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1 石心会 川崎幸病院 腎臓内科 2 東北大学大学院医学系研究科 病理病態学講座  3 山口病理組織研究所 Key WordLight chain proximal tubulopathyMGUS腎機能 低下 Light chain proximal tubulopathy による 進行性の腎障害を呈した Monoclonal gammopathy of Undetermined significance(MGUS) の一例 柴 田 真 希 中 島   豊 田 中 詩 織 朝 倉   慶 宇 田   晋 病理コメンテータ 城   謙 輔 山 口   裕 症  例 症 例:76 歳 男性 主 訴:なし/腎機能障害 現病歴:73 歳時,微熱と腰痛で他院受診時 に尿蛋白 1 +,潜血±を指摘され当院を紹介さ れた。血中より IgA- κ型 M 蛋白が,尿中より κ型 BJP が検出されたが,IgGIgM の抑制が なく,他の症状・所見・検査異常がないため, MGUS と診断され経過観察とされた。 しかし Cr 値は 3 年の間に悪化を見せた Cr0.8 1.2mg/dl)ため, 76 歳時に腎生検を 施行した。 既往歴:糖尿病(74 歳),前立腺肥大症,腰 部脊柱管狭窄症 身 体 所 見: 身長 164 ㎝, 体 重 60 ㎏, 血 圧 120/80mmHg,脈拍 60 / 全身骨 X 線写真:特記すべき異常なし。骨融 解像なし。 Cast nephropathy 尿 過剰産生された軽鎖がTamm- Horsfall蛋白と結合し、結晶化 する AKIパターン 多発性骨髄腫に合併 尿 軽鎖が近位尿細管細胞内に再 吸収されライソゾームにとりこま れたあと“消化不良”を起こす CKDパターン、Fanconi症候群 MGUS~多発性骨髄腫に合併 Light Chain Proximal Tubulopathy Heptinstall’s Pathology of the Kidney 6 th Stokes et al. JASN vol 27 2015 図1 検査所見(腎生検時) 血液学 生化学 血液ガス分析 蓄尿検査 WBC 5756 /μl TP 6.9 g/dl pH 7.38 mmol/l 尿蛋白 0.4 g/RBC 437 /μl Alb 4.2 g/dl PCO 2 48.0 mmol/l 尿Cr 1160 mg/Hb 14.2 g/dl BUN 18.2 mg/dl HCO 3 27.0 mmol/l 24hCcr 73 ml/Hct 42 % Cr 1.2 mg/dl 尿糖 0.0 g/Plt 18/μl eGFR 46 ml/ 尿定性 尿K 39 mEq/UA 4.6 mg/dl 尿蛋白 1+ 尿P 589 mg/ 免疫学 Na 144 mEq/l 尿潜血 ± FEK 9 CRP 0.05 mg/dl K 4.0 mEq/l FEP 19 IgG 655 mg/dl Cl 105 mEq/l 尿沈さ 血液IFE IgAκM蛋白 IgA 612 mg/dl Ca 9.3 mg/dl RBC 1-4 /HPF 遊離Lκ 908 mg/L IgM 51 mg/dl P 3.5 mg/dl WBC 1-4 /HPF 遊離Lλ 6.9 mg/L C3 107 mg/dl HbA1c 5.7 硝子円柱 1-4 /WF 遊離Lκλ132 0.26-1.65C4 37 mg/dl 尿中BJP陽性 図2 104 腎炎症例研究 33 巻 2017 年 104

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(1 石心会 川崎幸病院 腎臓内科(2 東北大学大学院医学系研究科 病理病態学講座 (3 山口病理組織研究所

Key Word:Light chain proximal tubulopathy,MGUS,腎機能低下

Light chain proximal tubulopathyによる進行性の腎障害を呈した Monoclonal gammopathy of

Undetermined significance(MGUS) の一例

柴 田 真 希1  中 島   豊1  田 中 詩 織1

朝 倉   慶1  宇 田   晋1

 病理コメンテータ   城   謙 輔2  山 口   裕3

症  例症 例:76歳 男性主 訴:なし/腎機能障害現病歴:73歳時,微熱と腰痛で他院受診時

に尿蛋白1+,潜血±を指摘され当院を紹介された。血中より IgA-κ型M蛋白が,尿中よりκ型BJPが検出されたが,IgG,IgMの抑制がなく,他の症状・所見・検査異常がないため,MGUSと診断され経過観察とされた。

し か しCr値 は3年 の 間 に 悪 化 を 見 せ た(Cr0.8→1.2mg/dl)ため, 76歳時に腎生検を施行した。既往歴:糖尿病(74歳),前立腺肥大症,腰

