を用いた自由形状変化 - kashi.info.waseda.ac.jp ·...

40
いた モデリング 大学

Upload: others

Post on 24-Feb-2020

4 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: を用いた自由形状変化 - kashi.info.waseda.ac.jp · 準備として水滴の形状を形成している最大の特徴である表面張力について 述べ, さらに水滴をモデル化するために用いた粒子系モデリングに使用したメタボール

平成 11年度

卒業論文

Particle Systemを用いた自由形状変化を持つ水滴のモデリング

A Modeling Method of the Water Drop

having Free Form Changes with Particle System

平成 12年 2月 4日

指導教授: 柏木 雅英 助教授

早稲田大学理工学部情報学科

G96P129-1 吉田 直史

Page 2: を用いた自由形状変化 - kashi.info.waseda.ac.jp · 準備として水滴の形状を形成している最大の特徴である表面張力について 述べ, さらに水滴をモデル化するために用いた粒子系モデリングに使用したメタボール

目 次

1 序論 1

1.1 概要 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2

1.2 本論文の目的 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3

1.3 本論文の構成 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3

2 準備 5

2.1 はじめに . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6

2.2 水の表面張力 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6

2.3 粒子系 (particle system) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7

2.4 メタボール . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7

2.5 レイ �トレーシング法 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9

3 粒子の行動モデル 12

3.1 はじめに . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 13

3.2 粒子の行動モデル . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 13

3.3 相互作用力 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 14

3.3.1 知覚範囲 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 14

i

Page 3: を用いた自由形状変化 - kashi.info.waseda.ac.jp · 準備として水滴の形状を形成している最大の特徴である表面張力について 述べ, さらに水滴をモデル化するために用いた粒子系モデリングに使用したメタボール

3.3.2 相互作用力 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 14

3.4 外力による影響 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16

3.4.1 重力による影響 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16

3.4.2 その他の外力による影響 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 17

4 粒子のモデリングおよびレンダリング 19

4.1 はじめに . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 20

4.2 モデリング . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 20

4.3 レンダリング . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 20

5 シミュレーション 22

5.1 はじめに . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 23

5.2 プログラムの構成 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 23

5.3 画像例 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 25

5.4 評価 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 25

6 結論 30

謝 辞 33

参考文献 35

ii

Page 4: を用いた自由形状変化 - kashi.info.waseda.ac.jp · 準備として水滴の形状を形成している最大の特徴である表面張力について 述べ, さらに水滴をモデル化するために用いた粒子系モデリングに使用したメタボール

図 目 次

2.1 水の表面張力 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8

2.2 水滴の付着 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8

2.3 メタボールの濃度分布 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9

2.4 メタボールの変形 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 10

2.5 レイトレーシング法 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11

3.1 粒子の知覚範囲 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15

3.2 粒子間の相互作用 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16

3.3 相互作用力 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 17

3.4 水滴粒子が壁から受ける外力 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 18

5.1 アルゴリズムの流れ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 24

5.2 時間の経過における天井から落下する水滴の画像例 (粒子) . . . . . . . . . 26

5.3 時間の経過における天井から落下する水滴の画像例 (粒子) . . . . . . . . . 27

5.4 時間の経過における天井から落下する水滴の画像例 (メタボール) . . . . . . 28

iii

Page 5: を用いた自由形状変化 - kashi.info.waseda.ac.jp · 準備として水滴の形状を形成している最大の特徴である表面張力について 述べ, さらに水滴をモデル化するために用いた粒子系モデリングに使用したメタボール

第 1 章

序論

1

Page 6: を用いた自由形状変化 - kashi.info.waseda.ac.jp · 準備として水滴の形状を形成している最大の特徴である表面張力について 述べ, さらに水滴をモデル化するために用いた粒子系モデリングに使用したメタボール

1.1 概要

人間が見ることの困難な,あるいは見ることのできない情景を可視化する方法としてコン

ピュータグラフィックス (Computer Graphics,以下CG)がある.一般にCG画像の作成には

大きな計算コストを必要とするため,一昔前のコンピュータでは CG画像を作成することは

困難であった.しかし ,近年のコンピュータのハードウェアの進歩により,CGはその技術,用

途などにおいて様々に発展してきた.そのような流れの中で CGの一大テーマとされている

のがフォトリアリスティック �ビジュアリゼーション (Photorealistic Visualization)である.

