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3次元情報の活用と情報化施工 3次元情報の活用と情報化施工 大阪大学 大学院工学研究科 環境・エネルギー工学専攻 教授 Ph.D. 矢吹 信喜 平成22年度 財団法人 日本建設情報総合センター 社会基盤情報標準化セミナー2010 平成2297日(火) 13051355 @名古屋会場・愛知県産業労働センター ウィンクあいち 平成22914日(火) 13051355 @広島会場・広島YMCAホール 国際文化ホール 1 Nobuyoshi Yabuki (c)2010

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3次元情報の活用と情報化施工3次元情報の活用と情報化施工

大阪大学 大学院工学研究科環境・エネルギー工学専攻

教授 Ph.D.

矢吹 信喜

平成22年度 財団法人 日本建設情報総合センター社会基盤情報標準化セミナー2010

平成22年9月 7日(火) 13:05~13:55 @名古屋会場・愛知県産業労働センターウィンクあいち平成22年9月14日(火) 13:05~13:55 @広島会場・広島YMCAホール国際文化ホール

1Nobuyoshi Yabuki (c)2010

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1.なぜ1.なぜ33次元?次元? なぜ情報化施工?なぜ情報化施工?

• 戦後,大量の土木構造物を建造.

• 設計作業のうち,解析や設計計算の一部は計算機にやらせるものの,2次元の図面を人間が描き,人が人に設計情報を伝えてきた.

• 施工機械を使用するも,熟練オペレータが操作.2次元の図面を見ながら施工.

• 設計の方法も施工の方法も,ほぼ標準化され,発注者のペース.

• 1960年頃~90年頃まで,日本の土木は,その時代背景において「最適化」されていた.効率的で大きな問題もなく,それなりに皆ハッピーにやっていた.

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ところが,90年代以降,建設業の労働生産性は?

出典:「建設業ハンドブック2010」日本建設業団体連合会・日本土木工業協会・建築業協会

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原因は一概には言えないが・・・

• 東西冷戦の終結.

• インターネットを米国が自由化.世界に普及.

• パソコンの低価格化,高性能化.• 製造業では,3D CADの普及.

• 製造業においては,設計と製造の統合化が進んだ.

• 冷戦終結のため,グローバリゼーション.国際競争激化.勝つための技術開発.

• 「情報革命」,「IT革命」.• 建設分野は,CALS/ECなどの努力はしたが,乗り遅れた.

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建築で2005年頃から“BIM”が話題に

• Building Information Modelingの略.

• 2005年頃から,突然,流行りだした用語.

• オブジェクト指向技術に基づく3次元のプロダクトモデルを中心として,種々の異なるソフトウェアでデータを交換,共有しながら,意匠,構造,設備,生産など異なる分野の技術者およびオーナーなどが協調的・効率的に素早く建築構造物の設計を行うための技術.

• BIMの中核は,3次元のプロダクトモデル.IAIのIFC.• 2次元のCAD図面ではない.

• 米国,ノルウェー,フィンランド,シンガポールなどで,IFCを建築の3Dモデルの標準と位置付け.

• BIMに対する関心が高まっている.

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国内建設投資の減少と海外への進出

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• 海外への進出意欲は高いが,仕事のやり方が国内と大きく異なる.

• 機械類はレンタルではなく,自前で持っていなくては,入札にさえ参加できない国もある.

• 国内で情報化施工していないと,いきなり海外でやれと言われても大変.

•マシンガイダンス,マシンコントロール,GPSを使った施工管理などが,先進国

では当然になりつつあり,入札条件になっている場合がある.

•我が国の建設会社は,海外で苦労している.

出典:「建設業ハンドブック2010」日本建設業団体連合

会・日本土木工業協会・建築業協会

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まとめると背景は,三点!

• 建設分野は,90年代以降,労働生産性が製造業と比較して著しく低くなった.(製造業では,3D CADを中心とした設計・製造の統合化)

• 建築分野では,2005年頃から急にBIMという言葉が流行り,3D プロダクトモデルIFCを使った新

しい業務プロセスを構築しようとしている.

• 我が国の土木建設会社が海外に進出しようとするとき,国内が情報化施工に乗り遅れているため,苦労している.