部脊柱管狭窄症身体所見:身 長164 ㎝, 体 重60 ㎏, 血 圧

120/80mmHg,脈拍60回/分全身骨X線写真:特記すべき異常なし。骨融

解像なし。

Cast nephropathy遠位尿細管の管腔内

過剰産生された軽鎖がTamm-Horsfall蛋白と結合し、結晶化する

AKIパターン

多発性骨髄腫に合併

近位尿細管の細胞質内

軽鎖が近位尿細管細胞内に再吸収されライソゾームにとりこまれたあと“消化不良”を起こす

CKDパターン、Fanconi症候群

MGUS~多発性骨髄腫に合併

Light Chain Proximal Tubulopathy

Heptinstall’s Pathology of the Kidney 6th Stokes et al. JASN vol 27 2015

図1

検査所見(腎生検時) 血液学 生化学 血液ガス分析 蓄尿検査

WBC 5756 /μl TP 6.9 g/dl pH 7.38 mmol/l 尿蛋白 0.4 g/日RBC 437 /μl Alb 4.2 g/dl PCO2 48.0 mmol/l 尿Cr 1160 mg/日Hb 14.2 g/dl BUN 18.2 mg/dl HCO3 27.0 mmol/l 24hCcr 73 ml/分Hct 42 % Cr 1.2 mg/dl 尿糖 0.0 g/日Plt 18万 /μl eGFR 46 ml/分 尿定性 尿K 39 mEq/日

UA 4.6 mg/dl 尿蛋白 1+ 尿P 589 mg/日 免疫学 Na 144 mEq/l 尿潜血 ± FEK 9 %CRP 0.05 mg/dl K 4.0 mEq/l FEP 19 %IgG 655 mg/dl Cl 105 mEq/l 尿沈さ 血液IFE IgAκ型M蛋白

IgA 612 mg/dl Ca 9.3 mg/dl RBC 1-4 /HPF 遊離L鎖κ 908 mg/LIgM 51 mg/dl P 3.5 mg/dl WBC 1-4 /HPF 遊離L鎖λ 6.9 mg/LC3 107 mg/dl HbA1c 5.7 % 硝子円柱 1-4 /WF 遊離L鎖κλ比 132 (0.26-1.65)

C4 37 mg/dl 尿中BJP陽性

図2

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腎炎症例研究 33巻 2017年

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図 5

PAS染色 ×200

図 4

蛍光免疫染色IgG(-) IgA(-) IgM(±) C3(-) C4(-) C1q(-)

PAS染色 ×400 PAM染色 ×400

図 3

MT染色 ×40

図 8

免疫染色(λ鎖)×200免疫染色(κ鎖)×200

図 7

MT染色 ×200

図 6

PAS染色 ×400

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第65回神奈川腎炎研究会

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DFS染色 ×200

図9

図 10

電子顕微鏡写真 Fibrillary inculsions

図 11

30

40

50

60

70

80

2011年2月 2011年9月 2012年4月 2012年10月 2013年5月 2013年11月 2014年6月 2014年12月 2015年7月 2016年1月

MGUSの診断UP1+、U-OB±

Cr0.8

腎生検Cr1.2

eGFR(ml/min/1.73m2)

骨髄穿刺形質細胞7%

Cr1.5

73歳 74歳 75歳 76歳 77歳

図 12

Monoclonal gammopathies(Plasma cell dyscrasias)

MM: multiple myeloma(多発性骨髄腫)M蛋白3g/dl以上 and/or 骨髄中の形質細胞10%以上、臓器障害(高Ca血症、腎病変、貧血、骨病変)あり

Smoldering MM (くすぶり型MM)M蛋白3g/dl以上 and/or 骨髄中の形質細胞10%以上、臓器障害なし

MGUS:monoclonal gammopathy of undetermined significance(意義不明の単クローン性γグロブリン血症)M蛋白3g/dl未満 and 骨髄中の形質細胞10%未満、臓器障害なし

MGRS:monoclonal gammopathy of renal significance(腎障害を伴う単クローン性γグロブリン血症)MGUSの中で腎障害を持つもの

IKMG: International Kidney and Monoclonal Gamopathy Research Group

図 13

MGRS: monoclonal gammopathy of renal significance腎障害を伴う単クローン性γグロブリン血症

糸球体病変Organized deposits

Fibrils: amyloidosis (AL, AH, AHL), Fibrillary GNMicrotubules: Immunotactoid GN, Type1 cryoglobulinemic GN

