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1 2017 年 4 月 12 日 日本銀行高知支店 高知県における六次産業化の現状と今後の展望 本稿は、大西奈緒子(高知支店、現金融機構局)が執筆しました。ただし、本稿で示された 意見は執筆者に属し、日本銀行あるいは日本銀行高知支店の公式見解を示すものではあり ません。 本稿に掲載されている情報の正確性については万全を期していますが、当店は本稿の利 用者が本稿の情報を用いて行う一切の行為について、何ら責任を負うものではありません。 本稿の内容について、商用目的で転載・複製を行う場合は、予め日本銀行高知支店まで ご相談ください。転載・複製を行う場合は、出所を明記してください。 照会先:日本銀行高知支店総務課(TEL:088-822-0004) 本稿は、インターネット(http://www3.boj.or.jp/kochi/)からもご覧いただけます。 BOJ 高知 特別調査

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Page 1: BOJ高知 特別調査 · 出す取組」と規定されている。このことからも分かるとおり、本来、六次産業 化は農・林・漁業の第一次産業全てを対象とする概念であるが、本稿では、デ

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2017 年 4 月 12 日

日本銀行高知支店

高知県における六次産業化の現状と今後の展望

本稿は、大西奈緒子(高知支店、現金融機構局)が執筆しました。ただし、本稿で示された

意見は執筆者に属し、日本銀行あるいは日本銀行高知支店の公式見解を示すものではあり

ません。

本稿に掲載されている情報の正確性については万全を期していますが、当店は本稿の利

用者が本稿の情報を用いて行う一切の行為について、何ら責任を負うものではありません。

本稿の内容について、商用目的で転載・複製を行う場合は、予め日本銀行高知支店まで

ご相談ください。転載・複製を行う場合は、出所を明記してください。

照会先:日本銀行高知支店総務課(TEL:088-822-0004)

本稿は、インターネット(http://www3.boj.or.jp/kochi/)からもご覧いただけます。

BOJ 高知 特別調査

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1.はじめに

高知県の県際収支をみると、殆どの業種で移輸入超となっている(図表1)。

これは、高知県には「外貨」を稼ぐことができる産業が乏しいことを意味して

いる。こうした中で、他都道府県に対して比較優位を持ち、数少ない移輸出超

の業種として「外貨」を稼ぐことのできるのが、第一次産業である。しかし、

第一次産業の生産性は低く、県内総生産に占める比率も小さいのが実情である

(図表2)。また、現状では、多くが素材のまま県外へ移輸出されており、県内

での加工等によって得られるはずの付加価値が、県外へ漏出してしまっている。

こうした状況を踏まえると、高知県が「外貨を稼ぐ力」を高めていくには、「高

知県産業振興計画」で示されているように、競争力のある第一次産業の六次産

業化や一次産品を核にした食品製造業等の周辺産業の育成・強化などにより、

県内で付加価値を高めたうえで、県外に移輸出することが重要と考えられる。

本稿では、こうした問題意識のもと、まずは、第2節で六次産業化の推進に

より期待される効果を考察する。そのうえで、第3節で高知県における六次産

業化の現状評価を試み、第4節で、県内で「外貨獲得」に成功している六次産

業化の事例を踏まえて、その対応策を紹介する。そして、第5節では、「外貨を

稼ぐ力」の強化に向けた県内での新たな取り組みに言及する。

なお、六次産業化・地産地消法において、六次産業化とは「一次産業として

の農林漁業と、二次産業としての製造業、三次産業としての小売業等の事業と

の総合的かつ一体的な推進を図り、地域資源を活用した新たな付加価値を生み

出す取組」と規定されている。このことからも分かるとおり、本来、六次産業

化は農・林・漁業の第一次産業全てを対象とする概念であるが、本稿では、デ

ータの制約により、特に断りがない限りは農業の六次産業化に絞って議論する。

また、使用する統計や指標毎に六次産業化の対象となる事業内容が一部異なる

点についても、留意が必要である(異なる定義を使用する場合には、その都度

説明を加えている)。

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(図表1)業種別の県際収支

(注)各業種の県内生産額に対する純移輸出(移輸出-移輸入)の割合を算出したもの。

(出所)高知県「平成 22年 高知県産業連関表」

(図表2)県内総生産の業種別構成比及び1人あたり付加価値額(高知県)

産業 GDPに占める比率

1人あたり付加価値額(百万円)

1.産業 80.6 6.7 (1)農林水産業 3.7 2.1 (2)鉱業 0.5 27.3 (3)製造業 7.5 5.9 (4)建設業 6.5 6.4 (5)電気・ガス・水道業 2.1 21.9 (6)卸売・小売業 10.6 4.1 (7)金融・保険業 3.8 10.3 (8)不動産業 13.3 114.8 (9)運輸業 5.1 9.9 (10)情報通信業 3.5 10.8 (11)サービス業 24.1 6.0 2.政府サービス生産者 15.7 11.2 3.対家計民間非営利サービス生産者 2.9 3.3