フォトリアリスティック �ビジュアリゼーションとは,あたかも写真撮影をしたかのような

画像を CGによって作成するというものがある.このフォトリアリスティック �ビジュアリ

ゼーションを実現する一分野として,自然現象の表現があげられる.自然現象の表現につい

てはその用途の範囲も広く,また対象となる自然現象によってはサイエンティフィック �ビ

ジュアリゼーション (Scienti�c Visualization)にも利用できるので,その研究は現在も活発

に行われている.例えば雲の表現や炎の表現といったものである.本論文では,その自然現象

の中の水滴の表現手法を提案する.

CGで自然現象を表現する場合,その物理法則に沿った完全なシミュレーションを行うこ

とによって最も良好な画像を生成することができ,自然現象の対象によってはサイエンティ

フィック �ビジュアリゼーションへの応用も可能となる.しかしその反面,一般に画像を作

成するのに要する計算コストが大きくなる場合が多い.例えば ,本論文で扱う水滴を表現す

る場合,完全なシミュレーションを行おうとすれば,水滴に影響を与えるあらゆる現象を考

慮しなくてはならず,多くの計算コストが必要になる.そこで自然現象を表現するには完全

なシミュレーションを行うよりも,その現象の大きな特徴のみから計算コストをあまり必要

2

Page 7: を用いた自由形状変化 - kashi.info.waseda.ac.jp · 準備として水滴の形状を形成している最大の特徴である表面張力について 述べ, さらに水滴をモデル化するために用いた粒子系モデリングに使用したメタボール

としない簡易的なモデルを構築し ,それによって得られた結果が実際の現象に近い挙動をと

るような方法をとることが多い.

そこで本論文においても水滴の形状,およびその行動を決める最も大きな特徴のみに着目

した簡易的なモデルを用いることで計算コストを抑え,高速に画像を生成する手法を提案

する.

1.2 本論文の目的

今日までに,水流や煙の流れなどを,粒子モデルの特徴である動力学によるシミュレーショ

ンを取り入れることで可視化を行うといった研究が報告されている [1],[2].

また,粘土のような形状の定まらない自由形状物体に対して,粒子モデルのもう一つの特

徴である自由形状変化を用いた CGの研究がなされてきた [3].

本論文では,これらの粒子モデルの特徴である動力学のシミュレーション,および自由形

状変化を同時に活かして,水滴の自己相互作用によって起こる形状,および重力や他の物体

から受ける外力による動力学的な挙動をモデル化し ,可視化することを目的とする.

1.3 本論文の構成

本節では,本論文の構成を示す.

第 2章では,準備として,水滴の形状を形成している最大の特徴である表面張力について

述べ,さらに水滴をモデル化するために用いた粒子系,モデリングに使用したメタボール,お

よびレンダリングに用いたレイ �トレーシング法について述べる.

第 3章では,水滴の形状、挙動などの現象を表すのに用いる粒子ベースの行動モデルにつ

3

Page 8: を用いた自由形状変化 - kashi.info.waseda.ac.jp · 準備として水滴の形状を形成している最大の特徴である表面張力について 述べ, さらに水滴をモデル化するために用いた粒子系モデリングに使用したメタボール

いて述べる.

第 4章では,水滴の粒子群からその表面の形状を定義するモデリング,およびレンダリン

グの手法について述べる.

第 5章では,第 3; 4章で提案する手法によるシミュレーション結果を示し,その評価,考察

を行う.

第 6章で,本手法の特徴および問題点について述べる.

4

Page 9: を用いた自由形状変化 - kashi.info.waseda.ac.jp · 準備として水滴の形状を形成している最大の特徴である表面張力について 述べ, さらに水滴をモデル化するために用いた粒子系モデリングに使用したメタボール

第 2 章

準備

5

Page 10: を用いた自由形状変化 - kashi.info.waseda.ac.jp · 準備として水滴の形状を形成している最大の特徴である表面張力について 述べ, さらに水滴をモデル化するために用いた粒子系モデリングに使用したメタボール

2.1 はじめに

本章では,準備として,まず,水滴の形状に大きな影響を与えている表面張力について述

べる.次に,水滴の挙動をモデル化するために用いた粒子系 (particle system)について述べ

る.さらに,本論文で使用しているメタボール,およびレンダリングに使用しているレイ �ト

レーシング法について述べる.

