25℃-200℃ 間の水酸化コバルトの沈殿反応について*

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UDC 669.053.4 25℃-200℃ 間の水酸化コバルトの沈殿反応について* 高 温 水 溶 液 に 関 す る 基 礎 的 研 究(第2報)― 徳1 彬2 1. 緒 金 属水 酸 化物 あ る い は酸 化 物 の生 成,溶 解反応は,湿 式製 錬 に お け る浸 出 や浄 液 あ る い は廃 水 処 理 な どの工 程 で,最 も基本 的 な金 属 の分 離 法 と して多 用 され てい る。 高 温 の 湿 式 製 錬 が種 々 考 案 され,実 用 され つつ あ る が, 廃 水 処 理 に対 して も高温 処 理 の 可能 性1)が考 え られ,金 属水酸化物(酸 化 物)の 沈殿特性を高温まで把握するこ とが重要である。一般に常温では種々の実験結果や熱力 学的諸数値 を利用2)3)し うることが多いが,高 温 で は未 整備の状態にある。 近 年,高 温 にお け る熱 力 学 的 数値 の推 定 法 が進 歩 し, 2,3の 系 の電 位 一pH図4)が 発 表 され,こ の実験的な検 討5)6)も行 なわれ ている。 しか しなが ら,100℃ 以上の温 度 で水 溶 液 の精 製 に際 して問 題 にな る よ うな 濃 度範 囲 で の考察はきわめて少なく,化 学熱力学的考察および実験 的 な検討 の累積 が待望 され てい る。 そこで 本 報 で は, Co(II)-H2O系 を取 り上げ,ま ず熱力学的な検討を行な い,つ い で水 酸 化 コバ ル トの沈 殿 実 験 に よ りpHと 除去 限界の関係 を求 め,熱 力学的予測 との対応 を検討 した 。 2. 高温平衡の熱力学的考察 2・1 熱 力学 的 基礎 数 値 の 算 出 Co(II)-H2O系 の化 学 種 と して,Co2+,CoOH+,Co (OH)2°,HCoO2-a)の 水 溶 物 質b)お よびCo(OH)2,CoO の固 体 物 質 が知 られ て い る。 しか しな が ら,利 用できる 熱力学的基礎数値は乏 しく,わ ずかに25℃ におけ る各 物質の標準化学ポテンシャルの値を知 りうる のみ で あ る。T°Kに おける化学種iに 対 して,標 準生成自由エ ネ ル ギ ー変 化 を標 準 化 学 ポ テ ン シ ャル(μ °i・T)と置 き, イ オ ン物 質 は水 素 イ オ ンの生 成 反 応 を基 準 とす る通 常 の 表 示 に従 い,関 連物質 の μ°298を第1表 左欄 に示 した 。 CoOH+,Co(OH)2° に対 す る値 は, Co2++nOH- = Co(OH) 2-n n (1) の生 成 定数7)を 利 用 して算 出 した。 25℃ を基 準 とす る と,反 応の標準自由エネルギー変化 ΔG°Tの 温度依存性は, 第1表 25℃ における熱力学的基礎数値 注:イ タ リ ッ クは本 研 究 の推 定値 (2) と示 さ れ る 。 こ こ で,ΔH°,ΔS°,ΔC°pは それぞれ標準状 態 に お け る エ ン タ ル ピ ー,エ ン トロ ピ ー,お よび比熱変 化 を示 し,添 字 は 温 度(°K)を 示す。 ΔH°298-TΔS°298 =ΔG°298-(T-298)ΔS°298 (3) の 関 係 に あ る の で,ΔG°298が 利 用 で き る場 合 は,ΔS°298 お よび ΔC°pの 温 度 変 化 を知 る と ΔG°pを 評価するこ と が で き る 。 生 成 反 応 に(2)式 を適 用 す る と μ°Tを 算 出 できる。 そこで本系に不足している各物質の標準エントロピー S°i・298をつ ぎの よ うに 推 定 した 。 ま ず,CoOH+お よび Co(OH)2° に対 し て は,Lowson8)の 相 関 を利 用 し, S°CO(OH)n 2-n= 17n+S°Co2+ (4) ら求 めた。誤差 ±6ne.u.程 度で あ る 。HCoO2-の 場合 はCo(OH)3一 に(4)式 を適用 し,HCoO2-とH2O 間のエ トロピ一の加成性 を仮定す る とS°HCoO2-=8.3 e.u.を る 。 一 方,XOm(OH)nz-イオ ンのエ トロピ に 関 す るConnickら9)の S°XOm(OH)nz-= 43.5-46.5 (z-0.28m) (5) を 用 い る とS°Hcoo2-=10.0e.u.を 得 る。 さらに同 じ型 の イ オ ンの エ ン トロ ピー に対 して,有 効 半 径r,分 子量 Mお よ び 気 体 定 数Rを 考 慮 し たCoutureら10)の 式, (6) に,お お よ そ の 有 効 半 径10)r=3Aを 用 い る とS°HCo2- =11.9e.u.を 得 る。3つ の異 な っ た方 法 か ら求 め た エ ン トロ ピー値 は,実 用上差支えない範囲で一致 るの で,本 報 で は(5)式 か ら求 め たS°HCoO2-=10.0e.u.を 採 用 す る 。(5),(6)式 の誤 差 は共 に ±3.6e.u.と され てい る。 以 上 の 値 を第1表 右 欄 に ま とめ て示 し,μ °298お よ び *1974年6月10日 受理 1.正 会員 東 北 大学 助 手 選鉱製錬研究所 2.正 会員 工博 東 北大学教授 選鉱製錬研究所 a)構 造 との 対 応 を 考 慮 す れ ば,Co(OH)3-と 記す べ き で あ る が,多 くの 熱 力学 的数 値 が本 文 の 形 で 報 告 さ れ て い るの で,本 報告ではこのまま用いる。 b)8mKOH溶 液 中 で は,Co022-も 存 在す る とい わ れ て い る が,本 報告で は通 常 のpH領 域 を 対 象 とす る の で考 慮 しな い 。 日本 鉱 業 会誌/91 1043 ('75-1) 39 <39>

