boj 特別調査70 ~ 74 75 歳 以 上 全国 高知 (%) 【図表7】開業率推移...

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2017 年 3 月 7 日 日本銀行高知支店 高知県における事業承継・創業支援の取り組み状況と今後の展望 本稿は、七條和也(高知支店)が執筆しました。また、計表等の作成に当たっては、細川裕 美(高知支店)の協力を得ました。ただし、本稿で示された意見は執筆者に属し、日本銀行あ るいは日本銀行高知支店の公式見解を示すものではありません。 本稿に掲載されている情報の正確性については万全を期していますが、当店は本稿の利 用者が本稿の情報を用いて行う一切の行為について、何ら責任を負うものではありません。 本稿の内容について、商用目的で転載・複製を行う場合は、予め日本銀行高知支店まで ご相談ください。転載・複製を行う場合は、出所を明記してください。 照会先:日本銀行高知支店総務課(TEL:088-822-0004) 本稿は、インターネット(http://www3.boj.or.jp/kochi/)からもご覧いただけます。 BOJ 高知 特別調査

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  • 2017 年 3 月 7 日

    日本銀行高知支店

    高知県における事業承継・創業支援の取り組み状況と今後の展望

    本稿は、七條和也(高知支店)が執筆しました。また、計表等の作成に当たっては、細川裕

    美(高知支店)の協力を得ました。ただし、本稿で示された意見は執筆者に属し、日本銀行あ

    るいは日本銀行高知支店の公式見解を示すものではありません。

    本稿に掲載されている情報の正確性については万全を期していますが、当店は本稿の利

    用者が本稿の情報を用いて行う一切の行為について、何ら責任を負うものではありません。

    本稿の内容について、商用目的で転載・複製を行う場合は、予め日本銀行高知支店まで

    ご相談ください。転載・複製を行う場合は、出所を明記してください。

    照会先:日本銀行高知支店総務課(TEL:088-822-0004)

    本稿は、インターネット(http://www3.boj.or.jp/kochi/)からもご覧いただけます。

    BOJ 高知 特別調査

    http://www3.boj.or.jp/kochi/

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    19

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    14

    人口増減率

    自然増減率

    社会増減率

    (%)

    (年、年度)

    30

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    (万人)(千万人)

    全国(左目盛) 高知(右目盛)

    推計

    (年)

    1.人口減少・高齢化が進展する下での事業承継・創業支援の重要性(問題意識)

    高知県では、全国に 15 年以上も先駆けて人口減少と高齢化が進んでいる【図

    表1~3】。

    この人口減少・高齢化の進展は、2つの意味での人手不足を示している。第1

    は、一般労働者の不足である。このところの景気回復もあって、有効求人倍率

    は1倍を超えた後も上昇を続けている。第2は、企業経営者の不足である。当

    地では、全国を上回る経営者の高齢化が進んでおり、休廃業・解散件数は全

    国的にみても高水準で推移している。また、開業率も、全国が 2011 年度をボト

    ムに上昇に転じる中で、当地では、2012 年度まで低下が続き、その後も上昇す

    る兆しはみられていない。特に企業経営者不足に伴う高水準の休廃業・解散件

    数と低水準の開業は、高知経済の新陳代謝が低く、ダイナミックな成長パスが

    描きにくいことを示唆しており、解決すべき喫緊の課題と言える【図表4~9】。

    高知県では、2016 年度からの『第3期高知県産業振興計画』において、「地産

    外商」、「拡大再生産」に取り組んでおり、担い手・後継者不足、新事業展開に

    伴う人材の必要性をその際のポイントとしている。そのうえで、事業承継・人材

    確保センターや産学官民連携センターの設立など、事業承継・創業支援の取り

    組みを積極化させている。また、地元金融機関もそのための体制強化に取り組

    んでおり、取組実績も徐々に増加している。

    以上のような状況を踏まえて、本稿では、高知県における事業承継・創業支援

    についての各種取り組みと課題、今後の展望について整理する。

    【図表1】高知県および全国の人口推移 【図表2】高知県の人口増減率の推移

    【図表3】都道府県別でみた年齢3区分別人口の割合(2015年 1月 1日現在)

    年少人口割合

    (0~14歳)

    生産年齢人口割合

    (15~64歳)

    老年人口割合

    (65歳以上)

    順位 都道府県 % 順位 都道府県 % 順位 都道府県 %

    ─ 全国 12.86 ─ 全国 61.54 ─ 全国 25.60

    1 沖縄県 17.45 1 東京都 66.17 1 秋田県 32.28

    2 滋賀県 14.75 2 神奈川県 63.99 2 高知県 31.66

    3 佐賀県 14.08 3 沖縄県 63.85 3 島根県 31.36

    4 愛知県 14.05 4 埼玉県 63.39 4 山口県 30.99

    : : : : : : : : :

    43 東京都 11.74 43 大分県 58.01 43 滋賀県 23.29

    44 高知県 11.65 44 秋田県 57.06 44 神奈川県 23.08

    45 青森県 11.61 45 山口県 56.73 45 愛知県 23.06

    46 北海道 11.54 46 高知県 56.64 46 東京都 22.09

    47 秋田県 10.62 47 島根県 56.00 47 沖縄県 18.68

    (注)「高知県の人口増減率の推移」の 2012年度以降は、日本人住民ベース。2012年以前は年度、2013年以降は暦年での集計。

    (出所)総務省「国勢調査」、国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口」、総務省「住民基本台帳に基づく

