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短報 脳 血 管 障 害 患 者 に お け る 経 時 的 Barthel Index ー “プラ トー 時 間 ”の 検 討 *一 ** 里 *** 儀武 三郎**** 青柳 昭雄 千野 直一** ▲Key words: 経 時 的ADL評 価, 脳 血 管 障 害 脳 血 管障 害患 者 にお け る経 時的 Barthel Index の測 定 -“プ ラ トー時間”の検討- 園田 里宇 明元 儀武三郎 青柳 昭 雄 千 野直 脳血 管 障害 患者44名 を対 象 に, 月1回 の経 時的 な Barthel Index の 測定 を行 っ た. 各 項 目 におい て, 自立度 お よび, プ ラ トー時 間 (各 患者 の項 目ご との点数 が プ ラ トー に達 す るまでの期間) を算 出 した. 全 般的 に プラ トー時間が短 い項 目は 自立 度 が高 く, プラ トー時間 が長 い項 自は 自立度 が低 か ったが, 入浴 は, 評 価 が2段 で あ るた めか, プラ トー時間 が短 く, かつ 自立度 も低 か った. 階 毅が 歩行 よ り自立 度 が低 い に もかか わ らず プラ トー時間 が短 か った 理由 の一つ には, 階段 昇 降 の訓練 が 不十 分 で あった こと もある と思 われ た. 以上 よ り, 自立度 に加 え, プラ トー時間 とい う概念 を導入することは, Barthel Index 各項 目の特性 を検 討 す る際 に有 用 と考 え られた. リハ 医学 28: 501-503 1991 は じめ に Barthel Index1)(以 下BIと 略 す) を 用 い た 脳 血 管 障 害 患 者 のADLに 関する研究 は, これまで各項 目の 自 立 度2)や 予 後 予 測3)な ど の 観 点 か ら行 わ れ て き た が, そ の 多 くは 一 時 点 に お け る検 討 で あ っ た. また 自立 度 のみ を用 いた こ とによ り, 自立 に至 らなか った症 例 に お け る 変 化 を捉 え て い な い 文 献 が 多 か っ た. わ れ わ れ “プラ トー 時間 ”, す な わ ち,「 各 患 者 の 項 目 ご との 点 数が プラ トー に達 す る まで の期 間」 とい う概 念 を考 して経時 な評価 を行 い, BI各 項 目の特性 を検 討 し たので 報告 す る. 1988年8月 ~1989年4月 までに国立療養所東埼玉 病 院 リハ ビ リ テ ー シ ョ ン病 棟 (以下, 当 院 と称 す) に 入 院 し た 脳 血 管 障 害 患 者62名 中, BIを3回 以上採点 されている, 肺炎な どの合併症 を入院中併発 しなかっ た44名 を対 象 と し た. 対 象 者 の 内 訳 は, 男28例, 16例, 年 齢 は17~82歳 で 平 均60.5歳, 病型 は脳 19例, 脳 梗 塞20例, ク モ 膜 下 出 血5例, 発症 か ら入 ま で の 期 間 は1~3767日, 中 央 値 が209日 で あ った 。 1990年9月3日 受稿 *Serial Measurement of the Barthel Index in Stroke Patients-Analysis of the“Plateau Time”-. **慶應 義 塾 大 学 医 学 部 リハ ビリテーシ ョ ン 科/〒160新 宿 区 信 濃 町35 Shigeru SONODA, MD, Naoichi Department of Rehabilitation Medicine, Keio University School of Medicin ***国立療養所東埼玉病院 リハ ビ リ テ ー シ ョ ン 科/〒349-01蓮 田 市 大 字 黒 浜4147 Meigen LIU, MD: Department of Rehabilitation Medicine, Higashisaitama ****同内 科/同 Saburou YOSHITAKE, MD, Teruo AOYAGI, MD: Department of I リハ リテ ン 医 学 VOL. 28 NO. 6 1991年6月 501

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短 報

脳 血 管 障 害 患 者 に お け る 経 時 的 Barthel Index の 測 定

ー “プラ トー 時 間 ”の 検 討 *一

園 田 茂 ** 里 宇 明 元 *** 儀武 三 郎 ****

青 柳 昭 雄 千 野 直 一 **

▲Key words: 経 時 的ADL評 価, 脳 血管 障害

要 旨 脳血管障害患者における経時的 Barthel Index の測定-“プ ラトー時間”の検討-

園 田 茂 里宇 明元 儀 武 三 郎青柳 昭 雄 千野直 一

脳血管障害患者44名 を対象に, 月1回 の経時的な Barthel Index の測定を行っ

た. 各項目において, 自立度および, プラトー時間 (各患者の項目ごとの点数がプ

ラトーに達するまでの期間) を算出した. 全般的にプラトー時間が短い項目は自立

度が高 く, プラトー時間が長い項自は自立度が低かったが, 入浴は, 評価が2段 階であるためか, プラトー時間が短 く, かつ自立度も低かった. 階毅が歩行より自立

度が低いにもかかわらずプラトー時間が短かった理由の一つには, 階段昇降の訓練

が不十分であったこともあると思われた.

