現代天文学入門 - yamagata...

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大学 email: [email protected] URL: http://astr-www.kj.yamagata-u.ac.jp 27 9 29 基本方針 目的 /学に って しよう する ため Introduc- tion( ) える。 現代天文学は基礎科学である (スライドショーがホームページ にある) されるだけ く、 ちろん される。こ づく 、宇 えられ いよう あるこ がわかる。 する いだそう している。 にしか い。 ここ 、宇 あるこ をみ てみれ っきりする。 、ニュートンによる ( ) しよう するこ されている。 れる エネルギー が宇 から いる。 によって された から らかにされた。 にくら こっている エネルギー 大きさが に大きいこ がポイント ある。つまり、 して が宇 して われている。 する あろう。 ある エネルギー/ 題に えてくれる ある。宇 する 1

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Page 1: 現代天文学入門 - Yamagata Universityksirius.kj.yamagata-u.ac.jp/~shibata/tenmongaku/p.pdf地球 1.0 火星 1.5 木星 5.2 土星 9.6 天王星 19.2 海王星 30.1 オールトの雲

現代天文学入門

柴田 晋平山形大学理学部

email: [email protected]

URL: http://astr-www.kj.yamagata-u.ac.jp

平成 27 年 9 月 29 日

基本方針

目的

天文学/宇宙物理学に興味をもって勉強しようとする人のための Introduc-

tion(入門)を与える。

現代天文学は基礎科学である

(スライドショーがホームページ上にある)

人類が知り得た物理法則は地上の実験に適用されるだけでなく、もちろん

同じ法則が全宇宙に適用される。ことに気づくと、宇宙は地上では考えられ

ないような大実験場であることがわかる。

物理学は全宇宙を支配する法則を見いだそうとしている。地上の実験はそ

の一部にしか過ぎない。

ここで、宇宙の研究が物理学の要であることは、物理学の発展の歴史をみ

てみればとてもはっきりする。

例えば、ニュートンによる万有引力 (重力)は、歴史的に見ると太陽系の惑

星の運動を観測し理解しようとすることで発見されている。

地上には宇宙線とよばれる高エネルギー粒子が宇宙から降り注いでいる。湯

川によって予想された中間子の存在は宇宙線粒子の観測から明らかにされた。

地上実験にくらべ宇宙で起こっている現象のエネルギーや大きさが桁外れ

に大きいことがポイントである。つまり、地球上の実験室で人類の力では決

して出来ない実験が宇宙では自然現象として行われている。

その典型的な例が時間や空間の起原に関する物理であろう。物理学の根本

問題である時空やエネルギー/物質の生成の仕組みやその構造の問題に実証的

に答えてくれるのは宇宙の研究のみである。宇宙に存在する物質は地上実験

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では原子 (あるいはそのもとになる素粒子:クォークやレプトンなど)ですべ

てつくされるように見える。しかし、ひとたび宇宙を注意深く観察すると正

体不明の物質 (ダークマターとよばれる)があることを発見する。宇宙を構成

する物質のうち原子 (あるいはそれを構成する素粒子)で説明できるのはほん

の 15%ほどであり、85% の物質はその正体がいまだに不明である。問題はさ

らに深く、さらに大きな量のダークエネルギーとよばれるものが存在するこ

とが知られている。これが宇宙の膨張をコントロールしている。これらはす

べて物理学の最大の問題である。

宇宙が地上で出来ないような実験をしてくれるのは、高エネルギー現象に

限ったことではない。例えば、地上実験で作られる真空 ( 10−9 kg m−3) と

いうのは宇宙空間の真空度にくらべればとても「真空」などとよべるもので

はない。宇宙空間は超真空であり、(10−21kg m−3) C ≡ C ≡ C ≡ C ≡ ...と

いった物質が宇宙にただよっている。宇宙空間を利用して、地上ではない化

学反応や物性を研究することができる。

天文学・宇宙物理学では、宇宙で起こっているできごとを、物理法則を適

用して応用・解釈し宇宙の仕組みや時間的変化 (進化)を研究しているだけの

ように見えるかも知れないが、実は、天文学・宇宙物理学は、物理の根本原

理を発見し解明する基礎物理学であることがわかっていただけたであろうか。

http://astr-www.kj.yamagata-u.ac.jp/~shibata/ を参照

本講義は現代天文学への Instroductionをする。ごく基本的な物理法則・原

理が宇宙現象とどう結びついているかを示したい。とくに、宇宙を見ている

と新しい物理法則が発見されると言う事例を学んで欲しい。また、宇宙現象

は遠くから観測されるだけなので、観測量をどうやって宇宙でおこっている

現象の物理量に翻訳するかも理解するようにしたい。

テーマは:

宇宙の距離感覚 いろいろな天体の距離とサイズ、天体の種類、階層構造を知

る。見た目に距離感のない世界にどのようにして距離を測定し距離感

を持つようになれるか。

宇宙の色彩感覚 宇宙からやってくる信号から宇宙の物理状態を知る方法につ

いて考える。特に光による観測とその解釈について。

宇宙の形態感覚 いろいろの天体の形や構造からその物理的意味を抽出する。

星、星団、銀河、円盤、ジェット、など

宇宙の時間感覚 宇宙進化の道筋をおう。星の進化、元素の起源、宇宙の起源

15コマの講義で深くは入れない世界がある。更に詳しく学びたいときは、

卒業研究で宇宙物理関係研究室を選び勉強し、さらに、大学院で学ぶしかな

い。山形大学理学部,宇宙物理研究グループの門をたたかれたい.

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成績

期末試験 (A4用紙 2枚までのメモ持ち込み可)(100点満点)

レポートは 30点満点で加算する。

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1 宇宙の距離感覚

1.1 距離感

宇宙物理学のポイント

距離や大きさの感覚を磨きましょう: 天文学に限らず、科学するときにこれは常に重要です

いきなり宇宙全体を考えるのはステップとして多き過ぎるのでまず地球を

みよう。

地球一周は4万 kmです。これを 4mに縮小して考えます。実感をもつた

めに周が 4mの風船を膨らませてみます。

山の高さは?大気の厚さは?海の深さは?

どのように表現されるでしょう?

スペースシャトルの飛んでいる位置は?つきまでの距離は?月までの距離は?

太陽までどれくらいある。大きさは?

太陽系の大きさは?もっとも近い恒星までは?

地球と太陽の平均距離 (1 AU )

は約 1億 5000万 km です。

(tab1)太陽系の距離感

天体 AU単位

太陽の直径 1/107

水星 0.4

金星 0.7

地球 1.0

火星 1.5

木星 5.2

土星 9.6

天王星 19.2

海王星 30.1

オールトの雲 ∼ 10000

αCen 2.7× 105 (4.3光年)

光の速さは 毎秒 30万 km です。光でどれくらい時間がかかるか?で距離

を表すことがよく行なわれます。1光年は光が 1年かかって進む距離です。

豆知識:1年は何秒 ? π × 107sec 3.15× 107sec です。

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宇宙物理学のポイント

よく使われる単位

2πR⊕/4 = 1万 km (1)

1AU (天文単位) = 1億 5千万 km (2)

1ly (光年) = c× 1年 (3)

= 9.46× 1015m (4)

1pc (パーセク) = 3.26ly (5)

問題 1 1光年はおよそ何天文単位になりますか。

1

100の感覚はときどき出てくるし、感覚を身につけておくと便利です。

たとえば、太陽の直径は地球ー太陽間の距離のだいたい 1/100です。月の

直径は地球ー月間の距離のだいたい 1/100です。地球の直径は太陽の直径の

約 100分の 1 です。

金星の太陽面経過の写真から、その大きさの違いを感じて下さい。金星の

直径は、ほぼ地球のそれと同じくらいです。

⇒ ホームページ図参照 金星および水星の太陽面通過

問題 2 地球を一周が 4m の球で表したとすると、地球の大気の厚さと海の

深さは何センチ位と表されるでしょう。また、スペースシャトルの飛んでい

る高さは何センチにあたるでしょう。(ヒント)地球の周の長さは本当は 4万

km です。

(1) 大気の厚さ cm (2) 海の深さ cm

(3) スペースシャトルの飛んでいる高さ cm

(問題終わり) 地球と大きさ感覚

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問題 3 次の長さの比を理科年表など資料を調べる事によって3桁の精度で求

めよ。

1. 太陽の直径と地球太陽の平均距離 (1AU)

2. 月の直径と地球月の平均距離

3. 太陽の直径と地球の直径

(問題終わり) 100bun

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1.2 主な天体と階層構造

これから宇宙物理の勉強をするのに、宇宙にはどんな構成要素があるかそ

の概観をしておくとよいでしょう。まだ、あまり詳しくは話しません極くお

おざっぱにみておきましょう。

宇宙物理学のポイント

階層構造 っていうのがあります。例えば、家族 (私、親)がいっぱい集まって「市」という単位

をつくり、「市」がいっぱい集まって「県」をつくり、「県」があつまって「国」を作り、地球

のなかには国がいっぱいあります。

太陽系 (太陽 =恒星、惑星)

連星系

∧星団

∧銀河 (銀河系 =天の川)

