内に分布してvortex状態となり中心部に垂直方向のスピン成分をもつようになるさらに微細化すると単磁区になる

微小磁区のMFM観察

磁区の観察にはビッター法といって磁性微粒子を含むコロイドを磁性体上に滴下して光学顕微鏡で観察する方法が古くから使われているこのほか磁気光学顕微鏡ローレンツ電子顕微鏡磁気力顕微鏡走査型ホール顕微鏡走査型SQUID顕微鏡スピン偏極電子顕微鏡X線MCD顕微鏡などで観察することが可能であるFig 22にはいくつかの例について筆者のMFM観察結果を示す

10 nmtimes10 nmtimes10 nmMesh size

1Number of dot

200 nmtimes200 nmtimes100nm

Dot Size

Y directionEasy axis

02Damping constant(α)

-176times107 rad(sOe)Gyro magnetic constant(γ)

1000 ergcm3Anisotropic constant (Ku)

1times10-6 ergcm3Exchange field (A)

800 emucm3Saturation magnetization (Ms)

Hy = 10 kOe rarr 0 Oe

divM divMy

LLG 方程式を用いた

マイクロ磁気解析

Dot model

200 x 200thickness50 nm

Magnetic moment - dv M Force gradient

200 x 200thickness100 nm

90 degree walls propeller-like distortion

Calculation of a single dot

Spin structure

-divM

Isolated square dot

Force gradient image Spin distribution image

Four-dot system

Shift of the center occurs Reversal of chirality

MFM imagewith low-moment tip

(CoPtCr240Å in HV)

Spin distribution imagewith the force-gradientimage overlapped

Inversion of chirality

Comparison between MFM andsimulation of spin distribution

Simulation was carried outin the model structureconsisting of four squaredots with a dimension of200 nmtimes200 nmtimes20 nmwith 50nm separationbetween dots

The calculated spinstructure shows a closuredomain structure with the90-wall appears

The chirality of the spindirection in adjacent dots isopposite to each other asshown by white arrows

The Z-component force-gradient image taking intoaccount the tip-sampleinteraction is overlapped

Calculated magnetization configurationof Y-shaped permalloy dot

Calculation parametersWidth 300 nmThickness 100 nmEasy axis 0 ergcm3

x

y

z

Force gradient-divM

Force gradient(Magnified)

Experimental MFM images

bull Single domains appear in two armsbull Multi-domain of 4 chained closer-domains on the restbull Spin-flow at crossing region turns left in two steps

50

0n

m2

m

L

C

R

C

L

R

x

y

z

Calculated magnetization configurationsof Y-shaped permalloy mirror-dots

Calculation parametersWidth 200 nmThickness 40 nmEasy axis X 1000 ergcm3

Force gradient-divM

Single dot

Experimental MFM images

15 m

bull Calculated spin-flows similar to experimental resultbull Vortices with same chirality appear at the ends of all armsbull Chirality of adjacent dot shows a mirror-reflection

Easy axisEasy axis

Easy axis

Easy axis

-divM

4 おわりに

磁性特有のテクニカルタームがあるが慣れればそれほど難しいものではない

大部分の話は量子力学なしでも理解できる電磁気学の知識があればよい

応用につながるのは磁区磁壁の物理である

メゾスコピック系では量子的な現象が現れるこれが得意なスピン依存伝導現象をもたらす

[参考0]半導体磁性体誘電体

半導体と磁性体の対比

半導体 電子物性パラメータは基本的

にバンド構造で決まるキャリア密度は人為的に制御される

量子構造を考えない限り電子を古典粒子として有効質量近似で扱える

応用されるのは電子構造で決まる移動度などのミクロな電子物性である

電子物性が寸法方位形状にほとんど依存しない

単位系はCGSをもとにした実用単位系が使われる

磁性体 金属磁性体の磁性はスピン偏

極バンド構造で決まるが非金属磁性体の磁性は局在多電子系のフント則で決まる

交換相互作用スピン軌道相互作用など量子力学が基本

応用されるのは磁区により生じるヒステリシスに関連したマクロ磁気物性である

磁性は磁気異方性の影響を受け寸法方位形状により大幅に変化する

単位系が複雑でCGSとSIが混在して使われている

磁性体と誘電体の対比

磁性体

磁気モーメントμ(軸性ベクトル)

磁化M

自発磁化Ms

反磁界

磁気ヒステリシス

飽和磁化残留磁化保磁力

磁区(ドメイン)

キュリー温度

誘電体

電気双極子qr(極性ベクトル)

電気分極P

自発分極Ps

反電界

誘電ヒステリシス

飽和分極残留分極抗電界

分域(ドメイン)

キュリー温度

[参考1]

磁界磁束磁化

磁界(磁場)H磁束密度B磁化M

磁界H中に置かれた磁化Mの磁性体が磁束密

度は真空中の磁束密度に磁化による磁束密度を加えたものであるすなわちB=0H+M

B=0H B=0H+M

M

磁性体があると磁束密度が高くなる

真空中での磁束密度

磁化とは

物質に磁界を加えたとき物質の表面に磁極が生じ一時的に磁石のようになるがそのとき物質が磁化されたという

(b)(a)

(高梨初等磁気工学講座)より

磁化の定義

K番目の原子の1原子あ

たりの磁気モーメントをkとするときその単位体積についての総和k

を磁化Mと定義するM= k

磁気モーメントの単位はWbmであるから磁化の単位はWbm2となる

(高梨初等磁気工学講座)より

常磁性

磁極と磁気モーメント

磁石にはN極とS極がある

磁界中に置かれた磁性体にも磁極が誘起される磁極は必ずNSの対で現れる(単極は見つかっていない)

磁極の大きさをq [Wb]とすると磁界によってNSの対に働くトルクは-qdHsin [Nm]=qdsin [Wbm] H[Am]

必ずNとSが対で現れるならm=qrを磁性を扱う基本単

位と考えることが出来るこれを磁気モーメントという単位は[Wbm]

[参考2]

磁気モーメントの電子的起源

磁気モーメント

一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは

T=qH r sin=mH sin 磁気モーメントのもつポテンシャルEは

E=Td= mH sin d=mH(1-cos)

ポテンシャルの原点はどこにとってもよいから E=-mH mHのときエネルギーは極小になる

mはHに平行になろうとする(高梨初等磁気工学講座)より

r 磁気モーメント

m=qr [Wbm]

-q [Wb]

+q [Wb]

qH

-qH

rsin

単位E[J]=-m[Wbm] H[Am]

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 34: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

さまざまな交換相互作用

直接交換

超交換

間接交換(RKKY)

二重交換

超交換相互作用

酸化物磁性体では局在電子系の磁気モーメントの間に働く相互作用は遷移金属の3d電子どうしの重なりで生じるのではなく配位子のp電子が遷移金属イオンの3d軌道に仮想的に遷

移した中間状態を介して相互作用するこれを超交換相互作用と称する主として反強磁性的に働く

酸素イオン

遷移金属イオン

超交換相互作用模式図

90度強磁性

180度反強磁性

(Goodenough)

アニオン

遷移金属イオン

アニオン

遷移金属イオン

(a)

(b)

Fig 9 超交換相互作用の模式図

間接交換(RKKY)相互作用

希土類金属の磁性は4f電子が担うが伝導電子である5d電子が4f電子と原子内交換相互作用することによってスピン偏極を受けこれが隣接の希土類原子のf電子と相互作用するという形の間接的な交換相互作用を行っていると考えられている

これをRKKY (Rudermann Kittel Kasuya Yoshida)相互作用という

伝導電子を介した局在スピン間の磁気的相互作用は距離に対して余弦関数的に振動しその周期は伝導電子のフェルミ波数で決められる

RKKY振動

フリーデル振動

21F

2

F

2

RKKY 29 SS

Rkf

N

NJH e

4

sincos

x

xxxxf

CoCu superlattice

Cu thickness (Aring)

磁気抵

抗比

図15

二重交換相互作用

LaMnO3ではすべてのMn原子は3価なので egバンドには1個の電子が存在しこの電子が隣接Mn原子のeg軌道に移動しようとすると電子相関エネルギーUだけのエネルギーが必要であるため電子移動は起きずモット絶縁体となっている

LaをSrで置き換え4価のMnが生じるとMn4+のeg軌道は空であるから他のMn3+から電子が移ることができ金属的な導電性を生じる

このとき隣接するMn原子の磁気モーメントのなす角とするとeg電子の飛び移りの確率はcos( 2)に比例する=0(スピンが平行)のとき飛び移りが最も起きやすく運動エネルギーの分だけエネルギーが下がるので強磁性となる

二重交換の模式図

Mn3+ Mn4+

3磁気ヒステリシス曲線と磁区

磁気ヒステリシスについて

反磁界と静磁エネルギー

磁気異方性

磁区と磁壁磁壁移動と磁化回転

保磁力

31 磁気ヒステリシス

強磁性体においてはその磁化は印加磁界に比例せずヒステリシスを示す

(高梨初等磁気工学講座テキスト)

OrarrBrarrC初磁化曲線

CrarrD 残留磁化

DrarrE 保磁力

CrarrDrarrErarrFrarrGrarrC

ヒステリシスループ

縦軸磁化

横軸磁界

[参考]

磁化曲線の測定法

磁性体を磁界中に置き磁界を増加していくと磁性体の磁化は増加していき次第に飽和する

磁化曲線は磁力計を使って測定する

VSM試料振動型磁力計試料を01~02mm程度のわずかな振幅で80Hz程度の低周波で振動させ試料の

磁化による磁束の時間変化を電磁石の磁極付近に置かれたサーチコイルに誘起された誘導起電力として検出する誘導起電力は試料の磁化に比例するので磁化を測定することができる

電磁石

磁極付近に置いたサーチコイル

スピーカーと同じ振動機構

[参考]

VSMブロック図

丸善実験物理学講座「磁気測定I」p68より

磁気ヒステリシスと応用

保磁力のちがいで用途が違う

Hc小軟質磁性体

磁気ヘッド変圧器鉄心磁気シールド

Hc中半硬質磁性体

磁気記録媒体

Hc大硬質磁性体

永久磁石このループの面積が磁石に蓄積される磁気エネルギー高周波の場合はヒステリシス損失となる

永久磁石の最大エネルギー積(BH)maxの変遷(httpwwwaacgbhamacukmagnetic_materialshistoryhtm)

BHmax

32 なぜ初磁化状態では磁化がないのか磁区(magnetic domain)

磁化が特定の方向を向くとするとN極からS極に向

かって磁力線が生じますこの磁力線は考えている試料の外を通っているだけでなく磁性体の内部も貫いていますこの磁力線を反磁界といいます反磁界の向きは磁化の向きとは反対向きなので磁化は回転する静磁力を受けて不安定となります

磁化の方向が逆方向の縞状の磁区と呼ばれる領域に分かれるならば反磁界がうち消し合って静磁エネルギーが低下して安定するのです

反磁界(demagnetization field)

磁性体表面の法線方向の磁化成分をMn とすると表面には単位面積あたり = Mnという大きさの磁極(Wbm2)が生じる

磁極からはガウスの定理によって全部で μ0の磁力線がわき出すこのうち反磁界係数Nを使って定義される磁力線NMは内部に向かっており残りは外側に向かっているすなわち磁石の内部ではMの向きとは逆方向の反磁界が存在する

外部では磁束線は磁力線に一致する

(b) 磁力線

M- +

(a)磁化と磁極 反磁界

S N

S N

(c) 磁束線

反磁界係数N (近角強磁性体の物理より)

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0

(i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+ Ny+ Nz=1

が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx= Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx= Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

x

y

z

z

x

y

z

x

y

Nz=1

Nx= 0Ny= 0

Nx= 12

Ny= 12

Nx=13

Ny=13

Nz=13

Nz=0

反磁界補正

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0 (i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+Ny+ Nz=1が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx=Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx=Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

(近角強磁性体の物理より)

反磁界と静磁エネルギー

磁化Mが反磁界HdのもとにおかれるとU=MHdだけポテンシャルエネルギーが高くなる

一様な磁界H中の磁気モーメントMに働くトルクTはT=-MH sin

磁気モーメントのもつポテンシャルEはU=Td= - 0

MH sin d=MH (1-cos) エネルギーの原点はどこにとってもよいのでポテンシャルエネルギーはU=-MHと表される H=-Hdを代入すると反磁界によるポテンシャルの増加はU=MHd

表面磁極の分割による静磁エネルギーの減少

結晶表面をxy面にとる

表面でz=0とする

磁区の磁化方向はplusmnz

磁区のx方向の幅d

磁極の表面密度=Is 2mdltxlt(2m+1)d

=-Is (2m+1)dltxlt2(m+1)d

磁気ポテンシャルをLaplaceの方程式で求め

+ +- -

z

x

y

d

境界条件( z)z=-0=20

境界条件のもとにラプラス方程式を解くと=n An sin n(d)xexp n(d)z

係数Anは次式を満たすように決められる(d) n nAn sin n(d)x =I20 2mdltxlt(2m+1)d

= - I20 (2m+1)dltxlt2(m+1)d

rarrAn=2Isd20n2

(x=0)=(2Isd20) n (1n2)sin n(d)x

単位表面積あたりの静磁エネルギー=(2Is

220) n (1n2)int0d sin n(d)x

=(2Is2d20) n=odd (1n3)=540104Is

2d

磁気異方性

磁性体は半導体と違って形状寸法結晶方位とか磁化の方位などによって物性が大きく変化する

1つの原因は上に述べた反磁界係数で形状磁気異方性と呼ばれます反磁界によるエネルギーの損を最小化することが原因です

このほかの原因として重要なのが結晶磁気異方性です結晶磁気異方性というのは磁界を結晶のどの方位に加えるかで磁化曲線が変化する性質です

電子軌道は結晶軸に結びついているので磁気的性質と電子軌道との結びつき(スピン軌道相互作用)を通じて磁性が結晶軸と結び

つくのです半導体にも詳しい測定をすると異方性を見ることができますこれに比べ一般に半導体の電子軌道は結晶全体に広がっているので平均化されて結晶軸に依存する物性が見えにくいです

結晶磁気異方性

磁化しやすさは結晶の方位に依存する

鉄は立方晶であるが[100]が容易軸[111]は困難軸

x

y

z

[111

]

[100

]

容易軸

困難軸

[110]

円板磁性体の磁区構造

全体が磁区に分かれることにより全体の磁化がなくなっているこれが初磁化状態である

磁区の内部では磁化は任意の方向をランダムに向いている訳ではない

磁化は結晶の方位と無関係な方向を向くことはできない磁性体には磁気異方性という性質があり磁化が特定の結晶軸方位(たとえばFeでは[001]方向および等価な方向)を向く性質がある

[001]容易軸では図のように(001)面内では[100][010][-100][0-10]の4つの方向を向くので90磁壁になる

[111]容易軸では

(a) (b)

(近角強磁性体の物理)

33 ヒステリシスを磁区で説明する

残留磁化状態 逆磁区の発生と成長

磁気飽和

核発生

34 さまざまな磁区とマイクロマグネティクス

Figは結晶の対称性により磁区が変わる様子の例として縞状磁区(stripe domain)と環流磁区(closure domain)を示している磁性体を微細化して直径1μm付近になるとスピンは面内に分布してvortex状態となり中心部に垂直方向のスピン成分をもつようになるさらに微細化すると単磁区になる

微小磁区のMFM観察

磁区の観察にはビッター法といって磁性微粒子を含むコロイドを磁性体上に滴下して光学顕微鏡で観察する方法が古くから使われているこのほか磁気光学顕微鏡ローレンツ電子顕微鏡磁気力顕微鏡走査型ホール顕微鏡走査型SQUID顕微鏡スピン偏極電子顕微鏡X線MCD顕微鏡などで観察することが可能であるFig 22にはいくつかの例について筆者のMFM観察結果を示す

10 nmtimes10 nmtimes10 nmMesh size

1Number of dot

200 nmtimes200 nmtimes100nm

Dot Size

Y directionEasy axis

02Damping constant(α)

-176times107 rad(sOe)Gyro magnetic constant(γ)

1000 ergcm3Anisotropic constant (Ku)

1times10-6 ergcm3Exchange field (A)

800 emucm3Saturation magnetization (Ms)

Hy = 10 kOe rarr 0 Oe

divM divMy

LLG 方程式を用いた

マイクロ磁気解析

Dot model

200 x 200thickness50 nm

Magnetic moment - dv M Force gradient

200 x 200thickness100 nm

90 degree walls propeller-like distortion

Calculation of a single dot

Spin structure

-divM

Isolated square dot

Force gradient image Spin distribution image

Four-dot system

Shift of the center occurs Reversal of chirality

MFM imagewith low-moment tip

(CoPtCr240Å in HV)

Spin distribution imagewith the force-gradientimage overlapped

Inversion of chirality

Comparison between MFM andsimulation of spin distribution

Simulation was carried outin the model structureconsisting of four squaredots with a dimension of200 nmtimes200 nmtimes20 nmwith 50nm separationbetween dots

The calculated spinstructure shows a closuredomain structure with the90-wall appears

The chirality of the spindirection in adjacent dots isopposite to each other asshown by white arrows

The Z-component force-gradient image taking intoaccount the tip-sampleinteraction is overlapped

Calculated magnetization configurationof Y-shaped permalloy dot

Calculation parametersWidth 300 nmThickness 100 nmEasy axis 0 ergcm3

x

y

z

Force gradient-divM

Force gradient(Magnified)

Experimental MFM images

bull Single domains appear in two armsbull Multi-domain of 4 chained closer-domains on the restbull Spin-flow at crossing region turns left in two steps

50

0n

m2

m

L

C

R

C

L

R

x

y

z

Calculated magnetization configurationsof Y-shaped permalloy mirror-dots

Calculation parametersWidth 200 nmThickness 40 nmEasy axis X 1000 ergcm3

Force gradient-divM

Single dot

Experimental MFM images

15 m

bull Calculated spin-flows similar to experimental resultbull Vortices with same chirality appear at the ends of all armsbull Chirality of adjacent dot shows a mirror-reflection

Easy axisEasy axis

Easy axis

Easy axis

-divM

4 おわりに

磁性特有のテクニカルタームがあるが慣れればそれほど難しいものではない

大部分の話は量子力学なしでも理解できる電磁気学の知識があればよい

応用につながるのは磁区磁壁の物理である

メゾスコピック系では量子的な現象が現れるこれが得意なスピン依存伝導現象をもたらす

[参考0]半導体磁性体誘電体

半導体と磁性体の対比

半導体 電子物性パラメータは基本的

にバンド構造で決まるキャリア密度は人為的に制御される

量子構造を考えない限り電子を古典粒子として有効質量近似で扱える

応用されるのは電子構造で決まる移動度などのミクロな電子物性である

電子物性が寸法方位形状にほとんど依存しない

単位系はCGSをもとにした実用単位系が使われる

磁性体 金属磁性体の磁性はスピン偏

極バンド構造で決まるが非金属磁性体の磁性は局在多電子系のフント則で決まる

交換相互作用スピン軌道相互作用など量子力学が基本

応用されるのは磁区により生じるヒステリシスに関連したマクロ磁気物性である

磁性は磁気異方性の影響を受け寸法方位形状により大幅に変化する

単位系が複雑でCGSとSIが混在して使われている

磁性体と誘電体の対比

磁性体

磁気モーメントμ(軸性ベクトル)

磁化M

自発磁化Ms

反磁界

磁気ヒステリシス

飽和磁化残留磁化保磁力

磁区(ドメイン)

キュリー温度

誘電体

電気双極子qr(極性ベクトル)

電気分極P

自発分極Ps

反電界

誘電ヒステリシス

飽和分極残留分極抗電界

分域(ドメイン)

キュリー温度

[参考1]

磁界磁束磁化

磁界(磁場)H磁束密度B磁化M

磁界H中に置かれた磁化Mの磁性体が磁束密

度は真空中の磁束密度に磁化による磁束密度を加えたものであるすなわちB=0H+M

B=0H B=0H+M

M

磁性体があると磁束密度が高くなる

真空中での磁束密度

磁化とは

物質に磁界を加えたとき物質の表面に磁極が生じ一時的に磁石のようになるがそのとき物質が磁化されたという

(b)(a)

(高梨初等磁気工学講座)より

磁化の定義

K番目の原子の1原子あ

たりの磁気モーメントをkとするときその単位体積についての総和k

を磁化Mと定義するM= k

磁気モーメントの単位はWbmであるから磁化の単位はWbm2となる

(高梨初等磁気工学講座)より

常磁性

磁極と磁気モーメント

磁石にはN極とS極がある

磁界中に置かれた磁性体にも磁極が誘起される磁極は必ずNSの対で現れる(単極は見つかっていない)

磁極の大きさをq [Wb]とすると磁界によってNSの対に働くトルクは-qdHsin [Nm]=qdsin [Wbm] H[Am]

必ずNとSが対で現れるならm=qrを磁性を扱う基本単

位と考えることが出来るこれを磁気モーメントという単位は[Wbm]

[参考2]

磁気モーメントの電子的起源

磁気モーメント

一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは

T=qH r sin=mH sin 磁気モーメントのもつポテンシャルEは

E=Td= mH sin d=mH(1-cos)

ポテンシャルの原点はどこにとってもよいから E=-mH mHのときエネルギーは極小になる

mはHに平行になろうとする(高梨初等磁気工学講座)より

r 磁気モーメント

m=qr [Wbm]

-q [Wb]

+q [Wb]

qH

-qH

rsin

単位E[J]=-m[Wbm] H[Am]

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 35: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

超交換相互作用

酸化物磁性体では局在電子系の磁気モーメントの間に働く相互作用は遷移金属の3d電子どうしの重なりで生じるのではなく配位子のp電子が遷移金属イオンの3d軌道に仮想的に遷

移した中間状態を介して相互作用するこれを超交換相互作用と称する主として反強磁性的に働く

酸素イオン

遷移金属イオン

超交換相互作用模式図

90度強磁性

180度反強磁性

(Goodenough)

アニオン

遷移金属イオン

アニオン

遷移金属イオン

(a)

(b)

Fig 9 超交換相互作用の模式図

間接交換(RKKY)相互作用

希土類金属の磁性は4f電子が担うが伝導電子である5d電子が4f電子と原子内交換相互作用することによってスピン偏極を受けこれが隣接の希土類原子のf電子と相互作用するという形の間接的な交換相互作用を行っていると考えられている

これをRKKY (Rudermann Kittel Kasuya Yoshida)相互作用という

伝導電子を介した局在スピン間の磁気的相互作用は距離に対して余弦関数的に振動しその周期は伝導電子のフェルミ波数で決められる

RKKY振動

フリーデル振動

21F

2

F

2

RKKY 29 SS

Rkf

N

NJH e

4

sincos

x

xxxxf

CoCu superlattice

Cu thickness (Aring)

磁気抵

抗比

図15

二重交換相互作用

LaMnO3ではすべてのMn原子は3価なので egバンドには1個の電子が存在しこの電子が隣接Mn原子のeg軌道に移動しようとすると電子相関エネルギーUだけのエネルギーが必要であるため電子移動は起きずモット絶縁体となっている

LaをSrで置き換え4価のMnが生じるとMn4+のeg軌道は空であるから他のMn3+から電子が移ることができ金属的な導電性を生じる

このとき隣接するMn原子の磁気モーメントのなす角とするとeg電子の飛び移りの確率はcos( 2)に比例する=0(スピンが平行)のとき飛び移りが最も起きやすく運動エネルギーの分だけエネルギーが下がるので強磁性となる

二重交換の模式図

Mn3+ Mn4+

3磁気ヒステリシス曲線と磁区

磁気ヒステリシスについて

反磁界と静磁エネルギー

磁気異方性

磁区と磁壁磁壁移動と磁化回転

保磁力

31 磁気ヒステリシス

強磁性体においてはその磁化は印加磁界に比例せずヒステリシスを示す

(高梨初等磁気工学講座テキスト)

OrarrBrarrC初磁化曲線

CrarrD 残留磁化

DrarrE 保磁力

CrarrDrarrErarrFrarrGrarrC

ヒステリシスループ

縦軸磁化

横軸磁界

[参考]

磁化曲線の測定法

磁性体を磁界中に置き磁界を増加していくと磁性体の磁化は増加していき次第に飽和する

磁化曲線は磁力計を使って測定する

VSM試料振動型磁力計試料を01~02mm程度のわずかな振幅で80Hz程度の低周波で振動させ試料の

磁化による磁束の時間変化を電磁石の磁極付近に置かれたサーチコイルに誘起された誘導起電力として検出する誘導起電力は試料の磁化に比例するので磁化を測定することができる

電磁石

磁極付近に置いたサーチコイル

スピーカーと同じ振動機構

[参考]

VSMブロック図

丸善実験物理学講座「磁気測定I」p68より

磁気ヒステリシスと応用

保磁力のちがいで用途が違う

Hc小軟質磁性体

磁気ヘッド変圧器鉄心磁気シールド

Hc中半硬質磁性体

磁気記録媒体

Hc大硬質磁性体

永久磁石このループの面積が磁石に蓄積される磁気エネルギー高周波の場合はヒステリシス損失となる

永久磁石の最大エネルギー積(BH)maxの変遷(httpwwwaacgbhamacukmagnetic_materialshistoryhtm)

BHmax

32 なぜ初磁化状態では磁化がないのか磁区(magnetic domain)

磁化が特定の方向を向くとするとN極からS極に向

かって磁力線が生じますこの磁力線は考えている試料の外を通っているだけでなく磁性体の内部も貫いていますこの磁力線を反磁界といいます反磁界の向きは磁化の向きとは反対向きなので磁化は回転する静磁力を受けて不安定となります

磁化の方向が逆方向の縞状の磁区と呼ばれる領域に分かれるならば反磁界がうち消し合って静磁エネルギーが低下して安定するのです

反磁界(demagnetization field)

磁性体表面の法線方向の磁化成分をMn とすると表面には単位面積あたり = Mnという大きさの磁極(Wbm2)が生じる

磁極からはガウスの定理によって全部で μ0の磁力線がわき出すこのうち反磁界係数Nを使って定義される磁力線NMは内部に向かっており残りは外側に向かっているすなわち磁石の内部ではMの向きとは逆方向の反磁界が存在する

外部では磁束線は磁力線に一致する

(b) 磁力線

M- +

(a)磁化と磁極 反磁界

S N

S N

(c) 磁束線

反磁界係数N (近角強磁性体の物理より)

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0

(i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+ Ny+ Nz=1

が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx= Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx= Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

x

y

z

z

x

y

z

x

y

Nz=1

Nx= 0Ny= 0

Nx= 12

Ny= 12

Nx=13

Ny=13

Nz=13

Nz=0

反磁界補正

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0 (i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+Ny+ Nz=1が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx=Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx=Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

(近角強磁性体の物理より)

反磁界と静磁エネルギー

磁化Mが反磁界HdのもとにおかれるとU=MHdだけポテンシャルエネルギーが高くなる

一様な磁界H中の磁気モーメントMに働くトルクTはT=-MH sin

磁気モーメントのもつポテンシャルEはU=Td= - 0

MH sin d=MH (1-cos) エネルギーの原点はどこにとってもよいのでポテンシャルエネルギーはU=-MHと表される H=-Hdを代入すると反磁界によるポテンシャルの増加はU=MHd

表面磁極の分割による静磁エネルギーの減少

結晶表面をxy面にとる

表面でz=0とする

磁区の磁化方向はplusmnz

磁区のx方向の幅d

磁極の表面密度=Is 2mdltxlt(2m+1)d

=-Is (2m+1)dltxlt2(m+1)d

磁気ポテンシャルをLaplaceの方程式で求め

+ +- -

z

x

y

d

境界条件( z)z=-0=20

境界条件のもとにラプラス方程式を解くと=n An sin n(d)xexp n(d)z

係数Anは次式を満たすように決められる(d) n nAn sin n(d)x =I20 2mdltxlt(2m+1)d

= - I20 (2m+1)dltxlt2(m+1)d

rarrAn=2Isd20n2

(x=0)=(2Isd20) n (1n2)sin n(d)x

単位表面積あたりの静磁エネルギー=(2Is

220) n (1n2)int0d sin n(d)x

=(2Is2d20) n=odd (1n3)=540104Is

2d

磁気異方性

磁性体は半導体と違って形状寸法結晶方位とか磁化の方位などによって物性が大きく変化する

1つの原因は上に述べた反磁界係数で形状磁気異方性と呼ばれます反磁界によるエネルギーの損を最小化することが原因です

このほかの原因として重要なのが結晶磁気異方性です結晶磁気異方性というのは磁界を結晶のどの方位に加えるかで磁化曲線が変化する性質です

電子軌道は結晶軸に結びついているので磁気的性質と電子軌道との結びつき(スピン軌道相互作用)を通じて磁性が結晶軸と結び

つくのです半導体にも詳しい測定をすると異方性を見ることができますこれに比べ一般に半導体の電子軌道は結晶全体に広がっているので平均化されて結晶軸に依存する物性が見えにくいです

結晶磁気異方性

磁化しやすさは結晶の方位に依存する

鉄は立方晶であるが[100]が容易軸[111]は困難軸

x

y

z

[111

]

[100

]

容易軸

困難軸

[110]

円板磁性体の磁区構造

全体が磁区に分かれることにより全体の磁化がなくなっているこれが初磁化状態である

磁区の内部では磁化は任意の方向をランダムに向いている訳ではない

磁化は結晶の方位と無関係な方向を向くことはできない磁性体には磁気異方性という性質があり磁化が特定の結晶軸方位(たとえばFeでは[001]方向および等価な方向)を向く性質がある

[001]容易軸では図のように(001)面内では[100][010][-100][0-10]の4つの方向を向くので90磁壁になる

[111]容易軸では

(a) (b)

(近角強磁性体の物理)

33 ヒステリシスを磁区で説明する

残留磁化状態 逆磁区の発生と成長

磁気飽和

核発生

34 さまざまな磁区とマイクロマグネティクス

Figは結晶の対称性により磁区が変わる様子の例として縞状磁区(stripe domain)と環流磁区(closure domain)を示している磁性体を微細化して直径1μm付近になるとスピンは面内に分布してvortex状態となり中心部に垂直方向のスピン成分をもつようになるさらに微細化すると単磁区になる

微小磁区のMFM観察

磁区の観察にはビッター法といって磁性微粒子を含むコロイドを磁性体上に滴下して光学顕微鏡で観察する方法が古くから使われているこのほか磁気光学顕微鏡ローレンツ電子顕微鏡磁気力顕微鏡走査型ホール顕微鏡走査型SQUID顕微鏡スピン偏極電子顕微鏡X線MCD顕微鏡などで観察することが可能であるFig 22にはいくつかの例について筆者のMFM観察結果を示す

10 nmtimes10 nmtimes10 nmMesh size

1Number of dot

200 nmtimes200 nmtimes100nm

Dot Size

Y directionEasy axis

02Damping constant(α)

-176times107 rad(sOe)Gyro magnetic constant(γ)

1000 ergcm3Anisotropic constant (Ku)

1times10-6 ergcm3Exchange field (A)

800 emucm3Saturation magnetization (Ms)

Hy = 10 kOe rarr 0 Oe

divM divMy

LLG 方程式を用いた

マイクロ磁気解析

Dot model

200 x 200thickness50 nm

Magnetic moment - dv M Force gradient

200 x 200thickness100 nm

90 degree walls propeller-like distortion

Calculation of a single dot

Spin structure

-divM

Isolated square dot

Force gradient image Spin distribution image

Four-dot system

Shift of the center occurs Reversal of chirality

MFM imagewith low-moment tip

(CoPtCr240Å in HV)

Spin distribution imagewith the force-gradientimage overlapped

Inversion of chirality

Comparison between MFM andsimulation of spin distribution

Simulation was carried outin the model structureconsisting of four squaredots with a dimension of200 nmtimes200 nmtimes20 nmwith 50nm separationbetween dots

The calculated spinstructure shows a closuredomain structure with the90-wall appears

The chirality of the spindirection in adjacent dots isopposite to each other asshown by white arrows

The Z-component force-gradient image taking intoaccount the tip-sampleinteraction is overlapped

Calculated magnetization configurationof Y-shaped permalloy dot

Calculation parametersWidth 300 nmThickness 100 nmEasy axis 0 ergcm3

x

y

z

Force gradient-divM

Force gradient(Magnified)

Experimental MFM images

bull Single domains appear in two armsbull Multi-domain of 4 chained closer-domains on the restbull Spin-flow at crossing region turns left in two steps

50

0n

m2

m

L

C

R

C

L

R

x

y

z

Calculated magnetization configurationsof Y-shaped permalloy mirror-dots

Calculation parametersWidth 200 nmThickness 40 nmEasy axis X 1000 ergcm3

Force gradient-divM

Single dot

Experimental MFM images

15 m

bull Calculated spin-flows similar to experimental resultbull Vortices with same chirality appear at the ends of all armsbull Chirality of adjacent dot shows a mirror-reflection

Easy axisEasy axis

Easy axis

Easy axis

-divM

4 おわりに

磁性特有のテクニカルタームがあるが慣れればそれほど難しいものではない

大部分の話は量子力学なしでも理解できる電磁気学の知識があればよい

応用につながるのは磁区磁壁の物理である

メゾスコピック系では量子的な現象が現れるこれが得意なスピン依存伝導現象をもたらす

[参考0]半導体磁性体誘電体

半導体と磁性体の対比

半導体 電子物性パラメータは基本的

にバンド構造で決まるキャリア密度は人為的に制御される

量子構造を考えない限り電子を古典粒子として有効質量近似で扱える

応用されるのは電子構造で決まる移動度などのミクロな電子物性である

電子物性が寸法方位形状にほとんど依存しない

単位系はCGSをもとにした実用単位系が使われる

磁性体 金属磁性体の磁性はスピン偏

極バンド構造で決まるが非金属磁性体の磁性は局在多電子系のフント則で決まる

交換相互作用スピン軌道相互作用など量子力学が基本

応用されるのは磁区により生じるヒステリシスに関連したマクロ磁気物性である

磁性は磁気異方性の影響を受け寸法方位形状により大幅に変化する

単位系が複雑でCGSとSIが混在して使われている

磁性体と誘電体の対比

磁性体

磁気モーメントμ(軸性ベクトル)

磁化M

自発磁化Ms

反磁界

磁気ヒステリシス

飽和磁化残留磁化保磁力

磁区(ドメイン)

キュリー温度

誘電体

電気双極子qr(極性ベクトル)

電気分極P

自発分極Ps

反電界

誘電ヒステリシス

飽和分極残留分極抗電界

分域(ドメイン)

キュリー温度

[参考1]

磁界磁束磁化

磁界(磁場)H磁束密度B磁化M

磁界H中に置かれた磁化Mの磁性体が磁束密

度は真空中の磁束密度に磁化による磁束密度を加えたものであるすなわちB=0H+M

B=0H B=0H+M

M

磁性体があると磁束密度が高くなる

真空中での磁束密度

磁化とは

物質に磁界を加えたとき物質の表面に磁極が生じ一時的に磁石のようになるがそのとき物質が磁化されたという

(b)(a)

(高梨初等磁気工学講座)より

磁化の定義

K番目の原子の1原子あ

たりの磁気モーメントをkとするときその単位体積についての総和k

を磁化Mと定義するM= k

磁気モーメントの単位はWbmであるから磁化の単位はWbm2となる

(高梨初等磁気工学講座)より

常磁性

磁極と磁気モーメント

磁石にはN極とS極がある

磁界中に置かれた磁性体にも磁極が誘起される磁極は必ずNSの対で現れる(単極は見つかっていない)

磁極の大きさをq [Wb]とすると磁界によってNSの対に働くトルクは-qdHsin [Nm]=qdsin [Wbm] H[Am]

必ずNとSが対で現れるならm=qrを磁性を扱う基本単

位と考えることが出来るこれを磁気モーメントという単位は[Wbm]

[参考2]

磁気モーメントの電子的起源

磁気モーメント

一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは

T=qH r sin=mH sin 磁気モーメントのもつポテンシャルEは

E=Td= mH sin d=mH(1-cos)

ポテンシャルの原点はどこにとってもよいから E=-mH mHのときエネルギーは極小になる

mはHに平行になろうとする(高梨初等磁気工学講座)より

r 磁気モーメント

m=qr [Wbm]

-q [Wb]

+q [Wb]

qH

-qH

rsin

単位E[J]=-m[Wbm] H[Am]

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 36: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

超交換相互作用模式図

90度強磁性

180度反強磁性

(Goodenough)

アニオン

遷移金属イオン

アニオン

遷移金属イオン

(a)

(b)

Fig 9 超交換相互作用の模式図

間接交換(RKKY)相互作用

希土類金属の磁性は4f電子が担うが伝導電子である5d電子が4f電子と原子内交換相互作用することによってスピン偏極を受けこれが隣接の希土類原子のf電子と相互作用するという形の間接的な交換相互作用を行っていると考えられている

これをRKKY (Rudermann Kittel Kasuya Yoshida)相互作用という

伝導電子を介した局在スピン間の磁気的相互作用は距離に対して余弦関数的に振動しその周期は伝導電子のフェルミ波数で決められる

RKKY振動

フリーデル振動

21F

2

F

2

RKKY 29 SS

Rkf

N

NJH e

4

sincos

x

xxxxf

CoCu superlattice

Cu thickness (Aring)

磁気抵

抗比

図15

二重交換相互作用

LaMnO3ではすべてのMn原子は3価なので egバンドには1個の電子が存在しこの電子が隣接Mn原子のeg軌道に移動しようとすると電子相関エネルギーUだけのエネルギーが必要であるため電子移動は起きずモット絶縁体となっている

LaをSrで置き換え4価のMnが生じるとMn4+のeg軌道は空であるから他のMn3+から電子が移ることができ金属的な導電性を生じる

このとき隣接するMn原子の磁気モーメントのなす角とするとeg電子の飛び移りの確率はcos( 2)に比例する=0(スピンが平行)のとき飛び移りが最も起きやすく運動エネルギーの分だけエネルギーが下がるので強磁性となる

二重交換の模式図

Mn3+ Mn4+

3磁気ヒステリシス曲線と磁区

磁気ヒステリシスについて

反磁界と静磁エネルギー

磁気異方性

磁区と磁壁磁壁移動と磁化回転

保磁力

31 磁気ヒステリシス

強磁性体においてはその磁化は印加磁界に比例せずヒステリシスを示す

(高梨初等磁気工学講座テキスト)

OrarrBrarrC初磁化曲線

CrarrD 残留磁化

DrarrE 保磁力

CrarrDrarrErarrFrarrGrarrC

ヒステリシスループ

縦軸磁化

横軸磁界

[参考]

磁化曲線の測定法

磁性体を磁界中に置き磁界を増加していくと磁性体の磁化は増加していき次第に飽和する

磁化曲線は磁力計を使って測定する

VSM試料振動型磁力計試料を01~02mm程度のわずかな振幅で80Hz程度の低周波で振動させ試料の

磁化による磁束の時間変化を電磁石の磁極付近に置かれたサーチコイルに誘起された誘導起電力として検出する誘導起電力は試料の磁化に比例するので磁化を測定することができる

電磁石

磁極付近に置いたサーチコイル

スピーカーと同じ振動機構

[参考]

VSMブロック図

丸善実験物理学講座「磁気測定I」p68より

磁気ヒステリシスと応用

保磁力のちがいで用途が違う

Hc小軟質磁性体

磁気ヘッド変圧器鉄心磁気シールド

Hc中半硬質磁性体

磁気記録媒体

Hc大硬質磁性体

永久磁石このループの面積が磁石に蓄積される磁気エネルギー高周波の場合はヒステリシス損失となる

永久磁石の最大エネルギー積(BH)maxの変遷(httpwwwaacgbhamacukmagnetic_materialshistoryhtm)

BHmax

32 なぜ初磁化状態では磁化がないのか磁区(magnetic domain)

磁化が特定の方向を向くとするとN極からS極に向

かって磁力線が生じますこの磁力線は考えている試料の外を通っているだけでなく磁性体の内部も貫いていますこの磁力線を反磁界といいます反磁界の向きは磁化の向きとは反対向きなので磁化は回転する静磁力を受けて不安定となります

磁化の方向が逆方向の縞状の磁区と呼ばれる領域に分かれるならば反磁界がうち消し合って静磁エネルギーが低下して安定するのです

反磁界(demagnetization field)

磁性体表面の法線方向の磁化成分をMn とすると表面には単位面積あたり = Mnという大きさの磁極(Wbm2)が生じる

磁極からはガウスの定理によって全部で μ0の磁力線がわき出すこのうち反磁界係数Nを使って定義される磁力線NMは内部に向かっており残りは外側に向かっているすなわち磁石の内部ではMの向きとは逆方向の反磁界が存在する

外部では磁束線は磁力線に一致する

(b) 磁力線

M- +

(a)磁化と磁極 反磁界

S N

S N

(c) 磁束線

反磁界係数N (近角強磁性体の物理より)

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0

(i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+ Ny+ Nz=1

が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx= Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx= Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

x

y

z

z

x

y

z

x

y

Nz=1

Nx= 0Ny= 0

Nx= 12

Ny= 12

Nx=13

Ny=13

Nz=13

Nz=0

反磁界補正

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0 (i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+Ny+ Nz=1が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx=Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx=Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

(近角強磁性体の物理より)

反磁界と静磁エネルギー

磁化Mが反磁界HdのもとにおかれるとU=MHdだけポテンシャルエネルギーが高くなる

一様な磁界H中の磁気モーメントMに働くトルクTはT=-MH sin

磁気モーメントのもつポテンシャルEはU=Td= - 0

MH sin d=MH (1-cos) エネルギーの原点はどこにとってもよいのでポテンシャルエネルギーはU=-MHと表される H=-Hdを代入すると反磁界によるポテンシャルの増加はU=MHd

表面磁極の分割による静磁エネルギーの減少

結晶表面をxy面にとる

表面でz=0とする

磁区の磁化方向はplusmnz

磁区のx方向の幅d

磁極の表面密度=Is 2mdltxlt(2m+1)d

=-Is (2m+1)dltxlt2(m+1)d

磁気ポテンシャルをLaplaceの方程式で求め

+ +- -

z

x

y

d

境界条件( z)z=-0=20

境界条件のもとにラプラス方程式を解くと=n An sin n(d)xexp n(d)z

係数Anは次式を満たすように決められる(d) n nAn sin n(d)x =I20 2mdltxlt(2m+1)d

= - I20 (2m+1)dltxlt2(m+1)d

rarrAn=2Isd20n2

(x=0)=(2Isd20) n (1n2)sin n(d)x

単位表面積あたりの静磁エネルギー=(2Is

220) n (1n2)int0d sin n(d)x

=(2Is2d20) n=odd (1n3)=540104Is

2d

磁気異方性

磁性体は半導体と違って形状寸法結晶方位とか磁化の方位などによって物性が大きく変化する

1つの原因は上に述べた反磁界係数で形状磁気異方性と呼ばれます反磁界によるエネルギーの損を最小化することが原因です

このほかの原因として重要なのが結晶磁気異方性です結晶磁気異方性というのは磁界を結晶のどの方位に加えるかで磁化曲線が変化する性質です

電子軌道は結晶軸に結びついているので磁気的性質と電子軌道との結びつき(スピン軌道相互作用)を通じて磁性が結晶軸と結び

つくのです半導体にも詳しい測定をすると異方性を見ることができますこれに比べ一般に半導体の電子軌道は結晶全体に広がっているので平均化されて結晶軸に依存する物性が見えにくいです

結晶磁気異方性

磁化しやすさは結晶の方位に依存する

鉄は立方晶であるが[100]が容易軸[111]は困難軸

x

y

z

[111

]

[100

]

容易軸

困難軸

[110]

円板磁性体の磁区構造

全体が磁区に分かれることにより全体の磁化がなくなっているこれが初磁化状態である

磁区の内部では磁化は任意の方向をランダムに向いている訳ではない

磁化は結晶の方位と無関係な方向を向くことはできない磁性体には磁気異方性という性質があり磁化が特定の結晶軸方位(たとえばFeでは[001]方向および等価な方向)を向く性質がある

[001]容易軸では図のように(001)面内では[100][010][-100][0-10]の4つの方向を向くので90磁壁になる

[111]容易軸では

(a) (b)

(近角強磁性体の物理)

33 ヒステリシスを磁区で説明する

残留磁化状態 逆磁区の発生と成長

磁気飽和

核発生

34 さまざまな磁区とマイクロマグネティクス

Figは結晶の対称性により磁区が変わる様子の例として縞状磁区(stripe domain)と環流磁区(closure domain)を示している磁性体を微細化して直径1μm付近になるとスピンは面内に分布してvortex状態となり中心部に垂直方向のスピン成分をもつようになるさらに微細化すると単磁区になる

微小磁区のMFM観察

磁区の観察にはビッター法といって磁性微粒子を含むコロイドを磁性体上に滴下して光学顕微鏡で観察する方法が古くから使われているこのほか磁気光学顕微鏡ローレンツ電子顕微鏡磁気力顕微鏡走査型ホール顕微鏡走査型SQUID顕微鏡スピン偏極電子顕微鏡X線MCD顕微鏡などで観察することが可能であるFig 22にはいくつかの例について筆者のMFM観察結果を示す

10 nmtimes10 nmtimes10 nmMesh size

1Number of dot

200 nmtimes200 nmtimes100nm

Dot Size

Y directionEasy axis

02Damping constant(α)

-176times107 rad(sOe)Gyro magnetic constant(γ)

1000 ergcm3Anisotropic constant (Ku)

1times10-6 ergcm3Exchange field (A)

800 emucm3Saturation magnetization (Ms)

Hy = 10 kOe rarr 0 Oe

divM divMy

LLG 方程式を用いた

マイクロ磁気解析

Dot model

200 x 200thickness50 nm

Magnetic moment - dv M Force gradient

200 x 200thickness100 nm

90 degree walls propeller-like distortion

Calculation of a single dot

Spin structure

-divM

Isolated square dot

Force gradient image Spin distribution image

Four-dot system

Shift of the center occurs Reversal of chirality

MFM imagewith low-moment tip

(CoPtCr240Å in HV)

Spin distribution imagewith the force-gradientimage overlapped

Inversion of chirality

Comparison between MFM andsimulation of spin distribution

Simulation was carried outin the model structureconsisting of four squaredots with a dimension of200 nmtimes200 nmtimes20 nmwith 50nm separationbetween dots

The calculated spinstructure shows a closuredomain structure with the90-wall appears