以上より, 自立度に加え, プラトー時間 という概念を導入することは, Barthel

Index 各項目の特性を検討する際に有用と考えられた.

リハ 医学 28: 501-503 1991

は じめに

Barthel Index1)(以 下BIと 略 す) を用 いた脳 血 管

障 害 患者 のADLに 関 す る研究 は, これ まで各項 目の

自立度2)や予 後 予 測3)な どの観 点 か ら行 わ れ て きた が,

その 多 くは一 時点 にお ける検 討 で あ った. また 自立 度

のみ を用 いた こ とによ り, 自立 に至 らなか った症 例 に

お ける変化 を捉 えて いな い文献 が多 か った. わ れわ れ

は “プラ トー 時間 ”, す なわ ち,「 各 患者 の項 目 ご との

点 数が プラ トー に達 す る まで の期 間」 とい う概 念 を考

案 して経時 的 な評価 を行 い, BI各 項 目の特性 を検 討 し

たので報告する.

方 法

1988年8月 ~1989年4月 まで に 国立 療 養 所 東埼 玉

病 院 リハ ビ リテー シ ョン病 棟 (以下, 当院 と称 す) に

入 院 した脳血 管障 害 患者62名 中, BIを3回 以上 採点

されて い る, 肺炎 な どの合 併症 を入院 中併発 しなか っ

た44名 を対 象 とした. 対 象者 の 内訳 は, 男28例, 女

16例, 年齢 は17~82歳 で平均60.5歳, 病型 は脳 出血

19例, 脳 梗塞20例, クモ膜 下 出血5例, 発症 か ら入院

までの 期間 は1~3767日, 中央 値 が209日 で あ った。

1990年9月3日 受 稿

*Serial Measurement of the Barthel Index in Stroke Patients-Analysis of the“Plateau Time”-.

**慶應 義 塾 大 学 医 学 部 リハ ビ リ テ ー シ ョ ン 科/〒160新 宿 区 信 濃 町35 Shigeru SONODA, MD, Naoichi CHINO, MD:

Department of Rehabilitation Medicine, Keio University School of Medicine

***国立 療 養 所 東 埼 玉 病 院 リハ ビ リ テ ー シ ョ ン科/〒349-01蓮 田 市 大 字 黒 浜4147

Meigen LIU, MD: Department of Rehabilitation Medicine, Higashisaitama National Hospital

****同内 科/同 上 Saburou YOSHITAKE, MD, Teruo AOYAGI, MD: Department of Internal Medicine, ditto

リハ ビ リテ ー シ ョ ン医学 VOL. 28 NO. 6 1991年6月 501

BIは, 原法1)にしたがい, 毎月看護婦が評価 した.

各項目の自立度を, 全体の人数に対する自立している

人数の比として計算した. さらに各患者の項目ごとの

点数がプラトーに達するのに要した時間を “プラトー

時間”と定義し, プラトー時間を算出した. 経過中,

点数が悪化した項目はプラトー時間が算出できず, そ

の患者は以下の分析より除外した. 全患者のプラトー

時間より, 各項目の平均プラトー時間を計算した. さ

らに各項目のもつ特性を捉えるため, プラトー時間と

自立度 との関係を散布図にて検討した. また発症から

の期間とプラトー時間とのスピアマンの順位相関係数

を計算した.

結 果

入院時の項目別自立度と項目別平均プラトー時間お

よびそれぞれの順位を表に示す. すなわちプラトー時

間の長い項目として歩行, 階段, 移乗が, 短い項目と

して食事, 入浴などがあげられた. また, 発症からの

期間とプラトー時間の順位相関では, 移乗, トイレ動

作, 入浴, 階段の4項 目において有意な相関が認めら

れた (表).

項目別平均プラトー時間と自立度との関係は図に示

す通 りで, 全般的にプラトー時間が短い項目は自立度

が高く, プラトー時間が長い項目は自立度が低かった.

しかし入浴はプラトー時間が短 く, かつ自立度 も低

かった. また歩行と階段を比較すると, 歩行の方が自

立度が高いにもかかわらず, プラトー時間が長くなっ

ていた.

考 察

本邦におけるBIの 項目別自立度の検討は, 外国と

日本との脳卒中患者の予後の違いを論じた千野ら4)の

報告をふまえ, 正門ら5)によりなされている. それによ

ると343例 の脳血管障害患者における自立度の順位は

食事, 排便, 排尿, 整容, 移乗, トイレ動作, 更衣,

歩行, 階段, 入浴であり, 今回とほぼ同様であった.