∧銀河団

∧宇宙の地平線

問題 4 以下の言葉を全て用いて宇宙全体の姿を簡単に述べよ。

地球、太陽系、惑星、彗星、恒星、散開星団、球状星団、銀河系、天の川、

銀河、銀河団、宇宙の地平線

※解答において上記の指定された語にはアンダーラインをつけること。

(問題終わり) kouseiQ

(kouseiQ) 解答例

わたしたち人類が住んでいる地球は太陽の回りを公転する惑星のひとつ

であり、同様に太陽を回る彗星などの小天体を併せて太陽系を形づくって

いる。太陽と同様に自ら輝く星は恒星と呼ばれている。恒星は一度にたくさ

ん形成されることが多く、これらの星はひとかたまりの星団として観測され

る。たくさんの星団や星の材料となるガス、そしてもちろん多くの天体が重

力的に束縛された集団を作っており、これを銀河と呼ぶ。わたしたち太陽系

が属している銀河を特に銀河系と呼んでいる。銀河系には 2000億あまりの

星を含んでおり、ガスや比較的新しくできた星は円盤状に分布しており、銀

河中心の回りを回転している。銀河系の中にいるわたしたちからこの回転す

る円盤を見たものが天の川である。星団のうち形が不揃いな散開星団はこ

の銀河円盤に属している。一方、全体として球状の球状星団は銀河円盤か

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ら離れた位置にも存在し全体としては銀河系の中を球状に分布している。宇

宙には銀河系のような多数の星やときには大量のガスを含んだ集団はたくさ

ん存在しており、銀河と呼んでいる。宇宙における銀河の分布は一様では無

く、網目状の分布を示す。特に銀河が密集して集団を作っているときがあり

これを銀河団とよんでいる。過去においては宇宙は高温高密度の「火の玉」

状態であったと考えられている。この火の玉が膨張し現在の宇宙の姿になっ

たと考えられている。およそ、137億年昔のことである。宇宙にはじまりが

あった以上、光速が有限のためわたしたちが見通せる宇宙は 138憶光年彼方

である。こうして誕生からの時間で決まる私たちが見ることのできる限界の

面を宇宙の地平線と呼んでいる。

1.3 各階層の大きさと距離

宇宙物理学のポイント

階層構造をもつとき各要素のサイズは桁で (指数関数的に)増えて行く

家 市 県 国 地球

10m 10km 100km 1000km 10000km

宇宙の長さスケールや質量スケールが非常に広いことに注意しましょう。

自然界の階層をみると、大きく三つの世界があることがわかります。一つは

クォークの世界、つぎは、原子の世界、そして星の世界です。下の図をみて

ください。

星の世界だけがカバーする桁が大きいのは重力が距離の二乗に反比例する

力であるからです。そして、電磁力とは違って正負の電荷がなく質量は常に

正だということが原因しています。

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問題 5 以下の天体の半径や距離を⃝× 10⃝m の形にそろえ、表のすぐ上の

天体の何倍か求めてみよ。

流れ星の高さ 120km

地球の半径 6.4× 103km

太陽の半径 6.96× 108m

地球の軌道半径 1.5× 1011m

αCen までの距離 4.3 ly

ヒヤデス星団までの距離 30pc

銀河系の中心までの距離 8.5kpc

銀河系の半径 約 50kpc

アンドロメダ銀河までの距離 6.7× 102kpc

かみのけ座銀河団までの距離 後退速度 6647km/s

宇宙の果て 約 150億光年

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長さの単位 (天文学用)

1 km = 1000 m = 103 m

1 cm = 1100 = 10−2 m

天文単位 1 AU = 1.496× 1011 m (地球–太陽間の平均距離)

パーセク 1 pc = 3.086× 1016 m = 1 AU / 1 秒角 =3.26 ly

光年 1 ly = 9.46× 1015 m = 光速 ×一年補助単位

tera テラ T = 1012

giga ギガ G = 109

mega メガ M = 106

kilo キロ k = 103

hecto ヘクト h = 102

deca デカ da = 10

deci デシ d = 10−1

centi センチ c = 10−2

milli ミリ m = 10−3

micro マイクロ µ = 10−6

nano ナノ n = 10−9

pico ピコ p = 10−12

参考

円周率: = π = 3.1416

角度: 1 = 60′ = 3600′′

1′ =1 分角、1′′ = 1 秒角

円周角と弧の長さの関係: ℓ = rθ (ラジアン単位)

恒星年: = 365.26 days = 3.16× 107 s

光速: = c = 3.00× 108 m/s

ハッブル定数: = 100− 50 (km/s)/Mpc

x log x

1.00 0.00000

2.00 0.30103

3.00 0.47712

4.00 0.60206

5.00 0.69897

6.00 0.77815

7.00 0.84510

8.00 0.90309

9.00 0.95424

10.00 1.00000

常用対数は、ある数が10の何乗かをあらわす数字として定義される

x = 10a のとき、xの常用対数は a である。記号としては log を用いる。

x = 10a の時 a = log xと書く. (6)

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1.4 ハッブルの法則と宇宙膨張

— ちょっと余談 —宇宙膨張 —

この講義で勉強する宇宙全体を入れている器 (うつわ)の話です。

宇宙物理学のポイント

どこをむいても銀河は、私達から遠ざかっている。遠ざかっているスピードは銀河までの距離

に比例する。

v = H0d (7)

vはスピード、dは距離です。ハッブル定数H0 は 71(km/sec)/(Mpc) くらい。

「ハッブルのゴムひも」を見よ!

(テキストが別にある。hubble/p.tex)

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銀河の名前 距離 後退速度

Mpc km /s

小マゼラン 0.032 170

大マゼラン 0.034 290

NGC 6822 0.214 –130

NGC 598 0.263 –70

NGC 221 0.275 –185

NGC 224 0.275 –220

NGC 5457 0.45 200

NGC 4736 0.5 290

NGC 5194 0.5 270

NGC 4449 0.63 200

NGC 4214 0.8 300

NGC 3031 0.9 –30

銀河の名前 距離 後退速度

Mpc km /s

NGC 3627 0.9 650

NGC 4826 0.9 150

NGC 5236 0.9 500

NGC 1068 1.0 920

NGC 5055 1.1 450

NGC 7331 1.1 500

NGC 4258 1.4 500

NGC 4151 1.7 960

NGC 4382 2.0 500

NGC 4472 2.0 850

NGC 4486 2.0 800

NGC 4649 2.0 1090

銀河と銀河の後退速度 (Proc. Nat. Acad. Sci., 15, 168) [4]より転載

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銀河までの距離 Mpc (メガパーセク)

1 2

退

km/sec

0

1000

–300

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1.5 見かけの大きさ

宇宙物理学のポイント

みかけの大きさから天体の本当の大きさを知ることはできない。

5円玉の穴も、月も、太陽も、みんな同じくらいの大きさです (みかけの

上で)。だいたい、1/2度あります。

宇宙物理学のポイント

見かけの大きさは角度で測る

みかけの大きさ = θ =ℓ

D(8)

ℓ:実際の大きさ、D:距離

⇒ ホームページ図参照 見かけの大きさの定義

問題 6 次の天体の見かけの大きさを求めよ1。答えは、radian および、角度

分 arcmin の両方で答えよ。

1. 月: 半径 1.74× 106m 距離 3.84× 108m

2. 太陽: 半径 7.0× 105km 距離 1.5× 108km

3. オリオン大星雲: さしわたし 25 ly 距離 1.3× 103 ly

4. 球状星団 M13: さしわたし 98 ly 距離 2.2× 104 ly

5. アンドロメダ銀河 M31: 直径 50 kpc 距離 6.7× 102 kpc

6. かみのけ座銀河団: 直径 1 Mpc 後退速度 6647 km/sec

(問題終わり)

1.6 視差 (parallax)

宇宙物理学のポイント

車窓の眺め:近くの景色は早く動くが、遠くの景色はほとんど動いて見えない。

⇒ ホームページ図参照 視差

1この問題は良くないかもしれません。なぜなら、実際は、見かけの大きさが観測で分かっていて、何らかの方法で距離を測定/推測し、それから、その実体の大きさが分かる、というケースが多いのです。またあるときは、実体の大きさが推定でき、見かけの大きさから、逆に距離を求めたりもします。こっちも結構良くやることです。

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距離 視差

近い 大きい

遠い 小さい

∞ 0

宇宙物理学のポイント

地球の公転運動による視差によって天体までの距離を測る。

(年周視差 annual parallax)

角度秒 (arc sec)単位の年周視差を p′′ で表して、

D =1

p′′pc (9)

によって天体までの距離の指標とします。この単位がパーセクです。

1.7 星の明るさ

file = LandF.tex

真に明るいものでも遠ければ、暗く見える。

宇宙物理学のポイント

見かけのあかるさは単位面積に毎秒くるエネルギー量 (単位は [Watt/m2] または [erg/sec cm2])

であらわす。この量は、フラックス (Flux)と呼ばれれる。

宇宙物理学のポイント

真の明るさはその天体が毎秒放射するエネルギー量 (単位は [W] または [erg/sec]) で定義され

る。光度 (luminosity)と呼ぶ。

宇宙物理学のポイント

フラックスを F 光度を L とすると

F =L

4πD2(10)

の関係がある。ここで、Dはその天体までの距離。

問題 7 太陽の光度は L⊙ = 4 × 1026W である。地球上での太陽からのエネ

ルギーフラックス (flux)を求めよ。大気の吸収などの効果は無視して良い。

解答にあたっては単位を明記すること。

つぎに、太陽を見たとき目の中に入ってくる毎秒のエネルギー (ワット数)

を求めよ。ひとみの直径を 2mmとして概算せよ。

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(問題終わり) LandF-Q

フラックスは f = L/4πD2 なので、

4× 1026W

4π(1.5× 1011)2m2= 1.4× 103W/m

2

これに πr2、r = 1× 10−3 を乗じて、4.4× 10−3W

1.8 対数尺度と星の等級

file = scale.tex

宇宙物理学のポイント

著しく大きさのことなったもの同志の比較には対数が便利です。

実際、人間の感覚信号は、著しく大きさのことなったものを比較しなければならないので、対

数尺度です。

例としては、音階、音の強度 (デシベル)、地震の強度 (マグニチュード)などがあります。

そしての星の明るさも対数尺度で表すのが慣例で、等級 (magnitute)とよびます。

b = 10a ⇐⇒ a = log b (11)

. . . , 1/10, 1, 10, 100, 1000 . . . ⇐⇒ . . . ,−1, 0, 1, 2, 3, . . . (12)

例、音程: 2を底にして対数で等間隔にする。別な言いかたをすると、公

比 21/12 = 1.05946... の等比級数で音を並べる。

平均律音階と和声音階

振動数比 f/f0 音名 和声

20/12 1.00000 Do 1

21/12 1.05946

22/12 1.12246 Re 9/8 = 1.125

23/12 1.18921

24/12 1.25992 Mi 5/4 = 1.25

25/12 1.33484 Fa 4/3 = 1.333

26/12 1.41421

27/12 1.49831 Sol 3/2 = 1.5

28/12 1.58740

29/12 1.68179 La 5/3 = 1.667

210/12 1.78180

211/12 1.88775 Si 15/8 = 1.875

212/12 2.00000 Do

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半音を単位とした音程差 = n = 12 log2f

f0(13)

f

f0= 2n/12 (14)

例、地震のマグニチュード

M =2

3log10 E − 11.8 (15)

物理量 なまの値 感覚的な単位

音の高さ 振動数 f [Hz] 音名 (Do, Re, Mi,..)