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Page 1: 25℃-200℃ 間の水酸化コバルトの沈殿反応について*

UDC 669.053.4

25℃-200℃ 間 の水 酸 化 コバ ル トの沈 殿 反 応 につ い て*― 高温水溶液に関する基礎的研究(第2報)―

江 口 元 徳1

矢 沢 彬2

1. 緒 言

金属水酸化物あるいは酸化物の生成,溶 解反応は,湿

式製錬における浸出や浄液あるいは廃水処理などの工程

で,最 も基本的な金属の分離法 として多用 されている。

高温の湿式製錬が種々考案され,実 用されつつあるが,

廃水処理に対しても高温処理の可能性1)が考えられ,金

属水酸化物(酸 化物)の 沈殿特性を高温まで把握するこ

とが重要である。一般に常温では種々の実験結果や熱力

学的諸数値を利用2)3)し うることが多いが,高 温では未

整備の状態にある。

近年,高 温における熱力学的数値の推定法が進歩 し,

2,3の 系の電位 一pH図4)が 発表され,こ の実験的な検

討5)6)も行なわれている。 しか しなが ら,100℃ 以上の温

度で水溶液の精製に際 して問題になるような濃度範囲で

の考察はきわめて少なく,化 学熱力学的考察および実験

的な検討の累積が待望 されている。そこで 本 報 で は,

Co(II)-H2O系 を取 り上げ,ま ず熱力学的な検討を行な

い,つ いで水酸化コバル トの沈殿実験によりpHと 除去

限界の関係 を求 め,熱 力学的予測 との対応を検討 した。

2. 高温平衡の熱力学的考察

2・1 熱力学的基礎数値の算出

Co(II)-H2O系 の化学種 として,Co2+,CoOH+,Co

(OH)2°,HCoO2-a)の 水溶物質b)およびCo(OH)2,CoO

の固体物質が知 られている。 しかしながら,利 用できる

熱力学的基礎数値は乏 しく,わ ずかに25℃ における各

物質の標準化学ポテンシャルの値を知 りうる のみ で あ

る。T°Kに おける化学種iに 対 して,標 準生成自由エ

ネルギー変化を標準化学ポテンシャル(μ°i・T)と置き,

イオン物質は水素イオンの生成反応を基準 とする通常の

表示に従い,関 連物質の μ°298を第1表 左欄に示 した。

CoOH+,Co(OH)2° に対する値は,

Co2++nOH- = Co(OH) 2-n

n (1)

の生成定数7)を利用して算出した。

25℃ を基準とすると,反 応の標準自由エネルギー変化

ΔG°Tの 温度依存性は,

第1表 25℃ における熱力学的基礎数値

注:イ タリックは本研 究の推 定値

(2)

と示 され る。 こ こで,ΔH°,ΔS°,ΔC°pは それ ぞれ 標 準 状

態 に お け る エ ン タル ピ ー,エ ン トロ ピー,お よび 比 熱 変

化 を示 し,添 字 は温 度(°K)を 示 す 。

ΔH°298-TΔS°298 =ΔG°298-(T-298)ΔS°298 (3)

の 関 係 にあ るの で,ΔG°298が 利 用 で き る場 合 は,ΔS°298

お よび ΔC°pの 温 度 変 化 を知 る と ΔG°pを 評 価 す る こ

とが で き る。 生 成 反 応 に(2)式 を適 用 す る と μ°Tを 算 出

で き る。

そ こで 本 系 に不 足 して い る各 物 質 の標 準 エ ン トロ ピ ー

S°i・298をつ ぎの よ うに 推 定 した 。 ま ず,CoOH+お よび

Co(OH)2° に対 して は,Lowson8)の 相 関 を利 用 し,

S°CO(OH)n2-n=

17n+S°Co2+ (4)

か ら求 め た 。 誤 差 は ±6ne.u.程 度 で あ る 。HCoO2-の

場 合 はCo(OH)3一 に(4)式 を 適 用 し,HCoO2-とH2O

間 の エ ン ト ロ ピ 一 の 加 成 性 を 仮 定 す る とS°HCoO2-=8.3

e.u.を 得 る 。 一 方,XOm(OH)nz-イ オ ン の エ ン ト ロ ピ

一 に 関 す るConnickら9)の 式

S°XOm(OH)nz-= 43.5-46.5 (z-0.28m) (5)

を用 い る とS°Hcoo2-=10.0e.u.を 得 る。 さ らに同 じ型

の イ オ ンの エ ン トロ ピー に対 して,有 効 半 径r,分 子 量

Mお よび 気 体 定 数Rを 考 慮 したCoutureら10)の 式,

(6)