Non-organized depositsMIDD: LCDD,LHCDD, HCDDPGNMIDC3 glomerulopathy with monoclonal gammmopathy

尿細管病変Proximal tubulopathy with crystals (Light chain Fanconi syndrome)Proximal tubulopathy without crystalsCrystal-storing histiocytosis

Bridoux et al. Kidney International (2015) 87, 698-711

図 14

MGRS: monoclonal gammopathy of renal significance腎障害を伴う単クローン性γグロブリン血症

Stokes et al. J Am Soc Nephrol (2015) 27

病理診断名 N (%)

Amyloidosis (AL, AH, AHL) 451 (41%)

LCCN: Light chain cast nephropathy 297(27%)

MIDD: Monoclonal immunoglobulin deposition disease 209(19%)

LCCN + MIDD 55(5%)

LCPT: Light chain proximal tubulopathy 54(5%)

Total 1078

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図 17

Light Chain Proximal Tubulopathy(Outcome and Treatment)

緩徐にESRDに至りうるが(中央値196か月)、症例数が少なく予後は不明

ESRDへの進展率は8~40%と報告に幅あり

治療方法は確立されていない

MMに合併した場合は、化学療法や末梢血幹細胞移植にて、寛解した例が多数報告されている

MGRSの段階から積極的に化学療法を行うことも考慮すべきかもしれない

LCPTの治療予後Stokes et al. J Am Soc Nephrol (2015) 27

幹細胞移植+化学療法

N=10

化学療法

N=12なしN=8

年齢(歳) 51 68 65MM 6 3 1

MGRS 3 6 3Cr mg/dl(治療前)

2.01 2.48 2.38Cr mg/dl(治療後)

1.43 2.27 3.11

フォロー期間(月)

65 41 59

図 16

Light Chain Proximal Tubulopathy(Diagnosis)

診断は近位尿細管細胞質内に軽鎖を証明する

光顕所見は見逃しやすい

免疫蛍光染色は、凍結標本では陽性率が35%に低下す

るため、パラフィン包埋切片のプロナーゼ処理が必要1)

電子顕微鏡で近位細胞質内に異常なライソゾームや封

入体が見られれば確定できるが、ルーチンでは行われ

ていない

近位細胞質内の封入体。軽鎖染色。プロナーゼ処理後Herlitz et al. Arch Pathol Lab Med 2012

異常なライソソームStokes et al. JASN 2015→LCPTは診断しにくく、見逃されやすい疾患

1) Stokes et al. J Am Soc Nephrol (2015) 27

図 15

Light Chain Proximal Tubulopathy近位尿細管細胞質内に軽鎖からなる封入体が蓄積する

軽鎖は糸球体でろ過され近位尿細管に再吸収され、ライソゾーム内で消化される。ライソゾーム内での“消化不良“により、ライソゾームの異常や近位尿細管機能異常、結晶(Crystals)などの沈着物を形成する

臨床的にはCKDパターンが多く、Fanconi症候群を呈することが多い

圧倒的にκ鎖が多い

MMにも合併しうるがMGUSの段階で診断されることが多い

近位尿細管細胞質内の好酸性物質の蓄積Larsen Modern Pathology Vol24 2011

近位尿細管細胞質内の結晶Bridoux et al. KI Vol87 2015

図 18

まとめLight chain proximal tubulopathyによる進行性の腎障害を呈した

MGRSの一例を経験した

LCPTはM蛋白関連腎障害の中でもかなり頻度が低いが、本症例は結晶ではなく細線維を形成する封入体タイプであり、さらに稀な症例と考えられた

MGUSの中でも尿検査異常や進行性の腎障害を呈する場合はMGRSの可能性を疑い、腎生検の適応である

LCPTは診断が難しく、見逃されやすいため、腎生検組織の注意深い観察が必要である

ESRDに至りうる疾患であるが、治療法は確立されておらず、今後の症例の集積が待たれる

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第65回神奈川腎炎研究会

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討  論 柴田【スライド】M蛋白に関連して結晶が沈着する病気といえば,cast nephropathyですが,こちらが遠位尿細管の管腔内に軽鎖からなる結晶が沈着する疾患に対して,今回のLCPT(light chain proximal tubulopathy)は近位尿細管の細胞質内に結晶が沈着する疾患です。 cast nephropathyがmyelomaにAKIを 起 こ すのとは対照的に,LCPTはCKDや,Fanconi症候群を起こします。またMGUSの段階で発症しやすいことも特徴です。今回発表する症例はLCPTの中でも,結晶を形成するタイプではなく,線維質の沈着物を伴う珍しいタイプでしたので報告します。