星の明るさ フラックス (光束) F [W/m2] 等級 m

星座を作る星の中で明るいものを一等星、一方、肉眼でぎりぎり見えるく

らい星を 6等星とした (ヒッパルコス)。等級差は 5等あるが、これを近代的

な方法で計ると、フラックスで 100倍の違いがあった。これを基に、フラッ

クスの比と等級差を関係づける式が作られた。

宇宙物理学のポイント

星の明るさの違い=等級 (magnitude)の違いを表す式

等級差 = m1 −m0 = −5

2log10

F1

F0= −5

2log10 (何倍明るいか) (16)

逆に

F1

F0= 10−

25 (m1−m0) (17)

Linear Scale Log Scale

実際の量 感覚される量

大きな差 縮小された差

絶対量 相対量

現実 ゆめ

※ 実際には基準を決めないと各星のみかけの等級はきまらない。こと

座のベガ (おりひめ星)を 0等星として基準とするやりかたがありましたが

(ベガ等級と呼びます)、最近は単位振動数あたりのフラックス Fν を使って、

Fν = 3.6× 10−26[W/m2Hz]を0等とする方法が使われています。(AB等級)

しかし、この量について理解するには次の章の光のスペクトルの勉強をしな

いと分からないと思うのでここではこの程度の説明に留めておきます。

問題 8 対数スケールで目盛った数直線を作り、問題 ??の天体のサイズまた

はその天体までの距離を目盛って見よ。

17

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(問題終わり) scale

問題 9 音階は音が高くなるほどその音の振動数が高くなって(大きな値に

なって)ゆく。音階の各音の振動数を、音階 ド レ ミ ファ ソ ラ シ ド

振動数 fdo fre fmi ffa fsol fla fsi fDO

と表すことにする。

ここで、ドとソと高いドの振動数を比べると、つぎのどの式が正しいか?

(1) fsol − fdo > fDO − fsol (2) fsol − fdo ≈ fDO − fsol (1) fsol − fdo <

fDO − fsol

(問題終わり) ドレミの高さ感覚 doremi

1.9 星の光度と絶対等級

file = mag.tex

星の等級は、見かけの等級とも言われ、真の明るさを表すものでない。星

までの距離はいろいろであるから。

宇宙物理学のポイント

星を 10pcの距離に仮に持ってきたときの等級を絶対等級と呼んで、真の明るさ (光度)の尺度

として用いる慣習がある。

真の値 みかけ (地上で観測)

物理量 光度 L (luminosity)

Joul/sec = W

フラックス f (flux)

Joul/m2sec

対数尺度

(感覚にあわせた量)

絶対等級 M

(absolute magnitude)

仮に 10pcの距離に置いたと

きの等級

みかけの等級 m

(apparent magnitude)

絶対等級は全部の星を同じ距離において比べるので光度を比べたことにな

る。太陽は絶対等級が 4.7等星なので恒星としては暗いほうである。

宇宙物理学のポイント

見かけの等級mと、絶対等級M の関係は

m−M = 5 logD(in pc )− 5 (18)

と表わせる。

18

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導き方

L = 4πD2f (19)

= 4π102f10pc (20)

(21)

よって、f

f10pc=

L/4πD2

L/4π102=

102

D2(22)

両辺対数をとると

log10

(f

f10pc

)= −2 log10 D + 2 (23)

一方で (24)

−5

2log

(f

f10pc

)= m−M (25)

(23) に (25) を代入

(M −m)2

5= −2 log10 D + 2 (26)

M −m = −5 log10 D + 5 (27)

絶対等級M と光度 Lは関係がつくはずである (両方とも真の明るさを表わ

している)。太陽は見かけ上 –26.74等級であることから換算式を作れる。結

果として天体の光度 Lと絶対等級M は

M = 4.74− 5

2log

(L

L⊙

)(28)

によって関係付けられる。ここで、太陽光度は L⊙ = 3.85× 1026W = 3.85×1033erg/sec である。

注意:放射等級、放射光度 (Bolometric magnitude, Bolometric luminosity)

ここまでは観測する光をどういった方法で行うかについては余り触れなかっ

た。等級の場合でいうと、肉眼で見た目の等級とカメラで撮った星の等級を

単純には比較できないという問題がある。目の網膜の光の色 (波長、あるい

は、振動数)に対する感度が肉眼 (網膜)とカメラ (フィルムやCCD)とでは異

なる性質を持っているためである。たとえば、目には感じない赤外線であっ

てもカメラでは感じるので写ってしまう。すると、赤い星はカメラでは明る

く写っているのに、目で見たら明るくは見えないということになる。このよ

うな問題は次の章で電磁波の振動数などについて学んでから詳しく検討する。

ここでは、あらゆる振動数の電磁波 (光)をすべて受けて観測できたとした場

合のエネルギー量として考えておくことにしよう。このように、すべての振

動数の電磁波の合計としての光度や等級を考えていることを強調する時は、

bolometric (日本語では放射)を付けて区別する。

式 (18)を使う例を示そう。

19

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超新星 (Type I SNR)の距離 太陽よりづっと重い星の中心核が重力で潰

れて、中性子星が生まれるとき、大爆発 (超新星爆発)を起こす。極端

に明るくなるので「超新星」という名前がついている。超新星の明るく

なったときの絶対光度Msnrは、その機構が特定されており一定値であ

り、値が分かっている。したがって、超新星がおこればこの見かけの明

るさ (msnr)から、超新星までの距離が分かる。そして、その母銀河ま

での距離がわかる。

セファイド変光星の周期光度関係 セファイドとよばれるタイプの変光星は、

変光周期と星の (平均)光度との間に相関がある。つまり、絶対等級の

明るいセファイドは、その質量が大きく、周期はゆっくりしている。セ

ファイドの変光機構も良く研究されている。こうして我々は変光周期と

光度の関係を知っている。未知のセファイド変光星を見つけて周期を測

定すると、周期光度関係からその星の絶対等級が分かり、見かけの等級

との比較から、その星までの距離が分かる。

問題 (magniQ)

次の星の絶対等級はいくらか?

シリウス (α CMa) 見かけの等級 m = −1.5, 距離 d = 2.7pc

ベテルギウス (α Ori) 見かけの等級 m = 0.8, 距離 d = 150pc

20

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2 宇宙の色彩感覚

2.1 光の色

file = col.tex

宇宙物理学のポイント

光も電波も紫外線も赤外線もX線もガンマ線もみんな同じものです。みんな、電磁波 (電場と磁

場か作る横波)です。量子力学的には光子 (photon)といいます。

波としての性質

振動数と周期 ν(単位 [Hz]) = 1/P ; P は周期 (単位 [sec])

ω = 2πν;角振動数をつかうこともあります。

波長 λ(単位 [m] or [cm], [nm],...);

k = 2π/λ波数を使うこともあります。

波の進行方向を向いた長さ kのベクトルを

波数ベクトルといいます。

伝播速度 真空中での光速 c = 3.00× 1010cm/sec

媒質中ではこれより遅くなります。

偏波 (偏光) 電場ベクトルの方向で定義します。

進行方向、磁場、電場は互いに直交している。

一般には様々な偏光状態がありうる (円偏光、

楕円偏光、ランダムに混ざったり...)。

光量子としての光

一つの光子のエネルギー ϵ = hν = hω

h はプランク定数 6.626× 10−27erg sec

一つの光子の運動量 p = hk ただし、h = h/2π

p = h/λ (こっちの方がなじみあるかも)

振動数と波長の関係式

cP =c

ν= λ (29)

 

波の伝播方向を xとする時、平面波の電磁波は

E(x, t) = E1 sin(ωt− kx) (30)

B(x, t) = (k×E1) sin(ωt− kx) (31)

などと表示するとよい。

相対論的に扱うときは、4元ベクトルを

kµ 成分を書き下ろすと (k0, k1, k2, k3) = (ω/c, kx, ky, kz) (32)

21

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を用いると便利。

宇宙物理学のポイント

電子を 1ボルトで加速したときに電子が得る運動エネルギーを 1電子ボルトといって、エネル

ギーの単位として用いる。

eV = 1.60× 10−19C 1V = 1.60× 10−19J = 1.60× 10−12erg (33)

• 電池2本 (3Volt)で火花とぶ

• MeVあれば電子が作れる。mec2 = (1/2)MeV

• ラジモン (76.2MHz FM放送)の波長は約 4m

電磁波のさまざまな名称電波 赤外線 可視光 紫外線 X線 ガンマ線

エネルギー ∼3eV keV MeV, GeV, TeV,...