The chirality of the spindirection in adjacent dots isopposite to each other asshown by white arrows

The Z-component force-gradient image taking intoaccount the tip-sampleinteraction is overlapped

Calculated magnetization configurationof Y-shaped permalloy dot

Calculation parametersWidth 300 nmThickness 100 nmEasy axis 0 ergcm3

x

y

z

Force gradient-divM

Force gradient(Magnified)

Experimental MFM images

bull Single domains appear in two armsbull Multi-domain of 4 chained closer-domains on the restbull Spin-flow at crossing region turns left in two steps

50

0n

m2

m

L

C

R

C

L

R

x

y

z

Calculated magnetization configurationsof Y-shaped permalloy mirror-dots

Calculation parametersWidth 200 nmThickness 40 nmEasy axis X 1000 ergcm3

Force gradient-divM

Single dot

Experimental MFM images

15 m

bull Calculated spin-flows similar to experimental resultbull Vortices with same chirality appear at the ends of all armsbull Chirality of adjacent dot shows a mirror-reflection

Easy axisEasy axis

Easy axis

Easy axis

-divM

4 おわりに

磁性特有のテクニカルタームがあるが慣れればそれほど難しいものではない

大部分の話は量子力学なしでも理解できる電磁気学の知識があればよい

応用につながるのは磁区磁壁の物理である

メゾスコピック系では量子的な現象が現れるこれが得意なスピン依存伝導現象をもたらす

[参考0]半導体磁性体誘電体

半導体と磁性体の対比

半導体 電子物性パラメータは基本的

にバンド構造で決まるキャリア密度は人為的に制御される

量子構造を考えない限り電子を古典粒子として有効質量近似で扱える

応用されるのは電子構造で決まる移動度などのミクロな電子物性である

電子物性が寸法方位形状にほとんど依存しない

単位系はCGSをもとにした実用単位系が使われる

磁性体 金属磁性体の磁性はスピン偏

極バンド構造で決まるが非金属磁性体の磁性は局在多電子系のフント則で決まる

交換相互作用スピン軌道相互作用など量子力学が基本

応用されるのは磁区により生じるヒステリシスに関連したマクロ磁気物性である

磁性は磁気異方性の影響を受け寸法方位形状により大幅に変化する

単位系が複雑でCGSとSIが混在して使われている

磁性体と誘電体の対比

磁性体

磁気モーメントμ(軸性ベクトル)

磁化M

自発磁化Ms

反磁界

磁気ヒステリシス

飽和磁化残留磁化保磁力

磁区(ドメイン)

キュリー温度

誘電体

電気双極子qr(極性ベクトル)

電気分極P

自発分極Ps

反電界

誘電ヒステリシス

飽和分極残留分極抗電界

分域(ドメイン)

キュリー温度

[参考1]

磁界磁束磁化

磁界(磁場)H磁束密度B磁化M

磁界H中に置かれた磁化Mの磁性体が磁束密

度は真空中の磁束密度に磁化による磁束密度を加えたものであるすなわちB=0H+M

B=0H B=0H+M

M

磁性体があると磁束密度が高くなる

真空中での磁束密度

磁化とは

物質に磁界を加えたとき物質の表面に磁極が生じ一時的に磁石のようになるがそのとき物質が磁化されたという

(b)(a)

(高梨初等磁気工学講座)より

磁化の定義

K番目の原子の1原子あ

たりの磁気モーメントをkとするときその単位体積についての総和k

を磁化Mと定義するM= k

磁気モーメントの単位はWbmであるから磁化の単位はWbm2となる

(高梨初等磁気工学講座)より

常磁性

磁極と磁気モーメント

磁石にはN極とS極がある

磁界中に置かれた磁性体にも磁極が誘起される磁極は必ずNSの対で現れる(単極は見つかっていない)

磁極の大きさをq [Wb]とすると磁界によってNSの対に働くトルクは-qdHsin [Nm]=qdsin [Wbm] H[Am]

必ずNとSが対で現れるならm=qrを磁性を扱う基本単

位と考えることが出来るこれを磁気モーメントという単位は[Wbm]

[参考2]

磁気モーメントの電子的起源

磁気モーメント

一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは

T=qH r sin=mH sin 磁気モーメントのもつポテンシャルEは

E=Td= mH sin d=mH(1-cos)

ポテンシャルの原点はどこにとってもよいから E=-mH mHのときエネルギーは極小になる

mはHに平行になろうとする(高梨初等磁気工学講座)より

r 磁気モーメント

m=qr [Wbm]

-q [Wb]

+q [Wb]

qH

-qH

rsin

単位E[J]=-m[Wbm] H[Am]

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 37: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

間接交換(RKKY)相互作用

希土類金属の磁性は4f電子が担うが伝導電子である5d電子が4f電子と原子内交換相互作用することによってスピン偏極を受けこれが隣接の希土類原子のf電子と相互作用するという形の間接的な交換相互作用を行っていると考えられている

これをRKKY (Rudermann Kittel Kasuya Yoshida)相互作用という

伝導電子を介した局在スピン間の磁気的相互作用は距離に対して余弦関数的に振動しその周期は伝導電子のフェルミ波数で決められる

RKKY振動

フリーデル振動

21F

2

F

2

RKKY 29 SS

Rkf

N

NJH e

4

sincos

x

xxxxf

CoCu superlattice

Cu thickness (Aring)

磁気抵

抗比

図15

二重交換相互作用

LaMnO3ではすべてのMn原子は3価なので egバンドには1個の電子が存在しこの電子が隣接Mn原子のeg軌道に移動しようとすると電子相関エネルギーUだけのエネルギーが必要であるため電子移動は起きずモット絶縁体となっている

LaをSrで置き換え4価のMnが生じるとMn4+のeg軌道は空であるから他のMn3+から電子が移ることができ金属的な導電性を生じる

このとき隣接するMn原子の磁気モーメントのなす角とするとeg電子の飛び移りの確率はcos( 2)に比例する=0(スピンが平行)のとき飛び移りが最も起きやすく運動エネルギーの分だけエネルギーが下がるので強磁性となる

二重交換の模式図

Mn3+ Mn4+

3磁気ヒステリシス曲線と磁区

磁気ヒステリシスについて

反磁界と静磁エネルギー

磁気異方性

磁区と磁壁磁壁移動と磁化回転

保磁力

31 磁気ヒステリシス

強磁性体においてはその磁化は印加磁界に比例せずヒステリシスを示す

(高梨初等磁気工学講座テキスト)

OrarrBrarrC初磁化曲線

CrarrD 残留磁化

DrarrE 保磁力

CrarrDrarrErarrFrarrGrarrC

ヒステリシスループ

縦軸磁化

横軸磁界

[参考]

磁化曲線の測定法

磁性体を磁界中に置き磁界を増加していくと磁性体の磁化は増加していき次第に飽和する

磁化曲線は磁力計を使って測定する

VSM試料振動型磁力計試料を01~02mm程度のわずかな振幅で80Hz程度の低周波で振動させ試料の

磁化による磁束の時間変化を電磁石の磁極付近に置かれたサーチコイルに誘起された誘導起電力として検出する誘導起電力は試料の磁化に比例するので磁化を測定することができる

電磁石

磁極付近に置いたサーチコイル

スピーカーと同じ振動機構

[参考]

VSMブロック図

丸善実験物理学講座「磁気測定I」p68より

磁気ヒステリシスと応用

保磁力のちがいで用途が違う

Hc小軟質磁性体

磁気ヘッド変圧器鉄心磁気シールド

Hc中半硬質磁性体

磁気記録媒体

Hc大硬質磁性体

永久磁石このループの面積が磁石に蓄積される磁気エネルギー高周波の場合はヒステリシス損失となる

永久磁石の最大エネルギー積(BH)maxの変遷(httpwwwaacgbhamacukmagnetic_materialshistoryhtm)

BHmax

32 なぜ初磁化状態では磁化がないのか磁区(magnetic domain)

磁化が特定の方向を向くとするとN極からS極に向

かって磁力線が生じますこの磁力線は考えている試料の外を通っているだけでなく磁性体の内部も貫いていますこの磁力線を反磁界といいます反磁界の向きは磁化の向きとは反対向きなので磁化は回転する静磁力を受けて不安定となります

磁化の方向が逆方向の縞状の磁区と呼ばれる領域に分かれるならば反磁界がうち消し合って静磁エネルギーが低下して安定するのです

反磁界(demagnetization field)

磁性体表面の法線方向の磁化成分をMn とすると表面には単位面積あたり = Mnという大きさの磁極(Wbm2)が生じる

磁極からはガウスの定理によって全部で μ0の磁力線がわき出すこのうち反磁界係数Nを使って定義される磁力線NMは内部に向かっており残りは外側に向かっているすなわち磁石の内部ではMの向きとは逆方向の反磁界が存在する

外部では磁束線は磁力線に一致する

(b) 磁力線

M- +

(a)磁化と磁極 反磁界

S N

S N

(c) 磁束線

反磁界係数N (近角強磁性体の物理より)

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0

(i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+ Ny+ Nz=1

が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx= Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx= Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

x

y

z

z

x

y

z

x

y

Nz=1

Nx= 0Ny= 0

Nx= 12

Ny= 12

Nx=13

Ny=13

Nz=13

Nz=0

反磁界補正

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0 (i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+Ny+ Nz=1が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx=Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx=Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

(近角強磁性体の物理より)

反磁界と静磁エネルギー

磁化Mが反磁界HdのもとにおかれるとU=MHdだけポテンシャルエネルギーが高くなる

一様な磁界H中の磁気モーメントMに働くトルクTはT=-MH sin

磁気モーメントのもつポテンシャルEはU=Td= - 0

MH sin d=MH (1-cos) エネルギーの原点はどこにとってもよいのでポテンシャルエネルギーはU=-MHと表される H=-Hdを代入すると反磁界によるポテンシャルの増加はU=MHd

表面磁極の分割による静磁エネルギーの減少

結晶表面をxy面にとる

表面でz=0とする

磁区の磁化方向はplusmnz

磁区のx方向の幅d

磁極の表面密度=Is 2mdltxlt(2m+1)d

=-Is (2m+1)dltxlt2(m+1)d

磁気ポテンシャルをLaplaceの方程式で求め

+ +- -

z

x

y

d

境界条件( z)z=-0=20

境界条件のもとにラプラス方程式を解くと=n An sin n(d)xexp n(d)z

係数Anは次式を満たすように決められる(d) n nAn sin n(d)x =I20 2mdltxlt(2m+1)d

= - I20 (2m+1)dltxlt2(m+1)d

rarrAn=2Isd20n2

(x=0)=(2Isd20) n (1n2)sin n(d)x

単位表面積あたりの静磁エネルギー=(2Is

220) n (1n2)int0d sin n(d)x

=(2Is2d20) n=odd (1n3)=540104Is

2d

磁気異方性

磁性体は半導体と違って形状寸法結晶方位とか磁化の方位などによって物性が大きく変化する

1つの原因は上に述べた反磁界係数で形状磁気異方性と呼ばれます反磁界によるエネルギーの損を最小化することが原因です

このほかの原因として重要なのが結晶磁気異方性です結晶磁気異方性というのは磁界を結晶のどの方位に加えるかで磁化曲線が変化する性質です

電子軌道は結晶軸に結びついているので磁気的性質と電子軌道との結びつき(スピン軌道相互作用)を通じて磁性が結晶軸と結び

つくのです半導体にも詳しい測定をすると異方性を見ることができますこれに比べ一般に半導体の電子軌道は結晶全体に広がっているので平均化されて結晶軸に依存する物性が見えにくいです

結晶磁気異方性

磁化しやすさは結晶の方位に依存する

鉄は立方晶であるが[100]が容易軸[111]は困難軸

x

y

z

[111

]

[100

]

容易軸

困難軸

[110]

円板磁性体の磁区構造

全体が磁区に分かれることにより全体の磁化がなくなっているこれが初磁化状態である

磁区の内部では磁化は任意の方向をランダムに向いている訳ではない

磁化は結晶の方位と無関係な方向を向くことはできない磁性体には磁気異方性という性質があり磁化が特定の結晶軸方位(たとえばFeでは[001]方向および等価な方向)を向く性質がある

[001]容易軸では図のように(001)面内では[100][010][-100][0-10]の4つの方向を向くので90磁壁になる

[111]容易軸では

(a) (b)

(近角強磁性体の物理)

33 ヒステリシスを磁区で説明する

残留磁化状態 逆磁区の発生と成長

磁気飽和

核発生

34 さまざまな磁区とマイクロマグネティクス

Figは結晶の対称性により磁区が変わる様子の例として縞状磁区(stripe domain)と環流磁区(closure domain)を示している磁性体を微細化して直径1μm付近になるとスピンは面内に分布してvortex状態となり中心部に垂直方向のスピン成分をもつようになるさらに微細化すると単磁区になる

微小磁区のMFM観察

磁区の観察にはビッター法といって磁性微粒子を含むコロイドを磁性体上に滴下して光学顕微鏡で観察する方法が古くから使われているこのほか磁気光学顕微鏡ローレンツ電子顕微鏡磁気力顕微鏡走査型ホール顕微鏡走査型SQUID顕微鏡スピン偏極電子顕微鏡X線MCD顕微鏡などで観察することが可能であるFig 22にはいくつかの例について筆者のMFM観察結果を示す

10 nmtimes10 nmtimes10 nmMesh size

1Number of dot

200 nmtimes200 nmtimes100nm

Dot Size

Y directionEasy axis

02Damping constant(α)

-176times107 rad(sOe)Gyro magnetic constant(γ)

1000 ergcm3Anisotropic constant (Ku)

1times10-6 ergcm3Exchange field (A)

800 emucm3Saturation magnetization (Ms)

Hy = 10 kOe rarr 0 Oe

divM divMy

LLG 方程式を用いた

マイクロ磁気解析

Dot model

200 x 200thickness50 nm

Magnetic moment - dv M Force gradient

200 x 200thickness100 nm

90 degree walls propeller-like distortion

Calculation of a single dot

Spin structure

-divM

Isolated square dot

Force gradient image Spin distribution image

Four-dot system

Shift of the center occurs Reversal of chirality

MFM imagewith low-moment tip

(CoPtCr240Å in HV)

Spin distribution imagewith the force-gradientimage overlapped

Inversion of chirality

Comparison between MFM andsimulation of spin distribution

Simulation was carried outin the model structureconsisting of four squaredots with a dimension of200 nmtimes200 nmtimes20 nmwith 50nm separationbetween dots

The calculated spinstructure shows a closuredomain structure with the90-wall appears

The chirality of the spindirection in adjacent dots isopposite to each other asshown by white arrows

The Z-component force-gradient image taking intoaccount the tip-sampleinteraction is overlapped

Calculated magnetization configurationof Y-shaped permalloy dot

Calculation parametersWidth 300 nmThickness 100 nmEasy axis 0 ergcm3

x

y

z

Force gradient-divM

Force gradient(Magnified)

Experimental MFM images

bull Single domains appear in two armsbull Multi-domain of 4 chained closer-domains on the restbull Spin-flow at crossing region turns left in two steps

50

0n

m2

m

L

C

R

C

L

R

x

y

z

Calculated magnetization configurationsof Y-shaped permalloy mirror-dots

Calculation parametersWidth 200 nmThickness 40 nmEasy axis X 1000 ergcm3

Force gradient-divM

Single dot

Experimental MFM images

15 m

bull Calculated spin-flows similar to experimental resultbull Vortices with same chirality appear at the ends of all armsbull Chirality of adjacent dot shows a mirror-reflection

Easy axisEasy axis

Easy axis

Easy axis

-divM

4 おわりに

磁性特有のテクニカルタームがあるが慣れればそれほど難しいものではない

大部分の話は量子力学なしでも理解できる電磁気学の知識があればよい

応用につながるのは磁区磁壁の物理である

メゾスコピック系では量子的な現象が現れるこれが得意なスピン依存伝導現象をもたらす

[参考0]半導体磁性体誘電体

半導体と磁性体の対比

半導体 電子物性パラメータは基本的

にバンド構造で決まるキャリア密度は人為的に制御される

量子構造を考えない限り電子を古典粒子として有効質量近似で扱える

応用されるのは電子構造で決まる移動度などのミクロな電子物性である

電子物性が寸法方位形状にほとんど依存しない

単位系はCGSをもとにした実用単位系が使われる

磁性体 金属磁性体の磁性はスピン偏

極バンド構造で決まるが非金属磁性体の磁性は局在多電子系のフント則で決まる

交換相互作用スピン軌道相互作用など量子力学が基本

応用されるのは磁区により生じるヒステリシスに関連したマクロ磁気物性である

磁性は磁気異方性の影響を受け寸法方位形状により大幅に変化する

単位系が複雑でCGSとSIが混在して使われている

磁性体と誘電体の対比

磁性体

磁気モーメントμ(軸性ベクトル)

磁化M

自発磁化Ms

反磁界

磁気ヒステリシス

飽和磁化残留磁化保磁力

磁区(ドメイン)

キュリー温度

誘電体

電気双極子qr(極性ベクトル)

電気分極P

自発分極Ps

反電界

誘電ヒステリシス

飽和分極残留分極抗電界

分域(ドメイン)

キュリー温度

[参考1]

磁界磁束磁化

磁界(磁場)H磁束密度B磁化M

磁界H中に置かれた磁化Mの磁性体が磁束密

度は真空中の磁束密度に磁化による磁束密度を加えたものであるすなわちB=0H+M

B=0H B=0H+M

M

磁性体があると磁束密度が高くなる

真空中での磁束密度

磁化とは

物質に磁界を加えたとき物質の表面に磁極が生じ一時的に磁石のようになるがそのとき物質が磁化されたという

(b)(a)

(高梨初等磁気工学講座)より

磁化の定義

K番目の原子の1原子あ

たりの磁気モーメントをkとするときその単位体積についての総和k

を磁化Mと定義するM= k

磁気モーメントの単位はWbmであるから磁化の単位はWbm2となる

(高梨初等磁気工学講座)より

常磁性

磁極と磁気モーメント

磁石にはN極とS極がある

磁界中に置かれた磁性体にも磁極が誘起される磁極は必ずNSの対で現れる(単極は見つかっていない)

磁極の大きさをq [Wb]とすると磁界によってNSの対に働くトルクは-qdHsin [Nm]=qdsin [Wbm] H[Am]

必ずNとSが対で現れるならm=qrを磁性を扱う基本単

位と考えることが出来るこれを磁気モーメントという単位は[Wbm]

[参考2]

磁気モーメントの電子的起源

磁気モーメント

一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは

T=qH r sin=mH sin 磁気モーメントのもつポテンシャルEは

E=Td= mH sin d=mH(1-cos)

ポテンシャルの原点はどこにとってもよいから E=-mH mHのときエネルギーは極小になる

mはHに平行になろうとする(高梨初等磁気工学講座)より

r 磁気モーメント

m=qr [Wbm]

-q [Wb]

+q [Wb]

qH

-qH

rsin

単位E[J]=-m[Wbm] H[Am]

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 38: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

RKKY振動

フリーデル振動

21F

2

F

2

RKKY 29 SS

Rkf

N

NJH e

4

sincos

x

xxxxf

CoCu superlattice

Cu thickness (Aring)

磁気抵

抗比

図15

二重交換相互作用

LaMnO3ではすべてのMn原子は3価なので egバンドには1個の電子が存在しこの電子が隣接Mn原子のeg軌道に移動しようとすると電子相関エネルギーUだけのエネルギーが必要であるため電子移動は起きずモット絶縁体となっている

LaをSrで置き換え4価のMnが生じるとMn4+のeg軌道は空であるから他のMn3+から電子が移ることができ金属的な導電性を生じる

このとき隣接するMn原子の磁気モーメントのなす角とするとeg電子の飛び移りの確率はcos( 2)に比例する=0(スピンが平行)のとき飛び移りが最も起きやすく運動エネルギーの分だけエネルギーが下がるので強磁性となる

二重交換の模式図

Mn3+ Mn4+

3磁気ヒステリシス曲線と磁区

磁気ヒステリシスについて

反磁界と静磁エネルギー

磁気異方性

磁区と磁壁磁壁移動と磁化回転

保磁力

31 磁気ヒステリシス

強磁性体においてはその磁化は印加磁界に比例せずヒステリシスを示す

(高梨初等磁気工学講座テキスト)

OrarrBrarrC初磁化曲線

CrarrD 残留磁化

DrarrE 保磁力

CrarrDrarrErarrFrarrGrarrC

ヒステリシスループ

縦軸磁化

横軸磁界

[参考]

磁化曲線の測定法

磁性体を磁界中に置き磁界を増加していくと磁性体の磁化は増加していき次第に飽和する

磁化曲線は磁力計を使って測定する

VSM試料振動型磁力計試料を01~02mm程度のわずかな振幅で80Hz程度の低周波で振動させ試料の

磁化による磁束の時間変化を電磁石の磁極付近に置かれたサーチコイルに誘起された誘導起電力として検出する誘導起電力は試料の磁化に比例するので磁化を測定することができる

電磁石

磁極付近に置いたサーチコイル

スピーカーと同じ振動機構

[参考]

VSMブロック図

丸善実験物理学講座「磁気測定I」p68より

磁気ヒステリシスと応用

保磁力のちがいで用途が違う

Hc小軟質磁性体

磁気ヘッド変圧器鉄心磁気シールド

Hc中半硬質磁性体

磁気記録媒体

Hc大硬質磁性体

永久磁石このループの面積が磁石に蓄積される磁気エネルギー高周波の場合はヒステリシス損失となる

永久磁石の最大エネルギー積(BH)maxの変遷(httpwwwaacgbhamacukmagnetic_materialshistoryhtm)

BHmax

32 なぜ初磁化状態では磁化がないのか磁区(magnetic domain)

磁化が特定の方向を向くとするとN極からS極に向

かって磁力線が生じますこの磁力線は考えている試料の外を通っているだけでなく磁性体の内部も貫いていますこの磁力線を反磁界といいます反磁界の向きは磁化の向きとは反対向きなので磁化は回転する静磁力を受けて不安定となります

磁化の方向が逆方向の縞状の磁区と呼ばれる領域に分かれるならば反磁界がうち消し合って静磁エネルギーが低下して安定するのです

反磁界(demagnetization field)

磁性体表面の法線方向の磁化成分をMn とすると表面には単位面積あたり = Mnという大きさの磁極(Wbm2)が生じる

磁極からはガウスの定理によって全部で μ0の磁力線がわき出すこのうち反磁界係数Nを使って定義される磁力線NMは内部に向かっており残りは外側に向かっているすなわち磁石の内部ではMの向きとは逆方向の反磁界が存在する

外部では磁束線は磁力線に一致する

(b) 磁力線

M- +

(a)磁化と磁極 反磁界

S N

S N

(c) 磁束線

反磁界係数N (近角強磁性体の物理より)

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0

(i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+ Ny+ Nz=1

が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx= Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx= Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

x

y

z

z

x

y

z

x

y

Nz=1

Nx= 0Ny= 0

Nx= 12

Ny= 12

Nx=13

Ny=13

Nz=13

Nz=0

反磁界補正

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0 (i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+Ny+ Nz=1が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx=Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx=Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

(近角強磁性体の物理より)

反磁界と静磁エネルギー

磁化Mが反磁界HdのもとにおかれるとU=MHdだけポテンシャルエネルギーが高くなる

一様な磁界H中の磁気モーメントMに働くトルクTはT=-MH sin

磁気モーメントのもつポテンシャルEはU=Td= - 0

MH sin d=MH (1-cos) エネルギーの原点はどこにとってもよいのでポテンシャルエネルギーはU=-MHと表される H=-Hdを代入すると反磁界によるポテンシャルの増加はU=MHd

表面磁極の分割による静磁エネルギーの減少

結晶表面をxy面にとる

表面でz=0とする

磁区の磁化方向はplusmnz

磁区のx方向の幅d

磁極の表面密度=Is 2mdltxlt(2m+1)d

=-Is (2m+1)dltxlt2(m+1)d

磁気ポテンシャルをLaplaceの方程式で求め

+ +- -

z

x

y

d

境界条件( z)z=-0=20

境界条件のもとにラプラス方程式を解くと=n An sin n(d)xexp n(d)z

係数Anは次式を満たすように決められる(d) n nAn sin n(d)x =I20 2mdltxlt(2m+1)d

= - I20 (2m+1)dltxlt2(m+1)d

rarrAn=2Isd20n2

(x=0)=(2Isd20) n (1n2)sin n(d)x

単位表面積あたりの静磁エネルギー=(2Is

220) n (1n2)int0d sin n(d)x

=(2Is2d20) n=odd (1n3)=540104Is

2d

磁気異方性

磁性体は半導体と違って形状寸法結晶方位とか磁化の方位などによって物性が大きく変化する

1つの原因は上に述べた反磁界係数で形状磁気異方性と呼ばれます反磁界によるエネルギーの損を最小化することが原因です

このほかの原因として重要なのが結晶磁気異方性です結晶磁気異方性というのは磁界を結晶のどの方位に加えるかで磁化曲線が変化する性質です

電子軌道は結晶軸に結びついているので磁気的性質と電子軌道との結びつき(スピン軌道相互作用)を通じて磁性が結晶軸と結び

つくのです半導体にも詳しい測定をすると異方性を見ることができますこれに比べ一般に半導体の電子軌道は結晶全体に広がっているので平均化されて結晶軸に依存する物性が見えにくいです

結晶磁気異方性

磁化しやすさは結晶の方位に依存する

鉄は立方晶であるが[100]が容易軸[111]は困難軸

x

y

z

[111

]

[100

]

容易軸

困難軸

[110]

円板磁性体の磁区構造

全体が磁区に分かれることにより全体の磁化がなくなっているこれが初磁化状態である

磁区の内部では磁化は任意の方向をランダムに向いている訳ではない

磁化は結晶の方位と無関係な方向を向くことはできない磁性体には磁気異方性という性質があり磁化が特定の結晶軸方位(たとえばFeでは[001]方向および等価な方向)を向く性質がある

[001]容易軸では図のように(001)面内では[100][010][-100][0-10]の4つの方向を向くので90磁壁になる

[111]容易軸では

(a) (b)

(近角強磁性体の物理)

33 ヒステリシスを磁区で説明する

残留磁化状態 逆磁区の発生と成長

磁気飽和

核発生

34 さまざまな磁区とマイクロマグネティクス

Figは結晶の対称性により磁区が変わる様子の例として縞状磁区(stripe domain)と環流磁区(closure domain)を示している磁性体を微細化して直径1μm付近になるとスピンは面内に分布してvortex状態となり中心部に垂直方向のスピン成分をもつようになるさらに微細化すると単磁区になる

微小磁区のMFM観察

磁区の観察にはビッター法といって磁性微粒子を含むコロイドを磁性体上に滴下して光学顕微鏡で観察する方法が古くから使われているこのほか磁気光学顕微鏡ローレンツ電子顕微鏡磁気力顕微鏡走査型ホール顕微鏡走査型SQUID顕微鏡スピン偏極電子顕微鏡X線MCD顕微鏡などで観察することが可能であるFig 22にはいくつかの例について筆者のMFM観察結果を示す

10 nmtimes10 nmtimes10 nmMesh size

1Number of dot

200 nmtimes200 nmtimes100nm

Dot Size

Y directionEasy axis

02Damping constant(α)

-176times107 rad(sOe)Gyro magnetic constant(γ)

1000 ergcm3Anisotropic constant (Ku)

1times10-6 ergcm3Exchange field (A)

800 emucm3Saturation magnetization (Ms)

Hy = 10 kOe rarr 0 Oe

divM divMy

LLG 方程式を用いた

マイクロ磁気解析

Dot model

200 x 200thickness50 nm

Magnetic moment - dv M Force gradient

200 x 200thickness100 nm

90 degree walls propeller-like distortion

Calculation of a single dot

Spin structure

-divM

Isolated square dot

Force gradient image Spin distribution image

Four-dot system

Shift of the center occurs Reversal of chirality

MFM imagewith low-moment tip

(CoPtCr240Å in HV)

Spin distribution imagewith the force-gradientimage overlapped

Inversion of chirality

Comparison between MFM andsimulation of spin distribution

Simulation was carried outin the model structureconsisting of four squaredots with a dimension of200 nmtimes200 nmtimes20 nmwith 50nm separationbetween dots

The calculated spinstructure shows a closuredomain structure with the90-wall appears

The chirality of the spindirection in adjacent dots isopposite to each other asshown by white arrows

The Z-component force-gradient image taking intoaccount the tip-sampleinteraction is overlapped

Calculated magnetization configurationof Y-shaped permalloy dot

Calculation parametersWidth 300 nmThickness 100 nmEasy axis 0 ergcm3

x

y

z

Force gradient-divM

Force gradient(Magnified)

Experimental MFM images

bull Single domains appear in two armsbull Multi-domain of 4 chained closer-domains on the restbull Spin-flow at crossing region turns left in two steps

50

0n

m2

m

L

C

R

C

L

R

x

y

z

Calculated magnetization configurationsof Y-shaped permalloy mirror-dots

Calculation parametersWidth 200 nmThickness 40 nmEasy axis X 1000 ergcm3

Force gradient-divM

Single dot

Experimental MFM images

15 m

bull Calculated spin-flows similar to experimental resultbull Vortices with same chirality appear at the ends of all armsbull Chirality of adjacent dot shows a mirror-reflection

Easy axisEasy axis

Easy axis

Easy axis

-divM

4 おわりに

磁性特有のテクニカルタームがあるが慣れればそれほど難しいものではない

大部分の話は量子力学なしでも理解できる電磁気学の知識があればよい

応用につながるのは磁区磁壁の物理である

メゾスコピック系では量子的な現象が現れるこれが得意なスピン依存伝導現象をもたらす

[参考0]半導体磁性体誘電体

半導体と磁性体の対比

半導体 電子物性パラメータは基本的

にバンド構造で決まるキャリア密度は人為的に制御される

量子構造を考えない限り電子を古典粒子として有効質量近似で扱える

応用されるのは電子構造で決まる移動度などのミクロな電子物性である

電子物性が寸法方位形状にほとんど依存しない

単位系はCGSをもとにした実用単位系が使われる

磁性体 金属磁性体の磁性はスピン偏

極バンド構造で決まるが非金属磁性体の磁性は局在多電子系のフント則で決まる

交換相互作用スピン軌道相互作用など量子力学が基本

応用されるのは磁区により生じるヒステリシスに関連したマクロ磁気物性である

磁性は磁気異方性の影響を受け寸法方位形状により大幅に変化する

単位系が複雑でCGSとSIが混在して使われている

磁性体と誘電体の対比

磁性体

磁気モーメントμ(軸性ベクトル)

磁化M

自発磁化Ms

反磁界

磁気ヒステリシス

飽和磁化残留磁化保磁力

磁区(ドメイン)

キュリー温度

誘電体

電気双極子qr(極性ベクトル)

電気分極P

自発分極Ps

反電界

誘電ヒステリシス

飽和分極残留分極抗電界

分域(ドメイン)

キュリー温度

[参考1]

磁界磁束磁化

磁界(磁場)H磁束密度B磁化M

磁界H中に置かれた磁化Mの磁性体が磁束密

度は真空中の磁束密度に磁化による磁束密度を加えたものであるすなわちB=0H+M

B=0H B=0H+M

M

磁性体があると磁束密度が高くなる

真空中での磁束密度

磁化とは

物質に磁界を加えたとき物質の表面に磁極が生じ一時的に磁石のようになるがそのとき物質が磁化されたという

(b)(a)

(高梨初等磁気工学講座)より

磁化の定義

K番目の原子の1原子あ

たりの磁気モーメントをkとするときその単位体積についての総和k

を磁化Mと定義するM= k

磁気モーメントの単位はWbmであるから磁化の単位はWbm2となる

(高梨初等磁気工学講座)より

常磁性

磁極と磁気モーメント

磁石にはN極とS極がある

磁界中に置かれた磁性体にも磁極が誘起される磁極は必ずNSの対で現れる(単極は見つかっていない)

磁極の大きさをq [Wb]とすると磁界によってNSの対に働くトルクは-qdHsin [Nm]=qdsin [Wbm] H[Am]

必ずNとSが対で現れるならm=qrを磁性を扱う基本単

位と考えることが出来るこれを磁気モーメントという単位は[Wbm]

[参考2]

磁気モーメントの電子的起源

磁気モーメント

一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは

T=qH r sin=mH sin 磁気モーメントのもつポテンシャルEは

E=Td= mH sin d=mH(1-cos)

ポテンシャルの原点はどこにとってもよいから E=-mH mHのときエネルギーは極小になる

mはHに平行になろうとする(高梨初等磁気工学講座)より

r 磁気モーメント

m=qr [Wbm]

-q [Wb]

+q [Wb]

qH

-qH

rsin

単位E[J]=-m[Wbm] H[Am]

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 39: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

CoCu superlattice

Cu thickness (Aring)

磁気抵

抗比

図15

二重交換相互作用

LaMnO3ではすべてのMn原子は3価なので egバンドには1個の電子が存在しこの電子が隣接Mn原子のeg軌道に移動しようとすると電子相関エネルギーUだけのエネルギーが必要であるため電子移動は起きずモット絶縁体となっている

LaをSrで置き換え4価のMnが生じるとMn4+のeg軌道は空であるから他のMn3+から電子が移ることができ金属的な導電性を生じる

このとき隣接するMn原子の磁気モーメントのなす角とするとeg電子の飛び移りの確率はcos( 2)に比例する=0(スピンが平行)のとき飛び移りが最も起きやすく運動エネルギーの分だけエネルギーが下がるので強磁性となる

二重交換の模式図

Mn3+ Mn4+

3磁気ヒステリシス曲線と磁区

磁気ヒステリシスについて

反磁界と静磁エネルギー

磁気異方性

磁区と磁壁磁壁移動と磁化回転

保磁力

31 磁気ヒステリシス

強磁性体においてはその磁化は印加磁界に比例せずヒステリシスを示す

(高梨初等磁気工学講座テキスト)

OrarrBrarrC初磁化曲線

CrarrD 残留磁化

DrarrE 保磁力

CrarrDrarrErarrFrarrGrarrC

ヒステリシスループ

縦軸磁化

横軸磁界

[参考]

磁化曲線の測定法

磁性体を磁界中に置き磁界を増加していくと磁性体の磁化は増加していき次第に飽和する

磁化曲線は磁力計を使って測定する

VSM試料振動型磁力計試料を01~02mm程度のわずかな振幅で80Hz程度の低周波で振動させ試料の

磁化による磁束の時間変化を電磁石の磁極付近に置かれたサーチコイルに誘起された誘導起電力として検出する誘導起電力は試料の磁化に比例するので磁化を測定することができる

電磁石

磁極付近に置いたサーチコイル

スピーカーと同じ振動機構

[参考]

VSMブロック図

丸善実験物理学講座「磁気測定I」p68より

磁気ヒステリシスと応用

保磁力のちがいで用途が違う

Hc小軟質磁性体

磁気ヘッド変圧器鉄心磁気シールド

Hc中半硬質磁性体

磁気記録媒体

Hc大硬質磁性体

永久磁石このループの面積が磁石に蓄積される磁気エネルギー高周波の場合はヒステリシス損失となる

永久磁石の最大エネルギー積(BH)maxの変遷(httpwwwaacgbhamacukmagnetic_materialshistoryhtm)

BHmax

32 なぜ初磁化状態では磁化がないのか磁区(magnetic domain)

磁化が特定の方向を向くとするとN極からS極に向

かって磁力線が生じますこの磁力線は考えている試料の外を通っているだけでなく磁性体の内部も貫いていますこの磁力線を反磁界といいます反磁界の向きは磁化の向きとは反対向きなので磁化は回転する静磁力を受けて不安定となります

磁化の方向が逆方向の縞状の磁区と呼ばれる領域に分かれるならば反磁界がうち消し合って静磁エネルギーが低下して安定するのです

反磁界(demagnetization field)

磁性体表面の法線方向の磁化成分をMn とすると表面には単位面積あたり = Mnという大きさの磁極(Wbm2)が生じる

磁極からはガウスの定理によって全部で μ0の磁力線がわき出すこのうち反磁界係数Nを使って定義される磁力線NMは内部に向かっており残りは外側に向かっているすなわち磁石の内部ではMの向きとは逆方向の反磁界が存在する

外部では磁束線は磁力線に一致する

(b) 磁力線

M- +

(a)磁化と磁極 反磁界

S N

S N

(c) 磁束線

反磁界係数N (近角強磁性体の物理より)

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0

(i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+ Ny+ Nz=1

が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx= Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx= Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

x

y

z

z

x

y

z

x

y

Nz=1

Nx= 0Ny= 0

Nx= 12

Ny= 12

Nx=13

Ny=13

Nz=13

Nz=0

反磁界補正

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0 (i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+Ny+ Nz=1が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx=Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx=Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

(近角強磁性体の物理より)

反磁界と静磁エネルギー

磁化Mが反磁界HdのもとにおかれるとU=MHdだけポテンシャルエネルギーが高くなる

一様な磁界H中の磁気モーメントMに働くトルクTはT=-MH sin

磁気モーメントのもつポテンシャルEはU=Td= - 0

MH sin d=MH (1-cos) エネルギーの原点はどこにとってもよいのでポテンシャルエネルギーはU=-MHと表される H=-Hdを代入すると反磁界によるポテンシャルの増加はU=MHd

表面磁極の分割による静磁エネルギーの減少

結晶表面をxy面にとる

表面でz=0とする

磁区の磁化方向はplusmnz

磁区のx方向の幅d

磁極の表面密度=Is 2mdltxlt(2m+1)d

=-Is (2m+1)dltxlt2(m+1)d

磁気ポテンシャルをLaplaceの方程式で求め

+ +- -

z

x

y

d

境界条件( z)z=-0=20

境界条件のもとにラプラス方程式を解くと=n An sin n(d)xexp n(d)z

係数Anは次式を満たすように決められる(d) n nAn sin n(d)x =I20 2mdltxlt(2m+1)d

= - I20 (2m+1)dltxlt2(m+1)d

rarrAn=2Isd20n2

(x=0)=(2Isd20) n (1n2)sin n(d)x

単位表面積あたりの静磁エネルギー=(2Is

220) n (1n2)int0d sin n(d)x

=(2Is2d20) n=odd (1n3)=540104Is

2d

磁気異方性

磁性体は半導体と違って形状寸法結晶方位とか磁化の方位などによって物性が大きく変化する

1つの原因は上に述べた反磁界係数で形状磁気異方性と呼ばれます反磁界によるエネルギーの損を最小化することが原因です

このほかの原因として重要なのが結晶磁気異方性です結晶磁気異方性というのは磁界を結晶のどの方位に加えるかで磁化曲線が変化する性質です

電子軌道は結晶軸に結びついているので磁気的性質と電子軌道との結びつき(スピン軌道相互作用)を通じて磁性が結晶軸と結び

つくのです半導体にも詳しい測定をすると異方性を見ることができますこれに比べ一般に半導体の電子軌道は結晶全体に広がっているので平均化されて結晶軸に依存する物性が見えにくいです

結晶磁気異方性

磁化しやすさは結晶の方位に依存する

鉄は立方晶であるが[100]が容易軸[111]は困難軸

x

y

z

[111

]

[100

]

容易軸

困難軸

[110]

円板磁性体の磁区構造

全体が磁区に分かれることにより全体の磁化がなくなっているこれが初磁化状態である

磁区の内部では磁化は任意の方向をランダムに向いている訳ではない

磁化は結晶の方位と無関係な方向を向くことはできない磁性体には磁気異方性という性質があり磁化が特定の結晶軸方位(たとえばFeでは[001]方向および等価な方向)を向く性質がある

[001]容易軸では図のように(001)面内では[100][010][-100][0-10]の4つの方向を向くので90磁壁になる

[111]容易軸では

(a) (b)

(近角強磁性体の物理)

33 ヒステリシスを磁区で説明する

残留磁化状態 逆磁区の発生と成長

磁気飽和

核発生

34 さまざまな磁区とマイクロマグネティクス

Figは結晶の対称性により磁区が変わる様子の例として縞状磁区(stripe domain)と環流磁区(closure domain)を示している磁性体を微細化して直径1μm付近になるとスピンは面内に分布してvortex状態となり中心部に垂直方向のスピン成分をもつようになるさらに微細化すると単磁区になる

微小磁区のMFM観察

磁区の観察にはビッター法といって磁性微粒子を含むコロイドを磁性体上に滴下して光学顕微鏡で観察する方法が古くから使われているこのほか磁気光学顕微鏡ローレンツ電子顕微鏡磁気力顕微鏡走査型ホール顕微鏡走査型SQUID顕微鏡スピン偏極電子顕微鏡X線MCD顕微鏡などで観察することが可能であるFig 22にはいくつかの例について筆者のMFM観察結果を示す

10 nmtimes10 nmtimes10 nmMesh size

1Number of dot

200 nmtimes200 nmtimes100nm

Dot Size

Y directionEasy axis

02Damping constant(α)

-176times107 rad(sOe)Gyro magnetic constant(γ)

1000 ergcm3Anisotropic constant (Ku)

1times10-6 ergcm3Exchange field (A)

800 emucm3Saturation magnetization (Ms)

Hy = 10 kOe rarr 0 Oe

divM divMy

LLG 方程式を用いた

マイクロ磁気解析

Dot model

200 x 200thickness50 nm

Magnetic moment - dv M Force gradient

200 x 200thickness100 nm

90 degree walls propeller-like distortion

Calculation of a single dot

Spin structure

-divM

Isolated square dot

Force gradient image Spin distribution image

Four-dot system

Shift of the center occurs Reversal of chirality

MFM imagewith low-moment tip

(CoPtCr240Å in HV)

Spin distribution imagewith the force-gradientimage overlapped

Inversion of chirality

Comparison between MFM andsimulation of spin distribution

Simulation was carried outin the model structureconsisting of four squaredots with a dimension of200 nmtimes200 nmtimes20 nmwith 50nm separationbetween dots

The calculated spinstructure shows a closuredomain structure with the90-wall appears

The chirality of the spindirection in adjacent dots isopposite to each other asshown by white arrows

The Z-component force-gradient image taking intoaccount the tip-sampleinteraction is overlapped

Calculated magnetization configurationof Y-shaped permalloy dot

Calculation parametersWidth 300 nmThickness 100 nmEasy axis 0 ergcm3

x

y

z

Force gradient-divM

Force gradient(Magnified)

Experimental MFM images

bull Single domains appear in two armsbull Multi-domain of 4 chained closer-domains on the restbull Spin-flow at crossing region turns left in two steps

50

0n

m2

m

L

C

R

C

L

R

x

y

z

Calculated magnetization configurationsof Y-shaped permalloy mirror-dots

Calculation parametersWidth 200 nmThickness 40 nmEasy axis X 1000 ergcm3

Force gradient-divM

Single dot

Experimental MFM images

15 m

bull Calculated spin-flows similar to experimental resultbull Vortices with same chirality appear at the ends of all armsbull Chirality of adjacent dot shows a mirror-reflection

Easy axisEasy axis

Easy axis

Easy axis

-divM

4 おわりに

磁性特有のテクニカルタームがあるが慣れればそれほど難しいものではない

大部分の話は量子力学なしでも理解できる電磁気学の知識があればよい

応用につながるのは磁区磁壁の物理である

メゾスコピック系では量子的な現象が現れるこれが得意なスピン依存伝導現象をもたらす

[参考0]半導体磁性体誘電体

半導体と磁性体の対比

半導体 電子物性パラメータは基本的

にバンド構造で決まるキャリア密度は人為的に制御される

量子構造を考えない限り電子を古典粒子として有効質量近似で扱える

応用されるのは電子構造で決まる移動度などのミクロな電子物性である

電子物性が寸法方位形状にほとんど依存しない

単位系はCGSをもとにした実用単位系が使われる

磁性体 金属磁性体の磁性はスピン偏

極バンド構造で決まるが非金属磁性体の磁性は局在多電子系のフント則で決まる

交換相互作用スピン軌道相互作用など量子力学が基本

応用されるのは磁区により生じるヒステリシスに関連したマクロ磁気物性である

磁性は磁気異方性の影響を受け寸法方位形状により大幅に変化する

単位系が複雑でCGSとSIが混在して使われている

磁性体と誘電体の対比

磁性体

磁気モーメントμ(軸性ベクトル)

磁化M

自発磁化Ms

反磁界

磁気ヒステリシス

飽和磁化残留磁化保磁力

磁区(ドメイン)

キュリー温度

誘電体

電気双極子qr(極性ベクトル)

電気分極P

自発分極Ps

反電界

誘電ヒステリシス

飽和分極残留分極抗電界

分域(ドメイン)

キュリー温度

[参考1]

磁界磁束磁化

磁界(磁場)H磁束密度B磁化M

磁界H中に置かれた磁化Mの磁性体が磁束密

度は真空中の磁束密度に磁化による磁束密度を加えたものであるすなわちB=0H+M

B=0H B=0H+M

M

磁性体があると磁束密度が高くなる

真空中での磁束密度

磁化とは

物質に磁界を加えたとき物質の表面に磁極が生じ一時的に磁石のようになるがそのとき物質が磁化されたという

(b)(a)

(高梨初等磁気工学講座)より

磁化の定義

K番目の原子の1原子あ

たりの磁気モーメントをkとするときその単位体積についての総和k

を磁化Mと定義するM= k

磁気モーメントの単位はWbmであるから磁化の単位はWbm2となる

(高梨初等磁気工学講座)より

常磁性

磁極と磁気モーメント

磁石にはN極とS極がある

磁界中に置かれた磁性体にも磁極が誘起される磁極は必ずNSの対で現れる(単極は見つかっていない)

磁極の大きさをq [Wb]とすると磁界によってNSの対に働くトルクは-qdHsin [Nm]=qdsin [Wbm] H[Am]

必ずNとSが対で現れるならm=qrを磁性を扱う基本単

位と考えることが出来るこれを磁気モーメントという単位は[Wbm]

[参考2]

磁気モーメントの電子的起源

磁気モーメント

一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは

T=qH r sin=mH sin 磁気モーメントのもつポテンシャルEは

E=Td= mH sin d=mH(1-cos)

ポテンシャルの原点はどこにとってもよいから E=-mH mHのときエネルギーは極小になる

mはHに平行になろうとする(高梨初等磁気工学講座)より

r 磁気モーメント

m=qr [Wbm]

-q [Wb]

+q [Wb]

qH

-qH

rsin

単位E[J]=-m[Wbm] H[Am]