合計・全体の平均 100.0 6.9

(出所)高知県「県民経済計算」

2.六次産業化の推進により期待される効果

六次産業化のメリットについては、既に多くの指摘がなされているが(図表

3)、本節では、「外貨を稼ぐ力」を強化するための六次産業化との問題意識に

照らして、①付加価値(生産)の増加、②所得の向上、③雇用の創出に着目し

て考察する。

▲ 120

▲ 100

▲ 80

▲ 60

▲ 40

▲ 20

0

20

40

60

農業

林業

漁業

鉱業

製造業

建設

電力・ガス・水道

商業

金融・保険

不動産

運輸・情報通信

公務

公共サービス

その他のサービス

(%)

移輸出超

移輸入超

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(図表3)事業者が感じる六次産業化によるメリット(複数回答可)

(出所)日本政策金融公庫「6次産業化に関するアンケート調査結果」

(1)付加価値(生産)の増加

六次産業化の推進により期待される効果の一つに、付加価値の増加が挙げら

れる。この点、日本政策金融公庫が融資先の農業者を対象に実施した調査の結

果(図表4、5)をみると、六次産業化に取り組んでいる農業者の方が、六次

産業化に取り組んでいない農業者よりも、産み出す付加価値額の増加率が大き

いことが確認できる。これは、六次産業化により、①農家が加工業および小売

業等を営むようになることで、価格支配力が強まるほか、加工業者や流通業者

の間接費用や利益に相当する中間コストを省き、価格競争力を高めることがで

きること1、②従来、廃棄対象となっていた規格外品や見栄えが悪く青果に向か

ない農産品、果物の皮などが、加工品として付加価値を生むようになること、

さらには、③(六次産業化の副次的な効果として)原材料・仕入品としての農

産品需要が拡大することで、農産品自体の生産拡大にもつながること、などが

背景にあると推察される。

1 日本政策金融公庫の実施した「農業の6次産業化等に関するアンケート調査結果」におい

て、「消費者の低価格志向を反映して小売業者のバイヤーとの価格交渉は厳しいものがあ

り、価格交渉に苦労した経験を持っている方も多いことから、生産者の『こだわり』を付

加価値として販売価格に反映できる」と指摘されている。

1.2%

2.4%

6.1%

15.2%

28.5%

28.5%

34.5%

50.3%

74.5%

0 10 20 30 40 50 60 70 80

メリットはない

利益減や労働時間増などデメリットの方が多い

その他

後継者の確保

地域からの支援確保

社員のやりがい向上

企業的経営の確立

農産物の生産拡大

所得の向上

(%)

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(図表4)融資後3年間の付加価値額増加率

(出所)日本政策金融公庫「平成 24 年度 農業の6次産業化等に関する調査」

(図表5)付加価値額増加率の経年変化

(出所)日本政策金融公庫「平成 24 年度 農業の6次産業化等に関する調査」

(2)所得の向上

第2の効果として、こうした付加価値(生産)の増加が農業従事者の所得向

上に結び付く点が挙げられる。

2010 年における農業経営体の平均所得をみると、全農業経営体の平均所得が

466万円(うち六次産業化関連事業の所得は7千円)であるのに対し、六次産業

化に取り組む農業経営体のそれは、495.5 万円(うち六次産業化関連事業の所得

は 47.9 万円)と、六次産業化に取り組む農業経営体の平均所得の方が、29.5 万

円(6.3%)高くなっている(図表6)。また、六次産業化に取り組む前後の収入

の変化をみても、いずれの事業内容でも、7割以上の先で増収が確認されてお

り(図表7)、六次産業化による増収効果が認められる。

17.8%

29.3%

0 5 10 15 20 25 30 35

6次産業化に取り組んでいない

6次産業化に取り組んでいる

(%)

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(図表6)六次産業化の取り組みの有無に基づく農業経営体間の平均所得差

(出所)農林水産省「平成 23年度 食料・農業・農村白書」

※ 「農業生産関連事業所得」とは、農産加工、農家民宿、農家レストラン、観光農園、市

民農園等の六次産業化関連事業での所得を指す。

(図表7)六次産業化への取り組みによる農業者の収入の変化

(出所)農林水産省「平成 23年度 食料・農業・農村白書」

(3)雇用の創出

六次産業化の進展により生産規模が拡大できるようになれば、地域の雇用の

創出も期待できる。図表8は、日本政策金融公庫から融資を受けた「六次産業

化に取り組んでいる農業者」と「六次産業化に取り組んでいない農業者」との、

融資後3年間の雇用創出等に伴う人件費等の増加率を比較したものである。こ

れによると、「六次産業化に取り組んでいる農業者」では、平均して3割強の増

7.7

18.4

23.4

20

30.8

31.6

33.9

32.7

23.1

23.7

12.4

10.2

23.1

10.5

6.5

9.8

0 20 40 60 80 100

農家レストラン

観光農園

直接販売

農産物加工

(%)

減った

特に変化なし

1割程度の増収

1~3割程度の増収

3~5割程度の増収

5割以上の増収

無回答

76.2%

84.2%

72.7%

84.7%

0 500 1000 1500 2000 2500 3000 3500 4000 4500 5000

全農業経営体の平均

6次産業化に取り組む農業経

営体のみの平均

(千円)

農業所得

農外所得

年金等の収入

農業生産関連事業所得※

29万5千円の差

総所得 495万5千円

総所得 466万円

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加がみられたのに対し、六次産業化に取り組んでいない農業者では、1割弱の