振動数 ...Hz 1000GHz

波長 ...m–0.3mm 390–(550)–720nm

色 紫 –(緑)– 赤

⇒ ホームページ図参照 大気の窓

宇宙物理学のポイント

どの種類の光 (どの光のエネルギー)で見るかによって、違うものが見える。

⇒ ホームページ図参照 違った波長の光 (エネルギーの光)で天空の同じ

場所をみると違ったものが見えます。その例を紹介しています。

可視光線でみると数千度から1万度の星が良く見えますが、電波を使うと

極低温のガスが見えます。

また、違ったエネルギーの電磁波で見るといままで見えていなかった奥が

透けてみえるかも知れない。

⇒ ホームページ図参照 それぞれの電磁波について、もっともふさわしい

検出装置が開発されて、電波望遠鏡、赤外線望遠鏡、可視光の望遠鏡、紫外

線望遠鏡、X線望遠鏡、ガンマ線望遠鏡、を作っています。

宇宙物理学のポイント

電磁波以外に、天体からやってくるニュートリノをとらえる、あるいは、重力波をとらえる、と

いう新分野が現在開拓されつつあります。

問題 (colQ)

光の色を特徴づける物理量は、波長 λ, 振動数 ν, エネルギー hν のいずれか

が用いられることが多い。可視光の波長は、∼ 390nm (紫) から、∼ 720nm

22

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(深い赤) である。対応する、振動数の領域とエネルギーの領域を Hz, eV の

単位を用いて求めよ。

問題 10 地球上の観測者から見て、x方向に Vxの猛烈な速度で動いている天

体があるとする。この天体から来る光の角振動数を ωとし、光の進行方向の単

位ベクトルを n = (nx, ny, nz)とする。この光の波数を kとして、波数ベクト

ルは (kx, ky, kz) = (knx, kny, knz) になる。同じ光を発行している運動天体

に住む人から見たときの角振動数と波数ベクトルをそれぞれ、ω′、(k′x, k′y, k

′z)

とする。ローレンツ変換を用いて、ω′, k′x, k′y, k

′z と ω, kx, ky, kz の関係を求め

よ。振動数の違いはドップラー効果 (Doppler effect)、進行方向の違いは光行

差 (abberation)と呼ばれる。

(問題終わり) dopplerQ

2.2 望遠鏡

telsc.tex

宇宙物理学のポイント

望遠鏡の第一歩は目的の天体から来る光を集めること。

コリメータ   実像を作る(集光)

などがある。

つぎに集めた光をどう検出・測定するか。

電波なら受信機、光なら CCD、光電子増倍管、シンチレーター

などいろいろな装置が開発されている。

2.2.1 コリメーターによる星からのフラックスの測定

2.2.2 実像を作ることによる改善

凸レンズや凹面鏡を用いて実像を作るというのは強力な手段である.

• 暗い天体を見たい。⇒ 光を集める。「有効面積」でその能力を表わす。これは望遠鏡の口径を大きくすればよい。

• 良く分解してみる (細かいものを見る)。見かけの大きさ 1’のものを見

分けるより、1”のものまで見分けたい。「(空間)分解能 (角度)秒」

などと表わす。

焦点距離が長ければ実像は大きくなる。しかし、回折による限界があ

り、空間分解能を上げるには口径をそれなりに大きくしなければなら

ない。

23

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回折による分解能の限界を θとすると

θ ≈ 1.22λ

D(34)

ここで Dは望遠鏡の口径。

大気による揺らぎは折角の空間分解能力を駄目にする。宇宙に出るか、

能動光学を使う。

干渉計と言う方法も大変有効である (特に、電波干渉計 VLBI 、赤外や

可視光でも)。具体例、VLA(写真参照), VSOP

• エネルギー分解したい。(スペクトル) ⇒ 元素の組成や、物理状態が分かる。

光では、プリズムや回折格子を用いる。エネルギーが高いものでは光子

一つ一つのエネルギーを測定することができる。

エネルギー分解能 (スペクトル分解能)は分解できるエネルギー差や波

長の差をもちいて、∆E/E や ∆λ/λ で表わす。

• 時間分解能;やってくる光子(電磁波)が時間変動するときその変動をどれほど早いものまで追跡できるかの能力。パルサーでは電波からガ

ンマ線まで、10msecくらいの早い周期のパルスをしている。

• 偏光の様子を調べたい。

その時代の最高のテクノロジーが天文学では常に導入される。レンズ前面から入ってきた光 (波) が焦点面で作る像は入射した波の振幅の フーリエ変換と

して理解できることを示しておく。レンズが光を集めるということを、光の屈折ではなく、波の重ねあわせという観点で考える。

無限に遠くにある点光源からの光はレンズの前面で平面波になる。この波は焦点 F に像を結ぶ(図参照)。O を通って焦点 F に至る光に対し、P を通って F に至る光は

∆ℓ = PF −OF ≃b2

f(35)

だけ余分な経路を通るため、位相差 2π∆ℓ/λ を持つ。ここで OF = f,OP = b とした。しかし、Oの所のレンズは厚く、位相に遅れが生じている。レンズの厚さによる点 Oと点 Pにおける位相差を Φ(b) と書くと、すべての b に対して

2π∆ℓ

λ+Φ(b) = 0 (36)

になるようにレンズの厚さを調整しておけば、点 F ですべての波が同位相で強めあって輝点を作る。次に点 P を通って点 Q に至る光の位相を考えると

PQ =√

f2 + (b+ x)2 (37)

であるから、OF との差は

PQ−OF = f

1 +

(b+ x)2

f2

12

− f (38)

∼=b2

f+

bx

f= ∆ℓ+

bx

f(39)

24

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である。O を通って F に至る光との位相差は

2π∆ℓ

λ+Φ(b) + 2π

bx

λf= 2π

bx

λf(40)

となる。色々な b の値から来る波の重ねあわせとしての点 Q における振幅は

a(x) =

∫A(b)e(2πbx/λf)idb (41)

となる。A(b) は点 P における波の振幅である。2πb/λ = Y, x/f = x とすれば

a(x) =

∫A(Y )eXY idY (42)

となる。つまりレンズ前面での波の振幅 A(b) に対して、像は A(b)のフーリエ変換になっている。平面波の入射に対し、像は δ -関数で点になる。ここで、もしレンズの直径が有限であることを考えると、A(b)は箱形の関数でそのフーリエ

変換としての像は点ではなく図のように「サイドローブ」を持った山なりの関数である。像はひろがりを持ったあいまいなものである。ひろがりは、みかけの間隔 θ として次のような関係にある。

XY ∼ 1,πD

λ∼

x

f= θ (43)

これに比べてずっと接近した2点は分解することができない。これが分解能の目安を与える。

問題 11 ケプラー式の望遠鏡を考える。対物レンズの焦点距離を f1、接岸レ

ンズの焦点距離を f2、とするとき、望遠鏡の倍率はいくらか。

問題 12 口径の大きな望遠鏡を作る理由を説明せよ。

(問題終わり) diffrQ

25

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2.3 観測量:fluxと Instenisty

fi.tex

宇宙物理学のポイント

ある天体からの光を受け取ったとき (星のような点にしか見えないとき)

受け取ったエネルギーを dE

受光面積を dA

観測時間を tから t+ dt

観測振動数が ν から ν + dν

とするとき、

Fν =dE

dt dA dν(44)

を (エネルギー)フラックス flux と呼ぶ。単位はたとえば、[erg/sec cm2 Hz] 。

もし天体がひろがっていて見かけの大きさをもって観測されるときは、その天体のどの部分か

ら来た光かを選ぶことができる。

選んだ領域の立体角を dΩ とするとき、

Iν =dE

dt dA dν dΩ(45)

を放射の強度 Specific Intensity (あるいは輝度 Brightness)という。単位は、たとえば [erg/sec

cm2 Hz str ]。

両者の関係は

Fν =

∫Iν cos θdΩ (46)

である。θ はフラックスを考えている面の法線となす角度。立体角の積分はそ

の天体の見えている範囲とする。(すべての立体角で積分したものを net flux

と呼ぶ。)

「立体角」って概念に抵抗を感じますか?

ところで、あなたは何座生まれ?ぼくオリオン座なあんて言わないでくだ

さいね。ちなみに私は、しし座です。あなたの星座は広いですか?狭いです

か?星座の広さはどうやって測りますか?

縦が3度、横が2度だと 3×2 = 6mbox (6平方度)となります。見かけの

広さなので角度×角度になります。ラジアンで言うと (3×π/180)×(2×π/180)

= π2/5400str (ステラジアン) となります。

もし広さを球面極座標の縦横で表わすと、縦が dθ で、横が dφ とすると、

横の実質の大きさは sin θdφ になります。(良く分からないって?、図を書い

てみなさい!) 従って、立体角は

dΩ = sin θdθdφ (47)

26

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になります。

補遺: 放射の強度 と光子の分布関数。

Instensity を光子の分布関数として粒子的に捕えることもできる。

光の分布関数の定義: 6次元空間 (x, y, z, px, py, pz)を考えて、この空間

の微小体積内に入っている光子の数を (snap shot を想像して)

dn = fph(r,p)dxdydzdpxdpydpz (48)

= fphh3

c3ν2dνdΩdV (49)

= fν(r, θ, φ)dνdΩdV (50)

のように光子の分布関数を考える。ここで、式の2行目では運動量空間では球

面極座標を考えて、(px, py, pz)のかわりに (p, θ, ϕ)を用いさらに、p = hν/c

で運動量の大きさを振動数に直している。最後の式で、新しく fν を定義して

いる。

光子の分布関数と放射の強度との関係を付けよう。

ある方向 (θ, φ) を中心に範囲 dΩ に運動する光子の群れ (ただし、振動数

は ν ∼ ν + dνの間とする)を考える。この群れが面積 dAの検出器を dt秒間

に通り抜けるとして、その数はいくらか?また、通り抜けるエネルギーはい

くらか?と考えると、関係式:

Iν = cfνhν (51)