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 40: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

二重交換相互作用

LaMnO3ではすべてのMn原子は3価なので egバンドには1個の電子が存在しこの電子が隣接Mn原子のeg軌道に移動しようとすると電子相関エネルギーUだけのエネルギーが必要であるため電子移動は起きずモット絶縁体となっている

LaをSrで置き換え4価のMnが生じるとMn4+のeg軌道は空であるから他のMn3+から電子が移ることができ金属的な導電性を生じる

このとき隣接するMn原子の磁気モーメントのなす角とするとeg電子の飛び移りの確率はcos( 2)に比例する=0(スピンが平行)のとき飛び移りが最も起きやすく運動エネルギーの分だけエネルギーが下がるので強磁性となる

二重交換の模式図

Mn3+ Mn4+

3磁気ヒステリシス曲線と磁区

磁気ヒステリシスについて

反磁界と静磁エネルギー

磁気異方性

磁区と磁壁磁壁移動と磁化回転

保磁力

31 磁気ヒステリシス

強磁性体においてはその磁化は印加磁界に比例せずヒステリシスを示す

(高梨初等磁気工学講座テキスト)

OrarrBrarrC初磁化曲線

CrarrD 残留磁化

DrarrE 保磁力

CrarrDrarrErarrFrarrGrarrC

ヒステリシスループ

縦軸磁化

横軸磁界

[参考]

磁化曲線の測定法

磁性体を磁界中に置き磁界を増加していくと磁性体の磁化は増加していき次第に飽和する

磁化曲線は磁力計を使って測定する

VSM試料振動型磁力計試料を01~02mm程度のわずかな振幅で80Hz程度の低周波で振動させ試料の

磁化による磁束の時間変化を電磁石の磁極付近に置かれたサーチコイルに誘起された誘導起電力として検出する誘導起電力は試料の磁化に比例するので磁化を測定することができる

電磁石

磁極付近に置いたサーチコイル

スピーカーと同じ振動機構

[参考]

VSMブロック図

丸善実験物理学講座「磁気測定I」p68より

磁気ヒステリシスと応用

保磁力のちがいで用途が違う

Hc小軟質磁性体

磁気ヘッド変圧器鉄心磁気シールド

Hc中半硬質磁性体

磁気記録媒体

Hc大硬質磁性体

永久磁石このループの面積が磁石に蓄積される磁気エネルギー高周波の場合はヒステリシス損失となる

永久磁石の最大エネルギー積(BH)maxの変遷(httpwwwaacgbhamacukmagnetic_materialshistoryhtm)

BHmax

32 なぜ初磁化状態では磁化がないのか磁区(magnetic domain)

磁化が特定の方向を向くとするとN極からS極に向

かって磁力線が生じますこの磁力線は考えている試料の外を通っているだけでなく磁性体の内部も貫いていますこの磁力線を反磁界といいます反磁界の向きは磁化の向きとは反対向きなので磁化は回転する静磁力を受けて不安定となります

磁化の方向が逆方向の縞状の磁区と呼ばれる領域に分かれるならば反磁界がうち消し合って静磁エネルギーが低下して安定するのです

反磁界(demagnetization field)

磁性体表面の法線方向の磁化成分をMn とすると表面には単位面積あたり = Mnという大きさの磁極(Wbm2)が生じる

磁極からはガウスの定理によって全部で μ0の磁力線がわき出すこのうち反磁界係数Nを使って定義される磁力線NMは内部に向かっており残りは外側に向かっているすなわち磁石の内部ではMの向きとは逆方向の反磁界が存在する

外部では磁束線は磁力線に一致する

(b) 磁力線

M- +

(a)磁化と磁極 反磁界

S N

S N

(c) 磁束線

反磁界係数N (近角強磁性体の物理より)

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0

(i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+ Ny+ Nz=1

が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx= Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx= Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

x

y

z

z

x

y

z

x

y

Nz=1

Nx= 0Ny= 0

Nx= 12

Ny= 12

Nx=13

Ny=13

Nz=13

Nz=0

反磁界補正

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0 (i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+Ny+ Nz=1が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx=Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx=Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

(近角強磁性体の物理より)

反磁界と静磁エネルギー

磁化Mが反磁界HdのもとにおかれるとU=MHdだけポテンシャルエネルギーが高くなる

一様な磁界H中の磁気モーメントMに働くトルクTはT=-MH sin

磁気モーメントのもつポテンシャルEはU=Td= - 0

MH sin d=MH (1-cos) エネルギーの原点はどこにとってもよいのでポテンシャルエネルギーはU=-MHと表される H=-Hdを代入すると反磁界によるポテンシャルの増加はU=MHd

表面磁極の分割による静磁エネルギーの減少

結晶表面をxy面にとる

表面でz=0とする

磁区の磁化方向はplusmnz

磁区のx方向の幅d

磁極の表面密度=Is 2mdltxlt(2m+1)d

=-Is (2m+1)dltxlt2(m+1)d

磁気ポテンシャルをLaplaceの方程式で求め

+ +- -

z

x

y

d

境界条件( z)z=-0=20

境界条件のもとにラプラス方程式を解くと=n An sin n(d)xexp n(d)z

係数Anは次式を満たすように決められる(d) n nAn sin n(d)x =I20 2mdltxlt(2m+1)d

= - I20 (2m+1)dltxlt2(m+1)d

rarrAn=2Isd20n2

(x=0)=(2Isd20) n (1n2)sin n(d)x

単位表面積あたりの静磁エネルギー=(2Is

220) n (1n2)int0d sin n(d)x

=(2Is2d20) n=odd (1n3)=540104Is

2d

磁気異方性

磁性体は半導体と違って形状寸法結晶方位とか磁化の方位などによって物性が大きく変化する

1つの原因は上に述べた反磁界係数で形状磁気異方性と呼ばれます反磁界によるエネルギーの損を最小化することが原因です

このほかの原因として重要なのが結晶磁気異方性です結晶磁気異方性というのは磁界を結晶のどの方位に加えるかで磁化曲線が変化する性質です

電子軌道は結晶軸に結びついているので磁気的性質と電子軌道との結びつき(スピン軌道相互作用)を通じて磁性が結晶軸と結び

つくのです半導体にも詳しい測定をすると異方性を見ることができますこれに比べ一般に半導体の電子軌道は結晶全体に広がっているので平均化されて結晶軸に依存する物性が見えにくいです

結晶磁気異方性

磁化しやすさは結晶の方位に依存する

鉄は立方晶であるが[100]が容易軸[111]は困難軸

x

y

z

[111

]

[100

]

容易軸

困難軸

[110]

円板磁性体の磁区構造

全体が磁区に分かれることにより全体の磁化がなくなっているこれが初磁化状態である

磁区の内部では磁化は任意の方向をランダムに向いている訳ではない

磁化は結晶の方位と無関係な方向を向くことはできない磁性体には磁気異方性という性質があり磁化が特定の結晶軸方位(たとえばFeでは[001]方向および等価な方向)を向く性質がある

[001]容易軸では図のように(001)面内では[100][010][-100][0-10]の4つの方向を向くので90磁壁になる

[111]容易軸では

(a) (b)

(近角強磁性体の物理)

33 ヒステリシスを磁区で説明する

残留磁化状態 逆磁区の発生と成長

磁気飽和

核発生

34 さまざまな磁区とマイクロマグネティクス

Figは結晶の対称性により磁区が変わる様子の例として縞状磁区(stripe domain)と環流磁区(closure domain)を示している磁性体を微細化して直径1μm付近になるとスピンは面内に分布してvortex状態となり中心部に垂直方向のスピン成分をもつようになるさらに微細化すると単磁区になる

微小磁区のMFM観察

磁区の観察にはビッター法といって磁性微粒子を含むコロイドを磁性体上に滴下して光学顕微鏡で観察する方法が古くから使われているこのほか磁気光学顕微鏡ローレンツ電子顕微鏡磁気力顕微鏡走査型ホール顕微鏡走査型SQUID顕微鏡スピン偏極電子顕微鏡X線MCD顕微鏡などで観察することが可能であるFig 22にはいくつかの例について筆者のMFM観察結果を示す

10 nmtimes10 nmtimes10 nmMesh size

1Number of dot

200 nmtimes200 nmtimes100nm

Dot Size

Y directionEasy axis

02Damping constant(α)

-176times107 rad(sOe)Gyro magnetic constant(γ)

1000 ergcm3Anisotropic constant (Ku)

1times10-6 ergcm3Exchange field (A)

800 emucm3Saturation magnetization (Ms)

Hy = 10 kOe rarr 0 Oe

divM divMy

LLG 方程式を用いた

マイクロ磁気解析

Dot model

200 x 200thickness50 nm

Magnetic moment - dv M Force gradient

200 x 200thickness100 nm

90 degree walls propeller-like distortion

Calculation of a single dot

Spin structure

-divM

Isolated square dot

Force gradient image Spin distribution image

Four-dot system

Shift of the center occurs Reversal of chirality

MFM imagewith low-moment tip

(CoPtCr240Å in HV)

Spin distribution imagewith the force-gradientimage overlapped

Inversion of chirality

Comparison between MFM andsimulation of spin distribution

Simulation was carried outin the model structureconsisting of four squaredots with a dimension of200 nmtimes200 nmtimes20 nmwith 50nm separationbetween dots

The calculated spinstructure shows a closuredomain structure with the90-wall appears

The chirality of the spindirection in adjacent dots isopposite to each other asshown by white arrows

The Z-component force-gradient image taking intoaccount the tip-sampleinteraction is overlapped

Calculated magnetization configurationof Y-shaped permalloy dot

Calculation parametersWidth 300 nmThickness 100 nmEasy axis 0 ergcm3

x

y

z

Force gradient-divM

Force gradient(Magnified)

Experimental MFM images

bull Single domains appear in two armsbull Multi-domain of 4 chained closer-domains on the restbull Spin-flow at crossing region turns left in two steps

50

0n

m2

m

L

C

R

C

L

R

x

y

z

Calculated magnetization configurationsof Y-shaped permalloy mirror-dots

Calculation parametersWidth 200 nmThickness 40 nmEasy axis X 1000 ergcm3

Force gradient-divM

Single dot

Experimental MFM images

15 m

bull Calculated spin-flows similar to experimental resultbull Vortices with same chirality appear at the ends of all armsbull Chirality of adjacent dot shows a mirror-reflection

Easy axisEasy axis

Easy axis

Easy axis

-divM

4 おわりに

磁性特有のテクニカルタームがあるが慣れればそれほど難しいものではない

大部分の話は量子力学なしでも理解できる電磁気学の知識があればよい

応用につながるのは磁区磁壁の物理である

メゾスコピック系では量子的な現象が現れるこれが得意なスピン依存伝導現象をもたらす

[参考0]半導体磁性体誘電体

半導体と磁性体の対比

半導体 電子物性パラメータは基本的

にバンド構造で決まるキャリア密度は人為的に制御される

量子構造を考えない限り電子を古典粒子として有効質量近似で扱える

応用されるのは電子構造で決まる移動度などのミクロな電子物性である

電子物性が寸法方位形状にほとんど依存しない

単位系はCGSをもとにした実用単位系が使われる

磁性体 金属磁性体の磁性はスピン偏

極バンド構造で決まるが非金属磁性体の磁性は局在多電子系のフント則で決まる

交換相互作用スピン軌道相互作用など量子力学が基本

応用されるのは磁区により生じるヒステリシスに関連したマクロ磁気物性である

磁性は磁気異方性の影響を受け寸法方位形状により大幅に変化する

単位系が複雑でCGSとSIが混在して使われている

磁性体と誘電体の対比

磁性体

磁気モーメントμ(軸性ベクトル)

磁化M

自発磁化Ms

反磁界

磁気ヒステリシス

飽和磁化残留磁化保磁力

磁区(ドメイン)

キュリー温度

誘電体

電気双極子qr(極性ベクトル)

電気分極P

自発分極Ps

反電界

誘電ヒステリシス

飽和分極残留分極抗電界

分域(ドメイン)

キュリー温度

[参考1]

磁界磁束磁化

磁界(磁場)H磁束密度B磁化M

磁界H中に置かれた磁化Mの磁性体が磁束密

度は真空中の磁束密度に磁化による磁束密度を加えたものであるすなわちB=0H+M

B=0H B=0H+M

M

磁性体があると磁束密度が高くなる

真空中での磁束密度

磁化とは

物質に磁界を加えたとき物質の表面に磁極が生じ一時的に磁石のようになるがそのとき物質が磁化されたという

(b)(a)

(高梨初等磁気工学講座)より

磁化の定義

K番目の原子の1原子あ

たりの磁気モーメントをkとするときその単位体積についての総和k

を磁化Mと定義するM= k

磁気モーメントの単位はWbmであるから磁化の単位はWbm2となる

(高梨初等磁気工学講座)より

常磁性

磁極と磁気モーメント

磁石にはN極とS極がある

磁界中に置かれた磁性体にも磁極が誘起される磁極は必ずNSの対で現れる(単極は見つかっていない)

磁極の大きさをq [Wb]とすると磁界によってNSの対に働くトルクは-qdHsin [Nm]=qdsin [Wbm] H[Am]

必ずNとSが対で現れるならm=qrを磁性を扱う基本単

位と考えることが出来るこれを磁気モーメントという単位は[Wbm]

[参考2]

磁気モーメントの電子的起源

磁気モーメント

一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは

T=qH r sin=mH sin 磁気モーメントのもつポテンシャルEは

E=Td= mH sin d=mH(1-cos)

ポテンシャルの原点はどこにとってもよいから E=-mH mHのときエネルギーは極小になる

mはHに平行になろうとする(高梨初等磁気工学講座)より

r 磁気モーメント

m=qr [Wbm]

-q [Wb]

+q [Wb]

qH

-qH

rsin

単位E[J]=-m[Wbm] H[Am]

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 41: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

二重交換の模式図

Mn3+ Mn4+

3磁気ヒステリシス曲線と磁区

磁気ヒステリシスについて

反磁界と静磁エネルギー

磁気異方性

磁区と磁壁磁壁移動と磁化回転

保磁力

31 磁気ヒステリシス

強磁性体においてはその磁化は印加磁界に比例せずヒステリシスを示す

(高梨初等磁気工学講座テキスト)

OrarrBrarrC初磁化曲線

CrarrD 残留磁化

DrarrE 保磁力

CrarrDrarrErarrFrarrGrarrC

ヒステリシスループ

縦軸磁化

横軸磁界

[参考]

磁化曲線の測定法

磁性体を磁界中に置き磁界を増加していくと磁性体の磁化は増加していき次第に飽和する

磁化曲線は磁力計を使って測定する

VSM試料振動型磁力計試料を01~02mm程度のわずかな振幅で80Hz程度の低周波で振動させ試料の

磁化による磁束の時間変化を電磁石の磁極付近に置かれたサーチコイルに誘起された誘導起電力として検出する誘導起電力は試料の磁化に比例するので磁化を測定することができる

電磁石

磁極付近に置いたサーチコイル

スピーカーと同じ振動機構

[参考]

VSMブロック図

丸善実験物理学講座「磁気測定I」p68より

磁気ヒステリシスと応用

保磁力のちがいで用途が違う

Hc小軟質磁性体

磁気ヘッド変圧器鉄心磁気シールド

Hc中半硬質磁性体

磁気記録媒体

Hc大硬質磁性体

永久磁石このループの面積が磁石に蓄積される磁気エネルギー高周波の場合はヒステリシス損失となる

永久磁石の最大エネルギー積(BH)maxの変遷(httpwwwaacgbhamacukmagnetic_materialshistoryhtm)

BHmax

32 なぜ初磁化状態では磁化がないのか磁区(magnetic domain)

磁化が特定の方向を向くとするとN極からS極に向

かって磁力線が生じますこの磁力線は考えている試料の外を通っているだけでなく磁性体の内部も貫いていますこの磁力線を反磁界といいます反磁界の向きは磁化の向きとは反対向きなので磁化は回転する静磁力を受けて不安定となります

磁化の方向が逆方向の縞状の磁区と呼ばれる領域に分かれるならば反磁界がうち消し合って静磁エネルギーが低下して安定するのです

反磁界(demagnetization field)

磁性体表面の法線方向の磁化成分をMn とすると表面には単位面積あたり = Mnという大きさの磁極(Wbm2)が生じる

磁極からはガウスの定理によって全部で μ0の磁力線がわき出すこのうち反磁界係数Nを使って定義される磁力線NMは内部に向かっており残りは外側に向かっているすなわち磁石の内部ではMの向きとは逆方向の反磁界が存在する

外部では磁束線は磁力線に一致する

(b) 磁力線

M- +

(a)磁化と磁極 反磁界

S N

S N

(c) 磁束線

反磁界係数N (近角強磁性体の物理より)

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0

(i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+ Ny+ Nz=1

が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx= Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx= Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

x

y

z

z

x

y

z

x

y

Nz=1

Nx= 0Ny= 0

Nx= 12

Ny= 12

Nx=13

Ny=13

Nz=13

Nz=0

反磁界補正

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0 (i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+Ny+ Nz=1が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx=Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx=Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

(近角強磁性体の物理より)

反磁界と静磁エネルギー

磁化Mが反磁界HdのもとにおかれるとU=MHdだけポテンシャルエネルギーが高くなる

一様な磁界H中の磁気モーメントMに働くトルクTはT=-MH sin

磁気モーメントのもつポテンシャルEはU=Td= - 0

MH sin d=MH (1-cos) エネルギーの原点はどこにとってもよいのでポテンシャルエネルギーはU=-MHと表される H=-Hdを代入すると反磁界によるポテンシャルの増加はU=MHd

表面磁極の分割による静磁エネルギーの減少

結晶表面をxy面にとる

表面でz=0とする

磁区の磁化方向はplusmnz

磁区のx方向の幅d

磁極の表面密度=Is 2mdltxlt(2m+1)d

=-Is (2m+1)dltxlt2(m+1)d

磁気ポテンシャルをLaplaceの方程式で求め

+ +- -

z

x

y

d

境界条件( z)z=-0=20

境界条件のもとにラプラス方程式を解くと=n An sin n(d)xexp n(d)z

係数Anは次式を満たすように決められる(d) n nAn sin n(d)x =I20 2mdltxlt(2m+1)d

= - I20 (2m+1)dltxlt2(m+1)d

rarrAn=2Isd20n2

(x=0)=(2Isd20) n (1n2)sin n(d)x

単位表面積あたりの静磁エネルギー=(2Is

220) n (1n2)int0d sin n(d)x

=(2Is2d20) n=odd (1n3)=540104Is

2d

磁気異方性

磁性体は半導体と違って形状寸法結晶方位とか磁化の方位などによって物性が大きく変化する

1つの原因は上に述べた反磁界係数で形状磁気異方性と呼ばれます反磁界によるエネルギーの損を最小化することが原因です

このほかの原因として重要なのが結晶磁気異方性です結晶磁気異方性というのは磁界を結晶のどの方位に加えるかで磁化曲線が変化する性質です

電子軌道は結晶軸に結びついているので磁気的性質と電子軌道との結びつき(スピン軌道相互作用)を通じて磁性が結晶軸と結び

つくのです半導体にも詳しい測定をすると異方性を見ることができますこれに比べ一般に半導体の電子軌道は結晶全体に広がっているので平均化されて結晶軸に依存する物性が見えにくいです

結晶磁気異方性

磁化しやすさは結晶の方位に依存する

鉄は立方晶であるが[100]が容易軸[111]は困難軸

x

y

z

[111

]

[100

]

容易軸

困難軸

[110]

円板磁性体の磁区構造

全体が磁区に分かれることにより全体の磁化がなくなっているこれが初磁化状態である

磁区の内部では磁化は任意の方向をランダムに向いている訳ではない

磁化は結晶の方位と無関係な方向を向くことはできない磁性体には磁気異方性という性質があり磁化が特定の結晶軸方位(たとえばFeでは[001]方向および等価な方向)を向く性質がある

[001]容易軸では図のように(001)面内では[100][010][-100][0-10]の4つの方向を向くので90磁壁になる

[111]容易軸では

(a) (b)

(近角強磁性体の物理)

33 ヒステリシスを磁区で説明する

残留磁化状態 逆磁区の発生と成長

磁気飽和

核発生

34 さまざまな磁区とマイクロマグネティクス

Figは結晶の対称性により磁区が変わる様子の例として縞状磁区(stripe domain)と環流磁区(closure domain)を示している磁性体を微細化して直径1μm付近になるとスピンは面内に分布してvortex状態となり中心部に垂直方向のスピン成分をもつようになるさらに微細化すると単磁区になる

微小磁区のMFM観察

磁区の観察にはビッター法といって磁性微粒子を含むコロイドを磁性体上に滴下して光学顕微鏡で観察する方法が古くから使われているこのほか磁気光学顕微鏡ローレンツ電子顕微鏡磁気力顕微鏡走査型ホール顕微鏡走査型SQUID顕微鏡スピン偏極電子顕微鏡X線MCD顕微鏡などで観察することが可能であるFig 22にはいくつかの例について筆者のMFM観察結果を示す

10 nmtimes10 nmtimes10 nmMesh size

1Number of dot

200 nmtimes200 nmtimes100nm

Dot Size

Y directionEasy axis

02Damping constant(α)

-176times107 rad(sOe)Gyro magnetic constant(γ)

1000 ergcm3Anisotropic constant (Ku)

1times10-6 ergcm3Exchange field (A)

800 emucm3Saturation magnetization (Ms)

Hy = 10 kOe rarr 0 Oe

divM divMy

LLG 方程式を用いた

マイクロ磁気解析

Dot model

200 x 200thickness50 nm

Magnetic moment - dv M Force gradient

200 x 200thickness100 nm

90 degree walls propeller-like distortion

Calculation of a single dot

Spin structure

-divM

Isolated square dot

Force gradient image Spin distribution image

Four-dot system

Shift of the center occurs Reversal of chirality

MFM imagewith low-moment tip

(CoPtCr240Å in HV)

Spin distribution imagewith the force-gradientimage overlapped

Inversion of chirality

Comparison between MFM andsimulation of spin distribution

Simulation was carried outin the model structureconsisting of four squaredots with a dimension of200 nmtimes200 nmtimes20 nmwith 50nm separationbetween dots

The calculated spinstructure shows a closuredomain structure with the90-wall appears

The chirality of the spindirection in adjacent dots isopposite to each other asshown by white arrows

The Z-component force-gradient image taking intoaccount the tip-sampleinteraction is overlapped

Calculated magnetization configurationof Y-shaped permalloy dot

Calculation parametersWidth 300 nmThickness 100 nmEasy axis 0 ergcm3

x

y

z

Force gradient-divM

Force gradient(Magnified)

Experimental MFM images

bull Single domains appear in two armsbull Multi-domain of 4 chained closer-domains on the restbull Spin-flow at crossing region turns left in two steps

50

0n

m2

m

L

C

R

C

L

R

x

y

z

Calculated magnetization configurationsof Y-shaped permalloy mirror-dots

Calculation parametersWidth 200 nmThickness 40 nmEasy axis X 1000 ergcm3

Force gradient-divM

Single dot

Experimental MFM images

15 m

bull Calculated spin-flows similar to experimental resultbull Vortices with same chirality appear at the ends of all armsbull Chirality of adjacent dot shows a mirror-reflection

Easy axisEasy axis

Easy axis

Easy axis

-divM

4 おわりに

磁性特有のテクニカルタームがあるが慣れればそれほど難しいものではない

大部分の話は量子力学なしでも理解できる電磁気学の知識があればよい

応用につながるのは磁区磁壁の物理である

メゾスコピック系では量子的な現象が現れるこれが得意なスピン依存伝導現象をもたらす

[参考0]半導体磁性体誘電体

半導体と磁性体の対比

半導体 電子物性パラメータは基本的

にバンド構造で決まるキャリア密度は人為的に制御される

量子構造を考えない限り電子を古典粒子として有効質量近似で扱える

応用されるのは電子構造で決まる移動度などのミクロな電子物性である

電子物性が寸法方位形状にほとんど依存しない

単位系はCGSをもとにした実用単位系が使われる

磁性体 金属磁性体の磁性はスピン偏

極バンド構造で決まるが非金属磁性体の磁性は局在多電子系のフント則で決まる

交換相互作用スピン軌道相互作用など量子力学が基本

応用されるのは磁区により生じるヒステリシスに関連したマクロ磁気物性である

磁性は磁気異方性の影響を受け寸法方位形状により大幅に変化する

単位系が複雑でCGSとSIが混在して使われている

磁性体と誘電体の対比

磁性体

磁気モーメントμ(軸性ベクトル)

磁化M

自発磁化Ms

反磁界

磁気ヒステリシス

飽和磁化残留磁化保磁力

磁区(ドメイン)

キュリー温度

誘電体

電気双極子qr(極性ベクトル)

電気分極P

自発分極Ps

反電界

誘電ヒステリシス

飽和分極残留分極抗電界

分域(ドメイン)

キュリー温度

[参考1]

磁界磁束磁化

磁界(磁場)H磁束密度B磁化M

磁界H中に置かれた磁化Mの磁性体が磁束密

度は真空中の磁束密度に磁化による磁束密度を加えたものであるすなわちB=0H+M

B=0H B=0H+M

M

磁性体があると磁束密度が高くなる

真空中での磁束密度

磁化とは

物質に磁界を加えたとき物質の表面に磁極が生じ一時的に磁石のようになるがそのとき物質が磁化されたという

(b)(a)

(高梨初等磁気工学講座)より

磁化の定義

K番目の原子の1原子あ

たりの磁気モーメントをkとするときその単位体積についての総和k

を磁化Mと定義するM= k

磁気モーメントの単位はWbmであるから磁化の単位はWbm2となる

(高梨初等磁気工学講座)より

常磁性

磁極と磁気モーメント

磁石にはN極とS極がある

磁界中に置かれた磁性体にも磁極が誘起される磁極は必ずNSの対で現れる(単極は見つかっていない)

磁極の大きさをq [Wb]とすると磁界によってNSの対に働くトルクは-qdHsin [Nm]=qdsin [Wbm] H[Am]

必ずNとSが対で現れるならm=qrを磁性を扱う基本単

位と考えることが出来るこれを磁気モーメントという単位は[Wbm]

[参考2]

磁気モーメントの電子的起源

磁気モーメント

一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは

T=qH r sin=mH sin 磁気モーメントのもつポテンシャルEは

E=Td= mH sin d=mH(1-cos)

ポテンシャルの原点はどこにとってもよいから E=-mH mHのときエネルギーは極小になる

mはHに平行になろうとする(高梨初等磁気工学講座)より

r 磁気モーメント

m=qr [Wbm]

-q [Wb]

+q [Wb]

qH

-qH

rsin

単位E[J]=-m[Wbm] H[Am]

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 42: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

3磁気ヒステリシス曲線と磁区

磁気ヒステリシスについて

反磁界と静磁エネルギー

磁気異方性

磁区と磁壁磁壁移動と磁化回転

保磁力

31 磁気ヒステリシス

強磁性体においてはその磁化は印加磁界に比例せずヒステリシスを示す

(高梨初等磁気工学講座テキスト)

OrarrBrarrC初磁化曲線

CrarrD 残留磁化

DrarrE 保磁力

CrarrDrarrErarrFrarrGrarrC

ヒステリシスループ

縦軸磁化

横軸磁界

[参考]

磁化曲線の測定法

磁性体を磁界中に置き磁界を増加していくと磁性体の磁化は増加していき次第に飽和する

磁化曲線は磁力計を使って測定する

VSM試料振動型磁力計試料を01~02mm程度のわずかな振幅で80Hz程度の低周波で振動させ試料の

磁化による磁束の時間変化を電磁石の磁極付近に置かれたサーチコイルに誘起された誘導起電力として検出する誘導起電力は試料の磁化に比例するので磁化を測定することができる

電磁石

磁極付近に置いたサーチコイル

スピーカーと同じ振動機構

[参考]

VSMブロック図

丸善実験物理学講座「磁気測定I」p68より

磁気ヒステリシスと応用

保磁力のちがいで用途が違う

Hc小軟質磁性体

磁気ヘッド変圧器鉄心磁気シールド

Hc中半硬質磁性体

磁気記録媒体

Hc大硬質磁性体

永久磁石このループの面積が磁石に蓄積される磁気エネルギー高周波の場合はヒステリシス損失となる

永久磁石の最大エネルギー積(BH)maxの変遷(httpwwwaacgbhamacukmagnetic_materialshistoryhtm)

BHmax

32 なぜ初磁化状態では磁化がないのか磁区(magnetic domain)

磁化が特定の方向を向くとするとN極からS極に向

かって磁力線が生じますこの磁力線は考えている試料の外を通っているだけでなく磁性体の内部も貫いていますこの磁力線を反磁界といいます反磁界の向きは磁化の向きとは反対向きなので磁化は回転する静磁力を受けて不安定となります

磁化の方向が逆方向の縞状の磁区と呼ばれる領域に分かれるならば反磁界がうち消し合って静磁エネルギーが低下して安定するのです

反磁界(demagnetization field)

磁性体表面の法線方向の磁化成分をMn とすると表面には単位面積あたり = Mnという大きさの磁極(Wbm2)が生じる

磁極からはガウスの定理によって全部で μ0の磁力線がわき出すこのうち反磁界係数Nを使って定義される磁力線NMは内部に向かっており残りは外側に向かっているすなわち磁石の内部ではMの向きとは逆方向の反磁界が存在する

外部では磁束線は磁力線に一致する

(b) 磁力線

M- +

(a)磁化と磁極 反磁界

S N

S N

(c) 磁束線

反磁界係数N (近角強磁性体の物理より)

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0

(i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+ Ny+ Nz=1

が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx= Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx= Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

x

y

z

z

x

y

z

x

y

Nz=1

Nx= 0Ny= 0

Nx= 12

Ny= 12

Nx=13

Ny=13

Nz=13

Nz=0

反磁界補正

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0 (i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+Ny+ Nz=1が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx=Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx=Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

(近角強磁性体の物理より)

反磁界と静磁エネルギー

磁化Mが反磁界HdのもとにおかれるとU=MHdだけポテンシャルエネルギーが高くなる

一様な磁界H中の磁気モーメントMに働くトルクTはT=-MH sin

磁気モーメントのもつポテンシャルEはU=Td= - 0

MH sin d=MH (1-cos) エネルギーの原点はどこにとってもよいのでポテンシャルエネルギーはU=-MHと表される H=-Hdを代入すると反磁界によるポテンシャルの増加はU=MHd

表面磁極の分割による静磁エネルギーの減少

結晶表面をxy面にとる

表面でz=0とする

磁区の磁化方向はplusmnz

磁区のx方向の幅d

磁極の表面密度=Is 2mdltxlt(2m+1)d

=-Is (2m+1)dltxlt2(m+1)d

磁気ポテンシャルをLaplaceの方程式で求め

+ +- -

z

x

y

d

境界条件( z)z=-0=20

境界条件のもとにラプラス方程式を解くと=n An sin n(d)xexp n(d)z

係数Anは次式を満たすように決められる(d) n nAn sin n(d)x =I20 2mdltxlt(2m+1)d

= - I20 (2m+1)dltxlt2(m+1)d

rarrAn=2Isd20n2

(x=0)=(2Isd20) n (1n2)sin n(d)x

単位表面積あたりの静磁エネルギー=(2Is

220) n (1n2)int0d sin n(d)x

=(2Is2d20) n=odd (1n3)=540104Is

2d

磁気異方性

磁性体は半導体と違って形状寸法結晶方位とか磁化の方位などによって物性が大きく変化する

1つの原因は上に述べた反磁界係数で形状磁気異方性と呼ばれます反磁界によるエネルギーの損を最小化することが原因です

このほかの原因として重要なのが結晶磁気異方性です結晶磁気異方性というのは磁界を結晶のどの方位に加えるかで磁化曲線が変化する性質です

電子軌道は結晶軸に結びついているので磁気的性質と電子軌道との結びつき(スピン軌道相互作用)を通じて磁性が結晶軸と結び

つくのです半導体にも詳しい測定をすると異方性を見ることができますこれに比べ一般に半導体の電子軌道は結晶全体に広がっているので平均化されて結晶軸に依存する物性が見えにくいです

結晶磁気異方性

磁化しやすさは結晶の方位に依存する

鉄は立方晶であるが[100]が容易軸[111]は困難軸

x

y

z

[111

]

[100

]

容易軸

困難軸

[110]

円板磁性体の磁区構造

全体が磁区に分かれることにより全体の磁化がなくなっているこれが初磁化状態である

磁区の内部では磁化は任意の方向をランダムに向いている訳ではない

磁化は結晶の方位と無関係な方向を向くことはできない磁性体には磁気異方性という性質があり磁化が特定の結晶軸方位(たとえばFeでは[001]方向および等価な方向)を向く性質がある

[001]容易軸では図のように(001)面内では[100][010][-100][0-10]の4つの方向を向くので90磁壁になる

[111]容易軸では

(a) (b)

(近角強磁性体の物理)

33 ヒステリシスを磁区で説明する

残留磁化状態 逆磁区の発生と成長

磁気飽和

核発生

34 さまざまな磁区とマイクロマグネティクス

Figは結晶の対称性により磁区が変わる様子の例として縞状磁区(stripe domain)と環流磁区(closure domain)を示している磁性体を微細化して直径1μm付近になるとスピンは面内に分布してvortex状態となり中心部に垂直方向のスピン成分をもつようになるさらに微細化すると単磁区になる

微小磁区のMFM観察

磁区の観察にはビッター法といって磁性微粒子を含むコロイドを磁性体上に滴下して光学顕微鏡で観察する方法が古くから使われているこのほか磁気光学顕微鏡ローレンツ電子顕微鏡磁気力顕微鏡走査型ホール顕微鏡走査型SQUID顕微鏡スピン偏極電子顕微鏡X線MCD顕微鏡などで観察することが可能であるFig 22にはいくつかの例について筆者のMFM観察結果を示す

10 nmtimes10 nmtimes10 nmMesh size

1Number of dot

200 nmtimes200 nmtimes100nm

Dot Size

Y directionEasy axis

02Damping constant(α)

-176times107 rad(sOe)Gyro magnetic constant(γ)

1000 ergcm3Anisotropic constant (Ku)

1times10-6 ergcm3Exchange field (A)

800 emucm3Saturation magnetization (Ms)

Hy = 10 kOe rarr 0 Oe

divM divMy

LLG 方程式を用いた

マイクロ磁気解析

Dot model

200 x 200thickness50 nm

Magnetic moment - dv M Force gradient

200 x 200thickness100 nm

90 degree walls propeller-like distortion

Calculation of a single dot

Spin structure

-divM

Isolated square dot

Force gradient image Spin distribution image

Four-dot system

Shift of the center occurs Reversal of chirality

MFM imagewith low-moment tip

(CoPtCr240Å in HV)

Spin distribution imagewith the force-gradientimage overlapped

Inversion of chirality

Comparison between MFM andsimulation of spin distribution

Simulation was carried outin the model structureconsisting of four squaredots with a dimension of200 nmtimes200 nmtimes20 nmwith 50nm separationbetween dots

The calculated spinstructure shows a closuredomain structure with the90-wall appears

The chirality of the spindirection in adjacent dots isopposite to each other asshown by white arrows

The Z-component force-gradient image taking intoaccount the tip-sampleinteraction is overlapped

Calculated magnetization configurationof Y-shaped permalloy dot

Calculation parametersWidth 300 nmThickness 100 nmEasy axis 0 ergcm3

x

y

z

Force gradient-divM

Force gradient(Magnified)

Experimental MFM images

bull Single domains appear in two armsbull Multi-domain of 4 chained closer-domains on the restbull Spin-flow at crossing region turns left in two steps

50

0n

m2

m

L

C

R

C

L

R

x

y

z

Calculated magnetization configurationsof Y-shaped permalloy mirror-dots

Calculation parametersWidth 200 nmThickness 40 nmEasy axis X 1000 ergcm3

Force gradient-divM

Single dot

Experimental MFM images

15 m

bull Calculated spin-flows similar to experimental resultbull Vortices with same chirality appear at the ends of all armsbull Chirality of adjacent dot shows a mirror-reflection

Easy axisEasy axis

Easy axis

Easy axis

-divM

4 おわりに

磁性特有のテクニカルタームがあるが慣れればそれほど難しいものではない

大部分の話は量子力学なしでも理解できる電磁気学の知識があればよい

応用につながるのは磁区磁壁の物理である

メゾスコピック系では量子的な現象が現れるこれが得意なスピン依存伝導現象をもたらす

[参考0]半導体磁性体誘電体

半導体と磁性体の対比

半導体 電子物性パラメータは基本的

にバンド構造で決まるキャリア密度は人為的に制御される

量子構造を考えない限り電子を古典粒子として有効質量近似で扱える

応用されるのは電子構造で決まる移動度などのミクロな電子物性である

電子物性が寸法方位形状にほとんど依存しない

単位系はCGSをもとにした実用単位系が使われる

磁性体 金属磁性体の磁性はスピン偏

極バンド構造で決まるが非金属磁性体の磁性は局在多電子系のフント則で決まる

交換相互作用スピン軌道相互作用など量子力学が基本

応用されるのは磁区により生じるヒステリシスに関連したマクロ磁気物性である

磁性は磁気異方性の影響を受け寸法方位形状により大幅に変化する

単位系が複雑でCGSとSIが混在して使われている

磁性体と誘電体の対比

磁性体

磁気モーメントμ(軸性ベクトル)

磁化M

自発磁化Ms

反磁界

磁気ヒステリシス

飽和磁化残留磁化保磁力

磁区(ドメイン)

キュリー温度

誘電体

電気双極子qr(極性ベクトル)

電気分極P

自発分極Ps

反電界

誘電ヒステリシス

飽和分極残留分極抗電界

分域(ドメイン)

キュリー温度

[参考1]

磁界磁束磁化

磁界(磁場)H磁束密度B磁化M

磁界H中に置かれた磁化Mの磁性体が磁束密

度は真空中の磁束密度に磁化による磁束密度を加えたものであるすなわちB=0H+M

B=0H B=0H+M

M

磁性体があると磁束密度が高くなる

真空中での磁束密度

磁化とは

物質に磁界を加えたとき物質の表面に磁極が生じ一時的に磁石のようになるがそのとき物質が磁化されたという

(b)(a)

(高梨初等磁気工学講座)より

磁化の定義

K番目の原子の1原子あ

たりの磁気モーメントをkとするときその単位体積についての総和k

を磁化Mと定義するM= k

磁気モーメントの単位はWbmであるから磁化の単位はWbm2となる

(高梨初等磁気工学講座)より

常磁性

磁極と磁気モーメント

磁石にはN極とS極がある

磁界中に置かれた磁性体にも磁極が誘起される磁極は必ずNSの対で現れる(単極は見つかっていない)

磁極の大きさをq [Wb]とすると磁界によってNSの対に働くトルクは-qdHsin [Nm]=qdsin [Wbm] H[Am]

必ずNとSが対で現れるならm=qrを磁性を扱う基本単

位と考えることが出来るこれを磁気モーメントという単位は[Wbm]

[参考2]

磁気モーメントの電子的起源

磁気モーメント

一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは

T=qH r sin=mH sin 磁気モーメントのもつポテンシャルEは

E=Td= mH sin d=mH(1-cos)

ポテンシャルの原点はどこにとってもよいから E=-mH mHのときエネルギーは極小になる

mはHに平行になろうとする(高梨初等磁気工学講座)より

r 磁気モーメント

m=qr [Wbm]

-q [Wb]

+q [Wb]

qH

-qH

rsin

単位E[J]=-m[Wbm] H[Am]

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 43: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

31 磁気ヒステリシス

強磁性体においてはその磁化は印加磁界に比例せずヒステリシスを示す

(高梨初等磁気工学講座テキスト)

OrarrBrarrC初磁化曲線

CrarrD 残留磁化

DrarrE 保磁力

CrarrDrarrErarrFrarrGrarrC

ヒステリシスループ

縦軸磁化

横軸磁界

[参考]

磁化曲線の測定法

磁性体を磁界中に置き磁界を増加していくと磁性体の磁化は増加していき次第に飽和する

磁化曲線は磁力計を使って測定する

VSM試料振動型磁力計試料を01~02mm程度のわずかな振幅で80Hz程度の低周波で振動させ試料の

磁化による磁束の時間変化を電磁石の磁極付近に置かれたサーチコイルに誘起された誘導起電力として検出する誘導起電力は試料の磁化に比例するので磁化を測定することができる

電磁石

磁極付近に置いたサーチコイル

スピーカーと同じ振動機構

[参考]

VSMブロック図

丸善実験物理学講座「磁気測定I」p68より

磁気ヒステリシスと応用

保磁力のちがいで用途が違う

Hc小軟質磁性体

磁気ヘッド変圧器鉄心磁気シールド

Hc中半硬質磁性体

磁気記録媒体

Hc大硬質磁性体

永久磁石このループの面積が磁石に蓄積される磁気エネルギー高周波の場合はヒステリシス損失となる

永久磁石の最大エネルギー積(BH)maxの変遷(httpwwwaacgbhamacukmagnetic_materialshistoryhtm)

BHmax

32 なぜ初磁化状態では磁化がないのか磁区(magnetic domain)

磁化が特定の方向を向くとするとN極からS極に向

かって磁力線が生じますこの磁力線は考えている試料の外を通っているだけでなく磁性体の内部も貫いていますこの磁力線を反磁界といいます反磁界の向きは磁化の向きとは反対向きなので磁化は回転する静磁力を受けて不安定となります

磁化の方向が逆方向の縞状の磁区と呼ばれる領域に分かれるならば反磁界がうち消し合って静磁エネルギーが低下して安定するのです

反磁界(demagnetization field)

磁性体表面の法線方向の磁化成分をMn とすると表面には単位面積あたり = Mnという大きさの磁極(Wbm2)が生じる

磁極からはガウスの定理によって全部で μ0の磁力線がわき出すこのうち反磁界係数Nを使って定義される磁力線NMは内部に向かっており残りは外側に向かっているすなわち磁石の内部ではMの向きとは逆方向の反磁界が存在する

外部では磁束線は磁力線に一致する

(b) 磁力線

M- +

(a)磁化と磁極 反磁界

S N

S N

(c) 磁束線

反磁界係数N (近角強磁性体の物理より)

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0

(i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+ Ny+ Nz=1

が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx= Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx= Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

x

y

z

z

x

y

z

x

y

Nz=1

Nx= 0Ny= 0

Nx= 12

Ny= 12

Nx=13

Ny=13

Nz=13

Nz=0

反磁界補正

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0 (i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+Ny+ Nz=1が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx=Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx=Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

(近角強磁性体の物理より)

反磁界と静磁エネルギー

磁化Mが反磁界HdのもとにおかれるとU=MHdだけポテンシャルエネルギーが高くなる

一様な磁界H中の磁気モーメントMに働くトルクTはT=-MH sin

磁気モーメントのもつポテンシャルEはU=Td= - 0

MH sin d=MH (1-cos) エネルギーの原点はどこにとってもよいのでポテンシャルエネルギーはU=-MHと表される H=-Hdを代入すると反磁界によるポテンシャルの増加はU=MHd

表面磁極の分割による静磁エネルギーの減少

結晶表面をxy面にとる

表面でz=0とする

磁区の磁化方向はplusmnz

磁区のx方向の幅d

磁極の表面密度=Is 2mdltxlt(2m+1)d

=-Is (2m+1)dltxlt2(m+1)d

磁気ポテンシャルをLaplaceの方程式で求め

+ +- -

z

x

y

d

境界条件( z)z=-0=20

境界条件のもとにラプラス方程式を解くと=n An sin n(d)xexp n(d)z

係数Anは次式を満たすように決められる(d) n nAn sin n(d)x =I20 2mdltxlt(2m+1)d

= - I20 (2m+1)dltxlt2(m+1)d

rarrAn=2Isd20n2

(x=0)=(2Isd20) n (1n2)sin n(d)x

単位表面積あたりの静磁エネルギー=(2Is

220) n (1n2)int0d sin n(d)x

=(2Is2d20) n=odd (1n3)=540104Is

2d

磁気異方性

磁性体は半導体と違って形状寸法結晶方位とか磁化の方位などによって物性が大きく変化する

1つの原因は上に述べた反磁界係数で形状磁気異方性と呼ばれます反磁界によるエネルギーの損を最小化することが原因です

このほかの原因として重要なのが結晶磁気異方性です結晶磁気異方性というのは磁界を結晶のどの方位に加えるかで磁化曲線が変化する性質です

電子軌道は結晶軸に結びついているので磁気的性質と電子軌道との結びつき(スピン軌道相互作用)を通じて磁性が結晶軸と結び

つくのです半導体にも詳しい測定をすると異方性を見ることができますこれに比べ一般に半導体の電子軌道は結晶全体に広がっているので平均化されて結晶軸に依存する物性が見えにくいです

結晶磁気異方性

磁化しやすさは結晶の方位に依存する

鉄は立方晶であるが[100]が容易軸[111]は困難軸

x

y

z

[111

]

[100

]

容易軸

困難軸

[110]

円板磁性体の磁区構造

全体が磁区に分かれることにより全体の磁化がなくなっているこれが初磁化状態である

磁区の内部では磁化は任意の方向をランダムに向いている訳ではない

磁化は結晶の方位と無関係な方向を向くことはできない磁性体には磁気異方性という性質があり磁化が特定の結晶軸方位(たとえばFeでは[001]方向および等価な方向)を向く性質がある

[001]容易軸では図のように(001)面内では[100][010][-100][0-10]の4つの方向を向くので90磁壁になる

[111]容易軸では

(a) (b)

(近角強磁性体の物理)

33 ヒステリシスを磁区で説明する

残留磁化状態 逆磁区の発生と成長

磁気飽和

核発生

34 さまざまな磁区とマイクロマグネティクス

Figは結晶の対称性により磁区が変わる様子の例として縞状磁区(stripe domain)と環流磁区(closure domain)を示している磁性体を微細化して直径1μm付近になるとスピンは面内に分布してvortex状態となり中心部に垂直方向のスピン成分をもつようになるさらに微細化すると単磁区になる

微小磁区のMFM観察

磁区の観察にはビッター法といって磁性微粒子を含むコロイドを磁性体上に滴下して光学顕微鏡で観察する方法が古くから使われているこのほか磁気光学顕微鏡ローレンツ電子顕微鏡磁気力顕微鏡走査型ホール顕微鏡走査型SQUID顕微鏡スピン偏極電子顕微鏡X線MCD顕微鏡などで観察することが可能であるFig 22にはいくつかの例について筆者のMFM観察結果を示す

