iot 関連テストベッドの調査報告 · 推進には、iot...

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IoT 関連テストベッドの調査報告 (地独)神奈川県立産業技術総合研究所 情報・生産技術部 ○奥田 誠、長尾 達明 1. はじめに 近年、 IoT Industrie 4.0 が注目されており、サービ スやものづくり等のライフサイクル全体において,ICT 活用による最適化や高度化が期待されている。これらの 推進には、IoT 関連技術の試行・評価・試験などが実施 可能なテストベッドの利用が有効である。 本稿では、IoT 関連のテストベッドの調査結果を報告 し、当研究所の IoT テストベッドについて紹介する。 2. IoT 関連の団体 2013 4 月にドイツの Industrie4.0 の発表を皮切り に、産業・製造業分野における IoT の関連技術を推進す る団体が設立している 1) 。米国では 2014 3 月に IIC を設立、日本では 2015 5 月に RRI 、同年 6 月に IVI 同年 10 月に IoT 推進コンソーシアムを設立している。 また、情報通信分野が専門の国立研究開発法人情報通信 研究機構 (NICT) IoT 関連の研究開発が行われている。 3. IoT 関連のテストベッド 前章で示した IoT 関連の団体において、テストベッド について調査した結果について示す。 IIC は、現在 28 のテストベッドを構築・運用している。 この内、国内企業が関連しているテストベッドを表 1 示す。IoT 推進コンソーシアムは、スマート IoT 推進フ ォーラムのテストベッド分科会にて、表 2 に示すテスト ベッドを運用している。また、 IoT 推進ラボの地方版 IoT 推進ラボ 2) によるテストベッドを表 3 に示す。 NICT は、 4 に示す 4 種類の検証環境を統合した、総合テストベ ッドを構築・運用している。また、NICT の助成によっ て構築された国内企業のテストベッドを表 5 に示す。 当研究所でも、IoT テストベッドを構築・運用してい 3) 。図 1 のように、評価用搬送システム、制御装置、 社内サーバから構成され、 Web 技術を用いてデータの可 視化を行っている。本 IoT テストベッドの目的は、IoT で注目されている通信規格のMQTT OPC UA の動作 検証や試作開発の技術支援である。 4. おわりに IoT 関連の団体において、その団体が保有する技術に 対して、テストベッドが構築・運用されている。テスト ベッドの利用にあたっては、その目的が新技術の研究開 発や実証実験などそれぞれ異なるため、適した目的のテ ストベッドを選定する必要がある。 1 当研究所の IoT テストベッドの概要 1 国内企業が関連している IIC テストベッド 名称 国内企業 目的 Deep learning facility Testbed 東芝 診断・保守・修復の最適化ア ルゴリズムの開発 FA PaaS Testbed 日立製作所 三菱電機 FA IT を統合する IoT プラ ットフォームの構築 ユースケースの検証 FOVI Testbed 富士通 クラウド上での工場の可視化 による、改善活動の変革やコ ストダウンの効果の評価 Smart Printing Factory Testbed 富士フィルム 富士通 東芝 印刷に関わる生産性・信頼性・ 柔軟性を低コストで向上させ る印刷ワークフローの構築 Time Sensitive Networking (TSN) Testbed ルネサス TSN (Ethernet に時間同期を 実現する拡張機能) 接続性の検 証(米国とドイツに常設) 2 IoT 推進コンソーシアム関連のテストベッド 名称 目的 内容 キャラバン テストベッド IoT などに関する技術実証・ 社会実証の質・量の充実化 IoT 機器の貸出 IoT 実証のサポート LPWA テストベッド LPWA (SigFox, LoRa, Wi-SUN) 通信の利用促進 LPWA の実験環境の 提供 3 地方版 IoT 推進ラボのテストベッド 名称 自治体 内容 模擬スマート 工場 茨城県 加工・組立・検査工程からなる生産ライ ンの IoT 活用・導入の実証環境の提供 IoT 実証 テストベッド 徳島県 美波町 920MHz 通信網を利用した、新たな IoT 技術開発用プラットフォームの提供 4 NICT の総合テストベッドの検証環境 検証環境名 特徴・用途 JGN 基礎研究開発、研究開発成果の検証・実用化 StarBED4 新たなデバイス・新たなプロトコルへの柔軟な対応 IoT 環境を取り巻く空間エミュレーション RISE JGN 上に構築された「広域 SDN テストベッド」 OpenFlow(ネットワーク制御技術)を活用 JOSE 計算リソース、仮想ネットワーク、センサデータ管理 ソフトウェアなどの利用 5 国内企業のテストベッド 名称 企業 内容 YANMAR IoT Smart Greenhouse ヤンマー 農的空間における環境センシン グ技術の実証実験 大規模 IoT システム 向けテストベッド 富士通 エッジコンピューティング制御 IoT データ通信の全体最適化 参考文献 1) 新井ら、世界のインダストリアル IoT 最新動向 2016 (sample).pdf, https://r.impressrd.jp/iil/industry2016 2) 地方版 IoT 推進ラボ, https://local-iot-lab.ipa.go.jp/ 3) H29 神奈川県ものづくり技術交流会 2AM-A01 評価用搬送システム 制御装置 センサデータ 制御情報 社内サーバ PC データ 可視化 3AME-1 Innovation Hub 2018 in Ebina 予稿 IoTフォーラム 1