2.2 水の表面張力

小さい雨のしずくや蓮の葉におく小さい水滴は,ほぼ完全な球形をしている.この理由は,

水の表面と内部の水分子の有様を考えるとよく理解できる.図 2.1で,いま水面にある分子

Aは前後,左右と下の分子から引力を受けているが,気体の部分には分子が極めて少ないの

で,上から引かれることがほとんどなく内部に引きよせられる.そのため,分子を表面に並べ

るためには中から引かれている力に対して,仕事をしなくてはならない.よって,表面にくる

分子ができるだけ少ない方が,表面へ分子を並べる仕事が少なくてすむので,安定だと言え

る.したがって,他から別の力がかかっていないときは,液体は表面が小さいほど安定と言う

ことになり,一定の体積では球が一番表面積が小さいので,液滴は球状をとろうとする.

分子を内部へ引き入れる仕事を,表面の単位長さの線の両側から引き合う力と見ることも

できるので,これを普通,表面張力といっている.水は水素結合をもっているので,他の液体

に比べると,はるかに表面張力が大きい.

例えば,ガラス板の上に液体を落としたときのガラス板と液体の表面がなす角を �とする.

この �を接触角という.液体の表面張力が小さくなるほど接触角 �は小さくなり,液体の表

面張力が大きくなるほど接触角 �が大きくなる (図 2.2-a,b).窓ガラスに水が当たったとき

6

Page 11: を用いた自由形状変化 - kashi.info.waseda.ac.jp · 準備として水滴の形状を形成している最大の特徴である表面張力について 述べ, さらに水滴をモデル化するために用いた粒子系モデリングに使用したメタボール

には,重力によって上側と下側で接触角の大きさが異なっている (�R < �A)(図 2.2-c).

2.3 粒子系 (particle system)

粒子系 (particle system)を用いた手法は,物体の表面が認識できない,多量の分子の粒子

からなる煙,火,水などのふるまいを表現するのに有効である.

この手法は,個々の粒子の表面をモデル化せず,系の中の粒子の数を定義している.3次元

空間内に存在し ,動くように定義された粒子は小さすぎて 1つ 1つは見えないが,十分な数

があれば見ることができる.

レンダリングする際は,空間を調べ,見ることができるほど十分な数の粒子がその場所に

あるかどうか判定しレンダリングを行う.

粒子系の特徴は,� �

� 3次元で定義しているため,物体の回転,視点の変更,物体の移動が可能である.

� 動力学を取り入れることができ,1つ 1つの粒子を重力や風などに反応させること

ができる.

� �

といったもので,3Dコンピュータレンダリングとアニメーションに対し多くの長所を有

している.

2.4 メタボール

メタボールは濃度分布を定義するためのものであり,中心点とその周囲に球状に密から疎

へと広がる濃度分布で定義され,ある一定の濃度をもつ等濃度面を表示する.球 1つだけで

7

Page 12: を用いた自由形状変化 - kashi.info.waseda.ac.jp · 準備として水滴の形状を形成している最大の特徴である表面張力について 述べ, さらに水滴をモデル化するために用いた粒子系モデリングに使用したメタボール

A

B

気体

水面

液体

図 2.1: 水の表面張力

ガラス

ガラス

表面張力の 小さい液体

θ

θA

R表面張力の 大きい液体

接触角が小さい

接触角が大きい

θAθR <接触角

a:b:

c:

θ

θ

図 2.2: 水滴の付着

8

Page 13: を用いた自由形状変化 - kashi.info.waseda.ac.jp · 準備として水滴の形状を形成している最大の特徴である表面張力について 述べ, さらに水滴をモデル化するために用いた粒子系モデリングに使用したメタボール

は,変化はないが,複数の球を一定範囲内に近づけるとそれぞれの表面がなめらかに融合す

る.メタボールの濃度分布は,図 2.3に示すような濃度分布になっている.濃度値は中心が最

大で,中心から遠ざかるにつれてしだいに減少するように定義する.

濃度

有効半径

距離

図 2.3: メタボールの濃度分布

複数のメタボールが有効半径内で重なる場合,その部分では濃度値が加算される.そのた

め,その部分の濃度値は増大し ,今までに見えなかった部分が見えるようになるので,なめら

かにつながり合うように変形する.図 2.4は,2次元で 2個のメタボールが重なり合ったもの

を示している.