    人口、人口動態及び世帯数」

    (出所)総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」

  • 2

    59.3

    60.7

    50.0

    52.0

    54.0

    56.0

    58.0

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    1990 1995 2000 2005 2008 2011 2014 2015 2016

    全国

    高知

    (年)

    (歳)

    (%)

    1 徳島 2.382 愛媛 2.605 新潟 2.3592 愛媛 2.313 宮崎 2.414 宮崎 2.3493 広島 2.197 山梨 2.238 佐賀 2.1824 宮崎 2.169 徳島 2.205 島根 2.1375 高知 2.155 岡山 2.191 栃木 2.0736 佐賀 2.057 山口 2.185 徳島 2.0717 山梨 2.042 富山 2.182 群馬 2.0638 香川 2.029 佐賀 2.074 山口 2.0549 和歌山 2.026 鳥取 2.061 和歌山 2.04710 島根 2.014 福井 1.973 北海道 2.01911 群馬 1.991 奈良 1.946 山梨 1.98512 岡山 1.973 群馬 1.933 鳥取 1.97513 山口 1.971 北海道 1.916 奈良 1.97414 鳥取 1.945 新潟 1.906 富山 1.96715 滋賀 1.919 高知 1.898 愛媛 1.96616 北海道 1.841 島根 1.867 岡山 1.96317 新潟 1.792 京都 1.855 岐阜 1.90518 長野 1.787 滋賀 1.846 長崎 1.90019 福岡 1.786 広島 1.842 三重 1.86520 岐阜 1.782 長崎 1.822 福井 1.830… … … …

    33 秋田 1.643 静岡 1.591 高知 1.764

    全国 1.658 全国 1.645 全国 1.710

    2014年 2015年 2016年

    【図表4】経営者平均年齢推移 【図表5】休廃業・解散件数推移

    【図表6】休廃業・解散率順位

    (出所)帝国データバンク「全国社長分析」 (出所)帝国データバンク「全国『休廃業・解散』動向調査」

    (出所)帝国データバンク「全国『休廃業・解散』動向調査」

    0

    50

    100

    150

    200

    250

    2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016

    休廃業件数

    倒産件数

    (年)

    (件)

  • 3

    4.7

    4.5 4.54.6

    4.84.8

    5.1

    5.7

    5.1

    4.2

    3.9

    4.2

    3.9

    4.1

    3.0

    3.5

    4.0

    4.5

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    5.5

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    2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015

    開業率(全国)

    開業率(高知)

    (%)

    (年度)0.0

    2.0

    4.0

    6.0

    8.0

    10.0

    12.0

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    15

    ~1

    9 歳

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    ~2

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    4

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    ~3

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    40

    ~4

    4

    45

    ~4

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    60

    ~6

    4

    65

    ~6

    9

    70

    ~7

    4

    75

    歳以上

    全国

    高知

    (%)

    【図表7】開業率推移 【図表8】年齢別起業者割合(2012年)

    【図表9】起業者数の性別内訳(2012年)

    (全国) (高知)

    (出所)総務省「就業構造基本調査」、「人口推計」

    (出所)総務省「就業構造基本調査」

    (出所)厚生労働省「雇用保険事業年報」

    全国では、2011 年度をボトムに開業率が上昇する中で、高知県では、2012 年度まで低下した後、全国を下回る水準で横ばい圏内で推移している。

    高知県では、全国に比べて、50 歳代以上の起業者の割合が高い。

    高知県では、全国に比べて、起業者に占める女性の割合が高い。

    82.14%

    17.86%

    男 女

    78.30%

    21.43%

    男 女

  • 4

    (件)

    2015年度2016年度(10月末まで)

    累計

    107 64 171

    4 7 11

    相談件数完了件数

    2.事業承継支援の取り組み状況と課題

    (1)事業承継支援の取り組み状況

    ①事業承継・人材確保センターの取り組み

    高知県では、高水準の休廃業・解散件数や中核人材の不足などの課題に対応

    するため、2015年 4月に事業承継・人材確保センターを開設(県・国の委託によ

    り高知商工会議所が運営)し、事業承継の相談・サポート事業を本格化させてい

    る。具体的には、地元金融機関 OB やコンサルティング会社出身の専門スタッフ

    を配置し、地元金融機関や税理士・弁護士事務所などの外部機関とも連携しつ

    つ、事業承継支援に取り組んでいる。

    ―― なお、本センターは、事業承継支援に加えて、事業継続・拡大に必要な中

    核人材の確保を目的とした人材マッチング機能(例えば、高知県内で起業・

    就職を考えている人材登録のデータベース「後継者人材バンク」を設置)も

    備えている点で、他都道府県の事業承継センターとは異なっている。

    これまでの実績(2016 年 10 月時点)をみると、170 件程度の相談がある中で、

    事業承継が完了した件数は、11件(M&A含む)となっている【図表 10】。

    ―― 相談の内訳をみると、業種別では製造業、小売・卸売業の順に多く、相談

    内容は親族内承継、第三者への譲受希望(買い)、譲渡希望(売り)の順に

    多くなっている【図表 11~13】。

    【図表 10】事業承継・人材確保センター相談件数

    【図表 11】業種別相談内訳(2015年度) 【図表 12】相談内容(2015年度)