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パラダイムシフト

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従来 90年代から始まったシフト

情報伝達 人間から人間 人間からコンピュータコンピュータからコンピュータコンピュータから機械

メディア 紙人間が読める電子ファイル

人間も読めるがコンピュータや機械が「理解」できる電子ファイル

情報の主な消費者 人間 コンピュータ機械

• 2次元のCAD図面ファイルを他のCADソフトで読めるようにして

も,それはあくまで図面ファイルを読み込んだだけで,構造物のデータを機械が「理解」したわけではない.

• コンピュータや機械が読んで「理解」出来るオブジェクト指向技術に基づいた3次元モデルに移行しなければ,21世紀の本当

の情報革命には乗り遅れる.

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2.2.BIMBIM

• 建築分野での,– 意匠設計↓– 構造設計↓– 設備設計↓– 生産設計といった順番に行う設計プロセスを,3次元のプロダクトモデルを中心として,プロジェクトの初期の段階に,皆で,同時進行的・協調的・協力的に,短期間で,ほぼ全て行ってしまおうとすること.– 意匠設計↓↑– 構造設計↓↑– 設備設計↓↑– 生産設計↓↑

• 効率化,ミスの低減,コスト削減,およびより良い設計・施工の実現が期待できる.

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3次元で先を行く建築のBIMとは何かを知っておくことは土木でも重要.(BIMは統合化する)

Source :IAI, AEC3 (TLC)Nobuyoshi Yabuki (c)2010

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BIMのねらい

計画 基本設計 詳細設計 生産設計 施工 運用・維持管理

設計変更に伴う建設コスト増分

設計変更による建設コストと構造物の機能への効果

業務量

(コスト)

または

効果

時間

現状の設計に係る業務量

BIMでの設計

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BIMの歴史と今

• 機械・製造分野では,70年代からCAD/CAM/CAE,その後のコンカレント・エンジニアリングとして,約30年以上の歴史.

• 70年代に,CADデータ標準IGES(Initial Graphics Exchange Specification)が制定.

• 80年代初期のオブジェクト指向技術の誕生を機に,単なる3次元CADからモデルベース設計へとコンセプトが変わった.Feature‐based designとかObject‐based design.

• 米国では,80年代から土木建築分野で3Dモデルによる統合化の研究開始(例:スタンフォード大学のCIFE(Center for Integrated Facility Engineering))

• プロダクトモデル(単なるCAD標準ではない)• 米国では,PDES(Product Data Exchange Standard)の開発開始.• 同時期に,ヨーロッパでは,ISO, TC184, SC4がISO‐10303,略称STEP

(Standard for the Exchange of Product Model Data)の開発開始.後に,PDESを吸収.

• 機械分野では,ISO‐STEPのプロダクトモデルの仕様作成は進んだが,建築・土木分野は進まなかった.

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建築分野のプロダクトモデルはIFC• 1994年

– 米国の12社でコンソーシアム,IAI(Industry Alliance for Interoperability)を設立.当初はIndustryだった.

• 1995年– 他の会社や国外も勧誘.

• 1997年– IAIをInternational Alliance for Interoperabilityに改名.AEC(Architecture, Engineering & 

Construction)のプロジェクトモデル,IFC(Industry Foundation Classes)を開発する国際的な非営利団体に.(民間主体)

• 最近,IAIは,buildingSMARTへ改名中.日本は,まだ「一般社団法人 IAI日本」.

• 現在– IFCは,ISOのPAS(Publicly Available Specification).– IFC2x4は,ISOのIS(国際標準)に2011年頃になる予定.

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なぜ2次元CAD図面では駄目で,3次元プロ

ダクトモデルでなくてはいけないのか?

•2次元図面は,人間が見れば,何を表している図なのか,ある部材の寸法はいくつかのか,図面教育を受けた人ならば誰でもわかる.

• しかし,2D-CAD図面は,単なる線,円,文字,模様デー

タの集合.「部材」をコンピュータに認識させることは困難.

• 例え,ある部分(線の集合)が「桁」だと認識させても,平面図,断面図,立面図などの整合を取ることは困難.

• 3Dプロダクトモデルデータの場合,オブジェクト指向技術

に基づいて,部材の形状や属性データを互換性のあるテキストファイルで表現する.

• 3Dプロダクトモデルデータは,コンピュータが「理解」でき

る.Nobuyoshi Yabuki (c)2010

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昔,勉強した図学の教科書

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32年前,大学の製図(演習)では,烏口を使い,墨でケント紙に図面を書かされた.