増加に止まっており、六次産業化が、雇用創出を通して地域社会に大きく貢献

していることが確認できる。

この点、高知県内の六次産業化事業体においても、主な取り組みだけで合計

215人に上る新規雇用が創出されている(図表9)。

(図表8)融資後3年間の雇用創出等による人件費(従業員給与)等増加率

(出所)日本政策金融公庫「平成 24年度 農業の6次産業化等に関する調査」

この間、後継者の確保も見逃すことができない効果として挙げられる(図表

3)。高知県では、全国に 15 年以上先駆けて人口減少と高齢化が進むもとで、

幅広い業種において後継者や従業員となる人材の確保による事業承継が喫緊の

課題となっている。こうした中で、六次産業化により農業経営体の経営安定化

と企業的経営の確立が図られるならば、従業員の増加とともに後継者となる若

年者の農業参入も進むのではないかと推察される。

9.1%

32.0%

0 10 20 30 40

6次産業化に取り組んでいない

6次産業化に取り組んでいる

(%)

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(図表9)県内の主な六次産業化関連事業における雇用創出状況

※新規雇用には短期雇用を含む。

(出所)高知県「第3期産業振興計画」およびヒアリング情報に基づき作成

3.高知県における六次産業化の現状と課題

以上みてきたように、六次産業化の推進は、一般的に生産者である農業経営

体の収益拡大のみならず、雇用創出や後継者の確保による事業承継を通じて地

域経済にとってもプラスの効果をもたらすことになる。そこで、本節では、高

知県における六次産業化の現状評価を行い、そこから明らかにされる当地の課

題を整理する。

(1)高知県における六次産業化の進捗状況

高知県内で、何らかの形で六次産業化2に取り組んでいる農業経営体の数は

3,948経営体と、県内全農業経営体(15,841 経営体)の 24.9%にも上っている(図

表 10)。これは、全国平均(19.8%)に比べて高く、都道府県別では全国 10 位

の水準となっているが、この背景には、①六次産業化に着手した時期と、②当

2 統計の制約から、農産物の加工、消費者への直接販売、貸農園・体験農園等、観光農園、

農家民宿、農家レストラン、海外への輸出、その他の農業生産関連事業を指す。

地域 事業者名 事業内容 新規雇

用者数※

幡 多

(公財)三原村農業公社ほか 柚子加工品の製造・販売 10人

㈱勇進 ブリ加工品の製造・販売 4人

㈱沖の島水産 カツオ・ブリ加工品の生産・販売 12人

横山精肉、西土佐中央牧場 四万十牛の焼肉屋の開業、四万十牛を活

用した加工品づくり 3人

㈲土佐佐賀産直出荷組合 水産物の加工 3人

高 幡 ㈱アースエイド 葉にんにくのたれの製造・販売 6人

仁淀川

企業組合宇佐もん工房 一本釣りうるめいわし加工品製造・販売 13人

㈱フードプラン、仁淀川町 カット野菜等の生産・販売 14人

池川茶園 土佐茶を活用したスイーツの製造・販売 4人

高知市 (財)夢産地とさやま開発公社 生姜や柚子の加工品製造・販売 54人

JA高知市、JA高知市女性部 惣菜等の加工品製造・販売 6人

物部川

JA長岡 直販所と飲食店の運営 22人

農業生産法人㈱南国スタイルほか 農家レストラン等の運営 43人

協同組合やすらぎ市 地元特産品を使った加工品製造・販売 5人

安 芸 ㈱安芸水産、安芸漁協ほか シラスの飲食施設運営、加工品製造・販売 16人

合計 215人

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59.5 64.2

16.6 12.8

18.7 17.8

2.2 0.9 2.9 4.3

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

全国 高知

未回答又は不明

平成22年度以降

平成17~21年度

平成12~16年度

平成11年度以前

地の農業構造が関連しているとみられる。

まず、六次産業化に着手した時期に着目すると、当地では、平成 11 年度(1999

年度)以前に着手した農業経営体の割合が全国に比べて高い(図表 11)。すなわ

ち、早い段階から六次産業化に着手してきた3ことが、六次産業化に取り組む経

営体の割合の高さに繋がっていると考えられる。

(図表 10)六次産業化に取り組む農業経営体の割合

(注)全国平均は、都道府県別の農業経営体の割合の平均値。

(出所)農林水産省「2015年農林業センサス」

(図表 11)六次産業化に取り組み始めた時期別の農業経営体の割合

3 もっとも、「六次産業」という言葉を、発案者の今村奈良臣氏が提唱し始めたのが 1990

年代中頃以降ということを踏まえると、初期の段階では、六次産業化という意識を持って

取り組みが進められてきたというよりは、「地域おこし」、「一村一品運動」の高まりの中

で進められてきた動きが中心と考えられる。ただし、いずれにせよ、これらの活動に対し

ても付加価値の創出による生産振興、農村に多様な就業機会を生むことが目的とされたこ

とを考えると、背景となる問題意識や目的は共通しているとみることができる。

(出所)農林水産省「6次産業化総合調査(平成 22年度)」

0

10

20

30

40

50

60

東京神奈川

大阪京都静岡滋賀奈良和歌山

福岡高知長野大分広島山梨埼玉山口岐阜愛媛三重千葉群馬長崎茨城石川島根兵庫山形岡山愛知香川熊本佐賀徳島福井新潟栃木鳥取富山福島岩手北海道

宮崎宮城鹿児島

秋田青森沖縄

(%)