が得られる。

補遺おわり

天体からDだけはなれたところで天体のある部分 R から来ている強度 Iν

を測った。天体から受けたエネルギーを dEとして部分 R がつくる立体角を

dΩとする。天体までの距離が遠いほど D−2に比例して dE はちいさい。同

時に、dΩ も D−2 に比例して小さくなる。したがって、一つの光線上では (天

体からの距離に関係なく) Iν は同じ値になることがわかる。

宇宙物理学のポイント

光が途中吸収も放射もされないなら、一つの光線上で、

Iν = 一定 (52)

が成立する。

フラックス、放射強度、光度は、光の振動数を ν から ν + dν の間に限っ

てエネルギー量を測定した値が

Fνdν, Iνdν, Lνdν,

27

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で与えられるように、Fν , Iν , Lν という量を定義することができる。これら

の量は振動数 ν の関数である。一方、振動数について積分された全フラック

ス、全放射強度、全光度

F =

∫Fνdν, I =

∫Iνdν, L =

∫Lνdν,

を定義することができる。これから、両者を区別して用いることにしよう。

問題 13 1. 1m2 の鉛直な窓の一方から一様な照明があるとする。照明の

強度 (Instensity)は、ν ∼ ν + dν の間で Iν とする。この時の窓の面に

おける flux Fν を求めよ。(答え: πIν)

2. もし、窓の左右の両方から同じ強度の照明があれば、窓の面における

flux Fν はいくらか。(答え: 0)

(問題終わり) fluxQ

問題 14 太陽は直径約 30分の円盤に見える。円盤は一様に光っているとし

て太陽円盤の方向の放射積分強度 (振動数で積分した強度)

I⊙ =

∫ ∞

0

I⊙νdν

がいくらになるか求めてみよう。

ここでは、実際に測定するのでなく、太陽定数として本などに書いてある

値、1.4× 106erg/sec cm2 または 1.4 kW/m2 をもちいて求めてみよう。

太陽定数は、地球の軌道上での太陽光の積分 flux

F⊙ =

∫ ∞

0

F⊙νdν

のことである。即ち、地球軌道面で太陽に正面を向いた単位面積あたりうけ

るエネルギー量である。

(問題終わり) intensityQ

問題 15 太陽表面でのエネルギーの流れを与えるフラックスを Fν [W/m2

Hz] とし、太陽を 1 AU 離れた距離 (地上で)観測したときの放射強度を Iν

[W/m2 Hz str] とする。Fν と Iν の関係を求めよ。

(問題終わり) telscQ

2.4 干渉計

intf.tex

28

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一つの望遠鏡の口径がDのとき空間分解能は ∼ λ/Dだけれど、複数の望

遠鏡を並べて、観測した電磁波を干渉させることによってより高い分解能を

得ることが出来る。ことのき、並べた望遠鏡の端から端までの距離を D′ と

して、得られる分解能は同じ式 ∼ λ/D′ になる。つまり、口径 D′ の望遠鏡

を持ったのと同じ空間分解能が得られる。現在、地上の電波望遠鏡と人工衛

星で打ち上げられた電波望遠鏡の干渉をとることができて、そのとき D′ は

衛星の軌道半径程度になる。

口径 D′ の望遠鏡を持ったのと同じ空間分解能が得られるが、受光面積は

D′2 よりはるかに小さいので受け取る電磁波のエネルギー総量は小さくてこ

の意味では口径D′ の望遠鏡を持ったのと同等ではない。

最近の電波観測では干渉計の手法をもちいて銀河中心のブラックホールが

有限の大きさにもうすこしで見えそうになってきている。

観測例と装置の例は web pages を参照。

問題 16 VLAは干渉計の技術を用いた電波望遠鏡である。(Rreen Bank, West

Virgnia, USA, National Radio Astronomical Observatory). 基線の長さは約

27kmで観測電波の波長は 1cm – 10cm である。この干渉計の (位置)分解能

はいくらか。角度秒で答えよ。

(問題終わり) intfQ

回答例 intfA

望遠鏡の回折限界による分解能は

∆θ = 1.22λ

D=

1.22× (1− 10)cm

2.7× 106cm= (0.45−4.5)×10−6rad = 0.09−0.9arcsec

(53)

最後の計算では、ラジアン数を πで割り 180を乗じて角度になおし、これに

3600を乗じて秒角 (arcsec)単位の値を求めている。

2.5 分光

spec.tex

論より証拠: ます、スペクトルを見てください。

簡易分光器

望遠鏡で集めた光を分光して調べる。色々な色に分解する (プリズムみた

いに)すること。電波ではラジオの選局とおなじ。

いろんな分光装置がある。

分光では受け取った電磁波のフーリエ変換 (の2乗)をしている

29

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受け取った電磁波を E(t)と書くと、

E(t)

フーリエ

=⇒変換

E(ω) =1

∫ ∞

−∞E(t)eiωtdt (54)

で、観測される flux (スペクトル)は Fω = c|E(ω)|2 になっている。実際、振動数で積分したfluxはF = (c/4π)

∫E(t)2dtでParseval’s theorem∫ ∞

−∞E(t)2dt = 2π

∫ ∞

−∞E(ω)2dω4π

∫ ∞

0

|E(ω)|2dω (55)

から、

F =

∫ ∞

0

Fωdω (56)

が成立する。

宇宙物理学のポイント

スペクトルには顔がある。人相をみて人柄 (その光のもとになった天体の正体) がわかる。もっ

とも初歩的な類型は、

連続スペクトル輝線スペクトル、吸収線スペクトル

人相学の例、

原子特有の線スペクトル ⇒ 元素の存在がわかる。

線スペクトルの Dopper effect ⇒ 物質の視線方向の速度がわかる⇒ 例、

銀河の回転 (Dark matterの存在を知る)

web pages 銀河回転

2.6 光と物質の熱平衡 (黒体放射)

black.tex

光子の集団に温度を考えるって、考えられる?

宇宙物理学のポイント

温度 T のリサーバに囲まれた容器の中にある光子気体も温度 T で熱平衡にあるだろう。この時

の強度 Iν は T のみの関数であり、方向によらないし、特別な偏光方向もない。これを Bν で

あらわす。

Iν = Bν(T ) 熱平衡の時 (57)

Planck function

具体的な関数形は統計熱力学でやったとおり、

Iν =2hν3/c2

ehν/kT − 1≡ Bν(T ) (58)

30

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planck分布

この分布 (スペクトル)の最大値は

hνmax ≈ 2.82kT (59)

で現われる。これは Bν を ν で微分してピーク値をもとめれば得られる。同

様のことを波長の関数としてのプランク分布

Bλ(T ) =8πhc

λ5

1

ehc/λkT − 1(60)

に対して行うと、波長の関数としての強度のピークは λmax ≈ hc/4.97kT を

得る。

hν ≪ kT のとき Raylei-Jeans law

Iν ≈ 2ν2

c2kT (61)

hν ≫ kT のとき Wean law

Iν ≈ 2hν3

c2exp

(− hν

kT

)(62)

と近似される。

何色の星は表面温度何度くらいというのは hνmax ≈ 2.82kT から推定がつ

くよ。

容器に小さな穴をあけて穴から出るフラックスを求めると、

Fν =

∫Iν cos θdΩ

= πIν = πBν (63)

となる。ここで、立体角は穴から外向きの 2π str の範囲。

穴から出る全エネルギーフラックスを求めると、

F = π

∫ ∞

0

Bν(T )dν =2π5k4

15c2h3T 4 ≡ σT 4 (64)

ここで、 ∫ ∞

0

x3

ex − 1dx =

π4

15(65)

を用いた。

宇宙物理学のポイント

黒体放射をする表面から出るエネルギーは単位面積、単位時間あたり、

F = σT 4 ここで σ =2π5k4

15c2h3T 4 = 5.67× 10−5erg/cm3 deg−4 sec (66)

Stefan-Boltzmann law

31

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問題 17 光子気体の圧力の表式 p = u/3 を思い起こせ。ここで、u は光子

のエネルギー密度 (単位体積あたりのエネルギー) である。熱力学の関係式

TdS = dU + pdV を変形して、

dS =V

T

du

dTdT +

4

3

u

TdV (67)

=

(∂S

∂T

)V

dT +

(∂S

∂V

)T

dV (68)

を示し、さらに、二つの ∂2S/∂T∂V の表式を等しいと置いて、

u = aT 4 Stefan-Boltzmann law (69)

を導け。ここで、考えている光子の体積を V、エネルギーを U と置いた。

(問題終わり) StefanQ

(StefanQ: 回答例)

dU = d(V u) = V du+ udV と p = u/3 に注意して、

TdS = V du+4

3udV (70)

これより、問題文にある等式が示される。

つぎに、 (∂

∂V

(∂S

∂T

)V

)T

=∂

∂V

(V

T

du

dT

)T

=1

T

du

dT(71)(

∂T

(∂S

∂V

)T

)V

=∂

∂T

(4

3

u

T

)T

=4

3

(− 1

T 2u+

1

T

du

dT

)(72)

このふたつの評価が等しいとおくと、4dT/T = du/u を得る。これを積分

して、

lnT 4 = lnu+ const., or u = aT 4 (73)

を得る。

問題 18 ある与えられた振動数 ν の光で黒体放射を観測するとき、その強度

は温度とともに単調に増加することをプランクの放射公式から示せ。

(問題終わり) blackQ

※熱制動放射、シンクロトロン放射は advanceコースに譲る

2.7 星の有効温度

efftemp.tex

32

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星から出てくる放射は黒体放射に似ている (そう仮定する)。そうすると、

星の表面でのエネルギーフラックス F∗ と観測されるエネルギーフラックス

Fobs は星の半径 R と星までの距離 D で結びついているので、

F∗ =

(D

R

)2

Fobs (74)

≈ σT 4 (75)