    【図表 13】相談ルート(2015年度)

    (出所)高知県事業承継・人材確保センター (出所)高知県事業承継・人材確保センター

    (注)「広報」は広告・HP等により当センターへ直接相談したもの。

    (出所)高知県事業承継・人材確保センター

    26.2%

    22.4%17.8%

    11.2%

    6.5%

    3.7%

    3.7%8.4%

    製造業

    小売・卸売

    建設・不動産

    サービス

    飲食・宿泊

    運輸

    医療・福祉

    その他

    30.8%

    26.2%

    21.5%

    6.5%15.0%

    親族内承継

    譲受希望(買い)

    譲渡希望(売り)

    従業員承継

    その他

    26.2%

    24.3%

    19.6%

    16.8%

    6.5%

    6.5%

    広報

    商工会・商工会議所

    金融機関

    県産業振興センター

    セミナー

    その他

  • 5

    ②地元金融機関の取り組み状況

    地元金融機関では、事業承継セミナー開催等を通じて、事業承継ニーズの掘り

    起こしに注力しており、自社株評価やM&A支援などで実績がみられている。

    ―― この点、地元金融機関で事業承継の相談受付件数を公表している四国

    銀行でも、取り組みに注力していることもあって、全国と同様に増加してい

    る【図表 14、15】。

    地元金融機関は、事業承継支援を行う人材の育成を、今後取り組みを進める

    に際しての課題としている。このため、職員のスキル・ノウハウ取得を目的とし

    たセミナーや勉強会への参加、職員の専門資格の取得、外部専門機関との連

    携強化、本部担当者の増員などの体制整備にも取り組んでいる。

    【図表 14】地銀・第二地銀の事業承継相談受付件数

    【図表 15】四国銀行のM&A・事業承継相談受付件数

    ▽事業承継ニーズの掘り起こしとその効果

    【セミナーの開催】

    ニーズ掘り起こしを企図して事業承継セミナーを開催しているほか、セミナー後にはアフターフォロー訪問を行っている。

    【営業店へのチェックシート配布】

    営業店では、本部から配布された「サポートシート」を活用して取引先の事業承継ニーズを把握していくよう努めている。

    【自社株評価、M&Aの事業承継支援・相談件数は増加傾向】

    本部担当者を増員し、支援体制を強化。事業承継(第三者承継のM&A含む)に積極的に取り組み、支援(相談)件数は増加基調にある。主に、自社株評価、資産承継スキーム等の提案を行っている。

    ▽体制整備状況

    【外部試験の受験推奨ほか】

    職員のスキル向上を図るため、「事業承継・M&Aエキスパート試験」の受験を推奨しているほか、営業店での勉強会を随時開催している。

    【セミナー、勉強会への参加】

    中小企業基盤整備機構が開催するセミナーや勉強会に参加しているほか、外部専門機関や本支店の連携活動などを通じて知識やノウハウの取得に努めている。また、各業種に関する専門知識も重要であり農林水産業経営アドバイザー、M&Aシニアアドバイザーなどの専門資格取得を推奨している。

    【外部専門機関との連携を強化】

    事業承継に関する案件の相談には、営業店と本部が連携して取り組んでいる。ただし、専門的かつ高度な知識を要する場合などには、外部専門機関と連携して取り組む必要があり、専門事業者や公的機関との連携をさらに強化していく方針。

    (出所)四国銀行

    (出所)全国地方銀行協会、第二地方銀行協会

    (件)2011年度 2012年度 2013年度 2014年度

    約9,000 約10,000 約11,500 約19,400

    前年差 ― 約1,000 約1,500 約7,900

    第二地方銀行 2,247 3,591 4,491 5,191

    前年差 ― 1,344 900 700

    地方銀行

    (件)

    2009年度 2010年度 2011年度 2012年度 2013年度 2014年度

    四国銀行 119 135 356 452 535 562

    前年差 ― 16 221 96 83 27

  • 6

    【参考】高知県内における事業承継の具体例

    ▽事業承継 M&A事例

    室戸岬で 40 年以上続く「岬観光ホテル」は大阪の酒造会社が経営していたが、女将と従業員が高齢で、かつ後継者もいない状況であった。顧問税理士から事業承継・人材確保センターに相談があり、提携先の四国銀行が買い手企業を探した。この結果、2016年 7月に室戸市の地元企業主である千頭善孝氏(有限会社ちかみ代表取締役社長)が手を挙げ、M&A が成立。

    ▽事業承継 M&A事例

    当社は、代表取締役(代取)の実父が開業。技術力があり、短納期が強みで、地場有力取引先を持つが、代取に後継者がおらず、廃業の準備に入っていた。メインバンクの担当行員がその情報を入手し、M&A による事業継続を提案、事業承継・人材確保センターへの相談となった。ほぼ同時期に商工会議所を通じて、当センターに金属製造業者より M&A 譲受希望(買い)の相談があり、両者と取引のあった登録民間支援機関の地元銀行が仲介着手、成約に至った。なお、事業譲渡側は M&A 仲介委託着手金について高知県補助金制度を活用。