24.9%

全国平均

19.8%

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さらに、当地の農業構造が、六次産業化に適していたことも、取り組みが進

んだ背景にあると考えられる。農業経営統計調査を用いて、品目別に六次産業

化4への適性(売上高の大きさに基づく)をみると、稲作に比べ、野菜作や果樹

作の方が六次産業化関連収入が大きい(図表 12)。この点は、六次産業化に適し

た条件を備えていることを示唆している。その背景には、幾つかの可能性が考

えられるが、米は、①加工品等の多様化に加え、六次産業従事者が特に重要と

考える差別化(図表 13)の余地が限られるうえに、②規格外品の割合が低く、

六次産業化に取り組むインセンティブが小さいこと、などがあると考えられる。

こうした点を踏まえて、高知県の農業構造をみると、当地では野菜や果樹の

生産が農業産出額全体の7割強を占めており(図表 14)、六次産業化に適した農

業構造であると推察できる。

(図表 12)1経営体あたり5の平均収入

個別経営体 組織経営体

品目 六次産業化

関連収入(千円)

六次産業化

関連収入(千円)

果樹作 43 10,378

野菜作 34 1,795

稲作

(個別経営体につ

いては、水田作)

10 1,352

(出所)農林水産省「農業経営統計調査」

(図表 13)従事者が六次産業化に取り組む際の重要事項(複数回答可)

(出所)日本政策金融公庫「6次産業化に関するアンケート調査結果」

4 統計の制約から、農産加工、農家民宿、農家レストラン、観光農園、市民農園等の農業に

関連する事業を指す。 5 調査対象の中には、六次産業化事業に取り組んでいない農業経営体も含まれているため、

六次産業化事業を手掛ける事業体のみを対象とした場合には、収入は増額する可能性が高

い点には留意されたい。

1.8%

9.7%

12.1%

17.0%

17.6%

24.8%

26.7%

33.9%

39.4%

52.7%

54.5%

55.8%

67.3%

0 10 20 30 40 50 60 70 80

その他

ジャンルにこだわらない幅広い情報収集

効果的な広報活動

新製品、イベント等、常に新しい企画の展開

外部専門家や業種を超えた人脈等を活用した事業計画の策定

地域との良好な関係

クレーム対応や情報開示等による丁寧な顧客対応

販路拡大に向けた積極的な営業活動

マーケティングに基づいた商品開発

事業開始・継続にあたっての円滑な資金調達

原材料、製品の品質の高さ

当該事業に必要な人材の確保

商品の差別化・ブランド化

(%)

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11

(図表 14)高知県の農業産出額の内訳

(出所)農林水産省「生産農業所得統計」

(2)当地の六次産業の課題

以上みてきたように、当地では、六次産業化に着手した時期の早さや六次産業

化に適した農業構造から、六次産業化の取り組みは相応に進捗しているとみら

れる。この点、販売金額に着目すると、1事業体あたりでは、51 百万円と全国

平均(34 百万円)を上回っている(図表 15)ものの、例えば、隣県の愛媛県(108

百万円)や香川県(73 百万円)に比べて見劣りしているほか、県内全体の販売

金額(340億円)も全国平均(397億円)を下回る水準となっており、更なる拡

大が望まれる(図表 16)。

(図表 15)1事業体あたりの六次産業化6関連事業での販売金額7

(注)全国平均は、都道府県別の1事業体あたりの販売金額の平均値。

(出所)農林水産省「6次産業化総合調査(平成 26年度)」

6 統計の制約から、農産物の加工、農産物直売所、観光農園、農家民宿、農家レストランを

指す。 7 1事業体当たりの販売金額を割り戻すのに使用した事業体数(6次産業化総合調査ベース)

は図表 10(農林業センサスベース)とは異なる点に留意。

野菜, 61.5%果実, 9.9%

花き, 6.8%

いも類, 1.8%

工芸農作物,

1.3% 米, 9.5%

乳用牛, 2.9%

鶏, 2.1% 肉用牛, 1.7% 豚, 1.6% その他作

物, 0.7%

野菜・果樹

合計

71.4%

0

20

40

60

80

100

120

愛媛香川鳥取佐賀東京宮崎三重愛知鹿児島

高知熊本静岡岐阜北海道

沖縄福岡山口大阪長崎埼玉奈良栃木群馬兵庫福井徳島千葉石川大分広島岡山滋賀山梨青森茨城宮城神奈川

福島岩手和歌山

新潟京都山形島根富山長野秋田

(百万円)