2.5 レイ �トレーシング法

レイ �トレーシング法のアルゴリズムは視点からスクリーン上の画素を通過する光線 (レ

イ)を発生させ,すべての物体に対して交差する点を調べる (図 2.5).次に,視点とすべての

物体に対して交差する点を計算し,最も視点に近い交点が可視点となる.可視点が存在する

9

Page 14: を用いた自由形状変化 - kashi.info.waseda.ac.jp · 準備として水滴の形状を形成している最大の特徴である表面張力について 述べ, さらに水滴をモデル化するために用いた粒子系モデリングに使用したメタボール

ある濃度値

等濃度面(線)

図 2.4: メタボールの変形

場合は,その点の輝度を計算し ,存在しない場合は,その点を背景の色にする.レイ �トレー

シング法は,輝度を計算する際に,� �

� 隠面消去

� 影計算

� 映り込みのある鏡面反射を含む反射光の計算

� 屈折光の計算

� �

をまとめて取り扱うことができるという特徴がある [4].

10

Page 15: を用いた自由形状変化 - kashi.info.waseda.ac.jp · 準備として水滴の形状を形成している最大の特徴である表面張力について 述べ, さらに水滴をモデル化するために用いた粒子系モデリングに使用したメタボール

透過光

反射光

反射光

物体1

物体2

光源

画素

視線

交点視点

図 2.5: レイトレーシング法

11

Page 16: を用いた自由形状変化 - kashi.info.waseda.ac.jp · 準備として水滴の形状を形成している最大の特徴である表面張力について 述べ, さらに水滴をモデル化するために用いた粒子系モデリングに使用したメタボール

第 3 章

粒子の行動モデル

12

Page 17: を用いた自由形状変化 - kashi.info.waseda.ac.jp · 準備として水滴の形状を形成している最大の特徴である表面張力について 述べ, さらに水滴をモデル化するために用いた粒子系モデリングに使用したメタボール

3.1 はじめに

本章では,自由形状曲面を持つ水滴の形状および挙動の行動モデルを実現するために,水

滴を仮想的な粒子のかたまりとして考え (粒子系 (particle system)),水滴の粒子どうしの相

互作用力,および水滴の粒子と他の物体との関係や外部の影響から生じる外力を記述する行

動モデルを提案する.

3.2 粒子の行動モデル

ここでは,自由形状曲面を持つ水滴の形状および挙動のモデルを実現するために,水滴を

仮想的な粒子のかたまりとして考え (粒子系 (particle system)),水滴の粒子どうしの相互作

用力,および水滴の粒子と他の物体との関係や外部の影響から生じる外力を記述する行動モ

デルを提案する.

粒子の形状および挙動は上で述べた行動モデルによって決定される.行動モデルにおい

て,自由形状変化を持つ水滴を表現するためには,以下の性質を実現する必要がある.� �

� 表面張力が働く.

� 外力が作用していないときは形状を維持する.

� 外力が作用することにより,形状を変化することができる.

� 体積が一定である.

� �

そこで本モデルでは以下のような仮定に基づいて,水滴の行動モデルを構成する.

13

Page 18: を用いた自由形状変化 - kashi.info.waseda.ac.jp · 準備として水滴の形状を形成している最大の特徴である表面張力について 述べ, さらに水滴をモデル化するために用いた粒子系モデリングに使用したメタボール

� �

� 粒子間には相互作用力が働く.

� 粒子の粒子密度 (ここで言う密度は実際のものとは違う)を考え,ある粒子密度よ

り大きい密度を持つ粒子に対してのみ重力が働く.

� 他の物体から外力を受ける.

� �

次節以降で,水粒子の行動モデルを定義する.

3.3 相互作用力

水滴を形成している粒子は,その近隣の粒子と相互に影響を及ぼしあっている.そこで,あ

る粒子が他の粒子を認識して,お互いに影響を及ぼし合う一定の範囲を知覚範囲と呼ぶこと

にする.お互いに知覚範囲にある粒子どうしには相互作用が働く.

3.3.1 知覚範囲

水滴を形成している粒子は,一定半径の球の内部に存在する他の粒子を知覚する (図 3.1).

3.3.2 相互作用力

前節の仮定における相互作用力は,以下のように働くものとする (図 3.2).

14

Page 19: を用いた自由形状変化 - kashi.info.waseda.ac.jp · 準備として水滴の形状を形成している最大の特徴である表面張力について 述べ, さらに水滴をモデル化するために用いた粒子系モデリングに使用したメタボール

知覚領域

流体粒子

相互作用が働く

相互作用が働かない

図 3.1: 粒子の知覚範囲

� �

� 粒子間の距離が一定の距離よりも小さい場合には斥力が働く.