に,お お よそ の有 効 半 径10)r=3Aを 用 い る とS°HCo2-

=11.9e.u.を 得 る。3つ の異 な っ た方 法 か ら求 め た エ

ン トロ ピー値 は,実 用 上 差 支 え な い範 囲 で一 致 す る の

で,本 報 で は(5)式 か ら求 めたS°HCoO2-=10.0e.u.を

採 用 す る。(5),(6)式 の誤 差 は共 に ±3.6e.u.と され

てい る。

以 上 の 値 を第1表 右 欄 に ま とめ て示 し,μ °298お よび

*1974年6月10日 受理

1.正 会 員 東 北大学 助手 選鉱製錬研究所

2.正 会 員 工 博 東 北大学教授 選鉱製錬研究所

a)構 造 との対応を考慮すれば,Co(OH)3-と 記す べきであるが,多 くの熱

力学 的数値 が本 文の形で報告されてい るので,本 報告では このまま用いる。

b)8mKOH溶 液中では,Co022-も 存 在す る といわれているが,本 報告で

は通常 のpH領 域を対象 とす るので考慮 しない。

日本鉱業会誌/91 1043 ('75-1) 39 <39>

Page 2: 25℃-200℃ 間の水酸化コバルトの沈殿反応について*

□江 口元徳 ・矢沢 彬

ΔS°f・298から算 出 した標 準 生 成 熱 ΔH°f・298を中欄 に示 し

た。

つ ぎに第1表 の25℃ の基 礎 数 値 を基 に,各 物 質 の μ°T

を算 出 す る。

(1)Co(OH)2 (c) ΔC°p=0と 近 似 で き る場 合

は,(2)式 の 後半2項 が無 視 で き,ΔG°Tは(3)式 と等

置 す る こ とが で き る。Co(OH)2(c)の μ°Tは 報 告 され た

値 が な い が,現 在 報 告 値11)12)が存 在 す るFe(OH)2,Fe

(OH)3, Ca(OH)2, Cu(OH)2, Mg(OH)2, AlOOH,

Al(OH)3の 生 成 反 応 は全 て ΔC°p=0と 見 なす こ とが で

き,金 属 酸 化 物 一 般 に この性 質 を示 す。 本 報 告 の温 度 範

囲 内 で は,基 準物 質 の状 態 変 化 も ない ので,ΔC°p=0を

仮 定 して(2)式 を用 い た。

(2)Co2+,HCoO2-お よ びOH-既 に報 告1)し た

よ うに,Cobbleら13)のcorresponding principlec)

を利 用 し,298°KとT°K間 の平 均 比 熱C°p〕298Tを 求 め

て 各 温 度 の 比 熱 を近似 した。 す な わ ち,慣 用 の水 素 イ オ

ン基 準 の エ ン トロ ピーS°i・TとS°i ・T=S°i・T+zS°H+・T

の 関係 に あ る絶 対 エ ン トロ ピーS°iを 用 い る と,298°K

とT°K間 で次 の対 応 が あ る。

S°i・T= aT+bTS°i.298 (7)

これ を用 い る とイ オ ンの平 均 比 熱C°p〕298Tは,

(8)

と求 ま る ので,基 準物 質 の比 熱 の温 度 依 存 式14)と 組 合 わ

せ て μ°i・Tを算 出 した。

(3)CoOH+お よ びCo(OH)2°corresponding

principleの 適 用 可能 な系 は限 られ,正 お よび無 荷 電 加

水 分 解 種 のCOOH+,Co(OH)2° の 比熱 は 推定 す る こ と

がで きな い 。 そ こで,

Co(OH) 2-nn

= Co(OH) 3-n n-1 +OH- (9)

の解 離 の標 準 自由 エ ネル ギー 変 化 ΔG°dを 求 め,既 に

求 めた 物 質 の μ°Tと 組 合 わ せ てCo(OH)n 2-nの μ°T

を算 出 した 。Helgeson15)に よれ ば ΔG°dは ,

第1図 φ(T)と 温度の関係

ΔG°d.T= ΔH°d .298-φ (T) ΔS°d .298 (10)

と示 され る。 こ こで φ(T)は,溶 媒 と基 準 温 度 の選 択

に よ り定 ま る温 度 依 存 項 で,本 報 の25℃ 基 準 の水 溶 液

に対 す る計 算 結 果 を第1図 に示 す 。(10)式15)は ,ΔH°298

<0,ΔS°298<0の 条 件 で最 も よ く適 合 し,ΔH°298>0,

ΔS°298<0で は近 似 の程 度 が 下 が り,ΔH°298>0,Δ5°298

>0の 条 件 で の近 似 は非 常 に悪 くな る 。 本 報 で は,CoO

H+が 第1の 場 合 に相 当 す る が,Co(OH)2° に対 して は

第2の 条 件 とな り,高 温 で の近 似 は低 下 してい る と考 え

られ る。

こ の ほか 溶 媒 で あ る水 の μ°Tは,C°p=18.03が 成 り

立 つ もの と仮 定 して,常 圧 下 の 温 度 式16)を そ の まま 外 挿

した 。 以 上 の 諸 法 に よ り求 め た 各物 質 の 標 準 化 学 ポ テ ン

シ ャル の 値 を,一 括 して 第2表 に示 す 。各 温 度 の イ オ ン

の 基準 と して,水 素 イ オ ンを採 用 してい る の で,全 温 度

を通 じて μ°H+・T=0と な る。

2・2 加 水分 解 平 衡 に お よ ぼ す温 度 の 影 響

(1)水 溶 液 成 分 の 加 水 分 解 平 衡Co(II)-H2O

系 の 水 溶物 質 問 に は

Co2++H2O= CoOH++H+ (11)CoOH++H2O = Co (OH)°2+H+ (12)CO (OH)°2= HCoO-2+H+ (13)