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3.情報化施工3.情報化施工

• 以前の「情報化施工」

– トンネルや土工などの建設工事は,常に不確定要素が存在する.

– そこで,施工時に様々な計測を行い,そのデータをリアルタイムに処理して,設計にフィードバックし,逆解析などを実施することにより,適宜施工方法を調整することが,長い間,情報化施工だと認識されてきた.

– TerzaghiとPeckが1948年に提唱した「観測施工」.

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最近の「情報化施工」

• 3次元の設計データとTS(Total Station)あるいはRTK‐GNSS(Real Time Kinematic – Global Navigation Satellite System)などの測量データを利用して施工機械を自動的あるいは半自動的に稼動させるとともに,出来形や品質データを自動的に得て検査を効率化することを意味することが増えてた.

• 一つは,ICTを用いて建設機械の自動化であり,例としては,バックホウなどの掘削盛土機械に3次元設計データを入力し,TSやGNSSによる位置データから,丁張りなしで制御できるようにオペレータに指示するマシンガイダンス技術マシンガイダンス技術やブルドーザやグレーダの排土板の高さを,やはり3次元設計データと機械の位置情報から,油圧を使って,自動制御しながら敷き均しを行うマシンコントロール技術マシンコントロール技術.

• もう一つは,設計・施工時の情報を基にした技術者の判断や監理の高度化であり,例としては,TSやGNSSを用いた出来形出来形管理技術管理技術,ローラの走行軌跡や加速度応答から締固めや強度など品質を管理する技術品質を管理する技術など.

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情報化施工が本格的実用化の一歩手前まで来た

• 2008年7月に情報化施工推進会議情報化施工推進会議(委員長:建山和由立命館大学教授)が「情報化施工推進戦略」を発表.重点目標は以下の3つ.http://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/kensetsusekou/kondankai/ICTsekou/ICTsekou_index.htm

① 直轄の道路土工,舗装工,河川土工について,大規模工事は,2010年度までに,中小規模工事は2012年度までに,情報化施工を標準的な施工・施工管理方法と位置づける.

② 情報化施工機器を容易に装着できるオプション設定機種を拡大.情報化施工機器搭載建設機械の調達が可能な環境を整備.

③ 情報化施工に対応できる人材育成.• 現在,日本全国各地で試験施工.中部地整では特に「建設ICT導入研究

会」を立ち上げて熱心に取組中.• 2009年3月に「国土交通省CALS/ECアクションプログラム2008」が発表さ

れ,情報化施工の普及推進とライフサイクルを通じての3次元データを含む電子データの利活用を目標.

• これらの背景は,欧米諸国と比較して,我が国の土工事において,情報化施工や3次元化が大きく遅れていることが挙げられる.

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マシンガイダンスの例

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出典:「情報化施工推進戦略」,情報化施工推進会議,2008.

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マシンガイダンスの例

Nobuyoshi Yabuki 2010 20出典:「情報化施工推進戦略」,情報化施工推進会議,2008.

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施工管理データを搭載したTSを用いた出来形管理技術の例

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出典:「情報化施工推進戦略」,情報化施工推進会議,2008.

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GNSSを搭載したローラの軌跡管理による面的

な品質管理(転圧回数)

Nobuyoshi Yabuki 2010 22出典:「情報化施工推進戦略」,情報化施工推進会議,2008.

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GNSSを搭載したブルドーザによる面的な品質

管理

Nobuyoshi Yabuki 2010 23出典:「情報化施工推進戦略」,情報化施工推進会議,2008.

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GNSSを搭載した振動ローラの加速度応答によ

る面的な品質管理(強度)

Nobuyoshi Yabuki 2010 24出典:「情報化施工推進戦略」,情報化施工推進会議,2008.

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TSを用いた出来形確認技術(厚さ)

Nobuyoshi Yabuki 2010 25出典:「情報化施工推進戦略」,情報化施工推進会議,2008.

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非接触赤外線温度計を用いた面的な品質管理技術(温度)

Nobuyoshi Yabuki 2010 26出典:「情報化施工推進戦略」,情報化施工推進会議,2008.

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無線温度センサーを用いたコンクリートの積算温度計測と品質管理

Nobuyoshi Yabuki 2010 27出典:「情報化施工推進戦略」,情報化施工推進会議,2008.