【スライド】症例は,76歳の男性です。73歳時に尿検査異常を指摘され精査をしたところ,IgA-κ型M蛋白が検出されました。しかし,IgG,IgMの抑制がなく,ほかの所見もなかったため,骨髄検査を受けずにMGUSと診断され経過観察をされていました。しかし,creati-

nineは3年の間に0.8mg/dLから1.2mg/dLと悪化を見せたため,腎生検を行っております。

【スライド】腎生検時の検査所見を示しています。IgAの増加と,IgGの低下,および遊離κ鎖の著明な増加を認めました。しかし,my-

elomaを示唆するような血算の異常やカルシウム異常は認めませんでした。creatinineは1.2mg/dLで腎障害を示しており,尿蛋白は0.4g/日程度でした。acidosisや腎性糖尿,リン酸尿,尿酸尿などは認めず,Fanconi症候群は示していないと思われました。

【スライド】腎生検所見を示します。所々に尿細管が脱落して,間質は拡大し,線維に置き換えられています。円柱は所々に散見されておりますけれども,cast nephropathyの所見は認めませんでした。

【スライド】糸球体には特に著変を認めず,蛍光免疫染色でも有意な所見は認められませんでした。

【スライド】尿細管はPASで見ると,一見異常には気付きにくいのですが,拡大してみますと,近位尿細管細胞が著明に腫大して,淡明化し,核が基底膜側に圧排されているのが分かります。何らかの沈着物を想像させる像が見られました。

【スライド】遠位尿細管は正常で,近位尿細管でも正常な部分もありました。

【スライド】massonで見ると,より近位尿細管の異常が鮮明になり,近位尿細管細胞質が空胞変性している印象を受けます。

【スライド】当院の凍結切片では,軽鎖染色を行っておりませんでしたので,パラフィンブロックを用いて軽鎖の免疫染色を追加しました。免疫染色ではκ鎖が近位尿細管のみに沈着していることが分かります。遠位尿細管は染まっておらず,またλ染色も陰性でした。

【スライド】DFS染色も追加しましたが,amy-

loidは陰性でした。【スライド】電子顕微鏡では,近位尿細管細胞質内が,色調の薄い物質で充満しているのが分かります。拡大を上げてみますと,沈着物は結晶構造は示しておらず,細線維様構造が見られました。沈着物による近位尿細管細胞障害,間質障害により腎機能低下がもたらされていると思われ,LCPTと診断しました。

【スライド】本症例のMGUSは,臨床診断のみであり,骨髄検査は施行していなかったので,血液内科にお願いをして,骨髄穿刺を施行していただきました。しかし,形質細胞はやはり7%のみで,骨髄上はMGUSの診断でした。

【スライド】MGUSではあるものの,産生されたM蛋白により腎機能低下が惹起されており,進行性であったため化学療法も考慮されましたが,ご高齢であることから経過観察の方針となっています。 さて,今回の症例はMGUSにLCPTを合併した症例でしたが,軽鎖の近位尿細管細胞への蓄積により,腎障害を合併しておりました。このように最近では,良性とされてきたMGUSの

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中にも腎障害を伴って,予後不良となる疾患があることが指摘され,2012年にMGUSの「U」を「R(renal)」に変えたMGRSという言葉がIKMGグループから提唱され,MGUSと明確に分離されるようになりました。

【スライド】MGRSの概念には,骨髄腫に至る前に発症するamyloidosisや,LCDDなどが含まれますが,そのほかにもあらゆるタイプの腎障害を引き起こすとされています。 今回のLCPTもMGUSに合併しやすくMGRS

の範疇に入ります。【スライド】次にその頻度を示しています。コロンビア大学の15年間の腎生検のうち,M蛋白に関連した腎生検1078例を集計したものです。この中でもLCPTはかなり頻度が低く,まれな疾患であることが分かります。

【スライド】さて,LCPTは先ほどからお示ししているように近位尿細管の細胞質内に軽鎖からなる封入体が蓄積する疾患です。 軽鎖は糸球体でろ過され,近位尿細管に再吸収された後,lysosomeで消化されますが,これが何らかの事情で消化不良を起こすことにより,結晶が沈着するといわれています。 封入体はこの教科書に載っているような,結晶の形をとることが多いですが,今回の症例は細線維タイプでした。 文献によりますと,細線維タイプの亜型もまれに報告されており,本症例もそれに合致すると思われます。圧倒的にκ鎖であることが多くlysosome内の酵素に対する抵抗性などが原因として考えられています。