の3段 の加 水 分 解 平 衡 が 可 能 で あ る。 各 段 の平 衡 定数 を

それ ぞれK1,K2,K3と し,濃 度d)と 活 量 を等 しい とす

れ ば,溶 液 中 の コバ ル トを含 む化 学 種 の総 濃 度mTは,

全 濃 度 係 数3)FCo2+を 用 い て

mT= FCo2+・[Co2+] (14)

(15)

とな る 。分 布 率Niは,

NCo2+= 1/FCo2+ (16)NCoOH+= K1/[H+]・FCo2+ (17)NCo(OH)2°= K1・K2/[H+]2・FCo2+ (18)NHCoO2-= K1・K2・K3/[H+]3・FCO2+ (19)

と表 わ す こ とが で き る。各 温 度 で求 め た各 成 分 の分 布 率

の うち,25℃ お よび150℃ の結 果 を第2図 に示 した。 図

の傾 向 と一致 して,分 布 曲線 は 各 温 度 とも25℃ と類 似 の

形 を示 す が,Co(OH)2°,HCoO2-の 出現pHは,高 温

ほ ど低pH側 に移 動 す る。CoOH+は 全 温 度 に わ た つ て

第2表 高 温 にお け る標 準化 学 ポ テ ンシ ャル μ°298の推 定 値(kcal/mol)

c)意 訳す ると 「イオンのエン トロピー対応原理」 となるが,未 だ一般的な 訳

語はないので本 報ではこのまま用 いる。

d)以 後濃度 と活量が等 しい と仮定す る時 は[刀 で表わ し,と くに濃度 と活量

を区 別する場 合はmi,aiを 用い ることにす る。

40 <40>

Page 3: 25℃-200℃ 間の水酸化コバルトの沈殿反応について*

25℃-200℃ 間 の水 酸 化 コバ ル トの沈 殿 反 応 につ い て□

第2図 25℃ および150℃ の分布率 曲線

主成分とはな りえない。なお水のpKω(pKω=-logKω

:Kω は水の解離定数)を 破線で示 したが,こ れは高温

ほど低pH値 側にあ り,第9図 と関連 して後述するが,

とくにアルカリ度を考える場合 には重要な意味をもつ。

(2)水 酸化コバル トの沈殿平衡 水酸化物の沈殿

が生成する場合は,

Co(OH)2(c)+2H+=Co2++ 2H2O (20)

の平衡が生 じる。平衡定数をKsと 置 くと

Ks= [Co2+]/[H+]2 (21)

とな るゆ え,溶 液 中 の コバ ル ト総 濃度 は,

mT= Fco2+・Ks・[H+]2 (22)