10 nmtimes10 nmtimes10 nmMesh size

1Number of dot

200 nmtimes200 nmtimes100nm

Dot Size

Y directionEasy axis

02Damping constant(α)

-176times107 rad(sOe)Gyro magnetic constant(γ)

1000 ergcm3Anisotropic constant (Ku)

1times10-6 ergcm3Exchange field (A)

800 emucm3Saturation magnetization (Ms)

Hy = 10 kOe rarr 0 Oe

divM divMy

LLG 方程式を用いた

マイクロ磁気解析

Dot model

200 x 200thickness50 nm

Magnetic moment - dv M Force gradient

200 x 200thickness100 nm

90 degree walls propeller-like distortion

Calculation of a single dot

Spin structure

-divM

Isolated square dot

Force gradient image Spin distribution image

Four-dot system

Shift of the center occurs Reversal of chirality

MFM imagewith low-moment tip

(CoPtCr240Å in HV)

Spin distribution imagewith the force-gradientimage overlapped

Inversion of chirality

Comparison between MFM andsimulation of spin distribution

Simulation was carried outin the model structureconsisting of four squaredots with a dimension of200 nmtimes200 nmtimes20 nmwith 50nm separationbetween dots

The calculated spinstructure shows a closuredomain structure with the90-wall appears

The chirality of the spindirection in adjacent dots isopposite to each other asshown by white arrows

The Z-component force-gradient image taking intoaccount the tip-sampleinteraction is overlapped

Calculated magnetization configurationof Y-shaped permalloy dot

Calculation parametersWidth 300 nmThickness 100 nmEasy axis 0 ergcm3

x

y

z

Force gradient-divM

Force gradient(Magnified)

Experimental MFM images

bull Single domains appear in two armsbull Multi-domain of 4 chained closer-domains on the restbull Spin-flow at crossing region turns left in two steps

50

0n

m2

m

L

C

R

C

L

R

x

y

z

Calculated magnetization configurationsof Y-shaped permalloy mirror-dots

Calculation parametersWidth 200 nmThickness 40 nmEasy axis X 1000 ergcm3

Force gradient-divM

Single dot

Experimental MFM images

15 m

bull Calculated spin-flows similar to experimental resultbull Vortices with same chirality appear at the ends of all armsbull Chirality of adjacent dot shows a mirror-reflection

Easy axisEasy axis

Easy axis

Easy axis

-divM

4 おわりに

磁性特有のテクニカルタームがあるが慣れればそれほど難しいものではない

大部分の話は量子力学なしでも理解できる電磁気学の知識があればよい

応用につながるのは磁区磁壁の物理である

メゾスコピック系では量子的な現象が現れるこれが得意なスピン依存伝導現象をもたらす

[参考0]半導体磁性体誘電体

半導体と磁性体の対比

半導体 電子物性パラメータは基本的

にバンド構造で決まるキャリア密度は人為的に制御される

量子構造を考えない限り電子を古典粒子として有効質量近似で扱える

応用されるのは電子構造で決まる移動度などのミクロな電子物性である

電子物性が寸法方位形状にほとんど依存しない

単位系はCGSをもとにした実用単位系が使われる

磁性体 金属磁性体の磁性はスピン偏

極バンド構造で決まるが非金属磁性体の磁性は局在多電子系のフント則で決まる

交換相互作用スピン軌道相互作用など量子力学が基本

応用されるのは磁区により生じるヒステリシスに関連したマクロ磁気物性である

磁性は磁気異方性の影響を受け寸法方位形状により大幅に変化する

単位系が複雑でCGSとSIが混在して使われている

磁性体と誘電体の対比

磁性体

磁気モーメントμ(軸性ベクトル)

磁化M

自発磁化Ms

反磁界

磁気ヒステリシス

飽和磁化残留磁化保磁力

磁区(ドメイン)

キュリー温度

誘電体

電気双極子qr(極性ベクトル)

電気分極P

自発分極Ps

反電界

誘電ヒステリシス

飽和分極残留分極抗電界

分域(ドメイン)

キュリー温度

[参考1]

磁界磁束磁化

磁界(磁場)H磁束密度B磁化M

磁界H中に置かれた磁化Mの磁性体が磁束密

度は真空中の磁束密度に磁化による磁束密度を加えたものであるすなわちB=0H+M

B=0H B=0H+M

M

磁性体があると磁束密度が高くなる

真空中での磁束密度

磁化とは

物質に磁界を加えたとき物質の表面に磁極が生じ一時的に磁石のようになるがそのとき物質が磁化されたという

(b)(a)

(高梨初等磁気工学講座)より

磁化の定義

K番目の原子の1原子あ

たりの磁気モーメントをkとするときその単位体積についての総和k

を磁化Mと定義するM= k

磁気モーメントの単位はWbmであるから磁化の単位はWbm2となる

(高梨初等磁気工学講座)より

常磁性

磁極と磁気モーメント

磁石にはN極とS極がある

磁界中に置かれた磁性体にも磁極が誘起される磁極は必ずNSの対で現れる(単極は見つかっていない)

磁極の大きさをq [Wb]とすると磁界によってNSの対に働くトルクは-qdHsin [Nm]=qdsin [Wbm] H[Am]

必ずNとSが対で現れるならm=qrを磁性を扱う基本単

位と考えることが出来るこれを磁気モーメントという単位は[Wbm]

[参考2]

磁気モーメントの電子的起源

磁気モーメント

一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは

T=qH r sin=mH sin 磁気モーメントのもつポテンシャルEは

E=Td= mH sin d=mH(1-cos)

ポテンシャルの原点はどこにとってもよいから E=-mH mHのときエネルギーは極小になる

mはHに平行になろうとする(高梨初等磁気工学講座)より

r 磁気モーメント

m=qr [Wbm]

-q [Wb]

+q [Wb]

qH

-qH

rsin

単位E[J]=-m[Wbm] H[Am]

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 44: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

[参考]

磁化曲線の測定法

磁性体を磁界中に置き磁界を増加していくと磁性体の磁化は増加していき次第に飽和する

磁化曲線は磁力計を使って測定する

VSM試料振動型磁力計試料を01~02mm程度のわずかな振幅で80Hz程度の低周波で振動させ試料の

磁化による磁束の時間変化を電磁石の磁極付近に置かれたサーチコイルに誘起された誘導起電力として検出する誘導起電力は試料の磁化に比例するので磁化を測定することができる

電磁石

磁極付近に置いたサーチコイル

スピーカーと同じ振動機構

[参考]

VSMブロック図

丸善実験物理学講座「磁気測定I」p68より

磁気ヒステリシスと応用

保磁力のちがいで用途が違う

Hc小軟質磁性体

磁気ヘッド変圧器鉄心磁気シールド

Hc中半硬質磁性体

磁気記録媒体

Hc大硬質磁性体

永久磁石このループの面積が磁石に蓄積される磁気エネルギー高周波の場合はヒステリシス損失となる

永久磁石の最大エネルギー積(BH)maxの変遷(httpwwwaacgbhamacukmagnetic_materialshistoryhtm)

BHmax

32 なぜ初磁化状態では磁化がないのか磁区(magnetic domain)

磁化が特定の方向を向くとするとN極からS極に向

かって磁力線が生じますこの磁力線は考えている試料の外を通っているだけでなく磁性体の内部も貫いていますこの磁力線を反磁界といいます反磁界の向きは磁化の向きとは反対向きなので磁化は回転する静磁力を受けて不安定となります

磁化の方向が逆方向の縞状の磁区と呼ばれる領域に分かれるならば反磁界がうち消し合って静磁エネルギーが低下して安定するのです

反磁界(demagnetization field)

磁性体表面の法線方向の磁化成分をMn とすると表面には単位面積あたり = Mnという大きさの磁極(Wbm2)が生じる

磁極からはガウスの定理によって全部で μ0の磁力線がわき出すこのうち反磁界係数Nを使って定義される磁力線NMは内部に向かっており残りは外側に向かっているすなわち磁石の内部ではMの向きとは逆方向の反磁界が存在する

外部では磁束線は磁力線に一致する

(b) 磁力線

M- +

(a)磁化と磁極 反磁界

S N

S N

(c) 磁束線

反磁界係数N (近角強磁性体の物理より)

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0

(i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+ Ny+ Nz=1

が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx= Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx= Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

x

y

z

z

x

y

z

x

y

Nz=1

Nx= 0Ny= 0

Nx= 12

Ny= 12

Nx=13

Ny=13

Nz=13

Nz=0

反磁界補正

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0 (i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+Ny+ Nz=1が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx=Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx=Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

(近角強磁性体の物理より)

反磁界と静磁エネルギー

磁化Mが反磁界HdのもとにおかれるとU=MHdだけポテンシャルエネルギーが高くなる

一様な磁界H中の磁気モーメントMに働くトルクTはT=-MH sin

磁気モーメントのもつポテンシャルEはU=Td= - 0

MH sin d=MH (1-cos) エネルギーの原点はどこにとってもよいのでポテンシャルエネルギーはU=-MHと表される H=-Hdを代入すると反磁界によるポテンシャルの増加はU=MHd

表面磁極の分割による静磁エネルギーの減少

結晶表面をxy面にとる

表面でz=0とする

磁区の磁化方向はplusmnz

磁区のx方向の幅d

磁極の表面密度=Is 2mdltxlt(2m+1)d

=-Is (2m+1)dltxlt2(m+1)d

磁気ポテンシャルをLaplaceの方程式で求め

+ +- -

z

x

y

d

境界条件( z)z=-0=20

境界条件のもとにラプラス方程式を解くと=n An sin n(d)xexp n(d)z

係数Anは次式を満たすように決められる(d) n nAn sin n(d)x =I20 2mdltxlt(2m+1)d

= - I20 (2m+1)dltxlt2(m+1)d

rarrAn=2Isd20n2

(x=0)=(2Isd20) n (1n2)sin n(d)x

単位表面積あたりの静磁エネルギー=(2Is

220) n (1n2)int0d sin n(d)x

=(2Is2d20) n=odd (1n3)=540104Is

2d

磁気異方性

磁性体は半導体と違って形状寸法結晶方位とか磁化の方位などによって物性が大きく変化する

1つの原因は上に述べた反磁界係数で形状磁気異方性と呼ばれます反磁界によるエネルギーの損を最小化することが原因です

このほかの原因として重要なのが結晶磁気異方性です結晶磁気異方性というのは磁界を結晶のどの方位に加えるかで磁化曲線が変化する性質です

電子軌道は結晶軸に結びついているので磁気的性質と電子軌道との結びつき(スピン軌道相互作用)を通じて磁性が結晶軸と結び

つくのです半導体にも詳しい測定をすると異方性を見ることができますこれに比べ一般に半導体の電子軌道は結晶全体に広がっているので平均化されて結晶軸に依存する物性が見えにくいです

結晶磁気異方性

磁化しやすさは結晶の方位に依存する

鉄は立方晶であるが[100]が容易軸[111]は困難軸

x

y

z

[111

]

[100

]

容易軸

困難軸

[110]

円板磁性体の磁区構造

全体が磁区に分かれることにより全体の磁化がなくなっているこれが初磁化状態である

磁区の内部では磁化は任意の方向をランダムに向いている訳ではない

磁化は結晶の方位と無関係な方向を向くことはできない磁性体には磁気異方性という性質があり磁化が特定の結晶軸方位(たとえばFeでは[001]方向および等価な方向)を向く性質がある

[001]容易軸では図のように(001)面内では[100][010][-100][0-10]の4つの方向を向くので90磁壁になる

[111]容易軸では

(a) (b)

(近角強磁性体の物理)

33 ヒステリシスを磁区で説明する

残留磁化状態 逆磁区の発生と成長

磁気飽和

核発生

34 さまざまな磁区とマイクロマグネティクス

Figは結晶の対称性により磁区が変わる様子の例として縞状磁区(stripe domain)と環流磁区(closure domain)を示している磁性体を微細化して直径1μm付近になるとスピンは面内に分布してvortex状態となり中心部に垂直方向のスピン成分をもつようになるさらに微細化すると単磁区になる

微小磁区のMFM観察

磁区の観察にはビッター法といって磁性微粒子を含むコロイドを磁性体上に滴下して光学顕微鏡で観察する方法が古くから使われているこのほか磁気光学顕微鏡ローレンツ電子顕微鏡磁気力顕微鏡走査型ホール顕微鏡走査型SQUID顕微鏡スピン偏極電子顕微鏡X線MCD顕微鏡などで観察することが可能であるFig 22にはいくつかの例について筆者のMFM観察結果を示す

10 nmtimes10 nmtimes10 nmMesh size

1Number of dot

200 nmtimes200 nmtimes100nm

Dot Size

Y directionEasy axis

02Damping constant(α)

-176times107 rad(sOe)Gyro magnetic constant(γ)

1000 ergcm3Anisotropic constant (Ku)

1times10-6 ergcm3Exchange field (A)

800 emucm3Saturation magnetization (Ms)

Hy = 10 kOe rarr 0 Oe

divM divMy

LLG 方程式を用いた

マイクロ磁気解析

Dot model

200 x 200thickness50 nm

Magnetic moment - dv M Force gradient

200 x 200thickness100 nm

90 degree walls propeller-like distortion

Calculation of a single dot

Spin structure

-divM

Isolated square dot

Force gradient image Spin distribution image

Four-dot system

Shift of the center occurs Reversal of chirality

MFM imagewith low-moment tip

(CoPtCr240Å in HV)

Spin distribution imagewith the force-gradientimage overlapped

Inversion of chirality

Comparison between MFM andsimulation of spin distribution

Simulation was carried outin the model structureconsisting of four squaredots with a dimension of200 nmtimes200 nmtimes20 nmwith 50nm separationbetween dots

The calculated spinstructure shows a closuredomain structure with the90-wall appears

The chirality of the spindirection in adjacent dots isopposite to each other asshown by white arrows

The Z-component force-gradient image taking intoaccount the tip-sampleinteraction is overlapped

Calculated magnetization configurationof Y-shaped permalloy dot

Calculation parametersWidth 300 nmThickness 100 nmEasy axis 0 ergcm3

x

y

z

Force gradient-divM

Force gradient(Magnified)

Experimental MFM images

bull Single domains appear in two armsbull Multi-domain of 4 chained closer-domains on the restbull Spin-flow at crossing region turns left in two steps

50

0n

m2

m

L

C

R

C

L

R

x

y

z

Calculated magnetization configurationsof Y-shaped permalloy mirror-dots

Calculation parametersWidth 200 nmThickness 40 nmEasy axis X 1000 ergcm3

Force gradient-divM

Single dot

Experimental MFM images

15 m

bull Calculated spin-flows similar to experimental resultbull Vortices with same chirality appear at the ends of all armsbull Chirality of adjacent dot shows a mirror-reflection

Easy axisEasy axis

Easy axis

Easy axis

-divM

4 おわりに

磁性特有のテクニカルタームがあるが慣れればそれほど難しいものではない

大部分の話は量子力学なしでも理解できる電磁気学の知識があればよい

応用につながるのは磁区磁壁の物理である

メゾスコピック系では量子的な現象が現れるこれが得意なスピン依存伝導現象をもたらす

[参考0]半導体磁性体誘電体

半導体と磁性体の対比

半導体 電子物性パラメータは基本的

にバンド構造で決まるキャリア密度は人為的に制御される

量子構造を考えない限り電子を古典粒子として有効質量近似で扱える

応用されるのは電子構造で決まる移動度などのミクロな電子物性である

電子物性が寸法方位形状にほとんど依存しない

単位系はCGSをもとにした実用単位系が使われる

磁性体 金属磁性体の磁性はスピン偏

極バンド構造で決まるが非金属磁性体の磁性は局在多電子系のフント則で決まる

交換相互作用スピン軌道相互作用など量子力学が基本

応用されるのは磁区により生じるヒステリシスに関連したマクロ磁気物性である

磁性は磁気異方性の影響を受け寸法方位形状により大幅に変化する

単位系が複雑でCGSとSIが混在して使われている

磁性体と誘電体の対比

磁性体

磁気モーメントμ(軸性ベクトル)

磁化M

自発磁化Ms

反磁界

磁気ヒステリシス

飽和磁化残留磁化保磁力

磁区(ドメイン)

キュリー温度

誘電体

電気双極子qr(極性ベクトル)

電気分極P

自発分極Ps

反電界

誘電ヒステリシス

飽和分極残留分極抗電界

分域(ドメイン)

キュリー温度

[参考1]

磁界磁束磁化

磁界(磁場)H磁束密度B磁化M

磁界H中に置かれた磁化Mの磁性体が磁束密

度は真空中の磁束密度に磁化による磁束密度を加えたものであるすなわちB=0H+M

B=0H B=0H+M

M

磁性体があると磁束密度が高くなる

真空中での磁束密度

磁化とは

物質に磁界を加えたとき物質の表面に磁極が生じ一時的に磁石のようになるがそのとき物質が磁化されたという

(b)(a)

(高梨初等磁気工学講座)より

磁化の定義

K番目の原子の1原子あ

たりの磁気モーメントをkとするときその単位体積についての総和k

を磁化Mと定義するM= k

磁気モーメントの単位はWbmであるから磁化の単位はWbm2となる

(高梨初等磁気工学講座)より

常磁性

磁極と磁気モーメント

磁石にはN極とS極がある

磁界中に置かれた磁性体にも磁極が誘起される磁極は必ずNSの対で現れる(単極は見つかっていない)

磁極の大きさをq [Wb]とすると磁界によってNSの対に働くトルクは-qdHsin [Nm]=qdsin [Wbm] H[Am]

必ずNとSが対で現れるならm=qrを磁性を扱う基本単

位と考えることが出来るこれを磁気モーメントという単位は[Wbm]

[参考2]

磁気モーメントの電子的起源

磁気モーメント

一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは

T=qH r sin=mH sin 磁気モーメントのもつポテンシャルEは

E=Td= mH sin d=mH(1-cos)

ポテンシャルの原点はどこにとってもよいから E=-mH mHのときエネルギーは極小になる

mはHに平行になろうとする(高梨初等磁気工学講座)より

r 磁気モーメント

m=qr [Wbm]

-q [Wb]

+q [Wb]

qH

-qH

rsin

単位E[J]=-m[Wbm] H[Am]

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 45: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

[参考]

VSMブロック図

丸善実験物理学講座「磁気測定I」p68より

磁気ヒステリシスと応用

保磁力のちがいで用途が違う

Hc小軟質磁性体

磁気ヘッド変圧器鉄心磁気シールド

Hc中半硬質磁性体

磁気記録媒体

Hc大硬質磁性体

永久磁石このループの面積が磁石に蓄積される磁気エネルギー高周波の場合はヒステリシス損失となる

永久磁石の最大エネルギー積(BH)maxの変遷(httpwwwaacgbhamacukmagnetic_materialshistoryhtm)

BHmax

32 なぜ初磁化状態では磁化がないのか磁区(magnetic domain)

磁化が特定の方向を向くとするとN極からS極に向

かって磁力線が生じますこの磁力線は考えている試料の外を通っているだけでなく磁性体の内部も貫いていますこの磁力線を反磁界といいます反磁界の向きは磁化の向きとは反対向きなので磁化は回転する静磁力を受けて不安定となります

磁化の方向が逆方向の縞状の磁区と呼ばれる領域に分かれるならば反磁界がうち消し合って静磁エネルギーが低下して安定するのです

反磁界(demagnetization field)

磁性体表面の法線方向の磁化成分をMn とすると表面には単位面積あたり = Mnという大きさの磁極(Wbm2)が生じる

磁極からはガウスの定理によって全部で μ0の磁力線がわき出すこのうち反磁界係数Nを使って定義される磁力線NMは内部に向かっており残りは外側に向かっているすなわち磁石の内部ではMの向きとは逆方向の反磁界が存在する

外部では磁束線は磁力線に一致する

(b) 磁力線

M- +

(a)磁化と磁極 反磁界

S N

S N

(c) 磁束線

反磁界係数N (近角強磁性体の物理より)

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0

(i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+ Ny+ Nz=1

が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx= Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx= Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

x

y

z

z

x

y

z

x

y

Nz=1

Nx= 0Ny= 0

Nx= 12

Ny= 12

Nx=13

Ny=13

Nz=13

Nz=0

反磁界補正

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0 (i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+Ny+ Nz=1が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx=Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx=Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

(近角強磁性体の物理より)

反磁界と静磁エネルギー

磁化Mが反磁界HdのもとにおかれるとU=MHdだけポテンシャルエネルギーが高くなる

一様な磁界H中の磁気モーメントMに働くトルクTはT=-MH sin

磁気モーメントのもつポテンシャルEはU=Td= - 0

MH sin d=MH (1-cos) エネルギーの原点はどこにとってもよいのでポテンシャルエネルギーはU=-MHと表される H=-Hdを代入すると反磁界によるポテンシャルの増加はU=MHd

表面磁極の分割による静磁エネルギーの減少

結晶表面をxy面にとる

表面でz=0とする

磁区の磁化方向はplusmnz

磁区のx方向の幅d

磁極の表面密度=Is 2mdltxlt(2m+1)d

=-Is (2m+1)dltxlt2(m+1)d

磁気ポテンシャルをLaplaceの方程式で求め

+ +- -

z

x

y

d

境界条件( z)z=-0=20

境界条件のもとにラプラス方程式を解くと=n An sin n(d)xexp n(d)z

係数Anは次式を満たすように決められる(d) n nAn sin n(d)x =I20 2mdltxlt(2m+1)d

= - I20 (2m+1)dltxlt2(m+1)d

rarrAn=2Isd20n2

(x=0)=(2Isd20) n (1n2)sin n(d)x

単位表面積あたりの静磁エネルギー=(2Is

220) n (1n2)int0d sin n(d)x

=(2Is2d20) n=odd (1n3)=540104Is

2d

磁気異方性

磁性体は半導体と違って形状寸法結晶方位とか磁化の方位などによって物性が大きく変化する

1つの原因は上に述べた反磁界係数で形状磁気異方性と呼ばれます反磁界によるエネルギーの損を最小化することが原因です

このほかの原因として重要なのが結晶磁気異方性です結晶磁気異方性というのは磁界を結晶のどの方位に加えるかで磁化曲線が変化する性質です

電子軌道は結晶軸に結びついているので磁気的性質と電子軌道との結びつき(スピン軌道相互作用)を通じて磁性が結晶軸と結び

つくのです半導体にも詳しい測定をすると異方性を見ることができますこれに比べ一般に半導体の電子軌道は結晶全体に広がっているので平均化されて結晶軸に依存する物性が見えにくいです

結晶磁気異方性

磁化しやすさは結晶の方位に依存する

鉄は立方晶であるが[100]が容易軸[111]は困難軸

x

y

z

[111

]

[100

]

容易軸

困難軸

[110]

円板磁性体の磁区構造

全体が磁区に分かれることにより全体の磁化がなくなっているこれが初磁化状態である

磁区の内部では磁化は任意の方向をランダムに向いている訳ではない

磁化は結晶の方位と無関係な方向を向くことはできない磁性体には磁気異方性という性質があり磁化が特定の結晶軸方位(たとえばFeでは[001]方向および等価な方向)を向く性質がある

[001]容易軸では図のように(001)面内では[100][010][-100][0-10]の4つの方向を向くので90磁壁になる

[111]容易軸では

(a) (b)

(近角強磁性体の物理)

33 ヒステリシスを磁区で説明する

残留磁化状態 逆磁区の発生と成長

磁気飽和

核発生

34 さまざまな磁区とマイクロマグネティクス

Figは結晶の対称性により磁区が変わる様子の例として縞状磁区(stripe domain)と環流磁区(closure domain)を示している磁性体を微細化して直径1μm付近になるとスピンは面内に分布してvortex状態となり中心部に垂直方向のスピン成分をもつようになるさらに微細化すると単磁区になる

微小磁区のMFM観察

磁区の観察にはビッター法といって磁性微粒子を含むコロイドを磁性体上に滴下して光学顕微鏡で観察する方法が古くから使われているこのほか磁気光学顕微鏡ローレンツ電子顕微鏡磁気力顕微鏡走査型ホール顕微鏡走査型SQUID顕微鏡スピン偏極電子顕微鏡X線MCD顕微鏡などで観察することが可能であるFig 22にはいくつかの例について筆者のMFM観察結果を示す

10 nmtimes10 nmtimes10 nmMesh size

1Number of dot

200 nmtimes200 nmtimes100nm

Dot Size

Y directionEasy axis

02Damping constant(α)

-176times107 rad(sOe)Gyro magnetic constant(γ)

1000 ergcm3Anisotropic constant (Ku)

1times10-6 ergcm3Exchange field (A)

800 emucm3Saturation magnetization (Ms)

Hy = 10 kOe rarr 0 Oe

divM divMy

LLG 方程式を用いた

マイクロ磁気解析

Dot model

200 x 200thickness50 nm

Magnetic moment - dv M Force gradient

200 x 200thickness100 nm

90 degree walls propeller-like distortion

Calculation of a single dot

Spin structure

-divM

Isolated square dot

Force gradient image Spin distribution image

Four-dot system

Shift of the center occurs Reversal of chirality

MFM imagewith low-moment tip

(CoPtCr240Å in HV)

Spin distribution imagewith the force-gradientimage overlapped

Inversion of chirality

Comparison between MFM andsimulation of spin distribution

Simulation was carried outin the model structureconsisting of four squaredots with a dimension of200 nmtimes200 nmtimes20 nmwith 50nm separationbetween dots

The calculated spinstructure shows a closuredomain structure with the90-wall appears

The chirality of the spindirection in adjacent dots isopposite to each other asshown by white arrows

The Z-component force-gradient image taking intoaccount the tip-sampleinteraction is overlapped

Calculated magnetization configurationof Y-shaped permalloy dot

Calculation parametersWidth 300 nmThickness 100 nmEasy axis 0 ergcm3

x

y

z

Force gradient-divM

Force gradient(Magnified)

Experimental MFM images

bull Single domains appear in two armsbull Multi-domain of 4 chained closer-domains on the restbull Spin-flow at crossing region turns left in two steps

50

0n

m2

m

L

C

R

C

L

R

x

y

z

Calculated magnetization configurationsof Y-shaped permalloy mirror-dots

Calculation parametersWidth 200 nmThickness 40 nmEasy axis X 1000 ergcm3

Force gradient-divM

Single dot

Experimental MFM images

15 m

bull Calculated spin-flows similar to experimental resultbull Vortices with same chirality appear at the ends of all armsbull Chirality of adjacent dot shows a mirror-reflection

Easy axisEasy axis

Easy axis

Easy axis

-divM

4 おわりに

磁性特有のテクニカルタームがあるが慣れればそれほど難しいものではない

大部分の話は量子力学なしでも理解できる電磁気学の知識があればよい

応用につながるのは磁区磁壁の物理である

メゾスコピック系では量子的な現象が現れるこれが得意なスピン依存伝導現象をもたらす

[参考0]半導体磁性体誘電体

半導体と磁性体の対比

半導体 電子物性パラメータは基本的

にバンド構造で決まるキャリア密度は人為的に制御される

量子構造を考えない限り電子を古典粒子として有効質量近似で扱える

応用されるのは電子構造で決まる移動度などのミクロな電子物性である

電子物性が寸法方位形状にほとんど依存しない

単位系はCGSをもとにした実用単位系が使われる

磁性体 金属磁性体の磁性はスピン偏

極バンド構造で決まるが非金属磁性体の磁性は局在多電子系のフント則で決まる

交換相互作用スピン軌道相互作用など量子力学が基本

応用されるのは磁区により生じるヒステリシスに関連したマクロ磁気物性である

磁性は磁気異方性の影響を受け寸法方位形状により大幅に変化する

単位系が複雑でCGSとSIが混在して使われている

磁性体と誘電体の対比

磁性体

磁気モーメントμ(軸性ベクトル)

磁化M

自発磁化Ms

反磁界

磁気ヒステリシス

飽和磁化残留磁化保磁力

磁区(ドメイン)

キュリー温度

誘電体

電気双極子qr(極性ベクトル)

電気分極P

自発分極Ps

反電界

誘電ヒステリシス

飽和分極残留分極抗電界

分域(ドメイン)

キュリー温度

[参考1]

磁界磁束磁化

磁界(磁場)H磁束密度B磁化M

磁界H中に置かれた磁化Mの磁性体が磁束密

度は真空中の磁束密度に磁化による磁束密度を加えたものであるすなわちB=0H+M

B=0H B=0H+M

M

磁性体があると磁束密度が高くなる

真空中での磁束密度

磁化とは

物質に磁界を加えたとき物質の表面に磁極が生じ一時的に磁石のようになるがそのとき物質が磁化されたという

(b)(a)

(高梨初等磁気工学講座)より

磁化の定義

K番目の原子の1原子あ

たりの磁気モーメントをkとするときその単位体積についての総和k

を磁化Mと定義するM= k

磁気モーメントの単位はWbmであるから磁化の単位はWbm2となる

(高梨初等磁気工学講座)より

常磁性

磁極と磁気モーメント

磁石にはN極とS極がある

磁界中に置かれた磁性体にも磁極が誘起される磁極は必ずNSの対で現れる(単極は見つかっていない)

磁極の大きさをq [Wb]とすると磁界によってNSの対に働くトルクは-qdHsin [Nm]=qdsin [Wbm] H[Am]

必ずNとSが対で現れるならm=qrを磁性を扱う基本単

位と考えることが出来るこれを磁気モーメントという単位は[Wbm]

[参考2]

磁気モーメントの電子的起源

磁気モーメント

一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは

T=qH r sin=mH sin 磁気モーメントのもつポテンシャルEは

E=Td= mH sin d=mH(1-cos)

ポテンシャルの原点はどこにとってもよいから E=-mH mHのときエネルギーは極小になる

mはHに平行になろうとする(高梨初等磁気工学講座)より

r 磁気モーメント

m=qr [Wbm]

-q [Wb]

+q [Wb]

qH

-qH

rsin

単位E[J]=-m[Wbm] H[Am]

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 46: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

磁気ヒステリシスと応用

保磁力のちがいで用途が違う

Hc小軟質磁性体

磁気ヘッド変圧器鉄心磁気シールド

Hc中半硬質磁性体

磁気記録媒体

Hc大硬質磁性体

永久磁石このループの面積が磁石に蓄積される磁気エネルギー高周波の場合はヒステリシス損失となる

永久磁石の最大エネルギー積(BH)maxの変遷(httpwwwaacgbhamacukmagnetic_materialshistoryhtm)

BHmax

32 なぜ初磁化状態では磁化がないのか磁区(magnetic domain)

磁化が特定の方向を向くとするとN極からS極に向

かって磁力線が生じますこの磁力線は考えている試料の外を通っているだけでなく磁性体の内部も貫いていますこの磁力線を反磁界といいます反磁界の向きは磁化の向きとは反対向きなので磁化は回転する静磁力を受けて不安定となります

磁化の方向が逆方向の縞状の磁区と呼ばれる領域に分かれるならば反磁界がうち消し合って静磁エネルギーが低下して安定するのです

反磁界(demagnetization field)

磁性体表面の法線方向の磁化成分をMn とすると表面には単位面積あたり = Mnという大きさの磁極(Wbm2)が生じる

磁極からはガウスの定理によって全部で μ0の磁力線がわき出すこのうち反磁界係数Nを使って定義される磁力線NMは内部に向かっており残りは外側に向かっているすなわち磁石の内部ではMの向きとは逆方向の反磁界が存在する

外部では磁束線は磁力線に一致する

(b) 磁力線

M- +

(a)磁化と磁極 反磁界

S N

S N

(c) 磁束線

反磁界係数N (近角強磁性体の物理より)

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0

(i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+ Ny+ Nz=1

が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx= Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx= Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

x

y

z

z

x

y

z

x

y

Nz=1

Nx= 0Ny= 0

Nx= 12

Ny= 12

Nx=13

Ny=13

Nz=13

Nz=0

反磁界補正

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0 (i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+Ny+ Nz=1が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx=Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx=Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

(近角強磁性体の物理より)

反磁界と静磁エネルギー

磁化Mが反磁界HdのもとにおかれるとU=MHdだけポテンシャルエネルギーが高くなる

一様な磁界H中の磁気モーメントMに働くトルクTはT=-MH sin

磁気モーメントのもつポテンシャルEはU=Td= - 0

MH sin d=MH (1-cos) エネルギーの原点はどこにとってもよいのでポテンシャルエネルギーはU=-MHと表される H=-Hdを代入すると反磁界によるポテンシャルの増加はU=MHd

表面磁極の分割による静磁エネルギーの減少

結晶表面をxy面にとる

表面でz=0とする

磁区の磁化方向はplusmnz

磁区のx方向の幅d

磁極の表面密度=Is 2mdltxlt(2m+1)d

=-Is (2m+1)dltxlt2(m+1)d

磁気ポテンシャルをLaplaceの方程式で求め

+ +- -

z

x

y

d

境界条件( z)z=-0=20

境界条件のもとにラプラス方程式を解くと=n An sin n(d)xexp n(d)z

係数Anは次式を満たすように決められる(d) n nAn sin n(d)x =I20 2mdltxlt(2m+1)d

= - I20 (2m+1)dltxlt2(m+1)d

rarrAn=2Isd20n2

(x=0)=(2Isd20) n (1n2)sin n(d)x

単位表面積あたりの静磁エネルギー=(2Is

220) n (1n2)int0d sin n(d)x

=(2Is2d20) n=odd (1n3)=540104Is

2d

磁気異方性

磁性体は半導体と違って形状寸法結晶方位とか磁化の方位などによって物性が大きく変化する

1つの原因は上に述べた反磁界係数で形状磁気異方性と呼ばれます反磁界によるエネルギーの損を最小化することが原因です

このほかの原因として重要なのが結晶磁気異方性です結晶磁気異方性というのは磁界を結晶のどの方位に加えるかで磁化曲線が変化する性質です

電子軌道は結晶軸に結びついているので磁気的性質と電子軌道との結びつき(スピン軌道相互作用)を通じて磁性が結晶軸と結び

つくのです半導体にも詳しい測定をすると異方性を見ることができますこれに比べ一般に半導体の電子軌道は結晶全体に広がっているので平均化されて結晶軸に依存する物性が見えにくいです

結晶磁気異方性

磁化しやすさは結晶の方位に依存する

鉄は立方晶であるが[100]が容易軸[111]は困難軸

x

y

z

[111

]

[100

]

容易軸

困難軸

[110]

円板磁性体の磁区構造

全体が磁区に分かれることにより全体の磁化がなくなっているこれが初磁化状態である

磁区の内部では磁化は任意の方向をランダムに向いている訳ではない

磁化は結晶の方位と無関係な方向を向くことはできない磁性体には磁気異方性という性質があり磁化が特定の結晶軸方位(たとえばFeでは[001]方向および等価な方向)を向く性質がある

[001]容易軸では図のように(001)面内では[100][010][-100][0-10]の4つの方向を向くので90磁壁になる

[111]容易軸では

(a) (b)

(近角強磁性体の物理)

33 ヒステリシスを磁区で説明する

残留磁化状態 逆磁区の発生と成長

磁気飽和

核発生

34 さまざまな磁区とマイクロマグネティクス

Figは結晶の対称性により磁区が変わる様子の例として縞状磁区(stripe domain)と環流磁区(closure domain)を示している磁性体を微細化して直径1μm付近になるとスピンは面内に分布してvortex状態となり中心部に垂直方向のスピン成分をもつようになるさらに微細化すると単磁区になる

微小磁区のMFM観察

磁区の観察にはビッター法といって磁性微粒子を含むコロイドを磁性体上に滴下して光学顕微鏡で観察する方法が古くから使われているこのほか磁気光学顕微鏡ローレンツ電子顕微鏡磁気力顕微鏡走査型ホール顕微鏡走査型SQUID顕微鏡スピン偏極電子顕微鏡X線MCD顕微鏡などで観察することが可能であるFig 22にはいくつかの例について筆者のMFM観察結果を示す

10 nmtimes10 nmtimes10 nmMesh size

1Number of dot

200 nmtimes200 nmtimes100nm

Dot Size

Y directionEasy axis

02Damping constant(α)

-176times107 rad(sOe)Gyro magnetic constant(γ)

1000 ergcm3Anisotropic constant (Ku)

1times10-6 ergcm3Exchange field (A)

800 emucm3Saturation magnetization (Ms)

Hy = 10 kOe rarr 0 Oe

divM divMy

LLG 方程式を用いた

マイクロ磁気解析

Dot model

200 x 200thickness50 nm

Magnetic moment - dv M Force gradient

200 x 200thickness100 nm

90 degree walls propeller-like distortion

Calculation of a single dot

Spin structure

-divM

Isolated square dot

Force gradient image Spin distribution image

Four-dot system

Shift of the center occurs Reversal of chirality

MFM imagewith low-moment tip

(CoPtCr240Å in HV)

Spin distribution imagewith the force-gradientimage overlapped

Inversion of chirality

Comparison between MFM andsimulation of spin distribution

Simulation was carried outin the model structureconsisting of four squaredots with a dimension of200 nmtimes200 nmtimes20 nmwith 50nm separationbetween dots

The calculated spinstructure shows a closuredomain structure with the90-wall appears

The chirality of the spindirection in adjacent dots isopposite to each other asshown by white arrows

The Z-component force-gradient image taking intoaccount the tip-sampleinteraction is overlapped

Calculated magnetization configurationof Y-shaped permalloy dot

Calculation parametersWidth 300 nmThickness 100 nmEasy axis 0 ergcm3

x

y

z

Force gradient-divM

Force gradient(Magnified)

Experimental MFM images

bull Single domains appear in two armsbull Multi-domain of 4 chained closer-domains on the restbull Spin-flow at crossing region turns left in two steps

50

0n

m2

m

L

C

R

C

L

R

x

y

z

Calculated magnetization configurationsof Y-shaped permalloy mirror-dots

Calculation parametersWidth 200 nmThickness 40 nmEasy axis X 1000 ergcm3

Force gradient-divM

Single dot

Experimental MFM images

15 m

bull Calculated spin-flows similar to experimental resultbull Vortices with same chirality appear at the ends of all armsbull Chirality of adjacent dot shows a mirror-reflection

Easy axisEasy axis

Easy axis

Easy axis

-divM

4 おわりに

磁性特有のテクニカルタームがあるが慣れればそれほど難しいものではない

大部分の話は量子力学なしでも理解できる電磁気学の知識があればよい

応用につながるのは磁区磁壁の物理である

メゾスコピック系では量子的な現象が現れるこれが得意なスピン依存伝導現象をもたらす

[参考0]半導体磁性体誘電体

半導体と磁性体の対比

半導体 電子物性パラメータは基本的

にバンド構造で決まるキャリア密度は人為的に制御される

量子構造を考えない限り電子を古典粒子として有効質量近似で扱える

応用されるのは電子構造で決まる移動度などのミクロな電子物性である

電子物性が寸法方位形状にほとんど依存しない

単位系はCGSをもとにした実用単位系が使われる

磁性体 金属磁性体の磁性はスピン偏

極バンド構造で決まるが非金属磁性体の磁性は局在多電子系のフント則で決まる

交換相互作用スピン軌道相互作用など量子力学が基本

応用されるのは磁区により生じるヒステリシスに関連したマクロ磁気物性である

磁性は磁気異方性の影響を受け寸法方位形状により大幅に変化する

単位系が複雑でCGSとSIが混在して使われている

磁性体と誘電体の対比

磁性体

磁気モーメントμ(軸性ベクトル)

磁化M

自発磁化Ms

反磁界

磁気ヒステリシス

飽和磁化残留磁化保磁力

磁区(ドメイン)

キュリー温度

誘電体

電気双極子qr(極性ベクトル)

電気分極P

自発分極Ps

反電界

誘電ヒステリシス

飽和分極残留分極抗電界

分域(ドメイン)

キュリー温度

[参考1]

磁界磁束磁化

磁界(磁場)H磁束密度B磁化M

磁界H中に置かれた磁化Mの磁性体が磁束密

度は真空中の磁束密度に磁化による磁束密度を加えたものであるすなわちB=0H+M

B=0H B=0H+M

M

磁性体があると磁束密度が高くなる

真空中での磁束密度

磁化とは

物質に磁界を加えたとき物質の表面に磁極が生じ一時的に磁石のようになるがそのとき物質が磁化されたという

(b)(a)

(高梨初等磁気工学講座)より

磁化の定義

K番目の原子の1原子あ

たりの磁気モーメントをkとするときその単位体積についての総和k

を磁化Mと定義するM= k

磁気モーメントの単位はWbmであるから磁化の単位はWbm2となる

(高梨初等磁気工学講座)より

常磁性

磁極と磁気モーメント

磁石にはN極とS極がある

磁界中に置かれた磁性体にも磁極が誘起される磁極は必ずNSの対で現れる(単極は見つかっていない)

磁極の大きさをq [Wb]とすると磁界によってNSの対に働くトルクは-qdHsin [Nm]=qdsin [Wbm] H[Am]

必ずNとSが対で現れるならm=qrを磁性を扱う基本単

位と考えることが出来るこれを磁気モーメントという単位は[Wbm]

[参考2]

磁気モーメントの電子的起源

磁気モーメント

一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは

T=qH r sin=mH sin 磁気モーメントのもつポテンシャルEは

E=Td= mH sin d=mH(1-cos)

ポテンシャルの原点はどこにとってもよいから E=-mH mHのときエネルギーは極小になる

mはHに平行になろうとする(高梨初等磁気工学講座)より

r 磁気モーメント

m=qr [Wbm]

-q [Wb]

+q [Wb]

qH

-qH

rsin

単位E[J]=-m[Wbm] H[Am]

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 47: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

永久磁石の最大エネルギー積(BH)maxの変遷(httpwwwaacgbhamacukmagnetic_materialshistoryhtm)

BHmax

32 なぜ初磁化状態では磁化がないのか磁区(magnetic domain)

磁化が特定の方向を向くとするとN極からS極に向

かって磁力線が生じますこの磁力線は考えている試料の外を通っているだけでなく磁性体の内部も貫いていますこの磁力線を反磁界といいます反磁界の向きは磁化の向きとは反対向きなので磁化は回転する静磁力を受けて不安定となります

磁化の方向が逆方向の縞状の磁区と呼ばれる領域に分かれるならば反磁界がうち消し合って静磁エネルギーが低下して安定するのです

反磁界(demagnetization field)

磁性体表面の法線方向の磁化成分をMn とすると表面には単位面積あたり = Mnという大きさの磁極(Wbm2)が生じる

磁極からはガウスの定理によって全部で μ0の磁力線がわき出すこのうち反磁界係数Nを使って定義される磁力線NMは内部に向かっており残りは外側に向かっているすなわち磁石の内部ではMの向きとは逆方向の反磁界が存在する

外部では磁束線は磁力線に一致する

(b) 磁力線

M- +

(a)磁化と磁極 反磁界

S N

S N

(c) 磁束線

反磁界係数N (近角強磁性体の物理より)

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0

(i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+ Ny+ Nz=1

が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx= Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx= Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

x

y

z

z

x

y

z

x

y

Nz=1

Nx= 0Ny= 0

Nx= 12

Ny= 12

Nx=13

Ny=13

Nz=13

Nz=0

反磁界補正

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0 (i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+Ny+ Nz=1が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx=Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx=Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

(近角強磁性体の物理より)

反磁界と静磁エネルギー

磁化Mが反磁界HdのもとにおかれるとU=MHdだけポテンシャルエネルギーが高くなる

一様な磁界H中の磁気モーメントMに働くトルクTはT=-MH sin

磁気モーメントのもつポテンシャルEはU=Td= - 0

MH sin d=MH (1-cos) エネルギーの原点はどこにとってもよいのでポテンシャルエネルギーはU=-MHと表される H=-Hdを代入すると反磁界によるポテンシャルの増加はU=MHd

表面磁極の分割による静磁エネルギーの減少

結晶表面をxy面にとる

表面でz=0とする

磁区の磁化方向はplusmnz

磁区のx方向の幅d

磁極の表面密度=Is 2mdltxlt(2m+1)d

=-Is (2m+1)dltxlt2(m+1)d

磁気ポテンシャルをLaplaceの方程式で求め

+ +- -

z

x

y

d

境界条件( z)z=-0=20

境界条件のもとにラプラス方程式を解くと=n An sin n(d)xexp n(d)z

係数Anは次式を満たすように決められる(d) n nAn sin n(d)x =I20 2mdltxlt(2m+1)d

= - I20 (2m+1)dltxlt2(m+1)d

rarrAn=2Isd20n2

(x=0)=(2Isd20) n (1n2)sin n(d)x

単位表面積あたりの静磁エネルギー=(2Is

220) n (1n2)int0d sin n(d)x

=(2Is2d20) n=odd (1n3)=540104Is

2d

磁気異方性

磁性体は半導体と違って形状寸法結晶方位とか磁化の方位などによって物性が大きく変化する

1つの原因は上に述べた反磁界係数で形状磁気異方性と呼ばれます反磁界によるエネルギーの損を最小化することが原因です

このほかの原因として重要なのが結晶磁気異方性です結晶磁気異方性というのは磁界を結晶のどの方位に加えるかで磁化曲線が変化する性質です

電子軌道は結晶軸に結びついているので磁気的性質と電子軌道との結びつき(スピン軌道相互作用)を通じて磁性が結晶軸と結び

つくのです半導体にも詳しい測定をすると異方性を見ることができますこれに比べ一般に半導体の電子軌道は結晶全体に広がっているので平均化されて結晶軸に依存する物性が見えにくいです

結晶磁気異方性

磁化しやすさは結晶の方位に依存する

鉄は立方晶であるが[100]が容易軸[111]は困難軸

x

y

z

[111

]

[100

]

容易軸

困難軸

[110]

円板磁性体の磁区構造

全体が磁区に分かれることにより全体の磁化がなくなっているこれが初磁化状態である

磁区の内部では磁化は任意の方向をランダムに向いている訳ではない

磁化は結晶の方位と無関係な方向を向くことはできない磁性体には磁気異方性という性質があり磁化が特定の結晶軸方位(たとえばFeでは[001]方向および等価な方向)を向く性質がある

[001]容易軸では図のように(001)面内では[100][010][-100][0-10]の4つの方向を向くので90磁壁になる

[111]容易軸では

(a) (b)

(近角強磁性体の物理)