51百万円

全国平均

34百万円

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37.7%

60.9%

0.7% 0.1%0.7%

農産物の加工

農産物直売所

観光農園

農家民宿

農家レストラン

45.9%

50.1%

2.0% 0.3% 1.7%

農産物の加工

農産物直売所

観光農園

農家民宿

農家レストラン

(図表 16)六次産業化関連事業での販売金額

(出所)農林水産省「6次産業化総合調査(平成 26年度)」

また、事業内容別の販売金額構成比を全国と比較すると、当地は農産物直売

所の割合が大きく、農産物の加工など、直売所以外の事業の割合が小さいとい

う特徴がある(図表 17、18)。農産物直売所では、鮮度を売りにした青果販売が

中心で、その販売相手は地元住民が主となっていることを踏まえると(図表 19)、

当地の六次産業の売上の多くが県内需要に支えられていると考えられる。高知

県は、既に全国に 15年以上も先駆けて人口減少社会に突入しており、今後も一

段と人口減少が進むことが不可避となっている(図表 20、21、22)。人口減少は

県内市場の縮小を意味するだけに、県内需要依存型の構造が当地の六次産業の

発展の足かせとなりつつあり、時間の経過とともに、その度合いは高くなると

みられる。

(図表 17)販売金額の内訳(高知) (図表 18)販売金額の内訳(全国)

(出所)農林水産省「6次産業化総合調査(平成 26年度)」

0

200

400

600

800

1000

1200

1400

1600

北海道

静岡愛媛福岡熊本鹿児島

東京長野千葉宮崎愛知群馬埼玉三重山梨栃木茨城兵庫鳥取岐阜山口福島高知和歌山

神奈川

新潟佐賀広島山形長崎岩手青森大分香川岡山宮城大阪沖縄奈良福井石川京都滋賀徳島秋田島根富山

(億円)

340億円 全国平均

397億円

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(図表 19)農産物直売所における購入者の内訳(中国・四国地方)

(注)産地直売所の同一地域以外の居住者には、県内他地域の居住者も含まれるため、県内向けの割合は更に高まると推察される。

(出所)農林水産省「農産物地産地消等実態調査」

(図表 20)高知県および全国の人口推移 (図表 21)高知県の人口増減率の推移

(注)「高知県の人口増減率の推移」の 2012年度以降は、日本人住民ベース。2012年以前は年度、2013年以降は暦年での集計。

(出所) 総務省「国勢調査」、国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口」、総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」

62.1%

32.5%

5.4%

産地直売所の同一地域内の

居住者

産地直売所の同一地域以外

の居住者(一般通過者・観光

客等)

不明

30

40

50

60

70

80

90

5

6

7

8

9

10

11

12

13

14

15

19

20

19

25

19

30

19

35

19

40

19

45

19

50

19

55

19

60

19

65

19

70

19

75

19

80

19

85

19

90

19

95

20

00

20

05

20

10

20

15

20

20

20

25

20

30

20

35

204

0

(万人)(千万人)

全国(左目盛) 高知(右目盛)

推計

(年)

▲ 1.2

▲ 1.0

▲ 0.8

▲ 0.6

▲ 0.4

▲ 0.2

0.0

0.2

19

97

19

98

19

99

20

00

20

01

20

02

20

03

20

04

20

05

20

06

20

07

20

08

20

09

20

10

20

11

20

12

20

13

20

14

人口増減率

自然増減率

社会増減率

(%)

(年、年度)

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14

(図表 22)都道府県別でみた年齢 3区分別人口の割合 (2015 年 1 月 1 日現在)

年少人口割合

(0~14 歳)

生産年齢人口割合

(15~64 歳)

老年人口割合

(65 歳以上)

順位 都道府県 % 順位 都道府県 % 順位 都道府県 %

─ 全国 12.86 ─ 全国 61.54 ─ 全国 25.60

1 沖縄県 17.45 1 東京都 66.17 1 秋田県 32.28

2 滋賀県 14.75 2 神奈川県 63.99 2 高知県 31.66

3 佐賀県 14.08 3 沖縄県 63.85 3 島根県 31.36

4 愛知県 14.05 4 埼玉県 63.39 4 山口県 30.99

: : : : : : : : :

43 東京都 11.74 43 大分県 58.01 43 滋賀県 23.29

44 高知県 11.65 44 秋田県 57.06 44 神奈川県 23.08

45 青森県 11.61 45 山口県 56.73 45 愛知県 23.06

46 北海道 11.54 46 高知県 56.64 46 東京都 22.09

47 秋田県 10.62 47 島根県 56.00 47 沖縄県 18.68

(出所)総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」

こうした状況を踏まえると、当地の六次産業化が目指すべき方向性としては、

農産物加工等の県外需要の獲得に適した事業分野に注力することにより、「外貨

を稼ぐ力」を強化することだと考えられる(図表 23)。

「外貨を稼ぐ力」の強化には、売れる商品の開発、商品の安定的な生産、商

品の販売という3つの分野に関して、以下のような課題に対応することが必要

である8。

第1の売れる商品の開発に関する課題としては、前掲図表 13で示したように、

六次産業従事者へのアンケートを踏まえると、商品の差別化・ブランド化、マ

ーケティングに基づいた商品開発が重要である。

第2の商品の安定的な生産については、生産性の向上、製造技術の習得、需

要に見合う生産量の確保、農産品の安定的な生産などが課題として指摘されて

いる(図表 24、25)。

第3の商品販売の面では、広告宣伝・販促費用の調達、販売先の開拓、営業

手法・販売手法の習得などの課題がある(図表 26)。

そこで、次節では、高知県内で「外貨獲得」に成功している六次産業化の取

り組み先が、これらの3つの分野における課題を如何に克服し、成功に繋げて

いるのか、また、そのために考え得る方法は何か、という点を中心に事例研究

を試みたい。

8 以下の各レポートにおいても、同様の指摘がなされている。

日本政策金融公庫「平成 24 年度 農業の6次産業化等に関する調査」、日本政策金融公庫

「6次産業化に関するアンケート調査結果」、北海道農政事務所「平成 24 年度 北海道食

料・農業情勢報告」、野村アグリプランニング&アドバイザリー株式会社「6次産業化を推

進するに当たっての課題の抽出と解決方法の検討」

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15

県内42.0%

県外58.0%

6.8%

15.9%

19.3%

25.0%

34.1%

40.9%

40.9%

0 10 20 30 40 50

その他

必要な雇用の確保ができない

従業員の教育に手が回らない

必要な資金の調達ができない

加工技術・製造技術が習得できない

資材・燃料等の費用がかさむ

生産性が上がらない

(%)