【スライド】診断では,近位尿細管細胞質内に軽鎖を証明し,電顕で封入体を認めれば確定します。しかし,LCPTの光顕所見はPAS陰性のことが多いため見逃しやすく,さらに軽鎖は凍結切片では陽性率が格段に低下することが分かっており,電顕も尿細管を routineで捉えることは少ないです。故にLCPTは診断しにくく見逃されやすい疾患であり,報告されているn

数が極端に低いのも,それらが関係している可

能性があります。【スライド】本症例でも,最初は当科では,尿細管病変を見逃しており,免疫染色と電子顕微鏡所見を追加していただくことで,ようやく診断に至ることができました。 LCPTの予後は症例数が少なく分かっておりませんが,ESRDに至った報告も散見され,進展率は8から40%とされています。治療法はまだ確立されてはいません。骨髄腫に合併している場合は,化学療法や幹細胞移植にて,fanconi

症候群や腎機能が回復したという報告が多いですが,MGUS症例に関しては,化学療法の是非はまだ意見が分かれています。 本症例は高齢でもあり,血液内科の先生が化学療法に積極的ではなかったことから,経過観察となりましたが,世界的には腎予後を考えて,化学療法を行う傾向にあるようです。

【スライド】light chain proximal tubulopathyによる進行性の腎障害を呈したMGRSの一例を経験しました。LCPTはM蛋白関連腎障害の中でも,かなり頻度が低いですが,本症例は結晶ではなく細線維を形成する封入体タイプであり,さらにまれな症例と考えられました。この細線維沈着物の意味や,lysosome,mitochondriaとの関係は,文献を見ても分からないことがとても多かったので,先生方のご意見をお聞きしたく提示させていただきました。よろしくお願いします。座長 ありがとうございました。フロアから何かご質問等はございますでしょうか。城先生,お願いします。城 骨髄の7%の形質細胞ですけれども,本来の正常値は1から2%です。10%以下をMGUS

と呼んでいるのですけれども,やはり5%から10%の形質細胞は注目すべき数値のように思うのです。MGUSであって,ボルテゾミブをやって,症状が良くなったという症例もあるように思います。このボルテゾミブの適用について,先生はどういうふうにお考えですか。柴田 正直いいまして,私の患者さんではなく,

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第65回神奈川腎炎研究会

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患者さまとその辺りはお話ができていないのです。患者様、血液内科の先生、総じて乗り気でないというのが結論です。すみません。城 血液内科の先生でないと,あの薬は使えないのですね。柴田 だと思われます。座長 ほかに何かございますでしょうか。 1つだけ。経過観察をして,その後の腎機能の推移や尿所見等はどうでしょうか。柴田 腎機能低下はまだ進行しております。腎生検をしたときから,さらにまた進行して,今はcreatinineが1.5mg/dLです。座長 1.5mg/dLですか。はい。分かりました。 では,あとないようでしたら,コメンテーターの先生,病理所見の解説をお願いいたします。山口先生,お願いします。山口 後で,城先生が恐らくまとめた話をしてくれると思います。

【 ス ラ イ ド01】light chain proximal tubulopathy

について,去年,城先生と一緒にフランスで,monoclonal gammopathyのKidney internationalの研究会に出て,臨床の方が提示されたように,with crystal depositとwith no-crystal depositとの2種類に分けて,整理していました。crystalで菱形とか,四角とか,結晶構造になっているのですが,non-crystal depositの場合は,細線維状です。

【スライド02】近位尿細管が淡明に膨れ上がっているのです。straight portionまで進展していく例を見たことがあります。convolutedな近位尿細管の segmentに限局している感じです。糸球体はやや虚脱して,間質は問題はないです。

【スライド03】PASで淡明な腫大が特徴であります。臨床の先生がいわれたように,核が圧排されて扁平化している感じです。近位だけに限局して,遠位系にはっきりしたものはないです。

【スライド04】髄質側の straight portionのところにきています。

【スライド05】massonで,こういう感じの淡明です。普通はmitochondria-richで,赤く顆粒状

に出ないといけないです。【スライド06】mitochondriaがはっきりしなくなってしまっているのです。これは straight portionの近くです。mitochondriaがなくなってしまったのか。減っていると思うのです。

【スライド07,08】HEですと,こんな淡明な感じです。

【スライド09】PAMで見ると,secondary lyso-

someだと,PAMの陽性顆粒を示すがはっきりしないです。

【スライド10】同じ感じです。1回見れば,もう忘れないとは思うのです。 軽い場合は,部分的にしか来ない場合で,見逃してしまう場合があります。びまん性に来ていれば,気が付き易いです。

