大学生活における 学習スケジュールのプランニング...
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大学生活における学習スケジュールのプランニングとその影響要因
問題の所在と目的時間管理や計画性に基礎づけられた日常的な規則正しい生活が営まれると…
・主観的な健康感の増大
・身体的な疲労症状の減少(都築,2010)
定期試験の学力の低下⇔計画・修正といったコントロール能力の低下 …正の相関(片岡,2012)
生活課題:就職や資格の習得、専門的知識の獲得と言った「大学時代においてなすべきこと」
より多くの生活課題をこなし、充実した生活時間を過ごしていくためには、生活時間の管理・設計の能力が必要である
(横田,2012)
大学生活において「計画性」や「時間の管理」と言った能力はとても重要なもの
肯定的な自己意識や時間的展望が高められる
問題の所在と目的社会人基礎力:職場や地域社会の中で多様な人々とともに仕事をしていくために必要な基礎的な力
社会人基礎力を構成する12の要素の1つ
⇒「計画力」
・・・課題の解決に向けたプロセスを明らかにし、
準備する力(経済産業省,2008)
大学生活内での課題解決型学習や実践型学習を通して
「計画力」身につけることを推奨
問題の所在と目的大学生が「計画性」を身につけ、十分な「計画力」を養うことは大学生活時や就職等のその後の生活においても大切
自身の生活における日ごろの時間の使い方への満足感
高い満足度を示す学生 < 低い満足度を示す学生
⇒自身の「計画性」に不満を抱える学生の方が多い (都築,2010)
現状:「計画性」の重要性が主張される中で、能力の不足に不安を覚える学生が多い
「計画性」とはそもそもどのように身につくのか、あるいはどのようにして補うのか、明らかにしていく必要性がある
問題の所在と目的計画性 …「自身に合った計画を立てられるかどうか」 【立案過程】
「目標を達成するために行動できるかどうか」 【実行過程】
⇒これらの能力を高められることが「計画性」を身につけることにつながる
●現在有効とされている「計画性」を身につけるための支援
①時間管理スキルアップワークショップ(岩渕・高橋,2011)
…プランニングスキルの獲得を目指す
②効率的なスケジュールの作成
…自身の今後の予定を組み立て、実行する
問題の所在と目的●それぞれの支援の課題
①時間管理スキルアップワークショップ(岩渕・高橋,2011)
…ファシリテーターの養成・開催場所や時間の確保・多人数の参加者募集など多くの手続きが必要、参加者のその後の生活における効果の持続性への不安
(篠田ら,2013)
②効率的なスケジュールの作成
…一般化されたスケジュールの立て方と言うものが明らかにされていないため、支援の方略が確立されていない
⇒スケジュールの立て方を身につけることができれば、対象者の独力で行うことができ、容易に継続することができる
⇒ 「スケジュールは一般的にどのように立てるのか」が明らかになる事によって、「効果的なスケジュールの活用」という支援がより行いやすく、実用的なものになる
問題の所在と目的
研究の目的
一般的な大学生が大学生活においてスケジュールを立てようとした時、どのような方法で行うのかを明らかにすることにより、大学生が「計画性」を身につけるための支援の一助とする
問題の所在と目的仮説:スケジュールの立案に影響する要因と、それぞれの要因がどのように関連しているか
予備調査
目的:本調査の実施に向けて以下のことを行う
1.大学生のスケジュールの型の作成
2.スケジュールを作成する際に影響する様々な要因の絞り込み
3.各々の型、要因、経験などを考慮した大学生のスケジュール立案・実行の様相について検討する
対象:8名の大学生(都内にあるA国立大学〔文系〕)
手続き:ワークシートと質問紙の配布
予備調査結果:1.大学生のスケジュールの型⇒「詰込み型」「バランス型」「予備時間多め型」を仮説的に作成
2.スケジュールの作成に影響する要因①普段のスケジュールを立てる習慣の有/無②スケジュールを立てる目的(実行目的/満足目的)③スケジュールの実行を阻害する性格特性④スケジュールの妨害経験⑤実行する課題の優先順位判断基準:「短期間で(何日もかけず)終わらせたい」「先に(週の初めの方に)終わ
らせたい」「課題にかかる時間が短い」「自分にとって得意である」「自分にとって簡単である」