(図表 23)農産物加工における出荷地域別の販売金額割合(全国)

(出所)農林水産省「農産物地産地消等実態調査」

(図表 24)六次産業化の課題(商品の生産面)

(出所)野村アグリプランニング&アドバイザリー株式会社「6次産業化における経営課題に関するアンケート調査結果」

(図表 25)六次産業化の課題(農産物の生産面)

(出所)野村アグリプランニング&アドバイザリー株式会社「6次産業化における経営課題に関するアンケート調査結果」

5.7%

13.6%

22.7%

25.0%

26.1%

36.4%

37.5%

40.9%

0 10 20 30 40 50

その他

必要な雇用の確保ができない

従業員の教育に手が回らない

一定の品質での生産ができない

必要な資金の調達ができない

生産量が不安定で安定供給ができない

資材・燃料等の費用がかさむ

需要に見合う生産量が確保できない

(%)

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(図表 26)六次産業化の課題(商品の販売面)

(出所)野村アグリプランニング&アドバイザリー株式会社「6次産業化における経営課題に関するアンケート調査結果」

6.7%

12.4%

12.4%

19.1%

21.3%

24.7%

28.1%

32.6%

41.6%

42.7%

0 5 10 15 20 25 30 35 40 45

その他

自社ブランドが確立できない

必要な雇用の確保ができない

必要な資金の調達ができない

従業員の教育に手が回らない

適正な販売価格で販売できない

特定の販売先への依存度が高い

営業手法・販売手法が習得できない

販売先の開拓が進まない

広告宣伝・販売促進の費用がかさむ

(%)

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4.県内で「外貨獲得」に成功している六次産業化の事例にみられる対応

(1)成功事例にみられる対応

高知県には、「外貨獲得」に成功している六次産業化の事例が少なからず存在

する。これらの先では、前節で指摘した3つの分野(売れる商品の開発、安定

的な生産、商品の販売)における課題を克服するため、①商品の差別化・ブラ

ンド化、②マーケットイン9型戦略の推進(商品開発、PR)、③組織化による農

産品の安定調達、④企業経営の確立を通じた合理的な生産体制の構築、⑤外部

人材の登用、といった対応を行っている(図表 27、28)