    ▽従業員承継事例

    当社は安定した売上・収益を計上している企業であるが、社長から従業員への承継方法について事業承継・人材確保センターに相談。当センターでは事業承継計画の策定と県補助金制度の活用を助言、その後、補助金の申請がなされ、その受理を以って顧問税理士が事業承継計画を策定し実践に移された。

    ▽「後継者人材」バンクを利用した承継事例

    当社は後継者がおらず、将来事業を承継してくれる人材を確保し、育成したいと事業承継・人材確保センターに相談を行った。その後、同じ業界での経験があり、結婚を機に高知県での就職を希望する人物が「後継者人材バンク」に登録があったことからマッチングした結果、双方の希望が合致し、後継者候補として入社。

  • 7

    9385

    74

    35

    18

    9

    43

    0

    10

    20

    30

    40

    50

    60

    70

    80

    90

    100

    後継者が見つからない

    後継者が未熟で経営を任せられない

    事業承継計画が立てられない

    相続に関すること

    税金に関すること

    相談先が分からない

    その他

    (件)

    43.0%(507)

    25.4%(299)

    23.9%(282)

    5.4%(64) 2.2%(26)

    後継者が決定している

    事業承継を検討

    何も検討せず

    自分の代で清算・廃業を

    検討

    企業売却・M&Aを検討

    (2)事業承継支援における課題

    経営者が高齢の先でも、「忙しい」や「まだまだやれる」との理由から、事業承継

    についての検討が未着手となっている先が少なくない【図表 16】。また、事業承

    継の検討を行っている先では、後継者の不在や未熟さ、事業承継計画が立てら

    れないことなどが事業承継の悩みとして挙げられている【図表 17】。

    支援機関側からは、後述する創業支援と同様に事業承継ニーズの掘り起こしや

    事業承継支援に携わる人材育成が課題との指摘が聞かれている。

    このため、今後、事業承継を進めていくためには、事業者へ事業承継の必要性

    に関する意識付けを図っていくことや、事業承継計画策定を相談・支援する場や

    支援する人材の確保、関係機関の連携が重要なポイントである。

    【図表 16】県内事業者(50歳以上)の 【図表 17】事業承継に関する悩み

    事業承継の検討状況

    ▽各支援機関(含む金融機関)から聞かれる事業承継にあたっての課題

    【早期の事業承継対策を事業者側に意識付けする必要】

    当地では経営者の平均年齢が上昇傾向にあるが、依然として事業承継対策が進んでいない事業者も多い。この点、「今、忙しい」、「まだまだやれる」といった理由で何も検討していない事業者が多いほか、事業承継を検討している先でも、「適当な後継者が見つからない」、「未熟である」、「事業承継計画の立て方が分からない」などの悩みが聞かれている。また、中小・零細企業の中には、後継者がおらず、いわば「諦めの境地」から自分の代で廃業することを考えている事業者もみられている。

    事業承継では、後継者教育や相続税対策などの問題をクリアにする必要があり、早期に準備しておくことを意識付けしておく必要がある。

    【人材育成】

    事業承継支援に対する職員の業務知識が不足し、話の進め方が分からず、提案を行うことに戸惑いを感じている職員が少なくない。こうした状況を踏まえると職員の人材育成が課題。

    【事業承継ニーズの引き出しなどが行える人材の確保・育成が課題】

    後継者がおらず、自分の代で廃業を考えている、あるいは、高齢であるものの、事業承継を考えていない事業者が少なからず存在する。一方で、事業承継は専門的な知識が必要なほか、経営者の機微に触れる事項を多く含む案件でもある。こうした中、潜在的なニーズを引き出し、経営者に早期の事業承継対策を提案していくためには、相応の知識やノウハウが求められることから、こうした知識を持つ職員の育成が課題となっている。引き続き、人材の育成に努め事業承継を支援する体制を拡充していく方針。

    (出所)高知県事業承継・人材確保センター

    「高知県事業承継等推進調査報告書」

    「全国休廃業動向調査」

    (出所)高知県事業承継・人材確保センター 「高知県事業承継等推進調査報告書」

    「全国休廃業動向調査」

  • 8

    16.2

    14.0

    11.4

    10.19.2

    4.4 3.9 3.5 3.5

    5.3

    0

    2

    4

    6

    8

    10

    12

    14

    16

    18

    資金調達

    事業に必要な専門知識・技術の習得

    販売先の確保

    経営知識一般(財務・会計を含む)の習得

    家族の理解・協力

    家庭(家事・育児・介護)との両立

    質の高い人材(経理、営業、技術等)の確保

    起業に伴う各種手続き

    量的な労働力の確保

    特にない

    (%)

    (出所)中小企業白書(2014年版)