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情報化施工推進の課題と対応

• GPS,加速度センサー,TSの付属品など新規に機械類を導入するコスト負担.– 国土交通省がレンタルなどの促進を業界に働きかけ.大量に使用す

るようになれば,コストダウンも可能.

• マシンコントロールやマシンガイダンス,新しい出来形管理方法などに対応できる人材育成.– 国土交通省が力を入れている.日本建設機械化協会の施工技術総

合研究所で研修を実施.• 2次元の設計図から3次元のモデルデータを作成するために時間

とコストがかかる.– アクションプログラム2008でやると言っている.日本建設機械化協会

でソフト開発.国交省で道路中心線形データ交換標準作成.

• インセンティブが施工業者にあまりない.(工期を短縮しても,品質向上させても,何もない.創意工夫が認められにくい.)– 結構,深刻な問題.発注者側が真剣になって考えないと,大変なこと

になりかねない.ビジネスプロセスの改革が必要.

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2次元図面から3次元データを作る負担

• 過去2年間の情報化施工の試験施工のアンケートで明らかになったのは,施工業者が2次元図面から3次元データを作成するのに,プロジェクトによるが,約9日間の工数がかかり,負担を感じている,ということ.

• 2次元のCAD図面は,人間は理解できるが,機械は理解できない.だから,3次元データを作成するためには,人間が図面を読んで,理解して,データを入力するという手間がどうしても必要.

• しかし,最初からオブジェクト指向の3次元モデルで設計していたらどうだろう?

• コンバータ・プログラムを通すだけで,瞬時に情報化施工用3次元データが出来てしまうのだ.

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3次元で設計できないのか?• 「出来るし,その方が本当は楽だ」と言う建設コンサルタント会社もいくつ

かある.• 一方で,ネガティブな意見もある.

– 仕事のやり方を変えたくない.– 新しいソフトやハードを導入するため,コスト増だ.– 3次元CADを使いこなすのは大変そうだ.

– トレーニングに時間とお金がかかりそうだ.– 2次元CADしか使えない人をクビにすることはできない.– 大体,3次元CADデータで納入したら,発注者が困るだろう.– 発注者は,3次元CADデータを操作することはできない.– 結局,発注者は,3次元CADデータと2次元の図面の両方を要求し,しかも,

設計費は増やしてくれないから,損するだけだ.– 3次元モデルと2次元図面の間に齟齬があったら,建設コンサルの瑕疵にな

り,嫌だ.– 3次元データにしたら,設計費をどうやって積算するのか?図面1枚当たりい

くらというわけにはいかない.設計費が減るのなら,今のままの方が良い.• 最初の方で言った「1960年頃~90年頃まで,日本の土木は,その時代背

景において「最適化」されていた.効率的で大きな問題もなく,それなりに皆ハッピーにやっていた.」がまさに原因.

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施工技術総合研究所のテストコースの3次元モデル

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• こういった3次元モデルを,平面図と断面図から作成するのに要する時間は,地形も含めて,ちょっと慣れれば,わずか50分.

• マシンガイダンスとマシンコントロールの機械類への入力データは,LandXMLという

フォーマットになっており,このモデルから瞬時にデータを変換することができる.

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ある工事の3次元モデル

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このモデルの作成に要した時間は,地形入力も含めて,3時間.

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時代は江戸末期から明治維新へ

• 永遠に変わらないなどというものはない,変化は外からやってくる,その動きに乗ずるのは辺境の地や末端にいる組織や人間だ,ということを我々は歴史から学んでいる.

• 「3次元化」は,今,マグマのように地下で動い

ている.

• それを可能にする技術が開発されたり,標準化されつつある.

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4.4.3D3D単独図(単独図(3D Annotated Model3D Annotated Model))

• 自動車産業などの製造業では,90年代から,3D CADが主体になったが,2次元の図面も補助的に作成せねばならず,煩わしいだけでなく,3Dモデルと2次元の図面の間に齟齬が生じたりする問題があった.

• 従来の3D CADモデルのディスプレイ表示は,形状は人間にとってわかりやすいが,寸法データ,材料や名称などの言葉が表示されなかった.

• そこで,3D CADモデルをベースに,3次元図面が(半)自動的に出てくれば便利だ,と思った人たちがいた.

• アメリカ機械学会(ASME)が,2003年に3次元図面の起点となるDigital Product Definition Data Practicesを作成し,2006年12月に,ISO16792が正式に発行された.