� 粒子間の距離が一定の距離よりも大きい場合には引力が働く.ただし ,粒子間の距

離がある一定の距離より大きく知覚範囲内にない場合には引力は働かない.

� 粒子間の距離がある一定のとき,引力と斥力がつり合うので安定する.

� �

以上のような相互作用力を仮定すると,水滴モデルの各粒子が隣接する粒子と一定の距離

を保とうとするため,水滴モデルの体積をほぼ一定に保つことができる.ここで,斥力は粒子

の大きさを,引力は粒子間の引っ張る力を表現したものとみなすことができる.なお,本手法

では以下のに示すような相互作用力を用いた (図 3.3).[5]

15

Page 20: を用いた自由形状変化 - kashi.info.waseda.ac.jp · 準備として水滴の形状を形成している最大の特徴である表面張力について 述べ, さらに水滴をモデル化するために用いた粒子系モデリングに使用したメタボール

引力が働く 安定

斥力が働く 相互作用が働かない

図 3.2: 粒子間の相互作用

3.4 外力による影響

3.4.1 重力による影響

重力は地球上にある質量をもつ物体に対して働く力である.ここでは,重力と水滴の関係

について考える.小さい水滴は重力の影響をほとんど受けない.しかし,水滴がある程度以上

の大きさになると重力の影響を受けるようになる.身近なところでは,湿度の高い浴室で壁

や天井などに結露が生じたときの例が挙げられる.水滴が小さいときは壁や天井に付着した

ままであるが,しだいに水滴が大きくなると,水滴には重力が働き,水滴は落下する.ここで,

水滴は全体に重力の影響を受けているわけではなく,ある程度の重さを持った部分にしか作

用しない.この現象をモデル化するのに,ある粒子からの一定距離内にある粒子の数を算出

し ,その数がある一定の値を超えたときにのみだけ重力が働くという手法を用いる.ここで,

16

Page 21: を用いた自由形状変化 - kashi.info.waseda.ac.jp · 準備として水滴の形状を形成している最大の特徴である表面張力について 述べ, さらに水滴をモデル化するために用いた粒子系モデリングに使用したメタボール

f(r)

r

引力

斥力

気体液体 知覚範囲

内 外

引力 斥力=

図 3.3: 相互作用力

この一定距離内にある粒子の数を粒子密度と呼ぶことにする.

3.4.2 その他の外力による影響

水滴はさまざまな状況下で外力による影響を受ける.本論文では,床,天井,壁に水滴が付

着したときに受ける外力 (吸着力,摩擦力)を定義する (図 3.4).

17

Page 22: を用いた自由形状変化 - kashi.info.waseda.ac.jp · 準備として水滴の形状を形成している最大の特徴である表面張力について 述べ, さらに水滴をモデル化するために用いた粒子系モデリングに使用したメタボール

吸着力 摩擦力

図 3.4: 水滴粒子が壁から受ける外力

18

Page 23: を用いた自由形状変化 - kashi.info.waseda.ac.jp · 準備として水滴の形状を形成している最大の特徴である表面張力について 述べ, さらに水滴をモデル化するために用いた粒子系モデリングに使用したメタボール

第 4 章

粒子のモデリングおよびレンダリング

19

Page 24: を用いた自由形状変化 - kashi.info.waseda.ac.jp · 準備として水滴の形状を形成している最大の特徴である表面張力について 述べ, さらに水滴をモデル化するために用いた粒子系モデリングに使用したメタボール

4.1 はじめに

第 3章で定義したアルゴリズムによって,出力された水滴の粒子群を可視化するために

は、モデリングおよびレンダリングを行わなければならない.本章では,粒子群で表された

水滴をモデリング,およびレンダリングする手法について述べる.

4.2 モデリング

これまでのアルゴリズムにより, 出力された水滴の粒子群をモデリングしなくてはなら

ない.しかし,数多くの粒子群の中で,表面にある粒子だけを見つけ出して,その表面をなめ

らかにモデリングすることは難しい.そこで,モデリングを行うためにメタボール技法を用

いることにする.

メタボール

水滴の粒子どうしをメタボールで融合させることで表面の形状を定義する.この手法を用

いれば ,多くの粒子群の中から表面の粒子を見つけ出すという難しい作業を行わずにすむ.

しかし,この手法では,表面の粒子の位置座標を中心としてそこから濃度を出しているため,

表面がふくらみ実際の水滴より形状が大きくなってしまう.そのため,メタボール技法を用

いてモデリングを行うと,水滴の挙動が正確に表現されない.