当院は, 発症後1~3ヵ 月の患者の継続的リハビリ

テーションを中心 とし, リコンディショニングの症例

も扱うが, 自立度の順位が従来の報告と同様であった

ことから, 今回の結果があろ程度一般論として演繹し

得ると考えられた.

われわれが, 自立度の他にプラトー時間という概念

を考案したのは, (1)各項目の向上にかかる時間を具体

的に示す, (2)自立までは至らなかったものの介助量の

表 入院時項目別自立度および平均プラ トー時間

*は5%の 危険率で有意であることを示す

図 項目別平均プラトー時間と項目別自立度

●入院時 自立度

□入院2カ 月後 自立度

502 リハ ビ リテ ー シ ョ ン医 学 VOL. 28 NO. 6 1991年6月

減 少 した患者 の変 化 を捉 える, (3)自 立度 とプ ラ トー時

間の併 用 によ り, 各項 目の特性 を多角 的 に検 討す る,

等 の理 由 によ る.

今 回 の検討 で は, 多 くの項 目で, プラ トー時間 と自

立 度 には逆相 関 が認 め られ たが, 入 浴 につ いて は プラ

トー時 間が短 く, か つ 自立度 も低 い とい う結 果が 得 ら

れ た. これ は入浴 の採 点が 自立 か否 か の2段 階 のた め,

介助 量 が減 少 した もの の0点 に留 まった 患者 が プ ラ

トー時 間 を短 くし, 自立 度 を下 げた と考 え られ る. 米

国 に始 ま り本 邦 で も普 及 しつつ あ るFIM6,7)(機 能 的 自

立度 評価 法: Functional Independence Measure) の

7段 階評 価 法 を用 いれ ば, よ り詳細 な分析 が可能 とな

るで あ ろ う.

さ らに階段 と歩行 につい て, 階段 は歩行 よ り自立 度

が低 い に もか かわ らず, よ り早 くプ ラ トー に達 した が,

この理 由 に は階段昇 降 に対 す る訓 練が 十分施 行 し得 な

い ま まに早 くプ ラ トー に達 した, あるい は中途 半端 な

能 力 で は階段昇 降 は不可 能 で あ る と判 断 した, な どが

考 え られ, 今後 さ らに検 討 してい く必 要が あろ う.

プラ トー時 間 と発 症 か らの期 間が数 項 目 におい て有

意 に相 関 した 理 由に は, 入浴, 階段 で は リコンデ ィ シ ョ

ニ ング の症 例 が0点 の ままで あ った こ と, 移乗 動作 が

比 較 的再 習得 しや すか った こ とな どが あげ られ よ う.

したが って, 単 に発 症 か らの 期 間 が 長 い 症 例 は プ ラ

トー 時間 が短 い, とい う ことで はない と考 え られ る.

おわ りに

今 回, 自立 度 とプラ トー時 間 とい う2つ の指標 の検

討 に よ り各 項 目の特 性が あ る程 度明 らか にされ た. 今

後 その特性 を生 か して訓練 内容 の工 夫, 経 時 変化 の予

測 な どを行 う予定 で ある.

稿 を終 るにあた り, 毎 月 のADL評 価 に協 力 いただ

い た当 院3-1, 6-1病 棟 のス タ ッフに深謝 す る.

本論文の要旨の一部は, 第44回 国立病院療養所総合 医学

会 (1989年10月, 仙台) にて発表 した.

文 献

1) Mahoney FI, Barthel DW: Functional evalua-

tion; the Barthel Index. Md St Med J 14: 61-65,

1965.

2) Granger CV, Dewis LS, Peters NC, Sherwood CC, et

al: Stroke rehabilitation; analysis of repeated

Barthel Index measures. Arch Phys Med Rehabil

60:14-17, 1979.

3) Wade DT, Hewer RL: Functional abilities after

stroke; Measurement, natural history and progno-

sis. J Neurol Neurosurg Psychiatry 50: 177-182,

1987.

4) 千 野 直一, 石 田 暉, 村上 信, 梶 原 敏 夫, 他: 脳卒

中患 者 の予 後 調査. リハ 医学 18: 185, 1981.

5) 正 門 由 久, 永 田 雅章, 野 田幸 男, 里 宇 明 元, 他: 脳血

管 障 害 の リハ ビ リテ ー シ ョ ン に お け るADL評 価-Barthel Index を 用 い て-. 総 合 リ ハ17:

689-694, 1989.

6) 道 免 和 久, 千 野 直 一, 才 藤栄 一, 木村 彰 男: 機 能 的 自

立 度 評 価法 (FIM). 総 合 リハ 18: 627-629, 1990.

7) 園 田 茂, 道 免 和 久, 沢 俊 二, 椿 原彰 夫, 他: 新 し

いADL評 価 法-Functional Independence Measure

(FIM)-(そ の2) 脳 障 害. リハ 医学 27: 545, 1990.

リハ ビ リテ ー シ ョ ン医学 VOL. 28 NO. 6 1991年6月 503