• 日本語では,「3D単独図」と呼ぶが,英語では,もっとわかりやすい ““3D Annotated Model3D Annotated Model””(注釈が記入された3次元モデル)という用語になっている.

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3D単独図(3D Annotated Model)の例

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出典:日本PTC/USER会(井上ら),「3次元(3D)図面」効果と課題,日本機械学会誌,Vol.110, No.1062, pp.404, 2007.5.

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3D単独図(3D Annotated Model)の長所

• 2次元図面作成の工数を削減できる.

• 3次元モデルを作成するのと同時に,設計意図を容易に付加することができ,3次元モデルだけで,設計情報を参照可能になる.

• 3次元モデルと補完する2次元図面との間の不整合を防止できる.

• 3次元モデルだけで仕事ができるようになるので,従来,溶接や機械加工のように,2次元図面だったために自動化が困難だった業務を自動化することが可能になる.

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土木・建築分野では3D3D単独図単独図は?

• もちろん,まだです.• 今後,機械分野で3D単独図の標準に従ったCADソフトが広まり,

利用が普及すれば,だんだんと,BIMを推進する建築分野が目を付けるだろう.

• その後,土木分野も導入するだろう.• 土木分野に導入するためには,道路や橋,トンネルのように,横に

長い構造物をどのようにして3D単独図で表現するか,何らかの標準を規定していく必要があると考えられる.

• 3D単独図があれば,3次元モデルを納入された発注者も,3次元CADが使えなくても,見ることができ,理解することができる.

• 土木分野で,3次元モデル化を推進していくためには,3D3D単独図単独図は,キーとなる重要な技術であり,今後,研究や標準化の検討をしていくべきだと考えられる.

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5.「土木情報学」の創設に向けて5.「土木情報学」の創設に向けて

• 土木や建築分野で,情報化が遅れ,その方法に一貫性が乏しいのは,情報学の教育が大学の建設分野では体系的にされておらず,それを専門とする研究室を持っている大学もないことが大きな原因となっている(と思う).

• 土木分野で場当たり的に,情報技術を応用するのではなく,体系的に,高所から俯瞰的に見据えたシステム開発計画が必要.

• わかりやすく言えば,情報学を知らない土木屋が土木を知らない情報システム屋にシステム開発させても,ろくなものができない,ということ.

• 土木学会情報利用技術委員会では,「土木情報学」を体系化するための小委員会を作り,作業を開始している.

• 体系化は,学問の一分野として認知せしめるためには必須.• 「学」という文字を付けると,実務者からは一見,近寄りがた

いような印象を与えるかも知れないが,学の世界では「学」がついていないと,話にならない.怖がらないでほしい.

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土木情報学にあたるもの

• 米国では,1970年頃から,Computing in Civil Engineeringという分野を確立.

• 英国は,米国に追随.ドイツも90年代には確立.• 日本には,土木学会で「計算機利用に関するシンポジウム」

を情報システム委員会が昔から実施.しかし,大学からの参加はあまりなかった.ゼネコンとコンサルが中心だった.

• 大学にないと,土木と情報の両方に精通した学生を社会に送り出せない.結局,社員が自力で体系化されていない情報技術を手探りで勉強.情報技術を本当にうまく使いこなしているのか,正しいのか,判定できるだろうか?

• ここ数年,大学関係者の意識が変わりつつあり,「土木情報学」の体系化に,産官学で,情報利用技術委員会として踏み出した.

• 「土木情報学体系化特別小委員会」(小委員長:蒔苗耕司宮城大学教授,副小委員長:矢吹信喜大阪大学教授,委員:国交省国総研,ゼネコン,コンサル)

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「土木情報学」

• 土木分野における「情報」の構造並びにそれを利活用するための「情報通信技術」を探究する学問.

• 体系化の目的:体系化することで、学問領域の位置付けを社会的に認知させ、学会、民間、行政などでの地位向上を図り、土木分野における「情報」及び「情報通信技術」の活用を促進する.