4.3 レンダリング

前節でモデリングされた水滴を実際の水滴らしく見せるために,レンダリングを行う必要

がある.ここでは,水の特徴である光の屈折,透過,映り込みなどを表すために,レンダリング

20

Page 25: を用いた自由形状変化 - kashi.info.waseda.ac.jp · 準備として水滴の形状を形成している最大の特徴である表面張力について 述べ, さらに水滴をモデル化するために用いた粒子系モデリングに使用したメタボール

にはレイ �トレーシング法を用いる.

21

Page 26: を用いた自由形状変化 - kashi.info.waseda.ac.jp · 準備として水滴の形状を形成している最大の特徴である表面張力について 述べ, さらに水滴をモデル化するために用いた粒子系モデリングに使用したメタボール

第 5 章

シミュレーション

22

Page 27: を用いた自由形状変化 - kashi.info.waseda.ac.jp · 準備として水滴の形状を形成している最大の特徴である表面張力について 述べ, さらに水滴をモデル化するために用いた粒子系モデリングに使用したメタボール

5.1 はじめに

本章では,これまでに述べた手法により水滴の形状と挙動をモデル化した画像例を示し,

本手法およびアルゴリズムの評価を行う.

5.2 プログラムの構成

本節では,水滴の形状および挙動を表現するプログラムの概略について述べる. 本論文に

おいて作成したプログラムは,位置座標と作用する力のベクトル値を持つデータ型の水滴の

粒子に対して,水滴粒子の初期化,水滴粒子の相互作用力,粒子密度に対し作用する重力,お

よび ,壁面から受ける外力で構成されている.はじめに,水滴の粒子を設定した状況下で初期

化し,その初期化された粒子群に対し ,相互作用力,および ,重力やその他の外力を加え,それ

ぞれの粒子に作用している力を算出する.その力から一計算時間後のそれぞれの粒子の位置

を決定する.

この処理プログラムのアルゴリズムの流れを図 5.1に示す.

23

Page 28: を用いた自由形状変化 - kashi.info.waseda.ac.jp · 準備として水滴の形状を形成している最大の特徴である表面張力について 述べ, さらに水滴をモデル化するために用いた粒子系モデリングに使用したメタボール

水滴の粒子の初期値を与える

自分以外の全ての粒子との距離,および密度を調べる

知覚範囲の内外を判定する

相互作用力から受ける力を計算する

密度の大小判定

重力を加える

その他の外力を加える

すべての影響する力を足す.一計算時間前の力から位置を更新する

粒子の出力

ある一定の密度より小さい

大きい

範囲外範囲内

すべての粒子に対して繰り返す

すべての粒子に対して繰り返す

外力を受ける条件

すべての粒子に対して繰り返す

条件内 条件外

時間経過分繰り返す

図 5.1: アルゴリズムの流れ

24

Page 29: を用いた自由形状変化 - kashi.info.waseda.ac.jp · 準備として水滴の形状を形成している最大の特徴である表面張力について 述べ, さらに水滴をモデル化するために用いた粒子系モデリングに使用したメタボール

5.3 画像例

本章で示す画像例は,天井に付着した水滴が時間とともに落下する状況をシミュレーショ

ンしたものである.画像はモデリングおよびレンダリングを行っていない粒子群を 3次元座

標に出力した画像とその画像をメタボールでモデリングし ,レイ �トレーシング法でレンダ

リングを行った画像を出力した.

5.4 評価

図 5.2,図 5.3は粒子そのものを 3次元座標系で表したものである.この画像は,粒子自体

のふるまいを見ているので,天井から落下する水滴の様子がよく分かる.まず、初期状態は

天井に付着した状態である.この時点で,水滴の上側は天井にくっついていて,下側は水滴粒

子の相互作用力で半球状になっている.ある一定の粒子密度を超えた粒子に対して重力が働

き,しだいに中心の密度の大きい部分は下に引き寄せられていく.この時点でも,上側は徐々

に少なくはなってきているが,粒子群が天井に引き寄せられている.天井とつながっていた

粒子群も途中でしだいに切り放されていき,やがては天井側に残る粒子群と切り放されて落

下していく粒子群に分けられる.その後もそれぞれの粒子群に粒子間の相互作用が働くの

で,天井に残された粒子群は天井で半球を,落下していく粒子はしだいに球状をとる.