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Page 1: IoT 関連テストベッドの調査報告 · 推進には、IoT 関連技術の試行・評価・試験などが実施 可能なテストベッドの利用が有効である。

IoT関連テストベッドの調査報告

(地独)神奈川県立産業技術総合研究所 情報・生産技術部 ○奥田 誠、長尾 達明

1. はじめに

近年、IoTや Industrie 4.0が注目されており、サービ

スやものづくり等のライフサイクル全体において,ICT

活用による最適化や高度化が期待されている。これらの

推進には、IoT 関連技術の試行・評価・試験などが実施

可能なテストベッドの利用が有効である。

本稿では、IoT 関連のテストベッドの調査結果を報告

し、当研究所の IoTテストベッドについて紹介する。

2. IoT関連の団体

2013年 4月にドイツの Industrie4.0の発表を皮切り

に、産業・製造業分野における IoTの関連技術を推進す

る団体が設立している 1)。米国では 2014 年 3 月に IIC

を設立、日本では2015年 5月にRRI、同年 6月に IVI、

同年 10月に IoT推進コンソーシアムを設立している。

また、情報通信分野が専門の国立研究開発法人情報通信

研究機構 (NICT)で IoT関連の研究開発が行われている。

3. IoT関連のテストベッド

前章で示した IoT関連の団体において、テストベッド

について調査した結果について示す。

IICは、現在 28のテストベッドを構築・運用している。

この内、国内企業が関連しているテストベッドを表1に

示す。IoT推進コンソーシアムは、スマート IoT推進フ

ォーラムのテストベッド分科会にて、表 2に示すテスト

ベッドを運用している。また、IoT推進ラボの地方版 IoT

推進ラボ2)によるテストベッドを表3に示す。NICTは、

表 4に示す 4種類の検証環境を統合した、総合テストベ

ッドを構築・運用している。また、NICT の助成によっ

て構築された国内企業のテストベッドを表5に示す。

当研究所でも、IoT テストベッドを構築・運用してい

る 3)。図 1のように、評価用搬送システム、制御装置、

社内サーバから構成され、Web技術を用いてデータの可

視化を行っている。本 IoT テストベッドの目的は、IoT

で注目されている通信規格のMQTTやOPC UAの動作

検証や試作開発の技術支援である。

4. おわりに

IoT 関連の団体において、その団体が保有する技術に

対して、テストベッドが構築・運用されている。テスト

ベッドの利用にあたっては、その目的が新技術の研究開

発や実証実験などそれぞれ異なるため、適した目的のテ

ストベッドを選定する必要がある。

図 1 当研究所の IoTテストベッドの概要

表 1 国内企業が関連している IICテストベッド

名称 国内企業 目的

Deep learning

facility Testbed

東芝 診断・保守・修復の最適化ア

ルゴリズムの開発

FA PaaS Testbed 日立製作所

三菱電機

FAと ITを統合する IoTプラ

ットフォームの構築

ユースケースの検証

FOVI Testbed 富士通 クラウド上での工場の可視化

による、改善活動の変革やコ

ストダウンの効果の評価

Smart Printing

Factory Testbed

富士フィルム

富士通

東芝

印刷に関わる生産性・信頼性・

柔軟性を低コストで向上させ

る印刷ワークフローの構築

Time Sensitive

Networking

(TSN) Testbed

ルネサス TSN (Ethernet に時間同期を

実現する拡張機能)接続性の検

証(米国とドイツに常設)