とな る。25℃ か ら200℃ に わ た る溶 液 濃 度 とpHの 関

係 の 計 算結 果 を 第3図 に示 す。 図 に み る よ うに,固-液

平 衡 曲線 は,高 温 ほ ど低pH側 に よ る。Co(OH)2(c)と

Co(OH)2° の 平衝 を反 映 す る水 平 部 分 が最 大 除 去 限 界 を

与 え るが,こ の値 は高 温 ほ ど高 くな る と考 え られ る。 な

お,Co(OH)2の 脱 水17)は,少 な く とも220℃ 以 下 で は

起 こ らな い 。

3.  試 料 お よ び実 験 方 法

対 象温 度 に よ り常圧 の装 置 とオ ー トク レープ を用 い る

2通 りの実 験 法 を採 用 した 。両 方 法 間 の本 質 的 な 相 違

は,前 者 で は 測 定 温 度 に お け る溶 液 のpH値 を直 接 測 定

した が,後 者 の場 合 は サ ンプ リ ング管 か ら採 取 した 急 冷

試 料 につ き常温 でpH値 を測 定 した とい う点 に あ る。

3・1  試 料 お よび 分 析 法

実 験 に用 い た コバ ル ト溶 液 は過 塩 素 酸 塩 か ら 調 製 し

た 。通 常10-3mol/kgH,O(f=1.08)の 濃 度 を用 い た

が,常 圧実 験 の場 合 は使 用 前 に煮 沸 し,溶 存 炭 酸 ガ ス を

除 い て か ら実 験 に供 した 。pH調 節 剤 と して0.1mol/

kg H2O(f=0.999)の 濃 度 の カ セイ ソー ダ溶 液 を用 い

た。 試 薬 類 はい ず れ も市 販 の試 薬 特 級 をそ の ま ま用 い,

水 は電 導 度 水 を用 い た。 溶 液 中 の コバ ル トの 定 量 は原 子

吸 光 法 に よつ た が,分 析 限 界 は10-6 mol/kg H2O以 下

で あつ た 。

3・2 実 験 方 法

(1) 常圧 実 験 第4図 に示 す よ うな シ リコ ン ゴ ム

第3図 25℃-200℃ にお

ける水酸化 コバル

トと平衝す る溶液

中の コバル ト濃度

とpHの 関係

1:ガ ラス容 器

2:シ リコンゴム栓

3:水 銀温度 計

4:冷 却 器

5:窒 素送 入(試 料採 取兼 用)管

6:温 度補償 電極

7:ガ ラス電極

8:飽 和 カロ メル電極

9:か くはん子

第4図 常 圧 実 験 装 置

栓のふたをしたパイ レックスガラス容器を,恒 温槽中に

置 く簡単な装置を用いた。ふたの部分には冷却器,pH

調整剤添加孔,測 温用水銀温度計,試 料溶液採取兼用の

窒素ガス送入管のほかに,pH測 定用電極類(ガ ラス電

極,比 較電極,温 度補償電極)を 取付けた。容器内の空

間は約300mlで,マ グネチックスターラを利用 してか

きまぜを行な うことができる。

実験方法は,10-3mol/kg H2Oの コバル ト溶液250ml

を容器中に入れ,窒 素ガスを吹込みながらCO2の 変化

によるpHの 変動が少ないことを確めた。ついでpHメ

ータを見ながらカセイ ソーダを添加し,希 望のpHに 調

整 した。なお予備実験の結果,沈 殿を炉別 して測定した

pH値 と,懸 濁液のまま測定したpH値 はほぼ 等 しい

値を示すことがわかつた。所定時間を経過 したら,窒 素

ガス送入管を利用して25~30mlの 試料をピペットアウ

トし,規 格Cの 炉紙を用いて炉過ののち,15mZを 硝酸

で酸性にして保存し原子吸光分析用試料 とした。分析用

の試料採取を終えたらす ぐカセイソーダを添加してつぎ

の測定に移つた。通常一度の充填溶液に対 して3点 のpH

値の実験を行なつたが,イ オン強度の制御を考慮 してカ

セイソーダを加える方向にのみ実験を進め,酸 でpHを

日本鉱業会誌/91 1043 ('75-1) 41 <41>

Page 4: 25℃-200℃ 間の水酸化コバルトの沈殿反応について*

□江 口元徳 ・矢沢 彬

低下させることは行なわなか

つた。実験の初めには電極の

補正を行なつた。常温の場合

は電極に問題は生 じなかつた

が,90℃ の場合は電極の劣化

が起こることがあつた。それ

ゆえ,測 定中はpHメ ータを

注意して読み,不 規則な変動

があつた り異常 と考えられる

場合はす ぐ実験を中止 し,電

極を交換 して新 しく実験を始

めた。ガラス電極は,常 温測

定 に 対 して 高 アル カ リ用,90℃ の測 定 に対 して 高 温 用

を,そ れ ぞれ 常 温 用,高 温 用 飽 和 カ ロ メル 電 極(い ず れ

も東 亜 電 波 製)と 組 合 わ せ て用 い た 。

固 相 同定 の際 は,通 常 の 溶 液 濃 度 で は 充分 な沈 殿 量 を

得 る こ とが で きな い の で,0.05mol/kg H2Oの コバ ル ト

溶 液 を別 に調製 した が,こ の時 は溶 液 の分 析 を 行 な わ

ず,所 定時 間後 全 量 を炉 過 してX線 回 折 用 の 試 料 と し

た。

(2)オ ー トク レー プ実 験100℃ 以 上 の温 度 で は,

150℃ お よび200℃ にお け る実 験 を行 な つ た 。用 い た オ

ー トク レー プは300℃,200kg/cm2の 条 件 に耐 え る1l

の容 量 の もの で,溶 液 と接 す る部 分 に は ジル コニ ウム を

用 い た 。誘 導 撹 拌 装 置 を装備 し,溶 液 内 のか き まぜ が 可

能 で あ る。 油槽 加 熱 式 の た め温 度 制 御 が容 易 で,目 的 温

度 に ±0.5℃ 以 内 に保 ち うる 。前 報18)の オー トク レー プ

同様 直 接 サ ンプ リ ング が可 能 で,冷 却 部 を通 つ た試 料 を

室 温 で 採 取 す る。

実 験 方 法 は,1.08×10-3mol/kg H2Oの コバ ル ト溶 液

600mlに,標 定 した濃 度 既 知 の カ セ イ ソー ダ を加 え,テ

フ ロ ン製 ビー カ に 入 れ て,オ ー トク レー ブ 中 に密 閉 加 熱

した 。 ま ず150℃ に所 定 時 間保 つ てか ら,前 報18)と 同 じ

要 領 で試 料 の一 部 を取 出 し,沈 殿 を先 述 の よ うに分 離 し

て分 析 試 料 を得 る と とも に溶 液 のpHを 測 定 した 。 た だ