【スライド11】κが優位に出て,遠位系はほぼ(-)です。近位が主体で出ていると思います。【スライド12】λはほぼ(-)です。【スライド13】近位尿細管では,黒いのは,mi-

tochondriaで,その間に何か変な構造物が見られ細線維状の構造になっています。

【スライド14】何か線維状のものです。lyso-

someだと周りに膜がありますけれども,はっきりしません。癒合して大きくなって,細線維状に見えている。

【スライド15】light chain proximal tubulopathy with non-crystal depositになります。

【スライド16】ダガティたちがまとめたものです。40例 がcrystallineで,non-crystallineが6例ということです。多くはκですが,non crystal-

lineはλもある。fanconi症候群は圧倒的にcrys-

tallineが多いです。【スライド17】non crystallineのdepositsで,細線維状です。さっきの線維状のものとは,ちょっと構造が違います。

【スライド18】それに対して,crystalの場合,massonで硝子滴よりも大きく顆粒状に出てきます。これはcast nephropathyもありますが,赤染した顆粒状に出てきて,菱形やいろいろな形態をとってくる。多くはκだとこのタイプ

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が多いのですが,non crystallineもあることで,貴重な例だろうと思います。以上です。座長 ありがとうございました。 それでは城先生,よろしくお願いします。城 【スライド01】この症例の特徴は light chain proximal tubulopathy でありながら,まずファンコーニ症例群を呈していなかったということです。血清学的にκ鎖のmonoclonal gammopathy

があったけれども,骨髄には7%のplasma cell

しかなかった。そして,病理的には進行性の腎障害がある症例です。

【スライド02】1本の組織で,皮質対髄質が6対4ぐらいです。

【スライド03】これを見ますと,糸球体にはほぼ異常がないようですけれども,尿細管に萎縮があって,残った近位尿細管は淡明な胞体を呈しhypertrophicに見えます。

【スライド04】近位尿細管のマーカーはbrush borderですので,brush borderのある近位尿細管が淡明化しております。

【スライド05】しかし,そうでない場所も,淡明化はheterogeneousに見られると思います。

【スライド06】血管系には異常はありません。amyloidなんかのときに,動脈系にも沈着がありますけれども,そういう変化はないようです。

【スライド07】masson染色が,近位尿細管のmitochondriaを赤く染めますので,異常がよく分かる。細空胞化を起こして,しかも尿細管上皮の丈が高くなっている所見だと思います。

【スライド08】一方,遠位系には異常がありません。

【スライド09】動脈は,年齢相応のfibroelastosis

があり,特に動脈硬化以外の異常はないと思います。

【スライド10】これが,髄質の外層の外帯だと思います。近位尿細管のP3 portionが髄質のこの場所に入ってきております。その領域にも泡沫化の所見があるようです。

【スライド11】それより内側になりますと,ほとんどが遠位系と集合管ですので,そこには変

化がないと思います。【スライド12】Masson染色と同じ連続切片を

PAS染色で見ますと,本来 lysosomeが顆粒として出てこなければいけませんけれども,ここではほとんどPAS陽性顆粒はないです。HEもほとんど空胞化そのものです。それから,PAM

染色においても,本来は lysosomeが細顆粒として出なければいけません。これだけ周囲のPAM陽性の細線維が強く染まっているにもかかわらず,近位尿細管の lysosomeにほとんどPAM陽性の顆粒が出ていないのも特徴です。

【スライド13】免疫染色で見ますと,パラフィン切片ですが非常にきれいな染色だと思います。プロナーゼで消化をすると出やすいという演者の報告どおりに,結晶になったときに,どう見てもこれはκ鎖の結晶だと思うのが frozen

の切片で染色されてこないことがあります。パラフィン切片で,プロナーゼ処理をすると,先ほどの rhomboidの結晶構造のところにκ鎖がきれいに出てくることがありますので,これは,恐らく消化をしているのだろうと思います。

【スライド14】これは弱拡ですけれども,κ鎖に restrictionがある,しかも近位尿細管に陽性の所見だと思います。

【スライド15】糸球体は特に異常がありません。【スライド16】全節性硬化が1個。糸球体がやや腫大しておりますけれども,特に異常はありません。尿細管間質においては,先ほどの所見のとおりです。

【スライド17】細空胞化というのを,isometric vacuolizationといっていいのか分かりませんけれども,所見としては isometric vacuolizationに非常に似ております。急性尿細管壊死がそこに加わっております。遠位系には異常がない。monoclonal gammopathyのときに,遠位尿細管にcast nephropathyを合併することがありますけれども,さらにはproximal tubulopathyのときにも遠位尿細管にcast nephropathyを合併したタイプもありますけれども,この症例はcast nephropathyは全くありませんでした。