とあらわせる。ここで、必要な観測量は、F∗、D、Rである。こうして求め

た温度は星の表面温度のよい指標になっている。

上の関係を用いると、星の光度は、

L = 4πR2F∗ ≈ 4πR2σT 4 (76)

とあらわせる。

宇宙物理学のポイント

星の表面温度をあらわす量として有効温度 (effective temperature) Teff を用いる。星の有効温

度は、その星の光度とおなじ光度をもつ黒体の温度で定義する。

LRT; L = 4πR2σT 4eff (77)

おおくの場合半径は測定できない。スペクトルや色から Teff を推定し(星

のスペクトル形成の理論モデルが必要)、その結果を上の式に代入すると星の

半径がわかる。

(温度決定について) 半径は普通分からないので F∗ が分からない。詳細な

スペクトル、星の大気モデルによる理論スペクトルがあれば、スペクトルか

ら温度が決められる。詳細なスペクトルも難しいときは、U,B,V,R,I などの

フィルターを用いた測光により、二色以上の見かけの等級差 (フラックス比)

から温度を推定する事ができる。色温度という。

例、2波長での観測が有るとフラックス比は

Bλ1

Bλ1

=λ52

λ51

ehc/λ2kT − 1

ehc/λ1kT − 1(78)

となるので、等級差は

m2 −m1 =5

2log

(Bλ1

Bλ1

)≈ 5

2log

λ52

λ51

+hc

kT

(1

λ2− 1

λ1

)= a+

b

T(79)

なので、いくつかの精密観測で a,bを決めれば任意の星の温度を二色の測光

で決められる。

2.8 HR図

HRzu.tex

33

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星のスペクトルの分類には、O型、A型、... とかあって、分類法の発展に

は長い歴史がある。しかし、星のスペクトルは星の表面温度によっていろい

ろな顔をすることが理解され、現在では、有効温度で決まる系列として、次

のように分類されている。

O B A F G K M

R N

S

高温 低温青 黄 赤

(Russell’s students in Princetonの暗記法がある。しかし、最近はセクハラ

になりかねないこの暗記法は教室や教科書でお目にかかることが徐々に減っ

て来ている。O Be A Fine Girl Kiss Me Right Now, Smack!)

宇宙物理学のポイント

横軸に有効温度の対数あるいはスペクトルタイプ、あるいは色をとり (左が高温なので注意)、

縦軸を光度の対数あるいは絶対等級にとり、色々な星をプロットして星を分類することができ

る。この図を HR図 (Hertzsprung-Russel Diagram) と呼ぶ。

右上が巨星、中央の帯状のが主系列星、左下が白色矮星

⇒ ホームページ図参照 HR図

(77)式、HR図上に星の半径=一定、の線を描くことができる。右上は半

径の大きな星であり、左下は半径の小さな星である。

巨星、主系列星、白色矮星 (わいせい)の3つをまず覚えてください。(宇

宙物理を専攻するようになると更にこれらの分類と星の進化の関係やさらに

細かい分類を習います。ここでは深入りしません。)

HR図は星を単に分類するだけでなく、星の進化を考える上で非常に有用

である。星が星間ガスから作られ、星の中心で核融合が始まり光り始めると、

その星は HR図上の主系列の位置に来る。主系列の帯に沿って星の質量が異

なる。高温で明るい星ほど質量が大きな星である。中心部の水素からヘリウ

ムへの核融合が終わると、星は HR図の上で移動しはじめ、巨星の領域に変

化する。太陽の程度の質量の小さな星は核反応がやがて止まり冷えてゆくと、

HR図上では白色矮星の位置になる。

球状星団の HR図から球状星団の年令がわかります。もっとも古い球状星

団の年齢は宇宙の年令に近いから。宇宙の歴史を知るうえで重要。

問題 19 星からの放射が黒体放射であると近似できるとする。星の光度 L と

表面温度 T と半径 R の関係式を導こう。

34

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(問題終わり) efftempQ

問題 20 近距離星の表をもとにHR図を作成せよ。超巨星、巨星、主系列星、

白色矮星はどれか。

(問題終わり) HRzuQ

問題 21 HR図の上で中央に左上から右下に並ぶ星々を主系列星と呼びます。

これに対し、右上にある星は巨星と呼ばれ、星の半径がとても大きい星です。

この右上にくる星が半径の大きな星だと考えられている理由を述べなさい。

(問題終わり) HR2Q

(HR2Q: 回答例) 巨星はHR図上で右上に位置する。このことは (主系列星に

比べて)、星の表面温度が低いわりに光度が大きいことを意味する。

星の表面からの放射のフラックスは、星の有効温度 (∼表面温度) を T と

して、F = σT 4と表される。ここで、σはステファンボルツマン定数である。

したがって、星の半径を Rとするとき、星の光度は L = 4πR2σT 4で表され

る。つまり、同じ表面温度でも光度が大きいと言うことは星の半径が大きい。

ゆえに、HR図上で右上に位置する星は、表面温度が低く、光度が大きく、し

たがって、半径が大きいことがわかる。

問題 22 シリウス (α CMa)の見かけの等級 m = −1.5とその距離 2.7pc か

ら絶対等級 M を求めよ。

ベテルギウス (α Ori)の見かけの等級 m = 0.8とその距離 150pc から絶対

等級 M を求めよ。

シリウスのスペクトル型はA型、ベテルギウスのスペクトル型はM型であ

る。太陽に比べて、これらの星はすごく光度が大きいが、太陽とどこがちが

うのか?それぞれについて議論しなさい。

(問題終わり) startypeQ

(startypeQ: 解答例)

M = m− 5 logD + 5

から、与えられた見かけの等級mと pc単位の距離Dを代入する。

シリウスの場合は

M = −1.5− 5 log(2.7) + 5 = 1.3 (or 1.4) (80)

ここで

log 2.7 ≈ 0.301 + (0.477− 0.301)× 0.7 = 0.38 ≈ 1.4(表より線形補間)(81)

log 2.7 = log 3 + log 9− 1 = 0.431(表より) (82)

35

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ベテルギウスの場合は

M = 0.8− 5 log(150) + 5 = −5.1 (83)

ここで

log 150 = log 1.5 + 2 ≈ 0.301× 0.5 + 2 ≈ 2.15(表より線形補間) (84)

log 150 = log 3 + log 5 + 1 = 2.176(表より) (85)

公式に不慣れなときは、検算をした方が良い。たとえば、ベテルギウスは

基準である 10pc に比べて 15倍遠い位置にいる。したがって 10pcに置くと

152 = 225倍明るいはずだ。100倍明るいと 5等明るく、2.5 倍明るいと約

1等明るいことを思い出すと、約 6等明るいことがわかる。0.8 − 6 = −5.2

程度と概算できる。シリウスは、逆に 10pc の 1/3.7 倍の位置にあるので、

3.72 = 14倍明るく見えている。2.5× 2.5× 2.5 = 15.6 なので、絶対等級はみ

かけより約 3等暗いことになる。よって、−1.5 + 3 = 1.5等と概算できる。

これらの星の絶対等級は太陽のそれ 4.7 と比べるとずいぶんと明るい。こ

こで、星の光度 Lは、星の半径と有効温度と

L = 4πσR2T 4 (86)

の関係にあることを思い出すと、

(1)シリウスはスペクトルがA型で有効温度が1万度ほどあり、(10000/6000)4 =

7.7倍ほどフラックスが大きい。この効果だけで (5/2) log 7.7 = 2.2等くらい

明るくなる。おそらく質量が太陽より大きく、半径も若干大きいと思われる

ので、太陽より 3等弱明るくなったとおもわれる。

(2)ベテルギウスはM型星で有効温度は 3000度くらいで太陽の半分近い。に

もかかわらず光度が 10等近く太陽より大きい。光度にして 1万倍である。し

たがって、温度のことを考えないでおくと、半径が 100倍くらい大きな星 (巨

星)であることが予想される。温度の効果を入れると、半径は太陽の 400倍

程度と思われる。

星の進化と HR図の関係をざっと見ておく。

重力によるガスの収縮により星が形成。エネルギーの放出と重力収縮が同

時進行であることに注意する。収縮すると重力の位置エネルギーが解放され

ガスの温度は上昇する。さらにエネルギーの放出が続く。エネルギーが放出

すると温度が上がるので負の比熱ということになる。これは自己重力系の特

徴である。

中心が高温高密度になり水素からヘリウムへの核融合反応が起きる。この

時の温度は 1500万度くらいである。核融合によるエネルギー生成と星表面

からの放射が釣り合い、重力と圧力勾配が釣り合ったところで、太陽のよう

な安定した恒星が誕生する。太陽だと 100億年くらいこの定常状態が保たれ

る。これが主系列星の状態である。

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水素からヘリウムの融合が進むと中心にヘリウムからなる中心核が形成さ