し分 析 試 料 の取 出 しの際 にサ ン プ リン グ管 内 の置 換 を完

全 にす るた め,50~60mlの 液 を流 出 させ て か ら30ml

ほ ど を分 析 操 作 用 と して採 取 した。150℃ の試 料 採 取 を

終 え た ら200℃ ま で加 熱 し同様 の操 作 を繰 返 した 。

固相 の 同定 は,別 の急 冷 機 構 装 備 の チ タ ン ク ラ ッ ド小

型(100ml)オ ー トク レー プ で沈 殿 させ た 試 料 に よ り行 な

つ た。0.5mol/kg H2Oの コバ ル ト溶 液 に カセ イ ソー ダ

を加 え定 量 実 験 と同 じ条 件 に保 つ た あ と,急 冷 して試 料

を と り出 し,炉 過 洗 浄 後X線 回 折 用 試料 と した。

4. 実 験 結 果 と考 察

4・1 常 圧 実 験 の結 果

(1)25℃ の実 験 コバ ル ト(II)を 含 む溶 液 に カ

セ イ ソー ダ を添 加 して行 く と沈 殿 を 生 ず る が,溶 液 の

pH値 に依 存 して2種 の異 な つ た色 の沈 殿 が生 成 した 。

第5図 25℃ の実験結果 第6図 90℃ の実験結果

すなわち,溶 液のpHが 約10を 境 として,低pH側 では

青色,高pH側 では赤色の沈殿を生 じた。X線 回折の結

果,両 沈殿物 ともCo(OH)2で あることがわかつた。 沈

殿反応は非常に遅い。pH調 整後20分 の溶液中コバル ト

濃度の測定結果を第5図 に×印として示 した。図に見る

ように,液 中コバル ト濃度は高 く,理 論曲線に示 される-2の 勾配をもつ領域 も見出されない。 したがつて沈殿

反応は不充分であることがわかる。

この溶液を長時間放置すると,青 色の沈殿は淡青色に

変わり,通 常はこれ以上変化 しない。pH調 整後6~7

時間後には,溶 液中のコバル ト濃度がほとんど変化しな

いので,本 実験では7時 間後の溶液 を分析 した。結果を

第5図 に示す。図に見るように,低pH側 に勾配がほぼ-2

.のpH依 存領域が存在する。pHが10を 過 ぎると一

定濃度を示 し,PH依 存性がなくなるが,pHが12.5

程度より高 くなると再溶解の傾向を示 している。図の右

側縦軸にppm濃 度を目盛つたが,pH10~42.5間 では

溶液中の濃度が0.1ppm以 下になつてお り,溶 液の精製

に際 して完全な除去が期待できる。なお,わ ずかの条件

の違いによると思われるが,普 通には青色の沈殿が生 じ

る領域で赤色沈殿を生 じたことがあ り,同 図中に黒丸に

より示 しておいた。このときの溶液濃度は青色のそれ よ

り低 く理論曲線に近い。

(2)90℃ の実験25℃ では青色沈殿を生 じるpH

領域があつたが,90℃ ではこの領域はな く,全pHに わ

たつて赤色の水酸化コバル トが沈殿 した。25℃ に比べ平

衡到達時間が速 く,実 験時間は4時 間とした。結果を第

6図 に示す。図に見るように,勾 配を約一2と みなしう

るpH依 存領域があり,先 の25℃ の場合 より低pH値

側にずれている。そのほかの部分については余 りはつき

りした傾向はつかめなかつた。

4・2 オー トクレープ実験の結果

150℃ および200℃ のオー トクレープ実験では,平 衡

時間を2時 間とした。実験後の溶液pHと 液中コバル ト

濃度の関係を,第7図 および第8図 に丸印で示 した。両

温度とも低pH側 に負のpH依 存性を示す部分があり,

pHが 高 くなると一定値を示す。pH依 存性を示す部分

は,高 温ほど低pH側 にあり,pHに 無関係 とみなされ

42 <42>

Page 5: 25℃-200℃ 間の水酸化コバルトの沈殿反応について*

25℃-200℃ 間 の水 酸 化 コバ ル トの沈 殿 反応 につ い て □

第7図 150℃ の実験結果 第8図 200℃ の実験結果

る部 分 の値 は,高 温 ほ ど高 くな つ て い る よ う に 思 わ れ

る。 な お沈 殿 は赤 色 のCo(OH)2で あ つ た。

4・5 高 温 お よび25℃ 間 のpHの 尺 度 の 変 換

150℃ お よび200℃ の 実験 で は,急 冷 した溶 液 のpH

を25℃ で 測 定 した 。常圧 実 験 お よび理 論 的考 察 と対 照 す

る た め に,実 験 温 度 に お け るpH尺 度 に変 換 す る こ とを

考 え る 。い ま25℃ で 測 定 したpH値 は,他 の平 衡 に無 関

係 に水 素 イ オ ン活 量 の み が25℃ の 尺 度 で 測 定 され た も

の と仮 定 す る。 この 仮 定 は 少 な く ともCo2+-Co(OH)2

(c)間 の 平 衡 に関 して は 妥 当 で あ る と考 え られ る。25℃

基 準 のpHをpH25と 表 わ し,水 素 イ オ ンの 活 量 係 数 を

無 視 す る と,t℃ にお け るpH値,pHt19)は25℃ お よ

びt℃ の 時 の 水 の解 離 定数 を用 い て,

pHt=[pKw(t) /pKw(25)]pH25 (23)

となる。

この関係を確かめるために,純 水中に塩酸あるいはカ

セイソーダをpH調 節剤 として加え,90℃ および25℃

で実測して比較した。まず90℃ でpH測 定を行ない,

同一溶液を急冷 してから25℃ でpHを 測定した。実験

結果を第9図 に示す。丸印が実測値で実線が理論値を示

しているが,両 者はほぼ一致する。それゆえpH値 の基

準温度の変換に(23)式 を用いることができる。第9図 に

勾配lの25℃ の線および200℃ に対する計算値を破線で

併記した。図からわかるようにpHtは,高 温ほどpH25

に比 して小さな値を示す。

150℃ および200℃ の実験結果を(23)式 により,

pH25をpHtに 変換 し,第

7,8図 上に黒丸で示 した。

全体に低pH値 側に移動

する。

4・4 実験結果の考察

以上の実験結果を総合す

ると,logm-pH曲 線の低

pH側 に勾配がほぼ-2の

直線部分があること,そ れ

に続 く高pH側 に,pHに

無関係な水平直線部がある

ことがわかつた。したがつ

てこれらの領域ではそれぞ

Co(OH)2(c)+ 2H+

=Co2++2H2O…(24)