予備調査結果:
3.大学生のスケジュール立案・実行の様相についての検討
⇒仮説図の変更
本調査研究1:大学生のスケジュール立案の実態把握
目的:予備調査の結果をもとに、大学生のスケジュールの立て方を明らかにしていく
対象:大学生420名(都内にあるA国立大学248名〔文系・理系・体育系〕、B私立大学172名〔文系〕)
手続き:質問紙の配布
本調査
質問紙の構成
①フェイスシート:性別、年齢、学科の記入
②架空のスケジュールの型の選択
③スケジュール立案の際の優先順位
④スケジュール実行阻害特性の有無・程度
⑤スケジュール妨害経験の有無・頻度
⑥スケジュールを立てる習慣の有無/目的
本調査②架空のスケジュールの型の選択
…回答者が架空の授業時間割や与えられた課題をもとに、どのようなスケジュールを立てるか、類似する型を選択してもらった
本調査③スケジュール立案の際の優先順位
…②で提示したスケジュールを組み立てる際、課題の優先順位をどのように判断するのかを明らかにするため、提示した5つの基準を用いて、②で示した課題A~課題Dの中でどのように優先順位が決まるか、順位を記入してもらった
本調査④スケジュール実行阻害特性の有無・程度…「社会性と行動に関する基礎調査票(大人の発達障害に気づいて・向き合う完全ガイド黒澤,2012) 」内の予定管理能力やスケジュールの実行を妨げると思われる性格特性を13項目抜粋し、「スケジュール実行阻害特性尺度」として提示し、回答者がどの程度あてはまるかを5段階で選択してもらった
・興味の範囲が限られており、極端に集中するものがある
・自分なりの習慣や手順があり、絶対に変えたくない・急な予定変更や普段と違うことが起きると、ひどく混乱する
・仕事や家事を順序立てて計画的に行うことが苦手である
・やるべき仕事や家事を最後までやり遂げられないことが多い
・気が散りやすく、話し声や周りの音などに気をとられやすい
・人との約束や、やらなくてはいけないことを忘れたりすることが多い
・やることが雑であると思う・遅刻が多いなど、時間通りに行動できない・目的に沿って行動を計画したり、修正したりすることが苦手だ
・同時にいくつもの課題をこなすことが苦手だ・気分にむらがあり、ちょっとしたことで興奮したり落ち込んだりする
・気力がわかず、ボーッとすることが多い
・時間が予想以上にかかってしまった
・体調を崩してしまった
・思わぬトラブルに遭ってしまった
・急な予定が入ってしまった
・寝坊してしまった
・やる気が起こらなかった
・余暇に時間を使ってしまった(遊んでしまった)
本調査⑤スケジュール妨害経験の有無・頻度
…予備調査から選定されたスケジュール妨害経験7項目を提示し、回答者がどの程度経験したことがあるかを5段階で選択してもらった
本調査⑥スケジュールを立てる習慣の有無/目的
…普段どのような理由からスケジュールを立てるか、若しくはスケジュールを立てないか、最も近い選択肢を回答してもらった
・課題などをスムーズに実行するために必要だから
・予定を立てると安心するから
・予定を立てることで満足するから
・予定を立てることで「やらなくてはいけない」という焦燥感が得られるから
・そもそも予定を立てる習慣がない、予定を立てるのは苦手である
・その他(自由記述) →内容から類似の群に回答を割り振り
習慣有り群
習慣無し群
満足群 実行群
本調査結果:
スケジュールの型 × スケジュールを立てる習慣の有無/目的
⇒χ二乗検定を行い、有意な差が見られた組み合わせを各スケジュールの型の特徴とした
• 特になし詰込み型
• 特になしバランス型
• スケジュールを立てる習慣がない予備多め型
本調査結果:
スケジュール実行阻害特性 × スケジュール妨害経験…選択された程度や頻度ごとに、各項目への回答を1~5点に得点化、合計点の平均点や標準偏差からそれぞれの要因の「得点高群」「得点中群」「得点低群」を作成
【相互相関】 →2つの要因の合計点の相関を算出
⇒比較的強い正の相関がみられた(r=.496、N=420)
【χ二乗検定】 →2つの要因の得点群ごとに差を比較
⇒「得点高群×得点高群」「得点低群×得点低群」の組み合わせが有意に多く、全体でも1%水準で有意な差がみられた(χ2=54.699,df=4,p=.000)
⇒スケジュール実行阻害特性を多く持つ大学生ほど、スケジュールを失敗する可能性も高いと言える
本調査結果:
スケジュール実行阻害特性×スケジュールの型「詰込み型」「バランス型」「予備多め型」
⇒χ二乗検定を行い、有意な差が見られた組み合わせを各スケジュールの型の特徴とした
• 特になし詰込み型
• 特になしバランス型
• スケジュール実行阻害特性得点が高い
• 興味の限局化、極端な集中が見られる
• 仕事や家事を順序立てて計画的に行うことに苦手意識を感じている
• 遅刻が多い、時間通りに行動できない
• 気力がわかず、ボーッとすることが多い
予備多め型
本調査結果:
スケジュール実行阻害特性×「普段スケジュールを立てる」「普段スケジュールを立てない」
⇒χ二乗検定を行い、有意な差が見られた組み合わせを「立てる群」「立てない群」の特徴とした
• 特になし立てる
• 仕事や家事を順序立てて計画的に行うことに苦手意識を感じている
• やることが雑であると感じている
• 遅刻が多いなど、時間通りに行動できないと感じている
• 目的に沿って行動を計画したり、修正したりすることが苦手だと感じている
立てない
本調査結果:
スケジュール実行阻害特性×「実行目的で立てる」「満足目的で立てる」
⇒χ二乗検定を行い、有意な差が見られた組み合わせを「実行群」「満足群」の特徴とした
• 特になし実行
• 自分なりの習慣や手順があり、絶対に変えたくないと感じている満足
本調査結果:
スケジュール妨害経験×スケジュールの型「詰込み型」「バランス型」「予備多め型」
⇒χ二乗検定を行い、有意な差が見られた組み合わせを各スケジュールの型の失敗例とした
• 時間が予想以上に掛かってしまった経験が多い詰込み型
• 時間が予想以上に掛かってしまった経験が多いバランス型
• 特になし予備多め型
立てる習慣がない人が多いためそもそも経験がないの
ではないか
本調査結果:
スケジュール妨害経験×「普段スケジュールを立てる」「普段スケジュールを立てない」
⇒χ二乗検定を行い、有意な差が見られた組み合わせを「立てる群」「立てない群」の失敗例とした
• 急な予定が入ってしまったという妨害経験を何度か経験している立てる
• 思わぬトラブルに遭ってしまったという妨害経験をときどき経験している立てない
予定の妨害と言うより単なる経験の多さでは
ないか
本調査結果:
スケジュール妨害経験×「実行目的で立てる」「満足目的で立てる」
⇒χ二乗検定を行い、有意な差が見られた組み合わせを「実行群」「満足群」の失敗例とした
• 特になし実行
• 時間が予想以上に掛かってしまったという妨害経験を頻繁に経験している満足
本調査結果:
課題の優先順位×スケジュールの型「詰込み型」「バランス型」「予備多め型」
⇒χ二乗検定を行い、有意な差が見られた組み合わせを各スケジュールの型の特徴とした
• 特になし詰込み型
• 特になしバランス型
• 記述テストの暗記は早く終わらせる事ができる課題である予備多め型
予備時間の多さに影響しているのではないか
本調査研究2:大学生のスケジュール立案の詳細
• 目的:研究1の結果をもとに一般的な傾向と異なる特徴を持つ学生について、
・普段スケジュールの立案を行う習慣のない大学生はどのように時間を管理しているか、また立てないことにどのような理由があるのか
・実行阻害特性が高くとも妨害経験が少ない大学生、または実行阻害特性が低くとも妨害経験が多い大学生にはどのような特徴があるか
以上の2点を明らかにするためのインタビュー調査を行うことで、予備調査・研究1で明らかにされなかった大学生のスケジュールの立案に影響する要因を明らかにする
対象:上記の二点に該当する回答者の中で、研究1の質問紙調査において協力を得られた回答者4名(都内にあるA国立大学〔文系〕)
手続き:30分程度のインタビュー調査
本調査●インタビューの対象者の詳細
学生A…スケジュールを立てる習慣がない、実行阻害特性得点中群、妨害経験得点中群
学生B…スケジュールを立てる習慣がない、実行阻害特性得点中群、妨害経験得点高群
学生C…スケジュールを立てる習慣がある、実行阻害特性得点高群、妨害経験得点低群
学生D…スケジュールを立てる習慣がある、実行阻害特性得点低群、妨害経験得点高群
本調査インタビュー内容の詳細:
①普段スケジュールの立案を行う習慣がないと回答した協力者への質問・なぜスケジュールを立てないのか・普段どのように予定や時間を管理しているか・妨害経験への備え
②実行阻害特性得点と妨害経験得点の間に大きな差がある協力者への質問・普段どのようなスケジュールの立て方を行っているか・妨害経験と備え