れ核融合は核の表面でおこっている状態になる。これを水素燃焼殻という。

ヘリウムがたまって中心核が成長してくると不安定になり (Mcore > Mch)、

重力収縮が始まり中心部の密度と温度が上昇してゆく。(中心部に「He中心

核」というあたらしい星が出来たみたい!中心にエネルギー源を持たないの

で重力エネルギーを出しながら収縮する。) 水素燃焼殻は核反応の条件によ

り密度、温度、つまりは、圧力がだいたい決まっているので、収縮したコア

の圧力上昇のため圧力勾配力が発生し、燃焼殻から外が押し出され星は膨ら

むことになる。こうして星は巨星に進化する (RGB)。巨星の外層は対流して

いるので対流条件で半径や温度が決まってくる (詳細略)。

主系列星の釣り合いの条件から、質量と光度は L ∝ M3.5 の関係になるこ

とが導ける。水素を食尽すまでの時間は従って、大質量の星ほど早いので、

大質量の星ほど早く巨星の段階へ移行してゆく。

He中心核という「星」の中心が 2億ど位になると、ヘリウムから炭素へ

の核融合反応が始まる。3α 反応。炭素にさらにヘリウムがくっついて酸素

ができる。それが進むと「CO中心核」が形成される。水素殻燃焼とヘリウ

ム殻燃焼が同時に存在する赤色超巨星段階となる (AGB:Asymptotoic Giant

Branch)。

CO中心核の質量が少なければ電子の縮退圧で支えて白色矮星としてあと

は冷えていくだけの運命となり、外層は広がって惑星状星雲をつくる。質量

が < 8M⊙ であればこうなる。また、中心核の質量が大きければ重力収縮を

起こし核融合反応が進む。ここでそのような核融合反応の段階を表に示して

おく。

10M⊙よりも大きな質量の星では CO中心核の質量が十分に大きいので重

力収縮はどんどん進み、核融合反応もどんどん進行する。外から順にに Hの

層、Heの層、CO中心核といった構造が出来た時の繰り返しで、最も安定な56Fe まで合成が進む (これ以上核融合してもエネルギーは取り出せない)。こ

のとき星の構造は、外から順に H,Si,(O,Ne,Mg),(C,O),He,Hという層にわか

れて、いわゆる「タマネギ構造」になっている。最後の段階ではエネルギー

放出は光でなくてニュートリノになっていてすかすかエネルギーが抜けるの

で反応スピードは中心がどんどん早く進行していき、中心部がほぼ独立した

形で、1.3–2M⊙ の鉄の中心核ができる。

鉄のコアの温度は50億度を超える。ニュートリノでどんどん熱が抜かれ

るので鉄のコアは収縮しさらに温度が上昇する。すると、光子による鉄原子

の分解がはじまる。(重力によって鉄が分解されるといってもよいだろう。)

56Fe → 13 4He + 4n− 124.4MeV (87)

4 He → 2p + 2n− 28.3MeV (88)

で鉄一原子あたり 161MeV の吸熱反応がほんの 0.1 秒くらいで起こって圧

力は低下し爆縮とよばれる落下運動がおこる。こうして、中心核はつぶれ

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表 1: 星の内部で起こる主な核融合反応

燃焼 主な反応 主な 温度 継続時間の

段階名 生成物 (108K) 目安 (20M⊙)

H ppチェイン、CNOサイクル 4He 0.15-0.2 1千万年

He3 4He →12 C12C+12 C →1 6O + γ

14C16O

1.5 数万年

C12C+12 C →23 Na + p12C+12 C →20 Ne + α

Ne, Na

Mg, Al7 100年

Ne20Ne + γ →16 O+ α20Ne + α →24 Mg + γ

O

Mg15

O16O+16 O →28 Si + α16O+16 O →28 P + p

Si, P, S

Cl, Ar, Ca3 数ヶ月

Si

28Si + γ →24 Mg + α24Mg + γ →23 Na + p24Mg + γ →20 Ne + α

その他多くの反応 → 統計平衡

Cr, Mn Ge,

Co, Ni, Cu40 数週

出典:野本憲一編「元素はいかにつくられたか」岩波書店

て中性子あるいはブラックホールが形成される。この吸熱量を念のためエ

ネルギーをチェックしておくと、太陽質量程度の鉄原子中心核だと鉄原子

の数は M⊙/mFe = 2 × 1055 個であるので、全吸熱量は 1.2 × 1052erg に

なる。一方、太陽質量の中性子星が形成されるとすると重力がする仕事は

GM2⊙/RNR = 3× 1053erg で吸熱を余ってあるエネルギーが爆縮によって解

放される。これが超新星爆発のエネルギーである。ここで、中性子星の半径

は RNS は 10km程度である。

2.9 放射輸送の方程式

radtransfer.tex

復習 光の放射・吸収がないとき Intensity Iν は光線に沿って一定である。

太陽からの日差しを受けている部屋の中を考えよう。太陽からの光線は途

中で多少吸収は受けるもののおおよそ Iν = Bν(T⊙) になっているだろう。こ

こで、T⊙ ∼ 6000K は太陽の表面温度。しかし、同じ部屋の別の方向の光線

では Iν = Bν(Troom) になっているだろう。ここで、Troom ∼ 300K は部屋の

温度。

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宇宙物理学のポイント

光の物質による吸収 (absorption)や放射 (emission)によって物質と放射 (radiation)(光子の集

団) は熱平衡に近づいて行く。しかし、大抵の放射は熱平衡になってない。(非平衡なので厄介)

光の吸収や放射を直接扱う必要がある。(天文をやるとき一杯勉強をしなければならなくなる

部分)

Radiationにはかつては輻射ということばが充てられていましたが、漢字

が難しいので放射で代用しています。emissionと混同しますねこれでは。

[吸収] 原子によって振動数 ν の光が捕まえられる断面積を σν、原子の密

度を n とすると、光が dlだけ進む間に、κν = nσνdl の割合で吸収が起こる。

[放射]

光の放射量を表す、放射係数 (emission coefficient) j [erg/cm3 sec str]: 単

位時間あたり、単位体積あたり、単位立体角あたりのエネルギー放射。これ

を、ν ∼ ν + dν にしぼって考えるとき、monochromatic emission coefficient

jν を用いる。

放射強度 (Intensity)I は光線にそって、

dIνds

= −ανIν + jν (89)

に従う。sは光線にそった長さ。輻射輸送の方程式 (radiation transfer equation)

と呼ばれる。

熱平衡状態では強度は一定で、dIν/ds = 0、Iν = Bν(T )。輻射輸送の方程

式にこの条件を代入すると jν/αν = Bν(T ) になる。これから、つぎのことが

解かる。

宇宙物理学のポイント

温度 T の熱平衡状態にある物質について放射係数と吸収係数の間には、

jναν

= Bν(T ) (90)

の関係がある。Kirchoff’s Law

厚さ L、吸収係数 αν の雲を通して光源 (星)(強度を I0とする)からの光を

見るとどうなるか。

Iν = I0e−ανL (91)

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宇宙物理学のポイント

物質と光が相互作用する距離の目安は光子の平均自由行程 ℓν で与えられる。これは振動数の

関数。 ℓν = κ−1ν

τν =

∫ανds (92)

は光学的距離 (光学的な厚さ)と呼ばれて、光子の平均自由行程の単位でどれくらいの距離かを

表している。τν ≪ 1 なら光は物質と相互作用していないし、τν ≫ 1 なら光は物質とつよく相

互作用している。

源泉関数 (Source function)はつぎのように定義される。

Sν =jναν

(93)

輻射輸送の方程式の書き換え:

dIνdτν

= −Iν + Sν (94)

この式から、わかることとして、

もし、Iν > Sν ならば、 Iνは減少する (95)

もし、Iν < Sν ならば、 Iνは増加する (96)

十分に光学的に厚いときの Iν の性質。

τν → ∞ のとき Iν → Sν , (97)

熱平衡なら、この Sν はまさに Bν(T ) である。

問題 23 太陽表面でのエネルギーの流れを与えるフラックスを Fν [W/m2

Hz] とし、太陽を 1 AU 離れた距離 (地上で)観測したときの放射強度を Iν

[W/m2 Hz str] とする。Fν と Iν の関係を求めよ。

(問題終わり) telscQ

2.10 星の線スペクトルの形成

吸収係数 αν 、べつの言葉でいうと、光子の平均自由行程 ℓν は ν によっ

て変わる。ちょうどある原子の遷移エネルギーにぴったりな光子にとっては

吸収係数は大きくなり、平均自由行程は短くなる。今そのようなある遷移エ

ネルギーを ∆E = hν0 とする。

恒星の表面大気に高温層 (T1) と低温層 (T2) があり、高温層が下になって

いるとする。一般に上の層に行くほど気体の密度は減少し、光子の平均自由

行程は減少傾向にあることに注意。

40

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振動数 ν0の光子にとっては吸収係数が大きく、平均自由行程は層の厚さよ

りも小さいとする。このときは、下にある高温層では Iν0 = Bν0(T1) であり、

上にある低温層では Iν0 = Bν0(T2) になる。低温層の上端より上で平均自由

行程が層の厚さより大きくなったとすると、放射強度は Iν0 = Bν0(T2) のま

ま一定になり、これが観測される。

一方、ν0と振動数のことなる光子は物質との相互作用が小さく、平均自由

行程が長い。その結果として、下にある高温層では平均自由行程は層の厚さ

に比べて小さいものの、上の低温層では平均自由行程が十分長くなっている

と仮定する。この時、下にある高温層では Iν = Bν(T1) であるが、上の高温

層では、Iν は余り変化しないまま、ついには観測される。

結局、観測される強度は、

Iν0(観測) = Bν0(T2) (98)

Iν(観測) = Bν(T1) (99)

となる。T1 > T2 なので、Bν(T1) > Bν0(T2)となり、吸収線 (line absorption)

が観測される。

もし、高温層が上に乗っていれば、同様な考察から逆に ν0 の強度が強く

なり、輝線スペクトル (line emission)が得られる。

以上が、吸収線 (line absorption) が観測されるか、輝線スペクトル (line

emission)が観測されるかの判断の仕方である。

実際には、もう一つ考えなければならない要素として、与えられた温度な

どの物理状態でそのようなエネルギー遷移が起こりうるか、そのような原子

が存在するか、という問題がある。たとえば、太陽コロナは 106K で、光球

は 6000K であるので、高温層が乗っている構造をしている。しかし、そのよ

うな高温では中性の水素は存在しないので (すべて電離している)中性水素の

輝線はあらわれない。鉄は高階電離していてそのような鉄の輝線はあらわれ

る。光球は 6000K であるがその内側の部分はより高温になっているので、低

温層が上に乗った構造をしている。この層にある中性水素の吸収スペクトル

はちゃんと観測される。

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3 形を捉える感覚

宇宙物理学のポイント

天体の色々な形を楽しんでみよう。

• まるい: 星、球状星団、銀河団

• 円盤: 銀河、降着円盤、

• リング: 土星の輪、SN1087A3リング

• ジェット: 星ができるときの、ブラックホールの周り、パルサーの周り

• 球殻 (バブル): 惑星状星雲、超新星残骸

• その他:フィラメント、渦巻き、円錐、....