この水滴の天井からの落下のシミュレーションは,粒子の形状,および ,挙動で見ると,ひ

じょうに満足のいく値が得られた.

図 5.4は,メタボールによるモデリング,レイ �トレーシング法によるレンダリングを行っ

た画像である.この画像はモデリングにメタボールを使用しているので,出力した粒子群よ

り濃度値を出した分だけ形状が大きくなる.このため,挙動が正確に出ていない.特に水滴が

25

Page 30: を用いた自由形状変化 - kashi.info.waseda.ac.jp · 準備として水滴の形状を形成している最大の特徴である表面張力について 述べ, さらに水滴をモデル化するために用いた粒子系モデリングに使用したメタボール

図 5.2: 時間の経過における天井から落下する水滴の画像例 (粒子)

26

Page 31: を用いた自由形状変化 - kashi.info.waseda.ac.jp · 準備として水滴の形状を形成している最大の特徴である表面張力について 述べ, さらに水滴をモデル化するために用いた粒子系モデリングに使用したメタボール

図 5.3: 時間の経過における天井から落下する水滴の画像例 (粒子)

27

Page 32: を用いた自由形状変化 - kashi.info.waseda.ac.jp · 準備として水滴の形状を形成している最大の特徴である表面張力について 述べ, さらに水滴をモデル化するために用いた粒子系モデリングに使用したメタボール

図 5.4: 時間の経過における天井から落下する水滴の画像例 (メタボール)

28

Page 33: を用いた自由形状変化 - kashi.info.waseda.ac.jp · 準備として水滴の形状を形成している最大の特徴である表面張力について 述べ, さらに水滴をモデル化するために用いた粒子系モデリングに使用したメタボール

天井側と落下側で切り放される様子が不自然である.粒子の形状を活かしたモデリングの方

法はこれからの課題である.

29

Page 34: を用いた自由形状変化 - kashi.info.waseda.ac.jp · 準備として水滴の形状を形成している最大の特徴である表面張力について 述べ, さらに水滴をモデル化するために用いた粒子系モデリングに使用したメタボール

第 6 章

結論

30

Page 35: を用いた自由形状変化 - kashi.info.waseda.ac.jp · 準備として水滴の形状を形成している最大の特徴である表面張力について 述べ, さらに水滴をモデル化するために用いた粒子系モデリングに使用したメタボール

本論文では水滴の形状,および挙動を CGで表現することを目的として,水滴を粒子ベー

スで定義し ,水滴の形状,挙動を決定する力や影響を考慮した行動モデルおよびアルゴリズ

ムを提案した.本手法の特徴は以下の通りである.� �

� 形状,行動を決定している最小限の影響だけで水滴のモデルを定義しているので,

低い計算コストで粒子データを算出できる.

� 粒子モデルの特徴を生かして,自由形状変化,および動力学のシミュレーションを

同時に実現している.

� 水滴自身の表面張力と重力などの外力の影響を同時に受けた形状の変化を表現す

ることができる.

� 重力の影響を受けにくい水滴に対して,水滴モデルに密度という概念を取り入れ

ることで,その挙動を実際の水滴にかなり近い挙動が実現できている.

� �

一方,本手法の改良点として以下のことが挙げられる.� �

� いくつかの特定の状況における外力しかモデル化できていない.

� 粒子が動き出してからの加速度や動摩擦力などを定義していない.

� 多くの粒子群から,適切な表面を見つけ出してモデリングを行う方法を考えてい

ないので.水滴の挙動が正確にモデリングされていない.

� �

(1)については,本論文で考えていない外力を完全にモデル化できれば ,さらに多くの水滴

の挙動を定義することが期待できる.

(2)については,本論文では粒子が動き出すまでの挙動を見ているので考慮していない,そ

31

Page 36: を用いた自由形状変化 - kashi.info.waseda.ac.jp · 準備として水滴の形状を形成している最大の特徴である表面張力について 述べ, さらに水滴をモデル化するために用いた粒子系モデリングに使用したメタボール

のため,粒子が動き出した後の挙動は実際のものと異なってしまう.よって,さらに多くの挙

動を表現するには加速度や動摩擦力を考慮してモデル化する必要がある.以上のように,本

手法はまだまだ改良を行う必要がある.これらについては今後検討を重ねていきたい.