    3.創業支援の取り組み状況と課題

    (1)創業を阻む要因・課題

    起業家が起業を断念しそうになった際に直面した課題から、創業を阻む要因を

    推察すると、創業に際しての具体的な資金調達計画(「資金調達」)や事業計画

    を作成するための知識・スキルの不足(「財務・会計を含む経営知識一般の習

    得」)が大きな課題であることがみてとれる【図表 18】。

    金融機関を含む支援機関側からは、創業を目指す人の掘り起こしのほか、創業

    者をサポートする知識・ノウハウを備えた人材育成が課題との指摘が聞かれて

    いる。

    この間、創業した際の相談相手をみると、政府系を含む金融機関の割合は極め

    て小さく、「相談する相手がいなかった」と回答する起業者が最も多いとの結果

    が得られている【図表 19】。

    以上を踏まえると、今後、創業を増加させるには、金融機関を含む支援機関サ

    イドで、人材・ノウハウ面で他の機関と連携すること、事業計画策定と資金調達

    に関する支援をセットで行うことが重要である。こうした課題を克服していけば、

    創業を目指す人に、金融機関を含む支援機関が相談先として認知してもらえ、

    実際に創業支援が増加することになる。

    【図表 18】創業者が創業を断念しそうになった際に直面した課題

    ▽各支援機関(含む金融機関)から聞かれる創業支援にあたっての課題

    【創業意欲を持つ人材の掘り起こしが課題】

    高知県は、人口減少県であるため、大都市圏からの U・I・J ターンによる人材の呼び込みが重要となってくる。創業意欲のある人材を掘り起こし、県や専門機関、金融機関が事業計画・資金面のサポートをしっかりと行う必要がある。

    【創業支援を行う人材育成】

    起業者が策定した計画(販路、仕入れ、資金計画等)の内容によって、金融機関が提供可能な支援も変わる一方で、創業支援の多くは専門知識のほか、業務経験や人的繋がりが必要とされる。現状では、適確な創業支援を行える人材が少ないほか、金融機関単独では人材教育に割けるリソースが限られている。

    【創業支援を行う人材育成のほか、起業者の能力向上のサポートも必要】

    創業案件の掘り起こしに加え、そうしたニーズの具現化を手助けする支援機関側の体制を充実していくための職員の育成が課題。また、各種セミナーに参加した際に感じるのは、「志はあるけれども事業プランは全くの白紙」という起業候補者も多いようで、起業に向けた志を的確に事業計画へ盛り込み具体化できるようサポートすることが重要であると感じている。

  • 9

    19.6

    15.2 14.6

    6.6

    3.9 2.9 2.2 1.9 1.9 1.8 0.9 0.9

    26.1

    0

    5

    10

    15

    20

    25

    30(%)

    (出所)中小企業白書(2014年版)

    家族・親戚

    起業仲間や既に起業した先輩起業家

    友人・知人

    起業のパートナー(共同起業者)

    経営コンサルタント(税理士、会計士、中小企業診断士を除く)

    税理士・会計士

    職場の取引相手

    職場の同僚・上司

    商工会・商工会議所

    民間金融機関

    政府系金融機関(日本政策金融公庫等)

    中小企業診断士

    相談する相手はいなかった

    (出所)中小企業白書(2014年版)から一部加工

    家族・親戚

    起業仲間や既に起業した先輩起業家

    友人・知人

    起業のパートナー(共同起業者)

    経営コンサルタント(税理士、会計士、中小企業診断士を除く)

    税理士・会計士

    職場の取引相手

    職場の同僚・上司

    商工会・商工会議所

    政府系金融機関(日本政策金融公庫等)

    中小企業診断士

    【潜在的な起業家人材の掘り起こしとともに、起業等にチャレンジする人をサポートする場が必要】

    高知県で起業などにチャレンジする人を増やしていくことが当地の課題。この点、県内で起業にチャレンジする人をサポートするだけでなく、県外から高知県で起業する人の呼び込みを積極化することも必要であり、「支援体制も整って、起業しやすい県は高知県」ということを積極的にPRする必要がある。

    【図表 19】創業した際の相談相手

  • 10

    (2)創業支援の取り組み状況

    ①県内自治体の取り組み状況

    県内の「創業支援事業計画」認定自治体数は、現時点で17市町まで増加してい

    る【図表 20】。

    高知県では、2016 年度からの「第3期産業振興計画」で、起業や新事業展開促

    進の強化を掲げており、①起業者の相談機能強化、②起業者の学びの場から

    ビジネスに繋げるまでの支援強化、③資金確保の支援強化、④事業化後のアフ

    ターフォロー強化、を重点ポイントとして、関係機関とも連携しながら取り組みを

    積極化させている【図表 21】。

    ―― 具体的には、起業に関する講座の開設やビジネスプランコンテストの開

    催などを実施。また、2016年 9月からは、起業や新事業展開を志す人を中

    心に、先輩起業家、専門家や支援機関等が集まり、アイデア段階からビジ

    ネスモデルの具体化やビジネスプランの磨き上げ、ネットワークづくりなど

    のサポートを行うなどの起業準備に取り組む場として「こうち起業サロン」を

    開設(なお、「こうち起業サロン」は県レベルでは他でもあまりみられていな

    い取り組み)。

    ―― なお、「第3期産業振興計画」では、県のサポートによる起業・第二創業件

    数を、2025年度までに累計 250件にまで伸ばすことを目標としている。

    【図表 20】高知県の「創業支援事業計画」注認定自治体数

    第 5 回認定(2015/5 月) 高知市

    第 7 回認定(2016/1 月) 室戸市、土佐清水市、四万十市、いの町、四万十町

    第 8 回認定(2016/5 月) 南国市、須崎市、宿毛市、香美市、本山町、土佐町、中土佐

    町、越知町

    第 9 回認定(2016/8 月) 津野町

    第 10回認定(2016/12月) 香南市、土佐市

    合計 17市町 (注)市区町村が民間の創業支援事業者と連携し、ワンストップ相談窓口や創業セミナー開催などの創業支援を実施する「創業支援事業計画」を策定し、国が認定。本計画の認定により支援を受けた創業者は各種支援策が受けられる。