33 ヒステリシスを磁区で説明する

残留磁化状態 逆磁区の発生と成長

磁気飽和

核発生

34 さまざまな磁区とマイクロマグネティクス

Figは結晶の対称性により磁区が変わる様子の例として縞状磁区(stripe domain)と環流磁区(closure domain)を示している磁性体を微細化して直径1μm付近になるとスピンは面内に分布してvortex状態となり中心部に垂直方向のスピン成分をもつようになるさらに微細化すると単磁区になる

微小磁区のMFM観察

磁区の観察にはビッター法といって磁性微粒子を含むコロイドを磁性体上に滴下して光学顕微鏡で観察する方法が古くから使われているこのほか磁気光学顕微鏡ローレンツ電子顕微鏡磁気力顕微鏡走査型ホール顕微鏡走査型SQUID顕微鏡スピン偏極電子顕微鏡X線MCD顕微鏡などで観察することが可能であるFig 22にはいくつかの例について筆者のMFM観察結果を示す

10 nmtimes10 nmtimes10 nmMesh size

1Number of dot

200 nmtimes200 nmtimes100nm

Dot Size

Y directionEasy axis

02Damping constant(α)

-176times107 rad(sOe)Gyro magnetic constant(γ)

1000 ergcm3Anisotropic constant (Ku)

1times10-6 ergcm3Exchange field (A)

800 emucm3Saturation magnetization (Ms)

Hy = 10 kOe rarr 0 Oe

divM divMy

LLG 方程式を用いた

マイクロ磁気解析

Dot model

200 x 200thickness50 nm

Magnetic moment - dv M Force gradient

200 x 200thickness100 nm

90 degree walls propeller-like distortion

Calculation of a single dot

Spin structure

-divM

Isolated square dot

Force gradient image Spin distribution image

Four-dot system

Shift of the center occurs Reversal of chirality

MFM imagewith low-moment tip

(CoPtCr240Å in HV)

Spin distribution imagewith the force-gradientimage overlapped

Inversion of chirality

Comparison between MFM andsimulation of spin distribution

Simulation was carried outin the model structureconsisting of four squaredots with a dimension of200 nmtimes200 nmtimes20 nmwith 50nm separationbetween dots

The calculated spinstructure shows a closuredomain structure with the90-wall appears

The chirality of the spindirection in adjacent dots isopposite to each other asshown by white arrows

The Z-component force-gradient image taking intoaccount the tip-sampleinteraction is overlapped

Calculated magnetization configurationof Y-shaped permalloy dot

Calculation parametersWidth 300 nmThickness 100 nmEasy axis 0 ergcm3

x

y

z

Force gradient-divM

Force gradient(Magnified)

Experimental MFM images

bull Single domains appear in two armsbull Multi-domain of 4 chained closer-domains on the restbull Spin-flow at crossing region turns left in two steps

50

0n

m2

m

L

C

R

C

L

R

x

y

z

Calculated magnetization configurationsof Y-shaped permalloy mirror-dots

Calculation parametersWidth 200 nmThickness 40 nmEasy axis X 1000 ergcm3

Force gradient-divM

Single dot

Experimental MFM images

15 m

bull Calculated spin-flows similar to experimental resultbull Vortices with same chirality appear at the ends of all armsbull Chirality of adjacent dot shows a mirror-reflection

Easy axisEasy axis

Easy axis

Easy axis

-divM

4 おわりに

磁性特有のテクニカルタームがあるが慣れればそれほど難しいものではない

大部分の話は量子力学なしでも理解できる電磁気学の知識があればよい

応用につながるのは磁区磁壁の物理である

メゾスコピック系では量子的な現象が現れるこれが得意なスピン依存伝導現象をもたらす

[参考0]半導体磁性体誘電体

半導体と磁性体の対比

半導体 電子物性パラメータは基本的

にバンド構造で決まるキャリア密度は人為的に制御される

量子構造を考えない限り電子を古典粒子として有効質量近似で扱える

応用されるのは電子構造で決まる移動度などのミクロな電子物性である

電子物性が寸法方位形状にほとんど依存しない

単位系はCGSをもとにした実用単位系が使われる

磁性体 金属磁性体の磁性はスピン偏

極バンド構造で決まるが非金属磁性体の磁性は局在多電子系のフント則で決まる

交換相互作用スピン軌道相互作用など量子力学が基本

応用されるのは磁区により生じるヒステリシスに関連したマクロ磁気物性である

磁性は磁気異方性の影響を受け寸法方位形状により大幅に変化する

単位系が複雑でCGSとSIが混在して使われている

磁性体と誘電体の対比

磁性体

磁気モーメントμ(軸性ベクトル)

磁化M

自発磁化Ms

反磁界

磁気ヒステリシス

飽和磁化残留磁化保磁力

磁区(ドメイン)

キュリー温度

誘電体

電気双極子qr(極性ベクトル)

電気分極P

自発分極Ps

反電界

誘電ヒステリシス

飽和分極残留分極抗電界

分域(ドメイン)

キュリー温度

[参考1]

磁界磁束磁化

磁界(磁場)H磁束密度B磁化M

磁界H中に置かれた磁化Mの磁性体が磁束密

度は真空中の磁束密度に磁化による磁束密度を加えたものであるすなわちB=0H+M

B=0H B=0H+M

M

磁性体があると磁束密度が高くなる

真空中での磁束密度

磁化とは

物質に磁界を加えたとき物質の表面に磁極が生じ一時的に磁石のようになるがそのとき物質が磁化されたという

(b)(a)

(高梨初等磁気工学講座)より

磁化の定義

K番目の原子の1原子あ

たりの磁気モーメントをkとするときその単位体積についての総和k

を磁化Mと定義するM= k

磁気モーメントの単位はWbmであるから磁化の単位はWbm2となる

(高梨初等磁気工学講座)より

常磁性

磁極と磁気モーメント

磁石にはN極とS極がある

磁界中に置かれた磁性体にも磁極が誘起される磁極は必ずNSの対で現れる(単極は見つかっていない)

磁極の大きさをq [Wb]とすると磁界によってNSの対に働くトルクは-qdHsin [Nm]=qdsin [Wbm] H[Am]

必ずNとSが対で現れるならm=qrを磁性を扱う基本単

位と考えることが出来るこれを磁気モーメントという単位は[Wbm]

[参考2]

磁気モーメントの電子的起源

磁気モーメント

一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは

T=qH r sin=mH sin 磁気モーメントのもつポテンシャルEは

E=Td= mH sin d=mH(1-cos)

ポテンシャルの原点はどこにとってもよいから E=-mH mHのときエネルギーは極小になる

mはHに平行になろうとする(高梨初等磁気工学講座)より

r 磁気モーメント

m=qr [Wbm]

-q [Wb]

+q [Wb]

qH

-qH

rsin

単位E[J]=-m[Wbm] H[Am]

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 48: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

32 なぜ初磁化状態では磁化がないのか磁区(magnetic domain)

磁化が特定の方向を向くとするとN極からS極に向

かって磁力線が生じますこの磁力線は考えている試料の外を通っているだけでなく磁性体の内部も貫いていますこの磁力線を反磁界といいます反磁界の向きは磁化の向きとは反対向きなので磁化は回転する静磁力を受けて不安定となります

磁化の方向が逆方向の縞状の磁区と呼ばれる領域に分かれるならば反磁界がうち消し合って静磁エネルギーが低下して安定するのです

反磁界(demagnetization field)

磁性体表面の法線方向の磁化成分をMn とすると表面には単位面積あたり = Mnという大きさの磁極(Wbm2)が生じる

磁極からはガウスの定理によって全部で μ0の磁力線がわき出すこのうち反磁界係数Nを使って定義される磁力線NMは内部に向かっており残りは外側に向かっているすなわち磁石の内部ではMの向きとは逆方向の反磁界が存在する

外部では磁束線は磁力線に一致する

(b) 磁力線

M- +

(a)磁化と磁極 反磁界

S N

S N

(c) 磁束線

反磁界係数N (近角強磁性体の物理より)

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0

(i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+ Ny+ Nz=1

が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx= Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx= Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

x

y

z

z

x

y

z

x

y

Nz=1

Nx= 0Ny= 0

Nx= 12

Ny= 12

Nx=13

Ny=13

Nz=13

Nz=0

反磁界補正

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0 (i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+Ny+ Nz=1が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx=Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx=Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

(近角強磁性体の物理より)

反磁界と静磁エネルギー

磁化Mが反磁界HdのもとにおかれるとU=MHdだけポテンシャルエネルギーが高くなる

一様な磁界H中の磁気モーメントMに働くトルクTはT=-MH sin

磁気モーメントのもつポテンシャルEはU=Td= - 0

MH sin d=MH (1-cos) エネルギーの原点はどこにとってもよいのでポテンシャルエネルギーはU=-MHと表される H=-Hdを代入すると反磁界によるポテンシャルの増加はU=MHd

表面磁極の分割による静磁エネルギーの減少

結晶表面をxy面にとる

表面でz=0とする

磁区の磁化方向はplusmnz

磁区のx方向の幅d

磁極の表面密度=Is 2mdltxlt(2m+1)d

=-Is (2m+1)dltxlt2(m+1)d

磁気ポテンシャルをLaplaceの方程式で求め

+ +- -

z

x

y

d

境界条件( z)z=-0=20

境界条件のもとにラプラス方程式を解くと=n An sin n(d)xexp n(d)z

係数Anは次式を満たすように決められる(d) n nAn sin n(d)x =I20 2mdltxlt(2m+1)d

= - I20 (2m+1)dltxlt2(m+1)d

rarrAn=2Isd20n2

(x=0)=(2Isd20) n (1n2)sin n(d)x

単位表面積あたりの静磁エネルギー=(2Is

220) n (1n2)int0d sin n(d)x

=(2Is2d20) n=odd (1n3)=540104Is

2d

磁気異方性

磁性体は半導体と違って形状寸法結晶方位とか磁化の方位などによって物性が大きく変化する

1つの原因は上に述べた反磁界係数で形状磁気異方性と呼ばれます反磁界によるエネルギーの損を最小化することが原因です

このほかの原因として重要なのが結晶磁気異方性です結晶磁気異方性というのは磁界を結晶のどの方位に加えるかで磁化曲線が変化する性質です

電子軌道は結晶軸に結びついているので磁気的性質と電子軌道との結びつき(スピン軌道相互作用)を通じて磁性が結晶軸と結び

つくのです半導体にも詳しい測定をすると異方性を見ることができますこれに比べ一般に半導体の電子軌道は結晶全体に広がっているので平均化されて結晶軸に依存する物性が見えにくいです

結晶磁気異方性

磁化しやすさは結晶の方位に依存する

鉄は立方晶であるが[100]が容易軸[111]は困難軸

x

y

z

[111

]

[100

]

容易軸

困難軸

[110]

円板磁性体の磁区構造

全体が磁区に分かれることにより全体の磁化がなくなっているこれが初磁化状態である

磁区の内部では磁化は任意の方向をランダムに向いている訳ではない

磁化は結晶の方位と無関係な方向を向くことはできない磁性体には磁気異方性という性質があり磁化が特定の結晶軸方位(たとえばFeでは[001]方向および等価な方向)を向く性質がある

[001]容易軸では図のように(001)面内では[100][010][-100][0-10]の4つの方向を向くので90磁壁になる

[111]容易軸では

(a) (b)

(近角強磁性体の物理)

33 ヒステリシスを磁区で説明する

残留磁化状態 逆磁区の発生と成長

磁気飽和

核発生

34 さまざまな磁区とマイクロマグネティクス

Figは結晶の対称性により磁区が変わる様子の例として縞状磁区(stripe domain)と環流磁区(closure domain)を示している磁性体を微細化して直径1μm付近になるとスピンは面内に分布してvortex状態となり中心部に垂直方向のスピン成分をもつようになるさらに微細化すると単磁区になる

微小磁区のMFM観察

磁区の観察にはビッター法といって磁性微粒子を含むコロイドを磁性体上に滴下して光学顕微鏡で観察する方法が古くから使われているこのほか磁気光学顕微鏡ローレンツ電子顕微鏡磁気力顕微鏡走査型ホール顕微鏡走査型SQUID顕微鏡スピン偏極電子顕微鏡X線MCD顕微鏡などで観察することが可能であるFig 22にはいくつかの例について筆者のMFM観察結果を示す

10 nmtimes10 nmtimes10 nmMesh size

1Number of dot

200 nmtimes200 nmtimes100nm

Dot Size

Y directionEasy axis

02Damping constant(α)

-176times107 rad(sOe)Gyro magnetic constant(γ)

1000 ergcm3Anisotropic constant (Ku)

1times10-6 ergcm3Exchange field (A)

800 emucm3Saturation magnetization (Ms)

Hy = 10 kOe rarr 0 Oe

divM divMy

LLG 方程式を用いた

マイクロ磁気解析

Dot model

200 x 200thickness50 nm

Magnetic moment - dv M Force gradient

200 x 200thickness100 nm

90 degree walls propeller-like distortion

Calculation of a single dot

Spin structure

-divM

Isolated square dot

Force gradient image Spin distribution image

Four-dot system

Shift of the center occurs Reversal of chirality

MFM imagewith low-moment tip

(CoPtCr240Å in HV)

Spin distribution imagewith the force-gradientimage overlapped

Inversion of chirality

Comparison between MFM andsimulation of spin distribution

Simulation was carried outin the model structureconsisting of four squaredots with a dimension of200 nmtimes200 nmtimes20 nmwith 50nm separationbetween dots

The calculated spinstructure shows a closuredomain structure with the90-wall appears

The chirality of the spindirection in adjacent dots isopposite to each other asshown by white arrows

The Z-component force-gradient image taking intoaccount the tip-sampleinteraction is overlapped

Calculated magnetization configurationof Y-shaped permalloy dot

Calculation parametersWidth 300 nmThickness 100 nmEasy axis 0 ergcm3

x

y

z

Force gradient-divM

Force gradient(Magnified)

Experimental MFM images

bull Single domains appear in two armsbull Multi-domain of 4 chained closer-domains on the restbull Spin-flow at crossing region turns left in two steps

50

0n

m2

m

L

C

R

C

L

R

x

y

z

Calculated magnetization configurationsof Y-shaped permalloy mirror-dots

Calculation parametersWidth 200 nmThickness 40 nmEasy axis X 1000 ergcm3

Force gradient-divM

Single dot

Experimental MFM images

15 m

bull Calculated spin-flows similar to experimental resultbull Vortices with same chirality appear at the ends of all armsbull Chirality of adjacent dot shows a mirror-reflection

Easy axisEasy axis

Easy axis

Easy axis

-divM

4 おわりに

磁性特有のテクニカルタームがあるが慣れればそれほど難しいものではない

大部分の話は量子力学なしでも理解できる電磁気学の知識があればよい

応用につながるのは磁区磁壁の物理である

メゾスコピック系では量子的な現象が現れるこれが得意なスピン依存伝導現象をもたらす

[参考0]半導体磁性体誘電体

半導体と磁性体の対比

半導体 電子物性パラメータは基本的

にバンド構造で決まるキャリア密度は人為的に制御される

量子構造を考えない限り電子を古典粒子として有効質量近似で扱える

応用されるのは電子構造で決まる移動度などのミクロな電子物性である

電子物性が寸法方位形状にほとんど依存しない

単位系はCGSをもとにした実用単位系が使われる

磁性体 金属磁性体の磁性はスピン偏

極バンド構造で決まるが非金属磁性体の磁性は局在多電子系のフント則で決まる

交換相互作用スピン軌道相互作用など量子力学が基本

応用されるのは磁区により生じるヒステリシスに関連したマクロ磁気物性である

磁性は磁気異方性の影響を受け寸法方位形状により大幅に変化する

単位系が複雑でCGSとSIが混在して使われている

磁性体と誘電体の対比

磁性体

磁気モーメントμ(軸性ベクトル)

磁化M

自発磁化Ms

反磁界

磁気ヒステリシス

飽和磁化残留磁化保磁力

磁区(ドメイン)

キュリー温度

誘電体

電気双極子qr(極性ベクトル)

電気分極P

自発分極Ps

反電界

誘電ヒステリシス

飽和分極残留分極抗電界

分域(ドメイン)

キュリー温度

[参考1]

磁界磁束磁化

磁界(磁場)H磁束密度B磁化M

磁界H中に置かれた磁化Mの磁性体が磁束密

度は真空中の磁束密度に磁化による磁束密度を加えたものであるすなわちB=0H+M

B=0H B=0H+M

M

磁性体があると磁束密度が高くなる

真空中での磁束密度

磁化とは

物質に磁界を加えたとき物質の表面に磁極が生じ一時的に磁石のようになるがそのとき物質が磁化されたという

(b)(a)

(高梨初等磁気工学講座)より

磁化の定義

K番目の原子の1原子あ

たりの磁気モーメントをkとするときその単位体積についての総和k

を磁化Mと定義するM= k

磁気モーメントの単位はWbmであるから磁化の単位はWbm2となる

(高梨初等磁気工学講座)より

常磁性

磁極と磁気モーメント

磁石にはN極とS極がある

磁界中に置かれた磁性体にも磁極が誘起される磁極は必ずNSの対で現れる(単極は見つかっていない)

磁極の大きさをq [Wb]とすると磁界によってNSの対に働くトルクは-qdHsin [Nm]=qdsin [Wbm] H[Am]

必ずNとSが対で現れるならm=qrを磁性を扱う基本単

位と考えることが出来るこれを磁気モーメントという単位は[Wbm]

[参考2]

磁気モーメントの電子的起源

磁気モーメント

一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは

T=qH r sin=mH sin 磁気モーメントのもつポテンシャルEは

E=Td= mH sin d=mH(1-cos)

ポテンシャルの原点はどこにとってもよいから E=-mH mHのときエネルギーは極小になる

mはHに平行になろうとする(高梨初等磁気工学講座)より

r 磁気モーメント

m=qr [Wbm]

-q [Wb]

+q [Wb]

qH

-qH

rsin

単位E[J]=-m[Wbm] H[Am]

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 49: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

反磁界(demagnetization field)

磁性体表面の法線方向の磁化成分をMn とすると表面には単位面積あたり = Mnという大きさの磁極(Wbm2)が生じる

磁極からはガウスの定理によって全部で μ0の磁力線がわき出すこのうち反磁界係数Nを使って定義される磁力線NMは内部に向かっており残りは外側に向かっているすなわち磁石の内部ではMの向きとは逆方向の反磁界が存在する

外部では磁束線は磁力線に一致する

(b) 磁力線

M- +

(a)磁化と磁極 反磁界

S N

S N

(c) 磁束線

反磁界係数N (近角強磁性体の物理より)

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0

(i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+ Ny+ Nz=1

が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx= Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx= Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

x

y

z

z

x

y

z

x

y

Nz=1

Nx= 0Ny= 0

Nx= 12

Ny= 12

Nx=13

Ny=13

Nz=13

Nz=0

反磁界補正

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0 (i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+Ny+ Nz=1が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx=Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx=Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

(近角強磁性体の物理より)

反磁界と静磁エネルギー

磁化Mが反磁界HdのもとにおかれるとU=MHdだけポテンシャルエネルギーが高くなる

一様な磁界H中の磁気モーメントMに働くトルクTはT=-MH sin

磁気モーメントのもつポテンシャルEはU=Td= - 0

MH sin d=MH (1-cos) エネルギーの原点はどこにとってもよいのでポテンシャルエネルギーはU=-MHと表される H=-Hdを代入すると反磁界によるポテンシャルの増加はU=MHd

表面磁極の分割による静磁エネルギーの減少

結晶表面をxy面にとる

表面でz=0とする

磁区の磁化方向はplusmnz

磁区のx方向の幅d

磁極の表面密度=Is 2mdltxlt(2m+1)d

=-Is (2m+1)dltxlt2(m+1)d

磁気ポテンシャルをLaplaceの方程式で求め

+ +- -

z

x

y

d

境界条件( z)z=-0=20

境界条件のもとにラプラス方程式を解くと=n An sin n(d)xexp n(d)z

係数Anは次式を満たすように決められる(d) n nAn sin n(d)x =I20 2mdltxlt(2m+1)d

= - I20 (2m+1)dltxlt2(m+1)d

rarrAn=2Isd20n2

(x=0)=(2Isd20) n (1n2)sin n(d)x

単位表面積あたりの静磁エネルギー=(2Is

220) n (1n2)int0d sin n(d)x

=(2Is2d20) n=odd (1n3)=540104Is

2d

磁気異方性

磁性体は半導体と違って形状寸法結晶方位とか磁化の方位などによって物性が大きく変化する

1つの原因は上に述べた反磁界係数で形状磁気異方性と呼ばれます反磁界によるエネルギーの損を最小化することが原因です

このほかの原因として重要なのが結晶磁気異方性です結晶磁気異方性というのは磁界を結晶のどの方位に加えるかで磁化曲線が変化する性質です

電子軌道は結晶軸に結びついているので磁気的性質と電子軌道との結びつき(スピン軌道相互作用)を通じて磁性が結晶軸と結び

つくのです半導体にも詳しい測定をすると異方性を見ることができますこれに比べ一般に半導体の電子軌道は結晶全体に広がっているので平均化されて結晶軸に依存する物性が見えにくいです

結晶磁気異方性

磁化しやすさは結晶の方位に依存する

鉄は立方晶であるが[100]が容易軸[111]は困難軸

x

y

z

[111

]

[100

]

容易軸

困難軸

[110]

円板磁性体の磁区構造

全体が磁区に分かれることにより全体の磁化がなくなっているこれが初磁化状態である

磁区の内部では磁化は任意の方向をランダムに向いている訳ではない

磁化は結晶の方位と無関係な方向を向くことはできない磁性体には磁気異方性という性質があり磁化が特定の結晶軸方位(たとえばFeでは[001]方向および等価な方向)を向く性質がある

[001]容易軸では図のように(001)面内では[100][010][-100][0-10]の4つの方向を向くので90磁壁になる

[111]容易軸では

(a) (b)

(近角強磁性体の物理)

33 ヒステリシスを磁区で説明する

残留磁化状態 逆磁区の発生と成長

磁気飽和

核発生

34 さまざまな磁区とマイクロマグネティクス

Figは結晶の対称性により磁区が変わる様子の例として縞状磁区(stripe domain)と環流磁区(closure domain)を示している磁性体を微細化して直径1μm付近になるとスピンは面内に分布してvortex状態となり中心部に垂直方向のスピン成分をもつようになるさらに微細化すると単磁区になる

微小磁区のMFM観察

磁区の観察にはビッター法といって磁性微粒子を含むコロイドを磁性体上に滴下して光学顕微鏡で観察する方法が古くから使われているこのほか磁気光学顕微鏡ローレンツ電子顕微鏡磁気力顕微鏡走査型ホール顕微鏡走査型SQUID顕微鏡スピン偏極電子顕微鏡X線MCD顕微鏡などで観察することが可能であるFig 22にはいくつかの例について筆者のMFM観察結果を示す

10 nmtimes10 nmtimes10 nmMesh size

1Number of dot

200 nmtimes200 nmtimes100nm

Dot Size

Y directionEasy axis

02Damping constant(α)

-176times107 rad(sOe)Gyro magnetic constant(γ)

1000 ergcm3Anisotropic constant (Ku)

1times10-6 ergcm3Exchange field (A)

800 emucm3Saturation magnetization (Ms)

Hy = 10 kOe rarr 0 Oe

divM divMy

LLG 方程式を用いた

マイクロ磁気解析

Dot model

200 x 200thickness50 nm

Magnetic moment - dv M Force gradient

200 x 200thickness100 nm

90 degree walls propeller-like distortion

Calculation of a single dot

Spin structure

-divM

Isolated square dot

Force gradient image Spin distribution image

Four-dot system

Shift of the center occurs Reversal of chirality

MFM imagewith low-moment tip

(CoPtCr240Å in HV)

Spin distribution imagewith the force-gradientimage overlapped

Inversion of chirality

Comparison between MFM andsimulation of spin distribution

Simulation was carried outin the model structureconsisting of four squaredots with a dimension of200 nmtimes200 nmtimes20 nmwith 50nm separationbetween dots

The calculated spinstructure shows a closuredomain structure with the90-wall appears

The chirality of the spindirection in adjacent dots isopposite to each other asshown by white arrows

The Z-component force-gradient image taking intoaccount the tip-sampleinteraction is overlapped

Calculated magnetization configurationof Y-shaped permalloy dot

Calculation parametersWidth 300 nmThickness 100 nmEasy axis 0 ergcm3

x

y

z

Force gradient-divM

Force gradient(Magnified)

Experimental MFM images

bull Single domains appear in two armsbull Multi-domain of 4 chained closer-domains on the restbull Spin-flow at crossing region turns left in two steps

50

0n

m2

m

L

C

R

C

L

R

x

y

z

Calculated magnetization configurationsof Y-shaped permalloy mirror-dots

Calculation parametersWidth 200 nmThickness 40 nmEasy axis X 1000 ergcm3

Force gradient-divM

Single dot

Experimental MFM images

15 m

bull Calculated spin-flows similar to experimental resultbull Vortices with same chirality appear at the ends of all armsbull Chirality of adjacent dot shows a mirror-reflection

Easy axisEasy axis

Easy axis

Easy axis

-divM

4 おわりに

磁性特有のテクニカルタームがあるが慣れればそれほど難しいものではない

大部分の話は量子力学なしでも理解できる電磁気学の知識があればよい

応用につながるのは磁区磁壁の物理である

メゾスコピック系では量子的な現象が現れるこれが得意なスピン依存伝導現象をもたらす

[参考0]半導体磁性体誘電体

半導体と磁性体の対比

半導体 電子物性パラメータは基本的

にバンド構造で決まるキャリア密度は人為的に制御される

量子構造を考えない限り電子を古典粒子として有効質量近似で扱える

応用されるのは電子構造で決まる移動度などのミクロな電子物性である

電子物性が寸法方位形状にほとんど依存しない

単位系はCGSをもとにした実用単位系が使われる

磁性体 金属磁性体の磁性はスピン偏

極バンド構造で決まるが非金属磁性体の磁性は局在多電子系のフント則で決まる

交換相互作用スピン軌道相互作用など量子力学が基本

応用されるのは磁区により生じるヒステリシスに関連したマクロ磁気物性である

磁性は磁気異方性の影響を受け寸法方位形状により大幅に変化する

単位系が複雑でCGSとSIが混在して使われている

磁性体と誘電体の対比

磁性体

磁気モーメントμ(軸性ベクトル)

磁化M

自発磁化Ms

反磁界

磁気ヒステリシス

飽和磁化残留磁化保磁力

磁区(ドメイン)

キュリー温度

誘電体

電気双極子qr(極性ベクトル)

電気分極P

自発分極Ps

反電界

誘電ヒステリシス

飽和分極残留分極抗電界

分域(ドメイン)

キュリー温度

[参考1]

磁界磁束磁化

磁界(磁場)H磁束密度B磁化M

磁界H中に置かれた磁化Mの磁性体が磁束密

度は真空中の磁束密度に磁化による磁束密度を加えたものであるすなわちB=0H+M

B=0H B=0H+M

M

磁性体があると磁束密度が高くなる

真空中での磁束密度

磁化とは

物質に磁界を加えたとき物質の表面に磁極が生じ一時的に磁石のようになるがそのとき物質が磁化されたという

(b)(a)

(高梨初等磁気工学講座)より

磁化の定義

K番目の原子の1原子あ

たりの磁気モーメントをkとするときその単位体積についての総和k

を磁化Mと定義するM= k

磁気モーメントの単位はWbmであるから磁化の単位はWbm2となる

(高梨初等磁気工学講座)より

常磁性

磁極と磁気モーメント

磁石にはN極とS極がある

磁界中に置かれた磁性体にも磁極が誘起される磁極は必ずNSの対で現れる(単極は見つかっていない)

磁極の大きさをq [Wb]とすると磁界によってNSの対に働くトルクは-qdHsin [Nm]=qdsin [Wbm] H[Am]

必ずNとSが対で現れるならm=qrを磁性を扱う基本単

位と考えることが出来るこれを磁気モーメントという単位は[Wbm]

[参考2]

磁気モーメントの電子的起源

磁気モーメント

一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは

T=qH r sin=mH sin 磁気モーメントのもつポテンシャルEは

E=Td= mH sin d=mH(1-cos)

ポテンシャルの原点はどこにとってもよいから E=-mH mHのときエネルギーは極小になる

mはHに平行になろうとする(高梨初等磁気工学講座)より

r 磁気モーメント

m=qr [Wbm]

-q [Wb]

+q [Wb]

qH

-qH

rsin

単位E[J]=-m[Wbm] H[Am]

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 50: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

反磁界係数N (近角強磁性体の物理より)

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0

(i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+ Ny+ Nz=1

が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx= Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx= Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

x

y

z

z

x

y

z

x

y

Nz=1

Nx= 0Ny= 0

Nx= 12

Ny= 12

Nx=13

Ny=13

Nz=13

Nz=0

反磁界補正

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0 (i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+Ny+ Nz=1が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx=Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx=Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

(近角強磁性体の物理より)

反磁界と静磁エネルギー

磁化Mが反磁界HdのもとにおかれるとU=MHdだけポテンシャルエネルギーが高くなる

一様な磁界H中の磁気モーメントMに働くトルクTはT=-MH sin

磁気モーメントのもつポテンシャルEはU=Td= - 0

MH sin d=MH (1-cos) エネルギーの原点はどこにとってもよいのでポテンシャルエネルギーはU=-MHと表される H=-Hdを代入すると反磁界によるポテンシャルの増加はU=MHd

表面磁極の分割による静磁エネルギーの減少

結晶表面をxy面にとる

表面でz=0とする

磁区の磁化方向はplusmnz

磁区のx方向の幅d

磁極の表面密度=Is 2mdltxlt(2m+1)d

=-Is (2m+1)dltxlt2(m+1)d

磁気ポテンシャルをLaplaceの方程式で求め

+ +- -

z

x

y

d

境界条件( z)z=-0=20

境界条件のもとにラプラス方程式を解くと=n An sin n(d)xexp n(d)z

係数Anは次式を満たすように決められる(d) n nAn sin n(d)x =I20 2mdltxlt(2m+1)d

= - I20 (2m+1)dltxlt2(m+1)d

rarrAn=2Isd20n2

(x=0)=(2Isd20) n (1n2)sin n(d)x

単位表面積あたりの静磁エネルギー=(2Is

220) n (1n2)int0d sin n(d)x

=(2Is2d20) n=odd (1n3)=540104Is

2d

磁気異方性

磁性体は半導体と違って形状寸法結晶方位とか磁化の方位などによって物性が大きく変化する

1つの原因は上に述べた反磁界係数で形状磁気異方性と呼ばれます反磁界によるエネルギーの損を最小化することが原因です

このほかの原因として重要なのが結晶磁気異方性です結晶磁気異方性というのは磁界を結晶のどの方位に加えるかで磁化曲線が変化する性質です

電子軌道は結晶軸に結びついているので磁気的性質と電子軌道との結びつき(スピン軌道相互作用)を通じて磁性が結晶軸と結び

つくのです半導体にも詳しい測定をすると異方性を見ることができますこれに比べ一般に半導体の電子軌道は結晶全体に広がっているので平均化されて結晶軸に依存する物性が見えにくいです

結晶磁気異方性

磁化しやすさは結晶の方位に依存する

鉄は立方晶であるが[100]が容易軸[111]は困難軸

x

y

z

[111

]

[100

]

容易軸

困難軸

[110]

円板磁性体の磁区構造

全体が磁区に分かれることにより全体の磁化がなくなっているこれが初磁化状態である

磁区の内部では磁化は任意の方向をランダムに向いている訳ではない

磁化は結晶の方位と無関係な方向を向くことはできない磁性体には磁気異方性という性質があり磁化が特定の結晶軸方位(たとえばFeでは[001]方向および等価な方向)を向く性質がある

[001]容易軸では図のように(001)面内では[100][010][-100][0-10]の4つの方向を向くので90磁壁になる

[111]容易軸では

(a) (b)

(近角強磁性体の物理)

33 ヒステリシスを磁区で説明する

残留磁化状態 逆磁区の発生と成長

磁気飽和

核発生

34 さまざまな磁区とマイクロマグネティクス

Figは結晶の対称性により磁区が変わる様子の例として縞状磁区(stripe domain)と環流磁区(closure domain)を示している磁性体を微細化して直径1μm付近になるとスピンは面内に分布してvortex状態となり中心部に垂直方向のスピン成分をもつようになるさらに微細化すると単磁区になる

微小磁区のMFM観察

磁区の観察にはビッター法といって磁性微粒子を含むコロイドを磁性体上に滴下して光学顕微鏡で観察する方法が古くから使われているこのほか磁気光学顕微鏡ローレンツ電子顕微鏡磁気力顕微鏡走査型ホール顕微鏡走査型SQUID顕微鏡スピン偏極電子顕微鏡X線MCD顕微鏡などで観察することが可能であるFig 22にはいくつかの例について筆者のMFM観察結果を示す

10 nmtimes10 nmtimes10 nmMesh size

1Number of dot

200 nmtimes200 nmtimes100nm

Dot Size

Y directionEasy axis

02Damping constant(α)

-176times107 rad(sOe)Gyro magnetic constant(γ)

1000 ergcm3Anisotropic constant (Ku)

1times10-6 ergcm3Exchange field (A)

800 emucm3Saturation magnetization (Ms)

Hy = 10 kOe rarr 0 Oe

divM divMy

LLG 方程式を用いた

マイクロ磁気解析

Dot model

200 x 200thickness50 nm

Magnetic moment - dv M Force gradient

200 x 200thickness100 nm

90 degree walls propeller-like distortion

Calculation of a single dot

Spin structure

-divM

Isolated square dot

Force gradient image Spin distribution image

Four-dot system

Shift of the center occurs Reversal of chirality

MFM imagewith low-moment tip

(CoPtCr240Å in HV)

Spin distribution imagewith the force-gradientimage overlapped

Inversion of chirality

Comparison between MFM andsimulation of spin distribution

Simulation was carried outin the model structureconsisting of four squaredots with a dimension of200 nmtimes200 nmtimes20 nmwith 50nm separationbetween dots

The calculated spinstructure shows a closuredomain structure with the90-wall appears

The chirality of the spindirection in adjacent dots isopposite to each other asshown by white arrows

The Z-component force-gradient image taking intoaccount the tip-sampleinteraction is overlapped

Calculated magnetization configurationof Y-shaped permalloy dot

Calculation parametersWidth 300 nmThickness 100 nmEasy axis 0 ergcm3

x

y

z

Force gradient-divM

Force gradient(Magnified)

Experimental MFM images

bull Single domains appear in two armsbull Multi-domain of 4 chained closer-domains on the restbull Spin-flow at crossing region turns left in two steps

50

0n

m2

m

L

C

R

C

L

R

x

y

z

Calculated magnetization configurationsof Y-shaped permalloy mirror-dots

Calculation parametersWidth 200 nmThickness 40 nmEasy axis X 1000 ergcm3

Force gradient-divM

Single dot

Experimental MFM images

15 m

bull Calculated spin-flows similar to experimental resultbull Vortices with same chirality appear at the ends of all armsbull Chirality of adjacent dot shows a mirror-reflection

Easy axisEasy axis

Easy axis

Easy axis

-divM

4 おわりに

磁性特有のテクニカルタームがあるが慣れればそれほど難しいものではない

大部分の話は量子力学なしでも理解できる電磁気学の知識があればよい

応用につながるのは磁区磁壁の物理である

メゾスコピック系では量子的な現象が現れるこれが得意なスピン依存伝導現象をもたらす

[参考0]半導体磁性体誘電体

半導体と磁性体の対比

半導体 電子物性パラメータは基本的

にバンド構造で決まるキャリア密度は人為的に制御される

量子構造を考えない限り電子を古典粒子として有効質量近似で扱える

応用されるのは電子構造で決まる移動度などのミクロな電子物性である

電子物性が寸法方位形状にほとんど依存しない

単位系はCGSをもとにした実用単位系が使われる

磁性体 金属磁性体の磁性はスピン偏

極バンド構造で決まるが非金属磁性体の磁性は局在多電子系のフント則で決まる

交換相互作用スピン軌道相互作用など量子力学が基本

応用されるのは磁区により生じるヒステリシスに関連したマクロ磁気物性である

磁性は磁気異方性の影響を受け寸法方位形状により大幅に変化する

単位系が複雑でCGSとSIが混在して使われている

磁性体と誘電体の対比

磁性体

磁気モーメントμ(軸性ベクトル)

磁化M

自発磁化Ms

反磁界

磁気ヒステリシス

飽和磁化残留磁化保磁力

磁区(ドメイン)

キュリー温度

誘電体

電気双極子qr(極性ベクトル)

電気分極P

自発分極Ps

反電界

誘電ヒステリシス

飽和分極残留分極抗電界

分域(ドメイン)

キュリー温度

[参考1]

磁界磁束磁化

磁界(磁場)H磁束密度B磁化M

磁界H中に置かれた磁化Mの磁性体が磁束密

度は真空中の磁束密度に磁化による磁束密度を加えたものであるすなわちB=0H+M

B=0H B=0H+M

M

磁性体があると磁束密度が高くなる

真空中での磁束密度

磁化とは

物質に磁界を加えたとき物質の表面に磁極が生じ一時的に磁石のようになるがそのとき物質が磁化されたという

(b)(a)

(高梨初等磁気工学講座)より

磁化の定義

K番目の原子の1原子あ

たりの磁気モーメントをkとするときその単位体積についての総和k

を磁化Mと定義するM= k

磁気モーメントの単位はWbmであるから磁化の単位はWbm2となる

(高梨初等磁気工学講座)より

常磁性

磁極と磁気モーメント

磁石にはN極とS極がある

磁界中に置かれた磁性体にも磁極が誘起される磁極は必ずNSの対で現れる(単極は見つかっていない)

磁極の大きさをq [Wb]とすると磁界によってNSの対に働くトルクは-qdHsin [Nm]=qdsin [Wbm] H[Am]

必ずNとSが対で現れるならm=qrを磁性を扱う基本単

位と考えることが出来るこれを磁気モーメントという単位は[Wbm]

[参考2]

磁気モーメントの電子的起源

磁気モーメント

一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは

T=qH r sin=mH sin 磁気モーメントのもつポテンシャルEは

E=Td= mH sin d=mH(1-cos)

ポテンシャルの原点はどこにとってもよいから E=-mH mHのときエネルギーは極小になる

mはHに平行になろうとする(高梨初等磁気工学講座)より

r 磁気モーメント

m=qr [Wbm]

-q [Wb]

+q [Wb]

qH

-qH

rsin

単位E[J]=-m[Wbm] H[Am]

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 51: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

反磁界補正

Nのx y z成分をNx Ny NzとするとHdi=-NiMi0 (i=xyz)と表されNx Ny Nzの間にはNx+Ny+ Nz=1が成立する

球形Nx= Ny= Nz=13

z方向に無限に長い円柱Nx=Ny= 12Nz=0

無限に広い薄膜の場合Nx=Ny= 0Nz=1となる

実効磁界Heff=Hex-NM0

(近角強磁性体の物理より)

反磁界と静磁エネルギー

磁化Mが反磁界HdのもとにおかれるとU=MHdだけポテンシャルエネルギーが高くなる

一様な磁界H中の磁気モーメントMに働くトルクTはT=-MH sin

磁気モーメントのもつポテンシャルEはU=Td= - 0

MH sin d=MH (1-cos) エネルギーの原点はどこにとってもよいのでポテンシャルエネルギーはU=-MHと表される H=-Hdを代入すると反磁界によるポテンシャルの増加はU=MHd

表面磁極の分割による静磁エネルギーの減少

結晶表面をxy面にとる

表面でz=0とする

磁区の磁化方向はplusmnz

磁区のx方向の幅d

磁極の表面密度=Is 2mdltxlt(2m+1)d

=-Is (2m+1)dltxlt2(m+1)d

磁気ポテンシャルをLaplaceの方程式で求め

+ +- -

z

x

y

d

境界条件( z)z=-0=20

境界条件のもとにラプラス方程式を解くと=n An sin n(d)xexp n(d)z

係数Anは次式を満たすように決められる(d) n nAn sin n(d)x =I20 2mdltxlt(2m+1)d

= - I20 (2m+1)dltxlt2(m+1)d

rarrAn=2Isd20n2

(x=0)=(2Isd20) n (1n2)sin n(d)x

単位表面積あたりの静磁エネルギー=(2Is

220) n (1n2)int0d sin n(d)x

=(2Is2d20) n=odd (1n3)=540104Is

2d

磁気異方性

磁性体は半導体と違って形状寸法結晶方位とか磁化の方位などによって物性が大きく変化する

1つの原因は上に述べた反磁界係数で形状磁気異方性と呼ばれます反磁界によるエネルギーの損を最小化することが原因です

このほかの原因として重要なのが結晶磁気異方性です結晶磁気異方性というのは磁界を結晶のどの方位に加えるかで磁化曲線が変化する性質です

電子軌道は結晶軸に結びついているので磁気的性質と電子軌道との結びつき(スピン軌道相互作用)を通じて磁性が結晶軸と結び

つくのです半導体にも詳しい測定をすると異方性を見ることができますこれに比べ一般に半導体の電子軌道は結晶全体に広がっているので平均化されて結晶軸に依存する物性が見えにくいです

結晶磁気異方性

磁化しやすさは結晶の方位に依存する

鉄は立方晶であるが[100]が容易軸[111]は困難軸

x

y

z

[111

]

[100

]

容易軸

困難軸

[110]

円板磁性体の磁区構造

全体が磁区に分かれることにより全体の磁化がなくなっているこれが初磁化状態である

磁区の内部では磁化は任意の方向をランダムに向いている訳ではない

磁化は結晶の方位と無関係な方向を向くことはできない磁性体には磁気異方性という性質があり磁化が特定の結晶軸方位(たとえばFeでは[001]方向および等価な方向)を向く性質がある

[001]容易軸では図のように(001)面内では[100][010][-100][0-10]の4つの方向を向くので90磁壁になる

[111]容易軸では

(a) (b)

(近角強磁性体の物理)

33 ヒステリシスを磁区で説明する

残留磁化状態 逆磁区の発生と成長

磁気飽和

核発生

34 さまざまな磁区とマイクロマグネティクス

Figは結晶の対称性により磁区が変わる様子の例として縞状磁区(stripe domain)と環流磁区(closure domain)を示している磁性体を微細化して直径1μm付近になるとスピンは面内に分布してvortex状態となり中心部に垂直方向のスピン成分をもつようになるさらに微細化すると単磁区になる

微小磁区のMFM観察

磁区の観察にはビッター法といって磁性微粒子を含むコロイドを磁性体上に滴下して光学顕微鏡で観察する方法が古くから使われているこのほか磁気光学顕微鏡ローレンツ電子顕微鏡磁気力顕微鏡走査型ホール顕微鏡走査型SQUID顕微鏡スピン偏極電子顕微鏡X線MCD顕微鏡などで観察することが可能であるFig 22にはいくつかの例について筆者のMFM観察結果を示す

10 nmtimes10 nmtimes10 nmMesh size

1Number of dot

200 nmtimes200 nmtimes100nm

Dot Size

Y directionEasy axis

02Damping constant(α)

-176times107 rad(sOe)Gyro magnetic constant(γ)

1000 ergcm3Anisotropic constant (Ku)

1times10-6 ergcm3Exchange field (A)

800 emucm3Saturation magnetization (Ms)

Hy = 10 kOe rarr 0 Oe

divM divMy

LLG 方程式を用いた

マイクロ磁気解析

Dot model

200 x 200thickness50 nm

Magnetic moment - dv M Force gradient

200 x 200thickness100 nm

90 degree walls propeller-like distortion

Calculation of a single dot

Spin structure

-divM

Isolated square dot

Force gradient image Spin distribution image

Four-dot system

Shift of the center occurs Reversal of chirality

MFM imagewith low-moment tip

(CoPtCr240Å in HV)

Spin distribution imagewith the force-gradientimage overlapped

Inversion of chirality

Comparison between MFM andsimulation of spin distribution

Simulation was carried outin the model structureconsisting of four squaredots with a dimension of200 nmtimes200 nmtimes20 nmwith 50nm separationbetween dots

The calculated spinstructure shows a closuredomain structure with the90-wall appears

The chirality of the spindirection in adjacent dots isopposite to each other asshown by white arrows

The Z-component force-gradient image taking intoaccount the tip-sampleinteraction is overlapped

Calculated magnetization configurationof Y-shaped permalloy dot

Calculation parametersWidth 300 nmThickness 100 nmEasy axis 0 ergcm3

x

y

z

Force gradient-divM

Force gradient(Magnified)

Experimental MFM images

bull Single domains appear in two armsbull Multi-domain of 4 chained closer-domains on the restbull Spin-flow at crossing region turns left in two steps

50

0n

m2

m

L

C

R

C

L

R

x

y

z

Calculated magnetization configurationsof Y-shaped permalloy mirror-dots

Calculation parametersWidth 200 nmThickness 40 nmEasy axis X 1000 ergcm3

Force gradient-divM

Single dot

Experimental MFM images

15 m

bull Calculated spin-flows similar to experimental resultbull Vortices with same chirality appear at the ends of all armsbull Chirality of adjacent dot shows a mirror-reflection

Easy axisEasy axis

Easy axis

Easy axis

-divM

4 おわりに

磁性特有のテクニカルタームがあるが慣れればそれほど難しいものではない

大部分の話は量子力学なしでも理解できる電磁気学の知識があればよい

応用につながるのは磁区磁壁の物理である

メゾスコピック系では量子的な現象が現れるこれが得意なスピン依存伝導現象をもたらす

[参考0]半導体磁性体誘電体

半導体と磁性体の対比

半導体 電子物性パラメータは基本的

にバンド構造で決まるキャリア密度は人為的に制御される

量子構造を考えない限り電子を古典粒子として有効質量近似で扱える

応用されるのは電子構造で決まる移動度などのミクロな電子物性である

電子物性が寸法方位形状にほとんど依存しない

単位系はCGSをもとにした実用単位系が使われる

磁性体 金属磁性体の磁性はスピン偏

極バンド構造で決まるが非金属磁性体の磁性は局在多電子系のフント則で決まる

交換相互作用スピン軌道相互作用など量子力学が基本

応用されるのは磁区により生じるヒステリシスに関連したマクロ磁気物性である

磁性は磁気異方性の影響を受け寸法方位形状により大幅に変化する

単位系が複雑でCGSとSIが混在して使われている

磁性体と誘電体の対比

磁性体

磁気モーメントμ(軸性ベクトル)