(図表 27)「外貨獲得」に向けた対応

(図表 28)県内で「外貨獲得」に成功している六次産業化の具体例

① 商品の差別化・ブランド化

池川茶園 ▼茶農家を母体とする法人化により、一流茶葉の安定供給を実現し、プ

レミアム志向の消費者をメインターゲットとした差別化・ブランド化

に成功

茶農家の女性が集まって法人化しているため、商品開発においては、

「各茶農家で育てられた一流茶葉だけを使う」というこだわりを、無理

なく貫けている。これが、他社商品との差別化・ブランド化、プレミア

ム志向の消費者をメインターゲットとした非価格競争戦略に結実。

9 「マーケットイン」とは、市場や購買者という買い手の立場に立って、買い手が必要とす

るものを提供していこうとすること。

【商品の開発】

【商品の安定生産】 【商品の販売】

差別化・ブランド化

マーケットイン戦略 農産品の安定調達

企業経営の確立 外部人材の登用

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坂田信夫商

▼組織内での一貫生産体制の確立により、健康志向消費者向けの製品と

して差別化・ブランド化に成功

グループ内で農産品の生産から加工・出荷まで一貫して手掛けている

ため、徹底した品質管理を行うことができ、他社製品との差別化やブラ

ンド化を実現。この点が、消費者の健康志向の高まりの中で、販売先か

らの高評価に結実。

馬路村農協 ▼組織体制で一貫したブランド戦略を貫くことで、得意客の獲得を実現

業務用市場では、県外大手加工メーカーに太刀打ちできないと判断し、

早期から B to Cに特化することで差別化を実現。組織内で受注・生産・

販売・配送の一貫体制を採ることで、ブランド化戦略に基づく一貫した

サービス提供を実現でき、それが得意客の獲得に寄与。

② マーケットイン型戦略の推進

北川村ゆず

王国

▼生産・卸を一体的に運営することで、顧客ニーズを踏まえた製品開発

体制を確立

一部のスーパーとの間では、卸売会社を通さずに当社が直接取引して

いるため、顧客ニーズを踏まえた営業活動が可能。さらには、こうした

顧客ニーズの把握が独自製品の開発にも繋がるなど、マーケットイン戦

略による好循環が確立。この点、地域内の農家から生産応援を受けられ

る強みを活かし、地元の土産品店向けの小ロット生産から、大手コンビ

ニチェーン向けの大量生産まで、取引先規模に関係なく受注を受け、幅

広い商品要求に対応できることが、その土台となっている。

四万十ドラ

▼消費者ニーズを踏まえた商品開発・営業戦略の構築による収益性向上

全国各地のバイヤーを通じた需要調査を踏まえてターゲットを絞った

うえで、一貫した商品開発・営業戦略体制を構築しているため、商品の

ヒット確率が向上。また、直営の道の駅では、消費者の利便性を高める

ためにクレジット決済を導入したところ、客単価が着実に上昇し、手数

料負担を上回る収益改善効果を実現。

馬路村農協 ▼顧客アンケートを踏まえた商品開発や PRによるリピーター客・新規顧

客の獲得

顧客へのアンケートはがきを使用したニーズ収集に基づく商品開発・

PRに注力。例えば、馬路村の産直商品には残らずメッセージカードを同

封し、温かみを感じられるような PR面での工夫をしており、購入者は「こ

こまで心配りしてくれるのは有難い」とリピーターになってくれるほか、

購入者から贈り物として受け取った人も好感を持ち、自ら商品を購入し

てくれるようになるなど、販路開拓にも繋がっている。

③ 組織化による農産品の安定調達

四万十ドラ

▼組織化により販路の確保と安定供給を実現

創業当初は、生産した栗の市場流通が主であったため、販売単価も不

安定であったほか、生産量が安定せず、県外からのスポット受注も断ら

ざるをえない状況であった。そこで、協議会の組成により販路の統一を

図ることで栗の生産量拡大と安定供給にも成功。この結果、県外からの

受注を確実に取り込めるようになった。

岡林農園 ▼法人化による原材料農産物の安定供給体制確立により商品ラインナッ

プの拡大と県外での販売強化を実現

個人農家として農業・産直に携わっていたが、その後、加工品製造・

販売に進出する中で、人気商品の変化の速さに気付くとともに、それに

応じた商品展開の拡大を目指して、2009 年に法人化。その結果、信頼感

が高まり、多くの農家から農産品供給面での協力が得られるようになっ

たことで、50 品目以上の商品展開が可能となり、リスク分散と経営の安

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定化を実現。加えて、県外需要の取り込みにも成功。足もとでは海外輸

出を意識して、英語版 HPも開設。

④ 企業経営の確立を通じた合理的な生産体制の構築

西島園芸団

▼外部からの経営者の招聘と収益分析に基づく生産体制の確立や商品開

発に努めたことで県外需要の獲得強化に成功

農家が集まって起業したものの、当初は企業経営が十分に確立してい

なかったこともあって、赤字決算となった時期もあった。こうした状況

を踏まえ、経営改善を企図して、外部から経営者を受け入れて以降、品

目別の収益性分析とそれに基づく生産等の効率化を図ったほか、年間を

通した集客を意識した商品開発等に注力したことで、県外観光客の取り

込みも着実に進捗。

四万十みは

ら菜園

▼企業経営の確立により収益・生産性の向上を実現

農作業従事の社員に対して、「生産性が向上し、予定作業を5日ででき

れば、土日を休みにする」と約束することで、創業当初から高い生産性

を実現。また、人事評価の徹底や業績連動の賞与支給など、企業経営を

確立したことで、安定的な収益体質を確立。

⑤ 外部人材の登用

池川茶園 ▼PR 面での外部人材の活用に加え、法人化による信用力向上が販路開拓

にも寄与

社内には、ホームページの整備など、PR面を十分に担える人材がいな

かったため、地元企業に外注。加えて、法人化による信用力向上が小売

業者との連携強化にも寄与し、販路開拓も円滑化。

馬路村農協 ▼PR 面での外部人材の活用

統一したイメージ戦略を貫くため、プロの外部デザイナーを登用し、

統一されたパッケージデザイン、地元 TV や CM を活用した情報発信を

展開。全国に「馬路村ファン」を増やすことに成功。

(出所)ヒアリング情報に基づき作成

(2)成功事例にみられる共通点を実現するための方法~キーワード:組織化、

外部機関・人材の活用~

図表 28の事例から分かるように、家族経営にとってはハードルが高いと思わ

れる①~⑤の取り組みを実現するために、「組織化」や「外部機関・人材の活用」

を行っている先がみられている。これは、地元農家を組織化することで、原材

料の安定供給体制が確立できるほか、法人化し企業経営を確立することで、信

用力を高めたり、販路拡大等を担う人材を確保し売上・収益の拡大に繋げるこ

とができるためである。

また、農産物の生産・加工・販売の六次産業化の全てを組織内部で行うので

はなく、営業面などで上手く外部機関や人材を活用し効率的に販路拡大等を実

現している先もみられている。この点、高知県では、県が地産外商公社を設立

し、大手卸売業者や量販店等とのネットワークを構築することで、県外・海外

への販売拡大を支援する体制を構築している。

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【BOX】「組織化」の効果と高知県における「組織化」推進の可能性