    【図表 21】高知県の取り組み施策

    県では、「第3期産業振興計画」のもとで起業や新事業展開の促進を強化ポイントと位置付けて、起業推進室を開設し、起業等にチャレンジする人のサポート体制構築と関係機関の連携に力を入れている。

    2015 年 4 月には、県内外の企業や高等教育機関、関係機関の産官学民連携のプラットフォームとして、「ココプラ」を開設したほか、「土佐MBA(土佐まるごとビジネスアカデミー)注」に起業に特化した講座を開設するなどして起業人材の育成を行っている。

    また、2015 年からはビジネスプランコンテストを開催し、起業・新事業の種の発掘を行っているほか、2016 年 9 月からは、起業や新事業展開を志す人を中心に、先輩起業家やメンター、専門家や支援機関が集まり、ともに起業の準備に取り組む場として「こうち起業サロン」を開設。アイデア段階から、ビジネスモデルの具体化やビジネスプランの磨き上げ、ネットワークづくりなどのサポートを行うなど、起業支援を積極化している。

    (注)土佐MBA(土佐まるごとビジネスアカデミー)は、産業人材の育成を目的に、高知県が実施する研修事業。ビジネスに必要な幅広い分野(会計・財務、マーケティング、事業計画策定、組織管理等)について、基礎知識から応用・実践編までを網羅したプログラムを提供している。

    (出所)経済産業省

  • 11

    【参考】「第3期産業振興計画」の強化のポイント(起業や新事業展開の促進)

    (出所)高知県

  • 12

    【参考】「こうち起業サロン」の開設

    (出所)高知県

  • 13

    (件、%)

    2013年度

    2014年度

    2015年度

    9 8 12

    全体に占める割合

    7.5 7.5 10.7

    若年層(30歳未満)

    ②金融機関の資金サポートに関する取り組み状況

    創業融資に積極的な金融機関として有名な日本政策金融公庫では、創業者向

    けの融資メニューや民間金融機関との協調融資スキームの構築などにより、資

    金面のサポートに取り組んでいる。当公庫の高知県内での創業融資件数・金額

    は、このところ年間 100件、8億円を超える水準まで増加している【図表 22】。

    ―― 業種別にみると、飲食・宿泊業、サービス業、医療・福祉業の順となって

    おり、単年度の動きで評価は難しいものの、足もと創業融資に占める若年

    層の割合も上昇している【図表 23、24】。この間、高知県では、起業者に占

    める女性の割合が全国比高いことを映じて、創業者向け融資の割合に占

    める女性の割合も全国比高くなっている【図表 25】。

    一方、地元金融機関の取り組みは、他地域に比べ遅めであり、緒に就いたばか

    りである。ただし、日本政策金融公庫との連携融資商品の導入(四国銀行)や創

    業支援ファンド(四国銀行・高知銀行)の設立など、ここ数年で取り組みを進め、

    徐々に実績も積み上がってきている【図表 26、27】。

    【図表 22】日本政策金融公庫の創業融資企業数・金額実績(高知県)

    (出所)日本政策金融公庫

    (出所)日本政策金融公庫高知支店 (出所)日本政策金融公庫高知支店

    【図表 23】日本政策金融公庫の創業融資 業種別割合(2015年度、高知県)

    【図表 24】日本政策金融公庫の創業融資 に占める若年層の割合(高知県)

    27.7%

    22.3%14.3%

    11.6%

    11.6%

    5.4% 7.1%

    飲食・宿泊

    サービス

    医療・福祉

    小売

    太陽光

    製造

    その他

    0

    20

    40

    60

    80

    100

    120

    140

    0

    200

    400

    600

    800

    1000

    1200

    2011 2012 2013 2014 2015

    融資金額(左軸)

    融資企業数(右軸)

    (年度)

    (百万円) (件)

  • 14

    【図表 25】日本政策金融公庫の創業融資性別割合(2015年度)

    (高知) (全国)

    【図表 26】地域金融機関の創業・新事業支援融資の件数

    (全国〈地銀+第二地銀〉)

    (四国銀行) (高知銀行)

    (出所)日本政策金融公庫高知支店

    (出所)全国地方銀行協会、第二地方銀行協会

    (出所)四国銀行、高知銀行

    0

    1,000

    2,000

    3,000

    4,000

    5,000

    6,000

    7,000

    8,000

    9,000

    0

    200

    400

    600

    800

    1,000

    1,200

    1,400

    1,600

    2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014

    金額

    件数(右軸)

    年度

    (件)(億円)

    0

    5

    10

    15

    20

    25

    30

    35

    40

    45

    50

    0

    2

    4

    6

    8

    10

    12

    14

    2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014

    金額

    件数(右軸)

    (億円) (件)

    年度

    0

    20

    40

    60

    80

    100

    120

    0

    10

    20

    30

    40

    50

    60

    70

    80

    2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015

    金額

    件数(右軸)

    年度

    (件)(億円)

    69.6%

    30.4%

    男性 女性

    79.0%

    21.0%

    男性 女性

  • 15

    【図表 27】地元金融機関における資金面でのサポート状況

    ▽四国銀行・日本政策金融公庫の連携融資商品

    ▽「しぎん地域活性化ファンド」の設立(四国銀行)