表 2 IoT推進コンソーシアム関連のテストベッド

名称 目的 内容

キャラバン

テストベッド

IoTなどに関する技術実証・

社会実証の質・量の充実化

IoT機器の貸出

IoT実証のサポート

LPWA

テストベッド

LPWA (SigFox, LoRa,

Wi-SUN)通信の利用促進

LPWAの実験環境の

提供

表 3 地方版 IoT推進ラボのテストベッド

名称 自治体 内容

模擬スマート

工場

茨城県 加工・組立・検査工程からなる生産ライ

ンの IoT活用・導入の実証環境の提供

IoT実証

テストベッド

徳島県

美波町

920MHz通信網を利用した、新たな IoT

技術開発用プラットフォームの提供

表 4 NICTの総合テストベッドの検証環境

検証環境名 特徴・用途

JGN 基礎研究開発、研究開発成果の検証・実用化

StarBED4 新たなデバイス・新たなプロトコルへの柔軟な対応

IoT環境を取り巻く空間エミュレーション

RISE JGN上に構築された「広域SDNテストベッド」

OpenFlow(ネットワーク制御技術)を活用

JOSE 計算リソース、仮想ネットワーク、センサデータ管理

ソフトウェアなどの利用

表 5 国内企業のテストベッド

名称 企業 内容

YANMAR IoT

Smart Greenhouse

ヤンマー 農的空間における環境センシン

グ技術の実証実験

大規模 IoTシステム

向けテストベッド

富士通 エッジコンピューティング制御

IoTデータ通信の全体最適化

参考文献

1) 新井ら、世界のインダストリアル IoT最新動向 2016

(sample).pdf, https://r.impressrd.jp/iil/industry2016

2) 地方版 IoT推進ラボ, https://local-iot-lab.ipa.go.jp/

3) H29神奈川県ものづくり技術交流会 2AM-A01

評価用搬送システム

制御装置

センサデータ 制御情報

社内サーバ PC

データ 可視化

3AME-1Innovation Hub 2018 in Ebina 予稿

IoTフォーラム

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Page 2: IoT 関連テストベッドの調査報告 · 推進には、IoT 関連技術の試行・評価・試験などが実施 可能なテストベッドの利用が有効である。

既存設備の IoT 対応取組み事例の紹介

(地独)神奈川県立産業技術総合研究所 情報・生産技術部 〇水矢 亨,長尾達明,奥田 誠 中島岳彦,佐々知栄子

1. はじめに IoT(モノのインターネット)やインダストリー 4.0(第

四次産業革命)では,サービスやものづくり等のライフ

サイクル全体において ICT(情報通信技術)活用による

最適化や高度化が期待されている(1).最近では,様々な

設備・機器からデータを収集し、データに基づく分析や

判断を人工知能(AI)で行うことに関心が集まっている. しかし、各種の設備・機器において,通信インターフ

ェースの有無、利用可能な通信手法などの条件は、それ

ぞれに異なることが多い.そのため、設備・機器からの

データ取得は必ずしも容易ではなく、IoT 導入のハード

ルの一つとなっている.そこで本稿では,設備・機器の

IoT 対応に必要な条件を明らかにし,実際に既存設備を

対象に IoT対応を行った事例を紹介する.

2. 設備・機器の IoT対応に必要な条件 IoTでは、収集したデータを IPネットワークへ送信す

る.そのため,データの供給源となる設備・機器を IPネットワークに接続するための通信インターフェースや

ゲートウェイ(以下,GWと略記する)が不可欠である.

IoT 導入の際には,まず設備・機器からのデータ取得手

段を確認し,IPネットワークへの接続方法を決める必要

がある.設備・機器からのデータ取得手段については,

IP 通信的手段,非 IP 通信的手段,非通信的手段の3通

りに分類することができる.各データ取得手段に対する

IoT 対応に必要な条件については,表1のようにまとめ

ることができる.

3. 既存設備の IoT対応事例

所内にある既存の試験設備を IoT に対応させた事例を

紹介する.図1の家具耐久試験機は昭和 49年製であり、

通信インターフェースはない.制御盤(図1左側)内部

にはアクセス可能で,制御用の電気信号は取得できる.