本調査
結果:
インタビューの結果から、スケジュールの立案に影響すると考えられる要因として3つの要因が新たに上げられた
スケジュールを目に見える形で残すかど
うか
スケジュールの立て方がどの程度定まっ
ているか
スケジュールを立てる習慣はどの程度続
いているか
考察
スケジュールの実行が成功しやすい大学生
• 普段からスケジュールを立てる習慣を身につけている
• 課題を行う時間と予備の時間とを同程度にスケジュールの中に設ける
• 実行することを目的としてスケジュールを立てる
↓
実行阻害特性や妨害経験が少ない
スケジュールの実行が失敗しやすい大学生
• 普段からスケジュールを立てる習慣がない
• 立てたとしても予備の時間を多めにとってしまう
• 立てただけで満足してしまう
↓
実行阻害特性や妨害経験が多い
今後の課題
①新たな要因の考慮
…質問紙調査で設定した項目の他にも「スケジュールを目に見える形で残すかどうか」「スケジュールの立て方がどの程度定まっているか」「スケジュールを立てる習慣はどの程度続いているか」と言った要因を踏まえる必要がある
②普段の大学生活に準拠したスケジュールの立て方かどうか
…スケジュールの型や課題などは架空のものであるため、各回答者の普段の生活に則ったスケジュールの立案を行ってもらい、実行してもらったうえでその立て方や課題の達成度などを調査することでより精細なスケジュールの立案方法を明らかにする必要がある
⇒今回明らかになったスケジュールの立案傾向をもとに立案したスケジュールを実行することで、その正確さを追及する
参考文献(1)1) 大学生の生活と意識に関する調査研究-生活管理能力や生活の規則性と健康意識,自己意識,時間的展望との関連- 都筑学・早川宏子・村井剛・早川みどり・岡田有司(2010)2)学習活動におけるメタ認知能力に対する教育の必要性 片岡紳一郎・中野禎・森耕平・阿曽絵巳・中俣恵美・西井正樹(2012)3)大学生の生活課題を克服するための生活設計 横田明子(2012)4)今日から始める社会人基礎力の育成と評価 経済産業省(2008)5)目標意識尺度の作成 都築学(1993)6)大学生における日常生活スキル尺度の開発 島本好平・石井源信(2006)7)東大で生まれた 人気企業の内定を獲得する究極のエントリーシート事例集今井正彦(2013)8) エッセンシャルズ DN-CASによる 心理アセスメント Naglieri,J.A. 前川久男・中山健・岡崎慎治訳(2010)9) 発達障害のある生徒のプランニング能力を高めるための一考察PASS理論に基づいて 山本享代・武田鉄郎(2013)10)通常学級に在席する発達障害児のプランニング能力を促進するPBI適用の試み新島まり・平井みどり・中山健 (2011)11)発達障害児のための支援システムに関する研究(1)プランニング・注意を高めるプログラムの開発 柿﨑朗 他6名(2011)12)人間関係でちょっと困った人&発達障害のある人のためのサポートレシピ53橋本創一・横田圭司・小島道生・田口禎子(2012)
参考文献(2)13)大学生のADHD特性の特徴と進路決定への影響に関する心理学的研究 篠田直子(2016)14)注意に困難さのある大学生への支援プログラム開発の試み 篠田直子・沢崎達夫・石井正博(2013)15)「片付けられない!」「間に合わない!」がなくなる本 司馬理英子(2010)16)大人の発達障害に気づいて・向き合う完全ガイド 黒澤礼子(2012)17)ASIST学校適応スキルプロフィール 橋本創一・熊谷亮・大伴潔・林安紀子・菅野敦(2014)18)成人ADHDの認知行動療法 実行機能障害の治療のために メアリー・V・ソラント(2015)19)Planning , Attention , Simultaneous , and Successive processes theory (PASS理論) とCognitive Assessment System (CAS)の妥当性について:健常児を対象とした予備的研究 米本伸司(2015)20)大学生における時間管理能力レポート課題への取り組みを通して 三宅幹子・松田文子(2016)21)大学生の時間的展望と社会人基礎力時間的展望のタイプによる検討 奥田雄一郎(2014)22)日常生活スキルと社会的スキルが大学生活に与える影響について 中井寿栄・菅千索(2012)