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第65回神奈川腎炎研究会

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【スライド18】髄質の尿細管には,先ほどの近位尿細管の外帯を除いては異常がなかったと思います。

【スライド19】糸球体には特に異常がない。【スライド20】電顕もほぼノーマルです。【スライド21】尿細管では,先ほどの空胞化の部分が,全てmitochondriaです。brush borderがあって,この尿細管は近位尿細管ですけれども,先ほどの細空胞化のところは,こういった光顕の白い領域に一致する所見です。

【スライド22】一方,遠位系には特にこういった変化はないです。

【スライド23】強拡大像ですけれども,これは,みんなmitochondriaです。 では,lysosomeがどこにあるのか。lysosome

はmembrane boundですけれども,これを見ます と, 特 に lysosomeのmembraneは こ こ に はないのです。しかし,ほかに lysosomeを示すorganellaはないので,この領域は lysosomeも含む領域だと思います。 D’Agatiの 講 演 を 聞 く と, や は り lysosomal

storage diseasesの範囲でこの疾患群を表現してい ま す。crystalloidも,non crystalloidも,lyso-

somal storage diseasesとしてまとめて表現しております。これらを lysosomal storage diseases

と一応考えていると思うのですけれども,lyso-

someという証拠はここにはないと思います。 しかし,典型的な lysosomeがないということは,一部が lysosomeである可能性もあるということです。 当然,この沈着物は,細線維構造がありますので,まずamyloidを疑わなければいけない。amyloid染色はやっておりますが,陰性だった。免疫染色においては糸球体には異常がない。 尿細管上皮には,少なくとも重鎖の沈着性はなかった。これは蛍光染色です。免疫染色では,κ軽鎖だけの沈着であった。

【スライド24】糸球体に関しては,ほぼ正常です。

【スライド25】まとめです。血清中には IgA-κ

の単クローン性γグロブリン血症があり,尿中には IgAがはずれてκ鎖だけのBence Jones proteinが見られていた。 それから,免疫染色でκに restrictionを示す近位尿細管上皮への沈着があったということで,light chain proximal tubulopathyは間違いないと思います。臨床的にはFanconi症候群が見られなかった。どうして結晶構造でなく線維構造かということが問題として残ります。

【スライド26】 臨床的にはFanconi症候群が陰性であって,尿中にはκ型 Bence Jones protein

があり,骨髄ではMGUSを示し,血清中ではIgA-κのmonoclonal gammopathy,腎組織ではκ型の light chain proximal tubulopathyということでまとめられると思います。 文献的には,これにそっくりなものが出てまいりました,イギリスのTerence Cookからの論文で,これだけの論文です。原因はただ分からないと4行書いてあるだけです。もうちょっと勉強して論文を出してもらうといいのですけれども,文献欄にも大した論文を引いておりません。ただ,症例はこれと全くそっくりです。

【スライド27】この論文は,Oxford University Pressか ら 出 て い る『CKJ(Clinical Kidney Journal)』という雑誌に掲載されています。

【スライド28】これが,先ほどのMichael B.Stokes

の論文です。40例の中で,圧倒的にcrystallin

が多くて,non crystallinが6例でした。frozen sectionでは,非常に検出率が少ないですけれども,pronase digestionをやったパラフィン切片で検出率が上がるということが書いております。 κ型がほとんどなので,κ・λとcrystallin,non crystallinの関連性は,統計的にほとんど処理ができないので,κ型の中で,crystallinとnon crystallinがあるという捉え方でいいと思います。

【スライド29】Fanconi症候群の有無を見ますと,やはりnon crystallinの症例ではFanconi症候群は出てこない,本症例のようです。crystallinで

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あってFanconiの発生率が大体43%という値が出ております。 症例報告は当然意味があると思いますが,先ほどのイギリスの論文を超して,何か1つ付加価値を加えて論文化されるといいと思います。僕もどういう付加価値を付けて,論文化をしたらいいのか,よく分かりません。以上です。座長 ありがとうございました。では,フロアの先生方,何かご意見等はございますでしょうか。田中 横須賀共済病院の腎臓内科の田中といいます。 血液内科の先生で,MGUSの患者さんの経過を見ているというパターンが多いのですが,今回はcreatinineが上がったということで,たぶん生検になったと思います。creatinineが上がっていないときの3年前の尿蛋白1(+)ぐらいのときでも,もし生検をしていたら,このような病変を検出できる可能性はあるのかのご意見をお願いいたします。城 この症例も,おっしゃるように,Fanconi