    1.名称 しぎん地域活性化投資事業有限責任組合

    2.設立時ファンド金額 5億円

    3.設立日 平成 29年 1月 24日

    4.設立時組合員構成 有限責任組合員:株式会社四国銀行

    有限責任組合員:株式会社四銀地域経済研究所

    5.存続期間 約 10年(平成 29年 1月 24日~平成 38年 12月 31日)

    6.投資形態 株式出資、社債引受など

    7.投資対象 当行が営業基盤を有する地域において、起業・新事業展開等を目

    指す事業者であって、地域資源の活用、地域の雇用確保などを通

    じて、地域活性化の取組みに資する事業。

    8.ファンド運営会社 株式会社四銀地域経済研究所

    (出所)四国銀行

    (出所)四国銀行

  • 16

    ▽「こうぎん地域協働ファンド」の設立(高知銀行)

    1.名称 こうぎん地域協働投資事業有限責任組合

    2.ファンド総額 3億円

    3.設立日 平成 28年 4月 1日

    4.組合員構成 株式会社高知銀行

    オーシャンリース株式会社

    REVICキャピタル株式会社

    5.存続期間 6年 6か月(平成 34年 9月 30日まで)

    6.投資対象 当行の営業エリアで事業を営む、または事業を開始予定の法人の

    お客さま

    7.業務運営 オーシャンリース株式会社、REVICキャピタル株式会社

    (出所)高知銀行

  • 17

    ③金融機関の資金サポート以外での取り組み状況

    資金サポート以外での取り組み状況をみると、各金融機関とも、県や専門機関

    と連携しての創業セミナーの主催や情報交換等による創業者掘り起こしに取り

    組んでいる。また、創業後のフォローアップとして、積極的な個別訪問や情報提

    供も実施している。さらに、創業支援を行う人材の育成が課題であると認識して

    おり、勉強会参加等による創業支援を担当する人材の育成強化に努めてい

    る。

    ▽創業者の掘り起こし

    【創業セミナー等の開催】

    県内で定期的に創業セミナーを開催しているほか、県などの自治体や専門機関主催のセミナーや勉強会にも参加し、起業を目指す人の掘り起こしを行っている。

    【創業セミナー等への参加】

    各支援機関が開催するセミナーや勉強会に積極的に参加して、創業案件の発掘や情報収集、起業を考える人へのアドバイスを実施。

    【連携協定や「シーズ発表会」による創業者掘り起こし】

    県内の高等教育機関4校と連携協定を締結しているほか、高知高専との共催により、「シーズ発表会」を開催し、地元企業のニーズと研究技術に関する情報交換の場を提供。営業店の業務以外の場面でも本部の活動やイベントの開催などにより、創業案件の発掘に取り組んでいる。

    ▽創業後のフォローアップ

    【創業後の企業訪問、中小企業経営力強化資金に伴う創業後の助言・指導】

    創業後のフォローアップとして、顧客訪問等による創業後の相談に乗っているほか、融資メニューの中にも、商工会議所や商工会などの機関から指導・助言を受けることを前提とした融資商品(中小企業の経営力強化資金)をラインナップしている。

    【モニタリング等の実施】

    営業店の渉外担当者が定期的に訪問して、モニタリングを実施しているほか、必要に応じて外部専門機関とも連携し、サポートを実施している。

    【個別訪問・情報提供の強化】

    創業後の企業から、事業開始後に生じた課題の解決に向けた相談を受け、必要に応じて商談会への出展支援や各種補助金の紹介、企業の成長に資する情報提供を行うなど、フォローアップの強化にも取り組んでいる。

    ▽創業支援を行う人材の育成についての取り組み

    【行外派遣、セミナー、勉強会の活用】

    営業店担当者の長期行外派遣研修や、地銀協主催「創業支援」等の短期研修の受講のほか、「こうち起業サロン」への参加、商工会議所が開催するセミナー・勉強会を通じて、知識・ノウハウの習得を図り、担当者の育成に努めている。

    【金融機関向けの研修・勉強会等の開催】

    創業案件は場数を踏むことが大事であると認識している。当金融機関では、これまで創業関連案件を多く手がけてきたこともあって、ノウハウが蓄積されている。協調融資を行っている民間金融機関との間で、融資先との同意のうえではあるが、創業計画を互いに共有して事業プランの妥当性等について意見交換を行っている。加えて、金融機関向けの研修や勉強会を行うことで、ノウハウや勘所の伝授にも積極的に取り組んでいる。

    【研修等の強化】

    本部集合研修や自主参加型休日セミナーを開催しているほか、営業店職員が本部に在籍している各業種(太陽光発電・医療など)の専担者を同行し、取引先の創業支援活動を実際に行うことで、知識やノウハウのレベルアップを図っている。

  • 18

    【参考】高知県内における創業企業の具体例

    ▽若者の創業事例

    大学卒業後に、黒潮町の製塩所で2年間の技術習得を図った後、中土佐町で天然塩を生産する製塩所を開業。自己資金のほか、日本政策金融公庫の創業支援融資と中土佐町からの補助金を利用して、資金調達を行った。