Co(OH)2(c)

=Co(OH)2° … …(25)

の反 応 が支 配 的 で あ る と考

え られ る。理 論 的 考 察 に 一

致 してCoOH+の 関 与 す る

領 域 は み ら れ な い。 し か

し,HCoO2-が 関与 す る と

考 え られ る 勾 配1の 直 線

は,25℃ で この 傾 向 を認 め た ほ か は不 明 で あつ た。 こ の

部 分 に つ い て は,本 実 験 の方 法 は不 適 当で,ほ か の方 法

に よ る検 討 が必 要 で あ る。 そ こで つ ぎに(24)式 が支 配

的 な部 分 につ い て 考 察 す る。

実 験 で 求 めた 分析 濃 度 は,活 量係 数 を補 正 す る と活 量

表 示 が 可 能 で あ るが,150℃ お よび200℃ の結 果 は実 験

な らび にデ ー タ整 理 上 の誤 差 を伴 な つ て い る と考 え られ

る ので,活 量 係 数 は無 視 す る こ とに し,常 圧 の結 果 の み

Debye-Huckel式20)を 用 い て補 正 した 。 定 数Baは 温 度

に依 存 しない もの と仮 定 した 。 イ オ ン強 度Iは,(24)式

の領 域 で は,コ バ ル ト初 濃 度 を[Co]0と お くと

I= [Co]0+ 2mCo2+ (26)

と近似できる。これらの関係を利用して求めたコバル ト

イオンの活量 とpHの 関係を第10図 に示 した。本実験で

はあらかじめ稀薄溶液を用いたため上記補正量は微少な

ので,150℃ および200℃ の実験結果はその ま ま示 し

た。また同図には第3図 の計算値の(24)式 に相当する部

分を併記した。横軸は熱力学的な意味をもつpHtで あ

る。図にみるように90℃以上および25℃ の赤色沈殿が液

底体であつた場合は,実 験値 と計算値はほぼ一致すると

見てよいが,通 常の青色沈殿を生成する25℃ の場合は計

算値との差がやや大きい。

青色の水酸化コバル トは赤色のそれに比 して,粒 度が

微細21)であるといわれてお り,結 局本実験で測定した値

は,準 安定平衡としての活性水酸化コバル トに対するも

のであつたと考えられる。青色沈殿に対し本実験の結果

第9図 pHtとpH25の 相 関

第10図 CO(OH)2沈 殿反応 におけるaco2+と

pHの 関係 の実験値 と理論値の比較

日本鉱業会誌/91 1043 ('75-1) 43 <43>

Page 6: 25℃-200℃ 間の水酸化コバルトの沈殿反応について*

□江 口元徳 ・矢沢 彬

か ら,勾 配 を 一2と お き実 験 式 を求 め る と,

log aCo2+= -2pH+ 13 .89 (27)