よって,本試験機は表 1 の「非通信」に該当し,IoT 対

応にはGWが必要である.そのGWにはRaspberry Pi(2)

を用いた.また,本試験機の IoT対応は,試験の進行状

況を Web ブラウザ等で遠隔監視することが動機であっ

たため, IP 通信のプロトコルにはHTTP を選択した.

表1.設備・機器からのデータ取得とIoT対応の条件

データ取得手段 IoT対応に必要な条件

IP 通信 ・IP 通信インターフェース

・通信プロトコルの開示

非 IP 通信 (シリアル通信

やUSB など)

・非 IP 通信インターフェース ・通信プロトコルの開示 ・(IP 通信との)ゲートウェイ

非通信 (電圧や光など

の信号を取得)

・信号を扱うセンサ ・(IP 通信との)ゲートウェイ

図1.家具耐久試験機

図2.制御盤背面へ付加したGW(Raspberry Pi)

図3.監視画面

GWのRaspberry Piは制御盤背面に設置し(図2),負荷

回数表示用のカウンタへの入力となっている電気信号を

リレーにより電圧変換した上でGPIOに入力した.さら

に,Restful APIを使用したWebサーバ(HTTPサーバ)の実装を行い,Webブラウザによる遠隔監視等が可能な

システムを構築した.監視用画面(図3)は HTML5 等

を用いて所内のデザイン担当職員が作成した.なお画面

デザインの過程で要望された「遠隔での試験機の状況確

認」に応えて,USBカメラで撮影した映像の閲覧も可能

となっている.このような追加の要望に対応できたこと

は.ソフトウェアの追加・変更が可能なLinuxボードコ

ンピュータRaspberry PiをGWに用いた利点である.

【参考文献】 (1) 経済産業省,2015年版ものづくり白書,2015.

(2) Raspberry Pi Foundation Website, https://www.raspberrypi.org/

3AME-2Innovation Hub 2018 in Ebina 予稿

IoTフォーラム

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デジタルを活用した次世代ものづくり ICTと富士通の取り組み

~ カイゼンと ICTの融合による新たな価値の創造 ~

株式会社富士通マーケティング 商品戦略推進本部ソリューションビジネス推進統括部 須藤浩次

1.はじめに

IoTは、「モノのインターネット、モノのデジタル化」

ということですが、人によって定義が様々です。富士通

は、ウェアラブル、ロボット、クラウド、AI、ビッグデ

ータなどが関連し「つながることによる価値の創造、創

出」だと考えています。そして、新商品開発、サービス

開発や事業の構造変革、効率化、また、少子高齢化に伴

う、中高年と若年の労働者比率の変化など、社会的課題

に対するイノベーション・インパクトがあると思ってい

ます。

また、①国内の IoT市場は今後ますます拡大、②これ

まで製造(組立、プロセス)業が先行しており、今後も

牽引していく傾向である、③今後は製造以外のあらゆる

分野においても拡大していくと予測されており、業種毎

に見てみると、産業においては、①低コスト、短納期対

応、②製造設備などの、稼働状況の把握・最適化、故障/

予兆の検知がトレンド・テーマになっております。

2.ものづくり IoTの狙いと活用

製品ライフサイクルの短命化、地産池消のビジネスモ

デルが定着、コモディティ化、モジュール化による「も

のづくり」という環境変化の中、グローバル競争力強化

するための「新日本流ものづくり」の実現を狙った IoT

活用が求められています。

IoTのポイントは、いかに情報を取り扱うか?です。

その為に、可視化することが重要となります。そして、

ビッグデータ化した情報を分析・評価して、更に、AI

を活用し、予防・予兆を実現することで、イノベーショ

ンを図ります。

3.富士通グループの取り組み

富士通のものづくりにおけるIoT活用のポイントは、

「生産準備」と「制御層」に重点をおいて取り組んでお

ります。「制御層」では、工程可視化やロボットを活用し

たローコスト生産、そして、「生産準備」では、ICTを活

用した デジタルものづくり による、「ものを作らないも

のづくり」に取り組んでおります。

本講演では、IoT 化の分析と、今後の方向性について

の富士通の考え方をご提示するとともに、富士通で取り

組んでいるデジタルを活用した次世代ものづくりを富士

通の工場で実践している事例を交えながらご紹介させて

いただきます。

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IoTフォーラム

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