磁化M

自発磁化Ms

反磁界

磁気ヒステリシス

飽和磁化残留磁化保磁力

磁区(ドメイン)

キュリー温度

誘電体

電気双極子qr(極性ベクトル)

電気分極P

自発分極Ps

反電界

誘電ヒステリシス

飽和分極残留分極抗電界

分域(ドメイン)

キュリー温度

[参考1]

磁界磁束磁化

磁界(磁場)H磁束密度B磁化M

磁界H中に置かれた磁化Mの磁性体が磁束密

度は真空中の磁束密度に磁化による磁束密度を加えたものであるすなわちB=0H+M

B=0H B=0H+M

M

磁性体があると磁束密度が高くなる

真空中での磁束密度

磁化とは

物質に磁界を加えたとき物質の表面に磁極が生じ一時的に磁石のようになるがそのとき物質が磁化されたという

(b)(a)

(高梨初等磁気工学講座)より

磁化の定義

K番目の原子の1原子あ

たりの磁気モーメントをkとするときその単位体積についての総和k

を磁化Mと定義するM= k

磁気モーメントの単位はWbmであるから磁化の単位はWbm2となる

(高梨初等磁気工学講座)より

常磁性

磁極と磁気モーメント

磁石にはN極とS極がある

磁界中に置かれた磁性体にも磁極が誘起される磁極は必ずNSの対で現れる(単極は見つかっていない)

磁極の大きさをq [Wb]とすると磁界によってNSの対に働くトルクは-qdHsin [Nm]=qdsin [Wbm] H[Am]

必ずNとSが対で現れるならm=qrを磁性を扱う基本単

位と考えることが出来るこれを磁気モーメントという単位は[Wbm]

[参考2]

磁気モーメントの電子的起源

磁気モーメント

一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは

T=qH r sin=mH sin 磁気モーメントのもつポテンシャルEは

E=Td= mH sin d=mH(1-cos)

ポテンシャルの原点はどこにとってもよいから E=-mH mHのときエネルギーは極小になる

mはHに平行になろうとする(高梨初等磁気工学講座)より

r 磁気モーメント

m=qr [Wbm]

-q [Wb]

+q [Wb]

qH

-qH

rsin

単位E[J]=-m[Wbm] H[Am]

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 52: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

反磁界と静磁エネルギー

磁化Mが反磁界HdのもとにおかれるとU=MHdだけポテンシャルエネルギーが高くなる

一様な磁界H中の磁気モーメントMに働くトルクTはT=-MH sin

磁気モーメントのもつポテンシャルEはU=Td= - 0

MH sin d=MH (1-cos) エネルギーの原点はどこにとってもよいのでポテンシャルエネルギーはU=-MHと表される H=-Hdを代入すると反磁界によるポテンシャルの増加はU=MHd

表面磁極の分割による静磁エネルギーの減少

結晶表面をxy面にとる

表面でz=0とする

磁区の磁化方向はplusmnz

磁区のx方向の幅d

磁極の表面密度=Is 2mdltxlt(2m+1)d

=-Is (2m+1)dltxlt2(m+1)d

磁気ポテンシャルをLaplaceの方程式で求め

+ +- -

z

x

y

d

境界条件( z)z=-0=20

境界条件のもとにラプラス方程式を解くと=n An sin n(d)xexp n(d)z

係数Anは次式を満たすように決められる(d) n nAn sin n(d)x =I20 2mdltxlt(2m+1)d

= - I20 (2m+1)dltxlt2(m+1)d

rarrAn=2Isd20n2

(x=0)=(2Isd20) n (1n2)sin n(d)x

単位表面積あたりの静磁エネルギー=(2Is

220) n (1n2)int0d sin n(d)x

=(2Is2d20) n=odd (1n3)=540104Is

2d

磁気異方性

磁性体は半導体と違って形状寸法結晶方位とか磁化の方位などによって物性が大きく変化する

1つの原因は上に述べた反磁界係数で形状磁気異方性と呼ばれます反磁界によるエネルギーの損を最小化することが原因です

このほかの原因として重要なのが結晶磁気異方性です結晶磁気異方性というのは磁界を結晶のどの方位に加えるかで磁化曲線が変化する性質です

電子軌道は結晶軸に結びついているので磁気的性質と電子軌道との結びつき(スピン軌道相互作用)を通じて磁性が結晶軸と結び

つくのです半導体にも詳しい測定をすると異方性を見ることができますこれに比べ一般に半導体の電子軌道は結晶全体に広がっているので平均化されて結晶軸に依存する物性が見えにくいです

結晶磁気異方性

磁化しやすさは結晶の方位に依存する

鉄は立方晶であるが[100]が容易軸[111]は困難軸

x

y

z

[111

]

[100

]

容易軸

困難軸

[110]

円板磁性体の磁区構造

全体が磁区に分かれることにより全体の磁化がなくなっているこれが初磁化状態である

磁区の内部では磁化は任意の方向をランダムに向いている訳ではない

磁化は結晶の方位と無関係な方向を向くことはできない磁性体には磁気異方性という性質があり磁化が特定の結晶軸方位(たとえばFeでは[001]方向および等価な方向)を向く性質がある

[001]容易軸では図のように(001)面内では[100][010][-100][0-10]の4つの方向を向くので90磁壁になる

[111]容易軸では

(a) (b)

(近角強磁性体の物理)

33 ヒステリシスを磁区で説明する

残留磁化状態 逆磁区の発生と成長

磁気飽和

核発生

34 さまざまな磁区とマイクロマグネティクス

Figは結晶の対称性により磁区が変わる様子の例として縞状磁区(stripe domain)と環流磁区(closure domain)を示している磁性体を微細化して直径1μm付近になるとスピンは面内に分布してvortex状態となり中心部に垂直方向のスピン成分をもつようになるさらに微細化すると単磁区になる

微小磁区のMFM観察

磁区の観察にはビッター法といって磁性微粒子を含むコロイドを磁性体上に滴下して光学顕微鏡で観察する方法が古くから使われているこのほか磁気光学顕微鏡ローレンツ電子顕微鏡磁気力顕微鏡走査型ホール顕微鏡走査型SQUID顕微鏡スピン偏極電子顕微鏡X線MCD顕微鏡などで観察することが可能であるFig 22にはいくつかの例について筆者のMFM観察結果を示す

10 nmtimes10 nmtimes10 nmMesh size

1Number of dot

200 nmtimes200 nmtimes100nm

Dot Size

Y directionEasy axis

02Damping constant(α)

-176times107 rad(sOe)Gyro magnetic constant(γ)

1000 ergcm3Anisotropic constant (Ku)

1times10-6 ergcm3Exchange field (A)

800 emucm3Saturation magnetization (Ms)

Hy = 10 kOe rarr 0 Oe

divM divMy

LLG 方程式を用いた

マイクロ磁気解析

Dot model

200 x 200thickness50 nm

Magnetic moment - dv M Force gradient

200 x 200thickness100 nm

90 degree walls propeller-like distortion

Calculation of a single dot

Spin structure

-divM

Isolated square dot

Force gradient image Spin distribution image

Four-dot system

Shift of the center occurs Reversal of chirality

MFM imagewith low-moment tip

(CoPtCr240Å in HV)

Spin distribution imagewith the force-gradientimage overlapped

Inversion of chirality

Comparison between MFM andsimulation of spin distribution

Simulation was carried outin the model structureconsisting of four squaredots with a dimension of200 nmtimes200 nmtimes20 nmwith 50nm separationbetween dots

The calculated spinstructure shows a closuredomain structure with the90-wall appears

The chirality of the spindirection in adjacent dots isopposite to each other asshown by white arrows

The Z-component force-gradient image taking intoaccount the tip-sampleinteraction is overlapped

Calculated magnetization configurationof Y-shaped permalloy dot

Calculation parametersWidth 300 nmThickness 100 nmEasy axis 0 ergcm3

x

y

z

Force gradient-divM

Force gradient(Magnified)

Experimental MFM images

bull Single domains appear in two armsbull Multi-domain of 4 chained closer-domains on the restbull Spin-flow at crossing region turns left in two steps

50

0n

m2

m

L

C

R

C

L

R

x

y

z

Calculated magnetization configurationsof Y-shaped permalloy mirror-dots

Calculation parametersWidth 200 nmThickness 40 nmEasy axis X 1000 ergcm3

Force gradient-divM

Single dot

Experimental MFM images

15 m

bull Calculated spin-flows similar to experimental resultbull Vortices with same chirality appear at the ends of all armsbull Chirality of adjacent dot shows a mirror-reflection

Easy axisEasy axis

Easy axis

Easy axis

-divM

4 おわりに

磁性特有のテクニカルタームがあるが慣れればそれほど難しいものではない

大部分の話は量子力学なしでも理解できる電磁気学の知識があればよい

応用につながるのは磁区磁壁の物理である

メゾスコピック系では量子的な現象が現れるこれが得意なスピン依存伝導現象をもたらす

[参考0]半導体磁性体誘電体

半導体と磁性体の対比

半導体 電子物性パラメータは基本的

にバンド構造で決まるキャリア密度は人為的に制御される

量子構造を考えない限り電子を古典粒子として有効質量近似で扱える

応用されるのは電子構造で決まる移動度などのミクロな電子物性である

電子物性が寸法方位形状にほとんど依存しない

単位系はCGSをもとにした実用単位系が使われる

磁性体 金属磁性体の磁性はスピン偏

極バンド構造で決まるが非金属磁性体の磁性は局在多電子系のフント則で決まる

交換相互作用スピン軌道相互作用など量子力学が基本

応用されるのは磁区により生じるヒステリシスに関連したマクロ磁気物性である

磁性は磁気異方性の影響を受け寸法方位形状により大幅に変化する

単位系が複雑でCGSとSIが混在して使われている

磁性体と誘電体の対比

磁性体

磁気モーメントμ(軸性ベクトル)

磁化M

自発磁化Ms

反磁界

磁気ヒステリシス

飽和磁化残留磁化保磁力

磁区(ドメイン)

キュリー温度

誘電体

電気双極子qr(極性ベクトル)

電気分極P

自発分極Ps

反電界

誘電ヒステリシス

飽和分極残留分極抗電界

分域(ドメイン)

キュリー温度

[参考1]

磁界磁束磁化

磁界(磁場)H磁束密度B磁化M

磁界H中に置かれた磁化Mの磁性体が磁束密

度は真空中の磁束密度に磁化による磁束密度を加えたものであるすなわちB=0H+M

B=0H B=0H+M

M

磁性体があると磁束密度が高くなる

真空中での磁束密度

磁化とは

物質に磁界を加えたとき物質の表面に磁極が生じ一時的に磁石のようになるがそのとき物質が磁化されたという

(b)(a)

(高梨初等磁気工学講座)より

磁化の定義

K番目の原子の1原子あ

たりの磁気モーメントをkとするときその単位体積についての総和k

を磁化Mと定義するM= k

磁気モーメントの単位はWbmであるから磁化の単位はWbm2となる

(高梨初等磁気工学講座)より

常磁性

磁極と磁気モーメント

磁石にはN極とS極がある

磁界中に置かれた磁性体にも磁極が誘起される磁極は必ずNSの対で現れる(単極は見つかっていない)

磁極の大きさをq [Wb]とすると磁界によってNSの対に働くトルクは-qdHsin [Nm]=qdsin [Wbm] H[Am]

必ずNとSが対で現れるならm=qrを磁性を扱う基本単

位と考えることが出来るこれを磁気モーメントという単位は[Wbm]

[参考2]

磁気モーメントの電子的起源

磁気モーメント

一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは

T=qH r sin=mH sin 磁気モーメントのもつポテンシャルEは

E=Td= mH sin d=mH(1-cos)

ポテンシャルの原点はどこにとってもよいから E=-mH mHのときエネルギーは極小になる

mはHに平行になろうとする(高梨初等磁気工学講座)より

r 磁気モーメント

m=qr [Wbm]

-q [Wb]

+q [Wb]

qH

-qH

rsin

単位E[J]=-m[Wbm] H[Am]

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 53: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

表面磁極の分割による静磁エネルギーの減少

結晶表面をxy面にとる

表面でz=0とする

磁区の磁化方向はplusmnz

磁区のx方向の幅d

磁極の表面密度=Is 2mdltxlt(2m+1)d

=-Is (2m+1)dltxlt2(m+1)d

磁気ポテンシャルをLaplaceの方程式で求め

+ +- -

z

x

y

d

境界条件( z)z=-0=20

境界条件のもとにラプラス方程式を解くと=n An sin n(d)xexp n(d)z

係数Anは次式を満たすように決められる(d) n nAn sin n(d)x =I20 2mdltxlt(2m+1)d

= - I20 (2m+1)dltxlt2(m+1)d

rarrAn=2Isd20n2

(x=0)=(2Isd20) n (1n2)sin n(d)x

単位表面積あたりの静磁エネルギー=(2Is

220) n (1n2)int0d sin n(d)x

=(2Is2d20) n=odd (1n3)=540104Is

2d

磁気異方性

磁性体は半導体と違って形状寸法結晶方位とか磁化の方位などによって物性が大きく変化する

1つの原因は上に述べた反磁界係数で形状磁気異方性と呼ばれます反磁界によるエネルギーの損を最小化することが原因です

このほかの原因として重要なのが結晶磁気異方性です結晶磁気異方性というのは磁界を結晶のどの方位に加えるかで磁化曲線が変化する性質です

電子軌道は結晶軸に結びついているので磁気的性質と電子軌道との結びつき(スピン軌道相互作用)を通じて磁性が結晶軸と結び

つくのです半導体にも詳しい測定をすると異方性を見ることができますこれに比べ一般に半導体の電子軌道は結晶全体に広がっているので平均化されて結晶軸に依存する物性が見えにくいです

結晶磁気異方性

磁化しやすさは結晶の方位に依存する

鉄は立方晶であるが[100]が容易軸[111]は困難軸

x

y

z

[111

]

[100

]

容易軸

困難軸

[110]

円板磁性体の磁区構造

全体が磁区に分かれることにより全体の磁化がなくなっているこれが初磁化状態である

磁区の内部では磁化は任意の方向をランダムに向いている訳ではない

磁化は結晶の方位と無関係な方向を向くことはできない磁性体には磁気異方性という性質があり磁化が特定の結晶軸方位(たとえばFeでは[001]方向および等価な方向)を向く性質がある

[001]容易軸では図のように(001)面内では[100][010][-100][0-10]の4つの方向を向くので90磁壁になる

[111]容易軸では

(a) (b)

(近角強磁性体の物理)

33 ヒステリシスを磁区で説明する

残留磁化状態 逆磁区の発生と成長

磁気飽和

核発生

34 さまざまな磁区とマイクロマグネティクス

Figは結晶の対称性により磁区が変わる様子の例として縞状磁区(stripe domain)と環流磁区(closure domain)を示している磁性体を微細化して直径1μm付近になるとスピンは面内に分布してvortex状態となり中心部に垂直方向のスピン成分をもつようになるさらに微細化すると単磁区になる

微小磁区のMFM観察

磁区の観察にはビッター法といって磁性微粒子を含むコロイドを磁性体上に滴下して光学顕微鏡で観察する方法が古くから使われているこのほか磁気光学顕微鏡ローレンツ電子顕微鏡磁気力顕微鏡走査型ホール顕微鏡走査型SQUID顕微鏡スピン偏極電子顕微鏡X線MCD顕微鏡などで観察することが可能であるFig 22にはいくつかの例について筆者のMFM観察結果を示す

10 nmtimes10 nmtimes10 nmMesh size

1Number of dot

200 nmtimes200 nmtimes100nm

Dot Size

Y directionEasy axis

02Damping constant(α)

-176times107 rad(sOe)Gyro magnetic constant(γ)

1000 ergcm3Anisotropic constant (Ku)

1times10-6 ergcm3Exchange field (A)

800 emucm3Saturation magnetization (Ms)

Hy = 10 kOe rarr 0 Oe

divM divMy

LLG 方程式を用いた

マイクロ磁気解析

Dot model

200 x 200thickness50 nm

Magnetic moment - dv M Force gradient

200 x 200thickness100 nm

90 degree walls propeller-like distortion

Calculation of a single dot

Spin structure

-divM

Isolated square dot

Force gradient image Spin distribution image

Four-dot system

Shift of the center occurs Reversal of chirality

MFM imagewith low-moment tip

(CoPtCr240Å in HV)

Spin distribution imagewith the force-gradientimage overlapped

Inversion of chirality

Comparison between MFM andsimulation of spin distribution

Simulation was carried outin the model structureconsisting of four squaredots with a dimension of200 nmtimes200 nmtimes20 nmwith 50nm separationbetween dots

The calculated spinstructure shows a closuredomain structure with the90-wall appears

The chirality of the spindirection in adjacent dots isopposite to each other asshown by white arrows

The Z-component force-gradient image taking intoaccount the tip-sampleinteraction is overlapped

Calculated magnetization configurationof Y-shaped permalloy dot

Calculation parametersWidth 300 nmThickness 100 nmEasy axis 0 ergcm3

x

y

z

Force gradient-divM

Force gradient(Magnified)

Experimental MFM images

bull Single domains appear in two armsbull Multi-domain of 4 chained closer-domains on the restbull Spin-flow at crossing region turns left in two steps

50

0n

m2

m

L

C

R

C

L

R

x

y

z

Calculated magnetization configurationsof Y-shaped permalloy mirror-dots

Calculation parametersWidth 200 nmThickness 40 nmEasy axis X 1000 ergcm3

Force gradient-divM

Single dot

Experimental MFM images

15 m

bull Calculated spin-flows similar to experimental resultbull Vortices with same chirality appear at the ends of all armsbull Chirality of adjacent dot shows a mirror-reflection

Easy axisEasy axis

Easy axis

Easy axis

-divM

4 おわりに

磁性特有のテクニカルタームがあるが慣れればそれほど難しいものではない

大部分の話は量子力学なしでも理解できる電磁気学の知識があればよい

応用につながるのは磁区磁壁の物理である

メゾスコピック系では量子的な現象が現れるこれが得意なスピン依存伝導現象をもたらす

[参考0]半導体磁性体誘電体

半導体と磁性体の対比

半導体 電子物性パラメータは基本的

にバンド構造で決まるキャリア密度は人為的に制御される

量子構造を考えない限り電子を古典粒子として有効質量近似で扱える

応用されるのは電子構造で決まる移動度などのミクロな電子物性である

電子物性が寸法方位形状にほとんど依存しない

単位系はCGSをもとにした実用単位系が使われる

磁性体 金属磁性体の磁性はスピン偏

極バンド構造で決まるが非金属磁性体の磁性は局在多電子系のフント則で決まる

交換相互作用スピン軌道相互作用など量子力学が基本

応用されるのは磁区により生じるヒステリシスに関連したマクロ磁気物性である

磁性は磁気異方性の影響を受け寸法方位形状により大幅に変化する

単位系が複雑でCGSとSIが混在して使われている

磁性体と誘電体の対比

磁性体

磁気モーメントμ(軸性ベクトル)

磁化M

自発磁化Ms

反磁界

磁気ヒステリシス

飽和磁化残留磁化保磁力

磁区(ドメイン)

キュリー温度

誘電体

電気双極子qr(極性ベクトル)

電気分極P

自発分極Ps

反電界

誘電ヒステリシス

飽和分極残留分極抗電界

分域(ドメイン)

キュリー温度

[参考1]

磁界磁束磁化

磁界(磁場)H磁束密度B磁化M

磁界H中に置かれた磁化Mの磁性体が磁束密

度は真空中の磁束密度に磁化による磁束密度を加えたものであるすなわちB=0H+M

B=0H B=0H+M

M

磁性体があると磁束密度が高くなる

真空中での磁束密度

磁化とは

物質に磁界を加えたとき物質の表面に磁極が生じ一時的に磁石のようになるがそのとき物質が磁化されたという

(b)(a)

(高梨初等磁気工学講座)より

磁化の定義

K番目の原子の1原子あ

たりの磁気モーメントをkとするときその単位体積についての総和k

を磁化Mと定義するM= k

磁気モーメントの単位はWbmであるから磁化の単位はWbm2となる

(高梨初等磁気工学講座)より

常磁性

磁極と磁気モーメント

磁石にはN極とS極がある

磁界中に置かれた磁性体にも磁極が誘起される磁極は必ずNSの対で現れる(単極は見つかっていない)

磁極の大きさをq [Wb]とすると磁界によってNSの対に働くトルクは-qdHsin [Nm]=qdsin [Wbm] H[Am]

必ずNとSが対で現れるならm=qrを磁性を扱う基本単

位と考えることが出来るこれを磁気モーメントという単位は[Wbm]

[参考2]

磁気モーメントの電子的起源

磁気モーメント

一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは

T=qH r sin=mH sin 磁気モーメントのもつポテンシャルEは

E=Td= mH sin d=mH(1-cos)

ポテンシャルの原点はどこにとってもよいから E=-mH mHのときエネルギーは極小になる

mはHに平行になろうとする(高梨初等磁気工学講座)より

r 磁気モーメント

m=qr [Wbm]

-q [Wb]

+q [Wb]

qH

-qH

rsin

単位E[J]=-m[Wbm] H[Am]

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 54: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

境界条件( z)z=-0=20

境界条件のもとにラプラス方程式を解くと=n An sin n(d)xexp n(d)z

係数Anは次式を満たすように決められる(d) n nAn sin n(d)x =I20 2mdltxlt(2m+1)d

= - I20 (2m+1)dltxlt2(m+1)d

rarrAn=2Isd20n2

(x=0)=(2Isd20) n (1n2)sin n(d)x

単位表面積あたりの静磁エネルギー=(2Is

220) n (1n2)int0d sin n(d)x

=(2Is2d20) n=odd (1n3)=540104Is

2d

磁気異方性

磁性体は半導体と違って形状寸法結晶方位とか磁化の方位などによって物性が大きく変化する

1つの原因は上に述べた反磁界係数で形状磁気異方性と呼ばれます反磁界によるエネルギーの損を最小化することが原因です

このほかの原因として重要なのが結晶磁気異方性です結晶磁気異方性というのは磁界を結晶のどの方位に加えるかで磁化曲線が変化する性質です

電子軌道は結晶軸に結びついているので磁気的性質と電子軌道との結びつき(スピン軌道相互作用)を通じて磁性が結晶軸と結び

つくのです半導体にも詳しい測定をすると異方性を見ることができますこれに比べ一般に半導体の電子軌道は結晶全体に広がっているので平均化されて結晶軸に依存する物性が見えにくいです

結晶磁気異方性

磁化しやすさは結晶の方位に依存する

鉄は立方晶であるが[100]が容易軸[111]は困難軸

x

y

z

[111

]

[100

]

容易軸

困難軸

[110]

円板磁性体の磁区構造

全体が磁区に分かれることにより全体の磁化がなくなっているこれが初磁化状態である

磁区の内部では磁化は任意の方向をランダムに向いている訳ではない

磁化は結晶の方位と無関係な方向を向くことはできない磁性体には磁気異方性という性質があり磁化が特定の結晶軸方位(たとえばFeでは[001]方向および等価な方向)を向く性質がある

[001]容易軸では図のように(001)面内では[100][010][-100][0-10]の4つの方向を向くので90磁壁になる

[111]容易軸では

(a) (b)

(近角強磁性体の物理)

33 ヒステリシスを磁区で説明する

残留磁化状態 逆磁区の発生と成長

磁気飽和

核発生

34 さまざまな磁区とマイクロマグネティクス

Figは結晶の対称性により磁区が変わる様子の例として縞状磁区(stripe domain)と環流磁区(closure domain)を示している磁性体を微細化して直径1μm付近になるとスピンは面内に分布してvortex状態となり中心部に垂直方向のスピン成分をもつようになるさらに微細化すると単磁区になる

微小磁区のMFM観察

磁区の観察にはビッター法といって磁性微粒子を含むコロイドを磁性体上に滴下して光学顕微鏡で観察する方法が古くから使われているこのほか磁気光学顕微鏡ローレンツ電子顕微鏡磁気力顕微鏡走査型ホール顕微鏡走査型SQUID顕微鏡スピン偏極電子顕微鏡X線MCD顕微鏡などで観察することが可能であるFig 22にはいくつかの例について筆者のMFM観察結果を示す

10 nmtimes10 nmtimes10 nmMesh size

1Number of dot

200 nmtimes200 nmtimes100nm

Dot Size

Y directionEasy axis

02Damping constant(α)

-176times107 rad(sOe)Gyro magnetic constant(γ)

1000 ergcm3Anisotropic constant (Ku)

1times10-6 ergcm3Exchange field (A)

800 emucm3Saturation magnetization (Ms)

Hy = 10 kOe rarr 0 Oe

divM divMy

LLG 方程式を用いた

マイクロ磁気解析

Dot model

200 x 200thickness50 nm

Magnetic moment - dv M Force gradient

200 x 200thickness100 nm

90 degree walls propeller-like distortion

Calculation of a single dot

Spin structure

-divM

Isolated square dot

Force gradient image Spin distribution image

Four-dot system

Shift of the center occurs Reversal of chirality

MFM imagewith low-moment tip

(CoPtCr240Å in HV)

Spin distribution imagewith the force-gradientimage overlapped

Inversion of chirality

Comparison between MFM andsimulation of spin distribution

Simulation was carried outin the model structureconsisting of four squaredots with a dimension of200 nmtimes200 nmtimes20 nmwith 50nm separationbetween dots

The calculated spinstructure shows a closuredomain structure with the90-wall appears

The chirality of the spindirection in adjacent dots isopposite to each other asshown by white arrows

The Z-component force-gradient image taking intoaccount the tip-sampleinteraction is overlapped

Calculated magnetization configurationof Y-shaped permalloy dot

Calculation parametersWidth 300 nmThickness 100 nmEasy axis 0 ergcm3

x

y

z

Force gradient-divM

Force gradient(Magnified)

Experimental MFM images

bull Single domains appear in two armsbull Multi-domain of 4 chained closer-domains on the restbull Spin-flow at crossing region turns left in two steps

50

0n

m2

m

L

C

R

C

L

R

x

y

z

Calculated magnetization configurationsof Y-shaped permalloy mirror-dots

Calculation parametersWidth 200 nmThickness 40 nmEasy axis X 1000 ergcm3

Force gradient-divM

Single dot

Experimental MFM images

15 m

bull Calculated spin-flows similar to experimental resultbull Vortices with same chirality appear at the ends of all armsbull Chirality of adjacent dot shows a mirror-reflection

Easy axisEasy axis

Easy axis

Easy axis

-divM

4 おわりに

磁性特有のテクニカルタームがあるが慣れればそれほど難しいものではない

大部分の話は量子力学なしでも理解できる電磁気学の知識があればよい

応用につながるのは磁区磁壁の物理である

メゾスコピック系では量子的な現象が現れるこれが得意なスピン依存伝導現象をもたらす

[参考0]半導体磁性体誘電体

半導体と磁性体の対比

半導体 電子物性パラメータは基本的

にバンド構造で決まるキャリア密度は人為的に制御される

量子構造を考えない限り電子を古典粒子として有効質量近似で扱える

応用されるのは電子構造で決まる移動度などのミクロな電子物性である

電子物性が寸法方位形状にほとんど依存しない

単位系はCGSをもとにした実用単位系が使われる

磁性体 金属磁性体の磁性はスピン偏

極バンド構造で決まるが非金属磁性体の磁性は局在多電子系のフント則で決まる

交換相互作用スピン軌道相互作用など量子力学が基本

応用されるのは磁区により生じるヒステリシスに関連したマクロ磁気物性である

磁性は磁気異方性の影響を受け寸法方位形状により大幅に変化する

単位系が複雑でCGSとSIが混在して使われている

磁性体と誘電体の対比

磁性体

磁気モーメントμ(軸性ベクトル)

磁化M

自発磁化Ms

反磁界

磁気ヒステリシス

飽和磁化残留磁化保磁力

磁区(ドメイン)

キュリー温度

誘電体

電気双極子qr(極性ベクトル)

電気分極P

自発分極Ps

反電界

誘電ヒステリシス

飽和分極残留分極抗電界

分域(ドメイン)

キュリー温度

[参考1]

磁界磁束磁化

磁界(磁場)H磁束密度B磁化M

磁界H中に置かれた磁化Mの磁性体が磁束密

度は真空中の磁束密度に磁化による磁束密度を加えたものであるすなわちB=0H+M

B=0H B=0H+M

M

磁性体があると磁束密度が高くなる

真空中での磁束密度

磁化とは

物質に磁界を加えたとき物質の表面に磁極が生じ一時的に磁石のようになるがそのとき物質が磁化されたという

(b)(a)

(高梨初等磁気工学講座)より

磁化の定義

K番目の原子の1原子あ

たりの磁気モーメントをkとするときその単位体積についての総和k

を磁化Mと定義するM= k

磁気モーメントの単位はWbmであるから磁化の単位はWbm2となる

(高梨初等磁気工学講座)より

常磁性

磁極と磁気モーメント

磁石にはN極とS極がある

磁界中に置かれた磁性体にも磁極が誘起される磁極は必ずNSの対で現れる(単極は見つかっていない)

磁極の大きさをq [Wb]とすると磁界によってNSの対に働くトルクは-qdHsin [Nm]=qdsin [Wbm] H[Am]

必ずNとSが対で現れるならm=qrを磁性を扱う基本単

位と考えることが出来るこれを磁気モーメントという単位は[Wbm]

[参考2]

磁気モーメントの電子的起源

磁気モーメント

一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは

T=qH r sin=mH sin 磁気モーメントのもつポテンシャルEは

E=Td= mH sin d=mH(1-cos)

ポテンシャルの原点はどこにとってもよいから E=-mH mHのときエネルギーは極小になる

mはHに平行になろうとする(高梨初等磁気工学講座)より

r 磁気モーメント

m=qr [Wbm]

-q [Wb]

+q [Wb]

qH

-qH

rsin

単位E[J]=-m[Wbm] H[Am]

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 55: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

磁気異方性

磁性体は半導体と違って形状寸法結晶方位とか磁化の方位などによって物性が大きく変化する

1つの原因は上に述べた反磁界係数で形状磁気異方性と呼ばれます反磁界によるエネルギーの損を最小化することが原因です

このほかの原因として重要なのが結晶磁気異方性です結晶磁気異方性というのは磁界を結晶のどの方位に加えるかで磁化曲線が変化する性質です

電子軌道は結晶軸に結びついているので磁気的性質と電子軌道との結びつき(スピン軌道相互作用)を通じて磁性が結晶軸と結び

つくのです半導体にも詳しい測定をすると異方性を見ることができますこれに比べ一般に半導体の電子軌道は結晶全体に広がっているので平均化されて結晶軸に依存する物性が見えにくいです

結晶磁気異方性

磁化しやすさは結晶の方位に依存する

鉄は立方晶であるが[100]が容易軸[111]は困難軸

x

y

z

[111

]

[100

]

容易軸

困難軸

[110]

円板磁性体の磁区構造

全体が磁区に分かれることにより全体の磁化がなくなっているこれが初磁化状態である

磁区の内部では磁化は任意の方向をランダムに向いている訳ではない

磁化は結晶の方位と無関係な方向を向くことはできない磁性体には磁気異方性という性質があり磁化が特定の結晶軸方位(たとえばFeでは[001]方向および等価な方向)を向く性質がある

[001]容易軸では図のように(001)面内では[100][010][-100][0-10]の4つの方向を向くので90磁壁になる

[111]容易軸では

(a) (b)

(近角強磁性体の物理)

33 ヒステリシスを磁区で説明する

残留磁化状態 逆磁区の発生と成長

磁気飽和

核発生

34 さまざまな磁区とマイクロマグネティクス

Figは結晶の対称性により磁区が変わる様子の例として縞状磁区(stripe domain)と環流磁区(closure domain)を示している磁性体を微細化して直径1μm付近になるとスピンは面内に分布してvortex状態となり中心部に垂直方向のスピン成分をもつようになるさらに微細化すると単磁区になる

微小磁区のMFM観察

磁区の観察にはビッター法といって磁性微粒子を含むコロイドを磁性体上に滴下して光学顕微鏡で観察する方法が古くから使われているこのほか磁気光学顕微鏡ローレンツ電子顕微鏡磁気力顕微鏡走査型ホール顕微鏡走査型SQUID顕微鏡スピン偏極電子顕微鏡X線MCD顕微鏡などで観察することが可能であるFig 22にはいくつかの例について筆者のMFM観察結果を示す

10 nmtimes10 nmtimes10 nmMesh size

1Number of dot

200 nmtimes200 nmtimes100nm

Dot Size

Y directionEasy axis

02Damping constant(α)

-176times107 rad(sOe)Gyro magnetic constant(γ)

1000 ergcm3Anisotropic constant (Ku)

1times10-6 ergcm3Exchange field (A)

800 emucm3Saturation magnetization (Ms)

Hy = 10 kOe rarr 0 Oe

divM divMy

LLG 方程式を用いた

マイクロ磁気解析

Dot model

200 x 200thickness50 nm

Magnetic moment - dv M Force gradient

200 x 200thickness100 nm

90 degree walls propeller-like distortion

Calculation of a single dot

Spin structure

-divM

Isolated square dot

Force gradient image Spin distribution image

Four-dot system

Shift of the center occurs Reversal of chirality

MFM imagewith low-moment tip

(CoPtCr240Å in HV)

Spin distribution imagewith the force-gradientimage overlapped

Inversion of chirality

Comparison between MFM andsimulation of spin distribution

Simulation was carried outin the model structureconsisting of four squaredots with a dimension of200 nmtimes200 nmtimes20 nmwith 50nm separationbetween dots

The calculated spinstructure shows a closuredomain structure with the90-wall appears

The chirality of the spindirection in adjacent dots isopposite to each other asshown by white arrows

The Z-component force-gradient image taking intoaccount the tip-sampleinteraction is overlapped

Calculated magnetization configurationof Y-shaped permalloy dot

Calculation parametersWidth 300 nmThickness 100 nmEasy axis 0 ergcm3

x

y

z

Force gradient-divM

Force gradient(Magnified)

Experimental MFM images

bull Single domains appear in two armsbull Multi-domain of 4 chained closer-domains on the restbull Spin-flow at crossing region turns left in two steps

50

0n

m2

m

L

C

R

C

L

R

x

y

z

Calculated magnetization configurationsof Y-shaped permalloy mirror-dots

Calculation parametersWidth 200 nmThickness 40 nmEasy axis X 1000 ergcm3

Force gradient-divM

Single dot

Experimental MFM images

15 m

bull Calculated spin-flows similar to experimental resultbull Vortices with same chirality appear at the ends of all armsbull Chirality of adjacent dot shows a mirror-reflection

Easy axisEasy axis

Easy axis

Easy axis

-divM

4 おわりに

磁性特有のテクニカルタームがあるが慣れればそれほど難しいものではない

大部分の話は量子力学なしでも理解できる電磁気学の知識があればよい

応用につながるのは磁区磁壁の物理である

メゾスコピック系では量子的な現象が現れるこれが得意なスピン依存伝導現象をもたらす

[参考0]半導体磁性体誘電体

半導体と磁性体の対比

半導体 電子物性パラメータは基本的

にバンド構造で決まるキャリア密度は人為的に制御される

量子構造を考えない限り電子を古典粒子として有効質量近似で扱える

応用されるのは電子構造で決まる移動度などのミクロな電子物性である

電子物性が寸法方位形状にほとんど依存しない

単位系はCGSをもとにした実用単位系が使われる

磁性体 金属磁性体の磁性はスピン偏

極バンド構造で決まるが非金属磁性体の磁性は局在多電子系のフント則で決まる

交換相互作用スピン軌道相互作用など量子力学が基本

応用されるのは磁区により生じるヒステリシスに関連したマクロ磁気物性である

磁性は磁気異方性の影響を受け寸法方位形状により大幅に変化する

単位系が複雑でCGSとSIが混在して使われている

磁性体と誘電体の対比

磁性体

磁気モーメントμ(軸性ベクトル)

磁化M

自発磁化Ms

反磁界

磁気ヒステリシス

飽和磁化残留磁化保磁力

磁区(ドメイン)

キュリー温度

誘電体

電気双極子qr(極性ベクトル)

電気分極P

自発分極Ps

反電界

誘電ヒステリシス

飽和分極残留分極抗電界

分域(ドメイン)

キュリー温度

[参考1]

磁界磁束磁化

磁界(磁場)H磁束密度B磁化M

磁界H中に置かれた磁化Mの磁性体が磁束密

度は真空中の磁束密度に磁化による磁束密度を加えたものであるすなわちB=0H+M

B=0H B=0H+M

M

磁性体があると磁束密度が高くなる

真空中での磁束密度

磁化とは

物質に磁界を加えたとき物質の表面に磁極が生じ一時的に磁石のようになるがそのとき物質が磁化されたという

(b)(a)

(高梨初等磁気工学講座)より

磁化の定義

K番目の原子の1原子あ

たりの磁気モーメントをkとするときその単位体積についての総和k

を磁化Mと定義するM= k

磁気モーメントの単位はWbmであるから磁化の単位はWbm2となる

(高梨初等磁気工学講座)より

常磁性

磁極と磁気モーメント

磁石にはN極とS極がある

磁界中に置かれた磁性体にも磁極が誘起される磁極は必ずNSの対で現れる(単極は見つかっていない)

磁極の大きさをq [Wb]とすると磁界によってNSの対に働くトルクは-qdHsin [Nm]=qdsin [Wbm] H[Am]

必ずNとSが対で現れるならm=qrを磁性を扱う基本単

位と考えることが出来るこれを磁気モーメントという単位は[Wbm]

[参考2]

磁気モーメントの電子的起源

磁気モーメント

一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは

T=qH r sin=mH sin 磁気モーメントのもつポテンシャルEは

E=Td= mH sin d=mH(1-cos)

ポテンシャルの原点はどこにとってもよいから E=-mH mHのときエネルギーは極小になる

mはHに平行になろうとする(高梨初等磁気工学講座)より

r 磁気モーメント

m=qr [Wbm]

-q [Wb]

+q [Wb]

qH

-qH

rsin

単位E[J]=-m[Wbm] H[Am]

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

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結晶磁気異方性

磁化しやすさは結晶の方位に依存する

鉄は立方晶であるが[100]が容易軸[111]は困難軸

x

y

z

[111

]

[100

]

容易軸

困難軸

[110]

円板磁性体の磁区構造

全体が磁区に分かれることにより全体の磁化がなくなっているこれが初磁化状態である

磁区の内部では磁化は任意の方向をランダムに向いている訳ではない

磁化は結晶の方位と無関係な方向を向くことはできない磁性体には磁気異方性という性質があり磁化が特定の結晶軸方位(たとえばFeでは[001]方向および等価な方向)を向く性質がある

[001]容易軸では図のように(001)面内では[100][010][-100][0-10]の4つの方向を向くので90磁壁になる

[111]容易軸では

(a) (b)

(近角強磁性体の物理)

33 ヒステリシスを磁区で説明する

残留磁化状態 逆磁区の発生と成長

磁気飽和

核発生

34 さまざまな磁区とマイクロマグネティクス

Figは結晶の対称性により磁区が変わる様子の例として縞状磁区(stripe domain)と環流磁区(closure domain)を示している磁性体を微細化して直径1μm付近になるとスピンは面内に分布してvortex状態となり中心部に垂直方向のスピン成分をもつようになるさらに微細化すると単磁区になる

微小磁区のMFM観察

磁区の観察にはビッター法といって磁性微粒子を含むコロイドを磁性体上に滴下して光学顕微鏡で観察する方法が古くから使われているこのほか磁気光学顕微鏡ローレンツ電子顕微鏡磁気力顕微鏡走査型ホール顕微鏡走査型SQUID顕微鏡スピン偏極電子顕微鏡X線MCD顕微鏡などで観察することが可能であるFig 22にはいくつかの例について筆者のMFM観察結果を示す

10 nmtimes10 nmtimes10 nmMesh size

1Number of dot

200 nmtimes200 nmtimes100nm

Dot Size

Y directionEasy axis

02Damping constant(α)

-176times107 rad(sOe)Gyro magnetic constant(γ)

1000 ergcm3Anisotropic constant (Ku)

1times10-6 ergcm3Exchange field (A)

800 emucm3Saturation magnetization (Ms)

Hy = 10 kOe rarr 0 Oe

divM divMy

LLG 方程式を用いた

マイクロ磁気解析

Dot model

200 x 200thickness50 nm

Magnetic moment - dv M Force gradient

200 x 200thickness100 nm

90 degree walls propeller-like distortion

Calculation of a single dot

Spin structure

-divM

Isolated square dot

Force gradient image Spin distribution image

Four-dot system

Shift of the center occurs Reversal of chirality

MFM imagewith low-moment tip

(CoPtCr240Å in HV)

Spin distribution imagewith the force-gradientimage overlapped

Inversion of chirality

Comparison between MFM andsimulation of spin distribution

Simulation was carried outin the model structureconsisting of four squaredots with a dimension of200 nmtimes200 nmtimes20 nmwith 50nm separationbetween dots

The calculated spinstructure shows a closuredomain structure with the90-wall appears

The chirality of the spindirection in adjacent dots isopposite to each other asshown by white arrows

The Z-component force-gradient image taking intoaccount the tip-sampleinteraction is overlapped

Calculated magnetization configurationof Y-shaped permalloy dot

Calculation parametersWidth 300 nmThickness 100 nmEasy axis 0 ergcm3

x

y

z

Force gradient-divM

Force gradient(Magnified)

Experimental MFM images

bull Single domains appear in two armsbull Multi-domain of 4 chained closer-domains on the restbull Spin-flow at crossing region turns left in two steps

50

0n

m2

m

L

C

R

C

L

R

x

y

z

Calculated magnetization configurationsof Y-shaped permalloy mirror-dots

Calculation parametersWidth 200 nmThickness 40 nmEasy axis X 1000 ergcm3

Force gradient-divM

Single dot

Experimental MFM images

15 m

bull Calculated spin-flows similar to experimental resultbull Vortices with same chirality appear at the ends of all armsbull Chirality of adjacent dot shows a mirror-reflection

Easy axisEasy axis

Easy axis

Easy axis

-divM

4 おわりに

磁性特有のテクニカルタームがあるが慣れればそれほど難しいものではない

大部分の話は量子力学なしでも理解できる電磁気学の知識があればよい

応用につながるのは磁区磁壁の物理である

メゾスコピック系では量子的な現象が現れるこれが得意なスピン依存伝導現象をもたらす

[参考0]半導体磁性体誘電体

半導体と磁性体の対比

半導体 電子物性パラメータは基本的

にバンド構造で決まるキャリア密度は人為的に制御される

量子構造を考えない限り電子を古典粒子として有効質量近似で扱える

応用されるのは電子構造で決まる移動度などのミクロな電子物性である

電子物性が寸法方位形状にほとんど依存しない

単位系はCGSをもとにした実用単位系が使われる

磁性体 金属磁性体の磁性はスピン偏

極バンド構造で決まるが非金属磁性体の磁性は局在多電子系のフント則で決まる

交換相互作用スピン軌道相互作用など量子力学が基本

応用されるのは磁区により生じるヒステリシスに関連したマクロ磁気物性である

磁性は磁気異方性の影響を受け寸法方位形状により大幅に変化する

単位系が複雑でCGSとSIが混在して使われている

磁性体と誘電体の対比

磁性体

磁気モーメントμ(軸性ベクトル)

磁化M

自発磁化Ms

反磁界

磁気ヒステリシス

飽和磁化残留磁化保磁力

磁区(ドメイン)

キュリー温度

誘電体

電気双極子qr(極性ベクトル)

電気分極P

自発分極Ps

反電界

誘電ヒステリシス

飽和分極残留分極抗電界

分域(ドメイン)

キュリー温度

[参考1]

磁界磁束磁化

磁界(磁場)H磁束密度B磁化M

磁界H中に置かれた磁化Mの磁性体が磁束密

度は真空中の磁束密度に磁化による磁束密度を加えたものであるすなわちB=0H+M

B=0H B=0H+M

M

磁性体があると磁束密度が高くなる

真空中での磁束密度

磁化とは

物質に磁界を加えたとき物質の表面に磁極が生じ一時的に磁石のようになるがそのとき物質が磁化されたという

(b)(a)

(高梨初等磁気工学講座)より

磁化の定義

K番目の原子の1原子あ

たりの磁気モーメントをkとするときその単位体積についての総和k

を磁化Mと定義するM= k

磁気モーメントの単位はWbmであるから磁化の単位はWbm2となる

(高梨初等磁気工学講座)より

常磁性

磁極と磁気モーメント

磁石にはN極とS極がある

磁界中に置かれた磁性体にも磁極が誘起される磁極は必ずNSの対で現れる(単極は見つかっていない)

磁極の大きさをq [Wb]とすると磁界によってNSの対に働くトルクは-qdHsin [Nm]=qdsin [Wbm] H[Am]

必ずNとSが対で現れるならm=qrを磁性を扱う基本単

位と考えることが出来るこれを磁気モーメントという単位は[Wbm]

[参考2]

磁気モーメントの電子的起源

磁気モーメント

一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは

T=qH r sin=mH sin 磁気モーメントのもつポテンシャルEは

E=Td= mH sin d=mH(1-cos)

ポテンシャルの原点はどこにとってもよいから E=-mH mHのときエネルギーは極小になる

mはHに平行になろうとする(高梨初等磁気工学講座)より

r 磁気モーメント

m=qr [Wbm]

-q [Wb]

+q [Wb]

qH

-qH

rsin

単位E[J]=-m[Wbm] H[Am]

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 57: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

円板磁性体の磁区構造

全体が磁区に分かれることにより全体の磁化がなくなっているこれが初磁化状態である

磁区の内部では磁化は任意の方向をランダムに向いている訳ではない

磁化は結晶の方位と無関係な方向を向くことはできない磁性体には磁気異方性という性質があり磁化が特定の結晶軸方位(たとえばFeでは[001]方向および等価な方向)を向く性質がある

[001]容易軸では図のように(001)面内では[100][010][-100][0-10]の4つの方向を向くので90磁壁になる

[111]容易軸では

(a) (b)

(近角強磁性体の物理)

33 ヒステリシスを磁区で説明する

残留磁化状態 逆磁区の発生と成長

磁気飽和

核発生

34 さまざまな磁区とマイクロマグネティクス

Figは結晶の対称性により磁区が変わる様子の例として縞状磁区(stripe domain)と環流磁区(closure domain)を示している磁性体を微細化して直径1μm付近になるとスピンは面内に分布してvortex状態となり中心部に垂直方向のスピン成分をもつようになるさらに微細化すると単磁区になる