症候群がなくて,腎機能が悪いということで,生検をしてきているわけです。この症例はどんどん腎機能が悪くなってきた。質問は,どこで腎生検をするか。早く腎生検をしたときに診断がつくかどうかということかと思います。 monoclonal gammopathyがあれば,当然,腎臓に何らかの沈着があることを予想してbiopsy

をするということですから,monoclonal gam-

mopathy,あるいはBence Jones proteinが出た時点で,やはりbiopsyをすれば,同じような所見が出ることが予想されると思います。田中 ありがとうございます。座長 はい。どうぞ。柴田 ありがとうございました。では,MGUS

の人は全員,腎生検をしたほうがいいということですか。城 monoclonal gammopathyがあり腎機能が低下すればですね。柴田 はい。

城 MGUSで は な く て,MGRS(monoclonal gammopathy of renal significance)があったときに,腎生検をするということで,それでMGRS

という概念が出てきたのではないかと思うのです。当然,MGUSのときには,血液内科はmonoclonal gammopathyをどう扱うか。MGUS

をどう治療をするかという問題が課せられていると思うのです。 去年のフランスの学会で,隣にちょうどフランスの血液内科の先生が座って,よくしゃべる先生だったのですが,このような患者を血液内科がひきうけるかどうかについて,嫌がる先生もいるのではないかといったら,まさに「そうだ」と。血液疾患の患者さんとは,コンタクトが非常に密となり,1人抱えると,相当な負担になるので,優先順位からいうと,MGUSがあるからといって,そのような症例まで血液内科の先生が抱え込むと,仕事上パンクしてしまう。その先生のキャパシティーによるのだという返事をしていました。柴田 ありがとうございます。 あと,今回の症例は,with no crystalsというか,without crystalsなのですけれども,文献を当たっていくと,まだcrystalの定義が,文献ごとにまちまちです。今回みたいな症例の画像を出している文献も幾つかあったのですけれども,これがno crystalsに入っている文献もあれば,crystalsとして出している文献もあって,それで,どういうふうに表現をしようか悩んでいるのです。やはりcrystalというからには結晶構造があるべきですか?城 ほとんどが rhomboidですね。柴田 ええ。城 僕は,non rhomboidで,しかもnon fibril-

laryな中間型の結晶というのが,どういうものかイメージができないけれども,論文にあるのですか,そういうのが。柴田 はい。総説的な論文にたまにポンと同じような写真があるのです。城 Stokesの論文の写真は,どっちもcrystallin

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でしたよね。柴田 『JASN』のほうは,そうでした。そういうふうに書いてありました。全く別のパターンもあって,やはりcrystalは一辺が直線でなければいけないという定義をつくっていて,今回の場合は,そうではないので,no crystalsに分類される。そういうこともあって,まだ定義が安定しないので,どうすればいいのか悩んでいるのです。城 crystalというのは,日本でいう結晶とほぼ同じように捉えていいと思います。柴田 分かりました。座長 そのほかはございますでしょうか。お願いします。上野 虎の門病院の上野と申します。大変貴重な症例の発表をありがとうございました。 なぜ同じMGUSなのに,crystalになる人とcrystalにならない人が出てくるのか,これについては基礎系の論文で,出てくるM蛋白の種類によって,それが変わってくることを検討されていた論文がありました。その論文の中では近位尿細管が持っている蛋白を溶かすprotease

という酵素はおそらく一律だと思うのですが,それに対する反応性が,蛋白の構造によって異なり,溶けやすいもの,溶けにくいものがあって,その結果,crystalになったり,solidなものになったり,先生がお示しになったようなfibrillaryな構造になるのではないかというふうに説明されていました。 私どもも1例,MGUSの症例で,fanconi症候群になった患者さんがいたのです。やはり,crystalではなく,ラグビーボールのような,しかし solidではない,非典型的な封入物がありました。免疫染色で見ると,κが取り込まれているように見えるのですが,κに immunogold

をくっつけて,免疫電顕をすると,やはりそのよく分からない不正な形をした inclusionにκが取り込まれているところを確認できました。恐らく,M蛋白由来の蛋白の凝集体がproteaseに対する溶解性の違いで,ああいういろいろな形

を生み出してくるのではないかと思いました。 質問ではなくコメントでした。座長 ありがとうございました。そのほかは何かございますでしょうか。 ないようでしたら,これにて終わりにしたいと思います。ありがとうございました。司会 ありがとうございました。

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