• 活用目的:– 土木技術者の知識・技術の修得– 教育カリキュラムの作成– 研究活動の活性化、(委員会活動の)適正化– 土木事業の高度化 他

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体系のイメージ

• 土木の切り口:– ライフサイクル(計画,設計,施工,維持管理)– 構造物の種類(橋梁,ダム,港湾,など)– 学問分野(構造,水理,土質,計画,材料,施工,環境)

• 情報学の切り口:– 情報工学(DB,AI,センサ,画像処理,ロボティクス,等)

– 基礎数学(集合論,グラフ理論,論理学,等)– 情報システム(CAD,GIS,BIM,レーザースキャナ,等)

土木事業プロセス

土木工学分野

土木構造物/施設

情報システム

情報工学 基礎数学

リンク図

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6.土木構造物の業務プロセス6.土木構造物の業務プロセス

概略設計→解析→詳細設計→照査→積算→施工→維持管理

構造物のライフサイクル(現状)

本来のデータ・情報の量

発注者

設計コンサルタントA

設計コンサルタントB

設計コンサルタントC調査測量会社A

調査測量会社B請負業者A

請負業者B

製造会社A

製造会社B

契約契約 契約契約

契約契約

入札入札

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馬車と蒸気機関車

• このような仕事の流れは,発注者が全知全能であることが前提.• 発注者が認識できないモノやデータ類は,納品できない.• それを前提としたIT化で効率化は可能だろうか?• ITあるいはICTを適用させて成功するためには,ビジネスプロセス

の改革が必要な場合が多い.• ビジネスプロセスを変えずにIT化するのは,馬車の馬を蒸気機関

に変えるようなもので,そんなことをしても鉄道というビジネスにはならなかったはず.

• レールを敷いて,駅を作り,1台の蒸気機関車で何台もの大きな客車を引かせることにより大成功した.

• 土木構造物のビジネスプロセスの現状は,ICTに向いているとは言い難い.

• 建築で進行しているBIM化が次第に浸透してくるだろう.

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発注者

建設コンサル

請負業者

現在のプロジェクトの進め方(甲乙,閉鎖,非協調的)

これからの進め方(フラット,オープン,協調的)

発注者

建設コンサル

請負業者

発注者

建設コンサル

請負業者入札入札

発注者

建設コンサル

請負業者

Nobuyoshi Yabuki (c)2010

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CVE(Collaborative Virtual Environments:協調的仮想環境)

• 3次元モデルデータを中心に,バーチャルな設計・施工環境をインターネット上に構築.

• 発注者,建設コンサルタント,施工業者,製作会社などが協調的に仕事を行う.

• 契約方式,事業推進方式を大幅に変革.

• 設計と施工が協調できるよう,デザイン・ビッド・ビルド(現行の設計施工分離発注方式)から,デザイン・ビルドのようなもの(PPP, BOT, DBなど)への変革.

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「第三の波」(アルビン・トフラー)

• 第一の波は,農業革命.田畑で農作物を作ることにより,人間は,狩猟生活から脱却し,人口が増え,寿命も延びた.動物から人間へ.

• 第二の波である産業革命は,「動力」を得ることで,工業を手作業から機械による大量生産へと移行させた.

• 第三の波は,情報革命.

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情報革命• コンピュータは,もはや単なる計算を行う機械ではない.

しかし,当初は,そうだった.• 産業革命当初,蒸気機関は,単なる機織りを自動化す

る機械程度にしか認識されていなかった.• 蒸気機関が,蒸気船,蒸気機関車として利用されて,爆

発的に社会を変えるようになるまで,数十年もかかった.• 青写真が発明されて,青図が一般に使われるまで,数

十年かかった.• コンピュータも同じようなもの.コンピュータ発明から数

十年を経て,現在,ようやく情報革命の端緒に付いた感覚である.

• CADは,1963年,MITの博士論文として Ivan SutherlandがSketchpadという名前で発明した.当初から3次元CADだった(素晴らしい!).今年は,47年である.あともう少しで,一般的に使われるようになるだろうと期待している.

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ご清聴ありがとうございました.ご清聴ありがとうございました.

ここでお話した内容の一部は,国の機関や財団法人,社団法人などからの助成研究成果,民間企業との共同研究成果によるものもあるが,ここで筆者が主張している内容は,あくまで筆者個人によるものであり,これらの団体や筆者が所属している,あるいは所属していた団体とは一切関係ないことを付記する.

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共同研究や論文執筆など,ご相談がある方は以下にご連絡をどうぞ.

[email protected]‐u.ac.jp

JACICのウェブサイトの以下のURLで阪大矢吹研が紹介されています.http://www.jacic.or.jp/feature/school/012handai/handai1.htm