(3)については,メタボールによるモデリングを行うと表面がふくらみ,実際の粒子より形

状が大きくなってしまうことが原因である.この問題についての解決法として考えられるの

は,水滴の粒子群から空間を格子状に区切った格子の頂点の濃度を算出し ,一定濃度の表面

に三角パッチを張り付けるMarching Cubes法を用いるなどの手法が考えられる.しかし ,な

めらかな形状の変化を表現しようとすれば ,濃度を決める空間の格子を細かく取らなくては

ならず,データ量が大きくなってしまうという欠点がある.また、この手法も粒子の正確な

表面をモデリングしていないので,さらに正確に挙動を出しつつモデリングを行う手法を検

討していかなくてはならない.

32

Page 37: を用いた自由形状変化 - kashi.info.waseda.ac.jp · 準備として水滴の形状を形成している最大の特徴である表面張力について 述べ, さらに水滴をモデル化するために用いた粒子系モデリングに使用したメタボール

謝 辞

33

Page 38: を用いた自由形状変化 - kashi.info.waseda.ac.jp · 準備として水滴の形状を形成している最大の特徴である表面張力について 述べ, さらに水滴をモデル化するために用いた粒子系モデリングに使用したメタボール

本論文の制作, 中間報告などにおいてコンピュータ・グラフィックス分野にとどまらず度

重なる御指導, 御鞭撻を賜わりました, 柏木雅英 助教授に心より感謝致します.

本研究の当初, 研究方針もままならぬころから本研究の方向性を示して下さり, また,画

像出力や発表に関して貴重な御意見を頂きました, 中央大学 牧野光則 教授に厚く御礼申し

上げます.

柏木研究室助手 相馬 隆郎 氏ならびに柏木研究室博士課程 2年 宮田 孝富 氏には,日頃の

御指導を賜り,心より感謝申し上げます.

柏木研究室修士課程 1年 高崎 大輔 氏には,コンピュータ・グラフィックスを理解してい

ない私に研究室配属当初から熱心に御指導頂き,TBSのCG班を見学する機会を設けて頂く

など ,幅広くコンピュータ・グラフィックスの世界を学ばせて頂きました. また, 日頃の柏木

研究室内でのあらゆる面において御教示頂きました. 心より感謝申し上げます.

大石研究室 CG班においてコンピュータ・グラフィックスについて貴重な御意見を頂い

た大石研室修士課程 2年 大野 徹雄 氏に厚く御礼申し上げます.

柏木研究室修士課程 1年 岩折 朱希嗣 氏には,本研究を進めるにあたりネットワーク等の

環境を整えて頂きまして心より御礼申し上げます.

CG班と分け隔て無く,同じ研究室で研究を進めていき,研究内容に留まらない意義ある

意見を交換し合った, 柏木研究室学部 4年非線形班の皆様, 金谷 卓充 氏, 川上 修 氏, 小泉

健 氏, 櫻井 幹夫 氏, 白井 健一 氏, 長友 泰崇 氏, 波多野 伸哉 氏, 深谷 光統 氏, 渡部 啓 氏

に心より感謝致します.

最後に,同じ柏木研究室CG班として意見を交わし合い,共に研究を進めることができた

CG班学部 4年, 州浜 陽一 氏, 村竹 範彦 氏, 山田 浩之 氏,に心より御礼申し上げます.

34

Page 39: を用いた自由形状変化 - kashi.info.waseda.ac.jp · 準備として水滴の形状を形成している最大の特徴である表面張力について 述べ, さらに水滴をモデル化するために用いた粒子系モデリングに使用したメタボール

参考文献

35

Page 40: を用いた自由形状変化 - kashi.info.waseda.ac.jp · 準備として水滴の形状を形成している最大の特徴である表面張力について 述べ, さらに水滴をモデル化するために用いた粒子系モデリングに使用したメタボール

[1] M � オーロク著, 袋谷賢吉,大久保篤志訳: \3次元コンピュータ �アニメーションの原

理",トッパン (2000).

[2] 中川滋雄,千葉則茂,斎藤伸自: \複雑な水流のシミュレーション",情報処理学会研究報

告 (1989).

[3] 小田泰行,千葉則茂: \粒子ベースモデルによる粘土のビジュアルシミュレーション",

情報処理学会研究報告,Vol97,No124,pp.25-30(1997).

[4] 千葉則茂,土井章男著: \3次元CGの基礎と応用",サイエンス社 (1997).

[5] J � N � イスラエルアチェヴェリ著, 近藤保,大島広行訳: \分子間力と表面力",朝倉書

店 (1991).

36