微小磁区のMFM観察

磁区の観察にはビッター法といって磁性微粒子を含むコロイドを磁性体上に滴下して光学顕微鏡で観察する方法が古くから使われているこのほか磁気光学顕微鏡ローレンツ電子顕微鏡磁気力顕微鏡走査型ホール顕微鏡走査型SQUID顕微鏡スピン偏極電子顕微鏡X線MCD顕微鏡などで観察することが可能であるFig 22にはいくつかの例について筆者のMFM観察結果を示す

10 nmtimes10 nmtimes10 nmMesh size

1Number of dot

200 nmtimes200 nmtimes100nm

Dot Size

Y directionEasy axis

02Damping constant(α)

-176times107 rad(sOe)Gyro magnetic constant(γ)

1000 ergcm3Anisotropic constant (Ku)

1times10-6 ergcm3Exchange field (A)

800 emucm3Saturation magnetization (Ms)

Hy = 10 kOe rarr 0 Oe

divM divMy

LLG 方程式を用いた

マイクロ磁気解析

Dot model

200 x 200thickness50 nm

Magnetic moment - dv M Force gradient

200 x 200thickness100 nm

90 degree walls propeller-like distortion

Calculation of a single dot

Spin structure

-divM

Isolated square dot

Force gradient image Spin distribution image

Four-dot system

Shift of the center occurs Reversal of chirality

MFM imagewith low-moment tip

(CoPtCr240Å in HV)

Spin distribution imagewith the force-gradientimage overlapped

Inversion of chirality

Comparison between MFM andsimulation of spin distribution

Simulation was carried outin the model structureconsisting of four squaredots with a dimension of200 nmtimes200 nmtimes20 nmwith 50nm separationbetween dots

The calculated spinstructure shows a closuredomain structure with the90-wall appears

The chirality of the spindirection in adjacent dots isopposite to each other asshown by white arrows

The Z-component force-gradient image taking intoaccount the tip-sampleinteraction is overlapped

Calculated magnetization configurationof Y-shaped permalloy dot

Calculation parametersWidth 300 nmThickness 100 nmEasy axis 0 ergcm3

x

y

z

Force gradient-divM

Force gradient(Magnified)

Experimental MFM images

bull Single domains appear in two armsbull Multi-domain of 4 chained closer-domains on the restbull Spin-flow at crossing region turns left in two steps

50

0n

m2

m

L

C

R

C

L

R

x

y

z

Calculated magnetization configurationsof Y-shaped permalloy mirror-dots

Calculation parametersWidth 200 nmThickness 40 nmEasy axis X 1000 ergcm3

Force gradient-divM

Single dot

Experimental MFM images

15 m

bull Calculated spin-flows similar to experimental resultbull Vortices with same chirality appear at the ends of all armsbull Chirality of adjacent dot shows a mirror-reflection

Easy axisEasy axis

Easy axis

Easy axis

-divM

4 おわりに

磁性特有のテクニカルタームがあるが慣れればそれほど難しいものではない

大部分の話は量子力学なしでも理解できる電磁気学の知識があればよい

応用につながるのは磁区磁壁の物理である

メゾスコピック系では量子的な現象が現れるこれが得意なスピン依存伝導現象をもたらす

[参考0]半導体磁性体誘電体

半導体と磁性体の対比

半導体 電子物性パラメータは基本的

にバンド構造で決まるキャリア密度は人為的に制御される

量子構造を考えない限り電子を古典粒子として有効質量近似で扱える

応用されるのは電子構造で決まる移動度などのミクロな電子物性である

電子物性が寸法方位形状にほとんど依存しない

単位系はCGSをもとにした実用単位系が使われる

磁性体 金属磁性体の磁性はスピン偏

極バンド構造で決まるが非金属磁性体の磁性は局在多電子系のフント則で決まる

交換相互作用スピン軌道相互作用など量子力学が基本

応用されるのは磁区により生じるヒステリシスに関連したマクロ磁気物性である

磁性は磁気異方性の影響を受け寸法方位形状により大幅に変化する

単位系が複雑でCGSとSIが混在して使われている

磁性体と誘電体の対比

磁性体

磁気モーメントμ(軸性ベクトル)

磁化M

自発磁化Ms

反磁界

磁気ヒステリシス

飽和磁化残留磁化保磁力

磁区(ドメイン)

キュリー温度

誘電体

電気双極子qr(極性ベクトル)

電気分極P

自発分極Ps

反電界

誘電ヒステリシス

飽和分極残留分極抗電界

分域(ドメイン)

キュリー温度

[参考1]

磁界磁束磁化

磁界(磁場)H磁束密度B磁化M

磁界H中に置かれた磁化Mの磁性体が磁束密

度は真空中の磁束密度に磁化による磁束密度を加えたものであるすなわちB=0H+M

B=0H B=0H+M

M

磁性体があると磁束密度が高くなる

真空中での磁束密度

磁化とは

物質に磁界を加えたとき物質の表面に磁極が生じ一時的に磁石のようになるがそのとき物質が磁化されたという

(b)(a)

(高梨初等磁気工学講座)より

磁化の定義

K番目の原子の1原子あ

たりの磁気モーメントをkとするときその単位体積についての総和k

を磁化Mと定義するM= k

磁気モーメントの単位はWbmであるから磁化の単位はWbm2となる

(高梨初等磁気工学講座)より

常磁性

磁極と磁気モーメント

磁石にはN極とS極がある

磁界中に置かれた磁性体にも磁極が誘起される磁極は必ずNSの対で現れる(単極は見つかっていない)

磁極の大きさをq [Wb]とすると磁界によってNSの対に働くトルクは-qdHsin [Nm]=qdsin [Wbm] H[Am]

必ずNとSが対で現れるならm=qrを磁性を扱う基本単

位と考えることが出来るこれを磁気モーメントという単位は[Wbm]

[参考2]

磁気モーメントの電子的起源

磁気モーメント

一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは

T=qH r sin=mH sin 磁気モーメントのもつポテンシャルEは

E=Td= mH sin d=mH(1-cos)

ポテンシャルの原点はどこにとってもよいから E=-mH mHのときエネルギーは極小になる

mはHに平行になろうとする(高梨初等磁気工学講座)より

r 磁気モーメント

m=qr [Wbm]

-q [Wb]

+q [Wb]

qH

-qH

rsin

単位E[J]=-m[Wbm] H[Am]

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 58: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

33 ヒステリシスを磁区で説明する

残留磁化状態 逆磁区の発生と成長

磁気飽和

核発生

34 さまざまな磁区とマイクロマグネティクス

Figは結晶の対称性により磁区が変わる様子の例として縞状磁区(stripe domain)と環流磁区(closure domain)を示している磁性体を微細化して直径1μm付近になるとスピンは面内に分布してvortex状態となり中心部に垂直方向のスピン成分をもつようになるさらに微細化すると単磁区になる

微小磁区のMFM観察

磁区の観察にはビッター法といって磁性微粒子を含むコロイドを磁性体上に滴下して光学顕微鏡で観察する方法が古くから使われているこのほか磁気光学顕微鏡ローレンツ電子顕微鏡磁気力顕微鏡走査型ホール顕微鏡走査型SQUID顕微鏡スピン偏極電子顕微鏡X線MCD顕微鏡などで観察することが可能であるFig 22にはいくつかの例について筆者のMFM観察結果を示す

10 nmtimes10 nmtimes10 nmMesh size

1Number of dot

200 nmtimes200 nmtimes100nm

Dot Size

Y directionEasy axis

02Damping constant(α)

-176times107 rad(sOe)Gyro magnetic constant(γ)

1000 ergcm3Anisotropic constant (Ku)

1times10-6 ergcm3Exchange field (A)

800 emucm3Saturation magnetization (Ms)

Hy = 10 kOe rarr 0 Oe

divM divMy

LLG 方程式を用いた

マイクロ磁気解析

Dot model

200 x 200thickness50 nm

Magnetic moment - dv M Force gradient

200 x 200thickness100 nm

90 degree walls propeller-like distortion

Calculation of a single dot

Spin structure

-divM

Isolated square dot

Force gradient image Spin distribution image

Four-dot system

Shift of the center occurs Reversal of chirality

MFM imagewith low-moment tip

(CoPtCr240Å in HV)

Spin distribution imagewith the force-gradientimage overlapped

Inversion of chirality

Comparison between MFM andsimulation of spin distribution

Simulation was carried outin the model structureconsisting of four squaredots with a dimension of200 nmtimes200 nmtimes20 nmwith 50nm separationbetween dots

The calculated spinstructure shows a closuredomain structure with the90-wall appears

The chirality of the spindirection in adjacent dots isopposite to each other asshown by white arrows

The Z-component force-gradient image taking intoaccount the tip-sampleinteraction is overlapped

Calculated magnetization configurationof Y-shaped permalloy dot

Calculation parametersWidth 300 nmThickness 100 nmEasy axis 0 ergcm3

x

y

z

Force gradient-divM

Force gradient(Magnified)

Experimental MFM images

bull Single domains appear in two armsbull Multi-domain of 4 chained closer-domains on the restbull Spin-flow at crossing region turns left in two steps

50

0n

m2

m

L

C

R

C

L

R

x

y

z

Calculated magnetization configurationsof Y-shaped permalloy mirror-dots

Calculation parametersWidth 200 nmThickness 40 nmEasy axis X 1000 ergcm3

Force gradient-divM

Single dot

Experimental MFM images

15 m

bull Calculated spin-flows similar to experimental resultbull Vortices with same chirality appear at the ends of all armsbull Chirality of adjacent dot shows a mirror-reflection

Easy axisEasy axis

Easy axis

Easy axis

-divM

4 おわりに

磁性特有のテクニカルタームがあるが慣れればそれほど難しいものではない

大部分の話は量子力学なしでも理解できる電磁気学の知識があればよい

応用につながるのは磁区磁壁の物理である

メゾスコピック系では量子的な現象が現れるこれが得意なスピン依存伝導現象をもたらす

[参考0]半導体磁性体誘電体

半導体と磁性体の対比

半導体 電子物性パラメータは基本的

にバンド構造で決まるキャリア密度は人為的に制御される

量子構造を考えない限り電子を古典粒子として有効質量近似で扱える

応用されるのは電子構造で決まる移動度などのミクロな電子物性である

電子物性が寸法方位形状にほとんど依存しない

単位系はCGSをもとにした実用単位系が使われる

磁性体 金属磁性体の磁性はスピン偏

極バンド構造で決まるが非金属磁性体の磁性は局在多電子系のフント則で決まる

交換相互作用スピン軌道相互作用など量子力学が基本

応用されるのは磁区により生じるヒステリシスに関連したマクロ磁気物性である

磁性は磁気異方性の影響を受け寸法方位形状により大幅に変化する

単位系が複雑でCGSとSIが混在して使われている

磁性体と誘電体の対比

磁性体

磁気モーメントμ(軸性ベクトル)

磁化M

自発磁化Ms

反磁界

磁気ヒステリシス

飽和磁化残留磁化保磁力

磁区(ドメイン)

キュリー温度

誘電体

電気双極子qr(極性ベクトル)

電気分極P

自発分極Ps

反電界

誘電ヒステリシス

飽和分極残留分極抗電界

分域(ドメイン)

キュリー温度

[参考1]

磁界磁束磁化

磁界(磁場)H磁束密度B磁化M

磁界H中に置かれた磁化Mの磁性体が磁束密

度は真空中の磁束密度に磁化による磁束密度を加えたものであるすなわちB=0H+M

B=0H B=0H+M

M

磁性体があると磁束密度が高くなる

真空中での磁束密度

磁化とは

物質に磁界を加えたとき物質の表面に磁極が生じ一時的に磁石のようになるがそのとき物質が磁化されたという

(b)(a)

(高梨初等磁気工学講座)より

磁化の定義

K番目の原子の1原子あ

たりの磁気モーメントをkとするときその単位体積についての総和k

を磁化Mと定義するM= k

磁気モーメントの単位はWbmであるから磁化の単位はWbm2となる

(高梨初等磁気工学講座)より

常磁性

磁極と磁気モーメント

磁石にはN極とS極がある

磁界中に置かれた磁性体にも磁極が誘起される磁極は必ずNSの対で現れる(単極は見つかっていない)

磁極の大きさをq [Wb]とすると磁界によってNSの対に働くトルクは-qdHsin [Nm]=qdsin [Wbm] H[Am]

必ずNとSが対で現れるならm=qrを磁性を扱う基本単

位と考えることが出来るこれを磁気モーメントという単位は[Wbm]

[参考2]

磁気モーメントの電子的起源

磁気モーメント

一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは

T=qH r sin=mH sin 磁気モーメントのもつポテンシャルEは

E=Td= mH sin d=mH(1-cos)

ポテンシャルの原点はどこにとってもよいから E=-mH mHのときエネルギーは極小になる

mはHに平行になろうとする(高梨初等磁気工学講座)より

r 磁気モーメント

m=qr [Wbm]

-q [Wb]

+q [Wb]

qH

-qH

rsin

単位E[J]=-m[Wbm] H[Am]

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 59: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

34 さまざまな磁区とマイクロマグネティクス

Figは結晶の対称性により磁区が変わる様子の例として縞状磁区(stripe domain)と環流磁区(closure domain)を示している磁性体を微細化して直径1μm付近になるとスピンは面内に分布してvortex状態となり中心部に垂直方向のスピン成分をもつようになるさらに微細化すると単磁区になる

微小磁区のMFM観察

磁区の観察にはビッター法といって磁性微粒子を含むコロイドを磁性体上に滴下して光学顕微鏡で観察する方法が古くから使われているこのほか磁気光学顕微鏡ローレンツ電子顕微鏡磁気力顕微鏡走査型ホール顕微鏡走査型SQUID顕微鏡スピン偏極電子顕微鏡X線MCD顕微鏡などで観察することが可能であるFig 22にはいくつかの例について筆者のMFM観察結果を示す

10 nmtimes10 nmtimes10 nmMesh size

1Number of dot

200 nmtimes200 nmtimes100nm

Dot Size

Y directionEasy axis

02Damping constant(α)

-176times107 rad(sOe)Gyro magnetic constant(γ)

1000 ergcm3Anisotropic constant (Ku)

1times10-6 ergcm3Exchange field (A)

800 emucm3Saturation magnetization (Ms)

Hy = 10 kOe rarr 0 Oe

divM divMy

LLG 方程式を用いた

マイクロ磁気解析

Dot model

200 x 200thickness50 nm

Magnetic moment - dv M Force gradient

200 x 200thickness100 nm

90 degree walls propeller-like distortion

Calculation of a single dot

Spin structure

-divM

Isolated square dot

Force gradient image Spin distribution image

Four-dot system

Shift of the center occurs Reversal of chirality

MFM imagewith low-moment tip

(CoPtCr240Å in HV)

Spin distribution imagewith the force-gradientimage overlapped

Inversion of chirality

Comparison between MFM andsimulation of spin distribution

Simulation was carried outin the model structureconsisting of four squaredots with a dimension of200 nmtimes200 nmtimes20 nmwith 50nm separationbetween dots

The calculated spinstructure shows a closuredomain structure with the90-wall appears

The chirality of the spindirection in adjacent dots isopposite to each other asshown by white arrows

The Z-component force-gradient image taking intoaccount the tip-sampleinteraction is overlapped

Calculated magnetization configurationof Y-shaped permalloy dot

Calculation parametersWidth 300 nmThickness 100 nmEasy axis 0 ergcm3

x

y

z

Force gradient-divM

Force gradient(Magnified)

Experimental MFM images

bull Single domains appear in two armsbull Multi-domain of 4 chained closer-domains on the restbull Spin-flow at crossing region turns left in two steps

50

0n

m2

m

L

C

R

C

L

R

x

y

z

Calculated magnetization configurationsof Y-shaped permalloy mirror-dots

Calculation parametersWidth 200 nmThickness 40 nmEasy axis X 1000 ergcm3

Force gradient-divM

Single dot

Experimental MFM images

15 m

bull Calculated spin-flows similar to experimental resultbull Vortices with same chirality appear at the ends of all armsbull Chirality of adjacent dot shows a mirror-reflection

Easy axisEasy axis

Easy axis

Easy axis

-divM

4 おわりに

磁性特有のテクニカルタームがあるが慣れればそれほど難しいものではない

大部分の話は量子力学なしでも理解できる電磁気学の知識があればよい

応用につながるのは磁区磁壁の物理である

メゾスコピック系では量子的な現象が現れるこれが得意なスピン依存伝導現象をもたらす

[参考0]半導体磁性体誘電体

半導体と磁性体の対比

半導体 電子物性パラメータは基本的

にバンド構造で決まるキャリア密度は人為的に制御される

量子構造を考えない限り電子を古典粒子として有効質量近似で扱える

応用されるのは電子構造で決まる移動度などのミクロな電子物性である

電子物性が寸法方位形状にほとんど依存しない

単位系はCGSをもとにした実用単位系が使われる

磁性体 金属磁性体の磁性はスピン偏

極バンド構造で決まるが非金属磁性体の磁性は局在多電子系のフント則で決まる

交換相互作用スピン軌道相互作用など量子力学が基本

応用されるのは磁区により生じるヒステリシスに関連したマクロ磁気物性である

磁性は磁気異方性の影響を受け寸法方位形状により大幅に変化する

単位系が複雑でCGSとSIが混在して使われている

磁性体と誘電体の対比

磁性体

磁気モーメントμ(軸性ベクトル)

磁化M

自発磁化Ms

反磁界

磁気ヒステリシス

飽和磁化残留磁化保磁力

磁区(ドメイン)

キュリー温度

誘電体

電気双極子qr(極性ベクトル)

電気分極P

自発分極Ps

反電界

誘電ヒステリシス

飽和分極残留分極抗電界

分域(ドメイン)

キュリー温度

[参考1]

磁界磁束磁化

磁界(磁場)H磁束密度B磁化M

磁界H中に置かれた磁化Mの磁性体が磁束密

度は真空中の磁束密度に磁化による磁束密度を加えたものであるすなわちB=0H+M

B=0H B=0H+M

M

磁性体があると磁束密度が高くなる

真空中での磁束密度

磁化とは

物質に磁界を加えたとき物質の表面に磁極が生じ一時的に磁石のようになるがそのとき物質が磁化されたという

(b)(a)

(高梨初等磁気工学講座)より

磁化の定義

K番目の原子の1原子あ

たりの磁気モーメントをkとするときその単位体積についての総和k

を磁化Mと定義するM= k

磁気モーメントの単位はWbmであるから磁化の単位はWbm2となる

(高梨初等磁気工学講座)より

常磁性

磁極と磁気モーメント

磁石にはN極とS極がある

磁界中に置かれた磁性体にも磁極が誘起される磁極は必ずNSの対で現れる(単極は見つかっていない)

磁極の大きさをq [Wb]とすると磁界によってNSの対に働くトルクは-qdHsin [Nm]=qdsin [Wbm] H[Am]

必ずNとSが対で現れるならm=qrを磁性を扱う基本単

位と考えることが出来るこれを磁気モーメントという単位は[Wbm]

[参考2]

磁気モーメントの電子的起源

磁気モーメント

一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは

T=qH r sin=mH sin 磁気モーメントのもつポテンシャルEは

E=Td= mH sin d=mH(1-cos)

ポテンシャルの原点はどこにとってもよいから E=-mH mHのときエネルギーは極小になる

mはHに平行になろうとする(高梨初等磁気工学講座)より

r 磁気モーメント

m=qr [Wbm]

-q [Wb]

+q [Wb]

qH

-qH

rsin

単位E[J]=-m[Wbm] H[Am]

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

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微小磁区のMFM観察

磁区の観察にはビッター法といって磁性微粒子を含むコロイドを磁性体上に滴下して光学顕微鏡で観察する方法が古くから使われているこのほか磁気光学顕微鏡ローレンツ電子顕微鏡磁気力顕微鏡走査型ホール顕微鏡走査型SQUID顕微鏡スピン偏極電子顕微鏡X線MCD顕微鏡などで観察することが可能であるFig 22にはいくつかの例について筆者のMFM観察結果を示す

10 nmtimes10 nmtimes10 nmMesh size

1Number of dot

200 nmtimes200 nmtimes100nm

Dot Size

Y directionEasy axis

02Damping constant(α)

-176times107 rad(sOe)Gyro magnetic constant(γ)

1000 ergcm3Anisotropic constant (Ku)

1times10-6 ergcm3Exchange field (A)

800 emucm3Saturation magnetization (Ms)

Hy = 10 kOe rarr 0 Oe

divM divMy

LLG 方程式を用いた

マイクロ磁気解析

Dot model

200 x 200thickness50 nm

Magnetic moment - dv M Force gradient

200 x 200thickness100 nm

90 degree walls propeller-like distortion

Calculation of a single dot

Spin structure

-divM

Isolated square dot

Force gradient image Spin distribution image

Four-dot system

Shift of the center occurs Reversal of chirality

MFM imagewith low-moment tip

(CoPtCr240Å in HV)

Spin distribution imagewith the force-gradientimage overlapped

Inversion of chirality

Comparison between MFM andsimulation of spin distribution

Simulation was carried outin the model structureconsisting of four squaredots with a dimension of200 nmtimes200 nmtimes20 nmwith 50nm separationbetween dots

The calculated spinstructure shows a closuredomain structure with the90-wall appears

The chirality of the spindirection in adjacent dots isopposite to each other asshown by white arrows

The Z-component force-gradient image taking intoaccount the tip-sampleinteraction is overlapped

Calculated magnetization configurationof Y-shaped permalloy dot

Calculation parametersWidth 300 nmThickness 100 nmEasy axis 0 ergcm3

x

y

z

Force gradient-divM

Force gradient(Magnified)

Experimental MFM images

bull Single domains appear in two armsbull Multi-domain of 4 chained closer-domains on the restbull Spin-flow at crossing region turns left in two steps

50

0n

m2

m

L

C

R

C

L

R

x

y

z

Calculated magnetization configurationsof Y-shaped permalloy mirror-dots

Calculation parametersWidth 200 nmThickness 40 nmEasy axis X 1000 ergcm3

Force gradient-divM

Single dot

Experimental MFM images

15 m

bull Calculated spin-flows similar to experimental resultbull Vortices with same chirality appear at the ends of all armsbull Chirality of adjacent dot shows a mirror-reflection

Easy axisEasy axis

Easy axis

Easy axis

-divM

4 おわりに

磁性特有のテクニカルタームがあるが慣れればそれほど難しいものではない

大部分の話は量子力学なしでも理解できる電磁気学の知識があればよい

応用につながるのは磁区磁壁の物理である

メゾスコピック系では量子的な現象が現れるこれが得意なスピン依存伝導現象をもたらす

[参考0]半導体磁性体誘電体

半導体と磁性体の対比

半導体 電子物性パラメータは基本的

にバンド構造で決まるキャリア密度は人為的に制御される

量子構造を考えない限り電子を古典粒子として有効質量近似で扱える

応用されるのは電子構造で決まる移動度などのミクロな電子物性である

電子物性が寸法方位形状にほとんど依存しない

単位系はCGSをもとにした実用単位系が使われる

磁性体 金属磁性体の磁性はスピン偏

極バンド構造で決まるが非金属磁性体の磁性は局在多電子系のフント則で決まる

交換相互作用スピン軌道相互作用など量子力学が基本

応用されるのは磁区により生じるヒステリシスに関連したマクロ磁気物性である

磁性は磁気異方性の影響を受け寸法方位形状により大幅に変化する

単位系が複雑でCGSとSIが混在して使われている

磁性体と誘電体の対比

磁性体

磁気モーメントμ(軸性ベクトル)

磁化M

自発磁化Ms

反磁界

磁気ヒステリシス

飽和磁化残留磁化保磁力

磁区(ドメイン)

キュリー温度

誘電体

電気双極子qr(極性ベクトル)

電気分極P

自発分極Ps

反電界

誘電ヒステリシス

飽和分極残留分極抗電界

分域(ドメイン)

キュリー温度

[参考1]

磁界磁束磁化

磁界(磁場)H磁束密度B磁化M

磁界H中に置かれた磁化Mの磁性体が磁束密

度は真空中の磁束密度に磁化による磁束密度を加えたものであるすなわちB=0H+M

B=0H B=0H+M

M

磁性体があると磁束密度が高くなる

真空中での磁束密度

磁化とは

物質に磁界を加えたとき物質の表面に磁極が生じ一時的に磁石のようになるがそのとき物質が磁化されたという

(b)(a)

(高梨初等磁気工学講座)より

磁化の定義

K番目の原子の1原子あ

たりの磁気モーメントをkとするときその単位体積についての総和k

を磁化Mと定義するM= k

磁気モーメントの単位はWbmであるから磁化の単位はWbm2となる

(高梨初等磁気工学講座)より

常磁性

磁極と磁気モーメント

磁石にはN極とS極がある

磁界中に置かれた磁性体にも磁極が誘起される磁極は必ずNSの対で現れる(単極は見つかっていない)

磁極の大きさをq [Wb]とすると磁界によってNSの対に働くトルクは-qdHsin [Nm]=qdsin [Wbm] H[Am]

必ずNとSが対で現れるならm=qrを磁性を扱う基本単

位と考えることが出来るこれを磁気モーメントという単位は[Wbm]

[参考2]

磁気モーメントの電子的起源

磁気モーメント

一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは

T=qH r sin=mH sin 磁気モーメントのもつポテンシャルEは

E=Td= mH sin d=mH(1-cos)

ポテンシャルの原点はどこにとってもよいから E=-mH mHのときエネルギーは極小になる

mはHに平行になろうとする(高梨初等磁気工学講座)より

r 磁気モーメント

m=qr [Wbm]

-q [Wb]

+q [Wb]

qH

-qH

rsin

単位E[J]=-m[Wbm] H[Am]

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 61: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

10 nmtimes10 nmtimes10 nmMesh size

1Number of dot

200 nmtimes200 nmtimes100nm

Dot Size

Y directionEasy axis

02Damping constant(α)

-176times107 rad(sOe)Gyro magnetic constant(γ)

1000 ergcm3Anisotropic constant (Ku)

1times10-6 ergcm3Exchange field (A)

800 emucm3Saturation magnetization (Ms)

Hy = 10 kOe rarr 0 Oe

divM divMy

LLG 方程式を用いた

マイクロ磁気解析

Dot model

200 x 200thickness50 nm

Magnetic moment - dv M Force gradient

200 x 200thickness100 nm

90 degree walls propeller-like distortion

Calculation of a single dot

Spin structure

-divM

Isolated square dot

Force gradient image Spin distribution image

Four-dot system

Shift of the center occurs Reversal of chirality

MFM imagewith low-moment tip

(CoPtCr240Å in HV)

Spin distribution imagewith the force-gradientimage overlapped

Inversion of chirality

Comparison between MFM andsimulation of spin distribution

Simulation was carried outin the model structureconsisting of four squaredots with a dimension of200 nmtimes200 nmtimes20 nmwith 50nm separationbetween dots

The calculated spinstructure shows a closuredomain structure with the90-wall appears

The chirality of the spindirection in adjacent dots isopposite to each other asshown by white arrows

The Z-component force-gradient image taking intoaccount the tip-sampleinteraction is overlapped

Calculated magnetization configurationof Y-shaped permalloy dot

Calculation parametersWidth 300 nmThickness 100 nmEasy axis 0 ergcm3

x

y

z

Force gradient-divM

Force gradient(Magnified)

Experimental MFM images

bull Single domains appear in two armsbull Multi-domain of 4 chained closer-domains on the restbull Spin-flow at crossing region turns left in two steps

50

0n

m2

m

L

C

R

C

L

R

x

y

z

Calculated magnetization configurationsof Y-shaped permalloy mirror-dots

Calculation parametersWidth 200 nmThickness 40 nmEasy axis X 1000 ergcm3

Force gradient-divM

Single dot

Experimental MFM images

15 m

bull Calculated spin-flows similar to experimental resultbull Vortices with same chirality appear at the ends of all armsbull Chirality of adjacent dot shows a mirror-reflection

Easy axisEasy axis

Easy axis

Easy axis

-divM

4 おわりに

磁性特有のテクニカルタームがあるが慣れればそれほど難しいものではない

大部分の話は量子力学なしでも理解できる電磁気学の知識があればよい

応用につながるのは磁区磁壁の物理である

メゾスコピック系では量子的な現象が現れるこれが得意なスピン依存伝導現象をもたらす

[参考0]半導体磁性体誘電体

半導体と磁性体の対比

半導体 電子物性パラメータは基本的

にバンド構造で決まるキャリア密度は人為的に制御される

量子構造を考えない限り電子を古典粒子として有効質量近似で扱える

応用されるのは電子構造で決まる移動度などのミクロな電子物性である

電子物性が寸法方位形状にほとんど依存しない

単位系はCGSをもとにした実用単位系が使われる

磁性体 金属磁性体の磁性はスピン偏

極バンド構造で決まるが非金属磁性体の磁性は局在多電子系のフント則で決まる

交換相互作用スピン軌道相互作用など量子力学が基本

応用されるのは磁区により生じるヒステリシスに関連したマクロ磁気物性である

磁性は磁気異方性の影響を受け寸法方位形状により大幅に変化する

単位系が複雑でCGSとSIが混在して使われている

磁性体と誘電体の対比

磁性体

磁気モーメントμ(軸性ベクトル)

磁化M

自発磁化Ms

反磁界

磁気ヒステリシス

飽和磁化残留磁化保磁力

磁区(ドメイン)

キュリー温度

誘電体

電気双極子qr(極性ベクトル)

電気分極P

自発分極Ps

反電界

誘電ヒステリシス

飽和分極残留分極抗電界

分域(ドメイン)

キュリー温度

[参考1]

磁界磁束磁化

磁界(磁場)H磁束密度B磁化M

磁界H中に置かれた磁化Mの磁性体が磁束密

度は真空中の磁束密度に磁化による磁束密度を加えたものであるすなわちB=0H+M

B=0H B=0H+M

M

磁性体があると磁束密度が高くなる

真空中での磁束密度

磁化とは

物質に磁界を加えたとき物質の表面に磁極が生じ一時的に磁石のようになるがそのとき物質が磁化されたという

(b)(a)

(高梨初等磁気工学講座)より

磁化の定義

K番目の原子の1原子あ

たりの磁気モーメントをkとするときその単位体積についての総和k

を磁化Mと定義するM= k

磁気モーメントの単位はWbmであるから磁化の単位はWbm2となる

(高梨初等磁気工学講座)より

常磁性

磁極と磁気モーメント

磁石にはN極とS極がある

磁界中に置かれた磁性体にも磁極が誘起される磁極は必ずNSの対で現れる(単極は見つかっていない)

磁極の大きさをq [Wb]とすると磁界によってNSの対に働くトルクは-qdHsin [Nm]=qdsin [Wbm] H[Am]

必ずNとSが対で現れるならm=qrを磁性を扱う基本単

位と考えることが出来るこれを磁気モーメントという単位は[Wbm]

[参考2]

磁気モーメントの電子的起源

磁気モーメント

一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは

T=qH r sin=mH sin 磁気モーメントのもつポテンシャルEは

E=Td= mH sin d=mH(1-cos)

ポテンシャルの原点はどこにとってもよいから E=-mH mHのときエネルギーは極小になる

mはHに平行になろうとする(高梨初等磁気工学講座)より

r 磁気モーメント

m=qr [Wbm]

-q [Wb]

+q [Wb]

qH

-qH

rsin

単位E[J]=-m[Wbm] H[Am]

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 62: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

200 x 200thickness50 nm

Magnetic moment - dv M Force gradient

200 x 200thickness100 nm

90 degree walls propeller-like distortion

Calculation of a single dot

Spin structure

-divM

Isolated square dot

Force gradient image Spin distribution image

Four-dot system

Shift of the center occurs Reversal of chirality

MFM imagewith low-moment tip

(CoPtCr240Å in HV)

Spin distribution imagewith the force-gradientimage overlapped

Inversion of chirality

Comparison between MFM andsimulation of spin distribution

Simulation was carried outin the model structureconsisting of four squaredots with a dimension of200 nmtimes200 nmtimes20 nmwith 50nm separationbetween dots

The calculated spinstructure shows a closuredomain structure with the90-wall appears

The chirality of the spindirection in adjacent dots isopposite to each other asshown by white arrows

The Z-component force-gradient image taking intoaccount the tip-sampleinteraction is overlapped

Calculated magnetization configurationof Y-shaped permalloy dot

Calculation parametersWidth 300 nmThickness 100 nmEasy axis 0 ergcm3

x

y

z

Force gradient-divM

Force gradient(Magnified)

Experimental MFM images

bull Single domains appear in two armsbull Multi-domain of 4 chained closer-domains on the restbull Spin-flow at crossing region turns left in two steps

50

0n

m2

m

L

C

R

C

L

R

x

y

z

Calculated magnetization configurationsof Y-shaped permalloy mirror-dots

Calculation parametersWidth 200 nmThickness 40 nmEasy axis X 1000 ergcm3

Force gradient-divM

Single dot

Experimental MFM images

15 m

bull Calculated spin-flows similar to experimental resultbull Vortices with same chirality appear at the ends of all armsbull Chirality of adjacent dot shows a mirror-reflection

Easy axisEasy axis

Easy axis

Easy axis

-divM

4 おわりに

磁性特有のテクニカルタームがあるが慣れればそれほど難しいものではない

大部分の話は量子力学なしでも理解できる電磁気学の知識があればよい

応用につながるのは磁区磁壁の物理である

メゾスコピック系では量子的な現象が現れるこれが得意なスピン依存伝導現象をもたらす

[参考0]半導体磁性体誘電体

半導体と磁性体の対比

半導体 電子物性パラメータは基本的

にバンド構造で決まるキャリア密度は人為的に制御される

量子構造を考えない限り電子を古典粒子として有効質量近似で扱える

応用されるのは電子構造で決まる移動度などのミクロな電子物性である

電子物性が寸法方位形状にほとんど依存しない

単位系はCGSをもとにした実用単位系が使われる

磁性体 金属磁性体の磁性はスピン偏

極バンド構造で決まるが非金属磁性体の磁性は局在多電子系のフント則で決まる

交換相互作用スピン軌道相互作用など量子力学が基本

応用されるのは磁区により生じるヒステリシスに関連したマクロ磁気物性である

磁性は磁気異方性の影響を受け寸法方位形状により大幅に変化する

単位系が複雑でCGSとSIが混在して使われている

磁性体と誘電体の対比

磁性体

磁気モーメントμ(軸性ベクトル)

磁化M

自発磁化Ms

反磁界

磁気ヒステリシス

飽和磁化残留磁化保磁力

磁区(ドメイン)

キュリー温度

誘電体

電気双極子qr(極性ベクトル)

電気分極P

自発分極Ps

反電界

誘電ヒステリシス

飽和分極残留分極抗電界

分域(ドメイン)

キュリー温度

[参考1]

磁界磁束磁化

磁界(磁場)H磁束密度B磁化M

磁界H中に置かれた磁化Mの磁性体が磁束密

度は真空中の磁束密度に磁化による磁束密度を加えたものであるすなわちB=0H+M

B=0H B=0H+M

M

磁性体があると磁束密度が高くなる

真空中での磁束密度

磁化とは

物質に磁界を加えたとき物質の表面に磁極が生じ一時的に磁石のようになるがそのとき物質が磁化されたという

(b)(a)

(高梨初等磁気工学講座)より

磁化の定義

K番目の原子の1原子あ

たりの磁気モーメントをkとするときその単位体積についての総和k

を磁化Mと定義するM= k

磁気モーメントの単位はWbmであるから磁化の単位はWbm2となる

(高梨初等磁気工学講座)より

常磁性

磁極と磁気モーメント

磁石にはN極とS極がある

磁界中に置かれた磁性体にも磁極が誘起される磁極は必ずNSの対で現れる(単極は見つかっていない)

磁極の大きさをq [Wb]とすると磁界によってNSの対に働くトルクは-qdHsin [Nm]=qdsin [Wbm] H[Am]

必ずNとSが対で現れるならm=qrを磁性を扱う基本単

位と考えることが出来るこれを磁気モーメントという単位は[Wbm]

[参考2]

磁気モーメントの電子的起源

磁気モーメント

一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは

T=qH r sin=mH sin 磁気モーメントのもつポテンシャルEは

E=Td= mH sin d=mH(1-cos)

ポテンシャルの原点はどこにとってもよいから E=-mH mHのときエネルギーは極小になる

mはHに平行になろうとする(高梨初等磁気工学講座)より

r 磁気モーメント

m=qr [Wbm]

-q [Wb]

+q [Wb]

qH

-qH

rsin

単位E[J]=-m[Wbm] H[Am]

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

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Calculation of a single dot

Spin structure

-divM

Isolated square dot

Force gradient image Spin distribution image

Four-dot system

Shift of the center occurs Reversal of chirality

MFM imagewith low-moment tip

(CoPtCr240Å in HV)

Spin distribution imagewith the force-gradientimage overlapped

Inversion of chirality

Comparison between MFM andsimulation of spin distribution

Simulation was carried outin the model structureconsisting of four squaredots with a dimension of200 nmtimes200 nmtimes20 nmwith 50nm separationbetween dots

The calculated spinstructure shows a closuredomain structure with the90-wall appears

The chirality of the spindirection in adjacent dots isopposite to each other asshown by white arrows

The Z-component force-gradient image taking intoaccount the tip-sampleinteraction is overlapped

Calculated magnetization configurationof Y-shaped permalloy dot

Calculation parametersWidth 300 nmThickness 100 nmEasy axis 0 ergcm3

x

y

z

Force gradient-divM

Force gradient(Magnified)

Experimental MFM images

bull Single domains appear in two armsbull Multi-domain of 4 chained closer-domains on the restbull Spin-flow at crossing region turns left in two steps

50

0n

m2

m

L

C

R

C

L

R

x

y

z

Calculated magnetization configurationsof Y-shaped permalloy mirror-dots

Calculation parametersWidth 200 nmThickness 40 nmEasy axis X 1000 ergcm3

Force gradient-divM

Single dot

Experimental MFM images

15 m

bull Calculated spin-flows similar to experimental resultbull Vortices with same chirality appear at the ends of all armsbull Chirality of adjacent dot shows a mirror-reflection

Easy axisEasy axis

Easy axis

Easy axis

-divM

4 おわりに

磁性特有のテクニカルタームがあるが慣れればそれほど難しいものではない

大部分の話は量子力学なしでも理解できる電磁気学の知識があればよい

応用につながるのは磁区磁壁の物理である

メゾスコピック系では量子的な現象が現れるこれが得意なスピン依存伝導現象をもたらす

[参考0]半導体磁性体誘電体

半導体と磁性体の対比

半導体 電子物性パラメータは基本的

にバンド構造で決まるキャリア密度は人為的に制御される

量子構造を考えない限り電子を古典粒子として有効質量近似で扱える

応用されるのは電子構造で決まる移動度などのミクロな電子物性である

電子物性が寸法方位形状にほとんど依存しない

単位系はCGSをもとにした実用単位系が使われる

磁性体 金属磁性体の磁性はスピン偏

極バンド構造で決まるが非金属磁性体の磁性は局在多電子系のフント則で決まる

交換相互作用スピン軌道相互作用など量子力学が基本

応用されるのは磁区により生じるヒステリシスに関連したマクロ磁気物性である

磁性は磁気異方性の影響を受け寸法方位形状により大幅に変化する

単位系が複雑でCGSとSIが混在して使われている

磁性体と誘電体の対比

磁性体

磁気モーメントμ(軸性ベクトル)

磁化M

自発磁化Ms

反磁界

磁気ヒステリシス

飽和磁化残留磁化保磁力

磁区(ドメイン)

キュリー温度

誘電体

電気双極子qr(極性ベクトル)

電気分極P

自発分極Ps

反電界

誘電ヒステリシス

飽和分極残留分極抗電界

分域(ドメイン)

キュリー温度

[参考1]

磁界磁束磁化

磁界(磁場)H磁束密度B磁化M

磁界H中に置かれた磁化Mの磁性体が磁束密

度は真空中の磁束密度に磁化による磁束密度を加えたものであるすなわちB=0H+M

B=0H B=0H+M

M

磁性体があると磁束密度が高くなる

真空中での磁束密度

磁化とは

物質に磁界を加えたとき物質の表面に磁極が生じ一時的に磁石のようになるがそのとき物質が磁化されたという

(b)(a)

(高梨初等磁気工学講座)より

磁化の定義

K番目の原子の1原子あ

たりの磁気モーメントをkとするときその単位体積についての総和k

を磁化Mと定義するM= k

磁気モーメントの単位はWbmであるから磁化の単位はWbm2となる

(高梨初等磁気工学講座)より

常磁性

磁極と磁気モーメント

磁石にはN極とS極がある

磁界中に置かれた磁性体にも磁極が誘起される磁極は必ずNSの対で現れる(単極は見つかっていない)

磁極の大きさをq [Wb]とすると磁界によってNSの対に働くトルクは-qdHsin [Nm]=qdsin [Wbm] H[Am]

必ずNとSが対で現れるならm=qrを磁性を扱う基本単

位と考えることが出来るこれを磁気モーメントという単位は[Wbm]

[参考2]

磁気モーメントの電子的起源

磁気モーメント

一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは

T=qH r sin=mH sin 磁気モーメントのもつポテンシャルEは

E=Td= mH sin d=mH(1-cos)

ポテンシャルの原点はどこにとってもよいから E=-mH mHのときエネルギーは極小になる

mはHに平行になろうとする(高梨初等磁気工学講座)より

r 磁気モーメント

m=qr [Wbm]

-q [Wb]

+q [Wb]

qH

-qH

rsin

単位E[J]=-m[Wbm] H[Am]

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

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Force gradient image Spin distribution image

Four-dot system

Shift of the center occurs Reversal of chirality

MFM imagewith low-moment tip

(CoPtCr240Å in HV)

Spin distribution imagewith the force-gradientimage overlapped

Inversion of chirality

Comparison between MFM andsimulation of spin distribution

Simulation was carried outin the model structureconsisting of four squaredots with a dimension of200 nmtimes200 nmtimes20 nmwith 50nm separationbetween dots

The calculated spinstructure shows a closuredomain structure with the90-wall appears

The chirality of the spindirection in adjacent dots isopposite to each other asshown by white arrows

The Z-component force-gradient image taking intoaccount the tip-sampleinteraction is overlapped

Calculated magnetization configurationof Y-shaped permalloy dot

Calculation parametersWidth 300 nmThickness 100 nmEasy axis 0 ergcm3

x

y

z

Force gradient-divM

Force gradient(Magnified)

Experimental MFM images

bull Single domains appear in two armsbull Multi-domain of 4 chained closer-domains on the restbull Spin-flow at crossing region turns left in two steps

50

0n

m2

m

L

C

R

C

L

R

x

y

z

Calculated magnetization configurationsof Y-shaped permalloy mirror-dots

Calculation parametersWidth 200 nmThickness 40 nmEasy axis X 1000 ergcm3

Force gradient-divM

Single dot

Experimental MFM images

15 m

bull Calculated spin-flows similar to experimental resultbull Vortices with same chirality appear at the ends of all armsbull Chirality of adjacent dot shows a mirror-reflection

Easy axisEasy axis

Easy axis

Easy axis

-divM

4 おわりに

磁性特有のテクニカルタームがあるが慣れればそれほど難しいものではない

大部分の話は量子力学なしでも理解できる電磁気学の知識があればよい

応用につながるのは磁区磁壁の物理である

メゾスコピック系では量子的な現象が現れるこれが得意なスピン依存伝導現象をもたらす

[参考0]半導体磁性体誘電体

半導体と磁性体の対比

半導体 電子物性パラメータは基本的

にバンド構造で決まるキャリア密度は人為的に制御される

量子構造を考えない限り電子を古典粒子として有効質量近似で扱える

応用されるのは電子構造で決まる移動度などのミクロな電子物性である

電子物性が寸法方位形状にほとんど依存しない

単位系はCGSをもとにした実用単位系が使われる

磁性体 金属磁性体の磁性はスピン偏

極バンド構造で決まるが非金属磁性体の磁性は局在多電子系のフント則で決まる

交換相互作用スピン軌道相互作用など量子力学が基本

応用されるのは磁区により生じるヒステリシスに関連したマクロ磁気物性である

磁性は磁気異方性の影響を受け寸法方位形状により大幅に変化する

単位系が複雑でCGSとSIが混在して使われている

磁性体と誘電体の対比

磁性体

磁気モーメントμ(軸性ベクトル)

磁化M

自発磁化Ms

反磁界

磁気ヒステリシス

飽和磁化残留磁化保磁力

磁区(ドメイン)

キュリー温度

誘電体

電気双極子qr(極性ベクトル)

電気分極P

自発分極Ps

反電界

誘電ヒステリシス

飽和分極残留分極抗電界

分域(ドメイン)

キュリー温度

[参考1]

磁界磁束磁化

磁界(磁場)H磁束密度B磁化M

磁界H中に置かれた磁化Mの磁性体が磁束密

度は真空中の磁束密度に磁化による磁束密度を加えたものであるすなわちB=0H+M

B=0H B=0H+M

M

磁性体があると磁束密度が高くなる

真空中での磁束密度

磁化とは

物質に磁界を加えたとき物質の表面に磁極が生じ一時的に磁石のようになるがそのとき物質が磁化されたという

(b)(a)

(高梨初等磁気工学講座)より

磁化の定義

K番目の原子の1原子あ

たりの磁気モーメントをkとするときその単位体積についての総和k

を磁化Mと定義するM= k

磁気モーメントの単位はWbmであるから磁化の単位はWbm2となる

(高梨初等磁気工学講座)より

常磁性

磁極と磁気モーメント

磁石にはN極とS極がある

磁界中に置かれた磁性体にも磁極が誘起される磁極は必ずNSの対で現れる(単極は見つかっていない)

磁極の大きさをq [Wb]とすると磁界によってNSの対に働くトルクは-qdHsin [Nm]=qdsin [Wbm] H[Am]

必ずNとSが対で現れるならm=qrを磁性を扱う基本単

位と考えることが出来るこれを磁気モーメントという単位は[Wbm]

[参考2]

磁気モーメントの電子的起源

磁気モーメント

一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは

T=qH r sin=mH sin 磁気モーメントのもつポテンシャルEは

E=Td= mH sin d=mH(1-cos)