形にはその形ができる「わけ」があるはず。

3.1 自己重力系

星団、銀河団はまとまって生まれたからまとまっているのとちがう?(うそ)

crossing time (横断時間)を次のように定義する。

tcross =R

v(100)

ここで、Rは天体の集団の大きさ、vは天体の典型的な速さ。たとえば、銀河系

内の太陽の運動速度はV⊙ ≈ 250km/s銀河のサイズは 50kpc位。tcoss ≈ 108yr

≪35億年。

散らばらないようにまとめる力が必要。

宇宙物理学のポイント

風船はまるいのはなぜ?

慣性の法則にしたがって分子が散らばるのをゴムの膜で押さえています。このとき、圧力を感

じます。

天体をまとめている力は重力です。(外部からまとめる力でなく互いの万有引力で引き合ってま

とまっているとき、自己重力系といいます。)

二つの質量 m1 と m2 に働く万有引力 (重力)の大きさは、2つの質量間の

距離を rとして

F = Gm1m2

r2(101)

で与えられる。G = 6.773× 10−8dyn/cm2g2 は万有引力定数である。

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たくさんの質量があるときは引力は全ての組み合わせで働く。

1 に働く力 : F1 = F2 + F2 + F3 + . . .+ Fn (102)

宇宙物理学のポイント

重力は距離の2乗に反比例して減少するけれど、天体が一様に分布していれば、天体の数(そ

れは重力源)は距離の2乗に比例して増える。重力によってまとまった天体のは様々な大きさ、

さまざまな密度でできる。(遠隔力)

問題 24 月の地球の回りの回転運動は、月が地球に向かって落下していると

みなすことができる。この落下運動の加速度 g′ を下のデータから計算せよ。

月の地球のまわりの公転周期:T = 27.3日。

月と地球の間の距離:R = 3.84× 108m。

地上の重力加速度との比 g/g′ を求めよ。ここで、地球上での重力加速度

g = 9.8m/s2 とする。もし、万有引力の強さが距離の 2乗に逆比例するなら

ば、この比は、月と地球の間の距離 Rと地球の半径 (R⊕ = 6.37× 106)の比

の 2乗 (R/R⊕)2 に等しいはずである。このことを確かめよ。

(問題終わり) 月の落下と逆 2 乗法則 inv2Q

g′ = R(2π/T )2 = 2.72× 10−3m/sであるので、g/g′ = 3.63× 103になる。

一方、(R/R⊕)2 = 3.60× 103 で両者はほぼ一致する。

3.2 Virial 定理

重力相互作用する粒子 (原子・分子、星、銀河)の集団を考える。

ひとつのモーメント (集団の大きさに関係した量)

I ≡ 1

2

N∑i=2

mir2i (103)

の「運動」を調べよう(具体的には d2I/dt2 を求めよう。

d2I

dt2= W + 2T (104)

ここで、

T =∑ 1

2miv

2i = 全運動エネルギー (105)

W = −∑

allpairs

Gmimj

rij(106)

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したがって、W + 2T の正負でその集団が重力収縮してゆくか拡散してゆ

くかが別れる。ガスの塊から星ができるとき、銀河ができるときの条件の指

標をあたえる。

また、星や、球状星団、銀河団などが自己重力系として落ち着いていると仮

定すると、W + 2T = 0から、速度分散、大きさ、質量の関係が求められる。

集団の全質量 M =∑

mi

速度分散 ⟨v2⟩ = 2T/M

大きさ (重力半径): rg をW = −GM2/rg で定義。

⟨v2⟩ = GM

rg(107)

使い方:球状星団、銀河団の質量の推定。重力収縮できるかどうかの判定。

4 総合問題

問題 25 ニュートンのりんごの木の話は有名であるが、ニュートンがりんご

の落下を見て気づいたとされているのは、どんなことだろう?以下の3つの

中から一番それらしいことを選べ。

1. りんごの落下は加速度運動で、その加速度は不変な定数、9.8 m/s2 で

ある。

2. りんごが地球の引力に引っ張られたと考えることもできるが、地球がり

んごに引っ張られたと考えることもできる。互いに引力で引き合ってい

るのだ。

3. 惑星と太陽の間に働いている引力と地球とりんごの間に働いている引

力は同じ性質をもっている。

(問題終わり) ニュートンのりんご newtonJQ

問題 26 天体 (恒星や星団や銀河や銀河団)までの距離をどのようにして求め

るのですか?(知っている方法を2つ書きなさい)

(問題終わり) kyoriQ

(kyoriQ: 回答例) 年周視差による方法:地球が太陽の回りを公転運動するこ

とにより、星を見込む角度が変化する (視差)。このため近くにある星は遠方

の星にたいして一年かけて楕円を描くように運動する。楕円の長半径に相当

する角度を年周視差という。これを θとすると、地球の軌道半径を R0 とし

てD = θR0 が星までの距離となる。

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セファイド変光星を用いる方法:距離が年周視差によってわかっているセ

ファイド変光星を調べると、変光周期と絶対等級 (光度)との間に関係がある

ことがわかる (周期光度関係)。(変光星の構造の理論によっても証明される

関係である)。距離が未知の星 (とくに銀河系でなく他の銀河に見つかると銀

河までの距離がわかる)について、その光度変化の特徴からセファイド型変

光星であると同定されれば、変光周期から絶対等級 (光度)を推測し、得られ

た絶対等級M と見掛けの等級 mから距離が計算できる。(距離 D [pc] は、

m−M = 5 logD − 5の関係から求める。)

ハッブルの法則を用いる方法 (遠方の天体): 宇宙が膨脹していると言う事

実によって、観測される天体の後退速度 v と天体までの距離 D は v = H d

という関係を持つ。ここで、H ≈ 71 km/s Mpc はハッブル定数と呼ばれる。

未知の銀河などはそのスペクトルのドップラー効果(赤方偏移)から後退速

度を求めることができるので、v を知れば、距離を求めることができる。遠

方の銀河では、銀河固有の運動は宇宙膨脹の効果にくらべて小さい。

問題 27 電波望遠鏡、光学望遠鏡、X線望遠鏡などいろいろな望遠鏡を作る

のはなぜですか?具体例を挙げて説明せよ。

(問題終わり) iroirotelQ

問題 28 太陽の表面温度は約 6000度 (K)とかいいますが、どのようにして

その温度がわかったのですか?

(問題終わり) suntempQ

問題 29 球状星団の全質量を推定する方法を2つ上げなさい。

(問題終わり) globQ

問題 30 宇宙にある質量の約 85% についてはその正体が何か、まだ知られ

ていません。この知られざる物質を「暗黒物質 (dark matter)」などと呼んで

います。この暗黒物質の存在することになぜ人類は気がついたのですか?

(問題終わり) darkmQ

(回答例 darkmQ)

(銀河回転によるもの) 銀河円盤に沿ってスリットをあててスペクトルをと

るとスペクトル線は直線に見えず曲がって見える。これは銀河円盤のガスの

視線方向速度によるドップラー効果のためであり、これによって、銀河のガ

スの回転速度を求めることが出来る。ガスの運動は円運動であるのでこれよ

り v2/Rが向心加速度を与える、この起源は重力である。この観測から半径

R 以内にある総質量が推定できる。一方星やガスの質量を光から推定するこ

とができる。両者の質量が一致しないで、見ることが出来ない正体不明な質

量があることが分かった。見えないので暗黒質量 (dark matter)と呼ばれる

ようになった。

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問題 31 宇宙が膨張していることは、たくさんの銀河についてふたつの測定

量 A と B の間に比例関係があることからわかりました。

(1) 測定量 A は銀河までの距離です。測定量 B はなんですか。

(2) 測定量 A を測定する方法を述べよ。

(3) 測定量 B を測定する方法を述べよ。

(4) 宇宙が膨張しているとなぜ測定量 A と B が比例することになるので

すか。

(5) 比例関係の比例定数と宇宙の年齢との関係を述べよ。

(問題終わり) expQ

問題 32 講義全体を通して、もっとも印象に残ったことはなんですか?

(問題終わり) impressQ

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(ふろく)

対数表常用対数表

x log x

1.00 0.00000

2.00 0.30103

3.00 0.47712

4.00 0.60206

5.00 0.69897

6.00 0.77815

7.00 0.84510

8.00 0.90309

9.00 0.95424

10.00 1.00000

常用対数は、ある数が10の何乗かをあらわす数字として定義され

る。x = 10a のとき、xの常用対数は a である。記号としては log

を用いる。

x = 10a の時 a = log xと書く. (108)

log(4× 104) の値は、log 4 + 4 log 10 = 4.60206と計算される。

二桁精度の数に対しては、例えば

log 6.4 ≈ 0.4(log 7− log 6) + log 6 = 0.805

のように線形補間によって計算する。また、

log 6.4 = log(64/10) = 2 log 8− 1 = 0.80618

といった工夫で求められる場合もある。

定数表

π = 3.14159263

G = 6.67× 10−8dyncm3/g2

c = 3.00× 1010cm/s

h = 1.05× 10−27ergs

e = 4.80× 10−10esu

mp = 1.67× 10−24g

me = 9.11× 10−28g

σSB = 5.67× 10−5erg/scm2K4

1eV = 1.60× 10−12erg

M⊕ = 5.97× 1027cm

M⊙ = 1.99× 1033g

L⊙ = 3.90× 1033erg/s

1AU = 1.50× 1013cm

1pc = 3.08× 1018cm

1ly = 0.946× 1018cm

(109)

σSB は Stefan Boltzman const.

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