「組織化」の効果については、定量的にも個人経営体に比べて組織経営体の方が、県外

売上割合が大きいとの傾向がみてとれる(Box 図表1)。

(Box図表1)農産物加工の販売地域別売上高割合

(出所)農林水産省「6次産業化総合調査(平成 26年度)」より一部加工集計

こうした中、六次産業化事業の販売金額の大きい上位 10 都道府県に着目してみると、

高知県と同様に県内市場規模が大きくなく、遠く離れた大消費地の需要を取り込む必要の

ある道県では、大消費地およびその隣県に比べて、組織化率が高い傾向がみてとれる(Box

図表2、3、4)。これは、前者の地域では、組織化を進めることで図表 26に挙げた成功

要因を満たして外商に注力し、売上規模の拡大に成功している一方、後者の地域では、「外

貨獲得(=県外需要の獲得)」に注力せずとも県内で十分な需要が見込めるため、「外貨獲

得」に有効な組織化に向かっていないとの可能性が考えられる。

(Box図表2)人口密度に基づく販売金額規模上位 10都道府県の区分

都道府県 人口密度(人/平方キロメートル) 順位

三大都市圏及びそ

の隣県等

東京都 6122.9 1

千葉県 1214.9 6

福岡県 1027.3 7

静岡県 484.8 13

全国中央値 271.8

三大都市圏から遠

隔の県等

愛媛県 249.5 26

熊本県 244.3

27

鹿児島県 182.8

36

長野県 157.6

38

宮崎県 145.8

39

北海道 64.7

47

(出所)総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数(平成 28 年)」、国土交通省国土地理院「全国都道府県市区町村別面積調(平成 28年)」

76.0

39.0

24.0

61.0

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

個人経営体 組織経営体

県外(海外含む)

県内

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(Box図表3)六次産業化販売金額規模上位 10都道府県における組織化率と六次産業化浸透率の関係

(注)円の面積は六次産業化関連事業での販売金額の規模を表す。

(Box図表4)上位 10都道府県のグループ別にみた平均値

都道府県 組織化率 六次化浸透率 販売金額

三大都市圏から遠隔の県等

(北海道、愛媛、熊本、鹿児

島、長野、宮崎)

5.3% 16.1% 81,397 百万円

三大都市圏とその隣県等

(静岡、福岡、東京、千葉) 2.2% 32.6% 75,610 百万円

全国平均 4.1% 19.8% 39,728 百万円

高知県 2.2% 24.9% 34,031 百万円

(出所)農林水産省「6次産業化総合調査(平成 26年度)」、「2015年農林業センサス」

こうした中で、当地の六次産業化事業体の組織化率をみると、未だ全国平均に比べて低

く、県内の多くの事業体が、個人経営のままで六次産業化に取り組んでいるのが実態であ

る(Box 図表4)。逆説的に言えば、この事実は「組織化」を推進することで、原材料の

安定供給と企業経営を確立させ、高知県内の六次産業の「外貨を稼ぐ力」を強化する余地

があることを意味している。

(出所)農林水産省「6次産業化総合調査(平成 26年度)」、「2015年農林業センサス」

静岡

福岡

0

5

10

15

0 10 20 30 40 50 60 70

組織化率

(6次化に取り組む農業経営体のうち組織経営体の占める割合)

6次産業化の浸透率(農業経営体全体のうち6次産業関連事業を営む経営体の割合)

上位10県のうち三大都市圏から遠隔の県等

上位10県のうち三大都市圏とその隣県等

高知県

北海道

鹿児島

宮崎

愛媛

熊本

長野千葉

東京

(%)

(%)

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5.おわりに ~「外貨を稼ぐ力」の強化に向けた期待と新たな取り組み~

高知県は、大消費地からの距離が離れ、交通アクセスも悪い。こうした中で、

県外需要の取り込みは、前述の県内市場規模の縮小と合わせてみると、困難な

課題であるとともに喫緊の課題でもある。高知県にとって、数少ない「外貨を

稼ぐ力」のある産業として、第一次産業は重要な産業であり、その稼ぐ力を高

めるには、六次産業化が不可欠であると考えられる。こうした問題意識は「高

知県産業振興計画」の中にも活かされており、前述の地産外商公社など公的な

支援体制が充実してきているほか、最近では、農業クラスターの形成も進めら

れている。

農業クラスターは、組織化された一次から三次までの事業体を集積させるこ

とにより、県内の各地域に根差し、高知県が比較優位を持つ第一次産業を核と

して、関連する食品加工施設等(第二次産業)や、レストラン・直販所等(第

三次産業)を集積させて、地域経済を「面」として振興していこうという取り

組みである(図表 29、30)。その第一弾として、既に 2016 年 3 月には四万十町

次世代団地が完成し、同年 9 月からトマトの収穫を始めている。現時点では、

加工施設やレストランなどの六次産業化関連事業の展開については、検討段階

にあるとのことだが、ここで図表 27に挙げたポイントを押さえた取り組みが進

められれば、農業クラスターに集積した農業事業体の「外貨を稼ぐ力」を向上

させることができ、さらにはクラスター以外に所在する県内六次産業事業者に

も、その効果をスピルオーバーさせることができる可能性がある。今後、こう

した取り組みが着実に成果を挙げ、当地の六次産業の「外貨を稼ぐ力」を一段

と強化することを期待したい。

(図表 29)農業クラスターの概要

(出所)高知県ホームページ

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(図表 30)四万十町次世代団地の目指す農業クラスターのイメージ

(出所)高知県ホームページ

以 上