ポテンシャルの原点はどこにとってもよいから E=-mH mHのときエネルギーは極小になる

mはHに平行になろうとする(高梨初等磁気工学講座)より

r 磁気モーメント

m=qr [Wbm]

-q [Wb]

+q [Wb]

qH

-qH

rsin

単位E[J]=-m[Wbm] H[Am]

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 65: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

MFM imagewith low-moment tip

(CoPtCr240Å in HV)

Spin distribution imagewith the force-gradientimage overlapped

Inversion of chirality

Comparison between MFM andsimulation of spin distribution

Simulation was carried outin the model structureconsisting of four squaredots with a dimension of200 nmtimes200 nmtimes20 nmwith 50nm separationbetween dots

The calculated spinstructure shows a closuredomain structure with the90-wall appears

The chirality of the spindirection in adjacent dots isopposite to each other asshown by white arrows

The Z-component force-gradient image taking intoaccount the tip-sampleinteraction is overlapped

Calculated magnetization configurationof Y-shaped permalloy dot

Calculation parametersWidth 300 nmThickness 100 nmEasy axis 0 ergcm3

x

y

z

Force gradient-divM

Force gradient(Magnified)

Experimental MFM images

bull Single domains appear in two armsbull Multi-domain of 4 chained closer-domains on the restbull Spin-flow at crossing region turns left in two steps

50

0n

m2

m

L

C

R

C

L

R

x

y

z

Calculated magnetization configurationsof Y-shaped permalloy mirror-dots

Calculation parametersWidth 200 nmThickness 40 nmEasy axis X 1000 ergcm3

Force gradient-divM

Single dot

Experimental MFM images

15 m

bull Calculated spin-flows similar to experimental resultbull Vortices with same chirality appear at the ends of all armsbull Chirality of adjacent dot shows a mirror-reflection

Easy axisEasy axis

Easy axis

Easy axis

-divM

4 おわりに

磁性特有のテクニカルタームがあるが慣れればそれほど難しいものではない

大部分の話は量子力学なしでも理解できる電磁気学の知識があればよい

応用につながるのは磁区磁壁の物理である

メゾスコピック系では量子的な現象が現れるこれが得意なスピン依存伝導現象をもたらす

[参考0]半導体磁性体誘電体

半導体と磁性体の対比

半導体 電子物性パラメータは基本的

にバンド構造で決まるキャリア密度は人為的に制御される

量子構造を考えない限り電子を古典粒子として有効質量近似で扱える

応用されるのは電子構造で決まる移動度などのミクロな電子物性である

電子物性が寸法方位形状にほとんど依存しない

単位系はCGSをもとにした実用単位系が使われる

磁性体 金属磁性体の磁性はスピン偏

極バンド構造で決まるが非金属磁性体の磁性は局在多電子系のフント則で決まる

交換相互作用スピン軌道相互作用など量子力学が基本

応用されるのは磁区により生じるヒステリシスに関連したマクロ磁気物性である

磁性は磁気異方性の影響を受け寸法方位形状により大幅に変化する

単位系が複雑でCGSとSIが混在して使われている

磁性体と誘電体の対比

磁性体

磁気モーメントμ(軸性ベクトル)

磁化M

自発磁化Ms

反磁界

磁気ヒステリシス

飽和磁化残留磁化保磁力

磁区(ドメイン)

キュリー温度

誘電体

電気双極子qr(極性ベクトル)

電気分極P

自発分極Ps

反電界

誘電ヒステリシス

飽和分極残留分極抗電界

分域(ドメイン)

キュリー温度

[参考1]

磁界磁束磁化

磁界(磁場)H磁束密度B磁化M

磁界H中に置かれた磁化Mの磁性体が磁束密

度は真空中の磁束密度に磁化による磁束密度を加えたものであるすなわちB=0H+M

B=0H B=0H+M

M

磁性体があると磁束密度が高くなる

真空中での磁束密度

磁化とは

物質に磁界を加えたとき物質の表面に磁極が生じ一時的に磁石のようになるがそのとき物質が磁化されたという

(b)(a)

(高梨初等磁気工学講座)より

磁化の定義

K番目の原子の1原子あ

たりの磁気モーメントをkとするときその単位体積についての総和k

を磁化Mと定義するM= k

磁気モーメントの単位はWbmであるから磁化の単位はWbm2となる

(高梨初等磁気工学講座)より

常磁性

磁極と磁気モーメント

磁石にはN極とS極がある

磁界中に置かれた磁性体にも磁極が誘起される磁極は必ずNSの対で現れる(単極は見つかっていない)

磁極の大きさをq [Wb]とすると磁界によってNSの対に働くトルクは-qdHsin [Nm]=qdsin [Wbm] H[Am]

必ずNとSが対で現れるならm=qrを磁性を扱う基本単

位と考えることが出来るこれを磁気モーメントという単位は[Wbm]

[参考2]

磁気モーメントの電子的起源

磁気モーメント

一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは

T=qH r sin=mH sin 磁気モーメントのもつポテンシャルEは

E=Td= mH sin d=mH(1-cos)

ポテンシャルの原点はどこにとってもよいから E=-mH mHのときエネルギーは極小になる

mはHに平行になろうとする(高梨初等磁気工学講座)より

r 磁気モーメント

m=qr [Wbm]

-q [Wb]

+q [Wb]

qH

-qH

rsin

単位E[J]=-m[Wbm] H[Am]

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 66: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

Calculated magnetization configurationof Y-shaped permalloy dot

Calculation parametersWidth 300 nmThickness 100 nmEasy axis 0 ergcm3

x

y

z

Force gradient-divM

Force gradient(Magnified)

Experimental MFM images

bull Single domains appear in two armsbull Multi-domain of 4 chained closer-domains on the restbull Spin-flow at crossing region turns left in two steps

50

0n

m2

m

L

C

R

C

L

R

x

y

z

Calculated magnetization configurationsof Y-shaped permalloy mirror-dots

Calculation parametersWidth 200 nmThickness 40 nmEasy axis X 1000 ergcm3

Force gradient-divM

Single dot

Experimental MFM images

15 m

bull Calculated spin-flows similar to experimental resultbull Vortices with same chirality appear at the ends of all armsbull Chirality of adjacent dot shows a mirror-reflection

Easy axisEasy axis

Easy axis

Easy axis

-divM

4 おわりに

磁性特有のテクニカルタームがあるが慣れればそれほど難しいものではない

大部分の話は量子力学なしでも理解できる電磁気学の知識があればよい

応用につながるのは磁区磁壁の物理である

メゾスコピック系では量子的な現象が現れるこれが得意なスピン依存伝導現象をもたらす

[参考0]半導体磁性体誘電体

半導体と磁性体の対比

半導体 電子物性パラメータは基本的

にバンド構造で決まるキャリア密度は人為的に制御される

量子構造を考えない限り電子を古典粒子として有効質量近似で扱える

応用されるのは電子構造で決まる移動度などのミクロな電子物性である

電子物性が寸法方位形状にほとんど依存しない

単位系はCGSをもとにした実用単位系が使われる

磁性体 金属磁性体の磁性はスピン偏

極バンド構造で決まるが非金属磁性体の磁性は局在多電子系のフント則で決まる

交換相互作用スピン軌道相互作用など量子力学が基本

応用されるのは磁区により生じるヒステリシスに関連したマクロ磁気物性である

磁性は磁気異方性の影響を受け寸法方位形状により大幅に変化する

単位系が複雑でCGSとSIが混在して使われている

磁性体と誘電体の対比

磁性体

磁気モーメントμ(軸性ベクトル)

磁化M

自発磁化Ms

反磁界

磁気ヒステリシス

飽和磁化残留磁化保磁力

磁区(ドメイン)

キュリー温度

誘電体

電気双極子qr(極性ベクトル)

電気分極P

自発分極Ps

反電界

誘電ヒステリシス

飽和分極残留分極抗電界

分域(ドメイン)

キュリー温度

[参考1]

磁界磁束磁化

磁界(磁場)H磁束密度B磁化M

磁界H中に置かれた磁化Mの磁性体が磁束密

度は真空中の磁束密度に磁化による磁束密度を加えたものであるすなわちB=0H+M

B=0H B=0H+M

M

磁性体があると磁束密度が高くなる

真空中での磁束密度

磁化とは

物質に磁界を加えたとき物質の表面に磁極が生じ一時的に磁石のようになるがそのとき物質が磁化されたという

(b)(a)

(高梨初等磁気工学講座)より

磁化の定義

K番目の原子の1原子あ

たりの磁気モーメントをkとするときその単位体積についての総和k

を磁化Mと定義するM= k

磁気モーメントの単位はWbmであるから磁化の単位はWbm2となる

(高梨初等磁気工学講座)より

常磁性

磁極と磁気モーメント

磁石にはN極とS極がある

磁界中に置かれた磁性体にも磁極が誘起される磁極は必ずNSの対で現れる(単極は見つかっていない)

磁極の大きさをq [Wb]とすると磁界によってNSの対に働くトルクは-qdHsin [Nm]=qdsin [Wbm] H[Am]

必ずNとSが対で現れるならm=qrを磁性を扱う基本単

位と考えることが出来るこれを磁気モーメントという単位は[Wbm]

[参考2]

磁気モーメントの電子的起源

磁気モーメント

一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは

T=qH r sin=mH sin 磁気モーメントのもつポテンシャルEは

E=Td= mH sin d=mH(1-cos)

ポテンシャルの原点はどこにとってもよいから E=-mH mHのときエネルギーは極小になる

mはHに平行になろうとする(高梨初等磁気工学講座)より

r 磁気モーメント

m=qr [Wbm]

-q [Wb]

+q [Wb]

qH

-qH

rsin

単位E[J]=-m[Wbm] H[Am]

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 67: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

L

C

R

C

L

R

x

y

z

Calculated magnetization configurationsof Y-shaped permalloy mirror-dots

Calculation parametersWidth 200 nmThickness 40 nmEasy axis X 1000 ergcm3

Force gradient-divM

Single dot

Experimental MFM images

15 m

bull Calculated spin-flows similar to experimental resultbull Vortices with same chirality appear at the ends of all armsbull Chirality of adjacent dot shows a mirror-reflection

Easy axisEasy axis

Easy axis

Easy axis

-divM

4 おわりに

磁性特有のテクニカルタームがあるが慣れればそれほど難しいものではない

大部分の話は量子力学なしでも理解できる電磁気学の知識があればよい

応用につながるのは磁区磁壁の物理である

メゾスコピック系では量子的な現象が現れるこれが得意なスピン依存伝導現象をもたらす

[参考0]半導体磁性体誘電体

半導体と磁性体の対比

半導体 電子物性パラメータは基本的

にバンド構造で決まるキャリア密度は人為的に制御される

量子構造を考えない限り電子を古典粒子として有効質量近似で扱える

応用されるのは電子構造で決まる移動度などのミクロな電子物性である

電子物性が寸法方位形状にほとんど依存しない

単位系はCGSをもとにした実用単位系が使われる

磁性体 金属磁性体の磁性はスピン偏

極バンド構造で決まるが非金属磁性体の磁性は局在多電子系のフント則で決まる

交換相互作用スピン軌道相互作用など量子力学が基本

応用されるのは磁区により生じるヒステリシスに関連したマクロ磁気物性である

磁性は磁気異方性の影響を受け寸法方位形状により大幅に変化する

単位系が複雑でCGSとSIが混在して使われている

磁性体と誘電体の対比

磁性体

磁気モーメントμ(軸性ベクトル)

磁化M

自発磁化Ms

反磁界

磁気ヒステリシス

飽和磁化残留磁化保磁力

磁区(ドメイン)

キュリー温度

誘電体

電気双極子qr(極性ベクトル)

電気分極P

自発分極Ps

反電界

誘電ヒステリシス

飽和分極残留分極抗電界

分域(ドメイン)

キュリー温度

[参考1]

磁界磁束磁化

磁界(磁場)H磁束密度B磁化M

磁界H中に置かれた磁化Mの磁性体が磁束密

度は真空中の磁束密度に磁化による磁束密度を加えたものであるすなわちB=0H+M

B=0H B=0H+M

M

磁性体があると磁束密度が高くなる

真空中での磁束密度

磁化とは

物質に磁界を加えたとき物質の表面に磁極が生じ一時的に磁石のようになるがそのとき物質が磁化されたという

(b)(a)

(高梨初等磁気工学講座)より

磁化の定義

K番目の原子の1原子あ

たりの磁気モーメントをkとするときその単位体積についての総和k

を磁化Mと定義するM= k

磁気モーメントの単位はWbmであるから磁化の単位はWbm2となる

(高梨初等磁気工学講座)より

常磁性

磁極と磁気モーメント

磁石にはN極とS極がある

磁界中に置かれた磁性体にも磁極が誘起される磁極は必ずNSの対で現れる(単極は見つかっていない)

磁極の大きさをq [Wb]とすると磁界によってNSの対に働くトルクは-qdHsin [Nm]=qdsin [Wbm] H[Am]

必ずNとSが対で現れるならm=qrを磁性を扱う基本単

位と考えることが出来るこれを磁気モーメントという単位は[Wbm]

[参考2]

磁気モーメントの電子的起源

磁気モーメント

一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは

T=qH r sin=mH sin 磁気モーメントのもつポテンシャルEは

E=Td= mH sin d=mH(1-cos)

ポテンシャルの原点はどこにとってもよいから E=-mH mHのときエネルギーは極小になる

mはHに平行になろうとする(高梨初等磁気工学講座)より

r 磁気モーメント

m=qr [Wbm]

-q [Wb]

+q [Wb]

qH

-qH

rsin

単位E[J]=-m[Wbm] H[Am]

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

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4 おわりに

磁性特有のテクニカルタームがあるが慣れればそれほど難しいものではない

大部分の話は量子力学なしでも理解できる電磁気学の知識があればよい

応用につながるのは磁区磁壁の物理である

メゾスコピック系では量子的な現象が現れるこれが得意なスピン依存伝導現象をもたらす

[参考0]半導体磁性体誘電体

半導体と磁性体の対比

半導体 電子物性パラメータは基本的

にバンド構造で決まるキャリア密度は人為的に制御される

量子構造を考えない限り電子を古典粒子として有効質量近似で扱える

応用されるのは電子構造で決まる移動度などのミクロな電子物性である

電子物性が寸法方位形状にほとんど依存しない

単位系はCGSをもとにした実用単位系が使われる

磁性体 金属磁性体の磁性はスピン偏

極バンド構造で決まるが非金属磁性体の磁性は局在多電子系のフント則で決まる

交換相互作用スピン軌道相互作用など量子力学が基本

応用されるのは磁区により生じるヒステリシスに関連したマクロ磁気物性である

磁性は磁気異方性の影響を受け寸法方位形状により大幅に変化する

単位系が複雑でCGSとSIが混在して使われている

磁性体と誘電体の対比

磁性体

磁気モーメントμ(軸性ベクトル)

磁化M

自発磁化Ms

反磁界

磁気ヒステリシス

飽和磁化残留磁化保磁力

磁区(ドメイン)

キュリー温度

誘電体

電気双極子qr(極性ベクトル)

電気分極P

自発分極Ps

反電界

誘電ヒステリシス

飽和分極残留分極抗電界

分域(ドメイン)

キュリー温度

[参考1]

磁界磁束磁化

磁界(磁場)H磁束密度B磁化M

磁界H中に置かれた磁化Mの磁性体が磁束密

度は真空中の磁束密度に磁化による磁束密度を加えたものであるすなわちB=0H+M

B=0H B=0H+M

M

磁性体があると磁束密度が高くなる

真空中での磁束密度

磁化とは

物質に磁界を加えたとき物質の表面に磁極が生じ一時的に磁石のようになるがそのとき物質が磁化されたという

(b)(a)

(高梨初等磁気工学講座)より

磁化の定義

K番目の原子の1原子あ

たりの磁気モーメントをkとするときその単位体積についての総和k

を磁化Mと定義するM= k

磁気モーメントの単位はWbmであるから磁化の単位はWbm2となる

(高梨初等磁気工学講座)より

常磁性

磁極と磁気モーメント

磁石にはN極とS極がある

磁界中に置かれた磁性体にも磁極が誘起される磁極は必ずNSの対で現れる(単極は見つかっていない)

磁極の大きさをq [Wb]とすると磁界によってNSの対に働くトルクは-qdHsin [Nm]=qdsin [Wbm] H[Am]

必ずNとSが対で現れるならm=qrを磁性を扱う基本単

位と考えることが出来るこれを磁気モーメントという単位は[Wbm]

[参考2]

磁気モーメントの電子的起源

磁気モーメント

一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは

T=qH r sin=mH sin 磁気モーメントのもつポテンシャルEは

E=Td= mH sin d=mH(1-cos)

ポテンシャルの原点はどこにとってもよいから E=-mH mHのときエネルギーは極小になる

mはHに平行になろうとする(高梨初等磁気工学講座)より

r 磁気モーメント

m=qr [Wbm]

-q [Wb]

+q [Wb]

qH

-qH

rsin

単位E[J]=-m[Wbm] H[Am]

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 69: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

[参考0]半導体磁性体誘電体

半導体と磁性体の対比

半導体 電子物性パラメータは基本的

にバンド構造で決まるキャリア密度は人為的に制御される

量子構造を考えない限り電子を古典粒子として有効質量近似で扱える

応用されるのは電子構造で決まる移動度などのミクロな電子物性である

電子物性が寸法方位形状にほとんど依存しない

単位系はCGSをもとにした実用単位系が使われる

磁性体 金属磁性体の磁性はスピン偏

極バンド構造で決まるが非金属磁性体の磁性は局在多電子系のフント則で決まる

交換相互作用スピン軌道相互作用など量子力学が基本

応用されるのは磁区により生じるヒステリシスに関連したマクロ磁気物性である

磁性は磁気異方性の影響を受け寸法方位形状により大幅に変化する

単位系が複雑でCGSとSIが混在して使われている

磁性体と誘電体の対比

磁性体

磁気モーメントμ(軸性ベクトル)

磁化M

自発磁化Ms

反磁界

磁気ヒステリシス

飽和磁化残留磁化保磁力

磁区(ドメイン)

キュリー温度

誘電体

電気双極子qr(極性ベクトル)

電気分極P

自発分極Ps

反電界

誘電ヒステリシス

飽和分極残留分極抗電界

分域(ドメイン)

キュリー温度

[参考1]

磁界磁束磁化

磁界(磁場)H磁束密度B磁化M

磁界H中に置かれた磁化Mの磁性体が磁束密

度は真空中の磁束密度に磁化による磁束密度を加えたものであるすなわちB=0H+M

B=0H B=0H+M

M

磁性体があると磁束密度が高くなる

真空中での磁束密度

磁化とは

物質に磁界を加えたとき物質の表面に磁極が生じ一時的に磁石のようになるがそのとき物質が磁化されたという

(b)(a)

(高梨初等磁気工学講座)より

磁化の定義

K番目の原子の1原子あ

たりの磁気モーメントをkとするときその単位体積についての総和k

を磁化Mと定義するM= k

磁気モーメントの単位はWbmであるから磁化の単位はWbm2となる

(高梨初等磁気工学講座)より

常磁性

磁極と磁気モーメント

磁石にはN極とS極がある

磁界中に置かれた磁性体にも磁極が誘起される磁極は必ずNSの対で現れる(単極は見つかっていない)

磁極の大きさをq [Wb]とすると磁界によってNSの対に働くトルクは-qdHsin [Nm]=qdsin [Wbm] H[Am]

必ずNとSが対で現れるならm=qrを磁性を扱う基本単

位と考えることが出来るこれを磁気モーメントという単位は[Wbm]

[参考2]

磁気モーメントの電子的起源

磁気モーメント

一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは

T=qH r sin=mH sin 磁気モーメントのもつポテンシャルEは

E=Td= mH sin d=mH(1-cos)

ポテンシャルの原点はどこにとってもよいから E=-mH mHのときエネルギーは極小になる

mはHに平行になろうとする(高梨初等磁気工学講座)より

r 磁気モーメント

m=qr [Wbm]

-q [Wb]

+q [Wb]

qH

-qH

rsin

単位E[J]=-m[Wbm] H[Am]

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 70: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

半導体と磁性体の対比

半導体 電子物性パラメータは基本的

にバンド構造で決まるキャリア密度は人為的に制御される

量子構造を考えない限り電子を古典粒子として有効質量近似で扱える

応用されるのは電子構造で決まる移動度などのミクロな電子物性である

電子物性が寸法方位形状にほとんど依存しない

単位系はCGSをもとにした実用単位系が使われる

磁性体 金属磁性体の磁性はスピン偏

極バンド構造で決まるが非金属磁性体の磁性は局在多電子系のフント則で決まる

交換相互作用スピン軌道相互作用など量子力学が基本

応用されるのは磁区により生じるヒステリシスに関連したマクロ磁気物性である

磁性は磁気異方性の影響を受け寸法方位形状により大幅に変化する

単位系が複雑でCGSとSIが混在して使われている

磁性体と誘電体の対比

磁性体

磁気モーメントμ(軸性ベクトル)

磁化M

自発磁化Ms

反磁界

磁気ヒステリシス

飽和磁化残留磁化保磁力

磁区(ドメイン)

キュリー温度

誘電体

電気双極子qr(極性ベクトル)

電気分極P

自発分極Ps

反電界

誘電ヒステリシス

飽和分極残留分極抗電界

分域(ドメイン)

キュリー温度

[参考1]

磁界磁束磁化

磁界(磁場)H磁束密度B磁化M

磁界H中に置かれた磁化Mの磁性体が磁束密

度は真空中の磁束密度に磁化による磁束密度を加えたものであるすなわちB=0H+M

B=0H B=0H+M

M

磁性体があると磁束密度が高くなる

真空中での磁束密度

磁化とは

物質に磁界を加えたとき物質の表面に磁極が生じ一時的に磁石のようになるがそのとき物質が磁化されたという

(b)(a)

(高梨初等磁気工学講座)より

磁化の定義

K番目の原子の1原子あ

たりの磁気モーメントをkとするときその単位体積についての総和k

を磁化Mと定義するM= k

磁気モーメントの単位はWbmであるから磁化の単位はWbm2となる

(高梨初等磁気工学講座)より

常磁性

磁極と磁気モーメント

磁石にはN極とS極がある

磁界中に置かれた磁性体にも磁極が誘起される磁極は必ずNSの対で現れる(単極は見つかっていない)

磁極の大きさをq [Wb]とすると磁界によってNSの対に働くトルクは-qdHsin [Nm]=qdsin [Wbm] H[Am]

必ずNとSが対で現れるならm=qrを磁性を扱う基本単

位と考えることが出来るこれを磁気モーメントという単位は[Wbm]

[参考2]

磁気モーメントの電子的起源

磁気モーメント

一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは

T=qH r sin=mH sin 磁気モーメントのもつポテンシャルEは

E=Td= mH sin d=mH(1-cos)

ポテンシャルの原点はどこにとってもよいから E=-mH mHのときエネルギーは極小になる

mはHに平行になろうとする(高梨初等磁気工学講座)より

r 磁気モーメント

m=qr [Wbm]

-q [Wb]

+q [Wb]

qH

-qH

rsin

単位E[J]=-m[Wbm] H[Am]

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

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磁性体と誘電体の対比

磁性体

磁気モーメントμ(軸性ベクトル)

磁化M

自発磁化Ms

反磁界

磁気ヒステリシス

飽和磁化残留磁化保磁力

磁区(ドメイン)

キュリー温度

誘電体

電気双極子qr(極性ベクトル)

電気分極P

自発分極Ps

反電界

誘電ヒステリシス

飽和分極残留分極抗電界

分域(ドメイン)

キュリー温度

[参考1]

磁界磁束磁化

磁界(磁場)H磁束密度B磁化M

磁界H中に置かれた磁化Mの磁性体が磁束密

度は真空中の磁束密度に磁化による磁束密度を加えたものであるすなわちB=0H+M

B=0H B=0H+M

M

磁性体があると磁束密度が高くなる

真空中での磁束密度

磁化とは

物質に磁界を加えたとき物質の表面に磁極が生じ一時的に磁石のようになるがそのとき物質が磁化されたという

(b)(a)

(高梨初等磁気工学講座)より

磁化の定義

K番目の原子の1原子あ

たりの磁気モーメントをkとするときその単位体積についての総和k

を磁化Mと定義するM= k

磁気モーメントの単位はWbmであるから磁化の単位はWbm2となる

(高梨初等磁気工学講座)より

常磁性

磁極と磁気モーメント

磁石にはN極とS極がある

磁界中に置かれた磁性体にも磁極が誘起される磁極は必ずNSの対で現れる(単極は見つかっていない)

磁極の大きさをq [Wb]とすると磁界によってNSの対に働くトルクは-qdHsin [Nm]=qdsin [Wbm] H[Am]

必ずNとSが対で現れるならm=qrを磁性を扱う基本単

位と考えることが出来るこれを磁気モーメントという単位は[Wbm]

[参考2]

磁気モーメントの電子的起源

磁気モーメント

一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは

T=qH r sin=mH sin 磁気モーメントのもつポテンシャルEは

E=Td= mH sin d=mH(1-cos)

ポテンシャルの原点はどこにとってもよいから E=-mH mHのときエネルギーは極小になる

mはHに平行になろうとする(高梨初等磁気工学講座)より

r 磁気モーメント

m=qr [Wbm]

-q [Wb]

+q [Wb]

qH

-qH

rsin

単位E[J]=-m[Wbm] H[Am]

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

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[参考1]

磁界磁束磁化

磁界(磁場)H磁束密度B磁化M

磁界H中に置かれた磁化Mの磁性体が磁束密

度は真空中の磁束密度に磁化による磁束密度を加えたものであるすなわちB=0H+M

B=0H B=0H+M

M

磁性体があると磁束密度が高くなる

真空中での磁束密度

磁化とは

物質に磁界を加えたとき物質の表面に磁極が生じ一時的に磁石のようになるがそのとき物質が磁化されたという

(b)(a)

(高梨初等磁気工学講座)より

磁化の定義

K番目の原子の1原子あ

たりの磁気モーメントをkとするときその単位体積についての総和k

を磁化Mと定義するM= k

磁気モーメントの単位はWbmであるから磁化の単位はWbm2となる

(高梨初等磁気工学講座)より

常磁性

磁極と磁気モーメント

磁石にはN極とS極がある

磁界中に置かれた磁性体にも磁極が誘起される磁極は必ずNSの対で現れる(単極は見つかっていない)

磁極の大きさをq [Wb]とすると磁界によってNSの対に働くトルクは-qdHsin [Nm]=qdsin [Wbm] H[Am]

必ずNとSが対で現れるならm=qrを磁性を扱う基本単

位と考えることが出来るこれを磁気モーメントという単位は[Wbm]

[参考2]

磁気モーメントの電子的起源

磁気モーメント

一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは

T=qH r sin=mH sin 磁気モーメントのもつポテンシャルEは

E=Td= mH sin d=mH(1-cos)

ポテンシャルの原点はどこにとってもよいから E=-mH mHのときエネルギーは極小になる

mはHに平行になろうとする(高梨初等磁気工学講座)より

r 磁気モーメント

m=qr [Wbm]

-q [Wb]

+q [Wb]

qH

-qH

rsin

単位E[J]=-m[Wbm] H[Am]

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 73: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

磁界(磁場)H磁束密度B磁化M

磁界H中に置かれた磁化Mの磁性体が磁束密

度は真空中の磁束密度に磁化による磁束密度を加えたものであるすなわちB=0H+M

B=0H B=0H+M

M

磁性体があると磁束密度が高くなる

真空中での磁束密度

磁化とは

物質に磁界を加えたとき物質の表面に磁極が生じ一時的に磁石のようになるがそのとき物質が磁化されたという

(b)(a)

(高梨初等磁気工学講座)より

磁化の定義

K番目の原子の1原子あ

たりの磁気モーメントをkとするときその単位体積についての総和k

を磁化Mと定義するM= k

磁気モーメントの単位はWbmであるから磁化の単位はWbm2となる

(高梨初等磁気工学講座)より

常磁性

磁極と磁気モーメント

磁石にはN極とS極がある

磁界中に置かれた磁性体にも磁極が誘起される磁極は必ずNSの対で現れる(単極は見つかっていない)

磁極の大きさをq [Wb]とすると磁界によってNSの対に働くトルクは-qdHsin [Nm]=qdsin [Wbm] H[Am]

必ずNとSが対で現れるならm=qrを磁性を扱う基本単

位と考えることが出来るこれを磁気モーメントという単位は[Wbm]

[参考2]

磁気モーメントの電子的起源

磁気モーメント

一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは

T=qH r sin=mH sin 磁気モーメントのもつポテンシャルEは

E=Td= mH sin d=mH(1-cos)

ポテンシャルの原点はどこにとってもよいから E=-mH mHのときエネルギーは極小になる

mはHに平行になろうとする(高梨初等磁気工学講座)より

r 磁気モーメント

m=qr [Wbm]

-q [Wb]

+q [Wb]

qH

-qH

rsin

単位E[J]=-m[Wbm] H[Am]

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 74: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

磁化とは

物質に磁界を加えたとき物質の表面に磁極が生じ一時的に磁石のようになるがそのとき物質が磁化されたという

(b)(a)

(高梨初等磁気工学講座)より

磁化の定義

K番目の原子の1原子あ

たりの磁気モーメントをkとするときその単位体積についての総和k

を磁化Mと定義するM= k

磁気モーメントの単位はWbmであるから磁化の単位はWbm2となる

(高梨初等磁気工学講座)より

常磁性

磁極と磁気モーメント

磁石にはN極とS極がある

磁界中に置かれた磁性体にも磁極が誘起される磁極は必ずNSの対で現れる(単極は見つかっていない)

磁極の大きさをq [Wb]とすると磁界によってNSの対に働くトルクは-qdHsin [Nm]=qdsin [Wbm] H[Am]

必ずNとSが対で現れるならm=qrを磁性を扱う基本単

位と考えることが出来るこれを磁気モーメントという単位は[Wbm]

[参考2]

磁気モーメントの電子的起源

磁気モーメント

一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは

T=qH r sin=mH sin 磁気モーメントのもつポテンシャルEは

E=Td= mH sin d=mH(1-cos)

ポテンシャルの原点はどこにとってもよいから E=-mH mHのときエネルギーは極小になる

mはHに平行になろうとする(高梨初等磁気工学講座)より

r 磁気モーメント

m=qr [Wbm]

-q [Wb]

+q [Wb]

qH

-qH

rsin

単位E[J]=-m[Wbm] H[Am]

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 75: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

磁化の定義

K番目の原子の1原子あ

たりの磁気モーメントをkとするときその単位体積についての総和k

を磁化Mと定義するM= k

磁気モーメントの単位はWbmであるから磁化の単位はWbm2となる

(高梨初等磁気工学講座)より

常磁性

磁極と磁気モーメント

磁石にはN極とS極がある

磁界中に置かれた磁性体にも磁極が誘起される磁極は必ずNSの対で現れる(単極は見つかっていない)

磁極の大きさをq [Wb]とすると磁界によってNSの対に働くトルクは-qdHsin [Nm]=qdsin [Wbm] H[Am]

必ずNとSが対で現れるならm=qrを磁性を扱う基本単

位と考えることが出来るこれを磁気モーメントという単位は[Wbm]

[参考2]

磁気モーメントの電子的起源

磁気モーメント

一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは

T=qH r sin=mH sin 磁気モーメントのもつポテンシャルEは

E=Td= mH sin d=mH(1-cos)

ポテンシャルの原点はどこにとってもよいから E=-mH mHのときエネルギーは極小になる

mはHに平行になろうとする(高梨初等磁気工学講座)より

r 磁気モーメント

m=qr [Wbm]

-q [Wb]

+q [Wb]

qH

-qH

rsin

単位E[J]=-m[Wbm] H[Am]

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 76: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

磁極と磁気モーメント

磁石にはN極とS極がある

磁界中に置かれた磁性体にも磁極が誘起される磁極は必ずNSの対で現れる(単極は見つかっていない)

磁極の大きさをq [Wb]とすると磁界によってNSの対に働くトルクは-qdHsin [Nm]=qdsin [Wbm] H[Am]

必ずNとSが対で現れるならm=qrを磁性を扱う基本単

位と考えることが出来るこれを磁気モーメントという単位は[Wbm]

[参考2]

磁気モーメントの電子的起源

磁気モーメント

一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは

T=qH r sin=mH sin 磁気モーメントのもつポテンシャルEは

E=Td= mH sin d=mH(1-cos)

ポテンシャルの原点はどこにとってもよいから E=-mH mHのときエネルギーは極小になる

mはHに平行になろうとする(高梨初等磁気工学講座)より

r 磁気モーメント

m=qr [Wbm]

-q [Wb]

+q [Wb]

qH

-qH

rsin

単位E[J]=-m[Wbm] H[Am]

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 77: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

[参考2]

磁気モーメントの電子的起源

磁気モーメント

一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは

T=qH r sin=mH sin 磁気モーメントのもつポテンシャルEは

E=Td= mH sin d=mH(1-cos)

ポテンシャルの原点はどこにとってもよいから E=-mH mHのときエネルギーは極小になる

mはHに平行になろうとする(高梨初等磁気工学講座)より

r 磁気モーメント

m=qr [Wbm]

-q [Wb]

+q [Wb]

qH

-qH

rsin

単位E[J]=-m[Wbm] H[Am]

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 78: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

磁気モーメント

一様な磁界H中の磁気モーメントに働くトルクTは

T=qH r sin=mH sin 磁気モーメントのもつポテンシャルEは

E=Td= mH sin d=mH(1-cos)

ポテンシャルの原点はどこにとってもよいから E=-mH mHのときエネルギーは極小になる

mはHに平行になろうとする(高梨初等磁気工学講座)より

r 磁気モーメント

m=qr [Wbm]

-q [Wb]

+q [Wb]

qH

-qH

rsin

単位E[J]=-m[Wbm] H[Am]

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 79: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

環状電流と磁気モーメント

電子の周回運動rarr環状電流-e[C]の電荷が半径a[m]の円周上を線速度v[ms]で周回rarr1周の時間は2av[s]rarr電流はi=-ev2πa[A]

磁気モーメントは電流値iに円の面積S= a2をかけることにより求められ=iS=-eav2となる

一方角運動量は=mav であるからこれを使うと磁気モーメントは=-(e2m) となる

-e

r

N

S

軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

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軌道角運動量の量子的扱い

量子論によると角運動量はを単位とするとびとびの値

をとり電子軌道の角運動量はl=LであるLは整数

値をとる

=-(e2m) に代入すると次

式を得る軌道磁気モーメント

l=-(e2m)L=- BL ボーア磁子 B=e2m =92710-24[JT]

単位[JT]=[Wb2m][Wbm2]=[Wbm]

もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

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もう一つの角運動量スピン

電子スピン量子数sの大きさは12

量子化軸方向の成分szはplusmn12の2値をとる

スピン角運動量は を単位としてs=sとなる

スピン磁気モーメントはs=-(em)sと表される

従ってs=-(em)s=- 2Bs

実際には上式の係数は2より少し大きな値g(自由電子の場合g=20023)をもつので s=-gBsと表される

スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

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スピンとは

ディラックの相対論的電磁気学から必然的に導かれる

スピンはどのように導入されたか Na(ナトリウム)のD線のゼーマン効果(磁界をかけるとスペ

クトル線が2本に分裂する)を説明するためには電子があるモーメントを持っていてそれが磁界に対して平行と反平行とでゼーマンエネルギーが異なると考える必要があったため導入された量子数である

電子スピン核スピン

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 83: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

NaのD線のゼーマン効果

D1線3s12rarr3p12

D2線3s12rarr3p32

httphyperphysicsphy-astrgsueduhbasequantumsodzeehtmlc3

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 84: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

軌道角運動量量子と電子分布の形

s p d f は軌道の型を表しそれぞれが方位量子数l=0 1 2 3に対応するsには電子分布のくびれが0であるがpには1つのくびれがd

には2つのくびれが存在する

1s 2s 2p 3d

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 85: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

局在した原子(多電子系)の合成角運動量

軌道角運動量の加算軌道角運動量(方位)量子数をlとするとその量子化方向成分(磁気量子数)m=lzは l l-1-l+1 -lの2l+1とおりの値を持ちうる

1原子に2個のp電子があったとするp電子の方位量子数lは1であるから磁気量子数はm=1 0 -1の3つの値をもつ原子の合成軌道角運動量L=2Lz=2 1 0 -1 -2をとる

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 86: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

フントの規則

原子が基底状態にあるときのL Sを決める規則

1 原子内の同一の状態(n l ml msで指定される状態)には1個の電子しか占有できない(Pauli排他律)

2 基底状態では可能な限り大きなSと可能な限り大きなLを作るようにsとlを配置する(Hundの規則1)

3 上の条件が満たされないときはSの値を大きくすることを優先する(Hundの規則2)

4 基底状態の全角運動量Jはless than halfではJ=|L-S| more than halfではJ=L+Sをとる

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 87: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

多重項の表現

左肩の数字 2S+1 (スピン多重度)

S=0 12 1 32 2 52に対応して1 2 3 4 5 6

読み方singlet doublet triplet quartet quintet sextet

中心の文字 Lに相当する記号

L=0 1 2 3 4 5 6に対応してS P D F G H I

右下の数字 Jz

例Mn2+(3d5) S=52 (2S+1=6) L=0 (rarr記号S)6S52

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 88: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

遷移金属イオンの電子配置

3d1 3d2 3d3 3d4 3d5

3d6 3d7 3d8 3d9 3d10

2

-2-101

2

-2-101

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 89: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

[参考3]

ランジェバンの常磁性

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 90: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

これだけは覚えておいて

キュリーの法則

ピエールキュリーは「種々の温度における物体の磁気的性質」(1895)で多くの金属無機物気体の磁性を調べて論じた

キュリーの法則とは「物質の磁化率が絶対温度に反比例する」という法則である(これは「常磁性物質」において磁界が小さい場合に成り立つ)

χ=MH=CT キュリーの法則=CTの例CuSO4K2SO46H2O

(中村伝磁性より)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 91: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

ランジェバンの常磁性

(佐藤越田応用電子物性工学)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 92: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論

原子(あるいはイオン)が磁気モーメントをもち互いに相互作用がないとする

磁界Hの中に置かれるとそのエネルギーはE=- Hで与えられるので平行になろうとトルクが働くがこれを妨げるのが熱運動kTである両者のせめぎ合いで原子磁気モーメントの向きが決まる

統計力学によると磁界方向に極軸をとってθとθ+Δθの間にベクトルを見出す確率は

11 )(cos)cosexp(2

)(cos)cosexp(2)(

dkTH

dkTHP

ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

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ちょっと面倒な式が続きますが

ランジェバンの理論つづき

従って磁界方向のの平均値は次式で与えられる

)(

)(cos)cosexp(

)(cos)cosexp(cos

)(coscos

11

11

11

kT

HL

dkTH

dkTH

P

ここにL(x)はランジェバン関数と呼ばれ次式で表される

453

1)coth()(

3xx

xxxL

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 94: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

ランジェバン理論により

キュリー則を導く

x=HkTが小さいとして展開の第1項のみをとると1モルの原子数Nとして

M=N(H3kT)=(N23kT)Hが得られる

これを磁化率の定義式χ=MHに代入するとχ=N23kTが得られキュリーの式χ=CTが得られたここにキュリー定数はC=N23kである

=neffBとおくここにneffはボーア磁子を単位にしたときの原子磁気モーメントの大きさを表し有効ボーア磁子数と呼ばれる C=(NB

23k) neff2

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 95: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

量子論による

ランジェバンの式

外部磁界のもとで相互作用-HによってMJ=J-1 J-2hellip-J+1-Jの縮退した状態は2J+1個に分裂する温度T

でこれらの準位にどのように分布するかを考慮して平均の磁気モーメントを計算する結果を先に書いておくと磁界が小さいとき近似的に次式で表される

13

22

JJkT

Ng B

古典的ランジェバンの式と比較して有効ボーア磁子数は右のように得られる

)1( JJgneff

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 96: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

温度TにおいてMJが 2J+1個の状態のうち1つをとる

確率は次式のようになる

磁界方向の平均の磁気モーメントはgBMJにP(MJ)をかけてMJについて和をとれば良く下記のようになる

MJJB

JBJ

kTHMg

kTHMgMP

)exp(

)exp()(

MJJB

JBMJ

J

JMJ

JJkTHMg

kTHMgMgMPMg

)exp(

)exp()( BB

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 97: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

ちょっと面倒な数学的手続きによってltJgtは次のように求められる

ここにBJ(x)はブリルアン関数と呼ばれxの増加とともにはじめは1次関数的に増大しxの大きな極限では1に飽和する非線形な関数であるxの小さな時次のように展開できる

kT

HJgBJg

JkT

HJg

JkT

HJg

J

J

J

JJg

BJB

BBBJ

2coth

2

1

2

12coth

2

12

xJ

JxBJ

3

1)(

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 98: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

参考

ブリルアン関数

磁化の磁界依存性はブリルアン関数で表されHkT

が小さいときは直線で大きくなると飽和する

J=12

J=32

J=52

J=72

x=gBJHkT

y=MM0

10

000 10 20 30 40 50

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 99: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

参考

ブリルアン関数に従う常磁性磁化曲線

常磁性塩の磁気モーメントのHT依存性(HenryPR 88 (rsquo52)559)

強磁界低温では常磁性磁化は飽和する

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 100: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

ちょっと面倒ですが

量子論によるランジェバンの式の導出

単位体積あたりN個の磁性原子が存在するときMはNltJgtで表され磁化率はMHで表され

るから結局次式を得る

kT

JJNg

kT

HJg

J

J

H

NJg

kT

HJgB

H

NJg

H

N

H

M

BBB

BJ

BJ

3

)1(

3

1 22

(Hが小さいとき) キュリーの法則

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 101: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

3d遷移元素

WebElementsTM Periodic table (httpwwwwebelementscom)より

[Ar]3d14s2

2D32

[Ar]3d24s2

3F2

[Ar]3d34s2 4F32

[Ar]3d54s1

7S3

[Ar]3d54s2

6S52

[Ar]3d64s2

5D4

[Ar]3d74s2

4F92

[Ar]3d84s2

3F4

[Ar]3d104s1

2S12

スカンジウム チタン バナジウム クロム マンガン

鉄 コバルト ニッケル 銅

復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

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復習+発展

3d遷移金属イオンの角運動量と磁性

実測した常磁性磁化率から得られた有効ボーア磁子数neffは全角運動量Jから理論的に求めた値 を使ってうまく説明できずJではなくSを使って説明できる

1 JJgneff

4F92

5D4

6S52

5D0

4F32

3F2

2D32

基底状態

52-4455-525948382817

neff実測値

387559[Ar]3d7Co2+

490671[Ar]3d6Fe2+

592592[Ar]3d5Fe3+

490000[Ar]3d4Mn3+

387070[Ar]3d3Cr3+

283163[Ar]3d2V3+

173155[Ar]3d1Ti3+

電子配置イオン )1( JJg )1(2 SS

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 103: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

4f 希土類

復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

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復習+発展

4f希土類イオンの角運動量と磁性

希土類イオンの有効ボーア磁子数は(Sm Euをのぞき) Jによってよく説明できる

10510636H1524f95s25p6Dy3+

10510605I84f105s25p6Ho3+

949594I1524f115s25p6Er3+

727573H64f125s25p6Tm3+

2685I44f45s25p6Pm3+

979727F64f85s25p6Tb3+

2F72

8S72

7F0

6H52

4I92

3H4

2F52

基底状態

45

79

36

15

38

36

25

neff実測値

4544f135s25p6Yb+

7944f75s25p6Gd3+

0004f65s25p6Eu3+

0844f55s25p6Sm3+

3624f35s25p6Nd3+

3584f25s25p6Pr3+

2544f15s25p6Ce3+

電子配置イオン )1( JJg

遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

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遷移金属イオンと希土類イオン

3d遷移イオン磁気モーメントの実験値スピンのみの値に一致(軌道角運動量は消滅している)

4f希土類イオン磁気モーメントの実験値全角運動量による値と一致(軌道は生きている)

[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

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[参考] 常磁性イオンの光スペクトル

宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

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宝石の色と遷移金属

配位子場理論と

その応用

局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

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局在電子系と多重項

局在電子系では多電子系の多重項という状態が基底状態になる遷移元素のイオンの電子状態は元素を取り囲む配位子の対称性の影響を受けて縮退が解け分裂するこれを「配位子場分裂」という

遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

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遷移金属イオンを取り囲む酸化物イオンの配位子

八面体(上)および四面体(下)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 110: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

t2g(d-)軌道とeg(d-)軌道の広がり

(a) t2g(b) eg

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 111: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

結晶中のt2g(d-)軌道とeg(d-)軌道

8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

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8面体配位と4面体配位の比較

8面体配位イオン結合性強い

反転対称性をもつ

t2g軌道はeg軌道より低エネル

ギー

4面体配位共有結合性強い

反転対称性なし

e軌道はt2軌道より低エネルギー

tet=(49)oct

eg

t2

t2g e

oct

tet

8面体配位 4面体配位

多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

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多電子状態と配位子場遷移

ルビーレーザ

ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

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ルビーの光吸収スペクトル

R線B線

Y帯

U帯

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 115: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

Oh対称におけるCr3+イオンの

田辺菅野ダイアグラム

結晶場の強さ

エネ

ルギー

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)

Page 116: 磁性の基礎art.sato-gallery.com/education/kouza/jisei_kiso.pdf磁性の基礎 JSTさきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤勝昭 (東京農工大学名誉教授)

参考書

bull 中村 伝「磁性」槙書店(1965)bull 金森順次郎「新物理学シリーズ 磁性」培風館(1969)bull 芳田 奎「物性物理学シリーズ 磁性I II」朝倉書店(1972)bull 太田恵造「磁気工学の基礎I II」共立全書(1973)bull 近角聡信編「磁性体ハンドブック」朝倉書店(1975)bull 近角聡信「強磁性体の物理(上下)」裳華房(1977 1984)bull 芳田 奎「磁性」岩波書店(1991)bull 高梨弘毅「初等磁気工学講座」日本応用磁気学会(1996)bull 川西健次郎編「磁気工学ハンドブック」朝倉書店(1999)bull 近桂一郎安岡弘志編「実験物理学講座6 磁気測定I」丸善(2000)