    ▽医療・福祉関連分野での創業事例

    身体障害者に対する車椅子や姿勢保持装置の製造販売・メンテナンスを手がける事業が極めて少ないことから、その課題解決のために、質の高い福祉用具の提供を目指して創業。認定支援機関である四国銀行が事業計画策定支援を行い、日本政策金融公庫と協調して資金支援を実施した。

    ▽当県での地域産業資源を活用した融資

    県が進める地域アクションプランにおける中山間地域の新たな産業創出を担う事業の一つとして、高知県産竹材を用いた集荷・一次加工・販売に係る事業の開業をサポート。工場建設資金として高知銀行の「地域ブランド応援融資」を活用した。

    ▽U ターン創業事例

    大阪から高知への U ターン創業。これまでの7年間の勤務経験を活かして生まれ育った高知で地元野菜を使った料理を提供したいと思い、日本政策金融公庫での融資を受けて、当地で飲食店を創業した。

  • 19

    4.今後の展望

    当地の事業承継・創業支援についての取り組み状況をみると、潜在的なニーズ

    の掘り起こしや専門人材の育成等に課題を残しつつも、専門支援機関の設立

    や関連セミナーの開催、融資商品や補助金の整備など、体制面は概ね整いつ

    つある。このため、先行きは、着実に創業・事業承継支援の実績が積み上がっ

    てくるとみられる。

    今後、これまでの取り組みとその成果をチェックすることで、より実効性のある支

    援体制を構築し、着実に事業承継・創業事例を積み重ねて成果を出していくこと

    が求められている。

    この点、民間ベースの持続的な取り組みに繋げる観点で、債権者として県内企

    業を育成あるいは新陳代謝を促進し、地域経済の活性化に繋げていくことがで

    きる地元金融機関が担う役割は大きい。今後、各金融機関が事業承継・創業支

    援についてのスキル・ノウハウを高めたうえで、取り組みを一層進めていくこと

    が期待される。

    ▽事業承継支援に関する今後の取り組み方針 【潜在的な事業承継ニーズの掘り起こしと、支援能力強化に今後注力】

    事業承継相談の件数は増加しており、中には実際に事業承継に繋がった事例もみられ始めている。これからは取り組みをより深化させていくことが必要であり、事業承継の必要性に気づいていない高齢の経営者、あるいは収益は良いながらも後継者不在で事業引継を諦めている事業者などの潜在的な事業承継ニーズの掘り起こしが重要。

    また、支援側の専門性強化も必要であるとの認識のもと、当地には M&A などを手掛けた弁護士や会計士が少ないことを踏まえて、今後は、当地の弁護士や税理士等に対して士業者向けセミナーを開催することなど、具体的な検討も行っている。

    【人材育成を通じた事業承継支援体制の強化】

    勉強会の開催、本部でのトレーニーの受け入れ、本部担当者の同行訪問等を通じ、営業店職員の人材育成に積極的に取り組み、事業承継支援体制を強化していく方針。

    【関係機関との連携や人材育成の強化】

    今後、一段と事業者の高齢化が進展していくことを踏まえると、事業承継分野の案件は今後も益々増加していくことが予想される。人材育成や支援体制を一層強化していくとともに、事業承継・人材確保センターなどの外部専門機関との連携にもより一層強化していく方針。

    ▽創業支援に関する今後の取り組み方針 【体制は概ね整いつつあり、関係機関と連携して、創業の種の掘り起こし等に取り組む】

    県の取り組みにおいても「こうち起業サロン」の開設など起業支援体制は概ね整いつつあり、これからは実行のフェーズ。自治体・専門機関・金融機関などが連携して、創業の種の発掘をはじめとして、創業支援を盛り上げていきたい。

    【関係機関との連携を密にして創業支援に取り組む】

    実効性のある支援を実施するためには、創業支援を的確に行える人材の育成が不可欠なため、金融機関と同様に「創業者の窓口」機能を担う県や外部機関(日本政策金融公庫、商工会議所など)との連携を密にし、お互いの持つノウハウを共有することで、相互の人材育成・支援強化に繋げていく方針。

    【創業者の発掘と支援、それらを行う人材育成に引き続き注力】

    創業ニーズを掘り起こしていくことが重要であり、そうした活動を営業店と本部が一体となって展開していく中で、若手職員の育成にも注力していく方針。また、県や外部専門機関との連携を図りながら、I・U・Jターンの県外人材に対する創業支援にも注力する方針。

    【起業のサポート体制は概ね整備されてきたため、今後は実際に起業を実現し、起業・新事業展開件数の増加に向けて成果を出していくことが求められる】

    高知県では、起業促進にあたっての仕組みづくり・連携は概ね整ってきたとの認識にある。今後は、起業の種を具体化し、起業の実現に繋げるためのサポートを強化していく段階と考えている。例えば、昨年スタートの「こうち起業サロン」では、起業の実現に向けて段階的に準備を進めていけるよう、起業に向けた各段階に合わせたサポートプログラムを実施するとともに、事業計画等がある程度明確になってきた人に対しては、その実現に向けた具体的課題

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    の解消に向けて専門家による個別相談を実施するなど、起業の実現に向けたサポート体制を強化する方針。さらに、それを県の各部局で実施している分野別の一貫サポート・伴走支援の取り組みへと繋げていくことにより、起業後のフォローアップも実施していく計画。

    以 上