とな り,溶 解 度 積Ks・pと して7.8×10-15を 得 る。 温 湯

中で 沈殿 させ た 水 酸 化 コバ ル トを用 い たGayerら22)の

2.5×10-16,Feitknecht23)の1.58×10-15よ り高 い 値 で

あ り,μ °298(active)と して-107.7kcal/molを 得 る。

準 安 定 系 か ら安 定 平 衡 系 へ の変 化 は きわ めて 遅 く,常 温

酸 性 溶 液 か ら の通 常 の 中和 沈 殿 操 作 で は真 の平 衡 に達 す

る こ とは 難 しい と考 え られ る。

(25)式 が 主 反 応 と考 え られ る水 平 部 分 は,測 定 点 のバ

ラ ツ キが 多 く定量 的 な論 議 は で き な い が,わ ず か に高 温

ほ ど高 くな る よ うで,定 性 的 に は第3図 と同 じ傾 向 に あ

る。 しか し計算 値 に比 べ差 は僅 少 で あ り,前 述 の よ うに

Co(OH)2° の 高 温基 礎 デ ー タ の推 定 が不 確 実 なた め,計

算 値 の信 頼 性 が低 い こ とがひ とつ の 原 因 と思 われ る。

以 上 の こ とか ら,常 温 処 理 で は 沈殿 反 応 が 遅 く,中 和

沈 殿 除 去 に際 して 注 意 が 必 要 で あ るが,高 温 で は沈 殿 平

衝 の到 達 が 速 く,除 去 限 界 に は それ ほ ど大 き な差 がみ ら

れ な い 上 に,酸 性溶 液 か らの沈 殿 に は アル カ リ所 要 量 が

少 な くて す む な ど多 くの利 点 を有 す る の で,コ バ ル トの

Co(OH)2沈 殿 除去 法 は高 温 ほ ど有 利 で あ る とい え る。

5. 総 括

25℃ か ら200℃ に わた るCo(II)-H2O系 の 加 水 分 解

反 応 につ き,化 学 熱 力 学 的 お よび 実 験 的 に検 討 した 。 こ

れ を ま とめ る とつ ぎの よ うで あ る。

(1)ま ず,未 だ値 が知 られ て い な い 関 連物 質 の25℃

のエ ン トロ ピー,お よび250℃ まで の 標 準 化 学 ポ テ ンシ

ャル を種 々 の 方 法 に よ り推 定 した 。

(2)上 記(1)の 推 定 値 を用 い,高 温 ま で の各 種 加 水

分 解 平 衡 を熱 力 学 的 に検 討 した。CoOH+は 本 研 究 の条

件 で は主 成 分 とは な り得 な い こ とが わか つ た 。

(3)25℃ か ら300℃ に わ た り,水 酸 化 物 沈殿 条 件

下 の液 中 コバ ル ト濃度 を,pHの 関 数 と して測定 した 。

た だ し,常 圧 実 験 で は,直 接 平 衝 温 度 のpH値 を測 定 し

た が,100℃ 以 上 の 実験 で は,急 冷 試 料 のpH値 を常 温

で測 定 した 。

(4)沈 殿 水 醸 化 コバ ル トには2っ の 色調 が あ り,90

℃ 以 上 で は全 て 赤 色 で あつ た が,25℃ で は青 色 沈 殿 が生

じた 。

(5)高 温 お よび 常 温 問 のpH値 の対 応 を実 験 的 に検

討 し,本 文(23)式 の有 効 性 を認 めた 。

(6)各 温度 のlog m-pH曲 線 に は,理 論 的 予 測 の傾

向 と一致 して,Co2+が 主 溶 液 成 分 とな る勾 配 一2の 直

線 部 と,こ れ に続 く高pH側 に,Co(OH)2の 出 現 を反

映 す る水 平 部 分 が あ つ た 。

(7)実 験 結 果 を熱 力 学 的 に整 理 し,赤 色 沈殿 の 場 合

に は,理 論 的 予 測 の 結 果 と一致 す る こ とを 認 め た 。(第

10図)

(8)準 安 定 相 と して の活 性 青 色 沈 殿 に 対 して,Ks・p

=7 .8×10-15,μ °298=-107.7kcal/molを 得 た 。

(9)本 研 究 の結 果 か ら,コ バ ル トの 中和 沈 殿 除 去

は,高 温 ほ ど有 利 で あ る と考 え られ る。

最 後 に,本 研 究 の実 験 に熱 心 な助 力 をい た だい た 本 学

大 学 院 生 田辺 幸 男 君 な らび に,そ れ ぞ れ 原 子 吸 光 分 析,

X線 回折 をお 願 い した 当所 技 官,天 満 元 昭 ,守 屋 香 両 氏

に謝 意 を表 す る。 本 研 究 の 計 算 の 一 部 は,東 北 大 学 大 型

計 算 機 セ ン タ ーNEAC 2200-M500(TSS)を 利 用 した 。

関 係 諸 氏 の御 便 宜 に謝 意 を表 す る。

参 考 文 献

1) 矢沢彬 ・江 口元徳: 日本鉱業会昭和47年 度秋季大会 (熊 本) 分科研究会資

料,(1972), H-3

2) 後藤佐吉 ・小川修: 日本鉱業会昭和45年 度 秋季大会 分科研究会資料,

(1970), F-23) 江口元徳 ・矢沢彬: 硫醸 と工業, 25 (1972),(82), 114,

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5) R. cowan and R. Steale: J. Electrochem. Soc., 118 (1971), 557

6) 亀谷博 ・青木 愛子: 電気化学, 49 (1972), 583; 日本鉱 業会誌, 89

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11) JANAF Thermochemical Tables: D. Stull et al. ed., PB 168-370,

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13) C. Criss and J. Cobble: J. Am. Chem. Soc., 86 (1964), 5385,

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14) K. Kelley: Bureaw of Mine Bull. 464,(1949), U. S. Government

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16) C. Wickes and F. Block: Bureau of Mine Bull. 605,(1963), 54,

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17) C. Pistorius: Z. Phys. Chem. Neue Folge, 24 (1962), 287

18) 江 口元 徳 ・矢沢彬: 日本鉱業会誌, 87 (1971), 329

19) R. Lowson: Aust. J. Chem., 27 (1974), 10520) R. Garrels and C. Christ: Solutions, Minerals and Equilibria,

(1965), Herper-Row & John Weatherhill. 61, 6221) 玉虫文一他編: 理化学辞典, 第3版,(1971), 岩波

22) K. Gayer and A. Garret: J. Am. Chem. Soc., 71 (1950), 392323) W. Feitknecht and P. Schindler: Pure and Appl. Chem., 6(1963),

130

On the Precipitation Reaction of Co(OH)2 at Temperatures

between 25•‹and 200•Ž―Fundamental studies on high temperature aqueous solutions(2nd Report)―

by Motonori EGUCHI and Akira YAZAWAHydrolysis reaction in Co(II)-H2O system have been investigated thermodynamically and experimentally,

at temperatures between 25•‹and 200•Ž. The results are summerized as follows:

(1) The chemical potentials of relating substances at 25•‹to 250•Ž were derived by several thermodynamic ways.

(2) The hydrolysis equilibrium was discussed thermodynamically, and it was predicted that CoOH+would not

be predominant under the conditions considered.(3) The pH dependences of solubility of Co(OH)2 were

measured at temperatures between 25•‹and 200•Ž. pH values were measured directly at equilibrating temperatures

below 100•Ž, but were measured at 25•Ž for quenched solutions in the experiments above 100•Ž. (4) Corre-

spondence of pH values between 25•‹and t•Ž based on eq .(23) in this paper was confirmed by experiment.

(5) Red Co(OH)2 were precipitated in the experiments at above 90•Ž and thermodynamic behavior agreed well

with the theoretical predicitions (Fig. 10).(6) A bluish active Co(OH)2 was precipitated at 25•Ž as a

metaslable form, and for this active hydroxide Ksp=7.8•E10-15,ƒÊ•‹298=-107.7 kcal/mol were derived .

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